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  • 特開-金属管内面樹脂被覆層の分離方法 図1
  • 特開-金属管内面樹脂被覆層の分離方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108473
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】金属管内面樹脂被覆層の分離方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20220719BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003486
(22)【出願日】2021-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100066
【弁理士】
【氏名又は名称】愛智 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【弁理士】
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 修也
(72)【発明者】
【氏名】白井 裕太
(72)【発明者】
【氏名】羽石 亮平
(72)【発明者】
【氏名】岩本 盛男
(72)【発明者】
【氏名】宮原 健太
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AC20
4F401AD01
4F401AD03
4F401CA34
4F401CA35
4F401CA48
4F401CA49
4F401CA51
4F401CA90
4F401CB05
4F401EA41
4F401FA01Y
4F401FA02X
4F401FA02Y
4F401FA03Z
4F401FA04Z
4F401FA09Z
4F401FA20Y
(57)【要約】
【課題】金属管内面に形成されている樹脂被覆層を当該内面から容易に分離でき、樹脂により管内が閉塞されても発火を起こさない分離方法を提供すること。
【解決手段】金属管P1の両端から不活性ガスを供給して内部を不活性ガス雰囲気とし、高周波誘導加熱手段20のコイル23を、金属管P1の上端部を囲むように位置させて金属管P1の上端部を誘導加熱し、金属管P1の外面温度が熱分解温度以上に維持されるよう誘導加熱を継続しながら、コイル23を、金属管P1の下端部を囲む位置まで移動させることにより、金属管P1と樹脂被覆層L1の界面近傍における構成樹脂を金属管P1の上端側から下端側に向けて順次熱分解させるとともに、界面近傍以外における構成樹脂を金属管P1の上端側から下端側に向けて順次熱溶融させ、溶融状態の構成樹脂を金属管P1の下端側の開口から排出する工程を含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に開口を有する金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を前記内面から分離する方法であって、
前記金属管を起立または傾斜させ、前記金属管の上端側の開口を、不活性ガス注入口を有する蓋で閉塞し、
前記金属管の下端側に、不活性ガス導入口を有する樹脂回収容器を連結し、
前記不活性ガス注入口から前記金属管の内部に不活性ガスを注入するとともに、前記不活性ガス導入口から前記樹脂回収容器の内部に不活性ガスを導入することにより、前記金属管の内部および前記樹脂回収容器の内部を不活性ガス雰囲気に維持し、
高周波誘導加熱手段を構成するコイルを、前記金属管の上端部を囲むように位置させて前記金属管の前記上端部を誘導加熱し、
前記上端部における前記金属管の外面温度が前記樹脂被覆層の構成樹脂の熱分解温度を超えた後、
前記コイルの長さ方向の中心と対向する前記金属管の外面温度が前記熱分解温度以上に維持されるよう誘導加熱を継続しながら、前記金属管の下端部を囲む位置まで前記コイルを移動させることにより、前記金属管と前記樹脂被覆層の界面近傍における前記構成樹脂を前記金属管の上端側から下端側に向けて順次熱分解させるとともに、前記界面近傍以外における前記構成樹脂を前記金属管の上端側から下端側に向けて順次熱溶融させ、溶融状態の前記構成樹脂を流下させて前記金属管の下端側の開口から排出する工程を含むことを特徴とする金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【請求項2】
