(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107559
(43)【公開日】2022-07-22
(54)【発明の名称】胸腹水処理システムおよびその洗浄法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20220714BHJP
【FI】
A61M1/00 190
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002479
(22)【出願日】2021-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】720011450
【氏名又は名称】岡久 稔也
(72)【発明者】
【氏名】岡久 稔也
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA18
4C077AA20
4C077BB02
4C077DD07
4C077DD12
4C077DD26
4C077EE04
4C077GG12
4C077HH06
4C077HH13
4C077LL07
(57)【要約】
【課題】中空糸膜を破損することなく効果的に濾過器を洗浄でき、大量の胸腹水を短時間で処理することが可能な胸腹水処理システムを提供する。
【解決手段】胸腹水を外圧式濾過法により濾過濃縮するシステムであって、濾過器10と、濃縮器20と、胸腹水供給流路2と、濾過液排出流路3と、濃縮液排出流路4と、濃縮廃液排出経路5と、洗浄液供給流路6と、洗浄廃液排出流路7と、圧力計測経路を備えており、濾過液の一時貯留バッグを備えていてもよく、洗浄廃液排出口が胸腹水供給口11aと同じ、および/または洗浄液供給口が濾過液排出口11bと同じ、および/または洗浄廃液排出口が洗浄液供給口から近い濾過器周壁の中空糸膜外側腔と連通するポートおよび/または濾過器周壁の2ヶ所のポートであり、濾過器洗浄を行う際に、濾過器中空糸膜の膜間差圧に基づいて各送液部の作動を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸状の濾過部材を備え、中空糸の外側から内側に向けて、胸腹水を流して濾過し、特定の物質を選択的に除去する筒状の濾過器と、
該濾過器で濾過された胸腹水を濃縮する濃縮器と、
を備え、
前記濾過器は、中空糸の外側に胸腹水を供給する胸腹水供給流路を接続する胸腹水供給口と、
前記中空糸の内側の濾過した胸腹水を排出する濾過液排出流路を接続する濾過液排出口と、
前記濾過器の中空糸膜の洗浄時に洗浄液を供給する洗浄液供給流路を接続する洗浄液供給口と、
前記中空糸膜によって選択的に除去された物質を前記洗浄時に前記洗浄液とともに排出する洗浄廃液排出流路を接続する洗浄廃液排出口とを有し、
前記胸腹水供給口および前記洗浄廃液排出口は、前記中空糸膜の外側腔と連通し、前記濾過器の周壁の、前記中空糸膜の長軸方向とほぼ直交する向きに延びる貫通孔からなり、
前記濾過液排出口および前記洗浄液供給口は、前記中空糸膜の内側腔と連通し、前記濾過器の両端面の、前記中空糸膜の長軸方向に延びる貫通孔からなり、
前記濾過器の洗浄時に前記中空糸膜の内側腔に加わる圧力を測定するための圧力計測用経路を有する
胸腹水処理システム。
【請求項2】
前記濾過器によって濾過された胸腹水が、
濃縮前に一時的に貯留される濾過液貯留バッグを有する
ことを特徴とする請求項1記載の胸腹水処理システム。
【請求項3】
前記洗浄廃液排出口は、
前記胸腹水供給口と同じである
ことを特徴とする請求項1または2記載の胸腹水処理システム。
【請求項4】
前記洗浄液供給口は、
前記濾過液排出口と同じである
ことを特徴とする請求項1または2記載の胸腹水処理システム。
【請求項5】
前記洗浄廃液排出口は、
前記濾過器の周壁の他の貫通孔よりも、前記洗浄液供給口と近い位置にある
ことを特徴とする請求項1または2記載の胸腹水処理システム。
【請求項6】
前記洗浄廃液排出口は、
前記濾過器の周壁の両端側の両方の、前記中空糸膜の長軸方向とほぼ直交する向きに延びる貫通孔からなる
ことを特徴とする請求項1または2記載の胸腹水処理システム。
【請求項7】
前記洗浄廃液排出流路の一方または両方に
送液部を設ける
ことを特徴とする請求項6記載の胸腹水処理システム。
【請求項8】
前記洗浄時に
前記洗浄液供給路の送液部を制御し、
前記濾過器の中空糸膜に加わる圧力を設定範囲内にする
ことを特徴とする請求項1から7記載の胸腹水処理システムの洗浄方法。
【請求項9】
前記洗浄時に
前記洗浄廃液排出流路の送液部を制御し、
前記濾過器の中空糸膜に加わる圧力を設定範囲内にする
ことを特徴とする請求項1から8記載の胸腹水処理システムの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝硬変や癌性胸腹膜炎などの患者から採取した胸水または腹水(以下、胸腹水)から、濾過器によって有害物質を除去し、濃縮器によって過剰な水分を除去して濃縮し、点滴静注するための回収液を作成する胸腹水処理システム、および、前記濾過器を洗浄する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝硬変、癌性腹膜炎などによって生じる難治性胸腹水に対し、腹水中の細菌や癌細胞などの有害物質や血球成分(白血球、赤血球、血小板)などを濾過器によって除去し、濾過された胸腹水(以後、濾過液)を濃縮器によって濾過して濃縮し、回収液に含まれる蛋白質(アルブミンやグロブリンなど)などの有用物質を患者に自己再利用する腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy;CART)が行われている。CART施行時には、胸腹水を濾過濃縮処理するために、前記濾過器および前記濃縮器に、送液用ポンプや吸引装置などによって、胸腹水を送液するとともに濾過膜に圧力を加え、圧力勾配による限外濾過作用を利用して濾過や濃縮を行い、胸腹水の回収を行う(特許文献1及び2)。
【0003】
濾過器の中空糸膜の外側腔から内側腔に向けて胸腹水を流す外圧式濾過法は、中空糸膜の外側の表面積が内側に比べて大きいことや、中空糸膜外側腔の体積が内側腔に比べて大きいことなどの理由によって、中空糸膜の外側腔から内側腔に向けて胸腹水を流す内圧式濾過法に比べて、濾過器の目詰まりを起こしにくい。
【0004】
しかし、外圧式濾過法を行っても、濾過器の中空糸膜の外側面や外側腔に癌細胞、細菌、血球、フィブリン、凝集塊などの目詰まり物質が付着し蓄積することによって、濾過膜の孔が閉塞され、大量の胸腹水を処理できない場合があった。
【0005】
上記のような外圧式濾過法で胸腹水の処理を行った際の濾過器の目詰まりに対して、濾過器の中空糸膜の内側腔に、前記濾過器の洗浄液供給口から生理食塩水を中空糸の内側腔に注入し、目詰まりの原因物質を洗浄廃液として洗浄廃液排出口から排出して、濾過器洗浄を行い、濾過濃縮処理を継続する胸腹水処理システムがある(特許文献3)。該胸腹水処理システムでは、前記胸腹水供給口は、前記濾過器の周壁の上流側部分に設けられた、前記中空糸膜の長軸方向とほぼ直交する向きに延びる貫通孔からなり、前記胸腹水排出口は、前記濾過器の下流端部に設けられた、前記中空糸膜の長軸方向に沿って延びる貫通孔からなり、前記洗浄液供給口は、前記胸腹水供給口とは別個に濾過器の下流端部に設けられた、前記中空糸膜の長軸方向に平行に延びる貫通孔からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5062631号公報
【特許文献2】特開2015-126763号公報
【特許文献3】特許5249973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の胸腹水処理システムでは、目詰まりを起こした濾過器の一回の洗浄時の目詰まり物質の除去効果が不十分であった。特に、濾過器の周壁の上流側部分に設けられた胸腹水供給口近くの部位は、注入された胸腹水の流れが乱れて濾過器の目詰まりの原因となる蛋白質やフィブリンなどの中空糸膜外側壁への付着や凝集塊の形成が起こりやすい部位であるが、濾過器洗浄時の洗浄液が周壁の下流側部分に設けられた洗浄廃液排出口から排出される回路構成のため、目詰まり物質の洗浄による除去が困難であった。このため、濾過濃縮の途中で濾過器の目詰まりが頻回に生じて生理食塩水による洗浄が必要となって濾過濃縮に時間がかかる場合や、採取した全量の胸腹水を処理できずに処理を中止せざるを得ない場合があった。また、頻回の洗浄によって濾過器内の胸腹水が洗浄廃液となって失われ、蛋白質などの有効成分の回収率が低くなることが課題であった。さらに、洗浄効果を高めるために中空糸膜の耐圧基準を超える過剰な圧力を加える洗浄が行われて中空糸膜が破損し、癌細胞や細菌などの有害物質が、回収液に混じって患者に点滴される危険性があった。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑み、採取した大量の胸腹水を、処理を中止することなく、短時間で、中空糸の破損をきたすことなく安全に処理でき、しかも、有効成分の回収率を向上させることのできる胸腹水処理システムおよび濾過器の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の胸腹水処理システムは、胸腹水を濾過濃縮して回収液を形成する装置であって、中空糸状の濾過部材を備え、中空糸の外側から内側に向けて、胸腹水を流して濾過し、特定の物質を選択的に除去する濾過器と、該濾過器で濾過された胸腹水を濃縮する濃縮器と、を備え、前記濾過器は、前記中空糸の外側に胸腹水を供給する胸腹水供給流路を接続する胸腹水供給口と、前記中空糸の内側の濾過液を回収する胸腹水回収流路を接続する濾過液排出口と、前記濾過器の中空糸膜の洗浄時に洗浄液を供給する洗浄液供給流路を接続する洗浄液供給口と、前記中空糸膜によって選択的に除去された物質を前記洗浄時に前記洗浄液とともに排出する洗浄廃液排出流路を接続する洗浄廃液排出口と、を有し、前記胸腹水供給口および前記洗浄廃液排出口は、前記中空糸膜の外側腔と連通し、前記濾過器の周壁の、前記中空糸膜の長軸方向とほぼ直交する向きに延びる貫通孔からなり、前記濾過液排出口および前記洗浄液供給口は、前記中空糸膜の内側腔と連通し、前記濾過器の両端面の、前記中空糸膜の長軸方向に延びる貫通孔からなり、前記洗浄時に前記中空糸膜の内側腔に加わる圧力を測定するための圧力計測用経路を有することを特徴とする。
【0010】
第2発明の胸腹水処理システムは、前記濾過器によって濾過された胸腹水が、濃縮前に一時的に貯留される濾過液貯留バッグを有することを特徴とする。
【0011】
第3発明の胸腹水処理システムは、第1または第2発明において、前記洗浄廃液排出口は、前記胸腹水供給口と同じであることを特徴とする。
【0012】
第4発明の胸腹水処理システムは、第1または第2発明において、前記洗浄液供給口は、前記濾過液排出口と同じであることを特徴とする。
【0013】
第5発明の胸腹水処理システムは、第1または第2発明において、前記洗浄廃液排出口は、前記濾過器の周壁の他の貫通孔よりも、前記洗浄液供給口と近い位置にあることを特徴とする。
【0014】
第6発明の胸腹水処理システムは、第1または第2発明において、前記洗浄廃液排出口は、前記濾過器の周壁の両端側の両方の、前記中空糸膜の長軸方向とほぼ直交する向きに延びる貫通孔からなることを特徴とする。
【0015】
第7発明の胸腹水処理システムは、第6発明において、前記洗浄廃液排出流路の一方または両方に送液部を設けることを特徴とする。
【0016】
第8発明の胸腹水処理システムの洗浄法は、第1から第7発明において、前記洗浄時に前記洗浄液供給流路の送液部を制御し、前記濾過器の中空糸膜に加わる圧力を設定範囲内にすることを特徴とする。
【0017】
第9発明の胸腹水処理システムの洗浄法は、第1から第8発明において、前記洗浄時に前記洗浄廃液排出流路の送液部を制御し、前記濾過器の中空糸膜に加わる圧力を設定範囲内にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1発明によれば、外圧式濾過法で胸腹水を処理する際の濾過器洗浄時に、濾過器の中空糸膜に加わる圧力を測定することができ、耐圧を超えずに洗浄が行われていることの確認や、目詰まりの洗浄による改善状況を確認することができる。
第2発明によれば、濃縮器の目詰まりの状況に関係なく、濾過器による胸腹水の濾過を行うことができる。また、濾過器による濾過と、濃縮器による濃縮を別々に行うことも可能となる。これによって、濃縮器の目詰まりで濾過濃縮処理が中断し、その間に濾過前の胸腹水中にフィブリンなどの析出物が生じて濾過器の目詰まりが生じやすくなることを防ぐことができる。
第3発明によれば、濾過器の胸腹水供給口近くの中空糸膜外側面の付着物(癌細胞、細菌、蛋白質、フィブリン、血球成分など)を効果的に剥離し、周辺の中空糸膜外側腔や胸腹水供給口内に蓄積する凝集物(フィブリン塊、凝血塊など)も一緒に、効果的に除去できる。その結果、濾過器の効果的な洗浄を行うことができる。
第4発明によれば、濾過器の濾過液排出口近くの中空糸膜外側面の付着物(癌細胞、細菌、蛋白質、フィブリン、血球成分など)を効果的に剥離し、周辺の中空糸膜外側腔や胸腹水供給口内に蓄積する凝集物(フィブリン塊、凝血塊など)も一緒に、効果的に除去できる。その結果、濾過器の効果的な洗浄を行うことができる。
