IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルバック成膜株式会社の特許一覧

特開2022-108133マスクブランクスの保管方法及びマスクブランクスケース
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108133
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】マスクブランクスの保管方法及びマスクブランクスケース
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/673 20060101AFI20220715BHJP
   G03F 1/66 20120101ALI20220715BHJP
   B65D 85/38 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
H01L21/68 T
G03F1/66
B65D85/38 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003007
(22)【出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 隆晶
(72)【発明者】
【氏名】細谷 守男
【テーマコード(参考)】
2H195
3E096
5F131
【Fターム(参考)】
2H195BE11
3E096AA05
3E096BA15
3E096BA24
3E096BB05
3E096CA02
3E096DA05
3E096DA11
3E096DA17
3E096DA23
3E096DC02
3E096GA14
5F131AA02
5F131AA03
5F131AA10
5F131CA12
5F131CA15
5F131GA13
5F131GA24
5F131GA43
5F131GA53
5F131GA84
5F131GA87
5F131JA33
(57)【要約】
【課題】封止テープからのレジストへの影響を低減してマスクブランクスの保管・輸送を可能とする。
【解決手段】マスクブランクス5を開口2から収容可能なケース本体1と、ケース本体に被せられて開口を塞ぐ上蓋3と、ケース本体と上蓋とを開口の周囲から封止する封止テープ17と、を有するマスクブランクスケース100にマスクブランクスを収納する保管方法であって、封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー分析にて検出される硫酸イオンが10ng/cm以下であり、アンモニアイオンが10ng/cm以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクブランクスをマスクブランクスケースに収納する保管方法であって、
前記マスクブランクスケースが、前記マスクブランクスを開口から収容可能なケース本体と、前記ケース本体に被せられて前記開口を塞ぐ上蓋と、前記ケース本体と前記上蓋と前記開口の周囲から封止する封止テープと、を有し、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー分析(IC)にて検出される硫酸イオンが10ng/cm以下であり、アンモニアイオンが10ng/cm以下である
ことを特徴とするマスクブランクスの保管方法。
【請求項2】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるカルボキシル基を有する酸が10ng/cm以下である
ことを特徴とする請求項1記載のマスクブランクスの保管方法。
【請求項3】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される安息香酸が10ng/cm以下である
ことを特徴とする請求項2記載のマスクブランクスの保管方法。
【請求項4】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるギ酸が10ng/cm以下である
ことを特徴とする請求項2記載のマスクブランクスの保管方法。
【請求項5】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される酢酸が10ng/cm以下である
ことを特徴とする請求項2記載のマスクブランクスの保管方法。
【請求項6】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析ではフタル酸およびフタル酸のエステルが検出されない
ことを特徴とする請求項1記載のマスクブランクスの保管方法。
【請求項7】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析では炭素数12以上の高級脂肪酸およびそのエステルが検出されない
ことを特徴とする請求項6記載のマスクブランクスの保管方法。
【請求項8】
マスクブランクスを収納するマスクブランクスケースであって、
前記マスクブランクスを開口から収容可能なケース本体と、
前記ケース本体に被せられて前記開口を塞ぐ上蓋と、
前記ケース本体と前記上蓋と前記開口の周囲から封止する封止テープと、
を有し、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー分析にて検出される硫酸イオンが10ng/cm以下であり、アンモニアイオンが10ng/cm以下である
ことを特徴とするマスクブランクスケース。
【請求項9】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるカルボキシル基を有する酸が10ng/cm以下である
ことを特徴とする請求項8記載のマスクブランクスケース。
【請求項10】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される安息香酸が10ng/cm以下である
ことを特徴とする請求項9記載のマスクブランクスケース。
