(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107455
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】ニッケル含有水酸化物、ニッケル含有水酸化物を前駆体とした正極活物質の製造方法及びニッケル含有水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220713BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220713BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002419
(22)【出願日】2021-01-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】飯田 恭崇
(72)【発明者】
【氏名】増川 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】片桐 一貴
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA14
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA10
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質を得ることができるニッケル含有水酸化物を提供する。
【解決手段】非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、ニッケル含有水酸化物であって、CuKα線を使用した粉末X線回折測定における2θ=19.2±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度をα、CuKα線を使用した粉末X線回折測定における2θ=38.5±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度をβとしたとき、α/βのピーク強度比が、0.80以上1.38以下であり、一次粒子の平均長径が290nm以上425nm以下であるニッケル含有水酸化物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、ニッケル含有水酸化物であって、
CuKα線を使用した粉末X線回折測定における2θ=19.2±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度をα、CuKα線を使用した粉末X線回折測定における2θ=38.5±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度をβとしたとき、α/βのピーク強度比が、0.80以上1.38以下であるニッケル含有水酸化物。
【請求項2】
前記α/βのピーク強度比が、1.05以上1.38以下である請求項1に記載のニッケル含有水酸化物。
【請求項3】
一次粒子の平均長径が290nm以上425nm以下である請求項1または2に記載のニッケル含有水酸化物。
【請求項4】
一次粒子のアスペクト比が、2.2以上5.0以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のニッケル含有水酸化物。
【請求項5】
ニッケルが、含有金属総量に対し80mol%以上含まれる請求項1乃至4のいずれか1項に記載のニッケル含有水酸化物。
【請求項6】
ニッケルと、コバルト及びマンガンからなる群から選択された金属のうち少なくとも1種と、を含む複合水酸化物である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のニッケル含有水酸化物。
【請求項7】
タップ密度が、1.60以上である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のニッケル含有水酸化物。
【請求項8】
BET比表面積が、7.5m2/g以上20.0m2/以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のニッケル含有水酸化物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のニッケル含有水酸化物がリチウム化合物と焼成された、非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項10】
非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、ニッケル含有水酸化物の製造方法であって、
ニッケル塩を含む水溶液と錯化剤を含む水溶液とを、反応槽内に添加、混合し、前記反応槽内の反応溶液が液温40℃基準でのpHが10以上13以下の範囲に維持されるように、pH調整剤を前記反応槽内の前記反応溶液に供給することで、前記反応溶液中にて共沈反応をさせて、ニッケル含有水酸化物粒子を得る晶析工程を含み、
前記晶析工程における前記反応溶液の反応温度をA(℃)、前記反応溶液の錯化剤濃度をB(g/L)、前記反応槽内における前記ニッケル含有水酸化物粒子の滞留時間をC(時間)、前記反応槽内の前記反応溶液を混合する際の撹拌動力をD(kW/m3)とするとき、A×B×C×Dの値が3400以上7000以下であるニッケル含有水酸化物の製造方法。
【請求項11】
前記反応温度Aが、60℃以上90℃以下である請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記錯化剤がアンモニウムイオン供給体であり、前記反応溶液のアンモニア濃度Bが1.0g/L以上10.0g/L以下である請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記滞留時間Cが、5時間以上30時間以下である請求項10乃至12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記撹拌動力Dが、1.0kW/m3以上5.0kW/m3以下である請求項10乃至13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記反応槽が、連続式反応槽である請求項10乃至14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記晶析工程で得られた前記ニッケル含有水酸化物粒子をアルカリ水溶液で洗浄後、固液分離する固液分離工程を、さらに含む請求項10乃至15のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル含有水酸化物、ニッケル含有水酸化物を前駆体とした正極活物質及びニッケル含有水酸化物の製造方法であり、特に、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質を得ることができるニッケル含有水酸化物及びニッケル含有水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減の点から、携帯機器や動力源として電気を使用または併用する車両等、広汎な分野で二次電池が使用されている。