第5発明によれば、濾過器の洗浄液供給口近くの中空糸膜外側面の付着物(癌細胞、細菌、蛋白質、フィブリン、血球成分など)を効果的に剥離し、周辺の中空糸膜外側腔や胸腹水供給口内に蓄積する凝集物(フィブリン塊、凝血塊など)も一緒に、効果的に除去できる。その結果、濾過器の効果的な洗浄を行うことができる。
第6発明によれば、濾過器の中空糸膜外側腔の様々な部位の目詰まりに対して、効果的な洗浄を行うことができる。
第7発明によれば、濾過器の2ヶ所の洗浄廃液排出口から排液を行った際に生じる、目詰まりの弱い部位のみに洗浄液が流れ、目詰まりの強い部位に洗浄液が流れないことによって生じる洗浄効果の低下を防ぎ、中空糸膜の外側全体に洗浄液が行き渡り、目詰まり物質を効果的に除去できる。
第8発明によれば、濾過器の洗浄時に、中空糸膜に耐圧基準を超える圧力が加わって中空糸膜が破損することを防ぎ、一定の圧力をかけた洗浄を行うことができることによって、安全かつ効果的に濾過器を洗浄することができる。
第9発明によれば、濾過器の洗浄時に、中空糸膜に耐圧基準を超える圧力が加わって中空糸膜が破損することを防ぎ、一定の圧力をかけた洗浄を行うことができることによって、安全かつ効果的に濾過器を洗浄することができる。
このように、本発明の胸腹水処理システムおよび濾過器洗法を用いれば、濾過器の中空糸膜の破損をきたすことなく濾過器の効果的な洗浄が可能となり、濾過器の洗浄回数を減らすことができる。その結果、採取した大量の胸腹水を、処理を中止することなく、安全に短時間で処理でき、洗浄回数を減らすことによって有効成分の回収率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの回路図で濾過濃縮の説明図である。
【
図2】第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図3】第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの胸腹水供給口と洗浄廃液排出口の位置を変えた回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図4】第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの胸腹水供給口と洗浄廃液排出口と洗浄液供給口の位置を変えた回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図5】第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの胸腹水供給口の位置を変えた回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図6】第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの洗浄液供給口の位置を変えた回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図7】第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの洗浄廃液排出口の位置を変えた回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図8】第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの洗浄液供給口と洗浄廃液排出口の位置を変えた回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図10】濾過器洗浄による目詰まり物質除去原理の概略説明図である。
【
図11】第2実施形態の胸腹水処理システム2Aの回路図で濾過濃縮の説明図である。
【
図12】第2実施形態の胸腹水処理システム2Aの回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図13】第2実施形態の胸腹水処理システム2Aを用いて濾過濃縮と濾過器洗浄を行った際の膜間差圧の推移を示した図である。
【
図14】第2実施形態の胸腹水処理システム2Aの胸腹水供給口の位置を変えた回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図15】第2実施形態の胸腹水処理システム2Aの胸腹水供給口と洗浄液供給口の位置を変えた回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図16】第2実施形態の胸腹水処理システム2Aの洗浄液供給口の位置を変えた回路図で濾過器洗浄の説明図である。
【
図17】第3実施形態の胸腹水処理システム3Aの回路図で濾過濃縮の説明図である。
【
図18】第3実施形態の胸腹水処理システム3Aの回路図で濾過器洗浄と濃縮の説明図である。
【
図19】第3実施形態の胸腹水処理システム3Aの濾過液バッグを切り離した回路図で濾過の説明図である。
【
図20】第3実施形態の胸腹水処理システム3Aの濾過液バッグを切り離した回路図で濾過器洗浄と濃縮の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の胸腹水処理システムは、患者から採取した胸腹水を濾過濃縮し、点滴静注や腹腔内投与などによって自己再利用する回収液を得るための装置である。
【0021】
本発明の胸腹水処理システムによって処理される胸腹水は、癌の浸潤や転移による癌性胸腹膜炎、肝硬変、心不全などが原因で、胸腔や腹腔に過剰に溜まった胸水や腹水である。この胸腹水には、癌細胞、細菌、血球成分(白血球、赤血球、血小板)、マクロファージなどの固形成分と、血管や病変部から漏出した血漿成分(アルブミンやグロブリンなどの蛋白質、電解質など)が含まれている。本発明の胸腹水処理システムは、この胸腹水から、固形成分を除去し、蛋白質などの有用成分を含む回収液を生成することができる。
【0022】
<第1実施形態の胸腹水処理システム1A>
図1は、本発明の一実施形態に係る胸腹水処理システム1Aの基本構成を示す概略図である。主要な構成要素として、濾過器10、濃縮器20、濾過液排出チューブ送液部3p、濃縮液チューブ送液部4p、洗浄液供給チューブ送液部6p、胸腹水供給チューブ流量調整部2c、洗浄廃液排出チューブ流量調整部7c、圧力計測器P1~P3を備えている。濾過器10には、患者から採取した胸腹水A1を貯留する胸腹水バッグUB、洗浄液バッグSB、洗浄廃液バッグWBが接続され、濃縮器20には回収液A3を回収する回収液バッグCB、濃縮廃液バッグDBが接続されている。
【0023】
<濾過器10および濃縮器20>
第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの回路を説明する前に、第1実施形態の胸腹水処理システム1Aで使用する濾過器および濃縮器の一例を説明する。
【0024】
<濾過器10>
濾過器10は、胸腹水A1に含まれるタンパク質(アルブミンやグロブリンなど)などの有用物質を透過させ、癌細胞や細菌などの有害物質を濾過によって選択的に除去する器材である。濾過器10の濾過部材の素材は、前記有用物質を透過させ、前記有害物質を除去できるものであれば、どのようなものを用いてもよい。
【0025】
濾過器10には、単位体積あたりの濾過膜の膜面積をより大きくするために中空糸膜を使用するが、平膜や積層型膜などを用いることもでき、濾過部材の形状はとくに限定されない。
【0026】
図9に示すように、この濾過器10は、本体部11と、この本体部11内に配置された中空糸膜束15と、を有している。
【0027】
図9に示すように、中空糸膜束15は、複数本の中空糸膜16を束ねて構成されたものであるが、中空糸膜束15の総膜面積や形状はとくに限定されない。
【0028】
中空糸膜16は、断面が環状となった壁16wを有する管状の濾過部材である。中空糸膜16の壁16wの内側には、中空糸膜16の長軸方向に貫通する中空糸膜内側腔16iが形成され、外側には、中空糸膜16の長軸方向に貫通する中空糸膜外側腔16oが形成されている。
【0029】
中空糸膜束15は、複数の中空糸膜16の両端同士が束ねられ、複数本の中空糸膜16の中空糸膜内側腔16iの両端がそれぞれ本体部11の一対のヘッダ部13、14に連通されるように配置される。つまり、各中空糸膜16の中空糸膜内側腔16iが中空糸膜束15の両端の間を貫通するように複数の中空糸膜16を束ねて中空糸膜束15が形成されている。
【0030】
図9に示すように、本体部11には、周壁12と、この周壁12を挟むように、一対のヘッダ部13、14が設けられている。この周壁12の内部には、上述した中空糸膜束15を内部に収容しており、中空糸膜16の長軸方向とほぼ直交する向きに延びる貫通孔からなるポート11A、11Cのみで中空糸膜外側腔16oが外部と連通されるように形成されている。
【0031】
この周壁12の内部は、上述した中空糸膜束15の壁16wによって、中空糸膜内側腔16iと中空糸膜外側腔16oに分離されているが、両者間を液体が通過できる。つまり、中空糸膜外側腔16o内の液体を中空糸膜内側腔16i内に供給できるし、中空糸膜内側腔16i内の液体を中空糸膜外側腔16o内に供給できる。
【0032】
すなわち、周壁12のポート11A、11Cのいずれか一方または両方から中空糸膜外側腔16oに流入した液体は、中空糸膜束15と周壁12との間および複数本の中空糸膜16同士の間を流れて、中空糸膜16の壁16wを通して中空糸膜内側腔16i内に流入し、ヘッダ部のポート11B、11Bのいずれか一方または両方から流出する。また、ヘッダ部のポート11B、11Bのいずれか一方または両方から中空糸膜内側腔16iに流入した液体は、中空糸膜16の壁16wを通して中空糸膜外側腔16oに流入し、中空糸膜束15と周壁12との間および複数本の中空糸膜16同士の間を流れて、周壁12のポート11A、11Cのいずれか一方または両方から流出する。なお、周壁12の大きさや形状、ポートの大きさ、形状、個数はとくに限定されない。
【0033】
図9に示すように、本体部11には、周壁12を挟むように一対のヘッダ部13、14が設けられている。この一対のヘッダ部13、14の内部空間は、外部や中空糸膜外側腔16oと隔離された空間であって、外部とはポートポート11B、11Dのみで連通されるように形成されている。また、一対のヘッダ部13、14には、上述した中空糸膜束15の各端部がそれぞれ連結されおり、この一対のヘッダ部13、14の内部空間は中空糸膜内側腔16iと連通している。なお、この一対のヘッダ部13、14の大きさや形状、ポートの大きさ、形状、個数はとくに限定されない。はとくに限定されない。
【0034】
<濃縮器20>
濃縮器20は、胸腹水A1に含まれるタンパク質(アルブミンやグロブリンなど)などの有用物質を透過しない濾過部材を用いて、水分や電解質を濾過によって除去する器材である。濾過器濃縮器20の濾過部材の素材は、前記有用物質を透過せず、水分や電解質を透過できるものであれば、どのようなものを用いてもよい。
【0035】
濃縮器20は、濾過部材の形状は中空糸膜であり、本体部の構造も
図9で示した濾過器と同じであるが、濾過部材の形状、周壁12やヘッダ部13、14の大きさや形状、ポートの大きさ、形状、個数はとくに限定されない。
【0036】
<外圧式濾過方式>
次に、濾過器および濃縮器を使用する際の、濾過方式について説明する。
【0037】
中空糸膜を濾過素材とする濾過器や濃縮器の濾過方式には、濾過器20の中空糸膜外側腔16oから中空糸膜内側腔16iに向けて中空糸膜16の壁16wを通して胸腹水A1や濾過液A2を流して濾過する外圧式濾過法と、中空糸膜内側腔16iから中空糸膜外側腔11oに向けて中空糸膜16の壁16wを通して胸腹水A1や濾過液A2を流して濾過する内圧式濾過法がある。
【0038】
外圧式濾過法は、中空糸膜の外側の総面積が内側に比べて大きいことや、中空糸膜外側腔16oの体積が中空糸膜内側腔16iに比べて大きいことなどの理由によって、内圧式濾過法に比べて、目詰まりを起こしにくい。
【0039】
しかし、内圧式濾過法では、中空糸膜内側腔16iの形状が同じであるため、供給された胸腹水A1や濾過液A2が、ヘッダ部でほぼ均等に分かれて中空糸膜内側腔16iに流入するのに対し、外圧式濾過法では、中空糸膜外側腔16oは中空糸膜束15と周壁12との間および複数本の中空糸膜16同士の間に形成されるため、その形状が不均等である。
【0040】
このため、外圧式濾過法で濾過を行う濾過器10では、供給された胸腹水A1が、中空糸膜外側腔16oを不均等に流れ、うっ滞する部位の中空糸膜外側腔16oに凝集塊ができやすく、目詰まりの原因となっている。特に、胸腹水供給口11a近くの部位は、注入された胸腹水A1の流れが乱れて濾過器の目詰まりの原因となる蛋白質やフィブリンなどの中空糸外側壁への付着や凝集塊の形成が生じやすいため、外圧式濾過法で濾過した際の目詰まりを起こした濾過器の洗浄時には、胸腹水供給口11a近くの部位の中空糸膜外側腔11oの目詰まり原因物質を効果的に除去する必要がある。
【0041】
<第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの回路構成>
次に、第1実施形態の胸腹水処理システム1Aを説明する。第1実施形態の胸腹水処理システム1Aは、洗浄廃液の排出と胸腹水供給が濾過器10の同じポートから行われること(特徴1)、洗浄液の供給と濾過液の排出が同じポートから行われること(特徴2)、洗浄廃液の排出が濾過器の周壁の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われること(特徴3)という、濾過器洗浄を効果的に行うための3つの特徴を有している。