【請求項11】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるギ酸が10ng/cm以下である
ことを特徴とする請求項9記載のマスクブランクスケース。
【請求項12】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される酢酸が10ng/cm以下である
ことを特徴とする請求項9記載のマスクブランクスケース。
【請求項13】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析ではフタル酸およびフタル酸のエステルが検出されない
ことを特徴とする請求項8記載のマスクブランクスケース。
【請求項14】
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析では炭素数12以上の高級脂肪酸およびそのエステルが検出されない
ことを特徴とする請求項13記載のマスクブランクスケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクスの保管方法及びマスクブランクスケースに関し、特にマスクブランクスの搬送時等に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや、FPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)の製造等におけるフォトリソグラフィ工程で用いられるフォトマスクを形成するため、フォトマスクブランクスが利用されている。フォトマスクブランクスは、例えば、ガラス基板の一方の主面にマスク層やレジスト層を形成したものからなる。
【0003】
このようなマスクブランクスまたはマスクを収納保管し運搬するためのケースとして、特許文献に記載されたものが知られている。
特許文献に記載されたマスクブランクス基板収納容器(ケース)は、上方にマスクブランクスを収容する開口を備えた合成樹脂製のケース本体と、これに被せて該開口を塞ぐ合成樹脂製の上蓋を有し、密閉した内部にマスクブランクスを収容するとともに、ケース本体と上蓋との接合部を封止するように封止テープを貼り付けている。
【0004】
また、マスクブランクスまたはマスクにおけるレジスト材料として、より短波長、より高解像度に適した化学増幅型レジストが知られている。
【0005】
化学増幅型レジストを用いるフォトリソグラフィ法は、エキシマレーザーといった光照射、あるいは電子ビームの照射により、当該レジスト材料中の触媒物質が生成し、次工程で熱処理を行うことにより、当該触媒物質と高分子が反応し、光または電子照射部分が可溶(ポジ型)、または不溶化(ネガ型)することにより、所望の回路パターンを得る方法である。
【0006】
特許文献には、収納容器から発生する種々の揮発性成分が、フォトマスクブランクス基板を保管及び輸送中に、フォトマスクブランクス基板上に塗布されたフォトレジスト材料の触媒作用、その可溶化作用あるいは不溶化作用に何らかの影響を及ぼし、光あるいは電子線照射及び熱処理、現像によって形成したフォトマスクブランクス基板上のレジストパターンに、例えば、線幅の拡大・縮小などの寸法変化を生じ、その結果、設計通りのパターンが得られないという不具合を生じることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-124526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献記載の技術では、化学増幅型レジストを運搬する際のケース内でのレジストへの影響として、封止テープから発生する揮発成分によるフォトマスクブランクス基板上のレジストパターンへの影響を抑制することを目指しているが、この技術では不十分であることがわかった。
すなわち、フォトマスクブランクス基板を保管あるいは輸送するための収納容器において、その封止テープのアウトガスについてもさらなる制御を施し、さらなる改善を要することが分かった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.マスクブランクス上のレジストに影響を与える封止テープにおけるアウトガス成分を明らかにすること。
2.収納したマスクブランクス上のレジストパターン形成への影響を抑制する。
3.封止テープからのレジストへの影響を低減してマスクブランクスの保管・輸送を可能とすること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
マスクブランクスをマスクブランクスケースに収納する保管方法であって、
前記マスクブランクスケースが、前記マスクブランクスを開口から収容可能なケース本体と、前記ケース本体に被せられて前記開口を塞ぐ上蓋と、前記ケース本体と前記上蓋と前記開口の周囲から封止する封止テープと、を有し、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー分析にて検出される硫酸イオンが10ng/cm以下であり、アンモニアイオンが10ng/cm以下である
ことにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるカルボキシル基を有する酸が10ng/cm以下である
ことができる。
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される安息香酸が10ng/cm以下である
ことができる。
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるギ酸が10ng/cm以下である
ことができる。
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される酢酸が10ng/cm以下である
ことができる。
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析ではフタル酸およびフタル酸のエステルが検出されない
ことができる。
