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特開2022-108271リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子が組み込まれた核酸分子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108271
(43)【公開日】2022-07-25
(54)【発明の名称】リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子が組み込まれた核酸分子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20220715BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220715BHJP
   C12N 15/16 20060101ALI20220715BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220715BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220715BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220715BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220715BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220715BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220715BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALI20220715BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20220715BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20220715BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20220715BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20220715BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220715BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12N15/13
C12N15/16
C12N15/62 Z
C12N15/11 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/0797
C12N5/0789
C12N5/0775
C12N5/0735
C12N5/074
C12N7/01
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】44
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002037
(22)【出願日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2021002567
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(74)【代理人】
【識別番号】100225118
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 慧
(72)【発明者】
【氏名】木下 正文
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】今給黎 厚志
(72)【発明者】
【氏名】高木 春奈
(72)【発明者】
【氏名】薗田 啓之
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質を細胞,組織,又は生体内において発現させるために用いられる,かかる融合蛋白質をコードする遺伝子を含む核酸分子を提供する。本発明はまた,プラスミドの形態,組換ウイルスビリオンに内包された形態,又はリポソーム,脂質ナノ粒子に内包された形態の,かかる融合蛋白質をコードする遺伝子を含む核酸分子を提供する。本発明はまた,かかる融合蛋白質をコードする遺伝子を含む核酸分子の医薬としての使用に関する。
【解決手段】例えば,以下の塩基配列を含む核酸分子である。
第一の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)~(6)の何れかの塩基配列を含む核酸分子:
(1)第一の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(2)第一の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(3)第一の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(4)第一の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(5)リーダー又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流にトレイラー又はその機能的等価物を含む塩基配列;又は
(6)リーダー又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流にトレイラー又はその機能的等価物を含む塩基配列。
【請求項2】
該リガンドが抗体である,請求項1の核酸分子。
【請求項3】
請求項2に記載の核酸分子であって,以下の(1)~(4)から選択されるもの:
(1)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の重鎖のC末端に生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の軽鎖をコードする塩基配列とを含むもの;
(2)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の重鎖のN末端に生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の軽鎖をコードする塩基配列とを含むもの;
(3)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の軽鎖のC末端に生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の重鎖をコードする塩基配列とを含むもの;又は
(4)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の軽鎖のN末端に生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の重鎖をコードする塩基配列とを含むもの。
【請求項4】
以下の(1)~(4)から選択されるものである,請求項2に記載の核酸分子:
(1)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の重鎖のC末端に生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の軽鎖をコードする塩基配列とを含むもの;
(2)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の重鎖のN末端に生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の軽鎖をコードする塩基配列とを含むもの;
(3)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の軽鎖のC末端に生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の重鎖をコードする塩基配列とを含むもの;又は
(4)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の軽鎖のN末端に生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の重鎖をコードする塩基配列とを含むもの。
【請求項5】
該リンカーが,1~50個のアミノ酸残基からなるペプチドである,請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
該リンカーが,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号1のアミノ酸配列,配列番号2のアミノ酸配列,配列番号3のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が2~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるペプチドである,請求項5に記載の核酸分子。
【請求項7】
以下の(1)~(4)から選択されるものである,請求項2に記載の核酸分子:
(1)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の軽鎖のC末端に第二のリンカーを介して抗体の重鎖が結合し,更にそのC末端に生理活性を有する蛋白質が直接又はリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列を含むもの;
(2)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の重鎖のC末端に第二のリンカーを介して抗体の軽鎖が結合し,更にそのC末端に生理活性を有する蛋白質が直接又はリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列を含むもの;
(3)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,生理活性を有する蛋白質のC末端に直接又はリンカーを介して抗体の重鎖が結合し,更にそのC末端に第二のリンカーを介して抗体の軽鎖が結合した結合体をコードする塩基配列を含むもの;又は
(4)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,生理活性を有する蛋白質のC末端に直接又はリンカーを介して抗体の軽鎖が結合し,更にそのC末端に第二のリンカーを介して抗体の重鎖が結合した結合体をコードする塩基配列を含むもの。
【請求項8】
該リンカーが,1~50個のアミノ酸残基からなるペプチドである,請求項7に記載の核酸分子。
【請求項9】
該リンカーが,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号1のアミノ酸配列,配列番号2のアミノ酸配列,配列番号3のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が2~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるペプチドである,請求項8に記載の核酸分子。
【請求項10】
該第二のリンカーが,8~50個のアミノ酸残基からなるものである,請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
該第二のリンカーが,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,配列番号1,配列番号2,配列番号3の各アミノ酸配列,配列番号1のアミノ酸配列の3個が連続してなるアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が2~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるものである,請求項8に記載の核酸分子。
【請求項12】
以下の(1)~(4)から選択されるものである,請求項3に記載の核酸分子:
(1)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の重鎖のC末端に該生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(2)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の重鎖のN末端に該生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(3)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の軽鎖のC末端に該生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むもの;又は
(4)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の軽鎖のN末端に該生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むもの。
【請求項13】
以下の(1)~(4)から選択されるものである,請求項4~6の何れかに記載の核酸分子であって,:
(1)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の重鎖のC末端に該生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(2)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の重鎖のN末端に該生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(3)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の軽鎖のC末端に該生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むもの;又は
(4)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の軽鎖のN末端に該生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むもの。
【請求項14】
該内部リボソーム結合部位が,ピコルナウイルス科のウイルス,口蹄疫ウイルス,A型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,コロナウイルス,ウシ腸内ウイルス,サイラーのネズミ脳脊髄炎ウイルス,コクサッキーB型ウイルス,ヒト免疫グロブリン重鎖結合蛋白質遺伝子,ショウジョウバエアンテナペディア遺伝子,ショウジョウバエウルトラビトラックス遺伝子からなる群から選択されるウイルス又は遺伝子の5’非翻訳領域に由来するものである,請求項12又は13に記載の核酸分子。
【請求項15】
該内部リボソーム結合部位が,ピコルナウイルス科のウイルスの5’非翻訳領域に由来するものである,請求項12又は13に記載の核酸分子。
【請求項16】
該抗体が,抗原結合性断片である,請求項2~14の何れかに記載の核酸分子。
【請求項17】
該抗体が,Fabである,請求項2~14の何れかに記載の核酸分子。
【請求項18】
該抗体が,単一ドメイン抗体である,請求項2に記載の核酸分子。
【請求項19】
該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して特異的な親和性を有するものである,請求項2~18の何れかに記載の核酸分子。
【請求項20】
該血管内皮細胞が,脳血管内皮細胞である請求項19に記載の核酸分子。
【請求項21】
該血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質が,トランスフェリン受容体,インスリン受容体,レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体からなる群から選択されるものである,請求項19又は20に記載の核酸分子。
【請求項22】
該遺伝子発現制御部位が,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1α(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター,レトロウイルスのラウス肉腫ウイルスLTRプロモーター,ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター,β-アクチンプロモーター,ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター,マウスアルブミンプロモーター,ヒトアルブミンプロモーター,ヒトα-1アンチトリプシンプロモーター,及びマウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーターからなる群から選択されるものである,請求項1~21の何れかに記載の核酸分子。
【請求項23】
該リガンドが,血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して特異的な親和性を有するものである,請求項1の核酸分子。
【請求項24】
該血管内皮細胞が,脳血管内皮細胞である請求項23に記載の核酸分子。
【請求項25】
該血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質が,トランスフェリン受容体,インスリン受容体,レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体からなる群から選択されるものである,請求項23又は24に記載の核酸分子。
【請求項26】
該リガンドが,トランスフェリン,インスリン,レプチン,インスリン様成長因子I,インスリン様成長因子II,リポ蛋白質,及び低密度リポ蛋白質からのる群から選択されるものである,請求項23又は24に記載の核酸分子。
【請求項27】
該生理活性を有する蛋白質が,成長ホルモン,リソソーム酵素,ソマトメジン,インスリン,グルカゴン,サイトカイン,リンホカイン,血液凝固因子,抗体,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),エリスロポエチン,ダルベポエチン,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA),トロンボモジュリン,卵胞刺激ホルモン(FSH),性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH),ゴナドトロピン,神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,PD-1,PD-1リガンド,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),ベータアミロイドを分解する活性を有する酵素,エタネルセプト,ペグビソマント,メトレレプチン,アバタセプト,アスホターゼ,GLP-1受容体アゴニスト,及び抗体医薬からなる群から選択されるものである,請求項1~26の何れかに記載の核酸分子。
【請求項28】
該生理活性を有する蛋白質が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2からなる群から選択されるものである,請求項1~26の何れかに記載の核酸分子。
【請求項29】
該第一の逆方向末端反復及び該第二の逆方向末端反復が,アデノ随伴ウイルスに由来するもの,アデノウイルスに由来するもの,又はそれらの変異体であるものである,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子。
【請求項30】
該第一の逆方向末端反復が配列番号4で示される塩基配列を含み,該第二の逆方向末端反復が配列番号5で示される塩基配列を含むものである,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子。
【請求項31】
該第一の逆方向末端反復が以下の(1)~(3)から選択されるものであり,及び
該第二の逆方向末端反復が以下の(4)~(6)から選択されるものである,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子:
(1)配列番号4で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(2)配列番号4で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(3)配列番号4で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの;及び
(4)配列番号5で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(5)配列番号5で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(6)配列番号5で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの。
【請求項32】
該第一の逆方向末端反復の機能的等価物が配列番号6で示される塩基配列を含み,該第二の逆方向末端反復の機能的等価物が配列番号7で示される塩基配列を含むものである,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子。
【請求項33】
該第一の逆方向末端反復の機能的等価物が以下の(1)~(3)から選択されるものであり,及び
該第二の逆方向末端反復の機能的等価物が以下の(4)~(6)から選択されるものである,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子:
(1)配列番号6で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(2)配列番号6で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(3)配列番号6で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの;及び
(4)配列番号7で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(5)配列番号7で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(6)配列番号7で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの。
【請求項34】
該第一の長い末端反復及び該第二の長い末端反復が,レンチウイルス又はレトロウイルスに由来するもの又はその変異体である,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子。
【請求項35】
該第一の長い末端反復が配列番号43で示される塩基配列を含み,該第二の長い末端反復が配列番号44で示される塩基配列を含むものである,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子。
【請求項36】
該第一の長い末端反復が以下の(1)~(3)から選択されるものであり,及び該第二の長い末端反復が以下の(4)~(6)から選択されるものである,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子:
(1)配列番号43で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(2)配列番号43で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(3)配列番号43で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの;及び
(4)配列番号44で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(5)配列番号44で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(6)配列番号44で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの。
【請求項37】
該リーダー及び該トレイラーが,センダイウイルスに由来するもの又はその変異体である,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子。
【請求項38】
該リーダーが配列番号45で示される塩基配列を含み,該トレイラーが配列番号46で示される塩基配列を含むものである,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子。
【請求項39】
該リーダーが以下の(1)~(3)から選択されるものであり,及び該トレイラーが以下の(4)~(6)から選択されるものである,請求項1~28の何れかに記載の核酸分子:
(1)配列番号45で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(2)配列番号45で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(3)配列番号45で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの;及び
(4)配列番号46で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(5)配列番号47で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(6)配列番号47で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの。
【請求項40】
請求項1~39の何れかに記載の核酸分子が導入された細胞,組織又は動物。
【請求項41】
請求項1~39の何れかに記載の核酸分子が導入された幹細胞。
【請求項42】
間葉系幹細胞,歯髄由来幹細胞,造血幹細胞,胚性幹細胞,内皮幹細胞,乳腺幹細胞,腸幹細胞,肝幹細胞,膵幹細胞,神経幹細胞,及びiPS細胞からなる群から選択されるものである,請求項41に記載の幹細胞。
