(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108481
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】A/Fセンサ特性情報生成システム及びエンジン制御システム
(51)【国際特許分類】
G01M 15/02 20060101AFI20220719BHJP
G01F 1/66 20220101ALI20220719BHJP
G01F 1/34 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
G01M15/02
G01F1/66 Z
G01F1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003501
(22)【出願日】2021-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】522193547
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(72)【発明者】
【氏名】安野 啓介
(72)【発明者】
【氏名】小島 桂一郎
【テーマコード(参考)】
2F030
2F035
2G087
【Fターム(参考)】
2F030CA04
2F030CC14
2F030CE02
2F035AA02
2F035DA13
2G087AA15
2G087BB21
2G087BB26
2G087BB28
2G087CC13
2G087CC23
2G087CC29
(57)【要約】
【課題】A/Fセンサの応答性を改善するためのA/Fセンサ特性情報生成システムを提供する。
【解決手段】エンジン試験装置Bに設置されたエンジンEの排気管6に設置されたA/Fセンサ20と、吸気管5に接続された高応答流量計21と、吸気管5に設置された圧力計22及び温度計23と、計測装置110とを備えたA/Fセンサ特性情報生成システムWであって、計測装置110は、エンジン試験装置BがエンジンEを動作させている最中に、A/Fセンサ20が検出した計測空燃比と、高応答流量計21が計測した空気流量と、圧力計22が計測した吸気管圧と、温度計22が計測した吸気管温度とを取得し、取得した空気流量、吸気管圧及び吸気管温度を用いてバルブ通過流量を算出し、バルブ通過流量を所定噴射量で除算した値をリファレンス空燃比として算出し、リファレンス空燃比と計測空燃比を用いてA/Fセンサ特性情報を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン試験装置に設置されたエンジンの排気管に設置され該排気管に排出される流体の計測空燃比を検出するA/Fセンサと、前記エンジンの吸気管に接続され該吸気管に流入される流体の空気流量を計測する高応答流量計と、前記吸気管の管内に設置され吸気管圧を計測する圧力計と、前記吸気管の管内に設置され吸気管温度を計測する温度計と、A/Fセンサ特性情報を算出する計測装置とを備えたA/Fセンサ特性情報生成システムであって、
前記エンジン試験装置は、前記エンジンが所定噴射量の燃料を噴射すると共に、サイクル毎にエンジンに流入する空気流量が急峻に変化するように該エンジンを動作させるようになっており、
前記計測装置は、
前記エンジン試験装置が前記エンジンを動作させている最中に、前記A/Fセンサが検出した計測空燃比と、前記高応答流量計が計測した吸気管に流入される空気流量と、圧力計が計測した吸気管圧と、温度計が計測した吸気管温度とを取得するデータ取得部と、
前記取得した前記空気流量、前記吸気管圧及び前記吸気管温度とを用いて前記エンジンの吸気バルブを通過する流体のバルブ通過流量を算出するバルブ通過流量算出部と、
前記算出したバルブ通過流量を前記所定噴射量で除算した値をリファレンス空燃比として算出し、該リファレンス空燃比及び前記取得した計測空燃比を用いて前記A/Fセンサ特性情報として前記A/Fセンサの回帰伝達関数を算出するA/Fセンサ特性情報算出部とを有していることを特徴とするA/Fセンサ特性情報生成システム。
【請求項2】
前記A/Fセンサ特性情報算出部は、前記リファレンス空燃比を入力値とし、該リファレンス空燃比に対応する前記A/Fセンサが検出した計測空燃比を出力値とし、フーリエ解析演算を行い前記A/Fセンサの伝達特性を算出し、該算出した伝達特性から伝達関数を算出し、該伝達関数から前記回帰伝達関数を算出するようになっていることを特徴とする請求項1に記載のA/Fセンサ計特性情報生成システム。
【請求項3】
前記高応答流量計は、超音波流量計或いはラミナ流量計であることを特徴とする請求項1又は2に記載のA/Fセンサ計特性情報生成システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のA/Fセンサ特性情報生成システムが生成した前記回帰伝達関数を記憶しているエンジン制御装置と、前記A/Fセンサを備えたエンジンとを有しているエンジン制御システムであって、
