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特開2022-107978逆浸透膜の洗浄方法および逆浸透膜の洗浄装置
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  • 特開-逆浸透膜の洗浄方法および逆浸透膜の洗浄装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107978
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】逆浸透膜の洗浄方法および逆浸透膜の洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/06 20060101AFI20220715BHJP
   B01D 61/10 20060101ALI20220715BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
B01D65/06
B01D61/10
B01D65/02 530
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002719
(22)【出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 凱
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006KC02
4D006KC16
4D006KD30
4D006KE11R
4D006KE15R
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB03
4D006PB08
(57)【要約】
【課題】逆浸透膜の劣化を抑制しながらも逆浸透膜の洗浄性に優れる逆浸透膜の洗浄方法および逆浸透膜の洗浄装置を提供する。
【解決手段】被処理水を通水して濃縮水と透過水とを得る逆浸透膜装置10が備える逆浸透膜の洗浄を、洗浄液を用いて行う洗浄工程を含み、洗浄液に臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を存在させ、洗浄液のpHが11~13の範囲であり、洗浄液の全塩素濃度が1mg-Cl/L以上である、逆浸透膜の洗浄方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を通水して濃縮水と透過水とを得る逆浸透膜装置が備える逆浸透膜の洗浄を、洗浄液を用いて行う洗浄工程を含み、
前記洗浄液に臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を存在させ、
前記洗浄液のpHが11~13の範囲であり、前記洗浄液の全塩素濃度が1mg-Cl/L以上であることを特徴とする逆浸透膜の洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載の逆浸透膜の洗浄方法であって、
前記全塩素濃度が5mg-Cl/L以上であることを特徴とする逆浸透膜の洗浄方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の逆浸透膜の洗浄方法であって、
前記洗浄工程において、前記逆浸透膜装置への前記被処理水の通水を停止して、前記洗浄液を貯留する洗浄液タンクから前記洗浄液を前記逆浸透膜装置に通液し、得られる洗浄濃縮水および洗浄透過水をいずれも前記洗浄液タンクに返送することを特徴とする逆浸透膜の洗浄方法。
【請求項4】
被処理水を通水して濃縮水と透過水とを得る逆浸透膜装置が備える逆浸透膜の洗浄を、洗浄液を用いて行う洗浄手段を備え、
前記洗浄液に臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を存在させ、
前記洗浄液のpHが11~13の範囲であり、前記洗浄液の全塩素濃度が1mg-Cl/L以上であることを特徴とする逆浸透膜の洗浄装置。
【請求項5】
請求項4に記載の逆浸透膜の洗浄装置であって、
前記全塩素濃度が5mg-Cl/L以上であることを特徴とする逆浸透膜の洗浄装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の逆浸透膜の洗浄装置であって、
前記洗浄液を貯留する洗浄液タンクと、
前記洗浄液タンクから前記洗浄水を前記逆浸透膜装置に通液して得られる洗浄濃縮水および洗浄透過水をいずれも前記洗浄液タンクに返送する返送手段と、
をさらに備え、
