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特開2022-107941海島型複合繊維及びそれからなる布帛
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  • 特開-海島型複合繊維及びそれからなる布帛 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107941
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】海島型複合繊維及びそれからなる布帛
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/04 20060101AFI20220715BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
D01F8/04 Z
D01F8/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002662
(22)【出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】米田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
(72)【発明者】
【氏名】福永 右文
【テーマコード(参考)】
4L041
【Fターム(参考)】
4L041BA17
4L041BA48
4L041BC02
4L041BD11
4L041CA06
4L041CA12
4L041DD01
4L041DD11
4L041EE15
(57)【要約】
【課題】極細繊維特有の柔らかなタッチを有し、なおかつ、張り・腰を併せ持ち、耐摩耗性を有する布帛の原料となる海島複合繊維を提供する。
【解決手段】海島型複合繊維を構成する島成分の径が2種類以上であって、太繊度島成分の径が5μm~20μmであり、細繊度島成分の径が10~2000nmであると共に、細繊度島成分の数が太繊度島成分の数の25倍以上500倍以下であり、島成分が40重量%以上を占める海島型複合繊維。さらには、太繊度島成分が複合繊維の1本のフィラメント中の中心部に位置することや、細繊度成分が、太繊度島成分の周囲円周上に均等に配置されていること、海島複合繊維の1本のフィラメント中の太繊度島成分の数が3以下であること、細繊度島成分が放射方向に長い扁平であって、その異型度が1.2~5.0であることや、マルチフィラメントからなるものであることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海島型複合繊維を構成する島成分の径が2種類以上であって、太繊度島成分の径が5μm~20μmであり、細繊度島成分の径が10~2000nmであると共に、細繊度島成分の数が太繊度島成分の数の25倍以上500倍以下であり、島成分が40重量%以上を占めることを特徴とする海島型複合繊維。
【請求項2】
太繊度島成分が複合繊維の1本のフィラメント中の中心部に位置する請求項1記載の海島型複合繊維。
【請求項3】
細繊度成分が、太繊度島成分の周囲円周上に均等に配置されている請求項1または2記載の海島型複合繊維。
【請求項4】
海島複合繊維の1本のフィラメント中の太繊度島成分の数が3以下である請求項1~3のいずれか1項記載の海島型複合繊維。
【請求項5】
細繊度島成分が放射方向に長い扁平であって、その異型度が1.2~5.0である請求項1~4のいずれか1項記載の海島型複合繊維。
【請求項6】
マルチフィラメントからなる請求項1~5のいずれか1項記載の海島型複合繊維。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載の海島型複合繊維由来の太繊度繊維と細繊度繊維を含む布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海島型複合繊維及びそれからなる布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維に柔らかさを与える手段として、織編物表面に毛羽状外観を付与する方法が知られている。例えば有機スルホン酸金属塩などを添加配合したポリエステルからなる繊維を織編物となし、織編物表面にアルカリ処理を施してバッフィング処理を行うか、又はバッフィング処理を施した後アルカリ加水分解処理を行うことにより、ポリエステル繊維をミクロフィブリル化して織編物表面に毛羽を形成せしめる方法(例えば、特許文献1)、ポリエステルと非相溶の長鎖状有機化合物及び/又は有機スルホン酸金属塩を添加配合したポリエステルからなる繊維を織編物となし、織編物に凹凸加工又はエンボス加工などとアルカリ処理とを組み合わせて織物表面のポリエステル繊維を部分的にフィブリル化する方法(例えば、特許文献2、特許文献3)が提案されている。
