(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108357
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】金属材の搬送方法
(51)【国際特許分類】
B21B 45/02 20060101AFI20220719BHJP
B21B 39/00 20060101ALI20220719BHJP
B21B 39/18 20060101ALI20220719BHJP
B21B 38/00 20060101ALI20220719BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20220719BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
B21B45/02 320M
B21B39/00 Z
B21B39/18
B21B38/00 C
B21C51/00 E
C21D1/00 112A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003287
(22)【出願日】2021-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻本 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】和田 哲郎
【テーマコード(参考)】
4K034
【Fターム(参考)】
4K034AA09
4K034BA02
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034EB41
4K034GA11
(57)【要約】
【課題】加熱を受けた場所から冷却を受ける場所まで金属材を搬送する間の温度変化による、金属材の曲がりを低減することができる、金属材の搬送方法を提供する。
【解決手段】温度変化によって相変態を起こす金属よりなる長尺状の金属材Mを、加熱部10にて加熱した後、搬送部30によって、冷却部40まで搬送する金属材の搬送方法において、冷却部40は、搬送部30よりも、金属材Mを長手方向に交差する断面内において高い均一性で冷却し、冷却部40に達した際の金属材Mの断面において、相互に離間して金属材Mの表面に位置する第一の点と第二の点とが、金属材Mの連続冷却変態図において、相変態を起こしていない同一の相に対応する領域に収まった均一相状態をとるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化によって相変態を起こす金属よりなる長尺状の金属材を、加熱部にて加熱した後、搬送部によって、冷却部まで搬送する金属材の搬送方法において、
前記冷却部は、前記搬送部よりも、前記金属材を長手方向に交差する断面内において高い均一性で冷却し、
前記冷却部に達した際の前記金属材の前記断面において、相互に離間して前記金属材の表面に位置する第一の点と第二の点における温度が、前記金属材の連続冷却変態図において、相変態を起こしていない同一の相に対応する領域に収まった均一相状態をとることを特徴とする金属材の搬送方法。
【請求項2】
前記第一の点および前記第二の点は、前記断面の重心を挟んで、相互に対向する位置にあることを特徴とする請求項1に記載の金属材の搬送方法。
【請求項3】
前記搬送部は、複数の前記金属材を同時に搬送することができ、
前記搬送部によって同時に搬送される複数の前記金属材について、前記冷却部に達した際の前記金属材の表面における温度が、前記連続冷却変態図において、相変態を起こしていない同一の相に対応する領域に収まっていることを特徴とする請求項1または2に記載の金属材の搬送方法。
【請求項4】
前記搬送部内における前記金属材の滞留を解消する滞留解消制御によって、前記均一相状態を達成することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の金属材の搬送方法。
【請求項5】
前記加熱部と前記搬送部の間に、前記加熱部にて加熱された前記金属材を圧延して前記搬送部に供給する圧延部が設けられており、
前記圧延部によって圧延された前記金属材は、前記搬送部、または前記搬送部とは異なる分岐ラインに、切り替えて供給することができ、
前記圧延部において、複数の前記金属材を連続的に圧延するに際し、前記搬送部に供給する前記金属材と前記分岐ラインに供給する前記金属材の、順序および数量の少なくとも一方を調整することで、前記滞留解消制御を行うことを特徴とする請求項4に記載の金属材の搬送方法。
【請求項6】
前記搬送部によって搬送される前記金属材の表面の温度を計測する温度計測部を設け、前記搬送部内における前記金属材の滞留状況を予測するとともに、その予測された滞留状況と、前記温度計測部によって計測された温度とに基づいて、前記滞留解消制御を行うことを特徴とする請求項4または5に記載の金属材の搬送方法。
【請求項7】
前記搬送部によって搬送される前記金属材に対して、放冷の抑制または加熱を行う保温部を設けることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の金属材の搬送方法。
【請求項8】
前記加熱部における加熱状態を制御することで、前記均一相状態を達成することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の金属材の搬送方法。
【請求項9】
前記冷却部は、前記金属材を、長手方向軸を中心として、3°以上20°以下の角度間隔で周方向に転回させながら、前記長手軸方向に沿って搬送する転回トランスファを備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の金属材の搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の搬送方法に関し、さらに詳しくは、加熱と冷却を経て長尺状の金属材を製造する際に、加熱を行う場所から冷却を行う場所まで金属材を搬送する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延等、加熱を伴う工程を経て、鋼材等、長尺状の金属材を製造する際に、加熱された金属が冷却を受けるのに伴って、金属材に曲がりが生じる場合がある。曲がりを低減する方法の1つとして、曲がりの生じた金属材に対して、ロール矯正機等を用いて、曲がりを補正するという方法が用いられている。
