(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107630
(43)【公開日】2022-07-22
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20220714BHJP
C10M 139/00 20060101ALI20220714BHJP
C10M 135/10 20060101ALI20220714BHJP
C10M 159/24 20060101ALI20220714BHJP
C10M 159/22 20060101ALI20220714BHJP
C10M 129/10 20060101ALI20220714BHJP
C10M 129/54 20060101ALI20220714BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20220714BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20220714BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220714BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220714BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M139/00 Z
C10M135/10
C10M159/24
C10M159/22
C10M129/10
C10M129/54
C10M139/00 A
C10N10:12
C10N10:04
C10N30:06
C10N30:00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022076733
(22)【出願日】2022-05-06
(62)【分割の表示】P 2017127408の分割
【原出願日】2017-06-29
(31)【優先権主張番号】16177243.9
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ ピーター ハートリー
(57)【要約】
【課題】本発明は、ガソリンおよびディーゼル内燃機関において使用するための自動車のクランクケース潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】クランクケース潤滑油組成物であって、該組成物は、(A) 大量の潤滑粘度を持つオイル;(B) 該潤滑油組成物に600~1,500ppmのモリブデン原子を与える、オイル-可溶性またはオイル-分散性のモリブデン-含有添加剤;(C) ASTM D5185に従って測定して、該潤滑油組成物に200~4,000ppmのマグネシウム原子を与える量の、1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤を含有する洗浄剤組成物;および(D) 該潤滑油組成物中に、ASTM D5185に従って測定して、該潤滑油組成物に200~600ppmのホウ素原子を与えるのに十分な量で存在する、オイル-可溶性またはオイル-分散性のホウ素-含有化合物を含み、またはこれらを混合することにより製造される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケース潤滑油組成物であって、
(A) 大量の潤滑粘度を持つオイル;
(B) 該潤滑油組成物に600~1,500ppmのモリブデン原子を与える、オイル-可溶性またはオイル-分散性のモリブデン-含有添加剤;
(C) ASTM D5185に従って測定して、該潤滑油組成物に200~4,000ppmのマグネシウム原子を与える量の、1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤を含有する洗浄剤組成物;および
(D) 該潤滑油組成物中に、ASTM D5185に従って測定して、該潤滑油組成物に200~600ppmのホウ素原子を与えるのに十分な量で存在する、オイル-可溶性またはオイル-分散性のホウ素-含有化合物、
を含み、またはこれらを混合することにより製造される、前記組成物。
【請求項2】
前記洗浄剤組成物が、1種またはそれ以上の追加の洗浄剤添加物を含み、該洗浄剤添加物が、サリチル酸マグネシウム、サリチル酸カルシウム、スルホン酸カルシウム、マグネシウムフェネート、カルシウムフェネート、2種またはそれ以上のこれら追加の洗浄剤添加物を含有するハイブリッド洗浄剤および/またはこれらの組合せから選択される、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記洗浄剤組成物が、更にサリチル酸カルシウムおよび/またはスルホン酸カルシウム洗浄剤をも含む、請求項2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記洗浄剤組成物が、1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤および1種またはそれ以上のサリチル酸カルシウム洗浄剤からなる、請求項3記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記カルシウム-含有洗浄剤が、ASTM D5185に従って測定して、前記潤滑油組成物に、500~4,000ppm、好ましくは750~3,000ppm、より好ましくは900~2,000ppmのカルシウム原子を与えるのに十分な量で存在する、請求項3または4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
火花点火式または圧縮点火式内燃機関を潤滑する方法であって、請求項1~5の何れか1項に従って定義された如き潤滑油組成物で、該機関を潤滑する工程を含む、前記方法。
【請求項7】
クランクケース潤滑油組成物におけるマグネシウム-含有洗浄剤の使用であって、ASTM D5185に従って測定して、該潤滑油組成物に200~4,000ppmのマグネシウムを与えるのに十分な量の該マグネシウム-含有洗浄剤を含まない等価な潤滑剤に比較して、境界摩擦測定値を減じるための、該潤滑油組成物に200~4,000ppmのマグネシウムを与えるのに十分な量での、前記マグネシウム-含有洗浄剤の使用。
【請求項8】
前記マグネシウム-含有洗浄剤が、1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤である、請求項7記載の使用。
【請求項9】
前記潤滑油組成物が、該潤滑油組成物に600~1,500ppmのモリブデン原子(ASTM D5185)を与える、オイル-可溶性またはオイル-分散性のモリブデン-含有添加剤を更に含む、請求項7または8記載の使用。
【請求項10】
前記潤滑油組成物が、該潤滑油組成物に200~600ppmのホウ素原子(ASTM D5185)を与える、オイル-可溶性またはオイル-分散性ホウ素-含有添加剤を更に含む、請求項7、8または9の何れか1項に記載の使用。
【請求項11】
洗浄剤組成物が、更にサリチル酸マグネシウム、マグネシウムフェネート、サリチル酸カルシウム、カルシウムフェネートおよび/またはスルホン酸カルシウムから選択される1種またはそれ以上の追加の洗浄剤添加物をも含有する、請求項7~10の何れか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記洗浄剤組成物が、1またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤および1またはそれ以上のカルシウム-含有洗浄剤からなる、請求項7~11の何れか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記洗浄剤組成物が、1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤および1種またはそれ以上のサリチル酸カルシウム洗浄剤からなる請求項12記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
前記カルシウム-含有洗浄剤が、ASTM D5185に従って測定して、前記潤滑油組成物に500~4,000ppm、好ましくは750~3,000ppm、より好ましくは900~2,000ppmのカルシウム原子を与えるのに十分な量で存在する、請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
火花点火式または圧縮点火式内燃機関のクランクケース潤滑における、請求項1~6の何れか1項に記載の潤滑油組成物の、該潤滑油組成物に200~4,000ppmのマグネシウム(ASTM D5185)を与えるのに十分な量での、前記マグネシウム-含有洗浄剤を含まない潤滑剤の使用と比較して、該機関の動作中の該機関内の接触金属表面間の摩擦係数を減じるための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された摩擦特性を発揮する、四輪自動車またはこれを超える自動車用の自動車潤滑油組成物に関する。より具体的には、本発明は、ガソリン(火花点火式)およびディーゼル(圧縮点火式)内燃機関において使用するための自動車のクランクケース潤滑油組成物に関し、このような組成物は、クランクケース潤滑剤と呼ばれている。また本発明は、このような機関の使用中における可動部品間の摩擦を減じおよび/または該潤滑油組成物で潤滑された機関の燃料経済性能を改善するための、このような潤滑油組成物における添加剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクケース潤滑剤は、内燃機関における一般的な潤滑のために使用されるオイルであり、該機関では、オイルサンプが、一般的には該機関のクランクシャフト下方に位置しており、またこれに循環されたオイルが戻る。該機関のエネルギーおよび燃料消費要求を減じるために、該機関の全体としての摩擦を減じるクランクケース潤滑剤へのニーズが存在する。エンジンにおける摩擦損失の低減は、燃料経済性能および燃料経済維持性能の改善に大きく寄与する。かなり以前から、改善された摩擦性能を得るために、摩擦調整剤を使用することが知られている。
オイル-可溶性モリブデン含有添加剤を、その摩擦低減特性のために使用することができる。潤滑油組成物用のオイル-可溶性モリブデン添加剤について言及している特許出願の例は、米国特許第4,164,473号;同第4,176,073号;同第4,176,074;同第4,192,757号;同第4,248,720号;同第4,201,683号;同第4,289,635号および同第4,479,883号を含む。幾つかの市場、例えば日本においては、高レベルのモリブデン含有添加剤、例えばモリブデンジチオカルバメートを摩擦調整剤として使用して、低い摩擦を実現することが一般的である。このような用途において、1,000ppmまでのモリブデン原子が、該潤滑剤中に存在し得る。
米国特許出願第6,074,993号は、二量体型および三量体型のモリブデン化合物の組合せが、燃料経済性およびZDDPおよびカルシウムおよび/またはマグネシウムスルホネート洗浄剤を含有する潤滑剤中での湿式クラッチ特性を改善し得ることを説明している。
【0003】
国際特許出願第WO 99/47629号は、改善された摩擦低減特性を得るための、カルシウム洗浄剤および三核モリブデン添加剤を含む潤滑剤に関する。データは、三核モリブデン化合物とスルホン酸カルシウムとの組合せが、摩擦低減特性の改善された維持性を発揮することを示している。
