(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107647
(43)【公開日】2022-07-22
(54)【発明の名称】固体材料の前処理方法およびその固体材料前処理方法により製造された固体材料が充填されている固体材料製品
(51)【国際特許分類】
C01G 41/04 20060101AFI20220714BHJP
C23C 16/448 20060101ALI20220714BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
C01G41/04
C23C16/448
H01L21/31 B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081213
(22)【出願日】2022-05-18
(62)【分割の表示】P 2017239342の分割
【原出願日】2017-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000109428
【氏名又は名称】日本エア・リキード合同会社
(71)【出願人】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 浩平
(72)【発明者】
【氏名】ジラール ジャン-マルク
(72)【発明者】
【氏名】ブラスコ ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーゼ ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ユッソン ギヨーム
(57)【要約】
【課題】不純物を除去した固体材料の蒸気を供給することができる、簡易な固体材料前処理方法を提供する。
【解決手段】固体材料の融点または昇華点のうちいずれか低い方の温度よりも低い温度で、前記固体材料を充填した固体材料容器を加熱し、前記固体材料の少なくとも一部を結晶化させる、結晶化工程と、前記固体材料の融点または昇華点のうちいずれか低い方の温度よりも低い温度で、前記固体材料を充填した固体材料容器を加熱し、前記固体材料に含まれる不純物の少なくとも一部を除去する不純物除去工程とを含む、前処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料の融点よりも低い温度で、固体材料容器に充填された前記固体材料を加熱し、前記固体材料に含まれる不純物の少なくとも一部を除去する不純物除去工程を含み、
ここで前記固体材料はMoO2Cl2及び/又はMoCl5を含む、
固体材料の前処理方法。
【請求項2】
前記不純物除去工程は、固体材料をその相転移点未満の温度になるように加熱する工程であることを特徴とする、
請求項1に記載の前処理方法。
【請求項3】
前記前処理方法は、前記固体材料の相転移点未満の温度で、固体材料容器に充填された前記固体材料を加熱し、前記固体材料の少なくとも一部または全部を焼結させる焼結工程をさらに含む、
請求項1または請求項2に記載の前処理方法。
【請求項4】
前記不純物除去工程において、所定流量のキャリアガスが前記固体材料容器に導入され、
前記焼結工程は、前記固体材料容器にキャリアガスが導入されないことを特徴とする、
請求項3に記載の前処理方法。
【請求項5】
前記固体材料容器は、
キャリアガスを前記固体材料容器の内部に導入するキャリアガス導入配管と、
前記固体材料容器内に配置され、前記固体材料が充填される第一充填部と、
前記第一充填部の外周の少なくとも一部に位置し、前記固体材料が充填される第二充填部と、
前記固体材料容器の内部の天井側に配置される少なくとも1つのトレー状の第三充填部と、
前記キャリアガスと共に同伴する前記固体材料を前記固体材料容器から導出する固体材料導出配管と、
前記固体材料容器を加熱する加熱部と、を有し、
前記キャリアガス導入配管のキャリアガス出口部は、前記第一充填部に設けられ、
前記固体材料導出配管の入口部が、前記第三充填部に設けられ、
前記キャリアガスが前記第一充填部、前記第二充填部、前記第三充填部の順に流通することを特徴とする、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の前処理方法。
【請求項6】
固体材料の製品を製造する方法であって、
固体材料を、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の前処理方法を実施して、固体材料が充填されている固体材料製品を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物を除去した固体材料を提供するための前処理方法およびその固体材料前処理方法により製造された固体材料容器に固体材料が充填されている固体材料製品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業の進歩に伴い、厳しいフィルムの要件を満たすであろう高純度な前駆体材料を利用することが求められている。これらの前駆体材料は、半導体層を堆積させるための広範な用途において使用される。例えば、半導体層としては、バリア層、高誘電率/低誘電率絶縁膜、金属電極膜、相互接続層、強誘電性層、窒化珪素層又は酸化珪素層用の構成成分や、化合物半導体用のドーパントとして働く構成成分が挙げられ得る。
これらの前駆体材料の一部は、標準温度及び圧力で固体の形にある。例示的な前駆体材料としては、アルミニウム、バリウム、ビスマス、クロム、コバルト、銅、金、ハフニウム、インジウム、イリジウム、鉄、ランタン、鉛、マグネシウム、モリブデン、ニッケル、ニオブ、白金、ルテニウム、銀、ストロンチウム、タンタル、チタン、タングステン、イットリウム及びジルコニウムの無機化合物及び有機金属化合物が挙げられる。
