IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミルボンの特許一覧

特開2022-108212毛髪熱処理前処理剤及び毛髪処理方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108212
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】毛髪熱処理前処理剤及び毛髪処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/365 20060101AFI20220715BHJP
   A61Q 5/04 20060101ALI20220715BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
A61K8/365
A61Q5/04
A61K8/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003121
(22)【出願日】2021-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【弁理士】
【氏名又は名称】合路 裕介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 喜日出
(72)【発明者】
【氏名】前山 健吾
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC172
4C083AC231
4C083AC442
4C083AC482
4C083AD042
4C083AD211
4C083AD351
4C083AD352
4C083AD431
4C083AD432
4C083AD441
4C083AD442
4C083AD452
4C083CC34
4C083DD27
4C083EE25
(57)【要約】
【課題】酸及び熱による毛髪処理において、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能な毛髪熱処理前処理剤及び毛髪処理方法の提供。
【解決手段】(1)酸及び/又はその塩が配合された酸性の酸処理剤を毛髪に塗布する工程、(2)毛髪熱処理前処理剤を毛髪に塗布する工程、及び、(3)毛髪を熱処理する工程を備えた毛髪処理において用いられる毛髪熱処理前処理剤であって、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体が配合された毛髪熱処理前処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)酸及び/又はその塩が配合された酸性の酸処理剤を毛髪に塗布する工程、
(2)毛髪熱処理前処理剤を毛髪に塗布する工程、及び、
(3)毛髪を熱処理する工程
を備えた毛髪処理において用いられる毛髪熱処理前処理剤であって、
(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体が配合された毛髪熱処理前処理剤。
【請求項2】
前記(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体として、ケラチン、コラーゲン又はシルクに由来する1種又は2種以上が配合された請求項1に記載の毛髪熱処理前処理剤。
【請求項3】
更に(B)側鎖構造を持つ多糖類が配合された請求項1又は2に記載の毛髪熱処理前処理剤。
【請求項4】
前記(B)側鎖構造を持つ多糖類は、前記側鎖構造にアニオン性の官能基を含む請求項3に記載の毛髪熱処理前処理剤。
【請求項5】
前記(B)側鎖構造を持つ多糖類としてキサンタンガムが配合された請求項3又は4に記載の毛髪熱処理前処理剤。
【請求項6】
前記(B)側鎖構造を持つ多糖類の配合量が1.0質量%以下である請求項3から5のいずれか1項に記載の毛髪熱処理前処理剤。
【請求項7】
前記酸処理剤としてグリオキシル酸が配合された請求項1から6のいずれか1項に記載の毛髪熱処理前処理剤。
【請求項8】
前記(3)工程における毛髪の加熱が、ヘアアイロンによって行われる請求項1から7のいずれか1項に記載の毛髪熱処理前処理剤。
【請求項9】
前記毛髪処理では、前記(1)工程の後、前記(2)の工程の前に、毛髪が洗浄される、
請求項1から8のいずれか1項に記載の毛髪熱処理前処理剤。
【請求項10】
(1)酸及び/又はその塩が配合された酸性の酸処理剤を毛髪に塗布する工程、
(2)請求項1から9のいずれか1項に記載の毛髪熱処理前処理剤を毛髪に塗布する工程、
(3)毛髪を熱処理する工程
を備えた毛髪処理方法。
【請求項11】
