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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108425
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/10 20060101AFI20220719BHJP
   F16D 41/12 20060101ALI20220719BHJP
   F16D 25/0638 20060101ALI20220719BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
F16H3/10
F16D41/12 A
F16D25/0638
F16D48/02 640K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003404
(22)【出願日】2021-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆哉
(72)【発明者】
【氏名】白瀧 浩文
(72)【発明者】
【氏名】岡田 伸治
(72)【発明者】
【氏名】片山 修
【テーマコード(参考)】
3J057
3J528
【Fターム(参考)】
3J057AA04
3J057BB04
3J057GA47
3J057GA74
3J057GB19
3J057GC08
3J057GE01
3J057HH02
3J528EA25
3J528EB35
3J528EB63
3J528EB66
3J528EB74
3J528EB93
3J528FB04
3J528FC32
3J528FC42
3J528FC59
3J528FC63
3J528GA01
3J528HA13
3J528HC05
(57)【要約】

【課題】 配置スペースの増加を抑制し、軽量化を図ることができる車両用の駆動装置を提供すること。
【解決手段】 変速装置は、出力軸6に相対回転可能に設けられ第1連結ギヤ14と噛み合う低速ギヤ32と、低速ギヤ32と一体に設けられ、入力軸4の第1方向の駆動力と第2方向の駆動力とを選択的に出力軸6へ伝達可能な二方向クラッチ8とを備えた低速変速機構部17と、出力軸6に相対回転可能に設けられ第2連結ギヤ16と噛み合い、低速ギヤ32よりも小径の高速ギヤ72と、高速ギヤ72と出力軸6との間に設けられ、入力軸4の第1方向の駆動力を出力軸6へ伝達可能な湿式クラッチ部3とを備えた高速変速機構部18とからなり、高速変速機構部18は、高速ギヤ72と湿式クラッチ部3との間に、湿式クラッチ部3が伝達する第1方向のトルクを検出するためのトルクセンサ装置5を備えていることを特徴とする駆動装置1。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源側の入力軸と、
前記入力軸と平行に配置され、駆動輪側へ駆動力を伝達する出力軸と、
前記駆動源の駆動力を前記入力軸から前記出力軸へ伝達する変速機構と、を有する車両用の駆動装置であって、
前記入力軸には、前記入力軸と一体回転する第1ギヤと、前記入力軸と一体回転し前記第1ギヤよりも大径の第2ギヤとが設けられ、
前記変速機構は、
前記出力軸に相対回転可能に設けられ前記第1ギヤと噛み合う第3ギヤと、前記第3ギヤと一体に設けられ、前記入力軸の第1方向の駆動力と第2方向の駆動力とを選択的に前記出力軸へ伝達可能な二方向クラッチとを備えた第1変速機構部と、
前記出力軸に相対回転可能に設けられ前記第2ギヤと噛み合い、前記第3ギヤよりも小径の第4ギヤと、前記第4ギヤと前記出力軸との間に設けられ、摩擦係合することにより前記入力軸の前記第1方向の駆動力を前記出力軸へ伝達可能なクラッチ機構とを備えた第2変速機構部とからなり、
前記第2変速機構部は、前記第4ギヤと前記クラッチ機構との間に、前記クラッチ機構が伝達する前記第1方向のトルクを検出するためのトルクセンサ装置を備えていることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記クラッチ機構は、前記出力軸と一体回転する筒状のクラッチハブと、前記クラッチハブの径方向外方に前記クラッチハブと同軸に設けられた筒状部材との間に設けられ、
前記トルクセンサ装置は、前記筒状部材の軸方向一方側端面に前記筒状部材と同軸に固定され、磁性材料からなる第1の円筒部材と、
前記第1の円筒部材と一体に前記筒状部材の軸方向一方側端面に設けられた第1の環状部材と、
前記第4ギヤと一体に設けられ、前記第1の環状部材と軸方向に向かい合う第2の環状部材と、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材との所定角度位置に所定半径距離をおいて配置されたトルク伝達用のばねと、
前記第2の環状部材と一体に設けられ、前記第1の円筒部材の径方向外方に配置され、導電性且つ非磁性の材料からなり、前記第1の円筒部材と相対回転可能な第2の円筒部材と、
前記第2の円筒部材の径方向外方で前記第2の円筒部材を包囲し、所定の電流が供給されるコイルと、を有していることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記トルクセンサ装置は、前記第1の円筒部材と前記第2の円筒部材との相対回転によって変化する前記コイルの誘導起電力の変化に基づいて前記トルクを検出することを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記第1の円筒部材の外周部には、径方向外方に向けて突出する凸部が周方向所定間隔に複数形成され、
前記第2の円筒部材には、径方向に貫通する窓部が周方向所定間隔に複数形成され、
前記コイルの誘導起電力の変化は、前記第1の円筒部材と前記第2の円筒部材とが相対回転した際の、前記凸部と前記窓部とが径方向に重ねり合う面積の変化に基づくことを特徴とする請求項3に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記出力軸の外周部には、複数の歯部が周方向所定間隔に形成され、
前記二方向クラッチは、
前記第3ギヤと一体回転する外輪と、前記外輪に径方向に揺動可能に保持され、径方向内方に揺動して前記歯部と噛み合うと前記外輪に対する前記出力軸の前記第1方向への相対回転をロックする第1の爪部材と、前記外輪に径方向に揺動可能に保持され、径方向内方に揺動して前記歯部と噛み合うと前記外輪に対する前記出力軸の前記第2方向への相対回転をロックする第2の爪部材とを有し、
