(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108123
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】化学除染方法及び化学除染装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20220715BHJP
G21D 1/00 20060101ALI20220715BHJP
G21C 19/02 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
G21F9/28 525D
G21D1/00 Y
G21C19/02 090
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002981
(22)【出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】石田 一成
(72)【発明者】
【氏名】細川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】大平 高史
(57)【要約】
【課題】還元除染剤の分解時間を短縮する化学除染方法を提供する。
【解決手段】BWRプラントの対象配管に対する酸化除染、酸化除染剤の分解、及びシュウ酸水溶液を用いた還元除染が実施される。その後、シュウ酸が分解される(S7)。すなわち、分解装置の上流での紫外線のシュウ酸水溶液への照射(S8)によりシュウ酸の一部が分解され、その水溶液内のFe
3+がFe
2+に変換される。分解装置に過酸化水素を供給する(S9)。分解装置内で、触媒と過酸化水素によりシュウ酸が分解され、Fe
2+と過酸化水素が反応してFe
3+及びOH*が生成され、シュウ酸がOH*により分解される。分解装置から流出したその水溶液の腐食電位を測定する(S11)。濃度比把握装置がその腐食電位に基づいてFe
3+/Fe
2+(濃度比)を求め(S12)、制御装置がFe
3+/Fe
2+に基づいて分解装置への過酸化水素の供給量を制御する(S14及びS16)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元除染剤の水溶液を、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面に接触させて前記構成部材の還元除染を実施し、
前記水溶液に含まれる還元除染剤を分解する工程において、
酸化剤が供給される分解装置から排出される前記水溶液の腐食電位を測定し、
測定された腐食電位に基づいて、前記水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求め、
前記濃度比に基づいて、前記分解装置への前記酸化剤の供給量を制御することを特徴とする化学除染方法。
【請求項2】
求められた前記濃度比を表示する請求項1に記載の化学除染方法。
【請求項3】
前記分解装置に供給される前の前記水溶液に紫外線を照射する請求項1または2に記載の化学除染方法。
【請求項4】
前記水溶液への紫外線照射によって前記水溶液に含まれる還元除染剤を分解し、前記分解装置内に存在する触媒及び前記分解装置に供給される前記酸化剤によって前記還元除染剤が分解される請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化学除染方法。
【請求項5】
前記濃度比に基づいて前記分解装置への前記酸化剤の供給量が過剰であるかを判定する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化学除染方法。
【請求項6】
前記濃度比が1よりも大きいとき、前記分解装置への前記酸化剤の供給量が過剰であると判定する請求項5に記載の化学除染方法。
【請求項7】
前記分解装置への前記酸化剤の供給量が過剰であるとき、前記分解装置への前記酸化剤の供給量を減少させる請求項5または6に記載の化学除染方法。
【請求項8】
前記分解装置への前記酸化剤の供給量が過剰ではないと判定され、且つ前記濃度比が1以下である濃度比設定値よりも小さいと判定されたとき、前記濃度比が前記濃度比設定値になるように、前記分解装置への前記酸化剤の供給量を増加させる請求項5または6に記載の化学除染方法。
【請求項9】
前記分解装置から排出される前記水溶液を、前記腐食電位を測定する位置よりも上流において撹拌する請求項1ないし8のいずれか1項に記載の化学除染方法。
【請求項10】
前記濃度比に基づいた、前記分解装置への前記酸化剤の供給量の制御は、前記濃度比に基づいて、前記分解装置に流入する前記水溶液の前記酸化剤の濃度を求め、前記酸化剤の濃度に基づいて、前記分解装置への前記酸化剤の供給量を制御することである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化学除染方法。
【請求項11】
原子炉圧力容器に連絡される、原子力プラントの構成部材である化学除染対象の第1配管に、この第1配管とは別の第2配管を接続して前記第1配管及び前記第2配管を含む閉ループを形成し、
前記第2配管から前記第1配管に還元除染剤を含む水溶液を供給して、前記第2配管の内面に対する還元除染を実施し、
前記水溶液に含まれる前記還元除染剤を分解する工程において、
前記第2配管に連絡され、前記第1配管から前記第2配管に戻される前記水溶液、及び酸化剤が供給される分解装置から排出される前記水溶液の腐食電位を測定し、
測定された腐食電位に基づいて、前記水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求め、
前記濃度比に基づいて、前記分解装置への前記酸化剤の供給量を制御することを特徴とする化学除染方法。
【請求項12】
前記第2配管により前記分解装置に供給される前の前記水溶液に紫外線を照射する請求項11に記載の化学除染方法。
【請求項13】
前記水溶液への紫外線照射によって前記水溶液に含まれる前記還元除染剤を分解し、前記分解装置内に存在する触媒及び前記分解装置に供給される前記酸化剤によって前記還元除染剤が分解される請求項12に記載の化学除染方法。
【請求項14】
原子力プラントの構成部材である化学除染対象の配管系に接続され、前記配管系に還元除染剤を含む水溶液を供給する循環配管と、
前記循環配管に連絡され、前記循環配管内の前記水溶液、及び酸化剤が供給される分解装置から排出される前記水溶液の腐食電位を測定する腐食電位測定装置と、
前記腐食電位測定装置で測定される腐食電位に基づいて、前記水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求める濃度比把握装置と、
前記濃度比把握装置で求められる前記濃度比に基づいて、前記分解装置への前記酸化剤の供給量を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする化学除染装置。
【請求項15】
前記分解装置に供給される前記水溶液に紫外線を照射する紫外線照射装置を備えた請求項14に記載の化学除染装置。
【請求項16】
前記腐食電位を測定する位置よりも上流で、前記分解装置から排出される前記水溶液を撹拌する混合装置を備えた請求項14または15に記載の化学除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学除染方法及び化学除染装置に係り、特に、沸騰水型原子力プラントに適用するのに好適な化学除染方法及び化学除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、沸騰水型原子力プラント(以下、BWRプラントという)は、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された炉水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、その一部が蒸気になる。この蒸気は、RPVからタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水としてRPVに供給される。給水は、RPV内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。炉水とは、RPV内に存在する冷却水である。
【0003】
放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等のBWRプラントの構成部材の炉水と接する表面で発生するため、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼及びニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水と接触することを防いでいる。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
【0004】
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在が避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した不純物(例えば、金属元素)は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂により放出される中性子の照射によって原子核反応を起こし、コバルト60,コバルト58,クロム51,マンガン54等の放射性核種になる。
【0005】
これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままである。しかしながら、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水に含まれる放射性物質は、RPVに連絡された原子炉浄化系によって取り除かれる。原子炉浄化系で除去されなかった放射性物質は炉水とともに再循環系などを循環している間に、原子力プラントの構成部材(例えば、配管)の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材の表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被ばくの原因となる。
【0006】
その従事者の被ばく線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被ばく線量を可能な限り低くする必要が生じている。
【0007】
そこで、定検作業での被ばく線量が高いことが予想される場合には、配管に付着した放射性核種を溶解して除去する化学除染が実施される。
【0008】
例えば、特開2000-105295号公報は、原子力プラントの化学除染対象物(例えば、配管)の表面に対する、シュウ酸(還元除染剤)及びヒドラジンを含む還元除染液による還元除染を実施し、この還元除染に用いた還元除染液に含まれる還元除染剤を分解し、その表面に対して、酸化除染剤、例えば、過マンガン酸カリウムを含む酸化除染液を用いた酸化除染を実施することを記載する。還元除染剤の分解工程では、還元除染剤であるシュウ酸は、過酸化水素が供給される、触媒を有する分解装置で分解され、さらに、分解装置と並列に配置された紫外線照射装置における還元除染液への紫外線照射によっても分解されている。還元除染液への紫外線照射は、シュウ酸の分解と共に、還元除染液による還元除染で生じた3価の鉄錯体をFe2+に還元する。この還元により生じたFe2+はカチオン交換樹脂塔で除去されるため、分解装置内に達した、陽イオンである3価の鉄錯体が分解装置内の触媒の表面に析出し、触媒の寿命が短くなることが防止される。
【0009】
特開2018-159647号公報に記載された原子力プラントの化学除染方法では、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+をFe2+に還元するため、紫外線照射装置においてシュウ酸水溶液に紫外線が照射され、紫外線を照射されたシュウ酸水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給することにより、シュウ酸水溶液に含まれるFe2+がカチオン交換樹脂塔で除去される。Fe2+を除去したシュウ酸水溶液を、過酸化水素が供給される分解装置に供給して分解装置内でシュウ酸を分解する。紫外線の照射によりFe3+がFe2+に還元されるため、カチオン交換樹脂塔内で陽イオン交換樹脂に吸着される鉄イオン(Fe2+)が増加する。なお、Fe3+は陽イオン交換樹脂に吸着されない。紫外線が照射されてカチオン交換樹脂塔を通過したシュウ酸水溶液は、内部に触媒が存在し過酸化水素が供給される分解装置に供給され、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸が分解装置内で触媒及び過酸化水素の作用により分解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000-105295号公報
【特許文献2】特開2018-159647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の化学除染方法は、過酸化水素及び触媒の作用を利用して還元除染剤であるシュウ酸を分解する工程を含んでいる。このような還元除染剤の分解工程を有する化学除染方法では、シュウ酸の分解時にシュウ酸水溶液に過酸化水素が過剰に供給されると、分解装置から流出するシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれる。このため、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液がカチオン交換樹脂塔に流入したとき、その過酸化水素がカチオン交換樹脂塔内の陽イオン交換樹脂と接触し、陽イオン交換樹脂を劣化させるという問題が生じる。
【0012】
カチオン交換樹脂塔内の陽イオン交換樹脂の劣化を避けるためには、過酸化水素が分解装置から排出されるシュウ酸水溶液に含まれないように、分解装置への過酸化水素の供給量を制御しなければならない。このため、還元除染剤の分解工程において分解装置の下流側でシュウ酸水溶液を定期的にサンプリングし、サンプリングしたシュウ酸水溶液をホットラボで分析して、分解装置から排出されたシュウ酸水溶液の過酸化水素濃度を把握している。もし、分解装置から排出されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれている場合には、分解装置に供給する過酸化水素の供給量を低減させる必要がある。
【0013】
このような分解装置への過酸化水素の供給量の調節には、シュウ酸水溶液をサンプリングして分析する必要があるため、還元除染剤の分解工程に要する時間が長くなる。
【0014】
本発明の目的は、還元除染剤の分解に要する時間を短縮することができる化学除染方法及び化学除染装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成する本発明の特徴は、還元除染剤の水溶液を、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面に接触させて前記構成部材の還元除染を実施し、
その水溶液に含まれる前記還元除染剤を分解する工程において、
酸化剤が供給される分解装置から排出されるその水溶液の腐食電位を測定し、
測定された腐食電位に基づいて、その水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求め、
その濃度比に基づいて、分解装置への酸化剤の供給量を制御することにある。
【0016】
酸化剤を供給する分解装置から排出される水溶液の、測定された腐食電位に基づいて、Fe2+に対するFe3+の濃度比(Fe3+/Fe2+)を求め、求められたその濃度比に基づいて、分解装置への酸化剤の供給量を制御するため、還元除染剤の分解に要する時間を著しく短縮することができる。
【0017】
原子炉圧力容器に連絡される、原子力プラントの構成部材である化学除染対象の第1配管に、この第1配管とは別の第2配管を接続して第1配管及び第2配管を含む閉ループを形成し、
第2配管から第1配管に還元除染剤を含む水溶液を供給して、第2配管の内面に対する還元除染を実施し、
その水溶液に含まれる還元除染剤を分解する工程において、
第2配管に連絡され、第1配管から第2配管に戻されるその水溶液、及び酸化剤が供給される分解装置から排出されるその水溶液の腐食電位を測定し、
測定された腐食電位に基づいて、その水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求め、
その濃度比に基づいて、分解装置への酸化剤の供給量を制御することによっても、上記の目的を達成することができる。
【0018】
原子力プラントの構成部材である化学除染対象の配管系に接続され、その配管系に還元除染剤を含む水溶液を供給する循環配管と、
循環配管に連絡され、循環配管内のその水溶液、及び酸化剤が供給される分解装置から排出されるその水溶液の腐食電位を測定する腐食電位測定装置と、
腐食電位測定装置で測定される腐食電位に基づいて、その水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求める濃度比把握装置と、
濃度比把握装置で求められる濃度比に基づいて、分解装置への酸化剤の供給量を制御する制御装置とを備える化学除染装置によっても、上記の目的を達成することができる。
【0019】
(A1)還元除染剤の水溶液を、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面に接触させてその構成部材の還元除染を実施し、
その水溶液に含まれる還元除染剤を分解する工程において、
酸化剤が供給される分解装置から排出されるその水溶液の腐食電位を測定し、
測定された腐食電位に基づいて、その水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求め、
その濃度比に基づいて、その分解装置への酸化剤の供給量を制御する化学除染方法であって
その濃度比に基づいた、その分解装置への酸化剤の供給量の制御は、その濃度比に基づいて、その分解装置に流入するその水溶液の酸化剤の濃度を求め、酸化剤の濃度に基づいて、その分解装置への酸化剤の供給量を制御するその化学除染方法において、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0020】
なお、上記の(A1)の構成のうち、「還元除染剤の水溶液を、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面に接触させて前記構成部材の還元除染を実施し」から「その濃度比に基づいて、その分解装置への酸化剤の供給量を制御する化学除染方法であって」までの記載は、請求項1に記載された構成に対応する。また、上記の(A1)の構成のうち、「その濃度比に基づいた、その分解装置への酸化剤の供給量の制御」から「酸化剤の濃度に基づいて、その分解装置への酸化剤の供給量を制御するその化学除染方法」までの記載は、請求項10に記載された構成に対応する。
【0021】
(A2)好ましくは、上記の(A1)において、求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比を表示することが望ましい。
【0022】
(A3)好ましくは、上記の(A1)または(A2)において、その分解装置に供給される前のその水溶液に紫外線を照射することが望ましい。
【0023】