【0003】
しかしながら、上記ポリエステル中に非相溶の長鎖状有機化合物及び/又は有機スルホン酸金属塩を配合し、繊維表面の一部をフィブリル化する方法は、大量生産の際に斑になる等品質の安定性に問題があった。
【0004】
一方、表面のみではなく全体に極細繊維を形成する方法としては、海成分ポリマー中に、繊維軸方向に実質的に連続した複数条の島成分ポリマーを独立して存在させる「海島型複合繊維」を用いる方法が知られている。このような海島型複合繊維は、紡糸後に海成分だけを除去することにより島成分からなる極細繊維束が得られるために、不織布、織物の構成材料として広く利用されている。特に、人工皮革、人工皮革様織物などの皮革様シート素材として有用である。
【0005】
このような繊維の極細化には、一般には、複合紡糸法による海島繊維を脱海処理し、極細繊維を発生させる方法が採用されている。この技術では、繊維断面において、易溶解成分からなる海成分に難溶解成分からなる島成分を複数配置しておく。この複合繊維あるいは繊維製品とした後に、海成分を除去することで、島成分からなる極細繊維を発生させるものである。
【0006】
そして特に単繊維径が数百nmになるナノファイバーでは、その重量あたりの表面積である比表面積や材料のしなやかさが増加し、一般の汎用繊維やマイクロファイバーでは得ることができない特異的な特性を発現する。例えば、繊維径の縮小化による接触面積の増加および汚れの取り込み効果から払拭性能が増加する。また、その超比表面積による効果としては、気体吸着性能、独特の柔軟なタッチ(ヌメリ感)、また微細な空隙による吸水性を向上させる効果が挙げられる。この様な特性を利用し、アパレルでは、人工皮革や新触感テキスタイル、また、繊維間隔の緻密さを利用し、防風性や撥水性を必要とするスポーツ衣料などで展開されている。
【0007】
しかしこのようなナノファイバーを全体に用いた場合、布帛が過剰に柔軟になってしまうという問題があった。張りや腰がなく、形態を維持できない場合が発生しやすい。実用に適した布帛とすることが力学特性という点で困難なのである。さらに、海島繊維から極細繊維を発生させるため、海成分を溶剤にて溶出する脱海処理や織編み等といった後加工において、その工程通過性が大きく低下するという課題があった。
【0008】
そこで特許文献4の技術では、繊維径が大きい繊維と海島繊維との混繊糸とし、この混
繊糸を織編した後に、脱海処理を施す技術が提案されている。この技術では、布帛とした場合の力学特性(例えば、張りや腰)を繊維径が大きい繊維が担うこととなり、ナノファイバー単独の場合と比較して、布帛の力学特性を向上させることができる。しかしこの技術では、混繊の段階で繊維径が大きい繊維と海島繊維とが偏在しやすく、最終的に得られる布帛の断面方向や平面方向で、極細繊維の存在数に大きく偏りが生じ、部分的に力学特性(張り、腰など)や吸湿性が大きく変動したり、極細繊維が密集することで繊維同士の摩擦が増え、極細繊維が摩耗し糸切れしてしまう、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58-298457号公報
【特許文献2】特開平7-197375号公報
【特許文献3】特開平11-36181号公報
【特許文献4】特開2008-248445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は工程通過性に優れた繊維でありながら、その繊維を用いて得た布帛が極細繊維特有の柔らかなタッチを有し、なおかつ張り、腰を併せ持つ布帛となる海島型複合繊維及びそれからなる布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の海島型複合繊維は、海島型複合繊維を構成する島成分の径が2種類以上であって、太繊度島成分の径が5μm~20μmであり、細繊度島成分の径が10~2000nmであると共に、細繊度島成分の数が太繊度島成分の数の25倍以上500倍以下であり、島成分が40重量%以上を占めることを特徴とする。
【0012】
