IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図1
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図2
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図3
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図4
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図5
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図6
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図7
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図8A
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図8B
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図9A
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図9B
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図10
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図11
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図12
  • 特開-ヘッドアップディスプレイ 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108068
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20220715BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002885
(22)【出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴之
【テーマコード(参考)】
2H199
3D344
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA12
2H199DA13
2H199DA15
2H199DA26
2H199DA28
2H199DA35
2H199DA46
3D344AA21
3D344AB01
3D344AC25
(57)【要約】
【課題】表示像の表示位置を有意にずらすことなく、回折素子の状態変化に起因した回折効率の低下を低減する又は無くす。
【解決手段】レーザ光を出力するレーザ光源とレーザ光を回折する回折素子と、回折素子が回折した光の強度又は光量を検出する検出器と、レーザ光源の出力波長を制御する制御部と、を備え、制御部は、検出器が検出した強度又は光量に基づき、レーザ光源の出力波長を補正する、ヘッドアップディスプレイが開示される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力するレーザ光源と
前記レーザ光を回折する回折素子と、
前記回折素子が回折した光の強度又は光量を検出する検出器と、
前記レーザ光源の出力波長を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記検出器が検出した前記強度又は前記光量に基づき、前記レーザ光源の出力波長を補正する、ヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
前記回折素子は、
視認者に向けて前記レーザ光を回折する第1回折素子と、
前記検出器に向けて前記レーザ光を回折する第2回折素子と、を備える、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記第2回折素子は、2つの異なる回折素子を備え、
前記検出器は、前記2つの異なる回折素子にそれぞれ対応する2つの検出器を備える、請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項4】
前記第2回折素子は、Bragg条件の満たしやすさに関する感度について、前記第1回折素子よりも入射角度変化において鈍感である、請求項2又は3に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項5】
前記制御部は、前記レーザ光源の出力波長を所定変動範囲内で変動させながら、前記レーザ光源の出力波長を補正する補正処理を行う、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項6】
前記レーザ光源の出力波長の変動を、所定時間毎に実行する、請求項5に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項7】
前記制御部は、起動時に前記補正処理を実行し、
起動時の基準雰囲気温度を記憶する記憶部を有し、
前記制御部は、前記記憶部内の前記基準雰囲気温度から所定温度変化があった場合に、前記補正処理を再実行する、請求項5又は6に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項8】
前記制御部は、起動時に前記補正処理を実行し、
起動時の前記補正処理において前記検出器が検出した前記強度又は前記光量の最大値を記憶する記憶部を有し、
前記制御部は、前記記憶部内の前記最大値と現在の検出値との差分が閾値以上になった場合に、前記補正処理を再実行する、請求項5又は6に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項9】
前記レーザ光源は、出力波長がそれぞれ異なる複数の光源を有し、
前記補正処理は、前記複数の光源のうちの、出力波長が最も長い光源に対して実行される、請求項5又は6に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項10】
前記レーザ光源は、出力波長がそれぞれ異なる複数の光源を有し、