【0003】
金属材の曲がりを低減する別の方法として、加熱された金属材に対して、所定の状態で固定・保持したまま、冷却を行うという方法も用いられている。例えば、特許文献1においては、鋼片を高温を有するレールの形状にする熱間圧延工程の後、高温のレールを常温に至るまで冷却する工程において、レールの温度が所定の温度域にある間、レールが冷却床上で正立状態に保持され、保温や加速冷却のいずれも行うことなく自然に冷却されることが、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、ロール矯正機等を用いた曲がりの補正や、冷却時の固定・保持によって、金属材の曲がりを低減することが可能ではあるが、ロール矯正機等によって機械的に曲がりを補正する場合には、金属材の曲がりの程度によって、矯正能率が変化しやすい。また、外力を加えて曲がりを補正するため、残留応力の変化や表面の硬化等、金属材の物性への影響、また寸法の縮小など、金属材の形状への影響が発生しやすい。
【0006】
一方、特許文献1に記載される方法のように、加熱された鋼材を、所定の状態で固定・保持して冷却する場合には、固定・保持を行うために、時間や場所が必要となってしまう。特に、多数の鋼材を製造する際に、特許文献1に記載されるように、加速冷却を行わずに自然に金属材を冷却するには、長い時間と広い場所が必要となる。
【0007】
鍛造等によって長尺状の金属材を製造する際に、金属材が加熱を受ける場所と、冷却を受ける場所が離れていることが多く、それらの場所の間を、加熱された金属材が、放冷を受けながら、搬送されることになる。本発明者らの検討により、金属材が搬送される間の温度変化の形態が、金属材の曲がりの大きな要因となることが分かった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、加熱を受けた場所から冷却を受ける場所まで金属材を搬送する間の温度変化による、金属材の曲がりを低減することができる、金属材の搬送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる金属材の搬送方法は、温度変化によって相変態を起こす金属よりなる長尺状の金属材を、加熱部にて加熱した後、搬送部によって、冷却部まで搬送する金属材の搬送方法において、前記冷却部は、前記搬送部よりも、前記金属材を長手方向に交差する断面内において高い均一性で冷却し、前記冷却部に達した際の前記金属材の前記断面において、相互に離間して前記金属材の表面に位置する第一の点と第二の点とが、前記金属材の連続冷却変態図において、相変態を起こしていない同一の相に収まった均一相状態をとる、というものである。
【0010】
ここで、前記第一の点および前記第二の点は、前記断面の重心を挟んで、相互に対向する位置にあるとよい。
【0011】
前記搬送部は、複数の前記金属材を同時に搬送することができ、前記搬送部によって同時に搬送される複数の前記金属材について、前記冷却部に達した際の前記金属材の表面における温度が、前記連続冷却変態図において、相変態を起こしていない同一の相に対応する領域に収まっているとよい。
【0012】
前記搬送部内における前記金属材の滞留を解消する滞留解消制御によって、前記均一相状態を達成するとよい。
【0013】
この場合に、前記加熱部と前記搬送部の間に、前記加熱部にて加熱された前記金属材を圧延して前記搬送部に供給する圧延部が設けられており、前記圧延部によって圧延された前記金属材は、前記搬送部、または前記搬送部とは異なる分岐ラインに、切り替えて供給することができ、前記圧延部において、複数の前記金属材を連続的に圧延するに際し、前記搬送部に供給する前記金属材と前記分岐ラインに供給する前記金属材の、順序および数量の少なくとも一方を調整することで、前記滞留解消制御を行うとよい。
【0014】
また、前記搬送部によって搬送される前記金属材の表面の温度を計測する温度計測部を設け、前記搬送部内における前記金属材の滞留状況を予測するとともに、その予測された滞留状況と、前記温度計測部によって計測された温度とに基づいて、前記滞留解消制御を行うとよい。
【0015】
前記搬送部によって搬送される前記金属材に対して、放冷の抑制または加熱を行う保温部を設けるとよい。
【0016】
前記加熱部における加熱状態を制御することで、前記均一相状態を達成するとよい。
【0017】
前記冷却部は、前記金属材を、長手方向軸を中心として、3°以上20°以下の角度間隔で周方向に転回させながら、前記長手軸方向に沿って搬送する転回トランスファを備えるとよい。
【発明の効果】
【0018】
上記発明にかかる金属材の搬送方法においては、搬送部によって金属材が搬送される間に、金属材が放冷を受けるが、搬送部による搬送を終えて冷却部に達した時点で、金属材の断面の相互に離間した場所に位置する第一の点と第二の点が、いずれも、連続冷却変態図において、相変態を起こしていない同一の相に対応する領域に収まっている。つまり、第一の点と第二の点が、相変態を起こしていない同じ相にある状態から、冷却部における冷却を受けることになる。金属材の偏冷却により、断面内で、相変態のタイミングに差が生じると、相変態に伴う膨張・収縮挙動によって、金属材に曲がりが生じやすいが、冷却の均一性の低い搬送部を搬送される間は、断面内の温度勾配を抑え、表面の第一の点と第二の点が同じ相をとるようにすることで、相変態に伴う膨張・収縮による鋼材の曲がりを低減することができる。その状態で、搬送部よりも均一性の高い冷却を行うことができる冷却部に導入することで、曲がりが生じにくい状態で、鋼材の冷却を行うことができる。
