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特開2022-108268光電変換素子に用いる有機薄膜、及びその光電変換素子
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  • 特開-光電変換素子に用いる有機薄膜、及びその光電変換素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108268
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】光電変換素子に用いる有機薄膜、及びその光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/42 20060101AFI20220715BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
H01L31/08 T
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211711
(22)【出願日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2021002621
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島 大和
(72)【発明者】
【氏名】望月 俊二
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 直朗
(72)【発明者】
【氏名】三枝 優太
【テーマコード(参考)】
5F849
【Fターム(参考)】
5F849AA01
5F849AB11
5F849BA21
5F849BB03
5F849FA04
5F849XA02
5F849XA13
5F849XA46
(57)【要約】
【課題】優れた耐熱性、電荷輸送性を持つ化合物を利用して光電変換素子に用いる有機薄膜を提供すること、また、その有機薄膜を適用する各種の光電変換素子、特に撮像素子、及びこれを用いる光センサーを提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物を含む、光電変換素子に用いる有機薄膜である。

(式中、Aは、単結合、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素等の2価基を表し、Ar~Arは、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基等を表し、R~R13は、水素原子等を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を含む、光電変換素子に用いる有機薄膜。
【化1】

(式中、Aは、単結合、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素の2価基、置換若しくは無置換の芳香族複素環の2価基又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族の2価基を表し、
Ar~Arは、相互に同一でも異なってもよく、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、
AとAr、AとAr、及びArとArは、単結合、置換若しくは無置換のメチレン基、酸素原子又は硫黄原子を介して互いに結合して環を形成してもよく、
~R13は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基を表し、
隣接するR~R13は、単結合、置換若しくは無置換のメチレン基、酸素原子又は硫黄原子を介して互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の有機薄膜。
【化2】

(式中のA、Ar~Ar、及びR~R13は、式(1)中の定義と同一である。)
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(3)で表される化合物である、請求項1に記載の有機薄膜。
【化3】

(式中のA、Ar~Ar、及びR~R13は、式(1)中の定義と同一である。)
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(4)で表される化合物である、請求項1に記載の有機薄膜。
【化4】

(式中のA、Ar~Ar、及びR~R13は、式(1)中の定義と同一である。)
【請求項5】
前記式(2)で表される化合物が、下記式(5)で表される化合物である、請求項2に記載の有機薄膜。
【化5】

(式中、Aは、式(1)のAの定義と同じであり、Arは、式(1)のAr~Arと同じ定義であり、R~R21は、式(1)のR~R13と同じ定義である。)
【請求項6】
前記式(2)で表される化合物が、下記式(6)で表される化合物である、請求項2に記載の有機薄膜。
【化6】

(式中、Ar及びArは、式(1)のAr~Arと同じ定義であり、R~R20は、式(1)のR~R13と同じ定義である。)
【請求項7】
少なくとも陽極とバッファ層と光電変換層と陰極とがこの順で積層される光電変換素子であって、請求項1~6のいずれか1項に記載の有機薄膜を含む光電変換素子。
【請求項8】
前記有機薄膜をバッファ層として含む、請求項7に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記有機薄膜を光電変換層として含む、請求項7に記載の光電変換素子。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載の光電変換素子を有する撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に用いる有機薄膜、及びその光電変換素子に関するものであリ、詳しくはインドロトリフェニレン構造を有する化合物を含有する有機薄膜、及びその有機薄膜を適用する各種の光電変換素子、特に撮像素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は太陽電池や光センサー等に広く利用され、その中でも撮像素子であるイメージセンサーは、テレビカメラやスマートフォン搭載のカメラだけでなく、運転支援システム用途にも用いられ始めるなど、その用途、市場は共に広がりをみせている。
【0003】
これまでの撮像素子の材料には、Si膜やSe膜といった無機材料が使用されており、その撮像方法としてはプリズムを用いて色を分ける3板式と、カラーフィルターを用いた単板式の2つが主流であった。しかし、3板式は、光の利用率は高いもののプリズムを使用するため小型化が難しく、単板式は、プリズムを使用しないため小型化は比較的容易であるが、代わりにカラーフィルターを使用するため解像度、光の利用率が悪かった(非特許文献1)。
【0004】