【請求項43】
請求項1~39の何れかに記載の核酸分子を含む,プラスミド。
【請求項44】
請求項1~39の何れかに記載の核酸分子を含むビリオン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質を細胞,組織,又は生体内において機能させるために用いられる,かかる融合蛋白質をコードする遺伝子を含む核酸分子に関し,例えば,AAVウイルスベクター系における,かかる融合蛋白質をコードする核酸分子が組み込まれたTベクター,レンチウイルスベクター系における,かかる融合蛋白質をコードする核酸分子が組み込まれたベクタープラスミドに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬として用いられている組換え蛋白質の多くは,皮下注射,筋肉内注射,静脈内注射等の非経口的手段により患者に投与されている。患者が慢性疾患である場合,医薬の投与は長期に亘って繰り返し行われることが必要であるので,投与が非経口的手段によるものである場合,患者が強いられる負担は大きい。
【0003】
組換え蛋白質の中には,抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質であるものがある。かかる融合蛋白質として,例えば,抗体とリソソーム酵素の融合蛋白質が挙げられる(特許文献1~5,非特許文献1)。
【0004】
リソソーム病は,リソソームに存在すべきリソソソーム酵素をコードする遺伝子の異常により,リソソソーム酵素の活性が減少するか又は欠失することを原因とする遺伝子疾患である。リソソーム病の患者には,組換え体リソソーム酵素を静脈内注射により投与し,減少又は欠失しているリソソーム酵素を補充する,いわゆる酵素補充療法が行われている。遺伝子疾患であるリソソーム病の患者は,この酵素補充療法を生涯に渡って受ける必要がある。
【0005】
リソソーム病の中には脳に障害が及ぶものがある。脳の障害を治療するためには,脳内にリソソーム酵素を補充する必要があるが,静脈内注射により投与されたリソソーム酵素は血液脳関門(BBB)をほとんど通過することがないので,脳内にリソソーム酵素を補充することはできない。
【0006】
リソソーム酵素を脳内に補充するための方法として,リソソーム酵素を血管内皮細胞の表面に存在する分子を抗原として認識する抗体と結合させた融合蛋白質とし,これを静脈内注射により投与する方法が報告されている(非特許文献2)。かかる融合蛋白質は,抗体部分を介して血管内皮細胞の表面に結合し,更にBBBを通過して脳内に到達することができる。よって,かかる融合蛋白質により,脳内にリソソーム酵素を補充することができる。リソソーム酵素をこのような融合蛋白質とした場合であっても,遺伝子疾患であるリソソーム病の患者は,この融合蛋白質による酵素補充療法を生涯に渡って受ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2016/208695
【特許文献2】WO2018/124121
【特許文献3】US20070082380
【特許文献4】US20090053219
【特許文献5】US20110110935
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sonoda H. et al., Mol Ther. 26. 1366-74 (2018)
【非特許文献2】Okuyama T. et al., Mol Ther. 26. 27. 456-64 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一つの目的は,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質を生体内において発現させるために用いられる,かかる融合蛋白質をコードする遺伝子が組み込まれたウイルスベクターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,抗体とヒトリソソーム酵素の一種であるヒトイズロン酸-2-スルファターゼとを結合させた蛋白質をコードする遺伝子をAAVウイルスベクター系におけるTベクターに組込み,このTベクターを用いて作製したrAAVビリオンを感染させた哺乳動物の生体内又は培養細胞において,抗体とヒトリソソーム酵素の融合蛋白質が発現することを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を含むものである。
1.以下の(1)~(6)の何れかの塩基配列を含む核酸分子:
(1)第一の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(2)第一の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(3)第一の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(4)第一の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(5)リーダー又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流にトレイラー又はその機能的等価物を含む塩基配列;又は
(6)リーダー又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流にリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流にトレイラー又はその機能的等価物を含む塩基配列。
2.該リガンドが抗体である,上記1の核酸分子。
3.上記2の核酸分子であって,以下の(1)~(4)から選択されるもの:
(1)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の重鎖のC末端に生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の軽鎖をコードする塩基配列とを含むもの;
(2)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の重鎖のN末端に生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の軽鎖をコードする塩基配列とを含むもの;
(3)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の軽鎖のC末端に生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の重鎖をコードする塩基配列とを含むもの;又は
(4)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の軽鎖のN末端に生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の重鎖をコードする塩基配列とを含むもの。
4.上記2に記載の核酸分子であって,以下の(1)~(4)から選択されるもの:
(1)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の重鎖のC末端に生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の軽鎖をコードする塩基配列とを含むもの;
(2)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の重鎖のN末端に生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の軽鎖をコードする塩基配列とを含むもの;
(3)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の軽鎖のC末端に生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の重鎖をコードする塩基配列とを含むもの;又は
(4)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の軽鎖のN末端に生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列と,抗体の重鎖をコードする塩基配列とを含むもの。
5.該リンカーが,1~50個のアミノ酸残基からなるペプチドである,上記4に記載の核酸分子。
6.該リンカーが,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号1のアミノ酸配列,配列番号2のアミノ酸配列,配列番号3のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が2~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるペプチドである,上記5に記載の核酸分子。
7.上記2に記載の核酸分子であって,以下の(1)~(4)から選択されるもの:
(1)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の軽鎖のC末端に第二のリンカーを介して抗体の重鎖が結合し,更にそのC末端に生理活性を有する蛋白質が直接又はリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列を含むもの;
(2)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,抗体の重鎖のC末端に第二のリンカーを介して抗体の軽鎖が結合し,更にそのC末端に生理活性を有する蛋白質が直接又はリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列を含むもの;
(3)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,生理活性を有する蛋白質のC末端に直接又はリンカーを介して抗体の重鎖が結合し,更にそのC末端に第二のリンカーを介して抗体の軽鎖が結合した結合体をコードする塩基配列を含むもの;又は
(4)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,生理活性を有する蛋白質のC末端に直接又はリンカーを介して抗体の軽鎖が結合し,更にそのC末端に第二のリンカーを介して抗体の重鎖が結合した結合体をコードする塩基配列を含むもの。
8.該リンカーが,1~50個のアミノ酸残基からなるペプチドである,上記7に記載の核酸分子。
9.該リンカーが,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号1のアミノ酸配列,配列番号2のアミノ酸配列,配列番号3のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が2~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるペプチドである,上記8に記載の核酸分子。
10.該第二のリンカーが,8~50個のアミノ酸残基からなるものである,上記9に記載の核酸分子。
11.該第二のリンカーが,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,配列番号1,配列番号2,配列番号3の各アミノ酸配列,配列番号1のアミノ酸配列の3個が連続してなるアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が2~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるものである,上記8に記載の核酸分子。
12.上記3に記載の核酸分子であって,以下の(1)~(4)から選択されるもの:
(1)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の重鎖のC末端に該生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(2)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の重鎖のN末端に該生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(3)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の軽鎖のC末端に該生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むもの;又は
(4)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の軽鎖のN末端に該生理活性を有する蛋白質が結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むもの。
13.上記4~6の何れかに記載の核酸分子であって,以下の(1)~(4)から選択されるもの:
(1)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の重鎖のC末端に該生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(2)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の重鎖のN末端に該生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(3)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の軽鎖のC末端に該生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むもの;又は
(4)該抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする塩基配列が,該抗体の軽鎖のN末端に該生理活性を有する蛋白質がリンカーを介して結合した結合体をコードする塩基配列,その下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,更にその下流に該抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むもの。
14.該内部リボソーム結合部位が,ピコルナウイルス科のウイルス,口蹄疫ウイルス,A型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,コロナウイルス,ウシ腸内ウイルス,サイラーのネズミ脳脊髄炎ウイルス,コクサッキーB型ウイルス,ヒト免疫グロブリン重鎖結合蛋白質遺伝子,ショウジョウバエアンテナペディア遺伝子,ショウジョウバエウルトラビトラックス遺伝子からなる群から選択されるウイルス又は遺伝子の5’非翻訳領域に由来するものである,上記12又は13に記載の核酸分子。
15.該内部リボソーム結合部位が,ピコルナウイルス科のウイルスの5’非翻訳領域に由来するものである,上記12又は13に記載の核酸分子。
16.該抗体が,抗原結合性断片である,上記2~14の何れかに記載の核酸分子。
17.該抗体が,Fabである,上記2~14の何れかに記載の核酸分子。
18.該抗体が,単一ドメイン抗体である,上記2に記載の核酸分子。
19.該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して特異的な親和性を有するものである,上記2~18の何れかに記載の核酸分子。
20.該血管内皮細胞が,脳血管内皮細胞である上記19に記載の核酸分子。
21.該血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質が,トランスフェリン受容体,インスリン受容体,レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体からなる群から選択されるものである,上記19又は20に記載の核酸分子。
22.該遺伝子発現制御部位が,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1α(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター,レトロウイルスのラウス肉腫ウイルスLTRプロモーター,ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター,β-アクチンプロモーター,ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター,マウスアルブミンプロモーター,ヒトアルブミンプロモーター,ヒトα-1アンチトリプシンプロモーター,及びマウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーターからなる群から選択されるものである,上記1~21の何れかに記載の核酸分子。
23.該リガンドが,血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して特異的な親和性を有するものである,上記1の核酸分子。
24.該血管内皮細胞が,脳血管内皮細胞である上記23に記載の核酸分子。
25.該血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質が,トランスフェリン受容体,インスリン受容体,レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体からなる群から選択されるものである,上記23又は24に記載の核酸分子。
26.該リガンドが,トランスフェリン,インスリン,レプチン,インスリン様成長因子I,インスリン様成長因子II,リポ蛋白質,及び低密度リポ蛋白質からのる群から選択されるものである,上記23又は24に記載の核酸分子。
27.該生理活性を有する蛋白質が,成長ホルモン,リソソーム酵素,ソマトメジン,インスリン,グルカゴン,サイトカイン,リンホカイン,血液凝固因子,抗体,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),エリスロポエチン,ダルベポエチン,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA),トロンボモジュリン,卵胞刺激ホルモン(FSH),性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH),ゴナドトロピン,DNasel,甲状腺刺激ホルモン(TSH),神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,PD-1,PD-1リガンド,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),ベータアミロイドを分解する活性を有する酵素,エタネルセプト,ペグビソマント,メトレレプチン,アバタセプト,アスホターゼ,GLP-1受容体アゴニスト,及び抗体医薬からなる群から選択されるものである,上記1~26の何れかに記載の核酸分子。
28.該生理活性を有する蛋白質が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2からなる群から選択されるものである,上記1~26の何れかに記載の核酸分子。
29.該第一の逆方向末端反復及び該第二の逆方向末端反復が,アデノ随伴ウイルスに由来するもの,アデノウイルスに由来するもの,又はそれらの変異体であるものである,上記1~28の何れかに記載の核酸分子。
30.該第一の逆方向末端反復が配列番号4で示される塩基配列を含み,該第二の逆方向末端反復が配列番号5で示される塩基配列を含むものである,上記1~28の何れかに記載の核酸分子。
31.該第一の逆方向末端反復が以下の(1)~(3)から選択されるものであり,及び
該第二の逆方向末端反復が以下の(4)~(6)から選択されるものである,上記1~28の何れかに記載の核酸分子:
(1)配列番号4で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(2)配列番号4で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(3)配列番号4で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの;及び
(4)配列番号5で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(5)配列番号5で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(6)配列番号5で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの。
32.該第一の逆方向末端反復の機能的等価物が配列番号6で示される塩基配列を含み,該第二の逆方向末端反復の機能的等価物が配列番号7で示される塩基配列を含むものである,上記1~28の何れかに記載の核酸分子。
33.該第一の逆方向末端反復の機能的等価物が以下の(1)~(3)から選択されるものであり,及び
該第二の逆方向末端反復の機能的等価物が以下の(4)~(6)から選択されるものである,上記1~28の何れかに記載の核酸分子:
(1)配列番号6で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(2)配列番号6で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(3)配列番号6で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの;及び
(4)配列番号7で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(5)配列番号7で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(6)配列番号7で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの。
34.該第一の長い末端反復及び該第二の長い末端反復が,レンチウイルス又はレトロウイルスに由来するもの又はその変異体である,上記1~28の何れかに記載の核酸分子。
35.該第一の長い末端反復が配列番号43で示される塩基配列を含み,該第二の長い末端反復が配列番号44で示される塩基配列を含むものである,上記1~28の何れかに記載の核酸分子。
36.該第一の長い末端反復が以下の(1)~(3)から選択されるものであり,及び該第二の長い末端反復が以下の(4)~(6)から選択されるものである,上記1~28の何れかに記載の核酸分子:
(1)配列番号43で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(2)配列番号43で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(3)配列番号43で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの;及び
(4)配列番号44で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(5)配列番号44で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(6)配列番号44で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの。
37.該リーダー及び該トレイラーが,センダイウイルスに由来するもの又はその変異体である,上記1~28の何れかに記載の核酸分子。
38.該リーダーが配列番号45で示される塩基配列を含み,該トレイラーが配列番号46で示される塩基配列を含むものである,上記1~28の何れかに記載の核酸分子。
39.該リーダーが以下の(1)~(3)から選択されるものであり,及び該トレイラーが以下の(4)~(6)から選択されるものである,上記1~28の何れかに記載の核酸分子:
(1)配列番号45で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(2)配列番号45で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(3)配列番号45で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの;及び
(4)配列番号46で示される塩基配列と80%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,
(5)配列番号47で示される塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含むもの,又は
(6)配列番号47で示される塩基配列に1~20個の置換,欠失又は付加による改変が加えられたもの。
40.上記1~39の何れかに記載の核酸分子が導入された細胞,組織又は動物。
41.上記1~39の何れかに記載の核酸分子が導入された幹細胞。
42.間葉系幹細胞,歯髄由来幹細胞,造血幹細胞,胚性幹細胞,内皮幹細胞,乳腺幹細胞,腸幹細胞,肝幹細胞,膵幹細胞,神経幹細胞,及びiPS細胞からなる群から選択されるものである,上記41に記載の幹細胞。
43.上記1~39の何れかに記載の核酸分子を含む,プラスミド。
44.上記1~39の何れかに記載の核酸分子を含むビリオン。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,例えば,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質を細胞,組織,又は生体内において発現させるために用いることのできる,かかる融合蛋白質をコードする遺伝子を含む核酸分子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】AAV8-mMAP-Fab-hI2Sベクター(プラスミド)の構造を示す模式図
図2】pR2(mod)C8ベクターの構造を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において「核酸分子」というときは,主に,デオキシリボヌクレオチドがホスホジエステル結合により重合したものであるDNA,リボヌクレオチドがホスホジエステル結合により重合したものであるRNAの何れかのことをいう。
【0014】