前記第2の爪部材は、前記外輪の回転によって作用する遠心力によって径方向外方に揺動し、前記遠心力が所定の大きさを上回ると、前記爪部と非噛み合い状態となることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の駆動力を伝達するための車両用の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両の駆動装置において、電動モータの駆動力を伝達する駆動装置が多岐に亘って開発されている。特許文献1には、平行2軸の機構を用い、エンジンと電動モータで走行可能なハイブリッド車両に用いられる駆動装置が記載されている。また、特許文献2には、エンジンまたはモータの駆動力を減速させる機構を備えた駆動装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-296869号公報
【特許文献2】特開2019-1206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動源として電動モータを含む車両のこのような駆動装置は、車両や電動モータの高性能化或いは変速機を含めた制御の複雑化に伴い、配置スペースの増大および重量の増大が懸念されている。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、駆動源からの駆動力を伝達するための車両用の駆動装置において、配置スペースの増加を抑制し、軽量化を図ることができる駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の駆動装置は、
駆動源側の入力軸と、
前記入力軸と平行に配置され、駆動輪側へ駆動力を伝達する出力軸と、
前記駆動源の駆動力を前記入力軸から前記出力軸へ伝達する変速機構と、を有する車両用の駆動装置であって、
前記入力軸には、前記入力軸と一体回転する第1ギヤと、前記入力軸と一体回転し前記第1ギヤよりも大径の第2ギヤとが設けられ、
前記変速機構は、
前記出力軸に相対回転可能に設けられ前記第1ギヤと噛み合う第3ギヤと、前記第3ギヤと一体に設けられ、前記入力軸の第1方向の駆動力と第2方向の駆動力とを選択的に前記出力軸へ伝達可能な二方向クラッチとを備えた第1変速機構部と、
前記出力軸に相対回転可能に設けられ前記第2ギヤと噛み合い、前記第3ギヤよりも小径の第4ギヤと、前記第4ギヤと前記出力軸との間に設けられ、摩擦係合することにより前記入力軸の前記第1方向の駆動力を前記出力軸へ伝達可能なクラッチ機構とを備えた第2変速機構部とからなり、
前記第2変速機構部は、前記第4ギヤと前記クラッチ機構との間に、前記クラッチ機構が伝達する前記第1方向のトルクを検出するためのトルクセンサ装置を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、駆動源からの駆動力を伝達するための車両用の駆動装置において、配置スペースの増加を抑制し、軽量化を図ることができる駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る駆動装置の構成を示すスケルトン図である。
図2図2は、駆動装置の要部の軸方向に沿った部分断面図であり、出力軸側部分の断面を示している。
図3図3は、二方向クラッチの要部を示す拡大断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示している。
図4図4は、トルクセンサ装置の斜視図であり、一部を切り欠いて示している。
図5図5は、トルクセンサ装置の分解図である。
図6図6は、トルクセンサ装置の部分拡大断面図であり、コイル部、センサスリーブ、およびロータの各部分を軸方向一方側から見た状態を模式的に示している。
図7図7は、二方向クラッチの要部断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示し、図7(a)は第1の爪部材および第2の爪部材の何れも歯部と噛み合っている状態を示し、図7(b)は第1の爪部材は歯部と噛み合い、第2の爪部材は歯部と噛み合っていない状態を示し、図7(c)は第1の爪部材および第2の爪部材の何れも歯部と噛み合っていない状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る駆動装置を、図面を参照しつつ説明する。
本発明の実施形態に係る駆動装置は、駆動源を電動モータとする車両に用いられ、電動モータの駆動力すなわちトルクを2速変速の変速装置を介して低速回転または高速回転として出力軸へ伝達するタイプのものである。
【0010】
まず、実施形態に係る駆動装置に係る方向について定義する。実施形態において、軸方向とは電動モータの駆動軸に連結された入力軸、および電動モータの駆動力が出力される出力軸の軸方向のことをいい、軸方向、径方向、周方向とは、入力軸および出力軸に関する軸方向、径方向、周方向のことをいう。また、軸方向について、図1、2において、紙面左方側を軸方向一方側とし、紙面右方側を軸方向他方側とする。周方向について、図3、6、7において、紙面に向かって時計方向に回転する方向を周方向一方とし、紙面に向かって反時計方向に回転する方向を周方向他方とする。
【0011】
図1は、実施形態に係る駆動装置1の構成を示すスケルトン図である。
図2は、駆動装置1の要部の部分断面図であり、出力軸6側の部分の軸方向に沿った断面を示している。
図3は、二方向クラッチ8の要部を示す断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示している。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る駆動装置1は、電動モータ2の駆動軸に連結された入力軸4と、入力軸4と平行に配置された出力軸6とを有している。出力軸6には、入力軸4から、後述する二方向クラッチ8または摩擦係合装置12を介して、電動モータ2の駆動力が伝達される。
【0013】
入力軸4には、電動モータ2の駆動力すなわちトルクを低速回転で出力軸6に伝達するための第1連結ギヤ14と、電動モータ2からの駆動力を高速回転で出力軸6に伝達するための第2連結ギヤ16とが、入力軸4と同軸に設けられている。第1連結ギヤ14と第2連結ギヤ16とは、軸方向一方側から軸方向他方側へ向けてこの順に、軸方向に並んで設けられている。第2連結ギヤ16は第1連結ギヤ14よりも大きな径を有している。第1連結ギヤ14と第2連結ギヤ16とは、それぞれ入力軸4と相対回転不能に、入力軸4に設けられている。