有機物は、無機物と比較して特定波長の光をよく吸収するため、それぞれの波長に合わせた材料を組み合わせることで、プリズムを使用せずとも3原色に対しそれぞれの光を効率よく利用できる撮像素子を構築することができる。そのため光の利用効率が高く、小型の撮像素子を作れることが可能となる。また、無機物では達成することのできない、フレキシブル性や作成プロセスにおいての塗布による大面積化といった価値を付加できる可能性がある(非特許文献2)。
【0005】
このようなことから有機物を用いた光電変換素子は、次世代の撮像素子への展開が期待されており、いくつかの報告がなされている。例えばキナクドリン、キナゾリン誘導体を光電変換素子に用いた例(特許文献1)、ベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体を光電変換素子に用いた例(特許文献2)、インドロカルバゾールを光電変換素子に用いた例(特許文献3)などがある。一般的に有機撮像素子は高コントラスト化、省電力化を目的とし、暗電流の低減を目指すことによって性能は向上すると考えられている。暗電流の低減のため、光電変換部と電極部の間に、正孔ブロック層又は電子ブロック層を挿入する手法が用いられることもある。
【0006】
この正孔ブロック層又は電子ブロック層の挿入は、有機エレクトロニクス分野では一般的に使用される手法であり、これらブロック層は、それぞれデバイスの構成膜中において、電極又は導電性を有する膜と、それ以外の膜の界面に配置され、正孔又は電子の逆移動を制御しながら、必要な電荷は速やかに移動する。
【0007】
また、ブロック層に用いられる材料に求められる特性として、熱安定性が挙げられる。特に撮像素子では、カラーフィルター設置、保護膜設置、素子のハンダ付け等、加熱工程を有する製造プロセスへの適用や保存性の向上を考慮するため、他の有機エレクトロニクスデバイスよりも高い熱安定性が求められる。特許文献4ではガラス転移温度(Tg)が140℃以上である電子ブロッキング材料を使用することで、素子の熱安定性の向上を報告している。しかし、この提案された化合物では立体障害による正孔輸送能の低下の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4945146号公報
【特許文献2】特開2018-170487号公報
【特許文献3】特開2018-085427号公報
【特許文献4】特開2011-187937号公報
【特許文献5】KR-A-200050897
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】映像情報学会メディア協会誌、60,3,291(2006)
【非特許文献2】Adv.Mater.28,4766(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記の現状を鑑みてなされたものであり、優れた耐熱性、電荷輸送性を持つ化合物を利用して光電変換素子に用いる有機薄膜を提供すること、また、その有機薄膜を適用する各種の光電変換素子、特に撮像素子、及びこれを用いる光センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは前記の目的を達成するために、インドロトリフェニレン環骨格が高い電荷輸送性を持ち、更に耐熱性に優れていることに着目し、さらなる耐熱性の向上を目指し、鋭意開発を行なった結果、特定のインドロトリフェニレン環構造の化合物を含む有機薄膜が前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の各項に係るものである。
1)下記式(1)で表される化合物を含む、光電変換素子に用いる有機薄膜。
【0013】
【化1】

(式中、Aは、単結合、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素の2価基、置換若しくは無置換の芳香族複素環の2価基又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族の2価基を表し、
Ar~Arは、相互に同一でも異なってもよく、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、
AとAr、AとAr、及びArとArは、単結合、置換若しくは無置換のメチレン基、酸素原子又は硫黄原子を介して互いに結合して環を形成してもよく、
~R13は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基を表し、
隣接するR~R13は、単結合、置換若しくは無置換のメチレン基、酸素原子又は硫黄原子を介して互いに結合して環を形成してもよい。)
【0014】
2)前記式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である、1)に記載の有機薄膜。
【0015】
【化2】

(式中のA、Ar~Ar、及びR~R13は、式(1)中の定義と同一である。)
【0016】
3)前記式(1)で表される化合物が、下記式(3)で表される化合物である、1)に記載の有機薄膜。
【0017】
【化3】

(式中のA、Ar~Ar、及びR~R13は、式(1)中の定義と同一である。)
【0018】
4)前記式(1)で表される化合物が、下記式(4)で表される化合物である、1)に記載の有機薄膜。
【0019】
【化4】

(式中のA、Ar~Ar、及びR~R13は、式(1)中の定義と同一である。)
【0020】
5)前記式(2)で表される化合物が、下記式(5)で表される化合物である、2)に記載の有機薄膜。
【0021】
【化5】

(式中、Aは、式(1)のAの定義と同じであり、Arは、式(1)のAr~Arと同じ定義であり、R~R21は、式(1)のR~R13と同じ定義である。)
【0022】
6)前記式(2)で表される化合物が、下記式(6)で表される化合物である、2)に記載の有機薄膜。
【0023】
【化6】

(式中、Ar及びArは、式(1)のAr~Arと同じ定義であり、R~R20は、式(1)のR~R13と同じ定義である。)
【0024】
7)少なくとも電極と、バッファ層と光電変換層と電極とがこの順で積層される光電変換素子であって、1)~6)のいずれか1項に記載の有機薄膜を含む光電変換素子。
【0025】
8)前記有機薄膜をバッファ層として含む、7)に記載の光電変換素子。
【0026】
9)前記有機薄膜を光電変換層として含む、7)に記載の光電変換素子。
【0027】
10)前記7)~9)のいずれか1項に記載の光電変換素子を有する撮像素子。
【発明の効果】
【0028】
本発明の式(1)等で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物を含む有機薄膜は、優れた耐熱性、電荷輸送性を持つ有機薄膜であり、各種の光電変換素子に適用できる。それにより、優れた暗電流特性と変換効率を有する光電変換素子、特に撮像素子、及びこれを用いる光センサーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の光電変換素子の一つの構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、光電変換素子に適用する、前記式(1)等で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物を含む有機薄膜、及びその有機薄膜を使用することを特徴とする光電変換素子に関するものである。
