(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108185
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】セロオリゴ糖の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20220715BHJP
【FI】
C12P19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003076
(22)【出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 璃奈
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF04
4B064CA21
4B064CB27
4B064CD09
(57)【要約】
【課題】セロオリゴ糖を安価に高い収率で製造することができる方法を提供する。
【解決手段】実施形態に係るセロオリゴ糖の製造方法では、グルコース、セロビオース及びそれらのアノマー位が修飾された誘導体からなる群から選択される少なくとも一種のプライマーと、スクロースに、リン酸の存在下、スクロースホスホリラーゼとセロデキストリンホスホリラーゼを作用させる。その際、反応系でのリン酸濃度を3mol/m3以上120mol/m3以下にする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース、セロビオース及びそれらのアノマー位が修飾された誘導体からなる群から選択される少なくとも一種のプライマーと、スクロースに、リン酸の存在下、スクロースホスホリラーゼとセロデキストリンホスホリラーゼを作用させる反応工程を含み、中間生成物であるα-グルコース-1-リン酸として含まれる量を含めた反応系でのリン酸濃度が3mol/m3以上120mol/m3以下である、セロオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
反応温度が25℃以上45℃以下である、請求項1に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
【請求項3】
水と水溶性有機溶媒を含む混合溶媒中で、前記プライマーと前記スクロースに前記スクロースホスホリラーゼと前記セロデキストリンホスホリラーゼを作用させる、請求項1又は2に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
【請求項4】
前記プライマーが、グルコース及びそのアノマー位が修飾されたグルコース誘導体からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いたセロオリゴ糖の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素を用いたセルロースオリゴマー、即ちセロオリゴ糖の製造方法として、加リン酸分解酵素であるセロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)の逆反応を利用した合成法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、α-グルコース-1-リン酸と、グルコース等のプライマーとを、水と水溶性有機溶媒を含む混合溶媒中で、セロデキストリンホスホリラーゼの作用により反応させて、セロオリゴ糖を合成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記合成法では、出発原料であるα-グルコース-1-リン酸が非常に高額であり、またセロオリゴ糖の収率が必ずしも高いとはいえないという問題がある。
【0006】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、セロオリゴ糖を安価に高い収率で製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係るセロオリゴ糖の製造方法は、グルコース、セロビオース及びそれらのアノマー位が修飾された誘導体からなる群から選択される少なくとも一種のプライマーと、スクロースに、リン酸の存在下、スクロースホスホリラーゼとセロデキストリンホスホリラーゼを作用させる反応工程を含み、中間生成物であるα-グルコース-1-リン酸として含まれる量を含めた反応系でのリン酸濃度が3mol/m3以上120mol/m3以下である、セロオリゴ糖の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態であると、スクロースホスホリラーゼによりスクロースからα-グルコース-1-リン酸を生成し、これにより得られたα-グルコース-1-リン酸とプライマーからセロデキストリンホスホリラーゼによりセロオリゴ糖を生成するので、セロオリゴ糖を安価に製造することができる。また、反応系のリン酸濃度を規定したことにより、セロオリゴ糖の収率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係るセロオリゴ糖の製造方法は、グルコース、セロビオース及びそれらのアノマー位が修飾れた誘導体からなる群から選択される少なくとも一種をプライマーとし、スクロースと該プライマーに、リン酸の存在下、スクロースホスホリラーゼ(以下、SPということがある。)とセロデキストリンホスホリラーゼ(以下、CDPということがある。)を作用させるものである。
