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特開2022-107976乗客コンベアの降り口の状況検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107976
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】乗客コンベアの降り口の状況検知方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 29/00 20060101AFI20220715BHJP
   B66B 31/00 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
B66B29/00 Z
B66B31/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002714
(22)【出願日】2021-01-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 悠児
(72)【発明者】
【氏名】中川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】北村 美和子
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】新井 晋治
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321DA05
3F321EA01
3F321EB07
3F321EB10
3F321EC06
3F321EC07
3F321EC08
3F321EC09
3F321EC10
(57)【要約】
【課題】本発明は、乗客コンベアの降り口における乗客の滞留の有無をより正確に検知する方法を提供する。
【解決手段】本発明の乗客コンベアの降り口の状況検知方法は、降り口21aに設置され、前記降り口における物体51R,51Lの位置を検知するセンサー40R,40Lを具えた乗客コンベアの降り口の状況検知方法であって、前記降り口を進行方向に対して右側測定領域TRと左側測定領域TLに分け、各測定領域の滞留状況を状況検知し、両測定領域に滞留が発生している場合に前記降り口に滞留が発生していると判断する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
降り口に設置され、前記降り口における物体の位置を検知するセンサーを具えた乗客コンベアの降り口の状況検知方法であって、
前記センサーにより、前記降り口を含む領域の所定高さを平面スキャンし、前記降り口に存する物体の距離データを連続的に逐次取得するデータ取得ステップ、
前記降り口を、前記乗客コンベアの進行方向に対して左右2つの測定領域に分け、前記データ取得ステップにて得られた前記距離データから、右側測定領域に存在する右側物体の右側距離データ群と、左側測定領域に存在する左側物体の左側距離データ群を時系列順に得る左右距離データ取得ステップ、
前記右側距離データ群に基づいて前記右側測定領域の距離データの右側重心位置、前記左側距離データ群に基づいて前記左側測定領域の距離データの左側重心位置を時系列順に算出する重心位置算出ステップ、
時系列順に算出された前記右側重心位置から右側重心移動速度を算出し、前記左側重心位置から左側重心移動速度を算出する重心移動速度算出ステップと、
前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度に基づいて、前記降り口の状況を検知する状況検知ステップ、
を含んでいる、
乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項2】
前記センサーは、前記降り口の左右に少なくとも1ずつ設置される、
請求項1に記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項3】
前記状況検知ステップは、前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度の両方が、所定の速度以下であるときに前記降り口に滞留が発生していると判断する、
請求項1又は請求項2に記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項4】