さらには、太繊度島成分が複合繊維の1本のフィラメント中の中心部に位置することや、細繊度成分が、太繊度島成分の周囲円周上に均等に配置されていること、海島複合繊維の1本のフィラメント中の太繊度島成分の数が3以下であること、細繊度島成分が放射方向に長い扁平であって、その異型度が1.2~5.0であることや、マルチフィラメントからなるものであることが好ましい。
またもう一つの本発明は、上述の海島型複合繊維由来の太繊度繊維と細繊度繊維を含む布帛である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工程通過性に優れた繊維でありながら、その繊維を用いて得た布帛が極細繊維特有の柔らかなタッチを有し、なおかつ張り、腰を併せ持つ布帛となる海島型複合繊維及びそれからなる布帛を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の海島型複合繊維の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明においては、島成分ポリマーとしては特に限定をする必要はないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびその共重合物、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸等の溶融成形可能なポリマーが好ましく例示できる。
【0016】
その際、酸化チタン、シリカ、酸化バリウム等の無機質、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤等の各種添加剤を上記ポリマー中に含んでいてもよい。
【0017】
また、海成分ポリマーとしては、例えば、共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリスチレンおよびその共重合体、ポリエチレン、ポリビニルアルコール等の溶融成形が可能で、紡糸後、溶解抽出が可能なポリマーが挙げられる。
【0018】
加えて、極細繊維特有の柔らかなタッチを有し、なおかつ、張り・腰を併せ持つ布帛を作製するには細繊度島成分を構成する島成分が、芯となる太繊度島成分の周囲に配置されていることが好ましい。すなわち、繊維径が5μm~20μmとなる芯太繊度島成分の周囲に、10~2000nmの細繊度島成分が取り囲む事により、より高いレベルの極細繊維特有の柔らかなタッチと布帛の張り腰を得ることができる。なお、ここで規定する繊維径の範囲は、その繊維成分のもっとも短い径ともっとも長い径の両方がその範囲内にあることをいう。
【0019】
本発明における太繊度島成分の繊維径としては5μm~20μmであるが、繊維径が5μm未満の場合、布帛とした際、布帛の風合いは柔らくなりすぎ好ましくない。一方、繊維径が20μmより大きくなると、減量加工後に太繊度繊維の周囲を極細繊維が均一に分散することが難しく、極細繊維独特の肌触りのなめらかさが損なわれるため、好ましくない。さらには8μm~15μmの範囲であることが好ましい。また太繊度島成分が複合繊維の1本のフィラメント中の中心部に位置することが好ましく、風合いの優れた布帛とすることができる。なお、太繊度島成分は複数の島成分が集合したものでもよいが、1本の島成分から構成されることがより好ましい。
【0020】
さらに、本発明の海島複合繊維において、その細繊度島成分の径は10~2000nmである。細繊度島成分の径が10nmよりも小さくすることは、乱反射により白化して、品位に問題がある。また、2000nmよりも細繊度島成分の径が大きい場合、極細繊維の柔らかなタッチが得られず好ましくない。さらには200~1800nmの範囲であることが好ましい。
【0021】
また、この細繊度島成分の数が太繊度島成分の数の25倍以上500倍以下であり、さらには30倍以上250倍以下であることが好ましい。そして太繊度島成分の周囲に細繊度島成分が配置されることが好ましく、そのような配置をとることによって、海成分を除去した後の布帛は、極細繊維特有の柔らかなタッチや張り・腰に加え、耐摩耗性有する布帛とすることができる。例えば太繊度島成分の周囲に細繊度島成分が25倍未満しか存在しない場合、太繊度島成分が露出しやすくなり、極細繊維特有の柔らかなタッチが得られず好ましくない。また太繊度島成分の周囲に細繊度島成分が500倍よりも大きい場合、細繊度島成分同士が密着したり、細繊度島成分が多すぎる事により、摩擦が大きくなり、耐摩耗性が低下するなど好ましくない。
【0022】