【0010】
この反応は、下記式で表されるように、SPによるスクロースとリン酸からのα-グルコース-1-リン酸(以下、αG1Pということがある。)の生成反応と、CDPによるαG1Pと上記プライマーからのセロオリゴ糖の生成反応とを組み合わせたものであり、スクロースをグルコース供与体とし、上記プライマーをグルコース受容体として、二種の加リン酸分解酵素の作用によりセロオリゴ糖を二段階で合成する。
【0011】
【0012】
一段階目の反応は、スクロース加リン酸分解酵素SPによるαG1Pの生成反応であり、出発原料として安価なスクロースを用いてαG1Pを合成することができる。二段階目の反応は、加リン酸分解酵素CDPの逆反応を利用したものであり、グルコース受容体であるプライマーに対してαG1Pがモノマーとして逐次的に重合され、セルロースII型の結晶構造を持つセロオリゴ糖が得られる。この二段階合成によれば、安価なスクロースからセロオリゴ糖を1バッチで合成することができる。また、CDPによる反応で生じるリン酸がSPによる反応で消費され、すなわちリン酸が反応系中で循環するため、リン酸の蓄積によって生じる加リン酸分解を抑えることができ、セロオリゴ糖の収率を向上することができる
【0013】
グルコース供与体であるスクロースとしては、特に限定されず、天然に存在するものでも、化学的に合成されたものでもよい。反応系(通常は反応液。以下同じ。)によるスクロースの初期濃度(即ち、仕込み時における濃度。以下同じ。)は、特に限定されず、例えば10~1000mol/m3でもよく、100~500mol/m3でもよい。
【0014】
グルコース受容体であるプライマーは、上記のように、グルコース、セロビオース及びそれらのアノマー位が修飾された誘導体からなる群から選択される少なくとも一種である。該誘導体は、グルコース又はセロビオースのアノマー位に置換基を持つものであり、より詳細にはアノマー位の炭素原子に結合するヒドロキシ基が他の有機基(置換基)により置換されたものである。置換基としては、例えば、アルコキシ基、アジド基を含む有機基(アジド基がアノマー位の炭素原子に直接結合するものも含む。)、アミノ基を含む有機基(アミノ基がアノマー位の炭素原子に直接結合するものも含む。)などが挙げられる。ここで、アミノ基としては、一級アミノ基でもよく、二級アミノ基でもよく、三級アミノ基でもよい。
【0015】
グルコース誘導体の例としては、下記一般式(1)で示すものが挙げられる。
【化2】
式(1)中、R
1は、-OR
2、-R
3-N
3、又は-R
4-NH
2で表されることが好ましい。また、式中の波線はアノマー位の立体配位がα体、β体、または、α体とβ体の混合物であることを表す。
【0016】
R2は、炭素数1~12の炭化水素基で表されることが好ましい。該炭化水素基は脂肪族炭化水素基でもよく、芳香族炭化水素基でもよく、好ましくはアルキル基であり、直鎖でも分岐鎖を有してもよい。該炭化水素基の炭素数は1~5であることが好ましく、より好ましくは1~3である。R2は、好ましくは炭素数1~5のアルキル基を表し、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基を表す。
【0017】
R1が-OR2の場合の具体例としては、メチルグルコシド、エチルグルコシド、オクチルグルコシド、デシルグルコシド、ドデシルグルコシドなどのアルキルグルコシド、フェニルグルコシドなどのアリールグルコシドなどが挙げられる。
【0018】
R3は、直接結合又は-OR5-を表す。R5は、炭素数1~20の2価の炭化水素基を表す。該2価の炭化水素基としては、2価の脂肪族炭化水素基でもよく、2価の芳香族炭化水素基でもよい。2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルカンジイル基やアルケンジイル基などが挙げられ、直鎖でも分岐鎖を有してもよい。2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、芳香環の置換基を持つ2価の脂肪族炭化水素基や、アレーンジイル基などが挙げられ、これらの芳香環にはアルキル基などの置換基が付加されてもよい。R5の炭素数は、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~5である。R5は、好ましくは炭素数1~10のアルカンジイル基であり、より好ましくは炭素数1~5のアルカンジイル基である。