【0019】
ここで、第一の点および第二の点が、断面の重心を挟んで、相互に対向する位置にある場合には、そのような位置関係にある2点において大きな温度勾配が存在すれば、金属材の曲がりにつながりやすいが、それら2点の間で、温度勾配を小さく抑え、均一相状態を保つことで、金属材の曲がりを効果的に抑制することができる。
【0020】
搬送部は、複数の金属材を同時に搬送することができ、搬送部によって同時に搬送される複数の金属材について、冷却部に達した際の金属材の表面における温度が、連続冷却変態図において、相変態を起こしていない同一の相に対応する領域に収まっている場合には、搬送部によって同時に搬送される各金属材において、曲がりを抑制することができる。また、物性や製品形状の個体間の分布を小さく抑えることができる。さらに、同時に搬送される複数の金属材について、個体間の温度分布が小さく抑えられていることは、各個体内の温度勾配が小さいことの指標にもなり、個体間の温度分布を小さく抑えることが、各個体の曲がりを小さく抑えることにもつながる。
【0021】
搬送部内における金属材の滞留を解消する滞留解消制御によって、均一相状態を達成する場合には、搬送部内において金属材が長時間滞留し、長時間の放冷を受けることによって、金属材の断面における温度勾配が大きくなること、またそれによって金属材に曲がりが生じることを、回避しやすくなる。
【0022】
この場合に、加熱部と搬送部の間に、加熱部にて加熱された金属材を圧延して搬送部に供給する圧延部が設けられており、圧延部によって圧延された金属材を、搬送部、または搬送部とは異なる分岐ラインに、切り替えて供給することができ、圧延部において、複数の金属材を連続的に圧延するに際し、搬送部に供給する金属材と分岐ラインに供給する金属材の、順序および数量の少なくとも一方を調整することで、滞留解消制御を行う構成によれば、分岐ラインへの金属材の振り分けを利用して、搬送部における金属材の滞留を効果的に抑制することができる。例えば、搬送部において金属材の滞留が予測される場合には、分岐ラインに多くの金属材が供給されるように、搬送部および分岐ラインに振り分けて金属材を供給する順序や数量を調整することで、搬送部に金属材が供給される時間間隔を長くし、搬送部における金属材の滞留を防止することができる。
【0023】
また、搬送部によって搬送される金属材の表面の温度を計測する温度計測部を設け、搬送部内における金属材の滞留状況を予測するとともに、その予測された滞留状況と、温度計測部によって計測された温度とに基づいて、滞留解消制御を行う構成によれば、実際に金属材の温度を監視しながら滞留解消制御を行うことにより、また、金属材の滞留状況をあらかじめ予測することにより、搬送部における金属材料の滞留の抑制によって、金属材の断面の温度勾配を、効果的に低減させることができる。
【0024】
搬送部によって搬送される金属材に対して、放冷の抑制または加熱を行う保温部を設ける場合には、搬送部によって搬送される間の金属材の放冷の速度が低減されるので、搬送中に、金属材の断面に温度勾配が生じにくくなる。
【0025】
加熱部における加熱状態を制御することで、均一相状態を達成する場合には、例えば、金属材を高温に加熱した状態で搬送部に導入することで、金属材の温度が高い状態で、搬送部での搬送を行うことができる。これにより、冷却部に達した時点でも、金属材の表面を、冷却に伴う相変態の影響が少ない状態に維持しやすくなる。
【0026】
冷却部が、金属材を、長手方向軸を中心として、3°以上20°以下の角度間隔で周方向に転回させながら、長手軸方向に沿って搬送する転回トランスファを備える場合には、金属材を高い均一性をもって冷却しながら、搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる金属材の搬送方法を実施する圧延ラインの一例を示すブロック図である。
【
図2】(a)は、搬送部における鋼材の状態を示す図である。(b)は、鋼材における温度勾配を示す図であり、(c)は、その温度勾配による鋼材の曲がりを示す図である。
【
図3】連続冷却変態図を説明するモデル図であり、相Aと相Bの間の相境界Lをまたいで、2つの冷却曲線C1,C2に従って冷却する形態を示している。
【
図4】(a)曲がりを生じていない鋼材(試料1)および(b)曲がりを生じた鋼材(試料2)について、各部の硬さの測定結果を示す図である。硬さの単位は、HRCである。
【
図5】試料1および試料2の断面の各部の、光学顕微鏡によるミクロ組織観察像である。各像に付した符号は、
図4中に符号で示した測定位置と対応している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態にかかる金属材の搬送方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の一実施形態にかかる金属材の搬送方法(以下単に、搬送方法と称する場合がある)においては、鋼材をはじめとする長尺状の金属材を、熱間圧延等によって加熱を受けた場所から、冷却を受ける場所まで搬送するものである。
【0029】
ここで、本実施形態にかかる搬送法によって搬送する金属材としては、以下では鋼材を例に説明するが、鋼材に限るものではなく、温度変化によって相変態を起こす金属よりなるものであれば、どのようなものでも構わない。また、以下では、相変態の具体例として、γ相からパーライト相への相変態であるパーライト変態(γ→P変態)を挙げているが、相変態の種類も、特に限定されない。また、着目している相変態(ここではパーライト変態)以外に、別の相変態を、着目している条件(温度・冷却速度等)と別の条件において起こすものであっても構わない。別の相変態として、γ相からベイナイト組織が形成されるベイナイト変態(γ→B変態)を挙げることができる。
【0030】
[圧延ラインの概要]
最初に、本発明の一実施形態にかかる搬送方法を実施することができる装置として、圧延ラインの一例について、概要を説明する。圧延ラインにおいては、鋼片を加熱して圧延し、切断等の処理を行いながら搬送を行い、最終的に冷却を行うものである。
