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特開2022-10747ブロック、表層の遮水構造及び斜面の遮水構造の構築方法
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  • 特開-ブロック、表層の遮水構造及び斜面の遮水構造の構築方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022010747
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ブロック、表層の遮水構造及び斜面の遮水構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
E02D17/20 103H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111457
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 達貴
(72)【発明者】
【氏名】松丸 貴樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 進
(72)【発明者】
【氏名】赤司 有三
(72)【発明者】
【氏名】山越 陽介
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DB52
(57)【要約】      (修正有)
【課題】比較的安価な材料のみで構築できるうえに、遮水性能の高いブロックと、それを備えた遮水性能の高い表層の遮水構造を提供する。
【解決手段】斜面Sの表層として設けられる遮水層1は、製鋼スラグと高炉水砕スラグとを混合したスラグ材3を、締固め密度比が90%以上となるように締め固めて成形されたブロック2と、隣接して配置されるブロック間の隙間に充填されるスラグ材3とを備えている。ここでブロックは、スラグ材の締固め密度比が95%以上となるように締め固めることが好ましい。また、厚さを50mm-200mmとし、透水係数が3.0×10-6m/s以下となるようにすることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグと高炉水砕スラグとを混合したスラグ材を、締固め密度比が90%以上となるように締め固めて成形されたことを特徴とするブロック。
【請求項2】
前記スラグ材の締固め密度比が95%以上となるように締め固めたことを特徴とする請求項1に記載のブロック。
【請求項3】
前記製鋼スラグは粒径が40mm以下であって、前記高炉水砕スラグは前記スラグ材の全量に対する含有量が5質量%以上25質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のブロック。
【請求項4】
厚さが50mm-200mmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のブロック。
【請求項5】
透水係数が3.0×10-6m/s以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のブロック。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のブロックと、
隣接して配置されるブロック間の隙間に充填される前記スラグ材又は高炉水砕スラグとを備えたことを特徴とする表層の遮水構造。
【請求項7】
斜面の表層として設けられる斜面の遮水構造の構築方法であって、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のブロックを製造する工程と、
複数の前記ブロックを前記斜面に設置する工程と、
前記斜面に並べられた前記ブロック間に前記スラグ材又は高炉水砕スラグを撒き出す工程と、
前記スラグ材又は高炉水砕スラグに対して散水する工程とを備えたことを特徴とする斜面の遮水構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面や舗装などの表層に並べられるブロックと、それを備えた表層の遮水構造及び斜面の遮水構造の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に開示されているように、切土や盛土によって形成される斜面には、斜面崩壊の原因となる雨水の浸透などを防ぐために、コンクリートなどを使用して安定化を図ることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、斜面にコンクリートを吹き付けることによって、表層に遮水構造が設けられることが開示されている。また、特許文献2には、鉄筋コンクリートによって縦梁を構築し、その縦梁間に露出する斜面を緑化吹付材によって被覆する斜面安定工が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、平板状のコンクリートブロックを斜面に敷き詰めて保護するのり面保護工において、コンクリートブロックの表面を植生で覆う植生用張りブロック工が開示されている。この工法では、植物が成長しやすくするために、コンクリートブロックに多孔質のポーラスコンクリートを使用するなどしている。