二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いた二次電池が挙げられる。リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いた二次電池は、小型化、軽量化に適し、高利用率、高サイクル特性といった特性を有している。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電池特性を向上させるためには、正極活物質の前駆体であるニッケル含有水酸化物に、リチウム化合物との良好な反応性が要求される。リチウム化合物との良好な反応性が得られる正極活物質の前駆体として、比表面積が3.0~11.0m2/gであり、X線回折測定による(100)面のピーク強度(100)に対する(101)面のピーク強度(101)の比(101)/(100)が0.300未満であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物が提案されている(特許文献1)。
【0004】
一方で、動力源として電気を使用する電気自動車または動力源として電気を併用するハイブリット自動車では、特に、電源である二次電池として、充放電容量の大きい特性が要求される。しかし、特許文献1の正極活物質の前駆体では、リチウム化合物に対する良好な反応性が得られるとしているものの、二次電池の充放電容量の向上には、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質を得ることができるニッケル含有水酸化物及びニッケル含有水酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のニッケル含有水酸化物では、CuKα線を使用した粉末X線回折測定における2θ=38.5±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度に対する2θ=19.2±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度の比率が所定の範囲に調整されている。
【0008】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、ニッケル含有水酸化物であって、
CuKα線を使用した粉末X線回折測定における2θ=19.2±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度をα、CuKα線を使用した粉末X線回折測定における2θ=38.5±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度をβとしたとき、α/βのピーク強度比が、0.80以上1.38以下であるニッケル含有水酸化物。
[2]前記α/βのピーク強度比が、1.05以上1.38以下である[1]に記載のニッケル含有水酸化物。
[3]一次粒子の平均長径が290nm以上425nm以下である[1]または[2]に記載のニッケル含有水酸化物。
[4]一次粒子のアスペクト比が、2.2以上5.0以下である[1]乃至[3]のいずれか一つに記載のニッケル含有水酸化物。
[5]ニッケルが、含有金属総量に対し80mol%以上含まれる[1]乃至[4]のいずれか1つに記載のニッケル含有水酸化物。
[6]ニッケルと、コバルト及びマンガンからなる群から選択された金属のうち少なくとも1種と、を含む複合水酸化物である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載のニッケル含有水酸化物。
[7]タップ密度が、1.60以上である[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のニッケル含有水酸化物。
[8]BET比表面積が、7.5m2/g以上20.0m2/以下である[1]乃至[7]のいずれか1つに記載のニッケル含有水酸化物。
[9][1]乃至[8]のいずれか1つに記載のニッケル含有水酸化物がリチウム化合物と焼成された、非水電解質二次電池の正極活物質。
[10]非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、ニッケル含有水酸化物の製造方法であって、
ニッケル塩を含む水溶液と錯化剤を含む水溶液とを、反応槽内に添加、混合し、前記反応槽内の反応溶液が液温40℃基準でのpHが10以上13以下の範囲に維持されるように、pH調整剤を前記反応槽内の前記反応溶液に供給することで、前記反応溶液中にて共沈反応をさせて、ニッケル含有水酸化物粒子を得る晶析工程を含み、
前記晶析工程における前記反応溶液の反応温度をA(℃)、前記反応溶液の錯化剤濃度をB(g/L)、前記反応槽内における前記ニッケル含有水酸化物粒子の滞留時間をC(時間)、前記反応槽内の前記反応溶液を混合する際の撹拌動力をD(kW/m3)とするとき、A×B×C×Dの値が3400以上7000以下であるニッケル含有水酸化物の製造方法。
[11]前記反応温度Aが、60℃以上90℃以下である[10]に記載の製造方法。
[12]前記錯化剤がアンモニウムイオン供給体であり、前記反応溶液のアンモニア濃度Bが1.0g/L以上10.0g/L以下である[10]または[11]に記載の製造方法。
[13]前記滞留時間Cが、5時間以上30時間以下である[10]乃至[12]のいずれか1つに記載の製造方法。
[14]前記撹拌動力Dが、1.0kW/m3以上5.0kW/m3以下である[10]乃至[13]のいずれか1つに記載の製造方法。
[15]前記反応槽が、連続式反応槽である[10]乃至[14]のいずれか1つに記載の製造方法。
[16]前記晶析工程で得られた前記ニッケル含有水酸化物粒子をアルカリ水溶液で洗浄後、固液分離する固液分離工程を、さらに含む[10]乃至[15]のいずれか1つに記載の製造方法。
【0009】
なお、本明細書中、「粉末X線回折測定における2θ=19.2±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度」及び「粉末X線回折測定における2θ=38.5±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度」とは、ニッケル含有水酸化物の粉末を、CuKα線源(40kV/40mA)を用いて、回折角2θ=10°~80°、サンプリング幅0.03°、スキャンスピード20°/minの条件にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を取得し、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXLを用いて平滑化処理とバックグラウンド除去処理を行って得られたピーク強度である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のニッケル含有水酸化物によれば、CuKα線を使用した粉末X線回折測定における2θ=19.2±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度をα、CuKα線を使用した粉末X線回折測定における2θ=38.5±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度をβとしたとき、α/βで表されるピーク強度比が0.80以上1.38以下であることにより、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質を得ることができる。