【0014】
出力軸6には、二方向クラッチ8と摩擦係合装置12とが、出力軸6と同軸に設けられている。二方向クラッチ8と摩擦係合装置12とは、軸方向一方側から軸方向他方側へ向けてこの順に、軸方向に並んで設けられている。二方向クラッチ8は入力軸4の第1連結ギヤ14と連結し、摩擦係合装置12は入力軸4の第2連結ギヤ16と連結している。第1連結ギヤ14と二方向クラッチ8とで低速変速機構部17を構成し、第2連結ギヤ16と摩擦係合装置12とで高速変速機構部18を構成している。低速変速機構部17と高速変速機構部18とで2速変速の変速装置を構成している。駆動装置1は、電動モータ2の駆動力を、車両(図示省略)の速度が低速域においては低速変速機構部17を介して出力軸6に伝達し、車両の速度が高速域においては高速変速機構部18を介して出力軸6に伝達している。出力軸6に伝達された電動モータ2の駆動力は、出力軸6に固定された出力ギヤ20を介して駆動輪22の駆動機構23に伝達される。
【0015】
図2図3に示すように、二方向クラッチ8は、環状の外輪24と、外輪24から内輪へトルク伝達を可能とするトルク伝達機構と、を有している。本実施形態においては、二方向クラッチ8の内輪は出力軸6である。詳細には、外輪24の内周面と径方向に対向する出力軸6の部分に形成された拡径部6aが、二方向クラッチ8のトルク伝達機構と係合する構成となっている。本実施形態におけるトルク伝達機構はラチェット機構であり、外輪24の内周部に周方向に亘って所定間隔で設けられた複数の第1の爪部材26および複数の第2の爪部材28を備えている(図7参照)。なお、図3においては、1つの第1の爪部材26と、第1の爪部材26と周方向に隣り合う1つの第2の爪部材28とを示している。
【0016】
出力軸6の拡径部6aの外周部には、複数の歯部30が周方向の全周に亘って等間隔に形成されている。歯部30は、径方向外方に突出し軸方向に延在している。歯部30は、第1の爪部材26および第2の爪部材28が噛み合うラチェット歯を構成している。具体的には、歯部30の周方向一方側は、第1の爪部材26と噛み合う第1の噛み合い部30aを構成し、歯部30の周方向他方側は、第2の爪部材28と噛み合う第2の噛み合い部30bを構成している。
【0017】
外輪24の外周側には、環状の低速ギヤ32が配置されている。低速ギヤ32は、円筒部34と、円筒部34の軸方向他方側に形成された内向きフランジ部36とを有している。低速ギヤ34は、内向きフランジ部36の内周部に嵌合された転がり軸受38を介して、出力軸6と相対回転可能に出力軸6に嵌合されている。二方向クラッチ8の外輪24は、低速ギヤ32の円筒部34の内周部に嵌合されている。すなわち低速ギヤ32と二方向クラッチ8の外輪24とは一体に回転する。低速ギヤ32の円筒部34の外周部にはギヤ32aが形成され、ギヤ32aは入力軸4の第1連結ギヤ14と常に噛み合っている。したがって二方向クラッチ8の外輪24と第1連結ギヤ14とは低速ギヤ32を介して常に接続された状態であり、入力軸4と二方向クラッチ8の外輪24とは相互に反対方向に回転する。
【0018】
第1の爪部材26は、外輪24の内周部に設けられた逃げ部42に保持されている。逃げ部42は、外輪24の内周面に内向きに開口する凹部である。第1の爪部材26は所定の周方向長さを有し、部分円筒状の外周面を有する中央部44と、中央部44から周方向一方側へ突出する突出部46と、中央部44から周方向他方側へ突出する爪部48とから構成されている。第1の爪部材26は、中央部44が逃げ部42に回動可能に保持されている。すなわち第1の爪部材26は、中央部44を中心として爪部48が径方向に揺動可能に、逃げ部42に保持されている。第1の爪部材26は、回動中心は中央部44であるが、重心は爪部48にある。第1の爪部材26の爪部48は、コイル状の、あるいはそれ以外のタイプでも良いスプリング50によって径方向内方へ付勢されている。
【0019】
第1の爪部材26は、爪部48が径方向内方へ揺動すると、爪部48が出力軸6の拡径部6aの歯部30の第1の噛み合い部30aと噛み合い、これにより第1の爪部材26は歯部30と噛み合い状態になる。第1の爪部材26は歯部30と噛み合うことにより、外輪24に対する出力軸6の時計方向すなわち周方向一方への相対回転をロックする。一方、外輪24に対して出力軸6が反時計方向すなわち周方向他方へ相対回転する際は、第1の爪部材26は歯部30と噛み合わず、出力軸6の当該回転を許容する。
【0020】
第2の爪部材28は、第1の爪部材26と同様に、外輪24の内周部に設けられた逃げ部52に保持され、中央部54と突出部56と爪部58とから構成され、爪部58がスプリング60によって径方向内方へ付勢されているが、周方向の向きが第1の爪部材26とは反対になっている。これにより、第2の爪部材28は、爪部58が出力軸6の拡径部6aの歯部30の第2の噛み合い部30bと噛み合うことにより歯部30と噛み合い状態となり、第1の爪部材26とは逆に、外輪24に対する出力軸6の反時計方向への相対回転をロックし、一方、外輪24に対する出力軸6の時計方向への相対回転を許容する。
【0021】
このように、外輪24の内周側に保持された第1の爪部材26および第2の爪部材28と、スプリング50、60と、出力軸6の拡径部6aに形成された複数の歯部30とで、ラチェット機構が構成されている。
【0022】
本実施形態においては、二方向クラッチ8は、第1の爪部材26を付勢しているスプリング50の弾性力と、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60の弾性力との大きさが異なっている。具体的には、第1の爪部材26を付勢しているスプリング50の弾性力よりも、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60の弾性力の方が小さく設定されている。そして第2の爪部材28を付勢しているスプリング60の弾性力は、以下に説明するように所定の力が加わると所定量圧縮する大きさに設定されている。
【0023】