前記補正処理は、前記複数の光源のうちの、出力波長が最も長い光源に対しての基準補正値を算出し、前記基準補正値に基づいて前記複数の光源の出力波長を補正する、請求項5又は6に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項11】
前記レーザ光源は、出力波長がそれぞれ異なる複数の光源を有し、
前記補正処理は、前記複数の光源のそれぞれに対して順に実行される、請求項5又は6に記載のヘッドアップディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光源と、レーザ光を回折する回折素子とを備えるヘッドアップディスプレイにおいて、レーザ光の波長と回折素子の温度とに基づき、回折素子により回折されるレーザ光による表示像の表示位置を制御する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際特許公開WO2011/132407号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レーザ光の波長のシフトが生じても、Bragg条件を満たすようにレーザ光の入射角(回折素子に対する入射角)をずらせば、大きな回折効率を得ることができる。しかしながら、入射角がずれると、正規の表示位置に対する表示像の表示位置のずれ(画像シフト)が生じる。
【0005】
そこで、本開示は、表示像の表示位置を有意にずらすことなく、回折素子の状態変化に起因した回折効率の低下を低減する又は無くすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、レーザ光を出力するレーザ光源と
前記レーザ光を回折する回折素子と、
前記回折素子が回折した光の強度又は光量を検出する検出器と、
前記レーザ光源の出力波長を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記検出器が検出した前記強度又は前記光量に基づき、前記レーザ光源の出力波長を補正する、ヘッドアップディスプレイが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、表示像の表示位置を有意にずらすことなく、回折素子の状態変化に起因した回折効率の低下を低減する又は無くすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ヘッドアップディスプレイの車両への搭載状態を車両側方視で概略的に示す図である。
図2】画像光照射装置の構成を示す概略図である。
図3】ダイクロイックミラーユニットに対する代替例を示す説明図である。
図4】Bragg条件の説明図である。
図5】周辺温度の変化に対する画像シフト量の関係を示す説明図である。
図6】検出器及び補正用ホログラムの一例を示す概略的な断面図である。
図7】ホログラムや補正用ホログラムの特性を示す図である。
図8A】補正用ホログラムに係る干渉縞と、入射角度との関係の一例を示す図である。
図8B】ホログラムに係る干渉縞と、入射角度との関係の一例を示す図である。
図9A】ホログラムの正規の状態での回折特性を示す図である。
図9B】状態変化後のホログラムの回折特性を示す図である。
図10】出力波長制御部により実現されてよい補正処理の一例を示す概略的なフローチャートである。
図11図10のステップS106(補正処理の要否判定処理及び光源の出力波長に関する補正処理)の一例を示す概略的なフローチャートである。
図12図11のステップS210(最適値探索処理)の一例を示す概略的なフローチャートである。
図13】変形例による検出器及び補正用ホログラムの一例を示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。
【0010】
[ヘッドアップディスプレイの構成]
図1は、ヘッドアップディスプレイ1の車両VCへの搭載状態を車両側方視で概略的に示す図である。図2は、画像光照射装置2の構成を示す概略図である。なお、図2において、点線の矢印R0からR4は、電気信号の流れを模式的に示す。
【0011】
ヘッドアップディスプレイ1では、図1に示すように、ウインドシールドWSに表示光が照射されると、車両VCを運転する運転者にとっては、ウインドシールドWSよりも前方に、当該照射によって得られた表示像(虚像表示)VIが見える。これにより、運転者は、前方風景と重畳させて表示像VIを視認できる。従って、運転者は、インストルメントパネル9内のメータを見る場合に比べて視線移動の少ない態様で車両情報等を把握でき、利便性及び安全性が向上する。
【0012】
ヘッドアップディスプレイ1は、画像光照射装置2と、ホログラム3とを含む。
【0013】
画像光照射装置2は、運転者の前方に位置するウインドシールドWS上のホログラム3に向けて画像に係る光を投射する。ウインドシールドWS上のホログラム3は、運転者のアイボックス内に画像に係る光を反射する。この場合、アイボックスに係る視点から視て、運転者の視野前方に、画像に係る光に基づく表示像VIを形成する。
【0014】
本実施例では、一例として、画像光照射装置2は、図2に示すように、レーザユニット10と、ダイクロイックミラーユニット20と、集光レンズ28と、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)スキャナ29と、スクリーン40と、制御装置50とを含む。
【0015】
レーザユニット10は、赤、青、緑の各色のレーザ照射装置11、12、13を含む。レーザ照射装置11は、赤色の波長域のレーザ光を出射する。レーザ照射装置12は、青色の波長域のレーザ光を出射する。レーザ照射装置13は、緑色の波長域のレーザ光を出射する。なお、本実施例では、かかる3色のレーザ光を出射可能であるので、フルカラーの表示像VIを生成可能である。ただし、変形例では、表示可能な色のバリエーションは少なくてもよい。
【0016】
ダイクロイックミラーユニット20は、レーザ照射装置11、12、13のそれぞれに対応するダイクロイックミラー21、22、23を有する。ダイクロイックミラー21は、赤色の波長域のみを反射する。従って、ダイクロイックミラー21は、レーザ照射装置11から入射するレーザ光のみを、集光レンズ28に向けて反射できる。ダイクロイックミラー22は、赤色の波長域を透過し、青色の波長域を反射する。従って、ダイクロイックミラー22は、ダイクロイックミラー21から入射するレーザ光を透過しつつ、レーザ照射装置12から入射するレーザ光を、集光レンズ28に向けて反射できる。同様に、ダイクロイックミラー23は、赤色及び青色の波長域を透過し、緑色の波長域を反射する。従って、ダイクロイックミラー23は、ダイクロイックミラー22から入射するレーザ光を透過しつつ、レーザ照射装置13から入射するレーザ光を、集光レンズ28に向けて反射できる。