前記洗浄手段によって前記逆浸透膜の洗浄を行う際に、前記逆浸透膜装置への前記被処理水の通水を停止することを特徴とする逆浸透膜の洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜を用いる水処理において逆浸透膜の洗浄を行う逆浸透膜の洗浄方法および逆浸透膜の洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜を用いて被処理水を処理して濃縮水と透過水とを得る逆浸透膜装置は、処理を継続していくと逆浸透膜の汚染により処理水(透過水)の水質悪化や流量低下等の問題が発生することがある。そのため現在では、微生物や有機物によって汚染された逆浸透膜の洗浄を目的として、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ剤を用いるアルカリ洗浄が定期的に行われている。
【0003】
このような逆浸透膜の洗浄においてアルカリ剤だけではなく、さらに洗浄性や殺菌性の高い薬品を洗浄液に加えることによって、洗浄性や殺菌性が増大し、処理水の水質や流量のさらなる回復が見込める。
【0004】
汚染物質の洗浄や殺菌に非常に効果的な薬品として、次亜塩素酸が一般的に挙げられるが、次亜塩素酸は逆浸透膜を劣化させるという問題があり、逆浸透膜の洗浄には不適である。
【0005】
例えば、特許文献1には、分離膜を備える膜分離装置への給水または洗浄水中に、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む次亜臭素酸安定化組成物を存在させることが記載されている。しかし、特許文献1には、洗浄水中に次亜臭素酸安定化組成物を存在させる場合のpHや濃度等は記載されていない。
【0006】
特許文献2には、逆浸透膜の洗浄剤として、強アルカリや強酸を用いることが記載されている。特許文献2には、逆浸透膜の洗浄剤として、強アルカリや強酸以外に安定化(結合)臭塩素、安定化臭素を用いることができると記載されてはいるが、その具体的な使用方法、例えば安定化臭素を用いる場合の洗浄液のpHや濃度等は記載されておらず、使用した実施例の記載も全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-062889号公報
【特許文献2】特開2016-185520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、逆浸透膜の劣化を抑制しながらも逆浸透膜の洗浄性に優れる逆浸透膜の洗浄方法および逆浸透膜の洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被処理水を通水して濃縮水と透過水とを得る逆浸透膜装置が備える逆浸透膜の洗浄を、洗浄液を用いて行う洗浄工程を含み、前記洗浄液に臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を存在させ、前記洗浄液のpHが11~13の範囲であり、前記洗浄液の全塩素濃度が1mg-Cl/L以上である、逆浸透膜の洗浄方法である。
【0010】
前記逆浸透膜の洗浄方法において、前記全塩素濃度が5mg-Cl/L以上であることが好ましい。
【0011】
前記逆浸透膜の洗浄方法における前記洗浄工程において、前記逆浸透膜装置への前記被処理水の通水を停止して、前記洗浄液を貯留する洗浄液タンクから前記洗浄液を前記逆浸透膜装置に通液し、得られる洗浄濃縮水および洗浄透過水をいずれも前記洗浄液タンクに返送することが好ましい。
【0012】
本発明は、被処理水を通水して濃縮水と透過水とを得る逆浸透膜装置が備える逆浸透膜の洗浄を、洗浄液を用いて行う洗浄手段を備え、前記洗浄液に臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を存在させ、前記洗浄液のpHが11~13の範囲であり、前記洗浄液の全塩素濃度が1mg-Cl/L以上である、逆浸透膜の洗浄装置である。
【0013】
前記逆浸透膜の洗浄装置において、前記全塩素濃度が5mg-Cl/L以上であることが好ましい。
【0014】
前記逆浸透膜の洗浄装置において、前記洗浄液を貯留する洗浄液タンクと、前記洗浄液タンクから前記洗浄水を前記逆浸透膜装置に通液して得られる洗浄濃縮水および洗浄透過水をいずれも前記洗浄液タンクに返送する返送手段と、をさらに備え、前記洗浄手段によって前記逆浸透膜の洗浄を行う際に、前記逆浸透膜装置への前記被処理水の通水を停止することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、逆浸透膜の劣化を抑制しながらも逆浸透膜の洗浄性に優れる逆浸透膜の洗浄方法および逆浸透膜の洗浄装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る逆浸透膜の洗浄装置を備える水処理装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の実施形態に係る逆浸透膜の洗浄装置を備える水処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
