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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107721
(43)【公開日】2022-07-22
(54)【発明の名称】構造部材の切断装置
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/08 20060101AFI20220714BHJP
【FI】
B28D1/08
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089190
(22)【出願日】2022-05-31
(62)【分割の表示】P 2017248379の分割
【原出願日】2017-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】奥山 信博
(72)【発明者】
【氏名】小林 昭
(57)【要約】
【課題】構造部材の切断作業の効率を高めることが可能な切断装置を提供する。
【解決手段】構造部材を引き切り方式で切断するワイヤーソー機構8を備えた切断装置1であって、ワイヤーソー機構は、複数のプーリーと、複数のプーリーに無端ループ状に巻き掛けられ、循環回動するワイヤーソー5と、を備え、複数のプーリーは、ワイヤーソーを循環回動させる駆動プーリーと、ワイヤーソーのたわみを調整するたわみ調整プーリーと、を含み、駆動プーリーおよびたわみ調整プーリーを駆動させる駆動部14と、駆動部に設けられ、ワイヤーソー機構を切断方向に沿って移動させる移動機構76と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造部材を引き切り方式で切断するワイヤーソー機構を備えた構造部材の切断装置であって、
前記ワイヤーソー機構は、
複数のプーリーと、
前記複数のプーリーに無端ループ状に巻き掛けられ、循環回動するワイヤーソーと、
を備え、
前記複数のプーリーは、前記ワイヤーソーを循環回動させる駆動プーリーと、前記ワイヤーソーのたわみを調整するたわみ調整プーリーと、を含み、
前記駆動プーリーおよび前記たわみ調整プーリーを駆動させる駆動部と、
前記駆動部に設けられ、前記ワイヤーソー機構を切断方向に沿って移動させる移動機構と、
を備え、
前記複数のプーリーは、前記構造部材の幅方向に沿って前記構造部材の両側に一対の下部ガイドプーリーをさらに含み、
前記駆動部に接続され、前記一対の下部ガイドプーリーを縦方向に沿って移動可能に支持する一対のガイド部材をさらに備え、
前記一対の下部ガイドプーリーは、前記一対のガイド部材それぞれに設けられた連結部材を介して該ガイド部材に取り付けられ、
前記下部ガイドプーリーは、前記ガイド部材を中心に旋回可能であることを特徴とする構造部材の切断装置。
【請求項2】
前記たわみ調整プーリーは、前記ワイヤーソーに沿って隣り合う前記複数のプーリーに近接離間することによって前記下部ガイドプーリーの間に巻き掛けられた前記ワイヤーソーのたわみを調整する請求項1に記載の構造部材の切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中梁などの大型の構成部材を切断する際に好適に用いられる切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地中梁など、縦方向に沿って立設された大型のコンクリート部材(構造部材)や横方向に延びる大型のコンクリート部材を解体する際には、一般の削岩機を用いると作業効率が著しく低下するため、ジャイアントブレーカなどの大型の破砕機を用いる。
【0003】
しかしながら、ジャイアントブレーカなどの大型の破砕機を用いて大型のコンクリート部材を解体すると、非常に大きな騒音や振動、大量の粉塵が発生する。特に、地中梁を解体する際には、切断作業が地下で行われるため、大きな振動が発生し、作業現場の近隣への影響が大きくなる。
【0004】
