(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107360
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】潤滑油供給装置とその製造方法、及び転がりすべり装置
(51)【国際特許分類】
F16N 7/12 20060101AFI20220713BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
F16N7/12
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002255
(22)【出願日】2021-01-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 徹
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701CA08
3J701CA13
3J701CA14
3J701EA13
3J701EA32
3J701EA36
3J701FA32
3J701FA44
(57)【要約】
【課題】グリースを使用せずに、目的の部位に潤滑油を供給することができる潤滑油供給装置とその製造方法、及びその潤滑油供給装置を備えた転がりすべり装置を提供する。
【解決手段】潤滑油供給装置1は、第1多孔質部11と、第1多孔質部11に接する第2多孔質部12と、を有する多孔質体10と、多孔質体10に含侵された潤滑油13と、を備え、第2多孔質部12の潤滑油13の第2浸透深さL2が、第1多孔質部11の潤滑油13の第1浸透深さL1に比べて大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接する第2多孔質部とを有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、
前記第2多孔質部における潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部における潤滑油の浸透深さに比べて大きい、潤滑油供給装置。
【請求項2】
前記第1多孔質部が、第1平均気孔径を有し、
前記第2多孔質部が、前記第1平均気孔径に比べて大きい第2平均気孔径を有している、請求項1に記載の潤滑油供給装置。
【請求項3】
前記第1多孔質部が、第1表面張力を有し、
前記第2多孔質部が、前記第1表面張力に比べて大きい第2表面張力を有している、請求項1または請求項2に記載の潤滑油供給装置。
【請求項4】
前記第1多孔質部が、第1気孔率を有し、
前記第2多孔質部が、前記第1気孔率に比べて小さい第2気孔率を有している、請求項1~3の何れか一項に記載の潤滑油供給装置。
【請求項5】
前記第1多孔質部及び前記第2多孔質部のそれぞれが、一つの前記多孔質体の一部である、請求項1~4の何れか一項に記載の潤滑油供給装置。
【請求項6】
前記第1多孔質部が、第1多孔質体により構成されており、かつ、
前記第2多孔質部が、前記第1多孔質体とは別体の第2多孔質体により構成されている、請求項1~4の何れか一項に記載の潤滑油供給装置。
【請求項7】
第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接する第2多孔質部とを有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、
前記第2多孔質部の潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部の潤滑油の浸透深さに比べて大きい潤滑油供給装置の製造方法であって、
一つの多孔質材を圧縮し、圧縮された部分である前記第2多孔質部と、前記第2多孔質部に比べて圧縮度合が小さい部分である前記第1多孔質部とを有する前記多孔質体を形成する、潤滑油供給装置の製造方法。
【請求項8】
第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接する第2多孔質部と、を有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、
前記第2多孔質部の潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部の潤滑油の浸透深さに比べて大きい潤滑油供給装置の製造方法であって、
前記第1多孔質部を構成する第1多孔質体と、前記第2多孔質部を構成する第2多孔質体とを密接させて、前記多孔質体を形成する、潤滑油供給装置の製造方法。
【請求項9】
第1転がりすべり部分を有する第1転がりすべり部材と、第2転がりすべり部分を有する第2転がりすべり部材と、潤滑油供給装置とを備え、
前記第1転がりすべり部分と前記第2転がりすべり部分とが転がり接触及びすべり接触の少なくとも一方の態様で接触する接触部を有し、
前記潤滑油供給装置から前記接触部に潤滑油が供給される転がりすべり装置であって、
前記潤滑油供給装置が、
第1多孔質部と、前記第1多孔質部に連続する第2多孔質部とを有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、
前記第2多孔質部における潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部における潤滑油の浸透深さに比べて大きく、かつ、
前記第2多孔質部と前記接触部との距離が、前記第1多孔質部と前記接触部との距離に比べて小さい、転がりすべり装置。
【請求項10】
前記転がりすべり装置が、
前記第1転がりすべり部材である内輪と、前記第2転がりすべり部材である外輪と、前記内輪と前記外輪の間に配置される転動体とを有する転がり軸受である場合において、
前記第1転がりすべり部分である内輪軌道と、前記第2転がりすべり部分である外輪軌道とが、前記転動体に対して転がり接触及びすべり接触の少なくとも一方の態様で接触する前記接触部であり、
前記多孔質体が、
前記内輪又は前記外輪の軸方向端部に配置されている、請求項9に記載の転がりすべり装置。
【請求項11】
前記多孔質体が、
前記内輪又は前記外輪の軸方向両端部に配置されている、請求項10に記載の転がりすべり装置。
【請求項12】
前記多孔質体が、
前記内輪及び前記外輪のうちの固定輪側に固定されている、請求項10又は請求項11に記載の転がりすべり装置。
【請求項13】
前記内輪及び前記外輪のうちの固定輪側の軸方向端部に固定された環状部材をさらに備え、
前記多孔質体が、
前記環状部材の軸方向内側と前記固定輪との間に配置され、前記環状部材と前記固定輪とによって挟まれている、請求項12に記載の転がりすべり装置。
【請求項14】
前記環状部材が、