【0031】
図1に、圧延ライン1の概略を示す。圧延ライン1は、加熱部10と、圧延部20と、搬送部30および冷却部40よりなる精整部と、を有している。
【0032】
加熱部10は、加熱炉より構成され、鋼片を、鋼種ごとに必要な所定の温度まで加熱する。そして、加熱された鋼片に対して、圧延部20において、圧延を行う。圧延部20においては、粗列圧延機、中間列圧延機、仕上列圧延機(いずれも図略)によって、多段の圧延を行い、さらに、圧延によって得られた鋼材Mに対して、分割装置22によって、分割・切断を行う。
【0033】
圧延部20における圧延と分割を経た鋼材Mは、搬送部30に導入される。搬送部30の途中には、2台の切断機32,34が設けられており、圧延部20から導入された長尺状の鋼材Mは、搬送部30を搬送される間に、所定の長さに切断される。
【0034】
搬送路30は、鋼材Mの長手方向軸を搬送方向Dに略平行に配置した状態で、鋼材Mを搬送方向Dに沿って搬送する。搬送部30は、
図2(a)に示すように、複数本の鋼材Mを、搬送方向Dに交差する幅方向に並べた状態で、搬送を行うことができる。搬送部30は、搬送面30aの幅方向両側に、搬送面30aから上方に立ち上がった側壁30bを有している。
【0035】
所定の長さへの切断を受けながら、搬送部30によって搬送された鋼材Mは、冷却部としての転回トランスファ40に導入される。転回トランスファ40は、搬送方向Dに略垂直に長手方向軸を向けた鋼材Mを、長手方向軸を中心として、周方向に転回させながら、搬送方向Dに沿って搬送する。この搬送中に、鋼材Mが冷却を受ける。鋼材Mの転回は、所定の角度間隔で行われる。転回トランスファ40においては、鋼材Mを転回させながら鋼材Mの搬送を行うことにより、また、複数の鋼材Mを相互に離間させた状態で搬送を行うことにより、搬送部30において鋼材Mが放冷される際よりも、鋼材Mの長手方向に交差する断面内、つまり、周方向において、高い均一性をもって、鋼材Mの冷却を行うことができる。なお、鋼材Mの転回にかかる角度間隔は、鋼材Mの長手方向軸を中心として、周方向に沿って高い均一性をもって冷却を行うことを考慮して、好ましくは3°~20°の範囲、より好ましくは4°~10°の範囲とすればよく、例えば6°とされる。
【0036】
転回トランスファ40によって、冷却されながら搬送された鋼材Mは、集積部60で集積される。そして、適宜、ロール矯正機による形状の補正等、後段の処理を受けることになる。
【0037】
さらに、圧延ライン1においては、圧延部20から搬送部30へと続くラインから分岐して、搬送部30とは異なる分岐ライン50が設けられている。分岐ライン50は、圧延部20内で分岐し、搬送部30と並走しており、分岐部以降の図示は省略するが、搬送部30とは独立して、鋼材Mの搬送や切断、冷却を行うことができる。分岐ライン50が分岐する箇所には、ライン切り替え部51が設けられており、圧延部20によって圧延された鋼材20を、ライン切り替え部51によって、搬送部30または分岐ライン50に、相互に切り替えて供給することができる。例えば、圧延部20から搬送部30に至るラインが、所定よりも大きい径に圧延された圧延材を処理する太丸ラインとして構成される場合に、分岐ライン50を、所定よりも小さい径に圧延された圧延材を処理する細丸ラインとして、構成することができる。
【0038】
[圧延ラインにおける鋼材の温度変化]
次に、上記で説明した圧延ライン1の各部における鋼材Mの温度変化と、その影響について説明する。
【0039】
ここでは、
図3に模式的に示した連続冷却変態図に基づいて、説明を行う。ここでは、金属組織の相として、相Aおよび相Bを想定する。相Aの方が相Bよりも高温で生成する相であり、高温に加熱された鋼片Mの各部が、冷却曲線に沿って冷却を受ける際に、温度の低下に伴って相Aと相Bの間の相境界Lを超えると、相Aから相Bへの相変態を起こす。上記のように、相Aおよび相Bに対応する具体的な相は特に限定されるものではなく、相変態によって鋼材Mに変形や物性の分布を生じさせるものとして着目する2つの相を、相Aおよび相Bとして想定すればよい。ここでは、例として、相Aがγ相であり、相Bがパーライト相である場合を想定している。
【0040】
上記のように、加熱部10において、原料となる鋼片を十分に加熱した状態で、圧延部20に導入する。加熱部10における加熱温度は、圧延部20における圧延および分割を経て、搬送部30に導入される時点において、鋼材Mの温度が、全域において、相Aに対応する領域に収まるように、設定されている。よって、鋼材Mは、搬送部30に導入される時点において、全域が相Aをとっている。なお、搬送部30に入る時点で、鋼材Mの全域が相Aをとっていれば、加熱部10を出た後に、冷却により、既に何らかの相変態を経て相Aに至ったものであってもよい。
【0041】
圧延部20から搬送部30に導入された鋼材Mは、搬送部30において搬送、切断される間に、放冷を受ける。しかし、本実施形態にかかる搬送方法においては、搬送部30による搬送を終え、冷却部40に導入される時点での鋼材Mが、均一相状態をとっている。均一相状態とは、鋼材Mの断面において、相互に離間して鋼材Mの表面に位置する第一の点と第二の点とが、鋼材Mの連続冷却変態図(CCT図)において、相変態を起こしていない同一の相に対応する領域に収まった状態を指す。ここで、相変態を起こしていない相とは、着目している相変態を起こしていない相を意味する。
図3においては、相境界Lをまたいだ相Bへの相変態を起こしていない相Aに対応する領域に、第一の点と第二の点がともに収まっている状態が、均一相状態となる。
【0042】
図3のCCT図において、ある冷却速度での冷却を表す冷却曲線C1と、それよりも大きい別の冷却速度での冷却を表す冷却曲線C2を設定し、相Aをとる温度まで加熱した鋼材Mを、冷却曲線C1と冷却曲線C2の間の冷却速度で冷却することを想定する。冷却曲線C2の方が、冷却曲線C1よりも早い時間で相境界Lと交差しており、冷却曲線C2に沿って冷却を行う場合には、冷却曲線C1に沿って冷却を行う場合と比べて、経過時間が短くても、相Aから相Bへの相変態が起こってしまうことになる。