【0019】
R1が-R3-N3の場合の具体例としては、アジドデオキシグルコシド、アジドアルキルグルコシド(例えば、アジドエチルグルコシド)などが挙げられる。
【0020】
R4は、直接結合又は-OR6-を表す。R6は、炭素数1~20の2価の炭化水素基を表す。該2価の炭化水素基としては、2価の脂肪族炭化水素基でもよく、2価の芳香族炭化水素基でもよい。2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルカンジイル基やアルケンジイル基などが挙げられ、直鎖でも分岐鎖を有してもよい。2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、芳香環の置換基を持つ2価の脂肪族炭化水素基や、アレーンジイル基などが挙げられ、これらの芳香環にはアルキル基などの置換基が付加されてもよい。R6の炭素数は、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~5である。R6は、好ましくは炭素数1~10のアルカンジイル基であり、より好ましくは炭素数1~5のアルカンジイル基である。
【0021】
R1が-R4-NH2の場合の具体例としては、アミノデオキシグルコシド、アミノアルキルグルコシド(例えば、アミノエチルグルコシド)などが挙げられる。
【0022】
セロビオース誘導体の例としては、下記一般式(2)で示すものが挙げられる。
【化3】
式(2)中のR
7は、式(1)中のR
1と同じであり、波線はアノマー位の立体配位がα体、β体、または、α体とβ体の混合物であることを表す。
【0023】
一実施形態において、プライマーは、グルコース及びそのアノマー位が修飾されたグルコース誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。グルコース又はその誘導体を用いた場合、セロビオースを用いた場合に比べて、セロオリゴ糖が沈殿(析出)しやすく、精製がより容易になるというメリットがある。
【0024】
反応系におけるプライマーの初期濃度は、特に限定されず、例えば5~300mol/m3でもよく、10~200mol/m3でもよく、30~100mol/m3でもよい。反応系におけるスクロースとプライマーの仕込み時のモル比(スクロース/プライマー比)も、特に限定されず、例えば20/1~1/1でもよく、15/1~4/3でもよく、10/1~2/1でもよい。
【0025】
リン酸は、SPによるαG1Pの生成反応に用いられ、リン酸が存在することによりスクロースからαG1Pとフルクトースが生成される。リン酸としては、特に限定されず、無機リン酸でもよく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムなどの無機リン酸塩でもよく、これらをいずれか1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。リン酸としてはリン酸緩衝液を用いてもよい。
【0026】
本実施形態では、反応系におけるリン酸濃度を3~120mol/m3に設定する。リン酸濃度が3mol/m3以上であることにより、SPによるαG1Pの生成反応を促進してセロオリゴ糖の収率を高めることができる。リン酸濃度が120mol/m3以下であることにより、CDPによる加リン酸分解を抑えてセロオリゴ糖の収率を高めることができる。反応系でのリン酸濃度は、7~80mol/m3であることが好ましく、より好ましくは8~70mol/m3である。
【0027】
ここで、反応系におけるリン酸濃度とは、中間生成物であるα-グルコース-1-リン酸として含まれる量を含めた反応系中の全リン酸濃度(モル濃度)であり、上記無機リン酸及び/又は無機リン酸塩のモル濃度とαG1Pのモル濃度の合計である。上記のようなリン酸濃度にするためには、例えば、上記無機リン酸及び/又は無機リン酸塩として反応系に仕込むリン酸の初期濃度を3~120mol/m3、好ましくは7~80mol/m3、より好ましくは8~70mol/m3にすればよい。
【0028】
スクロースホスホリラーゼ(SP)としては、由来は特に限定されず、例えば、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)やストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcusmutans)などの微生物由来のものを用いてもよい。
【0029】
反応系におけるSPの使用量は特に限定されず、例えば、0.001~10U/mLでもよく、0.01~1U/mLでもよい。SPの酵素量は、37℃、pH7で100mol/m3のスクロースと50mol/m3のリン酸から1分間当たり1μmolのαG1Pを遊離する酵素量を1Uとして求められる。