毛髪を変形させる方法である、請求項10に記載の毛髪処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪熱処理前処理剤及び毛髪処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、毛髪の質感を良好にする毛髪処理方法として、「酸・熱トリートメント」と称される毛髪処理が知られている。この酸・熱トリートメントでは、酸を毛髪に塗布し、酸を洗浄除去して乾燥させた後に、ヘアアイロン等を用いて毛髪の熱処理を行うことで、比較的長期間にわたって、毛髪の質感が改善されるとされている。
例えば、特許文献1(特開2020-66575号公報)では、酸・熱トリートメントにより得られる毛髪の質感改善効果を高めるために、洗浄と乾燥との間にシリコーンが配合された液状組成物を毛髪に塗布することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-66575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、酸を毛髪に塗布する工程や毛髪を熱処理する工程を備えた毛髪処理方法において、上記特許文献1に記載のシリコーンが配合された液状組成物を用いる方法以外にも、毛髪の質感改善効果を高める方法が望まれる。
本発明は、上記事情に鑑み、酸及び熱による毛髪処理において、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能な毛髪熱処理前処理剤及び毛髪処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等が鋭意検討を行った結果、所定の酸処理剤を毛髪に塗布した後であって、毛髪を加熱する前に、タンパク質加水分解物又はその誘導体が配合された毛髪熱処理前処理剤を毛髪に塗布することにより、毛髪の質感が良好になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の毛髪熱処理前処理剤では、所定の毛髪処理において用いられる毛髪熱処理前処理剤であって、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体が配合される。当該毛髪処理は、(1)酸及び/又はその塩が配合された酸性の酸処理剤を毛髪に塗布する工程、(2)毛髪熱処理前処理剤を毛髪に塗布する工程、及び、(3)毛髪を熱処理する工程を備えるものである。当該毛髪熱処理前処理剤を用いて上記毛髪処理を行うことで、処理後の毛髪について、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能となる。
【0007】
本発明の毛髪熱処理前処理剤は、前記(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体として、ケラチン、コラーゲン又はシルクに由来する1種又は2種以上が配合されていることが好ましい。
【0008】
本発明の毛髪熱処理前処理剤は、更に(B)側鎖構造を持つ多糖類が配合されていることが好ましい。これにより、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感をより良好にすることが可能となる。
【0009】
前記(B)側鎖構造を持つ多糖類は、前記側鎖構造にアニオン性の官能基を含むものであることが好ましい。
【0010】
本発明の毛髪熱処理前処理剤は、前記(B)側鎖構造を持つ多糖類としてキサンタンガムが配合されていることが好ましい。
【0011】
本発明の毛髪熱処理前処理剤は、前記(B)側鎖構造を持つ多糖類の配合量が1.0質量%以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の毛髪熱処理前処理剤は、前記酸処理剤としてグリオキシル酸が配合されていることが好ましい。
【0013】
本発明の毛髪熱処理前処理剤が用いられる毛髪処理では、前記(3)工程における毛髪の加熱がヘアアイロンによって行われることが好ましい。
【0014】
本発明の毛髪熱処理前処理剤が用いられる毛髪処理では、前記(1)工程の後、前記(2)の工程の前に、毛髪が洗浄されることが好ましい。
【0015】
本発明の毛髪処理方法では、(1)酸及び/又はその塩が配合された酸性の酸処理剤を毛髪に塗布する工程、(2)上記いずれかの毛髪熱処理前処理剤を毛髪に塗布する工程、及び、(3)毛髪を熱処理する工程を備えている。当該毛髪処理方法により、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能となる。
【0016】
本発明の毛髪処理方法は、毛髪を変形させる方法であることが好ましい。当該毛髪処理方法によれば、毛髪を変形させつつ毛髪の質感を良好にすることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る毛髪熱処理前処理剤は、酸処理剤を毛髪に塗布した後、熱処理する工程の前に毛髪に塗布して用いることにより、処理後の毛髪について、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能となる。
