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特開2022-108252動力電池の熱暴走の事前警報方法、装置、電子デバイス及び媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108252
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】動力電池の熱暴走の事前警報方法、装置、電子デバイス及び媒体
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20220715BHJP
   G01N 25/16 20060101ALI20220715BHJP
   G08B 21/00 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
H01M10/48 P
G01N25/16 Z
H01M10/48 301
G08B21/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147891
(22)【出願日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】202110036843.7
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
2.SMALLTALK
(71)【出願人】
【識別番号】519320446
【氏名又は名称】中国汽車技術研究中心有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】林 春景
(72)【発明者】
【氏名】劉 仕強
(72)【発明者】
【氏名】劉 磊
(72)【発明者】
【氏名】王 芳
(72)【発明者】
【氏名】馬 天翼
(72)【発明者】
【氏名】温 浩然
(72)【発明者】
【氏名】王 金偉
(72)【発明者】
【氏名】陳 立鐸
(72)【発明者】
【氏名】何 興
【テーマコード(参考)】
2G040
5C086
5H030
【Fターム(参考)】
2G040AA05
2G040AB07
2G040BA18
2G040BA25
2G040CA02
2G040CA03
2G040CA13
2G040CA17
2G040CA22
2G040DA15
2G040HA03
2G040HA06
2G040HA10
2G040HA16
5C086AA01
5C086AA06
5C086AA31
5C086AA34
5C086BA22
5C086CA02
5C086CA15
5C086CA24
5C086CB01
5C086CB20
5C086DA08
5C086EA08
5C086EA40
5C086EA45
5C086FA15
5H030AA06
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】動力電池熱暴走の事前警報方法、装置、電子デバイス及び媒体を提供する。
【解決手段】
本発明の動力電池熱暴走の事前警報方法は、電池電圧、電池温度及び電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップと、前記動力電池の熱暴走レベルに基づいて、動力電池熱暴走の事前警報を行うステップと、を含む。本発明は、従来の電池電圧及び電池温度に基づいて熱暴走の事前警報を行うことを踏まえて、電池の膨張力という重要な判断根拠を増加し、電池電圧、電池温度及び電池の膨張力の3つの点に基づいて、熱暴走レベルを特定し、さらに、レベルに基づいて、相応する熱暴走の事前警報を行う。当該方法は、動力電池に熱暴走が発生したか否かを効果的に判断し、電池に明らかな熱暴走が発生する前に、警報信号を出すことができ、さらに、異なる熱暴走レベルに対して異なる警報を行うことができ、ユーザは、異なる熱暴走レベルに応じて相応する対応策を取ることが容易となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池電圧、電池温度、及び、電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップと、
前記動力電池の熱暴走レベルに基づいて、動力電池熱暴走の事前警報を行うステップと、
を含むことを特徴とする動力電池の熱暴走の事前警報方法。
【請求項2】
前記電池電圧、電池温度、及び、電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップを含む
ことを特徴とする、請求項1に記載の動力電池の熱暴走の事前警報方法。
【請求項3】
前記の、電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値のうちの少なくとも2つが、各々の所定値を超えている場合、動力電池に熱暴走が発生したと判定し、その後、所定値を超えた条件の種別に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップ、
を含むことを特徴とする、請求項2に記載の動力電池の熱暴走の事前警報方法。
【請求項4】
前記の、電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、かつ、電池電圧の変化値が所定割合の電池の初期電圧を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル1と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、かつ、電池温度が電池温度の閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル2と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル3と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池電圧の変化値が所定割合の電池の初期電圧を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル4と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池温度が電池温度の閾値を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル5と特定するステップと、
を含むことを特徴とする、請求項2又は3に記載の動力電池の熱暴走の事前警報方法。
