(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108079
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】生体情報処理装置、生体情報処理方法、プログラム及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20220715BHJP
【FI】
A61B5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002909
(22)【出願日】2021-01-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年3月30日、令和元年度 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標作成事業 麻酔支援装置分野 審査WG報告書、12頁、インターネット<ULR: http://dmd.nihs.go.jp/jisedai/masui/index.html>
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医療機器開発推進研究事業 研究課題名:「ロボット麻酔システムの開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 佳範
(72)【発明者】
【氏名】長田 理
【テーマコード(参考)】
4C117
【Fターム(参考)】
4C117XA04
4C117XB01
4C117XD03
4C117XE13
4C117XE14
4C117XE15
4C117XE17
4C117XE18
4C117XH16
4C117XJ13
(57)【要約】
【課題】麻酔管理の巧拙を客観的に数値化及び可視化することができる生体情報処理装置及び生体情報処理方法を提供する。
【解決手段】生体情報処理装置は、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備える。前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサによって実行されると、生体情報処理装置は、麻酔が投与された被検者の生体情報データを取得し、前記生体情報データに基づいて、前記被検者に対して麻酔管理が適切に行われた時間である適切管理時間および前記麻酔管理が適切に行われなかった時間である不適切管理時間のうちの少なくとも一つを特定し、前記不適切管理時間及び前記適切管理時間のうちの前記少なくとも一つと前記被検者の手術時間とに基づいて、前記麻酔管理に対する評価指標である麻酔管理評価指標を算出し、前記算出された前記麻酔管理評価指標を出力する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサと、
コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備えた生体情報処理装置であって、
前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサによって実行されると、前記生体情報処理装置は、
麻酔が投与された被検者の生体情報データを取得し、
前記生体情報データに基づいて、前記被検者に対して麻酔管理が適切に行われた時間である適切管理時間および前記麻酔管理が適切に行われなかった時間である不適切管理時間のうちの少なくとも一つを特定し、
前記不適切管理時間及び前記適切管理時間のうちの前記少なくとも一つと前記被検者の手術時間とに基づいて、前記麻酔管理に対する評価指標である麻酔管理評価指標を算出し、
前記算出された前記麻酔管理評価指標を出力する、
生体情報処理装置。
【請求項2】
前記生体情報処理装置は、前記手術時間に対する前記適切管理時間の比率を前記麻酔管理評価指標として算出する、
請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記生体情報処理装置は、
前記生体情報データが第1条件を満たす場合に、前記第1条件を満たす生体情報データが取得された時間を除外時間としてカウントし、
前記手術時間から前記除外時間を控除した時間に対する前記適切管理時間の比率を前記麻酔管理評価指標として算出する、
請求項1又は2に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
前記生体情報データは、前記被検者の脳波データを含み、
前記麻酔管理は、前記被検者の鎮静管理を含み、
前記麻酔管理評価指標は、前記鎮静管理に対する評価指標である鎮静管理評価指標を含む、
請求項1から3のうちいずれか一項に記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
前記生体情報装置は、
前記脳波データから前記被検者の鎮静効果を示すBIS値を特定し、
前記BIS値が第2条件を満たす場合に、前記第2条件を満たすBIS値が取得された時間を前記適切管理時間としてカウントし、
前記BIS値が前記第2条件を満たさない場合に、前記第2条件を満たさないBIS値が取得された時間を前記不適切管理時間としてカウントし、
前記適切管理時間と前記手術時間とに基づいて、前記鎮静管理評価指標を算出する、
請求項4に記載の生体情報処理装置。
【請求項6】
前記生体情報データは、前記被検者の刺激反応を示す刺激反応データを含み、
前記麻酔管理は、前記被検者の筋弛緩管理を含み、
前記麻酔管理評価指標は、前記被検者の筋弛緩管理に対する評価指標である筋弛緩管理評価指標を含む、
請求項1から3のうちいずれか一項に記載の生体情報処理装置。
【請求項7】
前記生体情報処理装置は、
前記刺激反応データが第3条件を満たす場合に、前記第3条件を満たす刺激反応データが取得された時間を前記適切管理時間としてカウントし、
前記刺激反応データが前記第3条件を満たさない場合に、前記第3条件を満たさない刺激反応データが取得された時間を前記不適切管理時間としてカウントし、
前記適切管理時間と前記不適切管理時間とに基づいて、前記筋弛緩管理評価指標を算出する、
請求項6に記載の生体情報処理装置。
【請求項8】
前記生体情報データは、前記被検者の疼痛反応を示す疼痛反応データを含み、
前記麻酔管理は、前記被検者の鎮痛管理を含み、
前記麻酔管理評価指標は、前記鎮痛管理に対する評価指標である鎮痛管理評価指標を含む、
請求項1から3のうちいずれか一項に記載の生体情報処理装置。
【請求項9】
前記生体情報処理装置は、
前記疼痛反応データの波形の極大値に対応する第1時刻を特定し、
前記波形の立ち上がり点に対応する第2時刻を特定し、
前記第1時刻と第2時刻とに基づいて、前記不適切管理時間を特定し、
前記不適切管理時間と前記手術時間に基づいて、前記適切管理時間を特定し、
前記適切管理時間と前記手術時間とに基づいて、前記鎮痛管理評価指標を算出する、
請求項8に記載の生体情報処理装置。
【請求項10】
前記立ち上がり点は、前記第2時刻よりも前の時間帯における前記疼痛反応データの平均値を示すベースラインから所定の割合だけ上昇した点である、
請求項9に記載の生体情報処理装置。
【請求項11】
前記疼痛反応データは、前記被検者の血圧の時間変化を示す血圧データ及び前記被検者の心拍数の時間変化を示す心拍数データのうちの少なくとも一つを含む、
請求項8から10のうちいずれか一項に記載の生体情報処理装置。
【請求項12】
前記生体情報処理装置は、
前記血圧データ及び前記心拍数データを取得し、
前記血圧データに関連付けられた不適切管理時間を特定すると共に、前記心拍数データに関連付けられた不適切管理時間を特定し、
前記血圧データに関連付けられた不適切管理時間と、前記心拍数データに関連付けられた不適切時間と、前記手術時間とに基づいて、前記適切管理時間を特定する、
請求項11に記載の生体情報処理装置。
【請求項13】
プロセッサと、
コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備えた生体情報処理装置であって、
前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサによって実行されると、前記生体情報処理装置は、
麻酔が投与された被検者の脳波データを取得し、
前記脳波データに基づいて、前記被検者に対して鎮静管理が適切に行われた時間である第1適切管理時間および前記鎮静管理が適切に行われなかった時間である第1不適切管理時間を特定し、
前記被検者の疼痛反応を示す疼痛反応データを取得し、
前記疼痛反応データに基づいて、前記被検者に対して鎮痛管理が適切に行われた時間である第2適切管理時間および前記鎮痛管理が適切に行われなかった時間である第2不適切管理時間を特定し、
前記被検者の刺激反応を示す刺激反応データを取得し、