【0017】
集光レンズ28は、上述したようにダイクロイックミラーユニット20から入射するレーザ光(赤、青、緑の各色のレーザ光)を集光して、MEMSスキャナ29に向けて出射する。
【0018】
集光レンズ28は、ダイクロイックミラーユニット20から入射するレーザ光が、スクリーン40を形成する複数のマイクロレンズのそれぞれのサイズよりも小さいスポット径(直径)で、スクリーン40上に投射されるように構成・配置される。
【0019】
MEMSスキャナ29は、集光レンズ28から入射するレーザ光を、スクリーン40上に投射する。MEMSスキャナ29は、直交する2軸まわりに回転可能なMEMSミラーを備える。スクリーン40上のレーザ光の投射位置は、MEMSミラーの向きに応じて変化する。従って、MEMSスキャナ29は、スクリーン40上のレーザ光の投射位置を任意に変化させることができる。
【0020】
スクリーン40は、平面内に延在する。本実施例では、一例として、スクリーン40は、水平面内に延在するが、水平面に対して若干傾斜する向きで配置されてもよい。スクリーン40は、平面内で規則的に配列される複数のマイクロレンズ(図示せず)を含む。すなわち、スクリーン40は、2次元のマイクロレンズアレイを含む。
【0021】
制御装置50は、ECU(Electronic Control Unit)のようなコンピュータにより実現されてよい。制御装置50は、レーザ制御部51と、スキャナ制御部52と、出力波長制御部53(制御部の一例)、記憶部54とを含む。
【0022】
レーザ制御部51は、表示像VIを生成するための画像信号に基づいて、レーザユニット10を制御する(図2の矢印R1からR3参照)。なお、画像信号は、外部のECUにより生成されて、制御装置50に与えられてもよいし(図2の矢印R0参照)、制御装置50が自身で生成してもよい。
【0023】
画像信号は、例えば、所定のサイズ及び所定の分解能の画像の各画素の画素値(輝度や色)を表す信号である。なお、画像の各画素は、スクリーン40の各位置(走査面上の各位置)と対応付けられる。例えば、画像の各画素は、スクリーン40の各位置(走査面上の各位置)と一対一の関係で対応付けられてよい。なお、スクリーン40の各位置は、MEMSスキャナ29のMEMSミラーの各向きと対応付けられる。
【0024】
レーザ制御部51は、画像信号に基づいて、レーザユニット10を制御するときは、画像信号に含まれる各画素の画素値に基づいて、レーザユニット10から各画素に応じたタイミングで各画素値に応じた色のレーザ光が出射されるように、レーザユニット10を制御する。
【0025】
スキャナ制御部52は、MEMSスキャナ29を制御する(図2の矢印R4参照)。すなわち、スキャナ制御部52は、MEMSスキャナ29のMEMSミラーの向きを制御することで、レーザ光をスクリーン40上で走査する。ここで、「レーザ光をスクリーン40上で走査する」とは、スクリーン40に係る平面上のレーザ光の投射位置(スクリーン40に係る平面に垂直に視たときの、投射位置)を変化させることを指す。また、以下で「走査パターン」とは、投射位置の軌跡(スクリーン40に係る平面上での、レーザ光の投射位置の軌跡)を指す。また、スクリーン40に係る平面(すなわち、複数のマイクロレンズが配列される平面)を、「走査面」とも称する。
【0026】
具体的には、スキャナ制御部52は、レーザ制御部51と協動して、画像信号に応じたレーザ光を所定の走査パターンで走査する。すなわち、スキャナ制御部52は、画像信号に含まれる各画素の画素値に基づいて、各画素に対応した走査面上の各位置に、レーザユニット10からのレーザ光が投射されるように、MEMSスキャナ29を制御する。
【0027】
出力波長制御部53は、光源111、121、131の出力波長を制御する。出力波長制御部53については後述する。
【0028】
なお、図2に示した画像光照射装置2は、特定の構成を有するが、画像光照射装置2の構成は、複数の色のレーザ光に係る光源を有する限り、任意である。従って、画像光照射装置2は、ダイクロイックミラーユニット20に代えて、例えば図3に示すように、クロスプリズム20Aが利用されてもよい。なお、図3には、レーザ照射装置11、12、13は、それぞれ、光源111、121、131(レーザ光源の一例)とコリメータレンズ112、122、132とを含む態様で図示されている。また、図2に示した画像光照射装置2は、ウインドシールドWS上のホログラム3に光を直接的に投射するが、光学部材を介して投射されてもよい。例えば、スクリーン40からの光は、凹面鏡で反射されてからウインドシールドWS上のホログラム3に投射されてもよい。また、図2に示した画像光照射装置2は、ウインドシールドWS上のホログラム3だけに光を投射するが、ホログラム3とウインドシールドWSの双方に光を投射することで、表示像VIを形成してもよい。
【0029】
なお、以下では、一例として、光源111、121、131は、それぞれ、赤、緑、青の波長を有するレーザ光を出力する。以下では、光源111、121、131が本来出力すべきレーザ光の正規の波長を、基本波長λとも称し、光源111、121、131が実際に出力するレーザ光の波長を、出力波長とも称する。
【0030】
ホログラム3は、ウインドシールドWSに設けられる。ホログラム3は、ウインドシールドWSの室内側の表面に貼り付けられてもよいし、ウインドシールドWSの内層(例えば中間膜内)に設けられてもよい。
【0031】
ホログラム3は、例えば、フォトポリマーにより形成されてよい。ホログラム3のタイプは、反射型、位相変化型、かつ体積型である。ホログラム3は、厚さ数ミクロンのホログラムフィルムを利用して形成されてもよい。ホログラム3には、干渉縞が例えば屈折率の変化の形で記録される。すなわち、ホログラム3には、干渉縞が材料内部に屈折率分布として層状に記憶される。なお、本実施例では、3色のレーザ光に対応して、ホログラム3にはRGBの波長各々に係る干渉縞が記録される。この場合、RGBの波長各々に係る干渉縞ごとホログラム層を作成し、それぞれに係るホログラム層を積層することで積層型のホログラム3を形成してもよい。あるいは、RGBの干渉縞を重ねて記録する多重型のホログラム3が実現されてもよい。なお、このような干渉縞の記録(露光)には、任意のレーザ干渉露光装置が利用されてよい。