(A4)好ましくは、上記の(A1)ないし(A3)のいずれかにおいて、その水溶液への紫外線照射によってその水溶液に含まれる還元除染剤を分解し、その分解装置内に存在する触媒及びその分解装置に供給される酸化剤によってその還元除染剤が分解されることが望ましい。
【0024】
(A5)好ましくは、上記の(A1)ないし(A4)のいずれかにおいて、酸化剤の濃度に基づいてその分解装置への酸化剤の供給量が過剰であるかを判定することが望ましい。
【0025】
(A6)好ましくは、上記の(A1)ないし(A4)のいずれかにおいて、前記濃度比の1に対応する酸化剤の第1濃度設定値よりも大きいとき、その分解装置への酸化剤の供給量が過剰であると判定することが望ましい。
【0026】
(A7)好ましくは、上記の(A5)または(A6)において、その分解装置への酸化剤の供給量が過剰であるとき、その分解装置への酸化剤の供給量を減少させることが望ましい。
【0027】
(A8)好ましくは、上記の(A5)または(A6)において、その分解装置への酸化剤の供給量が過剰ではないと判定され、且つ酸化剤の濃度が第1濃度設定値以下である第2濃度設定値よりも小さいと判定されたとき、酸化剤の濃度が第2濃度比設定値になるように、その分解装置への酸化剤の供給量を増加させることが望ましい。
(A9)好ましくは、上記の(A1)ないし(A8)のいずれかにおいて、その分解装置から排出されるその水溶液を、前記腐食電位を測定する位置よりも上流において撹拌することが望ましい。
(B1)原子炉圧力容器に連絡される、原子力プラントの構成部材である化学除染対象の第1配管に、この第1配管とは別の第2配管を接続して第1配管及び第2配管を含む閉ループを形成し、
第2配管から第1配管に還元除染剤を含む水溶液を供給して、第2配管の内面に対する還元除染を実施し、
その水溶液に含まれる還元除染剤を分解する工程において、
第2配管に連絡され、第1配管から第2配管に戻されるその水溶液、及び酸化剤が供給される分解装置から排出されるその水溶液の腐食電位を測定し、
測定された腐食電位に基づいて、その水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求め、
その濃度比に基づいて、その分解装置への酸化剤の供給量を制御する化学除染方法において、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0028】
(B2)好ましくは、上記の(B1)において、その濃度比に基づいた、その分解装置への酸化剤の供給量の制御は、その濃度比に基づいて、その分解装置に流入するその水溶液の酸化剤の濃度を求め、酸化剤の濃度に基づいて、その分解装置への酸化剤の供給量を制御することが望ましい。
【0029】
(B3)好ましくは、上記の(B2)において、第2配管によりその分解装置に供給される前のその水溶液に紫外線を照射することが望ましい。
【0030】
(B4)好ましくは、上記の(B3)において、その水溶液への紫外線照射によってその水溶液に含まれる還元除染剤を分解し、その分解装置内に存在する触媒及びその分解装置に供給される酸化剤によって還元除染剤が分解されることが望ましい。
【0031】
(C1)原子力プラントの構成部材である化学除染対象の配管系に接続され、その配管系に還元除染剤を含む水溶液を供給する循環配管と、
その循環配管に連絡され、その循環配管内のその水溶液、及び酸化剤が供給される分解装置から排出されるその水溶液の腐食電位を測定する腐食電位測定装置と、
その腐食電位測定装置で測定される腐食電位に基づいて、その水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求める濃度比把握装置と、
その濃度比把握装置で求められるその濃度比に基づいて、その分解装置への酸化剤の供給量を制御する制御装置とを備えた化学除染装置において、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0032】
(C2)好ましくは、上記の(C1)において、その濃度比に基づいた、その分解装置への酸化剤の供給量の制御を行うその制御装置は、その濃度比に基づいて、その分解装置に流入するその水溶液の酸化剤の濃度を求め、求められる酸化剤の濃度に基づいて、その分解装置への酸化剤の供給量の制御を行う制御装置であることが望ましい。
【0033】
(C3)好ましくは、上記の(C2)において、その分解装置に供給されるその水溶液に紫外線を照射する紫外線照射装置を備えることが望ましい。
【0034】
(C4)好ましくは、上記の(C3)において、その腐食電位測定装置配置した位置よりも上流で、その分解装置から排出されるその水溶液を撹拌する混合装置を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、還元除染剤の分解に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の好適な一実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例1の化学除染方法の手順のうちステップS1~S6を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の好適な一実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例1の化学除染方法の手順のうちステップS7~S19を示すフローチャートである。
【
図3】
図1及び
図2に示す実施例1の化学除染方法の実施に用いられる化学除染装置を、沸騰水型原子力プラントの再循環系配管に接続した状態を示す説明図である。
【
図4】
図3に示す化学除染装置の詳細構成図である。
【
図5】還元除染液におけるFe
2+の濃度に対するFe
3+の濃度の比と還元除染液の腐食電位の関係を示す特性図である。
【
図6】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例2の化学除染方法に用いられる化学除染装置の詳細構成図である。
【
図7】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例3の化学除染方法に用いられる化学除染装置の詳細構成図である。
【
図8】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例4の化学除染方法に用いられる化学除染装置を、沸騰水型原子力プラントの浄化系配管に接続した状態を示す説明図である。
【
図9】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例5の化学除染方法の手順のうちステップS7~S20を示すフローチャートである。
【
図10】実施例5の化学除染方法に用いられる化学除染装置の詳細構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明者らは、原子力プラントに適用される化学除染方法における還元除染剤の分解工程に要する時間を短縮できる、原子力プラントに適用される化学除染方法に関して、種々の検討を行った。
【0038】
これらの検討において、還元除染剤の分解工程の時間を長くしている要因である、シュウ酸水溶液のサンプリング及び分析を行うことなしに、分解装置から流出されるシュウ酸水溶液の過酸化水素濃度を把握できる方法がないかを発明者らは考えた。その結果、発明者らは、触媒を有する分解装置に供給されるシュウ酸水溶液に紫外線を照射することにした。
【0039】
原子力プラントの化学除染対象物の表面に対する、シュウ酸水溶液を用いた還元除染によって、化学除染対象物(原子力プラントの構成部材)の表面に形成された、鉄及び放射性核種を含む酸化皮膜が溶解され、シュウ酸水溶液にFe3+及び放射性核種のイオンがシュウ酸水溶液に溶出する。シュウ酸((COOH)2)及びFe3+を含むシュウ酸水溶液に、前述したように、紫外線を照射すると、下記の式(1)に示す反応が生じ、Fe3+がFe2+に変化する。
【0040】
Fe3+ + (COOH)2 → Fe2+ + CO2 + H2O(紫外線照射環境)
…(1)
式(1)の反応で生じたFe2+を含むシュウ酸水溶液を分解装置に供給し、この分解装置に過酸化水素を供給すると、分解装置においてFe2+と過酸化水素が反応(下記の式(2)参照)し、Fe3+及びOH*が生成される。
【0041】
Fe2+ + H2O2 → Fe3+ + OH* + OH- …(2)
OH*とシュウ酸が反応すると、下記の式(3)に示すように、シュウ酸が水(H2O)と二酸化炭素(CO2)に分解される。
【0042】
OH* + (COOH)2 → H2O +CO2 …(3)
式(2)に示す反応で生じたFe3+は、式(1)で表わされる反応にも寄与し、式(1)の反応を促進させる。
【0043】
式(2)の反応に用いられる過酸化水素がシュウ酸水溶液に過剰に注入されると、注入された過酸化水素が、シュウ酸の分解で完全に消費されず、カチオン交換樹脂塔に流入してカチオン交換樹脂塔内の陽イオン交換樹脂を劣化させる。このため、過酸化水素をシュウ酸水溶液に過剰に注入することはできない。
【0044】
そこで、発明者らは、分解装置の下流側で分解装置から排出されたシュウ酸水溶液を定期的にサンプリングし、サンプリングしたシュウ酸水溶液を分析して分解装置から排出されたシュウ酸水溶液の過酸化水素濃度を求めることなく、分解装置から過酸化水素が流出しないように、分解装置への過酸化水素供給量を調節できる方法がないかについて検討を行った。
【0045】