前記刺激反応データに基づいて、前記被検者に対して筋弛緩管理が適切に行われた時間である第3適切管理時間および前記筋弛緩管理が適切に行われなかった時間である第3不適切管理時間を特定し、
前記第1から第3不適切管理時間と、前記被検者の手術時間とに基づいて、前記被検者の麻酔管理に対する総合的な評価指標である総合的麻酔管理評価指標を算出し、
前記算出された前記麻酔管理評価指標を出力する、
生体情報処理装置。
【請求項14】
前記生体情報処理装置は、
前記第1から第3不適切管理時間と、前記手術時間とに基づいて、前記被検者の麻酔管理が総合的に適切に行われた時間である総合的適切管理時間を特定し、
前記手術時間に対する前記総合的適切管理時間の比率を前記総合的麻酔管理評価指標として算出する、
請求項13に記載の生体情報処理装置。
【請求項15】
前記生体情報処理装置は、
前記脳波データが第1条件を満たす場合に、前記第1条件を満たす脳波データが取得された時間を第1除外時間としてカウントし、
前記疼痛反応データが第2条件を満たす場合に、前記第2条件を満たす疼痛反応データが取得された時間を第2除外時間としてカウントし、
前記刺激反応データが第3条件を満たす場合に、前記第3条件を満たす刺激反応データが取得された時間を第3除外時間としてカウントし、
前記第1から第3不適切管理時間と、前記第1から第3除外時間と、前記手術時間とに基づいて、前記総合的適切管理時間を特定する、
請求項14に記載の生体情報処理装置。
【請求項16】
コンピュータによって実行される生体情報処理方法であって、
麻酔が投与された被検者の生体情報データを取得するステップと、
前記生体情報データに基づいて、前記被検者に対して麻酔管理が適切に行われた時間である適切管理時間および前記麻酔管理が適切に行われなかった時間である不適切管理時間のうちの少なくとも一つを特定するステップと、
前記不適切管理時間及び前記適切管理時間のうちの前記少なくとも一つと前記被検者の手術時間とに基づいて、前記麻酔管理に対する評価指標である麻酔管理評価指標を算出するステップと、
前記算出された前記麻酔管理評価指標を出力するステップと、
を含む、生体情報処理方法。
【請求項17】
コンピュータによって実行される生体情報処理方法であって、
麻酔が投与された被検者の脳波データを取得するステップと、
前記脳波データに基づいて、前記被検者に対して鎮静管理が適切に行われた時間である第1適切管理時間および前記鎮静管理が適切に行われなかった時間である第1不適切管理時間を特定するステップと、
前記被検者の疼痛反応を示す疼痛反応データを取得するステップと、
前記疼痛反応データに基づいて、前記被検者に対して鎮痛管理が適切に行われた時間である第2適切管理時間および前記鎮痛管理が適切に行われなかった時間である第2不適切管理時間を特定するステップと、
前記被検者の刺激反応を示す刺激反応データを取得するステップと、
前記刺激反応データに基づいて、前記被検者に対して筋弛緩管理が適切に行われた時間である第3適切管理時間および前記筋弛緩管理が適切に行われなかった時間である第3不適切管理時間を特定するステップと、
前記第1から第3不適切管理時間と、前記被検者の手術時間とに基づいて、前記被検者の麻酔管理に対する総合的な評価指標である総合的麻酔管理評価指標を算出するステップと、
前記算出された前記麻酔管理評価指標を出力するステップと、
を含む、生体情報処理方法。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の生体情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項19】
請求項18に記載されたプログラムが記憶されたコンピュータ読取可能媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体情報処理装置及び生体情報処理方法に関する。さらに、本開示は、当該生体情報処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラム及び当該プログラムが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
手術中における適切な麻酔管理は、全身麻酔下で手術を受ける患者や手術を執刀する医師にとって重要な事項となっている。患者に対する適切な麻酔管理は、適切な鎮静管理と、適切な鎮痛管理と、適切な筋弛緩管理の3つによって実現されている。ここで、麻酔管理は、鎮静管理、鎮痛管理、筋弛緩管理の上位概念となる。麻酔管理を行う麻酔科医は、患者の生体情報データに基づいて最適な麻酔薬を選択した上で、患者の生体反応を観察しながら、自己の実務経験に基づいて慎重に麻酔薬を投与する。
【0003】
一方で、患者の麻酔深度指標値であるBIS値に基づいて、麻酔薬の投与を自動化する自動麻酔管理システムも存在する。例えば、特許文献1では、患者の応答を監視する自動応答モニターシステムと、患者のBIS値を監視するモニタ装置と、鎮静剤注入器とを備えた薬剤送達装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、麻酔科医による手動の麻酔管理では、麻酔科医は、患者の生体反応を観察しながら、自己の経験に基づいた主観的な麻酔管理を行っている。このため、麻酔科医が行った麻酔管理を客観的に評価するような仕組みは従来では存在しなかった。また、特許文献1に示すような自動麻酔管理システムであっても、自動麻酔管理の巧拙を客観的に評価するための仕組みは存在しなかった。このように、麻酔管理の巧拙を客観的に数値化及び可視化することができるシステムについて検討する余地がある。
【0006】
本開示は、麻酔管理の巧拙を客観的に数値化及び可視化することができる生体情報処理装置及び生体情報処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る生体情報処理装置は、
プロセッサと、
コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備える。
前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサによって実行されると、前記生体情報処理装置は、
麻酔が投与された被検者の生体情報データを取得し、
前記生体情報データに基づいて、前記被検者に対して麻酔管理が適切に行われた時間である適切管理時間および前記麻酔管理が適切に行われなかった時間である不適切管理時間のうちの少なくとも一つを特定し、
前記不適切管理時間及び前記適切管理時間のうちの前記少なくとも一つと前記被検者の手術時間とに基づいて、前記麻酔管理に対する評価指標である麻酔管理評価指標を算出し、
前記算出された前記麻酔管理評価指標を出力する。
【0008】
上記構成によれば、生体情報データに基づいて適切管理時間及び不適切管理時間のうちの少なくとも一つが特定された上で、適切管理時間と不適切管理時間のうちの少なくとも一つと手術時間とに基づいて麻酔管理評価指標が算出及び出力される。このように、算出された麻酔管理評価指標によって麻酔管理の巧拙を客観的に数値化及び可視化することができる。
【0009】
本開示の一態様に係る生体情報処理装置は、
プロセッサと、
コンピュータ可読命令を記憶するメモリと、を備える。
前記コンピュータ可読命令が前記プロセッサによって実行されると、前記生体情報処理装置は、
麻酔が投与された被検者の脳波データを取得し、
前記脳波データに基づいて、前記被検者に対して鎮静管理が適切に行われた時間である第1適切管理時間および前記鎮静管理が適切に行われなかった時間である第1不適切管理時間を特定し、
前記被検者の疼痛反応を示す疼痛反応データを取得し、
前記疼痛反応データに基づいて、前記被検者に対して鎮痛管理が適切に行われた時間である第2適切管理時間および前記鎮痛管理が適切に行われなかった時間である第2不適切管理時間を特定し、
前記被検者の刺激反応を示す刺激反応データを取得し、
前記刺激反応データに基づいて、前記被検者に対して筋弛緩管理が適切に行われた時間である第3適切管理時間および前記筋弛緩管理が適切に行われなかった時間である第3不適切管理時間を特定し、
前記第1から第3不適切管理時間と、前記被検者の手術時間とに基づいて、前記被検者の麻酔管理に対する総合的な評価指標である総合的麻酔管理評価指標を算出し、
前記算出された前記麻酔管理評価指標を出力する。
【0010】
上記構成によれば、脳波データに基づいて鎮静管理が適切に行われなかった時間である第1不適切管理時間が特定される。また、疼痛反応データに基づいて鎮痛管理が適切に行われなかった時間である第2不適切管理時間が特定されると共に、刺激反応データに基づいて筋弛緩管理が適切に行われなかった時間である第3不適切管理時間が特定される。その後、第1から第3不適切管理時間及び手術時間に基づいて、総合的麻酔管理評価指標が算出及び出力される。このように、鎮静、鎮痛及び筋弛緩を示す3つの生体情報データに基づいて算出された総合的な評価指標である総合的麻酔管理評価指標を通じて、麻酔管理の巧拙を総合的且つ客観的に数値化及び可視化することができる。