前記重心移動速度算出ステップは、前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度について、前記降り口における前記乗客コンベアの進行方向の移動速度のみを算出する、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項5】
前記重心移動速度算出ステップは、前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度について、前記乗客コンベアの進行方向と同じ方向を正とする移動速度と、前記移動速度の絶対値を加えた速度に基づいて前記乗客コンベアの進行方向の移動速度を算出する、
請求項4に記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項6】
降り口に設置され、前記降り口における物体の位置を検知するセンサーを具えた乗客コンベアの降り口の状況検知方法であって、
前記降り口を進行方向に対して右側測定領域と左側測定領域に分け、各測定領域の滞留状況を状況検知し、
両測定領域に滞留が発生している場合に前記降り口に滞留が発生していると判断する、
乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法を用いた乗客コンベアの速度制御方法であって、
前記状況検知ステップにより算出された前記降り口の状況に基づいて、前記乗客コンベアの踏み段及びハンドレールを循環駆動させるモーターの回転を制御する、
乗客コンベアの速度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーター等の乗客コンベアの降り口の状況、より具体的には、降り口における乗客の滞留を検知する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターや動く歩道のような乗客コンベアでは、降り口に乗客を検知する滞留検知センサーを具え、当該滞留検知センサーが降り口における乗客の滞留を検知すると、エスカレーターの速度(モーターの回転速度)を減じるものが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のエスカレーターでは、センサーが降り口の乗客を所定時間以上連続して検知することで滞留と判断し、エスカレーターの速度を減じるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-170041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
降り口においてエスカレーターの乗客が移動する方向は、一般的にはエスカレーターの進行方向と同じ向きとなるが、降り口近傍では、エスカレーターの前を横切る人も見受けられる。このような人に対してもセンサーは反応するから、降り口における乗客の滞留を正しく検出することはできず、実際には滞留が生じてない場合であっても滞留として誤検知してしまい、エスカレーターを減速等してしまうことがある。
【0006】
また、降り口に乗客の滞留が生じていても、その滞留が降り口の一部、たとえば、降り口の右半分、左半分であれば、逆側は乗客が通行可能である。このような場合までエスカレーターの速度を減じる必要はない。しかしながら、センサーは、降り口自体の滞留の有無を検知するため、このように乗客が通行可能な場合であっても滞留と判断してしまう。これにより、本来、乗客が通行可能であるにも拘わらずエスカレーターの速度が減じられ、不要な運行の変更が行なわれると共に、輸送効率も低下してしまう。
【0007】
本発明の目的は、乗客コンベアの降り口における乗客の滞留の有無をより正確に検知する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の乗客コンベアの降り口の状況検知方法は、
降り口に設置され、前記降り口における物体の位置を検知するセンサーを具えた乗客コンベアの降り口の状況検知方法であって、
前記センサーにより、前記降り口を含む領域の所定高さを平面スキャンし、前記降り口に存する物体の距離データを連続的に逐次取得するデータ取得ステップ、
前記降り口を、前記乗客コンベアの進行方向に対して左右2つの測定領域に分け、前記データ取得ステップにて得られた前記距離データから、右側測定領域に存在する右側物体の右側距離データ群と、左側測定領域に存在する左側物体の左側距離データ群を時系列順に得る左右距離データ取得ステップ、
前記右側距離データ群に基づいて前記右側測定領域の距離データの右側重心位置、前記左側距離データ群に基づいて前記左側測定領域の距離データの左側重心位置を時系列順に算出する重心位置算出ステップ、