【0030】
セロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)としては、由来は特に限定されず、例えば、クロストリジウム・サーモセラリム(Clostridium thermocellum)、セルロモナス(Cellulomonas)属などの微生物由来のものを用いてもよい。一例として、CDPは、M.Krishnareddyら、J.Appl.Glycosci.,2002年,49,1-8に記載の方法に準じて、大腸菌発現系によりClostridium thermocellum YM4由来CDPを調製することができる。
【0031】
反応系におけるCDPの使用量は特に限定されず、例えば、0.01~10U/mLでもよく、0.1~1U/mLでもよい。CDPの酵素量は、50mol/m3のαG1Pと50mol/m3のD-(+)-セロビオース、および反応時間が100分の際におけるαG1Pの転化率が10%以下になるように所定倍率にて希釈したCDPを含む3-モルホリノプロパンスルホン酸緩衝液(50mM、pH7.5)を37℃でインキュベーションし、CDPにより生成されるリン酸を定量し、1分間当たり1μmolのリン酸を遊離する酵素量を1Uとして求められる。
【0032】
本実施形態に係るSPとCDPを用いた酵素反応は、通常は溶媒として水を含む反応液中で実施され、より詳細には、スクロースとプライマーとリン酸とSPとCDPが所定濃度となるように溶媒とともに混合して調製された反応液を、所定温度に維持してインキュベーションすることにより行われる。
【0033】
反応温度としては、25~45℃であることが好ましい。反応温度が25℃以上であることにより、酵素の反応速度を高めることができる。また、45℃以下であることにより、セロオリゴ糖の収率低下を抑えることができる。
【0034】
反応時間としては、特に限定されず、例えば1時間~15日間でもよく、1日間~10日間でもよい。
【0035】
反応液のpHは約5.0~約9.0であることが好ましい。反応液のpHの調整は、反応に関与するリン酸緩衝液以外に、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸緩衝液、クエン酸、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)等を添加することにより行ってもよい。
【0036】
一実施形態において、上記酵素反応における溶媒として、水と水溶性有機溶媒を混合してなる混合溶媒を用いてもよい。すなわち、水と水溶性有機溶媒を含む混合溶媒中で、プライマーとスクロースにSPとCDPを作用させてもよい。かかる混合溶媒を用いることにより、セロオリゴ糖の重合度分布を小さくすることができる。なお、混合溶液は、例えば、水溶液である緩衝液と水溶性有機溶媒とを混合して得られる。
【0037】
水溶性有機溶媒とは、20℃において水100mLへの溶解度が5mL以上の有機溶媒であり、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、t-ブタノールなどの炭素数1~4のアルコール類; アセトンなどのケトン類; テトラヒドロフランなどのエーテル類 N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類; アセトニトリルなどのニトリル類; ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などが挙げられる。これらはいずれか一種用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。水溶性有機溶媒として、より好ましくは、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群から選択される少なくとも一種を用いることである。
【0038】
水溶性有機溶媒と混合する緩衝液としては、特に限定されず、HEPES緩衝液、トリス塩酸緩衝液、MOPS緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液などが挙げられ、反応温度において反応溶媒のpHを5~9程度に維持できる緩衝液が好ましく用いられる。
【0039】
水と水溶性有機溶媒との使用割合は、特に限定されず、混合溶媒100体積%として、水溶性有機溶媒が5~50体積%であることが好ましく、より好ましくは5~30体積%であり、更に好ましくは8~20体積%である。
【0040】
反応終了後、セロオリゴ糖を含む反応液を得ることができる。該反応液には酵素であるSPやCDP、スクロース、プライマーなどが含まれることがあるため、これらを除去するために洗浄を行ってもよい。洗浄は、遠心により沈殿物と上清を分離し、水などの洗浄溶媒を用いて沈殿物を再分散させる工程を繰り返すことにより行うことができ、セロオリゴ糖が得られる。
