(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022010815
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】輻射シールド
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20220107BHJP
C30B 15/22 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C30B29/06 502C
C30B15/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111568
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】下坂 信
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG19
4G077HA12
4G077PE22
4G077PE24
(57)【要約】
【課題】シリコン単結晶引き上げ装置内に設けられる輻射シールド本体に対して、内径調整リングを着脱自在に構成することにより、輻射シールドを提供する。
【解決手段】シリコン単結晶引き上げ装置内に設けられ、輻射シールド本体と内径調整リングとからなり、前記内径調整リングが、逆円錐台形状の上側先端部と、輻射シールドに嵌合するための円筒形状の下側胴部とからなり、前記内径調整リングが、輻射シールド本体に対して着脱自在に取り付けられることを特徴とする輻射シールド。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輻射シールド本体と前記輻射シールド本体に着脱自在に嵌合された内径調整リングとからなり、
前記内径調整リングは、逆円錐台形状の上側先端部と、円筒形状の下側胴部とが一体に形成されていることを特徴とする輻射シールド。
【請求項2】
前記内径調整リングは、内径の異なる複数の内径調整リングを備えることを特徴とする請求項1に記載の輻射シールド。
【請求項3】
前記内径調整リングが、カーボン材またはカーボン繊維材からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の輻射シールド。
【請求項4】
前記内径調整リングが、逆円錐台形状の上側先端部と、テーパー状の下側胴部とからなり、
前記下側胴部と、輻射シールド本体の内周面とがテーパー面で嵌合することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の輻射シールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射シールドに関し、特に、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶引き上げ装置に用いる輻射シールドに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造方法として、チョクラルスキー法(CZ法)が知られている。CZ法では、原料となる粒塊状の多結晶シリコンをルツボ内に投入し、ルツボを囲繞するヒーターにより、多結晶シリコンを加熱して溶融させる。ルツボ内にシリコン融液が形成されると、ルツボを一定方向に回転させながら、ルツボ上に保持した種結晶を下降させて、ルツボ内のシリコン融液の表面に接触させる。種結晶を所定の方向に回転させながら上昇させると、種結晶の下方に円柱状のシリコン単結晶が成長する。シリコン単結晶インゴットの育成では、まず種結晶を引き上げ、細長い結晶を成長させてネック部が形成され、ネック部から結晶が直径方向に成長して肩部が形成され、製品部分となる直胴部が形成される。直胴部が形成された後、直径は徐々に縮小されてインゴットの底部が形成される。
【0003】
このようなシリコン単結晶の育成方法では、種結晶の先端をシリコン融液に接触させると、接触部分がシリコン融液の表面温度で急激に上昇することとなり、種結晶に熱衝撃または急激な温度勾配が生じてスリップ転位が発生する。種結晶とシリコン融液との接触部位に発生した転位は、結晶成長時にインゴット下部に伝播され、シリコン単結晶を有転位化する。
【0004】
このため、シリコン単結晶の引き上げ装置内では、シリコン単結晶の引き上げ領域を囲むように、ルツボの上側に輻射シールドを設けて、シリコン融液の表面からの輻射熱を遮断して、引き上げ中のインゴット温度を全長に渡り均一化して有転位化を抑制するとともに、シリコン単結晶の変形など無い、正常な凝固を促進して引き上げ速度を上げ、生産性を向上させている。
【0005】