前記A/Fセンサは、前記エンジンの排気管に設置され該排気管に排出される流体の空燃比を計測し、前記エンジン制御装置に該計測した空燃比を送信するようになっており、
前記エンジン制御装置は、前記A/Fセンサが計測した前記空燃比を取得し、前記記憶している回帰伝達関数を用いて該取得した空燃比を補正した補正空燃比を算出し、該補正空燃比を用いてエンジンの燃料噴射量の制御を行うようになっていることを特徴とするエンジン制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A/Fセンサ特性情報生成システム及びエンジン制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車に搭載されているエンジン制御装置(ECU(Electronic Control Unit))は、エンジンの排気通路内に設けられた空燃比センサ(A/F(Air / Fuel ratio)センサ)が検出した空燃比に基づいて実際の空燃比が目標空燃比に収束するようにエンジンへの燃料噴射量を補正するフィードバック制御を行っている。例えば、特許文献1には、A/Fセンサの検出値を用いて、エンジンへの燃料噴射量を補正するエンジン制御に関する技術が開示されている。
【0003】
また、上記のような自動車のエンジン制御に用いられるA/Fセンサは、所謂、ジルコニア式のものが主流になっている。このジルコニア式のA/Fセンサは、特許文献2に開示されている。
特許文献2に記載のジルコニア式のA/Fセンサは、ジルコニア素子と、ジルコニア素子の一方面(内表面)に設けられた大気側電極と、ジルコニア素子の他方面(外表面)に設けられた排気側電極と、排気側電極を覆うセラミックコーティングと、ジルコニア素子を加熱するヒータとを備えている。また、A/Fセンサは、「ジルコニア素子、大気側電極、排気側電極、及びセラミックコーティング」を覆うカバーを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-145943号公報
【特許文献2】特開2007-315855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したジルコニア式のA/Fセンサは、応答性が悪いという課題を有している。そのため、自動車のエンジン制御装置(ECU)が、応答性が悪いジルコニア式のA/Fセンサの検出値を用いて、エンジンへの燃料噴射量の制御をしても、最適な動作をするようにエンジンを制御できない虞があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、A/Fセンサの応答性を改善するためのA/Fセンサ特性情報生成システムを提供することにある。また、本発明は、前記A/Fセンサ特性情報生成システムが生成したA/Fセンサ特性情報を用いてエンジンを制御するエンジン制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の第1態様は、エンジン試験装置に設置されたエンジンの排気管に設置され該排気管に排出される流体の計測空燃比を検出するA/Fセンサと、前記エンジンの吸気管に接続され該吸気管に流入される流体の空気流量を計測する高応答流量計と、前記吸気管の管内に設置され吸気管圧を計測する圧力計と、前記吸気管の管内に設置され吸気管温度を計測する温度計と、A/Fセンサ特性情報を算出する計測装置とを備えたA/Fセンサ特性情報生成システムであって、前記エンジン試験装置は、前記エンジンが所定噴射量の燃料を噴射すると共に、サイクル毎にエンジンに流入する空気流量が急峻に変化するように該エンジンを動作させるようになっており、前記計測装置は、前記エンジン試験装置が前記エンジンを動作させている最中に、前記A/Fセンサが検出した計測空燃比と、前記高応答流量計が計測した吸気管に流入される空気流量と、圧力計が計測した吸気管圧と、温度計が計測した吸気管温度とを取得するデータ取得部と、前記取得した前記空気流量、前記吸気管圧及び前記吸気管温度を用いて前記エンジンの吸気バルブを通過する流体のバルブ通過流量を算出するバルブ通過流量算出部と、前記算出したバルブ通過流量を前記所定噴射量で除算した値をリファレンス空燃比として算出し、該リファレンス空燃比及び前記取得した計測空燃比を用いて前記A/Fセンサ特性情報として前記A/Fセンサの回帰伝達関数を算出するA/Fセンサ特性情報算出部とを有していることを特徴とする。
【0008】