【0031】
本明細書と請求の範囲にある「ないし」との用語は範囲を表す用語は、例えば「5ないし10」との記載は、「5以上10以下」を意味し、「ないし」の前後に記載される数値自体も含む範囲を表す。
【0032】
前記式(1)中の「置換若しくは無置換の芳香族炭化水素の2価基」、「置換若しくは無置換の芳香族複素環の2価基」、又は「置換若しくは無置換の縮合多環芳香族の2価基」における「芳香族炭化水素の2価基」、「芳香族複素環の2価基」又は「縮合多環芳香族の2価基」としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、チエニレン基、フラニレン基及びフェナントレニレン基などを挙げることができる。さらに、炭素数6ないし30のアリーレン基及び炭素数2ないし30のヘテロアリーレン基から選択することもできる。
【0033】
前記式(1)中の「置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換若しくは無置換の芳香族複素環基」、又は「置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」又は「縮合多環芳香族基」としては、具体的に、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基及びカルボリニル基などを挙げることができる。さらに、炭素数6ないし30のアリール基及び炭素数2ないし30のヘテロアリール基から選択することもできる。
【0034】
前記式(1)中の「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」又は「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、又は「炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基及び2-ブテニル基などを挙げることができる。
【0035】
前記式(1)中の「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」又は「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」又は「炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」としては、具体的に、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、1-アダマンチルオキシ基及び2-アダマンチルオキシ基などを挙げることができる。
【0036】
前記式(1)中の「置換若しくは無置換のアリールオキシ基」における「アリールオキシ基」としては、具体的に、フェニルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、ターフェニリルオキシ基、ナフチオキシル基、アントラセニルオキシ基及びフェナントレニルオキシ基などの炭素数6ないし30のアリールオキシ基を挙げることができる。
【0037】
前記式(1)中の「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、「置換縮合多環芳香族基」、「置換メチレン基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」、又は「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「置換基」としては、具体的に、重水素原子、シアノ基、ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などのシリル基;メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基;メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニルオキシ基、トリルオキシ基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアリールアルキルオキシ基;フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基などの芳香族炭化水素基若しくは縮合多環芳香族基;ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボリニル基などの芳香族複素環基のような基を挙げることができ、これらの置換基は、更に前記例示した置換基で置換されていてもよい。
【0038】
本発明においては、耐熱性及び電荷移動度の観点から、前記式(1)中のAr~Arが置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基、又は無置換の縮合多環芳香族基であることがより好ましい。また、前記式(1)中のAが置換若しくは無置換の芳香族炭化水素の2価基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素の2価基であることがより好ましい。
【0039】
また、合成が容易であることから、前記式(1)中のR~R13が水素原子であることが好ましい。
【0040】
本発明においては、前記式(1)で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する好ましい化合物として、下記式(2)~(4)で表される、インドール環の2位及び3位の2つの炭素原子を、トリフェニレン環の隣接する2つの炭素原子が共有して結合した構造を有する化合物が挙げられる。
【0041】
【化7】
【0042】
【化8】
【0043】
【化9】
【0044】
前記式(2)、式(3)及び式(4)中のA、Ar~Ar、及びR~R13は式(1)中の定義と同一である。
【0045】
即ち、前記式(2)、式(3)及び式(4)中の「置換若しくは無置換の芳香族炭化水素の2価基」、「置換若しくは無置換の芳香族複素環の2価基」、又は「置換若しくは無置換の縮合多環芳香族の2価基」における「芳香族炭化水素の2価基」、「芳香族複素環の2価基」又は「縮合多環芳香族の2価基」は式(1)における定義と同じである。
【0046】
また、前記式(2)、式(3)及び式(4)中の「置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換若しくは無置換の芳香族複素環基」、又は「置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」又は「縮合多環芳香族基」は式(1)における定義と同じである。
【0047】
前記式(2)、式(3)及び式(4)中の「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」又は「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、又は「炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」の具体例は式(1)において挙げられた具体例と同じである。
