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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108211
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】毛髪処理剤及び毛髪処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/64 20060101AFI20220715BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20220715BHJP
   A61Q 5/04 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
A61K8/64
A61K8/73
A61Q5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003120
(22)【出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【弁理士】
【氏名又は名称】合路 裕介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 喜日出
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC182
4C083AC442
4C083AC482
4C083AD202
4C083AD211
4C083AD212
4C083AD351
4C083AD352
4C083AD411
4C083AD431
4C083AD432
4C083AD441
4C083AD442
4C083AD451
4C083AD452
4C083BB53
4C083CC34
4C083DD06
4C083EE05
4C083EE06
4C083EE28
(57)【要約】
【課題】毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能な毛髪処理剤及び毛髪処理方法の提供。
【解決手段】(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体、及び、(B)側鎖構造を有する多糖類が配合された、毛髪の熱処理前に塗布される毛髪処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体、及び、
(B)側鎖構造を有する多糖類
が配合された、毛髪を熱処理する工程の前に塗布される毛髪処理剤。
【請求項2】
前記(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体として、ケラチン、コラーゲン又はシルクに由来する1種又は2種以上が配合された請求項1に記載の毛髪処理剤。
【請求項3】
前記(B)側鎖構造を有する多糖類は、前記側鎖構造にアニオン性の官能基を含む請求項1又は2に記載の毛髪処理剤。
【請求項4】
前記(B)側鎖構造を有する多糖類としてキサンタンガムが配合された請求項1から3のいずれか1項に記載の毛髪処理剤。
【請求項5】
前記(B)側鎖構造を有する多糖類の配合量が1.0質量%以下である請求項1から4のいずれか1項に記載の毛髪処理剤。
【請求項6】
前記毛髪を熱処理する工程では、ヘアアイロンを用いて毛髪を加熱する請求項1から5のいずれか1項に記載の毛髪処理剤。
【請求項7】
毛髪の還元工程及び前記毛髪を熱処理する工程を備える毛髪変形処理における毛髪処理剤として用いられる請求項1から6のいずれか1項に記載の毛髪処理剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程、及び、
毛髪を熱処理する工程
を備えた毛髪処理方法。
【請求項9】
毛髪を変形させる方法である、請求項8に記載の毛髪処理方法。
【請求項10】
前記毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程の前に行われる、還元剤が配合された第1剤を毛髪に塗布する工程を更に備えた請求項8又は9に記載の毛髪処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪処理剤及び毛髪処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
整髪処理や縮毛矯正処理等の毛髪処理を行う際には、所定の毛髪処理剤を塗布した毛髪を、加熱機能を有するヘアアイロン等を用いて加熱する処理が行われる場合がある。
例えば、特許文献1(特開2014-126070号公報)では、ヘアアイロンによる熱処理を行う前に毛髪に塗布して用いられる毛髪処理剤について、ヘアアイロンの操作性を向上させるために、毛髪処理剤に所定の高分子化合物を配合させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-126070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、加熱機能を有するヘアアイロン等を用いて毛髪に熱処理を施す場合には、毛髪が損傷を受けることから、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりといった毛髪の質感が低下するおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑み、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能な毛髪処理剤及び毛髪処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が鋭意検討を行った結果、タンパク質加水分解物又はその誘導体と側鎖構造を有する多糖類が配合された毛髪処理剤を熱処理前の毛髪に塗布することで、毛髪の質感が良好になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の毛髪処理剤は、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体、及び、(B)側鎖構造を有する多糖類が配合され、毛髪の熱処理する工程の前に塗布されるものである。