本発明に係る毛髪処理方法によれば、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各実施形態に係る毛髪熱処理前処理剤及び毛髪処理方法について例に挙げて説明するが、これらは特に発明を限定するものではない。
(毛髪処理方法)
本実施形態の毛髪処理方法は、(1)酸処理剤を毛髪に塗布する工程、(2)毛髪熱処理前処理剤を毛髪に塗布する工程、及び、(3)毛髪を熱処理する工程を備えている。ここで、
酸処理剤は、酸及び/又はその塩が配合された酸性のものである。また、毛髪熱処理前処理剤は、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体が配合されたものである。当該毛髪処理方法により、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることが可能となる。
【0019】
なお、毛髪処理方法は、毛髪の熱処理時の操作性を良好にする観点から、毛髪熱処理前処理剤を毛髪に塗布する工程の後、毛髪を熱処理する工程の前に、毛髪を乾燥させる工程を更に備えていることが好ましい。
【0020】
また、毛髪処理方法は、毛髪を変形させる方法であることが好ましい。これにより、整形された毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまりの少なくともいずれかの質感を良好にすることができる。毛髪を変形させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば、毛髪形状を直線状に近づける方法であってよい。
【0021】
(1)酸処理剤を毛髪に塗布する工程
酸処理剤は、酸及び/又はその塩が水に配合された酸性のものである。酸処理剤における水の配合量は、特に限定されず、例えば70質量%以上とすることができる。
酸処理剤は、例えば、濡れた毛髪又は乾燥した毛髪に対して塗布される。酸処理剤を塗布する前に、シャンプーを用いて又は用いないで毛髪を洗浄しておくとよい。
酸及びその塩は、有機酸、有機酸の塩、無機酸、及び無機酸の塩である(塩の態様としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等である。)。酸及びその塩の酸処理剤における総配合量は、特に限定されないが、例えば3質量%以上30質量%以下である。
【0022】
酸として有機酸又はその塩を配合する場合、当該有機酸(有機酸の塩の場合は、その構成有機酸)としては、例えば、グリオキシル酸、レブリン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸などのモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸などのジカルボン酸;クエン酸などのトリカルボン酸;が挙げられ、好ましい有機酸としては、例えば、グリオキシル酸、乳酸である。有機酸及びその塩から選ばれた一種又は二種以上が本実施形態の酸処理剤に配合され、酸処理剤における有機酸及びその塩の総配合量は、例えば3質量%以上30質量%以下である。
【0023】
酸処理剤には、公知の酸・熱トリートメントで使用される組成物において使用される成分を、任意成分として配合できる。この任意成分としては、高級アルコール、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、低級アルコール、多価アルコール、シリコーン、香料、防腐剤などである。
【0024】
処理剤は、酸性であれば、pHが特に限定されるものではない。当該pHは、1.5以上6.0未満が良く、1.5以上4.0未満が好ましい。1.5以上であれば、頭皮に付着した場合の刺激を抑制でき、6.0未満であれば、酸及びその塩の総配合量を多くできる。
【0025】
酸処理剤の剤型は、特に限定されず、例えば、液状、クリーム状が挙げられる。例えばB型粘度計を使用して25℃で計測した60秒後の粘度が10,000mPa.s以上60,000mPa.s以下のクリーム状であれば、ハンドリング上好ましく、頭皮への付着を抑制しやすい。
【0026】
酸処理剤の剤型をクリーム状とする場合、例えば高級アルコール及びカチオン界面活性剤を配合するとよい。
【0027】
酸処理剤の剤型をクリーム状とする場合の上記高級アルコールは、炭素数6以上の一価アルコールであり、炭素数が16以上22以下の飽和アルコールであることが好ましい。当該高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコールなどの直鎖状飽和アルコール;オレイルアルコールなどの直鎖状不飽和アルコール;ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール、イソセチルアルコール、ドデシルヘキサデカノール、イソステアリルアルコール、テトラデシルオクタデカノールなどの分岐状飽和アルコールが挙げられる。一種又は二種以上の高級アルコールを本実施形態の酸処理剤に配合するとよく、酸処理剤における高級アルコールの配合量は、適宜設定されるものであるが、例えば2質量%以上8質量%以下である。