【0042】
代表図
まず、
図1に基づいて、第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの回路構成を説明する。
【0043】
図1において、胸腹水供給バッグUBは、患者から採取した胸腹水A1を貯留するバッグである。回収液バッグCBは、濾過濃縮した回収液A3を貯留するバッグである。洗浄液バッグSBは、濾過器の洗浄に使用する洗浄液SLを貯留するバッグである。濃縮廃液バッグDBは、濃縮器による濃縮で排出された廃液を貯留するバッグである。洗浄廃液バッグWBは、濾過器の洗浄によって生じる洗浄廃液WLを貯留するバッグである。
【0044】
なお、以後説明する全ての実施形態の胸腹水処理システムでは、柔軟性のあるチューブ(胸腹水給液チューブ2、濾過液排出チューブ3、濃縮液排出チューブ4、濃縮廃液チューブ5、洗浄液供給チューブ6、洗浄廃液排出チューブ7、濾過液排出チューブ8)で、各流路(胸腹水給液流路、濾過液排出流路、濃縮液排出流路、濃縮廃液排出流路、洗浄液供給流路、洗浄廃液排出流路)は形成されている。しかし、樹脂成型の一体型回路や硬質プラスチック製の管等の柔軟性のない管で形成されていてもよい。
【0045】
また、送液部は必ずしもローラーポンプに限られず、輸液ポンプ、ダイヤフラムポンプ等を使用することもできる。なお、ローラーポンプは、作動を停止すれば流路を閉塞して液体が流れないようにするクランプとしての機能を発揮する。
【0046】
さらに、濾過器10に胸腹水を供給する方法として、胸腹水濾過液排出チューブ3に備えられた濾過液排出チューブ送液部3pを用いる方法、胸腹水供給チューブ2に備えられた胸腹水供給チューブ送液部2pを用いる方法、胸腹水供給バッグUBを濾過器の上方に配置して落差を利用する方法などがあり、これらを単独で、または組み合わせて用いてもよい。
【0047】
図1に示すように、胸腹水供給バッグUBは、胸腹水供給チューブ2を介して、濾過器10の中空糸膜外側腔16oと連通する胸腹水供給口11aに接続されている。胸腹水供給チューブ2は、胸腹水供給バッグUB内の胸腹水A1を濾過器10に供給するチューブである。この胸腹水供給チューブ2には、胸腹水供給チューブ2内における液体の流れを停止開放するクランプ機能を有する器具である、クレンメ、クリップ、クランプ等の流量調整部2cが設けられている。
【0048】
濾過器10の中空糸膜内側腔16iと連通する濾過液排出口11bは、濾過液排出チューブ3を介して、濃縮器20の中空糸膜内側腔と連通する濃縮液供給口20aに接続されている。濾過液排出チューブ3は、濾過器10で濾過された濾過液A2を濃縮器20に供給するチューブである。この濾過液排出チューブ3には、濾過液排出チューブ3内の液体を送液する濾過液排出チューブ送液部3pが設けられている。
【0049】
濾過器10の中空糸膜内側腔16iと連通する濾過液排出口11bに接続された濾過液排出チューブ3には、洗浄液供給チューブ6が接続されている。洗浄液供給チューブ6は、洗浄液バッグSB内の洗浄液SLを濾過器10の中空糸膜内側腔16iに供給するチューブである。この洗浄液供給チューブ6には、洗浄液供給チューブ6内の液体を送液する洗浄液供給チューブ送液部6pが設けられている。
【0050】
濾過器10の中空糸膜外側腔16oと連通する胸腹水供給口11aに接続された胸腹水供給チューブ2には、洗浄廃液排出チューブ7が接続されている。洗浄廃液排出チューブ7は、濾過器10の洗浄時に生じる洗浄廃液WLを排出して洗浄廃液バッグWBに貯留するチューブである。この洗浄廃液排出チューブ7には、洗浄廃液排出チューブ7内における液体の流れを停止開放するクランプ機能を有する器具である、クレンメ、クリップ、クランプ等の流量調整部7cが設けられている。
【0051】
濃縮器20の中空糸膜内側腔と連通する濃縮液排出口20bは、濃縮液排出チューブ4を介して、回収液バッグCBに接続されている。濃縮液排出チューブ4は、濃縮器20で濃縮された回収液A3を回収液バッグCBに送液するチューブである。第実施形態の胸腹水処理システム1Aを含めて、以後説明する全ての実施形態の胸腹水処理システムでは、この濃縮液排出チューブ4には、濃縮液排出チューブ4内の液体を送液する濃縮液排出チューブ送液部4pが設けられているが、濃縮液排出チューブ送液部4pの代わりに、圧迫などによってチューブ内腔の断面積を変化させて液体の流量を調整する機能を有する器具であるクレンメ等の流量調整部を設けてもよい。
【0052】
濃縮器20の中空糸膜外側腔と連通する濃縮廃液排出口20cは、濃縮廃液排出チューブ5を介して、濃縮廃液バッグDBに接続されている。濃縮廃液排出チューブ5は、濃縮器20で濃縮された濃縮廃液を濃縮廃液バッグDBに送液するチューブである。
【0053】
濾過器10の中空糸膜内側腔16iと連通するヘッダ部のポートは、中空糸膜内側圧計測用チューブ11fを介して、圧力計P2に接続されている。中空糸膜内側圧計測用チューブ11fは、濾過濃縮時や濾過器洗浄時の中空糸膜内側圧p2を計測するチューブである。この中空糸膜内側圧計測用チューブ11f内は、洗浄液や濾過液が逆流して圧力計P2内に流入しないように、空気で満たされている。
【0054】
なお、中空糸膜内側圧計測用チューブ11fは、中空糸膜内側腔16iと連通した部位に接続されていればよいため、濾過液排出チューブ3や洗浄液供給チューブ6に接続されていてもよい。その場合には、濾過器10の濾過液排出口11bとは別の、濾過液や洗浄液の流れない、中空糸膜内側腔16iと連通する、ヘッダ部のポートは閉鎖されている。
【0055】
また、上記説明では、1か所の中空糸膜内側圧p2を測定する例を提示しているが、全ての実施形態の胸腹水処理システムでは、中空糸膜内側腔16iと連通する2ヶ所のポートの圧力を、各々別の圧力計に接続する構成になっていてもよい。すると、中空糸膜の内側腔の圧力分布の状況をより詳しく測定することができる。さらに、上記2ヶ所のポートの圧力をY字型のチューブを用いて1個の圧力計で計測する構成になっていてもよく、その場合には中空糸膜内側圧p2の平均圧力を計測することができる。
【0056】
さらに、濾過器10の中空糸膜外側腔16oと連通する洗浄液供給口11aとは別のポートは、濾過器の中空糸膜外側圧計測用チューブ11eを介して、圧力計P1が接続されている。中空糸膜外側圧計測用チューブ11eは、濾過濃縮時や濾過器洗浄時の中空糸膜外側圧p1を計測するチューブである。この濾過器の中空糸膜外側圧計測用チューブ11e内は、洗浄廃液や胸腹水が逆流して圧力計P1内に流入しないように、空気で満たされている。
【0057】
なお、濾過器の中空糸膜外側圧計測用チューブ11eは、中空糸膜外側腔16oと連通した部位に接続されていればよいため、胸腹水供給チューブ2や洗浄液排出チューブ7に接続されていてもよい。その場合には、濾過器10の周壁12の洗浄液供給口11aとは別の、胸腹水や洗浄廃液の流れない、中空糸膜外側腔16oと連通する、周壁のポートは閉鎖されている。
【0058】
また、上記説明では、1か所の中空糸膜外側圧p1を測定する例を提示しているが、全ての実施形態の胸腹水処理システムでは、中空糸膜外側腔16oと連通する2ヶ所のポートの圧力を、各々別の圧力計に接続する構成になっていてもよい。すると、中空糸膜外側腔16oの圧力分布の状況をより詳しく測定することができる。さらに、上記2ヶ所のポートの圧力をY字型のチューブを用いて1個の圧力計で計測する構成になっていてもよく、その場合には中空糸膜外側圧p1の平均圧力を計測することができる。
【0059】
さらに、計測された中空糸膜外側圧p1と中空糸膜内側圧p2をもとに、中空糸膜外側圧p1と中空糸膜内側圧p2の差圧である膜間差圧(Transmembrane pressure; TMP)が計算される。
【0060】
濾過濃縮や濾過器洗浄の際に中空糸膜16に加わる圧力は、この膜間差圧によって評価されるが、外圧濾過法を行う際に洗浄時に中空糸膜16に加わる圧力は、中空糸膜内側圧p2によって評価することもできる。また、濾過液排出チューブに設けられた濾過液排出チューブ送液部3pによって中空糸膜外側腔16oに胸腹水が供給されて濾過を行う場合は、中空糸膜内側圧p2によって中空糸膜16に加わる圧力を評価することもできる。さらに、胸腹水供給チューブに設けられた胸腹水供給チューブ送液部2pによって中空糸膜外側腔16oに胸腹水が供給されて濾過を行う場合や、胸腹水供給バッグUBを濾過器の上方に配置して落差を利用して胸腹水が供給される場合には、中空糸膜外側圧p1によって中空糸膜16に加わる圧力を評価することもできる。以下の説明では、中空糸膜外側圧p1、中空糸膜内側圧p2を各々1ヶ所で測定し、膜間差圧によって中空糸膜に加わる圧力を評価する例について説明するが、上述したように膜間差圧の代わりに中空糸膜外側圧p1や中空糸膜内側圧p2を指標として、濾過濃縮や濾過器洗浄の際に中空糸膜16に加わる圧力を評価することもできる。
【0061】
<第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの動作>
次に、
図1、
図2に基づいて第1実施形態の腹水処理システム1の動作について説明する。
【0062】
<濾過濃縮>
図1に示すように、胸腹水処理システム1Aの濾過濃縮時には、胸腹水供給チューブ流量調整部2cは開放し、洗浄廃液排出チューブ流量調整手段7cは閉鎖している。洗浄液供給チューブ送液部6pのローラーポンプは停止しており、洗浄液供給チューブ6はローラーポンプによってクランプされた状態にある。この状態で、濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプが回転することによって、胸腹水供給バッグUBから胸腹水A1が濾過器10の胸腹水供給口11aを通って、中空糸膜外側腔16oに供給され、濾過器の濾過液排出口11bから排出された濾過液A2が濃縮器20に供給される。濾過器10の中空糸膜16によって、胸腹水A1の癌細胞、細菌などの有害物質が選択的に除去され、蛋白質などの有用物質は、濾過液A2の中に含まれる。
【0063】
濾過器10によって濾過された濾過液A2は、濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプが回転することによって、濃縮器20の濾過液供給口20aを通って、濃縮器20の中空糸膜内側腔に供給される。濃縮器20に供給された濾過液A2は、濃縮液排出チューブ送液部4pのローラーポンプが回転することによって、回収液A3が排出され、回収液バッグCB内に貯留する。濃縮液排出チューブ送液部4pのローラーポンプの流量は、濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプの流量より小さく設定され、その差分の流量で、濃縮器20の濃縮廃液排出口20cより、アルブミンなどの有用物質を含まない水分が排出され、濃縮廃液バッグDB内に貯留する。
【0064】
濾過器10の中空糸膜16の外側面に癌細胞、細菌、血球成分、フィブリン、蛋白質などが付着したり、フィブリンなどの凝集塊、凝血塊、血球成分、脂肪粒子のミセルなどが中空糸膜の外側腔に貯留して、中空糸膜の孔を閉塞して目詰まりが生じると、膜間差圧が増大する。しかし、中空糸膜に耐圧基準以上の膜間差圧が加わると中空糸膜が破損して、胸腹水A1の癌細胞、細菌などの有害物質が回収液中に混入し、患者に投与されて副作用を引き起こす危険性がある。
【0065】
中空糸膜16に耐圧基準を超える膜間差圧が加わって破損することを防ぐためには、濾過器10の膜間差圧をモニタリングし、濾過濃縮作業を制御する必要がある。その場合には、濾過器10の耐圧基準や胸腹水A1の状態に応じて、予め濾過器10の許容できる膜間差圧(濾過許容差圧)を設定する、濾過器10の耐圧基準より小さい値に設定する。この許容差圧は、特定の値に設定してもよいし、所定の幅を有していてもよい。
【0066】
具体的には、濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプの回転数を一定にして濾過流量を一定にした濾過(定量濾過)を行い、耐圧基準より小さい値の濾過器洗浄を開始する設定値を設け、濾過器10の目詰まりによって膜間差圧が上昇して許容差圧を超えた際には、濾過濃縮を中断して、後述する濾過器洗浄を開始する。
【0067】
なお、濾過器10の目詰まりによって膜間差圧が上昇して許容差圧を超えた際に、すぐに濾過器洗浄を開始せずに、濾過許容差圧以下の膜間差圧に維持できるように濾過流量を制御した濾過(定量濾過)を継続してもよい。その場合には、また、濾過器10の膜間差圧に加え、ローラーポンプの回転数などから濾過流量もモニタリングし、濾過器10の耐圧基準や胸腹水A1の状態に応じて、予め濾過器10の許容できる流量(濾過許容流量)を設定する。この許容流量は、特定の値に設定してもよいし、所定の幅を有していてもよい。濾過器10の目詰まりが進み、濾過流量が濾過許容流量より小さくなった際には、濾過濃縮を中断して、後述する濾過器洗浄を開始する。
【0068】
また、濾過濃縮の際に、濾過を開始する膜間差圧(濾過開始差圧)を、濾過器10の耐圧基準や胸腹水A1の状態に応じて、予め濾過器10の耐圧基準より小さい値に設定し、濾過開始時より定圧濾過を行ってもよい。この濾過開始差圧は、特定の値に設定してもよいし、所定の幅を有していてもよい。また、濾過開始差圧は、前記の濾過許容差圧と同じでもよいし、小さい値に設定してもよい。膜間差圧と濾過流量をモニタリングしながら濾過を行い、濾過器10の目詰まりが進んで濾過流量が濾過許容流量より小さくなった際には、濾過濃縮を中断して、後述する濾過器洗浄を開始する。