【0011】
本開示の一態様に係る生体情報処理方法は、コンピュータによって実行され、
麻酔が投与された被検者の生体情報データを取得するステップと、
前記生体情報データに基づいて、前記被検者に対して麻酔管理が適切に行われた時間である適切管理時間および前記麻酔管理が適切に行われなかった時間である不適切管理時間のうちの少なくとも一つを特定するステップと、
前記不適切管理時間及び前記適切管理時間のうちの前記少なくとも一つと前記被検者の手術時間とに基づいて、前記麻酔管理に対する評価指標である麻酔管理評価指標を算出するステップと、
前記算出された前記麻酔管理評価指標を出力するステップと、
を含む。
【0012】
上記方法によれば、生体情報データに基づいて適切管理時間及び不適切管理時間のうちの少なくとも一つが特定された上で、適切管理時間と不適切管理時間のうちの少なくとも一つと手術時間とに基づいて麻酔管理評価指標が算出及び出力される。このように、算出された麻酔管理評価指標によって麻酔管理の巧拙を客観的に数値化及び可視化することができる。
【0013】
本開示の一態様に係る生体情報処理方法は、コンピュータによって実行され、
麻酔が投与された被検者の脳波データを取得するステップと、
前記脳波データに基づいて、前記被検者に対して鎮静管理が適切に行われた時間である第1適切管理時間および前記鎮静管理が適切に行われなかった時間である第1不適切管理時間を特定するステップと、
前記被検者の疼痛反応を示す疼痛反応データを取得するステップと、
前記疼痛反応データに基づいて、前記被検者に対して鎮痛管理が適切に行われた時間である第2適切管理時間および前記鎮痛管理が適切に行われなかった時間である第2不適切管理時間を特定するステップと、
前記被検者の刺激反応を示す刺激反応データを取得するステップと、
前記刺激反応データに基づいて、前記被検者に対して筋弛緩管理が適切に行われた時間である第3適切管理時間および前記筋弛緩管理が適切に行われなかった時間である第3不適切管理時間を特定するステップと、
前記第1から第3不適切管理時間と、前記被検者の手術時間とに基づいて、前記被検者の麻酔管理に対する総合的な評価指標である総合的麻酔管理評価指標を算出するステップと、
前記算出された前記麻酔管理評価指標を出力するステップと、
を含む。
【0014】
上記方法によれば、脳波データに基づいて鎮静管理が適切に行われなかった時間である第1不適切管理時間が特定される。また、疼痛反応データに基づいて鎮痛管理が適切に行われなかった時間である第2不適切管理時間が特定されると共に、刺激反応データに基づいて筋弛緩管理が適切に行われなかった時間である第3不適切管理時間が特定される。その後、第1から第3不適切管理時間及び手術時間に基づいて、総合的麻酔管理評価指標が算出及び出力される。このように、鎮静、鎮痛及び筋弛緩を示す3つの生体情報データに基づいて算出された総合的な評価指標である総合的麻酔管理評価指標を通じて、麻酔管理の巧拙を総合的且つ客観的に数値化及び可視化することができる。
【0015】
また、上記生体情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムが提供されてもよい。さらに、当該プログラムが記憶されたコンピュータ読取可能媒体が提供されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、麻酔管理の巧拙を客観的に数値化及び可視化することができる生体情報処理装置及び生体情報処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態(以下、本実施形態という。)に係る生体情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】鎮静管理評価指標の算出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図4】筋弛緩管理評価指標の算出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】鎮痛管理評価指標の算出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】心拍数データの波形の極大値を算出するための手順を説明するための図である。
【
図7】心拍数データから不適切管理時間を特定する処理を説明するための図である。
【
図8】心拍数データと血圧データの2種類の疼痛反応データを用いて鎮痛管理評価指標を算出する方法を説明するためのフローチャートである。
【
図9】(a)は、心拍数データに関連する不適切管理時間と血圧データに関連する不適切管理時間とのAND演算処理を通じて、鎮痛管理評価指標を算出する方法を説明するための図(その1)である。(b)は、心拍数データに関連する不適切管理時間と血圧データに関連する不適切管理時間とのAND演算処理を通じて、鎮痛管理評価指標を算出する方法を説明するための図(その2)である。
【
図10】心拍数データに関連する不適切管理時間と血圧データに関連する不適切管理時間とのOR演算処理を通じて、鎮痛管理評価指標を算出する方法を説明するための図である。
【
図11】総合的麻酔管理評価指標の算出方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図12】鎮静管理に関連する各種パラメータと、鎮痛管理に関連する各種パラメータと、筋弛緩管理に関連する各種パラメータとに基づいて、総合的麻酔管理評価指標を算出する方法を説明するための図である。
【
図13】総合的麻酔管理評価指標の算出方法の変形例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る生体情報処理装置1の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、生体情報処理装置1(以下、単に「処理装置1」という。)は、制御部2と、記憶装置3と、ネットワークインターフェース4と、表示部5と、入力操作部6と、センサインターフェース7とを備える。これらはバス8を介して互いに通信可能に接続されている。
【0020】
処理装置1は、患者P(被検者)の生体情報を表示するための医療用の専用装置(例えば、生体情報モニタ等)であってもよいし、例えば、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、スマートフォン、タブレットであってもよい。
【0021】
制御部2は、メモリとプロセッサを備えている。メモリは、コンピュータ可読命令(プログラム)を記憶するように構成されている。例えば、メモリは、各種プログラム等が格納されたROM(Read Only Memory)やプロセッサにより実行される各種プログラム等が格納される複数ワークエリアを有するRAM(Random Access Memory)等から構成されてもよい。また、ROMは、フラッシュメモリ等によって構成されてもよい。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)及び/又はGPU(Graphics Processing Unit)から構成される。CPUは、複数のCPUコアによって構成されてもよい。GPUは、複数のGPUコアによって構成されてもよい。プロセッサは、記憶装置3又はROMに組み込まれた各種プログラムから指定されたプログラムをRAM上に展開し、RAMとの協働で各種処理を実行するように構成されてもよい。
【0022】
特に、プロセッサが後述する生体情報処理プログラムをRAM上に展開し、RAMとの協働で当該プログラムを実行することで、制御部2は、処理装置1の各種動作を制御してもよい。生体情報処理プログラムの詳細については後述する。
【0023】
記憶装置3は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の記憶装置(ストレージ)であって、プログラムや各種データを格納するように構成されている。記憶装置3には、生体情報処理プログラムが組み込まれてもよい。また、記憶装置3には、患者P(被検者)の生体情報を示す生体情報データ(例えば、脳波データ、TOFカウント値、心拍数データ等)や麻酔管理評価指標(例えば、鎮静管理評価指標値等)に関する情報が保存されてもよい。例えば、生体情報データは、処理装置1に接続された各種センサ(脳波センサ等)からセンサインターフェース7を介して記憶装置3に保存されてもよい。
【0024】
