(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107901
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】ポリマ被覆線材製造方法、ポリマ被覆線材製造装置、ポリマ被覆線材およびステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/82 20130101AFI20220715BHJP
【FI】
A61F2/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002588
(22)【出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】八木 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山根 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】徐 淮中
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA47
4C267AA50
4C267BB06
4C267BB16
4C267BB42
4C267CC04
4C267FF10
4C267GG08
4C267GG12
4C267GG16
(57)【要約】
【課題】線材を被覆するポリマ層を効率的且つ安定的に形成することができるポリマ被覆線材製造方法、ポリマ被覆線材製造装置、ポリマ被覆線材およびステントを提供する。
【解決手段】ポリマ被覆線材製造方法は、線材Wを囲繞するように配置された電極14を線材W周りに予め設定された回転速度で回転させるとともに、線材Wを電極14に対して矢印AR4に示す方向へ予め設定された移動速度で移動させながら、クロロホルムにポリ-L-乳酸を溶解させた紡糸液を吐出するノズル112が電極14よりも高い電位に維持した状態で、紡糸液をノズル112から線材Wにおける電極14に対向する部分に向けて吐出することにより、紡糸液から生成されるポリマファイバFBを線材Wに巻回するポリマ巻回工程を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材を囲繞するように配置された電極を前記線材周りに予め設定された回転速度で回転させるとともに、前記線材を前記電極に対して相対的に前記電極の回転軸方向へ予め設定された移動速度で移動させながら、少なくとも1種類の溶媒に少なくとも1種類のポリマを溶解させた紡糸液を吐出するノズルを前記電極よりも高い電位に維持した状態で、前記紡糸液を前記ノズルから前記線材における、前記回転軸方向に直交する方向において前記電極に対向する部分に向けて吐出することにより、前記紡糸液から生成されるポリマファイバを前記線材に巻回するポリマ巻回工程を含む、
ポリマ被覆線材製造方法。
【請求項2】
前記ポリマ巻回工程の後、前記ポリマファイバからなるポリマ層が形成された線材を加熱することにより、前記ポリマファイバを溶融する熱処理工程と、
前記熱処理工程の後、前記線材を冷却することにより前記線材の表面にポリマ被膜を形成する冷却工程と、を更に含む、
請求項1に記載のポリマ被覆線材製造方法。
【請求項3】
前記回転速度は、100rpm以上且つ2000rpm以下である、
請求項1または2に記載のポリマ被覆線材製造方法。
【請求項4】
前記移動速度は、25cm/min以上且つ120cm/min以下である、
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリマ被覆線材製造方法。
【請求項5】
前記紡糸液は、有機溶媒に、ポリグリコール酸、グリコール酸とL-乳酸との共重合体、グリコール酸とDL-乳酸との共重合体、ポリ-L-乳酸、ポリ-D-乳酸、ポリ-DL-乳酸、L-乳酸とε-カプロラクトンとの共重合体およびポリ-p-ジオキサノンから選択される少なくとも1種類のポリマを溶解させたものである、
請求項1から4のいずれか1項に記載のポリマ被覆線材製造方法。
【請求項6】
前記線材は、金属から形成されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載のポリマ被覆線材製造方法。