【0032】
ホログラム3は、好ましくは、透過率70%以上であり回折効率30%以下である。これにより、ウインドシールドWSの透過性を阻害しない態様で、視認性の高い表示像VIを生成できる。
【0033】
[Bragg条件とホログラム3の状態変化]
一般的に、図4に干渉縞31と入射光300と回折光301とを模式的に示すように、光の回折効率は、入射角度がブラッグ条件(Bragg条件)を満たす角度であるときに、ピークとなる。なお、図4には、ホログラム3の断面図が模式的に示されている。ブラッグ条件は、以下のとおりである。
2dsinθ=nλ 式(1)
ここで、dは干渉縞の間隔(以下、「干渉縞間隔d」とも称する)、θはホログラム3に対する光のなす角度(入射角度)、λは光の基本波長、nは自然数である。
【0034】
ホログラム3は、光源111、121、131のそれぞれに係る基本波長λに対して、Bragg条件が満たされるような干渉縞31を有するように設計される。
【0035】
ところで、ホログラム3は、上述したように、ウインドシールドWSに設けられるので、温度変化に晒されやすい。このため、ウインドシールドWSに設けられるホログラム3は、温度変化に起因した状態変化を起こす場合がある。なお、ホログラム3の状態変化は、ホログラム3を形成する媒体の膨張や収縮(温度変化による膨張や収縮)に起因して生じる。
【0036】
ホログラム3の状態変化が生じると、干渉縞間隔dの変化や干渉縞の傾きの変化が生じうるので、かかる変化に起因して、Bragg条件を満たす入射角度θが変化しうる。これに対して、入射角度θをずらせば、Bragg条件を満たし、大きな回折効率を得ることができる。しかしながら、入射角度θがずれると、表示像VIの表示位置のずれ(画像シフト)が生じる。
【0037】
例えば、図5には、横軸を周辺温度(符号500で示されるホログラム3の周辺温度T、及び、符号502で示される30℃を基準とした変化温度Δt)[℃]とし、縦軸を画像シフト量Δy[mm]としたときの特性L1、L2が示されている。特性L1は、青色の波長領域のレーザ光の特性を示し、特性L2は、赤色の波長領域のレーザ光の特性を示す。このような、周辺温度の変化に起因した画像シフトは、上述したような、周辺温度の変化に起因したホログラム3の状態変化によって生じる。なお、図5からは、赤色の波長領域のレーザ光の方が、青色の波長領域のレーザ光よりも、周辺温度の変化に対する画像シフトの感度が高いことがわかる。
【0038】
ここで、式(1)からわかるように、ホログラム3の状態変化により干渉縞間隔dが変化しても出力波長を基本波長λに対してずらせば、式(1)を満たし、大きな回折効率を得ることができる。
【0039】
そこで、本実施例によるヘッドアップディスプレイ1では、以下で詳説するように、光源111、121、131の出力波長を、それぞれ異なる正規の波長λに対して調整(補正)することで、ホログラム3の状態変化に起因した画像シフトを低減又は無くすことを可能とする。
【0040】
具体的には、本実施例によるヘッドアップディスプレイ1は、以下で詳説するように、ホログラム3が回折したレーザ光の強度を検出する検出器60と、光源111、121、131の出力波長を制御する出力波長制御部53とを備える。なお、本明細書の用語に関して、検出器60が検出するレーザ光の強度とは、検出器60が検出するレーザ光の光量と実質的に同義であり、互いに置き換えることができる。
【0041】
[検出器及び補正用ホログラム]
図6は、検出器60及び補正用ホログラム4の一例を示す概略的な断面図である。
【0042】
本実施例では、視認者(例えば運転者)に向けてレーザ光を回折するホログラム3(第1回折素子の一例)に加えて、補正用ホログラム4(第2回折素子の一例)が設けられる。補正用ホログラム4は、ホログラム3の近傍に配置されてよく、例えば、図6に概略的に示すように、ホログラム3の下縁に隣接する態様で設けられてもよい。補正用ホログラム4は、ホログラム3よりもサイズが小さくてよい。補正用ホログラム4には、図6に矢印R600で模式的に示すように、画像光照射装置2からレーザ光が入射される。
【0043】
補正用ホログラム4に入射されるレーザ光は、好ましくは、ホログラム3に入射されるレーザ光を生成する光学系(図2及び図3参照)により生成される。これにより、ホログラム3に入射されるレーザ光を生成する光学系を利用した効率的な構成を実現できる。
【0044】
補正用ホログラム4は、ホログラム3と同様、光源111、121、131のそれぞれに係る基本波長λに対して、Bragg条件が満たされるような干渉縞41を有するように設計される。
【0045】
本実施例では、画像光照射装置2の筐体(ケース)内に、検出器60が配置される。検出器60は、補正用ホログラム4が回折した光(図6に矢印R600Aで模式的に図示)が入射する位置に配置される。検出器60は、入射する光(補正用ホログラム4が回折した光)の強度を検出する。検出器60は、例えばフォトダイオード等により形成されてよい。
【0046】
図7は、ホログラム3や補正用ホログラム4の特性を示す図であり、縦軸を、ホログラム設計時の入射角度(すなわち露光時の露光用レーザ光の入射角度)θ[度]とし、横軸を、ホログラム3を形成する媒体が1%膨張したときに、Bragg条件を満たすために必要な入射角度のずれ角Δθ[度]としたときの、両者の関係を示す。
【0047】
図7からわかるように、ホログラム設計時の入射角度が比較的小さい場合(例えば10度以下である場合)、Bragg条件を満たすために必要な入射角度のずれ角は、比較的大きくなる。特に、ホログラム設計時の入射角度が5度以下である場合は、ホログラム設計時の入射角度の変化に対する、Bragg条件を満たすために必要な入射角度のずれ角の変化量(すなわち勾配)は、比較的大きくなる。他方、ホログラム設計時の入射角度が比較的大きい場合、Bragg条件を満たすために必要な入射角度のずれ角は、比較的小さくなる。
【0048】
このことから、ホログラムの設計時の入射角度が比較的小さい場合は、当該ホログラムの状態変化が生じると、比較的大きく入射角度θをずらさないと、Bragg条件を満たすことができない。すなわち、ホログラムの設計時の入射角度が比較的小さい場合は、Bragg条件の満たしやすさに関する感度について、入射角度変化(及び干渉縞の傾き変化)に対して鈍感である。