【0005】
一方、特許文献4,5には、道路の簡易舗装方法として、製鋼スラグと高炉水砕スラグとを混合した材料を敷き均して、散水後に大型のロードローラや小型のプレートコンパクタなどの転圧機を用いて転圧する工法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-197934号公報
【特許文献2】特開2004-52533号公報
【特許文献3】特開2005-68867号公報
【特許文献4】特許第5765125号公報
【特許文献5】特開2017-48625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、セメントやアスファルトなどの結合材は、材料費が高く、工事費が増大する要因になる。また、充分な締め固めを必要とする材料は、締め固め作業が実施しやすい場所で予め製造しておくことが望ましいが、ブロックのように成形して使用する場合、ブロック間の目地の性能をブロックと同等にするのが難しい。このため、特許文献3に記載されているような張りブロック工では、遮水性能が高い緻密なコンクリートブロックを使用する場合でも、目地からの浸透が起きるので斜面全体の遮水性能は期待されていない。
【0008】
そこで、本発明は、比較的安価な材料のみで構築できるうえに、遮水性能の高いブロックと、それを備えた遮水性能の高い表層の遮水構造及び斜面の遮水構造の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のブロックは、製鋼スラグと高炉水砕スラグとを混合したスラグ材を、締固め密度比が90%以上となるように締め固めて成形されたことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記スラグ材の締固め密度比が95%以上となるように締め固めることが好ましい。例えば、前記製鋼スラグは粒径が40mm以下であって、前記高炉水砕スラグは前記スラグ材の全量に対する含有量が5質量%以上25質量%以下とすることができる。また、ブロックの厚さは、50mm-200mmとすることができる。さらに、ブロックの透水係数が3.0×10-6m/s以下となるようにすることが好ましい。
【0011】
また、表層の遮水構造の発明は、上記いずれかに記載のブロックと、隣接して配置されるブロック間の隙間に充填される前記スラグ材又は高炉水砕スラグとを備えたことを特徴とする。
【0012】
さらに、斜面の遮水構造の構築方法の発明は、斜面の表層として設けられる斜面の遮水構造の構築方法であって、上記いずれかに記載のブロックを製造する工程と、複数の前記ブロックを前記斜面に設置する工程と、前記斜面に並べられた前記ブロック間に前記スラグ材又は高炉水砕スラグを撒き出す工程と、前記スラグ材又は高炉水砕スラグに対して散水する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このように構成された本発明のブロックは、製鋼スラグと高炉水砕スラグとを混合したスラグ材を、締固め密度比が90%以上となるように締め固めて成形されている。
【0014】
要するに、製鋼工程で発生する製鋼スラグと高炉水砕スラグとを使用するだけなので、比較的安価な材料費にすることができる。また、締固め密度比が90%以上となるように締め固めることによって、高い遮水性能を確保することができる。特に、締固め密度比を95%以上とすることで、雨水の斜面や舗装面下への浸透率を大幅に低減させることができる。
【0015】
そして、このようなブロックが敷設されることによって形成される表層は、隣接して配置されるブロック間の隙間にスラグ材又は高炉水砕スラグが充填される構成とすることで、遮水性能の高い遮水構造にすることができる。
【0016】
また、斜面の遮水構造の構築方法の発明では、別の場所で製造されたスラグ材によって形成されるブロックを使用して、斜面にブロックを設置した後に、ブロック間にスラグ材又は高炉水砕スラグを撒き出して散水する工程が実施されるので、斜面のような締め固め作業が難しい場所にも、遮水性能の高い遮水構造を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施の形態の斜面の遮水構造の構成を示した説明図である。