固体の前駆体材料は、昇華法や再結晶法により精製され、高純度化されることが一般的である。
【0003】
特許文献1では固体材料をその沸点以上に加熱して気化させた後、気体状態の不純物を除去し、固体材料は凝縮させることにより精製する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし昇華法や再結晶法による精製工程は、固体材料のユースポイントとは離れた、オフサイトの固体材料の製造工程で行われることが通常である。従って、精製工程終了後の固体材料は、ユースポイントで使用される固体材料容器に充填されてから使用される。このため、固体材料容器への移充填の手間がかかるだけでなく、移充填の際に不純物が混入するおそれがある。
【0006】
例えば、特許文献1は、固体材料である六塩化タングステン(以下、WCl6)を、その沸点以上の温度(300℃以上)にまで加熱して気化させ、その後にWCl6を凝縮させることにより、WCl6中に含まれる不純物であるWOCl4等を除去する方法を開示する。しかし、この方法では加熱のためのボイラーと、WCl6の凝縮のための凝縮器が必要となり、複雑な装置が必要となる。また、精製して得られたWCl6を半導体層の堆積に使用するためには、凝縮器内に凝縮したWCl6を別の容器(すなわち、半導体層堆積用前駆体供給容器)に移充填する必要がある。これは前駆体供給のプロセスを煩雑にするだけでなく、移充填の際に前駆体を汚染するおそれもある。
【0007】
以上の背景により、不純物を除去した固体材料の蒸気を供給することができる、簡易な固体材料前処理方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明1)
本発明に係る固体材料の前処理方法は、
固体材料の融点よりも低い温度で、固体材料容器に充填された前記固体材料を加熱し、前記固体材料に含まれる不純物の少なくとも一部を除去する不純物除去工程を含む。
上記固体材料容器は、外観サイズが、四角柱状であれば縦0.2~1.6M、横0.2~1.6M、高さ0.2~1.6M以下が挙げられる。円柱状であれば直径0.2~1.6M、高さ0.2~1.6Mが挙げられる。固体材料を収納可能な容積は、4m3以下、2m3以下、0.5m3以下、0.1m3以下などが挙げられる。容器サイズが小さいため、従来よりも小型の加熱機構で加熱が可能になる。
【0009】
固体材料は、半導体層を堆積させるために用いられる前駆体で合ってもよい。固体材料は前駆体自体であってもよいが、固体材料をビーズ等の坦持体に坦持させたものであってもよい。また、固体材料は、前記固体材料が充填される際に固体状態であってもよく、固体材料容器が運搬される際に固体材料であってもよく、固体材料の充填の際、または充填後に加熱された場合には液体状態であってもよい。固体材料は特に限定されず、有機化合物、有機金属化合物、金属ハロゲン化物、およびこれらの混合物からなる群より選択される化合物を含む材料であってもよい。例えば、WCl5、WCl6、WOCl4、WO2Cl2、SiI4、TiI4、GeI4、GeI2、TiBr4、Si2I6、BI3、PI3、TiF4、TaF5、MoO2Cl2、MoOCl4、ZrCl4、NbCl5、NbOCl3、TaCl5、VCl5、Y(CH3C5H4)3、Sc(CH3C5H4)3、MoCl5、AlCl3、HfCl4、(CH3)3In、(C5H5)2Mg、NbF5、XeF2、VF5またはカルボン酸無水物であってもよい。
本明細書において、不純物は、固体材料の酸化物、ハロゲン化物、金属不純物、水分、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0010】
本発明に係る固体材料の前処理方法によれば、固体材料の気化(固相から気相への昇華、固相から液相、液送から気相への相変化)および再凝縮(気相から固相または液相への相変化)といった相変化を経ることなく、不純物を除去することができる。従って、固体材料の全量を気化させるためのボイラーや、再凝縮させるための再凝縮装置や冷却装置は不要である。固体材料の融点よりも低い温度まで固体材料を加熱することができる加熱機構があれば足りる。
【0011】
該加熱機構により固体材料容器を加熱することにより、固体材料容器内に充填された固体材料および固体材料に含まれる不純物が加熱される。これにより固体材料に含まれる不純物の少なくとも一部が気化される。気化した不純物は固体材料容器外へと除去されることから、固体材料容器内には高純度化された固体材料が残留する。
固体材料が液化した後、再固化すると、固体材料内部に混入した不純物は気化しにくくなるため、不純物の除去が困難になる。本発明に係る前処理方法によれば、固体材料は融点も低い温度で加熱されるため、液化・再固化することはなく、容易に不純物を除去することができる。
【0012】
固体材料中の不純物のうち、酸化物は、自然酸化膜として固体材料の粒の表面に形成されることが多い。固体材料の粒の表面に生成した自然酸化膜は、固体材料の粒同士の間での固体材料の移動を妨げる作用を有すると考えられることから、本発明においては該自然酸化膜を除去することが有効である点に着目した。そこで、本発明では加熱しながらキャリアガスを流通させることにより自然酸化膜を除去する方法に思い至った。固体材料の粒の表面は固体材料内部と比較して加熱されやすいことから、固体材料表面の酸化物である不純物を容易に除去することができる。