時系列順に算出された前記右側重心位置から右側重心移動速度を算出し、前記左側重心位置から左側重心移動速度を算出する重心移動速度算出ステップと、
前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度に基づいて、前記降り口の状況を検知する状況検知ステップ、
を含んでいる。
【0009】
前記センサーは、前記降り口の左右に少なくとも1ずつ設置することができる。
【0010】
前記状況検知ステップは、前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度の両方が、所定の速度以下であるときに前記降り口に滞留が発生していると判断することができる。
【0011】
前記重心移動速度算出ステップは、前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度について、前記降り口における前記乗客コンベアの進行方向の移動速度のみを算出することができる。
【0012】
前記重心移動速度算出ステップは、前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度について、前記乗客コンベアの進行方向と同じ方向を正とする移動速度と、前記移動速度の絶対値を加えた速度に基づいて前記乗客コンベアの進行方向の移動速度を算出することができる。
【0013】
また、本発明の乗客コンベアの速度制御方法は、
上記何れかに記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法を用いた乗客コンベアの速度制御方法であって、
前記状況検知ステップにより算出された前記降り口の状況に基づいて、前記乗客コンベアの踏み段及びハンドレールを循環駆動させるモーターの回転を制御する。
【0014】
また、本発明の乗客コンベアの降り口の状況検知方法は、
降り口に設置され、前記降り口における物体の位置を検知するセンサーを具えた乗客コンベアの降り口の状況検知方法であって、
前記降り口を進行方向に対して右側測定領域と左側測定領域に分け、各測定領域の滞留状況を状況検知し、
両測定領域に滞留が発生している場合に前記降り口に滞留が発生していると判断するものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の乗客コンベアの降り口の状況検知方法によれば、降り口を左右の測定領域に分け、各測定領域に存在する物体の重心の移動速度を算出することで、左右の各測定領域の乗客の滞留を検知することができる。これにより、降り口の状況をより正確に把握でき、左右の何れか一方の各測定領域が滞留していても、他方が通行可能であれば降り口の滞留とは判断しないことで、不要な運行の変更を抑制すると共に、輸送効率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明を適用できるエスカレーターの概略構成図である。
図2図2は、降り口近傍の斜視図である。
図3図3は、降り口近傍の平面模式図である。
図4図4は、本発明のエスカレーターの制御システムの一実施形態を示すブロック図である。
図5図5は、降り口近傍のセンサーの距離データの一例を示している。
図6図6は、本発明の降り口の滞留状況の判定フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、乗客コンベアの降り口21aを進行方向に対して左右2つの測定領域TR,TLに分け、各測定領域TR,TLの乗客の滞留状況を判定して、乗客コンベアの運行速度を制御するものである。以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。なお、本実施形態では、乗客コンベアとしてエスカレーター10を例に挙げるが、乗客コンベアは、所謂動く歩道などであっても構わない。
【0018】
本発明の一実施形態に係るエスカレーター10は、図1に示すように、昇降口となる上階側階床20と下階側階床21の間で踏み段11をハンドレール12と共に循環させて構成される。エスカレーター10の骨組みを形成するトラス13には、上下にスプロケット14,15を具え、これらスプロケット14,15間に踏み段11を多数連結して循環させるステップチェーン16が掛けられている。一方のスプロケット14は、モーター17に減速機18を介して動力伝達可能に連携されている。また、トラス13には、図示しないレールが上下の階床間に配設されており、踏み段11は、ステップチェーン16に牽引されて図示しないレール上を走行する。
【0019】