【0049】
他方、ホログラムの設計時の入射角度が比較的大きい場合は、当該ホログラムの状態変化が生じると、わずかな入射角度θのずれによっても、Bragg条件を満たすことになる。すなわち、ホログラムの設計時の入射角度が比較的大きい場合は、Bragg条件の満たしやすさに関する感度について、入射角度変化(及び干渉縞の傾き変化)に対して敏感である。
【0050】
このような特性を考慮して、本実施例では、図8A及び図8Bに模式的に対比して示すように、補正用ホログラム4は、好ましくは、Bragg条件の満たしやすさに関する感度について、ホログラム3よりも入射角度変化において鈍感となるように設計される。具体的には、図8Aには、補正用ホログラム4に係る干渉縞41と、入射角度θとの関係の一例が示され、図8Bには、ホログラム3に係る干渉縞31と、入射角度θとの関係の一例が示されている。なお、図8Aには、Q1部の拡大図が併せて示されている。いずれの場合も、ウインドシールドWSに対する入射光の入射角は同じであるが、干渉縞41及び干渉縞31を基準とした入射角度θが異なる。この場合、補正用ホログラム4の入射角度θ(4)は、ホログラム3の入射角度θ(3)に対して有意に小さい。
【0051】
これにより、補正用ホログラム4について、補正用ホログラム4の状態変化が生じた場合に、検出器60に向かう回折光の強度を、より敏感に変化させることができる。検出器60に向かう回折光の強度を、より敏感に変化できると、後述するように、検出器60で検出される強度に基づいて、補正用ホログラム4の有意な状態変化(及びホログラム3の有意な状態変化)の有無を、精度良く検出できるとともに、光源111、121、131の出力波長について、適切な調整量(補正量)を算出しやすくなる。この結果、ホログラム3については、補正用ホログラム4と同様のホログラム3の状態変化が生じた場合に、後述するように出力波長制御部53により、光源111、121、131の出力波長を適切に調整(補正)できる。
【0052】
[出力波長制御部53]
本実施例では、制御装置50は、以下で説明する出力波長制御部53の機能を実現する。なお、出力波長制御部53は、制御装置50とは別のコンピュータにより実現されてもよい。以下では、主に、光源111、121、131の出力波長のうちの、代表として、一の光源の出力波長に関する制御を説明する。以下、光源111、121、131について、特に区別しない一の光源については、単に「一の光源」と称する。
【0053】
図9Aは、横軸を波長ずれとし、縦軸を回折効率としたときの、ホログラム3の正規の状態での回折特性を示し、図9Bは、横軸を、基本波長λに対する出力波長のずれ量Δλ[nm]とし、縦軸を回折効率η[%]としたときの、状態変化後のホログラム3の回折特性(ホログラム3を形成する媒体が1%膨張したときの回折特性)を示す。
【0054】
出力波長制御部53は、検出器60が検出した光(補正用ホログラム4が回折した一の光源からのレーザ光)の強度に基づき、一の光源の出力波長を補正する。
【0055】
例えば、一の光源の出力波長について、図9A及び図9Bのような特性である場合、出力波長制御部53は、一の光源に係る基本波長λに対してプラス方向に4~7[nm]だけずれた出力波長となるように、一の光源の出力波長を補正する。これにより、ホログラム3の状態変化に起因して図9Aから図9Bのような特性変化が生じた場合でも、高い回折効率を維持でき、かつ、画像シフト量を低減できる。
【0056】
この場合、出力波長制御部53は、最も高い回折効率が得られるような補正を実現してもよい。例えば、図9Bのような特性である場合、出力波長制御部53は、最も高い回折効率が得られるずれ量を算出(探索)し、当該ずれ量だけ出力波長を補正する。これにより、回折効率を最大化しつつ、画像シフト量を低減できる。
【0057】
図10は、出力波長制御部53により実現されてよい補正処理の一例を示す概略的なフローチャートである。図10に示す補正処理は、例えば所定周期(所定時間)ごとに繰り返し実行されてよい。
【0058】
ステップS90では、出力波長制御部53は、ヘッドアップディスプレイ1が起動した直後(起動後の初回の処理周期)であるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS92に進み、それ以外の場合(すなわち起動済みの場合)は、ステップS100に進む。
【0059】
ステップS92では、出力波長制御部53は、基準雰囲気温度として、ヘッドアップディスプレイ1が起動した際の周囲温度を記憶部54(図2参照)に記憶する。なお、ヘッドアップディスプレイ1が起動した際の周囲温度は、例えば外気温センサや内気温センサの検出温度であってもよいし、外部の気象情報に基づく温度であってもよい。
【0060】
ステップS100では、出力波長制御部53は、ステータスが“0”であるか否かを判定する。ステータスは、0~3の値のいずれかを持ち、ステータス=0は初期状態又は待機状態を表し、ステータス=1は、補正処理の要否判定処理中の状態又は光源111の出力波長に関する補正処理中の状態を表し、ステータス=2は、光源121の出力波長に関する補正処理中の状態を表し、ステータス=3は、光源131の出力波長に関する補正処理中の状態を表す。判定結果が“YES”の場合、ステップS102に進み、それ以外の場合は、ステップS108に進む。
【0061】
ステップS102では、出力波長制御部53は、補正処理の要否判定処理の実行条件が成立したか否かを判定する。補正処理の要否判定処理の実行条件は、任意であるが、例えば、以下の条件要素のいずれか1つのみを含んでもよいし、いずれか2つをOR条件として含んでもよいし、他の条件要素が付加されてもよい。
【0062】
(条件要素1)ヘッドアップディスプレイ1が起動した直後である。
【0063】
(条件要素2)基準雰囲気温度から所定温度変化があった。
【0064】
(条件要素3)前回の補正処理から一定時間が経過した。
なお、(条件要素2)に関して、所定温度変化は、基準雰囲気温度(ステップS92参照)に対する所定閾値以上の変化であってよい。所定閾値は、例えばホログラム3の有意な状態変化が生じる温度変化の最小値に対応してよく、試験等で適合されてよい。判定結果が“YES”の場合、ステップS104に進み、それ以外の場合は、今回周期の処理は終了する(すなわち、補正処理の要否判定処理の実行条件の成立待ち状態となる)。