後述するように二方向クラッチ8の外輪24に電動モータ2の駆動力が伝達され、外輪24が回転を始めると、外輪24の回転による遠心力が第1の爪部材26および第2の爪部材28に作用する。遠心力が作用すると、第1の爪部材26および第2の爪部材28の重心はそれぞれ爪部48、58にあるため、第1の爪部材26および第2の爪部材28は、それぞれ中央部44、54を中心として爪部48、58が径方向外方に向かう方向に揺動しようとする。すると、第1の爪部材26および第2の爪部材28を付勢しているスプリング50、60は、爪部48、58によってそれぞれ径方向外方すなわち圧縮する方向に押圧される。外輪24の回転が速くなり、作用する遠心力が大きくなると、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60は爪部58によって圧縮されてゆく。そして外輪24の回転速度が所定の回転速度よりも速くなり、第2の爪部材28に作用する遠心力が所定の大きさF1よりも大きくなると、スプリング60は爪部58によって大きく圧縮され、爪部58は全体が歯部30よりも径方向外方に位置することとなる。この状態において、第2の爪部材28と歯部30とは非噛み合い状態となる。ここで所定の大きさF1の遠心力が発生する外輪24の所定の回転速度をR1とする。なお、第1の爪部材26を付勢しているスプリング50は、第1の爪部材26に所定の大きさF1の遠心力が作用しても大きく圧縮することはなく、歯部30との噛み合いを維持する弾性力を有している。
【0024】
なお、スプリング50、60の弾性力、スプリング60が大きく圧縮する所定の大きさF1の遠心力、さらに、所定の大きさF1の遠心力が発生する際の外輪24の所定の回転速度R1は、伝達するトルクの大きさ、車速等を考慮し、適宜設計される。
【0025】
次に摩擦係合装置12の構成を説明する。
図2に示すように、摩擦係合装置12は、湿式クラッチ部3と、湿式クラッチ部3の軸方向一方側に湿式クラッチ部3と軸方向に隣接し、且つ湿式クラッチ部3と一体に設けられたトルクセンサ装置5とを備えている。
【0026】
湿式クラッチ部3は円筒状のクラッチケース7を有している。クラッチケース7は、その中心部が中心軸線C周りに、出力軸6上に配置されている。クラッチケース7の軸方向一方側端部には内向きフランジ9が設けられ、内向きフランジ9の中心の孔部10には、出力軸6が挿通されている。また、内向きフランジ9には、軸方向に貫通する貫通孔11が周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。
【0027】
図2に示すように、クラッチケース7の内周部には、軸方向に移動可能に且つクラッチケース7と相対回転不能に、複数の環状のクラッチプレート13が嵌合している。クラッチケース7の内周部にはさらに、複数の環状のクラッチディスク15が配置されている。複数の環状のクラッチディスク15は、クラッチケース7と同心に配置された円筒状のクラッチハブ62の外周面に、軸方向移動可能に且つクラッチハブ62と相対回転不能に嵌合している。クラッチハブ62は出力軸6に固定され、出力軸6と一体回転する。複数のクラッチプレート13と複数のクラッチディスク15とは、軸方向に交互に配置されている。
【0028】
クラッチケース7の内周部の軸方向他方側端部には、クラッチプレート13およびクラッチディスク15を軸方向他方側端部で固定状態に保持するためのエンドプレート19と、エンドプレート19をクラッチケース7の内部に保持するための止輪21とが設けられている。クラッチプレート13とクラッチディスク15とは、駆動装置1に隣接して配置されたピストン駆動機構64によって軸方向に駆動されるピストン66によって軸方向に押圧されることにより互いに摩擦係合する。これにより湿式クラッチ部3が締結状態となる。湿式クラッチ部3が締結状態において、クラッチケース7からクラッチハブ62を介して出力軸6にトルクが伝達される。なお、ピストン駆動機構64は本発明に直接関係ないので、詳細な説明を省略する。
【0029】
次にトルクセンサ装置5の構成について説明する。
図4は、トルクセンサ装置5の斜視図であり、一部を切り欠いて示している。
図5は、トルクセンサ装置5の分解図である。
図2図4、および図5に示すように、トルクセンサ装置5は、環状のコイル部27と、円筒状のロータ29と、環状のリテーナプレート31と、環状のドリブンプレート33と、円筒状のセンサスリーブ35と、を備えている。
【0030】
ロータ29は、例えば鉄等の磁性材料で形成されている。ロータ29は、中心軸線Cを中心とする円筒部37と、円筒部37の軸方向他方側端部に形成された内向きフランジ39とを有している。円筒部37の外周部には、軸方向に延在し径方向外方に向けて突出する凸部41が周方向所定間隔で全周に亘って複数設けられている。また、円筒部37の外周部には、周方向に隣り合う凸部41によって、軸方向に延在する凹部43が全周に亘って形成されている。凸部41の周方向幅と凹部43の周方向幅とは、同じ大きさに形成されている。凸部41と凹部43とは、交互に全周に亘って設けられている。
【0031】
ロータ29の内向きフランジ39の中心の孔部40には、出力軸6が挿通されている。内向きフランジ39には軸方向に貫通する貫通孔45が周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。ロータ29の貫通孔45はそれぞれ、クラッチケース7の内向きフランジ9に形成された貫通孔11に対応する位置に形成されている。
【0032】
リテーナプレート31は、中心軸線Cを中心とする環状板部47を有している。環状板部47の中心の孔部49には、出力軸6が挿通されている。環状板部47には軸方向に貫通する貫通孔51が周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。環状板部47の貫通孔51はそれぞれ、ロータ29の内向きフランジ39に形成された貫通孔45に対応する位置に形成されている。
【0033】
リテーナプレート31の環状板部47の径方向外方の縁部には、軸方向一方側に向けて突出する円筒部53が形成され、円筒部53の軸方向一方側端部には、径方向外方に向けて突出する外向きフランジ55が形成されている。環状板部47と円筒部53と外向きフランジ55とは一体に形成されている。外向きフランジ55の外周部には、周方向所定間隔にばね保持部57が一体に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。ばね保持部57にはそれぞれ、圧縮コイルばね59(以後単に「ばね59」という。)が保持されている。
【0034】