本実施形態では、エスカレーター10は下り運転するものとし、乗り口20aを上階側階床20、降り口21aを下階側階床21として説明するが、上り運転であってもよく、この場合、上階側階床20が降り口になる。
【0020】
図1図2に示すように、本発明の一実施形態に係るエスカレーター10は、降り口21aの近傍にセンサー40を配備している。センサー40として、ToF(Time of Flight)センサーの如きエリア型センサーを例示できる。ToFセンサーは、レーザー光の投光部と受光部を回転させながら、投光部から発せられたレーザー光が物体に反射して受光部に戻ってくるまでの時間を計測し、回転角度毎に物体までの距離データを出力するセンサーである。なお、センサー40は、ToFセンサーに限定されるものではない。
【0021】
センサーは、たとえば、図3に符号40R,40Lで示すように、降り口21aの左右に少なくとも1つずつ配置する。本実施形態では、センサー40は、図2に示すように、内デッキボード19の端縁を通常よりも長く形成し、突出した内デッキボード19の下面に配置している。これにより、センサー40は、乗客の足元近傍の高さを平面スキャンすることができる。もちろん、センサー40の設置位置は、これに限定されるものではなく、スカートガードやニューエルカバーに設置、或いは、別途ポールを降り口21aに立設してセンサー40を装着することもできる。
【0022】
なお、センサーは、降り口21aを左右の測定領域TR,TLに分けて乗客の滞留状況を検出できれば1つでもよく、また、左右に夫々2つ以上を配置しても構わない。センサーの設置場所は、上記に限らず、床面や天井面等であってもよい。
【0023】
図3は、降り口21aを上方向から見た模式図である。降り口21aは、左右に配置されたセンサー40R,40Lによって所定の測定領域TR,TLが平面スキャンされる。本実施形態では、測定領域TR,TLは、降り口21aに対して、エスカレーター10の奥行方向となる進行方向をY軸、Y軸と平面内で直交する水平方向(エスカレーター10の幅方向)をX軸として規定している。なお、X軸、Y軸の座標については後述する。
【0024】
センサー40R,40Lは、測定領域TR,TLの距離データを制御装置31(図4参照)に出力する。たとえば、センサー40R,40Lは、所定時間毎、たとえば25msec毎に降り口21aを平面スキャンし、物体の距離データを連続的に逐次検知し続ける構成とすることができる。
【0025】
センサー40R,40Lの出力は、エスカレーター10の制御装置31に送信される。図4は、本発明に係る制御に関連する要部構成を示すエスカレーター10の制御システム30のブロック図である。制御装置31は、センサー40R,40Lから受信した距離データを処理する状況判定手段32と、状況判定手段32にて判定された状況に基づいて、モーター17の速度指令を発する速度指令生成手段33と、当該速度指令に基づいてモーター17をインバーター制御するインバーター制御手段34を具える構成とすることができる。なお、モーター17の回転速度制御は、インバーター制御に限るものではない。
【0026】
状況判定手段32は、センサー40R,40Lから取得した距離データから、左右の測定領域TR,TLの夫々の滞留状況を判定する。滞留状況は、左右の測定領域TR,TLに存在する物体50R,50Lの移動速度から算出可能である。物体50R,50Lの移動速度は、各測定領域TR,TLに存在する物体50R,50Lの重心移動速度とすることができるが、センサー40R,40Lの特性上、物体50R,50Lの完全な輪郭は把握できないから、物体50R,50Lの重心の移動速度は、センサー40R,40Lから取得した物体50R,50Lの距離データを左右の測定領域TR,TLで分け、各々の距離データ群の重心位置の移動速度を物体50R,50Lの移動速度と見做すようにしている。
【0027】
すなわち、状況判定手段32は、取得した距離データを、右側測定領域TRに存在する物体50Rの右側距離データ群と、左側測定領域TLに存在する物体50Lの左側距離データ群に夫々分け、各測定領域TR,TLの距離データ群の重心位置を算出し、時系列順の重心位置の変位から重心移動速度を算出する。
【0028】
そして、得られた左右の各測定領域TR,TLの重心位置の移動速度から降り口21aの滞留状況を判定する。本実施形態で、エスカレーター10を減速又は運転停止するような滞留が発生している状況として、左右の測定領域TR,TLの両方の重心移動速度(又はその移動平均等)が所定速度以下となった場合である。
【0029】