【0048】
前記式(2)、式(3)及び式(4)中の「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」又は「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」又は「炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」の具体例は式(1)において挙げられた具体例と同じである。
【0049】
前記式(2)、式(3)及び式(4)中の「置換若しくは無置換のアリールオキシ基」における「アリールオキシ基」の具体例は式(1)において挙げられた具体例と同じである。
【0050】
更に、前記式(2)、式(3)及び式(4)中の「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、「置換縮合多環芳香族基」、「置換メチレン基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」、又は「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「置換基」の具体例も式(1)において挙げられた具体例と同じである。
【0051】
本発明においては、耐熱性及び電荷移動度の観点から、前記式(2)、式(3)と式(4)中のAr~Arが置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基又は無置換の縮合多環芳香族基であることがより好ましい。また、前記式(2)、式(3)及び式(4)中のAが置換若しくは無置換の芳香族炭化水素の2価基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素の2価基であることがより好ましい。
【0052】
また、合成が容易であることから、前記式(2)、式(3)と式(4)中のR~R13が水素原子であることが好ましい。
【0053】
本発明においては、好ましい化合物として、前記式(2)中のAr、Arが置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基若しくは縮合多環芳香族基であり、且つArとArが単結合を介して互いに結合して環を形成した構造である、下記式(5)で表される化合物が挙げられる。更に具体的に、例えば、後述する化合物(1-7)、(1-15)、(1-19)、(1-30)、(1-66)、(1-83)、(1-128)が挙げられる。
【0054】
【化10】
【0055】
前記式(5)中のAは式(1)のAと同じ定義であり、Arは式(1)のAr~Arと同じ定義であり、R~R21は式(1)のR~R13と同定義である。即ち、式(5)に係わる全ての置換基としては、前記式(1)の説明で例示した基が挙げられる。
【0056】
本発明においては、耐熱性及び電荷移動度の観点から、前記式(5)中のArが置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基であることが好ましく、炭素数6ないし30の無置換の芳香族炭化水素基又は無置換の縮合多環芳香族基であることがより好ましく、特に炭素数10ないし18の無置換の縮合多環芳香族基であることが好ましい。また、前記式(5)中のAが置換若しくは無置換の芳香族炭化水素の2価基であることが好ましく、炭素数6ないし18の無置換の芳香族炭化水素の2価基であることがより好ましい。
【0057】
また、合成が容易であることから、前記式(5)中のR~R13が水素原子であることが好ましい。
【0058】
耐熱性及び電荷移動度の観点から、本発明における好ましい実施形態の一つとして、前記式(2)中のAが置換若しくは無置換の芳香族炭化水素の2価基である化合物が挙げられる。
【0059】
例えば、前記式(2)中のAが置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であり、且つAとArが単結合を介して互いに結合して環を形成している、下記式(6)で表される化合物が挙げられる。具体的には、後述する化合物(1-4)、(1-29)、(1-50)、(1-82)、(1-106)が挙げられる。
【0060】
【化11】
【0061】
前記式(6)中のAr及びArは式(1)のAr~Arと同じ定義であり、式(6)中のR~R20は式(1)のR~R13と同定義である。即ち、式(6)に係わる全ての置換基としては、前記式(1)の説明で例示した基が挙げられる。
【0062】
本発明においては、耐熱性及び電荷移動度の観点から、前記式(6)中のAr及びArが置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基であることが好ましく、炭素数6ないし30の無置換の芳香族炭化水素基又は無置換の縮合多環芳香族基であることがより好ましく、特に炭素数6ないし18の無置換の芳香族炭化水素基又は無置換の縮合多環芳香族基であることが好ましい。また、前記式(6)中のAが炭素数6ないし30の置換若しくは無置換の芳香族炭化水素の2価基であることが好ましく、炭素数6ないし18の無置換の芳香族炭化水素の2価基であることがより好ましい。
【0063】
また、合成が容易であることから、前記式(6)中のR~R13が水素原子であることが好ましい。
【0064】
本発明の前記式(1)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)又は式(6)で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物の中で、好ましい化合物の具体例を以下に示すが、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0065】
【化12】
【0066】
【化13】
【0067】
【化14】
【0068】
【化15】
【0069】
【化16】
【0070】
【化17】
【0071】
【化18】
【0072】
【化19】
【0073】
本発明の式(1)等で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物は、公知の手法により合成することができる。具体的に、本発明の前記式(3)で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物の主骨格であるインドロトリフェニレン誘導体は、例えば、以下のように、それ自体公知の手法により合成することができる(例えば、特許文献5参照)。更に、合成したハロゲン化インドロトリフェニレン誘導体とアリールアミンを用いて、銅触媒やパラジウム触媒などを用いたカップリング反応を行うことで、本発明の前記式(3)で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物を合成することができる。
【0074】
【化20】
【0075】