【0019】
水処理装置1は、被処理水を逆浸透膜装置に通水して濃縮水と透過水とを得る逆浸透膜処理手段として逆浸透膜装置10を備える。水処理装置1は、洗浄液を貯留する洗浄液タンク12を備えてもよい。
【0020】
水処理装置1において、逆浸透膜装置10の入口には、バルブ18、給水ポンプ14を介して配管30が接続されている。逆浸透膜装置10の透過水出口には、バルブ20を介して配管32が接続されている。逆浸透膜装置10の洗浄透過水出口と、洗浄液タンク12の洗浄透過水入口とは、バルブ24を介して配管36により接続されている。逆浸透膜装置10の濃縮水出口には、バルブ22を介して配管34が接続されている。逆浸透膜装置10の洗浄濃縮水出口と、洗浄液タンク12の洗浄濃縮水入口とは、バルブ26を介して配管38により接続されている。洗浄液タンク12の出口と、配管30における給水ポンプ14の下流側とは、バルブ28、給水ポンプ16を介して配管40により接続されている。洗浄液タンク12の洗浄剤入口には、洗浄剤配管42が接続され、アルカリ剤入口には、アルカリ剤配管44が接続されている。
【0021】
本実施形態に係る逆浸透膜の洗浄装置は、洗浄液タンク12と、給水ポンプ16と、バルブ24,26,28と、配管30,36,38,40とを含んで構成される。逆浸透膜の洗浄装置において、洗浄液タンク12、給水ポンプ16、配管40、配管30等が洗浄手段として機能する。給水ポンプ16、配管36、配管38等が返送手段として機能する。
【0022】
本実施形態に係る逆浸透膜の洗浄方法を含む水処理方法および逆浸透膜の洗浄装置を備える水処理装置1の動作について説明する。
【0023】
通常運転のときは、バルブ18,20,22が開状態とされ、バルブ24,26,28が閉状態とされ、給水ポンプ14が作動されて、被処理水が配管30を通して逆浸透膜装置10に送液される。逆浸透膜装置10において、逆浸透膜を用いて逆浸透膜処理が行われ、透過水と濃縮水とが得られる(逆浸透膜処理工程)。透過水は配管32を通して排出され、濃縮水は配管34を通して排出される。
【0024】
洗浄運転のときは、洗浄液タンク12に安定化次亜臭素酸組成物が洗浄剤配管42を通して供給され、アルカリ剤がアルカリ剤配管44を通して供給され、安定化次亜臭素酸組成物を含む洗浄液が用意される。バルブ18,20,22が閉状態とされ、給水ポンプ14が停止され、バルブ24,26,28が開状態とされ、給水ポンプ16が作動されて、配管40を通して洗浄液が配管40、配管30を通して逆浸透膜装置10に送液される。逆浸透膜装置10において、逆浸透膜の洗浄処理が行われ、洗浄透過水と洗浄濃縮水とが得られる(洗浄工程)。洗浄透過水は配管36を通して洗浄液タンク12に返送され、洗浄濃縮水は配管38を通して洗浄液タンク12に返送されてもよい(返送工程)。
【0025】
本実施形態に係る逆浸透膜の洗浄方法を含む水処理方法および逆浸透膜の洗浄装置を備える水処理装置1において、洗浄液に逆浸透膜の洗浄剤として臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を存在させ、この洗浄液のpHが11~13の範囲であり、洗浄液の全塩素濃度が1mg-Cl/L以上である。
【0026】
本発明者らは、安定化次亜臭素酸組成物は、アルカリ条件下で洗浄力、殺菌力に優れ、逆浸透膜の汚れの洗浄、殺菌等に効果的であり、特にアルカリ条件下での所定の全塩素濃度の安定化次亜臭素酸組成物による洗浄効果は、非常に効果的であることを見出した。このアルカリ条件下での所定の全塩素濃度の安定化次亜臭素酸組成物による洗浄は、アルカリ洗浄や安定化(結合)臭塩素以上の洗浄力を有する。
【0027】
洗浄工程において、逆浸透膜装置10への被処理水の通水を停止することが好ましい。そして、別途洗浄液タンク12を設けて、洗浄液タンク12から洗浄液を逆浸透膜装置10に通液して洗浄を行い、得られる洗浄濃縮水および洗浄透過水をいずれも洗浄液タンク12に返送することが好ましい。
【0028】
逆浸透膜装置10への被処理水の通水を停止することによって、被処理水由来の汚染や洗浄のときのpHの低下を抑制するという効果が得られる。洗浄濃縮水および洗浄透過水をいずれも洗浄液タンク12に返送することによって、少ない水量でかつ安定したpHでの処理が可能という効果が得られる。
【0029】
洗浄液のpHは、11~13の範囲であり、12~13の範囲であることが好ましい。洗浄液のpHが11未満であると、洗浄力が低下し、13を超えると、逆浸透膜を劣化させる可能性がある。
【0030】
