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特開2022-107551飛行体システム、および飛行体制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107551
(43)【公開日】2022-07-22
(54)【発明の名称】飛行体システム、および飛行体制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B64C 23/08 20060101AFI20220714BHJP
   B64C 27/08 20060101ALI20220714BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
B64C23/08
B64C27/08
B64C39/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002470
(22)【出願日】2021-01-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】521015316
【氏名又は名称】島宗 知生
(74)【代理人】
【識別番号】100210804
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 一
(72)【発明者】
【氏名】島宗 知生
(57)【要約】
【課題】飛行体を傾ける必要なく、飛行体に推力を発生させる技術を提供する
【解決手段】
本発明の代表的な飛行体システムの一つは、機体と、前記機体を浮上させる複数の浮上用駆動部と、前記機体から複数の前記浮上用駆動部を延設するための複数の支持アームと、前記支持アームに設けられて前記浮上用駆動部が発生する下降流を受ける位置で回転する回転駆動体とを備え、前記下降流と前記回転駆動体との間に作用するマグヌス効果によって推力が発生することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
前記機体を浮上させる複数の浮上用駆動部と、
前記機体から複数の前記浮上用駆動部を延設するための複数の支持アームと、
前記支持アームに設けられ、前記浮上用駆動部が発生する下降流を受ける位置で回転する回転駆動体とを備え、
前記下降流と前記回転駆動体との間に作用するマグヌス効果によって推力が発生する
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項2】
請求項1に記載の飛行体システムであって、
前記回転駆動体は、
前記支持アームの外側面の少なくとも一部を覆う筒状体と、
前記筒状体の回転速度と回転方向を変更することによって、前記推力を制御するマグヌス駆動部とを備える
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項3】
請求項1~2のいずれか一項に記載の飛行体システムであって、
前記回転駆動体は、延設方向の互いに異なる前記支持アームにそれぞれ設けられ、
複数の前記回転駆動体に作用する推力の組み合わせによって、前記機体の推進または旋回の方向を変更する
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項4】
請求項3に記載の飛行体システムであって、
複数の回転駆動体は、機体を真上から見た回転軸の広がり方が前後方向に扁平する
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の飛行体システムであって、
前記回転駆動体に作用するマグヌス効果によって、前記機体の水平姿勢を保持しつつ前記機体を推進させる制御モードを有する制御部
を備えることを特徴とする飛行体システム。
【請求項6】
コンピュータシステムを、請求項5に記載の制御部として機能させるための飛行体制御プログラムであって、
前記コンピュータシステムに、前記回転駆動体に作用するマグヌス効果によって、前記機体の水平姿勢を保持しつつ前記機体を推進させる制御モードを実行させる
ことを特徴とする飛行体制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行体システム、および飛行体制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転翼などを複数用いて機体を浮上させるドローンなどの飛行体システムが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1の段落0025には、『飛行体は、進行方向と逆側の回転翼の回転数を高くして飛行体を進行方向へ前傾させることによって、進行方向への推力を生み出す』旨の技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-181234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の飛行体では、推進動作に際して飛行体を進行方向に前傾させる必要があった。
【0006】
そのため、橋脚や送電タワーなどの構造物に飛行体を接近させて構造物の劣化を検出するなどの用途では、傾斜した飛行体の回転翼の上端や下端が構造物と接触しないよう垂直方向に距離を置く必要があった。そのため、構造物に対してなるべく接近できないという問題点があった。
【0007】
また、飛行体の上側または下側に運搬品や機器などの重量物を搭載するなどの用途では、飛行体が傾斜することによって重量物の重心が飛行体の鉛直線上から大きくずれる。そのため、飛行体の姿勢制御が不安定になりやすいという問題点があった。また、飛行体は推進動作中に重量物の傾斜した状態を維持し続けなければならず、パワー消費が大きくなるといった問題点もあった。
【0008】
特に、飛行体に撮影装置を搭載して空中撮影を行うなどの用途では、飛行体が傾斜することによって撮影アングルが大きく傾斜するという問題点があった。また、撮影装置の傾きをジンバル機構で補正する場合は、大きな補正角度が必要になるという問題点があった。
【0009】
さらに、傾斜した飛行体は、推進動作や向かい風に際して飛行体に当たる空気の断面積が増える。そのため、飛行体にかかる空気の抗力が増える。このように空気の抗力が増える傾斜姿勢を維持しながら高速または長距離の推進動作を行った場合、パワー消費が大きいという問題点があった。
【0010】
また、推進動作を行う飛行体は、進行方向に対して機首下げした傾斜姿勢になる。機首下げした飛行体には揚力と反対向きの下降力が生じる。この下降力を揚力によって打ち消すため、飛行体は回転翼の回転数を全体的に高めなければならない。そのため、パワー消費が大きいという問題点があった。
【0011】
さらに、サイズの大きな飛行体では、飛行体全体を傾斜させる際の慣性モーメントが大きくなる。慣性モーメントの大きな飛行体では、水平姿勢と傾斜姿勢との間で移行に時間がかかる。そのため、飛行体を傾斜させて推進動作を瞬時に開始したり、飛行体を水平に戻してホバリングに瞬時に移行したりすることができない。すなわち、サイズの大きな飛行体全体を傾斜させる方式では、推進動作の急発進や急停止が難しいという問題点があった。
【0012】
また、空中静止を維持する飛行体が横から強い突風を受けた場合、突風に対向して強い推力を瞬時に発生させなければならない。しかしながら、サイズの大きな飛行体全体を傾斜させる方式では、推力が発生するまでに時間がかかる。そのため、その間に飛行体が突風によって横に流されてしまうという問題点があった。