前記金属管と前記樹脂回収容器とを気密に連結することを特徴とする請求項1に記載の金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【請求項3】
前記樹脂回収容器は、集塵装置に連通するガス排出口を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【請求項4】
前記蓋に圧力計が取り付けられ、前記圧力計により前記金属管の内部圧力を監視しながら、樹脂被覆層の分離操作を行うことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【請求項5】
前記不活性ガス導入口から前記樹脂回収容器の内部に導入する不活性ガスの比重が1.0より大きいことを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【請求項6】
前記樹脂被覆層の構成樹脂がポリエチレンであることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【請求項7】
前記金属管の内面に形成されていた樹脂被覆層の80質量%以上を、前記金属管の下端側の開口から排出させて前記樹脂回収容器に回収することを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の金属管内面樹脂被覆層の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を、当該内面から分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、金属管内面に形成されている樹脂被覆層を貼り替える際において、当該樹脂被覆層を剥離する方法として、金属管の一端で樹脂被覆層を剥がして掴み代を作り、金属管内に挿入した把持・牽引手段にその掴み代を連結すると共にその掴み代を反転させ、剥離前線近傍の管体を、誘導加熱手段によって接着強度が一過的に低下するように加熱し、誘導加熱手段を管軸方向に順次移動させて加熱位置を順次移動させながら把持・牽引手段を金属管の他端に向かって引き抜き、樹脂被覆層を反転させながら剥がして行く方法が、本出願人によって紹介されている(下記の特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されているような方法では、剥がされた後の樹脂被覆層は、加熱により軟化して強度が低下しているため、引張力により途中で破断してしまうことがある。
【0004】
また、金属管内面に形成されている樹脂被覆層を剥離する他の方法として、樹脂被覆層の表面を水冷しながら、金属管と樹脂被覆層との界面を当該樹脂被覆層を構成する樹脂の熱分解温度以上の温度で加熱することにより、界面近傍における構成樹脂を熱分解させる第1工程と、金属管の内面から樹脂被覆層を剥離除去する第2工程とを含む方法が、本出願人によって紹介されている(下記の特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載されているような方法では、第1工程の終了後、樹脂被覆層が金属管の内面に再固着することがあり、このように再固着した樹脂を、第2工程において剥離することはきわめて困難である。
【0006】
また、小径(例えば、外径が27.2~114.3mm)の金属管の内面に形成された樹脂被覆層を手指や治具により剥離することはきわめて困難である。
【0007】
ところで、原子力管理区域内で使用されていた金属管の内面に形成された樹脂被覆層は、その表面が放射性物質などにより汚染されている可能性があるため、そのような汚染物質を樹脂被覆層の表面近傍を構成する樹脂とともに確実に回収することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-210937号公報