摩耗性能を改善する目的で、潤滑油組成物にホウ素を添加することは周知である。しかしながら、幾つかのオイル組成物において、高レベルのホウ素は、境界摩擦増大の原因となり得る。
国際特許出願第WO 96/19551号は、エンジンオイルに800ppmを超えるホウ素原子を供給するホウ素-含有アルケニルサクシンイミド、該オイルに50~2,000ppmのモリブデン原子を供給するモリブデンジチオホスフェートまたはジチオカルバメート、該オイルに50~4,000ppmのカルシウム原子を供給するサリチル酸カルシウム、該オイルに50~4,000ppmのマグネシウムを供給するサリチル酸マグネシウムおよび場合により少なくとも一つの他のα-オレフィンモノマーとエチレンとのコポリマーを含有するエンジンオイルを開示している。WO 96/19551号に係る潤滑油組成物は、改善された燃料経済性および燃料経済維持特性を発揮するものと記されている。
更に、国際特許出願第WO 96/37582号は、潤滑油組成物に200~1,000ppmのモリブデン原子を与えるスルホキシモリブデンジチオカルバメート、一級アルキル基を含みかつ該潤滑油組成物に0.04~0.15質量%のリン原子を与える亜鉛ジアルキルジチオカルバメート、および50~100質量%のカルシウムアルキルサリチレートと0~50質量%のマグネシウムアルキルサリチレートとの混合物を含有する潤滑油組成物を開示している。該潤滑油は、良好な耐摩耗特性および摩擦低減特性の維持性を持つものと述べられている。
【0004】
米国特許第US 5,631,212号はオイル-可溶性銅塩、およびオイル-可溶性モリブデン塩、第II属金属のサリチレートおよびホウ酸化(borated)ポリアルケニルサクシンイミドを含む潤滑油を開示しており、またこれが燃料経済性、摩耗性および抗酸化性に関する良好な性能を与えるものと述べている。
更に、欧州特許出願第EP 0 562 172号は、ホウ酸化アルケニルサクシンイミド、サリチル酸のアルカリ土類金属塩および100~2,000ppmの、モリブデンジチオホスフェートおよびモリブデンジチオカルバメートから選択されるモリブデン化合物由来のモリブデン原子を含む潤滑剤を開示しており、これはエンジンにおける摩擦損失の低減を可能とするものと考えられている。
燃料経済に関する法律は益々より厳しいものとなっており、またエンジンの設計は燃料経済性を変えるので、テストは、エンジンの動作と、より一層密に足並みをそろえるようになってきている。摩擦を減じ、またそれ故にエンジンの始動時に存在する低い温度(例えば、周囲温度(40℃)から0℃以下まで)を含む、該エンジンの完全な動作温度に渡って、燃料経済性を改善することが益々重要となっている。従って、エンジンの始動時点および該エンジンの完全な動作温度にわたり摩擦損失を低減し、それによって燃料経済性を改善する、所望の摩擦特性を示すクランクケース潤滑剤に対するニーズがある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、クランクケース潤滑油組成物を提供するものであり、該組成物は、
(A) 大量の潤滑粘度を持つオイル;
(B) 該潤滑油組成物に、ASTM D5185に従って測定して、600~1,500ppmのモリブデン原子を与える、オイル-可溶性またはオイル-分散性のモリブデン-含有添加剤;
(C) ASTM D5185に従って測定して、該潤滑油組成物に200~4,000ppmのマグネシウム原子を与える量の、1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤を含有する洗浄剤組成物;および
(D) ASTM D5185に従って測定して、該潤滑油組成物に200~600ppmのホウ素原子を与えるのに十分な量で該潤滑油組成物中に存在する、オイル-可溶性またはオイル-分散性のホウ素-含有化合物、
を含み、またはこれらを混合することにより製造される。
本発明の一態様において、上記洗浄剤組成物は、更にサリチル酸マグネシウム、マグネシウムフェネート、サリチル酸カルシウム、カルシウムフェネートおよび/またはスルホン酸カルシウム洗浄剤から選択される、1種またはそれ以上の追加の洗浄剤添加物をも含む。好ましくは、本発明の潤滑油組成物は、1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤と1種またはそれ以上のサリチル酸カルシウム洗浄剤との混合物からなる洗浄剤組成物を含む。
【0006】
予想外のことに、大量のオイル-可溶性またはオイル-分散性モリブデン化合物を含有する潤滑油組成物におけるスルホン酸マグネシウム洗浄剤の使用が、特に低温における該潤滑油組成物の摩擦性能における予想外の改良をもたらすことが見出された。従って、摩擦における低下は、典型的には結果として改善された燃料経済性となる。
本発明は、火花点火式または圧縮点火式内燃機関を潤滑する方法を提供し、該方法は、本発明に従って定義された如き潤滑油組成物で該機関を潤滑する工程を含む。
更に、本発明は、クランクケース潤滑油組成物に200~4,000ppmのマグネシウムを与えるのに十分な量での、該潤滑油組成物におけるマグネシウム-含有洗浄剤の使用を提供するものであり、この使用は、該マグネシウム-含有洗浄剤を含まない等価な潤滑剤に、ASTM D5185に従って測定して、200~4,000ppmのマグネシウムを与えるのに十分な量の該潤滑油組成物と比較して、境界摩擦測定値を減じるためである。
本発明の使用に係る一態様において、上記潤滑油組成物は、更にASTM D5185に従って測定して、該潤滑油組成物に500~1,500ppmのモリブデン原子を与えるのに十分な量のオイル-可溶性またはオイル-分散性モリブデン化合物、およびASTM D5185に従って測定して、該潤滑油組成物に200~600ppmのホウ素原子を与えるのに十分な量で該潤滑油組成物中に存在する、オイル-可溶性またはオイル-分散性ホウ素-含有化合物をも含む。
本発明の潤滑剤は、適切には火花点火式または圧縮点火式内燃機関のクランクケースの潤滑において使用される。
【0007】
本発明の使用に係る一態様において、上記マグネシウム-含有洗浄剤は、オイル-可溶性の、中性および過塩基化されたスルホン酸マグネシウム、マグネシウムフェネート、マグネシウム硫化フェネート、チオホスホン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、およびナフテン酸マグネシウムおよびその他のオイル-可溶性マグネシウムカルボキシレートからなる群から選択される、1種またはそれ以上の洗浄剤である。好ましくは、該マグネシウム-含有洗浄剤は、スルホン酸マグネシウムである。
本発明の使用に係るもう一つの態様に従えば、上記潤滑油組成物は、更にサリチル酸マグネシウム、マグネシウムフェネート、サリチル酸カルシウム、カルシウムフェネートおよび/またはスルホン酸カルシウム洗浄剤から選択される更なる洗浄剤添加物をも含む。好ましくは、本発明の使用に関連する潤滑油組成物は、1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤と1種またはそれ以上のサリチル酸カルシウム洗浄剤との混合物からなっている洗浄剤組成物を含む。
予想外のことに、大量のオイル-可溶性またはオイル-分散性のモリブデン化合物およびオイル-可溶性またはオイル-分散性のホウ素-含有化合物を含む潤滑油組成物におけるマグネシウム-含有洗浄剤の使用が、該潤滑油組成物の摩擦性能における予想外の改善をもたらすことが分かった。このような改善は、該マグネシウム洗浄剤がスルホン酸マグネシウムであり、かつ該スルホン酸マグネシウムが、カルシウム-含有洗浄剤、好ましくはサリチル酸カルシウム洗浄剤と共に使用された場合には、更に改善される。従って、摩擦における低下は、典型的には結果として改善された燃料経済性となる。
【0008】
更に尚、本発明は、火花点火式または圧縮点火式内燃機関のクランクケース潤滑における、本発明による潤滑油組成物の、該潤滑油組成物に200~4,000ppmのマグネシウム(ASTM D5185)を与えるのに十分な量での、上記マグネシウム-含有洗浄剤を含まない潤滑剤の使用と比較して、該機関の動作中の該機関内の接触金属表面間の摩擦係数を減じるための使用を提供する。
本発明は、火花点火式または圧縮点火式内燃機関の燃料経済性能を改善する方法を提供するものであり、該方法は、該機関を、本発明に係る潤滑油組成物で潤滑する工程、および該機関を動作させる工程を含む。
本件明細書において、以下の用語および表現を使用する場合、これらは、以下において与えられる意味を持つ:
「有効成分(active ingredients)」または「(a.i.)」とは、希釈剤または溶媒ではない添加剤物質を言い;
「含む(comprising)」またはあらゆるその同語源の用語は、述べられた特徴、段階、または整数または成分の存在を特定するが、1またはそれ以上の他の特徴、段階、整数、成分またはその群の存在または付加を妨げるものではない。表現「からなる(consists of)」または「から本質的になる(consists essentially of)」または同語源の語は、「含む(comprises)」またはその同語源の用語に含めることができ、ここにおいて、「から本質的になる」とは、物質を適用する上記組成物の特徴に実質的な影響を及ぼさない該物質を含めることを許容する;
【0009】
「ヒドロカルビル(hydrocarbyl)」とは、水素原子および炭素原子を含む化合物の化学基であり、かつ炭素原子を介して、該化合物の残部に直接結合している該化学基を意味する。該基は、炭素および水素以外の1またはそれ以上の原子を含み得るが、これらが、該基の本質的にヒドロカルビル的特性に影響を及ぼさないことを条件とする。当業者は、適当な基(例えば、ハロ、特にクロロおよびフルオロ、アミノ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ等)を認識しているであろう。好ましくは、該基は、特段の指定がない限り、水素および炭素原子から本質的になっている。好ましくは、該ヒドロカルビル基は、脂肪族ヒドロカルビル基を含む。該用語「ヒドロカルビル」は、ここにおいて定義されるような「アルキル」、「アルケニル」、「アリル」および「アリール」を含む;
「アルキル」とは、該当化合物の残部に単一の炭素原子を介して直接結合しているC1~C30アルキル基を意味する。特に述べられていない限り、アルキル基は、十分な数の炭素原子がある場合には、直鎖(即ち、枝分かれのない)または分岐鎖であり得、環式、非環式または部分環式/非環式であり得る。好ましくは、該アルキル基は直鎖または分岐した非環式アルキル基を含む。アルキル基の代表的な例はメチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、iso-ペンチル、neo-ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ジメチルへキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシルおよびトリアコンチルを含むが、これらに限定されない;
【0010】
「アリール」とは、場合により1またはそれ以上のアルキル基、ハロ、ヒドロキシル、アルコキシおよびアミノ基で置換された、該当化合物の残部に単一の炭素原子を介して直接結合されている、C6~C18、好ましくはC6~C10芳香族基を意味する。好ましいアリール基は、フェニルおよびナフチル基およびその置換誘導体、特にフェニルおよびそのアルキル置換誘導体を含む;