【0013】
そこで、本発明は、これら問題点の少なくともいずれかを解決するために、飛行体を傾ける必要なく、飛行体に推力を発生させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の代表的な飛行体システムの一つは、機体と、前記機体を浮上させる複数の浮上用駆動部と、前記機体から複数の前記浮上用駆動部を延設するための複数の支持アームと、前記支持アームに設けられて前記浮上用駆動部が発生する下降流を受ける位置で回転する回転駆動体とを備え、前記下降流と前記回転駆動体との間に作用するマグヌス効果によって推力が発生することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、浮上用駆動部から発生する下降流を受ける位置に回転駆動体を配置することによって、飛行体を傾ける必要なくマグヌス効果によって飛行体に推力を発生させることが可能になる。
【0016】
上記した以外の課題、構成および効果については、以下の実施形態の説明において、さらに詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、飛行体システム100の全体構成を例示する図である。
図2図2は、回転駆動体140aを拡大して例示する図である。
図3図3は、支持アーム130aの先端側から見た回転駆動体140aの構造を例示する図である。
図4図4は、回路ユニット150の構成を例示するブロック図である。
図5図5は、回転駆動体140aのマグヌス効果を説明する図である。
図6図6は、マグヌス効果を用いた前進動作を説明する図である。
図7図7は、マグヌス効果を用いた後進動作を説明する図である。
図8図8は、マグヌス効果を用いた右進動作を説明する図である。
図9図9は、マグヌス効果を用いた左進動作を説明する図である。
図10図10は、マグヌス効果を用いた反時計回りの旋回を説明する図である。
図11図11は、マグヌス効果を用いた時計回りの旋回を説明する図である。
図12図12は、飛行体制御プログラムによって実施される制御モードを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。なお、説明中では、複数の同種の部材を区別するため、部材の参照符号に添え字a~dなどを付与する。ただし、同種の部材を区別する必要がない場合は、説明を簡略にするために添え字を省く場合がある。
【実施例0019】
[1]実施例1の構成
【0020】
<飛行体システム100の全体構成>
図1は、飛行体システム100の全体構成を例示する図である。
同図において、飛行体システム100は、機体110、浮上用駆動部120a~d、支持アーム130a~d、回転駆動体140a~d、回路ユニット150、およびリモコン200を備える。
【0021】
機体110は、飛行体のボディーを構成する。また。機体110には、飛行用途に応じて、撮影装置、測定機器、または運搬品などが搭載される。
【0022】
浮上用駆動部120a~dは、機体110の姿勢を保持して浮上させるために、機体110の周囲(図1に示すa~dの4パート)に分散して設けられる。これら浮上用駆動部120a~dは、回転によって揚力を発生する回転翼122a~dと、回転翼122a~dを回転させる浮上モータ124a~dとを備える。浮上モータ124a~dは、回転翼122a~dの隣接同士を反対向きに回転させることによって、機体110に作用する反トルクを打ち消す。
【0023】
支持アーム130a~dは、機体110から互いに異なる向き(例えば放射状)に延設して浮上駆動部120a~dを支持する。
【0024】
回転駆動体140a~dは、支持アーム130a~dに設けられる。回転駆動体140a~dは、回転しながら浮上駆動部120a~dが発生する下降流を受けることによって、マグヌス効果の推力を発生する。これら回転駆動体140a~dは、筒状体142a~dと、筒状体142a~dの回転速度と回転方向を変更することによって推力の大きさと向きを制御するマグヌス駆動部144a~dとを備える。さらに、回転駆動体140a~dは、機体110を真上から見た回転軸の広がり方が前後方向に扁平する。
【0025】
回路ユニット150は、機体110に搭載され、浮上モータ124a~dとマグヌス駆動部144a~dを駆動制御する。
【0026】
リモコン200は、回路ユニット150との間で無線通信を行うことによって、遠隔操作や機体位置や空中撮影映像などの情報のやり取りを行う。なお、リモコン200は、高機能なアプリケーションを実行するため、モバイル型などのコンピュータシステムに接続される場合もある。
【0027】
<回転駆動体140a~dの構成>
続いて、回転駆動体140a~dの具体的構成について説明する。
なお、回転駆動体140a~dの個別構成は同様であるため、ここでは回転駆動体140aについて代表的に説明する。
【0028】
図2は、回転駆動体140aの拡大図である。
図3は、支持アーム130aの先端側から見た回転駆動体140aを例示する図である。
【0029】
図2および図3において、支持アーム130aは、断面が円形などの部材によって構成される。この支持アーム130aの外側面の全部を覆うように、筒状体142aが配置される。この筒状体142a(回転駆動体140a)において下降流が流れる表面域には、複数のディンプルを設けるなど、臨界レイノルズ数を下げるための表面粗さを加えてもよい。
【0030】
なお、支持部130aの一部または全部をアンテナとして使用する場合は、筒状体142を樹脂材料などの無線妨害(電波シールド)しない素材で形成することが好ましい。
【0031】
この支持アーム130aと筒状体142aとの間には、摺動部132が設けられる。このような摺動部132は、潤滑剤や、潤滑流体や、微粒子状の固体潤滑剤や、ボールベアリングなどの潤滑機構を備えることによって、筒状体142aを支持アーム130aの円周方向に滑らかに摺動させる。
【0032】
マグヌス駆動部144aは、支持アーム130aの根元付近において、機体110に配置される。マグヌス駆動部144aの時計回り/反時計回りに回転する駆動軸は、筒状体142aに接触することによって、筒状体142aを回転駆動する。なお、マグヌス駆動部144aの駆動軸と筒状体142aとの間に、歯車機構やベルト機構などの回転伝達機構を設けてもよい。また、マグヌス駆動部144aとして超音波モータなどの振動源を設け、筒状体142aの円周方向に対して時計回り/反時計回りに進行する振動波を与えることによって、筒状体142aを回転駆動してもよい。
【0033】
<回路ユニット150の構成>
次に、回路ユニット150の具体的構成について説明する。
【0034】
図4は、回路ユニット150の構成を例示するブロック図である。
同図において、回路ユニット150は、姿勢センサ152、位置検出部153、リモコン通信部154、地図データベース155、構造物データベース156、浮上制御回路157、マグヌス制御回路158、および制御部160を備える。なお、回路ユニット150のこれら各構成は、飛行体システム100の適所に分散して配置される。
【0035】
姿勢センサ152は、機体110に作用する角速度をジャイロセンサなどによって多軸(例えば3軸)に検出することによって、機体110の姿勢や向きを検出する。
【0036】
位置検出部153は、GPS受信や多軸加速度センサなどによって機体110の位置や変位を検出する。また、位置検出部153は、地上までの距離センサや高度センサによって機体110の高度を検出する。
【0037】