ネットワークインターフェース4は、処理装置1を通信ネットワークに接続するように構成されている。具体的には、ネットワークインターフェース4は、通信ネットワークを介してサーバ等の外部装置と通信するための各種有線接続端子を含んでもよい。また、ネットワークインターフェース4は、外部装置と無線通信するための無線通信モジュールを含んでもよい。外部装置と処理装置1との間の無線通信規格は、Wi-Fi(登録商標),Bluetooth(登録商標),ZigBee(登録商標)又はLPWAである。通信ネットワークは、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)又はインターネット等である。例えば、生体情報処理プログラムや患者の生体情報データは、通信ネットワーク上に配置されたサーバからネットワークインターフェース4を介して取得されてもよい。
【0025】
表示部5は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイであってもよいし、操作者U(医療従事者)の頭部に装着された透過型又は非透過型のヘッドマウントディスプレイであってもよい。さらに、表示部5は、画像データをスクリーン上に投影するプロジェクター装置であってもよい。尚、処理装置1は、表示部5を備えていなくてもよい。この場合、処理装置1から出力された画像データがネットワークインターフェース4又は図示しない映像インターフェースを介してセントラルモニタ等の外部装置の表示部に表示されてもよい。
【0026】
入力操作部6は、処理装置1を操作する操作者Uの入力操作を受付けると共に、当該入力操作に対応する指示信号を生成するように構成されている。入力操作部6は、例えば、表示部5上に重ねて配置されたタッチパネル、処理装置1の筐体に設けられた操作ボタン、図示しない入出力インターフェース(例えば、USBインターフェース等)に接続されたマウス及び/又はキーボード等である。入力操作部6によって生成された指示信号がバス8を介して制御部2に送信された後、制御部2は、指示信号に応じて所定の動作を実行する。
【0027】
センサインターフェース7は、各種センサを処理装置1に接続するためのインターフェースである。センサインターフェース7は、脳波センサ10、刺激反応センサ12及び疼痛反応センサ13にそれぞれ接続されている。センサインターフェース7は、各種センサから出力された信号を処理するためのアナログ処理回路を有してもよい。アナログ処理回路は、例えば、フィルタ回路と、増幅器と、A/D変換器とを有してもよい。センサインターフェース7から出力された脳波データ等の生体情報データ(デジタルデータ)は制御部2に送信される。その後、制御部2は、受信した生体情報データに対して所定の演算を実行する。
【0028】
脳波センサ10は、患者Pの頭部に装着されており、患者Pの脳波を示す脳波データを取得するように構成されている。脳波センサ10から出力された脳波データは、センサインターフェース7を介して制御部2に送信される。その後、制御部2は、送信された脳波データに基づいて脳波に関連する各種パラメータ(例えば、BIS値やSQI値)を演算してもよい。また、脳波センサ10は、BISモニタとして構成されてもよい。この場合、脳波センサ10は、脳波データ及び当該脳波データに基づいて演算されたパラメータ(BIS値及びSQI値)を制御部2に送信してもよい。
【0029】
BIS(Bispectral Index)値は、鎮静薬(例えば、プロポフェール)による患者Pの鎮静効果を示す指標となる。BIS値は、0から100の間の値で示される。BIS値が低下する程、患者Pの意識レベルは低下する(麻酔深度は深くなる)。患者の鎮静度が適切であるかを判断する際のBIS値は、40~60が適切な範囲であるが、本実施形態では、BIS値が35~55の場合に、手術中における患者Pの鎮静度(麻酔深度)は適切であると判断される。SQI(Signal Quality Index)値は、過去60秒間の間に得られた脳波データのうち信頼できる脳波データの割合を示す指標である。SQI値が大きい程、脳波データの質が高くなる一方で、SQI値が小さい程、脳波データの質は低下する。SQI値の信頼できる値として、50%以上であればよく、本実施形態では、SQI値が80%以上である場合に、脳波データの質及びBIS値の信頼度は高いと判断される。
【0030】
刺激反応センサ12は、患者Pの手首及び手指に装着されており、患者Pに刺激電流を流すことで、当該刺激電流に対する患者Pの刺激反応を示す刺激反応データ(例えば、TOF比やTOFカウント値)を取得するように構成された筋弛緩モジュールである。刺激反応センサ12は、0.5秒間隔で4回の連続する刺激電流を患者に流すTOF(Train Of Four)刺激を患者Pに与えてもよい。この場合、TOF刺激は15秒間隔で患者Pに与えられる。TOF比は、TOF刺激のうち1回目の電気刺激T1に対する拇指の刺激反応と4回目の電気刺激T4に対する拇指の刺激反応との比(T4/T1)を示すものである。本実施形態では、TOF比が1%≦TOF比≦10%の範囲内である場合に、患者Pの筋弛緩管理が適切であると判断される。
【0031】
TOFカウント値は、4回の連続する刺激電流に対する患者の刺激反応の回数を示すものである。例えば、4回の連続する刺激電流に対する患者の刺激反応が4回である場合、TOFカウント値は4となる。4回の連続する刺激電流に対する患者の刺激反応が1回である場合、TOFカウント値は1となる。本実施形態では、TOFカウント値が1である場合に、患者Pの筋弛緩管理が適切であると判断される。刺激反応センサ12は、センサインターフェース7を介してTOFカウント値等の刺激反応データを制御部2に送信する。本実施形態では、刺激反応センサ12は、TOFモードで患者Pに刺激電流を与えているが、TOFモード以外の他のモード(例えば、TET(テタヌス刺激)モード)で患者Pに刺激電流を与えてもよい。
【0032】
疼痛反応センサ13は、患者Pに装着されており、患者Pの疼痛反応を示す疼痛反応データを取得するように構成されている。疼痛反応センサ13は、例えば、患者Pの脈波の時間変化を示す脈波データを取得する脈波センサ若しくは患者Pの心電図の時間変化を示す心電図データを取得する心電図センサであってもよい。また、疼痛反応センサ13は、患者Pの血圧(最高血圧又は最低血圧)の時間変化を示す血圧データを取得する血圧センサであってもよい。本実施形態では、疼痛反応データは、心拍数データ及び血圧データのうちの少なくとも一方を含む。つまり、本実施形態では、患者Pの鎮痛管理が適切かどうかは、心拍数データ及び/又は血圧データに基づいて判断される。また、疼痛反応センサ13は、脈波センサと、心電図センサと、血圧センサのうちの少なくとも一方を含む。疼痛反応センサ13は、センサインターフェース7を介して疼痛反応データを制御部2に送信する。
【0033】
図2に示すように、麻酔管理は、鎮静管理と、鎮痛管理と、筋弛緩管理の3つによって実現されている。本実施形態において、鎮静管理と、鎮痛管理と、筋弛緩管理は、麻酔管理の下位概念に相当する。さらに、本実施形態において、鎮静管理に対する評価指標である鎮静管理評価指標と、筋弛緩管理に対する評価指標である筋弛緩管理評価指標と、鎮痛管理に対する評価指標である鎮痛管理評価指標とは、麻酔管理に対する評価指標である麻酔管理評価指標の下位概念に相当する。また、後述するように、麻酔管理に対する総合的な評価指標である総合的麻酔管理評価指標は、鎮静管理に関連するパラメータと、鎮痛管理に関連するパラメータと、筋弛緩管理に関連するパラメータとに基づいて算出される。
【0034】
また、本実施形態では、手術中の患者Pに投与される麻酔薬として、鎮静薬(例えば、プロポフェール)と、鎮痛薬(例えば、レミフェンタニル)と、筋弛緩薬(例えば、ロクロニウム)とが使用される。
【0035】
以降では、手術中の患者Pに対する麻酔管理の評価指標として、鎮静管理評価指標と、筋弛緩管理評価指標と、鎮痛管理評価指標のそれぞれの算出方法について説明する。
【0036】
(鎮静管理評価指標)
最初に、鎮静薬が投与された患者Pの鎮静管理に対する評価指標である鎮静管理評価指標の算出方法について
図3を参照して以下に説明する。
図3は、鎮静管理評価指標の算出方法を説明するためのフローチャートである。
【0037】
図3に示すように、ステップS1において、鎮静薬が投与された患者Pの手術が開始されたときに、制御部2は、脳波センサ10から患者Pの脳波を示す脳波データを取得する。次に、制御部2は、当該取得した脳波データに基づいて、脳波データに基づいてBIS値及びSQI値を取得する(ステップS2)。BIS値及びSQI値は生体情報データの一例である。尚、脳波センサ10が脳波モニタである場合には、脳波センサ10が脳波データに基づいてBIS値及びSQI値を特定した上で、当該BIS値及びSQI値を制御部2に送信してもよい。
【0038】