ところで、シリコンウェーハの寸法は規格化されており、引き上げるシリコン単結晶の直径φは、例えば、305mm程度である(φ300±0.2;JEIDA EM-3602参考)。305mmの直径のシリコン単結晶を引き上げるには、その太さに合わせた内径を有する輻射シールドを用いる必要がある。よって、305mmの直径のシリコン単結晶用の輻射シールドは、それとは異なる直径のシリコン単結晶の引き上げには用いることができない。このため、直径の異なるシリコン単結晶を製造するには、それ専用の輻射シールドを用意することとなり、コスト面で問題となる。
【0006】
このような問題を解決する方法として、ルツボ上方に配置された輻射シールドにおいて、該輻射シールドが円筒状の直胴部と、直胴部の下端から内側に湾曲し、下端部開口を形成する下肩部とを有し、該下端部開口の周縁部において、周方向の所定位置に、所定幅をもって径方向に突出しかつ高さ方向に所定の厚さを持つ熱遮蔽インナー部材を備えた輻射シールドが開示されている(特許文献1)。特許文献1では、熱遮蔽インナー部材を輻射シールドの下端部開口の周縁部において周方向に沿って移動可能にすることにより、単結晶の育成中、シリコン融液が減少するに従い、適宜、熱遮蔽インナー部材の位置を調整し、より効果的に単結晶を保温しつつシリコン融液が過度に冷却されるのを抑制し、結晶の変形などによる有転位化を防止している。
【0007】
特許文献2には、輻射シールドと、該輻射シールドの下端部開口に対し係着可能に設けられた円環状の分離インナー部材と、該分離インナー部材を輻射シールドの下端部開口に向かって昇降移動させる昇降手段とを備え、該昇降手段により下降させた分離インナー部材を輻射シールドの下端部開口に係着することにより、該輻射シールドの下端部開口が縮小されるシリコン単結晶の引き上げ装置が開示されている。
【0008】
特許文献1、2とも、輻射シールドに加えて、熱遮蔽インナー部材または分離インナー部材を設けて、輻射シールドとシリコン単結晶の外周面との距離を調節することで、インゴットへの結晶欠陥の発生を抑制できること、また、引き上げ速度の向上に繋がることが開示されている。
【0009】
一方、ネック部を形成せずに大口径のシリコン単結晶を成長させる技術として、特許文献3では、ルツボの上側に配置される断熱手段として、成長したインゴットが通過できるホールと、該ホールのサイズを調節できるホールサイズ調節部と、ホールサイズ調節部を駆動する駆動部とを含む上側熱遮蔽体を備えたシリコン単結晶の引き上げ装置が開示されている。特許文献3では、上側熱遮蔽体の内部にホールサイズ調節部を装着し、種結晶をシリコン融液に浸漬する時に発生する熱衝撃を最小化することで、ネック部の直径を増加させている。
【0010】
特許文献1~3のいずれも、引き上げ中のシリコン単結晶または種結晶と、熱遮蔽体との距離を調節して、インゴット外周面に伝達するシリコン融液の輻射熱を調節することでシリコンインゴットの品質や生産性を向上している。しかしながら、前記シリコン単結晶と熱遮蔽体との距離を調節する手段は、装置に設けられた昇降手段で下降させて係着させたり、熱遮蔽体の内部にホールのサイズを調節するためのホールサイズ調整部を設け、さらには前記ホールサイズ調節部を制御する駆動部が配置されたりと装置が煩雑になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013-75785号公報
【特許文献2】特開2013-199387号公報
【特許文献3】特表2016-529198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明では、シリコン単結晶引き上げ装置内に設けられる輻射シールド本体に対して、内径調整リングを着脱自在に構成することにより、輻射シールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の輻射シールドは、輻射シールド本体と前記輻射シールド本体に着脱自在に嵌合された内径調整リングとからなり、前記内径調整リングは、逆円錐台形状の上側先端部と、円筒形状の下側胴部とが一体に形成されていることを特徴とする。
前記の構成を備えることにより、簡単にシリコン単結晶と輻射シールドとの距離を調節でき、所望の直径を有するシリコン単結晶を、黒鉛ヒーターやシリコン融液からの輻射熱に起因して生じる結晶変形による有転位化を抑制でき、歩留まり向上や引き上げ速度を向上することができる。
【0014】
前記内径調整リングは、内径の異なる複数の内径調整リングを備え、引き上げるシリコン単結晶の直径に対応する内径調整リングを輻射シールド本体に嵌合することが好ましい。
前記の構成により、簡単にシリコン単結晶と輻射シールドとの距離を調節できるため、種々の直径を有するシリコン単結晶を引き上げることができる。