リモコン通信部154は、リモコン200との間において、遠隔操作や飛行経路や空中撮影映像などの情報を無線通信によってやり取りする。
【0038】
地図データベース155は、目標点や経由点などの飛行コースに関する地図データを記録する。
【0039】
構造物データベース156は、計測や監視の目標とする構造物に関する3次元データを記録する。
【0040】
浮上制御回路157は、浮上モータ124a~dそれぞれの回転速度および回転方向を制御する。
【0041】
マグヌス制御回路158は、マグヌス駆動部144a~dそれぞれの回転速度および回転方向を制御する。
【0042】
制御部160は、姿勢センサ152、位置検出部153、リモコン通信部154、地図データベース155、および構造物データベース156との情報やり取りに応じて、浮上制御回路157およびマグヌス制御回路158に対する制御を行う。
【0043】
このような制御部160は、ハードウェアとしてCPU(Central Processing Unit)やメモリなどを備えたコンピュータシステムとして構成してもよい。このコンピュータシステムがコンピュータ可読媒体に記憶された飛行体制御ブログラムを実行することによって、飛行体システム100の飛行制御やリモコン200との情報通信などが実行される。
【0044】
この制御部160のハードウェアの一部または全部については、専用の装置、AI制御用の機械学習マシン、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、PLD(programmable logic device)などで代替してもよい。
【0045】
なお、制御部160の機能の一部または全部を、リモコン200に接続するモバイル型などのコンピュータシステムによって実現することも可能である。
【0046】
さらに、制御部160のハードウェアやプログラムの一部または全部を外部ネットワーク上のサーバに配置してクラウドシステムを構成することによって、複数のクライアントが所有する飛行体システム100のそれぞれに対してリモート接続して飛行体システム100の飛行制御や運用に係わるネットワークサービスをサービス提供してもよい。
【0047】
[2]実施例1の動作
【0048】
<回転駆動体140a~dのマグヌス効果>
飛行体システム100の動作説明に先立って、回転駆動体140a~dのマグヌス効果について原理的な説明を行う。
なお、回転駆動体140a~dそれぞれのマグヌス効果は原理的に同様であるため、ここでは回転駆動体140aについて代表的に説明する。
【0049】
図5は、回転駆動体140aのマグヌス効果を説明する図である。なお、図5では、説明を簡明にするために下降流がすべて層流からなる理想的なケースについて示すが、部分的に乱流が生じてもマグヌス効果は発生する。
【0050】
同図に示すように、回転駆動体140aは、浮上用駆動部120aである回転翼122aの下側(空気の吹き出し側)または上側(空気の吸い込み側)に配置されることによって、浮上用駆動部120aが発生する空気の下降流の中に置かれる。
【0051】
回転駆動体140aである筒状体142aが回転しない状態では、この下降流は、回転駆動体140aの前方および後方に沿って等しく迂回するため、回転駆動体140aにはマグヌス効果は作用せず、推力は発生しない。
【0052】
一方、図5に示すように回転駆動体140a(筒状体142a)が時計回りに回転すると、回転速度と空気の粘性に応じて回転駆動体140aの付近に時計回りの空気の循環が生じる。この空気の循環が下降流に加わることによって、回転駆動体140aの前方および後方の流れには図5に示すような偏りが生じる。その結果、回転駆動体140aの前方の圧力は低くなり、回転駆動体140aの後方の圧力は高くなる。このような前後の圧力差によって、回転駆動体140aには前方に働く推力Faが発生する。
【0053】
一方、回転駆動体140a(筒状体142a)が反時計回りに回転すると、回転速度と空気の粘性に応じて回転駆動体140aの付近に反時計回りの空気の循環が生じる。この空気の循環が下降流に加わることによって、回転駆動体140aの前方および後方の流れには図5とは逆の偏りが生じる。その結果、回転駆動体140aの前方の圧力は高くなり、回転駆動体140aの後方の圧力は低くなる。このような前後の圧力差によって、回転駆動体140aには後方に働く推力Faが発生する。
【0054】
なお、上述の推力Faの大きさは、下降流の速度(回転翼122aの回転速度に関係)と、循環(回転駆動体140aの回転速度に関係)との両方に比例することが知られている(クッタ・ジューコフスキーの定理)。したがって、回転翼122aの回転速度の制御と、回転駆動体140aの回転速度の制御(増速・減速・断続など)によって、推力Faの大きさを適度にコントロールすることが可能になる。
【0055】
また、下降流と接触する筒状体142a(回転駆動体140a)の表面にディンプルなどの表面粗さを加えることによって臨界レイノルズ数を下げて、回転駆動体140aの前後を流れる層流の剥離点を遠ざけてもよい。この場合、マグヌス効果の生じる範囲が拡大するため、マグヌス効果による推力Faの発生効率を高めることが可能になる。
【0056】
<マグヌス効果を用いた各種の推進動作>
以下、機体110の各種向きの推進動作について、図6図11を用いて個別に説明する。なお、図6図11の説明において「右」「左」「前」「後」「時計回り」「反時計回り」は、機体110を真上から見た向きとする
【0057】
1.機体110の前進移動
図6は、マグヌス効果を用いた前進動作を説明する図である。
以下、図6に示す機体110を前進(前方に推進動作)させる動作について、図1~4で説明した各部構成と符号を参照しながら説明する。
【0058】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方左斜め向きの回転駆動体140a(筒状体142a)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140aが回転翼122aの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方右斜め向きの推力Faが回転駆動体140aに生じる。
【0059】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方右斜め向きの回転駆動体140b(筒状体142b)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140bが回転翼122bの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方左斜め向きの推力Fbが回転駆動体140bに生じる。
【0060】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方左斜め向きの回転駆動体140c(筒状体142c)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140cが回転翼122cの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方左斜め向きの推力Fcが回転駆動体140cに生じる。