【0041】
得られるセロオリゴ糖は、グルコースがβ-1,4グリコシド結合により連結された構造を持つオリゴ糖である。セロオリゴ糖の重合度は、例えば4以上でもよく、5以上でもよく、6以上でもよく、また、例えば16以下でもよく、15以下でもよく、13以下でもよい。平均重合度(DP)は、特に限定しないが、例えば5.5以上でもよく、6.0以上でもよく、6.5以上でもよく、7.0以上でもよい。平均重合度(DP)は、また、例えば10.0以下でもよく、9.5以下でもよく、9.0以下でもよい。
【0042】
得られるセロオリゴ糖の一例としては、下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【化4】
式(3)中、R
8は、ヒドロキシ基、R
1、又はR
7で表されることが好ましく、nは整数であり、セロオリゴ糖の重合度を示す。式中の波線はアノマー位の立体配位がα体、β体、または、α体とβ体の混合物であることを表す。
【0043】
プライマーとしてグルコース又はセロビオースを用いた場合、R8はヒドロキシ基である。プライマーとして、上記式(1)で表されるグルコース誘導体を用いた場合、R8は上記一般式(1)のR1である。プライマーとして、上記式(2)で表されるセロビオース誘導体を用いた場合、R8は上記一般式(2)のR7である。このようにグルコース誘導体やセロビオース誘導体をプライマーとして用いた場合、還元末端のアノマー位が修飾された還元末端修飾セロオリゴ糖が得られる。本実施形態に係るセロオリゴ糖は、このようなセロオリゴ糖の誘導体も包含するものであり、ナトリウムイオン付加体やカリウムイオン付加体などのアルカリ金属イオン付加体も当然に包含される。なお、R8がアルコキシ基であるセロオリゴ糖を合成した後、加水分解することにより、R8がヒドロキシ基であるセロオリゴ糖を製造してもよい。
【0044】
本実施形態に係るセロオリゴ糖の用途は、特に限定されず、例えば医薬品分野など、公知の様々な用途に用いることができる。
【実施例0045】
以下、実施例により更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例においては、「mol/m3」および「mol/L」をそれぞれ「mM」および「M」と表記する。
【0046】
[試薬]
本実施例において水は、特に記載しない限り、Milli-Qシステム(Milli-Q Advantage A-10、Merck Millipore)で精製された超純水を使用した。
【0047】
200mMリン酸緩衝液は、0.2Mリン酸二水素ナトリウム水溶液に、0.2Mリン酸水素二ナトリウム溶液を添加してpH7.4に調整したものを用いた。なお、本実施例におけるリン酸の初期濃度は、リン酸二水素ナトリウムの濃度とリン酸水素二ナトリウムの濃度の合計である。
【0048】
1M HEPES緩衝液は、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)23.8gを60mLの水に溶解させた水溶液に4N水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7.5に調整した後、水で100mLにメスアップしたものを用いた。
【0049】
20mM MOPS緩衝液は、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)4.18gを600mLの水に溶解させた水溶液に4N水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7.5に調整した後、水で1Lにメスアップし、さらにPVDF製0.22μmフィルターで濾過滅菌したものを用いた。
【0050】
SP溶液は、スクロースホスホリラーゼ(SP)粉末(Leuconostoc mesenteroides由来、オリエンタル酵母工業(株)社製)と20mM MOPS緩衝液(pH7.5)とを混合し、SPが10U/mLとなるように調整したものを用いた。
【0051】
CDPは、M.Krishnareddyら、J.Appl.Glycosci.、2002年、49、1-8に記載の方法に基づき調製した。詳細には、特許文献1(特開2019-193601号公報)の段落0061~0070に記載の方法によりCDPを調製し、得られたCDPを20mM MOPS緩衝液(pH7.5)とを混合し、CDPが10U/mLとなるように調整したものを用いた。
【0052】
ProteoMassTM Bradykinin fragment 1-7 MALDI-MSスタンダード(Bradykinin)、ProteoMassTM P14R MALDI-MSスタンダード(P14R)、ProteoMassTM ACTH Fragment 18-39 MALDI-MSスタンダード(ACTH)、トリフルオロ酢酸(TFA)、アセトニトリルはSigma-Aldrichより購入した。