【0069】
<濾過器洗浄>
図2に示すように、胸腹水処理システム1Aの濾過器10の洗浄時には、胸腹水供給チューブ流量調整部2cは閉鎖し、洗浄廃液排出チューブ流量調整手段7cは開放している。濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプは停止しており、濾過液排出チューブ3はローラーポンプによってクランプされた状態にある。この状態で、洗浄液供給チューブ送液部6pのローラーポンプが回転することによって、洗浄液バッグSBから洗浄液SLが濾過器10の洗浄液供給口11dを通って、中空糸膜内側腔16iに供給され、中空糸膜の壁16wの孔を通過して中空糸膜外側腔16oに達し、洗浄廃液WLが濾過器の胸腹水供給口11aから排出され、洗浄廃液バッグWB内に貯留する。
【0070】
図10に示すように、濾過器洗浄によって、目詰まりを起こした濾過器10の目詰まり物質17である、中空糸膜16の外側面に付着した癌細胞、細菌、血球成分、フィブリン、蛋白質などや、中空糸膜外側腔16oに貯留したフィブリンなどの凝集塊、凝血塊、血球成分、脂肪粒子のミセルなどが、洗浄液SLによって剥離して、洗浄廃液WLとして濾過器10から除去される。
【0071】
第1実施形態の胸腹水処理システム1Aは、洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が同じポートから行われること(特徴1)、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)、洗浄廃液WLの排出が濾過器10の周壁12の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われること(特徴3)の、濾過器洗浄に関する3つの特徴を有している。
【0072】
洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が同じポートから行われること(特徴1)によって、胸腹水供給口11a付近に多量の洗浄液が流れる。これによって、洗浄廃液の排出と胸腹水供給が別のポートで行われる従来の濾過器洗浄法では十分な除去が困難であった、胸腹水供給口11aの内部や胸腹水供給口11a近くの部位の中空糸膜外側腔16oに蓄積する凝集塊などや、胸腹水供給口11a近くの中空糸膜16の外側壁へ付着した蛋白質やフィブリンなどの、外圧式濾過法で問題となっている目詰まり物質17を効果的に除去することができる。
【0073】
また、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れる。
図1に示す濾過濃縮時には、濾過液排出チューブ送液部3pによって、中空糸膜内腔16i内に陰圧を生じさせ、胸腹水A1を濾過器10に供給する。この際、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、濃縮液排出口11bに近い部位ほど多くの胸腹水A1が流れるため、濾過液排出口11b近くの中空糸膜16の外側壁へ蛋白質やフィブリンなどの目詰まり物質がより多く付着し、中空糸外側腔16oに凝集塊が蓄積する。中空糸膜内腔16iに洗浄液SLが注入された場合にも、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、供給口に近い部位ほど強い圧力が加わって洗浄効果が高くなる。このため、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れ、上述した目詰まり物質を効果的に洗浄して除去することができる。
【0074】
さらに、洗浄廃液WLの排出が濾過器10の周壁12の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われること(特徴3)によって、洗浄液供給口から洗浄廃液排出口への距離が短くなって洗浄液SLが流れる際の抵抗が減る。これによって、洗浄液供給口から洗浄廃液排出口へより高流量で洗浄液SLが流れ、洗浄効果を高めることができる。
図2に示す第1実施形態の胸腹水処理システム1Aでは、目詰まりを起こしやすい部位である濾過液排出口11bと胸腹水供給口11aが、各々、洗浄液供給口と洗浄廃液排出口に一致することから、洗浄廃液WLの排出が濾過器10の周壁12の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われること(特徴3)によって、効果的に濾過器を洗浄することができる。
【0075】
第1実施形態の胸腹水処理システム1Aでは、濾過器10の洗浄時には、濾過器の中空糸膜外側圧計測用チューブ11eが接続された圧力計P1と濾過器の中空糸膜内側圧計測用チューブ11fが接続された圧力計P2によって、中空糸膜外側圧p1と中空糸膜内側圧p2が計測される。また、中空糸膜外側圧p1と中空糸膜内側圧p2の差圧である膜間差圧が計算される。
【0076】
濾過器10の洗浄時には、濾過器10の中空糸膜表面に付着した蛋白質などの有効成分や、洗浄開始時に濾過器10の中空糸膜外側腔16oの胸腹水A1や中空糸膜内側腔16iの濾過液A2も洗浄廃液に含まれて排出されるため、洗浄によって、癌細胞、細菌などの有害物質だけでなく、蛋白質などの有用物質も同時に失われる。このため、患者に投与する回収液中の有効成分を多く回収するためには、1回の洗浄効果を高めて、洗浄回数を少なくする必要がある。
【0077】
洗浄液SLが低流量で中空糸膜内側腔16iに供給された場合には、中空糸膜の目詰まりを起こしていない部位の中空糸膜の孔に洗浄液SLが流れてしまい、十分な洗浄効果が得られない。このため、濾過器洗浄時には、1回の洗浄効果を高めるために、洗浄液供給チューブ送液部6pの回転数を上げて、高流量で十分な圧力を加えて洗浄することが望ましい。しかし、濾過器10の洗浄時に、中空糸膜11wに耐圧基準以上の膜間差圧が加わると中空糸膜が破損して、胸腹水A1の癌細胞、細菌などの有害物質が回収液中に混入し、患者に投与されて副作用を引き起こす危険性がある。
【0078】
そこで、胸腹水処理システム1Aの濾過器洗浄時には、中空糸膜外側圧p1、中空糸膜内側圧p2、膜間差圧をモニタリングしながら洗浄を行い、膜間差圧が耐圧基準よりも低い設定値となるように、洗浄液供給チューブ送液部6pの作動を制御する。その場合、濾過器10の耐圧基準や胸腹水A1の状態に応じて、予め濾過器10の許容できる膜間差圧(洗浄許容差圧)を、濾過器10の耐圧基準より小さい値に設定する。この洗浄許容差圧は、特定の値に設定してもよいし、所定の幅を有していてもよい。
【0079】
濾過器洗浄時には、同じ流量で洗浄液SLを中空糸膜内側腔16iに注入しても、中空糸膜16の目詰まりの状況によって洗浄時の膜間差圧は異なり、目詰まりの程度が強くなると膜間圧力差が大きくなる。そこで、胸腹水処理システム1Aの濾過器洗浄時には、低流量の洗浄液流量で洗浄を開始し、膜間差圧が洗浄許容差圧以下になるように、次第に洗浄液流量を増加させることが望ましい。
【0080】
具体的には、例えば50mL/分の流量で洗浄を開始し、数秒ごとに流量を増加させ、洗浄許容差圧になるまで増加させで濾過器洗浄を行う。
【0081】
また、目詰まりが洗浄によって解除されて膜間差圧が低下してきた場合には、流量を増加させ、洗浄許容差圧を維持した状態で濾過器洗浄を継続してもよい。
【0082】
なお、濾過器10の膜間差圧の代わりに、中空糸膜内側圧p2をモニタリングし、濾過濃縮作業を制御してもよい。
【0083】
<第1実施形態の胸腹水処理システム1B~1G>
上述した第1実施形態の胸腹水処理システム1は、濾過器洗浄時に洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が濾過器10の同じポートから行われること(特徴1)、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)、洗浄廃液WLの排出が濾過器10の周壁12の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われること(特徴3)の3つの特徴を有しているが、基本構成要素(濾過器10、濃縮器20、濾過液排出チューブ送液部3p、濃縮液チューブ送液部4p、洗浄液供給チューブ送液部6p、胸腹水供給チューブ流量調整部2c、洗浄廃液排出チューブ流量調整部7c、圧力計測器P1~P3、胸腹水バッグUB、洗浄液バッグSB、洗浄廃液バッグWB、回収液バッグCB、濃縮廃液バッグDB)は同じで、胸腹水供給チューブ2、濾過液排出チューブ3、洗浄液供給チューブ6、洗浄廃液排出チューブの接続する位置のみを変えることによって、上記の特徴1~3のうち2つまたは1つの特徴を有している構成の胸腹水処理システム1B~1Gとしてもよい。
【0084】
<第1実施形態の胸腹水処理システム1B>
つまり、
図3に示すように、第1実施形態の胸腹水処理システム1Bでは、胸腹水処理システム1Aの胸腹水供給チューブ2が、濾過器10の濾過液排出口11bから離れた位置の周壁のポートに接続される構成に変更されている。
【0085】
この胸腹水処理システム1Bは、濾過器洗浄時に洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が濾過器10の同じポートから行われること(特徴1)と、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)の2つの特徴を有している。
【0086】
洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が同じポートから行われること(特徴1)によって、胸腹水供給口11a付近に多量の洗浄液が流れる。これによって、洗浄廃液の排出と胸腹水供給が別のポートで行われる従来の濾過器洗浄法では十分な除去が困難であった、胸腹水供給口11aの内部や胸腹水供給口11a近くの部位の中空糸膜外側腔16oに蓄積する凝集塊などや、胸腹水供給口11a近くの中空糸膜16の外側壁へ付着した蛋白質やフィブリンなどの、外圧式濾過法で問題となっている目詰まり物質17を効果的に除去することができる。
【0087】
また、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れる。濾過濃縮時には、濾過液排出チューブ送液部3pによって、中空糸膜内腔16i内に陰圧を生じさせ、胸腹水A1を濾過器10に供給する。この際、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、濃縮液排出口11bに近い部位ほど多くの胸腹水A1が流れるため、濾過液排出口11b近くの中空糸膜16の外側壁へ蛋白質やフィブリンなどの目詰まり物質がより多く付着し、中空糸外側腔16oに凝集塊が蓄積する。中空糸膜内腔16iに洗浄液SLが注入された場合にも、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、供給口に近い部位ほど強い圧力が加わって洗浄効果が高くなる。このため、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れ、上述した目詰まり物質を効果的に洗浄して除去することができる。
【0088】
さらに、この胸腹水処理システム1Bでも、胸腹水処理システム1Aと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、前述した濾過流量や膜間差圧に基づく濾過濃縮や濾過器洗浄の制御を行うことができる。
【0089】
<第1実施形態の胸腹水処理システム1C>
また、
図4に示すように、第1実施形態の胸腹水処理システム1Cでは、胸腹水処理システム1Aの胸腹水供給チューブ2が、濾過器10の濾過液排出口11bから離れた位置の周壁12のポートに接続され、洗浄液供給チューブ6が、濾過液排出口11bの対側のヘッダ部のポートに接続される構成に変更されている。
【0090】
この胸腹水処理システム1Cは、濾過器洗浄時に洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1供給が濾過器10の同じポートから行われること(特徴1)と、洗浄廃液WLの排出が濾過器の周壁12の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われること(特徴3)の2つの特徴を有している。
【0091】
洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が同じポートから行われること(特徴1)によって、胸腹水供給口11a付近に多量の洗浄液が流れる。これによって、洗浄廃液の排出と胸腹水供給が別のポートで行われる従来の濾過器洗浄法では十分な除去が困難であった、胸腹水供給口11aの内部や胸腹水供給口11a近くの部位の中空糸膜外側腔16oに蓄積する凝集塊などや、胸腹水供給口11a近くの中空糸膜16の外側壁へ付着した蛋白質やフィブリンなどの、外圧式濾過法で問題となっている目詰まり物質17を効果的に除去することができる。
【0092】
また、洗浄廃液WLの排出が濾過器10の周壁12の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われること(特徴3)によって、洗浄液供給口から洗浄廃液排出口への距離が短くなって洗浄液SLが流れる際の抵抗が減る。これによって、洗浄液供給口から洗浄廃液排出口へより高流量で洗浄液SLが流れ、洗浄効果を高めることができる。