【請求項7】
前記紡糸液は、リムス系薬剤とタキサン系薬剤とから選択される少なくとも1種の薬剤、または、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、インスリン抵抗性改善剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIb/IIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、一酸化窒素産生促進物質から選択される薬剤を含む、
請求項1から6のいずれか1項に記載のポリマ被覆線材製造方法。
【請求項8】
前記線材を冷却することにより前記線材の表面にポリマ被膜を形成する冷却工程の後、前記薬剤を含む薬液を前記ポリマ被膜の表面に塗布することにより、前記ポリマ被膜を覆う薬剤含有層を形成する薬剤含有層形成工程を更に含む、
請求項7に記載のポリマ被覆線材製造方法。
【請求項9】
線材を囲繞するように配置された電極と、
前記電極を前記線材周りに予め設定された回転速度で回転させる回転駆動部と、
前記線材を巻き取る巻き取りリールと、
前記巻き取りリールを回転させることにより、前記線材を前記電極に対して相対的に前記電極の回転軸方向へ予め設定された移動速度で移動させるリール駆動部と、
少なくとも1種類の溶媒に少なくとも1種類のポリマを溶解させた紡糸液を吐出するノズルと、前記ノズルと前記電極との間に直流電圧を印加する電圧印加部と、を有し、前記ノズルを前記電極よりも高い電位に維持した状態で、前記紡糸液を前記ノズルから前記線材における前記回転軸方向に直交する方向において前記電極に対向する部分に向けて吐出する紡糸液吐出部と、を備える、
ポリマ被覆線材製造装置。
【請求項10】
線材と、
前記線材に巻回されたポリマファイバからなるポリマ層と、を備え、
前記ポリマファイバの直径は、0.1μm以上10μm以下である、
ポリマ被覆線材。
【請求項11】
線材と、
前記線材の表面に形成されたポリマ被膜と、を備え、
前記ポリマ被膜の厚さは、0.5μm以上10μm以下である、
ポリマ被覆線材。
【請求項12】
前記ポリマ被膜は、ポリ乳酸から形成され、結晶化度は、40%以上75%以下である、
請求項11に記載のポリマ被覆線材。
【請求項13】
前記ポリマ被膜は、リムス系薬剤とタキサン系薬剤とから選択される少なくとも1種の薬剤、または、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、インスリン抵抗性改善剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIb/IIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、一酸化窒素産生促進物質から選択される薬剤を含む、
請求項11または12に記載のポリマ被覆線材。
【請求項14】
前記薬剤を含み且つ前記ポリマ被膜を覆うように形成された薬剤含有層を更に備える、
請求項13に記載のポリマ被覆線材。
【請求項15】
請求項10から14のいずれか1項に記載のポリマ被覆線材から形成された網目状の筒からなるステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマ被覆線材製造方法、ポリマ被覆線材製造装置、ポリマ被覆線材およびステントに関する。
【背景技術】
【0002】
無機物または有機物からなる細線の表面に被覆層を形成するためのコーティング方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。このコーティング方法では、被覆層を形成するために使用されるコーティング溶液を液滴保持用の治具先端または基板上に点着して保持形成した液滴中に、細線を通過させることによって細線の表面にコーティング溶液をコーティングした後、乾燥処理、加熱処理、光照射処理等を行うことで、細線の表面に被覆層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたコーティング方法では、例えば線材の表面にコーティングするポリマの厚さを数μm乃至数十μm程度の厚さで制御する必要がある場合に、効率的且つ安定的にコーティングすることが困難である。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、線材を被覆するポリマ層を効率的且つ安定的に形成することができるポリマ被覆線材製造方法、ポリマ被覆線材製造装置、ポリマ被覆線材およびステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るポリマ被覆線材製造方法は、