【0028】
また、酸処理剤の剤型をクリーム状とする場合の上記カチオン界面活性剤としては、例えば長鎖アルキルトリメチル4級アンモニウム塩、ジ長鎖アルキルジメチル4級アンモニウム塩が挙げられる。長鎖アルキルトリメチル4級アンモニウム塩を構成する4級アンモニウムとしては、ラウリルトリメチルアンモニウム、ミリスチルトリメチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、ベヘニルトリメチルアンモニウムが挙げられ、ジ長鎖アルキルジメチル4級アンモニウム塩を構成する4級アンモニウムとしては、ジラウリルジメチルアンモニウム、ジミリスチルジメチルアンモニウム、ジセチルジメチルアンモニウム、ジステアリルジメチルアンモニウム、ジベヘニルジメチルアンモニウムが挙げられる。一種又は二種以上のカチオン界面活性剤を本実施形態の酸処理剤に配合するとよく、酸処理剤におけるカチオン界面活性剤の配合量は、適宜設定されるものであるが、例えば1質量%以上5質量%以下である。
【0029】
本実施形態の酸処理では、酸処理剤を毛髪に塗布してから一定時間放置するとよい。この放置時間は、例えば1分以上30分以下である。放置中は、公知の方法により、酸処理剤が塗布された毛髪を加温するとよい。
【0030】
なお、上記酸処理剤を毛髪に塗布する酸処理では、塗布した酸処理剤を毛髪から洗い流すことが好ましい。酸処理剤の洗い流しは、温水を用いた水洗でもよいし、公知のシャンプー用組成物を毛髪に塗布した後に水洗してもよい。
【0031】
(2)毛髪熱処理前処理剤を毛髪に塗布する工程
毛髪熱処理前処理剤は、酸処理を終えた毛髪に対して塗布される。
なお、毛髪熱処理前処理剤は、酸処理剤が洗い流された後、タオルドライされた毛髪に対して塗布されることが好ましい。
【0032】
毛髪熱処理前処理剤は、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体が配合されたものである。なお、毛髪熱処理前処理剤における水の配合量は、特に限定されないが、例えば70質量%以上とすることができる。
【0033】
(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体としては、毛髪に塗布して用いられる公知の毛髪処理剤に配合される公知のタンパク質加水分解物又はその誘導体から一種又は二種以上が選ばれる。
タンパク質加水分解物は、例えば、加水分解ケラチン、加水分解シルク、加水分解コラーゲン、加水分解ダイズタンパク、加水分解アーモンドタンパク、加水分解カゼイン、加水分解カラスムギタンパク、加水分解酵母タンパク、加水分解コンキオリン、加水分解シロバナルーピンタンパク、加水分解トウモロコシタンパク、加水分解乳タンパク、加水分解ハチミツタンパク、加水分解ヘーゼルナッツタンパク、加水分解ホホバタンパク、加水分解野菜タンパク、加水分解ローヤルゼリータンパクが挙げられる。
【0034】
タンパク質加水分解物の誘導体は、毛髪の補修成分として配合され、カチオン化加水分解タンパク、シリル化加水分解タンパクなどの公知のタンパク質加水分解物の誘導体から一種又は二種以上が選ばれる。カチオン化加水分解タンパクとしては、例えば、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解コラーゲン、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解ケラチン、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解シルク、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解カゼイン、ヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解ダイズタンパク、ココジモニウムヒドロキシプロピル加水分解コラーゲン、ココジモニウムヒドロキシプロピル加水分解ケラチン、ココジモニウムヒドロキシプロピル加水分解シルク、ココジモニウムヒドロキシプロピル加水分解ダイズタンパクが挙げられ、シリル化加水分解タンパクとしては、例えば、加水分解コラーゲンPGプロピルメチルシランジオール、(ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)ヒドロキシプロピル加水分解ケラチン、(ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)ヒドロキシプロピル加水分解シルク、(ジヒドロキシメチルシリルプロポキシ)ヒドロキシプロピル加水分解ダイズタンパクが挙げられる。