上記のように構成しているのは、本願発明者が、エンジン試験装置に設置されて動作しているエンジンのバルブを通る流体のバルブ通過流量の値を正確に算出することができれば、そのバルブ通過流量を、エンジンの「燃料の所定噴射量」で除算した値を算出することで、エンジンの排気管に流れる流体の空燃比の真値に近似している値が得られることを見出だしたことによる。
【0009】
そこで、本願発明者は、上記のようなバルブ通過流量算出するための構成(高応答流量計、圧力計、温度計、データ取得部、バルブ通過流量算出部)を設けると共に、算出した「バルブ通過流量」を「燃料の所定噴射量」で除算する値をリファレンス空燃比とて算出し、その算出したリファレンス空燃比と、A/Fセンサが検出した計測空燃比とを用いて、A/Fセンサ特性情報としてA/Fセンサの回帰伝達関数を算出するA/Fセンサ特性情報算出部を有する構成を採用した。
そして、本発明の一態様により得られた「A/Fセンサ特性情報(回帰伝達関数)」を用いて「A/Fセンサ」が検出した計測値(計測空燃比)を補正することで、正確な空燃比が算出できる。すなわち、本発明の一態様によれば、自動車のエンジンの制御に一般的に用いられている、応答性が悪い「ジルコニア式のA/Fセンサ」を、応答性が高い「A/Fセンサ」として機能させることができる。
【0010】
また、前記A/Fセンサ特性情報算出部は、前記リファレンス空燃比を入力値とし、該リファレンス空燃比に対応する前記A/Fセンサが検出した計測空燃比を出力値とし、フーリエ解析演算を行い前記A/Fセンサの伝達特性を算出し、該算出した伝達特性から伝達関数を算出し、該伝達関数から前記回帰伝達関数を算出するようになっていることが望ましい。
また、前記高応答流量計は、超音波流量計或いはラミナ流量計であることが望ましい。
【0011】
また、本発明の第2態様は、前記A/Fセンサ特性情報生成システムが生成した前記回帰伝達関数を記憶しているエンジン制御装置と、前記A/Fセンサを備えたエンジンとを有しているエンジン制御システムであって、前記A/Fセンサは、前記エンジンの排気管に設置され該排気管に排出される流体の空燃比を計測し、前記エンジン制御装置に該計測した空燃比を送信するようになっており、前記エンジン制御装置は、前記A/Fセンサが計測した前記空燃比を取得し、前記記憶している回帰伝達関数を用いて該取得した空燃比を補正した補正空燃比を算出し、該補正空燃比を用いてエンジンの燃料噴射量の制御を行うようになっていることを特徴とする。
【0012】
本発明の第2態様によれば、応答性が悪いジルコニア式のA/Fセンサが搭載されているエンジンを制御するエンジン制御システムにおいて、A/Fセンサが計測した排気管に流れる流体の空燃比を正確な値に補正した上で、エンジンの燃料噴射量を制御することができる。そのため、本発明のエンジン制御装置によれば、高精度なエンジン制御が実現される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、A/Fセンサの応答性を改善するためのA/Fセンサ特性情報生成システムを提供することができる。また、本発明によれば、前記A/Fセンサ特性情報生成システムが生成したA/Fセンサ特性情報を用いてエンジンを制御するエンジン制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムの構成を示した模式図である。
【
図2】本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが行うバルブ通過流量算出処理を説明するための模式図である。
【
図3】本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムの高応答流量計で計測した空気流量と、A/Fセンサ特性情報生成システムが算出したバルブ通過流量との関係示した模式図である。
【
図4】本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが行うA/Fセンサ特性情報生成処理の手順を示したフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが算出するA/Fセンサの伝達特性の入出力の関係を示した模式図である。
【
図6】本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが算出するA/Fセンサの伝達特性に伝達関数をフィッティングして同定する処理を説明するための模式図である。
【
図7】本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムにより生成されたA/Fセンサ特性情報の活用例を説明するための模式図であり、A/Fセンサ特性情報を記憶しているエンジン制御装置を有するエンジン制御システムを示している。
【