また、海島型繊維中の後に極細繊維を形成する細繊度島成分の形状は、海島繊維の放射方向に長い扁平であることが好ましい。さらにその扁平断面で異型度が1.2~5.0であることが好ましい。ここで異型度とは扁平形状の後に極細繊維となる島成分の断面の長径と短径の比(長径/短径)のことである。繊維の形状が扁平断面となった場合、丸断面よりも接触面積が大きくなることから、極細繊維特有の柔らかさが生じる。ただし島成分異型度が大きすぎる場合、細繊度島成分の強度が低下して、フィブリル化・白化し、品位に問題が発生しやすい傾向にある。
【0023】
加えて太繊度島成分の数は3個以下であることが好ましい。数が多くなると減量加工後に太繊度繊維の周囲を極細繊維が均一に分散させることが難しい、または布帛の風合いは柔らくなりすぎるなどの問題が生じるため好ましくない。さらには太繊度島成分の数は1本であることが最も好ましい。
【0024】
本発明の海島繊維における太繊度島成分と細繊度島成分は、繊度差を発現するように、吐出孔を設計し、海成分と合流して、複合断面を形成することができる。
海島複合繊維において、海:島成分の重量比率が6:4~1:9とすることが望ましい。海成分の比率が大きくなると、減量する海ポリマー成分量が大きくなり、布帛にて、過剰に低密度となり、タテ・ヨコの糸の間隔に乱れが生じることがあり、張り・腰がえられないことから好ましくない。逆に海成分の比率が小さい場合、海島複合繊維断面において島成分が密着する等の分割不良が生じるため好ましくない。
【0025】
また細繊度島成分と太繊度島成分間の距離をHとし、細繊度島成分間距離hとした際、h≦H≦20hであることが好ましい。さらにはHとしては10h以下であることが好ましく、1.2h≦H≦5hであることがより好ましい。Hが大きすぎる場合、減量加工した際に細繊度島成分が太繊度島成分の周囲に均一に分散することが難しく、極細繊維独特の肌触りのなめらかさが損なわれるため、好ましくない。さらにHが大きいと極細繊維同士が偏って存在してしまい、極細繊維同士が集まってしまい、極細繊維同士の摩擦により糸切れが多く発生してしまい耐摩耗性が低下する。またHが小さすぎるばあい、例えばhよりも小さい場合、細繊度島成分と太繊度島成分間距離が狭くなりすぎて、一部融着がみられるようになり、極細繊維の柔らかなタッチが得られず好ましくない。
【0026】
加えて、海島複合繊維外径と細繊度島成分の距離cは、細繊度島成分の長径をaとした時、0.01a≦c≦3aであることが好ましい。さらにはcがa以下の距離であることが好ましい。海島複合繊維外径と細繊度島成分の距離cが小さすぎる場合、紡糸時に糸割れ・スカムの原因となるため、好ましくない。また複合繊維外径と細繊度島成分の距離cが大きすぎる場合、海島複合繊維を形成する際、芯太繊度島成分と細繊度島成分間や細繊度島成分同士の距離が短くなるため、島成分間の融着がみられるようになるため好ましくない。
【0027】
また、極細繊維成分間の距離hは極細繊維の短径をbとすると、0.1b≦h≦10bとすることが好ましく、さらに好ましくは0.2b≦h≦5bとすることが好ましい。極細繊維成分間の距離hが0.1bよりも小さい場合、極細繊維成分間の距離が小さくなりすぎ、極細繊維成分同士の融着が生じてしまうため、減量後に極細繊維の形成ができず、極細繊維独特の肌触りのなめらかさが損なわれるため、好ましくない。極細繊維成分間の距離hが10bよりも大きい場合、細繊度島成分が太繊度島成分の周りを均一に分散することが難しく、海成分を減量後、極細繊維独特の肌触りのなめらかさが損なわれるため、好ましくない。
【0028】
本発明の海島複合繊維は、上記のような単糸(フィラメント)から構成されるものであるが、複数の単糸(フィラメント)からなる糸条として用いることが好ましい。複数の単糸からなる糸条の形態で用いることにより、得られる布帛の風合いが柔軟になるばかりか、工程通過性も向上する。海島複合繊維を糸条とした際の繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単繊維繊度0.5~10.0dtex、フィラメント数5~75本、総繊度30~170dtex(好ましくは30~100dtex)の範囲であることが好ましい。
【0029】
もう一つの本発明の布帛は、上記の海島複合繊維を用いたものである。その際、本発明
の海島複合繊維のみで布帛を構成することが最も好ましいが、布帛重量に対して海島複合繊が30重量%以上(より好ましくは50重量%以上)含まれることが好ましい。混合方法としては、1本の糸条の中に他の繊維を混合しても良いし、別の本発明の海島複合繊維を含まない糸条として織編物の中に併用して用いることも好ましい。
【0030】
