(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107683
(43)【公開日】2022-07-22
(54)【発明の名称】エンジンカバー
(51)【国際特許分類】
F02B 77/13 20060101AFI20220714BHJP
【FI】
F02B77/13 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086474
(22)【出願日】2022-05-27
(62)【分割の表示】P 2017138460の分割
【原出願日】2017-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【弁理士】
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】丹下 勝博
(57)【要約】
【課題】エンジンカバーの透過音防止性能を向上する。
【解決手段】エンジンカバー20は、弾性を有する発泡体からなるカバー本体22と、カバー本体22と一体化された支持体24とを備えている。支持体24は、エンジンカバー20の表裏方向に向けて貫通する空間を画成する区画部28を有し、区画部28がカバー本体22に埋め込まれるように配置される。そして、エンジンカバー20には、区画部28が画成する空間を塞ぐカバー本体22の発泡体によって、共振部30が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを覆うエンジンカバーであって、
弾性を有する発泡体からなるカバー本体と、
前記エンジンカバーの表裏方向に向けて貫通する空間を画成する区画部を有し、該区画部を前記カバー本体に埋め込んで該カバー本体と一体化された支持体とを備え、
前記区画部が画成する前記空間を塞ぐ前記カバー本体の前記発泡体によって共振部が形成されている
ことを特徴とするエンジンカバー。
【請求項2】
前記共振部は、前記発泡体におけるエンジンカバーの表裏に臨む壁面を除く周囲が、前記区画部に保持されている請求項1記載のエンジンカバー。
【請求項3】
前記支持体には、同じ開口形状および同じ開口大きさで前記空間を画成する前記区画部が隣り合わせて複数設けられている請求項1または2記載のエンジンカバー。
【請求項4】
前記支持体には、エンジンカバーの表裏に向く開口が同じ形状および同じ開口面積になるように前記空間を画成する前記区画部が設けられている請求項1~3の何れか一項に記載のエンジンカバー。
【請求項5】
前記区画部における表裏方向の端面の少なくとも一方が、前記発泡体で覆われている請求項1~4の何れか一項に記載のエンジンカバー。
【請求項6】
前記支持体は、前記カバー本体より硬い樹脂成形品であり、設置対象に取り付けるための取付部が一体的に形成されている請求項1~5の何れか一項に記載のエンジンカバー。
【請求項7】
前記区画部は、互いに交差するように延在する板状片により前記空間を画成する枠状である請求項1~6の何れか一項に記載のエンジンカバー。
【請求項8】
前記支持体には、前記表裏方向と交差する方向に延出する延出部が設けられ、
前記延出部が、前記カバー本体をなす前記発泡体に埋め込まれている請求項1~7の何れか一項に記載のエンジンカバー。
【請求項9】
前記延出部は、前記区画部における前記空間に面する壁から延出するように形成されて、前記空間を塞ぐ前記発泡体に埋め込まれている請求項8記載のエンジンカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンルームに設置されるエンジンカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンルームには、エンジンから出る音を低減するために、エンジンを覆うようにエンジンカバーが設置されている。エンジンカバーは、不織布や発泡体からなる吸音層によって、エンジンから放射される音の透過を防止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンから放射される音をより低減させるためには、吸音層の面密度を上げることが必要となり、これには吸音層の厚みを増すことで対応されている。しかしながら、エンジンルームのスペースは限られており、吸音層の厚みを確保することが難しく、充分な透過音防止性能を有するエンジンカバーが得られない。