【0053】
スクロースは、ナカライテスクより購入した。プライマーとしては、グルコース、メチルグルコシド(Me-GLC)、アジドデオキシグルコシド(N3-dGLC)を用いた。グルコースとしては、D-(+)-グルコースをナカライテスクより購入した。メチルグルコシドとしては、1-メチル-α-D-グルコピラノシドをナカライテスクより購入した。アジドデオキシグルコシドとしては、1-アジド-1-デオキシ-β-D-グルコピラノシドをSigma-Aldrichより購入した。
【0054】
その他の試薬は、特に表記しない限りナカライテスクより購入し、特級以上の試薬を使用した。
【0055】
[実施例1~5、比較例1]
200mMリン酸緩衝液、1Mスクロース水溶液、1Mグルコース水溶液、SP溶液、CDP溶液および水を用いて、5mL容量のチューブに各成分の濃度が下記表1に記載の濃度となるように加えて5mL反応液を調製した。反応液のpHを表1に示す。該反応液をパラフィルムで密閉して40℃で3日間インキュベートした。その後、チューブを100℃で5分間加熱して酵素を失活させた。反応液を50mL容量の遠沈管に移し、水で20mLにメスアップし、遠心分離(15000g)を10分間行い、上清を除去することにより精製した。この精製操作を5回繰り返し、セロオリゴ糖の水分散液を得た。得られた水分散液を70℃で24時間乾燥することにより、生成物としてセロオリゴ糖の乾燥物を得て、収量を測定した。
【0056】
得られた生成物は下記式(4)で表されるセロオリゴ糖である。
【化5】
【0057】
[実施例6,7]
プライマーとしてグルコースに代えて、実施例6ではメチルグルコシド(Me-GLC)を用い、実施例7ではアジドデオキシグルコシド(N3-dGLC)を用い、その他は実施例2と同様の操作を行うことにより生成物を得て、収量を測定した。
【0058】
得られた生成物は、実施例6では下記式(5)、実施例7では下記式(6)でそれぞれ表される還元末端修飾セロオリゴ糖である。
【化6】
【0059】
[実施例8]
実施例2において、インキュベートの温度を30℃とした以外は、実施例2と同様の操作を行うことにより生成物を得て、収量を測定した。
【0060】
[実施例9]
実施例2において、反応液を調製する際に使用した水のうち0.25mLをジメチルスルホキシド(DMSO)に置き換えることにより、反応液の溶媒をDMSO5体積%を含む混合溶媒とした以外は、実施例2と同様の操作を行うことにより生成物を得て、収量を測定した。
【0061】
[実施例10]
実施例2において、反応液を調製する際に使用した水のうち0.5mLをDMSOに置き換えることにより、反応液の溶媒をDMSO10体積%を含む混合溶媒とした以外は実施例2と同様の操作を行うことにより生成物を得て、収量を測定した。
【0062】
[実施例11]
実施例2において、反応液を調製する際に使用した水のうち0.5mLをメタノールに置き換えることにより、反応液の溶媒をメタノール10体積%を含む混合溶媒とした以外は実施例2と同様の操作を行うことにより生成物を得て、収量を測定した。
【0063】
[実施例12]
実施例2において、反応液を調製する際に使用した水のうち0.5mLをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に置き換えることにより、反応液の溶媒をDMF10体積%を含む混合溶媒とした以外は実施例2と同様の操作を行うことにより生成物を得て、収量を測定した。
【0064】
[比較例2]
1M HEPES緩衝液、1M αG1P水溶液、1Mグルコース水溶液、CDP溶液および水を用いて、5mL容量のチューブに各成分の濃度がそれぞれ500mM、200mM、50mM、および0.2U/mLとなるように加えて5mLの反応液を調製し、パラフィルムで密閉して40℃で3日間インキュベートした。その後、チューブを100℃で5分間加熱して酵素を失活させた。以降の精製および乾燥の工程は実施例1と同様の操作に行うことにより生成物を得て、収量を測定した。
【0065】
上記で得られた生成物について、セロオリゴ糖の平均重合度(DP)、重合度分布、収率を測定した。結果を表1に示す。なお、測定方法は以下のとおりである。
【0066】
(1)平均重合度
セロオリゴ糖の平均重合度は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)法により測定した。
【0067】
