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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108420
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】風力発電設備の点検方法
(51)【国際特許分類】
   F03D 80/50 20160101AFI20220719BHJP
   F03D 1/06 20060101ALI20220719BHJP
   F03D 13/25 20160101ALI20220719BHJP
   F03D 17/00 20160101ALI20220719BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20220719BHJP
   B64C 27/08 20060101ALI20220719BHJP
   B64D 47/08 20060101ALI20220719BHJP
   B64C 13/18 20060101ALI20220719BHJP
   B64D 45/00 20060101ALI20220719BHJP
   G05D 1/10 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
F03D80/50
F03D1/06 A
F03D13/25
F03D17/00
B64C39/02
B64C27/08
B64D47/08
B64C13/18 Z
B64D45/00 A
G05D1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003396
(22)【出願日】2021-01-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年10月20日 関西電力株式会社のホームページにて公開(https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2020/1020_1j.html) 令和2年11月4日 秋田県庁にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 恵
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】村上 岳彦
【テーマコード(参考)】
3H178
5H301
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA22
3H178AA24
3H178AA26
3H178AA43
3H178BB56
3H178BB73
3H178BB79
3H178CC02
3H178CC25
3H178DD04Z
3H178DD06Z
3H178DD12Z
3H178DD31Z
3H178DD41Z
3H178DD51X
3H178DD52X
3H178DD54Z
3H178DD61Z
3H178EE02
3H178EE03
3H178EE10
3H178EE13
3H178EE15
3H178EE23
3H178EE24
3H178EE26
3H178EE32
5H301AA06
5H301AA10
5H301BB10
5H301CC04
5H301CC07
5H301CC10
5H301GG07
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG17
(57)【要約】
【課題】洋上など遠距離にある風力発電設備を、自律飛行する無人航空機によって点検する。
【解決手段】風力発電設備の点検方法は、無人航空機10が風車40の上空まで自律飛行するステップと、無人航空機10が風車40の上空においてナセル43の現時点の方位を判定するステップと、判定したナセル43の現時点の方位に基づいて、無人航空機10がハブ42に正対する位置に移動するステップと、無人航空機10がハブ42に正対する位置において第1ブレード41Aの現時点の回転角度を判定するステップと、判定した第1ブレード41Aの現時点の回転角度に基づいて、無人航空機10が第1ブレード41Aの点検開始位置に移動するステップと、無人航空機10が点検開始位置から第1ブレード41Aの長手方向に沿って移動しながら、搭載されたカメラによって第1ブレード41Aの点検用画像を撮影するステップとを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電設備の点検方法であって、
無人航空機が、前記風力発電設備の風車の上空まで自律飛行するステップと、
前記無人航空機に設けられたコントローラが、前記風車の上空において前記風車のナセルの現時点の方位を判定するステップと、