図8】本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが算出したA/Fセンサ特性情報を用いてA/Fセンサの検出値を回帰した回帰空燃比と、A/Fセンサの検出した計測空燃比と、目標にしている空燃比との関係を示したグラフである。
【
図9】本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが算出したA/Fセンサ特性情報を用いてA/Fセンサの検出値を回帰した回帰空燃比と、A/Fセンサの検出した計測空燃比と、目標にしている空燃比との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムについて図面に基づいて説明する。
【0016】
先ず、本発明の実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムの構成について、
図1を参照しながら説明する。
【0017】
ここで、
図1は、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムの構成を示した模式図である。
【0018】
図示するように、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWは、エンジンベンチ(エンジン試験装置)Bに設置されたエンジンEの排気管6に設置され排気管6に排出される流体の空燃比(計測空燃比)を検出するA/Fセンサ20と、エンジンEの吸気管5に接続され吸気管5に流入される流体の空気流量を計測する高応答流量計21と、吸気管5の管内に設置された「圧力計22及び温度計23」と、A/Fセンサ特性情報(伝達関数、回帰伝達関数)を算出する計測装置110とを有している。
また、A/Fセンサ特性情報生成システムWは、エンジンベンチBに設置されたエンジンEの燃料噴射装置(インジェクタ)9に燃料を供給する燃料供給装置31と、燃料噴射装置9に供給する燃料の燃料流量を計測する燃料流量計32とを有している。
なお、図示する例では、燃料噴射装置9が吸気管5に燃料を噴射するように構成されているがこれは一例である。燃料噴射装置9がシリンダ11に燃料を直接噴射する直噴エンジンにも、本実施形態は適用される。
【0019】
また、エンジンベンチBは、A/Fセンサ特性情報(伝達関数、回帰伝達関数)を算出するために用いる計測値を各センサ(A/Fセンサ20、高応答流量計21、圧力計22、温度計233、及び燃料流量計32)に計測させるデータ計測処理工程(
図4のS1参照)において、エンジンEが所定噴射量の燃料を噴射すると共に、サイクル毎にエンジンEに流入する空気流量が急峻に変化するようにエンジンEを動作させるようになっている。
【0020】
また、A/Fセンサ20は、エンジンシリンダ11から流体を排出する排気管6に設置されており、排気管6を流れる流体の空燃比(計測空燃比)を検出する。また、A/Fセンサ20は、計測装置110に電気的に接続されており、エンジンEから排出入される流体の空燃比(計測空燃比)を検出すると、計測装置110に、検出した空燃比(計測空燃比)を送信する。
なお、本実施形態では、A/Fセンサ20に、一例として、従来技術の「ジルコニア式のA/Fセンサ」を用いている。
【0021】
高応答流量計21は、エンジンシリンダ11に空気を送り込む吸気管5の一端部に接続されており、エンジンEに流入される流体(空気)の空気流量(空気流量)を計測する。また、高応答流量計21は、計測装置110に電気的に接続されており、エンジンEに流入される流体の空気流量を計測すると、計測装置110に、計測した空気流量を送信する。
なお、上記の高応答流量計21とは、自動車のエンジンEに汎用的に搭載されている「熱線式のエアフロセンサ」よりも空気流量の変動に対する応答性が高い(早い)空気流量計のことをいう。例えば、高応答流量計21には、超音波流量計或いはラミナ流量計(層流型流量計)を用いることができる。図示する例では、高応答流量計21がラミナ流量計である場合を示している。
【0022】
圧力計22は、吸気管5に設置されており、吸気管圧を計測する。また、圧力計22は、計測装置110に電気的に接続されており、吸気管圧を計測すると、計測装置110に、計測した吸気管圧を送信する。
温度計23は、吸気管5に設置されており、吸気管温度を計測する。また、温度計23は、計測装置110に電気的に接続されており、吸気管温度を計測すると、計測装置110に、計測した吸気管温度を送信する。
【0023】
また、燃料流量計32は、燃料供給装置31と、燃料噴射装置9とを接続している燃料供給配管に設けられている。また、燃料流量計32は、計測装置110に電気的に接続されており、燃料噴射装置9に供給する燃料流量(燃料噴射装置9が噴射する燃料の噴射量)を計測する。燃料流量計32は、「燃料の噴射量」を計測すると、計測装置110に、計測して得られた「燃料の噴射量」を送信する。