例えば、固体材料がタングステン塩化物である場合においては、タングステン塩化物の粒の表面に自然酸化膜であるタングステン酸化物が形成されるが、本発明では該タングステン酸化物を除去することが可能となる。
固体材料がヨウ化物である場合には、固体材料の粒の表面に不純物となる遊離のヨウ素またはヨウ化水素が存在したり、水素化物が存在することが多い。本発明においてはこれらの不純物を除去することが可能となる。水素化物とは、固体材料の一部が水素化されたものであれば特に限定されず、例えば固体材料がSiI4の場合にはSiHI3、SiH2I2、またはSiH3Iが挙げられる。
本発明に係る前処理方法により処理された固体材料は、半導体層を堆積させる半導体プロセスに好適に使用される。固体材料が高純度化されていることにより、高純度で均一な半導体層を堆積することができる。
【0013】
(発明2)
本発明に係る前処理方法の不純物除去工程は、固体材料をその相転移点未満の温度になるように加熱する工程であってもよい。不純物除去工程における加熱時間は、容器サイズ、固体材料の収容サイズに依存する。
【0014】
固体材料は、その温度によって異なる相状態(結晶状態ともいう)を有する場合があり、それぞれの相状態に応じて異なる蒸気圧を有する場合がある。前処理段階で固体材料が相転移点以上の温度に加熱されると、固体材料は結晶化するが、その後の半導体層の堆積工程において相転移点以下の温度に配置されると、固体材料の一部は非結晶化する。このため、固体材料中に結晶化した部分と、結晶化していない部分が混在し、その存在比は時間の経過とともに変動する。その結果、固体材料が有する蒸気圧が不安定になり、ひいては堆積される半導体層の不均一化を招く。
【0015】
固体材料が、温度により異なる結晶状態を有する場合、すなわち低温における結晶状態(以下、低温相という)と、高温における結晶状態(以下、高温相という)が異なる場合にも、低温相と高温相の固体材料の蒸気圧は異なる。低温相から高温相に相転移する相転移点よりも低い温度で前処理を実施すれば、固体材料は低温相の状態となる。前処理の後に行われる半導体層の堆積工程が相転移点よりも低い温度で行われる場合には、低温相を維持することができ、高温相に起因する蒸気圧の変動が抑制される。この結果、均一な半導体層を堆積させることが可能となる。
【0016】
以上の構成によって、固体材料の相転移点以下に加熱することにより固体材料全体を非結晶化状態に維持することが可能となる。半導体層の堆積工程が相転移点よりも低い温度で行われる場合には、該堆積工程においても固体材料を非結晶化状態に維持され、該堆積工程を実施する間の固体材料の蒸気圧を安定させ得る。この結果、均一な半導体層を堆積させることが可能となる。
【0017】
不純物除去工程における加熱温度は、固体材料の相転移点よりも低い温度であればよく、相点移転未満の温度であれば、より高い温度のほうが相転移速度が速くなるため好ましい。
例えば、WCl6は異なる結晶型(高温相であるヘキサゴナル型(β型とも呼ばれる)および低温相であるトリゴナル型(α型とも呼ばれる))を有し、結晶型によって蒸気圧が異なることが知られている。相転移点が176℃であるWCl6の場合には126℃以上175℃以下の範囲の温度が好適であり、166℃以上175℃以下がさらに好適である。相変位点が180℃であるWCl5の場合には130℃以上179℃以下の範囲が好適であり、170℃以上179℃以下がさらに好適である。
相転移点が106℃であるTiI4の場合には56℃以上105℃以下の範囲の温度が好適であり、96℃以上105℃以下がさらに好適である。
結晶化工程および不純物除去工程における加熱温度は、高い方が結晶の転移が迅速に進むため、固体材料の相転移点よりも1℃から50℃低い温度が好ましく、1℃から10℃低い温度がより好ましい。
【0018】
(発明3)
本発明に係る前処理方法は、前記固体材料の相転移点未満の温度で、固体材料容器に充填された前記固体材料を加熱し、前記固体材料の少なくとも一部または全部を焼結させる焼結工程をさらに含むことができる。
焼結工程は、不純物除去工程と処理タイミングが同時であってもよく、一部が重なっていてもよい、不純物除去工程の後に実施されてもよい。
固体材料の粒表面の不純物(酸化物)が除去された後に、焼結が開始する、あるいは固体材料の顆粒の内部にある不純物含有量の低い部分同士が近接し自己拡散でさらに促進されると結晶状態をより均一にできるので好ましい。
【0019】
本発明によれば、不純物除去工程において不純物を除去した後に、または不純物除去工程において不純物を除去するとともに、固体材料を焼結させることが可能となる。不純物除去工程において、顆粒状の固体材料の表面にある酸化物等の不純物が除去されれば、固体材料の顆粒の内部にある不純物含有量の低い部分同士が近接し、自己拡散でさらに焼結が促進され、結晶状態をより均一化することが可能となる。
焼結工程における加熱時間は、容器サイズ、固体材料の収容サイズ、固体材料の重量に依存する。
【0020】
(発明4)
本発明に係る前処理方法の不純物除去工程において、所定流量のキャリアガスが前記固体材料容器に導入される。前記焼結工程は、前記固体材料容器にキャリアガスが導入されなくてもよい。
不純物除去工程は、所定流量のキャリアガスを固体材料容器に導入しながら行ってもよい。導入されたキャリアガスは、除去工程中に排出経路から排出してもよく、除去工程が終了した後に排出してもよい。
別実施形態として、不純物除去工程は、その開始から所定時間経過後にキャリアガスを固体材料容器に導入してもよい。気化した不純物はキャリアガスに同伴されて容器外に排出される。