ばね保持部57は、外向きフランジ55の外径側縁部を仮想円とすると、仮想円の所定中心角に対応する弦の長さに亘って直線状に設けられている。本実施形態においては、各ばね保持部57は、約30度の中心角に対応する弦の長さに亘って設けられている。ばね59は、ばね保持部57に、環状板部47の弦方向に延在する向きで配置されている。ばね保持部57の周方向一方側端部および周方向他方側端部にはそれぞれ、ばね保持部57から垂直に突出するばね押さえ部61が設けられている。各ばね押さえ部61は薄い板状で、例えば、ばね59のコイル径よりも少し大きな径を有する円形に形成されている。2つのばね押さえ部61は対を成し、周方向に対向している。ばね59は、各端部が一対のばね押さえ部61にそれぞれ接触した状態で、一対のばね押さえ部61間に自然状態で配置されている。このように、ばね59は一対のばね押さえ部61によって圧縮方向に保持されている。各ばね押さえ部61は、内径部がばね保持部57に固定されているが、ばね保持部57から垂直に突出している部分がばね59を圧縮する方向に僅かに撓むことが可能となっている。
【0035】
周方向に隣り合うばね保持部57間には、円弧状の爪部63が設けられている。詳細には、周方向に隣り合う任意の2つのばね保持部57のうち周方向一方側のばね保持部57の周方向他方側のばね押さえ部61と、当該任意の2つのばね保持部57のうち周方向他方側のばね保持部57の周方向一方側のばね押さえ部61とは、爪部63で連結されている。爪部63は、これら各ばね押さえ部61の径方向外方側部分同士を連結する円弧部65と、円弧部65の軸方向他方側端から径方向内方に向けて突出する内向きフランジ部67とから構成されている。円弧部65は、中心軸線Cを中心とする部分円筒状に形成されている。内向きフランジ部67の周方向の両端部は、前記各ばね押さえ部61の軸方向他方側部分同士を連結している。本実施形態においては、6つの爪部63が設けられている。
【0036】
リテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7とは、中心軸線C上において軸方向一方側から軸方向他方側に向けてこの順に、リベット69によって一体に固定されている。詳細には、互いに対応する位置に形成されたリテーナプレート31の6つの貫通孔51と、ロータ29の6つの貫通孔45と、クラッチケース7の6つの貫通孔11とにそれぞれリベット69が差し込まれ、これらのリベット69をかしめることにより、リテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7とは一体に接合されている。この状態において、ロータ29はクラッチケース7の内向きフランジ9の軸方向一方側面に固定され、リテーナプレート31は、ロータ29の内向きフランジ39の軸方向一方側面に固定されると共に、ロータ29の円筒部37の内径側に配置されている。
【0037】
また、リテーナプレート31の孔部49と、ロータ29の孔部40と、クラッチケース7の孔部10とには、円筒部材68(図2参照)が嵌合されている。すなわちリテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7とは、円筒部材68の外周面に固定されている。円筒部材68は、転がり軸受70を介して出力軸6と相対回転可能に出力軸6に嵌合されている。したがって、一体に接合されたリテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7とは、円筒部材68および転がり軸受70を介して、出力軸6と相対回転可能に出力軸6に嵌合されている。
【0038】
センサスリーブ35は、例えばアルミニウム等の、導電性で且つ非磁性の材料から形成されている。センサスリーブ35は、中心軸線Cを中心とする円筒部71と、円筒部71の軸方向一方側に形成された内向きフランジ73とを有している。内向きフランジ73の中心部には、出力軸6が挿通されている。内向きフランジ73には軸方向に貫通する貫通孔(図示省略)が周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成され、該貫通孔にはリベット95が挿通されている。
【0039】
円筒部71の軸方向一方側部分には、円筒部71を径方向に貫通する窓部Aが周方向所定間隔に複数形成されている。円筒部71の軸方向他方側部分には、円筒部71を径方向に貫通する窓部Bが周方向所定間隔に複数形成されている。窓部Aと窓部Bとはそれぞれ軸方向に延在する長方形に形成され、同じ大きさを有し、同数が形成されている。窓部Aと窓部Bとは周方向に所定量位相をずらして形成されている。
【0040】
ドリブンプレート33は、中心部にシャフトホール77が形成された環状板部79を有している。シャフトホール77の縁部には、軸方向一方側に向けて突出し、外周面に複数の歯部が形成された円筒状のギヤ部83が形成されている。
【0041】
環状板部79には軸方向に貫通する貫通孔85が周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。環状板部79の貫通孔85はそれぞれ、センサスリーブ35の内向きフランジ73に形成された貫通孔(図示省略)に対応する位置に形成されている。
【0042】
ドリブンプレート33の環状板部79の径方向外方の縁部には、軸方向他方側に向けて突出する爪部87が、周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。爪部87は、軸方向他方側への突出部分である円弧部89と、円弧部89と環状板部79とを連結する連結部91とから一体に構成されている。円弧部89は、中心軸線Cを中心とする部分円筒状に形成されている。
【0043】
爪部87の円弧部89の周方向の長さは、リテーナプレート31の爪部63よりも僅かに小さく形成されている。また、円弧部89の軸方向の長さは、リテーナプレート31の爪部63よりも大きく形成されている。周方向に隣り合う爪部87間の、環状板部79の径方向外方の縁部の部分は、直線部93となっている。この直線部93の長さは、リテーナプレート31のばね保持部57の弦方向長さに対応している。
【0044】
センサスリーブ35とドリブンプレート33とは、中心軸線C上において軸方向一方側から軸方向他方側へ向けてこの順に、リベット95によって一体に固定されている。詳細には、互いに対応する位置に形成されたセンサスリーブ35の6つの貫通孔(図示省略)と、ドリブンプレート33の6つの貫通孔85とにそれぞれリベット95が差し込まれ、これらのリベット95をかしめることにより、センサスリーブ35とドリブンプレート33とが一体に接合されている。この状態において、ドリブンプレート33は、センサスリーブ35の内向きフランジ73の軸方向他方側面に固定されると共に、センサスリーブ35の円筒部71の内径側に配置されている。また、ドリブンプレート33のギヤ部83は、センサスリーブ35の内向きフランジ73から軸方向一方側に突出している。