【0093】
さらに、この胸腹水処理システム1Cでも、胸腹水処理システム1Aと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、前述した濾過流量や膜間差圧に基づく濾過濃縮作業や濾過器洗浄作業の制御を行うことができる。
【0094】
<第1実施形態の胸腹水処理システム1D>
また、
図5に示すように、第1実施形態の胸腹水処理システム1Dでは、胸腹水処理システム1Aの胸腹水供給チューブ2が、濾過器10の濾過液排出口11bから離れた位置の周壁12のポートに接続され、洗浄廃液排出チューブ7が、胸腹水供給チューブ2に接続されずに濾過液排出口11bの近い位置の周壁12のポートに直接接続される構成に変更されている。
【0095】
この胸腹水処理システム1Dは、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)と、洗浄廃液WLの排出が濾過器10の周壁12の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われること(特徴3)の2つの特徴を有している。
【0096】
洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れる。濾過濃縮時には、濾過液排出チューブ送液部3pによって、中空糸膜内腔16i内に陰圧を生じさせ、胸腹水A1を濾過器10に供給する。この際、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、濃縮液排出口11bに近い部位ほど多くの胸腹水A1が流れるため、濾過液排出口11b近くの中空糸膜16の外側壁へ蛋白質やフィブリンなどの目詰まり物質がより多く付着し、中空糸外側腔16oに凝集塊が蓄積する。中空糸膜内腔16iに洗浄液SLが注入された場合にも、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、供給口に近い部位ほど強い圧力が加わって洗浄効果が高くなる。このため、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れ、上述した目詰まり物質を効果的に洗浄して除去することができる。
【0097】
また、洗浄廃液WLの排出が濾過器10の周壁12の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われること(特徴3)によって、洗浄液供給口から洗浄廃液排出口への距離が短くなって洗浄液SLが流れる際の抵抗が減る。これによって、洗浄液供給口から洗浄廃液排出口へより高流量で洗浄液SLが流れ、洗浄効果を高めることができる。
【0098】
さらに、この胸腹水処理システム1Dでも、胸腹水処理システム1Aと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、前述した濾過流量や膜間差圧に基づく濾過濃縮や濾過器洗浄の制御を行うことができる。
【0099】
<第1実施形態の胸腹水処理システム1E>
また、
図6に示すように、第1実施形態の胸腹水処理システム1Eでは、胸腹水処理システム1Aの洗浄液供給チューブ6が、濾過液排出口11bの対側のヘッダ部のポートに接続される構成に変更されている。
【0100】
この胸腹水処理システム1Eは、濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出と胸腹水供給が濾過器10の同じポートから行われる特徴(特徴1)を有している。
【0101】
洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が同じポートから行われること(特徴1)によって、胸腹水供給口11a付近に多量の洗浄液が流れる。これによって、洗浄廃液の排出と胸腹水供給が別のポートで行われる従来の濾過器洗浄法では十分な除去が困難であった、胸腹水供給口11aの内部や胸腹水供給口11a近くの部位の中空糸膜外側腔16oに蓄積する凝集塊などや、胸腹水供給口11a近くの中空糸膜16の外側壁へ付着した蛋白質やフィブリンなどの、外圧式濾過法で問題となっている目詰まり物質17を効果的に除去することができる。
【0102】
また、この胸腹水処理システム1Eでも、胸腹水処理システム1Aと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、前述した濾過流量や膜間差圧に基づく濾過濃縮や濾過器洗浄の制御を行うことができる。
【0103】
<第1実施形態の胸腹水処理システム1F>
また、
図7に示すように、第1実施形態の胸腹水処理システム1Fでは、胸腹水処理システム1Aの洗浄廃液排出チューブ7が、濾過器10の濾過液排出口11bから離れた位置の周壁のポートに接続される構成に変更されている。
【0104】
この胸腹水処理システム1Fは、洗浄液の供給と濾過液の排出が同じポートから行われる特徴(特徴2)を有している。
【0105】
洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れる。濾過濃縮時には、濾過液排出チューブ送液部3pによって、中空糸膜内腔16i内に陰圧を生じさせ、胸腹水A1を濾過器10に供給する。この際、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、濃縮液排出口11bに近い部位ほど多くの胸腹水A1が流れるため、濾過液排出口11b近くの中空糸膜16の外側壁へ蛋白質やフィブリンなどの目詰まり物質がより多く付着し、中空糸外側腔16oに凝集塊が蓄積する。中空糸膜内腔16iに洗浄液SLが注入された場合にも、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、供給口に近い部位ほど強い圧力が加わって洗浄効果が高くなる。このため、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れ、上述した目詰まり物質を効果的に洗浄して除去することができる。
【0106】
また、この胸腹水処理システム1Fでも、胸腹水処理システム1Aと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、前述した濾過流量や膜間差圧に基づく濾過濃縮や濾過器洗浄の制御を行うことができる。
【0107】
<第1実施形態の胸腹水処理システム1G>
また、
図8に示すように、第1実施形態の胸腹水処理システム1Gでは、胸腹水処理システム1Aの洗浄廃液排出チューブ7が、濾過器10の濾過液排出口11bから離れた位置の周壁のポートに接続され、洗浄液供給チューブ6が、濾過液排出口11bの対側のヘッダ部のポートに接続される構成に変更されている。
【0108】
この胸腹水処理システム1Gは、洗浄廃液の排出が濾過器の周壁の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われる特徴(特徴3)を有している。
【0109】
洗浄廃液WLの排出が濾過器10の周壁12の他のポートよりも洗浄液供給口と近いポートから行われること(特徴3)によって、洗浄液供給口から洗浄廃液排出口への距離が短くなって洗浄液SLが流れる際の抵抗が減る。これによって、洗浄液供給口から洗浄廃液排出口へより高流量で洗浄液SLが流れ、洗浄効果を高めることができる。
【0110】
また、この胸腹水処理システム1Gでも、胸腹水処理システム1Aと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、前述した濾過流量や膜間差圧に基づく濾過濃縮や濾過器洗浄の制御を行うことができる。
【0111】
<第2実施形態の胸腹水処理システム2A>
次に、第2実施形態の胸腹水処理システム2Aについて説明する。第2実施形態の胸腹水処理システム2Aは、第1実施形態の濾過器洗浄時の特徴(特徴1、特徴2)に加え、濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出が濾過器10の周壁12の2ヶ所のポートから行われる特徴(特徴4)を有している。
【0112】
図11は、本発明の第2実施形態の胸腹水処理システム2の基本構成を示す概略図である。第1実施形態の胸腹水処理システム1Aと比較して、洗浄廃液排出チューブ7が2本となり、洗浄廃液排出チューブ送液部7pが加わっているが、その他の主要な構成要素(濾過器10、濃縮器20、濾過液排出チューブ送液部3p、濃縮液チューブ送液部4p、洗浄液供給チューブ送液部6p胸腹水供給チューブ流量調整部2c、洗浄廃液排出チューブ流量調整部7c、圧力計測器P1~P3、胸腹水バッグUB、洗浄液バッグSB、洗浄廃液バッグWB、濃縮廃液バッグDB)は同じである。
【0113】
<第2実施形態の胸腹水処理システム2Aの回路構成>
まず、
図11に基づいて、第2実施形態の胸腹水処理システム2Aの回路構成を説明する。
【0114】
図11に示すように、胸腹水供給バッグUBは、胸腹水供給チューブ2を介して、濾過器10の中空糸膜外側腔16oと連通する胸腹水供給口11aに接続されている。胸腹水供給チューブ2は、胸腹水供給バッグUB内の胸腹水A1を濾過器10に供給するチューブである。この胸腹水供給チューブ2には、胸腹水供給チューブ2内における液体の流れを停止開放するクランプ機能を有する器具である、クレンメ、クリップ、クランプ等の流量調整部2cが設けられている。
【0115】
濾過器10の中空糸膜内側腔16iと連通する濾過液排出口11bは、濾過液排出チューブ3を介して、濃縮器20の中空糸膜内側腔と連通する濃縮液供給口20aに接続されている。濾過液排出チューブ3は、濾過器10で濾過された濾過液A2を濃縮器20に供給するチューブである。この濾過液排出チューブ3には、濾過液排出チューブ3内の液体を送液する濾過液排出チューブ送液部3pが設けられている。
【0116】
濾過器10の中空糸膜内側腔16iと連通する濾過液排出口11bに接続された濾過液排出チューブ3には、洗浄液供給チューブ6が接続されている。洗浄液供給チューブ6は、洗浄液バッグSB内の洗浄液を濾過器10の中空糸膜内側腔16iに供給するチューブである。この洗浄液供給チューブ6には、洗浄液供給チューブ6内の液体を送液する洗浄液供給チューブ送液部6pが設けられている。
【0117】
濾過器10の中空糸膜外側腔16oと連通する胸腹水供給口11aに接続された胸腹水供給チューブ2には、洗浄廃液排出チューブ7が接続されている。洗浄廃液排出チューブ7は、濾過器10の洗浄時に生じる洗浄廃液を排出して洗浄廃液バッグWBに貯留するチューブである。この洗浄廃液排出チューブ7には、洗浄廃液排出チューブ7内の液体を送液する洗浄液供給チューブ送液部7pが設けられている。
【0118】
また、濾過器10の中空糸膜外側腔16oと連通する、胸腹水供給口11aとは別の洗浄廃液排出口11cには、別の洗浄廃液排出チューブ7が接続されている。この洗浄廃液排出チューブ7には、洗浄廃液排出チューブ7内における液体の流れを停止開放するクランプ機能を有する器具である、クレンメ、クリップ、クランプ等の流量調整部2cが設けられている。
【0119】
なお、
図11では、2本の洗浄廃液排出チューブ7のうち、胸腹水供給チューブ2に接続された洗浄廃液排出チューブ7に洗浄廃液排出チューブ送液部7pが設けられ、他方の胸腹水供給チューブ2に洗浄廃液排出チューブ流量調整部7cが設けられているが、胸腹水供給口11aに接続された胸腹水供給チューブ2に洗浄廃液排出チューブ流量調整部7cが設けられ、もう一方の胸腹水供給チューブ2に洗浄廃液排出チューブ送液部7pが設けられるようにすることも可能である。また、2本の洗浄廃液排出チューブ7の両方に、洗浄廃液排出チューブ送液部7pが設けられるようにすることも可能である。さらに、2本の洗浄廃液排出チューブ7の両方に洗浄廃液排出チューブ流量調整部7cが設けられるようにすることも可能である。
【0120】
濃縮器20の中空糸膜内側腔と連通する濃縮液排出口20bは、濃縮液排出チューブ4を介して、回収液バッグCBに接続されている。濃縮液排出チューブ4は、濃縮器20で濃縮された回収液A3を回収液バッグCBに送液するチューブである。この濃縮液排出チューブ4には、濃縮液排出チューブ4内の液体を送液する濃縮液排出チューブ送液部4pが設けられている。
【0121】
濃縮器20の中空糸膜外側腔と連通する濃縮廃液排出口20cは、濃縮廃液排出チューブ5を介して、濃縮廃液バッグDBに接続されている。濃縮廃液排出チューブ5は、濃縮器20で濃縮された濃縮廃液を濃縮廃液バッグDBに送液するチューブである。
【0122】
濾過器10の中空糸膜内側腔16iと連通するヘッダ部のポートは、中空糸膜内側圧計測用チューブ11fを介して、圧力計P2に接続されている。中空糸膜内側圧計測用チューブ11fは、濾過濃縮時や濾過器洗浄時の中空糸膜内側圧p2を計測するチューブである。この中空糸膜内側圧計測用チューブ11f内は、洗浄液WLや濾過液A2が逆流して圧力計P2内に流入しないように、空気で満たされている。
【0123】
なお、中空糸膜内側圧計測用チューブ11fは、中空糸膜内側腔16iと連通した部位に接続されていればよいため、濾過液排出チューブ3や洗浄液供給チューブ6に接続されていてもよい。その場合には、濾過器10の濾過液排出口11bとは別の、濾過液A2や洗浄液WLの流れない、中空糸膜内側腔16iと連通する、ヘッダ部のポートは閉鎖されている。