焼結工程は、所定流量のキャリアガスを固体材料容器に導入しながら行ってもよく、導入せずに行っても良い。導入せずに行うほうが固体材料のロスが少ない点で好ましい。
【0021】
本発明によれば、不純物除去工程において、所定流量のキャリアガスが固体材料容器に導入されることにより、加熱された不純物は気化して、キャリアガスに同伴されて固体材料容器外へと除去される。焼結工程においては、不純物を固体材料容器から導出する必要はないため、キャリアガスを導入しなくても良い。
【0022】
(発明5)
本発明に係る前処理方法において、前記固体材料容器は、キャリアガスを前記固体材料容器の内部に導入するキャリアガス導入配管と、前記固体材料容器内に配置され、前記固体材料が充填される第一充填部と、前記第一充填部の外周の少なくとも一部に位置し、前記固体材料が充填される第二充填部と、前記固体材料容器の内部の天井側に配置される少なくとも1つのトレー状の第三充填部と、前記キャリアガスと共に同伴する前記固体材料を前記固体材料容器から導出する固体材料導出配管と、前記固体材料容器を加熱する加熱部と、を有し、
前記キャリアガス導入配管のキャリアガス出口部は、前記第一充填部に設けられ、
前記固体材料導出配管の入口部が、前記第三充填部に設けられ、
前記キャリアガスが前記第一充填部、前記第二充填部、前記第三充填部の順に流通することを特徴とすることができる。
【0023】
本発明によれば、固体材料蒸気濃度の低いキャリアガスは、まず、固体材料容器の中心部に配置された第一充填部(加熱部が容器の外側に配置されているため比較的温度が低い)に供給され、その後に、前記固体材料容器の側壁側に配置された第二充填部(比較的温度が高い)に供給される。さらにトレー状の第三充填部に導入された後、容器外へ導出される。
本発明によれば、キャリアガスが第一充填部、第二充填部、第三充填部の順に流通し、固体材料容器から導出されるため、固体材料および固体材料に含まれる不純物とキャリアガスとが十分に接触し、該準物を含むガスを固体材料容器から導出することが可能となる。
固体材料容器を加熱して固体材料を導出する場合においては、固体材料と接触することにより固体材料容器から固体材料を導出する前に固体材料容器内の温度が均一であった場合であっても、固体材料の導出が開始されると、固体材料が気化(昇華)した部分の固体材料温度は低下する。
【0024】
固体材料は外側から加熱された場合、固体材料導出中は第一充填部よりも外側に配置される第二充填部の温度が高い傾向にある。このため、第一充填部で蒸気となりキャリアガスに同伴された固体材料は、第二充填部で凝縮を起こすことなく第三充填部へ導入される。固体材料の凝縮が低減されることにより、ガス流路の閉塞が抑制され、ガス流路閉塞に起因する圧力損失の増大や、導出される不純物量の低下を防ぐことができる。第三充填部は単一のトレー状の充填部であることもでき、上下方向に積層された複数のトレー状の充填部であることもできる。
【0025】
(発明6)
本発明に係る前処理方法において、前記固体材料は、WCl5、WCl6、WOCl4、WO2Cl2、SiI4、TiI4、GeI4、GeI2、TiBr4、Si2I6、BI3、PI3、TiF4、TaF5、MoO2Cl2、MoOCl4、ZrCl4、NbCl5、NbOCl3、TaCl5、VCl5、Y(CH3C5H4)3、Sc(CH3C5H4)3、MoCl5、AlCl3、HfCl4、(CH3)3In、(C5H5)2Mg、NbF5、XeF2、VF5およびカルボン酸無水物よりなる群から選択されるすくなくとも1種の化合物を含むことができる。
【0026】
例えばWCl6は176℃に、WCl5は180℃に、低温相から高温相への相転移点を有する。この場合、相転移温度よりも低い温度で加熱しながら結晶化および不純物除去を実施することにより、固体材料であるWCl6またはWCl5の結晶状態を低温相に維持しながら不純物を除去することが可能となる。
【0027】
例えばTiI4は106℃に、低温相から高温相への相転移点を有する。この場合、相転移温度よりも低い温度で加熱しながら結晶化および不純物除去を実施することにより、固体材料であるTiI4の結晶状態を低温相に維持しながら不純物を除去することが可能となる。
【0028】
以上により、本発明にかかる前処理方法によれば、不純物を低減した、安定した蒸気圧を有する固体材料を供給可能にできる。また、前処理により不純物を除去し、蒸気圧を安定化させた固体材料を言充填することなく、前処理工程において充填した固体材料容器のままで半導体装置に接続し、半導体層の堆積工程に直接使用することができる。よって、前処理工程後の移充填作業の煩雑さがなく、また移充填作業に起因する固体材料の汚染を防止することができる。
【0029】
(発明7)
本発明に係る固体材料製品の一態様は、発明1ないし発明5のいずれかに記載の前処理方法を実施した固体材料が、固体材料容器に充填されてなる、固体材料製品である。
【0030】
本発明の固体材料製品によれば、前処理方法を実施した固体材料を、別の固体材料に移充填することなく、その後の半導体層の堆積工程等に使用することができる固体材料製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】固体材料容器から導出されるガスのTCD測定結果を示す図である。
【
図3】固体材料の蒸気圧の経時変化を示す図である。
【
図5】XRD装置による標準試料想定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0033】
(実施形態1-不純物除去工程および焼結工程)