「アルケニル」とは、少なくとも一つの炭素-炭素二重結合を含み、かつ該当化合物の残部に単一の炭素原子を介して直接結合されており、またさもなければ「アルキル」として定義される、C2~C30、好ましくはC2~C12の基を意味する;
「アルキレン」とは、直鎖または分岐していてもよい、C2~C20、好ましくはC2~C10、より好ましくはC2~C6の二価の飽和非環式脂肪族基を意味する。アルキレンの代表例は、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、1-メチルエチレン、1-エチルエチレン、1-エチル-2-メチルエチレン、1,1-ジメチルエチレンおよび1-エチルプロピレンを含む;
「ポリオール」とは、2またはそれ以上のヒドロキシル官能基を含むアルコール(即ち、多価アルコール)を意味するが、上記オイル-可溶性またはオイル-分散性のポリマー系摩擦調整剤を形成するのに使用される「ポリアルキレングリコール」(成分B(ii))を除外する。より具体的には、該用語「ポリオール」とは、ジオール、トリオール、テトロール、および/またはこのような化合物の関連するダイマー、または連鎖延長ポリマーを包含する。より一層具体的には、該用語「ポリオール」は、グリセロール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールおよびソルビトールを含む;
【0011】
「ポリカルボン酸」とは、2またはそれ以上のカルボン酸官能基を含む有機酸、好ましくはヒドロカルビル酸を意味する。該用語「ポリカルボン酸」はジ-、トリ-およびテトラ-カルボン酸を包含する;
「ハロ」または「ハロゲン」はフルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを含む。
ここにおいて使用される「オイル-可溶性」または「オイル-分散性」またはその同語源の用語は、必ずしも、該当化合物または添加剤が、該当オイル中に、あらゆる比率で可溶性、溶解性、混和性であり、あるいは懸濁し得ることを示すものではない。しかし、これら用語は、例えば該化合物または添加剤が、オイルが使用されている環境内でその意図された効果を発揮するのに十分な程度まで、該オイルに対して可溶性または安定に分散し得ることを実際に意味する。その上、他の添加剤の追加の組入れは、また必要に応じて特定の添加剤をより高レベルで組入れることをも可能とする;
添加剤に関連する「無灰」とは、該添加剤が金属を含まないことを意味し;
添加剤に関連する「灰分-含有」とは、該添加剤が金属を含むことを意味し;
「大量」とは、述べられた成分の有効成分について計算された、該成分についておよび所定の組成物の全質量について表された、該組成物の50質量%を超えることを意味し;
「少量」とは、述べられた添加剤の有効成分として計算された、該添加剤についておよび所定の組成物の全質量について表された、該組成物の50質量%未満を意味し;
添加剤に関連する「有効少量(effective minor amount)」とは、該添加剤が、所望の技術的な効果を与えるような、潤滑油組成物中のこのような添加剤の量を意味し;
【0012】
「ppm」は、上記潤滑油組成物の全質量を基準とする、質量百万分率を意味し;
上記潤滑油組成物または添加剤成分の「金属含有率」、例えば洗浄剤金属、モリブデンまたはホウ素含有率または該潤滑油組成物の全金属含有率(即ち、全ての個々の金属含有率の総和)は、ASTM D5185により測定され;
所定の添加剤成分に関連し、または本発明の潤滑油組成物に係る「TBN」とは、ASTM D2896により測定されるような全塩基価(mgKOH/g)を意味し;
「KV100」は、ASTM D445により測定されるような100℃における動粘度を意味し;
「リン含有率」は、ASTM D5185により測定され;
「硫黄含有率」は、ASTM D2622により測定され;および
「硫酸灰分含有率」は、ASTM D874により測定される。
報告された全ての百分率は、特に述べない限り、有効成分をベースとする、即ちキャリヤまたは希釈オイルを考慮することのない質量%である。
同様に、必須並びに最適および慣例的に使用される様々な成分が、調合、貯蔵および使用の条件下にて反応する可能性があり、また本発明が、同様にあらゆるこのような反応の結果として得ることのできるまたは得られる生成物をも提供するものであることが理解されよう。
更に、ここにおいて明記されている量、範囲および比率の任意の上限および下限は、独立に組合せることができるものであることが理解される。
同様に、本発明の各局面に係る好ましい特徴は、本発明のあらゆるその他の局面に係る好ましい特徴であると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
適当な場合、本発明の各および全ての局面に関連する上記本発明の特徴を、ここから以下においてより一層詳しく説明する。
<潤滑粘度を持つオイル(A)>
上記潤滑粘度を持つオイル(しばしば「ベースストック」または「ベースオイル」と呼ばれる)は、潤滑剤の主な液体成分であり、その中に添加剤およびことによるとその他のオイルがブレンドされて、例えば最終的な潤滑剤(または潤滑剤組成物)が生成される。ベースオイルは、濃縮物を製造するために、並びにこれから潤滑油組成物を製造するのに有用であり、また天然(植物、動物または鉱物)および合成潤滑油およびこれらの組合せから選択することができる。
上記ベースストック群は、米国石油協会(American Petroleum Institute)(API)の刊行物:「エンジンオイルのライセンスと認証システム(Engine Oil Licensing and Certification System)」,工業サービス部門(Industry Services Department),第14版, 1996年12月, 補遺1, 1998年12月において定義されている。典型的に、該ベースストックは、100℃において好ましくは3~12mm2/s(cSt)、より好ましくは4~10mm2/g、最も好ましくは4.5~8mm2/gという粘度を持つであろう。
本発明に於けるベースストックおよびベースオイルの定義は、米国石油協会(API)の刊行物:「エンジンオイルのライセンスと認証システム」、工業サービス部門、第14版、1996年12月、補遺I、1998年12月において見出されるものと同一である。該刊行物は、ベースストックを以下のように分類している:
【0014】
a) グループI(Group I)ベースストックは、90%未満の飽和物(saturates)および/または0.03%を超える硫黄を含み、また以下の表E-1に指定されたテスト法を用いて、80に等しいかまたはこれを超え、かつ120未満の粘度指数を持つ。
b) グループII(Group II)ベースストックは、90%に等しいかまたはこれを超える飽和物および0.03%に等しいかまたはこれ未満の硫黄を含み、また以下の表E-1に指定されたテスト法を用いて、80に等しいかまたはこれを超え、かつ120未満の粘度指数を持つ。
c) グループIII(Group III)ベースストックは、90%に等しいかまたはこれを超える飽和物および0.03%に等しいかまたはこれ未満の硫黄を含み、かつ以下の表E-1に指定されたテスト法を用いて、120に等しいかまたはこれを超える粘度指数を持つ。
d) グループIV(Group IV)ベースストックは、ポリα-オレフィン(PAO)である。
e) グループV(Group V)ベースストックは、グループI、II、III、またはIVには含まれない全ての他のベースストックを含む。
【0015】
【0016】
上記潤滑油組成物に含めることのできるその他の潤滑粘度を持つオイルを、以下の通り詳述する:
天然オイルは、動物および植物オイル(例えば、ヒマシ油およびラード油)、液状石油系油分およびパラフィン、ナフテンおよび混合パラフィン-ナフテン型の水素化精製され、溶媒処理された無機潤滑油を含む。石炭またはシェール由来の潤滑粘度を持つオイルも、有用なベースオイルである。
合成潤滑油は、炭化水素オイル、例えば重合および共重合されたオレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼンン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);およびアルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドおよびこれらの誘導体、類似体および同族体を含む。
合成潤滑油のもう一つの適当な群は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、琥珀酸、アルキル琥珀酸およびアルケニル琥珀酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、へキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステルを含む。これらエステルの具体的な例は、ジブチルアジペート、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-へキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸ダイマーの2-エチルヘキシルジエステル、および1モルのセバシン酸と、2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2-エチルヘキサン酸とを反応させることにより形成される複合エステルを含む。
【0017】
合成オイルとして有用なエステルは、同様にC5~C12モノカルボン酸とポリオール、およびポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールとから製造されるものを含む。
未精製、精製および再精製されたオイルを、本発明の組成物において使用することができる。未精製オイルは、天然または合成源から、更なる精製処理なしに直接得られるオイルである。例えば、レトルト操作から直接得られるシェールオイル、蒸留により直接得られる石油系油分またはエステル化工程により直接得られかつ更なる処理なしに使用されるエステルオイルは、未精製オイルであろう。精製オイルは、該未精製オイルが更に1またはそれ以上の精製段階において処理されて、1またはそれ以上の特性が改善されている点を除いて、該未精製オイルと類似する。多くのこのような精製技術、例えば蒸留、溶媒抽出、酸または塩基抽出、濾過およびパーコレーションが、当業者に知られている。再精製オイルは、既に運転において使用された精製オイルに対して適用される、精製オイルを得るのに使用されるものと類似する工程によって得られる。このような再精製オイルは、再利用または再処理オイルとしても知られており、またしばしば使用済み添加剤およびオイル分解生成物の承認を得ようとする技術によって付随的に処理される。
ベースオイルのその他の例は、ガスツーリキッド(gas-to-liquid)(「GTL」)ベースオイルであり、即ち該ベースオイルは、フィッシャー-トロプシュ(Fischer-Tropsch)触媒を用いて、H2およびCOを含有する合成ガスから製造されるフィッシャー-トロプシュ合成された炭化水素を由来とするオイルであり得る。これらの炭化水素は、典型的に、ベースオイルとして有用であるためには、更なる処理を必要とする。例えば、これらを、当分野において公知の方法によって、水素化異性化し;水素化分解しかつ水素化異性化し;脱蝋し;または水素化異性化しかつ脱蝋することができる。