【0043】
本実施形態の均一相状態においては、鋼材Mが搬送部30において搬送と切断を受ける間に、相互に離間して鋼材Mの表面に位置する第一の点と第二の点が、CCT図において、同じ相Aに対応する領域に留まる。つまり、冷却曲線C1と冷却曲線C2の間の冷却速度で冷却を行う際に、鋼材表面の第一の点および第二の点の両方において、相境界Lをまたいで相Bに対応する領域に入る事態が起こらないようにする。例えば、第一の点が冷却曲線C1に沿って冷却され、第二の点が冷却曲線C2に沿って冷却される場合に、時間t1においては、第一の点および第二の点がともに相Aに対応する領域にあり(交点p1,p2)、均一相状態をとっている。一方、時間t1よりも遅い時間t2においては、第一の点は相Aに対応する領域に留まっているが(交点p3)、第二の点は相境界Lを越えて相Bに対応する領域に入っており(交点p4)、均一相状態にはない。
【0044】
圧延ライン1において、加熱部10で加熱された鋼材Mが、搬送部30によって搬送される間に、放冷を受ける。放冷を受けても、CCT図において、相Aに対応する領域に留まっていれば、相Aから相Bへの相変態を起こさないが、相Bに対応する領域内の温度にまで放冷されてしまうと、相Bへの相変態を起こすことになる。この際、放冷が、鋼材Mの長手方向に交差する断面において、不均一に起こると(偏冷却)、同一断面内の一部の部位では、相Aに対応する領域に留まり、相変態を起こさずに、相Aを維持するが、別の部位では、相Bに対応する領域に移行し、相変態を起こして、相Bをとるようになる、という事態が起こりうる。すると、同一断面内に、異なる相の組織が共存することになる。断面の中心から外側に向かって対称に相が分布するのであれば、相の分布が鋼材Mの変形にはつながりにくいが、断面の中心に対して非対称に相の分布が生じていると、相変態前後の各相、ここでは相Aと相Bの結晶構造の違いにより、鋼材Mに、局所的な収縮や膨張が起こり、曲がり等の変形が生じる場合がある。また、鋼材Mの表面において、部位に応じて、硬さ等の物性に分布が生じる場合がある。
【0045】
しかし、本実施形態にかかる搬送方法においては、同一断面内で、相互に離間して鋼材Mの表面に位置する第一の点と第二の点が、ともに相Aに対応する領域に留まる均一相状態にあることにより、搬送部30によって搬送される間に、鋼材Mの長手方向に交差する断面内で、相の分布が発生しにくい。その結果、相の分布に起因する曲がり等の変形や物性の分布を生じにくい。
図3の時間t2のように、断面のうち、冷却速度が相対的に速い一部の領域で、相境界Lを越えて、相Bに入ってしまう時間まで、搬送部30での搬送を終えられない場合には、断面内に不均一な相の分布が発生してしまう。しかし、時間t1のように、冷却曲線C1と冷却曲線C2の間の冷却速度をとる断面の全域で、相Aに留まる時間内に搬送部30での搬送を終えることができれば、断面内に相の分布が発生しにくい。
【0046】
搬送部30によって搬送される間に、鋼材Mの断面において、相の不均一な分布が形成されないまま、鋼材Mが冷却部40に導入されれば、冷却部40は、搬送部30よりも鋼材Mに対する冷却の均一性が高いので、鋼材Mの断面の全域が、高い均一性をもって冷却されることになる。すると、鋼材Mの断面全域で、相変態が、高い均一性をもって進行する。この場合には、鋼材Mに、曲がり等の変形や、物性の分布が生じにくい。
【0047】
鋼材Mにおいて、均一相状態を充足しているかどうかを判定する第一の点および第二の点は、鋼材Mの長手方向軸に交差する断面内で、鋼材Mの表面に、相互に離間して設けられていれば、どのように設定されても構わないが、
図4に示す点aと点cのように、断面の重心(点b)を挟んで、相互に対向する位置に設定されていることが好ましい。
図2(a)に示されるような搬送部30での搬送の形態に起因して、それら重心を挟んで対向する部位の間に、最も温度の差が生じやすいからである。また、そのような2点は、1つの断面において最も離れている点であり、それらの点の間に温度勾配があれば、鋼材Mの大きな曲がりにつながりやすい。一方、それらの点が均一相状態を満たしていれば、その断面における鋼材表面全体で、温度分布の均一性が高くなっている蓋然性が高いと言える。好ましくは、ある断面において、第一の点および第二の点をどのように設定しても、均一相状態を充足するものであるとよい。また、1本の鋼材Mにおいて、任意に断面をとった際に、いずれの断面においても、均一相状態を充足するとよい。
【0048】
ここで、鋼材において代表的に生じる温度勾配について説明する。
図2(a)に示すように、搬送部30において、鋼材Mが長手方向を搬送方向Dに向けて搬送される際に、複数の鋼材Mが、搬送面30aの幅方向に並んだ状態にある場合が多い。この場合に、1本の鋼材Mの中で、鋼材Mの並び列の内側に向いた部位、つまり側壁30bから離れた部位である対内部M1においては、他の鋼材Mと接触または近接している効果により、放冷が起こりにくい。一方、鋼材Mの並び列の外側に向いた部位、つまり側壁30bに近い部位である対外部M2においては、対内部M1よりも放冷が起こりやすい。
【0049】
これにより、
図2(b)に示すように、1本の鋼材Mにおいて、長手方向に交差する断面の中で、対内部M1が高温、対外部M2が低温になった温度勾配が生じてしまう。この温度勾配によって、高温に保たれた対内部M1は、CCT曲線において、相Aに対応する領域に留まり、相Aを維持する一方で、低温まで放冷された対外部M2は、相境界Lを越えて相Bに対応する領域に入り、相Bへと変態することがありうる。すると、上記のように、鋼材Mの断面内で、相Aをとる領域と、相Bをとる領域とが共存することになる。その結果、相Aと相Bの結晶構造の違いにより、対内部M1と対外部M2で、材料の収縮挙動に差が生じ、鋼材Mに曲がりが発生する可能性がある。例えば、相Aがγ相であり、相Bがパーライト相である場合に、