そこで、本願の出願人は、ワイヤーソーを押し切り方式または引き切り方式で使用することによって大型の構造部材を切断可能な切断装置、および、該切断装置を用いた構造部材の切断方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-69529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、図9に示すように、引き切り方式のワイヤーソー機構108を備えた切断装置100を用いた場合、下部ガイドプーリー128A,128Bを介してワイヤーソー105を循環回動させ、地中梁Cを横方向に切ることができる。なお、図9の下段では、説明をわかりやすくするため、下部ガイドプーリー128A,128Bおよびこれらのプーリー間を通るワイヤーソー105以外の切断装置100の構成を省略する。また、地中梁Cを水平方向に切った後、下部ガイドプーリー128A,128Bを上方に移動させつつ、ワイヤーソー105を循環回動させれば、地中梁Cを縦方向に切ることができる。
【0007】
しかしながら、図9の下段に示すように、地中梁Cを横方向に切った際、地中梁Cを貫通するワイヤーソー105の軌跡は平面視において弓状になる。このことにより、地中梁Cの幅方向の中央部の切断位置p11は、両端部の切断位置p12より距離Qだけ切断方向の手前側になる。このため、地中梁Cの切断方向を横方向から縦方向に変更する場合、ワイヤーソー105の軌跡を弓状から直線状に直すために、切断装置100の位置を切断方向の手前側に戻す必要があった。すなわち、切断装置100を支持する不図示の建設作業機などを操作し、切断装置100の設置替えを行う必要があるという課題があった。
【0008】
上述の課題への対応の一つとして、切断位置p11,p12を連通し、かつ距離Qと略同等の直径のコアを形成する(所謂、コア抜きを行う)という方法がある。コア抜きを行えば、切断装置100の設置替えをせずに、ワイヤーソー105が切断位置p12にある状態で地中梁を縦方向に切り始めることができる。
【0009】
しかしながら、上述のように、構造部材の切断方向を横方向から縦方向に切り替える度に、切断装置の設置替えやコア抜きを行うと、手間がかかり、作業効率が低下するという問題があった。本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、構造部材の切断作業の効率を高めることが可能な切断装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構造部材の切断装置は、構造部材を引き切り方式で切断するワイヤーソー機構を備えた構造部材の切断装置であって、前記ワイヤーソー機構は、複数のプーリーと、前記複数のプーリーに無端ループ状に巻き掛けられ、循環回動するワイヤーソーと、を備え、前記複数のプーリーは、前記ワイヤーソーを循環回動させる駆動プーリーと、前記ワイヤーソーのたわみを調整するたわみ調整プーリーと、を含み、前記駆動プーリーおよび前記たわみ調整プーリーを駆動させる駆動部と、前記駆動部に設けられ、前記ワイヤーソー機構を切断方向に沿って移動させる移動機構と、を備え、前記複数のプーリーは、前記構造部材の幅方向に沿って前記構造部材の両側に一対の下部ガイドプーリーをさらに含み、前記駆動部に接続され、前記一対の下部ガイドプーリーを縦方向に沿って移動可能に支持する一対のガイド部材をさらに備え、前記一対の下部ガイドプーリーは、前記一対のガイド部材それぞれに設けられた連結部材を介して該ガイド部材に取り付けられ、前記下部ガイドプーリーは、前記ガイド部材を中心に旋回可能であることを特徴とする。
【0011】
本発明の構造部材の切断装置によれば、たわみ調整プーリーおよび移動機構を作動させることで、駆動部の位置を固定した状態でワイヤーソーのたわみを調節できる。したがって、最初にワイヤーソーを挿通させるコアを形成し、構造部材の上方に切断装置を一旦設置すると、切断装置の設置替えや追加のコア抜きの作業をせずに、構造部材を横方向および縦方向に切断できる。このことにより、従来のように切断装置の設置替えや追加のコア抜きを行う切断作業に比べて地中梁Cの切断作業の効率を高めることができる。
また、下部ガイドプーリーがガイド部材を中心に旋回するので、構造部材の切断方向に応じてワイヤーソーのガイド方向を円滑に変更できる。
【0012】
