(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107890
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】マウスシールド
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220715BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 L
A62B18/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002559
(22)【出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】397038565
【氏名又は名称】株式会社エニックス
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【弁護士】
【氏名又は名称】戸川 委久子
(72)【発明者】
【氏名】山出 重克
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA08
2E185BA08
2E185CC32
(57)【要約】
【課題】飛沫感染防止の要請を充足しつつ、人の表情の視認性を維持し、発声及びその聞き取りを阻害しないマウスシールドであって、飲食等の際にもマウスシールド自体を取り外すことなく、シールド部材を容易に跳ね上げることができるとともに、対面者に与える威圧感や違和感を低減することができる経済的なマウスシールドを提供すること。
【解決手段】眼鏡型のフレーム部材2と、透明なシールド部材5とからなり、フレーム部材2は、ブローバー部3a、鼻当て部3b、ブリッジ部3c及び智部3dを有するフロント部3と、智部3dにヒンジ連結されるテンプル部4とからなり、シールド部材5は、ブリッジ部3cに枢支された跳ね上げ部材6と、跳ね上げ部材6の中間部位から垂設された被覆部材7とからなり、跳ね上げ部材6には、被覆部材7が口と鼻とを覆う位置と、口と鼻とを外部に露出する位置との少なくとも二段階に係止することができる係止手段を設けた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡型のフレーム部材と、少なくとも口と鼻とを覆うことのできる透明なシールド部材とからなるマウスシールドであって、
前記フレーム部材は、ブローバー部、鼻当て部、ブリッジ部及び智部を有する樹脂製のフロント部と、前記智部にヒンジ連結されることで回動自在に取着されるテンプル部とからなり、
前記シールド部材は、前記ブリッジ部に枢支された跳ね上げ部材と、前記跳ね上げ部材の中間部位から垂設された被覆部材とからなり、
前記跳ね上げ部材には、前記被覆部材が口と鼻とを覆う位置と、口と鼻とを外部に露出する位置との少なくとも二段階に係止することができる係止手段が設けられていることを特徴とするマウスシールド。
【請求項2】
前記被覆部材は、前記跳ね上げ部材との取着位置から下方に延設された垂下部と、装着時に頬に沿うように左右に張り出した張り出し部とを有する支持部材と、前記支持部材の下縁に設けられた突起部に着脱自在に嵌合する穴部を備えた保護シート部材とからなることを特徴とする、請求項1に記載のマウスシールド。
【請求項3】
前記被覆部材は、前記跳ね上げ部材との取着位置から下方に延設された垂下部と、装着時に頬に沿うように左右に張り出した張り出し部とを有するとともに、下方に延設された形状で一体に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のマウスシールド。
【請求項4】
前記被覆部材は、跳ね上げ部材との取着位置から鼻と頬との境界線に沿って末広がりに延設された形状であることを特徴とする、請求項2又は3に記載のマウスシールド。
【請求項5】
前記被覆部材は、跳ね上げ部材との取着位置から鼻梁と略平行に延設されていることを特徴とする、請求項4に記載のマウスシールド。
【請求項6】
前記被覆部材には、少なくとも一方の左右端部の任意の位置に指で摘まむための摘み部が形成されていることを特徴とする、請求項1~5の何れかに記載のマウスシールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着者自身が発する飛沫の飛散を阻止するとともに、空気中に飛散している飛沫の吸引による感染症を防止するためのマウスシールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の世界的な蔓延を受けて、細菌やウイルスによる感染症予防の意識が世界的に高まっている。