【0065】
ステップS104では、出力波長制御部53は、サブステータスを“1”にセット又は維持する。サブステータスは、1~4の値のいずれかを持ち、サブステータス=1は初期状態を表し、サブステータス=2~4については、最適値(最も高い回折効率が得られる波長のずれ量)の探索中の各種状態を表し、後述する。
【0066】
ステップS106では、出力波長制御部53は、補正処理の要否判定処理及び光源111の出力波長に関する補正処理(図10では、単に「Rに係る補正処理」と表記)を実行する。ステップS106の詳細例は、図11以降を参照して後述する。
【0067】
ステップS108では、出力波長制御部53は、ステータスが“1”であるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS106に進み、それ以外の場合は、ステップS110に進む。
【0068】
ステップS110では、出力波長制御部53は、ステータスが“2”であるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS112に進み、それ以外の場合(すなわちステータスが“3”である場合)は、ステップS114に進む。
【0069】
ステップS112では、出力波長制御部53は、光源121の出力波長に関する補正処理(図10では、単に「Gに係る補正処理」と表記)を実行する。ステップS112の詳細例は、図11以降を参照して後述するステップS106の詳細例と類似し、それとの相違については後述する。
【0070】
ステップS114では、出力波長制御部53は、光源131の出力波長に関する補正処理(図10では、単に「Bに係る補正処理」と表記)を実行する。ステップS114の詳細例は、図11以降を参照して後述するステップS106の詳細例と類似し、それとの相違については後述する。
【0071】
ステップS116では、出力波長制御部53は、光源131の出力波長に関する補正処理が完了したか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS118に進み、それ以外の場合は、今回周期の処理は終了する(すなわち、光源131の出力波長に関する補正処理の完了待ち状態となる)。
【0072】
ステップS118では、出力波長制御部53は、今回の補正処理において検出器60が検出した強度の最大値を記憶部54(図2参照)に記憶する。
【0073】
ステップS120では、出力波長制御部53は、ステータスを“0”にリセットする。
【0074】
図11は、図10のステップS106(補正処理の要否判定処理及び光源111の出力波長に関する補正処理)の一例を示す概略的なフローチャートである。
【0075】
ステップS200では、出力波長制御部53は、サブステータスが“1”であるか否かを判定する。上述したように、サブステータス=1は初期状態を表し、サブステータス=2~4については、最適値(最も高い回折効率が得られる波長のずれ量)の探索中の各種状態を表し、後述する。判定結果が“YES”の場合、ステップS202に進み、それ以外の場合(すなわちサブステータス=2~4である場合)は、ステップS210に進む。
【0076】
ステップS202では、出力波長制御部53は、光源111、121、131のうちの、光源111のみを駆動する。光源111の駆動状態は、ステータスが“1”である間だけ維持される。なお、ステータスが“1”である間の光源111の駆動状態において、光源111からレーザ光は、ホログラム3及び補正用ホログラム4のうちの、補正用ホログラム4のみに入射されてよい。
【0077】
ステップS204では、出力波長制御部53は、検出器60による検出結果に基づいて、ホログラム3で回折したレーザ光の強度(検出強度)を算出する。なお、レーザ光の強度は、所定数の周期にわたって得られる検出器60による検出結果に基づいて、算出されてよい。この場合、所定数の周期が経過するまでは、所定の検出中フラグ(図示せず)をセットし、当該検出中フラグがセットされている間は、ステップS202及びステップS204だけが繰り返し実行されてよい。この場合、所定数の周期が経過するまでは、ステップS204は、検出器60による検出結果を記憶部54(図2参照)に記憶するだけの処理であってよく、所定数の周期が経過した際に、出力波長制御部53は、所定数の周期にわたって得られる検出器60による検出結果に基づいて、ホログラム3で回折したレーザ光の強度(検出強度)を算出する。
【0078】
ステップS206では、出力波長制御部53は、ステップS204で得た強度に基づいて、補正処理の実行条件により補正処理の要否を判定する。補正処理の実行条件は、例えば、以下の条件要素のいずれか1つのみを含んでもよいし、2つをOR条件又はAND条件として含んでもよいし、他の条件要素が付加されてもよい。
【0079】
(条件要素11)ステップS204で得た強度が所定強度以下である。
【0080】
(条件要素12)ステップS118で記憶されている強度の最大値から、ステップS204で得た強度を差分した値が、閾値以上である。
なお、(条件要素11)に関して、所定強度は、例えば、ホログラム3が正規の状態であるときの補正用ホログラム4の最大強度に対して所定割合(例えば74%程度)の値であってもよい。例えば最大強度に対して74%程度の値は、画像シフトが視認者に認識されてしまうときの値に略対応するが、適宜、変更されてもよい。(条件要素12)に関して、閾値は、任意であるが、例えば、ステップS118で記憶されている強度の最大値の26%程度であってよい。
【0081】
ステップS208では、出力波長制御部53は、ステータスを“1”にセットし、かつ、サブステータスを“2”にセットする。サブステータス=2は、光源111の出力波長を初期的にプラス方向にずらしたときの強度の変化方向を検出するための状態に対応する。
【0082】
ステップS210では、出力波長制御部53は、最適値探索処理を実行する。最適値探索処理の一例は、図12を参照して後述する。
【0083】
図12は、図11のステップS210(最適値探索処理)の一例を示す概略的なフローチャートである。
【0084】
ステップS300では、出力波長制御部53は、サブステータスが“2”であるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS302に進み、それ以外の場合は、ステップS312に進む。
【0085】