【0005】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、透過音防止性能に優れたエンジンカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明のエンジンカバーは、
エンジンを覆うエンジンカバーであって、
弾性を有する発泡体からなるカバー本体と、
前記エンジンカバーの表裏方向に向けて貫通する空間を画成する区画部を有し、該区画部を前記カバー本体に埋め込んで該カバー本体と一体化された支持体とを備え、
前記区画部が画成する前記空間を塞ぐ前記カバー本体の前記発泡体によって共振部が形成されていることを要旨とする。
請求項1に係る発明によれば、共振部が音の入射によって共振して、透過音を減衰するので、高い透過音防止性能を示す。
【0007】
請求項2に係る発明では、前記共振部は、前記発泡体におけるエンジンカバーの表裏に臨む壁面を除く周囲が、前記区画部に保持されていることを要旨とする。
請求項2に係る発明によれば、共振部を適切に共振させることができる。
【0008】
請求項3に係る発明では、前記支持体には、同じ開口形状および同じ開口大きさで前記空間を画成する前記区画部が隣り合わせて複数設けられていることを要旨とする。
請求項3に係る発明によれば、隣り合う共振部で互いに位相が逆になる共振を生じさせることができるから、透過音防止性能を向上できる。
【0009】
請求項4に係る発明では、前記支持体には、エンジンカバーの表裏に向く開口が同じ形状および同じ開口面積になるように前記空間を画成する前記区画部が設けられていることを要旨とする。
請求項4に係る発明によれば、共振部で共振を生じ易くできる。
【0010】
請求項5に係る発明では、前記区画部における表裏方向の端面の少なくとも一方が、前記発泡体で覆われていることを要旨とする。
請求項5に係る発明によれば、区画部の端面をカバー本体で覆うように構成することで、カバー本体が区画部から剥がれ難くなり、透過音防止性能を長期間に亘って確保できる。
【0011】
請求項6に係る発明では、前記支持体は、前記カバー本体より硬い樹脂成形品であり、設置対象に取り付けるための取付部が一体的に形成されていることを要旨とする。
請求項6に係る発明によれば、カバー本体より硬い樹脂成形品である支持体を利用して取付部を形成しているので、エンジンカバーを確実に固定することができる。
【0012】
請求項7に係る発明では、前記区画部は、互いに交差するように延在する板状片により前記空間を画成する枠状であることを要旨とする。
請求項7に係る発明によれば、区画部に対応して設けられる共振部を多く設定することが可能となるから、透過音防止性能を向上できる。
【0013】
請求項8に係る発明では、前記支持体には、前記表裏方向と交差する方向に延出する延出部が設けられ、
前記延出部が、前記カバー本体をなす前記発泡体に埋め込まれていることを要旨とする。
請求項8に係る発明によれば、延出部によって、カバー本体を支持体から外れ難くすることができる。
【0014】
請求項9に係る発明では、前記延出部は、前記区画部における前記空間に面する壁から延出するように形成されて、前記空間を塞ぐ前記発泡体に埋め込まれていることを要旨とする。
請求項9に係る発明によれば、延出部によって、区画部の空間に配置されて共振部となる発泡体を、区画部から外れ難くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るエンジンカバーは、透過音防止性能に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の好適な実施例に係るエンジンカバーを示す断面図である。
【
図2】実施例のエンジンカバーの要部を示す概略斜視図である。
【
図3】実施例の支持体の要部を示す概略斜視図である。
【
図4】実施例のエンジンカバーの製造工程を示す説明図である。
【
図5】実施例のエンジンカバーの製造工程を示す説明図である。
【
図7】音の透過損失に係る試験装置を示す説明図である。
【