洗浄液の全塩素濃度は、1mg-Cl/L以上であり、5mg-Cl/L以上であることが好ましく、10mg-Cl/L以上であることがより好ましく、10~100mg-Cl/Lの範囲であることがさらに好ましい。洗浄液の全塩素濃度が1mg-Cl/L未満であると、洗浄力が低下し、100mg-Cl/Lを超えると、逆浸透膜を劣化させる場合がある。洗浄液の全塩素濃度が5mg-Cl/L以上であると、洗浄力がより高くなる。
【0031】
洗浄液の温度は、特に制限はないが、例えば、30~40℃程度とすることが好ましい。
【0032】
洗浄工程において、洗浄液を所定の時間通液した後に、洗浄液の通液を停止して洗浄液に逆浸透膜を浸漬する(浸漬工程)ことが好ましい。浸漬時間は、特に制限はないが、例えば、10~15時間程度とすればよい。浸漬温度は、特に制限はないが、例えば、30~40℃程度とすることが好ましい。
【0033】
洗浄工程において、例えば、洗浄液タンク12を設置し、洗浄液タンクに安定化次亜臭素酸組成物を添加した後にアルカリ剤を加え、pHを11~13に調整すればよい。
【0034】
洗浄工程中に洗浄液のpHが11を下回った場合、洗浄液タンク12にアルカリ剤を添加し、洗浄液のpHを11~13の範囲に調整すればよい。洗浄液タンク12にpH測定手段としてpH測定装置を設置し、アルカリ剤配管44にアルカリ剤添加量調整手段としてバルブやポンプ等を設置し、制御手段として制御装置を設けて、pH測定装置と、アルカリ剤配管44のバルブやポンプ等と有線または無線の電気的接続等により接続してもよい。pH測定装置によって測定されたpHに基づいて、制御装置は、アルカリ剤配管44のバルブやポンプ等を制御してアルカリ剤の添加量を調整し、洗浄液のpHが11~13の範囲になるように自動で調整してもよい。
【0035】
洗浄工程中に洗浄液の全塩素濃度が1mg-Cl/Lを下回った場合、洗浄液タンク12に安定化次亜臭素酸組成物を添加し、洗浄液の全塩素濃度を1mg-Cl/L以上に調整すればよい。洗浄液タンク12に全塩素濃度手段として全塩素濃度測定装置を設置し、洗浄剤配管42に洗浄剤添加量調整手段としてバルブやポンプ等を設置し、制御手段として制御装置を設けて、全塩素濃度測定装置と、洗浄剤配管42のバルブやポンプ等と有線または無線の電気的接続等により接続してもよい。全塩素濃度測定装置によって測定された全塩素濃度に基づいて、制御装置は、洗浄剤配管42のバルブやポンプ等を制御して安定化次亜臭素酸組成物の添加量を調整し、洗浄液の全塩素濃度が1mg-Cl/L以上になるように自動で調整してもよい。
【0036】
洗浄液タンク12は、仮設で設けてもよいし、常設で設けてもよい。
【0037】
本実施形態に係る逆浸透膜の洗浄方法を含む水処理方法および逆浸透膜の洗浄装置を備える水処理装置は、例えば、純水製造、海水淡水化、排水回収等に好適に適用される。
【0038】
被処理水のpHは、例えば、2~12の範囲であり、4~11の範囲であることが好ましい。被処理水のpHの下限は、5.5以上であることが好ましく、6.0以上であることがより好ましく、6.5以上であることがさらに好ましい。被処理水のpHの上限は、9.0以下であることが好ましく、8.0以下であることがより好ましい。
【0039】
逆浸透膜としては、アニオン荷電膜、カチオン荷電膜、中性膜が挙げられ、いずれの膜であってもよい。
【0040】
「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物」は、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜臭素酸組成物であってもよいし、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜臭素酸組成物であってもよい。
【0041】
「安定化次亜臭素酸組成物」は、洗浄液タンク12中に、例えば、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とを薬注ポンプ等により注入すればよい。「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とは別々に洗浄液タンク12に添加してもよく、または、原液同士で混合させてから洗浄液タンク12に添加してもよい。
【0042】
臭素系酸化剤としては、臭素(液体臭素)、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩、次亜臭素酸等が挙げられる。次亜臭素酸は、臭化ナトリウム等の臭素化合物と次亜塩素酸等の塩素系酸化剤とを反応させて生成させたものであってもよい。臭素系酸化剤が、臭素である場合、塩素系酸化剤が存在しないため、逆浸透膜への劣化影響が著しく低い。すなわち、安定化次亜臭素酸組成物は、逆浸透膜の劣化を抑制する等の点から、臭素とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物が好ましい。