このようにして得られた本発明の海島複合繊維を使用した布帛は、その摩擦抵抗が2N以上であることが好ましい。布帛中の糸条表面が極細繊維によって構成され、かつ摩擦抵抗を2N以上とすることにより、本発明の布帛は、独特の柔らかさを有する優れた品位を有することになる。
【0031】
また本発明の布帛の摩耗性評価としては、JIS L10968.17.3 C法(テーバー法、摩耗輪CS-10、荷重4.90N(500gf)、1,000回)で試験した後、試験後の布帛表面品位の変化(テカリ感)が3級以上であることが好ましい。
【0032】
このような本発明の海島複合繊維は、例えば以下の方法により製造することができる。まず、島成分ポリマー(極細繊維および中心繊維を形成するポリマー)として、前記のポリマーを用意する。その際、酸化チタン、シリカ、酸化バリウム等の無機質、カーボンブラック、顔料や染料等の着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤等の各種添加剤を上記ポリマー中に含んでいてもよい。
【0033】
また、海成分ポリマーとしては、例えば、共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリスチレンおよびその共重合体、ポリエチレン、ポリビニルアルコール等の溶融成形が可能で、紡糸後、溶解抽出が可能なポリマーが挙げられる。その際、複合繊維を形成する両構成成分の重量比率としては、海:島成分の比率が6:4~1:9とすることが望ましい。海成分の比率が大きくなると、減量する海ポリマー成分量が大きくなり、布帛にて、過剰に低密度となり、タテ・ヨコの糸の間隔に乱れが生じることがあり、張り・腰がえられないことから好ましくない。逆に海成分の比率が小さい場合、海島複合繊維断面において島成分が密着する等の分割不良が生じるため好ましくない。
【0034】
次いで、太繊度繊維用島成分(好ましくは1~3個、特に好ましくは1個)、その周囲に放射状(衛星状)に配列した極細繊維用島成分(好ましくは10個以上、より好ましくは30~100個)および海成分を吐出する吐出孔を有する口金から、各成分を吐出させる。
【0035】
吐出された海島型複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400~6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。さらに、仮撚捲縮加工を施してもよい。かかる海島型複合繊維において、単繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単繊維繊度0.5~10.0dtex、フィラメント数5~75本、総繊度30~170dtex(好ましくは30~100dtex)の範囲内であることが好ましい。
【0036】
このようにして得られる本発明の海島複合繊維は、織編物とした後、海島型複合繊維の海成分を脱海処理することにより、もう一つの本発明の布帛となる。
このような本発明の複合繊維を用いて作製した布帛は、極細繊維特有の柔らかなタッチを有しなおかつ張り、腰を併せ持ちながら、摩耗性や工程通過性に優れたものとなる。
【実施例0037】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるもの
ではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0038】
(1)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度-溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000s-1の時の溶融粘度を見る。
【0039】
(2)海島型複合繊維島成分径(芯太繊度島成分径:R、細繊度島成分、長軸:a、短軸:b)、芯太繊度島成分-細繊度島成分間距離(H)、細繊度島成分間距離(h)、海島複合繊維外径―細繊度島成分間距離(c)
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し、下記のそれぞれの値を算出した。
芯太繊度島成分径:Rに関しては10本のフィラメントの平均値。
細繊度島成分の長軸:a、短軸:bに関しては、5本のフィラメントに含まれる細繊度島成分の平均値。この時、長軸、短軸は、極細繊維の各単一糸について外接円を想定した後、その外接円の直径の長軸、短軸の値とし、また長軸と短軸の比(長軸/短軸)を異型度とした。