図2】本実施の形態の斜面の遮水構造の効果を確認するために行った散水実験の地盤模型の概要を示した説明図である。
図3】含水比と乾燥密度と透水係数との関係を説明する図である。
図4】比較例とともに散水実験の結果を説明する図であって、(a)は降雨強度20mm/hrの場合の浸透率の時刻歴を示したグラフ、(b)は降雨強度90mm/hrの場合の浸透率の時刻歴を示したグラフである。
図5】降雨強度20mm/hrの場合の散水実験の結果を説明する図であって、(a)は斜面の下流地点における飽和度の時刻歴を示したグラフ、(b)は斜面の中央地点における飽和度の時刻歴を示したグラフ、(c)は斜面の上流地点における飽和度の時刻歴を示したグラフである。
図6】降雨強度90mm/hrの場合の散水実験の結果を説明する図であって、(a)は斜面の下流地点における飽和度の時刻歴を示したグラフ、(b)は斜面の中央地点における飽和度の時刻歴を示したグラフである。
図7】本実施の形態の斜面の遮水構造の構築方法を説明するフローチャートである。
図8】型枠内にスラグ材を撒き出す工程を説明する斜視図である。
図9】斜面にブロックを並べた状態を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態で説明する表層の遮水構造としての斜面Sの遮水構造の構成を、部分的に拡大して示した説明図である。
【0019】
すなわち、本実施の形態の表層の遮水構造は、平坦な舗装面にも斜面Sにも適用できるが、以下では主に斜面Sに適用する場合について説明する。まず図1を参照しながら全体的な構成を説明すると、斜面Sには、地山を掘削する切土の際に発生する傾斜面や、基礎地盤上に土を盛り上げて堤体や造成地などを構築する盛土の際に発生する傾斜面などが該当する。
【0020】
ここでは、1:2.0勾配の斜面、すなわち水平に対して約26°の傾斜角で傾く斜面Sの表層となる遮水層1を例に説明する。このような斜面Sには、斜面崩壊の原因となる雨水の斜面Sの内部への浸透や表面の侵食などを防ぐために、遮水層1が設けられる。
【0021】
この遮水層1に最も求められる性能は遮水性能であり、透水係数が小さくなるほど好ましい。さらに、遮水層1には、セメントやアスファルトなどの高価な材料を使用せずに、比較的に安価な材料だけで構築できることが好ましい。
【0022】
そこで、本実施の形態では、遮水層1を製鋼スラグと高炉水砕スラグとを混合したスラグ材によって形成することとする。製鋼スラグや高炉水砕スラグなどの鉄鋼スラグは、製鋼工程で発生する産業副産物であり、比較的安価に入手できるうえに、有効に利用することで環境負荷の低減にも貢献できるようになる。
【0023】
製鋼スラグ及び高炉水砕スラグは、酸化カルシウム、けい酸カルシウム、酸化鉄(II)、アルミナ等を主成分とする複合材料であって、潜在水硬性を有する。また、製鋼スラグ単体でも弱い水硬性があり強度を発現するが、製鋼スラグに高炉水砕スラグを混合することによって、強アルカリである製鋼スラグが更に強い水硬性を有する高炉水砕スラグを刺激し、水和物が生成されて強度の高い固結体になる。
【0024】
さらに詳細に説明すると、高炉水砕スラグが製鋼スラグのアルカリ刺激を受け、シリカ(Si)とアルミニウム(Al)とが水分に溶け出し、製鋼スラグから溶け出すカルシウム(Ca)とポゾラン反応を起こして石灰シリカアルミナ(C-S-A-H:C=CaO,S=SiO2,A=Al2O3,H=H2O)系水和物が生成されると、粒子間隙を繋いでいくと同時に粒子間空隙が充填されることで固結が起きる。また、水中の過剰なCaイオンが空気中の炭酸イオンと反応して、炭酸カルシウム(CaCO3)も同時に生成して固結することになる。
【0025】
このような製鋼スラグと高炉水砕スラグとを混合したスラグ材によって遮水層1を構築するには、斜面Sにスラグ材を敷き均し、その上から水硬性を促進させるための水を散布し、転圧機などで転圧して締め固めることで形成することになる。しかしながら斜面S上では、転圧して充分に締め固めを行う作業が難しいので、本実施の形態では、後述するように別の場所で充分に締め固められて成形されたブロックを使用する。まずは、スラグ材によって形成される遮水層1に要求される性能に関する説明を行う。
【0026】
製鋼スラグとしては、例えば目開き40mmの篩でふるって網目を通り抜けた粒径が40mm以下の製鋼スラグを使用することができる。また、高炉水砕スラグとしては、溶融した高炉スラグに加圧水を噴射するなどして、急激に冷却したままのガラス質の粒状スラグが使用できる。