当該毛髪処理剤を毛髪に塗布して毛髪を熱処理することにより、処理後の毛髪について、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能となる。
なお、この毛髪処理剤は、毛髪に塗布した後、毛髪を熱処理する工程の前に、毛髪を乾燥させるようにして用いられるものであることが好ましい。
【0007】
本発明の毛髪処理剤には、前記(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体として、ケラチン、コラーゲン又はシルクに由来する1種又は2種以上が配合されていることが好ましい。
【0008】
本発明の毛髪処理剤には、前記(B)側鎖構造を有する多糖類は、前記側鎖構造にアニオン性の官能基を含むものであることが好ましい。
【0009】
本発明の毛髪処理剤には、前記(B)側鎖構造を有する多糖類としてキサンタンガムが配合されることが好ましい。
【0010】
本発明の毛髪処理剤は、前記(B)側鎖構造を有する多糖類の配合量が1.0質量%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の毛髪処理剤が毛髪に塗布された後に行われる毛髪を熱処理する工程では、ヘアアイロンを用いて毛髪を加熱することが好ましい。
【0012】
本発明の毛髪処理剤は、毛髪の還元工程及び前記毛髪を熱処理する工程を備える毛髪変形処理において、毛髪を熱処理する工程の前に毛髪に塗布して用いられるものであることが好ましい。
【0013】
本発明の毛髪処理方法は、上記いずれかの毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程、及び、毛髪を熱処理する工程を備える。当該毛髪処理方法により、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能となる。
なお、毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程の後、毛髪を熱処理する工程の前に、毛髪を乾燥させる工程を更に備えていることが好ましい。
【0014】
本発明の毛髪処理方法は、毛髪を変形させる方法であることが好ましい。当該毛髪処理方法によれば、毛髪を変形させつつ毛髪の質感を良好にすることが可能になる。
【0015】
本発明の毛髪処理方法は、前記毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程の前に行われる工程として、還元剤が配合された第1剤を毛髪に塗布する工程を更に備えたものであることが好ましい。当該方法によれば、毛髪変形をより十分なものとすることができる。
ここで、還元剤が配合された第1剤を毛髪に塗布する工程の後、毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程の前に、毛髪を洗浄する工程を更に備えていることが好ましい。
なお、当該還元剤が配合された第1剤を毛髪に塗布する工程を備える毛髪処理方法では、毛髪を熱処理する工程の後に、更に酸化工程を備えていてもよい。酸化工程としては、酸化剤を毛髪に塗布する工程であってもよいし、空気によって酸化させる工程であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る毛髪処理剤を毛髪に塗布して毛髪を熱処理することにより、処理後の毛髪について、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能となる。
本発明に係る毛髪処理方法によれば、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の各実施形態に係る毛髪処理剤及び毛髪処理方法について例に挙げて説明するが、これらは特に発明を限定するものではない。
(毛髪処理方法)
本実施形態の毛髪処理方法は、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体及び(B)側鎖構造を有する多糖類が配合された毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程、及び、毛髪を熱処理する工程を備える。
なお、毛髪処理方法は、毛髪の熱処理時の操作性を良好にする観点から、毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程の後、毛髪を熱処理する工程の前に、毛髪を乾燥させる工程を更に備えていることが好ましい。
【0018】
また、毛髪処理方法は、毛髪を変形させる方法であることが好ましい。これにより、整形された毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることができる。