【請求項5】
膨張力の変化値の閾値が、1500~2500Nであることを特徴とする、請求項4に記載の動力電池の熱暴走の事前警報方法。
【請求項6】
所定割合の電池の初期電圧が、電池の初期電圧の15%~25%であることを特徴とする、請求項5に記載の動力電池の熱暴走の事前警報方法。
【請求項7】
温度の変化速度の閾値が、1~5℃/sであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の動力電池の熱暴走の事前警報方法。
【請求項8】
電池電圧、電池温度、及び、電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するための動力電池熱暴走レベル特定モジュールと、
前記動力電池の熱暴走レベルに基づいて、動力電池熱暴走の事前警報を行うための熱暴走の事前警報モジュールと、
を含むことを特徴とする、動力電池の熱暴走の事前警報装置。
【請求項9】
少なくとも1つのプロセッサと、
前記少なくとも1つのプロセッサと通信接続するメモリと、
を含み、
前記メモリには、前記少なくとも1つのプロセッサにより実行され得る命令が記憶されており、
前記命令は、前記少なくとも1つのプロセッサに請求項1~7のいずれかに記載の方法を実行させるものであり、前記少なくとも1つのプロセッサにより実行される
ことを特徴とする、電子デバイス。
【請求項10】
コンピュータに請求項1~7のいずれかに記載の方法を実行させるためのコンピュータ命令が記憶されていることを特徴とする、媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力電池分野に関し、具体的には、動力電池熱暴走の事前警報方法、装置、電子デバイス及び媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
過去十数年、中国国内の新エネルギー自動車産業は、急速に発展し、2018年及び2019年の中国の新エネルギー自動車の販売量は、それぞれ125.6万台及び120.6万台に達し、4年間連続して世界一であった。2025年には、中国の新エネルギー自動車の販売量は、自動車総販売量の20%に達すると見込まれている。従って、新エネルギー自動車は、自動車産業のモデルチェンジ・グレードアップの中心的な推進力であり、将来数十年の重要な発展方向である。
【0003】
しかしながら、近年、新エネルギー自動車の発火事故が増え続ける傾向にある。異なる車種、異なる応用場面で発火安全事故が増えつつあることが、電気自動車の大規模普及・応用の大きな阻害となっている。各種類の電気自動車の発火事故及び潜在的な原因をまとめて分析すると、全体として下記の典型的な特徴が見られる。(1)事故が起こった車種は様々であり、乗用車、電気バス、特種用途車等の各種の車種を含む。(2)事故は、季節(環境温度)と高い相関性を有し、夏は、事故が多発する季節である。(3)事故の根源は、動力電池と高い相関性を有する。動力電池は、電気自動車の中核動力源とされており、多くの電気自動車の発火事故がそれと直接に関連する。(4)誘因が曖昧であり、多くの事故の手がかりは、発火燃焼に伴って消えてなくなるため、事故の根源を的確に確かめることは、技術的難易度が高い。
【0004】
電気自動車が発火する時の状態を統計処理し、事故発生の可能性のある原因を分析することにより、電気自動車の各種の発火事故のうち、リチウムイオン動力電池の熱暴走による発火事故が、大きな割合を占めていることがわかった。このような事故の発生過程は、主に「電池セル熱暴走誘因の蓄積」、「電池セル熱暴走の発生」及び「電池システム熱暴走の拡散」の3つの段階を含む。動力電池システムの安全性を高めるために、上記3つの段階を段階的に監視、制御及び予防しなければならない。その中で、非常に重要なことの一つは、電池に熱暴走が発生するときに的確な警報を発し、明らかな信号を乗員に提示することにより、事故が発生した車の処置及び乗員の脱出のために十分な時間を留保することである。
【0005】
現在、業界において電池熱暴走の警報を発するために採用される判定方法は、主に温度、電圧、ガス、スモッグ等に基づいて判断を行うものである。例えば、温度、電圧の組み合わせが、以下の条件を満たす場合に、電池に熱暴走が発生したと判定できる。電圧降下及び温度の変化率がいずれも、それぞれの所定値を超え、最高温度及び温度の変化率がいずれも、それぞれの所定値を超えていること。また、幾つかのガス又はスモッグの濃度が、一定の数値に達した場合、また、電池システム内部におけるCO、H等のガス成分の明らかな変化、あるいはスモッグの大量発生を検出した場合、電池に熱暴走が発生したと判定できる。しかし、電池が上記条件を満たした場合には、電池が既に明らかな熱暴走を発生している。よって、より有効な手段を開発して、電池に明らかな熱暴走が発生する前に、警報信号を提示する必要がある。
【0006】
これを鑑みて、本発明を提案する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、電池に明らかな熱暴走が発生する前に、警報信号を提示する効果を達成するように、動力電池の熱暴走の事前警報方法、装置、電子デバイス及び媒体を提供する。
【0008】
本発明の上記目的を実現するために、以下の技術的解決手段を採用する。
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、電池電圧、電池温度及び電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップと、
前記動力電池の熱暴走レベルに基づいて、動力電池熱暴走の事前警報を行うステップと、
を含む動力電池熱暴走の事前警報方法を提供する。
【0010】
さらに好ましい技術的解決手段として、前記電池電圧、電池温度及び電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップを含む。
【0011】
さらに好ましい技術的解決手段として、前記の、電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値のうちの少なくとも2つが各々の所定値を超えている場合、動力電池に熱暴走が発生したと判定し、その後、所定値を超えた条件の種別に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップ、
を含む。
【0012】