「核酸分子」がDNAである場合のDNAは一重鎖(一本鎖)でもよく,又,相補鎖を伴う二重鎖であってもよい。DNAが一重鎖である場合の,DNAは(+)鎖であっても(-)鎖であってもよい。DNAを構成する個々のデオキシリボヌクレオチドは,DNAに含まれる蛋白質をコードする遺伝子が哺乳動物(特にヒト)の細胞内でmRNAに翻訳されることができる限り,天然に存在する型のものであってもよく,天然型に修飾を加えたものであってもよい。本発明の一実施形態において,DNAを構成する個々のデオキシリボヌクレオチドは,哺乳動物(特にヒト)の細胞内で,DNAに含まれる蛋白質をコードする遺伝子がmRNAに翻訳され,且つ,DNAの全部又は一部が複製されることができるものである限り,天然に存在する型のものであってもよく,天然型に修飾を加えたものであってもよい。
【0015】
また,「核酸分子」がRNAである場合のRNAは一重鎖(一本鎖)でもよく,相補鎖を伴う二重鎖であってもよい。RNAが一本鎖である場合の,RNAは(+)鎖であっても(-)鎖であってもよい。本発明の一実施形態において,RNAを構成する個々のリボヌクレオチドは,RNAに含まれる蛋白質をコードする遺伝子が哺乳動物(特にヒト)の細胞内でDNAに逆転写されることができる限り,天然に存在する型のものであってもよく,修飾されたものであってもよい。また,本発明の一実施形態において,RNAを構成する個々のリボヌクレオチドは,RNAに含まれる蛋白質をコードする遺伝子が哺乳動物(特にヒト)の細胞内で蛋白質に翻訳されることができる限り,天然に存在する型のものであってもよく,修飾されたものであってもよい。リボヌクレオチドの修飾は,例えば,RNAのRNaseによる分解を抑制し,RNAの細胞内における安定性を高めるために行われる。
【0016】
本発明の一実施形態において,逆方向末端反復(ITR)というときは,ウイルスゲノムの末端に存在する,同じ配列が反復して存在する塩基配列のことをいう。ITRとして,アデノ随伴ウイルスに由来するもの,及びアデノウイルスに由来するものは好適に用いることができる。例えば,アデノ随伴ウイルスのITRは,おおよそ145塩基の鎖長の領域であり,複製開始点等として機能する。本発明の一実施形態において,核酸分子中には,逆方向末端反復(ITR)が2つ存在し,それぞれ第一の逆方向末端反復(ITR),第二の逆方向末端反復(ITR)という。ここで,2つのITRの間に,融合蛋白質をコードする遺伝子を配置したときに,その5’側に位置するITRを第一の逆方向末端反復(ITR)といい,3’側に位置するITRを第二の逆方向末端反復(ITR)という。本発明において,逆方向末端反復(ITR)は,複製開始点としての機能,宿主細胞への遺伝子挿入等の,本来のITRの機能の少なくも一つを有するものである限り,何れのウイルス由来のものであってもよく,アデノ随伴ウイルスのITRは好適なものの一つである。またITRは野生型のITRに限らず,野生型のITRを代替することができるものである限り,野生型のITRの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変を加えた変異体であってもよい。
【0017】
ITRがアデノ随伴ウイルスである場合の,AAVの血清型に特に限定はなく,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのものであってもよい。例えば,血清型2のAAVの逆方向末端反復(ITR)は,第一のITRが配列番号4で示される塩基配列を含み,第二のITRが配列番号5で示される塩基配列を含む。
【0018】
また,ITRは,野生型のITRに限らず,野生型のITRの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変を加えたものであってもよい。野生型のITRの塩基配列の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。野生型のITRの塩基配列を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。野生型のITRに塩基を付加する場合,ITRの塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基が付加される。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたITRの塩基配列は,野生型のITRの塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更に好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0019】
ITRの機能的等価物とは,機能的にITRに代えて用いることができるものをいう。ITRの機能的等価物は,野生型のITRの変異体であってもよい。また,ITRに基づいて人工的に構築されたITRも,ITRを代替することができるものである限り,ITRの機能的等価物である。
【0020】
AAVのITRの機能的等価物とは,機能的にAAVのITRに代えて用いることができるものをいう。AAVのITRの機能的等価物は,野生型のAAVのITRの変異体であってもよい。また,AAVのITRに基づいて人工的に構築されたITRも,AAVのITRを代替することができるものである限り,AAVのITRの機能的等価物である。
【0021】
人工的に構築された第一のAAVの逆方向末端反復(第一のAAV-ITR)の機能的等価物として,配列番号6で示される塩基配列を有するものが挙げられる(第一のAAV-ITRの機能的等価物)。この配列番号6で示される塩基配列に,置換,欠失,変異を加えたものも,機能的に第一のAAVのITRに代えて用いることができるものである限り,第一のAAV-ITRの機能的等価物に含まれる。配列番号6で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~20個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。配列番号6で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第一のAAV-ITRの機能的等価物である。配列番号6で示される塩基配列に塩基を付加する場合,当該塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第一のAAV-ITRの機能的等価物に含まれる。変異を加えたITRの塩基配列は,配列番号6で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0022】
また,人工的に構築された第2の逆方向末端反復(第二のAAV-ITR)の機能的等価物として,配列番号7で示される塩基配列を有するものが挙げられる(第二のAAV-ITRの機能的等価物)。この配列番号7で示される塩基配列に,置換,欠失,変異を加えたものも,機能的に第二のAAVのITRに代えて用いることができるものである限り,第二のAAVのITRの機能的等価物に含まれる。配列番号7で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。配列番号7で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第二のAAVのITRの機能的等価物である。配列番号7で示される塩基配列に塩基を付加する場合,当該塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第二のAAVのITRの機能的等価物に含まれる。変異を加えたITRの塩基配列は,配列番号7で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0023】
本発明の一実施形態において,長い末端反復(LTR)というときは,例えば,真核生物のレトロトランスポゾン,又はレトロウイルスゲノム,レンチウイルスゲノム等の末端に存在する,同じ配列が数百から数千回反復して存在する塩基配列のことをいう。本発明の一実施形態において,核酸分子中には,長い末端反復(LTR)が2つ存在し,それぞれ第一の長い末端反復(LTR),第二の長い末端反復(LTR)という。ここで,2つのLTRの間に,融合蛋白質をコードする遺伝子を配置したときに,その5’側に位置するLTRを第一の長い末端反復(LTR)といい,3’側に位置するLTRを第二の長い末端反復(LTR)という。本発明において,長い末端反復(LTR)は,複製開始点としての機能,宿主細胞への遺伝子挿入等の,本来のLTRの機能の少なくも一つを有するものである限り,何れのウイルス由来のものであってもよく,好適なものとしてはレトロウイルスゲノム及びレンチウイルスが挙げられる。またLTRは野生型のLTRに限らず,野生型のLTRを代替することができるものである限り,野生型のLTRの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変を加えた変異体であってもよい。
【0024】
野生型のLTRの塩基配列の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。野生型のLTRの塩基配列を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。野生型のLTRに塩基を付加する場合,LTRの塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基が付加される。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたLTRの塩基配列は,野生型のLTRの塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0025】
LTRの機能的等価物とは,機能的にLTRに代えて用いることができるものをいう。LTRの機能的等価物は,野生型のLTRの変異体であってもよい。また,LTRに基づいて人工的に構築されたLTRも,LTRを代替することができるものである限り,LTRの機能的等価物である。
【0026】
レンチウイルスのLTRの機能的等価物とは,機能的にレンチウイルスのLTRに代えて用いることができるものをいう。レンチウイルスのLTRの機能的等価物は,野生型のレンチウイルスのLTRの変異体であってもよい。また,レンチウイルスのLTRに基づいて人工的に構築されたLTRも,レンチウイルスのLTRを代替することができるものである限り,レンチウイルスのLTRの機能的等価物である。
【0027】
レトロウイルスのLTRの機能的等価物とは,機能的にレトロウイルスのLTRに代えて用いることができるものをいう。レトロウイルスのLTRの機能的等価物は,野生型のレトロウイルスのLTRの変異体であってもよい。また,レトロウイルスのLTRに基づいて人工的に構築されたLTRも,レトロウイルスのLTRを代替することができるものである限り,レトロウイルスのLTRの機能的等価物である。
【0028】
第一のLTRの機能的等価物として,配列番号43で示される塩基配列を有するものが挙げられる。この配列番号43で示される塩基配列に,置換,欠失,変異を加えたものも,機能的に第一のLTRとして用いることができるものである限り,第一のLTRの機能的等価物に含まれる。配列番号43で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。配列番号43で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたLTRも,第一のLTRの機能的等価物である。配列番号43で示される塩基配列に塩基を付加する場合,当該塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたLTRも,第一のLTRの機能的等価物に含まれる。変異を加えたLTRの塩基配列は,配列番号43で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0029】
また,第二のLTRの機能的等価物として,配列番号44で示される塩基配列を有するものが挙げられる。この配列番号44で示される塩基配列に,置換,欠失,変異を加えたものも,機能的に第二のLTRとして用いることができるものである限り,第二のLTRの機能的等価物に含まれる。配列番号44で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。配列番号44で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたLTRも,第二のLTRの機能的等価物である。配列番号44で示される塩基配列に塩基を付加する場合,当該塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたLTRも,第二のLTRの機能的等価物に含まれる。変異を加えたLTRの塩基配列は,配列番号44で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0030】
本発明の一実施形態において,リーダー及びトレイラーというときは,ウイルスゲノムの末端に存在する,互いに部分的に相補な塩基配列のことをいう。リーダー及びトレイラーとして,センダイウイルスに由来するものは好適に用いることができる。センダイウイルスのリーダー及びトレイラーは,何れも約50塩基の鎖長の領域である。本発明の一実施形態において,融合蛋白質をコードする遺伝子の5’側にリーダー,3’側にトレイラーが位置する。またリーダー及び/又はトレイラーは,野生型のものを代替することができるものである限り,野生型のものの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変を加えた変異体であってもよい。
【0031】
リーダーの機能的等価物とは,機能的にリーダーに代えて用いることができるものをいう。リーダーの機能的等価物は,野生型のリーダーのLTRの変異体であってもよい。また,リーダーに基づいて人工的に構築されたリーダーも,リーダーを代替することができるものである限り,リーダーの機能的等価物である。トレイラーについても同様である。
【0032】
本発明の一実施形態において好適に用いられるものとして,配列番号45で示される塩基配列を有するセンダイウイスル由来のリーダーと,配列番号46で示される塩基配列を有するセンダイウイスル由来のトレイラーが挙げられる。
【0033】
野生型のセンダイウイスル由来のリーダー及びトレイラーに変異を加えたものも,本発明において好適に使用できる。塩基配列の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。野生型のリーダー又は/及びトレイラーの塩基配列を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。塩基を付加する場合,リーダー又は/及びトレイラーの塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基が付加される。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた塩基配列は,野生型の塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。センダイウイスル由来のリーダー及びトレイラーへの変異の導入の形態は,他のウイルス由来のリーダー及びトレイラーへの変異の導入にも適用できる。
【0034】
本発明の一実施形態において,融合蛋白質の遺伝子の発現を制御する遺伝子発現制御部位を含む塩基配列として用いることのできる塩基配列に,それが融合蛋白質をコードする遺伝子が導入される先の哺乳動物(特にヒト)の細胞,組織又は生体内で,この融合蛋白質を発現させることができるものである限り,特に制限はないが,サイトメガロウイルス由来のプロモーター(任意選択でエンハンサーを含む),SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1α(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター,レトロウイルスのラウス肉腫ウイルスLTRプロモーター,ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター,及びβ-アクチンプロモーター,ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター,マウスアルブミンプロモーター,ヒトアルブミンプロモーター,及びヒトα-1アンチトリプシンプロモーターを含むものが好適である。例えば,マウスαフェトプロテインエンハンサーの下流にマウスアルブミンプロモーターを含む配列番号8で示される塩基配列を有する合成プロモーター(マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーター)は遺伝子発現制御部位として好適に利用できる。マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーターの下流に配列番号9で示される塩基配列を有するニワトリβアクチン/MVMキメライントロンをその下流に配置させてもよい。かかるイントロンを配置することにより,遺伝子発現制御部位で制御される蛋白質の発現量を増加させることができる。なお,配列番号8で示される塩基配列において,1~219番目の塩基配列がマウスαフェトプロテインエンハンサーであり,241~549番目の塩基配列がマウスアルブミンプロモーターである。
【0035】
遺伝子制御部位は,臓器特異的又は細胞種特異的に発現する遺伝子のプロモーターであってもよい。臓器特異的発現プロモーター又は細胞種特異的発現プロモーターを用いることにより,核酸分子に組込んだ融合蛋白質をコードする遺伝子を,所望の臓器又は細胞で特異的に発現させることができる。本発明の一実施形態において,遺伝子制御部位は,核酸分子にコードされるシストロンが複数存在する場合,それぞれのシストロン毎に配置される。
【0036】
本発明の一実施形態において,「内部リボソーム結合部位」とは,mRNA鎖の内部に存在する,リボソームが直接結合し且つキャップ構造非依存性に翻訳を開始し得る領域(構造),又は転写されることにより該領域を生じるDNA鎖の領域(構造)である。また,本発明において,「内部リボソーム結合部位をコードする遺伝子」とは,転写されることにより該領域を生じるDNA鎖の領域(構造)である。内部リボソーム結合部位は,一般に,IRES(internal ribosome entry site)と称され,ピコルナウイルス科のウイルス(ポリオウイルス,ライノウイルス,マウス脳心筋炎ウイルスなど),口蹄疫ウイルス,A型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,コロナウイルス,ウシ腸内ウイルス,サイラーのネズミ脳脊髄炎ウイルス,コクサッキーB型ウイルス等のウイルスの5'非翻訳領域,ヒト免疫グロブリン重鎖結合蛋白質,ショウジョウバエアンテナペディア,ショウジョウバエウルトラビトラックス等の遺伝子の5'非翻訳領域に見出されている。ピコルナウイルスの場合,そのIRESは,mRNAの5'非翻訳領域に存在する約450 bpからなる領域である。ここで「ウイルスの5'非翻訳領域」とは,ウイルスのmRNAの5'非翻訳領域,又は転写されることにより該領域を生じるDNA鎖の領域(構造)である。
【0037】
一実施形態において,内部リボソーム結合部位は,哺乳動物(特にヒト)の細胞,組織又は生体内で,内部リボソーム結合部位として機能するものである限り特に限定はなく,何れのものをも使用することができる。それらのうち,好ましくはウイルスの5'非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位,より好ましくはピコルナウイルス科のウイルスの5'非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位,更に好ましくはマウス脳心筋炎ウイルスの5'非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位が挙げられる。マウス脳心筋炎ウイルスの5'非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位の一実施形態として,配列番号10で示される塩基配列を有するものが挙げられる。
【0038】
一実施形態において,内部リボソーム結合部位は,野生型の塩基配列を有するものをそのまま使用することができる。また,これら野生型の内部リボソーム結合部位の塩基配列に,1又は2以上の変異(例えば,置換,欠損,又は/及び挿入などをいう。)を加えた変異型の内部リボソーム結合部位も,哺乳動物(特にヒト)の細胞,組織又は生体内で,内部リボソーム結合部位として機能するものである限り,何れのものをも使用することができる。また,2以上の内部リボソーム結合部位を融合させたキメラ型の内部リボソーム結合部位も,使用することができる。
【0039】
本発明の一実施形態において,抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質を構成する蛋白質は,生体内で生理活性を示すものである限り,特に限定はない。かかる生理活性を有する蛋白質の好適なものとして,医薬として長期に亘って患者に投与されるべきものが挙げられる。かかる医薬としては,例えば,成長ホルモン,リソソーム酵素,ソマトメジン,インスリン,グルカゴン,サイトカイン,リンホカイン,血液凝固因子,抗体,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),エリスロポエチン,ダルベポエチン,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA),トロンボモジュリン,卵胞刺激ホルモン(FSH),性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH),ゴナドトロピン,DNasel,甲状腺刺激ホルモン(TSH),神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,PD-1,PD-1リガンド,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),ベータアミロイドを分解する活性を有する酵素,エタネルセプト,ペグビソマント,メトレレプチン,アバタセプト,アスホターゼ,及びGLP-1受容体アゴニスト,何れかの抗体医薬の一つ,が挙げられる。
【0040】
生理活性を有する蛋白質がリソソーム酵素である場合の好適例として,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2が挙げられる。
【0041】
本発明の一実施形態において,生理活性を有する蛋白質はヒトの蛋白質である。ここで,蛋白質は野生型のものであってもよく,その蛋白質が有する本来の生理活性を有する限り,変異を加えたものであってもよい。ここで,ある蛋白質が本来の生理活性を有するとは,当該蛋白質が,その蛋白質の野生型蛋白質の生理活性に対して20%以上の生理活性を有することを意味する。野生型蛋白質の生理活性に対する当該生理活性は,40%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることがより更に好ましく,90%以上であることがなおも更に好ましい。
【0042】
野生型の生理活性を有する蛋白質のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。野生型の当該蛋白質のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。野生型の当該蛋白質にアミノ酸を付加する場合,当該蛋白質のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた当該蛋白質のアミノ酸配列は,野生型の当該蛋白質のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,好ましくは85%以上の同一性を示し,より好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0043】
なお,本発明において,野生型蛋白質と比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,付加)は,野生型及び変異型蛋白質のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。なお,本発明において,野生型蛋白質のアミノ酸配列と変異型蛋白質のアミノ酸配列との同一性は,周知の相同性計算アルゴリズムを用いて容易に算出することができる。例えば,そのようなアルゴリズムとして,BLAST(Altschul SF. J Mol. Biol. 215. 403-10, (1990)),Pearson及びLipmanの類似性検索法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85. 2444 (1988)),Smith及びWatermanの局所相同性アルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2. 482-9(1981))等がある。
【0044】
上記の蛋白質のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸による置換は,例えば,アミノ酸のそれらの側鎖及び化学的性質において関連性のあるアミノ酸ファミリー内で起こるものである。このようなアミノ酸ファミリー内での置換は,蛋白質の機能に大きな変化をもたらさない(即ち,保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。かかるアミノ酸ファミリーとしては,例えば以下のものがある:
(1)酸性アミノ酸であるアスパラギン酸とグルタミン酸,
(2)塩基性アミノ酸であるヒスチジン,リシン,及びアルギニン
(3)芳香族アミン酸であるフェニルアラニン,チロシン,トリプトファン,
(4)水酸基を有するアミノ酸(ヒドロキシアミノ酸)であるセリンとトレオニン,
(5)疎水性アミノ酸であるメチオニン,アラニン,バリン,ロイシン,及びイソロイシン,
(6)中性の親水性アミノ酸であるシステイン,セリン,トレオニン,アスパラギン,及びグルタミン,
(7)ペプチド鎖の配向に影響するアミノ酸であるグリシンとプロリン,
(8)アミド型アミノ酸(極性アミノ酸)であるアスパラギンとグルタミン,
(9)脂肪族アミノ酸である,アラニン,ロイシン,イソロイシン,及びバリン,
(10)側鎖の小さいアミノ酸であるアラニン,グリシン,セリン,及びトレオニン,
(11)側鎖の特に小さいアミノ酸であるアラニンとグリシン。
【0045】
本発明における,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質を構成する抗体について以下,詳述する。