【0018】
上記ベースオイルの組成は、上記潤滑油組成物の特定の用途に依存するであろうし、またオイルの調合者は、妥当なコストにて所望の性能特性を実現するように該ベースオイルを選択するであろう。
好ましくは、ノアック(NOACK)テスト(ASTM D5800)によって測定されるような、上記潤滑粘度を持つオイルまたはオイルブレンドの揮発度は、20%に等しいかまたはそれ未満、好ましくは16%に等しいかまたはそれ未満、好ましくは12%に等しいかまたはそれ未満、より好ましくは10%に等しいかまたはそれ未満である。好ましくは、該潤滑粘度を持つオイルの粘度指数(VI)は、少なくとも95、好ましくは少なくとも110、より好ましくは少なくとも120、より一層好ましくは少なくとも125、最も好ましくは約130~140である。
上記潤滑粘度を持つオイルは、ここにおいて定義された如き、少量の添加剤成分(B)および(C)、および必要ならば、例えば以下において説明されるような、潤滑油組成物を構成する1種またはそれ以上の補助添加剤との組合せで、大量に与えられる。この調製は、該オイルに直接該添加剤を添加し、あるいはこれらをその濃縮物の形状で添加して、該添加剤を分散または溶解させることにより達成し得る。添加剤は、該オイルに対して、当業者には公知の任意の方法により、その他の添加剤の添加前に、該添加と同時にまたはその後の何れかにおいて添加することができる。
【0019】
好ましくは、上記潤滑粘度を持つオイルは、上記潤滑油組成物の全質量を基準として65質量%を超え、より好ましくは70質量%を超え、より一層好ましくは75質量%を超える量で存在する。好ましくは、該潤滑粘度を持つオイルは、該潤滑油組成物の全質量を基準として98質量%未満、例えば95質量%未満、または更には90質量%未満の量で存在する。
好ましくは、本発明に係る上記潤滑油組成物は、粘度法によるデスクリプタであるSAE 20W-X、SAE 15W-X、SAE 10W-X、SAE 5W-XまたはSAE 0W-Xにより特定される、マルチグレードオイルであり、ここでXは8、12、16、20、30、40および50の内の任意の一つを表し、該異なる粘度法上のグレードに係る特徴は、SAE J300分類において見出すことができる。該潤滑油組成物は、好ましくはSAE 10W-X、SAE 5W-XまたはSAE 0W-Xの形状にあり、より好ましくはSAE 5W-XまたはSAE 0W-Xの形状にあり、ここにおいてXは8、12、16、20、30、40および50の任意の一つを表す。好ましくは、Xは8、12、16または20である。
【0020】
<オイル-可溶性モリブデン化合物(B)>
本発明の潤滑油組成物に関連して、潤滑油組成物内で摩擦調整特性を示す、任意の適当なオイル-可溶性またはオイル-分散性のモリブデン化合物を使用することができる。好ましくは、該オイル-可溶性またはオイル-分散性のモリブデン化合物は、オイル-可溶性またはオイル-分散性の有機モリブデン化合物である。このような有機モリブデン化合物の例として、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフィネート、モリブデンキサンテート、モリブデンチオキサンテート、硫化モリブデン等、およびこれらの混合物を挙げることができる。特に好ましいものは、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、モリブデンアルキルキサンテートおよびモリブデンアルキルチオキサンテートである。特に好ましい有機モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメートである。本発明の一態様において、該オイル-可溶性またはオイル-分散性モリブデン化合物は、該潤滑油組成物中のモリブデン原子の唯一の源として、モリブデンジチオカルバメートまたはモリブデンジチオホスフェートまたはこれらの混合物の何れかからなっている。本発明の別の態様において、該オイル-可溶性またはオイル-分散性のモリブデン化合物は、該潤滑油組成物中のモリブデン原子の唯一の源として、モリブデンジチオカルバメートからなる。
上記モリブデン化合物は、単核、二核、三核または四核であり得る。二核および三核モリブデン化合物が好ましい。
【0021】
その上、上記モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であり得る。これらの化合物は、ASTMテストD-664またはD-2896の滴定手順により測定されるように、塩基性の窒素化合物と反応するであろうし、また典型的には六価である。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、およびその他のアルカリ金属のモリブデン酸塩およびその他のモリブデン塩、例えばモリブデン酸水素ナトリウム(hydrogen sodium molybdate)、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデンまたは同様な酸性モリブデン化合物が含まれる。あるいはまた、本発明の組成物は、例えば米国特許第4,263,152号;同第4,285,822号;同第4,283,295号;同第4,272,387号;同第4,265,773号;同第4,261,843号;同第4,259,195号および同第4,259,194号;およびWO 94/06897に記載されているような、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体によって、モリブデンを供給することができる。
適当な二核またはダイマー型のモリブデンジアルキルジチオカルバメートは、以下の式で表される:
【0022】
【0023】
R1~R4は、独立に1~24個の炭素原子を持つ直鎖、分岐鎖または芳香族ヒドロカルビル基を意味し、またX1~X4は、独立に酸素原子または硫黄原子を意味する。上記4つのヒドロカルビル基、R1~R4は、同一であっても、あるいは相互に異なっていてもよい。
本発明の組成物において有用なその他のモリブデン化合物は、式:Mo(ROCS2)4およびMo(RSCS2)4を持つ有機モリブデン化合物であり、ここにおいてRは、一般的には1~30個の炭素原子、および好ましくは2~12個の炭素原子を持つアルキル、アリール、アラルキルおよびアルコキシアルキル、および最も好ましくは2~12個の炭素原子を持つアルキルからなる群から選択される有機基である。特に好ましいものは、モリブデンのジアルキルジチオカルバメートである。
適当な三核有機モリブデン化合物は、式:Mo3SkLnQzを持つものおよびこれらの混合物を含み、ここでLは、該化合物を上記オイルに対して可溶性または分散性とするのに十分な数の炭素原子を持つ有機基を持つ、独立に選択されるリガンドであり、nは1~4であり、kは4~7の範囲で変動し、Qは中性の電子供与化合物、例えば水、アミン、アルコール、ホスフィンおよびエーテルからなる群から選択され、またzは0~5の範囲にあり、かつ非化学量論的な値を含む。少なくとも21個の全炭素原子、例えば少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子が、該リガンド全ての有機基の中に存在すべきである。
上記リガンドは、以下に列挙するものおよびこれらの組合せからなる群から独立に選択される:
【0024】
【0025】
ここにおいて、X、X1、X2およびYは、酸素および硫黄からなる群から独立に選択され、またR1、R2およびRは、水素および同一または異なっていてもよい有機基から独立に選択される。好ましくは、該有機基はヒドロカルビル基、例えばアルキル(例えば、そこにおいて該当するリガンドの残部に結合した炭素原子は、一級または二級である)、アリール、置換アリールおよびエーテル基である。より好ましくは、各リガンドは、同一のヒドロカルビル基を持つ。
重要なことは、上記リガンドの有機基は、上記化合物を上記オイルに対して可溶性または分散性とするのに十分な数の炭素原子を持つ。例えば、各基内の炭素原子数は、一般的に約1~約100個の間、好ましくは約1~約30個、およびより好ましくは約4~約20個の間の範囲であろう。好ましいリガンドは、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート、およびジアルキルジチオカルバメートを含み、またこれらの中ではジアルキルジチオカルバメートがより好ましい。2またはこれを超える上記の官能価を含む有機リガンドも、同様にリガンドとして役立ち、かつ該当するコアの1またはそれ以上に結合することができる。当業者は、本発明の化合物の形成が、該コアの電荷を相殺するために、適当な電荷を持つリガンドを選択する必要があることを認識しているであろう。
式:Mo3SkLnQzを持つ化合物は、アニオン性のリガンドによって包囲されたカチオン性のコアを持ち、また例えば以下の構造によって表され、また+4という正味の電荷を持つ
【0026】
【0027】
結果的に、これらコアを可溶化するために、上記リガンド全ての中の全電荷を-4とする必要がある。4つのモノ-アニオン性リガンドが好ましい。如何なる理論にも拘泥するつもりはないが、2またはこれを超える三核コアを、1またはこれを超えるリガンドによって結合または相互に連結することができ、また該リガンドは、多座配位子であり得るものと考えられる。これは、単一のコアに対する多数の結合を持つ多座配位子の場合を含む。酸素および/またはセレンが、該コア(1または複数)内の硫黄を置換し得るものと考えられる。
オイル-可溶性またはオイル-分散性三核モリブデン化合物は、適当な液体(1または複数)/溶媒(1または複数)中で、モリブデン源、例えば(NH4)2Mo3S13・n(H2O)と、適当なリガンド源、例えばテトラアルキルチウラムジスルフィドとを反応させることにより製造することができ、該一般式において、nは0と2との間で変動し、また非化学量論的な値を含む。その他のオイル-可溶性またはオイル-分散性三核モリブデン化合物は、適当な溶媒(1または複数)中で、モリブデン源、例えば(NH4)2Mo3S13・n(H2O)、リガンド源、例えばテトラアルキルチウラムジスルフィド、ジアルキルジチオカルバメート、またはジアルキルジチオホスフェート、および硫黄抜取り剤(sulfur abstracting agent)、例えばシアニドイオン、スルフィットイオン、または置換ホスフィンの反応中に形成させ得る。あるいはまた、三核モリブデン-硫黄ハライド塩、例えば[M’]2[Mo3S7A6](ここで、M'は対イオンであり、またAはハロゲン、例えばCl、Br、またはIである)は、ジアルキルジチオカルバメートまたはジアルキルジチオホスフェート等のリガンド源と、適当な液体(1または複数)/溶媒(1または複数)内で反応させて、オイル-可溶性または分散性の三核モリブデン化合物を形成することができる。該適当な液体/溶媒は、例えば水性または有機系であり得る。
【0028】
化合物のオイル溶解性または分散性は、そのリガンドの有機基内の炭素原子数によって影響される可能性がある。好ましくは、少なくとも21個の全炭素原子が、全ての該リガンドの有機基の中に存在すべきである。好ましくは、該選択されたリガンド源は、該化合物を上記潤滑組成物に対して可溶性または分散性とするために、その有機基内に十分な数の炭素原子を持つ。
本発明の潤滑油組成物は、上記モリブデン化合物を、600~1,500ppm、好ましくは600~1,200ppmまたは更には700~1,000ppmのモリブデン(ASTM D5185)を該組成物に与える量で含む。