その結果、発明者らは、分解装置から排出されるシュウ酸水溶液に含まれるFe3+に着目した。Fe3+は、式(2)に示されるように、シュウ酸水溶液に含まれるFe2+とシュウ酸水溶液に供給された過酸化水素が反応することにより生成される。シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が増加すると、Fe3+の生成量が増加し、分解装置から排出されるシュウ酸水溶液に含まれるFe3+の濃度が増加することが分かった。発明者らは、シュウ酸水溶液に含まれるFe2+の濃度変化の影響を抑えるために、分解装置から排出されるシュウ酸水溶液に含まれるFe3+の濃度を、そのシュウ酸水溶液に含まれるFe2+に対するそのシュウ酸水溶液に含まれるFe3+の濃度比(Fe3+/Fe2+)で表すことにした。
【0046】
この濃度比を用いることによって、還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)とFe3+/Fe2+は、下記の式(4)で表されるネルンストの法則で定式化することが可能になった。この結果、発明者らは、分解装置から排出されるシュウ酸水溶液の腐食電位を測定し、測定で得られた腐食電位を式(4)のEに代入して求められた濃度比Fe3+/Fe2+に基づいて分解装置への酸化剤(例えば、過酸化水素)の供給量を制御する方法を新たに見出した。
【0047】
E=(RT/nF)×log([Fe3+]/[Fe2+]) …(4)
ここで、Eは還元除染水溶液(シュウ酸水溶液)の腐食電位、Rは気体定数、Tは還元除染水溶液の温度、nは価数、及びFはファラデー定数である。
【0048】
式(1)~式(3)の各反応と腐食電位の関係を調べるため、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比率と腐食電位の関係を実験により求めた。これらの関係を
図5に示す。
図5から明らかであるように、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比率が1を超えると、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比率と腐食電位の関係を表す直線の傾きが急激に大きくなる。つまり、シュウ酸水溶液(還元除染水溶液)の腐食電位を用いることによって、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比率を求めることが可能となり、その濃度比率と腐食電位の関係から、式(2)で表される過酸化水素(酸化剤)のシュウ酸水溶液への注入量が過剰であるか不足であるかが判定することができる。
【0049】
具体的には、腐食電位計を用いて、過酸化水素を注入したシュウ酸水溶液の腐食電位を測定し、測定された腐食電位に基づいて、
図5に示される、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比率と腐食電位の関係から、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比率を求める。求められたその濃度比率が「1」よりも大きいときには、過酸化水素が過剰になっており、その濃度比率が、例えば、「1」になるように、シュウ酸水溶液への過酸化水素の注入量を減少させる。その濃度比率が「1」よりも小さいときには、過酸化水素が不足しており、過酸化水素のシュウ酸水溶液への注入が実施される。このときには、例えば、「1」になるように、シュウ酸水溶液への過酸化水素の注入量を増加させる。また、その濃度比率が「1」のときには、シュウ酸水溶液への過酸化水素の注入量は、そのまま、維持される。
【0050】
Fe2+に対するFe3+の濃度比率の設定値を「1」としたとき、その濃度比率が「1」よりも小さいときには、設定値である「1」に近づけるように、過酸化水素をシュウ酸水溶液に注入するとよい。その濃度比率が、設定値と同じ「1」であるとき、注入した過酸化水素が分解装置から流出しなく、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸の分解効率が最も大きくなる。このため、その濃度比率は「1」に近づける方がよい。
【0051】
なお、Fe2+に対するFe3+の濃度比率の設定値を、或る好ましい範囲、例えば、0.8以上1.0以下の範囲内の値に設定したときには、好ましい0.8以上1.0以下の範囲内の設定値になるように、シュウ酸水溶液への過酸化水素の注入量を制御してもよい。Fe2+に対するFe3+の濃度比率が「1」よりも小さいときには、その濃度比率を、或る範囲、例えば、0.8以上1.0以下の範囲内の設定値になるように、シュウ酸水溶液への過酸化水素の注入量を制御してもよい。
【0052】
測定で得られた、分解装置から排出されるシュウ酸水溶液の腐食電位を式(4)のEに代入する替りに、測定された腐食電位に対応する、Fe
2+に対するそのシュウ酸水溶液に含まれるFe
3+の濃度比(Fe
3+/Fe
2+)を
図5の特性図に基づいて求め、濃度比Fe
3+/Fe
2+に基づいて分解装置への酸化剤(例えば、過酸化水素)の供給量を制御してもよい。
【0053】
また、分解装置の下流側で測定された腐食電位を、式(4)のEに代入して濃度比Fe3+/Fe2+を求め、求められた濃度比Fe3+/Fe2+に基づいて分解装置に流入する還元除染水溶液の、酸化剤(例えば、過酸化水素)の濃度を求めることができる。このため、分解装置への酸化剤の供給量は、求められたその酸化剤濃度に基づいても制御することができる。
【0054】
分解装置に流入する還元除染水溶液の、酸化剤の濃度は、
図5の特性図を用いて、測定されたその腐食電位に対応する濃度比Fe
3+/Fe
2+を求め、求められた濃度比Fe
3+/Fe
2+に基づいて求めることもできる。このようにして求められた分解装置に流入する還元除染水溶液の、酸化剤の濃度に基づいて、分解装置への酸化剤の供給量を制御してもよい。
【0055】
以上の検討結果に基づいて、発明者らは、(a)酸化剤が供給される分解装置から排出される、還元除染剤の水溶液の腐食電位を測定し、測定された腐食電位に基づいて、その水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求め、この濃度比に基づいて、その分解装置への酸化剤の供給量を制御する、及び(b)上記の測定された腐食電位に基づいて、その水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比を求め、この濃度比に基づいて、その分解装置に流入するその水溶液の酸化剤の濃度を求め、この酸化剤の濃度に基づいて、その分解装置への酸化剤の供給量を制御する、のいずれかの制御を実施することによって、還元除染剤の水溶液のサンプリング及び分析を行うことなしに、分解装置への酸化剤の供給量を制御することができるという新たな知見を見出すことができた。
【0056】
この新たな知見を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。実施例1ないし4のそれぞれは、(a)の方法によって分解装置への酸化剤の供給量を制御する実施例であって、実施例5は、(b)の方法によって分解装置への酸化剤の供給量を制御する実施例である。
【実施例0057】
本発明の好適な一実施例である実施例1の化学除染方法を、
図1、
図2、
図3及び
図4を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)の再循環系配管に適用される。
【0058】
このBWRプラントの概略構成を、
図3を用いて説明する。BWRプラント1は、原子炉2、タービン9、復水器10、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉2は、蒸気発生装置であり、炉心4を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)3を有し、RPV3内で炉心4を取り囲む炉心シュラウド(図示せず)の外面とRPV3の内面との間に形成される環状のダウンカマ内に複数のジェットポンプ5を設置している。炉心4には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。
【0059】
再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管6、及び再循環系配管6に設置された再循環ポンプ7を有する。給水系は、復水器10とRPV3を連絡する給水配管11に、復水ポンプ12、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)13、低圧給水加熱器14A、給水ポンプ15及び高圧給水加熱器14Bを、復水器10からRPV3に向って、この順に設置して構成されている。原子炉浄化系は、再循環系配管6と給水配管11を連絡する浄化系配管18に、浄化系ポンプ19、再生熱交換器20、非再生熱交換器21及び炉水浄化装置22をこの順に設置している。浄化系配管18は、再循環ポンプ7の上流で再循環系配管6に接続される。原子炉2は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器24内に設置される。
【0060】
RPV3内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ7で昇圧され、再循環系配管6を通ってジェットポンプ5内に噴射される。ダウンカマ内でジェットポンプ5のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ5内に吸引され、ジェットポンプ5内に噴射された前述の炉水と共に炉心4に供給される。炉心4に供給された炉水は、燃料集合体内の燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、その一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV3内に設置された気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)で水分が除去された後、主蒸気配管8を通ってタービン9に導かれ、タービン9を回転させる。タービン9に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。