線材を囲繞するように配置された電極を前記線材周りに予め設定された回転速度で回転させるとともに、前記線材を前記電極に対して相対的に前記電極の回転軸方向へ予め設定された移動速度で移動させながら、少なくとも1種類の溶媒に少なくとも1種類のポリマを溶解させた紡糸液を吐出するノズルを前記電極よりも高い電位に維持した状態で、前記紡糸液を前記ノズルから前記線材における、前記回転軸方向に直交する方向において前記電極に対向する部分に向けて吐出することにより、前記紡糸液から生成されるポリマファイバを前記線材に巻回するポリマ巻回工程を含む。
【0007】
他の観点から見た本発明に係るポリマ被覆線材製造装置は、
線材を囲繞するように配置された電極と、
前記電極を前記線材周りに予め設定された回転速度で回転させる回転駆動部と、
前記線材を巻き取る巻き取りリールと、
前記巻き取りリールを回転させることにより、前記線材を前記電極に対して相対的に前記電極の回転軸方向へ予め設定された移動速度で移動させるリール駆動部と、
少なくとも1種類の溶媒に少なくとも1種類のポリマを溶解させた紡糸液を吐出するノズルと、前記ノズルと前記電極との間に直流電圧を印加する電圧印加部と、を有し、前記ノズルを前記電極よりも高い電位に維持した状態で、前記紡糸液を前記ノズルから前記線材における前記回転軸方向に直交する方向において前記電極に対向する部分に向けて吐出する紡糸液吐出部と、を備える。
【0008】
他の観点から見た本発明に係るポリマ被覆線材は、
線材と、
前記線材に巻回されたポリマファイバからなるポリマ層と、を備え、
前記ポリマファイバの直径は、0.1μm以上10μm以下である。
【0009】
他の観点から見た本発明に係るポリマ被覆線材は、
線材と、
前記線材の表面に形成されたポリマ被膜と、を備え、
前記ポリマ被膜の厚さは、0.5μm以上10μm以下である。
【0010】
他の観点から見た本発明に係るステントは、
上記ポリマ被覆線材から形成された網目状の筒からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るポリマ被覆線材製造方法およびポリマ被覆線材製造装置よれば、ノズルを電極よりも高い電位に維持した状態で、紡糸液をノズルから線材における電極に対向する部分に向けて吐出することにより、紡糸液から生成されるポリマファイバを線材に巻回する。これにより、線材に巻回するポリマファイバの量を調節することにより線材表面に形成するポリマ層の厚さを制御することができるので、線材を被覆するポリマ層を効率的且つ安定的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るポリマ被覆線材製造装置の概略図である。
【
図2】(A)は実施の形態に係るポリマ被覆線材製造装置の動作を説明するための概略図であり、(B)はポリマ被覆線材の一例の光学顕微鏡写真である。
【
図3】実施の形態に係るステントの一例を示す図である。
【
図4】(A)は線材のSEM写真であり、(B)は実施例1に係るポリマ被覆線材のSEM写真である。
【
図5】(A)は実施例2に係るポリマ被覆線材のSEM写真であり、(B)は実施例3に係るポリマ被覆線材のSEM写真である。
【
図6】実施例4に係るポリマ被覆線材のSEM写真である。
【
図7】(A)は実施例5に係るポリマ被覆線材のSEM写真であり、(B)は実施例6に係るポリマ被覆線材のSEM写真である。
【
図8】(A)は比較例1に係るポリマ被覆線材の光学顕微鏡写真であり、(B)は比較例2に係るポリマ被覆線材の光学顕微鏡写真である。
【
図9】(A)は比較例3に係るポリマ被覆線材の光学顕微鏡写真であり、(B)は実施例7に係るポリマ被覆線材の光学顕微鏡写真である。
【