毛髪を変形させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば、前記毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程の前に、還元剤が配合された第1剤を毛髪に塗布する工程を更に備えたものであってよい。還元剤が配合された第1剤を用いることにより、毛髪変形効果をより十分なものとすることができる。この場合、還元剤による毛髪の損傷を小さく抑える観点から、還元剤が配合された第1剤を毛髪に塗布する工程の後、毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程の前に、毛髪を洗浄する工程を更に備えていることが好ましい。
【0019】
第1剤としては、還元剤及び水が配合されたものである(水の配合量は、例えば60質量%以上)。第1剤には、公知の第1剤と同様にアルカリ剤を配合してもよく、公知の第1剤に配合されている原料を任意原料として配合してもよい。
還元剤としては、チオール基を有する公知の還元剤として、例えば、チオグリコール酸、チオグリコール酸塩(チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸モノエタノールアミンなど)、システアミン、システアミン塩(システアミン塩酸塩など)、システイン(L-システイン、DL-システインなど)、システイン塩(L-システイン塩酸塩、DL-システイン塩酸塩など)、アセチルシステイン(N-アセチル-L-システインなど)、チオグリコール酸グリセリル、チオ乳酸、チオ乳酸塩、ブチロラクトンチオール等が挙げられる。その他の公知の還元剤としては、例えば、亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウムなど)が挙げられる。還元剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
第1剤における還元剤の配合量は、適宜設定すると良く、例えば2質量%以上15質量%以下である。
【0020】
第1剤には、pHをアルカリ側に調整するためのアルカリ剤の一種又は二種以上が必要に応じて配合される。このアルカリ剤としては、例えば、アンモニア、アミノアルコール(モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールなど)、塩基性アミノ酸(アルギニンなど)、モルホリン、炭酸塩(炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなど)、リン酸塩(リン酸一水素アンモニウム、リン酸一水素ナトリウムなど)、及び苛性アルカリ(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム)が挙げられる。
第1剤のpHは、25℃において、例えば8.0以上10.0以下がよい。
第1剤は、毛髪に塗布し、常温又は60℃以下で放置して用いることができる。放置時間は、長い程毛髪が軟化し易い傾向があり、例えば10分以上30分以下である。第1剤は、放置後に、洗い流される。
【0021】
また、上記毛髪を変形させる方法としての毛髪処理方法では、毛髪を熱処理する工程の後に、更に、毛髪を酸化させる酸化工程を備えていてもよい。酸化工程は、酸化剤が配合された第2剤を毛髪に塗布する工程であってもよいし、空気によって酸化させる工程であってもよい。
【0022】
なお、還元剤により切断されたS-S結合を再結合させ、変形後の形状をより維持させやすい観点から、酸化剤が配合された第2剤を用いることが好ましい。
第2剤は、酸化剤及び水に配合されたものである(典型的には、水の配合量が75質量%以上。)。また、第2剤には、公知の第2剤に配合されている原料を任意原料として配合してもよい。なお、毛髪処理方法として第1剤及び第2剤が用いられる場合には、毛髪処理剤は中間処理剤として用いられることになる。
【0023】
酸化剤は、公知の第2剤と同様、臭素酸塩(臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムなど)又は過酸化水素であるとよい。
第2剤のpHは、臭素酸塩を配合する場合、25℃において、例えば5.0以上7.5以下であり、過酸化水素を配合する場合、25℃において、例えば2.5以上3.5以下であってよい。
第2剤は、毛髪に塗布し、例えば、3分以上15分以下放置する。放置後の毛髪は、洗浄、乾燥させるとよい。
【0024】
なお、毛髪を変形させる方法は、毛髪を伸ばして直線状に近づけるために行われてもよいし、縮毛矯正として行われてもよいし、毛髪形状をカール状やウェーブ状にするために行われてもよい。
【0025】
(毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程)
本工程に用いる毛髪処理剤は、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体、及び、(B)側鎖構造を有する多糖類が配合されたものである。なお、毛髪処理剤における水の配合量は、特に限定されないが、例えば70質量%以上とすることができる。
【0026】
(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体としては、毛髪に塗布して用いられる公知の毛髪処理剤に配合される公知のタンパク質加水分解物又はその誘導体から一種又は二種以上が選ばれる。