【0011】
本発明のニッケル含有水酸化物によれば、前記α/βのピーク強度比が1.05以上1.38以下であることにより、初期充放電効率と体積容量密度がさらに向上する。
【0012】
本発明のニッケル含有水酸化物によれば、一次粒子の平均長径が290nm以上425nm以下であることにより、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度をさらに確実に得ることができる。
【0013】
本発明のニッケル含有水酸化物によれば、一次粒子のアスペクト比が2.2以上5.0以下であることにより、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度をさらに確実に得ることができる。
【0014】
本発明のニッケル含有水酸化物によれば、タップ密度が1.60以上であることにより、正極活物質の充填密度が向上して、高い体積容量密度を得ることができる。
【0015】
本発明のニッケル含有水酸化物の製造方法によれば、晶析工程における反応溶液の反応温度をA(℃)、反応溶液の錯化剤濃度をB(g/L)、反応槽内におけるニッケル含有水酸化物粒子の滞留時間をC(時間)、反応槽内の反応溶液を混合する際の撹拌動力をD(kW/m3)とするとき、A×B×C×Dの値が3400以上7000以下であることにより、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質を調製することができる、正極活物質の前駆体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の、非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体であるニッケル含有水酸化物について、詳細を説明する。本発明のニッケル含有水酸化物は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子である。本発明のニッケル含有水酸化物の粒子形状は、特に限定されず、多種多様な形状となっており、例えば、略球形状、略楕円形状等を挙げることができる。
【0017】
本発明のニッケル含有水酸化物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において2θ=19.2±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度をα、同じく、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において2θ=38.5±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度をβとしたとき、ピーク強度βに対するピーク強度αの比率であるα/βの値が、0.80以上1.38以下となっている。
【0018】
本発明のニッケル含有水酸化物は、α/βで表されるピーク強度比が0.80以上1.38以下となっていることにより、高いタップ密度のニッケル含有水酸化物粒子が得られ、結晶構造として適度な配向性となっており、ニッケル含有水酸化物とリチウム化合物とを混合して焼成した際に、均一な合成が可能となる。上記から、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質を得ることに寄与できる。従って、本発明のニッケル含有水酸化物を正極活物質の前駆体として使用することで、充放電容量の大きい電池特性が得られ、二次電池のエネルギー密度が向上する。
【0019】
ピーク強度αの回折ピークは、ニッケル含有水酸化物の結晶構造に由来し、ピーク強度βの回折ピークも、ニッケル含有水酸化物の結晶構造に由来すると考えられる。α/βで表されるピーク強度比は、ニッケル含有水酸化物の結晶構造の配向性に関係すると考えられる。
【0020】
α/βで表されるピーク強度比は、0.80以上1.38以下であれば、特に限定されないが、α/βで表されるピーク強度比の下限値は、初期充放電効率と体積容量密度がさらに向上する点から、0.85が好ましく、0.95がより好ましく、1.00がさらに好ましく、1.05が特に好ましい。一方で、α/βで表されるピーク強度比の上限値は、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を確実に得る点から、1.37が好ましく、1.36が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0021】
本発明のニッケル含有水酸化物の一次粒子の平均長径は、特に限定されないが、一次粒子の平均長径が290nm以上425nm以下となっていることが好ましい。一次粒子の平均長径が290nm以上425nm以下となっていることにより、更に優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質を得ることに寄与できる。すなわち、本発明のニッケル含有水酸化物は、α/βで表されるピーク強度比が0.80以上1.38以下であり、かつ一次粒子の平均長径が290nm以上425nm以下であることにより、非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体として使用されることで、更に優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質を得ることができる。
【0022】
本発明のニッケル含有水酸化物は、一次粒子の形状としては、特に限定されないが、例えば、板状、柱状、針状等が挙げられる。また、本発明のニッケル含有水酸化物の一次粒子の平均長径は、好ましくは290nm以上425nm以下の範囲であるが、一次粒子の平均長径の下限値は、さらに優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を確実に得る点から、300nmがより好ましく、310nmが特に好ましい。一方で、一次粒子の平均長径の上限値は、さらに優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を確実に得る点から、423nmがより好ましく、420nmが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0023】