前記固定輪における軸方向両端部に配置されている、請求項13に記載の転がりすべり装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑油供給装置とその製造方法、及び転がりすべり装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、グリースに含まれる基油を目的の部位に供給することができる潤滑油供給装置が開示されている。前記潤滑油供給装置は、グリースを充填するための貯留室が形成された潤滑剤貯留部材と、連続気孔を有する多孔質体からなる浸透部材と、を備えている。前記潤滑油供給装置では、貯留室に充填したグリースに含まれる基油(潤滑油)を浸透部材に浸透させることができ、そして、浸透部材から潤滑油を微量ずつ排出することができる。このような浸透部材を転がり軸受の内部と隣接する位置に設けると、転がり軸受の内部に長期にわたって潤滑油を供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記潤滑油供給装置では、潤滑に必要な成分はグリースに含まれる基油(潤滑油)のみであるにも関わらず、増ちょう剤と基油とを合成したグリースを使用しているため、潤滑油のみを使用する場合に比べてコストが割高になっている。また、前記潤滑油供給装置では、振動や衝撃が加えられることによって、装置内のグリースが脱落や飛散等する場合があるため、装置の周囲の望まないところにグリースが付着することが懸念される。このように、従来の潤滑油供給装置には、グリースを使用する構成であるが故の問題点が存在している。
【0005】
そこで、本開示では、グリースを使用せずに、目的の部位に潤滑油を供給することができる潤滑油供給装置とその製造方法、及びその潤滑油供給装置を備えた転がりすべり装置を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る潤滑油供給装置は、第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接する第2多孔質部と、を有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、前記第2多孔質部における潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部における潤滑油の浸透深さに比べて大きい。
【0007】
本開示の一態様に係る潤滑油供給装置の製造方法は、第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接する第2多孔質部と、を有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、前記第2多孔質部の潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部の潤滑油の浸透深さに比べて大きい潤滑油供給装置の製造方法であって、一つの多孔質材を圧縮し、圧縮された部分である前記第2多孔質部と、前記第2多孔質部に比べて圧縮度合が小さい部分である前記第1多孔質部と、を有する前記多孔質体を形成する。
【0008】
本開示の一態様に係る潤滑油供給装置の製造方法は、第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接する第2多孔質部と、を有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、前記第2多孔質部の潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部の潤滑油の浸透深さに比べて大きい潤滑油供給装置の製造方法であって、前記第1多孔質部を構成する第1多孔質体と、前記第2多孔質部を構成する第2多孔質体と、を連続させて、前記多孔質体を形成する。
【0009】
本開示の一態様に係る転がりすべり装置は、第1転がりすべり部分を有する第1転がりすべり部材と、第2転がりすべり部分を有する第2転がりすべり部材と、潤滑油供給装置と、を備え、前記第1転がりすべり部分と前記第2転がりすべり部分とが転がり接触及びすべり接触の少なくとも一方の態様で接触する接触部を有し、前記潤滑油供給装置から前記接触部に潤滑油が供給される転がりすべり装置であって、前記潤滑油供給装置が、第1多孔質部と、前記第1多孔質部に連続する第2多孔質部と、を有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、前記第2多孔質部における潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部における潤滑油の浸透深さに比べて大きく、かつ、前記第2多孔質部と前記接触部との距離が、前記第1多孔質部と前記接触部との距離に比べて小さい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の潤滑油供給装置によれば、グリースを使用せずに、目的の部位に潤滑油を供給することができる。
【0011】
本開示の潤滑油供給装置の製造方法によれば、グリースを使用しない潤滑油供給装置を容易に製造することができる。
【0012】
本開示の転がりすべり装置によれば、グリースを使用せずに、各転がりすべり部分の接触部に潤滑油を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、潤滑油供給装置を構成する多孔質体の模式図である。
【
図3】
図3は、第一の実施形態に係る多孔質体の製造方法を示す模式図である。
【
図4】
図4は、第二の実施形態に係る多孔質体の製造方法を示す模式図である。
【
図5】
図5は、潤滑油供給装置を備えた第1の転がり軸受を示す模式図である。
【
図6】
図6は、潤滑油供給装置を備えた第2の転がり軸受を示す模式図である。
【
図7】
図7は、潤滑油供給装置を備えた第3の転がり軸受を示す模式図である。
【
図8】
図8は、潤滑油供給装置を備えた第4の転がり軸受を示す模式図である。
【
図9】
図9は、潤滑油供給装置を備えた第5の転がり軸受を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<本開示の実施形態の概要>
以下、本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
(1)本実施形態の潤滑油供給装置は、第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接する第2多孔質部とを有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、前記第2多孔質部における潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部における潤滑油の浸透深さに比べて大きい。
【0015】
本実施形態の潤滑油供給装置によれば、第1多孔質部に含浸されている潤滑油を、毛細管現象を利用して、第2多孔質部に吸収させることができる。また、本実施形態の潤滑油供給装置によれば、第1多孔質部及び第2多孔質部が、グリースにおける増ちょう剤と同じ役割を果たして、多孔質体において潤滑油を保持することができる。これにより、グリースを使用せずに、第1多孔質部に蓄えた潤滑油を第2多孔質部に供給するとともに、第2多孔質部から目的の部位に潤滑油を供給することができる。