【0061】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方右斜め向きの回転駆動体140d(筒状体142d)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140dが回転翼122dの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方右斜め向きの推力Fdが回転駆動体140dに生じる。
【0062】
4つの回転駆動体140a~dに作用する推力Fa~dが同時に発生することによって、左右の向きの力成分は互いに打ち消され、機体110には前方のみに向かう4つの力成分が合成され、前向きの推進力FF(合力)が発生する。
この推進力FFによって、機体110は前方に推進する。
【0063】
2.機体110の後進移動
図7は、マグヌス効果を用いた後進動作を説明する図である。
以下、図7に示す機体110を後進(後方に推進動作)させる動作について、図1~4で説明した各部構成と符号を参照しながら説明する。
【0064】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方左斜め向きの回転駆動体140a(筒状体142a)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140aが回転翼122aの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方左斜め向きの推力Faが回転駆動体140aに生じる。
【0065】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方右斜め向きの回転駆動体140b(筒状体142b)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140bが回転翼122bの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方右斜め向きの推力Fbが回転駆動体140bに生じる。
【0066】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方左斜め向きの回転駆動体140c(筒状体142c)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140cが回転翼122cの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方右斜め向きの推力Fcが回転駆動体140cに生じる。
【0067】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方右斜め向きの回転駆動体140d(筒状体142d)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140dが回転翼122dの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方左斜め向きの推力Fdが回転駆動体140dに生じる。
【0068】
4つの回転駆動体140a~dに作用する推力Fa~dが同時に発生することによって、左右の向きの力成分は互いに打ち消され、機体110には後方のみに向かう4つの力成分が合成され、後ろ向きの推進力FF(合力)が発生する。
この推進力FFによって、機体110は後方に推進する。
【0069】
3.機体110の右進移動
図8は、マグヌス効果を用いた右進動作を説明する図である。
以下、図8に示す機体110を右進(右方に推進動作)させる動作について、図1~4で説明した各部構成と符号を参照しながら説明する。
【0070】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方左斜め向きの回転駆動体140a(筒状体142a)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140aが回転翼122aの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方右斜め向きの推力Faが回転駆動体140aに生じる。
【0071】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方右斜め向きの回転駆動体140b(筒状体142b)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140bが回転翼122bの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方右斜め向きの推力Fbが回転駆動体140bに生じる。
【0072】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方左斜め向きの回転駆動体140c(筒状体142c)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140cが回転翼122cの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方右斜め向きの推力Fcが回転駆動体140cに生じる。
【0073】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方右斜め向きの回転駆動体140d(筒状体142d)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140dが回転翼122dの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方右斜め向きの推力Fdが回転駆動体140dに生じる。
【0074】
4つの回転駆動体140a~dに作用する推力Fa~dが同時に発生することによって、前後の向きの力成分は互いに打ち消され、機体110には右方のみに向かう4つの力成分が合成され、右向きの推進力FF(合力)が発生する。
この推進力FFによって、機体110は右方に推進する。
【0075】
4.機体110の左進移動
図9は、マグヌス効果を用いた左進動作を説明する図である。
以下、図9に示す機体110を左進(左方に推進動作)させる動作について、図1~4で説明した各部構成と符号を参照しながら説明する。
【0076】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方左斜め向きの回転駆動体140a(筒状体142a)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140aが回転翼122aの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方左斜め向きの推力Faが回転駆動体140aに生じる。
【0077】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方右斜め向きの回転駆動体140b(筒状体142b)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140bが回転翼122bの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方左斜め向きの推力Fbが回転駆動体140bに生じる。
【0078】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方左斜め向きの回転駆動体140c(筒状体142c)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140cが回転翼122cの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方左斜め向きの推力Fcが回転駆動体140cに生じる。