【0046】
本発明において,「リガンド」というときは,標的となる蛋白質に特異的に結合する蛋白質のことをいう。抗体はリガンドに含まれる。本発明の一実施形態におけるリガンドの標的となる蛋白質は,血管内皮細胞,特に脳血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質である。かかる血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質としては,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体(IR),レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体が例示できる。更に,有機アニオントランスポーターとしてはOATP-Fが,モノカルボン酸トランスポーターとしてはMCT-8が例示できる。これらの血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質の中でも,特にTfR及びIRが好適な標的であり,TfRがより好適な標的である。
【0047】
抗体以外のリガンドとして好適なものとして,トランスフェリン,インスリン,レプチン,インスリン様成長因子I,インスリン様成長因子II,リポ蛋白質,及び低密度リポ蛋白質が例示できる。これらの中でも,特にトランスフェリン及びインスリンが好適なリガンドであり,トランスフェリンがより好適なリガンドである。これらリガンドは野生型の蛋白質であってもよく,また,標的となる蛋白質に特異的に結合する機能を有する限り,その断片又は変異体であってもよい。これらリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質は,血管内皮細胞の表面に存在する標的に結合することができる。血管内皮細胞が脳血管内皮細胞である場合は,BBBを通過して中枢神経系の組織に到達し得るようになる。
【0048】
抗体は,抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,抗体の動物種等に特に制限はないが,特にヒト抗体又はヒト化抗体である。例えば,抗体は,ヒト以外の哺乳動物の抗体であってもよく,またヒト抗体とヒト以外の他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体であってもよい。
【0049】
ヒト抗体は,その全体がヒト由来の遺伝子にコードされる抗体のことをいう。但し,遺伝子の発現効率を上昇させる等の目的で,元のヒトの遺伝子に変異を加えた遺伝子にコードされる抗体も,ヒト抗体である。また,ヒト抗体をコードする2つ以上の遺伝子を組み合わせて,ある一つのヒト抗体の一部を,他のヒト抗体の一部に置き換えた抗体も,ヒト抗体である。ヒト抗体は,免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。免疫グロブリン軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。免疫グロブリン重鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。ある一つのヒト抗体のCDRを,その他のヒト抗体のCDRに置き換えることにより,ヒト抗体の抗原特異性,親和性等を改変した抗体も,ヒト抗体である。
【0050】
本発明において,元のヒト抗体の遺伝子を改変することにより,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,ヒト抗体という。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~10個であり,更に好ましくは1~5個であり,更により好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~10個であり,更に好ましくは1~5個であり,更よりに好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。アミノ酸を付加させる場合,元の抗体のアミノ酸配列中又はN末端側若しくはC末端側に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更により好ましくは1~3個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示すものである。つまり,本発明において「ヒト由来の遺伝子」というときは,ヒト由来の元の遺伝子に加えて,ヒト由来の元の遺伝子に改変を加えることにより得られる遺伝子も含まれる。
【0051】
本発明において,「ヒト化抗体」の語は,可変領域の一部(例えば,特にCDRの全部又は一部)のアミノ酸配列がヒト以外の哺乳動物由来であり,それ以外の領域がヒト由来である抗体のことをいう。例えば,ヒト化抗体として,ヒト抗体を構成する免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を,他の哺乳動物のCDRによって置き換えることにより作製された抗体が挙げられる。ヒト抗体の適切な位置に移植されるCDRの由来となる他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウス及びラットであり,例えばマウスである。
【0052】
本発明において,抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である場合につき,以下詳述する。ヒト抗体及びヒト化抗体の軽鎖には,λ鎖とκ鎖がある。抗体を構成する軽鎖は,λ鎖とκ鎖の何れであってもよい。また,ヒト抗体及びヒト化抗体の重鎖には,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖があり,それぞれ,IgG,IgM,IgA,IgD及びIgEに対応している。抗体を構成する重鎖は,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖の何れであってもよいが,好ましくはγ鎖である。更に,抗体の重鎖のγ鎖には,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖があり,それぞれ,IgG1,IgG2,IgG3及びIgG4に対応している。抗体を構成する重鎖がγ鎖である場合,そのγ鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖の何れであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。抗体が,ヒト化抗体又はヒト抗体であり,且つIgGである場合,その抗体の軽鎖はλ鎖とκ鎖の何れでもあってもよく,その抗体の重鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖の何れであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。例えば,好ましい抗体の一つの態様として,軽鎖がλ鎖であり重鎖がγ1鎖であるものが挙げられる。
【0053】
本発明において,「キメラ抗体」の語は,2つ以上の異なる種に由来する,2つ以上の異なる抗体の断片が連結されてなる抗体のことをいう。
【0054】
ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体とは,ヒト抗体の一部がヒト以外の哺乳動物の抗体の一部によって置き換えられた抗体である。抗体は,以下に説明するFc領域,Fab領域及びヒンジ部とからなる。このようなキメラ抗体の具体例として,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域が他の哺乳動物の抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。逆に,Fc領域が他の哺乳動物に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するものもキメラ抗体である。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体の何れに由来してもよい。ヒト化抗TfR抗体についても同様のことがいえる。
【0055】
また,抗体は,可変領域と定常領域とからなるということもできる。キメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)が他の哺乳動物の抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(C)が他の哺乳動物の抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がヒト抗体に由来するものが挙げられる。ここで,他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウスである。ヒト化抗TfR抗体についても同様のことがいえる。
【0056】
ヒト抗体とマウス抗体のキメラ抗体は,特に,「ヒト/マウスキメラ抗体」という。ヒト/マウスキメラ抗体には,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域がマウス抗体に由来するキメラ抗体や,逆に,Fc領域がマウス抗体に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又はマウス抗体の何れかに由来する。ヒト/マウスキメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がマウス抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がマウス抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がヒト抗体に由来するものが挙げられる。ヒト化抗TfR抗体についても同様のことがいえる。
【0057】
抗体は,本来,2本の免疫グロブリン軽鎖と2本の免疫グロブリン重鎖の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する。但し,本発明において,「抗体」というときは,この基本構造を有するものに加え,
(1)1本の免疫グロブリン軽鎖と1本の免疫グロブリン重鎖の計2本のポリペプチド鎖からなるものや,以下に詳述するように,
(2)免疫グロブリン軽鎖のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,
(3)免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,
(4)免疫グロブリン重鎖の可変領域のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖の可変領域を結合させてなるものである一本鎖抗体(scFv),及び
(5)免疫グロブリン軽鎖の可変領域のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖の可変領域を結合させてなるものである一本鎖抗体(scFv),も含まれる。また,
(6)本来の意味での抗体の基本構造からFc領域が欠失したものであるFab領域からなるもの及びFab領域とヒンジ部の全部若しくは一部とからなるもの(Fab,F(ab’)及びF(ab’)2を含む),及び
(7)単一ドメイン抗体も,本発明における「抗体」に含まれる。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域をリンカーを介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,本発明における抗体に含まれる。
【0058】
なお,本発明において「リンカー」というときは,例えば,複数のアミノ酸がペプチド結合により結合したペプチド鎖からなるものをいう。かかるペプチド鎖からなるリンカーは「ペプチドリンカー」ということもできる。「リンカー」は本明細書の文脈において「リンカー配列」と言い換えることもできる。このリンカーのN末端と他の蛋白質のC末端がペプチド結合で結合し,当該リンカーのC末端に更に他の蛋白質のN末端が結合することにより,2つの蛋白質がリンカーを介して結合体を形成する。
【0059】
2本の軽鎖と2本の重鎖の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する抗体は,軽鎖の可変領域(VL)に3箇所の相補性決定領域(CDR)と重鎖の可変領域(VH)に3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。重鎖の3箇所のCDRも,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。ただし,これらCDRの一部又は全部が不完全であるか,または存在しないものであっても,特定の抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,抗体に含まれる。軽鎖及び重鎖の可変領域(VL及びVH)のCDR以外の領域は,フレームワーク領域(FR)という。FRは,N末端側にあるものから順にFR1,FR2,FR3及びFR4という。通常,CDRとFRはN末端側から順に,FR1,CDR1,FR2,CDR2,FR3,CDR3,FR4の順で存在する。
【0060】
本発明の一実施形態において,Fabとは,可変領域とCL領域(軽鎖の定常領域)を含む1本の軽鎖と,可変領域とCH1領域(重鎖の定常領域の部分1)を含む1本の重鎖が,それぞれに存在するシステイン残基同士でジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。Fabにおいて,重鎖は,可変領域とCH1領域(重鎖の定常領域の部分1)に加えて,更にヒンジ部の一部を含んでもよいが,この場合のヒンジ部は,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠くものである。Fabにおいて,軽鎖と重鎖とは,軽鎖の定常領域(CL領域)に存在するシステイン残基と,重鎖の定常領域(CH1領域)又はヒンジ部に存在するシステイン残基との間で形成されるジスルフィド結合により結合する。Fabを形成する重鎖のことをFab重鎖という。Fabは,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠いているので,1本の軽鎖と1本の重鎖とからなる。Fabを構成する軽鎖は,可変領域とCL領域を含む。Fabを構成する重鎖は,可変領域とC1領域からなるものであってもよく,可変領域,CH1領域に加えてヒンジ部の一部を含むものであってもよい。但しこの場合,ヒンジ部で2本の重鎖の間でジスルフィド結合が形成されないように,ヒンジ部は重鎖間を結合するシステイン残基を含まないように選択される。F(ab’)においては,その重鎖は可変領域とCH1領域に加えて,重鎖どうしを結合するシステイン残基を含むヒンジ部の全部又は一部を含む。F(ab’)2は2つのF(ab’)が互いのヒンジ部に存在するシステイン残基どうしでジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。F(ab’)又はF(ab’)2を形成する重鎖のことをFab’重鎖という。また,複数の抗体が直接又はリンカーを介して結合してなるニ量体,三量体等の重合体も,抗体である。更に,これらに限らず,抗体分子の一部を含み,且つ,抗原に特異的に結合する性質を有するものは何れも,本発明でいう「抗体」に含まれる。即ち,本発明において軽鎖というときは,軽鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。また,重鎖というときは,重鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。従って,可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有する限り,例えば,Fc領域が欠失したものも,重鎖である。
【0061】
また,ここでFc又はFc領域とは,抗体分子中の,CH2領域(重鎖の定常領域の部分2),及びCH3領域(重鎖の定常領域の部分3)からなる断片を含む領域のことをいう。
【0062】
更には,本発明の一実施形態における抗体は,
(8)上記(6)で示したFab,F(ab’)又はF(ab’)2を構成する軽鎖と重鎖を,リンカー配列を介して結合させて,それぞれ一本鎖抗体としたscFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2も含まれる。ここで,scFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2にあっては,軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖を結合させてなるものでもよく,また,重鎖のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に軽鎖を結合させてなるものでもよい。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域とをリンカーを介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,本発明における抗体に含まれる。scFvにあっては,軽鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖の可変領域を結合させてなるものでもよく,また,重鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に軽鎖の可変領域を結合させてなるものでもよい。
【0063】
更には,本明細書でいう「抗体」には,完全長抗体,上記(1)~(8)に示されるものに加えて,(1)~(8)を含むより広い概念である,完全長抗体の一部が欠損したものである抗原結合性断片(抗体フラグメント)のいずれの形態も含まれる。抗原結合性断片には,重鎖抗体,軽鎖抗体,VHH,VNAR,及びこれらの一部が欠損したものも含まれる。
【0064】
「抗原結合性断片」の語は,抗原との特異的結合活性の少なくとも一部を保持している抗体の断片のことをいう。結合性断片の例としては,Fab,Fab’,F(ab’)2,可変領域(Fv),重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)とを適当なリンカーで連結させた一本鎖抗体(scFv),重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を含むポリペプチドの二量体であるダイアボディ,scFvの重鎖(H鎖)に定常領域の一部(CH3)が結合したものの二量体であるミニボディ,その他の低分子化抗体等を包含する。但し,抗原との結合能を有している限りこれらの分子に限定されない。
【0065】
本発明において,「一本鎖抗体」というときは,免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカーが結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質をいう。また,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカーが結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質も,本発明における「一本鎖抗体」である。例えば,上記(2)及び(3)に示されるものは一本鎖抗体に含まれる。免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカーを介して免疫グロブリン軽鎖が結合した一本鎖抗体にあっては,通常,免疫グロブリン重鎖は,Fc領域が欠失している。免疫グロブリン軽鎖の可変領域は,抗体の抗原特異性に関与する相補性決定領域(CDR)を3つ有している。同様に,免疫グロブリン重鎖の可変領域も,CDRを3つ有している。これらのCDRは,抗体の抗原特異性を決定する主たる領域である。従って,一本鎖抗体には,免疫グロブリン重鎖の3つのCDRが全てと,免疫グロブリン軽鎖の3つのCDRの全てとが含まれることが好ましい。但し,抗体の抗原特異的な親和性が維持される限り,CDRの1個又は複数個を欠失させた一本鎖抗体とすることもできる。
【0066】
一本鎖抗体において,免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の間に配置されるリンカーは,好ましくは2~50個,より好ましくは8~50個,更に好ましくは10~30個,更により好ましくは12~18個又は15~25個,例えば15個若しくは25個のアミノ酸残基から構成されるペプチド鎖である。そのようなリンカーは,これにより両鎖が連結されてなる抗hTfR抗体がhTfRに対する親和性を保持する限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンのみ又はグリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,配列番号1,配列番号2,配列番号3,配列番号13,又はこれらのアミノ酸配列が2~10回,あるいは2~5回繰り返された配列を有するものである。例えば,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全領域からなるアミノ酸配列のC末端側に,リンカーを介して免疫グロブリン軽鎖の可変領域を結合させてScFVとする場合,配列番号13の配列を有するリンカーが好適に用いられる。
【0067】
本発明の一実施形態における抗体は,ラクダ科動物(アルパカを含む)由来の抗体である。ラクダ科動物の抗体には,ジスルフィド結合により連結された2本の重鎖からなるものがある。この2本の重鎖からなる抗体を重鎖抗体という。VHHは,重鎖抗体を構成する重鎖の可変領域を含む1本の重鎖からなる抗体,又は重鎖抗体を構成する定常領域(CH)を欠く1本の重鎖からなる抗体である。VHHも本発明の実施形態における抗体の一つである。ラクダ科動物由来の抗体(VHHを含む)をヒトに投与したときの抗原性を低減させるために,ラクダ科動物の抗体のアミノ酸配列に変異を加えたものも,本発明の一実施形態における抗体である。ラクダ科動物の抗体のアミノ酸に変異を加える場合,本明細書に記載の抗体に加えることのできる変異と同様の変異を加えることができる。その他,ジスルフィド結合により連結された2本の軽鎖からなる抗体も本発明の実施形態における抗体の一つである。この2本の軽鎖からなる抗体を軽鎖抗体という。
【0068】
本発明の一実施形態における抗体は,サメ由来の抗体である。サメの抗体は,ジスルフィド結合により連結された2本の重鎖からなる。この2本の重鎖からなる抗体を重鎖抗体という。VNARは,重鎖抗体を構成する重鎖の可変領域を含む1本の重鎖からなる抗体,又は重鎖抗体を構成する定常領域(CH)を欠く1本の重鎖からなる抗体である。VNARも本発明の実施形態における抗体の一つである。サメ由来の抗体(VNARを含む)をヒトに投与したときの抗原性を低減させるために,サメの抗体のアミノ酸配列に変異を加えたものも,本発明の一実施形態における抗体である。サメの抗体のアミノ酸に変異を加える場合,本明細書に記載の抗体に加えることのできる変異と同様の変異加えることができる。サメの抗体をヒト化したものも本発明の実施形態における抗体の一つである。
【0069】
本発明の一実施形態において,単一ドメイン抗体とは,単一の可変領域で抗原に特異的に結合する性質を有する抗体のことをいう。単一ドメイン抗体には,可変領域が重鎖の可変領域のみからなる抗体(重鎖単一ドメイン抗体),可変領域が軽鎖の可変領域のみからなる抗体(軽鎖単一ドメイン抗体)が含まれる。VHH,VNARは単一ドメイン抗体の一種である。
【0070】
本発明の一実施形態において,抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質を構成する抗体は,生体内で特定の抗原に対して親和性を示すものである限り,特に限定はない。例えば,当該抗体は,血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して特異的な親和性を有する抗体である。かかる血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質としては,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体(IR),レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体が例示できる。更に,有機アニオントランスポーターとしてはOATP-Fが,モノカルボン酸トランスポーターとしてはMCT-8が例示できる。これらの血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質の中でも,特にTfR及びIRが好適なターゲットであり,TfRがより好適なターゲットである。抗体が血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質と結合するものである場合,融合蛋白質は,血管内皮細胞に取り込まれた後,種々の組織にまで到達しそこで生理活性を示すことができるので,かかる融合蛋白質は,種々の組織で薬効を発揮させるべき医薬として使用し得る。例えば,抗体がTfR,IRに対して特異的な親和性を有するものである場合,かかる融合蛋白質は,筋肉内で薬効を発揮させるべき医薬として使用し得る。
【0071】
本発明の一実施形態において,抗体は,脳血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して特異的な親和性を有する抗体である。かかる脳血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質としては,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体(IR),レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体が例示できる。更に,有機アニオントランスポーターとしてはOATP-Fが,モノカルボン酸トランスポーターとしてはMCT-8が例示できる。これらの血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質の中でも,特にTfR及びIRが好適なターゲットであり,TfRがより好適なターゲットである。抗体が脳血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質と結合するものである場合,融合蛋白質は,BBBを通過することにより脳組織にまで到達しそこで生理活性を示すことができるので,かかる融合蛋白質は,脳内で薬効を発揮させるべき医薬として使用し得る。