【0035】
なお、タンパク質加水分解物又はその誘導体としては、毛髪の質感を良好にする観点から、上記のうちでも、ケラチン、コラーゲン又はシルクに由来するものであることが好ましい。
【0036】
本実施形態の毛髪熱処理前処理剤に配合するタンパク質加水分解物及びその誘導体の総配合量は、例えば、0.001質量%以上10質量%以下とすることができ、0.005質量%以上5質量%以下がよく、0.01質量%以上1質量%以下が好ましい。0.001質量%以上であると、毛髪の質感を良好にする点で好適であり、10質量%以下であると、毛髪熱処理前処理剤の低コスト化の観点から好ましい。
【0037】
本実施形態の毛髪熱処理前処理剤に配合するタンパク質加水分解物及びその誘導体の数平均分子量は、特に限定されない。なお、タンパク質加水分解物及びその誘導体の毛髪内部への浸透性を高める観点からは、数平均分子量が10000以下のものがよく、8000以下のものが好ましく、5000以下のものがより好ましい。一方、タンパク質加水分解物及びその誘導体の数平均分子量は、例えば300以上であってよい。
【0038】
上記の数平均分子量は、「{(総窒素量×(平均アミノ酸分子量-18))/アミノ態窒素量}+18」により算出される値である。ここで、「総窒素量」は、ケルダール法で測定でき、「平均アミノ酸分子量」は、アミノ酸分析によるアミノ酸組成比から求められ、「アミノ態窒素量」は、Van Slyke法で測定できる。
【0039】
毛髪熱処理前処理剤には、(B)側鎖構造を有する多糖類が更に配合されていることが好ましい。
(B)側鎖構造を有する多糖類としては、主鎖から分岐した側鎖を有する多糖類であり、一種又は二種以上を用いることができる。多糖類のなかでも側鎖構造を有するものを用いることにより、毛髪熱処理前処理剤に適度な粘性を付与させやすい。
側鎖構造を有する多糖類としては、例えば、キサンタンガム、デンプン、ヴァーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガムなどが挙げられる。
【0040】
多糖類が有する側鎖構造には、熱処理を行う際に毛髪表面をさらっとさせることなく毛髪熱処理前処理剤を毛髪上に伸ばしやすい点で、アニオン性の官能基が含まれていることが好ましい。熱処理としてヘアアイロンを用いた処理を行う場合に、当該アニオン性の官能基を側鎖構造に有する多糖類は特に好ましい。当該アニオン性の官能基を側鎖構造に有する多糖類のなかでも、側鎖構造にカルボキシル基を有するものであることが好ましく、なかでも、毛髪の質感を良好にする観点から、特に、キサンタンガムが好ましい。なお、キサンタンガムとしては、例えば、キサンタンガム1.0質量%水溶液の粘度が700mPa・s以上1400mPa・s以下のものがよい。
側鎖構造を有する多糖類は、毛髪熱処理前処理剤を操作性のよい粘度にし易く、毛髪に柔らかさを付与できる観点から、毛髪熱処理前処理剤における配合量が1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。なお、毛髪熱処理前処理剤における側鎖構造を有する多糖類の配合量は、例えば、0.01質量%以上である。
【0041】
本実施形態の毛髪熱処理前処理剤には、毛髪に塗布して用いられる公知の毛髪処理剤に配合される原料から適宜選定された任意原料を配合してもよい。当該原料は、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、高分子化合物、シリコーン、炭化水素、ロウ、高級アルコール、多価アルコール、脂肪酸、油脂、エステル油、タンパク質、アミノ酸、キレート剤、抗炎症剤、香料などである。
特に、毛髪熱処理前処理剤には、毛髪の熱損傷を防ぐ公知の成分として、グリシン、セリン、アスパラギン酸、リシン、アラニン、アルギニン、グルコース、トレハロース、N-アセチルグルコサミンから選ばれる一種又は二種以上が更に配合されてもよい。
【0042】
毛髪熱処理前処理剤の剤型は、特に限定されず、液状、クリーム状、ワックス状、ゲル状、フォーム状(泡状)、霧状等が挙げられるが、タンパク質加水分解物及び/又はその誘導体を毛髪内部に浸透させ易く、毛髪の質感を良好にしやすい点で、液状のものが好ましい。
【0043】
毛髪熱処理前処理剤のpHは、毛髪の損傷を抑制させる観点から、25℃において、例えば2.0以上10.0以下であることが好ましく、3.0以上8.0以下であることがより好ましく、4.0以上6.5以下であることが更に好ましい。
【0044】
毛髪熱処理前処理剤の粘度は、特に限定されるものではないが、例えば、毛髪への塗布の作業性を高める観点から、1000mPa・s以下であってよい。この粘度は、B型粘度計を使用し、適宜なローターを用いて、25℃でローター回転数12rpmとして計測したときの、計測開始から60秒後の値を意味している。