【0016】
(2)また、第2多孔質部における潤滑油の浸透深さが、第1多孔質部における潤滑油の浸透深さに比べて大きくなるために、好ましくは、前記第1多孔質部が、第1平均気孔径を有し、前記第2多孔質部が、前記第1平均気孔径に比べて大きい第2平均気孔径を有している。
この場合、第1多孔質部に含浸されている潤滑油を、毛細管現象を利用して、第2多孔質部に吸収させることができる。
【0017】
(3)また、第2多孔質部における潤滑油の浸透深さが、第1多孔質部における潤滑油の浸透深さに比べて大きくなるために、好ましくは、前記第1多孔質部が、第1表面張力を有し、前記第2多孔質部が、前記第1表面張力に比べて大きい第2表面張力を有している。
この場合、第1多孔質部に含浸されている潤滑油を、毛細管現象を利用して、第2多孔質部に吸収させることができる。
【0018】
(4)また、好ましくは、前記第1多孔質部が、第1気孔率を有し、前記第2多孔質部が、前記第1気孔率に比べて小さい第2気孔率を有している。
この場合、第1多孔質部における単位体積当たりの潤滑油の保持量を、第2多孔質部に比べて大きくすることができる。これにより、多孔質体における潤滑油の保持量が確保しやすくなる。
【0019】
(5)また、好ましくは、前記第1多孔質部及び前記第2多孔質部のそれぞれが、一つの前記多孔質体の一部である。
この場合、一つの多孔質体で潤滑油供給装置を構成することができる。これにより、潤滑油供給装置の製造コストを低減することができる。
【0020】
(6)また、好ましくは、前記第1多孔質部が、第1多孔質体により構成されており、かつ、前記第2多孔質部が、前記第1多孔質体とは別体の第2多孔質体により構成されている。
この場合、性質が異なる複数の多孔質体で潤滑油供給装置を構成することによって、潤滑油の供給量について制御の自由度を向上させることができる。また、異材料を組み合わせて潤滑油供給装置を製造することが可能になり、材料選択の自由度を向上させることができる。
【0021】
(7)本実施形態の潤滑油供給装置の製造方法は、第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接する第2多孔質部とを有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、前記第2多孔質部の潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部の潤滑油の浸透深さに比べて大きい潤滑油供給装置の製造方法であって、一つの多孔質材を圧縮し、圧縮された部分である前記第2多孔質部と、前記第2多孔質部に比べて圧縮度合が小さい部分である前記第1多孔質部とを有する前記多孔質体を形成する。
【0022】
本実施形態の潤滑油供給装置の製造方法によれば、一つの多孔質材を圧縮するだけで、第1多孔質部と第2多孔質部を有する潤滑油供給装置を容易に製造することができる。これにより、潤滑油供給装置の製造コストを低減することができる。
【0023】
(8)本実施形態の潤滑油供給装置の製造方法は、第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接する第2多孔質部と、を有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、前記第2多孔質部の潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部の潤滑油の浸透深さに比べて大きい潤滑油供給装置の製造方法であって、前記第1多孔質部を構成する第1多孔質体と、前記第2多孔質部を構成する第2多孔質体とを密接させて、前記多孔質体を形成する。
【0024】
本実施形態の潤滑油供給装置の製造方法によれば、異なる性質を有する第1多孔質体と第2多孔質体を任意に組み合わせて多孔質体を容易に製造することができる。これにより、潤滑油の供給量について制御の自由度を向上させることができる。また、異材料を組み合わせて潤滑油供給装置を製造することが可能になり、材料選択の自由度を向上させることができる。
【0025】
(9)本実施形態の転がりすべり装置は、第1転がりすべり部分を有する第1転がりすべり部材と、第2転がりすべり部分を有する第2転がりすべり部材と、潤滑油供給装置とを備え、前記第1転がりすべり部分と前記第2転がりすべり部分とが転がり接触及びすべり接触の少なくとも一方の態様で接触する接触部を有し、前記潤滑油供給装置から前記接触部に潤滑油が供給される転がりすべり装置であって、前記潤滑油供給装置が、第1多孔質部と、前記第1多孔質部に連続する第2多孔質部とを有し、潤滑油が含浸される多孔質体を備え、前記第2多孔質部における潤滑油の浸透深さが、前記第1多孔質部における潤滑油の浸透深さに比べて大きく、かつ、前記第2多孔質部と前記接触部との距離が、前記第1多孔質部と前記接触部との距離に比べて小さい。
【0026】
本実施形態の転がりすべり装置によれば、潤滑油供給装置を備えた転がりすべり装置において、グリースを使用せずに、各転がりすべり部分の接触部に潤滑油を供給することができる。これにより、転がりすべり装置を使用する際に、グリースが脱落・飛散等し、望まない部分へ付着するおそれがなくなる。
【0027】
(10)また、好ましくは、前記転がりすべり装置が、前記第1転がりすべり部材である内輪と、前記第2転がりすべり部材である外輪と、前記内輪と前記外輪の間に配置される転動体とを有する転がり軸受である場合において、前記第1転がりすべり部分である内輪軌道と、前記第2転がりすべり部分である外輪軌道とが、前記転動体に対して転がり接触及びすべり接触の少なくとも一方の態様で接触する前記接触部であり、前記多孔質体が、前記内輪又は前記外輪の軸方向端部に配置されている。
この場合、潤滑油供給装置を備えた転がり軸受において、グリースを使用せずに、内輪及び外輪と転動体との接触部に潤滑油を供給することができる。
【0028】
(11)また、好ましくは、前記多孔質体が、前記内輪又は前記外輪の軸方向両端部に配置されている。
この場合、接触部に対して、軸方向における両側から潤滑油を供給することができる。これにより、軸方向について、接触部に対する潤滑油の供給ムラを抑制することができる。また、多孔質体が密閉装置の代わりとなって、軸受内部から外部へ潤滑油が漏れ出るのを抑制することができる。
【0029】
(12)また、好ましくは、前記多孔質体が、前記内輪及び前記外輪のうちの固定輪側に固定されている。
この場合、潤滑油供給装置を備えた転がり軸受において、外輪又は内輪のうちの回転輪の回転に関わらず、潤滑油を接触部に安定して供給することができる。
【0030】
(13)また、好ましくは、前記内輪及び前記外輪のうちの固定輪側の軸方向端部に固定された環状部材をさらに備え、前記多孔質体が、前記環状部材の軸方向内側と前記固定輪との間に配置され、前記環状部材と前記固定輪とによって挟まれている。
この場合、潤滑油供給装置を備えた転がり軸受において、固定輪の軸方向端部に、簡易に多孔質体を設けることができる。