本発明に係る固体材料の前処理方法は、固体材料の融点よりも低い温度で、固体材料容器に充填された前記固体材料を加熱し、前記固体材料に含まれる不純物の少なくとも一部を除去する不純物除去工程を含む。
本発明に係る前処理方法は、前記固体材料の相転移点未満の温度で、固体材料容器に充填された前記固体材料を加熱し、前記固体材料の少なくとも一部または全部を焼結させる焼結工程をさらに含むことができる。
【0034】
固体材料は、半導体層を堆積させるために用いられる前駆体であってもよい。固体材料は前駆体自体であってもよいが、固体材料をビーズ等の坦持体に坦持させたものであってもよい。また、固体材料は、前記固体材料を容器に充填する際に固体状態であってもよく、固体材料容器が運搬される際に固体材料であってもよく、固体材料が充填の際、または充填後に加熱された場合には液体状態であってもよい。固体材料は特に限定されず、有機化合物、有機金属化合物、金属ハロゲン化物、金属酸化ハロゲン化物、およびこれらの混合物からなる群より選択される化合物を含む材料であってもよい。
【0035】
主な固体材料の融点および相転移点を表1に示す。
不純物除去工程における加熱温度は、固体材料の融点よりも低い温度であればよく、例えば融点が284℃であるWCl6の場合には25℃以上283℃以下の範囲にある任意の温度であり、融点が250℃である五塩化タングステン(以下、WCl5)の場合には25℃以上249℃以下の範囲にある任意の温度である。
同様に、他の固体材料についても、加熱温度は25℃以上であって、固体材料の融点以下の範囲にある温度であれば良い。加熱温度の上限は、例えば、表1に示す固体材料において、表1に示す融点よりも1℃低い温度としても良い。
【0036】
【0037】
不純物除去工程における加熱時間は、固体材料容器の大きさ、固体材料容器の容積、固体材料容器に充填される固体材料の重量に依存する。固体材料容器の多きさが、例えば直径0.3m~1.0m、高さ0.3m~1.0mの円柱形であり、固体材料の充填量が1kg~20kgの場合には、加熱時間は2時間以上12時間以下とすることができる。
不純物除去工程における加熱時間は、固体材料容器内の固体材料の重量の現象量に基づいて決定しても良い。例えば、不純物除去工程における加熱時間は、固体材料容器内の固体材料の重量が、不純物除去工程開始時よりも10%減少するまでの時間とすることができる。
【0038】
不純物除去工程において、焼結工程をさらに含んでも良い。焼結工程は不純物除去工程を実施した後に実施することができ、また、不純物除去工程と同時に実施することもできる。
焼結工程における加熱時間は、固体材料容器の大きさ、固体材料容器の容積、固体材料容器に充填される固体材料の重量に依存する。固体材料容器の多きさが、例えば直径0.3m~1.0m、高さ0.3m~1.0mの円柱形であり、固体材料の充填量が1kg~20kgの場合には、加熱時間は8時間以上24時間以下とすることができる。
【0039】
不純物除去工程および焼結工程における加熱温度は、固体材料の相転移点よりも低い温度であればさらに好ましく、相転移点未満の温度であれば、より高い温度のほうが相転移速度が速くなるためさらにより好ましい。例えば相変位点が176℃であるWCl6の場合には126℃以上175℃以下の範囲の温度が好適であり、166℃以上175℃以下がさらに好適である。相変位点が180℃であるWCl5の場合には130℃以上179℃以下の範囲が好適であり、170℃以上179℃以下がさらに好適である。
相転移点が106℃であるTiI4の場合には56℃以上105℃以下の範囲の温度が好適であり、96℃以上105℃以下がさらに好適である。
【0040】
固体材料容器は、固体材料を充填することができる容器であれば特に限定されず、ステンレススチール製、アルミニウム製等の金属製容器であってもよく、ガラス製等の比金属製容器であってもよい。固体材料容器はキャリアガスの導入口および導入仕切弁、キャリアガスとキャリアガスに同伴する固体材料蒸気を導出する導出口および導出仕切弁を有しており、必要に応じて固体材料を充填する充填口および充填仕切弁やメンテナンス弁を有していてもよい。固体材料容器内部は1の空間を有する一体型容器であってもよいが、トレーや仕切弁等で2以上の空間に分割されていてもよい。
【0041】
不純物除去工程を実施する前に、固体材料容器内を減圧してもよい。減圧する時の前記固体材料容器内の圧力は、加熱時に固体材料容器の耐圧圧力を超えない範囲であれば特に限定されず、例えば10Torrから大気圧の範囲で任意に設定することができる。
不純物除去工程は、固体材料の性状や、固体材料容器の容量、固体材料の充填量等に応じて、例えば1時間から50時間の長さとすることができる。加熱温度は、固体材料の融点未満である。加熱温度は、固体材料の融点未満であって、その相転移点以下の温度であっても良い。
焼結工程は、固体材料の性状や、固体材料容器の容量、固体材料に含まれる不純物の性状と含有量、固体材料の充填量等に応じて、例えば0.5時間から50時間の長さとすることができる。加熱温度は、固体材料の融点未満である。加熱温度は、固体材料の融点未満であって、その相転移点以下の温度であっても良い。
【0042】
(別実施形態1)
別実施形態として、キャリアガスを導入しない状態で固体材料容器1を加熱する焼結工程を行わず、加熱を開始する際にキャリアガスを導入してもよい。固体材料容器1の温度は実施形態1と同様に170℃、キャリアガス流量は10SCCM、加熱時間は20時間としてもよい。
【0043】
(別実施形態2)
さらに別の実施形態として、実施形態1と同様の前処理方法において、固体材料容器1の温度を160℃、キャリアガス流量は10SCCM、加熱時間は50時間としてもよい。