【特許文献2】特開2018-202797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような事情に鑑みて、本出願人は、金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を、前記内面から分離する方法として、前記金属管の内部を不活性ガス雰囲気とし、高周波誘導加熱手段を構成するコイルを、前記金属管の上端部を囲むように位置させて前記金属管の前記上端部を誘導加熱し、前記上端部における前記金属管の外面温度が前記樹脂被覆層の構成樹脂の熱分解温度を超えた後、前記コイルの長さ方向の中心と対向する前記金属管の外面温度が前記熱分解温度以上に維持されるよう誘導加熱を継続しながら、前記コイルを、前記金属管の外面に沿って前記金属管の下端部を囲む位置まで移動させることにより、前記金属管と前記樹脂被覆層の界面近傍における前記構成樹脂を前記金属管の上端側から下端側に向けて順次熱分解させるとともに、前記界面近傍以外における前記構成樹脂を前記金属管の上端側から下端側に向けて順次熱溶融させ、溶融状態の前記構成樹脂を前記金属管の下端側の開口から排出する工程を含む金属管内面樹脂被覆層の分離方法を提案している(特願2019-133471号明細書参照)。
【0010】
この分離方法によれば、金属管との界面近傍における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の上端側から下端側に向けて順次熱分解するとともに、界面近傍以外における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の上端側から下端側に向けて順次熱溶融し、溶融状態の樹脂が金属管内面から分離されて下端方向に流動し、下端側の開口から排出される。
【0011】
ここに、金属管の内部を不活性ガス雰囲気とするための不活性ガスは、金属管の上端側の開口から供給され、金属管の上端側から下端側に向けて管内を流通し、溶融状態の樹脂とともに、下端側の開口から排出される。
【0012】
しかしながら、上記のような分離方法により、呼び径が50A以下であるような小径の金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を分離しようとすると、溶融状態の樹脂が金属管の内部で詰まって管路が閉塞され、事後の工程が滞ってしまうことがある。
さらに、このような状態で不活性ガスを供給しても、金属管の管路を閉塞している溶融樹脂の下側には不活性ガスが流通されないため、誘導加熱によって発火するおそれがある。このような発火現象は、溶融状態の樹脂が排出される金属管の開口近傍において起こりやすい。
【0013】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を、当該内面から容易かつ確実に分離することができる新規な分離方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、界面近傍以外における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の内面に再固着するようなことがない分離方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を、手指や剥離治具を使用することなく、前記内面から分離することができる分離方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、溶融状態の樹脂が金属管の内部で詰まって管路が閉塞された場合でも、閉塞箇所の下側において発火を起こすことがなく、樹脂が管内に詰まった状態を直ちに解消することができる分離方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、樹脂被覆層の表面が放射性物質などによって汚染されている場合に、そのような汚染物質を樹脂被覆層の構成樹脂とともに確実に回収することができる分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法は、両端に開口を有する金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を前記内面から分離する方法であって、
前記金属管を起立または傾斜させ、前記金属管の上端側の開口を、不活性ガス注入口を有する蓋で閉塞し、
前記金属管の下端側に、不活性ガス導入口を有する樹脂回収容器を連結し、
前記不活性ガス注入口から前記金属管の内部に不活性ガスを注入するとともに、前記不活性ガス導入口から前記樹脂回収容器の内部に不活性ガスを導入することにより、前記金属管の内部および前記樹脂回収容器の内部を不活性ガス雰囲気に維持し、
高周波誘導加熱手段を構成するコイルを、前記金属管の上端部を囲むように位置させて前記金属管の前記上端部を誘導加熱し、
前記上端部における前記金属管の外面温度が前記樹脂被覆層の構成樹脂の熱分解温度を超えた後、