前記判定した前記ナセルの現時点の方位に基づいて、前記コントローラが前記風車のハブに正対する位置に自機を移動させるステップと、
前記コントローラが、前記ハブに正対する位置において前記風車の第1ブレードの現時点の回転角度を判定するステップと、
前記判定した前記第1ブレードの現時点の回転角度に基づいて、前記コントローラが前記第1ブレードの点検開始位置に自機を移動させるステップと、
前記コントローラが、前記点検開始位置から前記第1ブレードの長手方向に沿って自機を移動させながら、前記無人航空機に搭載されたカメラによって前記第1ブレードの点検用画像を撮影するステップと、
前記第1ブレードの前記点検用画像に基づいて、前記第1ブレードの損傷箇所を自動判定するステップとを備える、風力発電設備の点検方法。
【請求項2】
前記風車のブレードは回転可能であり、
前記点検用画像を撮影するステップにおいて、前記コントローラは、前記無人航空機に搭載された距離センサからの情報に基づいて、前記第1ブレードの回転に応じて自機と前記第1ブレードとの間の距離を一定に保ちながら、前記第1ブレードの長手方向に沿って自機を移動させる、請求項1に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項3】
前記ナセルの現時点の方位を判定するステップにおいて、前記コントローラは、前記無人航空機に搭載された地磁気センサからの情報と、前記風車の上空からの前記カメラの撮影画像とに基づいて、前記ナセルの現時点の方位を判定する、請求項1または2に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項4】
前記第1ブレードの現時点の回転角度を判定するステップにおいて、前記コントローラは、前記ハブに正対する位置からの前記カメラの撮影画像に基づいて、前記第1ブレードの現時点の回転角度を判定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項5】
前記ハブに正対する位置は、前記風車のブレードの回転軸と同一高さかつ前記ナセルの回転軸の軸線から等距離の第1仮想円周線上にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項6】
前記点検開始位置は、前記風車のブレードの回転面から前記ハブの側に一定距離かつ前記ブレードの回転軸の軸線から等距離の第2仮想円周線上にある、請求項1~5のいずれか1項に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項7】
前記風車は、洋上に設けられている、請求項1~6のいずれか1項に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項8】
無人航空機であって、
前記無人航空機を推進および空中停止させる推進機構と、
カメラと、
前記推進機構および前記カメラを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
点検対象の風車の上空まで自機を自律飛行させ、
前記風車の上空において前記風車のナセルの現時点の方位を判定し、
前記判定した前記ナセルの現時点の方位に基づいて、前記風車のハブに正対する位置に自機を移動させ、
前記風車のハブに正対する位置において前記風車の第1ブレードの現時点の回転角度を判定し、
前記判定した前記第1ブレードの現時点の回転角度に基づいて、前記第1ブレードの点検開始位置に自機を移動させ、
前記点検開始位置から前記第1ブレードの長手方向に沿って自機を移動させながら、前記カメラによって前記第1ブレードの点検用画像を撮影するように構成される、無人航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風力発電設備の点検方法および無人航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電の導入拡大およびコスト低減は、世界的に急速に進んでいる。特に、陸上風力発電の導入可能な適地が限定的である日本において、洋上風力発電の導入拡大は不可欠である。
【0003】
洋上風力発電設備のライフサイクルコストにおいて、建設後の運用費および維持管理費の構成比率は無視できない。近年、タービンおよび構造物などの建設に関係するコストの低減に伴い、運用・維持管理費の割合は、建設に関係するコストの割合に匹敵しつつある。したがって、定期点検および緊急発電停止後の臨時点検などに要する時間およびコストを低減することは、風力発電設備の稼働率を高め、発電コストを低減するために極めて重要である。
【0004】
従来、風力発電設備における風車のブレードを点検する際には、ハブから垂下させたロープを利用して作業員がブレードに沿って移動しながら、目視等で損傷の有無を確認していた。このため、点検作業に多くの時間を要していた。