図8】音の透過損失に係る試験結果を示すグラフである。
【
図9】変更例のエンジンカバーの要部を示す断面図である。
【
図10】別の変更例のエンジンカバーの要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係るエンジンカバーにつき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。
【実施例0018】
図1および
図2に示すように、エンジンカバー20は、発泡体からなるカバー本体22と、このカバー本体22と一体化された支持体24とを備えている。エンジンカバー20は、エンジンルーム10のスペースやエンジン12の外形などに応じて形状が設定された板状体であり、裏面をエンジン12に向けた状態でエンジンルーム10に設置されている。エンジンカバー20は、エンジン12とエンジンフード14との間において該エンジン12を覆うように配置され、エンジン12から出る音が裏側から表側へ向けた厚み方向に透過することを防止している。
【0019】
前記カバー本体22は、エンジンカバー20の本体を構成する板状に形成されて、弾性を有する発泡体から構成されている。前記発泡体としては、例えば、柔らかくて復元性を有する軟質発泡体や、硬くて復元性が無い硬質発泡体と前記軟質発泡体との中間的な性状で、ある程度の復元性を有する半硬質発泡体などを用いることができ、弾性を有していれば、硬質の発泡体も使用可能である。カバー本体22をなす発泡体としては、ウレタン系やオレフィン系などの発泡体を用いることができ、これらの中でも軟質または半硬質のポリウレタンフォームが好適である。カバー本体22は、独立気泡型のポリウレタンフォームを採用することで、必要とされる剛性や透過音防止性能を実現し易くなるが、連続気泡型でもよく、独立気泡と連続気泡とが混在するものであってもよい。また、カバー本体22は、スキン層やインモールドコートなどからなる被覆層(図示せず)を表面に備えていることが好ましく、被覆層によって発泡体のセルを塞ぐことで、透過音防止性能を向上できたり、外観をきれいにすることができるなどの利点がある。
【0020】
図1および
図2に示すように、支持体24は、後述する取付部26を除く本体の全体または本体の大部分が、カバー本体22に埋め込まれている。支持体24は、カバー本体22の一部領域に対応して配置しても、カバー本体22の全体に亘って配置してもよく、実施例では、エンジンカバー20においてエンジン12の上側に位置して透過音防止性能が要求される中央部分に支持体24を配置している。支持体24は、ポリアミド(ナイロン)等からなる樹脂成形品であって、カバー本体22より剛性が高く構成されており、カバー本体22の骨格としても機能している。
【0021】
図2および
図3に示すように、支持体24は、エンジンカバー20の表裏方向に向けて貫通する空間を画成する区画部28を有しており、区画部28が画成する表裏の開口形状としては四角形や六角形などの多角形や丸形等を採用し得るが、実施例のような正四角形が好ましい。実施例の支持体24は、互いに交差する格子状に延在する板状片24aにより前記空間を囲む区画部28を形成する枠状であり、正四角形状の開口を画成する区画部28が碁盤目状に並べて設けられている。支持体24には、同じ開口形状および同じ開口大きさ(開口面積)で空間を画成する区画部28が隣り合わせて複数設けられている。このように、支持体24では、同じ開口形状および同じ開口大きさの区画部28を隣り合わせて形成するとよい。また、区画部28は、エンジンカバー20の表裏に向く開口が同じ形状および同じ開口面積(大きさ)になるように空間を画成するとよい。実施例の区画部28は、表側の開口と裏側の開口とが同じ形状および同じ大きさになっており、表裏方向に貫通する空間の大きさが変化しない筒状である。区画部28をなす板状片24aは、表裏方向に立てた姿勢で配置され、板状片24aをその厚み方向に挟んで隣り合う空間が設けられている。また、区画部28をなす板状片24aは、カバー本体22より硬く設定されている。
【0022】
前記支持体24には、エンジンカバー20をエンジン12等の設置対象に取り付けて固定するための取付部26が一体的に形成されている。実施例の取付部26は、支持体24の本体を構成する板状片24aから外方へ延出してカバー本体22の外側へ突出する板状に形成され、先端部にボルト等の締結具を通すための通孔26aが貫通形成されている。