前記コイルの長さ方向の中心と対向する前記金属管の外面温度が前記熱分解温度以上に維持されるよう誘導加熱を継続しながら、前記金属管の下端部を囲む位置まで前記コイルを移動させることにより、前記金属管と前記樹脂被覆層の界面近傍における前記構成樹脂を前記金属管の上端側から下端側に向けて順次熱分解させるとともに、前記界面近傍以外における前記構成樹脂を前記金属管の上端側から下端側に向けて順次熱溶融させ、溶融状態の前記構成樹脂を流下させて前記金属管の下端側の開口から排出する工程を含むことを特徴とする。
【0015】
このような分離方法によれば、金属管との界面近傍における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の上端側から下端側に向けて順次熱分解するとともに、界面近傍以外における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の上端側から下端側に向けて順次熱溶融し、溶融状態の樹脂が金属管内面から分離(剥離)されて下端方向に流動し、下端側の開口から排出されるので、界面近傍以外における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の内面に再固着するようなことはない。
また、溶融状態の樹脂は、手指や剥離治具を使用しなくても金属管内面から容易に分離することができる。
【0016】
また、蓋に設けられた不活性ガス注入口から金属管の内部に不活性ガスが注入されるとともに、不活性ガス導入口から樹脂回収容器の内部に不活性ガスが導入されることにより、溶融状態の樹脂が金属管の内部で詰まって管路が閉塞された場合であっても、樹脂回収容器の内部、および、閉塞箇所の下側における金属管の内部を不活性ガス雰囲気に維持することができるので、閉塞箇所の下側における金属管の内部および樹脂回収容器の内部における発火を確実に防止することができる。
【0017】
また、金属管の上端側の開口が、不活性ガス注入口を有する蓋で閉塞され、注入された不活性ガスや熱分解ガスが当該開口から排出されることはないので、溶融状態の樹脂が金属管の内部で詰まって管路が閉塞された場合には、閉塞箇所の上側における金属管の内部圧力が上昇する。これにより、管路を閉塞している樹脂に、ガスの通過を許容する細孔(貫通孔)が形成されたり、当該樹脂(塊)が破砕されたり、塊の形状を維持したままの状態で当該樹脂が管路を流下して下端側の開口から排出されたりすることにより、閉塞状態を直ちに解消することができる。
【0018】
なお、前記金属管を事前に予熱しておくことも可能である。例えば、加熱炉中で予熱後に前記の方法を実施することができる。また、前記コイルを金属管の上端部を囲むように位置させる際に、金属管の下端部を囲むように位置させた当該コイルを、誘導加熱により金属管を予熱しながら上向きに移動させて金属管の上端部を囲む位置に設置することも可能である。これらの予熱では、前記金属管の外面温度が前記構成樹脂の熱分解温度を超えないようにすることが必須であり、当該構成樹脂の融点を超えないようにすることが好ましい。
【0019】
(2)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法において、前記金属管と前記樹脂回収容器とを気密に連結することが好ましい。
このような分離方法によれば、金属管と樹脂回収容器との連結部から、これらの内部に空気(酸素)が流入することを完全に防止することができる。
【0020】
(3)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法において、前記樹脂回収容器は、集塵装置に連通するガス排出口を有していることが好ましい。
【0021】
このような分離方法によれば、金属管の下端側の開口を通って樹脂回収容器内へ連続的に排出される熱分解ガス、不完全燃焼に伴う黒煙、不活性ガスなどを、ガス排出口から容器外に排出し、不完全燃焼に伴う黒煙などを集塵装置によって回収することができる。
【0022】
(4)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法において、前記蓋に圧力計が取り付けられ、当該圧力計により前記金属管の内部圧力を監視しながら、樹脂被覆層の分離操作を行うことが好ましい。
【0023】
このような分離方法によれば、オペレータは、金属管の内部の状況(構成樹脂の詰まりの発生および解消)を把握することができ、必要に応じて適切な措置を講ずることができる。
【0024】