【0005】
そこで、作業員の負担を減らし、点検時間およびコストを低減するために、ドローンなどの無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)を利用して、風力発電設備を点検する方法が種々提案されている(たとえば、特開2019-73999号公報(特許文献1)を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-73999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
洋上風力発電設備において洋上の風車が落雷等を受けたために設備が緊急停止した場合、運転再開のためには臨時で設備の外観点検を行う必要がある。従来、外観点検のために船舶で洋上の設備まで向かう必要があり、この移動にも時間を要していた。さらに、波浪の程度によっては、洋上の設備に船舶で近付けない場合もあった。
【0008】
船舶による移動に代えて、陸上の拠点施設と洋上の風力発電設備との間でUAVを往復させて、UAVによって風車を点検することは、原理的には可能であるが、実際上は多くの課題を有している。課題の1つは、風力発電設備をUAVの自律飛行によって点検する具体的手順が明らかでないという点である。自律飛行ではなく、陸上の拠点施設から洋上のUAVをリアルタイムで遠隔制御しようとすると、通信遅延により制御にタイムラグが生じる。このため、制御指令がUAVに到達した時点でUAVの周囲の状況が変化している場合には、UAVを意図した通りに遠隔制御できない。
【0009】
同様の課題は、山岳地域などの陸上の僻地に設けられた風力発電設備の点検の場合にも生じ得る。従来技術は、風車の目視が容易な近距離地点からUAVを遠隔制御する場合を想定しており、上記の課題を解決するものではない。
【0010】
したがって、本開示の目的の1つは、洋上など目視が困難なほど遠距離にある風力発電設備を、自律飛行する無人航空機によって点検する方法、およびこの点検方法に利用する無人航空機の構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一局面における風力発電設備の点検方法は、無人航空機が、風力発電設備の風車の上空まで自律飛行するステップと、無人航空機に設けられたコントローラが、風車の上空において風車のナセルの現時点の方位を判定するステップと、判定したナセルの現時点の方位に基づいて、コントローラが風車のハブに正対する位置に自機を移動させるステップと、コントローラが、ハブに正対する位置において風車の第1ブレードの現時点の回転角度を判定するステップと、判定した第1ブレードの現時点の回転角度に基づいて、コントローラが第1ブレードの点検開始位置に自機を移動させるステップと、コントローラが、点検開始位置から第1ブレードの長手方向に沿って自機を移動させながら、無人航空機に搭載されたカメラによって第1ブレードの点検用画像を撮影するステップと、第1ブレードの点検用画像に基づいて、第1ブレードの損傷箇所を自動判定するステップとを備える。
【0012】
本開示の他の局面における無人航空機は、無人航空機を推進および空中停止させる推進機構と、カメラと、推進機構およびカメラを制御するコントローラとを備える。コントローラは、点検対象の風車の上空まで自機を自律飛行させ、風車の上空において風車のナセルの現時点の方位を判定し、判定したナセルの現時点の方位に基づいて、風車のハブに正対する位置に自機を移動させ、風車のハブに正対する位置において風車の第1ブレードの現時点の回転角度を判定し、判定した第1ブレードの現時点の回転角度に基づいて、第1ブレードの点検開始位置に自機を移動させ、点検開始位置から第1ブレードの長手方向に沿って自機を移動させながら、カメラによって第1ブレードの点検用画像を撮影するように構成される。
【発明の効果】
【0013】
上記の一局面および他の局面によれば、洋上など目視が困難なほど遠距離にある風力発電設備を、自律飛行する無人航空機によって点検できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ドローンの構成例を概念的に示す外観図である。
図2図1のドローンの構成を示す機能ブロック図である。
図3】洋上風力発電設備の風車の構成例を概念的に示す図である。
図4】拠点施設に設けられた端末装置の構成例を示す機能ブロック図である。
図5】洋上に設けられた風車の点検手順を示すフローチャートである。
図6図5のステップS130において、ドローンの移動位置を説明するための図である。
図7図5のステップS140において、ブレードの現時点の回転角度の判定方法について説明するための図である。