本発明のニッケル含有水酸化物では、一次粒子の平均長径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)により二次粒子画像を取得し、取得した画像から、二次粒子の粒子径がレーザ回折・散乱法を用いた粒度分布測定装置で測定した累積体積百分率が50体積%の粒子径である二次粒子を選択し、該二次粒子表面の一次粒子を無作為に50個選択し、該一次粒子の長径を測定し平均化して算出した平均長径を意味する。
【0024】
本発明のニッケル含有水酸化物では、一次粒子のアスペクト比は、特に限定されない。一次粒子のアスペクト比の下限値は、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度をさらに確実に得る点から、2.2が好ましく、2.5がより好ましく、3.0が特に好ましい。一方で、一次粒子のアスペクト比の上限値は、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度をさらに確実に得る点から、5.0が好ましく、4.8がより好ましく、4.7が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0025】
本発明のニッケル含有水酸化物では、一次粒子のアスペクト比とは、走査型電子顕微鏡(SEM)により二次粒子画像を取得し、取得した画像から、二次粒子の粒子径がレーザ回折・散乱法を用いた粒度分布測定装置で測定した累積体積百分率が50体積%の粒子径である二次粒子を選択し、該二次粒子表面の一次粒子を無作為に50個選択し、該一次粒子の長径と短径をそれぞれ測定し平均化して、平均長径を平均短径で除して算出したアスペクト比を意味する。
【0026】
本発明のニッケル含有水酸化物の組成としては、ニッケル(Ni)が含まれている水酸化物であれば、特に限定されない。本発明のニッケル含有水酸化物のニッケル含有量は、特に限定されないが、その下限値は、高利用率、高サイクル特性及び充放電効率等の諸特性の向上した正極活物質を得つつ、原料コストを低減することができる点から、含有金属総量に対し80mol%が好ましく、82mol%が特に好ましい。一方で、ニッケル含有量の上限値としては、含有金属総量に対し100mol%が挙げられ、高利用率、高サイクル特性及び充放電効率等の諸特性の向上した正極活物質を確実に得る点から、95mol%が好ましく、90mol%が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0027】
本発明のニッケル含有水酸化物の組成としては、例えば、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された金属のうち少なくとも1種と、を含む複合水酸化物を挙げることができる。本発明のニッケル含有水酸化物の具体的な組成としては、例えば、Ni:Co:Mn:Mのモル比が1-x-y-z:x:y:z(0<x≦0.15、0≦y≦0.15、0≦z≦0.05、MはAl、Fe、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、V、Nb、Cr、Mo、W、Ru、Cu、Zn、B、Ga、Si、Sn、P、Bi及びZrからなる群から選択される1種以上の添加元素を意味する。)で表されるニッケル含有水酸化物を挙げることができる。
【0028】
本発明のニッケル含有水酸化物の粒子径は、特に限定されないが、例えば、累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(以下、単に「D50」ということがある。)の下限値は、正極活物質の正極への搭載密度を向上させる点から、6.0μmが好ましく、7.0μmが特に好ましい。一方で、本発明のニッケル含有水酸化物のD50の上限値は、電解質との接触性を向上させる点から、20.0μmが好ましく、15.0μmがより好ましく、13.0μmが特に好ましい。上記したD50は、レーザ回折・散乱法を用い、粒度分布測定装置で測定した粒子径を意味する。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0029】
本発明のニッケル含有水酸化物のタップ密度(TD)は、特に限定されないが、例えば、タップ密度(TD)の下限値は、正極活物質の生産性を向上させる点と、正極活物質の正極への充填度向上により高い電池の体積容量密度を得る点から、1.60g/mlが好ましく、1.80g/mlがより好ましく、2.00g/mlが特に好ましい。一方で、本発明のニッケル含有水酸化物のタップ密度(TD)の上限値は、例えば、正極活物質と非水電解質の接触性を向上させる点から、2.40g/mlが好ましく、2.30g/mlが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0030】
本発明のニッケル含有水酸化物のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、BET比表面積の下限値は、初期充放電効率と体積容量密度の向上に寄与しつつ、正極活物質の正極への充填度と非水電解質との接触面積を向上させる点から、6.0m2/gが好ましく、7.5m2/gが特に好ましい。一方で、本発明のニッケル含有水酸化物のBET比表面積の上限値は、初期充放電効率と体積容量密度の向上に寄与しつつ、正極活物質の圧壊強度を向上させる点から、20.0m2/gが好ましく、15.0m2/gがより好ましく、11.0m2/gが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0031】
次に、本発明のニッケル含有水酸化物の製造方法について説明する。本発明のニッケル含有水酸化物の製造方法では、晶析工程を含んでいる。晶析工程とは、ニッケル塩を含む水溶液と錯化剤を含む水溶液とを、反応槽内に添加、混合し、反応槽内の反応溶液が液温40℃基準でのpHが10以上13以下の範囲に維持されるように、pH調整剤を反応槽内の反応溶液に供給することで、反応溶液中にて共沈反応をさせて、ニッケル含有水酸化物粒子を得る工程である。
【0032】
具体的には、共沈法により、ニッケル塩(例えば、硫酸塩)、必要に応じて、コバルト塩(例えば、硫酸塩)、マンガン塩(例えば、硫酸塩)及び添加元素Mの塩(例えば、硫酸塩)を含む溶液に、錯化剤と、pH調整剤と、を適宜添加することで、反応槽内にて中和反応させて晶析させることにより、ニッケル含有水酸化物粒子を調製して、ニッケル含有水酸化物粒子を含むスラリー状の懸濁物を得る。懸濁物の溶媒としては、例えば、水が使用される。
【0033】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケルイオン(必要に応じて、コバルトイオン、マンガンイオン、添加元素Mのイオン)と錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体が挙げられる。アンモニウムイオン供給体としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等が挙げられる。共沈反応に際しては、水溶液のpH値を調整するため、上記の通り、適宜、pH調整剤を添加する。pH調整剤としては、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)が挙げられる。