【0029】
<洗浄剤組成物(C)>
金属洗浄剤は、デポジットを減じまたは排除するための洗浄剤としておよび酸中和剤または防錆剤両者として機能し、それにより磨耗および腐食を減じ、かつエンジン寿命を延長する。洗浄剤は、一般に長い疎水性の尾部と共に極性ヘッドを含み、該極性ヘッドは、酸性有機化合物の金属塩を含む。これらの塩は、実質的に化学量論的な量の該金属を含むことができ、この場合において、該塩は、通常正塩または中性塩として説明され、また典型的には0~80mgKOH/gという全塩基価、即ちTBN(ASTM D2896により測定し得るような)を持つであろう。大量の金属塩基は、過剰量の金属化合物(例えば、酸化物または水酸化物)と酸性ガス(例えば、二酸化炭素)とを反応させることにより組入れることができる。この得られる過塩基化された洗浄剤は、金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外側層として、中和された洗浄剤を含む。このような過塩基化された洗浄剤は、150mgKOH/gまたはこれを超えるTBNを持つことができ、また典型的には250~450mgKOH/gあるいはこれを超えるTBNを持つであろう。
本発明によれば、上記潤滑油組成物は、少なくとも1種のスルホン酸マグネシウム洗浄剤を含有する洗浄剤組成物を含む。
本発明の洗浄剤組成物は、1種またはそれ以上の追加の洗浄剤添加物を含むことができる。適当な追加の洗浄剤は、金属、特にアルカリまたはアルカリ土類金属、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムおよびマグネシウムのオイル-可溶性の中性および過塩基化されたスルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート、およびナフテナートおよびその他のオイル-可溶性カルボキシラートを含む。その上、該追加の洗浄剤添加物は、スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート、およびナフテナートのナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムまたはマグネシウム塩の任意の組合せを含有するハイブリッド洗浄剤を含むことができる。
【0030】
好ましくは、本発明の上記1種またはそれ以上の追加の洗浄剤添加物は、カルシウムおよび/またはマグネシウム金属塩を含む。より好ましくは、該1種またはそれ以上の追加の洗浄剤添加物は、サリチル酸マグネシウム、サリチル酸カルシウム、スルホン酸カルシウム、マグネシウムフェネート、カルシウムフェネート、2種またはこれを超えるこれら追加の洗浄剤添加物を含むハイブリッド洗浄剤および/またはこれらの組合せから選択される。
好ましい一態様において、上記1種またはそれ以上の追加の洗浄剤添加物は、サリチル酸カルシウムおよび/またはスルホン酸カルシウム、最も好ましくはサリチル酸カルシウムである。最も好ましくは、上記洗浄剤組成物は、1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤および1種またはそれ以上のサリチル酸カルシウム洗浄剤の組合せからなっている。
存在する場合、任意のカルシウム洗浄剤は、適切には少なくとも500ppm、好ましくは少なくとも750ppm、より好ましくは少なくとも900ppmのカルシウム原子(ASTM D5185)を、上記潤滑油組成物に与えるのに十分な量で存在する。存在する場合、任意のカルシウム洗浄剤は、適切には4,000ppm以下、好ましくは4,000ppm以下、より好ましくは2,000ppm以下のカルシウム原子(ASTM D5185)を、該潤滑油組成物に与えるのに十分な量で存在する。存在する場合、任意のカルシウム洗浄剤は、適切には500~4,000ppm、好ましくは750~3,000ppm、より好ましくは900~2,000ppmのカルシウム原子(ASTM D5185)を、該潤滑油組成物に与えるのに十分な量で存在する。
【0031】
本発明の全ての局面に係るマグネシウム洗浄剤は、中性塩または過塩基化された塩であり得る。適切には、本発明の該マグネシウム洗浄剤は、80~500mgKOH/g(ASTM D2896)というTBNを持つ過塩基化されたスルホン酸マグネシウムである。
本発明のマグネシウム洗浄剤は、本発明の潤滑油組成物に、200~4,000ppmのマグネシウム原子、適切には200~2,000ppm、300~1,500ppmまたは450~1,200ppmのマグネシウム原子(ASTM D5185)を与える。
適切には、本発明の全ての局面に従う潤滑油組成物中の、洗浄剤を由来とする全金属原子の量は、5,000ppm以下、好ましくは4,000ppm以下およびより好ましくは2,000ppm以下(ASTM D5185)である。本発明の全ての局面に従う潤滑油組成物中の、洗浄剤を由来とする金属原子の全量は、適切には少なくとも500ppm、好ましくは少なくとも800ppmおよびより好ましくは少なくとも1,000ppm(ASTM D5185)である。本発明の全局面に従う潤滑油組成物中の、洗浄剤を由来とする金属原子の全量は、適切には500~5,000ppm、好ましくは500~3,000ppmおよびより好ましくは500~2,000ppm(ASTM D5185)である。
【0032】
典型的には、スルホネート洗浄剤はスルホン酸から製造することができ、該スルホン酸は、典型的に石油の分留により、あるいは芳香族炭化水素のアルキル化により得られるもの等のアルキル置換芳香族炭化水素をスルホン化することにより得られる。その例は、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニルまたはこれらのハロゲン誘導体、例えばクロロベンゼン、クロロトルエンおよびクロロナフタレンをアルキル化することにより得られるものを含む。該アルキル化は、触媒の存在下で、約3個から70個を超える炭素原子を持つアルキル化剤を用いて行うことができる。上記のアルカリールスルホネートは、通常アルキル置換芳香族部分当たり約9個から約80個またはこれを超える炭素原子、好ましくは約16~約60個の炭素原子を含む。該オイル-可溶性スルホネートまたはアルカリールスルホン酸は、金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、カルボン酸塩、硫化物、ヒドロスルフィド、硝酸塩、ホウ酸塩およびエーテルで中和することができる。該金属化合物の量は、その最終製品の所望のTBNを斟酌して選択されるが、典型的には化学量論的に要求される量の約100~220質量%(好ましくは、少なくとも125質量%)の範囲にある。
フェノールおよび硫化フェノールの金属塩は、適当な金属化合物、例えば酸化物または水酸化物との反応により製造され、また中性または過塩基化生成物を、当分野において周知の方法により得ることができる。硫化フェノールは、フェノールを硫黄または硫黄-含有化合物、例えば硫化水素、モノハロゲン化硫黄またはジハロゲン化硫黄と反応させて、一般的に、2またはそれ以上のフェノールが硫黄-含有ブリッジにより架橋されている化合物の混合物である生成物を形成し得る。
【0033】
カルボキシレート洗浄剤、例えばサリチレートは、芳香族カルボン酸と適当な金属化合物、例えば酸化物または水酸化物とを反応させることにより製造でき、また中性または過塩基化生成物は、当分野において周知の方法により得ることができる。該芳香族カルボン酸の芳香族部分は、窒素および酸素等のヘテロ原子を含むことができる。好ましくは、該部分は炭素原子のみを含み、より好ましくは該部分は6個またはこれを超える炭素原子を含み、例えばベンゼンが好ましい部分である。該芳香族カルボン酸は、1またはこれを超える芳香族部分、例えば1またはこれを超える縮合されたまたはアルキレンブリッジを介して結合された何れかのベンゼンリングを含むことができる。
オイル-可溶性サリチル酸内の好ましい置換基は、アルキル置換基である。アルキル-置換サリチル酸において、そのアルキル基は、有利には5~100個、好ましくは9~30個、特に14~20個の炭素原子を含む。2以上のアルキル基が存在する場合、該アルキル基全てにおける炭素原子の平均数は、好ましくは、十分なオイル溶解度を保証するためには少なくとも9個である。
適切には、本発明の全局面に係る潤滑油組成物における、洗浄剤金属原子対モリブデン原子の比は、3未満、好ましくは2未満である。
【0034】
<オイル-可溶性ホウ素-含有化合物(D)>
上記オイル-可溶性またはオイル-分散性のホウ素-含有化合物は、任意の従来のホウ酸化潤滑剤添加物であり得る。好ましくは、該オイル-可溶性ホウ素-含有化合物は、ホウ酸化分散剤、ホウ酸エステルまたはホウ酸化洗浄剤である。
従来は、上記ホウ素-含有化合物は、ホウ酸化分散剤、特にホウ酸化無灰(即ち、金属を含まない)分散剤を含む。好ましい無灰のホウ酸化分散剤は、ホウ酸化ポリイソブチレンサクシンイミド分散剤である。
分散剤は、通常「無灰」であり、金属を含有し、またそれ故に灰分を形成する物質とは対照的に、燃焼に際して実質上灰分を形成しない非-金属有機物質である。これらは、極性ヘッドを持つ長い炭化水素鎖(例えば、炭化水素ポリマー主鎖)を含み、その極性は、例えばO、PまたはN原子を含むことに由来する。典型的に、このような分散剤は、しばしば架橋基を介して、該炭化水素鎖に結合したアミン、アミン-アルコールまたはアミド極性部分を含む。該炭化水素鎖は、例えば40~500個の炭素原子を持つ、オイル-可溶性を付与する親油性の基である。従って、無灰分散剤は、オイル-可溶性ポリマー主鎖を含むことができる。適当な無灰分散剤は、例えば長鎖炭化水素-置換モノおよびポリカルボン酸またはその無水物のオイル-可溶性の塩、エステル、アミノエステル、アミド、イミドおよびオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体;長鎖脂肪族炭化水素であって、これに直接結合したポリアミン部分を持つもの;および長鎖置換フェノールとホルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンとを縮合することにより形成されるマンニッヒ(Mannich)縮合生成物から選択することができる。
【0035】
使用される1または複数の上記分散剤の全て(全ての窒素-含有分散剤および任意の窒素を含まない分散剤を含む)は、約600~3,000、より好ましくは700~2,700、より一層好ましくは700~2,500という数平均分子量(Mn)を持つ炭化水素ポリマーから誘導されるものであることが好ましい。
非常に好ましい無灰分散剤は、ポリアルケニル-置換モノ-またはジ-カルボン酸、無水物またはエステルから誘導される分散剤、最も好ましくはポリイソブテニル-置換モノ-またはジ-カルボン酸、無水物またはエステルから誘導される分散剤を含む。
【0036】