さらに好ましい技術的解決手段として、前記の、電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、かつ、電池電圧の変化値が所定割合の電池の初期電圧を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル1と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、かつ、電池温度が電池温度の閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル2と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル3と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池電圧の変化値が所定割合の電池の初期電圧を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル4と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池温度が電池温度の閾値を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル5と特定するステップと、
を含む。
【0013】
さらに好ましい技術的解決手段として、膨張力の変化値の閾値は、1500~2500Nである。
【0014】
さらに好ましい技術的解決手段として、所定割合の電池の初期電圧は、電池の初期電圧の15%~25%である。
【0015】
さらに好ましい技術的解決手段として、温度の変化速度の閾値は、1~5℃/sである。
【0016】
第2の態様によれば、本発明は、電池電圧、電池温度及び電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するための動力電池の熱暴走レベル特定モジュールと、
前記動力電池の熱暴走レベルに基づいて、動力電池熱暴走の事前警報を行うための熱暴走の事前警報モジュールと、
を含む動力電池熱暴走の事前警報装置を提供する。
【0017】
第3の態様によれば、本発明は、少なくとも1つのプロセッサと、
前記少なくとも1つのプロセッサと通信接続するメモリと、
を含み、
前記メモリには、前記少なくとも1つのプロセッサにより実行され得る命令が記憶されており、
前記命令は、前記少なくとも1つのプロセッサにより上記方法を実行させるものであり、これにより前記少なくとも1つのプロセッサは、上記命令を実行する、
電子デバイスを提供する。
第4の態様によれば、本発明は、コンピュータに上記の方法を実行させるためのコンピュータ命令が記憶されている媒体を提供する。
【0018】
本発明の有益な効果は以下の通りである。
【0019】
本発明が提供する動力電池熱暴走の事前警報方法は、電池電圧、電池温度及び電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定し、さらに、前記動力電池の熱暴走レベルに基づいて、動力電池熱暴走の事前警報を行う。本発明の発明者は、研究の結果、電池に熱暴走が発生すると、電池内部にガスが発生して正/負極が膨張するため、電池の膨張力が大きくなり、電池の膨張力が、角形又は円柱形の電池リリーフ弁の開弁圧力及びパウチ電池セルアルミラミネートフィルムの破断圧力を下回る場合、膨張力の継続的な増加として表れ、かつ、当該特徴の変化が通常、電池電圧及び電池温度の変化よりも早いことを見出した。なお、膨張力の取得は、比較的に便利で的確であり、温度の取得は、不便で膨張力より遅く、一定の遅延があるので、熱暴走の早期では、電池の膨張力の変化が先に表れる。従って、本発明は、電池電圧、電池温度及び電池の膨張力を組み合わせて、具体的に、電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値の4つの点、さらに実際に熱暴走が発生するときの、この4つの点が現れる前後順序、重要度、熱暴走の程度、及び、警報の的確性に基づいて、5つのレベルの熱暴走レベルを特定し、さらにレベルに応じて、相応する熱暴走の事前警報を行う。
【0020】
当該方法は、動力電池に熱暴走が発生したか否かを有効に判断することができ、電池に明らかな熱暴走が発生する前に警報信号を出し、異なる熱暴走レベルに対して異なる警報を行うことができる。ユーザは、異なる熱暴走レベルに対して相応する対応策をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施形態に係る動力電池熱暴走の事前警報方法のフローチャートである。
図2図2は、本発明の25Ahの角形硬質ケースリン酸鉄リチウム/黒鉛電池の過充電による熱暴走における温度、電圧及び膨張力の変化図である。
図3図3は、本発明の37Ahの角形硬質ケースNi0.5Co0.2Mn0.3三元系材料/黒鉛電池の過充電による熱暴走における温度、電圧及び膨張力の変化図である。
図4図4は、本発明の37Ahの角形硬質ケースNi0.5Co0.2Mn0.3三元系材料/黒鉛電池の加熱による熱暴走における温度、電圧及び膨張力の変化図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る動力電池熱暴走の事前警報装置の構造概略図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る電子デバイスの構造概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態を参照しながら本発明の実施態様を詳しく説明するが、当業者であれば理解され得るように、以下の実施形態は本発明の範囲を制限するためのものではなく、単に本発明を説明するためのものである。実施形態において具体的な条件を明記しなかったものは、一般的な条件又はメーカが推奨する条件で行われる。
【0023】
図1は、本実施形態に係る動力電池熱暴走の事前警報方法のフローチャートであり、本実施形態は、動力電池の、正常放置状態、充電状態および放電状態での熱暴走の事前警報に適用される。当該方法は、動力電池熱暴走の事前警報装置により実行されてもよい。当該装置は、ソフトウェア及び/又はハードウェアにより構成され、一般的に電子デバイスの中に集積されていてもよい。
【0024】
図1に示すように、本実施形態は、以下のステップを含む動力電池熱暴走の事前警報方法を提供する。
【0025】
S110
電池電圧、電池温度、及び、電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定する。
【0026】
説明すべき点として、上記「電池電圧」とは、電池の正極電位と負極電位との差を指す。当該電池電圧は、電圧センサにより採集することができる。