本発明の構造部材の切断装置において、前記たわみ調整プーリーは、前記ワイヤーソーに沿って隣り合う前記複数のプーリーに近接離間することによって前記下部ガイドプーリーの間に巻き掛けられた前記ワイヤーソーのたわみを調整してもよい。
【0013】
本発明の構造部材の切断装置によれば、たわみ調整プーリーをワイヤーソーに沿って隣り合う複数のプーリーに対して近接離間させることよって、たわみ調整プーリーとたわみ調整プーリーと隣り合うプーリーとの間に巻き掛けられたワイヤーソーの長さを増減し、下部ガイドプーリーの間に巻き掛けられたワイヤーソーのたわみを簡易かつ効率的に調整できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の構造部材の切断装置によれば、構造部材の切断作業の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る構造部材の切断装置を示す正面図である。
図2図1に示す構造部材の切断装置を示す側面図である。
図3図1に示す構造部材の切断装置を用いた構造部材の切断方法を説明するための図であって、上段は側面図であり、下段は平面図である。
図4図1に示す構造部材の切断装置を用いた構造部材の切断方法を説明するための図であって、上段は側面図であり、下段は平面図である。
図5図1に示す構造部材の切断装置を用いた構造部材の切断方法を説明するための図であって、上段は側面図であり、下段は平面図である。
図6図1に示す構造部材の切断装置を用いた構造部材の切断方法を説明するための図であって、上段は側面図であり、下段は平面図である。
図7図1に示す構造部材の切断装置を用いた構造部材の切断方法を説明するための断面図である。
図8図1に示す構造部材の切断装置を用いた構造部材の切断方法を説明するための図であって、上段は側面図であり、下段は平面図である。
図9】従来の構造部材の切断装置を用いた構造部材の切断方法を説明するための図であって、上段は側面図であり、下段は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した構造部材の切断装置及び構造部材の切断方法の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる図面は模式的なものであり、長さ、幅及び厚みの比率等は実際のものと同一とは限らず、適宜変更することができる。
【0017】
本実施形態では、地中梁(構造部材)のように、縦方向に立設されるとともに横方向に延びる大型かつコンクリート製の構造部材を切断するために好適な切断装置について説明する。
【0018】
[構造部材の切断装置]
図1および図2に示すように、切断装置(構造部材の切断装置)1は、ワイヤーソー5を備えたワイヤーソー切断装置であり、地中梁Cなどの構造部材を引き切り方式で切断できるように構成されている。切断装置1は、不図示のクレーンなどの揚重機や油圧ショベルなどの建設作業機のベースマシンに取り付けられる。
【0019】
切断装置1は、前述のベースマシンに取り付けられるアダプター80(図2参照、図1では省略)と、アダプター80の下部に設けられたガイドフレーム10と、ガイドフレーム10の側端の下部からT1方向(すなわち、地中梁Cの幅方向)に沿って外側に向けて延設された支持部材41,41と、支持部材41,41の先端に接続部42を介して接続されてT2方向(すなわち、縦方向)に延設されたガイド部材44,44と、ガイドフレーム10に取り付けられて地中梁Cを切断するためのワイヤーソー機構8と、を備える。
【0020】
一対のガイド部材44,44は、不図示の電気ケーブルなどによってガイド部材調整機構に接続され、筒状の接続部42に挿通された状態でT2方向に移動可能である。
【0021】
ワイヤーソー機構8は、複数のプーリーと、該複数のプーリーに無端ループ状に巻き掛けられ、循環回動するワイヤーソー5と、を備える。図1に示すように、複数のプーリーは、ガイドフレーム10の内部に配置された駆動プーリー26、内側ガイドプーリー31,33,35,38、および、たわみ調整プーリー32,34と、一対のガイド部材44,44の上端に接続された外側上部ガイドプーリー27A,27B、一対のガイド部材44,44の下端に接続された外側下部ガイドプーリー(下部ガイドプーリー)28A,28B、を備える。