同様に、本発明の前記式(4)で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物の主骨格であるインドロトリフェニレン誘導体は、例えば、以下のように、それ自体公知の手法により合成することができる(例えば、特許文献5参照)。更に、合成したハロゲン化インドロトリフェニレン誘導体とアリールアミンを用いて、銅触媒やパラジウム触媒などを用いたカップリング反応を行うことで、本発明の前記式(4)で表されるインドロトリフェニレン環構造を有するアミン化合物を合成することができる。
【0076】
【化21】
【0077】
前記式(1)等で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物の精製は、カラムクロマトグラフィーによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土などによる吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行うことができる。化合物の同定は、NMR分析によって行うことができる。物性値として、ガラス転移温度(Tg)と仕事関数の測定を行うことが好ましい。ガラス転移温度(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となるものであり、仕事関数は正孔輸送性の指標となるものである。
【0078】
ガラス転移点(Tg)は、粉体を用いて高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)によって求めることができる。
【0079】
仕事関数は、ITO基板の上に100nmの薄膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社製、PYS-202)によって求めることができる。
【0080】
前記式(1)等で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物は、蒸着法、スピンコート法及びインクジェット法などの公知の方法によって有機薄膜を形成することができる。また、前記式(1)等で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物は、単独で成膜してもよいが、複数種を混合して成膜することもできる。更に本発明の効果を損なわない範囲で、他の化合物と混合して成膜することもできる。
【0081】
前記式(1)等で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物を含む有機薄膜は、光電変換素子、特に撮像素子への使用に適している。
光電変換素子の構成としては、例えば、順に第1電極(陽極)、第1バッファ層、光電変換層、第2電極(陰極)を有し、第1バッファ層が本発明のインドロトリフェニレン環構造を有する化合物を含む有機薄膜である構成が挙げられる。このような多層構造においては層を追加することが可能であり、例えば、順に第1電極、第1バッファ層、光電変換層、第2バッファ層、第2電極を有する構成とすることもできる。また、本発明のインドロトリフェニレン環構造を有する化合物を含む有機薄膜は、光電変換層に使用することもできる。
【0082】
本発明の光電変換素子における光電変換層は、有機材料でも無機物でもよく、受光した光量に応じた信号電荷を発生することができればよい。光電変換層が有機材料の場合、その有機半導体膜は、1層であっても複数の層であってもよく、1層の場合はp型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はp型有機半導体及びn型有機半導体の混合膜(バルクヘテロ構造)が用いられる。また、複数の層である場合は、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はp型有機半導体及びn型有機半導体混合膜のいずれか2つ以上を積層した構造であり、層間にバッファ層を挿入することも可能である。
【0083】
本発明の光電変換素子は、素子に含まれる第1バッファ層に前記式(1)等で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物を用いることで、熱の負荷に対する安定性を得ることができる。
【0084】
前記光電変換層に用いられるp型半導体はドナー性の有機半導体であり、主に正孔輸送性の有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある化合物である。
p型半導体としては、特に限定されないが、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、キナクリドン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、フタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、複素環化合物を配位子とする金属錯体、ベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、ジアントラセノチエノチオフェン誘導体、ベンゾビスベンゾチオフェン誘導体、チエノビスベンゾチオフェン、ジベンゾチエノビスベンゾチオフェン誘導体、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体、ジベンゾチエノジチオフェン誘導体、ベンゾジチオフェン誘導体、ナフトジチオフェン誘導体、アントラセノジチオフェン誘導体、テトラセノジチオフェン誘導体、ペンタセノジチオフェン誘導体に代表されるチエノアセン系材料やトリアリールアミン化合物、カルバゾール化合物といったアミン系誘導体、インデノカルバゾール誘導体などを挙げることができる。
【0085】
前記光電変換層に用いられるn型有機半導体は、アクセプター性有機半導体であり、主に電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。更に詳しくは、2つの有機化合物を接触させたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプター性有機化合物は、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン、アントラセン、フラーレン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、フルオランテン、又はこれらの誘導体)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。なお、これに限らず、前記したように、ドナー性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であればアクセプター性有機半導体として用いてよい。
【0086】