図10】(A)は実施例7に係るポリマ被覆線材のSEM写真であり、(B)は実施例7に係るポリマ被覆線材の他の部分のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係るポリマ被覆線材製造方法、ポリマ被覆線材製造装置およびポリマ被覆線材について図面を参照しながら説明する。本実施の形態に係るポリマ被覆線材製造方法では、エレクトロスピニング法により、線材にポリマファイバを巻回させることにより、線材の表面にポリマ層を形成する。本実施の形態に係るポリマ被覆線材製造方法は、例えば表面へのポリマのコーティングが必要とされる金属の線材の全てに適用することができる。
【0014】
例えば
図1に示すように、本実施の形態に係るポリマ被覆線材製造装置1は、線材Wを繰り出す供給リール21と、ポリマファイバが巻回された線材Wを回収する回収部24と、線材Wを案内するガイドローラ22、23と、を備える。ここで、線材Wは、ステンレス鋼、Ni-Ti合金、Ta、Co-Cr合金等の公知の金属または公知の金属の合金或いは公知のポリマから形成されている。また、線材Wの直径は、例えば10μm以上50μm以下に設定される。回収部24は、線材Wを巻き取る巻き取りリール241と、巻き取りリール241を回転させるリール駆動部242と、を有する。リール駆動部242は、巻き取りリール241を矢印AR1で示す方向へ回転させることにより、線材Wを電極14に対して相対的に電極14の回転軸方向、即ち、矢印AR4で示す方向へ予め設定された移動速度で移動させる。
【0015】
また、ポリマ被覆線材製造装置1は、線材Wを囲繞するように配置された電極14と、電極14を支持する支持部13と、電極14および支持部13を線材W周りに予め設定された回転速度で回転させる回転駆動部16と、紡糸液を吐出する紡糸液吐出部11と、を備える。支持部13は、樹脂、金属等から漏斗状の形状を有し、碗状に形成され底部に開口部131aが設けられた主部131と、筒状であり内側が主部131の開口部131aを介して主部131の内側に連通する筒状部132と、を有する。電極14は、金属から碗状に形成され、支持部13の主部131の内壁を覆うように配置されている。また、電極14は、接地線(図示せず)を介して接地されている。
【0016】
回転駆動部16は、支持部13の筒状部132に固定された円環状の第1摩擦車164と、第2摩擦車161と、第2摩擦車161を回転駆動するモータ162と、第1摩擦車164と第2摩擦車161との間に架設されたゴム製のタイミングベルト163と、を有する。そして、モータ162が第2摩擦車161を矢印AR21に示すように回転させることにより、タイミングベルト163を介して第1摩擦車164を矢印AR22に示すように回転させる。これにより、電極14および支持部13が、矢印AR3に示すように回転する。
【0017】
紡糸液吐出部11は、筒状であり内側に紡糸液が貯留されるシリンジ111と、シリンジ111の先端部に装着されたノズル112と、シリンジ111におけるノズル112側とは反対側に挿入されたプランジャ113と、ノズル112に直流電圧を印加する電圧印加部114と、を有する。ここで、電圧印加部114は、5kV乃至20kVの直流電圧をノズル112に引加する直流電圧源である。また、紡糸液吐出部11は、プランジャ113を空気圧によりシリンジ111内へ押し込む押圧機構(図示せず)を有する。そして、紡糸液吐出部11は、ノズル112を電極14よりも高い電位に維持した状態で、紡糸液をノズル112から線材Wにおける電極14に対向する部分に向けて吐出する。このとき、押圧機構は、例えば20MPaの空気圧でプランジャ113をシリンジ111内へ押し込む。ここで、ノズル112の先端部と線材Wにおける電極14に対向する部分との間の距離は、5cm以上10cm以下に設定されており、5cmに設定されることが好ましい。また、ノズル112の噴射口が設けられた先端部112aは、電極14の回転軸方向への電極14の投影領域A1内に位置していることが好ましい。更に、ノズル112からの紡糸液の吐出方向と電極14の回転軸方向とのなす鋭角側の角度は、20度以上90度以下に設定されていることが好ましい。
【0018】