芯太繊度島成分-細繊度島成分間距離(H)、細繊度島成分間距離(h)、海島複合繊維外径―細繊度島成分間距離(c)に関しては、10本のフィラメント中の各フィラメントにおける最小値の平均値。
【0040】
(3)繊維布帛の摩擦
目付40g/mとなるよう丸編みした編を作製し、タテ100mm、ヨコ50mmとしたサンプルを作製し、重量100gの重りをのせ、乾燥したシリコーン板の上を引っ張った。その時荷重が動いた際にかかる摩擦として測定した。
【0041】
(4)耐摩耗性評価
摩耗性評価はJIS L10968.17.3 C法(テーバー法、摩耗輪CS-10、荷重4.90N(500gf)、1,000回)で試験した後、試験後の布帛表面品位の変化(テカリ感)を観察し、次の等級で判定して3級以上であることが好ましい。
5級:変化無し。
4級:わずかにテカリ感が有るがほとんど目立たないレベル。
3級:少しテカリ感が有るが、気にならないレベル。
2級:テカリ感が強く、表面品位の変化が気になるレベル。
1級:テカリ感が非常に強く、表面品位の変化が大きすぎるために、非常に気になるレベル。
【0042】
[実施例1]
27本のフィラメントから構成された46dtexの海島複合繊維を紡糸した。海島複合繊維の島成分としては、270℃における溶融粘度が100Pa・sのポリエチレンエテレフタレート(帝人株式会社製)を用い、海島複合繊維の海成分としては、270℃における溶融粘度が150Pa・sであり、分子量4000のポリエチレングリコール(PEG)を3重量%、5-ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)を9mol%、ジアルコール成分としてエチレングリコール(EG)を用いて共重合したポリエステル(改質PET1)を使用した。それぞれの海島複合繊維各フィラメントにおいて、海:島=20:80の重量比で、その島成分は後に減量除去される海成分中に、1本の芯となる太繊度島成分と、その周囲に放射状に配列された50本の極細の細繊度島成分から構成された海島複合繊維である。そして海島複合繊維各フィラメントは27個の吐出孔からそれぞれ吐出され、27本のフィラメントから構成される海島複合繊維を紡糸した。さらに1000m
/minで巻取実施し、3.5倍に延伸を実施し、46dtex27フィラメントとなる海島複合繊維を作製した。この時各フィラメント中の、1本の芯となる太繊度島成分の径は10μmの真円形、その周囲に存在する細繊度島成分の異型度は1.7(長軸1μm、短軸0.6μm)の楕円形であった。その後、この46dtex27フィラメントの海島複合繊維のみを用いて目付40g/mの天竺ニットを作成し、精錬行った。その後4質量%NaOH水溶液で80℃にて2分浸漬し、20%質量%のアルカリ減量を行うことで、海成分を除去し、乾燥させて本発明の布帛を得た。得られた布帛の目付は35g/mであった。得られた布帛の物性、品位について測定を行った。結果を表1に示す。この減量加工した後の本発明の布帛は張り腰を有しており、風合いの優れたものであった。
【0043】
[実施例2]
海島複合繊維に実施例1と同じ原料を用い、1本のフィラメント中の海:島=20:80の比は同じで、ただし各フィラメントにおいて、極細島成分35本が1本の芯太繊度島成分の周囲に放射状に配列された海島複合繊維フィラメントとし、実施例1と同様にそのようなフィラメントを27個の吐出孔から吐出させた。そして1000m/minで巻取実施し、3.5倍に延伸を実施し、72dtex27フィラメントとなる海島複合繊維を作製した。この時、1フィラメント中の芯太繊度島成分の径は12μmの真円形、その周囲の細繊度島成分の径は、長軸1.6μm、短軸0.9μmの異型度が1.8の楕円形であった。その他の条件は、実施例1と同様に実施し、海島複合繊維及びそれを用いて得られる布帛を得た。減量加工後の布帛は張り腰を有しており、風合いの優れたものであった。
【0044】
[実施例3]
海島複合繊維に実施例1と同じ原料を用い、ただし1本のフィラメント中の海:島=50:50に変更し、さらに極細島成分200本が、1本の芯太繊度島成分の周囲に放射状に配列された海島複合繊維フィラメントとし、そのフィラメントを27個の吐出孔から吐出させた。そして1000m/minで巻取実施し、3.5倍に延伸を実施し、72dtex27フィラメントとなる海島複合繊維を作製した。この時、芯太繊度島成分の径は12μm、その周囲の細繊度島成分の異型度は1.3、長軸0.5μm、短軸0.4μmの楕円形であった。他は、実施例1と同様に実施した。減量加工後の布帛は張り腰を有しており、風合いの優れたものであった。
【0045】
[比較例1]