【0022】
駆動プーリー26は、T3方向(すなわち、切断方向)に沿って延びる軸芯56を介して不図示の駆動装置に接続され、軸芯56を中心に回転駆動される。ガイドフレーム10の背面11に形成され、かつT2方向に延在する貫通孔15に軸芯56が貫通する。駆動プーリー26は、軸芯56を介して駆動装置に接続され、該駆動装置によってT2方向に沿って移動可能である。
【0023】
たわみ調整プーリー32,34は、T3方向(すなわち、切断方向)に沿って延びる軸芯62,64を介して不図示の駆動装置に接続され、軸芯62,64を中心に回転駆動される。ガイドフレーム10の背面11に形成され、かつT2方向に延在する貫通孔16,17に軸芯62,64が貫通する。たわみ調整プーリー32,34は、軸芯62,64を介して駆動装置に接続され、該駆動装置によってT2方向に沿って独立に移動可能である。
【0024】
内側ガイドプーリー31,33,35,38は、ガイドフレーム10の内部において、少なくとも駆動プーリー26およびたわみ調整プーリー32,34より下方で、T1方向に所定の間隔をあけて配置される。
【0025】
ワイヤーソー5は、図1の正面視において、時計回りに、駆動プーリー26から内側ガイドプーリー38、外側上部ガイドプーリー27B、外側下部ガイドプーリー28B,28A、外側上部ガイドプーリー27A、内側ガイドプーリー35、たわみ調整プーリー34、内側ガイドプーリー33、たわみ調整プーリー32、内側ガイドプーリー31、再び駆動プーリー26に至るように無端ループ状に巻き掛けられる。地中梁Cの切断時には、外側下部ガイドプーリー28B,28Aの間に巻き掛けられたワイヤーソー5は、地中梁Cを貫通している。ワイヤーソー5は、駆動プーリー26の回転駆動に伴い、循環回動する。
【0026】
たわみ調整プーリー32,34、および必要に応じて駆動プーリー26がT2方向の上側に移動する程、ガイドフレーム10の内部に存在するワイヤーソー5の長さ、すなわちたわみ調整プーリー32,34と内側ガイドプーリー(ワイヤーソーに沿って隣り合う複数のプーリー)31,33,35との間に巻き掛けられるワイヤーソー5の長さは増大する。ワイヤーソー5の素材が有する伸縮性に起因する僅かな伸び縮みを除けば、無端ループ状のワイヤーソー5の全長は一定である。前述のようにガイドフレーム10の内部に存在するワイヤーソー5の長さは増大すれば、ガイドフレーム10の外部に存在するワイヤーソー5の長さは減少する。これにより、ガイド部材44,44の昇降時や横方向の地中梁Cの切断時に生じるワイヤーソー5のたわみが減少する。
【0027】
逆に、たわみ調整プーリー32,34、および必要に応じて駆動プーリー26がT2方向の下側に移動すると、ガイドフレーム10の内部に存在するワイヤーソー5の長さは減少し、ガイドフレーム10の外部に存在するワイヤーソー5の長さは増大する。図1に示すように、ガイド部材44,44が上昇位置にある際に、ガイドフレーム10の外部に存在するワイヤーソー5を長くすればよい。
【0028】
たわみ調整プーリー32,34がT2方向に沿って移動することにより、ワイヤーソー5のたわみだけではなく、ワイヤーソー5の張りを所定のように維持または調整することができる。但し、ワイヤーソー5の張力を所定のように維持する場合に比べてワイヤーソー5のたわみを調整する場合の方が、たわみ調整プーリー32,34の可動距離は長く必要とされる。したがって、たわみ調整プーリー32,34の可動距離は、例えばワイヤーソー5の張力を所定のように維持するためのテンションプーリーなどの可動距離よりも大きい。
【0029】
一対のガイド部材44,44の上端に、連結金具47が装着される。外側上部ガイドプーリー27A,27Bは、T3方向に沿って連結金具47に挿通された軸芯67を中心に回転する。外側上部ガイドプーリー27A,27Bの姿勢は、T1方向に平行するように固定される。したがって、外側上部ガイドプーリー27A,27Bは、ガイド部材44を中心に旋回しない。
【0030】