次に、本実施の形態に係るポリマ被覆線材製造装置1を用いたポリマ被覆線材製造方法について説明する。まず、有機溶媒に少なくとも1種類のポリマを溶解させることにより紡糸液を作製する紡糸液作製工程を行う。ここで、ポリマとしては、形状記憶機能を有する生体吸収性の高いポリマを採用することができ、例えば、ポリグリコール酸(PGA)、グリコール酸とL-乳酸との共重合体(PGLA)、グリコール酸とDL-乳酸との共重合体(PGDLLA)、ポリ-L-乳酸(PLLA)、ポリ-D-乳酸(PDLA)、ポリ-DL-乳酸(PDLLA)、L-乳酸とε-カプロラクトンとの共重合体(LCL)およびポリ-p-ジオキサノン(PDO)から選択される。また、有機溶媒としては、ジクロロメタン、トリクロロメタン(CHCl3)、ジクロロエタン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トルエン、ピリジン、アセトニトリル、ホルムアミド、ベンゼン、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ヘキサン、1,4-ジオキサン、アセトン、メタノール、エタノール等が挙げられる。紡糸液に含まれるポリマの濃度は、5wt%以上15wt%以下であればよく、6wt%以上8wt%以下であることが好ましい。
【0019】
次に、紡糸液を、紡糸液吐出部11のシリンジ111内に供給する紡糸液供給工程を行う。これにより、紡糸液がシリンジ111内に貯留される。
【0020】
続いて、
図2(A)に示すように、紡糸液を紡糸液吐出部11のノズル112から線材Wにおける電極14に対向する部分に向けて吐出することにより、紡糸液から生成されるポリマファイバFBを線材Wに巻回するポリマ巻回工程を行う。ここで、電極14および支持部13を線材W周りに予め設定された回転速度で回転させるとともに、線材Wを矢印AR4に示す方向へ予め設定された移動速度で移動させながら、ノズル112から紡糸液を吐出させる。ここで、ノズル112は、電極14よりも高い電位に維持している。ここで、電極14および支持部13の回転速度は、100rpm以上且つ2000rpm以下であればよい。また、線材Wの移動速度は、25cm/min以上且つ570cm/min以下であればよい。このポリマ巻回工程を行うことにより、例えば
図2(B)に示すような、線材Wと、線材Wの表面に線材Wに巻回されたポリマファイバからなるポリマ層と、を有するポリマ被覆線材が形成される。ここで、ポリマファイバの直径は、0.1μm以上10μm以下である。
【0021】
その後、ポリマファイバからなるポリマ層が形成された線材Wを加熱することにより、ポリマファイバを溶融する熱処理工程を行う。この熱処理工程では、処理温度を200℃以上とし、処理時間を10sec以上とすればよい。次に、線材Wを冷却することにより線材Wの表面にポリマ被膜を形成する冷却工程を行う。この冷却工程では、例えば表面にポリマ被膜が形成された線材Wを常温(例えば25℃)の環境に放置することにより線材Wを徐冷する処理を行う。
【0022】
以上の一連の工程を行うことにより、線材Wと、線材Wの表面に形成されたポリマ被膜と、を備えるポリマ被覆線材を作製することができる。このポリマ被覆線材のポリマ被膜の厚さは、0.5μm以上10μm以下にすることができる。また、ポリマ被覆線材のポリマ被膜がポリ乳酸から形成されている場合、その結晶化度は、40%以上75%以下とすることができる。
【0023】
また、本実施の形態に係るポリマ被覆線材を用いて、例えば
図3に示すような網目状の筒からなるいわゆるブレ-デッドステント(編組ステント)であるステント100を形成することができる。ここで、ステント100は、ポリマ被覆線材101を連続するV字状をなすようにジグザグ状に折り曲げながら全体として筒状となるように螺旋状に巻回していくことにより形成される。また、ポリマ被覆線材101は、ステント100の筒軸方向において隣り合う2つの折り曲げ部分の頂部同士が互いに接触している。この接する頂部同士は、例えば加熱溶融により融着されていてもよい。ここで、ポリマ被覆線材は、熱処理前の状態のもの、即ち、線材Wにポリマファイバが巻回された状態のものであってもよいし、熱処理後の状態のもの、即ち、線材Wの表面にポリマ被膜が形成されたものであってもよい。
【0024】