上記分散剤の形成において使用される適当な炭化水素またはポリマーは、ホモポリマー、共重合体または低分子量炭化水素を含む。一群のこのようなポリマーは、エチレンおよび/または式:H2C=CHR1を持つ少なくとも一つのC3~C28α-オレフィンのポリマーを含み、該式においてR1は1~26個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖アルキル基であり、また該ポリマーは炭素-炭素不飽和、好ましくは高度の末端エテニリデン不飽和を含む。好ましくは、このようなポリマーは、エチレンと、上記式を持つα-オレフィンであって、該式におけるR1が1~18個の炭素原子を持つアルキル基、およびより好ましくは1~8個の炭素原子、およびより一層好ましくは1~2個の炭素原子を持つアルキル基である、少なくとも1種の該α-オレフィンとの共重合体を含む。従って、有用なα-オレフィンモノマーおよびコモノマーは、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、およびこれらの混合物(例えば、プロピレンと1-ブテンの混合物など)を含む。このようなポリマーの典型的なものは、プロピレンホモポリマー、1-ブテンホモポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン/1-ブテンコポリマー、プロピレン-ブテンコポリマー等であり、ここで該ポリマーは、少なくとも幾分かの末端および/または内部不飽和を含んでいる。好ましいポリマーは、エチレンとプロピレンとの、およびエチレンと1-ブテンとの不飽和コポリマーである。上記共重合体は、少量の、例えば0.5~5モル%のC4~C18非共役ジオレフィンコモノマーを含むことができる。しかし、該ポリマーは、α-オレフィンホモポリマー、α-オレフィンコモノマーの共重合体およびエチレンとα-オレフィンコモノマーとの共重合体のみを含むことが好ましい。使用される該ポリマーのモルエチレン含有率は、好ましくは0~80%、およびより好ましくは0~60%の範囲内にある。プロピレンおよび/または1-ブテンがエチレンとのコモノマーとして使用される場合、このようなコポリマーのエチレン含有率は、最も好ましくは15%と50%との間にあるが、より高いまたはより低いエチレン含有率も存在し得る。
【0037】
もう一つの有用なポリマー群は、イソブテン、スチレン等のカチオン重合により製造されるポリマーである。この群由来の普通のポリマーは、約35~約75質量%のブテン含有率および約30~約60質量%のイソブテン含有率を持つ、C4製油所流を、ルイス(Lewis)酸触媒、例えば塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素の存在下で重合することにより得られるポリイソブテンを含む。ポリ-n-ブテンを製造するために好ましいモノマー源は、ラフィネートII(Raffinate II)などの石油供給流である。これらの供給原料は、当分野において、例えば米国特許第4,952,739号において記載されている。ポリイソブチレン(PIB)は、本発明の最も好ましい重要要素であり、その理由は、ブテン流からのカチオン重合(例えば、AlCl3またはBF3触媒を使用して)により容易に得られることにある。このようなポリイソブチレンは、一般にポリマー鎖当たり約1個のエチレン系二重結合という量で、その連鎖に沿って配置された残留不飽和を含む。特定の態様において、該分散剤のポリアルケニル部分は、少なくとも65%、例えば70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも85%という末端ビニリデン含有率を持つ、非常に反応性の高いポリイソブチレン(HR-PIB)を含む。このようなポリマーの製造は、例えば米国特許第4,152,499号に記載されている。HR-PIBは公知であり、またHR-PIBは、商品名グリッソパル(GlissopalTM)(バスフ(BASF)社から)およびウルトラビス(UltravisTM)(BP社から)の下に市場で入手できる。
上記炭化水素またはポリマー主鎖は、例えば、上述の3つの方法の何れかまたは任意の順序でのこれらの組合せを利用して、該ポリマーまたは炭化水素鎖上の炭素-炭素不飽和のサイトにおいて選択的に、あるいは連鎖に沿ってランダムに、カルボン酸生成部分(好ましくは、酸または無水物部分)により官能化することが可能である。
【0038】
最も好ましい分散剤は、少なくとも一つのポリアルケニルサクシンイミド、とりわけポリイソブテニルサクシンイミドを含むものであり、これはポリアルケニル-置換琥珀酸無水物(例えば、PIBSA)とポリアミン(PAM)との反応生成物である。換言すれば、最も好ましいホウ酸化分散剤は、ホウ酸化ポリアルケニル-置換琥珀酸無水物(例えば、PIBSA)およびポリアミン(PAM)を含む。好ましくは、このような分散剤は、約0.65~約1.25、好ましくは約0.8~約1.1、最も好ましくは約0.9~約1というカップリング比を持つ。本件開示との関連で、「カップリング比(coupling ratio)」とは、該PIBSA内のサクシニル基の数対該ポリアミン反応体中の一級アミノ基の数の比として定義することができる。
高分子量無灰分散剤のもう一つの群は、マンニッヒ(Mannich)塩基縮合生成物を含む。一般に、これら生成物は、約1モルの長鎖アルキル-置換モノ-またはポリヒドロキシベンゼンと、約1~2.5モルのカルボニル化合物(1または複数)(例えば、ホルムアルデヒドおよびパラホルムアルデヒド)および約0.5~2モルのポリアルキレンポリアミンとを、例えば米国特許第3,442,808号に記載されているように縮合することにより製造される。このようなマンニッヒ塩基縮合生成物は、そのベンゼン基上の置換基としてメタロセン触媒を用いた重合によるポリマー生成物を含む可能性があり、あるいは米国特許第3,442,808号に記載されたものと類似する方法で、琥珀酸無水物上で置換されたこのようなポリマーを含む化合物と反応させることができる。メタロセン触媒系を用いて合成された、官能化されおよび/または誘導体化されたオレフィンポリマーの例は、上において特定された刊行物中に記載されている。
【0039】
本発明の分散剤(1または複数)は、好ましくは非-ポリマー系のもの(例えば、モノ-またはビス-サクシンイミド)である。該1またはそれ以上の分散剤が、上記潤滑油組成物に対して、全体として約0.10~約0.20質量%、好ましくは約0.115~約0.18質量%、最も好ましくは約0.12~約0.16質量%という窒素を与えることは更に好ましい。
分散剤は、一般的に米国特許第3,087,936号、同第3,254,025号および同第5,430,105号において教示されているように、従来の手段によってホウ酸化することができる。該分散剤のホウ素化は、アシル窒素-含有分散剤を、アシル化窒素組成物1モル当たり約0.1~約20というホウ素原子の割合を与えるのに十分な量のホウ素化合物、例えば酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ素-酸(boron acids)、およびホウ素-酸のエステルで処理することにより容易に達成される。
無水ホウ酸ポリマー(主として(HBO2)3)として上記生成物中に現れる上記ホウ素は、上記分散剤のイミドおよびジイミドに、アミン塩、例えば該ジイミドのメタホウ酸塩として結合しているものと考えられる。ホウ素化は、十分な量のホウ素化合物、好ましくはホウ酸を、通常はスラリーとして、上記アシル窒素化合物に添加し、また攪拌しつつ約135℃~約190℃、例えば140℃~170℃にて、約1~約5時間に渡り加熱し、次いで窒素ストリッピングすることにより実施し得る。あるいはまた、該ホウ素処理は、ホウ酸を、該ジカルボン酸物質とアミンとの高温反応混合物に添加し、一方で水を除去することにより行うことができる。当分野において公知のその他の後反応工程を適用することも可能である。
【0040】
非-分散剤ホウ素-含有化合物は酸化ホウ素、酸化ホウ素水和物、三酸化ホウ素、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、ホウ素-酸(boron acid)、例えばボロン酸、ホウ酸、四ホウ酸およびメタホウ酸、ハロゲン化ホウ素、ホウ素アミド(boron amides)およびホウ素-酸の様々なエステルを包含する。適当な「非-分散剤ホウ素源」は、任意のオイル-可溶性ホウ素-含有化合物を含むことができるが、好ましくは潤滑油組成物に強化された特性を付与することが知られている、1種またはそれ以上のホウ素-含有添加剤を含む。このようなホウ素-含有添加剤は、例えばホウ酸化分散剤VI改良剤;アルカリ金属、混合アルカリ金属またはアルカリ土類金属ホウ酸塩;ホウ酸化された過塩基化金属洗浄剤;ホウ酸化エポキサイド;ホウ酸エステル;およびホウ酸アミドを含む。
アルカリ金属およびアルカリ土類金属ホウ酸塩は、一般的に水和された粒状金属ホウ酸塩であり、これらは当分野において公知である。アルカリ金属ホウ酸塩は、混合アルカリ金属およびアルカリ土類金属ホウ酸塩を含む。これらの金属ホウ酸塩は、市場で入手することができる。適当なアルカリ金属およびアルカリ土類金属ホウ酸塩およびその製法を記載している代表的な特許は、米国特許第3,997,454号、同第3,819,521号、同第3,853,772号、同第3,907,601号、同第3,997,454号、および同第4,089,790号を含む。
上記ホウ酸化アミンは、恐らく1種またはそれ以上の上記ホウ素化合物と、1種またはそれ以上の脂肪アミン、例えば4~18個の炭素原子を持つアミンとを反応させることにより製造し得る。これらは、該アミンと該ホウ素化合物とを、50~300℃、好ましくは100~250℃の温度にて、3:1~1:3というアミンの当量対ホウ素化合物の当量の比にて反応させることにより製造し得る。
【0041】
ホウ酸化脂肪エポキサイドは、一般的に1種またはそれ以上の上記ホウ素化合物と少なくとも1種のエポキサイドとの反応生成物である。該エポキサイドは、一般的に8~30個、好ましくは10~24個、より好ましくは12~20個の炭素原子を含む脂肪族エポキサイドである。有用な脂肪族エポキサイドの例は、ヘプチルエポキサイドおよびオクチルエポキサイドを含む。エポキサイドの混合物、例えば14~16個の炭素原子および14~18個の炭素原子を持つエポキサイドからなる市販の混合物を使用することも可能である。該ホウ酸化脂肪エポキサイドは、一般的に公知であり、また米国特許第4,584,115号に記載されている。
ホウ酸エステルは、1種またはそれ以上の上記ホウ素化合物と1種またはそれ以上の、適当な親油性を持つアルコールとを反応させることにより製造し得る。典型的には、該アルコールは6~30個、または8~24個の炭素原子を含む。このようなホウ酸エステルの製造方法は、当分野において公知である。
上記ホウ酸エステルは、ホウ酸化されたリン脂質であり得る。このような化合物およびこのような化合物の製法は、EP-A-0 684 298に記載されている。ホウ酸化され過塩基化された金属洗浄剤は、当分野において公知であり、ここにおいて該ホウ酸塩は、部分的にまたは完全に、そのコア内でその炭酸塩の代わりを務めている。
【0042】
本発明の一態様において、ここで定義されたようなホウ酸化された無灰分散剤は、上記潤滑油組成物における唯一のホウ素-含有化合物に相当する。
上記ホウ素-含有化合物は、上記潤滑油組成物の全質量を基準として、該潤滑油組成物に、200ppmを超え、好ましくは250ppmを超えるホウ素(ASTM D5185)を導入する。該ホウ素-含有化合物は、該潤滑油組成物の全質量を基準として、600ppm未満、好ましくは500ppm未満、より一層好ましくは400ppm未満のホウ素(ASTM D5185)を、該潤滑油組成物に導入する。
<補助添加剤>
本発明の各局面に従う潤滑油組成物は、付随的に1種またはそれ以上の補助添加剤を含むことができ、該補助添加剤は、添加剤成分(B)、(C)および(D)とは異なるものである。適当な補助添加剤およびその一般的な処理率を、以下において論じる。掲載された全ての値は、完全に調合された潤滑剤における有効成分の質量%として述べられている。