図2(c)のように、相A(γ相)を維持する対内部M1では、材料の収縮が起こらないのに対し、相B(パーライト相)をとる対外部M2では、材料の収縮Sが起こる。γ相のfcc格子に比べて、パーライト相に含まれるbcc格子の格子定数が小さいからである。このような局所的な収縮Sが起こると、収縮Sを起こした側を内側にして、鋼材Mが曲がりを生じることになる。
【0050】
搬送部30において鋼材Mが搬送される間に、このような相の分布による曲がりを生じると、その後冷却部40においてさらに相変態が進行したとしても、その曲がりの少なくとも一部が維持される場合が多い。先に相変態を生じた組織による収縮(または膨張)によって、未変態の組織部に引張(または収縮)の応力が掛かり、後から相変態を起こす組織は、その応力の影響を解消する形で相変態することになるからである。このように鋼材Mに曲がりが残存すると、ロール矯正機等を用いて、曲がりを機械的に補正する必要が生じる。曲がりが大きい場合には、ロール矯正機等に鋼材Mを設置することすら困難になる場合がある。鋼材Mの断面内での相の分布は、鋼材Mの曲がりだけではなく、鋼材Mの表面における硬さ等の物性の分布にもつながる。
【0051】
特に、搬送部30において、複数の鋼材Mの並び列の最も外側に位置する鋼材Mにおいては、対外部M2に隣接して、加熱された鋼材Mが存在せず、
図2(b),(c)に示すように、対外部M2が直接、低温の側壁30bに接触または隣接することになる。すると、対内部M1と対外部M2の間での温度の差が大きくなり、曲がりや物性の分布も顕著となりやすい。
【0052】
しかし、本実施形態にかかる搬送方法においては、1本の鋼材Mの断面の中で、対内部M1と対外部M2が、ともに、CCT図において、相Aに対応する領域にある状態のまま、搬送部30における搬送を行う。これにより、鋼材Mが搬送部30を搬送される間に、
図2(b)のような温度勾配が生じにくい。その結果、温度勾配に起因して、
図2(c)に示すような鋼材Mの曲がりや、鋼材Mの表面における硬さ等の物性の分布が生じにくくなる。
【0053】
対内部M1、対外部M2ともに相Aに対応する領域にあるままで、搬送部30を搬送された鋼材Mが、冷却部40に導入され、搬送部30におけるよりも高い均一性で冷却を受けると、対内部M1、対外部M2ともに、相変態を起こす。冷却部40にて起こす相変態は、搬送部30において避けるべき相変態(相Aから相Bへの変態;例示ではパーライト変態)そのものあっても、他の相変態(例えばベイナイト変態)であってもよい。冷却部40においては、その冷却の均一性の高さにより、上記対内部M1と対外部M2のように、表面の相互に離間した領域の間で、温度勾配、およびそれに起因する相の分布を生じにくい。よって、冷却部40における冷却では、鋼材Mの曲がりや、鋼材Mの表面における物性の分布が生じにくい。よって、搬送部30において、鋼材Mの表面における温度勾配を抑制し、曲がりや物性の分布を抑えることで、圧延ライン1において最終的に製造される鋼材Mにおいて、曲がりや物性の分布を小さく抑えることができる。
【0054】
もし、搬送部30によって搬送される間に、鋼材Mが均一温度状態を維持することができず、表面の一部の領域が相変態を起こすことで、鋼材Mに、曲がりや表面の物性の分布が生じたとしても、ロール矯正機等を用いて、曲がりを解消または低減できる場合もある。しかし、外観としての曲がりを解消できたとしても、鋼材Mの表面において、相の不均一な分布、またそれによって生じた硬さ等の物性の分布は、解消することができない。よって、外観に曲がりのない鋼材Mであっても、組織の観察や物性の評価を行えば、搬送部30での搬送中に、均一温度状態が維持されていたかどうかを、評価することができる。
【0055】
上記のように、本実施形態にかかる搬送方法においては、1本の鋼材Mの中で、断面において相互に離間して鋼材Mの表面に位置する第一の点と第二の点とが、ともに相Aに対応する領域にあるようにしているが、搬送部30を複数の鋼材Mが同時に並んで搬送される際に、それら複数の鋼材Mの各個体の表面が、搬送部30による搬送を終え、冷却部40に導入される時点で、相変態を起こしていない同一の相(
図3の相A)に対応する領域にあるとよい。これにより、搬送部30で搬送される際の並び列の内側に位置するものと外側に位置するものの間等、鋼材Mの個体間での表面の温度の分布を小さく抑え、個体間の形状や特性のばらつきの少ない鋼材Mを製造することができる。また、個体間での表面温度の分布が小さくなっていることで、各個体内での表面温度の勾配も小さくなっている蓋然性が高くなる。個体ごとに、表面の1点、または上記第一の点と第二の点のように、複数の点において、温度を評価し、その値を個体間で比較して、いずれも同一の相に対応する領域内にあればよい。
【0056】
[均一相状態を達成する手段]
以上のように、本実施形態にかかる搬送方法においては、搬送部30によって鋼材Mを搬送する間に、鋼材Mの長手方向に交差する断面において、相互に離間して鋼材Mの表面に位置する第一の点と第二の点が、ともに相変態を起こしていない同一の相に対応する領域にある均一相状態を維持することで、鋼材Mの曲がりや表面における物性の分布を小さく抑える。この均一相状態を達成するための手段は特に限定されるものではないが、以下のような手段を例示することができる。各手段は、組み合わせて適用することもできる。
【0057】
(1)滞留解消制御
鋼材Mが搬送部30に滞在する時間が長くなると、鋼材Mが長時間放冷を受けることで、鋼材Mの表面の各部において、CCT図中の相をまたいだ移行(
図3の相Aから相Bへの移行)が起こりやすくなる。そこで、搬送部30における鋼材Mの滞在時間を短くすることが好ましい。そのためには、例えば、搬送部30に鋼材Mが導入される前の圧延部20での圧延の段階にて、別のラインへと鋼材Mを振り分けられるようにしておき、その振り分けを利用すること等により、搬送部30において、鋼材Mの滞留を解消することが有効となる。