【0045】
(3)毛髪を熱処理する工程
毛髪を熱処理する工程では、毛髪熱処理前処理剤を洗い流すことなく又は洗い流して、毛髪を加熱する。なお、毛髪熱処理前処理剤を毛髪に十分に浸透させ、毛髪の質感を良好にする観点から、毛髪熱処理前処理剤を洗い流すことなく毛髪を加熱することが好ましい。一般に毛髪が熱処理されると、その柔らかさ、すべり、毛先のまとまりといった毛髪の質感が悪化しがちであるが、上述のように毛髪熱処理前処理剤が塗布された毛髪を熱処理することにより、毛髪の柔らかさ、すべり、毛先のまとまり等の毛髪の質感を良好にすることができる。
なお、毛髪内に残存する水分が急激に蒸発して毛髪を損傷させることを避ける観点から、毛髪を熱処理する工程の前には、毛髪に乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理では、例えば、ドライヤーによる温風を用いて毛髪を乾燥させてもよい。
【0046】
毛髪の加熱は、毛髪を70℃以上の発熱体と接触させることで行うとよい。当該発熱体を用いた加熱としては、毛髪を伸ばしてその形状を直線状に近づけるための公知のヘアアイロン、毛髪形状をウェーブ状にするためのロッド、毛髪形状をカール状やウェーブ状にするためのカーリングアイロンを使用して行うとよい。
なお、特に、高齢女性は、縮毛矯正を行うことにより毛髪の軽さや毛先のまとまりが悪化しがちであるが、上述のように毛髪熱処理前処理剤を塗布する工程を経てヘアアイロンによる熱処理を行うことで、毛髪の軽さ及び毛先のまとまりを良好にすることができる。
【0047】
毛髪形状を直線状に近づけるためのヘアアイロンは、ハッコー社製「ADST Premium DS プロ用ストレートヘアアイロン」、「ADST Premium DS(FDS-25)」、小泉成器社製「VSI-1009/PJ」などとして公知である。このヘアアイロンには、対向する一対の金属製板状体が発熱体として備わっている。そして、ヘアアイロンを使用する際には、公知の通り、乾燥又はほぼ乾燥させた毛髪を対向する発熱体間に挟み、その後に、毛髪を挟んだ状態を維持しながらヘアアイロンを毛髪の長手方向に沿って滑らせるようにして移動させる。
【0048】
上記ヘアアイロンの発熱体の設定温度は、毛髪の形状を効率良く変形させるために、70℃以上としてよく、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、140℃以上が更に好ましく、160℃以上が最も好ましい。一方、上記発熱体の設定温度は、毛髪の損傷を抑えるためには、230℃以下としてよく、210℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、190℃以下が更に好ましい。
【0049】
毛髪形状をウェーブ状にするためのロッドは、公知の装置に備わっており、その装置は、大広製作所社製「ODIS EX」などである。ロッドには湿潤した毛髪を巻き取り、その後に、ロッドにおける毛髪の当接面を所定温度に上昇させる。そして、ロッドの熱で毛髪を乾燥させるのが一般的である。
【0050】
上記ロッドの設定温度は、毛髪の形状を効率良く変形させるために、70℃以上としてよく、80℃以上が好ましい。一方、ロッドの設定温度の上限は、毛髪を乾燥するための温度である100℃であるとよい。
【0051】
毛髪形状をカール状やウェーブ状にするためのカーリングアイロンは、ハッコー社製「Digital Perming」などとして公知である。このカーリングアイロンは、発熱体の温度を例えば140℃以上190℃以下に設定して使用される。
【0052】
(毛髪熱処理前処理剤)
本実施形態の毛髪熱処理前処理剤は、酸処理剤を毛髪に塗布する工程の後、毛髪を熱処理する工程の前に毛髪に塗布して用いられるものであり、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体が配合されたものである。
本実施形態の毛髪熱処理前処理剤は、上記毛髪処理方法において用いられる毛髪熱処理前処理剤であることが好ましい。
なお、酸処理剤、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体、(B)側鎖構造を有する多糖類、毛髪を熱処理する工程等については、上記毛髪処理方法の説明における記載と同様である。
【実施例0053】
以下、本発明の実施例を例に挙げて詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0054】
(毛髪処理)
日本人女性から採取した酸化染毛処理履歴がある長さ20cm程度、重量2gの毛髪の毛束を、シャンプーにより洗浄し、タオルで水分を拭き取ったものを対象毛束として用意した。