【0027】
高炉水砕スラグは、例えばスラグ材の全量に対する含有量が5質量%以上25質量%以下となるように混合される。これに対して、製鋼スラグのスラグ材の全量に対する含有量は、95質量%以下75質量%以上となる。要するに、製鋼スラグと高炉水砕スラグとを併せたものが、スラグ材の全量となる。
【0028】
そして、遮水層1として要求される遮水性能を発揮させるためには、充分な締め固めが必要となる。そこで、以下では、締固め度合と透水性との関係について説明するとともに、斜面Sの表層として設ける遮水層1に適した遮水構造について説明する。まず、図2図6を参照しながら、遮水性能を確認するために行った散水実験について説明する。
【0029】
この散水実験では、上記したスラグ材を使用した斜面S(のり面)の施工条件(含水比,乾燥密度)による遮水性能の違いを把握するために、のり面付近を模擬した傾斜地盤の地盤模型(図2参照)を作製して実施した。
【0030】
この散水実験を実施するにあたり、含水比と密度(乾燥密度)を変えたスラグ材の供試体の透水試験を行い、含水比及び乾燥密度の大きさによる透水係数の変化を把握することにした。まず、図3に示すように、含水比7%-11%の範囲で締固め密度比が90%-99%の供試体の透水試験を行った。ここで、締固め密度比(Dc)とは、試料の乾燥密度と最大乾燥密度との比で、「締固め度」と言われることもある締固め度合を表す指標である。
【0031】
一連の試験の結果、含水比が大きくなり最適含水比の11%に近くなるほど透水係数が小さくなること、また締固め密度比(乾燥密度)が大きくなるほど小さな透水係数が得られることがわかった。特に、最適含水比が11%の近くで締固め密度比が99%と大きい場合には、透水係数は1.0×10-8m/s以下の極めて小さな値になることを確認した。
【0032】
また、最適含水比より大きな含水比の供試体に対して、含水比を変えたスラグ材の供試体の透水試験を行い、最適含水比より大きな範囲での含水比の大きさによる透水係数の変化を把握することにした。この供試体の作製密度は、締固め密度比を90%とし、含水比が11%、12%、13%となる3種類の供試体を用意した。
【0033】
これらの3種類の供試体に対して透水試験をした結果、含水比が11%の供試体では1.11×10-5(m/s)、含水比が12%の供試体では1.76×10-5(m/s)、含水比が13%の供試体では2.24×10-5(m/s)という透水係数kの結果が得られた。要するに、いずれの含水比としても、ほぼ同程度の透水係数kとなり、最適含水比より大きな範囲では含水比が透水係数kに与える影響は小さいことがわかった。
【0034】
図2は、本実施の形態の斜面の遮水構造の効果を確認するために行った散水実験で使用した地盤模型の概要を示している。この地盤模型は、120mmの層厚で斜面Sを模したのり面地盤(東北硅砂6号で作製)に、スラグ材を使用したのり面工を敷設した構造である。
【0035】
遮水層1は、150mmの層厚とし、斜面長は約1700mmとした。実際の斜面Sに遮水層1として施工する場合の層厚は、50mm-200mm程度となるように形成するのが好ましい。また、斜面Sののり尻側(表流水の下流側)となる位置には、透水平板を設置し、その近辺はのり面地盤ではない開口として、表流水量を測定できるようにした。さらに、斜面Sを模したのり面地盤には、複数の排水経路を下面に直交する方向で設け、浸透量を測定できるようにした。
【0036】
そして、地盤模型の構築後、1:2.0の斜面S(図1参照)を模擬するために、土槽ごと26°に傾けた。また、のり面地盤には、300mm間隔で土壌水分計と間隙水圧計とを設置した。ここで、土壌水分計にはのり尻側(表流水の下流側)から順にPWP01,PWP02,・・・という符号を付け、間隙水圧計にはのり尻側から順にM01,M02,・・・という符号を付けた。
【0037】
散水実験は、降雨強度を変えて複数のパターンで行った。詳細には、降雨強度20mm/hrの場合と降雨強度90mm/hrの場合の散水実験を行った。また、遮水層1の模擬は、材料となるスラグ材の配合は同一とし、締固め度合を変えた複数のケース(Case1-Case3)で行った。
【0038】
スラグ材の配合は、全量に対する製鋼スラグの含有量が80質量%(粒径25mm以下)、高炉水砕スラグの含有量が20質量%(粒径2mm)とした。また、初期含水比は、いずれのケースも11.0%とした。
【0039】
そして、Case1は、乾燥密度が2.263(g/cm3)となるように締め固めたケースである。この締固め度合は、最大乾燥密度との比で表す締固め密度比(Dc)で99%となる。このCase1の室内透水試験によって測定された透水係数kは、9.04×10-9(m/s)となった。