一般的な感染対策のひとつとして、飛沫の拡散や吸引を防止するためにマスクを着用することが挙げられる。このようなマスクの着用が要請される場面としては、対話面談時や懇談のための飲食時など、人と人とのコミュニケーションの場面にまで及ぶ。
【0003】
しかし、マスクは人の顔面の下半分、即ち両頬や鼻口の周辺を被覆してしまうため、会話の場面では声が聞きづらかったり、互いの表情が視認できなかったりするコミュニケーション上の障害となる。
【0004】
この点、接客を伴う飲食店をはじめ、人と人とのコミュニケーションが必要な業種においては、顔面前方に透明樹脂シートを立設させた所謂フェイスシールドが用いられている(特許文献1参照)。
【0005】
このようなフェイスシールドにおいては、透明樹脂シートを透かして着用者の表情を視認可能であり、マスクと異なり着用者の鼻や口を直接被覆するものでないため、通気性を阻害することも少ないので呼吸も快適である。加えて、発声も妨げられないので会話も聞き取りやすく、コミュニケーションを阻害する弊害も低減される。
【0006】
また、フェイスシールドを着用したまま、透明シートの位置を適宜調節可能とされるフェイスシールドも考案されており、透明のシートを上方に跳ね上げて口元を一時的に露出させることができるように構成されている(特許文献2参照)。
【0007】
このフェイスシールドを用いることで、飲食の際にフェイスシールドを外すことなく、透明シートを跳ね上げるだけで口元を露出することができる。そのため、飲食の度にフェイスシールドを着脱するといった煩わしさを軽減することができる。
【0008】
一方、口と鼻とを覆う透明シートを、顎で支持したフレームに立設した所謂マウスシールドが開発されている(特許文献3参照)。
このマウスシールドを装着した場合には、飛沫の拡散や吸引を防止できる一方、透明シートが顔面を覆う面積を最小限とすることができるため、対面者に対する威圧感や違和感を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実用新案登録第3194865号公報
【特許文献2】実用新案登録第3227844号公報
【特許文献2】特開2013-013762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び特許文献2の技術では、透明シートが眼鏡型フレームの智部に固定されているため、口と鼻とを覆う透明シートは、その両端がこめかみ付近まで延設された形状を成すこととなり、顔面の大部分を透明シートが覆う事となる。
また、左右の智部で固定するため、透明シートは略円筒状に湾曲した形状となり、所謂フルフェイスヘルメットのような外観を呈する。
そのため、人と人とのコミュニケーションにおいては、対面者に威圧感や違和感を与える事となり、円滑なコミュニケーションの妨げとなっていた。
【0011】
一方、特許文献3の技術では、透明シートが顔面を覆う面積は最小限となっているものの、飲食等の必要に応じて透明シートを跳ね上げることができないため、マウスシールド自体を着脱しなければならないという煩わしさが残ることとなる。
また、フレームが顎で支持されているため、会話時においては、発声の度に透明シートが上下するため、対面者の注意を引いてしまう等の違和感が生じていた。
【0012】
本発明は、上記の如き問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、飛沫感染防止の要請を充足しつつ、人の表情の視認性を維持し、発声及びその聞き取りを阻害しないマウスシールドであって、飲食等の際にもマウスシールド自体を取り外すことなく、シールド部材を容易に跳ね上げることができるとともに、対面者に与える威圧感や違和感を低減することができる経済的なマウスシールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(全体構成)
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段は以下のとおりであり、本発明は、樹脂製の眼鏡型のフレーム部材と、少なくとも口と鼻とを覆うことのできる透明なシールド部材とを基本構成としている。
【0014】
(フレーム部材の構成)
前記フレーム部材は、ブローバー部、鼻当て部、ブリッジ部及び智部が一体に成形された樹脂製のフロント部と、前記智部にヒンジ連結されることで回動自在に取着されるテンプル部とから構成している。ここで、前記フロント部は、部品のつなぎ目の無い一体形状であるのが好ましい。