【0043】
(1) 粘度調整剤は、マルチグレードオイルにおいてのみ使用される。
【0044】
典型的には、上記または各々の添加剤を上記ベースオイルにブレンドすることにより製造される、最終的な潤滑油組成物は、5~25質量%、好ましくは5~18質量%、典型的には7~15質量%の補助添加剤を含むことができ、その残部は潤滑粘度を持つオイルである。
上述の補助添加剤を、以下の通り更に詳細に論じる。当分野において知られているように、幾つかの添加剤は、多数の効果を与えることができ、例えば単一の添加剤が、分散剤としておよび酸化防止剤として作用し得る。
摩耗防止剤は、摩擦および過度の磨耗を防止し、かつ通常は、例えば関わりのある表面上にポリスルフィドフィルムを堆積することができる、硫黄またはリンまたはこれら両者を含む化合物をベースとしている。注目に値するものは、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩であり、ここにおいて該金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、または好ましくは亜鉛であり得る。
【0045】
ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩は、公知の技術に従って、先ず通常は1またはそれ以上のアルコールまたはフェノールとP2S5とを反応させることによりジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、また次にこの形成されたDDPAを金属化合物で中和することにより製造し得る。例えば、ジチオリン酸は、一級および二級アルコールからなる混合物を反応させることにより製造し得る。あるいはまた、多数のジチオリン酸を製造することができ、ここでその一つにおけるヒドロカルビル基は、特性上完全に二級であり、かつその他の上のヒドロカルビル基は、特性上完全に一級である。該金属塩を製造するために、任意の塩基性または中性の金属化合物を使用できるが、その酸化物、水酸化物および炭酸塩が、最も一般的に使用されている。商業的な添加剤は、その中和反応において過剰量の該塩基性金属化合物を使用することから、しばしば過剰量の金属を含んでいる。
好ましい上記亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート(ZDDP)は、ジヒドロカルビルジチオリン酸のオイル-可溶性塩であり、また以下の式によって表すことができる:
【0046】
【0047】
ここで、RおよびR'は、同一または異なる、1~18個、好ましくは2~12個の炭素原子を含み、かつアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリールおよび環式脂肪族基等の基を含むヒドロカルビル基であり得る。RおよびR'基として特に好ましいものは、炭素原子数2~8のアルキル基である。従って、該基は、例えばエチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-へキシル、i-へキシル、n-オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロへキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルであり得る。オイル溶解性を獲得するために、該ジチオリン酸中の全炭素原子数(即ち、RおよびR’)は、一般的に5またはこれを超えるであろう。従って、該亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートは、亜鉛ジアルキルジチオホスフェートを含むことができる。
上記ZDDPは、上記潤滑油組成物の全質量を基準として、かつASTM D5185に従って測定されたものとして、1,200質量ppm以下、好ましくは1,000質量ppm以下、より好ましくは900質量ppm以下、最も好ましくは850質量ppm以下のリンを、該潤滑油に与えるのに十分な量で、該潤滑油組成物に添加される。該ZDDPは、適切には該潤滑油組成物の全質量を基準として、かつASTM D5185に従って測定されたものとして、少なくとも200質量ppm、好ましくは少なくとも350質量ppm、より好ましくは少なくとも500質量ppmのリンを、該潤滑油に与えるのに十分な量で、該潤滑油組成物に添加される。
本発明の全ての局面に従う上記潤滑油組成物におけるリン対モリブデンの比は、適切には1.5未満、好ましくは1.2未満およびより好ましくは1.0未満である。
無灰摩耗防止剤の例は、1,2,3-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、硫化脂肪酸エステル、およびジチオカルバメート誘導体を含む。
【0048】
無灰分散剤は、分散されるべき粒子と会合することのできる官能基を持つ、オイル-可溶性のポリマー系炭化水素主鎖を含み、また本発明の任意の局面に係る潤滑油中に場合によっては存在する任意のホウ素-含有化合物(D)に加えて使用することができる。典型的に、該分散剤は、アミン、アルコール、アミド、またはしばしば橋架け基を介して該ポリマー主鎖に結合したエステル極性部分を含む。該無灰分散剤は、例えば長鎖炭化水素-置換モノおよびジカルボン酸またはその無水物の、オイル-可溶性塩、エステル、アミノ-エステル、アミド、イミドおよびオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体;長鎖脂肪族炭化水素であって、これに直接結合したポリアミンを持つ該炭化水素;および長鎖-置換フェノールとホルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンとを縮合することにより形成されるマンニッヒ(Mannich)縮合生成物から選択することができる。
無灰摩擦調整剤、例えば窒素を含まない有機摩擦調整剤は、本発明の潤滑油組成物において有用であり、また一般的に知られており、かつカルボン酸および無水物とアルカノールとを反応させることにより形成されるエステルを包含する。他の有用な摩擦調整剤は、一般的に親油性炭化水素鎖に共有結合により結合した極性末端基(例えば、カルボキシルまたはヒドロキシル)を含む。カルボン酸および無水物とアルカノールとのエステルは、US 4,702,850に記載されている。その他の従来の有機摩擦調整剤の例は、M.Belzerによる「Journal of Tribology」(1992), Vol.114, pp.675-682において、およびM.Belzer & S.Jahanmirによる「潤滑の化学(Lubrication Science)」(1988), Vol.1, pp.3-26において記載されている。
【0049】
好ましい有機無灰の窒素を含まない摩擦調整剤は、エステルまたはエステルをベースとするものであり、特に好ましい有機無灰の窒素を含まない摩擦調整剤は、グリセロールモノオレエート(GMO)である。
無灰アミン系またはアミン-ベースの摩擦調整剤も使用することができ、また境界層の潤滑特性を改善する、オイル-可溶性アルコキシル化モノ-およびジ-アミンを包含する。
一群の一般的なこのような金属を含まない窒素-含有摩擦調整剤は、エトキシル化アルキルアミンを含む。これらは、ホウ素化合物、例えば三酸化二ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタボレート、ホウ酸またはモノ-、ジ-またはトリ-アルキルボレートとのアダクトまたは反応生成物の形状であり得る。もう一つの金属を含まない窒素-含有摩擦調整剤は、(i) 式:R1R2R3Nを持つ三級アミン(ここで、R1、R2およびR3は、炭素原子数1~6の脂肪族ヒドロカルビル基、好ましくはアルキル基を表し、R1、R2およびR3の内の少なくとも一つは、ヒドロキシル基を持つ)と、(ii) 炭素原子数10~30の飽和または不飽和脂肪酸との反応生成物として形成されるエステルである。好ましくは、R1、R2およびR3の内の少なくとも一つは、アルキル基である。好ましくは、該三級アミンは、2~4個の炭素原子を持つ少なくとも一つのヒドロキシアルキル基を持つであろう。該エステルは、どれ程の数のヒドロキシル基が、該脂肪酸のアシル基とのエステル化に利用し得るかに依存して、モノ-、ジ-またはトリ-エステルまたはこれらの組合せであり得る。好ましい一態様は、(i) 式:R1R2R3Nの三級ヒドロキシアミン(ここで、R1、R2およびR3は、C2-C4ヒドロキシアルキル基であり得る)と、(ii) 10~30個の炭素原子を持つ飽和または不飽和脂肪酸との反応生成物として形成されるエステルの混合物を含み、このようにして形成されたエステル混合物は、少なくとも30~60質量%、好ましくは45~55質量%のジエステル、例えば50質量%のジエステル、10~40質量%、好ましくは20~30質量%のモノエステル、例えば25質量%のモノエステル、および10~40質量%、好ましくは20~30質量%のトリエステル、例えば25質量%のトリエステルを含む。適切には、該エステルは、トリエタノールアミンのモノ-、ジ-またはトリ-カルボン酸エステルおよびこれらの混合物である。
【0050】
典型的に、本発明に従う潤滑剤における追加の有機無灰摩擦調整剤の全量は、該潤滑油組成物の全質量を基準として、5質量%を超えず、また好ましくは2質量%を超えず、およびより好ましくは0.5質量%を超えない。本発明の一態様において、該潤滑油組成物は、追加の有機無灰摩擦調整剤を全く含まない。
粘度調整剤(VM)は、潤滑油に高温および低温操作性を付与するように機能する。使用される該VMは、そんな唯一の機能を持つことができ、あるいは多機能性であってもよい。分散剤としても機能する多機能性粘度調整剤も知られている。適当な粘度調整剤は、ポリイソブチレン、エチレンおよびプロピレンおよび高級α-オレフィンのコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物とのコポリマー、スチレンとアクリル酸エステルとの共重合体、およびスチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエン、およびイソプレン/ブタジエンの部分水添コポリマー、並びにブタジエンおよびイソプレンおよびイソプレン/ジビニルベンゼンの部分水添ホモポリマーである。
抗酸化剤は、しばしば酸化防止剤と呼ばれ、上記組成物の酸化に対する抵抗性を高め、かつパーオキサイドを無害とするためにこれらと結合し、またこれらを変性することによって、パーオキサイドを分解することによって、あるいは酸化触媒を不活性にすることによって機能することができる。酸化的な劣化は、該潤滑剤におけるスラッジ、金属表面上のワニス-様のデポジット、および粘度の増加により立証できる。
適当な抗酸化剤の例は、銅-含有抗酸化剤、硫黄-含有抗酸化剤、芳香族アミン-含有抗酸化剤、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、ジチオホスフェート誘導体、および金属チオカルバメートから選択される。好ましい抗酸化剤は、芳香族アミン-含有抗酸化剤、ヒンダードフェノール系抗酸化剤およびこれらの混合物である。好ましい一態様において、抗酸化剤は、本発明の潤滑油組成物中に存在する。
【0051】
防蝕剤:ノニオン性ポリオキシアルキレンポリオールおよびそのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、およびアニオン性アルキルスルホン酸からなる群から選択されるものが使用できる。