【0058】
搬送部30における鋼材Mの滞留とは、鋼材Mの搬送が一時的に進まない状態、あるいは搬送速度が一時的に遅くなる状態である。搬送部30における鋼材Mの滞留は、例えば、多数の鋼材Mが順次搬送部30に供給される際に、搬送部30の途中に設けられた切断機32,34での鋼材Mの切断に時間を要することによって生じる。上記で説明した圧延ライン1のように、圧延部20で圧延された鋼材Mを、搬送部30と分岐ライン50に切り替えて供給することができれば、分岐ライン50への鋼材Mの振り分けを利用して、搬送部30における鋼材Mの滞留を緩和することができる。圧延部20において、多数の鋼材Mを連続的に圧延するに際し、搬送部30において鋼材Mの滞留が起こらないように、搬送部30に供給する鋼材Mと分岐ライン50に供給する鋼材Mの順序および数量の少なくとも一方を調整すればよい。つまり、どのような順番で、圧延された鋼材Mを搬送部30と分岐ライン50のそれぞれに供給するのか、またそれぞれに連続して供給する鋼材Mの数量を何本とするのかについて、計画を策定すればよい。
【0059】
例えば、搬送部30が太丸ラインを構成し、分岐ライン50が細丸ラインとなっている場合に、分岐ライン50への鋼材Mの振り分けを利用して、搬送部30における滞留を回避できるように、搬送部30に供給されるべき大径の圧延材と、分岐ライン50に供給されるべき小径の圧延材を製造する順番および数量を、圧延部20において設定し、またライン切り替え部51の動作を制御すればよい。なお、細丸ラインにおいては、太丸ラインよりも、処理する鋼材Mの径が細いことから、放冷の進行が速く、多くの場合、鋼材Mが切断を受けるよりも前に、不均一な相の分布を生じうる冷却を受ける。よって、細丸ラインにおいては、切断機よりも前に、太丸ラインの転回トランスファ40と同様の転回トランスファが備えられるか、特許文献1に開示されたもののように、鋼材を所定の形状に保持できる設備が備えられることが好ましい。
【0060】
以上のような、圧延順の調整を利用した滞留の解消としては、搬送部30内における鋼材Mの滞留状況を、あらかじめ、圧延前の段階にて予測して、予防的に滞留の解消を行うことが好ましい。つまり、鋼材Mをどのような本数で搬送部30に供給すれば、どの程度の滞留が搬送部30において起こるのかという情報を、経験等に基づいて、あらかじめ蓄積しておく。そして、ある時点において、搬送部30において搬送されている鋼材Mの本数の情報を参照して、次以降に予定している鋼材Mの供給によって、搬送部30において滞留が起こるかどうかを、予測すればよい。そして、滞留が発生することが予測される場合に、圧延順の調整による滞留解消を行えばよい。
【0061】
鋼材Mの滞留状況の予測は、搬送部30における鋼材Mの表面の温度の計測と組み合わせて行うことが好ましい。搬送部30における滞留の解消は、搬送部30によって搬送される鋼材Mが均一相状態を保てるように行う必要があり、鋼材Mの鋼種や寸法、温度、CCT曲線の具体的な形態等によって、均一相状態を保つのが比較的困難である場合には、わずかな滞留でも効率的に解消する必要がある。一方、鋼材Mの製造効率を維持する観点から、滞留の解消は、均一相状態の維持に必要となる範囲内に留めておくことが好ましく、均一相状態を保つのが比較的容易な場合には、滞留の解消をそれほど厳密に行わない方がよい。つまり、鋼材Mの表面の温度を実測しながら、要求される均一相状態と比較し、その均一相状態を維持または達成するためには、どの程度の滞留解消が必要となるのか、見積もることで、均一相状態の充足に必要十分な範囲で、滞留解消を行うことができる。
【0062】
鋼材Mの表面の温度を計測するためには、搬送部30に、温度計測部を設けておけばよい。温度計測部は、搬送部30のどの位置に設けてもよいが、鋼材Mが、搬送部30による搬送を終え、冷却部40に導入される時点で、均一相状態を充足していることが重要であるので、少なくとも、搬送部30のラインにおいて、冷却部40の直前の領域の近傍に、温度計測部を設けることが好ましい。温度計測部は、金属材料の表面温度を計測できるものであれば、どのような種類のものであってもかまわないが、放射温度計等、非接触にて、金属表面の複数箇所の温度を計測できるものであることが好ましい。
【0063】
(2)保温部の設置
搬送部30において、鋼材Mの放冷速度を低下させ、放冷を起こりにくくすれば、搬送中に、均一相状態を維持しやすくなる。そこで、搬送部30に、鋼材Mに対して、放冷の抑制または加熱を行うことができる保温部を設けることが考えられる。
【0064】
具体的な保温部の構成としては、搬送部30の外周を取り囲んで、保温フードを設けることが考えられる。すると、鋼材Mが外気と接することによる熱伝達損失を軽減でき、また輻射によって失われる熱を搬送部30に閉じ込めることができるので、鋼材Mの放冷速度を低下させることができる。
【0065】
保温フードの代わりに、あるいは保温フードに加えて、搬送部30の途中に、再加熱ヒータを設けることも考えられる。高温の状態で搬送部30に導入された鋼材Mが、搬送部30で搬送される間に、均一相状態を充足する範囲内で放冷を受けたとしても、搬送の途中で再度加熱を行うことで、鋼材Mを再び高温の状態として、以降の搬送過程において、均一相状態を維持しやすくできる。また、再加熱ヒータを用いる場合に、加熱の程度の制御は、上記の滞留解消制御と同様に、搬送部30に設けた温度計測手段による鋼材M表面の温度計測の結果を参照して行うことが好ましい。
【0066】
(3)加熱状態の制御
搬送部30に導入された時点での鋼材Mの温度が十分に高ければ、搬送部30によって搬送される間に放冷を受けても、最終的に冷却部40に導入される時点での鋼材Mの各部の温度が高くなり、均一相状態を達成しやすい。加熱部10において高温に加熱した状態で、圧延部20における圧延および分割・切断を行えば、搬送部30に導入される時点での鋼材Mの温度も上げることができる。
【0067】