タンパク質加水分解物は、例えば、加水分解ケラチン、加水分解シルク、加水分解コラーゲン、加水分解ダイズタンパク、加水分解アーモンドタンパク、加水分解カゼイン、加水分解カラスムギタンパク、加水分解酵母タンパク、加水分解コンキオリン、加水分解シロバナルーピンタンパク、加水分解トウモロコシタンパク、加水分解乳タンパク、加水分解ハチミツタンパク、加水分解ヘーゼルナッツタンパク、加水分解ホホバタンパク、加水分解野菜タンパク、加水分解ローヤルゼリータンパクが挙げられる。
【0027】
タンパク質加水分解物の誘導体は、毛髪の補修成分として配合され、カチオン化加水分解タンパク、シリル化加水分解タンパクなどの公知のタンパク質加水分解物の誘導体から一種又は二種以上が選ばれる。カチオン化加水分解タンパクとしては、例えば、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解コラーゲン、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解ケラチン、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解シルク、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解カゼイン、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解ダイズタンパク、ココジモニウムヒドロキシプロピル加水分解コラーゲン、ココジモニウムヒドロキシプロピル加水分解ケラチン、ココジモニウムヒドロキシプロピル加水分解シルク、ココジモニウムヒドロキシプロピル加水分解ダイズタンパクが挙げられ、シリル化加水分解タンパクとしては、例えば、加水分解コラーゲンPGプロピルメチルシランジオール、(ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)ヒドロキシプロピル加水分解ケラチン、(ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)ヒドロキシプロピル加水分解シルク、(ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)ヒドロキシプロピル加水分解ダイズタンパクが挙げられる。
【0028】
なお、タンパク質加水分解物又はその誘導体としては、毛髪の質感を良好にする観点から、上記のうちでも、ケラチン、コラーゲン又はシルクに由来するものであることが好ましい。
【0029】
本実施形態の毛髪処理剤に配合するタンパク質加水分解物及びその誘導体の総配合量は、例えば、0.001質量%以上10質量%以下とすることができ、0.005質量%以上5質量%以下がよく、0.01質量%以上1質量%以下が好ましい。0.001質量%以上であると、毛髪の質感を良好にする点で好適であり、10質量%以下であると、毛髪処理剤の低コスト化の観点から好ましい。
【0030】
本実施形態の毛髪処理剤に配合するタンパク質加水分解物及びその誘導体の数平均分子量は、特に限定されない。なお、タンパク質加水分解物及びその誘導体の毛髪内部への浸透性を高める観点からは、数平均分子量が10000以下のものがよく、8000以下のものが好ましく、5000以下のものがより好ましい。一方、タンパク質加水分解物及びその誘導体の数平均分子量は、例えば300以上であってよい。
【0031】
上記の数平均分子量は、「{(総窒素量×(平均アミノ酸分子量-18))/アミノ態窒素量}+18」により算出される値である。ここで、「総窒素量」は、ケルダール法で測定でき、「平均アミノ酸分子量」は、アミノ酸分析によるアミノ酸組成比から求められ、「アミノ態窒素量」は、Van Slyke法で測定できる。
【0032】
(B)側鎖構造を有する多糖類としては、主鎖から分岐した側鎖を有する多糖類であり、一種又は二種以上を用いることができる。多糖類のなかでも側鎖構造を有するものを用いることにより、毛髪処理剤に適度な粘性を付与させやすい。
側鎖構造を有する多糖類としては、例えば、キサンタンガム、デンプン、ヴァーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガムなどが挙げられる。
【0033】
多糖類が有する側鎖構造には、熱処理を行う際に毛髪表面をさらっとさせることなく毛髪処理剤を毛髪上に伸ばしやすい点で、アニオン性の官能基が含まれていることが好ましい。熱処理としてヘアアイロンを用いた処理を行う場合に、当該アニオン性の官能基を側鎖構造に有する多糖類は特に好ましい。当該アニオン性の官能基を側鎖構造に有する多糖類のなかでも、側鎖構造にカルボキシル基を有するものであることが好ましく、なかでも、毛髪の質感を良好にする観点から、特に、キサンタンガムが好ましい。なお、キサンタンガムとしては、例えば、キサンタンガム1.0質量%水溶液の粘度が700mPa・s以上1400mPa・s以下のものがよい。
側鎖構造を有する多糖類は、毛髪処理剤を操作性のよい粘度にし易く、毛髪に柔らかさを付与できる観点から、毛髪処理剤における配合量が1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。なお、毛髪処理剤における側鎖構造を有する多糖類の配合量は、例えば、0.01質量%以上である。
【0034】