【0027】
上記「電池温度」とは、電池表面の温度を指し、電池正極の温度、電池負極の温度、および、電池ケースの温度のうちの少なくとも1種を含む。例えば、「電池温度」は、電池正極の温度、電池負極の温度、電池ケースの温度、電池正極の温度+電池負極の温度、電池負極の温度+電池ケースの温度、電池正極の温度+電池ケースの温度、又は、電池正極の温度+電池負極の温度+電池ケースの温度であり、好ましくは、電池正極の温度+電池負極の温度+電池ケースの温度である。電池温度が、電池正極の温度、電池負極の温度、および、電池ケースの温度のうちの2種以上である場合、そのうち、高いほうの温度の値が優先される。当該電池温度は、温度センサにより取得することができる。
【0028】
上記「電池の膨張力」とは、電池モジュール又は電池パックにおいて電池セルのケース側面への圧力である。当該電池の膨張力は、圧力センサにより取得することができる。
【0029】
可能な選択として、電池電圧、電池温度及び電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池の膨張力が膨張力閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル1と特定するステップと、
電池電圧が電池電圧閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル2と特定するステップと、
電池温度が電池温度の閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル3と特定するステップと、
を含む。
【0030】
上記の膨張力閾値は、電池の状態に応じて相応する数値に設定することができる。上記の電池電圧閾値は、電池の型番及び種類に応じて相応する数値に設定される。上記の電池温度の閾値は、電池メーカにより規定された最高使用温度に応じて相応する数値に設定され、例えば、75~85℃である。
【0031】
上記の動力電池の熱暴走を特定する方法において、電池温度(即ち、電池の現在の温度)のみが考慮された場合、実際に電池温度の変化が速すぎると、熱暴走のリスクも存在する。よって、1つの好適な実施形態において、前記の、電池電圧、電池温度、及び、電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップには、
電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップ、が含まれる。
【0032】
説明すべき点として、上記「電池電圧の変化値」とは、電池の現時点の電圧と電池の直前の時点の電圧との差の値を指し、当該電池電圧の変化値は、電圧センサにより取得することができる。
【0033】
上記「電池温度の変化速度」とは、電池の表面温度の瞬間変化速度を指す。「電池温度の変化速度」は、電池正極の温度の変化速度、電池負極の温度の変化速度、および、電池ケースの温度の変化速度のうちの少なくとも1種を含む。例えば、「電池温度の変化速度」は、電池正極の温度の変化速度、電池負極の温度の変化速度、電池ケースの温度の変化速度、電池正極の温度の変化速度+電池負極の温度の変化速度、電池負極の温度の変化速度+電池ケースの温度の変化速度、電池正極の温度の変化速度+電池ケースの温度の変化速度、又は、電池正極の温度の変化速度+電池負極の温度の変化速度+電池ケースの温度の変化速度、を含む。電池温度の変化速度が、電池正極の温度の変化速度、電池負極の温度の変化速度、および、電池ケースの温度の変化速度のうちの2種以上である場合、そのうち、高いほうの温度の変化速度値を優先する。当該電池温度の変化速度は、温度センサにより取得することができる。
【0034】
上記「電池の膨張力の変化値」とは、電池の現時点の膨張力と電池の初期膨張力との差の値を指す。当該電池の初期膨張力とは、電池の、異なる状態で熱暴走などの異常が発生していない場合の正常な膨張力を指す。当該異なる状態は、正常放置状態、充電状態および放電状態などを含む。当該電池の初期膨張力は、電池の型番及び種類に応じて相応する数値を取ることができる。また、当該初期膨張力は、通常、電池のエージング状態の深刻化に伴って増加する。一般的に、正常放置状態において、環境温度の変化による電池の膨張力の変化値は、20~80Nである。正常充電及び放電状態において、電池の膨張力の変化値は、100~1000Nである。
【0035】
前記の、電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル1と特定するステップと、
電池圧力の変化値が電池圧力の変化値の閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル2と特定するステップと、
電池温度が電池温度の閾値を超えるか、又は、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル3と特定するステップと、
を含んでいてもよい。
【0036】
実際に動力電池に熱暴走が発生するときに、熱暴走モードの不確定性があるため、通常、そのうちの1つのみが閾値を超えただけではなく、判断の的確性をさらに高めるために、以下のようにすることが好ましい。すなわち、本実施形態の1つの好適な実施形態において、前記の、電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値のうちの少なくとも2つが各々の所定値を超えている場合、動力電池に熱暴走が発生したと判定し、その後、所定値を超えた条件の種別に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップ、を含むことが好ましい。
【0037】
説明すべき点として、
上記「少なくとも2つ」とは、電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値のうちの少なくとも2つを指す。例えば、「少なくとも2つ」は、電池電圧の変化値+電池温度、電池温度の変化速度+電池の膨張力の変化値、電池温度+電池温度の変化速度、電池電圧の変化値+電池温度+電池温度の変化速度、電池温度+電池温度の変化速度+電池の膨張力の変化値、又は、電池電圧の変化値+電池温度+電池温度の変化速度+電池の膨張力の変化値などである。
【0038】
上記「条件の種別」とは、上記の電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、および、電池の膨張力の変化値を指し、実際に所定値を超えた状況に応じて得られる。