次に、制御部2は、SQI値が80%以上であるかどうかを判定する(ステップS3)。SQI値が80%未満である場合(ステップS3でNO)、制御部2は、脳波データの質及びBIS値の信頼性は低いと判断した上で、現在のBIS値の取得時間を除外時間としてカウントする(ステップS4)。ここで、「除外時間」とは、手術開始から手術終了までの手術時間から控除される時間である。後述する鎮静管理評価指標を算出する際に、手術時間から除外時間を控除することで現実の鎮静管理の巧拙に即した鎮静管理評価指標を算出することができる。一方、SQI値が80%以上である場合(ステップS3でYES)、制御部2は、脳波データの質及びBIS値の信頼性は高いと判断した上で、ステップS5の処理に進む。
【0039】
ステップS5において、制御部2は、BIS値が35≦BIS値≦55の条件(第2条件の一例)を満たすかどうかを判定する。BIS値が35~55の範囲内に含まれる場合(ステップS5でYES)、制御部2は、患者Pの鎮静度は適切であると判断した上で、現在のBIS値の取得時間を適切管理時間としてカウントする(ステップS6)。ここで、「適切管理時間」とは、患者Pに対して鎮静管理が適切に行われた時間である。一方、BIS値が35~55の範囲内に含まれない場合(ステップS5でNO)、制御部2は、患者Pの鎮静度は適切でないと判断した上で、現在のBIS値の取得時間を不適切管理時間としてカウントする(ステップS7)。ここで、「不適切管理時間」とは、患者Pに対して鎮静管理が適切に行われなかった時間である。
【0040】
次に、患者Pの手術が終了していない場合には(ステップS8でNO)、ステップS1からS7の処理が繰り返し実行される。例えば、BIS値が15秒ごとに更新される場合、ステップS1からS7の処理は15秒ごとに繰り返し実行されてもよい。この場合、前回のBIS値の取得時刻から現在のBIS値の取得時刻までの間の時間である現在のBIS値の取得時間(15秒間)が適切管理時間、不適切管理時間若しくは除外時間としてカウントされる。一方、患者Pの手術が終了した場合には(ステップS8でYES)、本処理はステップS9に進む。
【0041】
次に、制御部2は、手術時間の間にカウントされた適切管理時間と、不適切管理時間と、除外時間とを特定する(ステップS9)。その後、制御部2は、手術時間と、適切管理時間と、除外時間とに基づいて鎮静管理評価指標Psを算出する(ステップS10)。例えば、鎮静管理評価指標Psは以下に示す式(1)に基づいて算出されてもよい。
Ps=Tr1/(T0-Te1)×100%・・・(1)
ここで、Tr1は適切管理時間、T0は手術時間、Te1は除外時間である。例えば、手術時間T0が300分、除外時間Te1が20分、適切管理時間Tr1が250分である場合、鎮静管理評価指標Psは約89%となる。
【0042】
その後、制御部2は、算出された鎮静管理評価指標Psを出力する。例えば、制御部2は、鎮静管理評価指標Psに関する情報を表示部5に表示してもよい。特に、制御部2は、脳波データに関連する情報(例えば、脳波波形やBIS値等)が表示された表示画面上に鎮静管理評価指標Psに関する情報を表示してもよい。さらに、制御部2は、鎮静管理評価指標Psに関する情報を患者Pの手術に関連した情報に関連付けた状態で記憶装置3に保存してもよい。
【0043】
本実施形態によれば、BIS値とSQI値に基づいて、適切管理時間、不適切管理時間及び除外時間が特定された上で、手術時間T0、適切管理時間Tr1及び除外時間Te1に基づいて鎮静管理評価指標Psが算出された上で、鎮静管理評価指標Psが出力される。このように、鎮静管理評価指標Psによって鎮静管理の巧拙を客観的に数値化及び可視化することが可能となる。また、鎮静管理評価指標Psに関する情報が患者Pの手術を担当した麻酔科医に提示されることで、当該麻酔科医は、客観的な鎮静管理の評価を知ることができる。さらに、患者Pの麻酔管理が自動麻酔管理システムによって行われた場合には、鎮静管理評価指標Psを通じて当該自動麻酔管理システムによって行われた鎮静管理の巧拙を客観的に評価することが可能となる。
【0044】
尚、本実施形態では、患者Pの手術が終了した時点で鎮静管理評価指標Psが出力されているが、患者Pの手術の最中に鎮静管理評価指標Psが出力されてもよい。この場合には、手術の経過に伴い鎮静管理評価指標Psが逐次更新されてもよい。患者Pの手術の最中に鎮静管理評価指標Psが出力される場合には、手術時間T0は、手術開始時刻tsから現在時刻tcまでの時間となる。その際、制御部2のステップS8の判定は、ステップS10の後に行われるものとしてもよい。
【0045】
(筋弛緩管理評価指標)
次に、筋弛緩薬が投与された患者Pの筋弛緩管理に対する評価指標である筋弛緩管理評価指標の算出方法について
図4を参照して以下に説明する。
図4は、筋弛緩管理評価指標の算出方法を説明するためのフローチャートである。
【0046】
図4に示すように、ステップS11において、筋弛緩薬が投与された患者Pの手術が開始されたときに、制御部2は、刺激反応センサ12から患者Pの刺激反応を示す刺激反応データ(本例では、TOFカウント値)を取得する。次に、制御部2はTOFカウント値が欠損値でないかどうかを判定する(ステップS12)。TOFカウント値が欠損値ではない場合(ステップS12でYES)、制御部2は、当該取得したTOFカウント値が1であるかどうかを判定する (ステップS13)。TOFカウント値が欠損値である場合(ステップS12でNO)、制御部2は、現在のTOFカウント値の取得時間を除外時間としてカウントする(ステップS14)。
【0047】
次に、ステップS13において、TOFカウント値が1である場合(ステップS13でYES)、制御部2は、患者Pの筋弛緩管理は適切であると判断した上で、現在のTOFカウント値の取得時間を適切管理時間としてカウントする(ステップS15)。ここで、「適切管理時間」とは、患者Pに対して筋弛緩管理が適切に行われた時間である。一方、TOFカウント値が1でない場合(換言すれば、TOFカウント値が0,2,3,4である場合)(ステップS13でNO)、制御部2は、患者Pの筋弛緩管理は適切ではないと判断した上で、現在のTOFカウント値の取得時間を不適切管理時間としてカウントする(ステップS16)。ここで、「不適切管理時間」とは、患者Pに対して筋弛緩管理が適切に行われなかった時間である。
【0048】
次に、患者Pの手術が終了していない場合には(ステップS17でNO)、ステップS11からS16の処理が繰り返し実行される。例えば、TOF刺激が15秒間隔で患者Pに与えられる場合、ステップS11からS16の処理は15秒ごとに繰り返し実行されてもよい。この場合、前回のTOFカウント値の取得時刻から現在のTOFカウント値の取得時刻までの間の時間である現在のTOFカウント値の取得時間(15秒間)が適切管理時間又は不適切管理時間としてカウントされる。一方、患者Pの手術が終了した場合には(ステップS17でYES)、本処理はステップS18に進む。
【0049】
次に、制御部2は、手術時間の間にカウントされた適切管理時間と、不適切管理時間と、除外時間とを特定する(ステップS18)。その後、制御部2は、手術時間と、適切管理時間と、除外時間とに基づいて筋弛緩管理評価指標Pmを算出する(ステップS19)。例えば、筋弛緩管理評価指標Pmは以下に示す式(2)に基づいて算出されてもよい。
Pm=Tr3/(T0-Te3)×100%・・・(2)
ここで、Tr3は適切管理時間、T0は手術時間、Te3は除外時間である。例えば、手術時間T0が300分、除外時間Te3が4分、適切管理時間Tr3が260分である場合、筋弛緩管理評価指標Pmは約88%となる。
【0050】
その後、制御部2は、算出された筋弛緩管理評価指標Pmを出力する(ステップS19)。例えば、制御部2は、筋弛緩管理評価指標Pmに関する情報を表示部5に表示してもよい。特に、制御部2は、TOFカウント値及び/又はTOF比に関連する情報が表示された表示画面上に筋弛緩管理評価指標Pmに関する情報を表示してもよい。さらに、制御部2は、筋弛緩管理評価指標Pmに関する情報を患者Pの手術に関連する情報に関連付けた状態で記憶装置3に保存してもよい。
【0051】
本実施形態によれば、TOFカウント値に基づいて、適切管理時間、不適切管理時間及び除外時間が特定された上で、手術時間T0、適切管理時間Tr3及び除外時間Te3に基づいて筋弛緩管理評価指標Pmが算出された上で、筋弛緩管理評価指標Pmが出力される。このように、筋弛緩管理評価指標Pmによって筋弛緩管理の巧拙を客観的に数値化及び可視化することが可能となる。また、筋弛緩管理評価指標Pmに関する情報が患者Pの手術を担当した麻酔科医に提示されることで、当該麻酔科医は、客観的な筋弛緩管理の評価を知ることができる。さらに、患者Pの麻酔管理が自動麻酔管理システムによって行われた場合には、筋弛緩管理評価指標Pmを通じて当該自動麻酔管理システムによって行われた筋弛緩管理の巧拙を客観的に評価することが可能となる。
【0052】
尚、本実施形態では、患者Pの手術が終了した時点で筋弛緩管理評価指標Pmが出力されているが、患者Pの手術の最中に筋弛緩管理評価指標Pmが出力されてもよい。この場合には、手術の経過に伴い筋弛緩管理評価指標Pmが逐次更新されてもよい。患者Pの手術の最中に筋弛緩管理評価指標Pmが出力される場合には、手術時間T0は、手術開始時刻tsから現在時刻tcまでの時間となる。その際、制御部2のステップS17の手術終了有無の判定は、ステップS19の後に行われるものとしてもよい。