【0061】
タービン9から排出された蒸気は、復水器10で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管11を通りRPV3内に供給される。給水配管11を流れる給水は、復水ポンプ12で昇圧され、復水浄化装置13で不純物が除去され、給水ポンプ15でさらに昇圧される。この給水は、低圧給水加熱器14A及び高圧給水加熱器14Bで抽気配管16によりタービン9から抽気された抽気蒸気によって加熱されてRPV3内に導かれる。高圧給水加熱器14B及び低圧給水加熱器14Aに接続されドレン水回収配管17が、復水器10に接続される。
【0062】
再循環系配管6内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ19の駆動によって浄化系配管18内に流入し、再生熱交換器20及び非再生熱交換器21で冷却された後、炉水浄化装置22で浄化される。浄化された炉水は、再生熱交換器20で加熱されて浄化系配管18及び給水配管11を経てRPV3内に戻される。
【0063】
本実施例の化学除染方法では、化学除染装置25が用いられ、この化学除染装置25が、
図3に示すように、再循環系配管6に接続される。
【0064】
化学除染装置25の詳細な構成を、
図4を用いて説明する。
【0065】
化学除染装置25は、循環配管26、循環ポンプ27及び44、加熱器28、カチオン交換樹脂塔29、混床樹脂塔30、サージタンク33、pH調整剤注入装置34、冷却器48、紫外線照射装置31、分解装置32、酸化剤供給装置39、腐食電位計45、エゼクタ46、濃度比把握装置79、及び制御装置80を備える。
【0066】
開閉弁52、循環ポンプ27、弁53,54,55及び56、サージタンク33、循環ポンプ44、弁57及び開閉弁58が、上流よりこの順に循環配管26に設けられている。弁53をバイパスする配管60が循環配管26に接続され、弁59及びフィルタ47が配管60に設置される。加熱器28及び弁54をバイパスして両端が循環配管26に接続される配管62には、冷却器48及び弁61が設置される。両端が循環配管26に接続されて弁55をバイパスする配管64に、カチオン交換樹脂塔29及び弁63が設置される。両端が配管64に接続されてカチオン交換樹脂塔29及び弁63をバイパスする配管66に、混床樹脂塔30及び弁65が設置される。カチオン交換樹脂塔29は陽イオン交換樹脂を充填しており、混床樹脂塔30は陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を充填している。
【0067】
弁56をバイパスして両端が循環配管26に接続される配管67に、分解装置32が設置される。分解装置32は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。弁68及び腐食電位計45が、配管67の、分解装置32の下流側に設けられる。腐食電位計45は弁68の下流に位置する。紫外線照射装置31が、循環配管26と配管64の接続点と、配管67の、分解装置32の上流側の端部とにおける循環配管26との接続点の間で、循環配管26に設置される。
【0068】
サージタンク33が、弁56と循環ポンプ44の間で循環配管26に設置される。弁70及びエゼクタ46が設けられる配管69が、弁57と循環ポンプ44の間で循環配管26に接続され、さらに、サージタンク33に接続される。酸化除染剤である、例えば、過マンガン酸及び還元除染剤である、例えば、シュウ酸を、別々に、配管69内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ46に設けられる。還元除染剤としては、シュウ酸、マロン酸、ギ酸、アスコルビン酸のうちの少なくとも一種が用いられる。
【0069】
pH調整剤注入装置34が、薬液タンク35、注入ポンプ36及び注入配管37を有する。薬液タンク35は、注入ポンプ36及び弁38が設けられた注入配管37によって循環配管26に接続される。注入配管37は弁57と開閉弁58の間で循環配管26に接続される。pH調整剤であるヒドラジンの水溶液が、薬液タンク35内に充填される。
【0070】
酸化剤供給装置39が、薬液タンク40、供給ポンプ41及び供給配管42を有する。薬液タンク40は、供給ポンプ41及び弁43が設けられた供給配管42によって分解装置32よりも上流で配管67に接続される。酸化剤である過酸化水素が薬液タンク40内に充填される。この過酸化水素は、分解装置32内における、シュウ酸及びpH調整剤(例えば、ヒドラジン)の分解時に使用する化学物質として用いられる。酸化剤としては、過酸化水素以外に、オゾン、または酸素を溶解した水を用いてもよい。
【0071】
pH計50が配管60と循環配管26の接続点と弁53の間で循環配管26に取り付けられる。pH計51が注入配管37と循環配管26の接続点と開閉弁58の間で循環配管26に取り付けられる。さらに、導電率計49が注入配管37と循環配管26の接続点と弁57との間で循環配管26に取り付けられる。
【0072】
BWRプラント1は、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、炉心4に装荷されている燃料集合体の一部が使用済燃料集合体として取り出され、燃焼度0GWd/tの新しい燃料集合体が炉心4に装荷される。このような燃料交換が終了した後、BWRプラント1が、次の運転サイクルでの運転のために再起動される。燃料交換のためにBWRプラント1が停止されている期間を利用して、BWRプラント1の保守点検が行われる。
【0073】
上記のようにBWRプラント1の運転が停止されている期間中において、BWRプラント1におけるステンレス鋼部材の一つである、RPV3に連絡されるステンレス鋼製の配管系、例えば、再循環系配管6を対象にした、本実施例の化学除染方法が実施される。この化学方法では、鉄酸化物、クロム酸化物及び放射性核種を含む酸化皮膜が内面に形成された再循環系配管6に対して、酸化除染及び還元除染が実施される。
【0074】
BWRプラント1における再循環系配管6を対象にした、本実施例の化学除染方法を、
図1及び
図2に示す手順に基づいて以下に説明する。本実施例の化学除染方法では、化学除染装置25が用いられ、
図1及び
図2に示されるステップS1~S19の各工程が実施される。まず、化学除染方法が実施される配管系に、化学除染装置を接続する(ステップS1)。BWRプラント1の運転が停止された後のBWRプラント1の運転停止期間内で、仮設設備である化学除染装置25の循環配管26の両端が、ステンレス鋼製の再循環系配管6に接続される。再循環系配管6はBWRプラントの構成部材である。その循環配管26の再循環系配管6への接続作業を具体的に説明する。BWRプラント1運転停止後に、例えば、再循環系配管6に接続された浄化系配管18に設置された弁23のボンネットを開放してこのボンネットの浄化系ポンプ19側を封鎖する。化学除染装置25の循環配管26の一端部、すなわち、循環配管26の、開閉弁58が開の端部を弁23のフランジに接続する。これにより、循環配管26の一端部が再循環ポンプ7の上流で再循環系配管6に接続される。さらに、再循環ポンプ7の下流側で再循環系配管6に接続された、ドレン配管または計装配管などの枝管を切り離し、その切り離された枝管に、循環配管26の他端部、すなわち、循環配管26の、開閉弁52が開の端部を接続する。
【0075】
このように、循環配管26の両端部を再循環系配管6に接続することによって、再循環系配管6及び循環配管26を含む閉ループが形成される。再循環系配管6の両端部におけるRPV3の各開口部は、化学除染水溶液がRPV12内に流入しないように、プラグ(図示せず)でそれぞれ封鎖される。
【0076】
化学除染対象物の配管系及び化学除染装置に水張し、水張り後に水を昇温する(ステップS2)。再循環系配管6、及び化学除染装置25の循環配管26内に水張りする。この水張りは、例えば、原子炉補機冷却水系(図示せず)を用いて行う。開閉弁52,弁53,54,55,56,57及び開閉弁58をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、原子炉補機冷却水系から、循環配管26及び再循環系配管6内に冷却水が供給され、それらの配管内が水で満たされる。そして、循環ポンプ27及び44が駆動され、その水が、循環配管26及び再循環系配管6を含む閉ループ内で循環される。この閉ループ内を循環する水は、加熱器28により90℃に加熱される。
【0077】
酸化除染を実施する(ステップS3)。運転を経験したBWRプラント1は、RPV3内の炉水と接触する、再循環系配管6の内面に、鉄酸化物、クロム酸化物及び放射性核種を含んでいる酸化皮膜を形成している。この酸化皮膜を溶解する化学除染が実施される。この化学除染は、酸化除染及び還元除染を含む。
【0078】
まず、酸化除染について説明する。前述の閉ループ内を循環する水の温度が90℃になったとき、弁70を開いて、循環ポンプ44で昇圧された、循環配管26内の一部の水を配管69を通してサージタンク33に導く。ホッパに投入された過マンガン酸カリウムが、エゼクタ46により配管69内を流れる水に供給される。過マンガン酸カリウムは、サージタンク33内に導かれ、サージタンク33内で水によって溶解される。過マンガン酸カリウムの溶解によって、サージタンク33内で、酸化除染水溶液である過マンガン酸カリウム水溶液が生成される。生成された過マンガン酸カリウム水溶液は、サージタンク33から循環配管26に流出し、循環配管26から弁23を通して再循環系配管6に供給される。所定量の過マンガン酸カリウムがエゼクタ46から配管69内に供給された後、エゼクタ46からの過マンガン酸カリウムの供給を停止する。そして、供給された過マンガン酸カリウムの全量がサージタンク33内で溶解された後、弁70を閉じる。