陽極、陰極としては一般に電極として用いられている導電材料であれば特に制限はなく、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属硼化物、有機導電性化合物、これらの混合物等が挙げられる。具体例としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムタングステン(IWO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化チタン等の導電性金属酸化物、酸化窒化チタン(TiN)、窒化チタン(TiN)等の金属窒化物、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)等の金属、更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性化合物、これらとITOとの積層物、などが挙げられる。
【0087】
第2バッファ層が第2電極(陰極)と光電変換層との間に挿入されても良いが、これに用いられる材料としては、第1バッファ層に用いられる材料より仕事関数が大きい材料が好ましい。例えば、ピリジン、キノリン、アクリジン、インドール、イミダゾールベンズイミダゾール、フェナントロリンのような含窒素複素環を含む有機分子及び有機金属錯体で、更に可視光領域の吸収が少ない材料が好ましい。また、5nmから20nm程度の薄膜で形成する場合には可視光領域に吸収を有するフラーレン及びその誘導体などを用いることもできる。
【実施例0088】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
[実施例1]
<13-{9-(4-ビフェニリル)-9H-カルバゾール-3-イル}-10-(9-フェナントロ)-10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾール:化合物(1-82)の合成>
窒素置換した反応容器に、2-ブロモトリフェニレン90.8g、ベンズアミド71.7g、銅粉1.88g、亜硫酸ナトリウム4.62g、1,10-フェナントロリン5.33g、炭酸カリウム61.3g、ドデシルベンゼン200mLを加え、180℃で8時間攪拌した。85℃でトルエンを加えてろ過し、得られた固体をメタノールと水の混合溶媒に分散して1時間還流させて洗浄した。この洗浄を2回実施して、N-2-トリフェニレンベンズアミドの茶色粉体88.8g(収率88.1%)を得た。
【0090】
窒素置換した反応容器に、N-2-トリフェニレンベンズアミド88.8g、イソアミルアルコール480mL、水酸化カリウム71.7g、水18mL、1,4-ジオキサン18mLを加え、115℃で12.5時間攪拌した。反応液を冷却し、35%塩酸を加えて溶液のpHを7に調整後、ろ過し、得られた固体をメタノールと水の混合溶媒に分散して還流させて洗浄した。ろ過して、2-トリフェニレンアミンの灰色固体54.5g(収率87.6%)を得た。
【0091】
窒素置換した反応容器に、2-トリフェニレンアミン25.8g、1-ブロモ-2-ヨードベンゼン30.0g、トルエン250mL、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム0.97g、BINAP1.32gを加え、90℃で3時間攪拌した。ろ過助剤用いて熱ろ過した後、シリカゲルを加えて吸着精製し、ろ過後、ろ液を濃縮した。ヘキサンを加えて固体を析出させ、トルエン/アセトンを用いた晶析により精製して、(2-ブロモフェニル)-2-トリフェニレンアミンの黄土色固体16.3g(収率38.6%)を得た。
【0092】
窒素置換した反応容器に、(2-ブロモフェニル)-2-トリフェニレンアミン39.0g、酢酸カリウム19.2g、ジメチルアセトアミド350mL、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム2.26gを加え、157℃で7.5時間攪拌した。室温まで放冷後、水を加えて固体を析出させた。ろ過し、得られた固体をメタノール/水の混合溶媒に分散して還流させて洗浄し、次いでトルエンに分散して還流させて洗浄して、10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾールの灰色粉体23.6g(収率75.9%)を得た。
【0093】
窒素置換した反応容器に、10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾール18.7g、9-ブロモフェナントレン15.2g、銅粉0.37g、亜硫酸ナトリウム1.23g、1,10-フェナントロリン1.06g、炭酸カリウム12.2g、ドデシルベンゼン30mLを加え、215℃で15時間攪拌した。放冷後、クロロベンゼンを加え、120℃で熱ろ過した。ろ液にシリカゲルを加えて吸着精製し、ろ過後、ろ液を濃縮し、アセトン/メタノールで洗浄し、再度ろ過して、10-(9-フェナントロ)-10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾールの淡茶色粉体21.9g(収率75.5%)を得た。
【0094】
窒素置換した反応容器に、10-(9-フェナントロ)-10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾール20.9g、クロロホルム560mLを加え、60℃で完全に溶解させた後、室温まで放冷し、N-ブロモスクシンイミド7.46gを加えて1時間攪拌した。水400mLを加え、分液後、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、ろ過した。ろ液を濃縮後、トルエン/アセトンを用いた晶析により精製して、13-ブロモ-10-(9-フェナントロ)-10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾールのベージュ色粉体13.1g(収率53.9%)を得た。
【0095】
窒素置換した反応容器に、13-ブロモ-10-(9-フェナントロ)-10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾール7.20g、9-(4-ビフェニリル)-3-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボラン-2-イル)-9H-カルバゾール6.72g、炭酸カリウム3.48g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.29g、テトラヒドロフラン720mL、水110mLを加え、65℃で9.5時間攪拌した。室温でメタノールを加えて固体を析出させ、ろ過して得られた固体をトルエンに溶解させ、シリカゲルを加えて吸着精製した。ろ過後、ろ液を濃縮し、アセトンを用いた晶析により精製して、13-{9-(4-ビフェニリル)-9H-カルバゾール-3-イル}-10-(9-フェナントロ)-10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾール:化合物(1-82)の淡黄色粉体7.68g(収率75.3%)を得た。
【0096】
得られた淡黄色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
H-NMR(DMSO-d)で以下の38個の水素のシグナルを検出した。δ(ppm)=9.98(1H),9.14-9.09(4H),8.72-8.69(3H),8.39-8.34(3H),8.26(1H),8.20-8.18(1H),7.99-7.12(25H).