(5)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法において、前記不活性ガス導入口から前記樹脂回収容器の内部に導入する不活性ガスの比重が1.0より大きいことが好ましい。
【0025】
このような分離方法によれば、不活性ガス導入口から樹脂回収容器の内部に導入される不活性ガスを、当該樹脂回収容器の内部に確実に滞留させることができる。
【0026】
(6)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法において、前記樹脂被覆層の構成樹脂がポリエチレンであることが好ましい。
【0027】
(7)本発明の金属管内面樹脂被覆層の分離方法において、前記金属管の内面に形成されていた樹脂被覆層の80質量%以上を、前記金属管の他端側の開口から排出させて前記樹脂回収容器に回収することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の分離方法によれば、金属管の内面に形成されている樹脂被覆層を、当該金属管の内面から容易かつ確実に分離することができる。
また、樹脂被覆層の分離作業を手指や剥離治具を使用することなく行うことができる。 また、界面近傍以外における樹脂被覆層の構成樹脂が、金属管の内面に再固着するようなこともない。
また、溶融状態の樹脂が金属管の内部で詰まって管路が閉塞された場合であっても、閉塞箇所の下側における金属管の内部および樹脂回収容器の内部における発火を確実に防止することができる。
また、溶融状態の樹脂が金属管の内部で詰まって管路が閉塞された場合であっても、当該樹脂を下端側の開口から排出するなどして閉塞状態を直ちに解消することができる。
更に、樹脂被覆層の表面近傍を構成していた樹脂を、金属管の下端側の開口から排出して確実に回収することができる。この結果、樹脂被覆層の表面が放射性物質などによって汚染されていた場合に、放射性物質などの汚染物質を、排出された樹脂とともに回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態を示す模式図であり、高周波誘導加熱装置を構成するコイルを、金属管の上端部の外面を囲むように位置させて、金属管の上端部を誘導加熱している状態を示している。
図2】本発明の一実施形態を示す模式図であり、高周波誘導加熱装置を構成するコイルを、金属管の下端部の外面を囲む位置まで移動(下降)させた状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の分離方法は、金属管の内面に形成(ライニング)されている樹脂被覆層を当該内面から分離(剥離)する方法である。
【0031】
<実施形態>
図1および図2は、本発明の分離方法の一実施形態を示す一部破断模式図である。
図1および図2においてP1は金属管であり、起立した状態で配置されている。
金属管P1の両端は開口しており、金属管P1の内面には樹脂被覆層L1が形成されている。
【0032】
金属管P1としては、各種鋼管、銅管などを例示することができる。
金属管P1の外径としては、通常27.2~114.3mmとされ、好適な一例を示せば60.5mm(呼び径50A)とされる。
金属管P1の肉厚としては、通常2.9~6.0mmとされ、好適な一例を示せば3.9mmとされる。
【0033】
樹脂被覆層L1を構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂を例示することができ、本発明の分離方法は、特に、ポリエチレンからなる被覆樹脂層L1の分離方法として好適である。
樹脂被覆層L1の厚さとしては、通常0.5~3mmとされ、好適な一例を示せば2mmとされる。
【0034】
本実施形態の分離方法は、閉塞蓋10と、高周波誘導加熱装置20と、樹脂回収容器30と、第1不活性ガス供給手段41と、第2不活性ガス供給手段42と、集塵装置50とを使用して実施される。
【0035】
閉塞蓋10は、金属管P1の上端側の開口を閉塞する上蓋である。
閉塞蓋10と金属管P1との間にはOリング(図示省略)が介在しており、これにより、両者間の気密性が確保されている。
閉塞蓋10には、不活性ガスの注入口11が設けられているとともに、金属管P1の内部圧力を測定するための圧力計13が取付けられている。
【0036】
高周波誘導加熱装置20は、高周波電源21と、金属管P1の外面を囲むようにして、移動(昇降)することができるコイル23を備えている。
図1および図2において、25は、コイル23の長さ方向の中心と対向する金属管P1の外面温度を測定するための放射温度計であり、この放射温度計25は、コイル23とともに移動(昇降)する。