上記のように、左右の測定領域TR,TLに滞留が生じた場合にのみ滞留と判断してエスカレーター10の減速等を行なうようにしているから、少なくとも一方の測定領域TR,TLの重心位置の移動速度が、所定速度を超えている場合には、エスカレーター10の減速等を行なわなくて済む。一方の測定領域TR,TLの重心位置の移動速度が所定速度以下であっても、他方が所定速度を超えていれば、少なくとも降り口21aの片側は乗客が通行可能であるから、乗客は滞留が発生している降り口21aの片側を避けて通行するためである。
【0030】
具体的実施形態として、状況判定手段32は、図4に示すように、センサー40R,40Lから距離データを取得するデータ取得部32aと、データ取得部32aから距離データを得て、各距離データが左右の各測定領域TR,TLの何れの距離データかを判断し、各測定領域TR,TLに存在する物体50R,50Lの距離データ群を算出する左右距離データ取得部32bと、得られた左右の各距離データ群から左右の物体50R,50Lの重心位置51R,51Lを算出する重心算出部32c、算出された重心位置からこれらの移動速度を算出する重心移動速度算出部32dと、算出された各測定領域TR,TLの重心移動速度に基づいて降り口21aの状況を判定する状況判定部32eを具えた構成とすることができる。
【0031】
データ取得部32aは、センサー40R,40Lが夫々所定時間毎に測定した距離データを連続的に逐次取得する。取得した距離データは、センサー40R,40Lの計測範囲によっては、必要とする測定領域TR,TLよりも広い範囲の距離データも含まれることがある。測定領域TR,TL以外の領域については、エスカレーター10の乗客の流れとは無関係であるため、このような場合には、データ取得部32aは、所定の測定領域TR,TLの距離データのみを抽出するようにすればよい。図5は、ToFセンサーをセンサー40R,40Lとして採用し、乗客(物体50R,50L)の足元近傍の高さを平面スキャンした1スキャン分の2次元座標系の検知結果を示す距離データの一例を示している。図を参照すると、右側のセンサー40Rにより検出された距離データ(図中黒丸印で示す)と、左側のセンサー40Lにより検出された距離データ(図中黒三角印で示す)により、左右の測定領域TR,TLに乗客の足の輪郭を示す点の集合50a,50b,50cを3対確認することができる。
【0032】
データ取得部32aにより取得された距離データは、逐次連続的に左右距離データ取得部32bに送信される。左右距離データ取得部32bは、取得したセンサー40R,40Lの距離データを左右の測定領域TR,TL毎の距離データ群に分ける。たとえば、図3図5に示すように、測定領域TR,TLは、降り口21aに対してハンドレール12,12の幅方向中心をX軸のゼロ点とし、ハンドレール12,12の先端近傍をY軸のゼロ点とした座標系において、右側の測定領域TRをX軸の正領域、左側の測定領域TLをX軸の負領域に分けることができる。具体的には、図5において、右側測定領域TRにある黒丸印及び黒三角印は右側距離データ群、左側測定領域TLにある黒丸印及び黒三角印は左側距離データ群となる。
【0033】
左右距離データ取得部32bにより左右の測定領域TR,TLに分けられた距離データ群は、重心算出部32cに送信される。重心算出部32cは、受信した距離データ(図5の左右の測定領域TR,TLの黒丸印と黒三角印)から、測定領域TR,TL毎に重心位置を算出する。重心算出部32cにより算出された左右の重心位置を図5中、符号51R,51Lで示す。重心算出部32cは、たとえば、左右の距離データ群のX軸方向成分、Y軸方向成分を夫々加算し、距離データの数で除算することで左右の重心位置51R,51Lを算出できる。
【0034】
算出された左右の重心位置51R,51Lは、重心移動速度算出部32dに送信される。そして、重心移動速度算出部32dは、順次受信する重心位置51R,51Lから、当該重心位置51R,51Lの移動速度を算出する。重心移動速度算出部32dは、たとえば、順次受信した重心位置51の差分から移動速度を算出できる。なお、重心位置51R,51Lの移動速度の算出に際し、エスカレーター10の進行方向のみの速度を抽出するようにすることが望ましい。また、測定誤差等の影響を抑えるために、重心位置51R,51Lの移動速度は、たとえば、移動平均とすることで算出データの微小変化を平滑化することができる。
【0035】