なお、本実施形態では、燃料噴射装置9が、予め定められた噴射量(所定噴射量)の燃料を噴射するように設定されており、燃料供給装置31から燃料噴射装置9に対して、所定噴射量の燃料が供給されるようになっている。
【0024】
計測装置110は、各センサ(A/Fセンサ20、高応答流量計21、圧力計22、温度計23、燃料流量計32)からそれぞれ送信されてくる計測値(計測空燃比、空気流量、吸気管圧、吸気管温度、燃料の噴射量)を受信する。また、制御装置110は、受信した計測値のうち、「空気流量、吸気管圧、吸気管温度」を用いて、エンジンEのバルブを通過する流体の「バルブ通過流量」を算出する。
【0025】
また、計測装置110は、算出した「バルブ通過流量」を、エンジンEの燃料噴射装置9が噴射する燃料の噴射量(所定噴射量)で除算した値をリファレンス空燃比として算出する。また、計測装置110は、算出したリファレンス空燃比と、A/Fセンサ20から取得した計測値(計測空燃比)とを用いて、A/Fセンサ20の伝達関数(Gx(s))を算出し、その伝達関数(Gx(s))から回帰伝達関数(Gy(s))を生成して記憶する。
【0026】
また、エンジンベンチBは、試験対象であるエンジンEに負荷を与えるダイナモメータ50と、ダイナモメータ50の回転軸とエンジンEの回転軸とを連結するシャフト53と、ダイナモメータ50の動作を制御するダイナモ制御装置51と、エンジンEの動作を制御するエンジン制御装置60とを備えている。エンジン制御装置60は、バルブタイミング、スロットル開度や点火進角等の制御パラメータをエンジンEに与え、スロットルバルブ7の開閉状態、吸気バルブのバルブ角度の制御等をしてエンジンEの動作を制御する。
なお、エンジンベンチBは、周知技術のものを用いているため、詳細な説明は省略する。また、試験対象となるエンジンEは、周知の構成のものであるため、図中においては、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWに直接的に関係する部分だけを示している。
【0027】
次に、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWを構成する計測装置110の機能構成について、上述した
図1と、
図2、3とを用いて説明する。
ここで、
図2は、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが行うバルブ通過流量算出処理を説明するための模式図である。
図3は、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムの高応答流量計で計測した空気流量と、A/Fセンサ特性情報生成システムが算出したバルブ通過流量との関係示した模式図である。
【0028】
図1に示すように、計測装置110は、制御部111と、データ取得部112と、バルブ通過流量算出部113と、A/Fセンサ特性情報算出部114とを有している。
【0029】
なお、計測装置110のハードウェア構成について特に限定しないが、計測装置110は、例えば、CPU、補助記憶装置(記憶部)、主記憶装置(記憶部)、ネットワークインターフェース及び入出力インターフェースを備えるコンピュータ(1台或いは複数台のコンピュータ)により構成することができる。この場合、入出力インターフェースには、「A/Fセンサ20、高応答流量計21、圧力計22、温度計23、燃料流量計32」が接続されている。また、補助記憶装置には、「制御部111、データ取得部112、バルブ通過流量算出部113、及びA/Fセンサ特性情報算出部114」の機能を実現するためのプログラムが記憶されている。そして、「制御部111、データ取得部112、バルブ通過流量算出部113、及びA/Fセンサ特性情報算出部114」の機能は、前記CPUが前記プログラムを前記主記憶装置にロードして実行することにより実現される。
【0030】
また、上記の制御部111は、計測装置110の全体の動作を制御するもので、ユーザからの各種設定や入力を受け付けたり、A/Fセンサ計特性情報生成システムWに対する操作要求を受け付けたりする。
データ取得部112は、所定の計測タイミングで、各センサ(A/Fセンサ20、高応答流量計21、圧力計22、温度計23及び燃料流量計32)が計測した計測値(計測空燃比、空気流量、吸気管圧、吸気管温度、燃料の噴射量)を取得する。
【0031】
バルブ通過流量算出部113は、
図2に示すように、高応答流量計21が計測した「吸気管5に流入する「空気流量m
l」と、圧力計22が計測した「吸気管圧P
in」と、温度計23が計測した「吸気管温度T
in」と、「吸気管5の容積V
in」と、下記「(式1)及び(式2)」とを用いて、「バルブ通過流量m
iv」を算出する。