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析では炭素数12以上の高級脂肪酸およびそのエステルが検出されない
ことができる。
本発明のマスクブランクス収納容器は、
マスクブランクスを収納するマスクブランクスケースであって、
前記マスクブランクスを開口から収容可能なケース本体と、
前記ケース本体に被せられて前記開口を塞ぐ上蓋と、
前記ケース本体と前記上蓋と前記開口の周囲から封止する封止テープと、
を有し、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー分析にて検出される硫酸イオンが10ng/cm以下であり、アンモニアイオンが10ng/cm以下である
ことにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクス収納容器は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるカルボキシル基を有する酸が10ng/cm以下である
ことができる。
本発明のマスクブランクス収納容器は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される安息香酸が10ng/cm以下である
ことができる。
本発明のマスクブランクス収納容器は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるギ酸が10ng/cm以下である
ことができる。
本発明のマスクブランクス収納容器は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される酢酸が10ng/cm以下である
ことができる。
本発明のマスクブランクス収納容器は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析ではフタル酸およびフタル酸のエステルが検出されない
ことができる。
本発明のマスクブランクス収納容器は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析では炭素数12以上の高級脂肪酸およびそのエステルが検出されない
ことができる。
【0011】
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
マスクブランクスをマスクブランクスケースに収納する保管方法であって、
前記マスクブランクスケースが、前記マスクブランクスを開口から収容可能なケース本体と、前記ケース本体に被せられて前記開口を塞ぐ上蓋と、前記ケース本体と前記上蓋と前記開口の周囲から封止する封止テープと、を有し、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー分析にて検出される硫酸イオンが10ng/cm以下であり、アンモニアイオンが10ng/cm以下である。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる硫酸イオンやアンモニアイオンによって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0012】
ここで、本発明を適応する化学増幅型レジストとしては、ポジ型化学増幅型レジストFEP171(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)等を例示することができる。また、封止テープとしては、その基材としてPET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリエチレン等を例示することができ、粘着剤として、アクリル系粘着剤、ラバー系粘着剤等を例示することができる。
【0013】
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるカルボキシル基を有する酸が10ng/cm以下である。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
ここで、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析とは、後述する分析手法である。
【0014】
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される安息香酸が10ng/cm以下である。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0015】
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるギ酸が10ng/cm以下である。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0016】
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される酢酸が10ng/cm以下である。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0017】
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析ではフタル酸およびフタル酸のエステルが検出されない。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
ここで、飛行時間型二次イオン質量分析とは、後述する分析手法である。
【0018】
本発明のマスクブランクスの保管方法は、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析では炭素数12以上の高級脂肪酸およびそのエステルが検出されない。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸等によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0019】