ステップS302では、出力波長制御部53は、光源111の出力波長を、ステップS202での光源111の出力波長λに対してプラス方向に所定量αだけずらす。所定量αは、任意であるが、例えば1nm程度であってよい。なお、光源111の出力波長の変化は、光源111の温度を調整することで実現されてもよい。例えば、光源111に対して冷却手段(例えばペルチェ素子)が設けられる場合、冷却手段の冷却能力を調整することで、光源111の温度を調整してもよい。
【0086】
また、光源111がレーザ光源に代えて、LED(Light Emitting Diode)光源である場合、バンドパスフィルタを利用して光源111の出力波長の変化を実現してもよい。これは、他の光源121、131についても同様である。
【0087】
ステップS304では、出力波長制御部53は、検出器60による検出結果に基づいて、ホログラム3で回折したレーザ光の強度を算出する。なお、レーザ光の強度は、所定数の周期にわたって得られる検出器60による検出結果に基づいて、算出されてよい。この場合、ステップS302で光源111の出力波長がずらされてから所定数の周期が経過するまでは、所定の検出中フラグ(図示せず)をセットし、当該検出中フラグがセットされている間は、ステップS304として、検出器60による検出結果を記憶する処理だけが実行されてよい。そして、ステップS302で光源111の出力波長がずらされてから所定数の周期が経過すると、出力波長制御部53は、検出器60による所定数の周期分の検出結果に基づいて、ホログラム3で回折したレーザ光の強度を算出する。
【0088】
ステップS306では、出力波長制御部53は、ステップS304で得られた強度が前回値(すなわち、ステップS204で得た強度)に対して増加しているか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS308に進み、それ以外の場合は、ステップS310に進む。
【0089】
ステップS308では、出力波長制御部53は、サブステータスを“3”にセットする。サブステータス=3は、光源111の出力波長をプラス方向にずらしながら最適値を探索している状態に対応する。
【0090】
ステップS310では、出力波長制御部53は、サブステータスを“4”にセットする。サブステータス=4は、光源111の出力波長をマイナス方向にずらしながら最適値を探索している状態に対応する。
【0091】
ステップS312では、出力波長制御部53は、サブステータスが“3”であるか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、ステップS314に進み、それ以外の場合(すなわちサブステータスが“4”である場合)は、ステップS322に進む。
【0092】
ステップS314では、出力波長制御部53は、光源111の出力波長を、現在値からプラス方向に所定量αだけずらす。所定量αは、ステップS302と同じであってよい。
【0093】
ステップS315では、出力波長制御部53は、検出器60による検出結果に基づいて、ホログラム3で回折したレーザ光の強度を算出する。なお、レーザ光の強度は、所定数の周期にわたって得られる検出器60による検出結果に基づいて、算出されてよい。この場合、ステップS314で光源111の出力波長がずらされてから所定数の周期が経過するまでは、所定の検出中フラグ(図示せず)をセットし、当該検出中フラグがセットされている間は、ステップS315として、検出器60による検出結果を記憶する処理だけが実行されてよい。そして、ステップS314で光源111の出力波長がずらされてから所定数の周期が経過すると、出力波長制御部53は、検出器60による所定数の周期分の検出結果に基づいて、ホログラム3で回折したレーザ光の強度を算出する。
【0094】
ステップS316では、出力波長制御部53は、ステップS315で得られた強度が前回値(すなわち、直近のステップS314で光源111の出力波長をずらす前に得た強度)に対して増加しているか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、今回周期の処理は終了し、それ以外の場合は、ステップS318に進む。
【0095】
ステップS318では、出力波長制御部53は、光源111の今回の出力波長を、最適値として、光源111に係る補正処理を終了する。この場合、以後の光源111の出力波長は、次の補正処理が実行されるまで、現在の状態(すなわち直近のステップS314でずらした状態)で維持される。なお、変形例では、光源111の前回の出力波長を、最適値としてもよいし、光源111の今回の出力波長と前回の出力波長の間の波長を、最適値としてもよい。
【0096】
ステップS320では、出力波長制御部53は、ステータスを“2”にセットし、かつ、サブステータスを“1”にセットする。
【0097】
ステップS322では、出力波長制御部53は、光源111の出力波長を、現在値からマイナス方向に所定量αだけずらす。所定量αは、ステップS302と同じであってよい。ただし、サブステータスが“4”になった直後の周期では、出力波長制御部53は、光源111の出力波長を、初期の出力波長(ステップS202での光源111の出力波長)から、マイナス方向に所定量αだけずらしてもよい。
【0098】
ステップS323では、出力波長制御部53は、検出器60による検出結果に基づいて、ホログラム3で回折したレーザ光の強度を算出する。なお、レーザ光の強度は、所定数の周期にわたって得られる検出器60による検出結果に基づいて、算出されてよい。この場合、ステップS322で光源111の出力波長がずらされてから所定数の周期が経過するまでは、所定の検出中フラグ(図示せず)をセットし、当該検出中フラグがセットされている間は、ステップS323として、検出器60による検出結果を記憶する処理だけが実行されてよい。そして、ステップS322で光源111の出力波長がずらされてから所定数の周期が経過すると、出力波長制御部53は、検出器60による所定数の周期分の検出結果に基づいて、ホログラム3で回折したレーザ光の強度を算出する。
【0099】
ステップS324では、出力波長制御部53は、ステップS323で得られた強度が前回値(すなわち、直近のステップS322で光源111の出力波長をずらす前に得た強度)に対して増加しているか否かを判定する。判定結果が“YES”の場合、今回周期の処理は終了し、それ以外の場合は、ステップS326に進む。
【0100】