【0079】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方右斜め向きの回転駆動体140d(筒状体142d)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140dが回転翼122dの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方左斜め向きの推力Fdが回転駆動体140dに生じる。
【0080】
4つの回転駆動体140a~dに作用する推力Fa~dが同時に発生することによって、前後の向きの力成分は互いに打ち消され、機体110には左方のみに向かう4つの力成分が合成され、左向きの推進力FF(合力)が発生する。
この推進力FFによって、機体110は左方に推進する。
【0081】
5.機体110の反時計回りの旋回
図10は、マグヌス効果を用いた反時計回りの旋回を説明する図である。
以下、図10に示す機体110を水平に反時計回りさせる動作について、図1~4で説明した各部構成と符号を参照しながら説明する。
【0082】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方左斜め向きの回転駆動体140a(筒状体142a)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140aが回転翼122aの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方左斜め向きの推力Faが回転駆動体140aに生じる。
【0083】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方右斜め向きの回転駆動体140b(筒状体142b)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140bが回転翼122bの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方左斜め向きの推力Fbが回転駆動体140bに生じる。
【0084】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方左斜め向きの回転駆動体140c(筒状体142c)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140cが回転翼122cの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方右斜め向きの推力Fcが回転駆動体140cに生じる。
【0085】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方右斜め向きの回転駆動体140d(筒状体142d)を機体110側から見て反時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140dが回転翼122dの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方右斜め向きの推力Fdが回転駆動体140dに生じる。
【0086】
4つの回転駆動体140a~dに作用する推力Fa~dが同時に発生することによって、放射方向の力成分は互いに打ち消され、機体110には4つの周方向の力成分が合成され、反時計回りの推進力FF(合力)が発生する。
この推進力FFによって、機体110は反時計回りに水平旋回する。
【0087】
6.機体110の時計回りの旋回
図11は、マグヌス効果を用いた時計回りの旋回を説明する図である。
以下、図11に示す機体110を水平に時計回りさせる動作について、図1~4で説明した各部構成と符号を参照しながら説明する。
【0088】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方左斜め向きの回転駆動体140a(筒状体142a)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140aが回転翼122aの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方右斜め向きの推力Faが回転駆動体140aに生じる。
【0089】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が前方右斜め向きの回転駆動体140b(筒状体142b)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140bが回転翼122bの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方右斜め向きの推力Fbが回転駆動体140bに生じる。
【0090】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方左斜め向きの回転駆動体140c(筒状体142c)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140cが回転翼122cの下降流を受けることによって、回転軸と直交する前方左斜め向きの推力Fcが回転駆動体140cに生じる。
【0091】
制御部160は、マグヌス制御回路158を介して、回転軸が後方右斜め向きの回転駆動体140d(筒状体142d)を機体110側から見て時計回りに回転駆動する。この回転駆動体140dが回転翼122dの下降流を受けることによって、回転軸と直交する後方左斜め向きの推力Fdが回転駆動体140dに生じる。
【0092】
4つの回転駆動体140a~dに作用する推力Fa~dが同時に発生することによって、放射方向の力成分は互いに打ち消され、機体110には4つの周方向の力成分が合成され、時計回りの推進力FF(合力)が発生する。
この推進力FFによって、機体110は時計回りに水平旋回する。
【0093】
<制御部160による飛行体制御ブログラムの説明>
図12は、飛行体制御プログラムによって実施される制御モードを説明する図である。
以下、図12に示すステップ番号に沿って、制御部160(コンピュータシステム)が実行する飛行体制御ブログラムの制御モードについて説明する。
【0094】
ステップS01: 制御部160は、飛行体システム100に現在設定されている制御モードを判定する。制御モードが「所定の姿勢を保持しつつ推進する制御モード」である場合、制御部160はステップS02に動作を移行する。それ以外の制御モードである場合、制御部160は、それ以外の制御モードの動作へ移行する。
【0095】
ステップS02: 制御部160は、機体110の姿勢制御を開始(既に開始している場合は継続)する。すなわち、制御部160は、姿勢センサ152から機体110の検出姿勢をサンプリングする。制御部160は、機体110の検出姿勢と所定の姿勢との差を補正するように、浮上モータ124a~dの回転速度(揚力)と回転速度比(揚力比)に関する制御情報を決定する。浮上制御回路157は、制御部160の決定した制御情報に基づいて浮上モータ124a~dの回転速度(揚力)と回転速度比を駆動制御し、機体110の所定の姿勢を所定の許容範囲内に保持する。
以下では、「所定の姿勢」の一例として、「水平姿勢」の場合について説明する。
【0096】