本発明のマスクブランクスケースは、
マスクブランクスを収納するマスクブランクスケースであって、
前記マスクブランクスを開口から収容可能なケース本体と、
前記ケース本体に被せられて前記開口を塞ぐ上蓋と、
前記ケース本体と前記上蓋と前記開口の周囲から封止する封止テープと、
を有し、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー分析にて検出される硫酸イオンが10ng/cm以下であり、アンモニアイオンが10ng/cm以下である。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる硫酸イオンやアンモニアイオンによって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0020】
本発明のマスクブランクスケースは、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるカルボキシル基を有する酸が10ng/cm以下である。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0021】
本発明のマスクブランクスケースは、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される安息香酸が10ng/cm以下である。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0022】
本発明のマスクブランクスケースは、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるギ酸が10ng/cm以下である。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0023】
本発明のマスクブランクスケースは、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される酢酸が10ng/cm以下である。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0024】
本発明のマスクブランクスケースは、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析ではフタル酸およびフタル酸のエステルが検出されない。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0025】
本発明のマスクブランクスケースは、
前記封止テープが、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析では炭素数12以上の高級脂肪酸およびそのエステルが検出されない。
これにより、マスクブランクスがマスクブランクスケース内に収納された際に、レジストが封止テープから発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、収納されたマスクブランクスを保管及び輸送することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係るマスクブランクスケースの第1実施形態における開放状態を示す斜視図である。
図2】本発明に係るマスクブランクスケースの第1実施形態における閉塞状態を示す斜視図である。
図3】本発明に係るマスクブランクスケースの第1実施形態における封止状態を示す斜視図である。
図4】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの第1実施形態におけるレジスト露光機序の説明を示す図である。
図5】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるサンプルを説明するものである。
図6】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例における加速試験を説明する模式図である。
図7】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるレジスト感度評価を示すグラフである。
図8】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるレジスト減膜量評価を示す模式図である。
図9】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるレジスト減膜量評価を示すグラフである。
図10】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるレジスト減膜量評価を示すグラフである。
図11】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるレジスト減膜量評価を示すグラフである。
図12】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるレジスト減膜量評価を示すグラフである。
図13】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるレジスト減膜量評価を示すグラフである。
図14】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるレジスト減膜量評価を示すグラフである。
図15】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるレジスト減膜量評価を示すグラフである。
図16】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としてのイオンクロマトグラフィー分析の手法を示す模式図である。
図17】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としてのイオンクロマトグラフィー分析を示すグラフである。