質量電荷比の校正に用いる標準サンプルはBradykin fragment 1-7水溶液(10nmol/mL Bradykinin fragment1-7、0.05質量%トリフルオロ酢酸(TFA)、50質量%アセトニトリル)、P14R水溶液(10nmol/mL P14R、0.1質量%TFA)、ACTH fragment18-39水溶液(10nmol/mL ACTH fragment18-39、0.1質量%TFA)それぞれ5μL、10mg/mL DHBA水溶液5μL、1.0質量%TFA水溶液1μL、アセトニトリル4μLを1.7mLチューブ中で混合して調製した。
【0068】
生成物の測定サンプルは、0.1%(w/v)とした生成物の水分散液1μL、10mg/mL DHBA水溶液1μL、トリフルオロ酢酸(0.2体積%)のアセトニトリル溶液3μLを、水酸化カリウム(3.3質量%)のメタノール溶液により洗浄したマイティーバイアル中で混合して調製した。
【0069】
標準サンプル及び生成物の測定サンプルそれぞれ1μLをサンプルプレートにマウントし、風乾させる操作を5回繰り返した。1時間以上、真空乾燥し、MALDI-TOF-MS(AXIMA-performance、島津製作所)で測定した。測定条件はMode:Liner(positive)、Mass Range:1.0-3000.0、Max Leaser Rap Rate:10、power:100、profiles:100、shots:2、Ion Gate(Da):Blank500、Pulsed Extraction optimized at (Da):1000.0とした。
【0070】
測定により得られたMSスペクトルは、Smoothing method:Gaussian、Smoothing filter width:19、Baseline filter width:1000の条件で処理した。
【0071】
測定サンプルにはナトリウムイオン付加体とカリウムイオン付加体が含まれるため、これらのピーク面積を合計し、各重合度のピーク面積を算出した。算出した各重合度のピーク面積の割合から重合度の平均値を算出し、平均重合度とした。
【0072】
(2)重合度分布
重合度分布は、上記で得られたMALDI-TOF-MSスペクトルを以下の式に従って解析することにより、平均重合度からの標準偏差を求め、該標準偏差を重合度分布とした。
【数1】
【0073】
(3)収率
収率は、セロオリゴ糖(生成物)の収量と平均重合度から、下記式により、出発物質であるスクロースの転化率を算出した。
【数2】
【0074】
【0075】
得られた生成物について赤外分光法(IR)によりセルロースII型の結晶構造を持つことを確認した。実施例1~12によれば二段階合成により、比較例2の一段階合成と同様のセロオリゴ糖が得られており、平均重合度にも大きな差はなかった。
【0076】
一方、実施例1~12であると、一段階合成である比較例2と比べて、セロオリゴ糖の収率が大きく向上していた。特に、実施例1~4の対比より、リン酸濃度が10mMおよび50mMの場合に収率が顕著に高かった。これに対し、リン酸濃度が120mMを超える比較例1であると、収率が低く、一段階合成であると比較例2と同程度の収率しか得られなかった。
【0077】
実施例6はプライマーとしてメチルグルコシドを用いたものであり、MALDI-TOF-MSにより還元末端がメトキシ基で置換されたセロオリゴ糖が生成されていることを確認した。すなわち、還元末端修飾セロオリゴ糖についても二段階合成で生成することができた。また、表1に示されるように、かかる還元末端修飾セロオリゴ糖を、未修飾のセロオリゴ糖と同等の収率および重合度分布で生成できることが分かる。
【0078】
実施例7はプライマーとしてアジドデオキシグルコシドを用いたものであり、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定により、未修飾のセロオリゴ糖と比較して還元末端由来のピークが消失していることを確認した。また、フーリエ変換赤外分光スペクトル(FT-IR)測定により、2120cm-1付近にアジド基由来のピークを確認した。これにより、還元末端にアジド基を修飾できていることを確認した。また、表1に示されるように、かかるアジド付加セロオリゴ糖を、未修飾のセロオリゴ糖と同等の収率および重合度分布で生成できることが分かる。
【0079】
ここで、1H-NMRおよびFT-IRは、生成物の凍結乾燥物を用いて測定した。1H-NMRについては、Bruker製AV-400Mを用い、およそ15mgのセロオリゴ糖を500μLの4%重水酸化ナトリウム重水溶液に溶解させ、積算回数16回の条件で測定した。FT-IRについては、Thermo Scientific製Nicolet6700を用い、ATR法、分解能2cm-1、積算回数32回の条件で測定した。
【0080】
実施例9~11は、水と水溶性有機溶媒を含む混合溶媒を用いた例であり、二段階合成の反応系において混合溶媒を用いることにより、実施例2に比べて重合度分布を小さくすることができた。
【0081】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。