【0015】
前記内径調整リングは、カーボン材またはカーボン繊維材からなることが好ましい。
前記の構成により、引き上げ中のシリコン単結晶の温度を全長に渡り均一化することができ、かつ、結晶変形を抑制でき、有転位化を抑えることができる。
【0016】
前記内径調整リングが、逆円錐台形状の上側先端部と、輻射シールドに嵌合するためのテーパー状の下側胴部とからなり、前記下側胴部と、輻射シールド本体の内周面とをテーパー面で嵌合させることが好ましい。
内径調整リングの下側胴部がテーパー形状を有することで、輻射シールドとの嵌合が容易となり、また、嵌合が外れにくくなり、好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、引き上げるシリコン単結晶の直径に応じて、1個または2個以上の内径調整リングを輻射シールド本体に嵌合することにより、内径調整リングの内径とシリコン単結晶インゴットの外表面との距離tを簡単に調節することができ、シリコン単結晶インゴットの結晶変形による有転位化を抑制でき、歩留まり向上や引き上げ速度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係るシリコン単結晶引き上げ装置において、輻射シールド本体に内径調整リングを嵌合させて、シリコン単結晶インゴットを引き上げる様子を示す模式的縦断面図である。
【
図2】
図2は内径調整リングにおいて,逆円錐台形状の上側先端部と、円筒形状の下側胴部を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の他の実施形態として、輻射シールド本体に嵌合するための下側胴部がテーパー形状を有する内径調整リングを表す図である。
【
図4】
図4は、輻射シールド本体に内径の異なる2つの内径調整リングを嵌合した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の輻射シールドについて説明する。
図1では、本発明に係るシリコン単結晶引き上げ装置100の一部において、シリコン単結晶を引き上げる様子を示している。
前記シリコン単結晶引き上げ装置100において、メインチャンバ(図示せず)の内部には、シリコン融液2が収容される石英ルツボ3と、石英ルツボ3を外側で支持する黒鉛ルツボ4が配置され、黒鉛ルツボ4の下部は、シリコン融液2およびルツボ(石英ルツボ3および黒鉛ルツボ4)の荷重を支持するための支持構造体9および支持台10が配置されている。
【0020】
そして、石英ルツボ3の上側には、シリコン融液2からシリコン単結晶1を引き上げる際に、シリコン融液2から放出される熱を遮断する輻射シールド本体7が設けられている。
【0021】
本発明の特徴は、シリコン単結晶1の外表面と輻射シールド70の内径との間を所定の距離にすべく、輻射シールド本体7の下端部開口の周縁部に、着脱自在な内径調整リング8を備えることにある。前記内径調整リング8は、
図2に示すように、逆円錐台形状の上側先端部8aと、直径が略一定である円筒形状の下側胴部8bとが一体で形成されている。
【0022】
内径調整リング8は、輻射シールド本体7の下端部開口に隙間なく、かつ、着脱可能に装着できる大きさまたは形状を有する。内径調整リング8の下側胴部8bの外径は、輻射シールド本体7の下端部開口に嵌合できる大きさであればよく、通常400~600mmである。内径調整リング8における上側先端部8aは、下側胴部8bに対して、20~80°、具体的には55~65°ほど外側に傾いた逆円錐台形状をしている。前記逆円錐台部分の高さは20~100mm、好ましくは50~70mmである。この傾きと高さを有していることにより、螺子などの固定治具を用いず、簡単に輻射シールド本体7に嵌合することができる。一方、下側胴部8bの高さは、輻射シールド本体7の厚さ程度あればよく、通常20~60mm、好ましくは35~45mmである。
【0023】
前記内径調整リング8の下側胴部は、
図3に示すように、テーパー形状を有していてもよい。内径調整リング8の下側胴部8bがテーパー形状を有することで、円筒形状である場合と比べて、収まりよく輻射シールド本体7に嵌合し、また、落下するといった嵌合外れも起こり難い。
【0024】
具体的な一実施形態では、輻射シールド本体7の主たる部分を、シリコン単結晶1の直径の最大径に適した内径とし、内径調整リング8をその最小径に適した内径とする。なお、輻射シールド本体7の主たる部分の形状は、円筒部にシリコン単結晶1が接触しない範囲で、シリコン単結晶1の種々の直径に対応できるものであれば、限定されるものではない。
【0025】