図18】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としてのイオンクロマトグラフィー分析を示すグラフである。
図19】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としてのイオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析の手法を示す模式図である。
図20】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としてのイオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析を示すグラフである。
図21】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としてのイオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析を示す結果である。
図22】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としての飛行時間型二次イオン質量分析の手法を示す模式図である。
図23】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としての飛行時間型二次イオン質量分析の手法を示す模式図である。
図24】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としての飛行時間型二次イオン質量分析を示すグラフである。
図25】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としての飛行時間型二次イオン質量分析で検出された物質を示すものである。
図26】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としての飛行時間型二次イオン質量分析で検出された物質を示すものである。
図27】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としての飛行時間型二次イオン質量分析で検出された物質を示すものである。
図28】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としての飛行時間型二次イオン質量分析で検出された物質を示すものである。
図29】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としての飛行時間型二次イオン質量分析で検出された物質を示すものである。
図30】本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの実施例におけるアウトガス分析としての飛行時間型二次イオン質量分析で検出された物質を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るマスクブランクスの保管方法およびマスクブランクスケースの第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスケースの開放状態を示す斜視図である。図2は、本実施形態におけるマスクブランクスケースの閉塞状態を示す斜視図である。図3は、本実施形態におけるマスクブランクスケースの封止状態を示す斜視図である。図において、符号100は、マスクブランクスケースである。
【0029】
本実施形態に係るマスクブランクスケース100は、図1図3に示すように、ケース本体1と、上蓋3とを有する。
ケース本体1は、樹脂性とされて、上方に開口2を備える。上蓋3は、樹脂性とされて、開口2に被せることで開口2を閉塞する。ケース本体1には、開口2からキャリア4に整列して収容したフォトマスクやマスクブランクス5が収められる。
【0030】
マスクブランクスケース100では、ケース本体1の開口縁6に続く外周面11と、上蓋3の下縁7に続く外周面13と、が同一面に形成される。
外周面11と外周面13とは、図2に示すように、上蓋3を閉じてロックしたときに、同一面になるように形成される。ロックした後、ケース本体1と上蓋3の接合部には、図3に示すように、封止テープ17が巻き付け貼着される。
このとき、外周面11と外周面13が同一面にあるので、外部に連なる隙間のないように封止テープ17を貼着することができる。したがって、マスクブランクスケース100内を外部からの埃が浸入しないように密閉できる。
【0031】
マスクブランクスケース100は、クリーンルーム内などの清浄な雰囲気に於いてキャリア4と共にマスクブランクス5を開放状態のケース本体1内に収納する。その後、上蓋3をケース本体1に被せて開口2を塞いだ閉塞状態とする。さらに、マスクブランクスケース100は、開口2の周囲を封止テープ17で密封した封止状態で保管・運搬される。
【0032】
封止状態において、封止テープ17は、外周面11と外周面13とが同一面であり、貼り付けた際に浮き上がることがないため、マスクブランクスケース100内を密封する貼着を行うことができ、保管中または運搬中にケース内へ埃が浸入することがなくなる。
マスクブランクスケース100は、保管終了あるいは運搬先におけるクリーンルーム内で、封止テープ17を剥がして開封される。
【0033】
なお、本実施形態においては、ケース本体1と上蓋3とを上記の構成としたが、この構成に限定されない。例えば、1枚のマスクブランクスを収納する枚葉平置きケースとすることもできる。
【0034】
封止テープ17は、ケース本体1内部への外気流入を防ぐため、密着性能が高いものが望ましい。さらに、マスクブランクスケース100の密封及び開封を容易とするため、伸縮率が高いものが望ましい。
【0035】
本実施形態における封止テープ17は、基材および粘着材から構成される。
【0036】