【0039】
前記の、電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値のうちの少なくとも2つが各々の所定値を超えている場合、動力電池に熱暴走が発生したと判断し、その後、所定値を超えた条件の種別に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、かつ、電池電圧の変化値が所定割合の電池の初期電圧を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル1と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、かつ、電池温度が電池温度の閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル2と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル3と特定するステップと、
電池電圧の変化値が所定割合の電池の初期電圧を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル4と特定するステップと、
を含んでいてもよい。
【0040】
上記の条件に基づいて動力電池の熱暴走レベルを特定すれば、1つの指標のみを用いて特定された熱暴走レベルよりも、実際の状況に合致し、警報の的確性がより高い。しかしながら、上記暴走レベルを特定する条件は、熱暴走の程度及び警報的確性を反映する点で依然として改進する余地がある。このため、本実施形態の1つの好適な実施形態において、前記の、電池電圧の変化値、電池温度、電池温度の変化速度、及び、電池の膨張力の変化値に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、かつ、電池電圧の変化値が所定割合の電池の初期電圧を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル1と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、かつ、電池温度が電池温度の閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル2と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル3と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池電圧の変化値が所定割合の電池の初期電圧を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル4と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池温度が電池温度の閾値を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高ければ、動力電池の熱暴走レベルをレベル5と特定するステップと、
を含んでいてもよい。
【0041】
この好適な実施形態は、実際に動力電池に熱暴走が発生した後の熱暴走の程度を考慮し、熱暴走の程度のレベルに応じて警報を行い、警報の的確性及び信頼性を明らかに向上させることができる。
【0042】
説明すべき点として、
上記「初期電圧」とは、電池のフル充電時の電圧を指す。
【0043】
「膨張力の変化値の閾値」は、1500~2500Nであることが好ましい。当該膨張力の変化値の閾値は、典型的には、1500N、1600N、1700N、1800N、1900N、2000N、2100N、2200N、2300N、2400N又は2500Nであるが、これらに限定されない。発明者は、大量の研究を行った結果、「膨張力の変化値の閾値」が上記範囲を超えた場合、電池の熱暴走のリスクを高い確率で判定ことを示すことを見出した。当該閾値が小さ過ぎると、一般的な電池内部の正常な膨張力変化により閾値を超え、熱暴走の存在を十分に判別することができない。当該閾値が大き過ぎると、電池に明らかな熱暴走が発生してから閾値を超える。このため、過大な閾値に基づいて判定を行えば、警報を出すタイミングを確実に遅らせてしまい、早期の警報発令を行うのには不向きである。
【0044】
また、「所定割合の電池の初期電圧」とは、電池の初期電圧の15%~25%であることが好ましい。当該「所定割合の電池の初期電圧」は、典型的には、電池の初期電圧の15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%又は25%であるが、これらに限定されない。「所定割合の電池の初期電圧」が上記範囲を超える場合、電池電圧の変化値が大きく、熱暴走のリスクが高いことを示す。上記の「所定割合の電池の初期電圧」の設定が小さ過ぎると、電池の正常な動作による電圧変化により閾値を超え、電池熱暴走を判別できない。上記の「所定割合の電池の初期電圧」の設定が大きすぎると、電池に明らかな熱暴走を発生してから閾値を超える。このため、過大な閾値に基づいて判定を行えば、警報を出すタイミングを確実に遅らせ、早期の警報発令を行うのには不向きである。
【0045】
「温度の変化速度の閾値」は、1~5℃/sであることが好ましい。当該「温度の変化速度の閾値」は、典型的には、1℃/s、2℃/s、3℃/s、4℃/s又は5℃/sであるが、これらに限定されない。「温度の変化速度の閾値」が、上記範囲を超える場合、電池の温度変化が速く、熱暴走のリスクが高いことを示す。上記「温度の変化速度の閾値」の設定が小さ過ぎると、電池の正常な動作過程における温度変化により閾値を超え、電池熱暴走を判別することができない。上記「温度の変化速度の閾値」の設定が大きすぎると、電池に明らかな熱暴走が発生してから閾値を超える。このため、過大な閾値に基づいて判定を行えば、警報を出すタイミングを確実に遅らせ、早期の警報発令を行うのには不向きである。
【0046】
「時間閾値」は、2.5~3.5sであることが好ましい。当該「時間閾値」は、典型的には、2.5s、2.6s、2.7s、2.8s、2.9s、3s、3.1s、3.2s、3.3s、3.4s又は3.5sであるが、これらに限定されない。
【0047】
S120
前記動力電池の熱暴走レベルに基づいて、動力電池熱暴走の事前警報を行う。
【0048】