図8図5のステップS150において、ブレードの点検開始位置の判定方法を説明するための図である。
図9図5のステップS160~S180において、ブレードを点検する経路を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態について図面を参照して詳しく説明する。以下では、UAVを利用して洋上の風車を点検する場合を例に挙げて説明するが、山岳地域などの陸上の僻地に設けられた風車を点検する場合も同様である。また、UAVとしてドローンを例に挙げて説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない場合がある。
【0016】
[ドローンの構成例]
図1は、ドローンの構成例を概念的に示す外観図である。図1(A)は、ドローン10を正面から見た外観図を示し、図1(B)は、ドローン10を右側面から見た外観図を示す。
【0017】
図2は、図1のドローンの構成を示す機能ブロック図である。図2では、図1の本体部11の内部構成の一例がさらに詳細に示されている。
【0018】
図1および図2を参照して、ドローン10は、本体部11の上部に腕部12を介して接続されたプロペラモータ13およびプロペラ14と、本体部11の下部に取り付けられた脚部22とを備える。腕部12の内部には、プロペラモータ13を駆動するためのモータ駆動回路15が設けられている。さらに、ドローン10は、本体部11の下部に取り付けられたエンジン16および発電機17と、ジンバル19,21をそれぞれ介して本体部11の下部に搭載されたカメラ18,20と、本体部11の上部に取り付けられたLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)センサ24とを備える。
【0019】
図1の例では、プロペラモータ13およびプロペラ14は4セット設けられているが、これに限定されない。各プロペラモータ13の回転速度を制御することにより、ドローン10の垂直方向の上昇および下降、任意の斜め方向の上昇および下降、空中停止、前進、後退、右移動、左移動、右回転、左回転などが可能である。すなわち、プロペラモータ13およびプロペラ14によって、ドローン10を推進および空中停止させる推進機構23が構成される。
【0020】
発電機17は、エンジン16によって駆動されることにより、ドローン10の動作に必要な電力を生成する。これにより、長時間および低気温でのドローン10の飛行が可能になる。
【0021】
カメラ18は、ドローン10の前方を撮影するための前方用カメラ18であり、カメラ20は、ドローン10の直下を撮影するための直下用カメラ20である。前方用カメラ18は、点検用画像を撮影するための高解像度のカメラ18Aと、FPV(First Person View:一人称視点)用の動画像を撮影するための低解像度のカメラ18Bとを含む。同様に、直下用カメラ20は、点検用画像を撮影するための高解像度のカメラ20Aと、FPV用画像を撮影するための低解像度のカメラ20Bとを含む。低解像度のカメラ18B,20Bによって撮影された動画像は、拠点施設の端末装置70に送信される。これにより、拠点施設の点検員は、カメラ18B,20Bで撮影された映像をリアルタイムで見ることができる。なお、カメラ18,20の撮影方向は、それぞれジンバル19,21を構成するアクチュエータによって調整できる。ジンバル19,21を構成するアクチュエータは拠点施設の端末装置70からの信号でも調整できる。
【0022】
ジンバル19,21は、それぞれカメラ18,20の向きを3次元で調整できる電動アクチュエータである。ジンバル19,21は、加速度センサおよび角速度センサの検出値に基づいて、ドローン10の姿勢が変化してもカメラ18,20の撮像方向それぞれ一定に保つことができる。
【0023】
LiDARセンサ24は、パルス状のレーザー光を走査させることにより、対象物からの反射光に基づいて、対象物までの距離および角度を検出する。LiDARセンサ24に代えて他の距離センサを用いても構わない。
【0024】
図2に示すように、本体部11は、コントローラ30、記憶装置31、慣性計測ユニット32、送受信機33、GPS(Global Positioning System)受信機34、電源回路35、蓄電池36などを内蔵する。
【0025】
コントローラ30は、モータ駆動回路15、カメラ18、LiDARセンサ24などの動作を制御する。コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、および不揮発性メモリを含むマイクロコンピュータによって構成されてもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)によって構成されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用回路によって構成されてもよい。また、コントローラ30は、これらのうちの少なくとも2つの組み合わせによって構成されてもよい。