ステップS03: 制御部160は、位置検出部153から機体110の位置情報(3次元座標)を情報取得する。さらに、制御部160は、姿勢センサ152から機体110の向き情報(方位)をサンプリングする。
【0097】
ステップS04: 制御部160は、飛行体システム100に現在設定されている制御モードが、遠隔操作または自律飛行のいずれかを判定する。遠隔操作と判定された場合、制御部160はステップS05に動作を移行する。一方、自律飛行と判定された場合、制御部160はステップS06に動作を移行する。
【0098】
ステップS05: 制御部160は、リモコン通信部154を介して、リモコン200から飛行体システム100の遠隔操作に関する情報を取得する。制御部160は、ステップS03でサンプリングされた機体110の位置および向きと、リモコン200から受信する遠隔操作の情報とに基づいて、機体110の次の位置(経路)と向きを決定する。この動作の後に、制御部160は、ステップS07に動作を移行する。
【0099】
ステップS06: 制御部160は、地図データベース155および/または構造物データベース156に定義される飛行すべき空間座標のデータ群と、ステップS03でサンプリングされた機体110の位置および向きと、さらに予め定められた機体110の移動ルール(安全に飛行するためのルールなど)とに基づいて、機体110の次の位置(経路)と向きを決定する。この動作の後に、制御部160は、ステップS07に動作を移行する。
【0100】
ステップS07: 制御部160は、機体110の次の位置(経路)と向きに基づいて、機体110の移動方向(前進・後進・右進・左進・反時計回り・時計回りなど)とその移動速度を決定する。制御部160は、機体110の移動方向(前進・後進・右進・左進・反時計回り・時計回りなど)に応じて、図6図11で説明したように、複数の回転駆動体140a~dそれぞれの回転方向を決定する。さらに、制御部160は、機体110の移動速度に応じて、複数の回転駆動体140a~dそれぞれの回転速度を決定する。制御部160は、このように決定された複数の回転駆動体140a~dそれぞれの回転方向および回転速度を制御情報としてマグヌス制御回路158に伝達する。マグヌス制御回路158は、伝達される制御情報に基づいてマグヌス駆動部144a~dそれぞれの回転方向および回転速度を駆動制御し、機体110を次の位置(経路)および向きへ移動させる。
【0101】
このような一連のステップS01~07を繰り返すことによって、飛行体制御ブログラムは、制御部160(コンピュータシステム)に、機体110の水平姿勢を保持しつつ機体110を推進させる制御モードを実行させる。
【0102】
[3]実施例1の効果
以下、実施例1の各種効果について説明する。
【0103】
(1)本実施例1では、浮上用駆動部120a~dが発生する下降流を受けながら回転駆動される回転駆動体140a~dを備える。この回転駆動体140a~dと下降流との間にはマグヌス効果による推力が発生する。
このように本実施例1は、「回転駆動体140a~d」と「浮上用駆動部120a~dの下降流」との間に作用するマグヌス効果によって推力を発生させるという新たな推力発生機構を備えるという点で優れている。
【0104】
(2)本実施例1では、回転翼122a~d(浮上用駆動部120a~d)による揚力発生機構とは独立して、マグヌス効果による推力発生機構を別途備える。そのため、回転翼122a~d(浮上用駆動部120a~d)を傾斜させて推力を発生させる必要なく、機体110は推進する。
したがって、本実施例1は、機体110を傾ける必要なく、回転駆動体140a~dのマグヌス効果によって機体110の推進動作が実現するという点で優れている。
【0105】
(3)本実施例1では、回転翼122a~dを延設する支持アーム130a~dに対して、回転駆動体140a~dを設ける。そのため、回転駆動体140a~dを回転翼122a~d(浮上用駆動部120a~d)に近づけて配置することが可能になる。その結果、回転駆動体140a~dは、浮上用駆動部120a~dの近くで下降流を多く受けることが可能になり、マグヌス効果の効率が向上する。
したがって、本実施例1は、回転駆動体140a~dを支持アーム130a~dに設けることによって、浮上用駆動部120a~dの近くで下降流を多く受けてマグヌス効果の効率が向上するという点で優れている。
【0106】
(4)本実施例1では、橋脚や送電タワーなどの構造物に飛行体を接近させて劣化状況を検出する用途において、機体110の水平姿勢を所定の許容範囲内に保持したまま推進動作を実現できる。そのため、機体110を傾けることを前提に、回転翼122a~dの上端や下端が構造物と接触しないよう垂直方向に距離を置くなどの必要がなくなる。
したがって、本実施例1は、構造物に対してなるべく接近して構造物の劣化を検出できるという点で優れている。
【0107】
(5)また、本実施例1では、機体110の上側または下側に運搬品や機器などの重量物を搭載する用途において、機体110を傾けずに推進動作を実現することができる。そのため、機体110の鉛直線上から重量物の重心がさほどずれない。(鉛直は非慣性系の見かけの力を含む場合もある。)
したがって、実施例1は、傾斜させた重量物の大きな重心ずれによって機体110の姿勢制御が不安定になるなどの不測の事態を回避できるという点で優れている。
【0108】
(6)本実施例1では、重量物を搭載した状態で水平姿勢を保持したまま推進動作を実現する。
したがって、本実施例1は、重量物を搭載した状態での推進動作に際して、重量物を傾斜させ続ける必要がなく、そのためのパワー消費が不要になるという点で優れている。
【0109】
(7)本実施例1では、飛行体に撮影装置を搭載して空中撮影を行うなどの用途において、機体110を傾けずに推進しながら撮影を行うことができる。
したがって、本実施例1は、撮影装置の撮影アングルはさほど傾斜しないという点で優れている。また、本実施例1は、ジンバル付き撮影装置において傾き補正に大きな補正角度が不要になるという点でも優れている。
【0110】
(8)本実施例1では、機体110を水平姿勢に保持したままで推進動作を実現する。
したがって、本実施例1では、推進動作や向かい風に際して機体110に当たる空気の断面積が小さく、空気の抗力が小さくなる。
したがって、本実施例1は、空気の抗力が小さい水平姿勢を維持できるため、高速または長距離の推進動作においてパワー消費が低くなるという点で優れている。
【0111】
(9)先に述べた特許文献1の技術では、推進する飛行体は進行方向に対して機首下げした傾斜姿勢になる。この機首下げによる下降力を揚力によって打ち消すために飛行体は回転翼の回転数を全体的に高めなければならず、パワー消費が大きくなるという問題点があった。
しかしながら、実施例1では、推進動作時に機体110の水平姿勢を保持できるため、機首下げによる下降力は生じない。したがって、実施例1は、機首下げによる下降力を打ち消すためのパワー消費が不要になるという点で優れている。
【0112】
(10)先に述べた特許文献1の技術では、飛行体を傾斜させてから推進動作が開始するため、推進動作を瞬時に開始したり、飛行体を水平に戻してホバリングに瞬時に移行したりすることができないという問題点があった。
しかしながら、本実施例1では、傾斜姿勢に移行することなく、回転駆動体140a~dの回転駆動のみで推進動作を実現する。したがって、本実施例1は、傾斜姿勢への移行時間を省いて、推進動作を瞬時に開始したり、推進動作を瞬時に停止したりできるという点で優れている。
【0113】