本実施形態における熱暴走の事前警報は、熱暴走レベルが上がるにつれて、熱暴走の程度が徐々に増していることを表す。実際に警報を発するときには、異なる熱暴走レベルには、異なる警報方式を採用することができる。例えば、警報にビープ音を用いる場合、異なる音調により、異なる熱暴走レベルを表すことができる。警報に灯光を用いる場合、異なる色の灯光により、異なる熱暴走レベルを表すことができる。本実施形態は、警報の具体的な形式について特に限定せず、本分野で実現可能な形式のいずれか1種を用いればよい。例えば音による警報、灯光による警報、音と灯光による警報、又は、振動警報等を用いることができる。
【0049】
本発明の発明者は、以下の方式を用いて動力電池の熱暴走について系統的に研究し、電池熱暴走における電池の膨張力の重要性を確かめた。
1)動力電池の熱暴走試験を行う。実際の使用において電池に熱暴走が発生する場面をより如実にシミュレーションするために、電池に熱暴走を発生させる方法として、過充電、外部加熱などを用いる。
【0050】
2)電池の熱暴走過程における特徴パラメータ(電池温度、電圧、膨張力を含む)を測定する。そのうち、電池温度には、電池の正/負極タブの温度、及び、ケースの温度を含まれ、温度センサによって取得される。電圧は、電池の正/負極端電圧であり、電圧センサにより得られる。電池の膨張力は、角形硬質ケース又はパウチ電池セルの側面の膨張力であり、圧力センサにより得られる。圧力センサを、電池システムにおいて、単一の電池モジュールに1つ配置することにより、電池モジュール全体の膨張力を得ることができる。また、単一の電池セルの側面に、圧力センサを配置することにより電池セル毎の膨張力数値を得ることができる。図2図3および図4は、それぞれ異なる材料系の電池に対して異なる方式により発生させた熱暴走過程における温度、電圧及び膨張力の測定結果である。
【0051】
特定の25Ahの角形硬質ケースのリン酸鉄リチウム/黒鉛系リチウムイオン電池、及び、特定の37Ahの角形硬質ケースのNi0.5Co0.2Mn0.3三元系材料/黒鉛系電池を用いて、過充電条件での熱暴走測定を行う。
【0052】
1.実験測定
1)製品仕様説明に従い、動力電池に対して放電容量測定を行い、その後、動力電池セルをフル充電した。
【0053】
2)2C電流レートを使用して、電池セルに過充電し、熱暴走測定を行った。電気自動車の電池システムのBMSに、機能安全故障又は電圧信号の収集故障などが発生した場面において発生する乱用状況をシミュレーションし、電池セルの電圧、温度及び膨張力を記録した。サンプリング周波数は、100Hzであり、カメラにより電池変化を観察した。
3)被測定電池に明らかな熱暴走特徴(例えば、リリーフ弁のリリーフ、発煙、発火又は爆発)が現れた場合、電池への充電を停止した。今回の測定において、電池にリリーフ弁のリリーフが発生して、同時に発煙し始めることを観察した後、電池への充電を停止しても、その後、電池が発煙し続けた。何ら現象が発生しなくなるまで、データ収集装置を継続して動作させ、全ての温度センサが測定した温度が50℃未満となった場合に、データ記録を停止した。
【0054】
2.実験を終了し、測定データを保存し、実験サンプルを処理した。
【0055】
3.データ分析
図2に示す測定データからわかるように、試験開始後、25Ahの角形硬質ケースリン酸鉄リチウム/黒鉛系電池の電圧が徐々に上昇するにつれて、電池の膨張力が迅速に増加した。150s内で膨張力の変化値が1500Nに達し、この時、電池温度が単に27℃であった。リリーフ弁を開弁する時点で、膨張力が最大値となった。その後、リリーフ弁を開弁した後、電池の膨張力が明らかに低下した。電池内部の各種の副反応は、継続的に発生するため、大量のガス及びスモッグを生成し、膨張力が2800N程度に維持されていた。電池が徹底的に遮断された後、温度が上昇しなくなり、電圧がゼロまで低下し、膨張力も徐々に消え、ゼロまで低下した。
【0056】
電池電圧、温度、膨張力等の信号の変化状況の比較からわかるように、膨張力が顕著に増加し始める時点は温度の変化よりも早い。膨張力の変化値が、正常の充放電に対応する膨張力変化範囲を超えた時点から、電池に熱暴走が発生するまで150sの時間があるので、電池の膨張力の変化値を用いて電池熱暴走の警報を行うことができる。
【0057】
図3に示す測定データからわかるように、試験開始後、37Ahの角形硬質ケースNi0.5Co0.2Mn0.3三元系材料/黒鉛系電池は、電圧が徐々に上昇するにつれて、電池の膨張力及び温度がいずれも増加し始め、650sで、膨張力の変化値が1500Nとなった。この時、電池温度は、わずかに24℃であった。リリーフ弁を開弁する時点で、膨張力が最大値4958Nとなった。その後、リリーフ弁を開弁した後、電池の膨張力が徐々に低下し、一定時間継続した後、膨張力がゼロに低下し、この過程と伴い、電池温度が徐々に低下した。
【0058】
電池電圧、温度、膨張力等の信号の変化状況の比較からわかるように、リン酸鉄リチウム/黒鉛材料系の電池に類似して、膨張力が顕著に増加し始める時点は、温度の変化より早い。膨張力の変化値が正常の充放電に対応する膨張力変化範囲を超えた時点で、電池に熱暴走が発生するまで260sの時間があるので、電池の膨張力の変化値を用いて電池熱暴走の有効な警報を行うことができる。
【0059】
37Ahの角形硬質ケースNi0.5Co0.2Mn0.3三元系材料/黒鉛系リチウムイオン電池を例として、加熱条件下での熱暴走測定を行った。
【0060】
1.実験測定
1)製品仕様説明に従い、動力電池に対して放電容量測定を行い、その後、動力電池セルをフル充電した。
【0061】
2)外部加熱の方式(電気ヒータを用いて電池を加熱し、電気ヒータは、プログラマブル電源により給電する)を採用して、電池セルを加熱し、熱暴走測定を行った。ヒータのパワーを800Wに設定し、電気自動車の電池システムにおいて幾つかの電池セル内部の欠陥による自発熱暴走により引き起こされる熱拡散場面をシミュレーションした。当該過程における電池セルの電圧、温度及び膨張力を記録し、サンプリング周波数が100Hzであり、カメラにより電池変化を観察した。
【0062】
3)被測電池に明らかな熱暴走特徴(例えば、リリーフ弁のリリーフ、発煙、発火又は爆発)が現れた場合、加熱電源をオフにした。今回の測定において、電池のリリーフ弁を開弁すると同時に、発煙し始めることを観察した後、電気ヒータの外部電源をオフにしたが、その後も、電池は発煙し続けた。何ら現象が発生しなくなるまで、データ収集装置を継続して動作させ、全ての温度センサが測定した温度が50℃未満となった場合にデータ記録を停止した。
【0063】
2.実験を終了し、測定データを保存し、実験サンプルを処理した。
【0064】
3.データ分析