【0044】
(別実施形態3)
さらに別の実施形態として、実施形態1と同様の前処理方法において、固体材料容器1の温度を170℃、キャリアガス流量は10SCCM、加熱時間は2時間とする不純物除去工程を実施した後に、キャリアガスの導入を停止し、固体材料容器1の温度を170℃に12時間維持する焼結工程を実施しても良い。
【0045】
キャリアガスは特に限定されず、窒素、アルゴン、ヘリウム、乾燥空気、水素およびこれらの組み合わせであってもよい。固体材料と化学反応を起こさない不活性なガスが選択される。
【0046】
(実施形態1-容器構造)
実施形態1の固体材料容器1について
図1を用いて説明する。固体材料容器1は、内部に収納された固体材料S1、S2、S3を気化して供給するための固体材料容器であって、キャリアガスを前記固体材料容器1の内部に導入するキャリアガス導入配管11と、前記固体材料容器1内に配置され、前記固体材料S1が充填される第一充填部21と、前記第一充填部21の外周の少なくとも一部に位置し、前記固体材料S2が充填される第二充填部22と、前記固体材料容器1の内部の天井側に配置される少なくとも1つのトレー状の第三充填部23と、前記キャリアガスと共に同伴する前記固体材料S1、S2、S3を前記固体材料容器から導出する固体材料導出配管12と、を有する。
前記キャリアガス導入配管11のキャリアガス出口部13は、前記第一充填部21に設けられる。前記固体材料導出配管12の入口部14が、前記第三充填部23に設けられる。
前記キャリアガスが前記第一充填部21、前記第二充填部22、前記第三充填部23の順に流通する構成である。各構成について以下に詳述する。
【0047】
固体材料容器1全体はステンレススチール製であり、底部を有するステンレススチール製円筒型容器41にステンレススチール蓋42をねじ込み式金具43で止める構成となっている。円筒型容器41の上部淵部分44はねじ込み式金具43を挿入するため、および、重量物である円筒型固体材料容器下部41と蓋42を十分な強度でとめるため、上部淵部分以外の部分よりも厚みを持たせている。蓋42には、キャリアガス導入配管11、固体材料導出配管12のほか、メンテナンス用ポート(図示せず)、および圧力計ポート(図示せず)が設けられている。キャリアガス導入配管11には容器入口バルブ111が、固体材料導出配管には容器出口バルブ121が配置されている。
【0048】
第三充填部23を形成するトレー31はステンレススチール製の丸型平皿様のトレーであり、トレーの外周は前記上部淵部分44の内側に接するように設計されている。前記上部淵部分44とトレー31が接する部分は、固体材料容器1の外側から加熱する場合に、熱を第三充填部23に伝達する。トレー31の側壁は蓋42に円周状に接する。これにより、第二充填部22から直接的に固体材料導出配管12へガスが流入することを防止している。
【0049】
第一充填部21と第二充填部22を仕切る仕切部32は円筒型のステンレススチール板である。円筒型固体材料容器41の下部底面には、仕切部32の円筒が有する直径と同じ径の円形の溝41aが切られており、その溝41aに仕切部32の下部先端を嵌合する。仕切部32の上部先端にトレー31が配置されている。仕切部32の下部(固体材料容器内の底面から高さ5mmの位置)には、直径2mmの孔(流通部33に該当)が水平方向に均等に8個配置される。
【0050】
キャリアガス導入配管11は第三充填部23を形成するトレー31の中央部分を貫通し、キャリアガス出口部13が第一充填部21内に開孔している。キャリアガスはキャリアガス導入配管11から第一充填部21へ導入され、第一充填部21内に充填された固体材料S1と接触する。トレー31には貫通部(不図示)が設けられている。キャリアガス導入配管11はトレー31の貫通部に貫挿される。キャリアガス導入配管11の貫挿部とトレー31の貫通部はパッキンにより固定されている。該パッキンは、第三充填部23から第一充填部21へ固体材料が落下することを防ぐほか、第一充填部21のガスが第二充填部22を経由せずに直接に第三充填部23へ流入することを防止する。
【0051】
第一充填部21内の固体材料S1は気化(または昇華)し、キャリアガスに同伴されてキャリアガス流通部33から第二充填部22へ流入する。第二充填部22へ流入したキャリアガス及び固体材料蒸気は、第二充填部22内に充填された固体材料S2と接触する。第二充填部22は第一充填部21よりも1Torr程度低い圧力になっており、第二充填部22内に充填された固体材料S2の表面は、第一充填部21内に充填された固体材料S1の表面よりも1℃程度高くなっている。このため、第二充填部22内に充填された固体材料S2は気化(または昇華)してキャリアガスに同伴され、トレー31の側壁に配置された開孔部51(
図4参照)を経由して第三充填部23へ流入する。該開孔部51はトレー側壁のうち、円筒型固体材料容器41の下部と接する部分よりも下方に設けられている。該開孔部51は、直径約2mmの孔であり、トレー31の壁面に均等に水平方向に16個配置した。第三充填部23は第二充填部22よりも1Torr程度低い圧力になっている。このため、第三充填部23に充填された固体材料S3は気化してキャリアガスに同伴し、固体材料導出配管12から固体材料容器1外へ導出される。
【0052】