【0124】
また、上記説明では、1か所の中空糸膜内側圧p2を測定する例を提示しているが、中空糸膜内側腔16iと連通する2ヶ所のポートの圧力を、各々別の圧力計に接続する構成になっていてもよい。すると、中空糸膜の内側腔の圧力分布の状況をより詳しく測定することができる。さらに、上記2ヶ所のポートの圧力をY字型のチューブを用いて1個の圧力計で計測する構成になっていてもよく、その場合には中空糸膜内側圧p2の平均圧力を計測することができる。
【0125】
濾過器10の中空糸膜外側腔16oと連通する洗浄廃液排出口11cに接続すされた洗浄廃液排出チューブ7に、濾過器の中空糸膜外側圧計測用チューブ11eを介して、圧力計P1が接続されている。濾過器の中空糸膜外側圧計測用チューブ11eは、濾過濃縮時や濾過器10の洗浄時の中空糸膜外側腔16oの圧力を計測するチューブである。この中空糸膜外側圧計測用チューブ11e内は、洗浄液SLや胸腹水A1が逆流して圧力計P1内に流入しないように、空気で満たされている。
【0126】
なお、濾過器の中空糸膜外側圧計測用チューブ11eは、中空糸膜外側腔と連通した部位に接続されていればよいため、胸腹水供給チューブ2や、胸腹水供給チューブに接続された洗浄液排出チューブ7に接続されていてもよい。
【0127】
また、上記説明では、1か所の中空糸膜外側圧p1を測定する例を提示しているが、中空糸膜外側腔16oと連通する2ヶ所のポートの圧力を、各々別の圧力計に接続する構成になっていてもよい。すると、中空糸膜外側腔16oの圧力分布の状況をより詳しく測定することができる。さらに、上記2ヶ所のポートの圧力をY字型のチューブを用いて1個の圧力計で計測する構成になっていてもよく、その場合には中空糸膜外側圧p1の平均圧力を計測することができる。
【0128】
さらに、計測された中空糸膜外側圧p1と中空糸膜内側圧p2をもとに、中空糸膜外側圧p1と中空糸膜内側圧p2の差圧である膜間差圧が計算される。
【0129】
濾過濃縮や濾過器洗浄の際に中空糸膜16に加わる圧力は、この膜間差圧によって評価されるが、外圧濾過法を行う際に洗浄時に中空糸膜16に加わる圧力は、中空糸膜内側圧p2によって評価することもできる。また、濾過液排出チューブに設けられた濾過液排出チューブ送液部3pによって中空糸膜外側腔16oに胸腹水が供給されて濾過を行う場合は、中空糸膜内側圧p2によって中空糸膜16に加わる圧力を評価することもできる。さらに、胸腹水供給チューブに設けられた胸腹水供給チューブ送液部2pによって中空糸膜外側腔16oに胸腹水が供給されて濾過を行う場合や、胸腹水供給バッグUBを濾過器の上方に配置して落差を利用して胸腹水が供給される場合には、中空糸膜外側圧p1によって中空糸膜16に加わる圧力を評価することもできる。
【0130】
<第2実施形態の胸腹水処理システム2Aの動作>
次に、
図11、
図12に基づいて第2実施形態の腹水処理システム2の動作について説明する。
【0131】
<濾過濃縮>
図11に示すように、胸腹水処理システム1Aの濾過濃縮時には、胸腹水供給チューブ流量調整部2cは開放し、洗浄廃液排出チューブ流量調整手段7cは閉鎖している。洗浄廃液排出チューブ送液部7pのローラーポンプは停止しており、洗浄廃液排出チューブ7はローラーポンプによってクランプされた状態にある。洗浄液供給チューブ送液部6pのローラーポンプは停止しており、洗浄液供給チューブ6はローラーポンプによってクランプされた状態にある。この状態で、濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプが回転することによって、胸腹水供給バッグUBから胸腹水A1が濾過器10の胸腹水供給口11aを通って、中空糸膜外側腔16oに供給され、濾過器の濾過液排出口11bから排出された濾過液A2が濃縮器20に供給される。濾過器10の中空糸膜16によって、胸腹水A1の癌細胞、細菌などの有害物質が選択的に除去され、蛋白質などの有用物質は、濾過液A2の中に含まれる。
【0132】
濾過器10によって濾過された濾過液A2は、濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプが回転することによって、濃縮器20の濾過液供給口20aを通って、濃縮器20の中空糸膜内側腔に供給される。濃縮器20に供給された濾過液A2は、濃縮液排出チューブ送液部4pのローラーポンプが回転することによって、回収液A3が排出され、回収液バッグCB内に貯留する。濃縮液排出チューブ送液部4pのローラーポンプの流量は、濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプの流量より小さく設定され、その差分の流量で、濃縮器20の濃縮廃液排出口20cより、アルブミンなどの有用物質を含まない水分が排出され、濃縮廃液バッグDB内に貯留する。
【0133】
濾過器10の中空糸膜16の外側面に癌細胞、細菌、血球成分、フィブリン、蛋白質などが付着したり、フィブリンなどの凝集塊、凝血塊、血球成分、脂肪粒子のミセルなどが中空糸膜の外側腔に貯留して、中空糸膜の孔を閉塞して目詰まりが生じると、膜間差圧が増大する。しかし、中空糸膜に耐圧基準以上の膜間差圧が加わると中空糸膜が破損して、胸腹水A1の癌細胞、細菌などの有害物質が回収液中に混入し、患者に投与されて副作用を引き起こす危険性がある。
【0134】
中空糸膜16に耐圧基準を超える膜間差圧が加わって破損することを防ぐためには、濾過器10の膜間差圧をモニタリングし、濾過濃縮作業を制御する必要がある。その場合には、濾過器10の耐圧基準や胸腹水A1の状態に応じて、予め濾過器10の許容できる膜間差圧(濾過許容差圧)を設定する、濾過器10の耐圧基準より小さい値に設定する。この許容差圧は、特定の値に設定してもよいし、所定の幅を有していてもよい。
【0135】
具体的には、濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプの回転数を一定にして濾過流量を一定にした濾過(定量濾過)を行い、耐圧基準より小さい値の濾過器洗浄を開始する設定値を設け、濾過器10の目詰まりによって膜間差圧が上昇して許容差圧を超えた際には、濾過濃縮を中断して、後述する濾過器洗浄を開始する。
【0136】
なお、濾過器10の目詰まりによって膜間差圧が上昇して許容差圧を超えた際に、すぐに濾過器洗浄を開始せずに、濾過許容差圧以下の膜間差圧に維持できるように濾過流量を制御した濾過(定量濾過)を継続してもよい。その場合には、また、濾過器10の膜間差圧に加え、ローラーポンプの回転数などから濾過流量もモニタリングし、濾過器10の耐圧基準や胸腹水A1の状態に応じて、予め濾過器10の許容できる流量(濾過許容流量)を設定する。この許容流量は、特定の値に設定してもよいし、所定の幅を有していてもよい。濾過器10の目詰まりが進み、濾過流量が濾過許容流量より小さくなった際には、濾過濃縮を中断して、後述する濾過器洗浄を開始する。
【0137】
また、濾過濃縮の際に、濾過を開始する膜間差圧(濾過開始差圧)を、濾過器10の耐圧基準や胸腹水A1の状態に応じて、予め濾過器10の耐圧基準より小さい値に設定し、濾過開始時より定圧濾過を行ってもよい。この濾過開始差圧は、特定の値に設定してもよいし、所定の幅を有していてもよい。また、濾過開始差圧は、前記の濾過許容差圧と同じでもよいし、小さい値に設定してもよい。膜間差圧と濾過流量をモニタリングしながら濾過を行い、濾過器10の目詰まりが進んで濾過流量が濾過許容流量より小さくなった際には、濾過濃縮を中断して、後述する濾過器洗浄を開始する。
【0138】
<濾過器洗浄>
図12に示すように、胸腹水処理システム2の濾過器10の洗浄時には、胸腹水供給チューブ流量調整部2cは閉鎖し、洗浄廃液排出チューブ流量調整手段7cは開放している。濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプは停止しており、濾過液排出チューブ3はローラーポンプによってクランプされた状態にある。この状態で、洗浄液供給チューブ送液部6pのローラーポンプが回転することによって、洗浄液バッグSBから洗浄液SLが濾過器10の洗浄液供給口11dを通って、中空糸膜の内側腔16iに供給され、中空糸膜の壁16wの孔を通過して中空糸膜の外側腔16oに達する。中空糸膜の外側腔16oの洗浄廃液WLは、洗浄廃液排出チューブ送液部7pのローラーポンプが回転することによって濾過器の胸腹水供給口11aから排出されて洗浄廃液バッグWB内に貯留するとともに、開放された洗浄廃液排出チューブ流量調整手段7cの設けられた洗浄廃液排出チューブ7を介して洗浄廃液バッグWB内に貯留する。
【0139】
この洗浄廃液排出チューブ送液部7pの設けられた洗浄廃液排出チューブ7を介する洗浄廃液WLの排出と、洗浄廃液排出チューブ流量調整手段7cの設けられた洗浄廃液排出チューブ7を介する洗浄廃液WLの排出は、同時に行われても良しい、一方のみが行われることも可能である。また、洗浄廃液排出チューブ送液部7pの流量は、胸腹水の状況や濾過器の目詰まりの状況などに合わせて調整することが可能である。
【0140】
この濾過器洗浄によって、
図10に示すように、濾過器洗浄によって、目詰まりを起こした濾過器10の目詰まり物質17である、中空糸膜16の外側面に付着した癌細胞、細菌、血球成分、フィブリン、蛋白質などや、中空糸膜外側腔16oに貯留したフィブリンなどの凝集塊、凝血塊、血球成分、脂肪粒子のミセルなどが、洗浄液SLによって剥離して、洗浄廃液WLとして濾過器10から除去される。
【0141】
第2実施形態の胸腹水処理システム2Aは、第1実施形態の濾過器洗浄時の特徴(特徴1、特徴2)に加え、濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出が濾過器10の周壁12の2ヶ所のポートから行われる特徴(特徴4)を有している。
【0142】
洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が同じポートから行われること(特徴1)によって、胸腹水供給口11a付近に多量の洗浄液が流れる。これによって、洗浄廃液の排出と胸腹水供給が別のポートで行われる従来の濾過器洗浄法では十分な除去が困難であった、胸腹水供給口11aの内部や胸腹水供給口11a近くの部位の中空糸膜外側腔16oに蓄積する凝集塊などや、胸腹水供給口11a近くの中空糸膜16の外側壁へ付着した蛋白質やフィブリンなどの、外圧式濾過法で問題となっている目詰まり物質17を効果的に除去することができる。
【0143】
また、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れる。
図11に示す濾過濃縮時には、濾過液排出チューブ送液部3pによって、中空糸膜内腔16i内に陰圧を生じさせ、胸腹水A1を濾過器10に供給する。この際、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、濃縮液排出口11bに近い部位ほど多くの胸腹水A1が流れるため、濾過液排出口11b近くの中空糸膜16の外側壁へ蛋白質やフィブリンなどの目詰まり物質がより多く付着し、中空糸外側腔16oに凝集塊が蓄積する。中空糸膜内腔16iに洗浄液SLが注入された場合にも、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、供給口に近い部位ほど強い圧力が加わって洗浄効果が高くなる。このため、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れ、上述した目詰まり物質を効果的に洗浄して除去することができる。
【0144】
さらに、濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出が濾過器10の周壁12の2ヶ所のポートから行われること(特徴4)によって、中空糸膜外側腔16oの洗浄廃液WLの流れが滞らずに滑らかになることによって、中空糸膜外側腔16oの様々な部位の目詰まり物質を効果的に除去することができる。
【0145】
また、洗浄廃液排出チューブ7の一方に洗浄廃液排出チューブ送液部7pを設けることによって、中空糸外側腔16oの圧力が低下し、中空糸膜内腔16iから中空糸外側腔16oへ洗浄液SLが勢いよく流出し、濾過器10から排出されるため、目詰まり物質17を効果的に除去できる。さらに、濾過器の2ヶ所の洗浄廃液排出口から廃液を排出する際に生じる、目詰まりの弱い部位のみに洗浄液SLが流れ、目詰まりの強い部位に流れにくくなることを防ぎ、中空糸膜外側腔16oの全体に洗浄液SLが行き渡り、目詰まり物質17を効果的に除去できる。
【0146】
第2実施形態の胸腹水処理システム2Aでは、濾過器10の洗浄時には、濾過器の中空糸膜外側圧計測用チューブ11eが接続された圧力計P1と濾過器の中空糸膜内側圧計測用チューブ11fが接続された圧力計P2によって、中空糸膜外側圧p1と中空糸膜内側圧p2が計測される。また、中空糸膜外側圧p1と中空糸膜内側圧p2の差圧である膜間差圧が計算される。
【0147】
濾過器10の洗浄時には、濾過器10の中空糸膜表面に付着した蛋白質などの有効成分や、洗浄開始時に濾過器10の中空糸膜の外側腔16oの胸腹水A1や中空糸膜の内側腔16iの濾過液A2も洗浄廃液WLに含まれて排出されるため、洗浄18によって、癌細胞、細菌などの有害物質だけでなく、蛋白質などの有用物質も同時に失われる。このため、患者に投与する回収液中の有効成分を多く回収するためには、1回の洗浄効果を高めて、洗浄回数を少なくする必要がある。