そして、上記重心移動速度算出部32dにて算出された重心位置51R,51Lの移動速度は、状況判定部32eに送信される。状況判定部32eは、重心位置R,51Lの移動速度に基づいて降り口21aにおける乗客の滞留を判定する。何れの測定領域TR,TLについても、重心位置51R,51Lの移動速度が速いほど、乗客はスムーズに流れており、重心位置51の移動速度が遅いほど、当該測定領域TR,TLに乗客が滞留していることが判定できる。状況判定部32eは、重心位置51R,51Lの移動速度が予め設定された所定速度以下であるか、これを超えるかを判断し、上記したとおり、両方の重心位置51R,51Lの移動速度が所定速度以下の場合にのみ、乗客の滞留が発生したと判定する。それ以外の場合、すなわち、少なくとも一方の重心位置51R,51Lの移動速度が所定速度を超える場合には、滞留なしと判定する。なお、滞留が発生したと判定される場合、その重心位置51R,51Lの移動速度も滞留のパラメーターとして利用することができる。
【0036】
状況判定部32eで判定された降り口21aの左右の測定領域TR,TLの乗客の滞留状況(滞留あり、滞留なし)及び滞留発生時の重心位置51R,51Lの移動速度は、エスカレーター10の運行速度制御に利用することができる。状況判定部32eで判定された滞留状況は、図4に示す速度指令生成手段33に送信される。速度指令生成手段33は、滞留ありの場合、エスカレーター10の運行速度を減速又は停止させるモーター17の回転速度の指令値を生成する。或いは、その滞留速度の移動平均や継続時間、滞留発生時の重心位置51R,51Lの移動速度から、エスカレーター10の運行速度が最適となるように、モーター17の回転速度の指令値を生成する。この場合、速度指令生成手段33は、滞留の継続時間や滞留発生時の重心位置51R,51Lの移動速度と、モーターの回転速度の指令値のテーブルを格納したメモリを有し、当該テーブルを参照してモーター17の回転速度の指令値を生成すればよい。モーター17の回転速度の指令値は、滞留の継続時間や滞留発生時の重心位置51R,51Lの移動速度にリアルタイムに追従する変化、すなわち、降り口21aの状況に応じて可変な閾値を持つ制御とすることもできるし、段階的に変化する速度指令であってもよい。
【0037】
そして、速度指令生成手段33により生成された速度指令に基づいて、インバーター制御手段34がモーター17の回転速度を制御することで、降り口21aの左右の測定領域TR,TLの滞留状況に応じてエスカレーター10の運行速度を制御できる。具体的には、両測定領域TR,TLに滞留が発生している滞留発生時には、エスカレーター10の運行速度を遅くして、エスカレーター10により降り口21aに到着する乗客数を減らすことで、降り口21aの滞留の解消を図ることができる。なお、エスカレーター10の運行速度を遅くする前に、必要に応じて、降り口21aから移動するよう注意喚起のアナウンス等を行なってもよい。また、降り口21aにて滞留が生じていない場合には、エスカレーター10の運行速度を定格速度まで戻せばよい。
【0038】
本発明によれば、降り口21aを左右2つの測定領域TR,TLに分け、測定領域TR,TL毎に滞留の状況を判定している。これにより、片側の測定領域TR,TLのみに滞留が発生しているが、他方には滞留が発生していない場合には、乗客は滞留のない片側を通行するから、エスカレーター10の不要な運行の変更を抑制できる。一方で、両方の測定領域TR,TLに滞留が発生している場合には、エスカレーター10の運行速度を減速、停止等制御することで、降り口21aにおける乗客の滞留の解消を促進でき、スムーズな流れを確保できる。
【実施例0039】
以下、図3に点線で示す降り口21aの所定範囲を測定領域TR,TLに対し、センサー40R,40Lにより距離データを測定し、重心位置51R,51Lの移動速度に基づいて、乗客の状況を判定し、エスカレーター10の速度制御を行なった。
【0040】
測定領域TR,TLは、エスカレーター10の幅よりも若干広い幅に設定しており、エスカレーター10の奥行方向となる進行方向をY軸、Y軸と平面内で直交する水平方向をX軸とする矩形領域(以下の式(1-1),(1-2)で示す)として設定した。図3及び図5では、測定領域Tは、X軸方向の中央をゼロ点としている。
【0041】
以下、本発明の一実施形態に係る制御を、降り口21aの平面模式図3やフローチャート図6等を参照しながら説明する。
【0042】
<データ取得ステップ>
