(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107882
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/65 20220101AFI20220715BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
B09B3/00 C ZAB
C02F11/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002548
(22)【出願日】2021-01-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行人:愛知電機技報編集会議、刊行物名:愛知電機技報、号数:No.41、発行年月日:令和2年3月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 良
【テーマコード(参考)】
4D004
4D059
【Fターム(参考)】
4D004AA04
4D004CA18
4D004CB04
4D004DA17
4D059AA04
4D059AA05
4D059AA07
4D059BA12
4D059BA48
4D059EA06
4D059EA08
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】 有機性処理廃棄物のメタン発酵によるバイオガス発生速度を推定できるシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】回分実験によって求めた有機性処理廃棄物の経時的な分解率と、三大栄養素の分解率をパラメータとして変化させたADM1モデルを比較・一致させることでシミュレーションにおける三大栄養素の分解率を決定した。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三大栄養素に平均的に対応できる消化液を用いて、数種の有機性処理対象物の回分実験を行い、当該数種の有機性処理廃棄物中の炭素量の計算値と、前記回分実験によって発生したガス量から求めた、当該ガス中の炭素量から各有機性処理対象物の分解率の経時変化を求め、これを三大栄養素の分解率をパラメータとして変化させたADM1モデルと比較することにより、当該ADM1モデルにより求めた各有機性処理対象物の分解率の経時変化と、前記回分実験による分解率の経時変化を一致させたときの三大栄養素の分解率を求め、このようにして求めた三大栄養素の分解率を用いて、当該ADM1モデルによって、未知の有機性処理対象物の経時的な分解率を求めるシミュレーション方法。
【請求項2】
前記三大栄養素に平均的に対応できる消化液は、三大栄養素がバランスよく含まれている原料を連続実験することによって得たことを特徴とする請求項1記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記三大栄養素の分解率は、回分実験による各有機性処理対象物の分解率の経時変化と、前記ADM1モデルにより求めた各有機性処理対象物の分解率の経時変化が、最小二乗法によって最小となる値に決定したことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記ADM1モデルにより求める未知の有機性処理対象物の分解率は、栄養成分表示から求めた三大栄養素の組成から求めることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品廃棄物等の有機性処理対象物における嫌気性処理槽内でのメタン発酵シミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品廃棄物等の有機性処理対象物を処理槽内でメタン発酵することによりガスを発生させる嫌気性消化プロセスは知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
発生したガスは発電等に利用可能であり、安定したガス発電を行うには、ガス発生量の時間変化を小さくして安定化させることが重要となる。上記特許文献1では、種類ごとに異なるガス発生速度と、その処理槽への投入量から、全体の有機性処理廃棄物のガス発生速度を演算し、そのガス発生速度が安定するように全体の有機性処理廃棄物の投入タイミングおよび投入量を制御している。
【0005】
以下に、特許文献1における全体の有機性処理廃棄物のガス発生速度の演算方法について説明する。
【0006】
消化槽に投入される複数種類の有機性処理廃棄物(初沈汚泥や余剰汚泥、排油、食品残渣等)の投入量を測定し、測定された種類ごとの投入量と、種類ごとに予め求められているガス発生速度を用いて、投入された有機性処理廃棄物全体のガス発生速度を予測演算する。