【0148】
洗浄液SLが低流量で中空糸膜の内側腔16iに注入された場合には、中空糸膜の目詰まりを起こしていない部位の中空糸膜の膜孔に流れてしまい、十分な洗浄効果が得られない。このため、濾過器洗浄時には、1回の洗浄効果を高めるために、洗浄液供給チューブ送液部6pの回転数を上げて、高流量で十分な圧力を加えて洗浄することが望ましい。しかし、濾過器10の洗浄時に、中空糸膜16に耐圧基準以上の膜間差圧が加わると中空糸膜16が破損して、胸腹水A1の癌細胞、細菌などの有害物質が回収液中に混入し、患者に投与されて副作用を引き起こす危険性がある。
【0149】
そこで、胸腹水処理システム2Aの濾過器洗浄時には、中空糸膜外側圧p1、中空糸膜内側圧p2、膜間差圧をモニタリングしながら洗浄を行い、膜間差圧が耐圧基準よりも低い設定値となるように、洗浄液供給チューブ送液部6pの作動を制御する。その場合、濾過器10の耐圧基準や胸腹水A1の状態に応じて、予め濾過器10の許容できる膜間差圧(洗浄許容差圧)を、濾過器10の耐圧基準より小さい値に設定する。この洗浄許容差圧は、特定の値に設定してもよいし、所定の幅を有していてもよい。
【0150】
濾過器洗浄時には、同じ洗浄流量で洗浄液SLを中空糸膜の内側腔16iに注入しても、濾過器の中空糸膜の目詰まりの状況によって洗浄時の膜間差圧は異なり、目詰まりの程度が強くなると膜間圧力差が大きくなる。そこで、胸腹水処理システム2Aの濾過器洗浄時には、低流量の洗浄液流量で洗浄を開始し、膜間差圧が洗浄許容差圧以下になるように、次第に洗浄液流量を増加させることが望ましい。
【0151】
具体的には、例えば50mL/分の流量で洗浄を開始し、数秒ごとに流量を増加させ、洗浄許容差圧になるまで増加させ、その時点での洗浄液流量で濾過器洗浄を行う。または、予め定めておいた最大洗浄液流量となるまで洗浄液流量が増加した場合には、最大洗浄液量で濾過器洗浄を継続する。
【0152】
また、目詰まりが洗浄によって解除されて膜間差圧が低下してきた場合には、流量を増加させ、洗浄許容差圧を維持した状態で濾過器洗浄を継続してもよい。
【0153】
<模擬腹水を用いた濾過濃縮と濾過器洗浄の実施例>
次に、
図13に、第2実施形態の胸腹水処理システム2Aを用いて外圧濾過法で、乳び腹水を模擬した模擬腹水を用いた実験を行い、濾過濃縮と濾過器洗浄を行った際の濾過器10の中空糸膜外側圧p1、中空糸膜内側圧p2、膜間差圧(TMP)の推移を提示する。
【0154】
乳び腹水は、外傷、手術、リンパ腫、結核、サルコイドー シスなどが原因となって、リンパ管の閉塞や破綻が生じ、腹腔内にリンパ液が漏出して貯留する腹水である。腹水中の中性脂肪はミセルを形成し、その直径が濾過器10の中空糸膜の孔の最大径0.2μmより大きいため、濾過器10の中空糸膜15の孔を通過せず、濾過器の目詰まりを起こしやすい腹水である。CARTのために採取する乳び腹水は6L以上の多量であることが多く、濾過器の目詰まりによって採取した全量の濾過濃縮ができずに中止せざるを得ないことも多い。
【0155】
実験では、静注用脂肪乳剤、代用血漿、生理食塩水、赤色絵具を用いて、乳び腹水を再現した模擬腹水を7L作成し、使用した。濾過濃縮には、臨床で使用されている腹水濾過器、腹水濃縮器、胸腹水濾過濃縮用装置を用い、濾過濃縮流量50mL/分で外圧方式の濾過濃縮(定量濾過)を行った。なお、濾過器10は、胸腹水濾過濃縮用装置の濾過器ホルダーに地面に対して垂直に保持した状況で使用した。また、使用した濾過器の耐圧基準の膜間差圧は500mmHgのため、予め洗浄許容差圧を300mmHgに設定した。
【0156】
濾過濃縮開始後には、膜間差圧が次第に上昇し、洗浄許容差圧の300mmHgを超えた時点で、胸腹水処理用装置による自動洗浄を開始した。濾過器洗浄時には、次第に流量を増加させたが、予め設定していた最大洗浄液流量250mL/分となっても膜間差圧が予め設定していた洗浄許容差圧の300mmHgまで達することはなく、1回の洗浄に1Lの生理食塩水を用い、約4分で濾過器洗浄を行った。7Lの模擬腹水を濾過濃縮するのに3回の濾過器洗浄を要したが、約160分で濾過濃縮を完了できた。
【0157】
<第2実施形態の胸腹水処理システム2B~2D>
上述した第2実施形態の胸腹水処理システム2Aは、濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出と胸腹水供給が濾過器10の同じポートから行われること(特徴1)、洗浄液の供給と濾過液の排出が同じポートから行われること(特徴2)、濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出が濾過器10の周壁12の2ヶ所のポートから行われること(特徴4)の3つの特徴を有しているが、基本構成要素(濾過器10、濃縮器20、濾過液排出チューブ送液部3p、濃縮液チューブ送液部4p、洗浄液供給チューブ送液部6p、胸腹水供給チューブ流量調整部2c、洗浄廃液排出チューブ流量調整部7c、洗浄廃液チューブ送液部7p、圧力計測器P1~P3、胸腹水バッグUB、洗浄液バッグSB、洗浄廃液バッグWB、回収液バッグCB、濃縮廃液バッグDB)は同じで、胸腹水供給チューブ2と洗浄液供給チューブ6の接続する位置のみを変えることによって、特徴4に加えて、上記の特徴1、または、特徴2、または、特徴1と特徴2の両方の特徴を有している構成としてもよい。
【0158】
<第2実施形態の胸腹水処理システム2B>
つまり、
図14に示すように、第2実施形態の胸腹水処理システム2Bでは、胸腹水処理システム2Aの胸腹水供給チューブ2が、濾過器10の濾過液排出口11bから離れた位置の周壁のポートに接続される構成に変更されている。
【0159】
この胸腹水処理システム2Bは、濾過器洗浄時に洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が濾過器10の同じポートから行われること(特徴1)、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)、濾過器洗浄時に洗浄廃液WLの排出が濾過器10の周壁12の2ヶ所のポートから行われること(特徴4)の3つの特徴を有している。
【0160】
洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が同じポートから行われること(特徴1)によって、胸腹水供給口11a付近に多量の洗浄液が流れる。これによって、洗浄廃液の排出と胸腹水供給が別のポートで行われる従来の濾過器洗浄法では十分な除去が困難であった、胸腹水供給口11aの内部や胸腹水供給口11a近くの部位の中空糸膜外側腔16oに蓄積する凝集塊などや、胸腹水供給口11a近くの中空糸膜16の外側壁へ付着した蛋白質やフィブリンなどの、外圧式濾過法で問題となっている目詰まり物質17を効果的に除去することができる。
【0161】
また、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れる。濾過濃縮時には、濾過液排出チューブ送液部3pによって、中空糸膜内腔16i内に陰圧を生じさせ、胸腹水A1を濾過器10に供給する。この際、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、濃縮液排出口11bに近い部位ほど多くの胸腹水A1が流れるため、濾過液排出口11b近くの中空糸膜16の外側壁へ蛋白質やフィブリンなどの目詰まり物質がより多く付着し、中空糸外側腔16oに凝集塊が蓄積する。中空糸膜内腔16iに洗浄液SLが注入された場合にも、中空糸膜内腔16i内に圧勾配が生じ、供給口に近い部位ほど強い圧力が加わって洗浄効果が高くなる。このため、洗浄液SLの供給と濾過液A2の排出が同じポートから行われること(特徴2)によって、濾過液排出口11b近くの中空糸外側腔16oにより多くの洗浄液SLが流れ、上述した目詰まり物質を効果的に洗浄して除去することができる。
【0162】
さらに、濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出が濾過器10の周壁12の2ヶ所のポートから行われること(特徴4)によって、中空糸膜外側腔16oの洗浄廃液WLの流れが滞らずに滑らかになることによって、中空糸膜外側腔16oの様々な部位の目詰まり物質を効果的に除去することができる。
【0163】
また、洗浄廃液排出チューブ7の一方に洗浄廃液排出チューブ送液部7pを設けることによって、中空糸外側腔16oの圧力が低下し、中空糸膜内腔16iから中空糸外側腔16oへ洗浄液SLが勢いよく流出し、濾過器10から排出されるため、目詰まり物質17を効果的に除去できる。さらに、濾過器の2ヶ所の洗浄廃液排出口から廃液を排出する際に生じる、目詰まりの弱い部位のみに洗浄液SLが流れ、目詰まりの強い部位に流れにくくなることを防ぎ、中空糸膜外側腔16oの全体に洗浄液SLが行き渡り、目詰まり物質17を効果的に除去できる。
【0164】
さらに、この胸腹水処理システム2Bでも、胸腹水処理システム2Aと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、濾過流量や膜間差圧に基づく濾過濃縮作業や濾過器洗浄作業の制御を行うことができる。
【0165】
<第1実施形態の胸腹水処理システム2C>
また、
図15に示すように、第2実施形態の胸腹水処理システム2Cでは、胸腹水処理システム2Aの胸腹水供給チューブ2が、濾過器10の濾過液排出口11bから離れた位置の周壁のポートに接続され、洗浄液供給チューブ6が、濾過液排出口11bの対側のヘッダのポートに接続される構成に変更されている。
【0166】
この胸腹水処理システム2Cは、濾過器洗浄時に洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が濾過器10の同じポートから行われる特徴(特徴1)と、濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出が濾過器10の周壁12の2ヶ所のポートから行われる特徴(特徴4)の、2つの特徴を有している。
【0167】
洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が同じポートから行われること(特徴1)によって、胸腹水供給口11a付近に多量の洗浄液が流れる。これによって、洗浄廃液の排出と胸腹水供給が別のポートで行われる従来の濾過器洗浄法では十分な除去が困難であった、胸腹水供給口11aの内部や胸腹水供給口11a近くの部位の中空糸膜外側腔16oに蓄積する凝集塊などや、胸腹水供給口11a近くの中空糸膜16の外側壁へ付着した蛋白質やフィブリンなどの、外圧式濾過法で問題となっている目詰まり物質17を効果的に除去することができる。
【0168】
さらに、濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出が濾過器10の周壁12の2ヶ所のポートから行われること(特徴4)によって、中空糸膜外側腔16oの洗浄廃液WLの流れが滞らずに滑らかになることによって、中空糸膜外側腔16oの様々な部位の目詰まり物質を効果的に除去することができる。
【0169】
また、洗浄廃液排出チューブ7の一方に洗浄廃液排出チューブ送液部7pを設けることによって、中空糸外側腔16oの圧力が低下し、中空糸膜内腔16iから中空糸外側腔16oへ洗浄液SLが勢いよく流出し、濾過器10から排出されるため、目詰まり物質17を効果的に除去できる。さらに、濾過器の2ヶ所の洗浄廃液排出口から廃液を排出する際に生じる、目詰まりの弱い部位のみに洗浄液SLが流れ、目詰まりの強い部位に流れにくくなることを防ぎ、中空糸膜外側腔16oの全体に洗浄液SLが行き渡り、目詰まり物質17を効果的に除去できる。
【0170】
さらに、この胸腹水処理システム2Cでも、胸腹水処理システム2Aと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、濾過流量や膜間差圧に基づく濾過濃縮作業や濾過器洗浄作業の制御を行うことができる。
【0171】
<第1実施形態の胸腹水処理システム2D>
また、
図16に示すように、第2実施形態の胸腹水処理システム2Dでは、洗浄液供給チューブ6が、濾過液排出口11bの対側のヘッダのポートに接続される構成に変更されている。
【0172】
この胸腹水処理システム2Dは、濾過器洗浄時に洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が濾過器10の同じポートから行われること(特徴1)と濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出が濾過器10の周壁12の2ヶ所のポートから行われること(特徴4)の3つの特徴を有している。
【0173】
洗浄廃液WLの排出と胸腹水A1の供給が同じポートから行われること(特徴1)によって、胸腹水供給口11a付近に多量の洗浄液が流れる。これによって、洗浄廃液の排出と胸腹水供給が別のポートで行われる従来の濾過器洗浄法では十分な除去が困難であった、胸腹水供給口11aの内部や胸腹水供給口11a近くの部位の中空糸膜外側腔16oに蓄積する凝集塊などや、胸腹水供給口11a近くの中空糸膜16の外側壁へ付着した蛋白質やフィブリンなどの、外圧式濾過法で問題となっている目詰まり物質17を効果的に除去することができる。
【0174】