【0031】
(14)また、好ましくは、前記環状部材が、前記固定輪における軸方向両端部に配置されている。
この場合、潤滑油供給装置を備えた転がり軸受において、固定輪の軸方向両端部に、簡易に多孔質体を設けることができる。
【0032】
<本開示の実施形態の詳細>
以下、図面を参照して、本開示の実施形態の詳細を説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0033】
〔潤滑油供給装置1の全体構成〕
本開示の実施形態に係る潤滑油供給装置について説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る潤滑油供給装置1の模式図である。
図2は、潤滑油供給装置1を構成する多孔質体10の模式図である。
図1に示す潤滑油供給装置1は、本開示に係る潤滑油供給装置の一実施形態であり、多孔質体10を備えている。
図2に示すように、潤滑油供給装置1は、多孔質体10に潤滑油13を含浸させた状態で使用する。潤滑油供給装置1に用いる潤滑油13としては、例えば、従来転がりすべり装置の潤滑に用いられている潤滑油を採用することができ、例えば、グリースに含まれている基油を採用することができる。なお、本実施形態では、多孔質体10に潤滑油13が含浸されていない状態(
図1参照)、及び多孔質体10に潤滑油13が含浸されている状態(
図2参照)、のいずれの状態も潤滑油供給装置1と称する。
【0034】
図1及び
図2に示すように、多孔質体10は、多孔質材で構成された部材であり、第1多孔質部11と第2多孔質部12とを有している。多孔質体10では、第1多孔質部11と第2多孔質部12とが連続しており、第1多孔質部11と第2多孔質部12との間に仮想の境界部10aが形成されている。
【0035】
多孔質体10を構成する多孔質材としては、焼結体、発泡材、繊維材を用いることが好ましい。多孔質材の材質としては、ポリエチレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性高分子材、又は金属材、セラミックス材を用いることが好ましく、耐熱性を考慮すると、ステンレス合金、銅合金、ニッケル合金等の金属製の多孔質材であるのがより好ましい。多孔質体10を構成する金属製の多孔質材は、連続する空孔を多数形成するために、金属粉末を焼結によって成形した金属焼結材であると好ましい。
【0036】
第1多孔質部11は、主に潤滑油13を蓄える機能を有するとともに、第2多孔質部12に対して潤滑油13を供給する機能を有する部位である。第2多孔質部12は、主に第1多孔質部11から供給された潤滑油13を蓄える機能を有するとともに、多孔質体10の外部に供給する機能を有する部位である。多孔質体10では、第1多孔質部11と第2多孔質部12とを、それぞれ異なる性質を有する多孔質材で構成している。具体的には、第1多孔質部11と第2多孔質部12とは、以下で説明する浸透深さがそれぞれ異なっている。
【0037】
第1多孔質部11と第2多孔質部12とは、以下に示すLucas-Washburnの式(数式1)で算出される浸透深さLが異なる多孔質材で構成されている。Lucas-Washburnの式は、毛細管現象の支配的論理式であり、同数式によれば、物体における液体の浸透深さLを算出することができる。なお、数式1に用いられている各記号は、L:浸透深さ、r:毛管半径、γ:表面張力、θ:接触角、t:時間、η:液体動粘度、である。
【0038】
【0039】
浸透深さLが異なる二つの部材を連続させて配置した場合、各部材に含浸されている液体は、毛細管現象によって、浸透深さLが大きい側の部材へ移動する。
図1に示す多孔質体10では、第1多孔質部11の第1浸透深さL1に比べて、第2多孔質部12の第2浸透深さL2を大きくしている。このため、多孔質体10では、第1多孔質部11に含侵された潤滑油13(液体)が、境界部10aを越えて第2多孔質部12に移動する。なお、ここでいう「含浸」とは、多孔質体10が有する気孔内に液体が浸入している状態を意味する。
【0040】
[浸透深さLの調整方法]
ここでは、第1多孔質部11及び第2多孔質部12の浸透深さLを調整する方法について説明する。前記数1から判るとおり、浸透深さLは、毛管半径rが大きいほど大きくなる。多孔質体10では、当該多孔質体10に形成された気孔の気孔径が、前記数1における毛管半径rに対応する。このため、潤滑油供給装置1では、第1多孔質部11の平均気孔径φ1と、第2多孔質部12の平均気孔径φ2を調整することで、第1多孔質部11と第2多孔質部12との浸透深さLの大小関係を調整している。
【0041】
本開示の潤滑油供給装置1では、第1多孔質部11の平均気孔径φ1に比べて、第2多孔質部12の平均気孔径φ2を大きくしている。このため、潤滑油供給装置1では、第1多孔質部11の第1浸透深さL1に比べて、第2多孔質部12の第2浸透深さL2が大きくなっている(L1<L2)。このように構成された多孔質体10では、第1多孔質部11に含侵された潤滑油13が、境界部10aを越えて第2多孔質部12に移動する。
【0042】
このように、潤滑油供給装置1では、第1多孔質部11が、第1平均気孔径φ1を有し、第2多孔質部12が、第1平均気孔径φ1に比べて大きい第2平均気孔径φ2を有している。このような潤滑油供給装置1によれば、第1多孔質部11に含浸されている潤滑油13を、毛細管現象を利用して、第2多孔質部12に吸収させることができる。
【0043】
また、前記数1から判るとおり、浸透深さLは、表面張力γが大きいほど大きくなる。多孔質体10における表面張力は、多孔質体10の材質に応じて決まる。このため、潤滑油供給装置1では、第1多孔質部11と第2多孔質部12とを構成するそれぞれの多孔質材の材質を変更することで、第1多孔質部11と第2多孔質部12との浸透深さLの大小関係を調整している。
【0044】
潤滑油供給装置1では、第1多孔質部11を構成する多孔質材の第1表面張力γ1に比べて、第2多孔質部12を構成する多孔質材の第2表面張力γ2を大きくしている。樹脂等の有機材料と金属とを比べた場合、一般的に有機材料のほうが金属より表面張力が大きい。このため、例えば、第1多孔質部11を金属製とし、第2多孔質部12を樹脂製とすることで、第1表面張力γ1に比べて、第2表面張力γ2を大きくすることができる。このように構成された多孔質体10では、第1多孔質部11の第1浸透深さL1に比べて、第2多孔質部12の第2浸透深さL2が大きくなっている(L1<L2)ため、第1多孔質部11に含侵された潤滑油13が、境界部10aを越えて第2多孔質部12に移動する。言い換えれば、親油性がより低い金属製の第1多孔質部11側から、親油性がより高い樹脂製の第2多孔質部12側へ、潤滑油13が移動する。
【0045】
このように、本開示の潤滑油供給装置1では、第1多孔質部11が、第1表面張力γ1を有し、第2多孔質部12が、第1表面張力γ1に比べて大きい第2表面張力γ2を有している。このような潤滑油供給装置1によれば、第1多孔質部11に含浸されている潤滑油13を、毛細管現象を利用して、第2多孔質部12に吸収させることができる。