【0026】
記憶装置31は、一例として、SDメモリカードなどの着脱可能な不揮発性の記録媒体38と、記録媒体38へのデータの書き込みおよび記録媒体38からのデータの読み出しを行うためのリーダライタ37とを含む。リーダライタ37は、コントローラ30の指令に従って、カメラ18によって撮影された点検用の静止画像、コントローラ30の制御内容、およびフライト情報などを記録媒体38に格納する。
【0027】
慣性計測ユニット32は、加速度センサ、角速度センサ(ジャイロセンサ)、地磁気センサ、気圧センサ、温度センサなどを1つのパッケージに統合したセンサユニットである。コントローラ30は、慣性計測ユニット32の各種センサの検出値に基づいて、ドローン10の自律飛行および姿勢制御を行う。
【0028】
送受信機33は、点検対象の風車に設けられた送受信機および陸上拠点施設の端末装置の送受信機に対して信号、データなどの情報の送受信を行う。たとえば、送受信機33は、風車の稼働状態の情報、拠点施設の端末装置からの指令などを受信する。また、送受信機33は、コントローラ30の指令に従って、低解像度のカメラ18B,20Bによって撮影された監視用の動画像を拠点施設に向けて送信する。
【0029】
GPS受信機34は、GPS衛星からの信号を受信する。コントローラ30は、GPS受信機34の受信信号に基づいて、ドローン10の現在位置を検知する。
【0030】
電源回路35は、発電機17によって生成された電力に基づいて、ドローン10の各部を駆動するための電源電圧を生成する。
【0031】
蓄電池36は、ドローン10の補助電源として用いられる。たとえば、蓄電池36は、エンジン16および発電機17の停止中に、コントローラ30、記憶装置31、送受信機33などを駆動するための電源を供給する。
【0032】
[風車の構成例]
図3は、洋上風力発電設備の風車の構成例を概念的に示す図である。図3を参照して、風車40は、タワー44の上部に搭載されたナセル43と、ハブ42と、ハブ42に取り付けられた3枚のブレード41とを備える。また、タワー44の下部は、基底部45を介在して浮体46に連結される。これにより、タワー44を海水面49の上に浮上させることができる。
【0033】
ブレード41は、ハブ42に連結されたロータ軸50の回転によって、ロータ軸50の軸方向回りに回転する。また、ブレード41の長手方向の軸回りの角度(ピッチ角63)と、タワー44の長手方向の軸回りに回動可能なナセル43の角度(ヨー角)とが調整できる。
【0034】
ナセル43は、増速機52と、ブレーキ装置53と、発電機54と、コントローラ60と、送受信機61とを格納する。
【0035】
増速機52は、ロータ軸50と動力伝達軸51との間に設けられ、ロータ軸50の回転速度を増速し、増速した回転速度で動力伝達軸51を回転させる。ブレーキ装置53は、コントローラ60の指令に従って、動力伝達軸51の回転を停止させる。発電機54は、動力伝達軸51の回転によって交流電力を生成する。発電機54によって生成された交流電力は、電源ケーブル55によって変圧器56に伝送され、変圧器56によって昇圧される。さらに、変圧器56によって昇圧された交流電力は、電力ケーブル57を介して陸上の電力設備に送電される。
【0036】
コントローラ60は、風車40の全体の動作を制御する。たとえば、ナセル43の上部に設けられた図示されていない風向および風速計の計測結果に基づいて、ブレード41のピッチ角およびナセル43のヨー角を調整する。コントローラ60のハードウェア構成は、図2に示すドローン10のコントローラ30の場合と同様に種々の構成があり得る。
【0037】
コントローラ60は、さらに、送受信機61およびアンテナ62を介して、ドローン10および陸上の拠点施設との間で情報のやり取りを行う。送受信機61は、ドローン10と拠点施設との間の通信を中継するように構成されていてもよい。風車40と陸上の拠点施設との間の通信には、光ファイバ通信などの有線通信を用いてもよい。
【0038】
[拠点施設の端末装置の構成例]
図4は、拠点施設に設けられた端末装置の構成例を示す機能ブロック図である。端末装置70は、ドローン10の移動中および風車40の点検中における監視、および点検用画像の解析などに用いられる。
【0039】
図4に示すように、端末装置70は、CPU71、RAM72、および不揮発性メモリ73を含むコンピュータをベースに構成される。端末装置70は、さらに、ディスプレイ装置74と、入力装置75と、記憶装置76と、送受信機78とを含む。これの構成要素は、バス79を介して相互に接続される。
【0040】