シリコン単結晶1の外周面と内径調整リング8の内径との間の距離tは、内径調整リング8の下側胴部8bの厚みにより調節してもよい。下側胴部8bの厚みは、通常10~30mmであり、シリコン単結晶1の直径に合わせて調節する。
【0026】
あるいは、内径調整リング8の下側胴部8bを、輻射シールド本体7の下端部開口の内周面側縁部に設けられた支持インナー部材(図示せず)に掛け留めして装着してもよい。具体的には、支持インナー部材の上面側に溝を設け、その溝に、内径調整リング8の下側胴部の上部に螺子で固定したフックを引っ掛けて止める。
【0027】
輻射シールド本体7に嵌合する内径調整リング8は1個でもよいし、引き上げるシリコン単結晶1の直径に応じて、2個以上の内径調整リング8を重ねてもよい。
図4は輻射シールド本体7に2個の内径調整リング8を嵌合した縦断面図である。輻射シールド本体7に、シリコン単結晶1の直径に応じた内径調整リング8を1個または2個以上設けることで、内径調整リング8の内径と、シリコン単結晶1の外周面との間の距離を調節することができる。
【0028】
内径調整リング8の内周面とシリコン単結晶1の外周面との距離tを、少なくとも20mm程度、好ましくは10~30mmになるように内径調整リング8を設ける。これにより、引き上げるシリコン単結晶1の直径が異なっても、それぞれのシリコン単結晶1は、同等の育成環境を有することができ、種々の直径を有するシリコン単結晶1を製造することができる。
【0029】
内径調整リング8は、カーボン材、カーボン繊維材などの輻射シールド本体7と同じ材料、または育成中のシリコン単結晶の結晶を変形させない材料であればよい。
【0030】
本発明によれば、輻射シールド本体7に、内径調整リング8を適宜嵌合することで、種々の直径を有するシリコン単結晶1を引き上げることができる。また、引き上げられたシリコン単結晶は、結晶変形による有転位化などは認められず、シリコン単結晶を40本引上げた際の歩留まりは80%以上である。
【実施例0031】
以下、本発明を実験例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらにより制限されるものではない。
[実施例1]
石英ルツボに原料シリコンを投入し、直径460mmのシリコン単結晶を引き上げた。このとき、下端部開口の直径が560mmである輻射シールド本体、および、下側胴部に対して外側に60°傾斜した上側先端部、下端部開口の直径(内径調整リングの内径)が520mmである内径調整リングを使用し、内径調整リングの内周面と引上げるシリコン単結晶の外周面との距離tを30mmになるようにした。
なお、内径調整リングは、カーボン材基材からマシニング加工で削り出し加工を行って作製した。
この条件において、引き上げられたシリコン単結晶は、結晶変形による有転位化も生じず、同様の方法でシリコン単結晶を40本引上げた際の歩留まりは85.2%であった。また、結晶変形も生じなかった。さらに比較例1の平均引上げ速度を1とした場合の平均引上げ速度比は、1.2であった。
【0032】
[実施例2]
石英ルツボに原料シリコンを投入し、直径420mmのシリコン単結晶を引き上げた。このとき、下端部開口の直径が560mmである輻射シールド本体、下側胴部に対して外側に60°傾斜した上側先端部、下端部開口の直径(第1の内径調整リングの内径)が520mmである第1の内径調整リング、および、第1の内径調整リングの内側に嵌合した、下側胴部に対して外側に40°傾斜した上側先端部、下端部開口の直径(第2の内径調整リングの内径)が480mmである第2の内径調整リングを使用し、第2の内径調整リングの内周面と引上げるシリコン単結晶の外周面との距離tを30mmになるようにした。
なお、内径調整リングは、カーボン材基材からマシニング加工で削り出し加工を行って作製した。
この条件において、引き上げられたシリコン単結晶は、結晶変形による有転位化数十も生じず、同様の方法でシリコン単結晶を40本引上げた際の歩留まりは83.0%であった。また、結晶変形も生じなかった。さらに比較例1の平均引上げ速度を1とした場合の平均引上げ速度比は、1.3であった。
【0033】
[比較例1]
実施例1において、内径調整リングを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、シリコン単結晶を引き上げた。
引き上げられたシリコン単結晶は、結晶変形による有転位化を起こしており、比較例1と同様の条件でシリコン単結晶を40本引上げた際の歩留まりも50.5%と、実施例1に比べて劣っていた。さらに、結晶変形を起こしていた。
【0034】
実施例1では、比較例1に比べて、引上げ本数40本における歩留まりは約69%向上していた。また、実施例1では、結晶変形を起こさなかったため、比較例1に比べて、平均引上げ速度を約20%上げることができた。