以上説明したように、本実施の形態に係るポリマ被覆線材製造方法およびポリマ被覆線材製造装置1によれば、紡糸液吐出部11のノズル112を電極14よりも高い電位に維持した状態で、紡糸液をノズル112から線材Wにおける電極14に対向する部分に向けて吐出することにより、紡糸液から生成されるポリマファイバを線材Wに巻回する。これにより、線材Wに巻回するポリマファイバの量を調節することにより線材W表面に形成するポリマ層の厚さを制御することができるので、線材Wを被覆するポリマ層を効率的且つ安定的に形成することができる。
【0025】
また、本実施の形態に係るポリマ被覆線材製造方法では、ポリマ巻回工程の後、ポリマファイバからなるポリマ層が形成された線材Wを加熱することにより、ポリマファイバを溶融する熱処理工程と、熱処理工程の後、線材Wを冷却することにより線材Wの表面にポリマ被膜を形成する冷却工程と、を行ってもよい。この場合、線材Wと、線材Wの表面に形成されたポリマ被膜と、を備え、ポリマ被膜の厚さが、0.5μm以上10μm以下であるポリマ被覆線材を作製することができる。このポリマ被膜線材を用いて作製されたステント100は、線材Wの腐食が抑制されることにより、生体内に12ヶ月程度の長期間に亘って留置することができるという利点がある。
【0026】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態の構成に限
定されるものではない。例えば、電極14が筒状であり、筒状の支持部13により支持されているものであってもよい。この場合、電極14の筒軸に沿って線材Wを配置し、電極14および支持部13を、それらの筒軸周りに回転させるようにすればよい。また、電極14は、円盤状であってもよい。
【0027】
実施の形態に係るポリマ被覆線材を用いて作製されるステント100は、
図3に示す形状のブレ-デッドステントに限定されるものではなく、例えば本実施の形態に係るポリマ被覆線材を網目状に編むまたは織ることにより筒状のステントを形成してもよい。また、ここでは、ステント100として、ブレ-デッドステントの例について説明したが、これに限定されるものではなく、例えばポリマ被覆線材を用いて作製されたニットステント等であってもよい。
【0028】
実施の形態において、ステント100が、薬剤を含むポリマファイバを有するポリマ被覆線材から形成されていてもよい。即ち、ステント100が、薬剤徐放ステント(DES:Drug Eluting Stent)として機能するものであってもよい。この場合、前述の紡糸液作製工程において、紡糸液に薬剤を添加するようにすればよい。ここで、紡糸液のポリマ濃度は、5wt%以上10wt%以下であることが好ましく、8wt%がより好ましい。また、電圧印加部114がノズル112に印加する直流電圧は、8kV乃至12kV以下が好ましく、10kVがより好ましい。また、紡糸液に含まれるポリマとして、ポリ乳酸を採用した場合、ポリ乳酸の重量平均分子量が、10000以上300000以下の範囲内において、薬剤の徐放量、徐放期間に応じて適宜選択されればよい。ここで、分子量が小さいほど分解が早く徐放速度が大きい。また、薬剤の添加量は、体内の各適応箇所において治療に必要な期間内で必要に応じた量が徐放できるように設定されてもよい。薬剤としては、シロリムス、ピメクロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、ノボリムス、ミオリムス、テムシロリムス、デフォロリムスまたはバイオリムス等のリムス系薬剤、パクリタキセルのようなタキサン系薬剤からなる群より選択される少なくとも1種を採用することができる。或いは、薬剤として、例えば、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、インスリン抵抗性改善剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIb/IIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、一酸化窒素産生促進物質等を採用してもよい。
【0029】