【0037】
樹脂回収容器30は、溶融状態にある樹脂被覆層の構成樹脂を回収するために、金属管11の下端側に連結されている。
樹脂回収容器30と金属管P1との間にはOリング(図示省略)が介在しており、これにより、両者間の気密性が確保されている。
樹脂回収容器30には、不活性ガスの導入口32と、ガス排出口34とが設けられている。
【0038】
第1不活性ガス供給手段41は、金属管P1の内部に不活性ガスを供給するために、閉塞蓋10の注入口11(金属管P1の上端側)に接続されている。
第1不活性ガス供給手段41により供給する不活性ガスとしては、誘導加熱時における樹脂の発火を防止できるガスであればよく、窒素ガスを好適に使用することができる。
【0039】
第2不活性ガス供給手段42は、樹脂回収容器30の内部に不活性ガスを供給するために、不活性ガスの導入口32(金属管P1の下端側)に接続されている。
第2不活性ガス供給手段42により供給する不活性ガスとしては、誘導加熱時における樹脂の発火を防止できるガスであればよいが、樹脂回収容器30の内部に確実に滞留させる(ガス排出口34から排出されない)など観点から、その比重が1.0より大きいことが好ましく、アルゴンガス(比重=1.38)を好適に使用することができる。
【0040】
集塵装置50は、不完全燃焼に伴う黒煙などを吸引して回収するために、樹脂回収容器30のガス排出口34に接続されている。
【0041】
この実施形態の分離方法では、先ず、起立させた状態の金属管P1に閉塞蓋10を気密に装着することにより金属管P1の上端側の開口を閉塞し、この金属管P1の下端側に樹脂回収容器30を気密に連結する。
【0042】
次に、閉塞蓋10の注入口11から金属管P1の内部に不活性ガスを注入するとともに、導入口32から樹脂回収容器30の内部に不活性ガスを導入することにより、金属管P1の内部および樹脂回収容器30の内部を不活性ガス雰囲気とする。
【0043】
その後、図1に示すように、高周波誘導加熱装置20を構成するコイル23を、金属管P1の上端部の外面を囲むように位置させて、金属管P1の上端部を誘導加熱する。
誘導加熱により、金属管P1の上端部における外面温度が樹脂被覆層L1の構成樹脂の熱分解温度を超えた後、コイル23を、金属管P1の下端方向へ移動(下降)させる。
【0044】
ここに、構成樹脂の熱分解温度とは、窒素雰囲気下で熱分析(TG/DTA)を行った場合に当該樹脂の重量が5%減少したときの温度をいい、ポリエチレン樹脂の熱分解温度は400~450℃とされる。
【0045】
高周波誘導加熱装置20による誘導加熱において、周波数としては2~30kHzであることが好ましく、好適な一例を示せば20kHzである。
また、投入電力としては5~120kWであることが好ましく、好適な一例を示せば10kWである。
金属管P1の上端部における外面の昇温速度は1℃/秒以上であることが好ましく、好適な一例を示せば10℃/秒とされる。
【0046】
金属管P1の上端部の誘導加熱を開始してからコイル23の下降を開始するまでの時間(定置加熱時間)としては、通常1~60秒間とされ、好適な一例を示せば8秒間である。
【0047】
定置加熱時間が短過ぎると、金属管P1の上端部に供給する熱量が不足して、その外面を十分に昇温させることができず、金属管P1との界面近傍における樹脂被覆層L1の構成樹脂を十分に熱分解できなくなることがあり、かかる場合には、金属管P1の上端部において樹脂被覆層L1の分離が困難となる。
【0048】
他方、定置加熱時間が長すぎると、金属管P1の上端部に供給する熱量が過剰となって、その外面温度が過大となり、界面近傍以外における樹脂被覆層L1の構成樹脂まで熱分解されることがあり、かかる場合には、金属管P1の上端部に形成されている樹脂被覆層L1の構成樹脂を十分に回収することができない。
【0049】
定置加熱時間の経過後、コイル23を、その長さ方向の中心と対向している金属管P1の外面温度が、構成樹脂の熱分解温度以上に維持されるように誘導加熱を継続しながら、金属管P1の外面に沿って、図2に示すような、金属管P1の下端部の外面を囲む位置まで移動(下降)させる。
【0050】
コイル23の長さ方向の中心と対向している金属管P1の外面温度は、投入電力およびコイル23の移動速度(コイル送り速度)を適宜調整することにより制御する(構成樹脂の熱分解温度以上に維持する)ことができる。
【0051】