一対のガイド部材44,44の下端に、連結金具48が装着される。外側下部ガイドプーリー28A,28Bは、連結金具48に挿通された軸芯68を中心に回転する。連結金具48は、平面視で接続部42を中心として矢印のように旋回可能となるように、接続部42の下端に連結される。したがって、外側下部ガイドプーリー28A,28Bの姿勢は、T2方向に沿って立った状態で、平面に置いて任意の方向に変化し得る。
【0031】
図2に示すように、ガイドフレーム10は、背面11からT3方向の後側(すなわち、横方向切断時の切断方向の奥側)に延びる棒状の連結部75を介して、油圧シリンダー72に接続される。油圧シリンダー72からT3方向の前側(すなわち、横方向切断時の切断方向の手前側)に突出する連結部75の長さは可変である。油圧シリンダー72と連結部75は、ワイヤーソー機構8をT3方向に沿って移動させる移動機構76を構成する。移動機構76によって、ガイドフレーム10は、例えば所定の位置p1と位置p2との間を自在に移動可能である。
【0032】
油圧シリンダー72と連結部75の油圧シリンダー72側の基端部は、駆動部14に収容されている。前述のガイド部材調整機構や、駆動プーリー26やたわみ調整プーリー32,34の駆動装置も駆動部14に収容されている。駆動部14は基台13に設けられる。基台13は、地中梁Cの上面αに当接させて地中梁Cの上方に駆動部14を設置した際に、反力などを吸収し、駆動部14を地中梁Cの上方で安定させる。駆動部14の上面に、アダプター80が設けられる。
【0033】
以下、無端ループ状のワイヤーソー5を含む面方向が「縦方向」(T2方向)に相当する。また、縦方向に直交する面方向、すなわち、連結部75が進退する方向が「横方向」(T3方向)に相当する。
【0034】
[構成部材の切断方法]
次いで、本実施形態に係る構造部材の切断方法(以下、単に「切断方法」という場合がある)について、図3から図8を参照し、説明する。なお、図3から図8では、切断装置1の要部のみを図示する。
【0035】
本実施形態の切断方法は、切断装置1を用いた地中梁Cの切断方法であって、少なくとも、地中梁Cを横方向に切断する横方向切断工程と、ワイヤーソー機構8をT3方向に沿って移動させるテイクバック工程と、地中梁Cを縦方向に切断する縦方向切断第二工程(縦方向切断工程)と、を備える。また、本実施形態の切断方法は、横方向切断工程を行う前に、地中梁Cにパイロット孔Rを形成するコア抜き工程と、地中梁Cを縦方向に切断する縦方向切断第一工程を行う。さらに、本実施形態の切断方法は、縦方向切断第二工程を行った後に、構造部材切出し工程を行う。以下、各工程について説明する。
【0036】
<コア抜き工程>
地中梁CのT3方向の最も手前側(図3の左側)において最下部に、地中梁CをT1方向に沿って貫通するパイロット孔Rを形成する(図3参照)。なお、地中梁Cに設備配管孔などが既に形成されている場合は、その設備配管孔をパイロット孔Rとして代用し、本工程を省略できる。
【0037】
<縦方向切断第一工程>
切断装置1を地中梁Cの上面αに設置する。連結部75を油圧シリンダー72に後退させた状態で一旦固定し、T3方向においてワイヤーソー5の位置をパイロット孔Rの切断位置p3に揃える。続いて、ワイヤーソー5をパイロット孔Rに挿通させる。ガイド部材調整機構を用いて、一対のガイド部材44をT1方向において地中梁Cの両側に配置し、T2方向に沿って下降させる。その後、駆動プーリー26を回転駆動させ、ワイヤーソー5を循環回動させつつ、ガイド部材調整機構を用いてガイド部材44を上昇させる。この際、一対のガイド部材44,44を同じ高さで上昇させてもよく、一対のガイド部材44を交互にかつ段階的に上昇させてもよい。本工程により、図3の上段に示すように、パイロット孔Rに連通してパイロット孔RからT2方向の上側に延びる切断孔H1が地中梁Cに形成される。ワイヤーソー5が地中梁Cの上方に達すると、切断孔H1が切断対象の地中梁Cの上面αに開口する(図4の上段参照)。
【0038】
<横方向切断工程>
次に、切り出す地中梁Cの大きさを考慮し、駆動部14をT4方向の奥側に配置して一旦固定し、連結部75を油圧シリンダー72から前進させ、T3方向においてワイヤーソー5の位置をパイロット孔Rの切断位置p3に揃える。続いて、ガイド部材調整機構を用いて、T2方向における外側下部ガイドプーリー28A,28Bの間のワイヤーソー5の高さがパイロット孔Rの高さになるように、ガイド部材44を下降させる。ワイヤーソー5を循環回動させつつ、図4の上段に示すように、ワイヤーソー5をT4方向の奥側に移動させ、地中梁CをT4方向の奥側に切断する。