ここで、「吸気管5の容積V
in」は、バルブ通過流量算出部113に予め設定されている。例えば、A/Fセンサ特性情報生成処理を行う前の準備処理として、計測装置110の記憶部(計測装置110の補助記憶装置及び主記憶装置)に、「吸気管5の容積V
in」を記憶させておく。バルブ通過流量算出部113は、「バルブ通過流量m
iv」を算出する際に、記憶部から「吸気管5の容積V
in」を読み出し、「バルブ通過流量m
iv」の算出処理に利用する。
【0032】
なお、高応答流量計21が計測した「空気流量m
l」は、スロットルバルブ7を通過する「空気流量m
th」と略同じ値になる。そのため、本実施形態では、バルブ通過流量算出部113は、高応答流量計21が計測した「空気流量m
l」の値を、「スロットルバルブ7を通過する空気流量m
th」と同じ値としている(下記の(式1)参照)。
そして、バルブ通過流量算出部113は、下記の(式2)に示す圧力微分方程式に、圧力計22が計測した「吸気管圧P
in」と、温度計23が計測した「吸気管温度T
in」と、「吸気管5の容積V
in」とを代入する。また、バルブ通過流量算出部113は、下記の(式2)に示す圧力微分方程式の「空気流量m
th」に、高応答流量計21が計測した「空気流量m
l」の値を代入する。これにより、「バルブ通過流量m
iv」が算出される。
【数1】
【0033】
ここで、バルブ通過流量算出部113により算出された「バルブ通過流量m
iv」と、高応答流量計21により計測された「空気流量m
l」との関係を
図3に示す。
図示するように、高応答流量計21で計測された「空気流量m
l」は、吸気管容積の影響で応答が遅れており、インテークバルブ(吸気バルブ)のリフト量が閉じていても流量は0にならない。一方、上記の式(1)、(2)を用いて算出された「バルブ流量m
iv」は、リフト量が閉じている箇所で流量が0になり、適切に筒内に流入する流量が算出できていることを示している。
【0034】
また、A/Fセンサ計特性情報算出部114は、データ取得部112から燃料の噴射量(所定噴射量)を取得する。そして、A/Fセンサ計特性情報算出部114は、上記の算出した「バルブ通過流量miv」を、取得した「燃料の噴射量(所定噴射量)」で除算した値をリファレンス空燃比として算出する。
また、A/Fセンサ計特性情報算出部114は、算出したリファレンス空燃比と、A/Fセンサ20から取得した計測値(計測空燃比)とを用いて、A/Fセンサ20の伝達関数(Gx(s))を算出し、その伝達関数(Gx(s))から回帰伝達関数(Gy(s))を生成して記憶する。
【0035】
次に、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWが行う、A/Fセンサ特性情報生成処理の手順について、上述した
図1、2と、
図4~6を参照しながら説明する。
ここで、
図4は、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが行うA/Fセンサ特性情報生成処理の手順を示したフローチャートである。
図5は、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが算出するA/Fセンサの伝達特性の入出力の関係を示した模式図である。
図6は、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが算出するA/Fセンサの伝達特性に伝達関数をフィッティングして同定する処理を説明するための模式図である。
【0036】
図4に示すように、先ず、A/Fセンサ特性情報生成システムWは、データ計測処理(S1)を行う。
【0037】
このデータ計測処理(S1)では、エンジンベンチBを駆動させ、エンジンベンチBに設置されたエンジンEが所定噴射量の燃料を噴射すると共に、サイクル毎にエンジンに流入する空気流量が急峻に変化するようにエンジンEを動作させる。
本実施形態では、エンジンベンチBは、例えば、バルブタイミングを制御する制御パラメータをエンジンEに与え、吸気バルブのバルブ角度を制御して、サイクル毎にエンジンに流入する空気流量が急峻に変化するようにエンジンEを動作させる。或いは、エンジンベンチBは、例えば、スロットル開度を制御する制御パラメータをエンジンEに与え、スロットル開度を制御して、サイクル毎にエンジンに流入する空気流量が急峻に変化するようにエンジンEを動作させる。
なお、エンジンベンチBは、エンジンEに噴射させる燃料噴射量を固定している。すなわち、エンジンベンチBは、エンジンEが各サイクルにおいて、所定噴射量の燃料を噴射するようにエンジンEを動作させるようになっている。
【0038】