ここに、コイル23の移動速度(コイル送り速度)としては、投入電力によっても異なるが、1~30mm/秒であることが好ましく、好適な一例を示せば3mm/秒とされる。
【0052】
コイル送り速度が速すぎると、移動中のコイル23から金属管P1に供給される熱量が不足して、金属管P1の外面温度を構成樹脂の熱分解温度以上に維持することができず、金属管P1との界面近傍における樹脂被覆層L1の構成樹脂を十分に熱分解できなくなることがあり、かかる場合には、金属管P1の内面からの樹脂被覆層L1の分離が困難となる。
【0053】
他方、コイル送り速度が遅すぎると、移動中のコイル23から金属管P1に供給される熱量が過剰となって、金属管P1の外面温度が過大となり、金属管P1との界面近傍以外における樹脂被覆層L1の構成樹脂まで熱分解されることになり、かかる場合には、樹脂被覆層L1を樹脂として回収する際の効率が低下する。
【0054】
移動中のコイル23の長さ方向の中心と対向している金属管P1の外面温度は、樹脂被覆層L1の構成樹脂の熱分解温度以上とされ、好ましくは、構成樹脂の熱分解温度以上であって構成樹脂の熱分解温度+100℃以下とされる。
コイル23の長さ方向の中心と対向している金属管P1の外面における実際の温度は、コイル23とともに移動する放射温度計25により測定される。
【0055】
ここに、金属管P1の肉厚が15.9mm程度またはそれ以下であれば、誘導加熱中における金属管P1と樹脂被覆層L1の界面温度は、金属管P1の外面温度と略等しくなるため、そのような金属管P1の外面温度を樹脂被覆層L1の構成樹脂の熱分解温度以上に維持することによって、金属管P1との界面近傍における構成樹脂を熱分解させることができる。
【0056】
他方、樹脂被覆層L1の構成樹脂(例えばポリエチレン)の熱伝導率は、金属管P1の構成金属(例えば鋼管)の熱伝導率と比較して格段に小さいため、金属管P1の外面温度を樹脂被覆層L1の構成樹脂の熱分解温度以上(例えば、熱分解温度+100℃程度)としても、金属管P1との界面近傍以外における構成樹脂は、その溶融温度を超えるものの、その熱分解温度以上にはならない。
【0057】
従って、コイル23の長さ方向の中心と対向する金属管P1の外面温度が、構成樹脂の熱分解温度以上、特に、構成樹脂の熱分解温度以上であって熱分解温度+100℃以下に維持されるように誘導加熱を継続しながら、当該コイル23を下降させることにより、金属管P1との界面近傍における樹脂被覆層L1の構成樹脂が、金属管P1の上端側から下端側に向けて順次熱分解されるとともに、熱分解温度に到達していない界面近傍以外における構成樹脂が、金属管P1の上端側から下端側に向けて順次熱溶融される。
ここに、金属管P1との「界面近傍」における樹脂被覆層L1の構成樹脂とは、例えば樹脂被覆層L1の厚さをtとするとき、金属管P1との界面から厚さ方向に0.3t以内、好ましくは0.1t以内の範囲に存在する構成樹脂をいう。
【0058】
金属管P1との界面近傍における構成樹脂が順次熱分解されることにより、界面近傍以外における構成樹脂の金属管P1の内面に対する固着強度が消失する。
また、界面近傍以外における構成樹脂が順次熱溶融されることにより、当該構成樹脂は、その自重によって金属管P1の内面を流下し、金属管P1の下端側の開口から排出されて樹脂回収容器30に収容される。
なお、本発明において、界面近傍以外における構成樹脂の全体が流動性を有していれば、界面近傍以外における構成樹脂の一部(例えば、表面近傍における構成樹脂)が熱溶融されていなくてもよい。
【0059】
この実施形態の分離方法によれば、金属管P1との界面近傍における樹脂被覆層L1の構成樹脂が金属管P1の上端側から下端側に向けて順次熱分解されるとともに、界面近傍以外における樹脂被覆層L1の構成樹脂が、金属管P1の上端側から下端側に向けて順次熱溶融し、溶融状態の樹脂が直ちに流下して開口から排出されるので、手指や剥離治具を使用しなくても、界面近傍以外における樹脂被覆層L1の構成樹脂を、金属管P1の内面から容易かつ確実に分離することができ、当該構成樹脂が再固着することもない。
また、界面近傍以外における樹脂被覆層L1の構成樹脂を確実に回収することができるので、樹脂被覆層L1の表面が放射性物質によって汚染されていた場合には、当該放射性物質を、排出された樹脂とともに確実に回収することができる。
【0060】