乗客の状況の測定が開始されると(図6のステップS1)、まず、センサー40R,40Lが下記式(1-1)、(1-2)で示す降り口21a(測定領域TR,TL)を平面スキャンし、図4に示すように、夫々のセンサー40R,40Lをデータ取得部32aに送信する(ステップS2)。測定領域TR,TLは、降り口21aに対してハンドレール12,12の幅方向中心をX軸のゼロ点とし、ハンドレール12,12の先端近傍をY軸のゼロ点である。測定領域TR,TLを図3及び図5中、点線で囲んでいる。データ取得部32aは、取得したセンサー40R,40Lから距離データを抽出する(ステップS3)。なお、センサー40R,40Lにより測定される当該測定領域TR,TL以外のデータは、データ取得部32aにおいて距離データにゼロを代入することで不要なデータとして除去し、必要な距離データのみを抽出すればよい。
【0043】
【数1】
【0044】
<左右距離データ取得ステップ>
得られた距離データは、左右距離データ取得部32bに送信される。左右距離データ取得部32bは、測定領域TR,TL毎に得られた距離データを分離し、左右の距離データ群を作成する(ステップS4)。左右の測定領域TR,TLは、式(2-1)、(2-2)が右側測定領域TR、式(2-3)、(2-4)が左側測定領域TLを示す。
【0045】
【数2】
【0046】
そして、分離された左右の距離データ群は、重心算出部32cに送信される。
【0047】
<重心算出ステップ>
重心算出部32cは、左右に分離された距離データ群の奥行方向、水平方向の距離データの平均値を次式(3-1)~(3-4)で計算することで、右側測定領域TR、左側測定領域TLの夫々の物体50R,50Lの重心位置51R,51Lを算出する(ステップS5)。なお、これにより算出される重心位置は、実際に各測定領域TR,TLに存在する個々の物体の重心位置ではなく、あくまでも抽出された左右の各距離データ群の重心位置51R,51Lとなる。
【0048】
【数3】
【0049】
<重心移動速度算出ステップ>
次に、上記にて算出された重心位置51R,51Lから、下記式(4-1)~(4-4)を用いて、重心位置51R,51Lの移動速度を算出する(ステップS6)。ここで、サンプリング周期dtは、たとえば25msecとすることができる。
【0050】
【数4】
【0051】
なお、上記式(4-1)~(4-4)にて算出した重心移動速度は、左右の距離データ群が夫々まとまりとして移動する速度を示しているが、重心位置51R,51Lを算出している以上、測定領域TR,TL内の距離データの分布度合(分布形状)に影響を受ける。すなわち、乗客の移動速度が一定であった場合であっても、先頭の人が測定領域TR又はTLを進行方向に出て行くタイミング、或いは、後続の人が測定領域TR又はTLに侵入するタイミングによっては、距離データの分布度合が急激に変化し、実際には生じていない重心位置の移動速度の急激な変化が検出されることになる。これら2つのタイミングは、何れも進行方向とは逆の速度として検出される。このため、下記式(5-1)に示すように、エスカレーター10の降り口21aにおける進行方向と同じ方向の速度を正とする移動速度のみを抽出する。具体的には、降り口21aにおける進行方向を正とする移動速度と、当該移動速度の絶対値を加えた速度に基づいて左右の重心位置51R,51Lの移動速度を算出することで、正の値となる速度のみを抽出する(ステップS7)。これにより、進行方向とは逆の方向で検出された移動速度はゼロとなり、実際に発生していない負の速度は、後に示す移動平均に反映されないようにできる。
【0052】
【数5】
【0053】
本実施形態では、センサー40R,40Lの測定領域TR,TLにおける距離データ群を1サンプリング毎に処理しているから、測定誤差等の影響により微小な速度変化が発生し、誤判定の原因となり得る。そこで、下記式(6-1)の如き移動平均フィルタを用いることで、左右の測定領域TR,TLの得られた重心位置51R,51Lの移動速度の移動平均を算出し、微小変化を平滑化することができる(ステップS8)。もちろん、データ処理は、移動平均に限定されるものではない。
【0054】
【数6】
【0055】
上記により、得られた左右の重心位置51R,51Lの夫々の移動速度は、状況判定部32eに送信される。
【0056】
<状況検知ステップ>
状況判定部32eは、式(6-1)により算出された左右の測定領域TR,TLの重心移動速度を所定速度と比較し、重心移動速度が所定速度以下の場合は「滞留あり」、所定速度を超える場合には「滞留なし」と判定する。そして、表1に示すように、これら結果から、総合判定を行ない、左右の測定領域TR,TLの少なくとも一方が「滞留なし」の場合には「滞留なし」、左右の測定領域TR,TLの両方が「滞留あり」の場合のみ「滞留あり」と判定する(ステップS9)。エスカレーター10の運行制御を減速又は停止とする。総合判定が「滞留なし」の場合には速度指令生成手段33には通常運行のモーター速度指令を行ない、「滞留あり」の場合には減速又は停止のモーター速度指令を行なえばよい。