【0072】
本発明において,「ヒトトランスフェリン受容体」又は「hTfR」の語は,配列番号11に示されるアミノ酸配列を有する膜蛋白質をいう。本発明の抗hTfR抗体は,その一実施態様において,配列番号11で示されるアミノ酸配列中N末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの部分(hTfRの細胞外領域)に対して特異的に結合するものであるが,これに限定されない。
【0073】
一実施形態におけるFabである抗hTfR抗体の軽鎖は,抗hTfR抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列として,配列番号31又は32で示されるアミノ酸配列を有し,hTfR抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列として,配列番号33又は34で示されるアミノ酸配列を有し,hTfR抗体の軽鎖CDR3のアミノ酸配列として,配列番号35で示されるアミノ酸配列を有するものである。一実施形態におけるFabである抗hTfR抗体の重鎖は,抗hTfR抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列として,配列番号36又は37で示されるアミノ酸配列を有し,hTfR抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列として,配列番号38又は39で示されるアミノ酸配列を有し,hTfR抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列として,配列番号40又は41で示されるアミノ酸配列を有するものである。
【0074】
一実施形態におけるFabである抗hTfR抗体は,配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖と,配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する重鎖を含むものである。
【0075】
抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質における,抗体と生理活性を有する蛋白質の結合様式として以下の(a)~(h)が例示できる;
(a)抗体が,抗体の重鎖のC末端側に抗体の軽鎖が結合したものである一本鎖抗体であり,その一本鎖抗体のN末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質が結合したもの,
(b)抗体が,抗体の重鎖のC末端側に抗体の軽鎖が結合したものである一本鎖抗体であり,その一本鎖抗体のC末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質が結合したもの,
(c)抗体が,抗体の軽鎖のC末端側に抗体の重鎖が結合したものである一本鎖抗体であり,その一本鎖抗体のN末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質が結合したもの,
(d)抗体が,抗体の軽鎖のC末端側に抗体の重鎖が結合したものである一本鎖抗体であり,その一本鎖抗体のC末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質が結合したもの,
(e)抗体が少なくとも一つの軽鎖と少なくとも一つの重鎖とを含む抗体であり,その抗体の軽鎖のC末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質が結合したもの,
(f)抗体が少なくとも一つの軽鎖と少なくとも一つの重鎖とを含む抗体であり,その抗体の軽鎖のN末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質が結合したもの,
(g)抗体が少なくとも一つの軽鎖と少なくとも一つの重鎖とを含む抗体であり,その抗体の重鎖のC末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質が結合したもの,
(h)抗体が少なくとも一つの軽鎖と少なくとも一つの重鎖とを含む抗体であり,その抗体の重鎖のN末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質が結合したもの。
【0076】
上記(a)~(h)において,抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質との間にリンカーを配置する場合,その配列は,好ましくは1~50個,より好ましくは1~17個,更に好ましくは1~10個,更により好ましくは1~5個のアミノ酸から構成されるものであるが,抗体に結合させるべきヒトリソソーム酵素によって,リンカーを構成するアミノ酸の個数は,1個,2個,3個,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個等と適宜調整できる。そのようなリンカーは,これにより連結された抗体が抗原との親和性を保持し,且つ当該リンカーにより連結された蛋白質が,生理的条件下で当該蛋白質の生理活性を発揮できる限り,アミノ酸配列に特に限定はない。そのアミノ酸配列は好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,グリシン又はセリンの何れか1個のアミノ酸からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号1,配列番号2,配列番号3,配列番号13,又はこれらのアミノ酸配列が2~10個,あるいは2~5個連続してなる2~50個のアミノ酸からなる配列,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個のアミノ酸からなる配列等を有するものである。例えば,アミノ酸配列Gly-Serを有するもの,配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するもの,及び配列番号13で示されるアミノ酸配列のC末端にGly-Serが付加した17個のアミノ酸からなるものは,リンカーとして好適に用いることができる。
【0077】
なお,便宜上,本発明において,抗体の軽鎖又は重鎖と生理活性を有する蛋白質とを結合するリンカーを単に「リンカー」又は「第一のリンカー」といい,1本鎖抗体において軽鎖と重鎖を結合するリンカーを「第二のリンカー」という。
【0078】
本発明の一実施形態における核酸分子は,第一の逆方向末端反復(ITR)と第二の逆方向末端反復(ITR)の間に,抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子を含むものである。以下の(1)~(4)は当該核酸分子の例示である:
(1)融合蛋白質が,抗体の重鎖のC末端側又はN末端側に生理活性を有する蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体と抗体の軽鎖とを含むものであり,軽鎖をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に当該結合体をコードする塩基配列を含むもの;
(2)融合蛋白質が,抗体の重鎖のC末端側又はN末端側に生理活性を有する蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体と抗体の軽鎖とを含むものであり,当該結合体をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(3)融合蛋白質が,抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に生理活性を有する蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体と抗体の重鎖とを含むものであり,重鎖をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に当該結合体をコードする塩基配列を含むもの;
(4)融合蛋白質が,抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に生理活性を有する蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体と抗体の重鎖とを含むものであり,当該結合体をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に重鎖をコードする塩基配列を含むもの。
上記(1)~(4)において,核酸分子は,第一の逆方向末端反復(ITR)と融合蛋白質をコードする遺伝子の間に,遺伝子発現制御部位を含む塩基配列が含むものであってもよい。また,上記(1)~(4)において,内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列を,遺伝子発現制御部位を含む塩基配列に代えてもよい。なお,これに限らず,核酸分子が2つの遺伝子発現制御部位を有する場合,便宜上,第一の逆方向末端反復(ITR)側から順に,第一の遺伝子発現制御部位及び第一の遺伝子発現制御部位とする。また,上記(1)~(4)において,内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列を,2A自己切断ペプチドをコードする塩基配列に代えてもよい。豚テッショウウイルス由来2Aペプチドは,2A自己切断ペプチドの好適な一例である。
【0079】
抗体が一本鎖抗体である場合の,本発明の一実施形態における核酸分子は,第一の逆方向末端反復(ITR)と第二の逆方向末端反復(ITR)の間に,一本鎖抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子を含むものである。以下の(1)~(4)は当該核酸分子の例示である:
(1)抗体の重鎖のC末端側に第二のリンカーを介して軽鎖を結合させ,更に軽鎖のC末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質を結合させたものである融合蛋白質をコードする遺伝子を含むもの;
(2)抗体の軽鎖のC末端側に第二のリンカーを介して重鎖を結合させ,更に軽鎖のC末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質を結合させたものである融合蛋白質をコードする遺伝子を含むもの;
(3)生理活性を有する蛋白質のC末端側に直接又はリンカーを介して抗体の重鎖を結合させ,更に重鎖のC末端側に軽鎖を結合させたものである融合蛋白質をコードする遺伝子を含むもの;
(4)生理活性を有する蛋白質のC末端側に直接又はリンカーを介して抗体の軽鎖を結合させ,更に重鎖のC末端側に重鎖を結合させたものである融合蛋白質をコードする遺伝子を含むもの。
上記(1)~(4)において,核酸分子は,第一の逆方向末端反復(ITR)と融合蛋白質をコードする遺伝子の間に,遺伝子発現制御部位を含む塩基配列が含むものであってもよい。
【0080】
第一の逆方向末端反復(ITR)と第二の逆方向末端反復(ITR)の間に,抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子を含むものである核酸分子であって,当該融合蛋白質が,抗体の重鎖のC末端側に生理活性を有する蛋白質を結合させた結合体と,抗体の軽鎖とを含むものであり,軽鎖をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に当該結合体をコードする遺伝子を含むものの一実施形態として,当該結合体が,抗hTfR抗体の重鎖のFab領域の下流にリンカーを介してヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)が結合したものであり,抗体の軽鎖が,抗hTfR抗体の軽鎖であるものが挙げられる。その具体的例として,抗hTfR抗体の重鎖のFab領域が配列番号12で示されるアミノ酸配列を含み,リンカーが配列番号13で示されるアミノ酸配列を含み,hI2Sが配列番号14で示されるアミノ酸配列を含むものであり,抗hTfR抗体の軽鎖が配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むものがある。ここで結合体は,全体として配列番号42で示されるアミノ酸配列を含む。
【0081】
第一の逆方向末端反復(ITR)と第二の逆方向末端反復(ITR)の間に,抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子を含むものである核酸分子であって,当該融合蛋白質が,抗体の重鎖のC末端側に生理活性を有する蛋白質を結合させた結合体と,抗体の軽鎖とを含むものであり,軽鎖をコードする遺伝子の下流に豚テッショウウイルス由来2Aペプチドをコードする塩基配列,その下流に当該結合体をコードする遺伝子を含むものの一実施形態として,当該結合体が,抗hTfR抗体の重鎖のFab領域の下流にリンカーを介してβ-ガラクトシダーゼ(hGLB1)が結合したものであり,抗体の軽鎖が,抗hTfR抗体の軽鎖であるものが挙げられる。その具体的例として,抗hTfR抗体の重鎖のFab領域が配列番号12で示されるアミノ酸配列を含み,リンカーが配列番号13で示されるアミノ酸配列を含み,hGLB1が配列番号50で示されるアミノ酸配列を含むものであり,抗hTfR抗体の軽鎖が配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むものがある。ここで結合体は,全体として配列番号48で示されるアミノ酸配列を含む。
【0082】
本発明の一実施形態における核酸分子は,第一の長い末端反復(LTR)と第二の長い末端反復(LTR)の間に,抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子を含むものである。以下の(1)~(4)は当該核酸分子の例示である:
(1)融合蛋白質が,抗体の重鎖のC末端側又はN末端側に生理活性を有する蛋白質を結合させた結合体と抗体の軽鎖とを含むものであり,軽鎖をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に当該結合体をコードする塩基配列を含むもの,
(2)融合蛋白質が,抗体の重鎖のC末端側又はN末端側に生理活性を有する蛋白質を結合させた結合体と抗体の軽鎖とを含むものであり,当該結合体をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に軽鎖をコードする塩基配列を含むもの,
(3)融合蛋白質が,抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に生理活性を有する蛋白質を結合させた結合体と抗体の重鎖とを含むものであり,重鎖をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に当該結合体をコードする塩基配列を含むもの,
(4)融合蛋白質が,抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に生理活性を有する蛋白質を結合させた結合体と抗体の重鎖とを含むものであり,当該結合体をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に重鎖をコードする塩基配列を含むもの。
上記(1)~(4)において,核酸分子は,第一の逆方向末端反復(LTR)と融合蛋白質をコードする遺伝子の間に,遺伝子発現制御部位を含む塩基配列が含むものであってもよい。また,上記(1)~(4)において,内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列を,遺伝子発現制御部位を含む塩基配列に代えてもよい。核酸分子が2つの遺伝子発現制御部位を有する場合,便宜上,第一の逆方向末端反復(LTR)側から順に,第一の遺伝子発現制御部位及び第一の遺伝子発現制御部位とする。また,上記(1)~(4)において,内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列を,2A自己切断ペプチドをコードする塩基配列に代えてもよい。豚テッショウウイルス由来2Aペプチドは,2A自己切断ペプチドの好適な一例である。
【0083】
抗体が一本鎖抗体である場合の,本発明の一実施形態における核酸分子は,第一の長い末端反復(LTR)と第二の長い末端反復(LTR)の間に,一本鎖抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子を含むものである。以下の(1)~(4)は当該核酸分子の例示である:
(1)抗体の重鎖のC末端側に第二のリンカーを介して軽鎖を結合させ,更に軽鎖のC末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質を結合させたものである融合蛋白質をコードする遺伝子を含むもの;
(2)抗体の軽鎖のC末端側に第二のリンカーを介して重鎖を結合させ,更に軽鎖のC末端側に直接又はリンカーを介して生理活性を有する蛋白質を結合させたものである融合蛋白質をコードする遺伝子を含むもの;
(3)生理活性を有する蛋白質のC末端側に直接又はリンカーを介して抗体の重鎖を結合させ,更に重鎖のC末端側に軽鎖を結合させたものである融合蛋白質をコードする遺伝子を含むもの;
(4)生理活性を有する蛋白質のC末端側に直接又はリンカーを介して抗体の軽鎖を結合させ,更に重鎖のC末端側に重鎖を結合させたものである融合蛋白質をコードする遺伝子を含むもの。
上記(1)~(4)において,核酸分子は,第一の長い末端反復(LTR)と融合蛋白質をコードする遺伝子の間に,遺伝子発現制御部位を含む塩基配列が含むものであってもよい。
【0084】
上記内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列を含む核酸分子にあっては,遺伝子発現制御部位から融合蛋白質を構成する一方のペプチド鎖の,内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列から他方のペプチド鎖の発現が制御されることになる。両ペプチド鎖は,細胞内で対をなして抗体と生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質が形成される。
【0085】
本発明の一実施形態における核酸分子は,AAVベクター系において用いることができる。野生型のAAVが宿主細胞のヒト細胞に単独で感染すると,ウイルスゲノムは,ウイルスゲノムの両端に存在する逆方向末端反復(ITR)を介して,第19番染色体に部位特異的に組み込まれる。宿主細胞のゲノム中に取り込まれたウイルスゲノムの遺伝子はほとんど発現しないが,細胞がヘルパーウイルスに感染するとAAVは宿主ゲノムから切り出され,感染性ウイルスの複製が開始される。ヘルパーウイルスがアデノウイルスの場合,ヘルパー作用を担う遺伝子はE1A,E1B,E2A,VA1,及びE4である。ここで,宿主細胞が,アデノウイルスのE1A,E1Bでトランスフォームしたヒト胎児腎組織由来細胞であるHEK293細胞の場合にあっては,E1A及びE1B遺伝子は,宿主細胞において元々発現している。
【0086】
野生型AAVゲノムは2つの遺伝子rep及びcapを含む。rep遺伝子から産生されるrep蛋白質(rep78,rep68,rep52及びrep40)は,カプシド形成に必須であるとともに,ウイルスゲノムの染色体への組み込みに介在する。cap遺伝子は3つのカプシド蛋白質(VP1,VP2及びVP3)の産生を担う。
【0087】
野生型AAVのゲノムでは,両端にITRが存在し,ITRの間にrep遺伝子及びcap遺伝子が存在する。このゲノムがカプシドに内包されてAAVビリオンが形成される。組換えAAVビリオン(rAAVビリオン)は,rep遺伝子及びcap遺伝子を含む領域を,外来の蛋白質をコードする遺伝子で置換したものが,カプシドに内包されたものである。
【0088】
rAAVビリオンは,外来の遺伝子を細胞に送達するためのベクターとして治療目的に用いられる。
【0089】
外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いられる組換えAAVビリオンの生産には,通常,(1)AAV等のウイルスに由来する第一の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列と第二の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,及びこれら2つのITRの間に配置された所望の蛋白質をコードする遺伝子を含む構造を有するプラスミド(プラスミド1),(2)前記ITR配列に挟まれた領域(ITR配列を含む)の塩基配列を宿主細胞のゲノム中に組み込むために必要な機能を有するAAV Rep遺伝子と,AAVのカプシド蛋白質をコードする遺伝子とを含むプラスミド(プラスミド2),及び(3)アデノウイルスのE2A領域,E4領域,及びVA1 RNA領域を含むプラスミド(プラスミド3)の3種類のプラスミドが用いられる。但し,これに限らず,プラスミド1~3のうちの2つを連結させて一つのプラスミドとしたものと,残りの一つのプラスミドの2種類のプラスミドを用いることもできる。更に,プラスミド1~3を連結させて一つのプラスミドとしたものを用いることもできる。本発明における所望の蛋白質は,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質である。
【0090】
一般に,組換えAAVビリオンの生産には,まず,これら3種類のプラスミドが,アデノウイルスのE1a遺伝子とE1b遺伝子がゲノム中に組み込まれたHEK293細胞等の宿主細胞に一般的なトランスフェクション手法により導入される。そうすると第一の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列と第二の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,及びこれら2つのITRの間に配置された所望の蛋白質をコードする遺伝子を含む領域が宿主細胞で複製され,生じた一重鎖DNAがAAVのカプシド蛋白質にパッケージングされて,組換えAAVビリオンが形成される。この組換えAAVビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。本発明の一実施形態における外来の遺伝子は,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子である。導入先の細胞等ではこの遺伝子から該融合蛋白質が発現するようになる。
【0091】
アデノ随伴ウイルス(AAV)のRep蛋白質は,AAVのrep遺伝子にコードされる。Rep蛋白質は,例えばAAVゲノムを,当該ゲノム中に存在するITRを介して,宿主細胞のゲノム中に組み込むために必要な機能を有する。Rep蛋白質は複数のサブタイプが存在するが,AAVゲノムの宿主細胞のゲノムへの組み込みには,Rep68とRep78の2種類が必要とされる。Rep68とRep78は,同一の遺伝子から選択的スプライシングにより転写される2種類のmRNAの翻訳産物である。本発明においてAAVのRep蛋白質というときは,少なくともRep68とRep78の2種類の蛋白質を含むものである。
【0092】
本発明の一実施形態において,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質をコードする塩基配列(Rep領域の塩基配列)というときは,少なくともRep68とRep78をコードする塩基配列,又はこれに変異を加えた塩基配列のことをいう。Rep蛋白質は,好ましくは血清型2のAAVのものであることが好ましいが,これに限定されることはなく,血清型1,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのものであってもよい。野生型の血清型2のAAVのRep蛋白質をコードする塩基配列の好ましい一例として配列番号24で示される塩基配列を有するものが挙げられる。
【0093】
また,Rep68は,その機能を発揮する限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のRep68のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の改変がなされた変異体であってもよい。本発明において,これら変異を加えたRep68も,Rep68に含まれる。
【0094】
野生型のRep68のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。野生型のRep68のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたRep68も,Rep68である。アミノ酸を付加する場合,野生型のRep68のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたRep68も,Rep68に含まれる。変異を加えたRep68のアミノ酸配列は,野生型のRep68のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更に好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0095】
また,Rep78は,その機能を発揮する限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のRep78のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の改変がなされた変異体であってもよい。本発明において,これら変異を加えたRep78も,Rep78に含まれる。
【0096】
野生型のRep78のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。野生型のRep78のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたRep78も,Rep78である。アミノ酸を付加する場合,野生型のRep78のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたRep78も,Rep78に含まれる。変異を加えたRep78のアミノ酸配列は,野生型のRep78のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更に好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0097】