図4に示す測定データからわかるように、試験開始後、外部電気ヒータの作用により、三元系材料/黒鉛系電池の温度が上昇するにつれて、電池の膨張力も迅速に増加した。試験開始してから400s後には、電池の膨張力は、より速い速度で増加し、510s後に膨張力の変化値が1500Nを超えたが、この時には、電池電圧が依然として変化していない。602sになると、電池電圧は、内部に短絡が発生したので0Vになった。
【0065】
電池電圧、温度、膨張力等の信号の変化状況の比較からわかるように、膨張力が顕著に増加し始める時点は、電圧の変化より早い。膨張力の変化値が、正常な充放電に対応する膨張力の変化範囲を超えた場合でも、電池内部に短絡が発生するまでまだ92sの時間がある。よって、電池の膨張力の変化値を用いて電池熱暴走の早期警報を実現することができる。
【0066】
図5は、本実施形態に係る動力電池熱暴走の事前警報装置の構造概略図であり、本実施形態は、動力電池の正常放置状態、充電状態および放電状態での熱暴走の事前警報に適用される。当該装置は、ソフトウェア及び/又はハードウェアにより構成されてもよく、一般的に電子デバイスの中に集積される。
【0067】
図5に示すように、本実施形態は、以下のモジュールを含む動力電池熱暴走の事前警報装置を提供する。
【0068】
動力電池の熱暴走レベル特定モジュール501は、電池電圧、電池温度及び電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するために用いられる。
動力電池の熱暴走レベル特定モジュール501は、
電池の膨張力の変化値と膨張力の変化値の閾値とを比較するための電池膨張力変化値比較手段と、
電池電圧の変化値と所定割合の電池の初期電圧とを比較するための電池電圧変化値比較手段と、
電池温度と電池温度の閾値とを比較するための電池温度比較手段と、
電池温度の変化速度と温度の変化速度の閾値とを比較するための電池温度変化速度比較手段と、
上記比較手段の比較結果に基づいて、熱暴走レベルを特定するための熱暴走レベル特定手段と、
を含むことが好ましい。
【0069】
前記電池電圧、電池温度及び電池の膨張力に基づいて、動力電池の熱暴走レベルを特定するステップは、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、かつ、電池電圧の変化値が所定割合の電池の初期電圧を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル1と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、かつ、電池温度が電池温度の閾値を超えている場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル2と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超えかつ超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル3と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池電圧の変化値が所定割合の電池の初期電圧を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル4と特定するステップと、
電池の膨張力の変化値が膨張力の変化値の閾値を超え、電池温度が電池温度の閾値を超え、電池温度の変化速度が温度の変化速度の閾値を超え、かつ、超えた時間が時間閾値より高い場合、動力電池の熱暴走レベルをレベル5と特定するステップと、
を含むことが好ましい。
【0070】
膨張力の変化値の閾値は、1500~2500Nであることが好ましい。
【0071】
所定割合の電池の初期電圧は、電池の初期電圧の15%~25%のであることが好ましい。
【0072】
温度の変化速度の閾値は、1~5℃/sであることが好ましい。
【0073】
熱暴走の事前警報モジュール502は、前記動力電池の熱暴走レベルに基づいて、動力電池熱暴走の事前警報を行うために用いられる。
【0074】
上記動力電池熱暴走の事前警報装置は、本発明の実施形態における動力電池熱暴走の事前警報方法を実行するために用いられ、少なくとも上記動力電池熱暴走の事前警報方法に相応する機能モジュールと有益な効果を有する。
【0075】
図6に示すように、本発明の実施形態は、
少なくとも1つのプロセッサと、
前記少なくとも1つのプロセッサと通信接続するメモリと、
を含み、
前記メモリには、前記少なくとも1つのプロセッサにより実行され得る命令が記憶されており、前記命令は、前記少なくとも1つのプロセッサにより上記方法を実行させるものであり、これにより前記少なくとも1つのプロセッサにより上記命令が実行される、
電子デバイスを提供する。
【0076】
当該電子デバイスにおける少なくとも1つのプロセッサは上記方法を実行することができるので、少なくとも上記方法と同じメリットを有する。
【0077】
可能な選択として、当該電子デバイスにおいて、各構成要素を接続するためのインターフェースをさらに含み、当該インターフェースは高速インターフェースと低速インターフェースとを含む。各構成要素は、異なるバスにより相互接続され、また、共通のマザーボードに実装されてもよいし、あるいは必要に応じてその他の方式で実装されてもよい。プロセッサは、電子デバイス内で実行される命令を処理することができる。当該命令は、メモリ内に記憶されている命令、あるいはメモリにおいて外部入力/出力装置(例えば、インターフェースに結合される表示装置)にGUI(Graphical User Interface、グラフィカルユーザーインターフェース)のグラフィカル情報を表示する命令を含む。他の実施形態において、必要に応じて、複数のプロセッサ及び/又は複数のバスを複数のメモリ及び複数のメモリと共に使用してもよい。同様に、複数の電子デバイスに接続されてもよく、各デバイス(例えば、サーバアレイ、ブレードサーバ群、又はマルチプロセッサシステムとして)は、一部の必要な操作を提供する。図6では、1つのプロセッサ601を例とする。
【0078】
メモリ602は、コンピュータ読取可能な記憶媒体として、ソフトウェアプログラム、コンピュータ実行可能なプログラム及びモジュール、例えば、本発明の実施形態における動力電池熱暴走の事前警報方法に対応するプログラム命令/モジュール(例えば、動力電池熱暴走の事前警報装置における動力電池の熱暴走レベル特定モジュール501及び熱暴走の事前警報モジュール502)を記憶するために用いられてもよい。プロセッサ601は、メモリ602に記憶されているソフトウェアプログラム、命令及びモジュールを実行することにより、装置の各種の機能アプリケーションおよびデータ処理を実行し、即ち、上記の動力電池熱暴走の事前警報方法を実現する。