【0007】
このようにして予測されたガス発生速度と、実際のガス発生速度実測値を比較して消化槽内の状況を確認する。
【0008】
ガス発生速度実測値が予測値に比較して徐々に低下した場合は、何らかの原因によって消化槽内の嫌気性菌の阻害が行っていると判断し、ガス発生速度実測値が予測値に比較して急激に減少している場合は、過負荷などが起こっていると判断する。
【0009】
ガス発生速度の予測演算は、回分実験、あるいは、連続実験により、有機性処理廃棄物のサンプルとメタン菌を一定割合で混合し、嫌気性条件下でメタン菌に最適な温度条件で保管して、ガス発生量を実測することにより、その経時変化を求める。
【0010】
このようにして求めた、有機性処理廃棄物毎のガス発生速度と各投入量とに基づき、消化槽から発生するガスの発生量を求めるのである(第一の方法)。
【0011】
有機性処理廃棄物ごとのガス発生速度の違いは、有機性処理廃棄物のタンパク質、炭水化物などの組成や形態に影響される。同じ有機性処理廃棄物であれば、組成が同じであるので、同程度のガス発生速度となる。
【0012】
このように、有機性処理廃棄物の種類ごとのガス発生速度を求め、これにより全体のガス発生速度を予測する。投入された有機性処理廃棄物のガス発生速度は、(その時間のガス発生速度)×(有機性処理廃棄物の投入量)の和として予測演算される。
【0013】
あるいは、投入する有機性処理廃棄物の有機物組成を測定し、ADM1モデルを用いてガス発生速度の経時変化を求めたり(第二の方法)、複数の有機性処理廃棄物の成分量をそれぞれ測定しておき、対応する有機性処理廃棄物の組成の成分量の和と理論ガス発生速度とにより、有機性処理廃棄物のガス発生速度を求めることができる(第三の方法)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
然るに、前記第一の方法は、回分実験や連続実験に用いた有機性処理廃棄物のサンプルのガス発生量を実測して経時変化を求めるものであるので、実験に用いていない有機性処理廃棄物を嫌気性処理槽内でメタン発酵させた場合のガス発生速度を予測演算できない。
【0015】
また、前記第二の方法は、ADM1モデルを用いてガス発生速度の経時変化を求めるにあたり、投入する有機性処理廃棄物の有機物組成を測定(分析)しなければならず、この点は前記第三の方法も同様である。
【0016】
そこで、本発明は、嫌気性処理槽に投入する有機性廃棄処理物の組成を実測(分析)することなく、回分実験や連続実験で用いた有機性処理廃棄物以外であっても、メタン発酵によるガス発生速度(ガス発生量)を予測することのできるシミュレーション方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1記載の発明は、三大栄養素に平均的に対応できる消化液を用いて、数種の有機性処理対象物の回分実験を行い、当該数種の有機性処理廃棄物中の炭素量の計算値と、前記回分実験によって発生したガス量から求めた、当該ガス中の炭素量から各有機性処理対象物の分解率の経時変化を求め、これを三大栄養素の分解率をパラメータとして変化させたADM1モデルと比較することにより、当該ADM1モデルにより求めた各有機性処理対象物の分解率の経時変化と、前記回分実験による分解率の経時変化を一致させたときの三大栄養素の分解率を求め、このようにして求めた三大栄養素の分解率を用いて、当該ADM1モデルによって、未知の有機性処理対象物の経時的な分解率を求めるシミュレーション方法。
【0018】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の三大栄養素に平均的に対応できる消化液を、三大栄養素がバランスよく含まれている原料を連続実験することによって得たシミュレーション方法。
【0019】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2の何れかに記載の前記三大栄養素の分解率を、回分実験による各有機性処理対象物の分解率の経時変化と、前記ADM1モデルにより求めた各有機性処理対象物の分解率の経時変化が、最小二乗法によって最小となる値に決定したシミュレーション方法。
【0020】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載のADM1モデルにより求める未知の有機性処理対象物の分解率を、栄養成分表示から求めた三大栄養素の組成に基づき求めたシミュレーション方法。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明によれば、回分実験や連続実験に用いていない有機性処理廃棄物を嫌気性処理槽内でメタン発酵させた場合のガス発生速度を予測演算することが可能となる。