また、濾過器洗浄時に洗浄廃液の排出が濾過器10の周壁12の2ヶ所のポートから行われること(特徴4)によって、中空糸膜外側腔16oの洗浄廃液WLの流れが滞らずに滑らかになることによって、中空糸膜外側腔16oの様々な部位の目詰まり物質を効果的に除去することができる。
【0175】
また、洗浄廃液排出チューブ7の一方に洗浄廃液排出チューブ送液部7pを設けることによって、中空糸外側腔16oの圧力が低下し、中空糸膜内腔16iから中空糸外側腔16oへ洗浄液SLが勢いよく流出し、濾過器10から排出されるため、目詰まり物質17を効果的に除去できる。さらに、濾過器の2ヶ所の洗浄廃液排出口から洗浄廃液WLを排出する際に生じる、目詰まりの弱い部位のみに洗浄液SLが流れ、目詰まりの強い部位に流れにくくなることを防ぎ、中空糸膜外側腔16oの全体に洗浄液SLが行き渡り、目詰まり物質17を効果的に除去できる。
【0176】
さらに、この胸腹水処理システム2Dでも、胸腹水処理システム2Aと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、濾過流量や膜間差圧に基づく濾過濃縮作業や濾過器洗浄作業の制御を行うことができる。
【0177】
<第3実施形態の胸腹水処理システム3A>
次に、第3実施形態の胸腹水処理システム3Aについて説明する。第3実施形態の胸腹水処理システムは、濾過液排出チューブ3の途中に濾過液A2を一時的に貯留する濾過液バッグFBが設けられている特徴(特徴5)を有している。
【0178】
<第3実施形態の胸腹水処理システム3Aの回路構成>
図17に基づいて、第3実施形態の胸腹水処理システム3Aの回路構成を説明する。胸腹水処理システム3Aは、
図1に示す第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの回路の濾過液排出チューブ3が濾過液A2を一時的に貯留する濾過液バッグFBに接続され、濾過液バッグFBは濾過器排出チューブ送液部8pが設けられた濾過液排出チューブ8を介して、濃縮器20の中空糸膜内側腔と連通する濾過液供給口20aに接続された構成になっている。
【0179】
なお、
図17に示す第3実施形態の胸腹水処理システム3Aは、
図1に示す第1実施形態1の胸腹水処理システム1Aの回路の濾過液排出チューブ3の途中に濾過液バッグFBが設けられたものであるが、上述した第1実施形態の胸腹水処理システム1A~1Gおよび第2実施形態の胸腹水処理システム2A~2Dの全ての回路の濾過液排出チューブ3の途中に濾過液バッグFBを設ける構成にしてもよい。
【0180】
また、濾過液バッグFBから濃縮器20に濾過液A2を供給するために、濾過器排出チューブ送液部8pが設けられているが、濾過廃液排出チューブに送液部を設ける構成にすることも可能である。
【0181】
さらに、回収液バッグCBを設けず、回収液排出チューブを濾過液バッグFBに接続した構成にすることも可能である。
【0182】
<第3実施形態の胸腹水処理システム3の動作>
次に、
図17、
図18に基づいて第3実施形態の腹水処理システム3の動作について説明する。
【0183】
<濾過濃縮>
図17に示すように、胸腹水処理システム3Aの濾過濃縮時には、胸腹水供給チューブ流量調整部2cは開放し、洗浄廃液排出チューブ流量調整手段7cは閉鎖している。洗浄液供給チューブ送液部6pのローラーポンプは停止しており、洗浄液供給チューブ6はローラーポンプによってクランプされた状態にある。この状態で、濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプが回転することによって、胸腹水供給バッグUBから胸腹水A1が濾過器10の胸腹水供給口11aを通って、中空糸膜外側腔16oに供給され、濾過器の濾過液排出口11bから排出された濾過液A2が濾過液バッグFBに貯留される。濾過器10の中空糸膜16によって、胸腹水A1の癌細胞、細菌などの有害物質が選択的に除去され、蛋白質などの有用物質は、濾過液A2の中に含まれる。
【0184】
濾過液バッグFB内の濾過液A2は、濾過液排出チューブ送液部8pのローラーポンプが回転することによって、濃縮器20の濾過液供給口20aを通って、濃縮器20の中空糸膜内側腔に供給される。濃縮器20に供給された濾過液A2は、濃縮液排出チューブ送液部4pのローラーポンプが回転することによって、回収液A3が排出され、回収液バッグCB内に貯留する。濃縮液排出チューブ送液部4pのローラーポンプの流量は、濾過液排出チューブ送液部8pのローラーポンプの流量より小さく設定され、その差分の流量で、濃縮器20の濃縮廃液排出口20cより、アルブミンなどの有用物質を含まない水分が排出され、濃縮廃液バッグDB内に貯留する。
【0185】
なお、濾過濃縮時に、濾過器10による胸腹水A1の濾過と、濃縮器20による濾過液A2の濃縮を同時に行ってもよいし、いずれか一方のみを行ってもよい。
【0186】
第3実施形態の腹水処理システム3は、濾過液バッグFBを設けること(特徴5)によって、濾過器10による胸腹水A1の濾過と、濃縮器20による濾過液A2の濃縮を別々に行うことができるようになり、濃縮器20の性能や濃縮器20の目詰まりの状況に関係なく、胸腹水A1の状態、濾過器10の性能、濾過器10の目詰まりの状況に合わせた胸腹水A1の濾過を行うことが可能となる。これによって、蛋白質濃度の高い胸腹水を濾過濃縮する際に、濃縮器20の目詰まりの影響で濾過液排出チューブ送液部3pの流量を下げることによって処理時間が延長することが無くなり、処理時間の延長が原因で濾過前の胸腹水中にフィブリンなどの析出物が生じて濾過器10の目詰まりが生じやすくなることを防ぐことができるようになる。
【0187】
また、濾過液バッグFBを設けること(特徴5)によって、濾過器10による胸腹水A1の濾過と、濃縮器20による濾過液A2の濃縮を別々に行うことができるようになり、濾過器10の性能や濾過器10の目詰まりの状況に関係なく、濾過液A2の状態、濃縮器20の性能、濃縮器20の目詰まりの状況に合わせた濾過液A2の濃縮を行うことが可能となる。これによって、
図18に示すように、卵巣癌などによる癌細胞、血球成分、フィブリンなどの目詰まり物質の多い胸性腹水を処理する際に、頻回の濾過器洗浄中にも濃縮を継続することができ、処理時間を短縮することができるようになる。
【0188】
<濾過器洗浄>
図18に示すように、胸腹水処理システム3Aの濾過器10の洗浄時には、胸腹水供給チューブ流量調整部2cは閉鎖し、洗浄廃液排出チューブ流量調整手段7cは開放している。濾過液排出チューブ送液部3pのローラーポンプは停止しており、濾過液排出チューブ3はローラーポンプによってクランプされた状態にある。この状態で、洗浄液供給チューブ送液部6pのローラーポンプが回転することによって、洗浄液バッグSBから洗浄液SLが濾過器10の洗浄液供給口11dを通って、中空糸膜内側腔16iに供給され、中空糸膜の壁16wの孔を通過して中空糸膜外側腔16oに達し、洗浄廃液WLが濾過器の胸腹水供給口11aから排出され、洗浄廃液バッグWB内に貯留する。
【0189】
図10に示すように、濾過器洗浄によって、目詰まりを起こした濾過器10の目詰まり物質17である、中空糸膜16の外側面に付着した癌細胞、細菌、血球成分、フィブリン、蛋白質などや、中空糸膜外側腔16oに貯留したフィブリンなどの凝集塊、凝血塊、血球成分、脂肪粒子のミセルなどが、洗浄液SLによって剥離して、洗浄廃液WLとして濾過器10から除去される。
【0190】
第3実施形態の胸腹水処理システム3Aは、
図1に示す第1実施形態の胸腹水処理システム1Aの濾過器洗浄に関する3つの特徴(特徴1~特徴3)に加え、濾過液排出チューブ3の途中に濾過液A2を一時的に貯留する濾過液バッグFBが設けられている特徴(特徴5)を有している。
【0191】
濾過液バッグFBを設けること(特徴5)によって、濾過器洗浄と、濃縮器20による濾過液A2の濃縮を別々に行うことができるようになり、卵巣癌などによる癌細胞、血球成分、フィブリンなどの目詰まり物質の多い胸性腹水を処理する際に、頻回の濾過器洗浄中にも濃縮を継続することができ、処理時間を短縮することができるようになる。
【0192】
さらに、この胸腹水処理システム3Aでも、胸腹水処理システム1A~1Gや胸腹水処理システム2A~2Dと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、濾過流量や膜間差圧に基づく濾過濃縮作業や濾過器洗浄作業の制御を行うことができる。
【0193】
<第3実施形態の胸腹水処理システム3B>
上述した
図17、
図18に示す第3実施形態の胸腹水処理システム3Aは、濾過液バッグFBが、濾過液排出チューブ3を介して濾過器10に接続され、濾過液排出チューブ8を介して濃縮器20に接続されているが、濾過液バッグFBが濃縮器10から切り離した状態で濾過が行われ、その後に、濾過液バッグFBを濾過器から切り離して濃縮器20に接続して濃縮が行われる構成としてもよい。
【0194】
つまり、
図19、
図20に示すように、第3実施形態の胸腹水処理システム3Bでは、濾過液排出チューブ3の途中と濾過液排出チューブ8の途中に、各々、接続と切り離しとが可能な接続部3jと8jと、濾過液バッグFBに連通した濾過液排出チューブ3と濾過液排出チューブ8には、各々、濾過液排出チューブ流量調整部3cと濾過液排出チューブ流量調整部8cとが設けられ、濾過液バッグFBが濃縮器10から切り離した状態で濾過が行われ、その後に、濾過液バッグFBを濾過器から切り離して濃縮器20に接続して濃縮が行われる構成となっている。
【0195】
図19に示すように、濾過器10による胸腹水A1の濾過時には、濾過液バッグFBに連通した濾過液排出チューブ3の濾過液排出チューブ流量調整部3cは開放し、濾過液排出チューブ8の濾過液排出チューブ流量調整部8cは閉鎖している。濃縮器20による濾過液A2の濃縮時には、濾過液排出チューブ流量調整部3cと濾過液排出チューブ流量調整部8cの両方を閉鎖した状態で、濾過液排出チューブ3の接続部3jで、濾過液バッグFBを切り離した状態にする。その後、
図20に示すように、接続部8jで濾過液排出チューブ8に濾過液バッグFBを接続し、濾過液排出チューブ流量調整部8cを解放し、濃縮を開始する。
【0196】
濾過液バッグFBが濃縮器10から切り離した状態で濾過が行われ、その後に、濾過液バッグFBを濾過器から切り離して濃縮器20に接続して濃縮が行われることによって、一つの装置で、濾過と濃縮を別々に行うことも可能となり、装置を小型化することができる。例えば、
図1、
図2に示す第1実施形態の胸腹水処理システム1Aで、濾過濃縮と濾過器洗浄を自動で行う場合には、3個のローラーポンプを装備した装置が必要であるが、
図19、
図20に示す第3実施形態の胸腹水処理システム3Bでは、濾過液排出チューブ送液部3pと濾過液排出チューブ送液部8cのローラーポンプを同じものを使用し、濃縮液排出チューブ送液部4pと洗浄液供給チューブ送液部9pのローラーポンプを同じものを使用すれば、2個のローラーポンプを備えた装置で濾過と濾過器洗浄、濃縮を別々に自動で行うことができる。さらに、胸腹水供給バッグUBを濾過器の上方に配置して落差を利用して胸腹水が供給されるようにし、濃縮液排出チューブ送液部4pの代わりに、圧迫などによってチューブ内腔の断面積を変化させて液体の流量を調整する機能を有する器具であるクレンメ等の流量調整部を設けることによって、1個のローラーポンプを備えた装置で濾過作業、濃縮作業、濾過器洗浄作業の全てを行うことができる。
【0197】
なお、この胸腹水処理システム3Bでも、胸腹水処理システム3Aと同様に、濾過器10の膜間差圧、または膜間差圧と濾過流量をモニタリングし、濾過流量や膜間差圧に基づく濾過作業や濾過器洗浄作業の制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0198】
1A 胸腹水処理システム
2 胸腹水供給チューブ
2c 胸腹水供給チューブ流量調整部
2p 胸腹水供給チューブ送液部
3 濾過液排出チューブ
3c 濾過液排出チューブ流量調整部
3p 濾過液排出チューブ送液部
3j 濾過液排出チューブ接続部
4 濃縮液排出チューブ
4p 濃縮液排出チューブ送液部
5 濾過廃液排出チューブ
6 洗浄液供給チューブ
6p 洗浄液供給チューブ送液部
7 洗浄廃液排出チューブ
7c 洗浄廃液排出チューブ流量調整部
7p 洗浄廃液排出チューブ送液部
8 濾過液排出チューブ
8c 濾過液排出チューブ流量調整部
8p 濾過液排出チューブ送液部
8j 濾過液排出チューブ接続部
10 濾過器
11 本体部
11a 胸腹水供給口
11b 濾過液排出口
11c 洗浄廃液排出口
11d 洗浄液供給口
11e 濾過器の中空糸膜外側圧計測用チューブ
11f 濾過器の中空糸膜内側圧計測用チューブ
11A 中空糸膜外側腔と連通するポート
11B 中空糸膜内側腔と連通するポート
11C 中空糸膜外側腔と連通するポート
11D 中空糸膜内側腔と連通するポート
12 周壁
13 ヘッダ部
14 ヘッダ部
15 中空糸膜束
16 中空糸膜
16w 中空糸膜の壁
16o 中空糸膜外側腔
16i 中空糸膜内側腔
17 目詰まり物質
18 濾過器洗浄
20 濃縮器
20a 濾過液供給口
20b 濃縮液排出口
20c 濾過廃液排出口
20d 濃縮器の入口圧計測用チューブ
UB 胸腹水供給バッグ
CB 回収液バッグ
SB 洗浄液バッグ
DB 濃縮廃液バッグ
WB 洗浄廃液バッグ
FB 濾過液バッグ
P1 圧力計
P2 圧力計
P3 圧力計
p1 中空糸膜外側圧
p2 中空糸膜内側圧
TMP 膜間差圧
A1 胸腹水
A2 濾過液
A3 回収液
SL 洗浄液
WL 洗浄廃液
DL 濃縮廃液