【0040】
また、Case2は、乾燥密度が2.057(g/cm3)となるように締め固めたケースである。この締固め度合は、最大乾燥密度との比で表す締固め密度比(Dc)で90%となる。このCase2の室内透水試験によって測定された透水係数kは、1.11×10-5(m/s)となった。
【0041】
さらに、Case3は、乾燥密度が2.171(g/cm3)となるように締め固めたケースである。この締固め度合は、最大乾燥密度との比で表す締固め密度比(Dc)で95%となる。このCase3の室内透水試験によって測定された透水係数kは、3.19×10-6(m/s)となった。
【0042】
散水実験では、傾斜させた地盤模型の上から、降雨強度20mm/hr又は90mm/hrとなる散水を行い、透水平板位置から排出される表流水量、のり面地盤の下面側から排出される浸透量、土壌水分計及び間隙水圧計の検出値を測定した。
【0043】
図4図6に、降雨強度毎の実験結果を示した。ここで、比較のために、遮水層1を設けない場合(無対策)の実験結果も示した。まず図4は、降雨強度20mm/hrの場合(図4(a))と降雨強度90mm/hrの場合(図4(b))の浸透率の時刻歴を示している。
【0044】
ここで、浸透率(%)とは、表流水量と浸透量の合計に対する浸透量の割合を示す値で、浸透率=浸透量/(表流水量+浸透量)の式によって算定される。これらの結果を見ると、いずれの降雨強度においても、Case1では浸透率がほとんど見られず、斜面Sの内部への浸透が起きないことが確認された。
【0045】
その一方で、Case2は遮水効果がほとんど見られず、浸透率は無対策と同程度であった。これに対して、締固め密度比を95%としたCase3では、完全な遮水は実現できなかったが、かなりの降雨が浸透せずに表面水(表流水)として流下したと言える。
【0046】
そこで、降雨強度を20mm/hrとして、各ケースの斜面Sの位置による違いについて検証することとした。ここで、降雨強度20mm/hrは、気象庁の「雨の強さと降り方」の分類によれば、予報用語で「強い雨」、人の受けるイメージで「どしゃ降り」の雨となる。
【0047】
図5は、飽和度(%)の時刻歴を示したグラフであり、図5(a)は斜面Sの下流地点(図2のPWP01地点)における飽和度を示し、図5(b)は斜面Sの中央地点(図2のPWP03地点)における飽和度を示し、図5(c)は斜面Sの上流地点(図2のPWP06地点)における飽和度を示している。
【0048】
これらの結果を見ると、下流地点(図5(a))では、無対策のケースで飽和度が低く、スラグ材による遮水層1を設けたのり面工を施工したケース(Case1-Case3)では、比較的飽和度が高くなっていることがわかる。
【0049】
これは、無対策では、ほぼ均等に降雨が斜面Sの内部(盛土内)に浸透するのに対して、遮水層1を施工したケースでは、遮水層1の表面を流下する表流水が多くなり、下流地点(のり尻)付近でその一部が浸透するためと考えられる。要するに、のり尻における流入量が、無対策のケースよりも多くなると考えられる。
【0050】
一方、中央地点(図5(b))では、無対策とCase2の飽和度は同様の時刻歴となり、Case1とCase3では、ほとんど飽和度の増加が見られずに、図4で示した浸透率の結果と同様に、時間の経過による増加が見られない結果となった。
【0051】
そして、上流地点(図5(c))では、Case1,Case3,Case2,無対策の順に飽和度の増加が確認され、下流地点及び中央地点では無対策と同程度かそれ以上の浸透が確認されていたCase2についても、上流地点においては一定の遮水効果が見られることが確認された。
【0052】
図6は、降雨強度を90mm/hrとして、各ケースの斜面Sの位置による違いについて、飽和度(%)の時刻歴によって検証した結果を示している。ここで、降雨強度90mm/hrは、気象庁の「雨の強さと降り方」の分類によれば、予報用語で「猛烈な雨」、人の受けるイメージで「息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感ずる。」という雨になる。
【0053】
そして、飽和度の時刻歴を示した図6のグラフにおいて、図6(a)は斜面Sの下流地点(図2のPWP01地点)における飽和度を示し、図6(b)は斜面Sの中央地点(図2のPWP03地点)における飽和度を示している。
【0054】
これらの結果を見ると、下流地点(図6(a))では、降雨強度20mm/hrの場合と同様の結果になったが、中央地点(図6(b))では、Case2においても飽和度の増加が抑制されていることが確認された。
【0055】