【0097】
【化22】
【0098】
[実施例2]
<13-(9-フェニル-9H-カルバゾール-4’-イル)-10-(9-フェナントロ)-10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾール:化合物(1-83)の合成>
窒素置換した反応容器に、13-ブロモ-10-(9-フェナントロ)-10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾール8.50g、9-[4-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボロラン-2-イル)フェニル]-9H-カルバゾール6.58g、炭酸カリウム4.10g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.34g、テトラヒドロフラン850mL、水130mLを加え、65℃で11時間攪拌した。室温でメタノールを加えて固体を析出させ、ろ過して得られた固体をトルエンに溶解させ、シリカゲルを加えて吸着精製した。ろ過後、ろ液を濃縮し、アセトンとメタノールを加えて固体を析出させ、トルエン/アセトン、及びトルエン/酢酸エチルを用いた晶析により精製して、13-(9-フェニル-9H-カルバゾール-4’-イル)-10-(9-フェナントロ)-10H-フェナントロ[9,10-b]カルバゾール:化合物(1-83)の淡黄色粉体4.62g(収率38.5%)を得た。
【0099】
得られた淡黄色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
H-NMR(CDCl)で以下の34個の水素のシグナルを検出した。δ(ppm)=9.61(1H),8.97-8.91(3H),8.77-8.76(1H),8.66-8.61(2H),8.32-8.30(1H),8.28(1H),8.20-8.18(2H),8.15(1H),8.02-8.00(3H),7.89-7.85(1H),7.79-7.69(6H),7.67-7.63(1H),7.58-7.53(3H),7.48-7.41(5H),7.34-7.30(2H),7.21-7.20(1H).
【0100】
【化23】
【0101】
[実施例3]
〈ガラス転移温度の測定〉
実施例1の化合物(1-82)、及び実施例2の化合物(1-83)について、高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)によってガラス転移温度を測定した。また高ガラス転移温度の化合物である下記構造のEBL-1(特許文献1を参照)、EBL-2(特許文献3を参照)についても同様に測定を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0102】
【化24】
【0103】
【化25】
【0104】
【表1】
【0105】
化合物(1-82)と化合物(1-83)のガラス転移温度はそれぞれ215℃、214℃と高く、薄膜状態が安定であることを示している。また化合物(1-82)と化合物(1-83)のガラス転移温度はEBL-1、EBL-2と比較しても高く、EBL-1、EBL-2の代わりに化合物(1-82)及び化合物(1-83)を用いることで、より熱安定性に優れた素子が作製可能であることが分かる。
【0106】
[実施例4]
〈仕事関数の測定〉
実施例1の化合物(1-82)及び実施例2の化合物(1-83)、並びに前記比較化合物EBL-1及びEBL-2を用い、ITO基板の上に膜厚100nmの蒸着膜を形成して評価用基板を作製した。この評価用基板を用いて、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社、PYS-202)によって仕事関数を測定した。結果を表2にまとめて示す。
【0107】
【表2】
【0108】
化合物(1-82)と化合物(1-83)は、好適な正孔輸送材料とされているカルバゾール化合物などの仕事関数5.3~6.0eVと同等なエネルギー準位を有しており、良好な正孔輸送能力を有していることが分かる。
【0109】
[実施例5]
〈正孔移動度の測定〉
実施例1の化合物(1-82)及び実施例2の化合物(1-83)、並びに前記比較化合物EBL-2を用い、真空蒸着法により、ITO付きガラス基板上に膜厚3~4μmとなるよう成膜した。続けてアルミニウムを膜厚100nm程度となるよう成膜することで、正孔移動度測定用の素子を作成した。この素子を、水分や酸素の吸着による劣化が起こらないように、窒素雰囲気中で有機EL用水分ゲッターシートを貼り付けたガラスキャップで封止した。
【0110】
前記素子を用いて、過渡光電流測定装置により下記の条件で正孔移動度を測定した。結果を表3にまとめて示す。
【0111】
(測定条件)
装置:タイムオブフライト測定装置TOF―401(オプテル社製)
励起光源:窒素レーザ(337.1nm)
光パルス幅:1nsec以下
測定面積:0.04cm
試料温度:25℃
負荷抵抗:50Ω
電界強度:0.25MV/cm
【0112】
【表3】
【0113】
化合物(1-82)と化合物(1-83)の正孔移動度は、それぞれ3.1×10-4、4.0×10-4cm/Vsと高い値であった。また比較化合物EBL-2の正孔移動度8.2×10-5と比べても6倍以上高い値であった。これはインドロトリフェニレン構造によってπ共役が拡張され、サイト間のホッピング伝導が効率的になった結果である。本発明の前記式(1)等で表されるインドロトリフェニレン環構造を有する化合物を含む有機薄膜を光電変換素子に用いることで、光電変換層で発生した正孔を効果的に取り出すことができ、応答性及び変換効率の改善が可能であることが分かる。