AAVのRep蛋白質の機能的等価物とは,Rep68にあっては,機能的にRep68に代えて用いることができるものをいい,Rep78にあっては,機能的にRep78に代えて用いることができるものをいう。Rep蛋白質の機能的等価物は,野生型のRep蛋白質の変異体であってもよい。
【0098】
配列番号24で示される塩基配列は,機能的なRep68及びRep78をコードするものである限り,置換,欠失,付加等の改変を加えることができる。配列番号24で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号24で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep蛋白質をコードする塩基配列として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号24で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep蛋白質をコードする核酸分子として使用できる。変異を加えた塩基配列は,配列番号24で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更に好ましくは98%以上の同一性を示す。但し,これら変異を加える場合において,Rep蛋白質のRep68とRep78とをコードする遺伝子の開始コドンをACGとすることが好ましい。
【0099】
本発明の一実施形態においてアデノ随伴ウイルスのCap蛋白質をコードする塩基配列(Cap領域の塩基配列)というときは,少なくともAAVのカプシドを構成する蛋白質の一種であるVP1をコードする塩基配列,又はこれに変異を加えた塩基配列を含む塩基配列のことをいう。VP1は,好ましくは血清型8のAAVのものであることが好ましいが,これに限定されることはなく,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのものであってもよい。血清型8のCap領域の塩基配列の好適例として,配列番号22で示される塩基配列を含むものが挙げられる。
【0100】
また,VP1は,その機能を発揮する限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のVP1のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものであってもよい。本発明の一実施形態において,これら変異を加えたVP1も,VP1に含まれる。
【0101】
配列番号22で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号22で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Cap蛋白質をコードする塩基配列として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号22で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Cap蛋白質をコードする核酸分子として使用できる。変異を加えた塩基配列は,配列番号22で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0102】
AAVベクターにより,第一のITRと第二のITRとの間に外来の遺伝子を含む核酸分子がパッケージングされた組換えAAVビリオンを得ることができる。組換えAAVビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。本発明における外来の遺伝子は,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子である。当該遺伝子が導入された細胞等ではこの遺伝子から融合蛋白質が発現するようになる。第一のITRと第二のITRとの間に外来の遺伝子を含む核酸分子がパッケージングされた組換えビリオンであって,細胞等に遺伝子を導入するために用いることができるものとして,AAVベクター系以外に,アデノウイルスベクター系がある。アデノウイルスベクター系においては,第一のITRと第二のITRとの間に外来の遺伝子を含む核酸分子がパッケージングされた組換えアデノウイルスビリオンが得られる。組換えアデノウイルスビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。
【0103】
レンチウイルスはレトロウイルス科の亜科の一つであるオルトレトロウイルス亜科の中でレンチウイルス属に属するウイルスであり,一本鎖の(+)鎖RNAゲノム(ssRNA)を有する。レンチウイルスのゲノムは必須遺伝子としてgag(カプシド蛋白質を含む構造蛋白質をコードする領域),pol(逆転写酵素を含む酵素群をコードする領域),env(宿主細胞への結合に必要なエンベロープ蛋白質をコードする領域)を含み,これらが2つのLTR(5’LTR及び3’LTR)に挟まれている。またこれらに加え,レンチウイルスのゲノムは,補助遺伝子として,Rev(ウイルスRNA内に存在するRRE(rev responsive element)に結合してウイルスRNAを核から細胞質に輸送する機能を有する蛋白質をコードする領域),tat(5’LTR内にあるTARに結合してLTRのプロモーター活性を上昇させる機能を有する蛋白質をコードする領域),その他vif,vpr,vpu,nef等を含む。
【0104】
レンチウイルスはエンベロープウイルスであり,エンベロープが細胞膜と融合することで細胞に感染する。また,レンチウイルスはRNAウイルスであり,ビリオン中には逆転写酵素が存在する。レンチウイルスの感染後,逆転写酵素により,(+)鎖RNAゲノムから一本鎖のプラス鎖DNAが複製され,更に二重鎖DNAが合成される。この二重鎖DNAからビリオンの構成成分である蛋白質が発現し,これに(+)鎖RNAゲノムがパッケージングされることによりビリオンが増殖する。本発明の一実施形態において,レンチウイルスベクターは,レンチウイルスの一種であるHIV-1のゲノムに基づき開発されたものがあるが,これに限られるものではない。
【0105】
第一世代レンチウイルスベクターは,パッケージングプラスミド,Envプラスミド,及び導入プラスミドの3種のプラスミドからなる。パッケージングプラスミドはCMVプロモーター等の制御下にgag及びpolの各遺伝子を有する。EnvプラスミドはCMVプロモーター制御下にenv遺伝子を有する。導入プラスミドは,5’LTR,RRE,CMVプロモーター制御下に所望の蛋白質をコードする遺伝子,及び3’LTRを有する。これらを宿主細胞に一般的なトランスフェクション手法により導入することで,第一のITRと第二のITRとの間に外来の遺伝子を含む核酸分子がカプシド蛋白質中にパッケージングされた組換えビリオンが得られる。第一世代レンチウイルスベクターのパッケージングプラスミドには,ウイルス由来のrev,tat,vif,vpr,vpu,及びnefの各補助遺伝子も含まれる。ここにおいて本発明における所望の蛋白質は,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質である。なお,所望の蛋白質をコードする遺伝子を制御するプロモーターをCMVプロモーター以外のプロモーター,例えばSV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1α(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター,レトロウイルスのラウス肉腫ウイルスLTRプロモーター,ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター,β-アクチンプロモーター,ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター,マウスアルブミンプロモーター,ヒトアルブミンプロモーター,及びヒトα-1アンチトリプシンプロモーターを含むものが好適である。例えば,マウスαフェトプロテインエンハンサーの下流にマウスアルブミンプロモーターを含む配列番号8で示される塩基配列を有する合成プロモーター(マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーター)等とすることもできる。
【0106】
第二世代レンチウイルスベクターも,第一世代と同じくパッケージングプラスミド,Envプラスミド(エンベローププラスミド),及び導入プラスミドの3種のプラスミドからなる。但し,パッケージングプラスミドから,必須遺伝子でないvif,vpr,vpu,及びnefの各補助遺伝子は削除されている。
【0107】
第三世代レンチウイルスベクターは,パッケージングプラスミド,Envプラスミド(エンベローププラスミド),Revプラスミド,及び導入プラスミドの4種のプラスミドからなる。第三世代では,第二世代でパッケージングプラスミドにあったrevを独立させてRevプラスミドとしている。また,パッケージングプラスミドからtatが削除されている。更に,導入プラスミドの5’LTR内のTARがCMVプロモーターに置き換えられている。
【0108】
組換えビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。本発明における外来の遺伝子は,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子である。当該遺伝子が導入された細胞等ではこの遺伝子から融合蛋白質が発現するようになる。
【0109】
レトロウイルスは,一本鎖の(+)鎖RNAゲノム(ssRNA)を有する。ウイルスゲノムには,gag(カプシド蛋白質を含む構造蛋白質をコード),pol(逆転写酵素を含む酵素群をコード),env(宿主細胞への結合に必要なエンベロープ蛋白質をコード)及びパッケージングシグナル(Ψ)の各遺伝子がコードされており,これらが2つの長い末端反復(LTR,5’LTR及び3’LTR)に挟まれている。レトロウイルスは宿主細胞に感染すると,(+)鎖RNA及び逆転写酵素が細胞内に移行し,2本鎖DNAへと逆転写される。
【0110】
レトロウイルスベクターは主にマウス白血病ウイルスに基づき開発され,病原性を失わせ安全性を高めることを目的として,その感染力を保ちつつ自己複製能を欠損させるためにウイルスゲノムが分割されている。第1世代レトロウイルスベクターは,パッケージングプラスミド(パッケージングシグナルを除いたウイルスゲノム)と導入プラスミド(パッケージングシグナル,gagの一部,外来遺伝子の両端を5’LTR及び3’LTRで挟んだもの)からなる。したがって,パッケージングプラスミドと導入プラスミドに共通して存在するgag配列部分で相同組み換えが起こると自己複製可能なレトロウイルス,すなわちRC(replication compitent)ウイルスが出現する。第2世代レトロウイルスベクターでは,第1世代のパッケージングプラスミドの3'側のLTRをポリA付加シグナルに置換している。これにより,RCウイルスが発生するためにはgag配列及びポリA付加シグナル上流の2か所で同時に相同組み換えが起こる必要があり,その発生確率は非常に低く,安全性が高められている。第3世代は3つのプラスミドから構成されており,第2世代のパッケージングプラスミドがさらにgag/polをコードするプラスミドとenvをコードするプラスミドに分割されている。これにより,RCウイルスが発生するためには3か所で同時に相同組み換えが生じる必要があり,その発生確率は極めて低く,さらに安全性が高められている。
【0111】
一般に,組換えレトロウイルスビリオンの生産には,まず,これらパッケージングプラスミドと導入プラスミドが,宿主細胞に一般的なトランスフェクション手法により導入される。そうすると5’LTR及び3’LTR,及びこれら2つのLTRの間に配置された所望の蛋白質をコードする遺伝子を含む領域が宿主細胞で複製され,生じた一本鎖の(+)鎖RNAがレトロウイルスのカプシド蛋白質にパッケージングされて,組換えレトロウイルスビリオンが形成される。この組換えレトロウイルスビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。本発明における外来の遺伝子は,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子である。当該遺伝子が導入された細胞等ではこの遺伝子から融合蛋白質が発現するようになる。
【0112】
本発明の一実施形態において,核酸分子は,これをリポソーム,脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle;LNP)等に内包させた形態とすることもできる。リポソームとは,脂質二重層を持つ球状の小胞をいい,主にリン脂質,特にホスファチジルコリンから構成される。但しこれに限らず,脂質二重層を形成する限り,リポソームは卵黄ホスファチジルエタノールアミン等の他の脂質を加えられたものであっても良い。細胞膜は主にリン脂質二重膜から構成されているため,リポソームは生体適合性に優れるという利点がある。脂質ナノ粒子は,直径10 nm~1000 nm,典型的には約200 nm未満の,脂質を主成分とする粒子をいい,疎水性(親油性)分子を内包させることができ,トリグリセリド,ジグリセリド,モノグリセリド,脂肪酸,ステロイド等の生体適合性のある脂質を主な構成成分とする。リポソーム又は脂質ナノ粒子に内包させた遺伝子を生体内に投与すると,細胞の細胞膜と直接融合,又はエンドサイトーシス等により細胞に取り込まれ,その後核に移行して遺伝子が細胞に導入されると考えられている。リポソーム又は脂質ナノ粒子による遺伝子導入方法は,ウイルスベクターを用いた遺伝子導入と比較して,導入する遺伝子の大きさに制限が無い点や,安全性が高い点において優れている。本発明の核酸分子を内包させたリポソーム,脂質ナノ粒子等は,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。当該遺伝子が導入された細胞等ではこの遺伝子から融合蛋白質が発現するようになる。本明細において「リポソーム,脂質ナノ粒子等」というときは,上述のリポソーム及び脂質ナノ粒子に加え,ポリマーナノ粒子,ミセル,エマルジョン,ナノエマルジョン,マイクロスフェア,ナノスフェア,マイクロカプセル,ナノカプセル,デンドリマー,ナノゲル,金属ナノ粒子,その他薬物送達システム(DDS)として用いられることのできるあらゆるナノ・マイクロ粒子を含むものとする。
【0113】
本発明において,プラスミドの形態,組換ウイルスビリオンに内包された形態,又はリポソーム,脂質ナノ粒子等に内包された形態で細胞,組織,又は生体内に導入された核酸分子の挙動について,以下に(1)~(9)に例示する。但し,核酸分子の挙動はこれらに限られるものではない。
(1)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖RNAであり,細胞内に導入されると,核酸分子に含まれるリガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質をコードする遺伝子が翻訳されて該融合蛋白質が発現する。
(2)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖RNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子が逆転写されて一本鎖の(+)鎖DNAとなり,次いでこのDNAが転写・翻訳されて該融合蛋白質が発現する。
(3)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖RNA又は(-)鎖RNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子が逆転写された後に二重鎖DNAとなり,次いでこのDNAが転写・翻訳されて該融合蛋白質が発現する。
(4)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖又は(-)RNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子が逆転写された後に二重鎖DNAとなり,次いでこのDNAが宿主細胞のゲノムとランダム組換え又は相同組換えを起こしてゲノム内に組込まれ,組み込まれたDNAが転写・翻訳されて該融合蛋白質が発現する。
(5)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖DNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子が転写・翻訳されて該融合蛋白質が発現する。
(6)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(-)鎖DNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子から二重鎖DNAが合成され,次いでこの二重鎖DNAが転写・翻訳されて該融合蛋白質が発現する。
(7)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖DNA又は(-)鎖DNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子から二重鎖DNAが合成され,次いでこのDNAが宿主細胞のゲノムとランダム組換え又は相同組換えを起こしてゲノム内に組込まれ,組み込まれたDNAが転写・翻訳されて該融合蛋白質が発現する。
(8)一実施形態において,核酸分子は二重鎖DNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子が転写・翻訳されて該融合蛋白質が発現する。
(9)一実施形態において,核酸分子は二重鎖DNAであり,このDNAが宿主細胞のゲノムとランダム組換え又は相同組換えを起こしてゲノム内に組込まれ,組み込まれたDNAが転写・翻訳されて該融合蛋白質が発現する。
【0114】
プラスミドの形態,組換ウイルスビリオンに内包された形態,又はリポソーム,脂質ナノ粒子等に内包された形態の核酸分子は,細胞,組織,又は生体内に導入することができる。
【0115】
核酸分子の導入先が生体内である場合,核酸分子は,プラスミドの形態,組換ウイルスビリオンに内包された形態,又はリポソーム,脂質ナノ粒子等に内包された形態で,皮下注射,筋肉内注射,静脈内注射等の非経口的手段により投与される。
【0116】
プラスミドの形態,組換ウイルスビリオンに内包された形態,又はリポソーム,脂質ナノ粒子等に内包された形態の核酸分子は,種々の医薬として用いることができる。核酸分子にコードされる融合蛋白質が脳血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)を特異的に認識するものであり,生理活性を有する蛋白質がヒトリソソーム酵素である場合の核酸分子の用途について,以下詳述する。
【0117】
ヒトリソソーム酵素がα-L-イズロニダーゼである場合はハーラー症候群又はハーラー・シャイエ症候群における中枢神経障害治療剤として,イズロン酸-2-スルファターゼである場合はハンター症候群における中枢神経障害治療剤として,グルコセレブロシダーゼである場合はゴーシェ病における中枢神経障害治療剤として,β-ガラクトシダーゼである場合はGM1-ガングリオシドーシス1~3型における中枢神経障害治療剤として,GM2活性化蛋白質である場合はGM2-ガングリオシドーシスAB異型における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼAである場合はサンドホフ病及びティサックス病における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼBである場合はサンドホフ病における中枢神経障害治療剤として,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼである場合はI-細胞病における中枢神経障害治療剤として,α-マンノシダーゼである場合はα-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,β-マンノシダーゼである場合はβ-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,ガラクトシルセラミダーゼである場合はクラッベ病における中枢神経障害治療剤として,サポシンCである場合はゴーシェ病様蓄積症における中枢神経障害治療剤として,アリールスルファターゼAである場合は異染性白質変性症(異染性白質ジストロフィー)における中枢神経障害治療剤として,α-L-フコシダーゼである場合はフコシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼである場合はアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼである場合はシンドラー病及び川崎病における中枢神経障害治療剤として,酸性スフィンゴミエリナーゼである場合はニーマン・ピック病における中枢神経障害治療剤として,α-ガラクトシダーゼAである場合はファブリー病における中枢神経障害治療剤として,β-グルクロニダーゼである場合はスライ症候群における中枢神経障害治療剤として,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ及びN-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼの何れか一つである場合はサンフィリッポ症候群における中枢神経障害治療剤として,酸性セラミダーゼである場合はファーバー病における中枢神経障害治療剤として,アミロ-1,6-グルコシダーゼである場合はコリ病(フォーブス・コリ病)における中枢神経障害治療剤として,シアリダーゼである場合はシアリダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼである場合はアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1)である場合は神経セロイドリポフスチン症又はSantavuori-Haltia病における中枢神経障害治療剤として,トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1)である場合は神経セロイドリポフスチン症又はJansky-Bielschowsky病における中枢神経障害治療剤として,ヒアルロニダーゼ-1である場合はヒアルロニダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,CLN1及びCLN2の何れかである場合はバッテン病における中枢神経障害治療剤として使用できる。
【0118】
核酸分子の導入先が細胞である場合,細胞の種類に特に限定はないが,例えば,間葉系幹細胞,歯髄由来幹細胞,造血幹細胞,胚性幹細胞,内皮幹細胞,乳腺幹細胞,腸幹細胞,肝幹細胞,膵幹細胞,神経幹細胞,及びiPS細胞である。
【0119】
核酸分子が導入された細胞は,融合蛋白質を発現するようになるので,これを治療目的で患者に移植することができる。例えば,生理活性を有する蛋白質がヒトリソソーム酵素である核酸分子が導入された細胞は,上述の用途に用いることができる。
【実施例0120】
〔実施例1〕pAAV-mMAP-Fab-hI2Sベクターの構築
5’側より,ClaIサイト,マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーター,ニワトリβアクチン/MVMキメライントロン,抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のC末端側にhI2Sが結合した結合体をコードする遺伝子,マウス脳心筋炎ウイルスの5'非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位(IRES),抗hTfR抗体の軽鎖をコードする遺伝子,ウシ成長ホルモンポリA配列,及びBglIIサイトを含む配列番号18で示される塩基配列を含むDNA断片を合成した。このDNA断片をClaIとBglIIで消化した。pAAV-CMVベクター(タカラバイオ社)をClaIとBglIIで消化し,これに上記の制限酵素処理したDNA断片を挿入した。得られたプラスミドをpAAV-mMAP-Fab-hI2Sベクターとした(図1)。pAAV-mMAP-Fab-hI2Sベクターは,上流から順に,第一のAAV-ITRの機能的等価物(配列番号6),マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーター(配列番号8),ニワトリβアクチン/MVMキメライントロン(配列番号9),抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のC末端側にhI2Sが結合した結合体(配列番号42)をコードする遺伝子,マウス脳心筋炎ウイルスの5'非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位,抗hTfR抗体の軽鎖(配列番号10)をコードする遺伝子,ウシ成長ホルモンpolyAシグナル(配列番号17),第二のAAV-ITRの機能的等価物(配列番号7)を含む構造を有する。更に,pAAV-mMAP-Fab-hI2Sベクターは,アンピシリン耐性遺伝子及び複製開始点(ColE1 ori)を含む。
【0121】
〔実施例2〕pR2(mod)C6ベクターの構築
5’側より,AfeIサイト,RsrIIサイト,BsrGIサイト,AvrIIサイト,アンピシリン耐性遺伝子サイト,複製開始点(ColE1 ori),RsrIIサイト,p5プロモーターを含むAAV2のRep領域の5’部分,及びSacIIサイトを含む配列番号19で示される塩基配列を含むDNA断片を合成した。このDNA断片をAfeIとSacIIで消化した。pRC6ベクター(タカラバイオ社)をAfeIとSacIIで消化し,これに上記の制限酵素処理した合成遺伝子を挿入した。得られたプラスミドをpR2(mod)C6ベクターとした。
【0122】
〔実施例3〕pR2(mod)C8ベクターの構築