「猛烈な雨」に分類される降雨強度90mm/hrの場合のように、流入量が非常に大きくなる場合には、一定量が表流水として排水されて、斜面S内部の飽和度の増加が抑制されたものと考えられる。
【0056】
ところでスラグ材は、アルカリ性を示すため、参考までに各ケースのpHも測定した。いずれのケースにおいても、表流水のpHは平均値で7.8-8.5程度となり、浸透水のpHは8.2-11.7程度となった。但し、スラグ材の炭酸化が表面から進むことにより、これらのpHは時間の経過とともに徐々に低下していくことになる。
【0057】
次に、このような遮水性能が発揮できる本実施の形態のブロックについて、本実施の形態の斜面の遮水構造の構築方法と併せて説明する。図7には、本実施の形態の斜面の遮水構造の構築方法の各ステップを説明するフローチャートを示した。
【0058】
このフローチャートのステップS1からステップS5までは、本実施の形態のブロック2を製造する工程の各ステップを示している。すなわち、製鋼スラグと高炉水砕スラグとを混合したスラグ材を、締固め密度比が90%以上となるように締め固めて成形されるブロック2の製造方法である。
【0059】
本実施の形態のブロック2は、締め固め作業が行いやすい平坦な場所で製造される。例えば、工場や斜面のある現場の敷地やその近くの平坦な作業ヤードで製造することができる。まず、ステップS1では、図8に示すように、平坦な場所に型枠4を組み立てる。
【0060】
型枠4は、複数のブロック2を一度に製造するために、少なくともブロック2の厚さ以上の高さを有する外枠41と、一度に製造する個数のブロック2を収容可能な内空とを備えている。ここで、複数のブロック2は、一体に成形された盤体を小割にして製作することもできるが、図8では、区画枠42を使用する場合を示している。
【0061】
区画枠42は、平面視略長方形に形成された外枠41の内空を格子状に区切る内型枠で、区画枠42によって区切られた1つの区画で、1体のブロック2が成形される。例えば1区画が、平面視で250mm×250mmの正方形になるように設定する。なお、型枠4は、所望する形状に容易に組み立てることができるので、斜面Sの形状や運搬手段や効率などを考慮して、所望する形状にブロック2が成形できるように設定すればよい。
【0062】
一方、区画枠42の高さは、外枠41の高さよりも低く設定される。そして、締固め後のブロック2の厚さは、区画枠42の高さとほぼ同じになる。区画枠42の高さは、50mm-200mm程度に設定することができる。例えば区画枠42の高さを、120mmに設定する。
【0063】
ステップS2では、型枠4内の区画に、スラグ材3が撒き出される。例えば、製鋼スラグの粒径が40mm以下であって、全量に対する高炉水砕スラグの含有量が5質量%以上25質量%以下となるスラグ材3が使用される。スラグ材3は、例えば型枠4の外枠41の高さまで充填される。この段階では区画枠42の上端面は、スラグ材3に埋もれて隠れた状態になる。
【0064】
続いてステップS3では、スラグ材3を硬化させるために必要となる量の水が散水される。すなわち、散水を行うことによって、スラグ材3の含水比を所望する範囲に調整する。なお、予め含水比が調整されたスラグ材3を撒き出した場合は、散水作業は省略される。
【0065】
そしてステップS4では、バイブロコンパクタやプレートコンパクタなどの転圧機を用いて、型枠4内の転圧が行われる。転圧作業を行うと、撒き出されたスラグ材3が締め固められて、厚みが減少していく。例えば、外枠41の高さ程度の厚みで撒き出されたスラグ材3が、区画枠42の高さ程度になるまで締め固められる。
【0066】
この締固め作業は、平坦な場所に設置された型枠4内での作業となるため、効率的に充分に締め固められるまで行うことができる。また、外枠41や区画枠42の高さで管理することで、安定した高品質のブロック2を効率よく製造することができる。
【0067】
締固め後のブロック2は、所定の時間が経過するまで養生することで、所定の強度が発現するようになる。予め設定された時間だけ養生した後に、型枠4を脱型して、ブロック2を取り出す(ステップS5)。これによって、複数のブロック2が成形されたことになる。なお、必要に応じて、取り出されたブロック2の表面を削るなどして形を整えることもできる。
【0068】
このようにして製造されたブロック2は、工場で製造された場合はトラックに積載されて現場まで搬送される。また、斜面Sの近くの作業ヤードで製造された場合は、作業員の人力や小型のバックホウやクレーンなどによって、斜面S上まで運搬されて設置される(ステップS6)。250mm×250mm×120mmの直方体形状のブロック2は、重量が20kg程度であるため、人力でも運搬することができる。さらに、厚さを半分の60mmとすれば、重量も10kgと半分になって、容易に取り扱うことができるようになる。