【0053】
また、本実施形態では、患者Pの刺激反応を示す刺激反応データの一例としてTOFカウント値が採用されているが、TOFカウント値以外のパラメータが刺激反応データとして採用されてもよい。例えば、刺激反応データとしてTOF比(T4/T1)が採用されてもよい。この場合、ステップS13の判定処理において、制御部2は、TOF比が1%≦TOF比≦10%の条件を満たしているかどうかを判定する。TOF比が1%~10%の条件を満たす場合に(ステップS13でYES)、制御部2は、現在のTOF比の取得時間を適切管理時間としてカウントしてもよい(ステップS15)。一方、TOF比が1%~10%の条件を満たさない場合に(ステップS13でNO)、制御部2は、現在のTOF比の取得時間を不適切管理時間としてカウントしてもよい(ステップS16)。
【0054】
また、筋弛緩薬が患者Pに急速投与される場合には、手術開始から一定期間の間においてTOFカウント値が0であった場合でも、当該一定期間は適切管理時間として判断されてもよい。
【0055】
(鎮痛管理評価指標)
次に、鎮痛薬が投与された患者Pの鎮痛管理に対する評価指標である鎮痛管理評価指標について
図5~
図7を参照して以下に説明する。
図5は、鎮痛管理評価指標の算出方法を説明するためのフローチャートである。
図6は、心拍数データの波形の極大値を算出するための手順を説明するための図である。
図7は、心拍数データから不適切管理時間を特定する処理を説明するための図である。
【0056】
図5に示すように、ステップS20において、鎮痛薬が投与された患者Pの手術が開始されたときに、制御部2は、疼痛反応センサ13から患者Pの脈波の時間変化を示す脈波データ又は患者Pの心電図の時間変化を示す心電図データを取得する。制御部2が心電図データを取得する場合、疼痛反応センサ13は心電図センサであってもよい。一方、制御部2が脈波データを取得する場合、疼痛反応センサ13は脈波センサであってもよい。次に、制御部2は、受信した脈波データ又は心電図データに基づいて、患者Pの心拍数の時間変化を示す心拍数データ(疼痛反応データの一例)を取得する。
【0057】
次に、ステップS21では、制御部2は、
図7に示すように患者Pの心拍数データのベースラインを特定する。ベースラインは、時間帯ΔT(例えば、4分間)における患者Pから連続的に取得した心拍数データの平均値を示す。尚、心拍数データに入り込んだ体動ノイズ等は欠損値として特定されてもよい。その後、時間帯ΔTから欠損値を除外することでベースラインが算出されてもよい。また、
図7に示す例では、ベースラインの時間帯ΔTは、開始時刻taと終了時刻tbとの間の時間帯となっている。
【0058】
次に、ステップS22では、制御部2は、ベースラインの時間帯ΔTの終了時刻tbからβ秒後(例えば60秒)の心拍数がベースラインからα%上昇したかどうかを判定する。制御部2は、心拍数がベースラインからα%上昇していると判断した場合(ステップS22でYES)、ベースラインからα%上昇した心拍数に対応する時刻tr(立ち上がり点に対応する時刻)を特定する。例えば、αが20%であると共に、ベースラインの値がNavである場合に、時刻trでの心拍数Nrは、Nr=1.2Navとなる。尚、αは20%に限定されるものではない。
【0059】
一方、制御部2は、心拍数がベースラインからα%上昇していないと判断された場合(ステップS22でNO)、患者Pの鎮痛管理は適切であると判断した上で、現在の心拍数データの取得時間を「適切管理時間」としてカウントする(ステップS24)。
【0060】
次に、ステップS25において、制御部2は、立ち上がり点に対応する時刻trの後に現れる患者Pの手術中に取得された高周波成分を含む心拍数波形の極大値に対応する時刻tpを特定する。本実施形態では、最初に、制御部2は、心拍数波形に対してローパスフィルター処理を実行することで、心拍数波形のうち高周波成分(例えば、0.003Hzの周波数成分)を除去する。次に、制御部2は、高周波成分が除去された心拍数波形に対して1次平滑化微分処理を実行することで、心拍数波形に存在する極大値を特定する。
【0061】
次に、ステップS26において、制御部2は、立ち上がり点に対応する時刻trから高周波成分を含む心拍数波形の極大値に対応する時刻tpの間の時間を不適切管理時間としてカウントする。ここで、「不適切管理時間」とは、患者Pに対して鎮痛管理が適切に行われなかった時間である。
【0062】
次に、制御部2は、心拍数データに欠損値がないかどうかを判定する(ステップS27)。制御部2は、心拍数データに欠測値がある場合に(ステップS27でNO)、欠測値が取得された時間を除外時間としてカウントする(ステップS29)。
【0063】
次に、制御部2は、患者Pの手術が終了したかどうかを判定する(ステップS28)。患者Pの手術が終了していない場合には(ステップS28でNO)、ステップS20からS29の処理が繰り返し実行される。一方、患者Pの手術が終了した場合には(ステップS28でYES)、本処理はステップS30に進む。
【0064】
次に、ステップS30において、制御部2は、手術時間T0と、不適切管理時間Tn2と、除外時間Te2とに基づいて、鎮痛管理が適切に行われた時間である適切管理時間Tr2を特定する。具体的には、制御部2は、以下式(3)に基づいて適切管理時間Tr2を算出してもよい。
Tr2=T0-Tn2-Te2・・・・(3)
【0065】
次に、制御部2は、手術時間T0と、適切管理時間Tr2と、除外時間Te2とに基づいて、鎮痛管理評価指標Paを算出する(ステップS31)。例えば、鎮痛管理評価指標Paは以下式(4)に基づいて算出されてもよい。
Pa=Tr2/(T0-Te2)×100%・・・(4)
【0066】
その後、制御部2は、算出された鎮痛管理評価指標Paを出力する(ステップS31)。例えば、制御部2は、鎮痛管理評価指標Paに関する情報を表示部5に表示してもよい。特に、制御部2は、心拍数データに関連する情報が表示された表示画面上に鎮痛管理評価指標Paに関する情報を表示してもよい。さらに、制御部2は、鎮痛管理評価指標Paに関する情報を患者Pの手術に関連する情報に関連付けた状態で記憶装置3に保存してもよい。
【0067】
本実施形態によれば、心拍数データに基づいて、不適切管理時間Tn2及び除外時間Te2が特定された上で、不適切管理時間Tn2と除外時間Te2とに基づいて適切管理時間Tr2が特定される。その後、手術時間T0と、適切管理時間Tr2と、除外時間Te2とに基づいて鎮痛管理評価指標Paが算出された上で、鎮痛管理評価指標Paが出力される。このように、鎮痛管理評価指標Paによって鎮痛管理の巧拙を客観的に数値化及び可視化することが可能となる。また、鎮痛管理評価指標Paに関する情報が患者Pの手術を担当した麻酔科医に提示されることで、当該麻酔科医は、客観的な鎮痛管理の評価を知ることができる。さらに、患者Pの麻酔管理が自動麻酔管理システムによって行われた場合には、鎮痛管理評価指標Paを通じて当該自動麻酔管理システムによって行われた鎮痛管理の巧拙を客観的に評価することが可能となる。
【0068】
尚、本実施形態では、患者Pの手術が終了した時点で鎮痛管理評価指標Paが出力されているが、患者Pの手術の最中に鎮痛管理評価指標Paが出力されてもよい。この場合には、手術の経過に伴い鎮痛管理評価指標Paが逐次更新されてもよい。患者Pの手術の最中に鎮痛管理評価指標Paが出力される場合には、手術時間T0は、手術開始時刻tsから現在時刻tcまでの時間となる。その際、制御部2のステップS28の判定は、ステップS31の後に行われるものとしてもよい。
【0069】
また、本実施形態では、患者Pの疼痛反応を示す疼痛反応データの一例として心拍数データが採用されているが、心拍数データ以外の生体情報データが疼痛反応データとして採用されてもよい。例えば、患者Pの血圧(最高血圧又は最低血圧)の時間変化を示す血圧データが疼痛反応データとして採用されてもよい。この場合、制御部2は、血圧センサから患者Pの血圧データを取得した上で、ステップS21からS28の各処理を実行する。即ち、制御部2は、ステップS21において、血圧データの波形(以下、血圧波形)に極大値が存在するかどうかを判定した上で、当該血圧波形に極大値が存在する場合に、ステップS22からS28の各処理を実行する。
【0070】
(鎮痛管理評価指標の算出方法の他の一例)
次に、鎮痛管理評価指標Paの算出方法の他の一例について
図8~
図10を参照して以下に説明する。