【0043】
臭素化合物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化アンモニウムおよび臭化水素酸等が挙げられる。これらのうち、製剤コスト等の点から、臭化ナトリウムが好ましい。
【0044】
塩素系酸化剤としては、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸またはその塩、亜塩素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過塩素酸またはその塩、塩素化イソシアヌル酸またはその塩等が挙げられる。これらのうち、塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩素系酸化剤としては、取り扱い性等の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0045】
スルファミン酸化合物は、以下の一般式(1)で示される化合物である。
NSOH (1)
(式中、Rは独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基である。)
【0046】
スルファミン酸化合物としては、例えば、2個のR基の両方が水素原子であるスルファミン酸(アミド硫酸)の他に、N-メチルスルファミン酸、N-エチルスルファミン酸、N-プロピルスルファミン酸、N-イソプロピルスルファミン酸、N-ブチルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N,N-ジメチルスルファミン酸、N,N-ジエチルスルファミン酸、N,N-ジプロピルスルファミン酸、N,N-ジブチルスルファミン酸、N-メチル-N-エチルスルファミン酸、N-メチル-N-プロピルスルファミン酸等の2個のR基の両方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N-フェニルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数6~10のアリール基であるスルファミン酸化合物、またはこれらの塩等が挙げられる。スルファミン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等の他の金属塩、アンモニウム塩およびグアニジン塩等が挙げられる。スルファミン酸化合物およびこれらの塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルファミン酸化合物としては、環境負荷等の点から、スルファミン酸(アミド硫酸)を用いるのが好ましい。
【0047】
安定化次亜臭素酸組成物は、さらにアルカリを含んでもよい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ等が挙げられる。低温の製品安定性等の点から、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを併用してもよい。また、アルカリは、固形でなく、水溶液として用いてもよい。
【0048】
<逆透膜用洗浄剤>
本実施形態に係る逆浸透膜の洗浄方法および逆浸透膜の洗浄装置で用いられる逆透膜用洗浄剤は、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有し、さらにアルカリを含有してもよい。
【0049】
また、逆透膜用洗浄剤は、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜臭素酸組成物を含有し、さらにアルカリを含有してもよい。
【0050】
臭素系酸化剤、臭素化合物、塩素系酸化剤およびスルファミン酸化合物については、上述した通りである。
【0051】
本実施形態に係る安定化次亜臭素酸組成物としては、逆浸透膜をより劣化させないため、臭素と、スルファミン酸化合物とを含有するもの(臭素とスルファミン酸化合物の混合物を含有するもの)、例えば、臭素とスルファミン酸化合物とアルカリと水との混合物、または、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物を含有するもの、例えば、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物と、アルカリと、水との混合物が好ましい。
【0052】