(11)先に述べた特許文献1の技術では、空中静止中の飛行体が横から突風を受けた場合、傾斜姿勢に移行して突風に対峙する推力を発生させる必要があった。しかしながら、飛行体の傾斜姿勢への移行には時間がかかるため、その間に飛行体が突風によって横に流されてしまうという問題点があった。
しかしながら、本実施例1では、傾斜姿勢に移行することなく、回転駆動体140a~dの推力によって突風に即座に対処することができる。したがって、本実施例1は、空中静止中に機体110が横から突風を受けても、機体110が突風によって流されにくいという点で優れている。
【0114】
(12)本実施例1では、回転駆動体140a~dは、支持アーム130a~dの外側面を覆う筒状体142a~dと、筒状体142a~dの回転速度と回転方向を変更することによって推力を制御するマグヌス駆動部144a~dとを備える。
このような筒状体142a~dは、肉厚が薄い分だけ慣性モーメントが小さく、マグヌス駆動部144a~dの回転駆動のトルクを小さく抑えることが可能になる。
そのため、本実施例1は、筒状体142a~dの肉厚が薄い分だけ、マグヌス効果による推力発生に必要なパワー消費を節約できるという点で優れている。
【0115】
(13)本実施例1では、筒状体142a~dの肉厚が薄い分だけ慣性モーメントが小さくなる。そのため、マグヌス駆動部144a~dは筒状体142a~dの回転を瞬時に開始または停止することが可能になる。
そのため、本実施例1は、筒状体142a~dの肉厚が薄い分だけ、マグヌス効果による推力を瞬時に発生または停止できるという点で優れている。
【0116】
(14)本実施例1は、筒状体142a~dの肉厚が薄い分だけ慣性モーメントが小さくなる。そのため、筒状体142a~dの回転駆動時に反対回りに生じる反トルクは小さくなる。
そのため、本実施例1は、筒状体142a~dの肉厚が薄い分だけ、回転駆動時の反トルクが小さいという点で優れている。
【0117】
(15)本実施例1では、浮上用駆動部120a~dおよび支持アーム130a~dをそれぞれ4つ有し、回転駆動体140a~dは、延設方向の互いに異なる支持アーム130a~dの4つにそれぞれ設けられる。そのため、図6図11において説明したように、回転軸の延設方向が互いに異なる回転駆動体140a~dに作用するマグヌス効果の合力によって、機体110を前後左右に推進させたり、時計回りや反時計回りに機体110を旋回させたりすることが可能になる。
したがって、本実施例1は、複数の回転駆動体140a~dによる推力Fa~dの組み合わせによって、機体110の推進方向や旋回方向をコントロールできるという点で優れている。
【0118】
(16)本実施例1では、図6図9に示したように、前側の回転駆動体140a、bの回転軸間の角度を鈍角にし、後ろ側の回転駆動体140c、dの回転軸間の角度も鈍角にする。そのため、前後方向の推進力FFは、左右方向の推進力FFに比べて、合成される力成分が大きくなる。
したがって、本実施例1は、複数の回転駆動体140の回転軸の広がり方を前後方向に扁平させることによって、前後方向の高速移動を実現し、かつ左右方向には微細で精密な移動を実現するという点で優れている。(なお、実際の運用では、機体110を旋回させることによって、所望する進行方向を前後方向に合わせる。したがって、本実施例1は、所望する進行方向について高速移動が実現する。)
【0119】
(17)本実施例1では、下降流と接触する筒状体142a(回転駆動体140a)の表面にディンプルなどの表面粗さを加えることによって臨界レイノルズ数を下げる。そのため、回転駆動体140aの前後を流れる層流の剥離点が遠ざかってマグヌス効果の生じる範囲が拡大する。その結果、マグヌス効果による推力Faの発生効率を高めることが可能になる。
したがって、本実施例1は、筒状体142a(回転駆動体140a)の表面にディンプルなどの表面粗さを加えることによって、マグヌス効果による推力Faの発生効率を高めるという点で優れている。
【0120】
[4]実施形態の補足事項
なお、上述した実施形態では、4つの浮上用駆動部120a~dを有する飛行体システム100について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、少なくとも2つ以上の浮上用駆動部120を有する飛行体システム100(例えば、オスプレイのように固定翼を支持アーム130とする浮上型飛行機も含む)に対して本発明を適用することも可能である。
【0121】
また、上述した実施形態では、4つの支持アーム130a~dの全部に、回転駆動体140a~dを備えるケースについて説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、多数の支持アーム130の一部のみに回転駆動体140を設け、残りの支持アーム130には回転駆動体140を設けないようにしてもよい。
【0122】
さらに、上述した実施形態では、回転翼方式の浮上用駆動部120a~dについて説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。浮上用駆動部120は、機体110を浮上させ、かつ下降流を発生するものであればよい。例えば、浮上用駆動部120として、圧縮空気を蓄積または生成して噴射する機構や、ジェットエンジンなどを採用してもよい。
【0123】
また、上述した実施形態では、支持アーム130a~dの外側面のほぼ全域を覆うように筒状体142a~dを設けている。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、浮上用駆動部120が発生する下降流を受ける支持アーム130の一部に限って筒状体142を部分的に設けてもよい。また例えば、支持アーム130を浮上モータ124のさらに先まで延長し、その支持アーム130の延長部分(浮上用駆動部120の下降流を受ける箇所)に回転駆動体140(筒状体142)を設けてもよい。
【0124】
さらに、上述した実施形態では、浮上用駆動部120a~dの下側に回転駆動体140a~dを配置するケースについて説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。浮上用駆動部120の上側に支持アーム130および回転駆動体140を配置して、浮上用駆動部120に吸い込まれる下降流を回転駆動体140で受けてもよい。
【0125】
また、上述した実施形態では、回転駆動体140a~dのマグヌス効果のみを機体110の推力に使用するケースについて説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。本発明に対して、特許文献1の推進機構を選択または併用することによって、機体110の推進動作のバリエーションを増やしてもよい。また、本発明に対して、従来の旋回機構(正回転する回転翼122a,122dと、逆回転する回転翼122b,122cにおいて、両者の回転速度を相対的にずらすことによって、回転翼122a~dの反トルクの差分によって機体110を時計回り/反時計回りに旋回させる機構)を選択または併用してもよい。
【0126】
さらに、上述した実施形態では、回転駆動体140a~dに作用するマグヌス効果の合力によって前後左右の4方位に移動するケースについて説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。回転駆動体140の数を増やして合力のバリエーションを増やすことによって、4方位以外の方向に移動してもよい。また、回転駆動体140それぞれの推力を時分割(ジグザグ)または連続的に切り替えることによって、4方位以外の方向に移動してもよい。さらに、回転駆動体140a~dの一部のみを選択的に回転させることによって、4方位以外の方向に移動してもよい。