【0039】
横方向切断工程では、外側下部ガイドプーリー28B,28Aより上方で循環駆動しているワイヤーソー5が、切断孔H2に挿通しつつ循環駆動しているワイヤーソー5をT4方向の奥側に引いている。そのため、図4の下段に示すように、外側下部ガイドプーリー28B,28Aの平面視の姿勢は、T1方向からT3方向にやや旋回した姿勢になる。本工程を行った後には、地中梁Cに切断位置p3から切断位置p4に延びる切断孔H2が形成される。
【0040】
図5の上段および下段に示すように、所定の切断位置p4まで横方向切断工程を行った後、ワイヤーソー5の循環駆動を一旦停止する。この状態では、平面視すると、図5の下段に示すように、切断孔H2に挿通するワイヤーソー5は弓状にたわんでいる。また、T1方向(地中梁の幅方向)の中央部の切断位置p4が両端部の切断位置p5より距離S1だけT4方向の手前側になる。外側下部ガイドプーリー28B,28Aの位置p6は、切断位置p4より距離S2だけT4方向の奥側になり、切断位置p5よりT4方向のさらに奥側になる。
【0041】
<テイクバック工程>
次に、ワイヤーソー5のたわみをたわみ調整プーリー32,34で減じつつ、移動機構76を用いて、ワイヤーソー機構8をワイヤーソー5のT4方向における最も手前側の位置、すなわち切断位置p4に移動させる。具体的には、図5の上段に示す状態から図6の上段に示す状態にするように、連結部75を油圧シリンダー72からT4方向の手前側に進出させる。この際、駆動装置などによってたわみ調整プーリー32,34をT3方向の上側に移動に移動させ(図1参照)、ワイヤーソー5のたわみを減じる。図6の下段に示すように、切断孔H2に挿通するワイヤーソー5を切断位置p4においてT1方向に平行かつ平面視直線状にする。外側下部ガイドプーリー28B,28Aの位置をT4方向の手前側に距離S2に応じてテイクバックさせて切断位置p4にし、本工程は完了する。
【0042】
<縦方向切断第二工程>
次に、ワイヤーソー5の循環駆動を再開する。本工程では、ワイヤーソー5を循環回動させつつ、切断位置p4の切断孔H2に挿通するワイヤーソー5(ワイヤーソーが構造部材の幅方向に挿通している部分)をワイヤーソー機構8によって上昇させ、地中梁Cを縦方向に切断する。具体的には、図7に示すように、切断位置p4において縦方向切断第一工程と同様に、ワイヤーソー5を循環回動させつつ、ガイド部材調整機構を用いてガイド部材44を上昇させる。本工程により、地中梁Cに切断孔H3が形成される。ワイヤーソー5が地中梁Cの上方に達すると、切断孔H3が切断対象の地中梁Cの上面αに開口する。
【0043】
<構成部材切出し工程>
図8の上段に示すように、切断孔H1,H2,H3によって切り出された構成部材C1を地中梁Cから取り出す。
【0044】
なお、地中梁Cを長い切断距離にわたって切り出す場合は、図8の上段に示すように、上述の縦方向切断第二工程又は構成部材切出し工程を行った後に、切断位置p4の切断孔H2をコアとみなし、横方向切断工程から縦方向切断第二工程までを繰り返すことができる。上述の縦方向切断第二工程の完了時では、地中梁CのT1方向の両端部における切断孔H2は、切断位置p5に達している。したがって、切断位置p4の切断孔H2から横方向切断工程を行う際には、ワイヤーソー5を循環回動させると共に、ワイヤーソー5のたわみを増大させないペースでたわみ調整プーリー32,34をT3方向の下側に戻す。また、駆動部14は移動させずに、連結部75を油圧シリンダー72からT4方向の奥側に後退させる。ワイヤーソー5のたわみがなくなり、外側下部ガイドプーリー28B,28Aが切断位置p5まで到着したら、連結部75を固定する。その後、前述の横方向切断工程時と同様に、駆動部14の位置は一旦固定し、ワイヤーソー5(すなわち、ガイドフレーム10)をT4方向の奥側に移動させることで再び切断装置1をT4方向の奥側に移動させ、地中梁Cを効率的に横方向に切断できる。以後、前述のように横方向切断工程から縦方向切断第二工程までを繰り返せばよい。