【0034】
反応槽内のニッケルを含む金属塩溶液に、pH調整剤と錯化剤を適宜供給して、反応槽内の反応溶液を適宜撹拌すると、金属塩溶液の金属(ニッケル等)が中和反応により共沈して、ニッケル含有水酸化物粒子が晶析される。中和反応によりニッケル含有水酸化物粒子を晶析させるに際しては、反応槽内の反応溶液の反応温度をA(℃)、反応槽内の反応溶液の錯化剤濃度をB(g/L)、反応槽内におけるニッケル含有水酸化物粒子の滞留時間をC(時間(hour))、反応槽内の反応溶液を混合する際の撹拌動力をD(kW/m3)とするとき、A×B×C×Dの値が3400以上7000以下となるように、晶析工程の反応条件を設定する。
【0035】
すなわち、下記式(1)の関係を満たすように、晶析工程の反応条件を設定する。
3400≦A×B×C×D≦7000 ・・・(1)
晶析工程の反応条件を上記設定とすることにより、上記したα/βのピーク強度比が0.80以上1.38以下であるニッケル含有水酸化物を得ることができる。従って、本発明のニッケル含有水酸化物の製造方法では、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質を調製することができる、正極活物質の前駆体を得ることができる。
【0036】
反応槽内の反応溶液の反応温度A(℃)、反応槽内の反応溶液の錯化剤濃度B(g/L)、反応槽内におけるニッケル含有水酸化物粒子の滞留時間C(時間)、反応槽内の反応溶液を混合する際の撹拌動力D(kW/m3)は、晶析工程における主要な反応条件であり、A×B×C×Dの値にて、ニッケル含有水酸化物の晶析の状態が影響され、A×B×C×Dの値が所定の範囲に設定されることにより、ニッケル含有水酸化物の結晶構造の均一化を図ることができる。なお、反応温度A、反応槽内の反応溶液の錯化剤濃度B、反応槽内におけるニッケル含有水酸化物粒子の滞留時間C、反応槽内の反応溶液を混合する際の撹拌動力Dは、それぞれ、ニッケル含有水酸化物の晶析反応において相乗的な効果を発揮するため、式(1)においては、A、B、C及びDの各要素が、それぞれ乗じられている。
【0037】
A×B×C×Dの値は、3400以上7000以下であれば、特に限定されないが、A×B×C×Dの値の下限値は、さらに優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質の前駆体を得る点から、4200が好ましく、4500がより好ましく、5000が特に好ましい。一方で、A×B×C×Dの値の上限値は、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を有する正極活物質の前駆体を確実に得る点から、6500が好ましく、6000が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0038】
反応槽内の反応溶液の反応温度Aは、A×B×C×Dの値が3400以上7000以下であれば、特に限定されないが、反応温度Aの下限値は、晶析の観点から所望の一次粒子の平均長径や0.80以上1.38以下のピーク強度比α/βを確実に得る点から、60℃が好ましく、65℃が特に好ましい。一方で、反応温度Aの上限値は、0.80以上1.38以下のピーク強度比α/βを確実に得る点、及び反応槽内の水分蒸発や錯化剤成分の反応スラリー内の保持の点から、90℃が好ましく、85℃が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0039】
反応溶液のアンモニア濃度Bは、A×B×C×Dの値が3400以上7000以下であれば、特に限定されないが、アンモニア濃度Bの下限値は、0.80以上1.38以下のピーク強度比α/βを確実に得つつ、二次粒子のタップ密度を向上させる点から、1.0g/Lが好ましく、1.5g/Lが特に好ましい。一方で、アンモニア濃度Bの上限値は、0.80以上1.38以下のピーク強度比α/βを確実に得つつ、晶析の観点から一次粒子平均短径の増加を抑制し、所望のアスペクト比を得る点から、10.0g/Lが好ましく、8.0g/Lが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0040】
反応槽内におけるニッケル含有水酸化物粒子の滞留時間Cは、A×B×C×Dの値が3400以上7000以下であれば、特に限定されないが、滞留時間Cの下限値は、0.80以上1.38以下のピーク強度比α/βを確実に得つつ、二次粒子のタップ密度を向上させる点から、5時間が好ましく、7時間が特に好ましい。一方で、滞留時間Cの上限値は、0.80以上1.38以下のピーク強度比α/βを確実に得つつ、工業的に高い生産性を確保する点から、30時間が好ましく、25時間が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0041】
反応槽内の反応溶液を混合する際の撹拌動力Dは、A×B×C×Dの値が3400以上7000以下であれば、特に限定されないが、撹拌動力Dの下限値は、0.80以上1.38以下のピーク強度比α/βを確実に得つつ、反応槽内に投入する液の分散性を確保する点から、1.0kW/m3が好ましく、1.5kW/m3が特に好ましい。一方で、撹拌動力Dの上限値は、0.80以上1.38以下のピーク強度比α/βを確実に得つつ、撹拌羽根のせん断による二次粒子の過度の微細化を抑制する点から、5.0kW/m3が好ましく、4.0kW/m3が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0042】
本発明のニッケル含有水酸化物の製造方法に用いる反応槽としては、例えば、得られたニッケル含有水酸化物粒子を分離するためにオーバーフローさせる連続式反応槽や、反応終了まで系外にニッケル含有水酸化物粒子を排出しないバッチ式反応槽を挙げることができる。
【0043】
上記のように、晶析工程で得られたニッケル含有水酸化物粒子を懸濁物からろ過後、アルカリ水溶液で洗浄して、ニッケル含有水酸化物粒子に含まれる不純物を除去して、本発明のニッケル含有水酸化物を得ることができる。その後、固液分離工程にて固相と液相を分離して、必要に応じて、ニッケル含有水酸化物を含む固相を水洗し、ニッケル含有水酸化物を加熱処理して乾燥させることで、粉体状のニッケル含有水酸化物を得ることができる。
【0044】
次に、本発明のニッケル含有水酸化物を前駆体とした非水電解質二次電池の正極活物質(以下、単に「本発明の正極活物質」ということがある。)について説明する。本発明の正極活物質は、前駆体である本発明のニッケル含有水酸化物が、例えば、リチウム化合物と焼成された態様となっている。本発明の正極活物質の結晶構造は、層状構造であり、放電容量が高い二次電池を得る点から、三方晶系の結晶構造又は六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることが好ましい。本発明の正極活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極活物質として使用することができる。