【0046】
なお、上記説明では、多孔質体10の浸透深さLを調整するために、毛管半径r(各平均気孔径φ1,φ2)と表面張力γ(各表面張力γ1,γ2)の両方を調整した場合を例示しているが、浸透深さLを調整するには、毛管半径r又は表面張力γの少なくともいずれか一方を調整すればよい。
【0047】
[気孔率]
多孔質体10では、第1多孔質部11と第2多孔質部12とが異なる気孔率を有している。気孔率とは、各多孔質部11,12の体積に対する、各多孔質部11,12に含まれる気孔の体積の割合である。多孔質体10では、主に第1多孔質部11が、潤滑油13を蓄える役割を果たしている。このため、多孔質体10では、第2多孔質部12の第2気孔率X2に比べて、第1多孔質部11の第1気孔率X1を大きくしている。このような構成とすることで、第1多孔質部11における単位体積当たりの潤滑油13の保持量を、第2多孔質部12に比べて大きくすることができる。
【0048】
多孔質体10では、第1気孔率X1及び第2気孔率X2を、前記大小関係を有しつつ、50vol%以上でかつ90vol%以下とすることが好ましい。そして、多孔質体10では、第1気孔率X1を、85vol%以上でかつ90vol%以下とすることが好ましい。この「85vol%以上でかつ90vol%以下」という値は、グリースに含まれている増ちょう剤の気孔率とほぼ同じである。このような構成とすれば、第1多孔質部11が、増ちょう剤と同様の役割を果たし、第1多孔質部11において、グリースを用いた場合と同程度の潤滑油13の保持量を確保することが可能となる。そして、第1多孔質部11における潤滑油13の保持量を、第2多孔質部12における潤滑油13の保持量に比べて多くすることができる。
【0049】
このように、潤滑油供給装置1では、第1多孔質部11が、第1気孔率X1を有し、第2多孔質部12が、第1気孔率X1に比べて小さい第2気孔率X2を有している。この場合、第1多孔質部11における単位体積当たりの潤滑油13の保持量を、第2多孔質部12に比べて大きくすることができる。これにより、多孔質体10における潤滑油13の保持量が確保しやすくなる。
【0050】
以上に説明した本開示の潤滑油供給装置1は、第1多孔質部11と、第1多孔質部11に接する第2多孔質部12とを有し、潤滑油13が含浸される多孔質体10を備えている。そして、潤滑油供給装置1では、第2多孔質部12における潤滑油13の第2浸透深さL2が、第1多孔質部11における潤滑油13の第1浸透深さL1に比べて大きい。この場合、第1多孔質部11に含浸されている潤滑油13を、毛細管現象を利用して、第2多孔質部12に吸収させることができる。また、この場合、第1多孔質部11及び第2多孔質部12が、グリースにおける増ちょう剤と同じ役割を果たして、多孔質体10において潤滑油13を保持することができる。これにより、グリースを使用せずに、第1多孔質部11に蓄えた潤滑油13を第2多孔質部12に供給するとともに、第2多孔質部12から目的の部位に潤滑油13を供給することができる。
【0051】
〔多孔質体10の製造方法〕
図3は、第一の実施形態に係る多孔質体10の製造方法を示した模式図である。
図3上図には、多孔質体10の元となる多孔質材10Xを示している。多孔質材10Xは、連続する空孔(気孔)が形成された多孔質材である。多孔質材10Xとしては、金属等の塑性変形させることが可能な材料を用いることが好ましい。この製造方法で製造する多孔質体10について、第1多孔質部11の所望の平均気孔径が平均気孔径φ1であり、かつ、第2多孔質部12の所望の平均気孔径が、平均気孔径φ2である場合、多孔質材10Xとしては、平均気孔径φ2を有する多孔質材を用いる。
【0052】
図3下図には、多孔質材10Xから製造した多孔質体10を示している。第一の実施形態に係る多孔質体10の製造方法では、多孔質材10Xの一部分を圧縮し、当該一部分を塑性変形させる。このとき、その圧縮した一部分の平均気孔径が、平均気孔径φ1となるように圧縮する。多孔質材10Xは、その圧縮された一部分が第1多孔質部11となる。なお、多孔質材10Xとして、樹脂等の塑性変形しない材料を用いた場合には、圧縮した多孔質材10Xの一部分を枠体に嵌め入れて、当該枠体によって変形後の形状を保持させてもよい。
【0053】
また、多孔質材10Xは、圧縮した一部分の以外の部分が第2多孔質部12となる。このように、第一の実施形態に係る多孔質体10の製造方法では、一つの多孔質材10Xを部分的に圧縮することで、第1多孔質部11と第2多孔質部12とを有する多孔質体10を製造することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、多孔質材10Xの未圧縮部分から第2多孔質部12を製造する場合を例示しているが、前記圧縮した一部分以外の部分についても、当該圧縮した一部分に比べて小さい圧縮度合で圧縮して、第2多孔質部12を製造してもよい。この場合、多孔質材10Xとしては、平均気孔径φ2よりも大きい平均気孔径を有する多孔質材を使用する。また、
図3には、多孔質材10Xを一方向(
図3における上下方向)について圧縮して多孔質体10を製造する場合を例示しているが、多孔質材10Xをさらに他方向(例えば、
図3における左右方向)に圧縮して、当該一部分を変形させる構成としてもよい。また、本実施形態では、多孔質材10Xを圧縮して変形させる場合を例示しているが、多孔質材10Xに引張力を付与して変形させてもよい。
【0055】
以上に説明した第一の実施形態に係る多孔質体10(潤滑油供給装置1)の製造方法では、一つの多孔質材10Xを圧縮し、圧縮された部分である第2多孔質部12と、第2多孔質部12に比べて圧縮度合が小さい部分である第1多孔質部11とを有する多孔質体10を形成している。この場合、一つの多孔質材10Xを圧縮するだけで、第1多孔質部11と第2多孔質部12を有する多孔質体10(潤滑油供給装置1)を容易に製造することができる。また、第一の実施形態に係る製造方法で製造された多孔質体10(潤滑油供給装置1)では、第1多孔質部11及び第2多孔質部12のそれぞれが、一つの多孔質体10の一部である。この場合、一つの多孔質体10で潤滑油供給装置1を構成することができる。これにより、潤滑油供給装置1の製造コストを低減することができる。
【0056】
図4は、第二の実施形態に係る多孔質体10の製造方法を示した模式図である。
図4上図には、多孔質体10の元となる第1多孔質材10Yと第2多孔質材10Zとを示している。この製造方法で製造する多孔質体10について、第1多孔質部11の所望の平均気孔径が平均気孔径φ1であり、かつ、第2多孔質部12の所望の平均気孔径が、平均気孔径φ2である場合、第1多孔質材10Yとしては、平均気孔径φ1を有する多孔質材を用い、第2多孔質材10Zとしては、平均気孔径φ2を有する多孔質材を用いる。
【0057】