このように、加熱部10における鋼材Mの加熱状態を制御することで、搬送部30を搬送される鋼材Mにおいて、均一相状態を達成することが考えられる。この際に、加熱温度等、加熱部10における具体的な加熱条件の設定は、上記の滞留解消制御と同様に、搬送部30に設けた温度計測手段による鋼材M表面の温度計測の結果を参照して行うことが好ましい。
【実施例0068】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0069】
<試験方法>
図1に示したような圧延ラインを用いて、鋼種SCM435よりなる鋼材の圧延、切断、冷却を行った。この際、第二の切断機(34)での切断後の位置、および転回トランスファ(40)の入口の位置において、鋼材の表面の温度を、任意に選択した表面の1点において、測定した。
【0070】
転回トランスファでの冷却を完了した後の鋼材について、外観を目視観察して、曲がりの有無を評価した。曲がりが生じていない鋼材を試料1、曲がりの生じた鋼材を試料2として、抽出した。
【0071】
そして、試料1,2のそれぞれについて、長手方向に沿って切断し、断面において、硬さの測定と、組織の観察を行った。
【0072】
硬さの測定には、ロックウェルCスケールを用いた。測定は、
図4に示すように、試料1,2のそれぞれについて、断面の中心(重心;点b,e)と、その中心を挟んで相互に対向する鋼材表面の2点において行った(点a,c,d,f)。ここで、鋼材に曲がりが生じている試料2については、点dが曲がりの内側、点fが曲がりの外側に当たる。
【0073】
組織の観察は、光学顕微鏡によるミクロ組織観察によって行った。観察は、試料1,2のそれぞれについて、上記で硬さを測定した点a~fに対応する位置で行った。
【0074】
<試験結果>
圧延ラインにて測定した温度は、曲がりの生じていない試料1については、第二の切断機の位置で690℃、転回トランスファ入口の位置で645℃であった。曲がりの生じている試料2については、第二の切断機の位置で570℃、転回トランスファ入口の位置で520℃であった。このように、いずれの位置においても、試料1の温度が試料2よりも高くなっている。
【0075】
図4に、試料1(a)および試料2(b)の断面の各位置における硬さの測定結果を数値で示す(単位:HRC)。これによると、試料1では、表面の硬さが、点aと点cでほぼ同じになっている。また、これら表面における硬さが、中心の点bにおける硬さよりも高くなっている。一方、試料2では、表面の硬さが、点dと点fの間で大きく異なっている。つまり、曲がりの内側の点dの硬さが、曲がりの外側の点fの硬さよりも低くなっている。また、これら表面における硬さ、特に点dにおける硬さが、試料1の場合ほどは、中心の点eに比べて高くなっていない。
【0076】
図5に、試料1,2の各点における、光学顕微鏡によるミクロ組織観観察像を示す。試料1においては、表面の点aと点cで、同様の観察像が得られている。これらの、細長い結晶が多数見られる組織は、ベイナイト相に対応付けることができる。中心の点bにおいては、観察像の表示は省略するが、表面よりもフェライトが増加したベイナイトが生成している。
【0077】
一方、試料2においては、表面の点dと点fで、観察像の状態が異なっている。つまり、点fでは、大部分を細長い結晶を有するベイナイト相が占め、わずかに塊状のフェライトが観察されている。これに対し、点dの観察像は、フェライト相とパーライト相が主として占めていることから、フェライト・パーライト組織に対応付けることができる。中心の点eにおいては、観察像の表示は省略するが、試料1の点bと同様に、ベイナイト組織が生成している。ただし、フェライトの割合は、試料1の点bよりも増加している。
【0078】
以上のように、搬送中の表面温度が高かった試料1においては、鋼材に曲がりが生じておらず、表面の2つの観測点で、相互に非常に近い硬度と組織が得られた。組織としては、鋼材の中心では、一部フェライトを含むベイナイト相が生じているのに対し、表面では、ベイナイト相が、位置によらず均一に生じている。その結果として、表面において、中心よりも高い硬度が均一に得られている。また、鋼材に曲がりが生じていない。搬送中の表面の温度が高いことで、表面における温度の勾配が小さくなっていると推定され、その結果として、搬送部での搬送中に、表面の温度勾配による不均一な相変態が起こっておらず、転回トランスファに移動してから、表面で均一にベイナイト相への相変態が起こったものと考えらえる。
【0079】
一方、搬送中の表面温度が低かった試料2においては、鋼材に曲がりが生じており、曲がりの内側と外側で、硬度および組織の状態が大きく異なっている。組織としては、曲がりの外側ではベイナイトを主とし、わずかにフェライトを含む組織が得られたのに対し、曲がりの内側では、フェライト・パーライトが主となっている。その結果、特に曲がりの内側の表面において、フェライトを多く含むベイナイト相よりなる中心部よりも、硬度が低くなっている。搬送中の表面の温度が低いことで、表面における温度の勾配が大きくなっていると推定され、その結果として、表面において、温度が低くなった部位でのみ、搬送部での搬送中に、パーライト変態が起こったと考えられる。その後、転回トランスファでの冷却を経て、搬送部でパーライト変態が起こった部位においては、フェライト・パーライト組織が形成され、パーライト変態が起こらなかった部位においては、ベイナイトを主とし、わずかにフェライトを含む組織が形成されたと考えられる。この組織の分布により、パーライト変態を経た部位が、低硬度を示すとともに、収縮を起こし、この部位を内側とする曲がりが鋼材に生じたものと解釈される。
【0080】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。上記では、金属材としてSCM435等の鋼材を想定し、相Aをγ相、相Bをパーライト相として、相変態がパーライト変態である場合を扱ったが、これに限らず、金属材の種類や、圧延時の条件、搬送部の構成等に応じて、搬送中に発生する可能性があり、また回避すべきである種々の相変態を、同様に扱うことができる。