そして、データ計測処理(S1)では、計測装置110のデータ取得部112が、上記のようにエンジンEを動作させている最中に、A/Fセンサ20が検出した計測空燃比と、高応答流量計21が計測した吸気管5に流入される「空気流量ml」と、圧力計22が計測した吸気管5の「吸気管圧Pin」と、温度計23が計測した「吸気管温度Tin」と、燃料流量計32が計測した燃料の噴射量(所定噴射量)とを取得する。
また、データ取得部112は、計測時間毎に、取得した計測値(計測空燃比、空気流量ml、吸気管圧Pin、吸気管温度Tin、噴射量(所定噴射量))を対応付けて記憶する(例えば、図示しない記憶部(計測装置110の補助記憶装置及び主記憶装置)に記憶させる)。
【0039】
次に、A/Fセンサ特性情報生成システムWは、S1で取得した計測値を用いて、バルブ通過流量を算出する(S2)。
具体的には、S2では、先ず、計測装置110のバルブ通過流量算出部113が、データ取得部112から「空気流量ml、吸気管圧Pin、吸気管温度Tin」を取得する。また、バルブ通過流量算出部113は、記憶部(計測装置110の補助記憶装置及び主記憶装置)から「吸気管5の容積Vin」を読み出す。
また、S2では、バルブ通過流量算出部113は、高応答流量計21が計測した「吸気管5に流入する空気流量ml」と、圧力計22が計測した「吸気管圧Pin」と、温度計23が計測した「吸気管温度Tin」と、「吸気管5の容積Vin」と、上述した「(式1)及び(式2)」とを用いて、バルブ通過流量mivを算出する。
【0040】
次に、A/Fセンサ計特性情報生成システムWが、リファレンス空燃比の算出処理を行う(S3)。
具体的には、S3では、計測装置110のA/Fセンサ計特性情報算出部114が、データ取得部112から「燃料の噴射量(所定噴射量)」を取得すると共に、バルブ通過流量算出部113から上記の算出した「バルブ通過流量miv」を取得する。そして、A/Fセンサ計特性情報算出部114は、上記の「バルブ通過流量miv」を、上記の「燃料の噴射量(所定噴射量)」で除算した値を「リファレンス空燃比」として算出する。
なお、本実施形態では、「リファレンス空燃比」の算出に、燃料流量計32が計測した燃料の噴射量(所定噴射量)を用いているが特にこれに限定されるものではない。本実施形態では、エンジンEに噴射させる燃料噴射量が固定されているため、計測装置110の記憶部に、予め、固定されている燃料噴射量(所定噴射量)を記憶させておくようにしても良い。この場合、A/Fセンサ計特性情報算出部114が記憶部から読み出した「燃料の噴射量(所定噴射量)」を用いて、「リファレンス空燃比」を算出すればよい。
【0041】
次に、A/Fセンサ計特性情報生成システムWが伝達関数の算出処理を行う(S4)。
この伝達関数の算出処理(S4)では、先ず、計測装置110のA/Fセンサ特性情報算出部114が、
図5に示すように、S3で算出したリファレンス空燃比(A/F)を入力値とし、リファレンス空燃比(A/F)に対応する計測時間にA/Fセンサ20が計測した空燃比(計測空燃比(A/F´))を出力値として、フーリエ解析演算を行い、A/Fセンサの伝達特性(Gx’(s))を算出する。
なお、
図6のゲイン図において、上記のフーリエ解析演算により得られた伝達特性(Gx’(s))の一例を示している。
さらに、S4では、A/Fセンサ特性情報算出部114は、算出した伝達特性(Gx´(s))に、任意の伝達関数(Gx(s))でフィッテングして、「Gx´(s)=Gx(s)」になるように、伝達関数(Gx(s))のパラメータを同定する(
図6参照)。
【0042】
次に、A/Fセンサ計特性情報生成システムWが回帰伝達関数の算出処理を行う(S5)。
この回帰伝達関数の算出処理(S5)では、計測装置110のA/Fセンサ特性情報算出部114が、S4で算出した伝達関数(Gx(s))を用いて、下記の(式3)に示す回帰伝達関数(Gy(s))を算出する。
なお、「Lowpassfilter」は、Gx(s)の帯域より、より高周波にカットオフを設定したフィルタを用いることでGx(s)に干渉しない特性とする。
【数2】
なお、A/Fセンサ特性情報算出部114は、図示しない記憶部(計測装置110の補助記憶装置及び主記憶装置)に、S4で算出した「伝達特性(Gx’(s))、伝達関数(Gx(s))」と、S5で算出した回帰伝達関数(Gy(s))に記憶させる。
【0043】
このように、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWを構成を採用しているのは、本願発明者が、エンジンEのバルブを通る流体のバルブ通過流量の値を正確に算出することができれば、そのバルブ通過流量を、エンジンベンチBに設置されたエンジンEの「燃料の噴射量」で除算した値を算出することで、排気管6に排出される流体の空燃比の真値に近似している値が得られることを見出だしたことによる。