【0045】
以上の各工程を行うことにより、地中梁Cの切断作業が完了する。
【0046】
上述説明したように、本実施形態の切断装置1および切断方法によれば、たわみ調整プーリー32,34をT3方向に沿って移動させることで、無端ループ状のワイヤーソー5の全長に対してガイドフレーム10の内部に存在するワイヤーソー5の長さを調整できる。ガイドフレーム10の内部に存在するワイヤーソー5の長さを調整することで、地中梁Cを貫通するワイヤーソー5の長さを調節でき、図4の上段に例示したワイヤーソー5のたわみを減じることができる。すなわち、たわみ調整プーリー32,34によって、地中梁Cを貫通するワイヤーソー5のたわみを減じることができる。この際、移動機構76を作動させ、油圧シリンダー72に対して連結部75を進退させることで、駆動部14の位置を変更せずに、ワイヤーソー5のたわみを調節できる。したがって、パイロット孔Rを形成し、地中梁Cを縦方向に切断した後は、地中梁Cの上方に切断装置1を一旦設置すると、切断装置1の設置替えなしで、地中梁Cの横方向の切断を行うことができる。このことにより、従来のように切断装置の大がかりな設置替えを行う作業に比べて地中梁Cの切断作業の効率を高め、作業時間を短縮することができる。
【0047】
また、本実施形態の切断装置1によれば、たわみ調整プーリー32,34をワイヤーソー5に沿って隣り合う内側ガイドプーリー31,33,35に対してT2方向に近接離間させる。このことによって、たわみ調整プーリー32,34とたわみ調整プーリーと内側ガイドプーリー31,33,35,38との間に巻き掛けられたワイヤーソー5の長さを増減し、外側下部ガイドプーリー28B,28Aの間に巻き掛けられたワイヤーソー5のたわみを簡易かつ効率的に調整できる。
【0048】
また、本実施形態の切断装置1によれば、従来の破砕機では対処できない幅広い地中梁Cを解体できる。切断装置1を用いることにより、従来のジャイアントブレーカ方式に比べ、無振動・大幅な騒音削減・大幅な粉塵量削減を実現できる。このことによって、環境改善に大きく寄与し、切断作業の近隣に対して好影響が見込まれる。
【0049】
また、本実施形態の切断装置1によれば、外側下部ガイドプーリー28B,28Aはガイド部材44,44を中心に旋回可能である。このことによって、地中梁Cの切断方向に応じてワイヤーソー5のガイド方向を円滑に変更できる。例えば、地中梁Cを縦方向に切断する場合、外側下部ガイドプーリー28B,28Aは、平面視においてT1方向に沿う。また、地中梁Cを横方向に切断する場合、ワイヤーソー5のたわみ量に応じて、外側下部ガイドプーリー28B,28Aは、平面視においてT1方向からT3方向に向けて旋回する。このように外側下部ガイドプーリー28B,28Aが旋回するので、外側下部ガイドプーリー28B,28Aとガイド部材44,44とを連結する連結金具48への付加も軽減できる。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変更が可能である。
【0051】
例えば、上述の実施形態では、油圧シリンダー72および連結部75を備えた移動機構76を例示したが、ワイヤーソー機構8をT3方向に沿って移動可能であれば移動機構76の構成は、特に限定されない。
【0052】
例えば、上述の実施形態では、ガイド部材44,44がガイドフレーム10および移動機構76を介して間接的に駆動部14と接続されるが、ガイド部材44,44は駆動部14の側面などに直接接続されてもよい。
【0053】
例えば、ワイヤーソー機構8の複数のプーリーは、ワイヤーソー5の張力を一定に保持するテンションプーリーを補助的に備えてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 切断装置(構造部材の切断装置)
5 ワイヤーソー
8 ワイヤーソー機構
26 駆動プーリー
32,34 たわみ調整プーリー
28A,28B 外側下部ガイドプーリー(下部ガイドプーリー)
44 ガイド部材
76 移動機構
C 地中梁(構造部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9