図8は、心拍数データと血圧データの2種類の疼痛反応データを用いて鎮痛管理評価指標Paを算出する方法を説明するためのフローチャートである。本例では、心拍数データと血圧データのそれぞれに対して鎮痛管理の不適切管理時間と除外時間が算出された上で、当該算出された2つの不適切管理時間と2つの除外時間とに基づいて、鎮痛管理の適切管理時間が特定される。本例では、疼痛反応センサ13は、血圧センサと、脈波センサとを含むものとする。
【0071】
図8に示すように、ステップS30において、制御部2は、脈波センサから脈波データを取得した上で、当該脈波データに基づいて患者Pの心拍数データを取得する。次に、制御部2は、心拍数データに関連付けられた不適切管理時間Tn21と除外時間Te21とを特定する(ステップS31)。特に、制御部2は、
図5に示すステップS21からS26の各処理を通じて、心拍数データに関連付けられた不適切管理時間Tn21と除外時間Te21とを特定することができる。
【0072】
次に、ステップS32において、制御部2は、血圧センサから血圧データを取得する。その後、制御部2は、血圧データに関連付けられた不適切管理時間Tn22と除外時間Te22とを特定する(ステップS33)。特に、制御部2は、
図5に示すステップS21からS26の各処理を通じて、血圧データに関連付けられた不適切管理時間Tn22と除外時間Te22とを特定することができる(ここで、
図5に示された各処理の対象となる疼痛反応データは心拍数データから血圧データに置換されているものとする。)。
【0073】
ステップS34において、制御部2は、心拍数データに関連付けられた不適切管理時間Tn21及び除外時間Te21と、血圧データに関連付けられた不適切管理時間Tn22及び除外時間Te22とに基づいて、鎮痛管理の適切管理時間Tr2を特定する。
【0074】
その後、制御部2は、手術時間T0と、適切管理時間Tr2と、除外時間Te21と、除外時間Te22とに基づいて、鎮痛管理評価指標Paを算出する(ステップS35)。例えば、鎮痛管理評価指標Paは以下式(5)に基づいて算出されてもよい。
Pa=Tr2/(T0-Te21-Te22)×100%・・・(5)
【0075】
この点において、制御部2は、
図9に示すように、心拍数データに関連する不適切管理時間Tn21と血圧データに関連する不適切管理時間Tn22とのAND演算処理を通じて、鎮痛管理評価指標Paを算出してもよい。また、制御部2は、
図10に示すように、心拍数データに関連する不適切管理時間Tn21と血圧データに関連する不適切管理時間Tn22とのOR演算処理を通じて、鎮痛管理評価指標Paを算出してもよい。
【0076】
(不適切管理時間Tn21と不適切管理時間Tn22とのAND演算処理)
制御部2は、不適切管理時間Tn21と不適切管理時間Tn22とのAND演算処理に基づいて、鎮痛管理評価指標Paを算出することができる。例えば、
図9に示すように、心拍数データに関連した不適切管理時間Tn21が、心拍数波形の立ち上がり点に対応する時刻t1と心拍数波形の極大値に対応する時刻t2との間の時間によって規定されるものとする。また、血圧データに関連した不適切管理時間Tn22が、血圧波形の立ち上がり点に対応する時刻t3と血圧波形の極大値に対応する時刻t4との間の時間によって規定されているものとする。
【0077】
図9(a)に示す状態では、不適切管理時間Tn21と不適切管理時間Tn22が少なくとも部分的に重複しているため、制御部2は、心拍数波形の立ち上がり点に対応する時刻t1と血圧波形の極大値に対応する時刻t4との間の時間を鎮痛管理の不適切管理時間Tn2として決定する。
【0078】
その後、制御部2は、手術時間T0と、不適切管理時間Tn2と、除外時間Te21,Te22とに基づいて、鎮痛管理の適切管理時間Tr2を特定する。特に、制御部2は、以下式(6)に基づいて適切管理時間Tr2を算出してもよい。その後、制御部2は、上記式(5)から鎮痛管理評価指標Paを算出することができる。
Tr2=T0-Tn2-Te21-Te22・・・・(6)
【0079】
一方、
図9(b)に示す状態では、不適切管理時間Tn21と不適切管理時間Tn22が完全に重複していないため、制御部2は、鎮痛管理の不適切管理時間Tn2をゼロとして決定する。尚、時刻t3と時刻t2との間の時間差が十分に小さい場合には、制御部2は、不適切管理時間Tn21と不適切管理時間Tn22との和を鎮痛管理の不適切管理時間Tn2として決定してもよい(Tn2=Tn21+Tn22)。
【0080】
(不適切管理時間Tn21と不適切管理時間Tn22とのOR演算処理)
制御部2は、不適切管理時間Tn21と不適切管理時間Tn22とのOR演算処理に基づいて、鎮痛管理評価指標Paを算出することができる。例えば、
図10に示すように、心拍数データに関連した不適切管理時間Tn21が、心拍数波形の立ち上がり点に対応する時刻t1と心拍数波形の極大値に対応する時刻t2との間の時間によって規定されるものとする。また、血圧データに関連した不適切管理時間Tn22が、血圧波形の立ち上がり点に対応する時刻t3と血圧波形の極大値に対応する時刻t4との間の時間によって規定されているものとする。
【0081】
図10に示す状態では、不適切管理時間Tn21と不適切管理時間Tn22とが完全に重複していないが、制御部2は、不適切管理時間Tn21と不適切管理時間Tn22との和を鎮痛管理の不適切管理時間Tn2として決定する(Tn2=Tn21+Tn22)。その後、制御部2は、手術時間T0と、不適切管理時間Tn2と、除外時間Te21,Te22と、上記式(6)とに基づいて適切管理時間Tr2を算出する。その後に、制御部2は、上記式(5)から鎮痛管理評価指標Paを算出することができる。
【0082】
本例によれば、心拍数データに関連した各種パラメータと血圧データに関連した各種パラメータとに基づいて、鎮痛管理の鎮痛管理評価指標Paが算出されている。このように、心拍数データと血圧データの2種類の疼痛反応データを用いて鎮痛管理評価指標Paが算出されているため、現実の鎮痛管理に即した鎮痛管理評価指標Paを算出することができる。
【0083】
(総合的麻酔管理評価指標)
次に、麻酔薬(鎮静薬、鎮痛薬、筋弛緩薬)が投与された患者Pの麻酔管理に対する総合的な評価指標である総合的麻酔管理評価指標Pkについて
図11及び
図12を参照して以下に説明する。
【0084】
ここで、患者Pの麻酔管理とは、鎮静管理と、鎮痛管理と、筋弛緩管理を含む総合的な麻酔管理を意味するものである。
図11は、総合的麻酔管理評価指標Pkの算出方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図12は、鎮静管理に関連する各種パラメータと、鎮痛管理に関連する各種パラメータと、筋弛緩管理に関連する各種パラメータとに基づいて、総合的麻酔管理評価指標Pkを算出する方法を説明するための図である。
【0085】
尚、
図12では、不適切管理時間と除外時間が示されている一方で、適切管理時間は示されていない。この点において、手術時間のうち不適切管理時間と除外時間以外の時間は適切管理時間であるものとする。
【0086】
図11に示すように、ステップS40において、制御部2は、脳波センサ10から脳波データを取得する。その後、制御部2は、鎮静管理(脳波データ)に関連する第1適切管理時間Tr1と、第1不適切管理時間Tn1と、第1除外時間Te1とを特定する(ステップS41)。この点において、制御部2は、
図3に示すステップS2~S9の処理を通じて、第1適切管理時間Tr1と、第1不適切管理時間Tn1と、第1除外時間Te1とを特定することができる。
【0087】
次に、ステップS42において、制御部2は、疼痛反応データとして心拍数データ及び/又は血圧データを取得する。特に、制御部2は、疼痛反応センサ13から送信された心電図データ又は脈波データに基づいて心拍数データを取得してもよい。さらに、制御部2は、疼痛反応センサ13から血圧データを取得してもよい。次に、制御部2は、鎮痛管理(疼痛反応データ)に関連する第2適切管理時間Tr2と、第2不適切管理時間Tn2と、第2除外時間Te2とを特定する(ステップS43)。この点において、制御部2は、
図5に示すステップS21~S27の処理を通じて、第2適切管理時間Tr2と、第2不適切管理時間Tn2と、第2除外時間Te2とを特定することができる。
【0088】
次に、ステップS44において、制御部2は、刺激反応センサ12からTOFカウント値を取得する。その後、制御部2は、筋弛緩管理(TOFカウント値)に関連する第3適切管理時間Tr3と、第3不適切管理時間Tn3と、第3除外時間Te3とを特定する(ステップS45)。この点において、制御部2は、
図4に示すステップS12~S16の処理を通じて、第3適切管理時間Tr3と、第3不適切管理時間Tn3と、第3除外時間Te3とを特定することができる。
【0089】
その後、制御部2は、鎮静管理に関連する各種パラメータ(第1不適切管理時間Tn1等)と、鎮痛管理に関連する各種パラメータ(第2不適切管理時間Tn2等)と、筋弛緩管理に関連する各種パラメータ(第3不適切管理時間Tn3等)に基づいて、総合的適切管理時間Trを算出する(ステップS46)。この点において、