封止テープ17の基材としては、例えば、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル、ナイロンが挙げられ、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン、ポリエチレンのいずれかからなることができる。
また、封止テープ17の粘着材としては、例えば、アクリル系、ポリアクリル酸エステル系、ポリメタクリル酸エステル系、ポリ酢酸ビニル、ゴム系(ラバー系)が挙げられ、ポリアクリル酸エステルからなることができる。
【0037】
本実施形態における封止テープ17は、マスクブランクスケース100に収納されるマスクブランクス5に対して、アウトガスによるレジストパターン形成への影響が極めて抑制されたものを選択することができる。
【0038】
本実施形態における封止テープ17は、化学増幅型レジストに対して、レジスト感度低下要因物質を含まない基材および粘着材から構成される。
封止テープ17は、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー分析にて検出される硫酸イオンが10ng/cm以下であり、アンモニアイオンが10ng/cm以下である。
【0039】
封止テープ17は、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるカルボキシル基を有する酸が10ng/cm以下である。
封止テープ17は、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される安息香酸が10ng/cm以下である。
【0040】
封止テープ17は、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出されるギ酸が10ng/cm以下である。
封止テープ17は、5cm×8cm大にサンプリング時60℃で960分保持の下で放出されるアウトガス成分中、イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析にて検出される酢酸が10ng/cm以下である。
【0041】
封止テープ17は、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析ではフタル酸およびフタル酸のエステルが検出されない。
【0042】
封止テープは、5cm×8cm大にサンプリングするとともに対向位置で60℃で48時間密閉保持したマスクブランクスのクロム層に転写した前記封止テープのアウトガス成分中、前記クロム層に対する飛行時間型二次イオン質量分析では炭素数12以上の高級脂肪酸およびそのエステルが検出されない。
【0043】
本実施形態においては、封止テープ17をこれらの条件を満たすように設定することで、マスクブランクス5がマスクブランクスケース100内に収納された際に、レジストが封止テープ17から発生したアウトガスに含まれる酸によって影響され、例えば化学増幅型レジストにおいてパターン形成における不具合が発生することを防止できる。したがって、封止テープから発生する揮発性有機成分によるレジストパターンへの影響を抑えながら、マスクブランクスの保管・輸送が可能となる。
【0044】
以下、本実施形態における封止テープ17について説明する。
【0045】
本実施形態において、マスクブランクス5にはレジストが成膜されており、このレジストは、化学増幅型レジストである。
化学増幅型レジストは、露光されることによって酸発生剤から酸(H)が発生し、その酸によりベース樹脂の脱保護基反応が起きて、樹脂の現像液への溶解度が高くなる。
【0046】
このようなレジスト溶解反応に酸が寄与することより、化学増幅型レジストは保存環境の酸・塩基によるレジスト感度の影響を受けやすい。酸の寄与によりレジスト感度が高くなり、塩基の寄与によりレジスト感度が鈍くなる。
発明者は、分析・評価から、以上のような酸・塩基成分以外にも、封止テープ17から発生するアウトガスに含有される成分に、レジスト感度に影響を及ぼす成分があることを見出した。
【0047】
今回、レジスト感度に影響及ぼさない封止テープを実現するために、IC分析、IC-TOFMS、TOF-SIMS分析をおこなうことで、レジスト感度に影響する物質の特定をおこなった。
【0048】
図4は、本実施形態におけるレジスト露光機序の説明を例示する図である。
化学増幅型レジストは、図4に示すように、ベース樹脂(アルカリ不溶性)であるPBOCST(ポリ(p-tert-ブトキシカルボニルオキシスチレン))が、パターン形成工程の露光時に、分解生成物(アルカリ溶解性)であるPVP(ポリ(p-ビニルフェノール))となる。
この際、酸の存在により、ベース樹脂の保護基が置換される等の影響を受けないように封止テープ17が設定される。
【実施例0049】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0050】
まず、封止テープ17のアウトガスによるレジスト感度への影響を評価するために、レジスト感度評価をおこなった。
【0051】
図5は、本実施形態における封止テープ17のサンプルを説明するものである。図6は、本実施形態における加速試験を説明する模式図である。
レジスト感度評価方法としては、図6に示すように、SUS製の容器111内に、マスクブランクス5となるレジスト層5bが成膜された基板5aを載置する。
さらに、レジスト層5bに対向するように封止テープを切り取ったサンプルテープTを配置して、ヒータ112により所定の条件で加熱処理をおこない、加速試験とした。
【0052】
ここで、図5に示すように、異なる材質の封止テープをsampleA~E,Gとするとともに、封止テープを配置しないコントロールとしてsample0とした。
【0053】
なお、
基板5aは、
基板寸法; 152.0mm角
基板厚さ; 6.35mm
基板;石英ガラス
レジスト層5bをポジ型化学増幅型レジストFEP171(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)