【0045】
本発明の正極活物質を製造する際には、前処理として、ニッケル含有水酸化物をニッケル含有酸化物に調製する工程を実施して、ニッケル含有酸化物を前駆体として使用してもよい。ニッケル含有水酸化物からニッケル含有酸化物を調製する方法としては、酸素ガスが存在する雰囲気下、300℃以上800℃以下の温度で1時間以上10時間以下にて焼成する酸化処理を挙げることができる。
【0046】
次に、本発明の正極活物質の製造方法について説明する。例えば、本発明の正極活物質の製造方法は、まず、ニッケル含有水酸化物(またはニッケル含有酸化物)にリチウム化合物を添加して、ニッケル含有水酸化物(またはニッケル含有酸化物)とリチウム化合物との混合物を調製する。リチウム化合物としては、リチウムを有する化合物あれば、特に限定されず、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム等を挙げることができる。
【0047】
次に、上記混合物を焼成することで正極活物質を製造することができる。焼成条件としては、例えば、焼成温度600℃以上1000℃以下、昇温速度50℃/h以上300℃/h以下、焼成時間5時間以上20時間以下が挙げられる。焼成の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、大気、酸素などが挙げられる。また、焼成に用いる焼成炉としては、特に限定されないが、例えば、静置式のボックス炉やローラーハース式連続炉などが挙げられる。
【0048】
次に、本発明の正極活物質を用いた正極について説明する。正極は、正極集電体と、正極集電体表面に形成された、本発明の正極活物質を用いた正極活物質層を備える。正極活物質層は、本発明の正極活物質と、結着剤(バインダー)と、必要に応じて導電助剤とを有する。導電助剤としては、非水電解質二次電池のために使用できるものであれば、特に限定されず、例えば、炭素系材料を用いることができる。炭素系材料として、黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。結着剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のポリマー樹脂、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。正極集電体としては、特に限定されないが、例えば、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。このうち、加工しやすく、安価である点で、Alを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0049】
正極の製造方法としては、例えば、先ず、本発明の正極活物質と導電助剤と結着剤を混合して正極活物質スラリーを調製する。次いで、上記正極活物質スラリーを正極集電体に、公知の充填方法で塗布して乾燥させ、プレスして固着することで正極を得ることができる。
【0050】
上記のようにして得られた正極活物質を用いた正極と、負極集電体と負極集電体表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層を備える負極と、所定の電解質を含む電解液と、セパレータとを、公知の方法で搭載することで、非水系電解質二次電池を組み上げることができる。
【0051】
非水系電解質に含まれる電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C4F9SO3)、LiC(SO2CF3)3、Li2B10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
また、電解質の分散媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、またはこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
また、電解質を含む電解液に代えて、固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖またはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi2S-SiS2、Li2S-GeS2、Li2S-P2S5、Li2S-B2S3、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li2SO4、Li2S-GeS2-P2S5などの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材料を有する、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する部材が挙げられる。
【実施例0055】
次に、本発明のニッケル含有水酸化物の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0056】
実施例及び比較例のニッケル含有水酸化物の製造
実施例1のニッケル含有水酸化物の製造
硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンとを、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比を所定割合にて溶解した水溶液、硫酸アンモニウム水溶液(アンモニウムイオン供給体)及び水酸化ナトリウム水溶液を、所定容積を有する反応槽へ滴下して、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.2、アンモニア濃度を1.9g/Lに維持しながら、撹拌羽根を備えた撹拌機により撹拌動力1.6kW/m3にて連続的に攪拌した。反応槽内は、窒素雰囲気とした。また、反応槽内の混合液の液温は70℃に維持した。中和反応により晶析したニッケル含有水酸化物粒子の反応槽内での滞留時間が20時間となるように混合液の流量を制御し反応を開始させ、反応槽のオーバーフロー管からニッケル含有水酸化物粒子をオーバーフローさせて、ニッケル含有水酸化物粒子の懸濁物として取り出した。上記のようにして、反応開始から上記滞留時間を経過した後にオーバーフローにより取り出したニッケル含有水酸化物粒子の懸濁物を、ろ過後、アルカリ水溶液(8質量%の水酸化ナトリウム水溶液)で洗浄して、固液分離した。その後、分離した固相に対して水洗し、さらに、脱水、乾燥の各処理を施して、粉体状のニッケル含有水酸化物を得た。
【0057】
実施例2のニッケル含有水酸化物の製造
ニッケル:コバルト:マンガンのモル比を変更した水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0058】
実施例3のニッケル含有水酸化物の製造
反応槽内の混合液の液温を72℃、アンモニア濃度を2.2g/Lに維持し、滞留時間を14時間とした以外は、実施例2と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0059】