ディスプレイ装置74として、液晶ディスプレイまたは有機EL(Electroluminescence)ディスプレイなどを利用できる。たとえば、ディスプレイ装置74は、風車40の点検中および陸上拠点施設と洋上の風車40との間の移動中にカメラ18B,20Bによって撮影された動画像を表示する。
【0041】
入力装置75は、点検員の端末装置70への入力を受け付けるためのキーボードおよびマウスなどを含む。
【0042】
記憶装置76は、着脱可能な記録媒体からデータを読み込むためのリーダライタを含むように構成されている。たとえば、記憶装置76のリーダライタには、ドローン10のカメラ18によって撮影された点検用画像などが格納された記録媒体38を装着することができる。
【0043】
送受信機78は、アンテナ77を介して、ドローン10の送受信機33および風車40の送受信機61と通信する。
【0044】
[洋上の風車の点検手順]
以下、上記で説明したドローン10、風車40、および端末装置70の構成に基づいて、洋上風力発電設備の風車40の点検手順について説明する。
【0045】
図5は、洋上に設けられた風車の点検手順を示すフローチャートである。まず、図5のステップS100において、陸上の拠点施設に設けられた端末装置70は、送受信機78を介して、洋上の風車40から発電機54の緊急停止の通知を受ける。
【0046】
緊急停止の時点において、風車40のコントローラ60は、ブレード41の回転面が風を正面から受けるようにナセル43のヨー角を調整するとともに、風の方向とブレード41の風受け面とが平行になるようにブレード41のピッチ角63を調整する。これによって、ブレード41は風から揚力を受けなくなるので、風車40の破損を防止できる。
【0047】
さらに、風車40のコントローラ60は、風速が比較的小さい場合には、ブレーキ装置53によってブレード41の回転を完全に停止させる。これによって、ブレード41の点検が容易になる。風速が比較的大きい場合には、風車40の破損を防止するために、コントローラ60は、ブレード41が回転可能な状態にする。この場合も、風から揚力をほとんど受けないようにブレード41のピッチ角63が調整されているので、ブレード41は緩やかに回転する。
【0048】
次のステップS110において、点検員がドローン10のエンジン16および発電機17をスタートさせ、さらに、たとえばプログラムを実行させることにより、ドローン10のコントローラ30に風車40の緊急点検を開始させる。これにより、ドローン10は、点検対象の風車40の上空に向けて飛行を開始する。
【0049】
より詳細には、ドローン10のコントローラ30は、GPS受信機34によって受信したGPS信号に基づく自機の位置情報と、端末装置70から受信した点検対象の風車40の位置情報とに基づいて、自機の飛行方向を決定する。コントローラ30は、モータ駆動回路15を制御することにより、自機を十分な高さまで離陸させた後、決定した飛行方向に自機を移動させる。コントローラ30は、GPS信号による自機の位置情報に基づいて、点検対象の風車40の上空に到達するまで自機の移動を続ける。
【0050】
その次のステップS120において、ドローン10のコントローラ30は、モータ駆動回路15を制御することにより、点検対象の風車40のナセル43の上空で自機を空中停止させる。この空中停止状態で、コントローラ30はナセル43の現時点の停止方位を判定する。
【0051】
より詳細には、コントローラ30は、直下用カメラ20を用いて、風車40の上空の位置からナセル43を撮影する。コントローラ30は、撮影したナセル43の画像に基づいて、停止しているナセル43の方向と自機の停止方向(たとえば、正面方向)とのずれ角を検出する。次に、コントローラ30は、慣性計測ユニット32の地磁気センサによって地磁気の方向を検出する。地磁気の検出結果に基づいて、コントローラ30は、自機の停止方向の方位を判定し、さらにこの判定結果から、ナセル43の現時点の停止方位(すなわち、ハブ42の正面方向の方角)を判定する。
【0052】
その次のステップS130において、ドローン10のコントローラ30は、判定したナセル43の現時点の方位の情報に基づいて、ハブ42の正面の位置に自機を移動させ、自機の正面をハブ42に正対させる。
【0053】
図6は、図5のステップS130において、ドローンの移動位置を説明するための図である。
【0054】
図6に示すように、ブレード41の回転軸と同一高さで、ナセル43の回転軸86の軸線から一定距離の仮想円周線87が想定できる。仮想円周線87の半径は、ドローン10がブレード41と衝突せずに、ブレード41のほぼ全体が前方用カメラ18の撮影範囲に入るように設定される。この仮想円周線87上で、ナセル43の現時点の停止方位に基づいて決定されるハブ42に正対する方向が、ドローン10を移動させるべき目標位置85である。ドローン10のコントローラ30は、GPS信号に基づく自機の位置が目標位置85に一致するように自機を移動させる。そして、コントローラ30は、自機が目標位置85に到達すると、地磁気センサによる地磁気の方向に基づいて、自機の正面がハブ42に正対するように自機を回転させる。