キャリアガス導入配管11は第三充填部23を形成するトレー31の中央部分を貫通し、キャリアガス出口部13が第一充填部21内に開孔している。キャリアガスはキャリアガス導入配管11から第一充填部21へ導入され、第一充填部21内に充填された固体材料S1と接触する。トレー31には貫通部(不図示)が設けられている。キャリアガス導入配管11はトレー31の貫通部に貫挿される。キャリアガス導入配管11の貫挿部とトレー31の貫通部はパッキンにより固定されている。該パッキンは、第三充填部23から第一充填部21へ固体材料が落下することを防ぐほか、第一充填部21のガスが第二充填部22を経由せずに直接に第三充填部23へ流入することを防止する。
【0053】
第一充填部21内の固体材料S1は気化(または昇華)し、キャリアガスに同伴されてキャリアガス流通部33から第二充填部22へ流入する。第二充填部22へ流入したキャリアガス及び固体材料蒸気は、第二充填部22内に充填された固体材料S2と接触する。第二充填部22は第一充填部21よりも1Torr程度低い圧力になっており、第二充填部22内に充填された固体材料S2の表面は、第一充填部21内に充填された固体材料S1の表面よりも1℃程度高くなっている。このため、第二充填部22内に充填された固体材料S2は気化(または昇華)してキャリアガスに同伴され、トレー31の側壁に配置された開孔部51(
図4参照)を経由して第三充填部23へ流入する。該開孔部51はトレー側壁のうち、円筒型固体材料容器41の下部と接する部分よりも下方に設けられている。該開孔部51は、直径約2mmの孔であり、トレー31の壁面に均等に水平方向に16個配置した。第三充填部23は第二充填部22よりも1Torr程度低い圧力になっている。このため、第三充填部23に充填された固体材料S3は気化してキャリアガスに同伴し、固体材料導出配管12から固体材料容器1外へ導出される。
【0054】
固体材料容器を加熱する加熱部(不図示)は、前記固体材料容器を加熱することができるものであれば特に限定されず、例えば固体材料容器全体を収納する恒温槽であってもよく、マントルヒーターやブロックヒーターであってもよい。
【0055】
(別実施形態3)
本発明に係る実施形態の一例は、実施形態1に示す前処理を行った固体材料WCl6を固体材料容器1に充填した固体材料製品である。該固体材料製品は、半導体層を堆積させる半導体装置に配置され、固体材料容器1から固体材料蒸気を半導体装置に供給する。半導体層を堆積させる温度と、実施形態1における前処理の加熱温度を同程度の温度とすることにより、前処理において形成された結晶状態を維持しながら(すなわち、一定の蒸気圧を維持しながら)半導体層を堆積させることが可能となる。従って、半導体装置へ供給される固体材料の量が安定し、均一な半導体層を堆積させることが可能となる。
【0056】
(別実施形態4)
別実施形態として、実施形態1に示す前処理方法を実施した固体材料を、前処理方法を行った固体材料容器1から別の固体材料容器に移充填し、固体材料製品を構成することもできる。
【0057】
(実施形態1-固体材料の充填)
洗浄し、乾燥した円筒型固体材料容器下部41、蓋42、仕切部32、およびトレー31と、固体材料を、不活性雰囲気としたグローブボックスに搬入する。円筒型固体材料容器41の底面にある円状の溝41aに合わせて仕切部32を嵌合し、固定する。固体材料容器1に充填するWCl6の合計量のうち、一部(例えば合計量の約10%~70%の範囲)を第一充填部に、別の一部(例えば合計量の10%~50%)を第二充填部に充填する。次に仕切部32上にトレー31を載せ、残りの固体材料を充填する。その後、円筒型固体材料容器41に蓋42をかぶせ、ねじ込み式金具43で固定する。円筒型固体材料容器41と蓋42の間には密閉性を保つためのパッキンを入れる。以上により固体材料容器1への固体材料の充填が完了する。
【0058】
(実施例1)
図1に示す固体材料容器を用いて、実施形態1に係る前処理方法を実施した。
【0059】
(固体材料WCl6の充填)
洗浄し、乾燥した円筒型固体材料容器下部41、蓋42、仕切部32、およびトレー31と、固体材料であるWCl6を、不活性雰囲気としたグローブボックスに搬入した。円筒型固体材料容器41の底面にある円状の溝41aに合わせて仕切部32を嵌合し、固定する。固体材料容器1に充填するWCl6の合計量(6.5kg)のうち、2.6kgを第一充填部に、別の2.6kgを第二充填部に充填した。次に仕切部32上にトレー31を載せ、残りのWCl61.3kgを充填する。その後、円筒型固体材料容器41に蓋42をかぶせ、ねじ込み式金具43で固定する。円筒型固体材料容器41と蓋42の間には密閉性を保つためのパッキンを入れた。以上により固体材料容器1への固体材料の充填が完了する。
【0060】
(固体材料の前処理)
固体材料(本実施形態においてはWCl6)が充填された固体材料容器1を、真空ポンプを用いて減圧した。
減圧時の前記固体材料容器1内の圧力は、100Torrとした。具体的には容器入口バルブ111を閉じて、容器出口バルブ121の後段を真空ポンプに接続し、容器出口バルブ121を開けることで減圧とする。
次に、固体材料容器1の外側に配置されたマントルヒーター(不図示)により、固体材料容器1の温度が170℃になるまで加熱した。WCl6の相転移温度は176℃であることから、170℃に加熱した本実施例ではWCl6は低温相を構成する。
固体材料容器1内の圧力が100Torrになった後、容器出口バルブ121を閉じた。次に、容器入口バルブ111および容器出口バルブ121を開けてキャリアガス(本実施形態においては窒素ガス)を導入した(不純物除去工程)。キャリアガスの流量は1000SCCMとした。キャリアガスの流通時間は2時間であり、この間は固体材料容器1の温度は170℃に維持された。
【0061】
次に、容器入口バルブ111および容器出口バルブ121を閉じてキャリアガス(本実施形態においては窒素ガス)の導入を停止した(焼結工程)。固体材料容器1の温度は170℃に、12時間維持された。