【0069】
図9は、設置工程によって斜面Sに複数のブロック2が並べられた状態を示している。ブロック2は、例えば斜面Sの傾斜方向と幅方向に整列するように並べられるが、隣接するブロック2,2間には、程度の差はあるが目地隙間21となる隙間が発生する。この目地隙間21の幅は、予め数mmから数cmなどの範囲で設定しておくこともできるし、自然に発生する隙間であってもよい。
【0070】
ステップS7では、この目地隙間21に向けてスラグ材3を撒き出す工程を実施する。この際に使用するスラグ材3は、ブロック2の製造に使用した材料と比べて細粒分が多い、狭い隙間にも充填しやすい材料にすることもできる。また、製鋼スラグと比べて粒径の小さい高炉水砕スラグのみを隙間に充填することもできる。
【0071】
スラグ材3は、目地隙間21に沿って撒き出すこともできるし、目地隙間21の周辺の広い範囲に撒き出して、レーキやトンボや箒などで目地隙間21に落とし込むようにしてもよい。また必要に応じて、目地隙間21に充填されたスラグ材3を、棒状材などで突き固めることもできる。
【0072】
そして、ステップS8では、目地隙間21に充填されたスラグ材3を硬化させるために、目地隙間21やその周辺を含めた斜面S全体の広い範囲などに散水を行う。散水工程によって目地隙間21にくぼみ等ができた場合は、スラグ材3の撒き出しと散水を繰り返し、ブロック2の天端と同程度の高さになるまで目地隙間21にスラグ材3を充填する。この後、目地隙間21のスラグ材3が固結することで、遮水性能の高い遮水層1が完成する。
【0073】
次に、本実施の形態のブロック2と、それを備えた表層の遮水構造と、斜面の遮水構造の構築方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のブロック2は、製鋼スラグと高炉水砕スラグとを混合したスラグ材3を、締固め密度比が90%以上となるように締め固めて成形されている。そして、本実施の形態の斜面Sの遮水構造となる遮水層1は、複数のブロック2を敷設することで構築される。
【0074】
要するに、製鋼工程で発生する製鋼スラグと高炉水砕スラグとを使用するだけなので、比較的安価な材料費にすることができる。また、締固め密度比が90%以上となるように締め固めることによって、少なくとも斜面Sののり肩付近(表流水の上流側)の飽和度が増加することのない高い遮水性能を確保することができる。
【0075】
また、降雨強度が大きい場合には、斜面Sののり肩付近だけでなく、中央付近においても飽和度が増加するのを抑えることができる。さらに、締固め密度比を95%以上とすることで、雨水の斜面Sや舗装面下への浸透率を大幅に低減させることができる。
【0076】
このような遮水層1は、製鋼スラグの粒径が40mm以下であって、全量に対する高炉水砕スラグの含有量を5質量%以上25質量%以下にしたスラグ材3を、平坦な場所で転圧によって締め固めてブロック2を製造し、それを配置することで構築できる。そして、ブロック2,2間の目地隙間21にはスラグ材3が充填されて固結しているので、ブロック2と目地とで同種のスラグ材3が固結して一体化されたことになって、斜面Sの遮水性能を全体的に高めることができる。
【0077】
また、スラグ材3によって形成される遮水層1の厚さを、50mm-200mm程度にすることで、材料費を抑えたうえで、所望する遮水性能が得られるようになる。要するに、遮水層1の透水係数kが3.0×10-6m/s以下となるように締め固めたブロック2を使用することで、盛土や地山などの斜面Sの内部に雨水が浸透して崩壊を誘発することを防ぐことができる。
【0078】
要するに、別の場所で製造されたスラグ材3によって形成されたブロック2を使用して、斜面Sにブロック2を設置した後に、ブロック2,2間にスラグ材3を撒き出して散水する工程が実施されることで、斜面Sのような締め固めが難しい場所にも、遮水性能の高い遮水構造を構築することができる。
【0079】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0080】
例えば、前記実施の形態では、1:2.0の勾配の斜面Sを例に説明したが、これに限定されるものではなく、平坦な舗装や任意の勾配の斜面を有する盛土や切土に対しても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 :遮水層(表層)
2 :ブロック
21 :目地隙間(隙間)
3 :スラグ材
4 :型枠
S :斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9