実施例4のニッケル含有水酸化物の製造
ニッケル:コバルト:マンガンのモル比を変更した水溶液を用い、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.3、アンモニア濃度を2.5g/Lに維持し、滞留時間を19時間とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0060】
実施例5のニッケル含有水酸化物の製造
ニッケル:コバルト:マンガンのモル比を変更した水溶液を用い、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.4、アンモニア濃度を2.4g/Lに維持した以外は、実施例1と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0061】
実施例6のニッケル含有水酸化物の製造
反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.1、アンモニア濃度を2.3g/Lに維持し、滞留時間を21時間とした以外は、実施例5と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0062】
実施例7のニッケル含有水酸化物の製造
ニッケル:コバルト:マンガンのモル比を変更した水溶液を用い、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.3、反応槽内の混合液の液温を80℃、アンモニア濃度を3.7g/Lに維持し、撹拌動力を2.4kW/m3、滞留時間を8時間とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0063】
実施例8のニッケル含有水酸化物の製造
反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.5、反応槽内の混合液の液温を70℃、アンモニア濃度を4.7g/Lに維持し、滞留時間を7時間とした以外は、実施例7と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0064】
比較例1のニッケル含有水酸化物の製造
反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.6、反応槽内の混合液の液温を55℃、アンモニア濃度を4.1g/Lに維持し、滞留時間を9時間とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0065】
比較例2のニッケル含有水酸化物の製造
反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.8、アンモニア濃度を6.8g/Lに維持し、滞留時間を9時間とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0066】
比較例3のニッケル含有水酸化物の製造
反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で10.2、アンモニア濃度を0g/Lに維持し、滞留時間を22時間とした以外は、実施例2と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0067】
比較例4のニッケル含有水酸化物の製造
ニッケル:コバルト:マンガンのモル比を変更した水溶液を用い、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.7、アンモニア濃度を3.8g/Lに維持し、滞留時間を19時間とした以外は、実施例1と同様にして、ニッケル含有水酸化物を製造した。
【0068】
実施例と比較例のニッケル含有水酸化物の中和反応(晶析)条件を、下記表1に示す。
【0069】
【0070】
実施例と比較例のニッケル含有水酸化物の物性の評価項目は以下の通りである。
(1)ニッケル含有水酸化物の組成分析
組成分析は、得られたニッケル含有水酸化物を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン社製、Optima7300DV)を用いて行った。
【0071】
(2)ピーク強度比
CuKα線を使用した粉末X線回折測定において2θ=19.2±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度α、CuKα線を使用した粉末X線回折測定における2θ=38.5±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度βを、それぞれ、測定した。具体的には、粉末X線回折測定は、X線回折装置(株式会社リガク社製、UltimaIV)を用いて行った。ニッケル含有水酸化物の粉末を専用の基板に充填し、CuKα線源(40kV/40mA)を用いて、回折角2θ=10°~80°、サンプリング幅0.03°、スキャンスピード20°/minの条件にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を取得した。取得した粉末X線回折図形を、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXLを用いて平滑化処理やバックグラウンド除去処理を行い、該粉末X線回折図形から、2θ=19.2±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度α、2θ=38.5±1の範囲に現れる回折ピークのピーク強度βをそれぞれ測定し、ピーク強度比α/βを算出した。
【0072】
(3)一次粒子の平均長径
走査型電子顕微鏡(SEM)により二次粒子画像を取得し、取得した画像から、二次粒子の粒子径がレーザ回折・散乱法を用いた粒度分布測定装置で測定した累積体積百分率が50体積%の粒子径である二次粒子を選択し、該二次粒子表面の一次粒子を無作為に50個選択し、該一次粒子の長径を測定し平均化して算出した。
【0073】
(4)一次粒子のアスペクト比
走査型電子顕微鏡(SEM)により二次粒子画像を取得し、取得した画像から、二次粒子の粒子径がレーザ回折・散乱法を用いた粒度分布測定装置で測定した累積体積百分率が50体積%の粒子径である二次粒子を選択し、該二次粒子表面の一次粒子を無作為に50個選択し、該一次粒子の長径と短径をそれぞれ測定し平均化して、平均長径を平均短径で除して算出した。
【0074】
(5)平均二次粒子径(D50)
粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-950)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。測定条件として、水を溶媒とし、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを1mL投入、サンプル投入後の透過率は85±3%の範囲とし、超音波を発生させサンプルを分散させた。また、解析時の溶媒屈折率は水の屈折率である1.333を使用した。