図4下図には、第1多孔質材10Yと第2多孔質材10Zとから製造した多孔質体10を示している。第二の実施形態に係る多孔質体10の製造方法では、第1多孔質材10Yと第2多孔質材10Zを密接させることで、多孔質体10を製造する。多孔質体10は、第1多孔質材10Yで構成された部分が第1多孔質部11となり、第2多孔質材10Zで構成された部分が第2多孔質部12となる。このような多孔質体10では、第1多孔質材10Yからなる部分の平均気孔径が平均気孔径φ1となっており、第2多孔質材10Zからなる部分の平均気孔径が平均気孔径φ2となっている。
【0058】
第二の実施形態に係る製造方法で製造された多孔質体10は、第1多孔質材10Yと第2多孔質材10Zとが密接(連続)していればよく、第1多孔質材10Yと第2多孔質材10Zとが、溶接、接着、溶着等の手法によって一体に接合されていてもよいし、あるいは、別体の状態で互いに押し付けられているだけであってもよい。
【0059】
第二の実施形態に係る多孔質体10の製造方法で用いる第1多孔質材10Yと第2多孔質材10Zとが、異なる材料であってもよい。つまり、第二の実施形態に係る製造方法では、第1多孔質材10Yと第2多孔質材10Zとを、1)両方が金属製、2)両方が樹脂製、3)一方が樹脂製で他方が金属製、のように組み合わせて多孔質体10を製造することができる。また、第二の実施形態に係る製造方法では、第1多孔質材10Yと第2多孔質材10Zとを、4)異種金属同士、5)種類が異なる樹脂同士、のように組み合わせて多孔質体10を製造してもよい。
【0060】
以上に説明した第二の実施形態に係る多孔質体10(潤滑油供給装置1)の製造方法では、第1多孔質部11を構成する第1多孔質材10Yと、第2多孔質部12を構成する第2多孔質材10Zとを密接させて、多孔質体10を形成する。この場合、異なる性質を有する第1多孔質材10Yと第2多孔質材10Zを任意に組み合わせて多孔質体10を容易に製造することができる。また、第二の実施形態に係る製造方法で製造された多孔質体10(潤滑油供給装置1)では、第1多孔質部11が、第1多孔質材10Yにより構成されており、かつ、第2多孔質部12が、第1多孔質材10Yとは別体の第2多孔質材10Zにより構成されている。この場合、性質が異なる複数の各多孔質材10Y,10Zで潤滑油供給装置1を構成することができる。そして、第二の実施形態に係る製造方法、及びその製造方法で製造された多孔質体10によれば、潤滑油13の供給量について制御の自由度を向上させることができ、異材料を組み合わせて潤滑油供給装置1を製造することが可能になり、材料選択の自由度を向上させることができる。
【0061】
〔潤滑油供給装置1を備えた転がりすべり装置〕
ここでは、潤滑油供給装置1を備えた転がりすべり装置について説明する。本実施形態では、転がりすべり装置の一例として転がり軸受を例示して説明する。
図5は、転がり軸受20の断面図であり、転がり軸受20の中心線C(「軸受中心線C」とも言う。)を含む断面を示す。なお、以下の説明で単に「転がり軸受20」と称する場合には、以下に示す各実施形態の転がり軸受20において共通する構成を説明している。
【0062】
図5に示す転がり軸受20は、内輪21と、外輪22と、これら内輪21と外輪22との間に設けられている複数の転動体とを備える。本開示の前記転動体は、玉23であり、転がり軸受20は玉軸受(深溝玉軸受)である。
図5に示した転がり軸受20では、内輪21を回転輪とし、外輪22を固定輪としている。また、転がり軸受20では、玉23を保持する保持器24を備えている。そして、転がり軸受20は、多孔質体10に潤滑油13が含浸されている潤滑油供給装置1を備えている。転がり軸受20は、潤滑油供給装置1から供給される潤滑油13により潤滑される。
【0063】
本開示において、内輪21及び外輪22の各説明における「軸方向」「径方向」「周方向」について定義する。「軸方向」とは、内輪21及び外輪22それぞれの中心線に沿った方向である。なお、その軸方向には、前記中心線に平行な方向も含まれる。「径方向」とは、内輪21及び外輪22それぞれの中心線に直交する方向である。「周方向」とは、内輪21及び外輪22それぞれの中心線を中心とした円に沿う方向である。各図において、内輪21、外輪22それぞれの中心線が一致した状態でのその中心線の符号を「C」としている。
【0064】
内輪21は環状の部材であり、その外周側に、玉23が転がり接触する内輪軌道25が形成されている。
図5に示す断面において、内輪軌道25は、玉23の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有する溝により構成されている。内輪21の外周側における内輪軌道25の軸方向両側には、肩部26,26が形成されている。
【0065】
外輪22は環状の部材であり、その内周側に、玉23が転がり接触する外輪軌道27が形成されている。
図5に示す断面において、外輪軌道27は、玉23の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有する溝により構成されている。外輪22の内周側における外輪軌道27の軸方向両側には、肩部28,28が形成されている。そして、内輪21と外輪22との間には、環状空間29が形成されている。
【0066】
玉23は、内輪軌道25と外輪軌道27との間に複数設けられている。転がり軸受20(内輪21)が回転すると、玉23は内輪軌道25及び外輪軌道27を転動する。言い換えると、内輪軌道25と外輪軌道27は、玉23を介して、転がり接触及びすべり接触の少なくとも一方の形態で接触する接触部30を構成している。
【0067】
本実施形態の転がり軸受20では、外輪22を固定輪とし、潤滑油13を供給する目的の部位を、外輪22の外輪軌道27としている。外輪軌道27に潤滑油13を供給することで、玉23及び内輪軌道25に潤滑油13を供給することができる。なお、本実施形態では、接触部30に潤滑油13を供給するために、固定輪側の外輪軌道27に潤滑油13を供給する構成とした転がり軸受20を例示しているが、回転輪側の内輪軌道25側に潤滑油13を供給する構成としてもよい。
【0068】
〔潤滑油供給装置1の第1の配置形態〕
図5には、潤滑油供給装置1が第1の配置形態で設けられた転がり軸受20を示している。以下の説明では、第1の配置形態で潤滑油供給装置1が設けられた転がり軸受20を第1転がり軸受20Aと称する。
図5に示す第1転がり軸受20Aでは、外輪22の軸方向一方側の肩部28に多孔質体10が取り付けられている。第1転がり軸受20Aでは、円環状に構成した多孔質体10を用いており、固定輪である外輪22の軸方向一方側に潤滑油13が含浸されている多孔質体10を固定している。多孔質体10を固定輪側の外輪22に固定することで、多孔質体10から潤滑油13を安定して滲出させることができる。
【0069】
潤滑油供給装置1では、第1多孔質部11に蓄えた潤滑油13を第2多孔質部12に供給し、第2多孔質部12から肩部28に潤滑油13を供給することができる。そして、第1転がり軸受20Aでは、潤滑油供給装置1によって肩部28に供給された潤滑油13が、メニスカスの吸着力によって肩部28を伝って外輪軌道27(接触部30)に到達する。
【0070】