本実施形態に係る安定化次亜臭素酸組成物、特に臭素とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物は、次亜塩素酸等の塩素系酸化剤と比較すると、良好な洗浄効果を有しながらも、次亜塩素酸等の塩素系酸化剤のような著しい逆浸透膜の膜劣化をほとんど引き起こすことがない。通常の使用濃度では、膜劣化への影響は実質的に無視することができる。このため、逆浸透膜の洗浄剤としては最適である。
【0053】
本実施形態に係る安定化次亜臭素酸組成物は、次亜塩素酸等と同様に現場で濃度を測定することができるため、より正確な濃度管理が可能である。
【0054】
安定化次亜臭素酸組成物のpHは、例えば、13.0超であり、13.2超であることがより好ましい。安定化次亜臭素酸組成物のpHが13.0以下であると安定化次亜臭素酸組成物中の有効ハロゲンが不安定になる場合がある。
【0055】
安定化次亜臭素酸組成物中の臭素酸濃度は、5mg/kg未満であることが好ましい。安定化次亜臭素酸組成物中の臭素酸濃度が5mg/kg以上であると、洗浄液の臭素酸イオン濃度が高くなる場合がある。
【0056】
<逆透膜用洗浄剤の製造方法>
本実施形態に係る逆浸透膜の洗浄方法および逆浸透膜の洗浄装置で用いられる逆透膜用洗浄剤は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを混合することにより得られ、さらにアルカリを混合してもよい。
【0057】
臭素とスルファミン酸化合物とを含む逆透膜用洗浄剤の製造方法としては、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程、または、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加する工程を含むことが好ましい。不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる、または、不活性ガス雰囲気下で添加することにより、安定化次亜臭素酸組成物中の臭素酸イオン濃度が低くなる。
【0058】
用いる不活性ガスとしては限定されないが、製造等の面から窒素およびアルゴンのうち少なくとも1つが好ましく、特に製造コスト等の面から窒素が好ましい。
【0059】
臭素の添加の際の反応器内の酸素濃度は6%以下が好ましいが、4%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。臭素の反応の際の反応器内の酸素濃度が6%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。
【0060】
臭素の添加率は、安定化次亜臭素酸組成物全体の量に対して25重量%以下であることが好ましく、1重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。臭素の添加率が安定化次亜臭素酸組成物全体の量に対して25重量%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。1重量%未満であると、洗浄力が劣る場合がある。
【0061】
臭素添加の際の反応温度は、0℃以上25℃以下の範囲に制御することが好ましいが、製造コスト等の面から、0℃以上15℃以下の範囲に制御することがより好ましい。臭素添加の際の反応温度が25℃を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合があり、0℃未満であると、凍結する場合がある。
【実施例0062】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
(1)安定化次亜臭素酸組成物の調製
窒素雰囲気下で、液体臭素:16.9重量%(wt%)、スルファミン酸:10.7重量%、水酸化ナトリウム:12.9重量%、水酸化カリウム:3.94重量%、水:残分を混合して、安定化次亜臭素酸組成物を調製した。安定化次亜臭素酸組成物のpHは14、全塩素濃度は7.5重量%であった。全塩素濃度は、HACH社の多項目水質分析計DR/4000を用いて、全塩素測定法(DPD(ジエチル-p-フェニレンジアミン)法)により測定した値(mg-Cl/L)である。安定化次亜臭素酸組成物の詳細な調製方法は以下の通りである。
【0064】
反応容器内の酸素濃度が1%に維持されるように、窒素ガスの流量をマスフローコントローラでコントロールしながら連続注入で封入した2Lの4つ口フラスコに1436gの水、361gの水酸化ナトリウムを加え混合し、次いで300gのスルファミン酸を加え混合した後、反応液の温度が0~15℃になるように冷却を維持しながら、473gの液体臭素を加え、さらに48%水酸化カリウム溶液230gを加え、組成物全体の量に対する重量比でスルファミン酸10.7%、臭素16.9%、臭素の当量に対するスルファミン酸の当量比が1.04である、目的の安定化次亜臭素酸組成物を得た。生じた溶液のpHは、ガラス電極法にて測定したところ、14であった。生じた溶液の臭素含有率は、臭素をヨウ化カリウムによりヨウ素に転換後、チオ硫酸ナトリウムを用いて酸化還元滴定する方法により測定したところ16.9%であり、理論含有率(16.9%)の100.0%であった。また、臭素反応の際の反応容器内の酸素濃度は、株式会社ジコー製の「酸素モニタJKO-02 LJDII」を用いて測定した。なお、臭素酸濃度は5mg/kg未満であった。