【0022】
請求項2記載の発明によれば、三大栄養素がバランスよく含まれている原料を使用することにより、三大栄養素に平均的に対応できる消化液を簡単に得ることができる。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、三大栄養素の分解率を最小二乗法によって求めることができる。
【0024】
請求項4記載の発明によれば、未知の有機性処理廃棄物に含まれる三大栄養素の組成を栄養成分表示から求めることができるので、三大栄養素の組成を分析によって測定する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図3】回分実験に用いた食品の固形分中の三大栄養素組成を示す表である。
【
図4】食品に含まれる炭素量をCHNコーダで分析した結果と、栄養成分表示から計算した結果を比較した表である。
【
図5】食品の分解率の経時変化を回分実験により求めた結果と、シミュレーションによって求めた場合を比較したグラフである。
【
図6】三大栄養素の分解率を最小二乗法によって求めた結果を示す表である。
【
図7】食品の分解率を実験により求めた結果と、シミュレーションによって求めた結果を比較した表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を
図1乃至
図7により説明する。まず、本発明のシミュレーション方法を実現するにあたり、
図2に示す回分実験で用いる消化液を
図1に示す連続実験装置Aによって得る。
【0027】
図1に示す連続実験装置Aの反応容器1内には消化液が入れられている。反応容器1は二重構造となっており、外部に温水を流し反応容器1の内部を一定温度に保っている。
【0028】
反応容器1に取り付けた図示しないポンプによって消化液を循環し、消化液を定期的に攪拌する。消化液を攪拌する配管2は、消化液を排出できるようになっており、
図2に示す回分実験に必要な量の消化液を取り出し可能となっている。
【0029】
反応容器1には、メタン発酵の原料が投入され、投入された原料は反応容器1内で消化液と混合し、メタン発酵する。
【0030】
後述する回分実験では、三大栄養素別に、メタン発酵の反応速度を測定するので、前記連続実験で用いる原料としては、三大栄養素がバランスよく含まれている原料を使用する。
【0031】
当該原料は攪拌性を考慮してVS(揮発性固形物)が10%前後となるように調整する。原料に無機分がほとんど含まれない場合、VS(揮発性固形物)とTS(固形濃度分)はほぼ同じ濃度となるので、原料のTSを10%となるように調整してもよい。
【0032】
原料にメタン発酵に必要な元素が含まれていない場合は、TSやVSを10%に調整する際に、必須元素である鉄やニッケル、コバルトなどの塩化物を加える。
【0033】
前記連続実験で反応容器1から取り出した消化液は
図2に示す回分実験に用いる。当該消化液はメタン発酵が安定した状態のものであることが望ましいので、
図1に示す反応容器1から排出されたバイオガス(メタンガス)を図示しないガスパックで捕集し、そのガス量を測定することによって、メタン発酵の安定性を確認できる。
【0034】
つづいて、連続実験で得られた消化液を用いて、
図2に示す回分実験装置Bを使用して回分実験を行う。当該回分実験は、食品(有機性処理廃棄物)のメタン発酵の反応速度と分解率を調査するために行う。
【0035】
回分実験には、TSまたはVSを10%程度に調整した所定量の食品と消化液を試料瓶3に入れ、マグネティックスタラ4を用いて攪拌子5を回転させることにより、食品を消化液と混合してメタン発酵させる。
【0036】
当該メタン発酵によって発生したバイオガスはガスパック6で捕集し、その発生量を測定する。この際、消化液から発生するバイオガス量を、測定したガス量から減算する。これにより、食品から発生するバイオガス量を求めることができる。
【0037】
回分実験に用いる食品としては、三大栄養素が平均的に含まれているものや、偏って含まれているものなど、一例として
図3に示す数種類を用いる。食品ごとの三大栄養素の比率は
図3のとおりである。
【0038】
各食品のメタン発酵による分解率の経時変化は、回分実験で捕集したバイオガスの発生量から下記数式(1)によって算出する。[数1]中、分母は、食品の栄養成分表示から求める。具体的には、栄養成分表示から食品に含まれる炭素量を計算する。例えば、炭水化物を(C6H10O5)m、タンパク質をC50H24O5N4、脂質をC50H90O6の分子式と仮定し炭素量を計算する。
【0039】
【0040】
このようにして計算した炭素量は、
図4に示すように、CHNコーダで分析した結果と近似しており、信頼性に足る計算方法である。
【0041】