また、呼び径が50A以下であるような小径の金属管P1の内面に形成されている樹脂被覆層L1を分離しようとするときに、溶融状態の樹脂が金属管P1の内部で詰まって管路が閉塞され、第1不活性ガス供給手段41により注入口11を介して供給される不活性ガスが管路を閉塞している樹脂の下側に流通されないことが考えられるが、本実施形態の分離方法では、注入口11から金属管P1の内部に不活性ガスが注入されるだけでなく、第2不活性ガス供給手段42により不活性ガスが導入口32を介して樹脂回収容器30の内部に導入され、さらに、金属管P1の下端側の開口から内部に導入されるので、上記のような閉塞が起こった場合でも、樹脂回収容器30の内部、および、閉塞箇所の下側における金属管P1の内部を不活性ガス雰囲気に維持することができ、閉塞箇所の下側における金属管P1の内部および樹脂回収容器30の内部における発火を確実に防止することができる。
【0061】
また、金属管P1の上端側の開口が、注入口11を有する閉塞蓋10で閉塞され、注入された不活性ガスや熱分解ガスが当該開口から排出されることはないので、溶融状態の樹脂が金属管P1の内部で詰まって管路が閉塞された場合には、閉塞箇所の上側における金属管P1の内部圧力が上昇し、管路を閉塞している樹脂(塊)に、ガスの通過を許容する細孔(貫通孔)が形成されたり、当該樹脂(塊)が破砕されたり、塊の形状を維持したままの状態で当該樹脂が管路を流下して下端側の開口から排出されたりすることにより、閉塞状態を直ちに解消することができる。
【0062】
また、溶融状態の樹脂が金属管P1の内部で詰まって管路が閉塞されたときには、圧力計13により測定される圧力が上昇し、閉塞状態が解消されたときには、上昇前の圧力に戻るので、オペレータは、金属管P1の内部の状況(樹脂の詰まりの発生および解消)を把握することができ、必要に応じて適切な措置を講ずることができる。
【実施例0063】
外径60.5mm(呼び径50A)、肉厚3.9mm、長さ390mmの鋼管(P1)の内面にポリエチレンからなる膜厚1.7mm以上の樹脂被覆層(L1)が形成されてなるポリエチレンライニング鋼管について、上記実施形態の方法により、下記条件に従って、鋼管(P1)の内面からの樹脂被覆層(L1)を分離した。分離操作後の鋼管(P1)の内面を観察したところ、樹脂被覆層(L1)は完全に除去されていた。
分離操作前後の(ライニング)鋼管の重量と、回収した樹脂の重量から、樹脂被覆層の構成樹脂の回収率を求めた。
【0064】
(条件)
・不活性ガス:窒素ガス
・誘導加熱における周波数および投入電力:20kHz、10kW
・上端部における定置加熱時間:8秒間
・定置加熱時間経過時の上端部における外面温度:450℃
・コイル送り速度:3mm/秒
・移動中のコイル(23)の長さ方向の中心と対向している金属管の外面温度:400~500℃
【0065】
(結果)
・分離操作前のライニング鋼管の重量(W1):1812g
・分離操作後の鋼管の重量(W2) :1713g
・回収した樹脂の重量(W3) : 90g
・回収率(W3/(W1-W2))×100 : 91%
【0066】
上記の結果から、ポリエチレンからなる樹脂被覆層のうち、界面近傍の構成樹脂(9%)が熱分解され、界面近傍以外の構成樹脂(91%)を回収できた。
【0067】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の分離方法はこれに限定されるものでなく、種々の変更が可能である。
例えば、上記の実施形態では、金属管11の下端側に対して樹脂回収容器30を気密に連結しているが、第1不活性ガス供給手段41および/または第2不活性ガス供給手段42からの不活性ガスの供給量を調整(増加)し、金属管P1の内部および樹脂回収容器30の内部圧力を大気圧よりある程度高くすることにより、金属管P1と樹脂回収容器30とを気密に連結しなくても、これらの内部における不活性ガス雰囲気を維持することができる。
【0068】
また、上記の実施形態では、金属管P1の外面温度を放射温度計25により測定するが、サーモテープ、接触温度計などによって金属管の外面温度を測定してもよい。
また、上記の実施形態では、金属管P1を起立させた状態で配置したが、金属管を傾斜させた状態で配置してもよい。ここに、傾斜角度(水平面とのなす角度)としては30°以上であることが好ましい。
【符号の説明】
【0069】
P1 金属管
L1 樹脂被覆層
10 閉塞蓋
11 不活性ガスの注入口
13 圧力計
20 高周波誘導加熱装置
21 高周波電源
23 コイル
25 放射温度計
30 樹脂回収容器
32 不活性ガスの導入口
34 ガス排出口
41 第1不活性ガス供給手段
42 第2不活性ガス供給手段
50 集塵装置
図1
図2