【0015】
(シールド部材の構成)
前記シールド部材は、前記ブリッジ部に枢支された跳ね上げ部材と、前記跳ね上げ部材の中間部位から垂設された被覆部材とから構成している。これにより、ブリッジ部を支点として、跳ね上げ部材に垂設された被覆部材が上方に跳ね上がる。また、被覆部材が跳ね上がった状態においては、ブリッジ部を支点として、被覆部材を下方向に下ろすことができる。
【0016】
(跳ね上げ部材の構成)
前記跳ね上げ部材には、前記被覆部材が口と鼻とを覆う位置と、口と鼻とを外部に露出する位置との少なくとも二段階に係止することができる係止手段を設けている。これにより、被覆部材を跳ね上げた場合には、口と鼻とを外部に露出した状態で保持することができる。また、被覆部材を下ろした場合には、口と鼻とを覆った状態で保持することができる。
【0017】
(被覆部材の構成)
前記被覆部材は、前記跳ね上げ部材との取着位置から下方に延設された垂下部と、装着時に頬に沿うように左右に張り出した張り出し部とを有する支持部材と、前記支持部材の下縁に設けられた突起部に着脱自在に嵌合する穴部を備えた保護シート部材とからなる構成とすることができる。
【0018】
また、前記被覆部材は、跳ね上げ部材との取着位置から下方に延設された垂下部と、装着時に頬に沿うように左右に張り出した張り出し部とを有するとともに、下方に延設された形状で一体に形成することも可能である。
【0019】
この被覆部材は、跳ね上げ部材との取着位置から鼻と頬との境界線に沿って末広がりに延設された形状であることが好ましい。これにより、装着時の正面視において、被覆部材と跳ね上げ部材との連結部から垂下する部分の外形線が、鼻と頬の境界線と重なって見えることとなる。
【0020】
また、それに加えて、跳ね上げ部材との取着位置から鼻梁と略平行に延設されている形状とするのがより好ましい。これにより、装着時の側面視において、被覆部材と跳ね上げ部材との連結部から垂下する部分の外形線が、鼻梁の稜線に沿って見えることとなる。
【0021】
さらに、前記被覆部材には、少なくとも一方の左右端部の任意の位置に指で摘まむための摘み部を形成するのが好ましく、被覆部材の少なくとも一方の左右両肩部に設けるのがより好ましい。
【発明の効果】
【0022】
(シールド部材を跳ね上げ可能な構成とした効果)
本発明では、跳ね上げ部材を介してシールド部材が上方に跳ね上がることによって、飲食等の口元を露出させる場面において、装着したマウスシールドを外すことなく、最小限の動作で口元を露出させることができる。また、飲食を終えると、直ちにシールド部材を下ろすことができるため、感染リスクを最小限に抑えることができ、その動作も容易であるため、マウスシールドの装着が億劫になることもない。
【0023】
また、シールド部材が口と鼻とを覆う位置と、口と鼻とを外部に露出する位置との少なくとも二段階に係止することができることにより、飲食時にシールド部材を跳ね上げた場合であっても、手でシールド部材を把持し続ける必要がなく、口元を露出した状態で両手を自由に使用することができる。加えて、シールド部材が何れの位置に係止されている場合であっても、身体を動かしたり首を上下に振ったりしたとしても、シールド部材が容易に跳ね上がったり、下りてしまったりすることがない。
【0024】
(被覆部材を支持部材と保護シート部材から構成した効果)
被覆部材を、支持部材と保護シート部材とから構成した場合には、支持部材の突起部に保護シート部材の穴部を嵌合させる構成であることにより、保護シート部材を必要に応じて着脱することができる。そのため、使用により汚染された保護シート部材を容易に交換することにより常に清潔な保護シート部材で口や鼻を覆うことができるので、感染リスクをより低減することができるとうえ、汚れた場合にマウスシールド全体を交換する必要がないため、経済的である。
【0025】
(被覆部材を一体形成する構成とした効果)
また、被覆部材を、跳ね上げ部材との取着位置から下方に延設され、装着時に頬に沿うように左右に張り出すとともに下方に延設された形状で一体に形成した場合には、部品同士のつなぎ目がない被覆部材とする事で、被覆部材の強度を向上させることができる。また、つなぎ目が無い一体形状であることで、シンプルですっきりした印象を与える事ができ、対面者に与える威圧感や違和感をより低減させることができる。
【0026】
(被覆部材の形状を顔の部位に沿った形状とした効果)
被覆部材の形状においては、跳ね上げ部材との取着位置から鼻と頬との境界線に沿って末広がりに延設された形状としたことで、対面者が正面から見たときに、マウスシールドの形状が鼻と頬との境界線に馴染んで見えるため、威圧感や違和感を軽減することができる。