【0045】
一体に接合されたセンサスリーブ35とドリブンプレート33とは、ドリブンプレート33のシャフトホール77に嵌合された転がり軸受81(図2参照)を介して、出力軸6と相対回転可能に出力軸6に嵌合されている。
【0046】
ドリブンプレート33の各爪部87は、リテーナプレート31の各爪部63が連結している2つのばね押さえ部61間であって当該爪部63の円弧部65の内径側に、それぞれ軸向一方側から嵌め込まれている。この状態においてドリブンプレート33の爪部87は、円弧部89の周方向両端部が、リテーナプレート31の爪部63が連結している2つのばね押さえ部61にそれぞれ接触している。また、ドリブンプレート33の爪部87の円弧部89と、リテーナプレート31の爪部63の円弧部65とは、僅かな隙間を介して径方向に対向している。
【0047】
ドリブンプレート33の爪部87とリテーナプレート31のばね押さえ部61とのこのような嵌合により、ドリブンプレート33とクラッチケース7とが、リテーナプレート31およびロータ29を介して連結される。また、ドリブンプレート33の爪部87とリテーナプレート31のばね押さえ部61との嵌合により、一体に固定されたセンサスリーブ35およびドリブンプレート33と、一体に固定されたリテーナプレート31およびロータ29とは、中心軸線C上において軸方向一方側から軸方向他方側に向けてこの順に組み合わされている。この状態において、ロータ29の円筒部37は、センサスリーブ35の円筒部71の内径側に配置されている。詳細には、ロータ29の円筒部37の外周面とセンサスリーブ35の円筒部71の内周面とは、僅かな径方向隙間を介して径方向に対向している。また、この状態において、センサスリーブ35とドリブンプレート33とリテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7とは、一体に回転する。
【0048】
ドリブンプレート33のギヤ部83の外周側には、環状の高速ギヤ72が配置されている。高速ギヤ72は、低速変速機構部17の低速ギヤ32よりも小径であり、内周部の軸方向一方側部分に嵌合された転がり軸受74を介して、出力軸6と相対回転可能に出力軸6に嵌合されている。ドリブンプレート33のギヤ部83は、高速ギヤ72の内周部の軸方向他方側部分に、高速ギヤ72と一体に嵌合されている。すなわち高速ギヤ72とドリブンプレート33と、さらにセンサスリーブ35とは一体に回転する。高速ギヤ72の外周部にはギヤ72aが形成され、ギヤ72aは入力軸4の第2連結ギヤ16と常に噛み合っている。したがってドリブンプレート33およびセンサスリーブ35と、第2連結ギヤ16とは、高速ギヤ72を介して常に接続された状態であり、入力軸4とドリブンプレート33およびセンサスリーブ35とは相互に反対方向に回転する。
【0049】
図4に示すように、コイル部27は、同一規格のコイルAおよびコイルBを有している。これらのコイルAおよびコイルBは環状のヨーク97に巻き付けられ、軸方向に所定の間隔を空けて配置されている。ヨーク97は例えば図示しない変速機ケースに固定されている。コイル部27は、センサスリーブ35の円筒部71の径方向外方に、所定の径方向隙間を介してセンサスリーブ35と同心に配置されている。言い換えると、コイル部27はセンサスリーブ35の円筒部71を所定の径方向隙間を介して周方向に包囲している。詳細には、コイル部27の内径側には、トルクセンサ装置5のセンサスリーブ35が所定の隙間を介して配置され、コイルAおよびコイルBは、それぞれセンサスリーブ35の窓部Aおよび窓部Bに対応する軸方向位置に配置されている。
【0050】
コイル部27のコイルAおよびコイルBには、接点98を介して所定の周波数の電流が供給されている。また、接点98には演算回路99が接続されている。演算回路99は、接点98を介して入力されるコイルAおよびコイルBの自己誘導起電力の大きさを計測すると共に、コイルAおよびコイルBの自己誘導起電力の大きさを入力軸4から出力軸6へ伝達されるトルクの大きさに置き換える演算を行っている。
【0051】
ここで、センサスリーブ35の窓部Aおよび窓部Bとロータ29の外周部の凸部41および凹部43との位置関係と、窓部Aおよび窓部Bの大きさについて説明する。
図6は、トルクセンサ装置5の部分拡大断面図であり、コイル部27、センサスリーブ35、およびロータ29の各部分を軸方向一方側から見た状態を模式的に示している。図6には、センサスリーブ35の窓部Aの断面が現れている。また、図6は、湿式クラッチ部3が非締結状態、すなわちクラッチケース7から出力軸6へトルクが非伝達の状態を示している。
【0052】
図6に示すように、実線で示される窓部Aの周方向長さと、破線で示される窓部Bの周方向長さとは同じ大きさであり、これをaとすると、ロータ29の凸部41は、周方向長さが2aとなるように形成されている。また、クラッチケース7から出力軸6へトルクが非伝達の状態において、ロータ29の凸部41の周方向一方端は、窓部Bの周方向他方端と径方向に重なり、ロータ29の凸部41の周方向他方端は、窓部Aの周方向一方端と径方向に重なっている。すなわちこの状態においては、ロータ29の凸部41は、窓部Aおよび窓部Bの何れとも径方向に重なっていない。言い換えると、窓部Aおよび窓部Bは、何れもロータ29の凹部43と径方向に重なっている。
【0053】
次に、本実施形態に係る駆動装置1の作動について説明する。なお、以下の作動の説明は、駆動装置1が車両(図示省略)に搭載された場合の例である。また、以下の作動の説明は、図1、2において、軸方向一方側を正面とし、駆動装置1を正面から見た状態での作動を説明する。
図7は、二方向クラッチ8の断面図であり、軸方向一方側から見た状態を示し、図7(a)は第1の爪部材26および第2の爪部材28の何れも歯部30と噛み合っている状態を示し、図7(b)は第1の爪部材26は歯部30と噛み合い、第2の爪部材28は歯部30と噛み合っていない状態を示し、図7(c)は第1の爪部材26および第2の爪部材28の何れも歯部30と噛み合っていない状態を示している。
【0054】
車両(図示省略)が停止している状態から発進して前進する際、電動モータ2と連結された入力軸4が周方向一方へ回転すると、入力軸4の回転は第1連結ギヤ14および低速ギヤ32を介して、低速回転として二方向クラッチ8の外輪24に伝達され、二方向クラッチ8の外輪24は周方向他方へ回転する。