5’側より,HindIIIサイト,AAV2のRep領域の3’部分,AAV8のCap領域,エンハンサーとして機能するp5プロモーター,RsrIIサイト,及びBsrGIサイトを含む配列番号20で示される塩基配列を含むDNA断片を合成した。このDNA断片をHindIIIとBsrGIで消化した。pR2(mod)C6ベクターをHindIIIとBsrGIで消化し,これに上記の制限酵素処理した合成遺伝子を挿入した。得られたプラスミドをpR2(mod)C8ベクターとした(図2)。pR2(mod)C8ベクターは,上流から順に,p5プロモーターを含むAAV2のRep領域(配列番号21),AAV8のCap領域(配列番号22),エンハンサーとして機能するp5プロモーター(配列番号23)を含む。更にpR2(mod)C8ベクターは,アンピシリン耐性遺伝子及び複製開始点(ColE1 ori)を含む。なお,上記p5プロモーターを含むAAV2のRep領域(配列番号21)は,p5プロモーター(配列番号23)の下流に,配列番号24で示されるAAV2のRep領域を含む塩基配列を含む。
【0123】
〔実施例4〕Fab-hI2S-rAAVの産生
ヒト胎児腎臓細胞由来の細胞株である,HEK293細胞を宿主細胞として用いた。10-layerセルスタックチャンバー(Thermo Fisher Scientific社)に,HEK293細胞をセルスタックチャンバーあたり6.3x108個播種し,10% FBS含有MEM培地(Thermo Fisher Scientific社)で37℃,5% CO2存在下で16時間培養した。トランスフェクション用のDNA溶液として,pHelperベクター(タカラバイオ社),pR2(mod)C8ベクター,及びpAAV-mMAP-Fab-hI2Sベクターを含む溶液を作製した。この溶液は,3種類のプラスミドを等モル濃度で含み,総DNA濃度が1.0 mg/mLであり,総液量が2.2 mLとなるように調整したものである。この溶液に,ポリエチレンイミンを,重量比がDNA(μg):ポリエチレンイミン(μg)=1:2となるように添加し,更にMEM培地を加えて液量を1.5 Lに調整したものをトランスフェクション用溶液とした。培養開始16時間後の10-layerセルスタックチャンバーから培養上清を全て除去した後,1.5 Lのトランスフェクション用溶液を全量添加し,37℃,5% CO2存在下で5日間培養して,rAAVビリオンを産生させた。宿主細胞で産生されたrAAVビリオンは,一部が培養上清中に放出され,一部が宿主細胞内に留まる。得られたrAAVビリオンをFab-hI2S-rAAVとした。Fab-hI2S-rAAVは,細胞に感染させたときに,抗hTfR抗体Fab領域重鎖のC末端側にhI2Sが結合した結合体と抗hTfR抗体軽鎖を含む融合蛋白質を発現することが期待されるものである。
【0124】
〔実施例5〕Fab-hI2S-rAAVを含む培養上清の回収
実施例4の培養終了後,細胞培養液を孔径5μmのULTRA Prime GF 5.0 μm, 2 inch capsule, GG(Cytiva社)を用いてろ過後,更に孔径0.2 μmのNalgen Rapid-Flow PESフィルターユニット(Thermo Fisher Scientific社)を用いてろ過した。
【0125】
〔実施例6〕Fab-hI2S-rAAVを含む培養上清中の遊離核酸除去工程
実施例5で回収した培養上清に,エンドヌクレアーゼであるベンゾナーゼ(Merck社)を濃度が10 U/mLとなるように添加して混合し,37℃で1時間インキュベートした。ベンゾナーゼ処理後の培養上清を孔径0.2 μmのNalgen Rapid-Flow PESフィルターユニット(Thermo Fisher Scientific社)を用いてろ過し,Fab-hI2S-rAAV含有細胞融解液を得た。
【0126】
〔実施例7〕アフィニティー樹脂を用いたFab-hI2S-rAAVのクロマトグラフィー精製
4 mmol/L MgCl2,150 mmol/L NaCl含有20 mmol/L Tris緩衝液(pH 7.5)を用いて,POROS AAVX樹脂(Thermo Fisher Scientific社)を充填したカラム(径1.6 cm,高さ20 cm(カラム容量約20 mL))を平衡化した。実施例6で得られたFab-hI2S-rAAV含有細胞融解液を5 mL/分の流速でカラムに通液することにより樹脂にFab-hI2S-rAAVを吸着させた。次いで,カラム容量の5倍以上の4 mmol/L MgCl2,400 mmol/L アルギニン含有20 mmol/L Tris緩衝液(pH 7.5)を通液してカラムを洗浄してから,カラム容量の3倍以上の4 mmol/L MgCl2,150 mmol/L NaCl含有20 mmol/L Tris緩衝液(pH 7.5)を通液してカラムを洗浄した。次いで,カラム容量の2倍以上の4 mM MgCl2含有10 mMクエン酸緩衝液(pH 3.5)をカラムに通液することにより樹脂に吸着したFab-hI2S-rAAVを溶離してFab-hI2S-rAAVを含む画分を得た。この画分に2mM MgCl2含有500 mmol/L Tris緩衝液(pH 8.5)を加えてpH 7.0に調整した。
【0127】
〔実施例8〕限外ろ過膜によるFab-hI2S-rAAVの濃縮工程
4 mmol/L MgCl2,150 mmol/L NaCl含有20 mmol/L Tris緩衝液(pH 7.5)により平衡化したSUIS PD(LP)Hystream 100 kDa(Repligen社)に,実施例7で得られたアフィニティー工程溶出画分を7 L/min/m2以下の流束で循環することにより約8 mLに濃縮し回収した。次いで,2 mLの4 mmol/L MgCl2及び150 mmol/L NaClを含む20 mmol/L Tris緩衝液(pH 7.5)で2回限外ろ過膜を洗浄し,この洗浄液を先に回収した溶液に合わせて,合計約12 mLの濃縮液を取得した。
【0128】
〔実施例9〕イオジキサノールを用いた超遠心分離によるFab-hI2S-rAAVの精製
60%イオジキサノール(多用途密度勾配遠心分離媒体OptiPreTM,コスモバイオ社)にPBS-MKバッファー(136.9 mmol/L NaCl,28.2 mmol/L KCl及び1 mmol/L MgCl2を含む20 mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4))を加えて45%イオジキサノールを調製した。また,60%イオジキサノールにPBS-MKバッファーを加えて25%イオジキサノールを調製した。更に,60%イオジキサノールに1M NaCl/PBS-MKバッファー(1 mol/L塩化ナトリウムを含むPBS-MKバッファー)を加えて15%イオジキサノールを調製した。
【0129】
39 mL, Quick-SealTM Round-Top Polypropylene Tube、25 X 89 mm(ベックマン・コールター社)の底部から,60%イオジキサノールにフェノールレッドを添加したもの,次いで45%イオジキサノール,次いで25%イオジキサノールにフェノールレッドを添加したもの,次いで15%イオジキサノールの順にそれぞれ5 mL,8 mL,5 mL,8 mLを重層した。これに実施例8で得られた約12 mLの濃縮液を添加した後,1M NaCl/PBS-MKバッファーでチューブ内を満たした。次いで,コードレス・チューブトッパシーラキット(ベックマン・コールター社)によりチューブの注入口を閉じ,超遠心装置OptimaXPN(ベックマン・コールター社)の70Tiローターに設置し,63000 rpm(408500 ×g)の回転速度で2時間遠心した。遠心後のチューブ底部に,フラクションリカバリシステム(ベックマン・コールター社)を用いて,針付きのタイゴンE-LFLチューブを接続し,18 Gシリンジ針をチューブ上部に刺し空気穴を開けた後,ペリスタルティックポンプによりチューブ下部より溶媒を1 mLずつ分画した。この4番目から9番目又は5番目から8番目の画分を回収し,精製されたFab-hI2S-rAAVを含む画分を得た。
【0130】
〔実施例10〕限外ろ過膜によるFab-hI2S-rAAVの濃縮及び緩衝液交換工程
実施例9で得られたFab-hI2S-rAAVを含む画分を,アミコンウルトラ 15 遠心式フィルターユニット 50 kDa(Merck社)を用いて,3200 rpm(2100 ×g)以下,20分以下の任意の条件で遠心分離することにより濃縮した。得られた,濃縮Fab-hI2S-rAAV溶液を350 mmol/L NaCl/PBSバッファー(486.9 mmol/L NaCl及び2.7 mmol/L KClを含む20 mmol/L リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4))で30倍に希釈した。これを3回繰り返すことにより350 mmol/L NaCl/PBSバッファーへ溶媒が置換されたFab-hI2S-rAAV溶液を得た。このFab-hI2S-rAAV溶液を,以下の実験に供した。
【0131】
〔実施例11〕Fab-hI2S-rAAV溶液中に含まれるrAAVゲノム量の測定
実施例10で得られたFab-hI2S-rAAV溶液中のウイルスゲノム量を,ドロップレットデジタルPCR法により測定した。以下に測定法を詳述する。
【0132】
2 μLのFab-hI2S-rAAV溶液に1.6 μLのDNaseI(タカラバイオ社),2 μLの10× DNaseI Buffer(タカラバイオ社),及び14.4 μLの0.05% F-68含有水を加え,37℃で30分間インキュベートし,Fab-hI2S-rAAVに内包されていないDNAを消化した。
【0133】
DNaseI処理を行ったFab-hI2S-rAAV溶液を0.05% F-68含有TEバッファーを用いて適宜希釈し,ドロップレットデジタルPCR用サンプル溶液を調製した。1.0 μMの順方向プライマー(プライマーSI-1,配列番号25),1.0 μMの逆方向プライマー(プライマーSI-2,配列番号26),及び0.25 μMのプローブ(プローブSI-1,配列番号27の5’末端にレポーター色素としてFAMを,3’末端にクエンチャー色素としてBHQ1を,それぞれ修飾したもの)を含むFAM標識20×プライマー/プローブミックスを調製した。また,1.0 μM 順方向プライマー(プライマーSI-3,配列番号28),1.0 μM 逆方向プライマー(プライマーSI-4,配列番号29),及び0.25 μMプローブ(プローブSI-2,配列番号30の5’末端にレポーター色素としてHEXを,3’末端にクエンチャー色素としてBHQ1を,それぞれ修飾したもの)を含むHEX標識20×プライマー/プローブミックスを調製した。
【0134】
ドロップレットデジタルPCR用サンプル溶液2 μLに,10 μLのddPCR Supermix for probes (no dUTP) (BioRad社),1 μLのFAM標識20×プライマー/プローブミックス,1 μLのHEX標識20×プライマー/プローブミックス,2 μLの5 M ベタイン溶液(Sigma社),及び4 μLの0.05% F-68含有水を加え,PCR反応液を調製した。Droplet generator(BioRad社)を用いて,20 μLのPCR反応液と70 μLのDroplet Generator オイル for Probes(BioRad社)の懸濁液滴(ドロップレット)を調製した。このドロップレットをQX200 Droplet Digital PCRシステム(BioRad社)に供した。PCRの条件は,変性反応(95℃,10分),40サイクルの3ステップPCR(95℃,30秒→60℃,60秒→72℃,15秒),及びPCR酵素の不活化処理(98℃,10分)からなるものとした。FAM/HEX両陽性ドロップレットをrAAV陽性ドロップレットと定義し,QuantaSoft Version 1.7 (BioRad社)を用いてrAAVゲノム量(vg:ウイルスゲノム)を求めた。なお,このPCRにおいて増幅されるDNA領域は,ウシ成長ホルモンpolyA,及びITRの内部領域である。
【0135】
〔実施例12〕I2S-KO/hTfR-KIマウスの作製
I2S-KO/hTfR-KIマウスは,イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)遺伝子をホモで欠損し且つキメラTfR遺伝子をヘテロで有するマウスである。I2S-KO/hTfR-KIマウスは概ね下記の方法で作製した。細胞内領域がマウスTfRのアミノ酸配列であり,細胞外領域がヒトTfRのアミノ酸配列であるキメラTfRをコードするcDNAの3’側にloxP配列で挟み込んだネオマイシン耐性遺伝子を配置したDNA断片を化学的に合成した。このDNA断片を,5’アーム配列及び3’アーム配列を有するターゲッティングベクターに常法により組み込み,これをエレクトロポレーション法によりマウスES細胞に導入した。遺伝子導入後のマウスES細胞を,ネオマイシン存在下で選択培養し,ターゲッティングベクターが相同組換えにより染色体に組み込まれたマウスES細胞を選択した。得られた遺伝子組換えマウスES細胞を,ICRマウスの8細胞期胚(宿主胚)へ注入し,精管結紮を行ったマウスとの交配によって得られた偽妊娠マウス(レシピエントマウス)に移植した。得られた産仔(キメラマウス)について毛色判定を行い,ES細胞が生体の形成に高効率で寄与した個体,すなわち全体毛に対する白色毛の占める比率の高い個体を選別した。このキメラマウス個体をICRマウスと掛け合わせてF1マウスを得た。白色のF1マウスを選別し,尻尾の組織より抽出したDNAを解析し,染色体上でマウスhTfR遺伝子がキメラTfRに置き換わっているマウスをhTfR-KIマウスとした。このマウスを元にして,I2S遺伝子をホモで欠損し且つキメラTfR遺伝子をヘテロで有するマウス(I2S-KO/hTfR-KIマウス)を作製した。なお,I2S-KO/hTfR-KIマウスの作製は,特許文献(WO2016/208695)に記載の手法に準じて行った。
【0136】
〔実施例13〕I2S-KO/hTfR-KIマウスを用いたFab-hI2S-rAAVの薬効評価
Fab-hI2S-rAAVを生体に投与したときの薬効評価を実施例12で作製したI2S-KO/hTfR-KIマウスを用いて行った。I2S-KO/hTfR-KIマウスは9~14週齢(投与開始時)の雄性マウスであるものを用いた。実施例10で得たFab-hI2S-rAAV溶液を,雄性I2S-KO/hTfR-KIマウスに1.0×1010 vg/kg,1.0×1011 vg/kg,1.0×1012 vg/kg,及び1.0×1013 vg/kgの用量となるように単回尾静脈内投与した(各群N=3)。また,雄性野生型マウスからなる正常対照群と雄性I2S-KO/hTfR-KIマウスからなる病態対照群)を置いた(各群N=4)。正常対照群及び病態対照群には生理食塩液(大塚製薬工場社)を投与した。
【0137】
投与から8,15,及び22日後に尾静脈より一部血液を,EDTA-2Kコート採血管(キャピジェクト,テルモ社)に採取し氷上静置後,遠心(2000×g,20分間)して血漿を回収した。投与から29日後にベトルファール(Meiji Seikaファルマ社)・ミダゾラム(サンド社)・ドミトール(日本全薬工業社)の3剤混合麻酔下,大槽より脳脊髄液(Cerebrospinal fluid,CSF)を採取した。次いでマウスを開胸して心採血を行った。血液はEDTA-2Kコート採血管(キャピジェクト,テルモ社)に採取し氷上静置後,遠心(2000 × g,20分間)して血漿を回収した。次いで,生理食塩液(大塚製薬工場社)で全身灌流し,脳,脊髄,肝臓,心臓,腎臓,脾臓,及び骨格筋をそれぞれ摘出した。各組織の湿重量を測定した後,素早く液体窒素に浸漬し急速凍結した。
【0138】
〔実施例14〕血漿中のFab-hI2Sの定量
血漿の上清中Fab-hI2Sの濃度測定は,実施例15に記載の方法により行った。その結果を表1に示す。
【0139】
【表1】
【0140】
Fab-hI2S-rAAV投与群では,何れの投与量でも投与後8日から投与後29日まで血漿中Fab-hI2Sの濃度が上昇した。また,血漿中のFab-hI2Sの濃度は投与量依存的に上昇した。これらのデータは,マウスに静脈注射されたFab-hI2S-rAAVが細胞に取り込まれ,細胞内でhI2Sをコードする遺伝子が転写,翻訳されて発現したhI2Sが,血液中に放出されたことを示す。
【0141】
〔実施例15〕Fab-hI2Sの濃度測定
血漿の上清中のFab-hI2Sの測定は概ね下記の方法で実施した。Streptavidin Gold plate(Meso scale diagnostics社)の各ウェルにSuperblock Blocking Buffer in PBS(Thermo Fisher Scientific社)を150 μLずつ添加し,1時間以上振盪してプレートをブロッキングした。次いで,ビオチン化抗hI2Sモノクローナル抗体並びにSULFO化抗hI2Sモノクローナル抗体の混合溶液に,既知濃度のFab-hI2Sを含む検量線用標準試料(Fab-hI2S検量線用標準試料)及び血漿をそれぞれ加えて1時間以上振盪し抗体反応液とした。なお,抗hI2Sモノクローナル抗体は,配列番号14で示されるアミノ酸配列を有するヒトイズロン酸-2-スルファターゼで免疫したマウスから取得した脾細胞を用いて常法で作製した抗hI2S産生ハイブリドーマを培養することにより取得した。得られたモノクロ―ナル抗体の一つをBiotin Labeling Kit-NH2(同仁化学研究所社)を用いて添付のプロトコールに従って修飾しビオチン化抗hI2Sモノクローナル抗体を得た。また,得られたモノクロ―ナル抗体の他の一つをMSD GOLD SULFO-TAG NHS-Ester(Meso scale Diagnostics社)を用いて添付のプロトコールに従って修飾し,SULFO化抗hI2Sモノクローナル抗体を得た。各ウェルからブロッキング溶液を除去し,0.05% Tween 20含有PBS(PBST,Sigma Aldrich社)で洗浄後,各ウェルに抗体反応液を25 μL添加し,1時間以上振盪した。次いで抗体反応液を除去し,PBSTで洗浄後,注射用水(大塚製薬工場社)で1/2に希釈した4 X Read Buffer(Meso scale diagnostics社)を150 μL添加し,SectorTM Imager S600(Meso scale diagnostics社)を用いて各ウェルからの発光量を測定した。Fab-hI2S検量線用標準試料の測定値から検量線を作成し,これに各検体の測定値を内挿することにより,血漿1mL当たりに含まれるFab-hI2Sの量(血漿中のFab-hI2S濃度)を算出した。なお,検量線用標準試料に含まれるFab-hI2Sは配列番号42で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のC末端にヒトI2Sが結合した結合体と,配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体の軽鎖とからなる融合蛋白質(Fab-hI2S)を,常法によりCHO細胞に発現させ,取得したものである。
【0142】
〔実施例16〕脳組織及び脊髄中のI2S比活性測定
脳組織及び脊髄中のFab-hI2SをI2Sの酵素活性により評価するため,I2S比活性測定を行った。I2S比活性測定は概ね下記の方法で実施した。実施例13で採取した脳及び脊髄に注射用水(大塚製薬工場社)を添加してホモジナイズし,得られたホモジネートを遠心分離して上清を回収した。ホモジネート上清の蛋白質濃度をBCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社)を用い,添付の説明書に従い定量した。
【0143】
スタンダードとして4-Methylumbelliferone(4-MU, Sigma Aldrich社,400~3.13 nmol/mL),測定試料としてホモジネート上清をフルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに50 μLずつ加えた。次に,基質として,0.05% BSA(Sigma Aldrich社)/0.1% TritonX-100(富士フイルム和光純薬社)を含む5mM酢酸緩衝液(pH 5.0)で0.6 mg/mLに希釈した4-Methylumbelliferyl sulfate(4-MUS, Sigma Aldrich社)を各ウェルに100μLずつ加えた。プレートをプレートミキサーで振とうさせた後,37℃で4時間静置し酵素反応させた。0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH 10.6)を各ウェルに150μLずつ加えて反応を停止させ,SpectraMaxGemini(モルデバ社)を用いて励起波長365 nm,検出波長460 nmで測定を行った。なお,比活性は,酵素活性1 Unitを4-MU nmol/4時間 37℃と定義し,これを蛋白質重量(mg)で除して求めた。すなわち,比活性は蛋白質単位重量あたりの酵素活性(nmol/4hr/mg protein)ということができる。I2S比活性測定の結果を表2に示す。
【0144】
【表2】
【0145】
病態対照群では中枢神経系組織においてI2Sの酵素活性は検出されなかったが,Fab-hI2S-rAAV投与群ではすべての用量で脳組織及び脊髄中にI2Sの酵素活性が概ね用量依存的に検出された。これらの結果は,(i)Fab-hI2S-rAAVを投与することによりFab-hI2Sがホスト動物内で発現すること,(ii)Fab-hI2Sに含まれる抗hTfR抗体が,hTfRを介してBBBを通過して中枢神経系の組織に到達すること,及び(iii)Fab-hI2Sに含まれるhI2Sが,中枢神経系の組織において酵素として機能できる状態で存在することを示すものである。
【0146】
〔実施例17〕各組織中のヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の定量
血漿,CSF,及び各組織中のヘパラン硫酸(HS)及びデルマタン硫酸(DS)の定量は概ね下記の方法で実施した。なお,ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸は,何れもI2Sの基質である。I2Sをコードする遺伝子の異常により発症するハンター症候群の患者では,HS及びDSが組織内に蓄積することにより障害が生じる。従って,組織内のHS及びDSを定量することにより,モデル動物に投与した薬剤の薬効を評価できる。
【0147】
試験に用いる(a)~(l)の溶液を以下の手順で調製した。
(a)MeCN/water:
2 mLの注射用水(大塚製薬工業社)と18 mLのアセトニトリル(富士フイルム和光純薬社)を混合し,これをMeCN/waterとした。
(b)重水素ラベル化溶媒:
氷浴下で,1.5 mLのメタノール-d4(Sigma-Aldrich社)に240 μLのアセチルクロリド(Sigma-Aldrich社)を滴下し,これを重水素ラベル化溶媒とした。
(c)移動相A:
475 mLの注射用水と,25 mLの1 Mギ酸アンモニウム水溶液(富士フイルム和光純薬社)を混合したものを移動相Aとした。
(d)移動相B:
アセトニトリルと移動相Aを93:7(v/v)で混合したものを移動相Bとした。
(e)ヘパラン硫酸標準原液(HS標準原液):
Heparan sulphate(Iduron社)を注射用水で溶解し,5.0 mg/mLの溶液を調製した。この溶液をHS標準原液とした。
(f)ヘパラン硫酸内部標準溶液(HS内部標準溶液):
ホウケイ酸ねじ口試験管に40 μLのHS標準原液を計り取り,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に400 μLの重水素ラベル化溶媒を添加し,撹拌した後,65℃で75分間反応させて,重水素化メタノール分解(deuterium methanolysis reaction; メタノリシス)を行った。反応後,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に500 μLのMeCN/waterを添加し,超音波処理を30分間行った。この溶液をヘパラン硫酸内部標準溶液(HS内部標準溶液)とした。
(g)デルマタン硫酸標準原液(DS標準原液):
Chondroitin sulfate B sodium salt from porcine intestinal mucosa(Sigma-Aldrich社)を注射用水で溶解し,5.0 mg/mLの溶液を調製した。この溶液をDS標準原液とした。
(h)デルマタン硫酸内部標準溶液(DS内部標準溶液):
ホウケイ酸ねじ口試験管に40 μLのDS標準原液を計り取り,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に400 μLの重水素ラベル化溶媒を添加し,撹拌した後,65℃で75分間反応させて,重水素化メタノール分解を行った。反応後,溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に500 μLのMeCN/waterを添加し,超音波処理を30分間行った。この溶液をデルマタン硫酸内部標準溶液(DS内部標準溶液)とした。
(i)内標準溶液:
1 mLのメタノールに,1 μLのHS内部標準溶液及び1 μLのDS内部標準溶液の比率で混合したものを撹拌後,超音波処理を30分間行った。この溶液を内標準溶液とした。
(j)検量線試料:
980 μLの注射用水を計り取り,これにHS標準原液とDS標準原液をそれぞれ10 μLずつ添加し,デルマタン硫酸とヘパラン硫酸をそれぞれ50 μg/mLずつ含有する溶液を調製した。この溶液を注射用水で希釈し,デルマタン硫酸とヘパラン硫酸を,それぞれ5000 ng/mLずつ含有する溶液を調製した。この溶液を注射用水で段階希釈し,デルマタン硫酸とヘパラン硫酸を,それぞれ25,50,100,250,500,1000,2500及び5000 ng/mLの濃度で含有する溶液を調製した。これらの溶液の20 μLを,それぞれホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。この溶液を検量線試料とした。
(k)組織抽出用溶液
1 mLのポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルを生理食塩液に添加し,全量を500 mLとした。この溶液を組織抽出用溶液とした。
(l)10%炭酸アンモニウム溶液
5 gの炭酸アンモニウムを50 mLの注射用水に溶解した。この溶液を10%炭酸アンモニウム溶液とした。
【0148】
血漿を20 μL計り取り,ホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。これを血液サンプル溶液とした。
【0149】
採取したCSFを20 μL計り取り,ホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。これをCSFサンプル溶液とした。
【0150】
凍結乾燥した組織を,組織抽出用溶液中で破砕したのち,上清を遠心分離した。これを20 μL計り取り,ホウケイ酸ねじ口試験管に分取した。これを組織及び臓器サンプル溶液とした。
【0151】