【0027】
また、跳ね上げ部材との取着位置から鼻梁と略平行に延設されている形状にすることで、対面者が側面から見たときにも、シールド部材の形状が鼻の輪郭に沿って見えるため、対面者に装着者の顔をよりはっきり視認させることができ、明らかな保護具が装着されているという感覚を軽減することができる。
【0028】
(摘み部を設ける構成とした効果)
シールド部材を跳ね上げ或いは下ろす操作においては、被覆部材を指で摘まんで上下に動かす必要があるが、一般的には被覆部材の中央下端部の顎先部分を摘まむことが多い。しかし、被覆部材における顎先部分は、裏側については自身の口元に近く、かつ、表側については対面者と向かい合う部分である。そのため、何れの面も飛沫等で汚染されている可能性が高いため、この部分に触れた指で他の物に触れたり、食べ物を口に運んだりした場合には、感染リスクが高まることとなる。
【0029】
この点、本発明において被覆部材の指で摘まむための摘み部を形成した場合には、被覆部材を跳ね上げ或いは下ろす操作においては摘み部を摘まむこととなる。この摘み部は、被覆部材の左右端部に配置されているため、自身や対面者の発する飛沫が付着する可能性が低く、手で触れた場合であっても、感染リスクを低減させることができる。
【0030】
特に、被覆部材の頬に沿って左右に張り出した部分の左右両肩部に摘み部を設けた場合には、口元から斜め上方向に離間した位置であるため、飛沫の付着の可能性が一層低減される一方、ブリッジ部よりは下方に位置しているため、摘まんで跳ね上げる操作がしやすい。
【0031】
このように、本発明は飛沫感染の防止をしつつ、人の表情の視認性を維持し、発声及びその聞き取りを阻害しないうえ、飲食等の際にもマウスシールド自体を取り外すことなく、シールド部材を跳ね上げることができ、対面者に与える威圧感や違和感を低減することができるものであり、人と人とのコミュニケーションを要する場面において、コミュニケーションの円滑化と感染症予防との両立に貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施例1におけるマウスシールドを表わす正面図及び側面図である。
【
図2】本発明の実施例1における跳ね上げ部材及びブリッジ部を表す斜視図である。
【
図3】本発明の実施例1における支持部材及び保護シート部材を表す正面図、側面図及び断面図である。
【
図4】本発明の実施例1における跳ね上げ部材の係止の様子を表す説明図である。
【
図5】本発明の実施例1におけるマウスシールドの使用状態を表す説明図である。
【
図6】本発明の実施例2におけるマウスシールドを表わす正面図及び側面図である。
【
図7】本発明の実施例2における被覆部材を表す正面図、側面図である。
【
図8】本発明の実施例2におけるマウスシールドの使用状態を表す説明図である。
【
図9】本発明の実施例3におけるマウスシールドを表す正面図である。
【
図10】本発明の実施例4におけるマウスシールドを表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
『実施例1』
本発明の実施例1について、
図1~
図5に基づいて以下に説明する。
【0034】
(全体構成)
本実施例のマウスシールド1は、
図1に示すように、眼鏡型のフレーム部材2と、少なくとも口と鼻とを覆うことのできる透明なシールド部材5とから構成されている。
フレーム部材2が眼鏡型であることにより、一般的な眼鏡のように耳に掛けて装着することができるため、マウスシールド1を容易に着脱することができる。また、眼鏡型であることにより、装着した状態において対面者に対し違和感を与えにくい。
【0035】
(フレーム部材の構成)
本実施例のフレーム部材2は、ブローバー部3a、鼻当て部3b、ブリッジ部3c及び智部3d・3dが一体に成形されたポリカーボネート製のフロント部3と、智部3d・3dにヒンジ連結されることで回動自在に取着されるテンプル部4・4とから構成されている。また、フロント部3の各部品は、部品のつなぎ目の無い滑らかな一体形状となっている。
【0036】
このように、つなぎ目の無い一体形状でフロント部3を構成することにより、装着時の正面視におけるフロント部3の存在感を低減し、対面者に与える違和感を低減させることができる。また、無色透明の樹脂を用いてフロント部3を構成した場合には、装着者の顔を透明のフロント部3を透過して視認することができるようになるため、より違和感の低減を図ることができる。
【0037】
(シールド部材の構成)