【0055】
この時摩擦係合装置12の湿式クラッチ部3の複数のクラッチプレート13および複数のクラッチディスク15は非係合状態である。すなわち湿式クラッチ部3は非締結状態である。この状態においては、入力軸4の周方向一方の回転は第2連結ギヤ16および高速ギヤ72を介してドリブンプレート33に伝達され、ドリブンプレート33とセンサスリーブ35とリテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7とは、一体に周方向他方へ回転するが、クラッチハブ62を介して出力軸6へトルクの伝達はなされない。なお、この時ドリブンプレート33とセンサスリーブ35とリテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7とは、出力軸6よりも高速で周方向他方へ回転している。また、この時トルクセンサ装置5のセンサスリーブ35の窓部Aおよび窓部Bとロータ29の凸部41とは、図6に示す状態である。
【0056】
車両の停止状態においては、二方向クラッチ8の外輪24は回転しないので、第2の爪部材28に遠心力は作用しない。また入力軸4から低速回転が入力された際の外輪24の回転速度は、上述した所定の回転速度R1よりも遅い。言い換えると、外輪24の所定の回転速度R1は、低速回転入力時における外輪24の回転速度よりも速くなるように設定されている。したがって低速回転入力時の外輪24の回転によって第2の爪部材28に作用する遠心力の大きさは、上述した所定の大きさF1よりも小さい。このため、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60は圧縮せず、第1の爪部材26および第2の爪部材28は、図7(a)に示すように、何れも歯部30と噛み合っている。したがって図7(a)において外輪24が周方向他方へ回転すると、第1の爪部材26と出力軸6の拡径部6aの歯部30との噛み合いによって、出力軸6は外輪24と一体に周方向他方へ回転し、電動モータ2からの駆動力は出力6軸へ伝達される。出力軸6へ伝達された電動モータ2からの駆動力は、出力軸6に嵌合された出力ギヤ20(図2参照)を介して、駆動輪22の駆動機構23へと伝達される。
【0057】
このように、車両の発進時および低速域での走行時は、電動モータ2からの駆動力は、入力軸4から低速変速機構部17すなわち二方向クラッチ8を介して出力軸6へ伝達される。
【0058】
次に駆動装置1の変速装置が低速変速機構部17から高速変速機構部18へ変速する際の駆動装置1の作動を説明する。
発進した車両が加速すると、駆動装置1の変速装置は、低速変速機構部17から高速変速機構部18へと変速する。
車両の加速時は、電動モータ2と連結された入力軸4の回転速度が上昇し、二方向クラッチ8の外輪24の回転速度が上昇する。これに伴い、第2の爪部材28に作用する遠心力は大きくなってゆく。そして外輪24の回転速度が所定の回転速度R1を上回り、第2の爪部材28に作用する遠心力の大きさが所定の大きさF1を上回ると、第2の爪部材28を付勢しているスプリング60は爪部58によって大きく圧縮され、爪部58は全体が歯部30よりも径方向外方に位置することとなる。この状態において二方向クラッチ8は、図7(b)に示すように、第1の爪部材26は歯部30との噛み合い状態を維持しているが、第2の爪部材28は歯部30と非噛み合い状態となる。
【0059】
この状態において、ピストン駆動機構64によってピストン66が駆動され、湿式クラッチ部3の複数のクラッチプレート13および複数のクラッチディスク15が軸方向に押圧され、互いに摩擦係合する。これにより湿式クラッチ部3が締結状態となる。上述したように、低回転入力時すなわち湿式クラッチ部3が非締結状態においては、ドリブンプレート33とセンサスリーブ35とリテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7とは、出力軸6よりも高速で一体に周方向他方へ回転している。この状態で湿式クラッチ部3が締結状態になると、クラッチケース7とクラッチハブ62と出力軸6とが一体に周方向他方へ回転し、クラッチケース7からクラッチハブ62を介して高速の回転が出力軸6に伝達される。すなわち電動モータ2の駆動力が高速回転として出力軸6に伝達される。
【0060】
電動モータ2の駆動力が高速回転として出力軸6に伝達されると、出力軸6の周方向他方への回転速度が上昇する。出力軸6の回転速度が上昇すると、出力軸6の回転速度は、低速ギヤ32と一体に回転している二方向クラッチ8の外輪24の回転速度よりも速くなる。すなわち図7(b)において、出力軸6は二方向クラッチ8の外輪24に対して周方向他方へ相対回転する。そうすると第1の爪部材26は、爪部48がスプリング50の付勢力に抗して歯部30によって径方向外側へ押され、歯部30と非噛み合い状態となり、出力軸6の周方向他方への回転を許容する。したがって二方向クラッチ8は、図7(c)に示すように、第1の爪部材26および第2の爪部材28の何れも歯部30と非噛み合い状態となり、外輪24から出力軸6への駆動力の伝達はなされない。すなわち電動モータ2からの駆動力は、入力軸4から高速変速機構部18すなわち摩擦係合装置12を介して出力軸6へ伝達される。
【0061】
ここで、低速変速機構部17から高速変速機構部18への変速時に湿式クラッチ部3の複数のクラッチプレート13および複数のクラッチディスク15が摩擦係合し、クラッチケース7とクラッチハブ62とが一体に周方向他方へ回転を開始する際、クラッチハブ62は出力軸6に固定されており、且つ出力軸6はクラッチケース7よりも低速で周方向他方へ回転しているため、出力軸6からの抵抗が生じ、リテーナプレート31の各ばね保持部57の周方向一方側のばね押さえ部61が、当該ばね押さえ部61に接触しているドリブンプレート33の爪部87を周方向一方側へ押圧する。すると、該ばね押さえ部61はドリブンプレート33の爪部87からの反力によって周方向他方へ僅かに撓む。これによりばね保持部57のばね59が僅かに圧縮される。
【0062】
ばね59が僅かに圧縮すると、リテーナプレート31とドリブンプレート33との間に僅かな位相のずれ、すなわちねじれが生じる。言い換えると、リテーナプレート31はドリブンプレート33に対して、周方向一方に僅かに相対回転する。これと同時に、リテーナプレート31と一体に固定されたロータ29と、ドリブンプレート33と一体に固定されたセンサスリーブ35との間にも僅かな位相のずれ、すなわちねじれが生じる。言い換えると、ロータ29は、センサスリーブ35に対して周方向一方に僅かに相対回転する。