本実施形態の毛髪処理剤には、毛髪に塗布して用いられる公知の毛髪処理剤に配合される原料から適宜選定された任意原料を配合してもよい。当該原料は、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、高分子化合物、シリコーン、炭化水素、ロウ、高級アルコール、多価アルコール、脂肪酸、油脂、エステル油、タンパク質、アミノ酸、キレート剤、抗炎症剤、香料などである。
特に、毛髪処理剤には、毛髪の熱損傷を防ぐ公知の成分として、グリシン、セリン、アスパラギン酸、リシン、アラニン、アルギニン、グルコース、トレハロース、N-アセチルグルコサミンから選ばれる一種又は二種以上が更に配合されてもよい。
【0035】
毛髪処理剤の剤型は、特に限定されず、液状、クリーム状、ワックス状、ゲル状、フォーム状(泡状)、霧状等が挙げられるが、タンパク質加水分解物及び/又はその誘導体を毛髪内部に浸透させ易く、毛髪の質感を良好にしやすい点で、液状のものが好ましい。
【0036】
毛髪処理剤のpHは、膨潤状態にある毛髪の損傷を抑制する観点から、25℃において、例えば2.0以上10.0以下であることが好ましく、3.0以上8.0以下であることがより好ましく、4.0以上6.5以下であることが更に好ましい。
【0037】
毛髪処理剤の粘度は、特に限定されるものではないが、例えば、毛髪への塗布の作業性を高める観点から、1000mPa・s以下であってよい。この粘度は、B型粘度計を使用し、適宜なローターを用いて、25℃でローター回転数12rpmとして計測したときの、計測開始から60秒後の値を意味している。
【0038】
(毛髪を熱処理する工程)
毛髪を熱処理する工程では、毛髪処理剤を洗い流すことなく又は洗い流して、毛髪を加熱する。なお、毛髪処理剤を毛髪に十分に浸透させ、毛髪の質感を良好にする観点から、毛髪処理剤を洗い流すことなく毛髪を加熱することが好ましい。一般に毛髪が熱処理されると、その柔らかさ、すべり、毛先のまとまりといった毛髪の質感が悪化しがちであるが、上述のように毛髪処理剤が塗布された毛髪を熱処理することにより、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまり等の毛髪の質感を良好にすることができる。
なお、毛髪内に残存する水分が急激に蒸発して毛髪を損傷させることを避ける観点から、毛髪を熱処理する工程の前には、毛髪に乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理では、例えば、ドライヤーによる温風を用いて毛髪を乾燥させてもよい。
【0039】
毛髪の加熱は、毛髪を70℃以上の発熱体と接触させることで行うとよい。当該発熱体を用いた加熱としては、毛髪を伸ばしてその形状を直線状に近づけるための公知のヘアアイロン、毛髪形状をウェーブ状にするためのロッド、毛髪形状をカール状やウェーブ状にするためのカーリングアイロンを使用して行うとよい。
なお、特に、高齢女性は、縮毛矯正を行うことにより毛髪の軽さや毛先のまとまりが悪化しがちであるが、上述のように毛髪処理剤を塗布する工程を経てヘアアイロンによる熱処理を行うことで、毛髪の軽さ及び毛先のまとまりを良好にすることができる。
【0040】
毛髪形状を直線状に近づけるためのヘアアイロンは、ハッコー社製「ADST Premium DS プロ用ストレートヘアアイロン」、「ADST Premium DS(FDS-25)」、小泉成器社製「VSI-1009/PJ」などとして公知である。このヘアアイロンには、対向する一対の金属製板状体が発熱体として備わっている。そして、ヘアアイロンを使用する際には、公知の通り、乾燥又はほぼ乾燥させた毛髪を対向する発熱体間に挟み、その後に、毛髪を挟んだ状態を維持しながらヘアアイロンを毛髪の長手方向に沿って滑らせるようにして移動させる。
【0041】
上記ヘアアイロンの発熱体の設定温度は、毛髪の形状を効率良く変形させるために、70℃以上としてよく、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、140℃以上が更に好ましく、160℃以上が最も好ましい。一方、上記発熱体の設定温度は、毛髪の損傷を抑えるためには、230℃以下としてよく、210℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、190℃以下が更に好ましい。
【0042】
毛髪形状をウェーブ状にするためのロッドは、公知の装置に備わっており、その装置は、大広製作所社製「ODIS EX」などである。ロッドには湿潤した毛髪を巻き取り、その後に、ロッドにおける毛髪の当接面を所定温度に上昇させる。そして、ロッドの熱で毛髪を乾燥させるのが一般的である。
【0043】
上記ロッドの設定温度は、毛髪の形状を効率良く変形させるために、70℃以上としてよく、80℃以上が好ましい。一方、ロッドの設定温度の上限は、毛髪を乾燥するための温度である100℃であるとよい。
【0044】
毛髪形状をカール状やウェーブ状にするためのカーリングアイロンは、ハッコー社製「Digital Perming」などとして公知である。このカーリングアイロンは、発熱体の温度を例えば140℃以上190℃以下に設定して使用される。
【0045】
(毛髪処理剤)
本実施形態の毛髪処理剤は、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体、及び、(B)側鎖構造を有する多糖類が配合された、毛髪を熱処理する工程の前に塗布されるものである。
本実施形態の毛髪処理剤は、上記毛髪処理方法において用いられる毛髪処理剤であることが好ましい。