実施の形態において、薬剤を含むポリマファイバを有するポリマ被覆線材からステント100を作製した後、そのステント100にディッピング、スプレー法等の塗布方法によりステント100を構成するポリマ被覆線材のポリマ被膜の表面に薬剤を塗布することにより薬剤を担持する薬剤含有層を形成する薬剤含有層形成工程を行うようにしてもよい。この場合、薬剤含有層に担持された薬剤は、ステント100を体腔内に配置した後の初期において患部組織へ速やかに導入され、ポリマファイバに含まれる薬剤は、ポリマファイバの分解に伴って少しずつ徐放される。ここで、ポリマ被覆線材の表面にリムス系薬剤を担持させる場合、その表面密度は、1μg/mm2以上10μg/mm2以下であることが好ましい。
【実施例0030】
本発明に係るポリマ被覆線材製造方法およびポリマ被覆線材について、実施例に基づいて説明する。実施例1乃至6に係る線材は、いずれも直径30μmのCo-Cr合金から形成された線材を使用した。また、実施例1乃至6に係る紡糸液は、いずれも有機溶媒としてトリクロロメタン(CHCl3)を採用し、CHCl3にポリ-L-乳酸(PLLA)を溶解させることにより作製した。ここで、PLLAの濃度は、いずれも5%乃至7.5%とした。また、紡糸液吐出部11のノズル112に印加する電圧は、10kVとし、ノズル112の先端部と線材Wにおける電極14に対向する部分との間の距離は、5cmに設定した。更に、ノズル112からの紡糸液の吐出方向と電極14の回転軸方向とのなす鋭角側の角度は、45度に設定した。実施例1乃至6に係るポリマ被覆線材の作製時における電極14および支持部13の回転速度並びに線材Wの移動速度は、下記表1の通りである。
【0031】
【0032】
図4(A)はポリマファイバ巻回前の状態の線材のSEM写真であり、
図4(B)、
図5(A)、
図5(B)および
図6は、それぞれ、実施例1乃至4に係るポリマ被覆線材のSEM写真を示す。
図4(B)乃至
図6に示すSEM写真から、電極14の回転速度が大きく且つ線材Wの移動速度が速くなるほど、線材Wに巻回されたポリマファイバの延長方向と線材Wの中心軸方向とのなす鋭角側の角度が小さくなることが判った。
【0033】
図7(A)および(B)は、それぞれ、実施例5、6に係るポリマ被覆線材のSEM写真を示す。
図7(A)および(B)に示すSEM写真から、電極14の回転速度が1500rpmであり且つ線材Wの移動速度が226cm/minとすると、線材Wに巻回されるポリマファイバの巻回方向が比較的均一になることが判った。一方、電極14の回転速度を1000rpmにまで低下させるとともに線材Wの移動速度を28.3cm/minまで低下させると、線材Wに巻回されるポリマファイバの巻回方向が不均一になることが判った。
【0034】
また、実施例2に係るポリマ被覆線材について、前述の熱処理工程および冷却工程を行うことにより、比較例1乃至3および実施例7に係るポリマ被覆線材を作製した。ここで、熱処理工程における処理時間は、いずれも10secに設定した。また、比較例1乃至3および実施例7それぞれの熱処理工程における処理温度は、170℃、175℃、180℃、200℃とした。
図8(A)、
図8(B)、
図9(A)および
図9(B)は、それぞれ、比較例1乃至3および実施例7に係るポリマ被覆線材のSEM写真を示す。
図8(A)乃至
図9(B)に示すSEM写真から、処理温度180℃以下では、一部のポリマファイバが溶融されずに残存しているのに対して、処理温度200℃では、ポリマファイバが全て溶融してポリマ被膜のみが形成されていることが判った。このことから、良好なポリマ被膜を形成するためには、処理温度を200℃以上とすればよいことが判る。
図10(A)および(B)は、実施例7に係るポリマ被覆線材のSEM写真である。
図10(A)および(B)から、実施例7に係るポリマ被覆線材が、線材W表面に形成された良好なポリマ被膜を有することが判る。この結果より、ポリマ被膜を有するポリマ被覆線材を作製する場合、熱処理工程における処理温度は、200℃以上であることが好ましい。
1:ポリマ被覆線材製造装置、11:紡糸液吐出部、13:支持部、14:電極、16:回転駆動部、21:供給リール、22,23:ガイドローラ、24:回収部、100:ステント、101:ポリマ被覆線材、111:シリンジ、112:ノズル、112a:先端部、113:プランジャ、114:電圧印加部、131:主部、131a:開口部、132:筒状部、161:第2摩擦車、162:モータ、163:タイミングベルト、164:第1摩擦車、241:巻き取りリール、242:リール駆動部、FB:ポリマファイバ、A1:投影領域、W:線材