図5に示す潤滑油供給装置1では、多孔質体10の断面が台形状となっている。言い換えると、
図5に示す多孔質体10は、径方向外側の軸方向長さが径方向内側の軸方向長さに比べて長い形状を有している。第1転がり軸受20Aでは、多孔質体10をこのような形状とすることで、玉23及び保持器24と多孔質体10との干渉を避けつつ、第2多孔質部12と外輪軌道27(接触部30)との距離をより小さくすることができる。なお、
図5に示す形態とは異なるが、第2多孔質部12における肩部28と接している部分の軸方向他方側の端部が、玉23の軸方向一方側の端部に比べて軸方向他方側に位置するように、多孔質体10を配置するとより好ましい。
【0071】
なお、
図5に示す転がり軸受20では、潤滑油供給装置1を外輪(固定輪)22の軸方向一方側に設けた場合を例示しているが、潤滑油供給装置1は、外輪22の軸方向他方側に設けてもよいし、外輪22の軸方向両側に設けてもよい。また、
図5に示す転がり軸受20では、潤滑油供給装置1を外輪(固定輪)22側に設けた場合を例示しているが、潤滑油供給装置1は、内輪21(回転輪)側に設けてもよい。
【0072】
以上に説明のとおり、本開示の転がり軸受20(第1転がり軸受20A)は、内輪軌道25を有する内輪21と、外輪軌道27を有する外輪22と、潤滑油供給装置1とを備えている。転がり軸受20は、内輪軌道25と外輪軌道27とが転がり接触及びすべり接触の少なくとも一方の態様で接触する接触部30を有し、潤滑油供給装置1から接触部30に潤滑油13が供給される装置である。本開示の転がり軸受20では、潤滑油供給装置1が、第1多孔質部11と、第1多孔質部11に連続する第2多孔質部12とを有し、潤滑油13が含浸される多孔質体10を備えている。そして、転がり軸受20では、第2多孔質部12における潤滑油13の第2浸透深さL2が、第1多孔質部11における潤滑油13の第1浸透深さL1に比べて大きく、かつ、第2多孔質部12と接触部30との距離が、第1多孔質部11と接触部30との距離に比べて小さい。
【0073】
このような構成によれば、潤滑油供給装置1を備えた転がり軸受20において、グリースを使用せずに、接触部30に潤滑油13を供給することができる。これにより、転がり軸受20を使用する際に、グリースが脱落及び飛散等し、望まない部分へ付着するおそれがなくなる。
【0074】
また、本開示の第1転がり軸受20Aでは、多孔質体10が、外輪22及び内輪21のうちの固定輪側に固定されている。この場合、潤滑油供給装置1を備えた転がり軸受20において、外輪22又は内輪21のうちの回転輪の回転に関わらず、潤滑油13を接触部30に安定して供給することができる。
【0075】
〔潤滑油供給装置1の第2の配置形態〕
図6には、潤滑油供給装置1が第2の配置形態で設けられた転がり軸受20を示している。以下の説明では、第2の配置形態で潤滑油供給装置1が設けられた転がり軸受20を第2転がり軸受20Bと称する。
図6に示す第2転がり軸受20Bでは、外輪22の軸方向一方側の肩部28の内周側に、溝部31が形成されている。なお、
図6に示す第2転がり軸受20Bでは、
図5で説明した構成と同じ構成については同じ符号が付されており、その説明を省略する。
【0076】
図6に示すように、第2転がり軸受20Bでは、円環状の多孔質体10を用いている。
図6に示す多孔質体10は、それぞれ円環状である第1多孔質部11と第2多孔質部12とを有している。各多孔質部11,12は、同心状に配置されるとともに、軸方向に並んで配置されている。各多孔質部11,12は、それぞれの内径は同じである。また、第2多孔質部12の外径は、第1多孔質部11の外径に比べて大きくなっている。第2転がり軸受20Bでは、第2多孔質部12の径方向外側部(外径が第1多孔質部11に比べて大きくなっている部分)を溝部31に嵌め込んで、外輪22の軸方向一方側に多孔質体10を固定している。
【0077】
第2転がり軸受20Bでは、第1多孔質部11が軸方向一方側に配置され、かつ、第2多孔質部12が軸方向他方側に配置されるように、潤滑油13が含浸されている多孔質体10を設けている。このため、第2転がり軸受20Bでは、第2多孔質部12と接触部30との距離が、第1多孔質部11と接触部30との距離に比べて小さくなっている。そして、第2転がり軸受20Bでは、第1多孔質部11で蓄えた潤滑油13を、第2多孔質部12に吸収させるとともに、第2多孔質部12から肩部28に潤滑油13を供給することができる。そして、第2転がり軸受20Bでは、潤滑油供給装置1によって肩部28に供給された潤滑油13が、メニスカスの吸着力によって肩部28を伝って外輪軌道27(接触部30)に到達する。
【0078】
以上に説明した本開示の第2転がり軸受20Bでは、外輪軌道27と、内輪軌道25とが、玉23に対して転がり接触及びすべり接触の少なくとも一方の態様で接触する接触部30である。そして、第2転がり軸受20Bでは、多孔質体10が、外輪22又は内輪21(本実施形態では外輪22)の軸方向端部に配置されている。この場合、潤滑油供給装置1を備えた転がり軸受20において、グリースを使用せずに、内輪21及び外輪22と玉23との接触部30に潤滑油13を供給することができる。
【0079】
第2転がり軸受20Bでは、多孔質体10を、外輪22の軸方向端部に配置している。この場合、多孔質体10を軸受内部に配置する場合(
図5参照)に比べて、転がり軸受20の軸方向寸法を抑えやすい。このため、本開示の第2転がり軸受20Bでは、潤滑油供給装置1を備えた転がり軸受20を、コンパクトに構成することができる。
【0080】
〔潤滑油供給装置1の第3の配置形態〕
図7には、潤滑油供給装置1が第3の配置形態で設けられた転がり軸受20を示している。以下の説明では、第3の配置形態で潤滑油供給装置1が設けられた転がり軸受20を第3転がり軸受20Cと称する。
図7に示す第3転がり軸受20Cでは、外輪22に対して潤滑油供給装置1を固定する態様が、第2転がり軸受20B(
図6参照)と異なっている。第4転がり軸受20Dでは、環状部材35を用いて、外輪22の軸方向一方側の端部に潤滑油供給装置1を取り付けている。なお、
図7に示す第3転がり軸受20Cでは、
図5及び
図6で説明した構成と同じ構成については同じ符号が付されており、その説明を省略する。
【0081】
図7に示すように、環状部材35は、それぞれ円環状である環状部35aと外周縁部35bとを有している。本実施形態の環状部材35では、環状部35aは金属製であり、中心線Cを含む断面において略L字状となる形状を有している。本実施形態の環状部材35では、外周縁部35bは弾性を有する樹脂製であり、溝部31に対して嵌め込むことが可能な形状を有している。なお、環状部材35としては、例えば、転がり軸受の軸受内部を密封するために従来用いられているシール部材を加工して流用することができる。また、環状部材35は、外周縁部35bまでのすべての部分を金属製としてもよい。
【0082】