図12を参照して総合的適切管理時間Trを算出する方法について以下に説明する。
【0090】
図12に示すように、本例では、鎮痛管理に関連する除外時間Te1と筋弛緩管理に関連する除外時間Te3は存在しないものとする。総合的適切管理時間Trを算出する際には、各種パラメータの優先順位は以下となる。
不適切管理時間>除外時間>適切管理時間
【0091】
このため、所定の時間帯において、不適切管理時間と、除外時間と、適切管理時間とが互いに重複する場合には、当該所定の時間帯は不適切管理時間として決定される。さらに、所定の時間帯において、除外時間と適切管理時間とが互いに重複する場合には、所定の時間帯は除外時間として決定される。例えば、
図12に示すように、時間帯ΔT2において鎮静管理に関連する第1不適切管理時間Tn1と鎮痛管理に関連する第2除外時間Te2が互いに重複している場合には、時間帯ΔT2は、総合的不適切管理時間Tnとして決定される。
【0092】
さらに、図中に示すように、時間帯ΔT1において、第1不適切管理時間Tn1と、第2不適切管理時間Tn2と、第3不適切管理時間Tn3が存在している場合には、制御部2は、時間帯ΔT1を総合的不適切管理時間Tnとして決定する。
【0093】
このように、制御部2は、鎮静管理に関連する各種パラメータと、鎮痛管理に関連する各種パラメータと、筋弛緩管理に関連する各種パラメータに基づいて、総合的不適切管理時間Tnと総合的除外時間Teとを特定する。その後、制御部2は、以下式(7)に基づいて総合的適切管理時間Trを算出する。
Tr=T0-Tn-Te・・・・(7)
【0094】
次に、制御部2は、手術時間T0と、総合的適切管理時間Trと、総合的除外時間Teと、以下式(8)とに基づいて、総合的麻酔管理評価指標Pkを算出する(ステップS47)。
Pk=Tr/(T0-Te)×100%・・・(8)
【0095】
その後、制御部2は、算出された総合的麻酔管理評価指標Pkを出力する。例えば、制御部2は、総合的麻酔管理評価指標Pkに関する情報を表示部5に表示してもよい。特に、制御部2は、麻酔管理(鎮静管理、鎮痛管理、筋弛緩管理)に関連する情報が表示された表示画面上に総合的麻酔管理評価指標Pkに関する情報を表示してもよい。また、制御部2は、総合的麻酔管理評価指標Pkに関する情報を患者Pの手術に関連する情報に関連付けた状態で記憶装置3に保存してもよい。さらに、総合的麻酔管理評価指標Pk、鎮静管理評価指標Ps、筋弛緩管理評価指標Pm、鎮痛管理評価指標Paに関連する情報が、患者Pの手術に関連する情報と共に記憶装置3に保存されてもよい。
【0096】
本実施形態によれば、鎮静管理に関連する各種パラメータと、鎮痛管理に関連する各種パラメータと、筋弛緩管理に関連する各種パラメータとに基づいて、患者Pの麻酔管理に対する総合的な評価指標である総合的麻酔管理評価指標Pkが算出される。このように、総合的麻酔管理評価指標Pkを通じて、鎮静管理、鎮痛管理、筋弛緩管理のそれぞれの巧拙を総合的且つ客観的に数値化及び可視化することができる。また、総合的麻酔管理評価指標Pkに関する情報が患者Pの手術を担当した麻酔科医に提示されることで、当該麻酔科医は、麻酔管理の総合的且つ客観的な評価を知ることができる。さらに、患者Pの麻酔管理が自動麻酔管理システムによって行われた場合には、総合的麻酔管理評価指標Pkを通じて当該自動麻酔管理システムによって行われた麻酔管理の巧拙を総合的且つ客観的に評価することが可能となる。
【0097】
(総合的麻酔管理評価指標の算出方法の変形例)
次に、総合的麻酔管理評価指標Pkの算出方法の変形例について
図13を参照して以下に説明する。
図13は、総合的麻酔管理評価指標Pkの算出方法の変形例を説明するためのフローチャートである。
【0098】
図13に示すように、ステップS50において、制御部2は、脳波センサ10から脳波データを取得した後に、鎮静管理評価指標Psを算出する(ステップS51)。この点において、制御部2は、
図3に示すステップS2~S10の処理を通じて、鎮静管理評価指標Psを算出することができる。
【0099】
次に、ステップS52において、制御部2は、心拍数データ及び/又は血圧データを取得した後に、鎮痛管理評価指標Paを算出する(ステップS53)。この点において、制御部2は、
図5に示すステップS21~S28の処理を通じて、鎮痛管理評価指標Paを算出することができる。
【0100】
次に、ステップS54において、制御部2は、TOFカウント値を取得した後に、筋弛緩管理評価指標Pmを算出する(ステップS55)。この点において、制御部2は、
図4に示すステップS12~S17の処理を通じて、筋弛緩管理評価指標Pmを算出することができる。
【0101】
その後、制御部2は、鎮静管理評価指標Psと、鎮痛管理評価指標Paと、筋弛緩管理評価指標Pmとに基づいて、総合的麻酔管理評価指標Pkを算出すると共に出力する(ステップS56)。例えば、制御部2は、鎮静管理評価指標Ps、鎮痛管理評価指標Pa、筋弛緩管理評価指標Pmの平均値を総合的麻酔管理評価指標Pkとして決定してもよい(Pk=(Ps+Pa+Pm)/3)。さらに、制御部2は、鎮静管理評価指標Psと、鎮痛管理評価指標Paと、筋弛緩管理評価指標Pmとのうち最も大きい値又は最も小さい値を総合的麻酔管理評価指標Pkとして決定してもよい。本例でも同様に、総合的麻酔管理評価指標Pkを通じて、鎮静管理、鎮痛管理、筋弛緩管理のそれぞれの巧拙を総合的且つ客観的に数値化及び可視化することができる。
【0102】
また、本実施形態に係る処理装置1をソフトウェアによって実現するためには、生体情報処理プログラムが記憶装置3又はROMに予め組み込まれていてもよい。または、生体情報処理プログラムは、磁気ディスク(例えば、HDD、フロッピーディスク)、光ディスク(例えば、CD-ROM,DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)ディスク)、光磁気ディスク(例えば、MO)、フラッシュメモリ(例えば、SDカード、USBメモリ、SSD)等のコンピュータ読取可能な記憶媒体に格納されていてもよい。この場合、記憶媒体に格納された生体情報処理プログラムが記憶装置3に組み込まれてもよい。さらに、記憶装置3に組み込まれた当該プログラムがRAM上にロードされた上で、プロセッサがRAM上にロードされた当該プログラムを実行してもよい。このように、本実施形態に係る生体情報処理方法が処理装置1によって実行される。
【0103】
また、生体情報処理プログラムは、通信ネットワーク上のコンピュータからネットワークインターフェース4を介してダウンロードされてもよい。この場合も同様に、ダウンロードされた当該プログラムが記憶装置3に組み込まれてもよい。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではない。本実施形態は一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【0105】
例えば、
図3に示した鎮静管理評価指標の算出方法では、SQI値が80%未満である場合に、現在のBIS値の取得時間が除外時間としてカウントされているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。この点において、ステップS3及びS4の処理が省略されてもよい。つまり、ステップS2の処理が実行された後にステップS5の処理が実行されてもよい。
【0106】
また、
図5に示した鎮痛管理評価指標の算出方法では、心拍数波形の極大値に対応する時刻tpとベースラインから所定の割合だけ上昇した立ち上がり点に対応する時刻trとの間の時間が不適切管理時間としてカウントされているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、制御部2は、時刻tpから所定時間経過した時刻twを特定した上で、時刻twと時刻trとの間の時間を不適切管理時間としてカウントしてもよい。時刻twは、心拍数の値が当該極大値のγ%(γ≦100%)となる時刻tzと時刻tpとの間の時刻であってもよい。特に、時刻twは、心拍数の値がベースラインとなる時刻tzと時刻tpとの間の時刻であってもよい。
【0107】
また、時刻tpから所定時間経過した時刻twは医療従事者によって選択されてもよい。この場合、制御部2は、医療従事者からの入力操作に応じて、時刻twを特定した上で、時刻twと時刻trとの間の時間を不適切管理時間としてカウントしてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1:生体情報処理装置(処理装置)
2:制御部
3:記憶装置
4:ネットワークインターフェース
5:表示部
6:入力操作部
7:センサインターフェース
8:バス
10:脳波センサ
12:刺激反応センサ
13:疼痛反応センサ