次に、計算した食品ごとの炭素量に、食品ごとの三大栄養素の比率および各食品の投入量を乗算することによって、投入した食品に含まれる炭素量([数1]の分母)を計算することができる。
【0042】
[数1]の分子は、回分実験によって捕集したバイオガスの発生量から求める。バイオガスの発生量が標準状態(0[℃]、1気圧)でA[L]だった場合、ガス発生時の気温から標準状態の体積に換算する。標準状態での1[mol]は22.4[L]であり、また、発生するバイオガスはメタンと二酸化炭素の混合ガスであることから、気体のモル数は炭素のモル数となる。炭素1[mol]は12[g]なので、発生したバイオガスに含まれる炭素量は(A/22.4)×12[g]となる。
【0043】
このようにして計算した食品ごとの炭素量に、食品ごとの三大栄養素の比率および各食品の投入量を乗算することによって、発生したバイオガスに含まれる炭素量([数1]の分子)を計算することができる。上記方法によって計算した回分実験による各食品の分解率の経時変化を
図5にプロットする。
【0044】
次に、ADM1モデルを利用して前記各食品の分解率の経時変化が、
図5にプロットした回分実験による食品の分解率の経時変化と一致するように、ADM1モデルにおける三大栄養素の分解率を求める。
【0045】
具体的には、
図5に示す曲線がADM1モデルを利用して求めた各食品の分解率の経時変化であり、当該曲線はADM1モデルにおける三大栄養素の分解率をパラメータとして、種々、変化する。
【0046】
そこで、各食品の有機物濃度(COD)と様々に変化させた三大栄養素の分解率を入力値とすることにより、
図5に示す曲線を各食品のプロットと一致するさせることで、三大栄養素の分解率を決定する。
【0047】
各食品の有機物濃度(COD)は、各食品を例えば、酸化剤で酸化することで必要酸素量を測定することによって求める。また、CODに代えてThOD(理論的酸素要求量)を用いてもよい。ThODはCODと概ね一致するので、各食品の三大栄養素の組成がわかれば、炭素、水素、酸素、窒素の濃度がわかり、炭素1[mol]の酸化に必要な酸素原子量は2[mol]、水素は0.5[mol]、酸素は-1[mol]、窒素は-1.5[mol]としてThODを求めることができる。
【0048】
三大栄養素の分解率はパラメータとして変化させ、
図5に示すADM1モデルの曲線と、回分実験のプロット間の差が最小二乗法で最小となる値を、三大栄養素の分解率として決定する。
図6はこのようにして求めた三大栄養素の分解率である。
【0049】
以上によって、ADM1モデルの数値である各食品の有機物濃度(COD)と、三大栄養素の分解率が決定でき、本発明のシミュレーション方法が完成する。
【0050】
当該シミュレーション方法によって未知の食品等(有機性処理廃棄物)の分解率を求める場合は、メタン発酵させる未知の食品等の三大栄養素の組成と、処理槽に投入する投入量の値を当該シミュレーションに入力するだけで、当該有機性処理廃棄物の分解率を推定することができる。
【0051】
図7は、当該シミュレーションによって求めた各食品の分解率の推定値と、実験値を比較した表である。米粉およびニンニク、唐辛子以外は推定値と実験値は近い値となり、本発明のシミュレーション方法の正確性をある程度担保できた。
【0052】
米粉、ニンニク、唐辛子の推定値と実験値は乖離しており、その原因についてはいくつかの仮説がなりたつが、ここでは省略する。
【0053】
有機性処理廃棄物の種類ごとの分解率の経時変化は有機性処理廃棄物の種類ごとのガス発生速度と同義であるので、本発明のシミュレーションによって、有機性処理廃棄物全体のガス発生速度を予測することができる。
【0054】
以上説明したように、本発明のシミュレーション方法によれば、回分実験や連続実験に用いていない未知の有機性処理廃棄物を嫌気性処理槽内でメタン発酵させた場合のガス発生速度を予測演算することが可能となる。
【0055】
また、三大栄養素がバランスよく含まれている原料を使用することにより、三大栄養素に平均的に対応できる消化液を簡単に得ることができる。
【0056】
さらに、三大栄養素の分解率を最小二乗法によって簡単に求めることができる。
【0057】
しかも、未知の有機性処理廃棄物に含まれる三大栄養素を栄養成分表示から求めることができるので、三大栄養素を分析によって測定する必要がない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
メタン発酵処理プロセスを活用した有機性処理廃棄物の処理システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 反応容器
2 配管
3 試料瓶
4 マグネティックスタラ
5 攪拌子
6 ガスパック
A 連続実験装置
B 回分実験装置