【0127】
また、上述した実施形態では、真っ直ぐな支持アーム130a~dに対して回転駆動体140a~dを真っ直ぐに配置するケースについて説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、支持アーム130を所望の方向に曲げ、その所望の方向に回転駆動体140の回転軸を配置してもよい。また、支持アーム130の一部として分岐アームを下降流を受ける位置に追加し、その分岐アームに回転駆動体140を設けてもよい。このような構造によって、回転駆動体140から生じる推力の方向について、設計上の自由度を高めることができる。
【0128】
さらに、上述した実施形態では、回転駆動体140a~dの回転軸を等角度(4つの場合は直角)に配置しないケースについて説明した(図6図11参照)。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、回転駆動体140それぞれの回転軸を等角度(4つの場合は直角)に配置してもよい。この場合は、各方位について合力の大きさを等しくすることができる。
【0129】
また、上述した実施形態では、機体110が鉛直方向に対して水平姿勢を保持しつつ、鉛直に直交する水平方向に推進移動するケースについて代表的に説明した。しかしながら、本発明の回転駆動体140による推力の用途はこれに限定されない。例えば、「機体110が所定の傾斜姿勢を維持する状態」または「任意の傾斜移行中」において、飛行体の座標系から見た水平方向(すなわち機体110の直交軸の上から見た前・後・左・右・時計回り・反時計回り)に急に動くことも可能である。
【0130】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。
例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は必ずしも説明したすべての構成やステップを備えるものに限定されない。
また、実施例の一部について、他の構成やステップの追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0131】
100…飛行体システム、110…機体、120a~d…浮上用駆動部、122a~d…回転翼、124a~d…浮上モータ、130a~d…支持アーム、132…摺動部、140a~d…回転駆動体、142a~d…筒状体、144a~d…マグヌス駆動部、150…回路ユニット、152…姿勢センサ、153…位置検出部、154…リモコン通信部、155…地図データベース、156…構造物データベース、157…浮上制御回路、158…マグヌス制御回路、160…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2021-01-15
【手続補正4】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
前記機体を浮上させる複数の浮上用駆動部と、
前記機体から複数の前記浮上用駆動部を延設するための複数の支持アームと、
前記支持アームに設けられ、前記浮上用駆動部が発生する下降流を受ける位置で回転する回転駆動体とを備え、
前記下降流と前記回転駆動体との間に作用するマグヌス効果によって推力が発生する
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項2】
請求項1に記載の飛行体システムであって、
前記回転駆動体は、
前記支持アームの外側面の少なくとも一部を覆う筒状体と、
前記筒状体の回転速度と回転方向を変更することによって、前記推力を制御するマグヌス駆動部とを備える
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項3】
請求項1~2のいずれか一項に記載の飛行体システムであって、
前記回転駆動体は、延設方向の互いに異なる前記支持アームにそれぞれ設けられ、
複数の前記回転駆動体に作用する推力の組み合わせによって、前記機体の推進または旋回の方向を変更する
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項4】
請求項3に記載の飛行体システムであって、
複数の前記回転駆動体は、前記機体を真上から見た回転軸の広がり方が前後方向に扁平する
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の飛行体システムであって、
前記回転駆動体に作用するマグヌス効果によって、前記機体の水平姿勢を保持しつつ前記機体を推進させる制御モードを有する制御部
を備えることを特徴とする飛行体システム。
【請求項6】
コンピュータシステムを、請求項5に記載の前記制御部として機能させるための飛行体制御プログラムであって、
前記コンピュータシステムに、前記回転駆動体に作用するマグヌス効果によって、前記機体の水平姿勢を保持しつつ前記機体を推進させる制御モードを実行させる
ことを特徴とする飛行体制御プログラム。
【手続補正書】
【提出日】2021-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
前記機体の周囲に分散して配置され、前記機体を浮上させる複数の浮上用駆動部と、
前記機体から複数の前記浮上用駆動部を周囲に延設するための複数の支持アームと、
前記支持アームに設けられ、前記浮上用駆動部が発生する下降流を受ける位置で前記支持アームの方向を回転軸にして回転する回転駆動体とを備え、
前記下降流と前記回転駆動体との間に作用するマグヌス効果によって推力が発生する
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項2】
請求項1に記載の飛行体システムであって、
前記回転駆動体は、
前記支持アームの外側面の少なくとも一部を覆う筒状体と、
前記筒状体の回転速度と回転方向を変更することによって、前記推力を制御するマグヌス駆動部とを備える
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項3】
請求項1~2のいずれか一項に記載の飛行体システムであって、
前記回転駆動体は、延設方向の互いに異なる前記支持アームにそれぞれ設けられ、
複数の前記回転駆動体に作用する前記推力の組み合わせによって、前記機体の推進または旋回の方向を変更する
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項4】
請求項3に記載の飛行体システムであって、
複数の前記回転駆動体は、前記機体を真上から見た回転軸の広がり方が前後方向に扁平する
ことを特徴とする飛行体システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の飛行体システムであって、
前記回転駆動体に作用するマグヌス効果によって、前記機体の水平姿勢を保持しつつ前記機体を推進させる制御モードを有する制御部
を備えることを特徴とする飛行体システム。
【請求項6】
コンピュータシステムを、請求項5に記載の前記制御部として機能させるための飛行体制御プログラムであって、
前記コンピュータシステムに、前記回転駆動体に作用するマグヌス効果によって、前記機体の水平姿勢を保持しつつ前記機体を推進させる制御モードを実行させる
ことを特徴とする飛行体制御プログラム。