【0065】
なお、pHの測定は、以下の条件で行った。
電極タイプ:ガラス電極式
pH測定計:東亜ディーケーケー社製、IOL-30型
電極の校正:関東化学社製中性リン酸塩pH(6.86)標準液(第2種)、同社製ホウ酸塩pH(9.18)標準液(第2種)の2点校正で行った
測定温度:25℃
測定値:測定液に電極を浸漬し、安定後の値を測定値とし、3回測定の平均値
【0066】
(2)菌液の調製
菌株としてPseudomonas fluorescens(独立行政法人製品評価技術基盤機構)を用いた。この菌をTrypticase Soy Agar寒天培地(日本BD)に塗布し、培養後に、白金耳でコロニーを採取し、Soybean-Casein Digest Broth DAIGO(日本製薬株式会社)で調製した液体培地で培養した。
【0067】
(3)バイオフィルムの形成
96ウェル深型プレートに調製した菌液を750μLずつ添加し、その上からPCRプレート(96ウェル)のそれぞれの突起部分が深型プレート内の菌液に浸るように接触させ、上下をシールで固定した状態で振盪させながら30℃で18時間培養し、PCRプレートの突起表面にバイオフィルムを形成した。
【0068】
(4)洗浄性評価
新たな96ウェル深型プレートに所定pH、所定濃度の安定化次亜臭素酸組成物をそれぞれ750μL添加し、その上から突起表面にバイオフィルムを形成したPCRプレートを接触させ、上下をシールで固定した状態で振盪させながら25±5℃で3時間、付着したバイオフィルムを洗浄した。pHの調整は、水酸化ナトリウム溶液または塩酸を用いて行った。
【0069】
洗浄工程終了後は、そのPCRプレートの表面に付着した洗浄液を落とすためにリン酸緩衝液で洗浄した。次に新たな96ウェル深型プレートにクリスタルバイオレット染色液(関東化学)を900μL添加し、その上から洗浄したPCRプレートを5分間浸漬し、その後にPCRプレート表面のバイオフィルム以外に付着した染色液を純水で十分に洗い落とした。
【0070】
次に、新たな96ウェル深型プレートにエタノール(95%)を900μL添加し、その上から洗浄したPCRプレートを接触させ、振盪させながら5分間バイオフィルムに付着した染色液を抽出した。96ウェル深型プレートに抽出した染色液を200μLずつ、96ウェルマイクロプレート(Nunc(商標) Immuno TSP Lids/Thermo Fisher)に分注し、そのプレートをMultiskan Sky吸光マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher)にて波長595nmでの吸光度を測定した。
【0071】
<実施例1、比較例1>
実施例1として安定化次亜臭素酸組成物のpHが12、全塩素濃度がそれぞれ0,1,5,10,50,100mg-Cl/Lとなるように、実施例2では安定化次亜臭素酸組成物のpHが11、全塩素濃度がそれぞれ0,1,5,10,50,100mg-Cl/Lとなるように、比較例1ではpHが10、全塩素濃度がそれぞれ0,1,5,10,50,100mg-Cl/Lとなるように調整し、洗浄後に抽出した染色液の吸光度(波長595nm)をそれぞれ測定した。各測定の洗浄工程においてアルカリや薬剤ではなく、純水にのみ3時間接触した際の吸光度を100%として、それに対する他の濃度での吸光度の比率(%)、すなわち、バイオフィルムの残留率(%)の結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
このようにpH10においては、いずれの濃度でバイオフィルムを洗浄してもほとんど減少していないが、pH11,12では全塩素濃度が1mg-Cl/L以上でバイオフィルム洗浄性が向上していることがわかる。pH11,12では全塩素濃度が5mg-Cl/L以上で特にバイオフィルム洗浄性が向上していることがわかる。
【0074】
以上の通り、実施例の逆浸透膜の洗浄方法は、逆浸透膜の劣化を抑制しながらも逆浸透膜の洗浄性に優れることがわかった。
【符号の説明】
【0075】
1 水処理装置、10 逆浸透膜装置、12 洗浄液タンク、14,16 給水ポンプ、18,20,22,24,26,28 バルブ、30,32,34,36,38,40 配管、42 洗浄剤配管、44 アルカリ剤配管。
図1