【0079】
過マンガン酸カリウム水溶液は、再循環系配管6内で、再循環系配管6の内面に形成された、鉄酸化物、クロム酸化物及び放射性核種を含む酸化皮膜と接触し、酸化除染を実施する。この酸化除染によって、酸化皮膜に含まれたクロム酸化物が過マンガン酸カリウム水溶液に溶出する。pH計50は、再循環系配管6から循環配管26に戻った過マンガン酸水溶液のpHを測定する。このようなpH計50は、再循環系配管6から循環配管26に戻った過マンガン酸水溶液のpHを監視するために用いられる。過マンガン酸カリウム水溶液は、循環配管26及び再循環系配管6を含む閉ループ内を循環し、再循環系配管6の酸化除染を実施する。再循環系配管6に対する酸化除染時間が所定時間を経過したとき、その酸化除染を終了する。
【0080】
酸化除染液に含まれる酸化除染剤を分解する(ステップS4)。弁70を開いて循環配管26内を流れている過マンガン酸カリウム水溶液を配管69を通してサージタンク33内に供給する。この状態で、ホッパに投入された分解剤であるシュウ酸が、エゼクタ46により配管69内を流れる過マンガン酸カリウム水溶液に供給される。前述の閉ループ内に存在する過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムを分解させるために必要な量のシュウ酸が、エゼクタ46から配管69に供給される。供給されたシュウ酸は、配管69を通してサージタンク33に導かれ、サージタンク33内で溶解される。その量のシュウ酸の供給は、その閉ループ内に存在する過マンガン酸カリウム水溶液にシュウ酸が均等に混ざるように、過マンガン酸カリウム水溶液を配管69内に流しながら行われる。
【0081】
溶解されたシュウ酸によって、過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸が分解される。再循環系配管6から循環配管26に戻った過マンガン酸カリウム水溶液が紫色から無色透明になったことを確認し、酸化除染剤の分解工程を終了する。酸化除染剤の分解工程を終了した後、前述の閉ループには、シュウ酸の濃度が低いシュウ酸水溶液が循環する。
【0082】
還元除染を実施する(ステップS5)。過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムの分解が終了した後、弁70を開くことにより、循環配管26内を流れるシュウ酸の濃度が低いシュウ酸水溶液が配管69を通ってサージタンク33に導かれる。再び、ホッパに投入されたシュウ酸(還元除染剤)が、エゼクタ46により配管69内を流れるシュウ酸水溶液に供給され、サージタンク33に導かれる。サージタンク33内で、供給されたシュウ酸がシュウ酸水溶液に溶解され、還元除染に使用される、所定濃度のシュウ酸を含むシュウ酸水溶液(還元除染液)が生成される。
【0083】
生成されたシュウ酸水溶液のpH調整のために、弁38を開いて注入ポンプ36を駆動することにより、pH調整剤注入装置34の薬液タンク35内のpH調整剤であるヒドラジンの水溶液が、注入配管37を通して循環配管26内のシュウ酸水溶液に注入される。循環配管26内を流れるシュウ酸水溶液のpHがpH計51で計測される。この測定されたpH値に基づいて注入ポンプ36の回転数(または弁38の開度)を制御し、循環配管26へのヒドラジン水溶液の注入量を調節する。このヒドラジン水溶液の注入量の調節により、シュウ酸水溶液のpHが2.5に調節される。
【0084】
pHが2.5で90℃のヒドラジンを含むシュウ酸水溶液が、循環配管26から再循環系配管6に供給され、再循環系配管6の内面に形成されて酸化除染によりクロム酸化物が溶出された酸化皮膜の表面と接触する。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸によって、再循環系配管6の内面の還元除染が実施され、その酸化皮膜が溶解される。酸化皮膜に含まれる鉄及び放射性核種は、シュウ酸水溶液中に溶出される。シュウ酸水溶液に溶出した鉄イオンはFe3+である。このような再循環系配管6に対する還元除染は、シュウ酸水溶液を循環配管26及び再循環系配管6を含む閉ループ内で循環させながら実施される。pH計50は、再循環系配管6から循環配管26に戻ったシュウ酸水溶液のpHを監視するために、循環配管26に戻ったシュウ酸水溶液のpHを測定する。
【0085】
還元除染による、再循環系配管6の内面に形成された酸化皮膜の溶解によって、シュウ酸水溶液における放射性核種イオン濃度及び鉄イオン濃度が増加する。このため、弁63を開いて弁55の開度を減少させて調節することにより、放射性核種イオン及び鉄イオンを含むシュウ酸水溶液の一部が、配管64を通してカチオン交換樹脂塔29に供給される。残りのシュウ酸水溶液は、カチオン交換樹脂塔29に供給されず、弁55を通過して循環配管26内を流れる。配管64に導かれたシュウ酸水溶液に含まれる放射性核種イオン及び鉄イオン等の金属陽イオン、すなわち、放射性核種イオン及び2価の鉄イオンが、カチオン交換樹脂塔29内の陽イオン交換樹脂に吸着され、除去される。カチオン交換樹脂塔29から排出されてその金属イオンの濃度が低下したシュウ酸水溶液は、弁55の下流で循環配管26に戻される。配管64に導かれたシュウ酸水溶液に含まれる3価の鉄イオンは、マイナスイオンであるシュウ酸鉄(III)錯体としてシュウ酸水溶液中に存在するため、カチオン交換樹脂塔29内の陽イオン交換樹脂に吸着されない。
【0086】
化学除染、特に、還元除染の終了を判定する(ステップS6)。還元除染を実施した配管系、具体的には、再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下したとき、ステップS6の判定が「YES」となり、再循環系配管6に対する還元除染を終了する。なお、再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下したことは、例えば、再循環系配管6の傍に放射線検出器(図示せず)を配置し、再循環系配管6から放出される放射線をその放射線検出器で計測する。その放射線を検出した放射線検出器から出力された出力信号に基づいて求められた線量率に基づいて、再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下したかを確認することができる。
【0087】
再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下していない場合には、ステップS6の判定が「NO」となり、ステップS3~S6の各工程が繰り返される。ステップS6の判定が「YES」になったときには、還元除染剤の分解工程(ステップS7)が実施される。
【0088】
なお、再循環系配管6の表面線量率ではなく、還元除染工程(ステップS5)を開始してからの経過時間が所定時間に達したときに、還元除染工程を終了してもよい。さらに、放射性核種の金属陽イオンを吸着するカチオン交換樹脂塔29から放出される放射線を放射線検出器で測定し、この放射線検出器から出力された出力信号に基づいて求められた線量率に基づいて、還元除染工程の終了を判定してもよい。
【0089】
還元除染剤の分解工程(ステップS7)は、紫外線の照射工程(ステップS8)、過酸化水素の供給工程(ステップS9)及び過酸化水素の供給量制御工程(ステップS10)を含んでいる。還元除染剤の分解工程(ステップS7)の詳細を以下に説明する。
【0090】
還元除染水溶液に紫外線を照射する(ステップS8)。弁55を通過した、ヒドラジンを含むシュウ酸水溶液(還元除染水溶液)とカチオン交換樹脂塔29から排出された、ヒドラジンを含むシュウ酸水溶液が、循環配管26と配管64の接続点で合流する。弁68を開いて弁56の開度を減少させるように調節し、合流したシュウ酸水溶液の一部を、配管67を通して分解装置32に供給する。分解装置32から排出されたシュウ酸水溶液が、弁56の下流で循環配管26に戻される。
【0091】
循環配管26の、循環配管26と配管64の接続点と弁56よりも上流側の、循環配管26と配管67の接続点の間で、循環配管26内を流れる、Fe3+を含むシュウ酸水溶液に、紫外線照射装置31により紫外線が照射される。この紫外線照射によって、式(1)に示されるように、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+がFe2+に変換され、シュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸の一部が二酸化炭素(CO2)及び水(H2O)に分解される。
【0092】
酸化剤を分解装置に供給する(ステップS9)。紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンを分解する際には、弁68を開いて弁56の開度を一部減少させる。ヒドラジンを含むシュウ酸水溶液が、配管67を通って分解装置32に供給される。このとき、酸化剤供給装置39の弁43を開いて供給ポンプ41を駆動することにより、薬液タンク40内の酸化剤である過酸化水素が、供給配管42及び配管67を通して分解装置32に供給される。
【0093】
過酸化水素が供給された分解装置32内では、前述の式(2)の反応が生じる。すなわち、紫外線が照射されて分解装置32に供給されたシュウ酸水溶液に含まれるFe2+は分解装置32内で過酸化水素の作用によりFe3+に変換され、さらに、OH*及びOH-が生成される。そして、前述の式(3)に示すように、分解装置32内で、シュウ酸とOH*が反応し、シュウ酸が水とに二酸化炭素に分解される。なお、分解装置32内の触媒は、OH*及びOH-を生成する反応には寄与しない。
【0094】