【0075】
(6)タップ密度
タップデンサー(株式会社セイシン製、KYT-4000)を用いて、JISR1628に記載の手法のうち、定容積測定法によって、タップ密度の測定を行った。
【0076】
(7)比表面積(BET比表面積)
ニッケル複合水酸化物1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、Macsorb)を用い、1点BET法によって測定した。
【0077】
実施例と比較例のニッケル含有水酸化物の物性の評価結果を下記表2に示す。
【0078】
【0079】
実施例と比較例のニッケル含有水酸化物を前駆体として用いた正極活物質の製造
実施例1~8と比較例1~4のニッケル含有水酸化物のうち、実施例2、3、5、7、8と比較例1~4のニッケル含有水酸化物を用いて正極活物質を製造した。実施例2、3、5、7、8と比較例1~4のニッケル含有水酸化物に、それぞれ、Li/(Ni+Co+Al)のモル比が1.05となるように、水酸化リチウム粉末を添加して混合して、ニッケル含有酸化物と水酸化リチウムの混合粉を得た。得られた混合粉に対して焼成処理を行って、リチウム金属複合水酸化物を得て、正極活物質とした。焼成条件は、酸素雰囲気下、焼成温度770℃、昇温速度100℃/h、焼成時間10時間とした。また、焼成には、ボックス炉を用いた。
【0080】
正極活物質を用いた正極板の製造
上記のようにして得られた正極活物質を用いて正極板を作製し、作製した正極板を用いて評価用電池を組み上げた。具体的には、得られた正極活物質と、導電剤(アセチレンブラック)と、バインダ(ポリフッ化ビニリデン)とを、それぞれ、92:5:3の重量比で混合し、得られた混合物を、正極集電体(Al箔)に塗布して、乾燥させプレスして正極集電体に固着したものを正極板とした。
【0081】
上記のようにして得られた正極板と、負極(金属リチウム)と、電解質(LiPF6)を含む電解液(エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネートを30:35:35の体積比率で混合した混合液)と、セパレータ(ポリプロピレン製)と、を搭載してリチウム二次電池を作製した。
【0082】
リチウム二次電池の評価項目
(1)初期充放電効率
作製したリチウム二次電池を用いて、以下に示す条件で初期充放電試験を実施し、初期充電容量に対する初期放電容量の比を百分率で表した値を初期充放電効率とした。
<充放電試験条件>
試験温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電時間6時間、充電電流0.2CA、定電流定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電時間5時間、放電電流0.2CA、定電流放電
初期充放電効率が85.0%以上を合格と評価した。
【0083】
(2)0.2C体積容量密度
作製したリチウム二次電池を用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施し、体積容量密度を算出した。
<充放電試験条件>
試験温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電時間6時間、充電電流0.2CA、定電流定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電時間5時間、放電電流0.2CA、定電流放電
<体積容量密度の算出>
0.2Cにて放電したリチウム二次電池用正極活物質の放電容量と、圧延後正極の単位体積あたりの質量とから、下記式に基づいて体積容量密度を求めた。
体積容量密度(mAh/cm3)=リチウムイオン電池用正極活物質の放電容量(mAh/g)×圧延後正極の密度
体積容量密度が570mAh/cm3以上を合格と評価した。
【0084】
リチウム二次電池の評価結果を下記表3に示す。
【0085】
【0086】
表2、3から、α/βのピーク強度比が0.80以上1.38以下である実施例2、3、5、7、8のニッケル含有水酸化物を前駆体とした正極活物質を搭載した二次電池では、初期充放電効率が85.0%以上と、優れた初期充放電効率を発揮し、かつ、体積容量密度が570mAh/cm3以上と、高い体積容量密度を発揮した。従って、α/βのピーク強度比が0.80以上1.38以下である実施例1~8のニッケル含有水酸化物を前駆体として用いると、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を発揮できることが判明した。特に、α/βのピーク強度比が1.05以上1.38以下である実施例5、7、8のニッケル含有水酸化物では、α/βのピーク強度比が1.00、1.02である実施例2、3のニッケル含有水酸化物と比較して、初期充放電効率と体積容量密度がさらに向上した。
【0087】
また、実施例1~8のニッケル含有水酸化物では、一次粒子の平均長径が290nm以上425nm以下の範囲であった。また、実施例1~8のニッケル含有水酸化物では、タップ密度は2.07g/ml以上、一次粒子のアスペクト比は3.1~4.6、比表面積は7.7m2/g~9.8m2/gであった。
【0088】
また、表1から、実施例1~8のニッケル含有水酸化物では、晶析工程の反応条件である反応温度A(℃)、反応溶液の錯化剤濃度B(g/L)、反応槽内におけるニッケル含有水酸化物粒子の滞留時間C(時間)、反応槽内の反応溶液を混合する際の撹拌動力D(kW/m3)の、A×B×C×Dの値が、3400以上7000以下に設定されていた。
【0089】
一方で、α/βのピーク強度比が0.80以上1.38以下の構成を有していない比較例1~4のニッケル含有水酸化物を前駆体とした正極活物質を搭載した二次電池では、初期充放電効率が85.0%未満と、優れた初期充放電効率が得られない、もしくは0.2Cでの体積容量密度が570mAh/cm3未満と、高い体積容量密度が得られなかった。すなわち、比較例1~4では、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を両立することができなかった。
【0090】
また、比較例1~4のニッケル含有水酸化物では、晶析工程の反応条件である反応温度A(℃)、反応溶液の錯化剤濃度B(g/L)、反応槽内におけるニッケル含有水酸化物粒子の滞留時間C(時間)、反応槽内の反応溶液を混合する際の撹拌動力D(kW/m3)の、A×B×C×Dの値が、3400未満または7000超であった。
本発明のニッケル含有水酸化物を前駆体として用いた正極活物質を二次電池に搭載すると、優れた初期充放電効率と高い体積容量密度を発揮できるので、携帯機器や車両等、広汎な二次電池の分野で利用可能である。
ニッケルと、コバルト及びマンガンからなる群から選択された金属のうち少なくとも1種と、を含む複合水酸化物である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のニッケル含有水酸化物。