なお、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体、(B)側鎖構造を有する多糖類、毛髪を熱処理する工程等については、上記毛髪処理方法の説明における記載と同様である。
【実施例0046】
以下、本発明の実施例を例に挙げて詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0047】
(毛髪処理)
日本人女性から採取した酸化染毛処理履歴がある長さ20cm程度、重量2gの毛髪の毛束を、シャンプーにより洗浄し、タオルで水分を拭き取ったものを対象毛束として用意した。
以上の対象毛束に対して、還元処理、中間処理、熱処理、酸化処理をこの順で行うことで毛髪処理を施した。
【0048】
還元処理は、ストレートパーマ用の第1剤4g程度を対象毛束に塗布し、15分放置することで行った。なお、還元処理された毛束は、温水で十分に洗浄した後にタオルで水分を拭き取った。
中間処理は、このタオルドライされた毛束について、各実施例及び比較例の毛髪処理剤0.5g程度を噴霧塗布することで行った。なお、中間処理された毛束は、毛髪処理剤を洗い流すことなく、ドライヤーによる温風で完全に乾燥させた。
熱処理は、ヘアアイロンにおける180℃に設定された一対の発熱体の間に、中間処理後の乾燥させた毛束を挟んで、毛束を直線状に伸ばしつつ滑らせる操作を3回行うことにより行った。
酸化処理は、熱処理された毛束について、ストレートパーマ用の第2剤4g程度を塗布し、室温で5分程度放置することで行った。
なお、酸化処理された毛束を温水で洗浄し、ヘアトリートメントを塗布し、水洗後、ドライヤーによる温風で乾燥させることにより毛髪処理を終えた。以上の毛髪処理を終えた毛束の質感について、後述の通り評価した。
【0049】
なお、シャンプーとしては、株式会社ミルボン製「ディーセス ノイドゥーエ ウィローリュクス シャンプー」を用いた。
ストレートパーマ用の第1剤としては、株式会社ミルボン製「ネオリシオH1剤(チオグリコール酸濃度9.5%程度、pH9程度)」を用いた。
【0050】
ヘアアイロンとしては、株式会社ハッコー製「ADST Premium DS プロ用ストレートヘアアイロン ADST Premium DS(FDS-25)」を用いた。
ストレートパーマ用の第2剤としては、株式会社ミルボン製「ネオリシオ2剤(過酸化水素濃度1.5%程度、pH3程度)」を用いた。
トリートメントとしては、株式会社ミルボン製「ノイドゥーエ ウィローリュクス トリートメント」を用いた。
なお、各実施例及び比較例で用いた毛髪処理剤は、いずれも25℃におけるpHが5.5であった。
【0051】
(評価)
上記毛髪処理を行った毛束について、柔らかさ、すべり、及び、毛先のまとまりの各質感の評価を4名の評価者が行った。ここでの評価は、比較例1の毛髪処理剤を用いて処理した毛束の質感を基準とし、4人中3人以上が基準よりも改善(より柔らかい、よりすべる、より毛先がまとまっている)したと判断した場合を「◎」、4人中2人が基準よりも改善したと判断した場合を「○」、4人中1人以下が基準よりも改善したと判断した場合を「-」、4人中0人が基準よりも改善したと判断した場合又は4人中1人以上が基準よりも悪化したと判断した場合を「×」とした。
なお、「柔らかさ」は、毛束に指を通したときの毛束全体が柔らかいほど良いと評価した。「すべり」は、毛束に指を通したときに引っ掛かる質感が少なく、毛髪表面をすべるような指通りを示すものほど良いと評価した。「毛先のまとまり」は、毛束の毛先が広がらずにまとまっているものほど良いと評価した。
【0052】
なお、各実施例及び比較例において用いた「(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体」について、「{(総窒素量×(平均アミノ酸分子量-18))/アミノ態窒素量}+18」により算出される数平均分子量は、「加水分解コラーゲン」が400、「加水分解ケラチン」が30000、「加水分解シルク」が1000、「N-[2-ヒドロキシ-3-[3-(ジヒドロキシメチルシリル)プロポキシ]プロピル]加水分解シルク」が550であった。なお、ポリアクリルアミド電気泳動法(SDS-PAGE:Sodium dodecyl sulfate Poly Acrylamide Gel Electrophoresis)により解析して求めた「カルボキシメチルアラニルジスルフィドケラチン」の分子量は、20000~80000であった。
また、各実施例及び比較例1における「(B)側鎖構造を有する多糖類」としてのキサンタンガムは、DSP五協フード&ケミカル社製「ラボールガムGS-C」を用いた。
【0053】
上記各実施例及び比較例について、評価結果と共に下記表1に示す。
【表1】
【0054】
上記表1に示す評価結果によれば、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体と(B)側鎖構造を有する多糖類とのいずれかが配合されていない比較例1-2に比べて、これらがいずれも配合された実施例1-5では、「毛髪の柔らかさ」、「すべり」、「毛先のまとまり」の各質感において、いずれも改善が確認された。
なかでも、実施例3は「すべり」が十分に改善し、実施例2は「柔らかさ」と「すべり」が十分に改善しており、特に、実施例1、4、5については「柔らかさ」と「すべり」と「毛先のまとまり」の全ての質感が十分に改善したことが確認された。
なお、上記実施例及び比較例のいずれにおいても、毛髪をヘアアイロンにより伸ばすことによる毛髪変形の目視による効果は、毛髪処理剤を用いない場合と比べて同等であり、十分な変形効果が得られていた。