ステップS326では、出力波長制御部53は、光源111の今回の出力波長を、最適値として、光源111に係る補正処理を終了する。この場合、以後の光源111の出力波長は、次の補正処理が実行されるまで、現在の状態(すなわち直近のステップS322でずらした状態)で維持される。なお、変形例では、光源111の前回の出力波長を、最適値としてもよいし、光源111の今回の出力波長と前回の出力波長の間の波長を、最適値としてもよい。
【0101】
ステップS328では、出力波長制御部53は、ステータスを“2”にセットし、かつ、サブステータスを“1”にセットする。
【0102】
このようにして図12の処理が、ステップS320又はステップS328を経て終了すると、ステータスが“2”となることによって、次の処理周期から、ステップS112(図10)が実行される。
【0103】
なお、ステップS112の光源121の出力波長に関する補正処理は、補正対象の光源が光源111から光源121に変化することによる相違以外は、実質的に同じであってもよい。あるいは、補正用ホログラム4の状態変化は実質的に同じであることから、同じずれ量(出力波長のずれ量)がそのまま利用されてもよい。このようにして光源121の出力波長に関する補正処理が、図12に示したステップS320又はステップS328に対応する処理を経て終了すると、ステータスが“3”となることによって、次の処理周期から、ステップS114(図10)が実行される。ステップS114の光源131の出力波長に関する補正処理は、補正対象の光源が光源111から光源131に変化することによる相違以外は、実質的に同じであってもよい。あるいは、補正用ホログラム4の状態変化は実質的に同じであることから、同じずれ量(出力波長のずれ量)がそのまま利用されてもよい。このようにして、光源111の出力波長に関する補正処理により得られた最適なずれ量(最適値)を基準補正値として、他の光源121、131に係る補正処理にそのまま利用する方法によれば、補正処理全体の負荷を低減でき、効率的な補正処理を実現できる。
【0104】
このようにして、図10から図12に示した補正処理によれば、光源111の出力波長を所定変動範囲内(±所定量α)で変動させながら、光源111の出力波長を適切に補正できる。これにより、周囲温度の変化に起因してホログラム3の有意な状態変化が生じた場合でも、高い回折効率を維持でき、かつ、画像シフト量を低減できる。
【0105】
また、図10から図12に示した補正処理によれば、複数の光源111、121、131のうち最も長い波長の光源111から順に補正処理が実行される。ここで、図5に示したように、画像シフト量は、長い波長の光源111の方が大きくなりやすい。換言すると、検出器60で検出される強度に関して、光源111に係る強度が、他の光源121、131に係る強度よりも、ホログラム3の状態変化に起因した変化量が大きくなる。従って、光源111に係る強度に基づいて、最適なずれ量(最適値)を探索することで、精度の高い最適値を得ることができる。このような、効果は、光源111の出力波長に関する補正処理により得られた最適なずれ量(最適値)を基準補正値として、他の光源121、131に係る補正処理にそのまま利用する場合に、特に顕著となる。
【0106】
[変形例]
上述した実施例では、補正用ホログラム4は、1つだけあったが、2つ以上設けられてもよい。例えば、図13に概略的に示す変形例では、2組の補正用ホログラム4A、4B及び検出器6A、6Bが設けられている。なお、2組の補正用ホログラム4A、4Bは、ウインドシールドWSに対して互いに隣り合う関係で設けられてもよい。また、検出器6A、6Bは、画像光照射装置2Aの筐体内に設けられてもよい。検出器6Aは、補正用ホログラム4Aからの回折光(図13に矢印R601Aで模式的に図示)を受光するように設けられ、検出器6Bは、補正用ホログラム4Bからの回折光(図13に矢印R602Aで模式的に図示)を受光するように設けられる。なお、補正用ホログラム4A、4Bには、図13に矢印R601、R602で模式的に示すように、画像光照射装置2Aからレーザ光が入射される。
【0107】
この場合、補正用ホログラム4A、4Bは、互いに異なる構成であってよい。例えば、補正用ホログラム4Aは、ホログラム3の干渉縞間隔dに対して、1%だけ小さい干渉縞間隔dを有し、補正用ホログラム4Bは、ホログラム3の干渉縞間隔dに対して、1%だけ大きい干渉縞間隔dを有してよい。この場合、補正処理は、検出器6Aで検出される強度と、検出器6Bで検出される強度との差を算出し、差が負のときは、一の光源(例えば光源111)の出力波長を所定量αだけマイナス方向にずらし、差が正のときは、一の光源(例えば光源111)の出力波長を所定量αだけプラス方向にずらすことで、実現されてよい。
【0108】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0109】
例えば、上述した実施例では、表示スクリーンとして、スクリーン40を例示したが、レーザ光をバックライトとして画像を形成する液晶パネルのような、他の表示パネル(他のスクリーン)が用いられてもよい。また、MEMS技術によるマイクロミラーデバイスを用いるMEMS方式の他、反射型液晶パネルを用いるLCOS(Liquid crystal on silicon)方式、デジタルマイクロミラーデバイスを用いるDMD(Digital Micromirror Device)方式などを用いてもよい。また、上述したように、レーザ光以外の光を発生する光源、例えばLED光源が利用されてもよい。LED光源が利用される場合、LED光を平行光にするレンズ(コンデンサレンズ)が併せて利用されてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1 ヘッドアップディスプレイ
2 画像光照射装置
3 ホログラム
4、4A、4B 補正用ホログラム
9 インストルメントパネル
10 レーザユニット
11 レーザ照射装置
12 レーザ照射装置
13 レーザ照射装置
20 ダイクロイックミラーユニット
20A クロスプリズム
21 ダイクロイックミラー
22 ダイクロイックミラー
23 ダイクロイックミラー
28 集光レンズ
29 MEMSスキャナ
40 スクリーン
50 制御装置
51 レーザ制御部
52 スキャナ制御部
53 出力波長制御部
60、6A、6B 検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13