【0023】
図1および
図2に示すように、エンジンカバー20には、区画部28が画成する空間を塞ぐカバー本体22の発泡体によって共振部30が形成されている。換言すると、共振部30は、カバー本体22において区画部28で画成される空間を塞ぐ領域を構成する発泡体から構成される。発泡体に埋め込まれた区画部28は該発泡体と接合しており、共振部30は、発泡体におけるエンジンカバー20の表裏に臨む壁面を除く周囲が、区画部28に保持されている。エンジンカバー20には、支持体24に設けられた複数の区画部28のそれぞれに対応して共振部30が設けられ、同じ開口形状および同じ開口大きさで隣り合って並ぶ区画部28に対応して、同じ壁面形状および同じ壁面大きさの共振部30が並べて配置されている。エンジンカバー20には、複数の共振部30が、区画部28を構成する板状片24aを挟んで隣り合わせて設けられている。共振部30は、表裏で開口形状および開口面積(大きさ)が同じ区画部28に対応して、表側の壁面と裏側の壁面とが同じ形状および同じ大きさで形成されている。
【0024】
図1に示すように、エンジンカバー20は、区画部28の表側端面および裏側端面の少なくとも一方がカバー本体22を形成する発泡体で覆われるように構成されている。実施例では、区画部28の表側が発泡体で覆われる一方で、区画部28の裏側の端面とカバー本体22の裏側の壁面とが揃っている。このように、支持体24の厚みShは、カバー本体22の厚みBhより薄く設定されている。ここで、区画部28の端面を覆う発泡体の被覆厚Dは、区画部28をなす板状片24aの板厚tの1.5倍以下とした方が、隣り合う共振部30間の悪影響を少なくするという観点から好ましい。
【0025】
前記エンジンカバー20は、例えば、以下のように製造することができる。支持体24を射出成形等により成形して得る。樹脂製の支持体24を成形型32にセットする(
図4(a))。ここで、成形型32の下型面34には、当該下型面34から上方へ突出する支持突起36が互いに離間して所要箇所設けられ、複数の支持突起36に支持体24を載置することで、下型面34との間に隙間をあけた状態で支持体24をセットしている(
図4(b))。型閉じした成形型32のキャビティ38に発泡体原料を注入して、キャビティ38で発泡体原料を発泡および成形することで、カバー本体22を得る(
図5(a))。このように、支持体24をインサートした型成形によって、支持体24がカバー本体22に埋め込まれて一体化されたエンジンカバー20が得られる(
図5(b))。エンジンカバー20は、支持体24をセットした成形型32においてカバー本体22を成形して得る際に、発泡体が支持体24に接合して、該発泡体からなる共振部30の四方が支持体24の区画部28に保持される。
【0026】
図6に示すように、共振部30は、狙いとする周波数の音の入射によって共振部30をなすカバー本体22(発泡体)の壁面が共振する。ここで、共振部30は、周囲(四方)を区画部28で保持して拘束する一方で、表裏の壁面を自由状態にすることで、狙いとする周波数の音の入射によって共振部30の壁面を適切に共振させることができる。共振部30は、カバー本体22の裏側の壁面が表側へ凹むように変形するときに、カバー本体22の表側の壁面が表側へ膨らむように変形する。また、共振部30は、カバー本体22の裏側の壁面が裏側へ膨らむように変形するときに、カバー本体22の表側の壁面が裏側へ凹むように変形する。このように、共振部30は、音の入射によって共振することで、カバー本体22の表側の壁面と裏側の壁面との両面で音を打ち消し、騒音発生側となる裏側の音を下げると同時に表側の音を下げる効果が生じる。また、ある共振部30に隣り合う別の共振部30では、ある共振部30をなすカバー本体22の壁面と逆位相で、当該別の共振部30をなすカバー本体22の壁面が共振する。このように、隣り合う共振部30は、音の入射によって逆位相で共振するので、互いに音を打ち消し合い、全体として音を下げる効果が生じる。
【0027】