【0055】
再び図5を参照して、次のステップS140において、ドローン10のコントローラ30は、前方用カメラ18を用いて、ハブ42に正対する位置からハブ42およびブレード41(図7での41A,41B,41C)を撮影する。コントローラ30は、撮影したブレード41の画像に基づいて、ブレード41の現時点の回転角度を判定する。ブレード41の回転が停止している場合には、ブレード41の現時点の回転角度は停止角度である。ブレード41が緩やかに回転している場合には、コントローラ30は、複数のブレード41の画像に基づいて、ブレード41の現時点の回転角度を判定する。
【0056】
図7は、図5のステップS140において、ブレードの現時点の回転角度の判定方法について説明するための図である。図7を参照して、コントローラ30は、まず、撮影した画像において鉛直方向(0°)を決定する。鉛直方向は、ハブ42に対するタワー44の方向から決定できる。次に、コントローラ30は、決定した鉛直方向から第1のブレード41Aまでの角度α(すなわち、第1のブレード41Aの現時点の回転角度)を決定する。第1のブレード41Aの現時点の回転角度αは最大で120°である。
【0057】
再び図5を参照して、次のステップS150において、ドローン10のコントローラ30は、第1のブレード41Aの現時点の回転角度に基づいてブレードの点検開始位置を判定する。
【0058】
図8は、図5のステップS150において、ブレードの点検開始位置の判定方法を説明するための図である。図8(A)は、ブレード41およびナセル43を上方から見た図を示し、図8(B)は、ブレード41(41A,41B,41C)およびハブ42を正面から見た図を示す。
【0059】
図8(A)および図8(B)を参照して、ブレード41の回転面から一定距離の面内で、ブレード41の回転軸88の軸線から等距離の仮想円周線89が想定できる。ブレード41の回転面から仮想円周線89までの距離は、ドローン10がブレード41に衝突せずに、ブレード41の表面の詳細な状態が撮影可能な位置に設定される。仮想円周線89の半径は、ブレード41のハブ42に近接する側の端点が前方用カメラ18Aまたは直下用カメラ20Aの撮影範囲に入るように設定される。点検開始位置は、仮想円周線89上で、仮想円周線89の中心からブレード41の現時点の回転角度(停止角度)の方向に位置する図8のA点である。ブレード41が緩やかに回転している場合には、現時点の回転角度の方向よりも回転の下流側の位置に、点検開始位置であるA点が設定される。A点は、ステップS140においてハブ42およびブレード41を撮影した位置85から、一定距離および一定角度βだけ移動した点に相当する。なお、本実施形態の場合、図9に示すように最初の撮影開始位置は、ブレード41Aの第1の風受け面92を撮影するために、A点からブレード41Aの短手方向に移動したA1点である。
【0060】
再び図5を参照して、次のステップS160において、ドローン10のコントローラ30は、モータ駆動回路15を制御することにより、ステップS150で判定した点検開始位置に自機を移動させる。そして、コントローラ30は、前方用カメラ18Aまたは直下用カメラ20Aによって点検対象のブレード41Aを画像の中心に捉えるように、自機の位置および向きを調整する。
【0061】
その次のステップS170において、ドローン10のコントローラ30は、モータ駆動回路15を制御することにより、点検対象のブレード41Aの点検開始位置からブレード41Aの長手方向に沿って自機を移動させながら、カメラ18Aまたは20Aで点検用画像を撮影する。ブレード41が回転可能な状態であり、実際に緩やかに回転している場合には、コントローラ30は、LiDARセンサ24を利用して自機と点検対象のブレード41Aとの間の距離をブレード41の回転に応じて一定に保ちつつ、ブレード41Aの長手方向に沿って自機を移動させながら、カメラ18で点検用画像を撮影する。これによって、ブレード41の回転に応じて、点検用画像の撮影を継続できる。
【0062】
その次のステップS180において、ドローン10のコントローラ30は、撮影するブレード41Aの面を変更して上記のステップS160およびS170を繰り返す。本実施形態では、図9(B)に示すブレード41Aの断面図において、ブレード41Aの第1の風受け面92、第1の風受け面92と反対の第2の風受け面93、およびブレード41Aの前縁90の撮影が行われる。さらに、ブレード41Aの後縁91付近の画像を撮影してもよい。
【0063】