【0114】
[実施例6]
〈単電荷輸送素子(HOD)の評価〉
ガラス基板上に透明陽極としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、正孔注入層として酸化モリブデンを50nmになるように真空蒸着法にて成膜し、その正孔注入層の上に、実施例1の化合物(1-82)及び実施例2の化合物(1-83)、並びに前記比較化合物EBL-1及びEBL-2を100nmになるように真空蒸着法にて成膜した。続けて陰極としてアルミニウムを100nm蒸着することで、HODを作成した。
【0115】
前記単電荷輸送素子(HOD)について、ソースメータ測定器(ケースレー2635B,KEITHLEY社製)を用いて、-3Vの逆バイアス条件で暗状態のリーク電流を測定した。また、これらのHODを窒素雰囲気下のグローブボックス内で190℃のホットプレートで3時間加熱した後、同様にして暗状態のリーク電流を測定した。結果を表4にまとめて示す。
【0116】
【表4】
【0117】
化合物(1-82)及び化合物(1-83)を用いたHODは、EBL-1及びEBL-2を用いたHODと比べて、-3V印加時のリーク電流は少なく、また加熱後の素子においても、リーク電流の上昇が抑えられている。これはインドロトリフェニレン構造を有する化合物が良好な正孔輸送能力を持ち、更に高いガラス転移温度を持つことに起因している。
【0118】
即ち、本発明の式(1)等で表されるインドロトリフェニレン構造を有する化合物を含む有機薄膜は、優れた耐熱性、電荷輸送性を持つ有機薄膜であり、各種の光電変換素子に適用できる。
【0119】
[実施例7]
〈光電変換素子の評価〉
光電変換素子は、図1に示すように、ガラス基板1上に透明陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、第一バッファ層3、光電変換層4、金属陰極5の順に蒸着して作製した。
【0120】
具体的には、透明陽極2であるITOを成膜したガラス基板1をイソプロピルアルコール中にて超音波洗浄を20分間行った後、200℃に加熱したホットプレート上にて10分間乾燥を行った。その後、UVオゾン処理を15分間行った後、このITO付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け、0.0001Pa以下まで減圧した。続いて、透明陽極2を覆うように第一バッファ層3として、実施例1の化合物(1-82)を膜厚が5nmとなるように蒸着した。この第一バッファ層3の上に、光電変換層4として下記構造式のp型半導体(SubPC)と下記構造式のn型半導体(C60)とを、蒸着速度比がSubPC:C60=50:50となる蒸着速度で二元蒸着し、膜厚が100nmとなるように形成した。この光電変換層4の上に、金属陰極5として金を膜厚100nmとなるように形成した。
作製した光電変換素子の評価結果を表5にまとめて示した。
【0121】
【化26】
【0122】
【化27】
【0123】
[実施例8]
実施例7において、第1バッファ層3の材料とした化合物(1-82)の代わりに、実施例2の化合物(1-83)を用いた以外は同様にして光電変換素子を作製し、電気特性を評価した。測定結果を表5にまとめて示した。
【0124】
[比較例1]
比較として、実施例7において、第1バッファ層3の材料とした化合物(1-82)の代わりに、前記比較化合物EBL-1を用いた以外は同様にして光電変換素子を作製し、電気特性を評価した。測定結果を表5にまとめて示した。
【0125】
実施例7と実施例8、及び比較例1で作製した有機光電変換素子の分光感度、及び明電流について、分光感度測定装置を用いて、下記測定条件により測定した。測定時の特定波長における放射照度は、Siフォトダイオード(S1337-1010BQ、浜松フォトニクス社製)を用いて校正した。暗電流について、光電変換素子への分光放射照度をゼロにして、同様のバイアス条件で電流値を測定した。
【0126】
(測定条件)
装置:分光感度測定装置SM-250A(分光計器社製)
光源:キセノン150W
分光放射照度:2.0mW/cm(550nm)
有効照射面積:10×10mm
受光面積:0.04cm
面内不均一性:±5%以内
ソースメータ:ケースレー2635B(KEITHLEY社製)
印加バイアス:-1~-3V
【0127】
【表5】
【0128】
表5に示すように、-3V印加時における暗電流は、比較例1の素子が-5.4×10-7A/cmに対して、実施例7と実施例8の素子はそれぞれ-1.2×10-8A/cm、-5.1×10-9A/cmと1ケタ以上低い暗電流を実現した。また-3V印加時の変換効率EQEにおいても、比較例1の素子が58%に対して、実施例7と実施例8の素子はそれぞれ66%、67%と向上している。素子における-1V及び-2Vのバイアス印加時にも、実施例7と実施例8の素子は比較例1の素子と比べ、低い暗電流と高い変換効率EQEが示されている。このことは、インドロトリフェニレン構造を有する化合物の高い電子ブロッキング性と良好なホール輸送性により、光電変換素子の暗電流特性と変換効率を大幅に改善できることを示している。
【0129】
以上の結果から、本発明の式(1)等で表されるインドロトリフェニレン構造を有する化合物を含む有機薄膜を用いた光電変換素子は、有機光電変換素子のブロッキング層に必要なHOMO値、高い耐熱性、十分な高移動度を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明により、耐熱性が高く、電荷移動度の良好な有機薄膜は各種の光電変換素子に適用できるため、良い暗電流特性と変換効率を有する光電変換素子、特に撮像素子、及びこれを用いる光センサーを提供できる。

図1