本実施例のシールド部材5は、ブリッジ部3cに枢支された無色透明のポリカーボネート製の跳ね上げ部材6と、跳ね上げ部材6の中間部位から垂設された被覆部材7とから構成されている。
【0038】
(跳ね上げ部材とブリッジ部との枢設構造)
跳ね上げ部材6は、
図2に示すように、逆三角形の本体部の裏側に断面L字型の板バネ6aがねじ6eで取着され、その両側に断面C字型の2つの軸受部6b・6bが突設されて形成されている。なお、ねじ6eは、板バネ6aを跳ね上げ部材6に取着するとともに、跳ね上げ部材6と支持部材8とを共締めして固定している。
【0039】
また、ブリッジ部3cの中央部にはカム部3fが設けられるとともに、カム部3fの両側に水平に架設された軸部3e・3eに軸受部6b・6bが嵌め込まれることによって、跳ね上げ部材6がブリッジ部3cに対して回動自在に枢支される。
ここで、板バネ6aは、ブリッジ部3cのカム部3fにおける上面部3gに覆い被さるように取着されている。このように、板バネ6aとカム部3fとにより係止手段を構成している。なお、回動と係止の詳細については後述する。
【0040】
さらに、軸受部6bは断面C字型になっていることで、組立てにおける軸受部6bの軸部3eへの挿入の際には、軸受部6bの開口部が弾性的に拡張し、挿入後に復元力によって元の形状に戻ることで取着され、取着後は軸部3eが軸受部6bから容易に抜けることはない。
【0041】
(被覆部材の構成)
本実施例のシールド部材5における被覆部材7は、
図3に示すように、無色透明のポリカーボネート樹脂からなる支持部材8と、無色透明で厚さ約0.5mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂シート材からなる保護シート部材9とから構成されている。
【0042】
支持部材8は、上端部が跳ね上げ部材6にねじ6eによって取着固定され、その取着位置から下方に延設された垂下部7aと、装着時に頬に沿うように左右に張り出した張り出し部7b・7bとを有し、略逆T字形状を成している。
【0043】
垂下部7aの下端部裏面には、所定の長さを有する下向きの溝部8aが形成されており、後述する保護シート部材9の上辺部中央の端部を受け入れることで、上方向及び前後方向の変形や変位を規制する役割を有している。
また、張り出し部7b・7bの裏面には、突起部8b・8b…が各3つずつ形成されており、裏側に突設するとともに、先端部が下方に屈曲したフック形状を成している。
【0044】
一方、保護シート部材9は、正面視において顔の輪郭に沿った形状を成し、上辺部付近における突起部8b・8b…に対応する位置には、突起部8b・8b…に嵌入可能な穴部9a・9a…が穿設されている。
【0045】
図3(a)の拡大図は、張り出し部7bの先端付近を裏側から拡大して見た図である。ここで、穴部9aは突起部8bの大きさよりも一回り小さめに開孔されており、突起部8bに可撓性のある保護シート部材9の穴部9aを裏側から押し付けるようにすることで、穴部9aが若干歪みながら拡開して突起部8bに嵌合する。
穴部9aが突起部8bに嵌合した状態においては、フック形状によって保護シート部材9の後方向(顔面側の方向)の変形や変位が制限されるとともに、突起部8bの張り出し部7b及び張り出し部7bからの突出部分により、上下方向及び前方向の変形や変位が制限される。
【0046】
このように、穴部9a・9a…に突起部8b・8b…を嵌合させ、溝部8aに保護シート部材9の上端部を挿入することにより、保護シート部材9を支持部材8に確実に固定することができるとともに、穴部9a・9a…を突起部8b・8b…から引き抜けば、保護シート部材9が汚染された場合に、容易に交換することが可能となる。
なお、支持部材8と保護シート部材9との着脱の構造については、本実施例では穴部9aと、下方に屈曲したフック形状の突起部8bによって構成しているが、穴の形状は本実施例の形状に限られず、突起部8bにおいても、上方に屈曲したフック形状の突起や先端が段付きの突起など、種々の形状によって着脱可能に嵌合させることができる。
【0047】
(垂下部の形状)
本実施例の被覆部材7における垂下部7aは、
図3(a)に示すように、正面視の左右稜線が、装着時に人の鼻と頬との境界線に沿うように、末広がりに延設された形状となっている。
このような形状にすることで、装着時に支持部材8の外形線が顔の鼻の外形線と重なって見えるため、対面者に対する威圧感や違和感を軽減することができる。
【0048】
また、
図3(b)に示すように、側面視において、垂下部7aが装着時に人の鼻梁と略平行に延設された形状となっている。
このような形状にすることで、保護シート部材9の形状が鼻の輪郭に沿って見えるため、対面者に顔の輪郭を意識させることができ、対面者に対する威圧感や違和感をより軽減することができる。