海島複合繊維に実施例1と同じ原料を用い、芯太繊度島成分の直径を10μmから3μmとなるように変更した以外は実施例1と同様に、1本のフィラメント中の海:島=20:80で極細島成分50本が1本の芯太繊度島成分の周囲に放射状に配列したフィラメントが27個の吐出孔から吐出させた。そして1000m/minで巻取実施し、3.5倍に延伸を実施し、30dtex27フィラメントとなる海島複合繊維を作製した。中心の芯太繊度島成分の直径は3μm、周囲の細繊度島成分の異型度は1.8、長軸1.6μm、短軸0.9μmの楕円形であった。他は、実施例1と同様に布帛を作成し、物性評価を行った。減量加工後の布帛は張り腰がないものであった。
【0046】
[比較例2]
海島複合繊維に実施例1と同じ原料を用い、ただし1本のフィラメント中の海:島=70:30で、極細島成分50個が1本芯太繊度島成分の周囲に放射状に配列したフィラメントを27個の吐出孔から吐出させた。そして1000m/minで巻取実施し、3.5倍に延伸を実施、125dtex27フィラメントとなる海島複合繊維を作製した。この時、中心の芯太繊度島成分の径は10μm、周辺の細繊度島成分の異型度は1.7、長軸1μm、短軸0.6μmの楕円形であった。他は、実施例1と同様に布帛を作成し、物性評価を行った。減量加工後の布帛は張り腰がないものであり、耐摩耗性にも劣るものであ
った。
【0047】
[比較例3]
海島複合繊維に実施例1と同じ原料を用い、1本のフィラメント中の海:島=20:80で、ただし極細島成分20本が1本の芯太繊度島成分の周囲に放射状に配列したフィラメントを27個の吐出孔から吐出した。そして1000m/minで巻取実施し、3.5倍に延伸を実施し、結果63dtex27フィラメントとなる海島複合繊維を作製した。この時、中心の芯太繊度島成分の直径は、10μm、その周囲の細繊度島成分の異形度は1.8で、長軸が2.5μm、短軸が1.4の楕円形であった。他は、実施例1と同様に布帛を作成し、物性評価を行った。減量加工後の布帛は張り腰こそ有しているものの、硬い風合いの布帛であった。
【0048】
[比較例4]
海島複合繊維に実施例1と同じ原料を用い、そして芯周辺の極細島繊維成分の異形度を5.5、長軸が4.4μm、短軸が0.8μmの楕円形直径となるように変更した以外は実施例1と同様に、1本のフィラメント中の海:島=20:80で、極細島繊維成分20本が1本の芯太繊度島成分の周囲に放射状に配列したフィラメントを27個の吐出孔から吐出した。この時、微細島吐出孔としてはスリット形状で、細繊度島成分の断面は扁平であった。吐出後1000m/minで巻取実施し、3.5倍に延伸を実施し、62dtex27フィラメントとなる海島複合繊維を作製した。この時、中心の太繊度島成分の直径は、10μm、周辺の細繊度島成分の異形度は5.5で、長軸が4.4μm、短軸が0.8μmの楕円形であった。他は、実施例1と同様に布帛を作成し、物性評価を行った。減量加工後の布帛は張り腰を有しているものの、硬い風合いの布帛であり、耐摩耗性にも劣るものであった。
【0049】
[比較例5]
海島複合繊維に実施例1と同じ原料を用い、1本のフィラメント中の海:島=30:70ではあるものの、実施例の太繊度島成分が存在せず、極細島成分836本が均一に配列したフィラメントを10個の吐出孔から吐出させた。そして1000m/minで巻取実施し、4倍に延伸を実施し海島型複合繊維とした。結果56dtex10フィラメント、JISL1013により測定した熱水(98℃熱水中での)寸法変化率 8.0%、極細島成分の異型度は1.0の真円である海島複合繊維を作製した。その後この得られた海島型複合繊維と33dtex12フィラメント(単糸繊度は2.75dtex)から構成され、熱水(98℃熱水中での)寸法変化率 35%のポリエステル繊維を引きそろえ、混繊糸を作成した。
【0050】
その後、目付40g/m天竺ニットを作成し、精錬行った。その後4質量%NaOH水溶液で80℃にて2分浸漬し、20%質量%のアルカリ減量を行うことで、海成分を除去し、直径0.7μmの極細繊維が836本×10個=8360本と、通常繊度の繊維が12本の混繊糸からなる布帛を得た。物性、品位について実施例と同様に測定を行った。結果を表1に示す。減量加工後の布帛は張り腰を有していたものの耐摩耗性に劣るものであった。
【0051】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、極細繊維特有の柔らかなタッチを有し、なおかつ、張り・腰を併せ持ち、耐摩耗性を有する布帛を提供することができる。
図1