サンプルテープTを5cm×8cmの大きさに切り取る
加熱条件を60℃、48h
とした。
【0054】
さらに、加熱処理の終了したマスクブランクス5を取り出して、描画(露光)処理、現像処理によるパターン形成をおこない、レジストの感度評価をおこなった。
【0055】
レジストの感度評価は、形成されたパターンにおけるレジスト線幅測定と、レジスト残渣観察によっておこなった。
その結果を図7に示す。
【0056】
図7は、本実施形態における封止テープ17のレジスト感度評価を示すグラフである。
図7に示すように、sampleA~E,sample0では、497nm~502nmという、好ましい線幅範囲に入っていたが、sampleGにおいては、解像できないほどサンプルテープのアウトガスによるパターン形成への影響が大きいことがわかる。
【0057】
次に、レジスト減膜量評価をおこなった。
【0058】
レジスト減膜量評価は、ジスト感度評価における加熱処理の終了時に測定したレジスト膜厚から現像処理後の膜厚との差、すなわち、サンプルテープTから発生したアウトガスによる現像処理によって減少した膜厚を意味する。
【0059】
図8は、本実施形態における封止テープ17のレジスト減膜量評価を示す模式図である。
レジスト減膜量評価としては、図8に示すように、各SampleA~E,Gの減膜量から、サンプルテープTのないSample0の減膜量を減算する補正をおこなった。
【0060】
図9図15は、本実施形態における封止テープ17のレジスト減膜量評価を示すグラフである。
図9図15に示すように、sampleA~E,sample0を比較すると、SampleC,D,Eの減膜量がRef減膜量よりに比べ差があることわかる。また、SampleCは減膜量補正分布に偏りがあることがわかった。
つまり、SampleC,D,Eはレジスト減膜量に異常があることがわかる。
【0061】
レジスト感度評価から、SampleGは明らかにレジスト感度に影響していることがわかかった。
その他のSampleA~Eでは、若干の差はあるものの、誤差範囲と考えられ、これらはレジスト感度に影響がないと考えられる。
【0062】
レジスト減膜量評価から、SampleC,D,Eの減膜量がSample0の減膜量よりに比べ差があることわかる。
また、SampleCは減膜量補正分布に偏りがあることがわかった。
つまり、SampleA,Bはレジスト感度への影響がないと考えられる。
【0063】
次に、サンプルテープTから発生するアウトガス成分を分析した。
【0064】
本実施例のアウトガス評価として、対象サンプルは、レジスト感度評価結果の良好だったSampleBと、レジストに影響を及ぼすことがわかっているSampleGとの2つを対象とした。
【0065】
IC(イオンクロマトグラフィー)分析
図16は、本実施形態における封止テープ17のIC(イオンクロマトグラフィー)分析の手法を示す模式図である。
イオンクロマトグラフィー分析では、水溶液中でイオンとして存在している物質を分離定量する。
【0066】
ここでは、図16に示すように、封止テープ17を、5cm×8cmの大きさに切削してサンプルテープTとし、ガラスチャンバ121内に載置して、キャリアガスNを流通させながら、60℃、960minの条件でオーブン122によって加熱し、発生したアウトガス成分をインピンジャー123にて捕集した。捕集したアウトガス成分を含む電解質溶液を移動相として、固定相であるイオン交換樹脂を詰めたカラム中にポンプで加圧して流し、各種イオンのカラムでの保持時間の差からイオン種の定性・定量分析をおこなう。
【0067】
このとき、イオンクロマトグラフィー(IC, 塩基成分:装置 Thermo Fisher Scientific ICS-3000, 検出器 電気伝導度、酸成分:装置 Thermo Fisher Scientific ICS-1500, 検出器 電気伝導度)により分析する。検出されたピークを有する酸成分クロマトグラムを図17図18に示す。図17は、SampleGの結果を示すものであり、図18は、SampleBの結果を示すものである。
【0068】
図17に示すように、SampleGのサンプルテープからは、硫酸イオンSO 2-が11ng/cmが検出され、アンモニアイオンNH が0.1ng/cm検出された。同時に、酸成分から6つの道ピークが検出された。
【0069】
図18に示すように、SampleBのサンプルテープからは、硫酸イオンSO 2-がおよびアンモニアイオンNH が検出されなかった。ここで、検出限界とされる定量下限値は5ng/cmである。
【0070】
IC-TOFMS(クロマトグラフィー飛行時間型質量)分析
図19は、本実施形態における封止テープ17のIC-TOFMS(イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量)分析の手法を示す模式図である。
イオンクロマトグラフィー飛行時間型質量分析では、イオンクロマトグラフィーで分離した各成分をイオン化した後に、飛行時間型質量分析計(TOF-MS)で質量分離する。
そこで得られた精密質量から組成演算を行うことで、化学組成式を得る。
【0071】
今回の分析では、図17に示すように、IC分析で検出した未知ピークの同定を目的としておこなう。
【0072】
ここでは、図19に示すように、封止テープ17を、5cm×8cmの大きさに切削してサンプルテープTとし、ガラスチャンバ121内に載置して、キャリアガスNを流通させながら、60℃、960minの条件でオーブン122によって加熱し、発生したアウトガス成分をインピンジャー123にて捕集した。捕集したアウトガス成分を飛行時間型質量分析計(TOF-MS)124で質量分離する。
このとき、クロマトグラフィー飛行時間型質量(IC-TOFMS, 装置:Thremo ScientificICS-1500 +、検出器:Agilent Technologies LC/MSD TOFシステム)を用いる。
【0073】
その結果を図20図21に示す。図20図21は、SampleGの結果を示すものである。