【0049】
(跳ね上げ部材の回動と係止のしくみ)
ここで、跳ね上げ部材6のブリッジ部3cに対する回動と、所定位置での係止のしくみについて、
図4に基づいて説明する。
図4(a)に示すように、保護シート部材9が口と鼻とを覆う状態にあるときには、跳ね上げ部材6の後面とブリッジ部3cの前面とは対向した状態であるとともに、板バネ6aは、ブリッジ部3cのカム部3fにおける上面部3gに覆い被さるように係止されている。そのため、回動しようとすると、カム部3fの上面部3gと斜面部3hとの角部によって板バネ6aが撓んで復元力が働き元の位置に戻そうとするため、上面部3gに覆い被さった状態を維持しようとする。
【0050】
しかし、板バネ6aの復元力を超える力で跳ね上げ部材6を回動させると、
図4(b)に示すように、板バネ6aは弾性変形しながら、カム部3fの上面部3gと斜面部3hとの角部を乗り越えた後板バネ6aの変形が元に戻り、
図4(c)に示すように、カム部3fの斜辺部3hに覆い被さった状態となる。このとき、板バネ6aは、その復元力により吸い寄せられるように斜辺部3hに覆い被さるため、所謂クリック感を伴って係止する。
【0051】
このように、板バネ6aが斜辺部3hに覆い被さって係止した状態においては、跳ね上げ部材6の被覆部材7が垂下している方向が、やや前方、かつ、上方を向いた状態となるため、シールド部材5が口と鼻とを外部に露出した状態となる。
【0052】
一方、シールド部材5が口と鼻とを外部に露出した状態から、シールド部材5を下ろす操作をすると、上述の仕組みと逆の仕組みによって、
図4(b)のように板バネ6aがカム部3fの上面部3gと斜面部3hとの角部を乗り越え、
図4(a)の状態に戻る。これにより、シールド部材5が口と鼻とを覆った状態となる。このとき、板バネ6aは、その復元力により吸い寄せられるように上面部3gに覆い被さるため、所謂クリック感を伴って係止する。
【0053】
シールド部材5を跳ね上げた状態、或いは下ろした状態の何れにおいても、回動しようとすると、カム部3fの上面部3gと斜面部3hとの角部によって板バネ6aが撓んで復元力が働いて元の位置に戻そうとするため、容易に回動することがない。これにより、首を上下に動かしたり、軽く触れてしまったりした場合であっても、シールド部材5が不意に回動してしまう恐れがない。
【0054】
(使用例)
本実施例におけるマウスシールド1は、
図5(a)に示すように、フレーム部材2のテンプル部4・4を耳に掛けて装着する。口と鼻とを覆う位置にシールド部材5を係止した状態においては、被覆部材7の形状、特に跳ね上げ部材6から垂下する被覆部材7の輪郭が鼻の輪郭に沿った形状であるため、飛沫による感染リスクを低減させることができるとともに、マウスシールド1を装着していることによる対面者に対する威圧感や違和感を低減させることができる。
【0055】
また、
図5(b)に示すように、シールド部材5を跳ね上げて、口と鼻とが外部に露出した状態に係止した状態においては、シールド部材5が邪魔になることなくコップの飲料を飲むことができる。このほか、食べ物を口元に運んだりする場合等であっても、シールド部材5が邪魔になることがない。
【0056】
このように、本実施例のマウスシールド1は、マウスシールド1そのものを顔から外すことなく、必要に応じてシールド部材5を上げ下げできるうえ、飛沫から口と鼻とを防御した状態であっても、対面者に違和感等を与えることなく、コミュニケーションを円滑にすることができる。
【0057】
『実施例2』
次に、本発明の実施例1について、
図6~
図8に基づいて以下に説明する。なお、実施例1と同様の構成については同一の符号を付し、重複する説明は割愛する。
【0058】
(全体構成)
本実施例のマウスシールド1は、実施例1同様、樹脂製の眼鏡型のフレーム部材2と、少なくとも口と鼻とを覆うことのできる透明なシールド部材5とから構成され、シールド部材5は、ブリッジ部3cに枢支された無色透明のポリカーボネート製の跳ね上げ部材6と、跳ね上げ部材6の中間部位から垂設された被覆部材7とから構成されている。
【0059】
(被覆部材の構成)
ここで、本実施例では、
図6に示すように、シールド部材5における被覆部材7が、
無色透明のPET樹脂によって一体に形成されている点が実施例1と異なる。
【0060】
本実施例の被覆部材7は、
図7に示すように、上端部が跳ね上げ部材6にねじ6eによって取着固定され、その取着位置から下方に延設された垂下部7aと、装着時に頬に沿うように左右に張り出した張り出し部7b・7bとを有し、さらに下方に延設された形状を成している。なお、本実施例の張り出し部7b・7bは左右に張り出すとともに、やや上方に延設した形状となっているが、水平に張り出した形状であっても構わない。