第3転がり軸受20Cでは、外輪22の軸方向一方側の溝部31に外周縁部35bを嵌め込んで、外輪22に対して環状部材35を固定している。外輪22に固定された環状部材35の環状部35aと外輪22の間には、溝部36が形成されている。そして、第3転がり軸受20Cでは、潤滑油13が含浸されている多孔質体10を、環状部材35の軸方向内側と外輪22との間の溝部36に配置して、環状部35aと外輪22とで多孔質体10を挟んで固定している。第3転がり軸受20Cでは、このようにして、固定輪である外輪22の軸方向端部に多孔質体10を配置している。
【0083】
環状部材35は、外周縁部35bが有する弾性によって、環状部35aが、外周縁部35b側の端部を支点として揺動可能となっている。そして、第3転がり軸受20Cでは、溝部36の溝幅(溝部36の軸方向の長さ)が変更可能となっている。このため、環状部材35を用いて多孔質体10を外輪22に固定する場合には、多孔質体10の形状や大きさにバラつきがあっても、環状部35aと外輪22で多孔質体10を挟むことで、多孔質体10を外輪22に簡易に固定することができる。また、多孔質体10が樹脂のような弾性を有する材料からなり、多孔質体10の形状が容易に変形するような場合であっても、環状部材35を用いることで、多孔質体10を外輪22に簡易に固定することができる。
【0084】
以上に説明した本開示の第3転がり軸受20Cでは、外輪22及び内輪21のうちの固定輪側の軸方向端部に固定された環状部材35をさらに備えている。そして、第3転がり軸受20Cでは、多孔質体10が、環状部材35の軸方向内側と外輪(固定輪)22との間に配置され、環状部材35と外輪22とによって挟まれている。このような構成によれば、潤滑油供給装置1を備えた転がり軸受20において、外輪22の軸方向端部に、簡易に多孔質体10を設けることができる。
【0085】
〔潤滑油供給装置1の第4の配置形態〕
図8には、潤滑油供給装置1が第4の配置形態で設けられている転がり軸受20を示している。以下の説明では、第4の配置形態で潤滑油供給装置1が設けられた転がり軸受20を第4転がり軸受20Dと称する。
図8に示す第4転がり軸受20Dでは、外輪22の軸方向両端部にそれぞれ溝部31が形成されている。そして、第4転がり軸受20Dでは、外輪22の軸方向両端部にそれぞれ潤滑油供給装置1を有している点で、第2転がり軸受20B(
図6参照)と異なっている。なお、
図8に示す第4転がり軸受20Dでは、
図5~
図7で説明した構成と同じ構成については同じ符号が付されており、その説明を省略する。
【0086】
第4転がり軸受20Dでは、外輪22の軸方向一方側と他方側の各溝部31にそれぞれ多孔質体10(潤滑油供給装置1)が嵌め込まれている。軸方向一方側の多孔質体10では、第1多孔質部11が軸方向一方側に配置され、かつ、第2多孔質部12が軸方向他方側に配置されている。また、軸方向他方側の多孔質体10では、第1多孔質部11が軸方向他方側に配置され、かつ、第2多孔質部12が軸方向一方側に配置されている。
【0087】
このため、第4転がり軸受20Dでは、外輪22の軸方向両端部に配置された各多孔質体10において、第2多孔質部12と接触部30との距離が、第1多孔質部11と接触部30との距離に比べて小さくなっている。そして、第4転がり軸受20Dでは、外輪22の軸方向両端部の各第1多孔質部11,11で蓄えた潤滑油13を、各第2多孔質部12,12に吸収させるとともに、各第2多孔質部12,12から各肩部28,28に潤滑油13を供給することができる。
【0088】
潤滑油供給装置1は、多孔質体10における潤滑油13の保持量が多いときには、多孔質体10から接触部30に潤滑油13を供給することができる。また、潤滑油供給装置1は、多孔質体10における潤滑油13の保持量が少ないときには、接触部30に存在する潤滑油13を多孔質体10に吸収することができる。このため、第4転がり軸受20Dでは、軸方向両端部に設けられた潤滑油供給装置1,1によって、接触部30に潤滑油13を供給するとともに、接触部30に存在する潤滑油13を吸収することができる。潤滑油供給装置1,1は、接触部30に存在する潤滑油13の量を略一定に調整する機能を有している。
【0089】
第4転がり軸受20Dでは、外輪22の軸方向両端部に多孔質体10,10を備えることによって、各多孔質体10,10が、環状空間29(「軸受内部」とも言う。)から外部(軸受外部)へ潤滑油13が漏れるのを防ぐ機能を有している。また、第4転がり軸受20Dでは、各多孔質体10,10は、軸受外部の異物が軸受内部へ侵入するのを防止する機能も有している。
【0090】
以上に説明した本開示の第4転がり軸受20Dでは、多孔質体10が、外輪22又は内輪21(本実施形態では外輪22)の軸方向両端部に配置されている。この場合、接触部30に対して、軸方向における両側から潤滑油13を供給することができる。これにより、軸方向について、接触部30に対する潤滑油13の供給ムラを抑制することができる。また、多孔質体10が密閉装置の代わりとなって、軸受内部から外部へ潤滑油13が漏れ出るのを抑制することができる。
【0091】
〔潤滑油供給装置1の第5の配置形態〕
図9には、潤滑油供給装置1が第5の配置形態で設けられている転がり軸受20を示している。以下の説明では、第5の配置形態で潤滑油供給装置1が設けられた転がり軸受20を第5転がり軸受20Eと称する。
図9に示す第5転がり軸受20Eは、環状部材35を用いて、外輪22の軸方向両端部にそれぞれ潤滑油供給装置1を設けている点で、第4転がり軸受20D(
図8参照)と異なっている。環状部材35を用いた場合、環状部35aと外輪22で多孔質体10を挟むことによって、外輪22の軸方向両端部において簡易に多孔質体10を固定することができる。なお、
図9に示す第5転がり軸受20Eでは、
図5~
図8で説明した構成と同じ構成については同じ符号が付されており、その説明を省略する。
【0092】
以上に説明した本開示の第5転がり軸受20Eでは、環状部材35が、外輪22における軸方向両端部に配置されている。この場合、潤滑油供給装置1を備えた転がり軸受20において、外輪22の軸方向両端部に、簡易に多孔質体10を設けることができる。
【0093】
前記潤滑油供給装置1は、以上のように転がり軸受20に適用する他に、すべり軸受、歯車等のその他の転がりすべり装置に対しても適用可能である。
【0094】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0095】
1 潤滑油供給装置
10 多孔質体
10a 境界部
11 第1多孔質部
12 第2多孔質部
13 潤滑油
20 転がり軸受(転がりすべり装置)
20A 第1転がり軸受
20B 第2転がり軸受
20C 第3転がり軸受
20D 第4転がり軸受
20E 第5転がり軸受
21 内輪(第1転がりすべり部材)
22 外輪(第2転がりすべり部材)
23 玉
25 内輪軌道(第1転がりすべり部分)
27 外輪軌道(第2転がりすべり部分)
30 接触部
35 環状部材
L1 第1浸透深さ
L2 第2浸透深さ
φ1 第1平均気孔径
φ2 第2平均気孔径
γ1 第1表面張力
γ2 第2表面張力
X1 第1気孔率
X2 第2気孔率