【0079】
メモリ602は、主にプログラム記憶領域とデータ記憶領域とを含んでもよく、その中、プログラム記憶領域には、オペレーティングシステム、少なくとも一つの機能に必要なアプリケーションプログラムが記憶されてもよく、データ記憶領域には、端末の使用に応じて作成されたデータ等が記憶されてもよい。また、メモリ602は、高速ランダムアクセスメモリを含んでもよく、さらに不揮発性メモリ、例えば、少なくとも1つの磁気ディスクメモリ、フラッシュメモリ、又はその他の不揮発性固体メモリを含んでもよい。幾つかの例において、メモリ602は、さらにプロセッサ601に対してリモート設置されたメモリを含んでもよく、これらのリモートメモリは、ネットワークを介してデバイスに接続されてもよい。上記ネットワークの例は、インターネット、イントラネット、ローカルエリアネットワーク、モバイル通信ネットワーク、及びそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0080】
当該電子デバイスは、さらに、入力装置603と出力装置604とを含んでもよい。プロセッサ601、メモリ602、入力装置603及び出力装置604は、バス又はその他の方式により接続されてもよく、図6では、バスで接続されることを例とする。
【0081】
入力装置603は、入力された数値又は文字情報を受信し、出力装置604は、表示装置、補助照明装置(例えば、LED)、触覚フィードバック装置(例えば、振動モーター)などを含んでもよい。当該表示装置は、液晶ディスプレイ(LCD)、発光ダイオードディスプレイ(LED)、及びプラズマディスプレイを含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、表示装置はタッチスクリーンであってもよい。
【0082】
本発明の実施形態は、さらに、コンピュータに上記の方法を実行させるためのコンピュータ命令が記憶されている媒体を提供する。当該媒体におけるコンピュータ命令は、コンピュータに上記方法を実行させるために用いられるので、少なくとも上記方法と同じメリットを有する。
【0083】
本発明における媒体としては、1つ又は複数のコンピュータ読取可能な媒体の任意の組み合わせを採用してもよい。媒体は、コンピュータ読取可能な信号媒体又はコンピュータ読取可能な記憶媒体であってもよい。媒体は、例えば、電気、磁気、光、電磁、赤外線、又は半導体のシステム、装置又はデバイス、又は任意の上記の組合せであってもよいが、これらに限定されない。媒体の更なる具体的な例(非網羅的なリスト)は、1つの又は複数のリード線を有する電気接続、携帯型コンピュータディスク、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、消去可能なプログラマブル読み出し専用メモリ(EPROM)又はフラッシュメモリ、光ファイバー、携帯型コンパクトディスク読み出し専用メモリ(CD-ROM)、光メモリ、磁気メモリ、または上記の任意の適切な組み合わせを含む。本明細書において、媒体は、プログラムを含むあるいは記憶する有形な媒体であってもよく、当該プログラムは、命令実行システム、装置又はデバイスに使用されてもよく、又はそれらと組み合わせて使用されてもよい。
【0084】
コンピュータ読取可能な信号媒体は、ベースバンド中に又は搬送波の一部として伝播するデータ信号を含んでも良く、コンピュータ読取可能なプログラムコードを携帯している。このように伝播するデータ信号は多種の形式を用いてもよく、電磁信号、光信号又は前記の任意の適切な組合せを含むがこれらに限定されない。コンピュータ読取可能な信号媒体は、さらに、コンピュータ読取可能な記憶媒体以外の任意のコンピュータ読取可能な媒体であってもよく、当該コンピュータ読取可能な媒体は、実行システム、装置又はデバイスに使用されるためのプログラム、あるいはそれと組み合わせて使用されるためのプログラムを送信、伝播又は伝送することができる。
【0085】
コンピュータ読取可能な媒体に含まれるプログラムコードは、無線、電線、光ファイバーケーブル、光ケーブル、RF(Radio Frequency、無線周波数)など、又は上記の任意の適切な組み合わせを含む任意の適切な媒体で伝送されてもよいが、これらに限定されない。
【0086】
1種又は複数種のプログラミング言語又はその組合せで本発明の操作を実行するコンピュータプログラムコードを書くことができ、プログラミング言語は対象向けのプログラミング言語、例えばJava、Smalltalk、C++を含み、さらに、一般的な過程式プログラミング言語、例えば「C」言語又は類似するプログラミング言語を含む。プログラムコードは、ユーザのコンピュータで実行されるか、一部がユーザコンピュータで実行されるか、1つの独立したソフトウェアパッケージとして実行されるか、一部がユーザコンピュータで一部がリモートコンピュータで実行されるか、あるいは、完全にリモートコンピュータ又はサーバで実行されてもよい。リモートコンピュータの場合、リモートコンピュータは、任意種類のネットワーク(ローカルエリアネットワーク(LAN)又はウィメンズアクションネットワーク(WAN)を含む)によりユーザコンピュータに接続されてもよく、あるいは、外部コンピュータ(例えばインターネットサービス提供者を用いてインターネットにより接続する)に接続されてもよい。
【0087】
以上で示された様々な形式の手順を使用して、ステップを並べ替え、追加、又は削除できることが理解され得るであろう。例えば、本願に記載される各ステップは、並列又は順次に実施されてもよいし、又は異なる順序で実行されてもよく、本願で開示された技術的解決手段の所望の結果が達成できる限り、ここで制限されない。
【0088】
具体的な実施形態を用いて本発明を説明及び記載したが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱しない限り、様々な変更及び変形を行うことができることが理解され得るであろう。従って、添付する特許請求の範囲は、本発明の範囲内に収まるこれらの変更及び変形の全てを含むことを意味する。
【符号の説明】
【0089】
501 動力電池の熱暴走レベル特定モジュール
502 熱暴走の事前警報モジュール
601 プロセッサ
602 メモリ
603 入力装置
604 出力装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6