密度、ヤング率およびポアソン比等のカバー本体22をなす発泡体の条件や、低減対象とする音の条件(例えば、周波数800Hz~1kHz)から、区画部28の向かい合う板状片24a,24aの間隔P(区画部28の大きさ)を決めることができる。すなわち、共振部30は、前記条件から算出された大きさで表裏側の壁面を設定することで、狙った音により適切に共振し、音の透過損失を向上し得る。
【0028】
前記エンジンカバー20によれば、音の入射によって共振する共振部30を備えているので、カバー本体22の密度や厚みによる遮音効果だけによらず、カバー本体22を透過しようとする音を共振部30の共振によって減衰させることができる。従って、エンジンカバー20は、カバー本体22の厚みの割りに、共振する共振部30によって高い透過音防止性能を示す。エンジンカバー20は、厚さが薄くても高い透過音防止性能を有しているので、従来よりも狭いスペースに配置することが可能となる。また、エンジンカバー20は、厚さを薄くしても所定の透過音防止性能を確保できるので、自身を配置してもエンジンルーム10にスペースを設けることができ、透過音防止性能を維持しつつエンジン12の冷却への悪影響を抑制できる。
【0029】
前記エンジンカバー20は、区画部28をなす板状片24aの間隔を調整することで、当該区画部28に対応して設けられる共振部30が共振する音の周波数を調整することが可能である。従って、エンジンカバー20は、区画部28の設定によって、特定の範囲で特定の周波数帯の透過損失を向上することが簡単にでき、設計の自由度が高い。エンジンカバー20は、支持体24によってカバー本体22を支持しているので、比較的柔らかい発泡体からなるカバー本体22を用いることが可能となり、低い周波数の音の透過防止にも対応可能である。
【0030】
前記エンジンカバー20は、支持体22における区画部28の表側の端面が、カバー本体22をなす発泡体で覆われているので、カバー本体22が支持体22から剥がれ難く、温度変化の影響を受け難くなる。このようなエンジンカバー20は、耐久性に優れているので、透過音防止性能を長期間に亘って確保できる。また、エンジンカバー20において支持体22における区画部28の端面を発泡体で覆うように設定することで、成形型32でのインサート成形に際して、型面と区画部28との間に発泡体原料が流動する隙間を確保することができ、カバー本体22の型成形を容易にできる。
【0031】
隣り合って設けられた共振部30,30の表裏側の壁面が同じ形状および同じ大きさであると、隣り合う共振部30,30で互いに位相が逆になる共振を生じ易くすることができる。このような隣り合う共振部30,30の複合的な作用により、エンジンカバー20の透過音防止性能を向上できる。また、共振部30は、表側の壁面と裏側の壁面とが同じ大きさで形成されていると、共振部30で共振が生じ易くなることから、透過音防止性能を向上できる。
【0032】
前述したように、支持体24は、互いに交差するように延在する板状片24aにより区画部28を形成する枠状であるから、区画部28に対応して設けられる共振部30をカバー本体22の単位面積当たりに多く設定することが可能となる。これにより、エンジンカバー20の透過音防止性能を向上できる。しかも、板状片24aを挟んで隣り合う共振部30,30を近くに設定することができ、隣り合う共振部30,30を逆位相で共振させ易くなる。
【0033】
前記エンジンカバー20は、発泡体からなるカバー本体22より硬い樹脂成形品である支持体24を利用して取付部26を形成しているので、エンジン12等の設置対象に対して確実に固定することができる。また、エンジンカバー20は、支持体24に取付部26が一体的に形成されているので、カバー本体22に取り付けのための部分を形成する必要がなく、エンジンカバー20の取り付けだけのための別部材を減らすことができ、コストを低減できる。
【0034】
(透過音防止性能試験)