銅含有および鉛含有腐蝕抑制剤は、本発明の幾つかの態様において使用でき、またこれらの化合物が上記潤滑油組成物に含まれている場合、これらは、好ましくは有効成分で0.2質量%を超えない量で存在する。しかし、本発明の好ましい態様においては、銅-含有添加剤は、該潤滑油組成物中に少しも存在しない。存在する場合、適当なこのような化合物は、5~50個の炭素原子を含むチアジアゾールポリスルフィド、その誘導体およびそのポリマーである。1,3,4-チアジアゾールの誘導体、例えば米国特許第2,719,125号、同第2,719,126号および同第3,087,932号に記載されているものが典型的である。他の同様な物質は、米国特許第3,821,236号;同第3,904,537号;同第4,097,387号;同第4,107,059号;同第4,136,043号;同第4,188,299号;および同第4,193,882号に記載されている。他の添加剤は、チアジアゾールのチオおよびポリチオスルフェンアミド、例えばUK特許明細書第1,560,830号に記載されているものである。ベンゾトリアゾール誘導体も、添加剤のこの群に入る。
解乳化成分を少量で使用することができる。好ましい解乳化成分は、EP 330522において記載されている。これは、アルキレンオキサイドと、ビスエポキサイドを多価アルコールと反応させて得られるアダクトとを反応させることによって得られる。該解乳化剤は、有効成分で0.1質量%を超えないレベルで使用されるべきである。有効成分として0.001~0.05質量%という処理率が好適である。
【0052】
流動点降下剤は、それ以外に潤滑油(lube oil)の流動性向上剤としても知られており、これは該流体が流動し、かつ注入され得る最低温度を下げる。このような添加剤は周知である。該流体の低温流動性を改善するこれら添加剤の典型例は、C8~C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー、ポリアルキルメタクリレート等である。
泡の制御は、ポリシロキサン型の消泡剤を包含する多くの化合物、例えばシリコーンオイルまたはポリジメチルシロキサンによりもたらすことができる。
上記個々の添加剤は、任意の都合の良い方法で、ベースストックに組入れることができる。従って、上記成分各々は、これを該ベースストックまたはベースオイルブレンドに、所望の濃度レベルにて分散または溶解することにより、該ベースストックまたはベースオイルブレンドに直接添加することができる。このような混合は、周囲温度または高温にて起こり得る。
好ましくは、上記粘度調整剤および上記流動点降下剤以外の全ての添加剤はブレンドされて、ここにおいて添加剤パッケージとして記載される、濃縮物または添加剤パッケージとされ、該パッケージは、後にベースストックとブレンドされて、最終的な潤滑剤が製造される。該濃縮物は、典型的には上記添加剤(1または複数)を、適切な量で含むように調合され、該濃縮物が予め決められた量のベース潤滑剤と組合された際に、その最終的な調合物中にその所望の濃度をもたらすであろう。
【0053】
上記濃縮物は、好ましくはUS 4,938,880に記載されている方法に従って製造される。その特許は、無灰分散剤と金属洗浄剤とのプレミックスの製造を記載しており、該プレミックスは、少なくとも約100℃の温度にて予備混合される。その後、該プレミックスは、少なくとも85℃まで冷却され、また上記追加の添加剤が添加される。
上記最終的なクランクケース潤滑油調合物は、2~20質量%、好ましくは4~18質量%、および最も好ましくは5~17質量%の上記濃縮物または添加剤パッケージを使用することができ、その残部はベースストックである。
本発明の潤滑油組成物は、該組成物の全質量を基準として、1.2質量%に等しいかまたはそれ未満、好ましくは1.1質量%に等しいかまたはそれ未満、より好ましくは1.0質量%に等しいかまたはそれ未満(ASTM D874)という硫酸灰分含有率を持つことができる。本発明の潤滑油組成物は、適切には該組成物の全質量を基準として、少なくとも0.2質量%、好ましくは少なくとも0.4質量%、例えば少なくとも0.5質量%(ASTM D874)という硫酸灰分含有率を持つ。適切には、該潤滑油組成物の硫酸灰分含有率は、0.04~1.2質量%の範囲、好ましくは0.05~1.0質量%の範囲(ASTM D874)にある。
本発明の潤滑油組成物中のリンの量は、該オイルの特定の用途に依存するであろう。適切には、該潤滑油組成物は、該組成物の全質量を基準として、0.12質量%に等しいかまたはそれ未満、好ましくは0.1質量%まで、より好ましくは0.09質量%に等しいかまたはそれ未満、より一層好ましくは0.08質量%に等しいかまたはそれ未満のリン(ASTM D5185)という量でリンを含有する。適切には、該潤滑油組成物は、該組成物の全質量を基準として0.01質量%に等しいかまたはこれを超え、好ましくは0.02質量%に等しいかまたはこれを超え、より好ましくは0.03質量%に等しいかまたはこれを超え、より一層好ましくは0.05質量%に等しいかまたはこれを超えるリン(ASTM D5185)という量でリンを含む。
【0054】
上記潤滑油組成物中の硫黄の量は、該潤滑油組成物の特定の用途に依存するであろう。該潤滑油組成物は、該組成物の全質量を基準として0.4質量%まで、例えば0.35質量%までの硫黄(ASTM D2622)という量で硫黄を含むことができる。一般に、該潤滑油組成物は、該組成物の全質量を基準として少なくとも0.1質量%、または更には少なくとも0.2質量%の硫黄(ASTM D2622)を含むであろう。
本発明に従う潤滑油組成物における窒素の量は、該オイルの特定の用途に依存するであろう。典型的に、本発明による潤滑油組成物は、該組成物の全質量を基準とし、かつASTM法D5291に従って測定されたものとして、少なくとも0.02質量%、例えば少なくとも0.03質量%または0.04質量%の窒素を含む。適切には、該潤滑油組成物は、該組成物の全質量を基準として、かつASTM D5291に従って測定したものとして、0.20質量%以下、例えば0.15質量%以下または0.12質量%以下の窒素を含むであろう。
適切には、本発明の全ての局面および態様に係る潤滑油組成物は、4~15mgKOH/g、好ましくは5~12mgKOH/gという、ASTM D2896に従って測定されるような全塩基価(TBN)を持つことができる。
【実施例0055】
ここから、本発明を、以下の実施例において説明するが、これら実施例は本発明の請求項の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
一連のオイルを、該オイルに係る境界レジーム(boundary regime)摩擦特性を評価するために、高周波往復動リグ(High Frequency Reciprocating Rig)(HFRR, PCSインスツルメンツ(PCS Instruments)により提供)においてテストした。
上記リグを10mmのディスク上の6mmのボールと接触させた。使用したテストのプロトコールは、以下の通りであった。
【0056】
【0057】
このテストは、6つの温度段階を有し、また各温度段階における平均摩擦および全段階に渡る全体としての平均摩擦を記録することができる。
4種の比較オイル(C-という接頭辞により表示される)および5種の本発明によるオイル(I-という接頭辞により表示される)をテストした。各オイルの組成を、このテストの全段階に渡る平均HFRR摩擦および該テストの40℃および60℃段階に係る平均である、低温HFRR摩擦と共に、以下の表1に提示する。
オイル(Oil) C-1、オイル(Oil) C-3およびオイル(Oil) I-3の比較は、マグネシウムまたはカルシウム洗浄剤の何れかを含む潤滑油に、高レベルのモリブデンを含めることが、予想した通り、該オイルに係る平均HFRR摩擦性能を改善することを示している。また、オイルC-3とオイルI-3との比較は、該カルシウム洗浄剤をマグネシウム洗浄剤で置換えた場合には、これが更に改善されることを示している。該カルシウム洗浄剤をマグネシウム洗浄剤で置換えたことに起因するこの更なる改善は、予想外のことである。
【0058】
オイルC-3とオイル(Oil) C-4との比較およびオイル(Oil) I-1とオイルI-3との比較は、高い処理率でのモリブデンの存在下で、有意な処理率でのホウ素の添加が、同様に該HFRR摩擦性能を改善することを示しており、これは予想外のことである。
オイルI-1とオイル(Oil) I-2との比較は、上記サリチル酸マグネシウム洗浄剤のスルホン酸マグネシウム洗浄剤への変更が、その他の同等なオイルにおいて、その低温摩擦性能を有意に改善し、一方で上において言及された上記カルシウム洗浄剤に比して、該マグネシウム洗浄剤を用いることにより提示された、該改善された性能を維持していることを示している。低温摩擦性能におけるこの改善は予想外のことである。
最後に、オイル(Oil) I-4とオイル(Oil) I-5との比較は、平均HFRR摩擦に係る最良の改善が、カルシウムおよびマグネシウム洗浄剤の組合せを使用した場合に得られ、また加えて該カルシウム/マグネシウム洗浄剤混合物におけるスルホン酸マグネシウム洗浄剤の存在が、その低温摩擦性能を更に改善することを示している。
【0059】
【表1】
1:該モリブデン化合物は、インフィニウムUK社(Infineum UK Ltd.)から入手できるインフィニウム(Infineum) C9401、即ち二量体状のモリブデンジチオカルバメートであった。
2:該サリチル酸カルシウムは、インフィニウムUK社から入手し得るインフィニウム(Infineum) C9329、即ち225というTBNを持ち、かつ8質量%のCaを含む過塩基化洗浄剤であった。
3:該サリチル酸マグネシウムは、インフィニウムUK社から入手し得るインフィニウム(Infineum) C9012、即ち342というTBNを持ち、かつ7.4質量%のMgを含む過塩基化洗浄剤であった。
4:該スルホン酸マグネシウムは、インフィニウムUK社から入手し得るインフィニウム(Infineum) C9340であり、即ち400というTBNを有し、かつ9.1質量%のMgを含む過塩基化洗浄剤であった。
5:該ホウ酸化洗浄剤は、インフィニウムUK社から入手できるインフィニウム(Infineum) C9202、即ち2.3質量%のBを含むホウ酸化無灰ポリイソブテニルサクシンイミド分散剤であった。
6:該追加の添加剤は、非-ホウ酸化洗浄剤、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート、および抗酸化剤を含む洗浄抑制剤パッケージ(detergent inhibitor package)により与えられる。これら添加剤各々の量は、テストされたオイル各々において同一であった。
前記洗浄剤組成物が、1種またはそれ以上の追加の洗浄剤添加物を含み、該洗浄剤添加物が、サリチル酸マグネシウム、サリチル酸カルシウム、スルホン酸カルシウム、マグネシウムフェネート、カルシウムフェネート、2種またはそれ以上のこれら追加の洗浄剤添加物を含有するハイブリッド洗浄剤および/またはこれらの組合せから選択される、請求項1記載の潤滑油組成物。
前記洗浄剤組成物が、1種またはそれ以上のスルホン酸マグネシウム洗浄剤および1種またはそれ以上のサリチル酸カルシウム洗浄剤からなる、請求項3記載の潤滑油組成物。
火花点火式または圧縮点火式内燃機関を潤滑する方法であって、請求項1~5の何れか1項に従って定義された如き潤滑油組成物で、該機関を潤滑する工程を含む、前記方法。