図21は、図20に示すn1~n5のピークに対して、対応する推定組成式と推定精密質量と、推定化合物とを示したものである。
【0074】
図21に示すように、SampleGからは、ギ酸、酢酸、安息香酸のカルボキシル基を有するカルボン酸の検出があった。また、今回の分析では不明物質の特定には至らなかった。
【0075】
TOF-SIMS(二次イオン質量)分析
図22は、本実施形態における封止テープ17のTOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry(二次イオン質量)分析の手法を示す模式図である。
TOF-SIMS(二次イオン質量)分析では、図22図23に示すように、マスクブランクス5にマスク層として積層されたCr層に吸着したサンプルテープTから発生したアウトガスによる成分を評価する。
【0076】
今回の分析では、図22図23に示すように、Cr表面上の汚染物質の分析を目的としておこなう。
まず、図22に示すように、封止テープ17を、5cm×8cmの大きさに切削してサンプルテープTとする。
【0077】
SUS製の容器131内に、マスクブランクス5であるCrからなるマスク層(クロム層)5cが成膜された基板5aを載置する。さらに、クロム層5cに対向するように封止テープ17を切り取ったサンプルテープTを配置して、ヒータ132により所定の条件で加熱処理をおこなった。
ここで、サンプルテープTとしては、SampleG,SampleBを選択したものを加熱処理した。さらに、コントロールとして、サンプルテープTを置かないで処理したものをSample0とした。
【0078】
次いで、図23に示すように、超高真空下で試料となるサンプルテープTに一次イオンビーム141を照射する。すると、試料となるサンプルテープTの極表面(1~3nm)から二次イオン142が放出される。
【0079】
二次イオン142を飛行時間型(TOF型)質量分析計143へ導入することで、試料となるマスクブランクス5のクロム層5cの最表面における質量スペクトルを得る。
試料となるマスクブランクス5のクロム層5cにおける表面成分を、化学構造を保った分子イオンや部分的に開裂したフラグメントとして検出する。これにより、最表面の元素組成や化学構造の情報が得られる。
【0080】
クロム層5cに転写されたサンプルテープTからのアウトガス成分に含有された成分分析の結果を図24に示す。
【0081】
以下、図24に示した結果を解説する。
C8H5O3+ 149;フタル酸およびそのエステル
C15H23O+ 219;BHT (フェノール系酸化防止剤)
C16H31O2- 255;高級脂肪酸
C18H35O2- 283;高級脂肪酸
C17H23O4- 291;フタル酸およびそのエステル
【0082】
C8H5O3+ 149;フタル酸およびそのエステルに対応する構造式を、図25図27に示す。
C15H23O+ 219;ブチル化ヒドロキシトルエン (butylated hydroxytoluene)、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール (2,6-di-tert-butyl-p-cresol)に対応する構造式を、図28に示す。
C16H31O2- 255;高級脂肪酸に対応する構造式を、図29に示す。
C18H35O2- 283;高級脂肪酸に対応する構造式を、図29に示す。
C17H23O4- 291;フタル酸およびそのエステルに対応する構造式を、図30に示す。
【0083】
SampleGからは、図25図30に示す成分であるフタル酸及びそのエステル、高級脂肪酸、BHTが多く検出された。
これに対し、SampleB,Sample0では、SampleGよりもフタル酸、フタル酸ジメチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、BHTが少ないことがわかる。また、SampleB,Sample0では、SampleGと異なり、高級脂肪酸、フタル酸ジイソノニルが検出されないことがわかる。
【0084】
これらの結果から、芳香環とカルボキシル基を有する物質(安息香酸、フマル酸など)が、SampleGのレジスト感度低下に影響を及ぼす物質と考えられる。
【0085】
以上の分析結果から、次のことがわかる。
すなわち、レジスト感度に影響を及ぼす封止テープ(SampleG)と影響を及ぼさないテープ(SampleB)のアウトガス分析の結果と、IC-TOFMS、TOF-SIMSによる分析結果から、テープが芳香環とカルボキシル基を有する物質(安息香酸、フマル酸など)を検出できる程度に含有していた場合と、レジスト感度に影響することがわかった。
【0086】
したがって、レジスト感度に影響を及ぼさないテープとして、テープからのアウトガス成分を下記のように規定することができる。
サンプルテープサイズ5cmx8cmとしたとき、IC分析(IC-TOFMS)において、安息香酸を含まない。
サンプルテープサイズ5cmx8cmとしたとき、Cr層への転写されたアウトガス成分のTOF-SIMS分析において、フタル酸及びそのエステル、高級脂肪酸などのカルボニル基を有する物質を放出しない。
【符号の説明】
【0087】
1…ケース本体
2…開口
3…上蓋
4…キャリア
5…マスクブランクス
5a…基板
5b…レジスト層
5c…マスク層(クロム層)
6…開口縁
6a…立ち上がり縁
7…下縁
8…係合片
8a…側部
9…係合孔
10…突起
11…外周面
12…凹部
13…外周面
14…外周面
16…連続部
17…封止テープ
18…スペース
19…指掛け片
100…マスクブランクスケース
111…容器
112…ヒータ
121…ガラスチャンバ
122…オーブン
123…インピンジャー
124…飛行時間型質量分析計(TOF-MS)
131…容器
132…ヒータ
141…一次イオンビーム
142…二次イオン
143…飛行時間型(TOF型)質量分析計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30