【0063】
図6において、ロータ29がセンサスリーブ35に対して周方向一方に相対回転すると、ロータ29の凸部41は窓部Bと径方向に重なる面積が大きくなってゆく。この時入力軸4から伝達される電動モータ2からの駆動力すなわちトルクが大きければ、ロータ29とセンサスリーブ35との相対回転量が大きくなり、窓部Bと重なるロータ29の凸部41の面積は大きくなり、当該トルクが小さければロータ29とセンサスリーブ35との相対回転量が小さくなり、窓部Bと重なるロータ29の凸部41の面積は小さくなる。一方、ロータ29がセンサスリーブ35に対して周方向一方に相対回転しても、ロータ29の凸部41は窓部Aとは径方向に重ならない。
【0064】
ここで、コイルAおよびコイルBには所定の電流が流れており、磁場が形成されている。また、センサスリーブ35は導電性で且つ非磁性の材料から形成され、ロータ29は磁性材料から形成されている。このため、窓部Aとロータ29の凸部41とが重なった面積が増加すれば、コイルAのインダクダンスは増大し、窓部Aとロータ29の凸部41とが重なった面積が減少すれば、コイルAのインダクダンスは減少する。同様に、窓部Bとロータ29の凸部41とが重なった面積が増加すれば、コイルBのインダクダンスは増大し、窓部Bとロータ29の凸部41とが重なった面積が減少すれば、コイルBのインダクダンスは減少する。
【0065】
そしてコイルAおよびコイルBのインダクダンスが変化すれば、コイルAおよびコイルBの自己誘導起電力もインダクダンスの変化と同様の傾向で変化する。すなわち、窓部Aとロータ29の凸部41とが重なった面積が増加すれば、コイルAの自己誘導起電力は増大し、窓部Aとロータ29の凸部41とが重なった面積が減少すれば、コイルAの自己誘導起電力は減少する。同様に、窓部Bとロータ29の凸部41とが重なった面積が増加すれば、コイルBの自己誘導起電力は増大し、窓部Bとロータ29の凸部41とが重なった面積が減少すれば、コイルBの自己誘導起電力は減少する。
【0066】
したがって、上記のようにロータ29がセンサスリーブ35に対して周方向一方に相対回転した際は、演算回路99は、ロータ29の凸部41と窓部Bとが重なった面積の大きさからコイルBの自己誘導起電力の大きさすなわち電圧の大きさを計測し、さらに自己誘導起電力の大きさを入力軸4からの周方向他方へのトルクの大きさに換算している。トルクセンサ装置5は、このように入力軸4から湿式クラッチ部3を介して出力軸6へ伝達されるトルクを検出している。そして入力軸4から伝達される電動モータ2のトルクの大きさが変化し、ロータ29の凸部41と窓部Bとが重なった面積の大きさが変化しても、変化後の当該重なった面積の大きさに応じたコイルBの自己誘導起電力からトルクの大きさを算出する。このように、入力軸4からのトルクの大きさが変化しても、演算回路99は瞬時に変化後のトルクの大きさを算出する。
【0067】
演算回路99で算出された周方向他方へのトルクの大きさは、摩擦係合装置12を制御する図示しない制御装置に伝達され、湿式クラッチ部3のクラッチプレート13およびクラッチディスク15の係合制御にフィードバックされる。これにより、入力軸4から伝達されるトルクに応じた係合制御により、変速ショックが抑制された滑らかな変速となる。なお、上記の作動は、出力軸6が周方向他方へ回転する場合を説明したが、出力軸6が周方向一方へ回転した場合は、ロータ29の凸部41と窓部Aとが径方向に重なるため、演算回路99はロータ29の凸部41と窓部Aとが重なった面積に基づいて、周方向一方へのトルクの大きさを算出する。
【0068】
低速変速機構部17から高速変速機構部18へと変速した後の高速走行においては、低速ギヤ32と常に連結されている二方向クラッチ8は空転状態であり、二方向クラッチ8を介して出力軸6にトルクが伝達されることはない。
【0069】
次に、車両が後進する際の駆動装置1の作動について説明する。
車両が後進する際は、電動モータ2と連結された入力軸4が周方向他方へ回転する。車両が後進する際は摩擦係合装置12の湿式クラッチ部3は非締結状態であり、入力軸4の回転は、第1連結ギヤ14および低速ギヤ32を介して低速回転として二方向クラッチ8に伝達され、二方向クラッチ8を介して出力軸6に伝達される。この時二方向クラッチ8は、図7(a)に示すように、第1の爪部材26および第2の爪部材28は何れも歯部30と噛み合っている。したがって図7(a)において二方向クラッチ8の外輪24が周方向一方へ回転すると、第2の爪部材28と出力軸6の拡径部6aの歯部30との噛み合いによって、出力軸6は外輪24と一体に周方向一方へ回転する。車両が後進する際は、こうして電動モータ2からの駆動力が出力軸6へ伝達される。
【0070】
このように、本実施形態の駆動装置1によれば、湿式クラッチ部3にトルクセンサ装置5が一体に設けられているので、構造を簡素化することができ、配置スペースの増加を抑制し、軽量化を図ることができる。また、湿式クラッチ部3に一体に設けられたトルクセンサ装置5によって、入力軸4から出力軸6へ伝達されるトルクの大きさおよびその変化をダイレクトに測定することができるので、変速中のトルク変化にダイレクトに追従することができ、変速ショックの少ない滑らかな変速制御が可能となる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、センサスリーブ35の窓部Aおよび窓部Bの数、および窓部Aと窓部Bとの配置のずれは、適宜設定可能である。また、ばね保持部57およびばね59の数は、伝達するトルクの大きさによって適宜設定可能である。また、ばね59の強さも伝達するトルクの大きさによって適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 駆動装置
2 電動モータ
3 湿式クラッチ部
4 入力軸
5 トルクセンサ装置
8 二方向クラッチ
12 摩擦係合装置
17 低速変速機構部
18 高速変速機構部
24 外輪
26 第1の爪部材
27 コイル部
28 第2の爪部材
29 ロータ
30 歯部
31 リテーナプレート
33 ドリブンプレート
35 センサスリーブ
41 凸部
59 圧縮コイルばね
62 クラッチハブ
99 演算回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7