【0062】
前記不純物除去工程において、キャリアガスとともに固体材料容器1から導出されるガスを島津製作所製TCDセンサーにより分析した結果を
図2に示す。不純物除去工程開始直後はTCDセンサーの出力値が大きいが、徐々に出力値は低下し、不純物除去工程開始後約0.5時間でほぼ安定した。この結果はWCl
6よりも蒸気圧の高いWOCl
4等の不純物が、固体材料容器1から導出されたことを示している。
WOCl
4は主にWCl
6が酸化することにより発生する不純物であり、顆粒状の固体材料表面を被覆するように形成されることから固体材料内でのWCl
6の自己拡散を抑制する。不純物除去工程において、固体表面上に形成された不純物であるWOCl
4が除去され、顆粒間のWCl
6のの自己拡散が抑制されにくくなることにより、WCl
6の結晶状態がより均一化されると考えられる。WOCl
4が除去されたことにより、TCDセンサーの出力値が安定した後は、不純物をキャリアガスに同伴させて除去する必要がなくなるため、キャリアガス供給は停止しても良いと考えられる。
【0063】
実施形態1に係る前処理方法実施前後のWCl6中に含まれる金属不純物について分析した結果を表2に示す。金属不純物の内、MoおよびZn含有量が減少していることから、実施形態1に係る前処理方法により、金属不純物を除去することができたことが確認できた。
【0064】
【0065】
(固体材料の蒸気圧測定)
実施例1で用いた、前処理前のWCl
6について、170℃において熱重量分析計(メトラートレド社製TGA/DSC 3+)を使用して蒸気圧を測定した結果を
図3に示す。時間の経過とともにWCl
6の蒸気圧は4.6Torrから3.4Torrまで徐々に低下する傾向にあった。
一方で、実施例1における前処理後のWCl
6について、170℃において熱重量分析計を使用して蒸気圧を測定した結果、蒸気圧は3.3Torrで安定していた。この結果から、本実施例に係る前処理により、WCl
6の均一な結晶状態が形成され、蒸気圧が安定したと考えられる。
【0066】
(固体材料の結晶状態分析)
XRD(Rigaku社製SmartLab)により、実施形態1に係る前処理前のWCl6について結晶状態分析を実施した。試料(前処理前のWCl
6)を、流動パラフィンと混合しメノウ乳鉢で粉砕した。粉砕した試料は、試料板に設置し、Cu Kα線により、5~80°の範囲で測定を行った。
前記XRD装置はWCl
6の低温相および高温相のそれぞれの結晶状態についての標準試料測定値を内蔵しており(
図5参照)、そのデータに基づき測定対象となる試料中の低温相および高温相の含有率を算出している。
図5の上段は低温相の標準試料測定結果であり、
図5の下段は高温相の標準試料測定結果である。
以上の手順により前処理前のWCl
6についてXRDで分析した結果、高温相が99.9%以上を占めていた。同様の方法により、前処理後のWCl
6についてXRDで分析した結果、低温相が98%以上を占めていた。
このため、
図2に示す170℃における蒸気圧測定において、測定開始直後には不純物である酸化物のWOCl
4が気化し、その後、時間の経過とともにWCl
6の結晶状態は徐々に低温相に変化し、それに伴い蒸気圧もさらに低下したものと考えられる。一方で、前処理後のWCl
6は低温相となっており、170℃に温度が維持されたことにより低温相の状態が維持され、蒸気圧が安定したと考えられる。
【0067】
(実施例2)
図4に示すステンレススチール製の固体材料容器100に固体材料WCl
5を充填した。
図4の固体材料容器100は内部に仕切りがなく、一体型の空洞となっている容器であり、ディップチューブタイプのキャリアガス導入配管11と固体材料導出配管12を有する。キャリアガスを導入せずに、固体材料容器1内の圧力を150Torrとし、WCl
5の融点よりも低い、150℃で5時間加熱した。WCl
5の融点は約250℃であり、α型からβ型への相転移点は180℃である。
【0068】
実施形態4にしめす前処理を行う前後のWCl5について、150℃において熱重量分析計(メトラートレド社製TGA/DSC 3+)を使用して蒸気圧を測定した結果を表3に示す。前処理を行っていないWCl5は時間の経過とともにWCl5の蒸気圧は低下する傾向にあったが、実施形態2に示す前処理を行ったWCl5は蒸気圧の安定性が高いことが確認された。WCl5よりも高い蒸気圧を有する不純物が前処理によって除去されると同時に、WCl5の結晶状態が低温相であるα型を主として形成されたことによると考えられる。
【0069】
【0070】
実施例2に示す前処理を行う前後のWCl5について、115℃において熱重量分析計(メトラートレド社製TGA/DSC 3+)を使用して蒸気圧を測定した結果を表4に示す。前処理を行っていないWCl5は時間の経過とともに蒸気圧が低下する傾向にあったが、実施形態2に示す前処理を行ったWCl5は蒸気圧の安定性が高いことが確認された。WCl5よりも高い蒸気圧を有する不純物が前処理によって除去されると同時に、WCl5の結晶状態が低温相であるα型を主として形成されたことによると考えられる。
【0071】
【符号の説明】
【0072】
1 固体材料容器
11 キャリアガス導入配管
12 固体材料導出配管
13 キャリアガス出口部
14 固体材料導出配管の入口部
21 第一充填部
22 第二充填部
23 第三充填部
31 トレー
32 仕切部
33 キャリアガス流通部
S1 固体材料(第一充填部内)
S2 固体材料(第二充填部内)
S3 固体材料(第三充填部内)