また、分解装置32に供給されたそのシュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸は、分解装置32内で、活性炭触媒及び供給された過酸化水素の作用によっても分解される。この分解反応は下記の式(5)に表される。分解装置32に供給されたそのシュウ酸水溶液に含まれたヒドラジンは、分解装置32内で、活性炭触媒及びその過酸化水素の作用により分解される。この分解反応は下記の式(6)で示される。
【0095】
(COOH)2 + H2O2 → 2CO2 + 2H2O ……(5)
N2H4 + 2H2O2 → N2 + 4H2O ……(6)
シュウ酸の紫外線照射による分解、及びシュウ酸及びヒドラジンの分解装置32内での分解は、シュウ酸水溶液を循環配管26及び再循環系配管6を含む閉ループで循環させながら行われる。
【0096】
酸化剤の供給量を制御する(ステップS10)。この酸化剤の供給量制御は、
図2に示すように、腐食電位を測定するステップS11、Fe
2+の濃度に対するFe
3+の濃度の比(Fe
3+/Fe
2+)を求めるステップS12、酸化剤過剰かを判定するステップS13、酸化剤の供給量を減少させるステップS14、Fe
3+/Fe
2+が設定値未満かを判定するステップS15、酸化剤の供給量を増加させるステップS16及び分解工程終了かを判定するステップS17の各工程を含む。これらの各工程を以下に具体的に説明する。
【0097】
腐食電位を測定する(ステップ11)。分解装置32から排出されたシュウ酸水溶液の腐食電位が腐食電位計45によって測定される。
【0098】
Fe
2+の濃度に対するFe
3+の濃度の比(Fe
3+/Fe
2+)を求める(ステップS12)。腐食電位計45で測定された腐食電位が濃度比把握装置79に入力される。濃度比把握装置79は、入力した腐食電位に対応する、シュウ酸水溶液に含まれるFe
2+に対するシュウ酸水溶液に含まれるFe
3+の濃度比(Fe
3+/Fe
2+)を
図5の特性図に基づいて求める。
図5の特性図のデータは濃度比把握装置79の記憶装置(図示せず)に記憶されている。また、濃度比把握装置79において、入力した腐食電位を式(4)のEに代入することによってFe
3+/Fe
2+の値を求めてもよい。
【0099】
濃度比把握装置79で求められたFe3+/Fe2+の値(濃度比)は、制御装置80に入力される。制御装置80は、Fe3+/Fe2+の値に基づいて弁43の開度を調節する。なお、制御装置80は、弁43の開度の替りに、供給ポンプ41の回転速度を調節してもよい。表示装置82が濃度比把握装置79に接続されている。濃度比把握装置79で求められたFe3+/Fe2+の値(濃度比)はその表示装置82に表示される。
【0100】
酸化剤が過剰かを判定する(ステップS13)。制御装置80は、濃度比把握装置79で求められたFe
3+/Fe
2+の値に基づいて、酸化剤である過酸化水素の分解装置32への供給量が過剰であるかを判定する。前述したように、Fe
3+/Fe
2+の値が「1」よりも大きいときには、過酸化水素の分解装置32への供給量が過剰になっている(
図5参照)。濃度比把握装置79から制御装置80に入力されたFe
3+/Fe
2+の値が「1」を超えたとき、例えば、その値が「1.3」であるとき、制御装置80は、ステップS13において「YES」と判定する。
【0101】
この場合には、分解装置への酸化剤の供給量を減少する(ステップS14)。制御装置80は、Fe3+/Fe2+の設定値である「1」を制御装置80の記憶装置(図示せず)に記憶している。ステップS13の判定が「YES」であるため、制御装置80は、Fe3+/Fe2+の値が設定値である「1」になるように、弁43の開度を減少させて薬液タンク40から分解装置32への過酸化水素の供給量を減少させる。ステップS13の判定が「NO」になるまで、ステップS13及びS14の各工程が繰り返される。このような制御により、やがて、腐食電位計45の出力を入力する濃度比把握装置79から制御装置80に入力されるFe3+/Fe2+の値が「1」となり、分解装置32からの過酸化水素の流出がなくなる。このとき、制御装置80は弁43の開度の減少を停止する。この結果、分解装置32への過酸化水素の供給量の減少も停止される。さらに、濃度比把握装置79から出力されるFe3+/Fe2+の値が「1」であるとき、過酸化水素が供給される分解装置32内でのシュウ酸の分解効率は最も高くなる。なお、分解装置32から過酸化水素が流出しないため、カチオン交換樹脂塔29への過酸化水素の流入はなく、カチオン交換樹脂塔29内の陽イオン交換樹脂の過酸化水素による劣化も生じない。
【0102】
ステップS13の判定が「NO」になったとき、ステップS15の工程が実施される。
【0103】
Fe3+/Fe2+がFe3+/Fe2+の設定値未満であるかが判定される(ステップS15)。ステップS13の判定が「NO」であって、Fe3+/Fe2+の値が、分解装置32からの酸化剤の流出が生じない「1」以下のFe3+/Fe2+の設定値である、例えば、「1」になっているときには、ステップS15の判定は「NO」になる。ステップS15の判定が「NO」であるとき、ステップS17の判定が行われる。
【0104】
「NO」であるステップS15の判定が継続している状態で、もし、ステップS15の判定が「YES」になった場合には、ステップS16の工程が実施される。
【0105】
酸化剤の供給量を増加する(ステップS16)。濃度比把握装置79から制御装置80に入力されたFe3+/Fe2+の値がFe3+/Fe2+の設定値である「1」よりも小さい時、例えば、「0.9」であるとき、制御装置80は、Fe3+/Fe2+の値が設定値である「1」になるように、弁43の開度を増加させて薬液タンク40から分解装置32への過酸化水素の供給量を増加させる。ステップS15の判定が「NO」になるまで、ステップS16,S11,S12,S13及びS15の各工程が繰り返される。このような制御により、やがて、腐食電位計45の出力を入力する濃度比把握装置79から制御装置80に入力されるFe3+/Fe2+の値が「1」となり、ステップS15の判定が「NO」になる。そして、ステップS17の判定が実施される。ステップS15の判定が「NO」になったときには、制御装置80による弁43の開度増加の制御が停止され、分解装置32への過酸化水素の供給量の増加も停止される。
【0106】
濃度比把握装置79から制御装置80に入力されたFe3+/Fe2+の値がFe3+/Fe2+の設定値である「1」であるとき、ステップS13及びS15のそれぞれの判定が「NO」となるため、制御装置80は、入力されるFe3+/Fe2+の値が「1」に維持されるように、弁43の開度を制御する。
【0107】
還元除染剤の分解を終了するかを判定する(ステップS17)。ステップS13及びS14の各工程の判定が「NO」になったとき、ステップS17における判定が行われる。分解装置32から排出されたシュウ酸水溶液の導電率が、分解装置32の下流で循環配管26に設置されている導電率計49で測定される。測定されたシュウ酸水溶液の導電率が導電率の設定値まで低下したとき、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が10ppmに低下する。シュウ酸水溶液に含まれたヒドラジンは、シュウ酸よりも早く分解されるため、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が10ppmまで低下したときには、シュウ酸水溶液のヒドラジン濃度は「0」になっている。シュウ酸濃度が10ppmに低下したとき、ステップS17の判定は「YES」になる。このとき、酸化剤の供給量制御工程(ステップS10)が終了し、還元除染剤の分解工程(ステップS7)が終了する。
【0108】
ステップS17の判定が「YES」になるまで、紫外線の照射工程(ステップS8)酸化剤の供給工程(ステップS9)及び酸化剤の供給量制御工程(ステップS10)を含む還元除染剤の分解工程(ステップS7)が実施される。制御装置80では、ステップS13~17の各工程が実施される。
【0109】
Fe2+に対するFe3+の濃度比率の設定値を、前述した0.8以上1.0以下の範囲内の値、例えば、「0.9」に設定した場合について説明する。酸化剤の供給量制御の工程S10において、ステップS13での判定が「YES」になったとき、制御装置80は、濃度比把握装置79から入力するFe3+/Fe2+の値が設定値である「0.9」になるように、弁43の開度を減少させ、薬液タンク40から分解装置32への過酸化水素の供給量を減少させる。過酸化水素の供給量の減少によりFe3+/Fe2+の値が「1」になったとき、ステップS3の判定が「NO」となり、過酸化水素が分解装置32から流出しなくなる。
【0110】
しかしながら、Fe3+/Fe2+の値が「1」になった後においても、Fe3+/Fe2+の値が設定値である「0.9」に低下するまで、制御装置80は、弁43の開度を減少させて分解装置32への過酸化水素の供給量を減少させる。Fe3+/Fe2+の値が「0.9」まで低下したとき、制御装置80による弁43の開度減少の制御は停止され、過酸化水素の供給量の減少も停止される。この結果、Fe3+/Fe2+の値を「0.9」に維持させる、制御装置80による弁43の開度制御が継続される。
【0111】
そして、ステップS15の判定が実施される。もし、Fe3+/Fe2+の値が設定値である「0.9」よりも低下してステップS15の判定が「YES」になったとき、ステップS16の工程が実施され、制御装置80が弁43の開度を増加させる。このため、分解装置32に供給される過酸化水素の量も増加し、腐食電位計45で測定される、シュウ酸水溶液の腐食電位も増加する。Fe3+/Fe2+の値もFe3+/Fe2+の設定値に向かって増加する。Fe3+/Fe2+の値がその設定値になったとき、制御装置80による弁43の開度増加が停止され、分解装置32への過酸化水素の供給量の増加も停止される。Fe3+/Fe2+の値を「0.9」に維持させる弁43の開度制御が継続される。ステップS15の判定が「YES」になったとき、ステップS17の判定が行われる。