以上の対象毛束に対して、酸処理、熱前処理、熱処理をこの順で行うことで毛髪処理を施した。
【0055】
酸処理は、酸処理剤としての酸含有トリートメント4g程度を対象毛束に塗布し、20分間放置することで行った。なお、酸処理後の毛束は、温水で十分に水洗し、タオルで水分を拭き取った。
熱前処理は、タオルドライされた毛束に対して、各実施例及び比較例の毛髪熱処理前処理剤0.5g程度を噴霧塗布することで行った。なお、熱前処理された毛束は、ドライヤーからの温風により乾燥させた。
熱処理は、ヘアアイロンにおける180℃に設定された一対の発熱体の間に、中間処理後の乾燥させた毛束を挟んで、毛束を直線状に伸ばしつつ滑らせる操作を3回行うことにより行った。以上の毛髪処理を終えた毛束の質感について、後述の通り評価した。
なお、比較例2では、上記酸処理及び熱処理を行っていない。
【0056】
なお、シャンプーとしては、株式会社ミルボン製「ディーセス ノイドゥーエ ウィローリュクス シャンプー」を用いた。
酸含有トリートメント(酸処理剤)としては、「オレス-2 1.0%、セテス-20 0.3%、PEG-100水添ヒマシ油 0.3%、ステアリン酸グリセリル 1.2%、セバシン酸ジエチルヘキシル 0.7%、ステアリン酸ステアリル 0.2%、セタノール 5.0%、イソプロパノール 1.2%、PG 0.6%、ステアリルトリモニウムクロリド 2.5%、アセチルグルコサミン 1.0%、ジメチコン 5.0%、フェノキシエタノール 0.5%、グリオキシル酸 9.0%、香料 0.3%、水酸化Na 適量(pH2.0に調整)、精製水 残余」の組成からなるものを用いた。
【0057】
ヘアアイロンとしては、株式会社ハッコー製「ADST Premium DS プロ用ストレートヘアアイロン ADST Premium DS(FDS-25)」を用いた。
【0058】
(評価)
上記毛髪処理を行った毛束について、柔らかさ、すべり、及び、毛先のまとまりの各質感の評価を4名の評価者が行った。ここでの評価は、比較例1の毛髪熱処理前処理剤を用いて処理した毛束の質感を基準とし、4人中3人以上が基準よりも改善(より柔らかい、よりすべる、より毛先がまとまっている)したと判断した場合を「◎」、4人中2人が基準よりも改善したと判断した場合を「○」、4人中1人以下が基準よりも改善したと判断した場合を「-」、4人中0人が基準よりも改善したと判断した場合又は4人中1人以上が基準よりも悪化したと判断した場合を「×」とした。
なお、「柔らかさ」は、毛束に指を通したときの毛束全体が柔らかいほど良いと評価した。「すべり」は、毛束に指を通したときに引っ掛かる質感が少なく、毛髪表面をすべるような指通りを示すものほど良いと評価した。「毛先のまとまり」は、毛束の毛先が広がらずにまとまっているものほど良いと評価した。
【0059】
なお、各実施例及び比較例において用いた「(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体」について、「{(総窒素量×(平均アミノ酸分子量-18))/アミノ態窒素量}+18」により算出される数平均分子量は、「加水分解コラーゲン」が400、「加水分解ケラチン」が30000、「加水分解シルク」が1000、「N-[2-ヒドロキシ-3-[3-(ジヒドロキシメチルシリル)プロポキシ]プロピル]加水分解シルク」が550であった。なお、ポリアクリルアミド電気泳動法(SDS-PAGE:Sodium dodecyl sulfate Poly Acrylamide Gel Electrophoresis)により解析して求めた「カルボキシメチルアラニルジスルフィドケラチン」の分子量は、20000~80000であった。
また、各実施例及び比較例における「(B)側鎖構造を有する多糖類」としてのキサンタンガムは、DSP五協フード&ケミカル社製「ラボールガムGS-C」を用いた。
【0060】
上記各実施例及び比較例について、評価結果と共に下記表1に示す。
【表1】
【0061】
上記表1に示す評価結果によれば、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体が配合されていない比較例1の毛髪熱処理前処理剤に比べて、当該成分が配合された実施例1-5では、いずれも「毛髪の柔らかさ」、「毛先のまとまり」の各質感において、十分な改善が確認された。
なかでも、実施例3は「毛髪の柔らかさ」と「毛先のまとまり」において十分な改善を示すだけでなく「すべり」についても改善が確認されている。特に、実施例1、4については、「柔らかさ」と「すべり」と「毛先のまとまり」の全ての質感が十分に改善したことが確認された。
なお、比較例1の毛髪熱処理前処理剤は、(A)タンパク質加水分解物又はその誘導体が配合されているものの、酸処理及び熱処理を行わなかったことで、比較例1よりも「柔らかさ」と「すべり」と「毛先のまとまり」の全ての質感において劣ることが確認された。