次に点検すべきブレードがある場合には(ステップS190でYES)、ドローン10のコントローラ30は、当該ブレードに対して上記のステップS160~S180を繰り返す。
【0064】
図9は、図5のステップS160~S180において、ブレードを点検する経路を説明するための図である。図9(A)は、ブレード41(41A,41B,41C)、ハブ42、およびタワー44を正面から見た図を示し、図9(B)は、ブレード41Aの断面図を示す。
【0065】
図9を参照して、最初に、第1のブレード41Aの第1の風受け面92を撮影する。このため、ドローン10のコントローラ30は、図8を参照して説明したA点から、ブレード41Aの短手方向に位置するA1点に自機を移動させる(経路a1)。その後、コントローラ30は、ブレード41Aの長手方向に沿ってA1点からA2点まで(経路a2)自機を移動させながらカメラ18Aまたは20Aでブレード41Aを撮影する。
【0066】
次に、ブレード41の第2の風受け面93を撮影するために、コントローラ30は、A2点からブレード41Aの短手方向に位置するA3点に自機を移動させる(経路a3)。その後、コントローラ30は、ブレード41Aの長手方向に沿ってA3点からA4点まで(経路a4)自機を移動させながらカメラ18Aまたは20Aでブレード41Aを撮影する。
【0067】
その次に、ブレード41Aの前縁90を撮影するために、コントローラ30は、A4点からブレード41Aの短手方向に位置するA点に自機を移動させる(経路a5)。なお、ブレード41が回転可能な状態の場合には、A点は元のA点と一致しない場合がある。その後、コントローラ30は、ブレード41Aの長手方向に沿ってA点からA5点まで(経路a6)自機を移動させながらカメラ18Aまたは20Aでブレード41Aを撮影する。コントローラ30は、撮影終了後にA5点からA点まで(経路a7)自機を移動させる。
【0068】
その次に、第2のブレード41Bを撮影するために、コントローラ30は、A点に対してブレード41の回転方向に120°離間したB点に自機を移動させる。コントローラ30は、第1のブレード41Aの場合と同様の経路で、第2のブレード41Bをカメラ18Aまたは20Aで撮影する。
【0069】
その次に、第3のブレード41Cを撮影するために、コントローラ30は、B点に対してブレード41の回転方向に120°離間したC点に自機を移動させる。コントローラ30は、第1のブレード41Aの場合と同様の経路で、第3のブレード41Cをカメラ18Aまたは20Aで撮影する。
【0070】
再び図5を参照して、点検対象の風車40の全てのブレード41の撮影を完了後に(ステップS190でNO)、ドローン10のコントローラ30は、GPS信号に基づいて、自機を風車40から陸上の拠点施設まで移動させて着陸させる(ステップS200)。点検員は、撮影した点検用画像を記録媒体38から端末装置70の記憶装置76に取り込む。なお、この点検用画像の取り込みは、ドローン10と端末装置70との間の通信回線を利用して、端末装置70が自動的に行うようにしてもよい。
【0071】
次のステップ210において、端末装置70のCPU71は、プログラムに従って動作することにより、撮影した点検用画像に基づいて点検対象の風車40のブレード41の損傷箇所を自動判定する。ブレード41の損傷箇所の自動判定には、機械学習の手法を用いることができる。以上によって、緊急停止した風車40の点検が終了する。
【0072】
上記のステップS120,S140において、カメラ18,20による画像情報に代えて、LiDARセンサ24からの情報を利用してもよい。
【0073】
[効果]
上記で説明した点検手順に従うことにより、自律飛行するドローン10を利用して、洋上など目視が困難なほど遠距離にある風力発電設備を点検可能になる。
【0074】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この出願の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
10 ドローン(無人航空機)、11 本体部、13 プロペラモータ、14 プロペラ、15 モータ駆動回路、16 エンジン、17,54 発電機、18 前方用カメラ、20 直下用カメラ、19,21 ジンバル、24 LiDARセンサ、23 推進機構、30,60 コントローラ、32 慣性計測ユニット、33,61,78 送受信機、34 GPS受信機、40 風車、41 ブレード、41A 第1のブレード、42 ハブ、43 ナセル、44 タワー、70 端末装置、85 ハブに正対する位置、86 ナセルの回転軸、88 ブレードの回転軸、87,89 仮想円周線、90 前縁、91 後縁、92,93 風受け面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9