【0112】
ステップS17の判定が「YES」になったとき、浄化を実施する(ステップS18)。弁55を開いて弁63を閉じ、カチオン交換樹脂塔29へのシュウ酸水溶液の供給を停止する。弁61を開けて弁54を閉じることにより、そのシュウ酸水溶液を、循環配管26から冷却器48に供給して60℃以下に冷却する。このとき、弁65が開いて弁55が閉じられているため、60℃のシュウ酸水溶液が混床樹脂塔30に供給される。このシュウ酸水溶液に残留している陽イオン及び陰イオンが、混床樹脂塔30内の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂に吸着されて除去される。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸も混床樹脂塔30内で除去される。
【0113】
排水を実施する(ステップS19)。浄化工程が終了した後、ポンプ(図示せず)を有する高圧ホース(図示せず)により循環配管26と廃液処理装置(図示せず)を接続する。再循環系配管6及び循環配管26内に残っている水溶液は、そのポンプを駆動することにより循環配管26から高圧ホースを通して廃液処理装置(図示せず)に排出され、廃液処理装置で処理される。
【0114】
ステップS9の工程で、紫外線を照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素を供給することにより、式(2)の反応によって生成されたOH-は、その後、シュウ酸水溶液等の水溶液中に残存する。このため、ステップS19の排水工程において、OH-は、循環配管26から排出される水溶液と共に、廃液処理装置に排出される。
【0115】
ステップS19の排水工程が終了した後、化学除染装置25の循環配管26が、化学除染対象の再循環系配管6から取り外される。その後、再循環系配管6が復旧される。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、化学除染が実施されたBWRプラント1が起動される。
【0116】
本実施例によれば、還元除染剤の分解に要する時間を著しく短縮することができる。本実施例では、還元除染剤分解のために酸化剤を供給した分解装置から排出される還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)の腐食電位に基づいて求められる、Fe2+に対するFe3+の濃度比(Fe3+/Fe2+)に対応して酸化剤(例えば、過酸化水素)の分解装置32への供給量を制御できるため、還元除染剤の分解に要する時間を著しく短縮することができる。従来は、分解装置32の下流側でシュウ酸水溶液を定期的にサンプリングし、サンプリングしたシュウ酸水溶液を分析して、分解装置32から排出されたシュウ酸水溶液の過酸化水素濃度を求めている。従来は、そのようにして求めた過酸化水素濃度に基づいて、分解装置32に供給する過酸化水素の供給量を調節するため、還元除染剤の分解に長時間を要している。本実施例は、従来において行っている、シュウ酸水溶液の定期的なサンプリング、及びサンプリングしたシュウ酸水溶液の分析が不要になり、しかも、腐食電位に基づいて求められたFe3+/Fe2+の値に対応して酸化剤の分解装置32への供給量を制御するため、前述したように、還元除染剤の分解に要する時間を著しく短縮できる。
【0117】
本実施例では、Fe2+に対するFe3+の濃度比を用いることによって、分解装置32への酸化剤の供給量の制御を自動化することができる。
【0118】
Fe
2+に対するFe
3+の濃度比を求めることによって、分解装置32に酸化剤(例えば、過酸化水素)が過剰に供給されているか、否かを容易に知ることができる。
図5に示すように、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比が「1」を超えた場合には、分解装置32への酸化剤の供給が過剰になっており、分解装置32から酸化剤が流出する。特に、濃度比把握装置79から出力された、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比を表示装置82に表示することによって、分解装置32から酸化剤が流出しているか否かを簡単に知ることができる。
【0119】
本実施例では、還元除染対象物である再循環系配管6から排出された還元除染水溶液に紫外線を照射することにより還元除染剤(例えば、シュウ酸)が分解され、酸化剤が供給される分解装置32内での触媒の作用によりシュウ酸が分解される。さらに、分解装置32内では、Fe2+と過酸化水素の反応により生成されるOH*によってもシュウ酸が分解される。このため、本実施例においては、還元除染剤の分解が促進され、それの分解に要する時間も短縮される。
【0120】
本実施例は、Fe2+に対するFe3+の濃度比を用いて分解装置32から酸化剤が流出しているかを判定しているため、分解装置32からの酸化剤の流出、すなわち、分解装置32への酸化剤の過剰供給を短時間に把握することができる。Fe2+に対するFe3+の濃度比が「1」よりも大きくなれば、直ちに、分解装置32からの酸化剤の流出が発生していると認識できる。
【0121】
求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比が「1」よりも大きくなったとき、制御装置80により、分解装置32への酸化剤の供給量を減少させることができるため、分解装置32からの酸化剤の流出を短時間に停止させることができる。このため、カチオン交換樹脂塔29内の陽イオン交換樹脂の酸化剤による劣化を著しく抑制することができる。
【0122】
求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比が「1」以下であるその濃度比の設定値よりも小さくなったとき、制御装置80により、分解装置32への酸化剤の供給量を増加させることができるため、その濃度比を短時間にその設定値まで増加させることができ、還元除染剤の分解を促進させることができる。
【0123】
分解装置32から排出された還元除染水溶液の腐食電位を測定し、測定されたこの腐食電位に基づいてFe2+に対するFe3+の濃度比を求めているため、分解装置32からの酸化剤の流出を精度良く把握することができると共に、分解装置32への酸化剤の供給不足も精度良く把握することができる。この結果、分解装置32からの酸化剤の流出、及び分解装置32への酸化剤の供給不足のそれぞれを解消するために素早く対応することができる。
【0124】
Fe2+に対するFe3+の濃度比が設定値未満である(ステップS15の判定が「YES」)ときに、酸化剤の供給量を増加させ(ステップS16)、その後、「酸化剤が過剰であるか」の判定が実施される(ステップS13)ので、前述の酸化剤の供給量の増加より、もし、Fe2+に対するFe3+の濃度比が「1」を超えた場合には、直ちに、酸化剤の供給量を減少させる(ステップS14)ことができる。このため、分解装置32からの酸化剤の流出を早期に抑制することができる。
化学除染装置25Aにおいて、過マンガン酸注入装置71は、薬液タンク72、注入ポンプ73及び注入配管74を有する。薬液タンク72は、注入ポンプ73及び弁75が設けられた注入配管74によって循環配管26に接続される。注入配管37は、導電率計49の循環配管26への取り付け位置と、注入配管37と循環配管26の接続点との間で循環配管26に接続される。酸化除染水溶液である過マンガン酸水溶液が、薬液タンク72内に充填される。
ステップS1及びS2の各工程が実施された後、酸化除染が実施される(ステップS3)。運転を経験したBWRプラント1の再循環系配管6の内面に対する酸化除染について説明する。再循環系配管6及び循環配管26を含む閉ループ内を循環する水の温度が90℃になったとき、過マンガン酸注入装置71の弁75を開いて、注入ポンプ73を起動する。薬液タンク72内の過マンガン酸水溶液が注入配管74を通して循環配管26内を流れる水に注入される。90℃の、注入された過マンガン酸水溶液が閉ループ内で循環され、再循環系配管6の内面に対する酸化除染が実施される。再循環系配管6に対する酸化除染時間が所定時間を経過したとき、その酸化除染を終了する。
酸化除染液に含まれる酸化除染剤を分解する(ステップS4)。弁70を開いて循環配管26内を流れている過マンガン酸水溶液を配管69を通してサージタンク33内に供給する。この状態で、ホッパに投入された分解剤であるシュウ酸が、エゼクタ46により配管69内を流れる過マンガン酸水溶液に供給される。前述の閉ループ内に存在する過マンガン酸水溶液に含まれる過マンガン酸を分解させるために必要な量のシュウ酸が、エゼクタ46から配管69に供給される。供給されたシュウ酸は、配管69を通してサージタンク33に導かれ、サージタンク33内で溶解される。その量のシュウ酸の供給は、その閉ループ内に存在する過マンガン酸水溶液にシュウ酸が均等に混ざるように、過マンガン酸水溶液を配管69内に流しながら行われる。
溶解されたシュウ酸によって、過マンガン酸水溶液に含まれる過マンガン酸が分解される。再循環系配管6から循環配管26に戻った過マンガン酸水溶液が紫色から無色透明になったことを確認し、酸化除染剤の分解工程を終了する。酸化除染剤の分解工程を終了した後、前述の閉ループには、シュウ酸の濃度が低いシュウ酸水溶液が循環する。
ステップS4における、過マンガン酸水溶液に含まれる過マンガン酸の分解が終了した後、実施例1における前述した還元除染工程(ステップS5)、化学除染の終了判定工程(ステップS6)、還元除染剤の分解工程(ステップS7)、浄化工程(ステップS18)及び排水工程(ステップS19)のそれぞれの工程が実施される。