調製した各サンプル溶液及び検量線試料中の溶媒を窒素気流下で留去した。乾固物に,20 μLの2,2-ジメトキシプロパン(東京化成工業社)と,200 μLの塩酸の濃度が3 mol/Lである塩酸メタノール(Sigma-Aldrich社)とを添加して撹拌した後,反応温度70℃,反応時間90分間でメタノリシス反応を行った。反応後,氷冷して反応を停止し,200 μLの10%炭酸アンモニウム溶液及び50 μLの内標準溶液を添加した。溶媒を窒素気流下で留去した後,乾固物に250 μLの注射用水を添加して溶解させた。これを,予めメタノール及び注射用水を通液してコンディショニングした固相カートリッジ(OASIS HLB(1 cc, 30 mg,Waters社))に負荷し,注射用水で洗浄した後,メタノール500 μLを添加し,遠心分離で溶出した。窒素気流下で溶媒を留去した後,注射用水2 mL及びアセトニトリル18 mLを添加し,超音波処理にて再溶解した。これを遠心分離した後,上清をLCバイアルに充填した。
【0152】
LC/MS/MS分析は,親水性相互作用超高性能液体クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを組み合わせたものを用いて実施した。質量分析装置(MS/MS装置)として,QTRAP5500(エー・ビー・サイエックス社)を用い,これにHPLC装置として,Nexera X2(島津製作所)をセットした。また,LCカラムとして,Acquity UPLCTM BEH Amide 1.7 μm (2.1 X 150 mm,Waters社)を用いた。移動相として,移動相A及び移動相Bを用いた。また,カラム温度は60℃に設定した。
【0153】
移動相Bでカラムを平衡化した後,5μLの試料を注入し,表3に示す移動相のグラジエント条件で,クロマトグラフィーを実施した。なお,移動相の流量は0.4 mL/分とした。
【0154】
【表3】
【0155】
MS/MS装置のイオン源パラメーターを,QTRAP5500(エー・ビー・サイエックス社)の使用説明書に従って,表4に示すように設定した。
【0156】
【表4】
【0157】
表5にMS内部パラメーターを示す。
【0158】
【表5】
【0159】
検量線試料についてLC/MS/MS分析を行い,検量線試料中のデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸に由来するプロダクトイオンに対応するクロマトグラムチャート上のピークの面積(DS検出ピーク面積及びHS検出ピーク面積)を求めた。また,DS内部標準溶液及びHS内部標準溶液に由来するプロダクトイオンに対応する検出ピークの面積(DS-IS検出ピーク面積及びHS-IS検出ピーク面積)を求めた。
【0160】
各検量線試料におけるDS内部標準溶液に由来する検出ピーク面積に対するデルマタン硫酸に由来する検出ピークの面積(DS検出ピーク面積/DS-IS検出ピーク面積)を縦軸に,各検量線試料のデルマタン硫酸濃度を横軸にとり,二次判別分析を用いて回帰式を得た。
【0161】
各検量線試料における,HS内部標準溶液に由来する検出ピーク面積に対するヘパラン硫酸に由来する検出ピークの面積(HS検出ピーク面積/HS-IS検出ピーク面積)を縦軸に,各検量線試料のヘパラン硫酸濃度を横軸にとり,二次判別分析を用いて回帰式を得た。
【0162】
血液サンプル溶液,CSFサンプル溶液,及び各組織サンプル溶液についてLC/MS/MS分析を行い,サンプル溶液中に含まれるデルマタン硫酸とヘパラン硫酸を回帰式に内挿して定量した。
【0163】
薬効の指標として,各組織におけるHS及びDSの減少作用を表すReduction ratio(%)を用いた。Reduction ratio(%)は,{([KO]-[WT])-([Test article]-[WT])}×100/([KO]-[WT])と定義した。なお,[WT]は正常対照群の平均HS又はDS濃度を,[KO]は病態対照群の平均HS又はDS濃度を,[Test article]は各試験物質投与群の平均HS又はDS濃度をそれぞれ表す。
【0164】
CSF,脳及び脊髄中のHS濃度(μg/mL)及びReduction ratio(%)の測定結果を表6~8に示す。Fab-hI2S-rAAV投与群では,CSF,脳及び脊髄中のHS濃度は,何れにおいても病態対照群と比較して概ねReduction ratio(%)が用量依存的に低下した。これらの結果は,マウスにFab-hI2S-rAAVを静脈注射することにより生体内で発現したFab-hI2Sが,BBBを通過して中枢神経系の組織に到達し,中枢神経系の組織においてhI2Sとしての酵素活性を発揮し,そうして中枢神経系に蓄積したHSを分解したことを示すものである。
【0165】
【表6】
【0166】
【表7】
【0167】
【表8】
【0168】
血漿,肝臓,脾臓,心臓,及び腎臓中のHS濃度(μg/mL)及びDS濃度(μg/mL)及びそれらのReduction ratio(%)を表9~13に,それぞれ示す。Fab-hI2S-rAAV投与群では,これら臓器におけるHS濃度及びDS濃度は病態対照群と比較して,Reduction ratio(%)が概ね用量依存的に低下した。肝臓においては,1.0×1012 vg/kgを超える用量のFab-hI2S-rAAVを投与した場合,HS濃度及びDS濃度のReduction ratioの低下が認められたが,1.0×1012 vg/kgまでの用量では,用量依存的に低下した。これらの結果は,マウスにFab-hI2S-rAAVを静脈注射をすることにより生体内で発現したFab-hI2Sが,中枢神経系のみならず,各種組織においてhI2S活性としての酵素活性を発揮し,そうして各種臓器に蓄積したHS及びDSを分解したことを示すものである。
【0169】
【表9】
【0170】
【表10】
【0171】
【表11】
【0172】
【表12】
【0173】
【表13】
【0174】
以上の結果は,Fab-hI2S-rAAVを静脈注射することにより,生体内で長期に亘りFab-hI2Sを発現させることができ,且つ,発現したFab-hI2Sが,病態モデルマウスの中枢神経系及びその他の組織においてhI2S活性を発揮し,そうして蓄積したHS及びDSを分解できることを示すものであり,Fab-hI2S-rAAVがハンター症候群の治療剤,特にハンター症候群における中枢神経障害の治療剤として有効であることを示すものである。
【0175】
hI2Sに代えて他のリソソーム酵素を組み込んだrAAVビリオンであっても,同様の結果が得られると考えられる。従って,他のリソソーム酵素を組み込んだrAAVビリオンも,当該他のリソソーム酵素の遺伝子異常を原因とする疾患の治療剤として使用できると考えられる。また,hI2Sに代えてサイトカイン等の液性因子,抗体医薬等の所望の蛋白質を組み込んだrAAVビリオンであっても,中枢神経系で当該所望の蛋白質の機能を発揮させることができると考えられるので,これらrAAVビリオンもまた,中枢神経系の異常を伴う疾患の治療剤として使用できると考えられる。
【0176】
〔実施例18〕pAAV-mMAP-Fab-hGLB1ベクターの構築
5’側より,ClaIサイト,マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーター,ニワトリβアクチン/MVMキメライントロン,抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のC末端側にhGLB1が結合した結合体をコードする遺伝子,豚テッショウウイルス由来2Aペプチドをコードする塩基配列,抗hTfR抗体の軽鎖をコードする遺伝子,ウシ成長ホルモンポリA配列,及びBglIIサイトを含む配列番号47で示される塩基配列を含むDNA断片を合成した。このDNA断片をClaIとBglIIで消化した。pAAV-CMVベクター(タカラバイオ社)をClaIとBglIIで消化し,これに上記の制限酵素処理したDNA断片を挿入した。得られたプラスミドをpAAV-mMAP-Fab-hGLB1ベクターとした。pAAV-mMAP-Fab-hGLB1ベクターは,図1で示されるpAAV-mMAP-Fab-hI2Sベクターの符号4で示される部位が,抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のC末端側にhGLB1が結合した結合体をコードする遺伝子に置換され,及び同符号5で示される部位が,豚テッショウウイルス由来2Aペプチドをコードする塩基配列に置換された構造を有する。pAAV-mMAP-Fab-hGLB1ベクターは,上流から順に,第一のAAV-ITRの機能的等価物(配列番号6),マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーター(配列番号8),ニワトリβアクチン/MVMキメライントロン(配列番号9),抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のC末端側にhGLB1が結合した結合体(配列番号48)をコードする遺伝子,豚テッショウウイルス由来2Aペプチドをコードする塩基配列(配列番号49),抗hTfR抗体の軽鎖(配列番号10)をコードする遺伝子,ウシ成長ホルモンpolyAシグナル(配列番号17),第二のAAV-ITRの機能的等価物(配列番号7)を含む構造を有する。更に,pAAV-mMAP-Fab-hGLB1ベクターは,アンピシリン耐性遺伝子及び複製開始点(ColE1 ori)を含む。なおhGLB1はリソソーム酵素の一種であり,hGLB1の遺伝子異常はGM1-ガングリオシドーシスの原因となる。
【0177】
〔実施例19〕Fab-hGLB1遺伝子をコードするrAAVを含むrAAV溶液の調製
pHelperベクター(タカラバイオ社),pR2(mod)C8ベクター,及びpAAV-mMAP-Fab-hGLB1ベクターを含むトランスフェクション用のDNA溶液を用いて,実施例4に記載の方法でFab-hGLB1遺伝子をコードするrAAVビリオンを産生させた。得られたrAAVビリオンをFab-hGLB1-rAAVとした。Fab-hGLB1-rAAVは,細胞に感染させたときに,抗ヒトトランスフェリンレセプター抗体Fab領域重鎖のC末端側にヒトβ-ガラクトシダーゼが結合した結合体と抗ヒトhTfR抗体軽鎖を含む融合蛋白質を発現することが期待されるものである。さらに,実施例5~10に記載の方法に準じてFab-hGLB1遺伝子をコードするrAAVを含むrAAV溶液(Fab-hGLB1-rAAV溶液)を取得した。このFab-hGLB1-rAAV溶液中のウイルスゲノム量を実施例11に記載の方法で測定した。
【0178】
〔実施例20〕GLB1-KO/hTfR-KIマウスを用いたFab-hGLB1-rAAVの薬効評価
Fab-hGLB1-rAAVを生体に投与したときの薬効評価を,実施例12に記載の方法に準じて作製した,GM1-ガングリオシドーシスのモデルマウスであるGLB1-KO/hTfR-KIマウスを用いて行った。GLB1-KO/hTfR-KIマウスは,β-ガラクトシダーゼ(GLB1)遺伝子をホモで欠損し且つキメラTfR遺伝子をヘテロで有するマウスである。GLB1-KO/hTfR-KIマウスは10~12週齢(投与開始時)のものを用いた。実施例19で調製したFab-hGLB1-rAAV溶液をGLB1-KO/hTfR-KIマウスに1.0×1013 vg/kg,及び1.0×1014 vg/kgの用量となるように単回尾静脈内投与した(各群N=3)。また,雄性野生型マウスからなる正常対照群と,雄性GLB1-KO/hTfR-KIマウスからなる病態対照群を置いた(各群N=3)。正常対照群及び病態対照群には生理食塩液(大塚製薬工場社)を投与した。
【0179】
投与から8,15,22日後に,尾静脈より少量の血液をEDTA-2Kコート採血管(キャピジェクト,テルモ社)に採取し,氷上静置後,遠心(2000×g,20分間,4℃)して血漿を回収した。投与から29日後にベトルファール(Meiji Seikaファルマ社)・ミダゾラム(サンド社)・ドミトール(日本全薬工業社)の3剤の混合麻酔下で,大槽より脳脊髄液(Cerebrospinal fluid,CSF)を採取した。次いでマウスを開胸して心採血を行った。血液はEDTA-2Kコート採血管(キャピジェクト,テルモ社)に採取し,氷上静置後,遠心(2000×g,20分間)して血漿を回収した。次いで,生理食塩液(大塚製薬工場社)で全身灌流し,脳,脊髄,肝臓,心臓,腎臓及び脾臓をそれぞれ摘出した。各組織の湿重量を測定した後,素早く液体窒素に浸漬し急速凍結した。
【0180】
〔実施例21〕血漿中のFab-hGLB1の定量
血漿の上清中Fab-hGLB1の濃度測定は,実施例22記載の方法により行った。その結果を表14に示す。Fab-hGLB1濃度は,血漿1 mL当たりに含まれるFab-hGLB1の量(μg/mL血漿)として算出した。
【0181】
Fab-hGLB1-rAAV投与群では,何れの投与量でも投与後8日から投与後29日まで血漿中のFab-hGLB1濃度が上昇した。また,血漿中のFab-hGLB1濃度は投与量依存的に上昇した。これらのデータは,マウスに静脈注射されたFab-hGLB1-rAAVが細胞に取り込まれ,細胞内でhGLB1をコードする遺伝子が転写,翻訳されて発現したhGLB1が,血液中に放出されたことを示す。
【0182】
【表14】
【0183】
〔実施例22〕血漿中のFab-hGLB1の濃度測定
血漿中のFab-hGLB1濃度の測定は概ね下記の方法で実施した。Streptavidin Gold plate(Meso scale diagnostics社)の各ウェルにSuperblock Blocking Buffer in PBS(Thermo Fisher Scientific社)を150 μLずつ添加し,1時間以上振盪してプレートをブロッキングした。次いで,ビオチン化抗hGLB1モノクローナル抗体並びにSULFO化抗hGLB1モノクローナル抗体の混合溶液に,既知濃度のFab-hGLB1を含む検量線用標準試料(Fab-hGLB1検量線用標準試料)及び血漿をそれぞれ加えて1時間以上振盪し抗体反応液とした。なお,抗hGLB1モノクローナル抗体は,配列番号50で示されるアミノ酸配列を有するヒトβ-ガラクトシダーゼで免疫したマウスから取得した脾細胞を用いて常法で作製した抗hGLB1産生ハイブリドーマを培養することにより取得した。得られたモノクロ―ナル抗体の一つをBiotin Labeling Kit-NH2(同仁化学研究所社)を用いて添付のプロトコールに従って修飾しビオチン化抗hGLB1モノクローナル抗体を得た。また,得られたモノクロ―ナル抗体の他の一つをMSD GOLD SULFO-TAG NHS-Ester(Meso scale Diagnostics社)を用いて添付のプロトコールに従って修飾し,SULFO化抗hGLB1モノクローナル抗体を得た。各ウェルからブロッキング溶液を除去し,0.05% Tween 20含有PBS(PBST,Sigma Aldrich社)で洗浄後,各ウェルに抗体反応液を25 μL添加し,1時間以上振盪した。次いで抗体反応液を除去し,PBSTで洗浄後,注射用水(大塚製薬工場社)で1/2に希釈した4 X Read Buffer(Meso scale diagnostics社)を150 μL添加し,SectorTM Imager S600(Meso scale diagnostics社)を用いて各ウェルからの発光量を測定した。Fab-hGLB1検量線用標準試料の測定値から検量線を作成し,これに各検体の測定値を内挿することにより,血漿1 mL当たりに含まれるFab-hGLB1の量(血漿中のFab-hGLB1濃度)を算出した。なお,検量線用標準試料に含まれるFab-hGLB1は,配列番号48で示されるアミノ酸配列を含む抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のC末端にヒトGLB1が結合した結合体と,配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む抗hTfR抗体の軽鎖とからなる融合蛋白質(Fab-hGLB1)を,常法によりCHO細胞に発現させ,取得したものである。
【0184】
〔実施例23〕脳及び脊髄組織中のFab-hGLB1の定量
脳及び脊髄組織中のFab-hGLB1濃度の測定は,実施例20で採取した脳及び脊髄を0.025% Protease Inhibitor Cocktail(Sigma-Aldrich社)を含有するRIPA Buffer(和光純薬工業社)でホモジナイズし,得られたホモジネートを遠心して回収した上清を用いて,実施例22に記載の方法に準じて実施した。Fab-hGLB1濃度は,組織1 g当たりに含まれるFab-hGLB1の量(μg/mg組織)として算出した。脳及び脊髄組織中のFab-hGLB1の濃度測定の結果を表15及び16にそれぞれ示す。脳及び脊髄組織において,Fab-hGLB1-rAAV投与群では,何れの投与量でもFab-hGLB1が検出された。一方,Fab-hGLB1-rAAV非投与群では,GLB1 KOマウスの脳及び脊髄組織において,Fab-hGLB1は検出されなかった。また,Fab-hGLB1濃度は投与量依存的に上昇した。これらのデータは,マウスにFab-hGLB1-rAAVを静脈内注射することにより,Fab-GLB1を中枢神経組織中に分布させることが可能であることを示す。
【0185】
【表15】
【0186】
【表16】
【0187】
〔実施例24〕CSF,脳及び脊髄組織中のlyso-GM1の定量
CSF,血漿,及び各組織中のlyso-GM1の定量は,WO2021/039644に記載の方法で実施した。なお,lyso-GM1は,GLB1によって分解される基質であり,GM1-ガングリオシドーシスの患者の組織内に蓄積する物質である。従って,組織内でのlyso-GM1を定量することにより,GM1-ガングリオシドーシスのモデル動物に投与した薬剤の,当該疾患に対する薬効を評価できる。薬効の指標として,各組織におけるlyso-GM1の減少作用を表すReduction ratio(%)を用いた。Reduction ratio(%)は,{([KO]-[WT])-([Test article]-[WT])}×100/([KO]-[WT])と定義した。なお,[WT]は正常対照群の平均lyso-GM1濃度を,[KO]は病態対照群の平均lyso-GM1濃度を,[Test article]は各試験物質投与群の平均lyso-GM1濃度をそれぞれ表す。
【0188】
CSF,脳及び脊髄中のlyso-GM1濃度の測定結果及びReduction ratio(%)を表17,18及び19にそれぞれ示す。CSF中のlyso-GM1濃度は,CSF1 mL当たりに含まれるlyso-GM1濃度の量(μg/mL CSF)として算出した。脳及び脊髄中のlyso-GM1濃度は,各組織1 mg当たりに含まれるlyso-GM1濃度の量(μg/mg組織)として算出した。Fab-hGLB1-rAAV投与群では,CSF,脳及び脊髄中のlyso-GM1濃度は病態対照群と比較して,何れの投与群においても低下した。これらの結果は,マウスにFab-hGLB1-rAAVを静脈内注射することにより生体内で発現したFab-hGLB1が,BBBを通過して中枢神経系の組織に到達し,中枢神経系の組織においてhGLB1活性を発揮し,そうして中枢神経系に蓄積したlyso-GM1を分解したことを示すものである。
【0189】
【表17】
【0190】
【表18】
【0191】
【表19】
【0192】
また,データは示さないが血漿及び肝臓,心臓,腎臓及び脾臓のlyso-GM1濃度は,何れの投与群においても正常対照群と同程度まで低下した。
【0193】
以上の結果は,Fab-hGLB1-rAAVを静脈注射することにより,生体内で長期に亘りFab-hGLB1を発現させることができ,且つ,発現したFab-hGLB1が,病態モデルマウスの中枢神経系及びその他の組織においてhGLB1活性を発揮し,そうして異常に蓄積したhGLB1の基質を分解できることを示すものであり,Fab- hGLB1-rAAVがGM1-ガングリオシドーシスの治療剤,特にGM1-ガングリオシドーシスにおける中枢神経障害の治療剤として有効であることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明によれば,例えば,リガンドと生理活性を有する蛋白質の融合蛋白質を細胞,組織,又は生体内において発現させることのできる,プラスミドの形態,組換ウイルスビリオンに内包された形態,又はリポソーム,脂質ナノ粒子等に内包された形態の核酸分子を医薬として供給することができる。
【符号の説明】
【0195】
1 第一のAAV-ITRの機能的等価物
2 マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーター
3 ニワトリβアクチン/MVMキメライントロン
4 抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のC末端側にhI2Sが結合した結合体をコードする遺伝子
5 マウス脳心筋炎ウイルスの5'非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位
6 抗hTfR抗体の軽鎖をコードする遺伝子
7 ウシ成長ホルモンpolyAシグナル
8 第二のAAV-ITRの機能的等価物
9 アンピシリン耐性遺伝子
10 複製開始点(ColE1 ori)
11 p5プロモーター
12 AAV2のRep領域
13 AAV8のCap領域
14 エンハンサーとして機能するp5プロモーター
【配列表フリーテキスト】
【0196】
配列番号1:リンカーのアミノ酸配列の一例1
配列番号2:リンカーのアミノ酸配列の一例2
配列番号3:リンカーのアミノ酸配列の一例3
配列番号4:血清型2のAAVの第一の逆方向末端反復(第一のITR)の塩基配列,野生型
配列番号5:血清型2のAAVの第一の逆方向末端反復(第二のITR)の塩基配列,野生型
配列番号6:第一の逆方向末端反復(第一のITR)の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号7:第二の逆方向末端反復(第二のITR)の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号8:マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーターの塩基配列,合成配列
配列番号9:ニワトリβアクチン/MVMキメライントロンの塩基配列,合成配列
配列番号10:マウス脳心筋炎ウイルスの5'非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位の塩基配列の一例
配列番号11:ヒトトランスフェリン受容体のアミノ酸配列
配列番号12:抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のアミノ酸配列の一例
配列番号13:リンカーのアミノ酸配列の一例4
配列番号14:ヒトI2Sのアミノ酸配列
配列番号15:抗hTfR抗体の軽鎖のアミノ酸配列の一例
配列番号16:抗hTfR抗体の重鎖のアミノ酸配列の一例
配列番号17:ウシ成長ホルモンpolyAシグナルの塩基配列
配列番号18:pAAV-mMAP-Fab-hI2Sベクターを作製するために合成したDNA断片の塩基配列,合成配列
配列番号19:pR2(mod)C6ベクターを作製するために合成したDNA断片の塩基配列,合成配列
配列番号20:pR2(mod)C8ベクターを作製するために合成したDNA断片の塩基配列,合成配列
配列番号21:p5プロモーターを含むAAV2のRep領域の塩基配列,合成配列
配列番号22:AAV8のCap領域の塩基配列
配列番号23:p5プロモーターの塩基配列
配列番号24:AAV2のRep領域を含む塩基配列,合成配列
配列番号25:プライマーSI-1の塩基配列,合成配列
配列番号26:プライマーSI-2の塩基配列,合成配列
配列番号27:プローブSI-1の塩基配列,合成配列
配列番号28:プライマーSI-3の塩基配列,合成配列
配列番号29:プライマーSI-4の塩基配列,合成配列
配列番号30:プローブSI-2の塩基配列,合成配列
配列番号31:抗hTfR抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列1
配列番号32:抗hTfR抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列2
配列番号33:抗hTfR抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列1
配列番号34:抗hTfR抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列2
配列番号35:抗hTfR抗体の軽鎖CDR3のアミノ酸配列1
配列番号36:抗hTfR抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列1
配列番号37:抗hTfR抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列2
配列番号38:抗hTfR抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列1
配列番号39:抗hTfR抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列2
配列番号40:抗hTfR抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列1
配列番号41:抗hTfR抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列2
配列番号42:抗hTfR抗体の重鎖のFab領域とヒトI2Sの結合体のアミノ酸配列
配列番号43:第一の長い末端反復(第一のLTR)の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号44:第二の長い末端反復(第二のLTR)の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号45:センダイウイルスゲノムのリーダーの塩基配列
配列番号46:センダイウイルスゲノムのトレイラーの塩基配列
配列番号47:pAAV-mMAP-Fab-hGLB1ベクターを作製するために合成したDNA断片の塩基配列,合成配列
配列番号48:抗hTfR抗体の重鎖のFab領域とヒトβ-ガラクトシダーゼの結合体のアミノ酸配列の一例
配列番号49:豚テッショウウイルス由来2Aペプチドをコードする塩基配列
配列番号50:ヒトβ-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列
図1
図2
【配列表】
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