【0057】
【表1】
【0058】
上記実施例によれば、各測定領域TR,TLの重心位置51R,51Lの移動速度の平均値により乗客の滞留の有無を判断でき、左右の測定領域TR,TLの両方に滞留が発生したときのみエスカレーター10の減速や停止を行なうから、滞留を早期に解消できることは勿論、不要な運行の変更を抑制でき、乗り心地のよいエスカレーター10を提供できる。
【0059】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0060】
たとえば、本実施形態では、左右の測定領域TR,TLに存在する物体の距離データに基づいて滞留の有無を判定しているが、左右の測定領域TR,TLで滞留の状況を個別に判定できれば、方法はこれに限られるものではない。
【符号の説明】
【0061】
10 エスカレーター
17 モーター
21a 降り口
TR 右側測定領域
TL 左側測定領域
30 速度制御システム
31 制御装置
32 状況判定手段
32a データ取得部
32b 左右距離データ取得部
32c 重心算出部
32d 重心移動速度算出部
32e 状況判定部
33 速度指令生成手段
34 インバーター制御手段
40R,40L センサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-03-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
降り口に設置され、前記降り口における物体の位置を検知するセンサーを具えた乗客コンベアの降り口の状況検知方法であって、
前記センサーにより、前記降り口を含む領域の所定高さを平面スキャンし、前記降り口に存する物体の距離データを連続的に逐次取得するデータ取得ステップ、
前記降り口を、前記乗客コンベアの進行方向に対して左右2つの測定領域に分け、前記データ取得ステップにて得られた前記距離データから、右側測定領域に存在する右側物体の右側距離データ群と、左側測定領域に存在する左側物体の左側距離データ群を時系列順に得る左右距離データ取得ステップ、
前記右側距離データ群に基づいて前記右側測定領域の距離データの右側重心位置、前記左側距離データ群に基づいて前記左側測定領域の距離データの左側重心位置を時系列順に算出する重心位置算出ステップ、
時系列順に算出された前記右側重心位置から右側重心移動速度を算出し、前記左側重心位置から左側重心移動速度を算出する重心移動速度算出ステップと、
前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度に基づいて、前記降り口の状況を検知する状況検知ステップ、
を含んでいる、
乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項2】
前記センサーは、前記降り口の左右に少なくとも1ずつ設置される、
請求項1に記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項3】
前記状況検知ステップは、前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度の両方が、所定の速度以下であるときに前記降り口に滞留が発生していると判断する、
請求項1又は請求項2に記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項4】
前記重心移動速度算出ステップは、前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度について、前記降り口における前記乗客コンベアの進行方向の移動速度のみを算出する、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項5】
前記重心移動速度算出ステップは、前記右側重心移動速度と前記左側重心移動速度について、前記乗客コンベアの進行方向と同じ方向を正とする移動速度と、前記移動速度の絶対値を加えた速度に基づいて前記乗客コンベアの進行方向の移動速度を算出する、
請求項4に記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の乗客コンベアの降り口の状況検知方法を用いた乗客コンベアの速度制御方法であって、
前記状況検知ステップにより算出された前記降り口の状況に基づいて、前記乗客コンベアの踏み段及びハンドレールを循環駆動させるモーターの回転を制御する、
乗客コンベアの速度制御方法。