【0061】
また、本実施例においては、被覆部材7は射出成形により形成され、強度確保のため、全体の厚みが約1.2mmなのに対して、垂下部7aの厚みを約1.5mmとやや厚く形成しているが、これらの厚みについては適宜選択することができる。
【0062】
(垂下部の形状)
本実施例の被覆部材7における垂下部7aは、
図7(a)に示すように、正面視の左右稜線が、装着時に人の鼻と頬との境界線に沿うように、末広がりに延設された形状となっている。
このような形状にすることで、装着時に垂下部7aの左右の外形線が顔の鼻の外形線と重なって見えるため、対面者に対する威圧感や違和感を軽減することができる。
【0063】
また、
図7(b)に示すように、側面視において、垂下部7aが装着時に人の鼻梁と略平行に延設された形状となっている。
このような形状にすることで、被覆部材7の形状が鼻の輪郭に沿って見えるため、対面者に顔の輪郭を意識させることができ、対面者に対する威圧感や違和感をより軽減することができる。
【0064】
(使用例)
本実施例におけるマウスシールド1は、実施例1同様、
図8(a)に示すように、フレーム部材2のテンプル部4・4を耳に掛けて装着する。口と鼻とを覆う位置にシールド部材5を係止した状態においては、被覆部材7の形状が顔の輪郭に沿った形状であるため、飛沫による感染リスクを低減させることができるとともに、マウスシールド1を装着していることによる対面者に対する威圧感や違和感を低減させることができる。
【0065】
また、
図8(b)に示すように、シールド部材5を跳ね上げて、口と鼻とが外部に露出した状態に係止した状態においては、シールド部材5が邪魔になることなくコップの飲料を飲んだり、食べ物を口元に運んだりすることができる。
【0066】
また、全体を一体としてやや厚めの被覆部材7とすることにより、丈夫で繰り返しの洗浄にも耐えることができ、被覆部材7が外力によって脱落してしまう心配もない。
【0067】
『実施例3』
一方、実施例1の構成に対して、
図9に示すように、被覆部材7の張り出し部7b・7bの先端部に、指で摘まむことができる摘み部7c・7cを設けた構成とすることもできる。
本実施例においては、張り出し部7b・7bの先端部を延長し、下方に向けてやや幅広に延設した摘み部7c・7cが設けられている点が、実施例1と異なる。
このように摘み部7c・7cを設けることによって、シールド部材5を跳ね上げ、或いは下ろす操作の際、左右のいずれかの摘み部7cを摘まんで操作することが可能となる。
【0068】
本実施例においては、被覆部材7において、口元から遠く、かつ、操作のしやすい張り出し部7b・7bの左右両肩部に摘み部7c・7cを形成しているため、感染のリスクをより低減させるとともに、シールド部材5を跳ね上げ、或いは下ろす操作を容易に行うことができる。
【0069】
なお、本実施例では、摘み部7c・7cを左右の張り出し部7b・7bに設けているが、いずれか一方の張り出し部7bにのみ設ける構成としてもよく、摘み部7cの形状も
図9の形状に限定されない。
また、摘み部7cは、保護シート部材9の左右端部に設ける構成することも可能である。
【0070】
『実施例4』
この摘み部7cは、実施例2の構成に対しても適用することができ、
図9に示すように、被覆部材7の張り出し部7b・7bの左右両肩部に円形状に突出して形成した点が、実施例2と異なる。
このように摘み部7c・7cを設けることによって、実施例3同様、シールド部材5を跳ね上げ、或いは下ろす操作の際、左右のいずれかの摘み部7cを摘まんで操作することが可能となる。
【0071】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、シールド部材の係止位置は三段階以上であってもよい。
また、被覆部材は口と鼻だけでなく、目をも覆う形状とすることもでき、何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0072】
1 マウスシールド
2 フレーム部材
3 フロント部
3a ブローバー部
3b 鼻当て部
3c ブリッジ部
3d 智部
3e 軸部
3f カム部
3g 上面部
3h 斜面部
4 テンプル部
5 シールド部材
6 跳ね上げ部材
6a 板バネ
6b 軸受部
6e ねじ
7 被覆部材
7a 垂下部
7b 張り出し部
7c 摘み部
8 支持部材
8a 溝部
8b 突起部
9 保護シート部材
9a 穴部