実施例のエンジンカバーを作成し、その透過音防止性能を調べた。実施例のエンジンカバーは、カバー本体が、密度0.15g/cm3、ヤング率110kPa、ポアソン比0.16であるポリウレタンフォームで構成されている。実施例の支持体は、板厚が2mmの板状片が縦横に格子状に延在する枠状に形成され、15mm間隔で配置された板状片によって正四角形の開口を画成する区画部が複数設けられている。ここで、実施例のエンジンカバーは、エンジンが放射する音の周波数帯である800Hz~1000Hzを対象として共振部が設定されている。実施例のエンジンカバーは、カバー本体の厚みが12.5mmで、支持体の厚みが10mmである。そして、カバー本体の裏側の壁面と支持体の裏側の端面とが揃っているが、支持体の表側の端面に被覆厚2.5mmで発泡体を被覆してある。なお、実施例のエンジンカバーは、支持体をインサートした成形型でカバー本体を型成形して一体化されたものである。比較例のエンジンカバーは、密度0.15g/cm3、ヤング率110kPa、ポアソン比0.16であるポリウレタンフォームからなるカバー本体のみで構成されたものである。比較例1の厚みは10mmであり、比較例2の厚みは20mmであり、比較例3の厚みは30mmであり、比較例4の厚みは40mmである。
【0035】
透過音防止性能は、垂直入射音響透過損失で評価した(音響透過損失管 伝達マトリックス法:ASTM E2611-09準拠)。具体的には、
図7に示す試験装置40の装置本体42に実施例および比較例の試料Xをセットして、音源としてのスピーカー44から50~1600Hzまでのノイズを放射し、4箇所の固定位置に設置したマイク46で音圧を測定する。なお、符号48は、装置本体42におけるスピーカー44と反対側を塞ぐ吸音材である。そして、4チャンネルデジタル周波数分析器を使って複素伝達関数を計算することで、透過損失を求める。使用した試験装置は、ブリュエル・ケアー・ジャパン4206T型の太管用φ=100mmで、ソフトウエアは7758型PULSEを使用した。透過音防止性能試験の結果を、
図8に示す。
【0036】
図8に示すように、実施例のエンジンカバーは、30mmの厚さのカバー本体のみからなる比較例3よりも透過損失が大きいことが判る。また、実施例のエンジンカバーは、狙いとする800Hz~1000Hzの周波数帯において、40mmの厚さのカバー本体のみからなる比較例4に迫る大きな透過損失を示している。このように、実施例のエンジンカバーによれば、厚みが薄くても、優れた透過音防止性能を発揮することが確認できる。
【0037】
(変更例)
前述した構成に限定されず、例えば以下のようにも変更することができる。
(1)実施例では、エンジンカバーの一部範囲に支持体を配置する構成であるが、これに限らず、エンジンカバーの全体に亘って支持体を配置してもよい。
(2)実施例では、支持体の一方の端面を発泡体で覆うように構成したが、
図9に示すように支持体における表裏の端面の両方を発泡体で覆う構成としてもよい。この際に、取付部を除く支持体の全体を発泡体で覆う構成とすれば、カバー本体が支持体からより剥がれ難くなり、耐久性を向上できる。なお、
図9では、実施例と同様の構成に実施例と同じ符号を付している。また、支持体がカバー本体の表裏の壁面より突出していてもよい。
(3)支持体は、実施例のような枠状に限らず、例えば、板材に貫通形成された開口が区画部となる構成であってもよい。
(4)
図10に示すように、支持体24には、エンジンカバー20表裏方向と交差する方向に延出する延出部25a,25bを設けてもよい。そして、支持体24に形成した延出部25a,25bは、カバー本体22をなす発泡体に埋め込まれる。例えば、延出部25a,25bとしては、板状片24aにおける表裏方向中間部に該板状片24aと一体的に設けられて、該板状片24aの厚み方向へ延出する板片を採用することができる。内延出部25aは、区画部28における空間に面する板状片24aの壁から延出するように形成されて、該空間を塞ぐ発泡体に埋め込まれている。このような内延出部25aによれば、区画部28の空間に配置されて共振部30となる発泡体が、区画部28から外れ難くすることができ、当該発泡体を共振部として適切に機能させることができる。また、支持体24の外周面から外方へ延出するように設けた外延出部25bによれば、カバー本体22をなす発泡体に埋め込まれているので、カバー本体22を支持体24から外れ難くすることができる。当該変更例では、内延出部25aおよび外延出部25bの両方を備える構成を例示したが、これに限らず、内延出部25aおよび外延出部25bの何れか一方だけであってもよい。なお、
図10では、実施例と同様の構成に実施例と同じ符号を付している。