また、本願発明者は、「バルブ通過流量」を「燃料の所定噴射量」で除算する値をリファレンス空燃比とて算出し、その算出したリファレンス空燃比と、A/Fセンサ20が検出した計測空燃比とを用いて、A/Fセンサ特性情報としてA/Fセンサの回帰伝達関数を算出する構成を採用した。
その結果、本実施形態により得られた「A/Fセンサ特性情報(回帰伝達関数)」を用いて「A/Fセンサ」が検出した計測値(計測空燃比)を補正することで、正確な空燃比が算出できる。すなわち、本実施形態によれば、自動車のエンジンEの制御に一般的に用いられている、応答性が悪い「ジルコニア式のA/Fセンサ」を、応答性が高い「A/Fセンサ」として機能させることができる。
【0044】
具体的には、本願発明者は、エンジンEの吸気バルブを通る流体のバルブ通過流量が、エンジンEの排気バルブを通るバルブ通過流量と略同じになることに着目し、エンジンベンチBに設置されたエンジンの吸気管5に、ラミナ流量計等で構成される高応答流量計21を接続し、高応答流量計21により「吸気管5に流入される空気(流体)の空気流量」を計測する構成を採用した。この構成により、エンジンシEの吸気管5に流入される空気の流量が急峻に変化する過渡空気流量についても高応答に計測でき、高精度な値の空気流量が得られる。
【0045】
また、本願発明者は、「排気バルブを通る流体のバルブ通過流量」と略同じになる「吸気バルブを通る流体のバルブ通過流量miv」が、「吸気管5に流入する空気流量ml」と、「吸気管圧Pin」と、「吸気管温度Tin」と、「吸気管5の容積Vin」と、上述した(式2)に示した「圧力微分方程式」とを用いることにより算出できることに着目した。
そこで、本願発明者は、吸気管5に「圧力計22及び温度計23」を設け、「吸気管圧Pin及び吸気管温度Tin」を計測する構成を採用した。また、計測装置110に、高応答流量計21が計測した「空気流量ml」と、圧力計22が計測した「吸気管圧Pin」と、温度計23が計測した「吸気管温度Tin」と、「吸気管5の容積Vin」と、上述した(式2)の圧力微分方程式とを用いて、エンジンEのバルブを通過する流体のバルブ通過流量を算出するバルブ通過流量算出部113の構成を設けた。これにより、エンジンEの「バルブ通過流量」の正確な値が得られる。
【0046】
また、本実施形態では、正確な値の「バルブ通過流量」が算出できるため、計測装置110に、算出したの「バルブ通過流量」を「燃料の所定噴射量」で除算した値を「リファレンス空燃比」として求め、「リファレンス空燃比」と、A/Fセンサ20が検出した「計測空燃比」とを用いて、A/Fセンサ特性情報としてA/Fセンサの回帰伝達関数を算出するA/Fセンサ特性情報算出部114を設ける構成を採用した。この「A/Fセンサ特性情報(回帰伝達関数)」を用いて、「A/Fセンサ」が検出した計測値(計測空燃比)を補正することで、正確な空燃比が算出できる。
【0047】
《本実施形態の活用例のエンジン制御システム》
次に、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWにより生成されたA/Fセンサ特性情報の活用例について、
図7を参照しながら説明する。
ここで、
図7は、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムにより生成されたA/Fセンサ特性情報の活用例を説明するための模式図であり、A/Fセンサ特性情報を記憶しているエンジン制御装置を有するエンジン制御システムを示している。
【0048】
図示するエンジン制御システムは、A/Fセンサ20を備えたエンジンEと、エンジンEの動作を制御するエンジン制御装置(以下、「ECU」という)200とを有しており、自動車に搭載されて用いられる。
【0049】
ECU200は、自動車に搭載されたエンジンEの動作を制御するもので、エンジンEの動作を制御するエンジン制御部201と、上述した実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWが生成した「A/Fセンサ特性情報(回帰伝達関数(Gy(s)))」を記憶している記憶部203とを備えている。
【0050】
A/Fセンサ20は、エンジンシリンダEの排気管6に設置されており、エンジンEから排出される流体の空燃比を検出し、ECU200に検出した空燃比を送信する。
【0051】
また、ECU200のエンジン制御部201は、A/Fセンサ20から送信される「空燃比」を受信すると、記憶部203が記憶している「回帰伝達関数(Gy(s))」を読み出し、受信した「空燃比」に、読み出した「回帰伝達関数(Gy(s))」を印加することにより、A/Fセンサ20が計測した「空燃比」を「補正空燃比」に補正する。
その後、エンジン制御部201は、「補正空燃比」を用いて、エンジンEが噴射する燃料噴射量を制御する。
【0052】
なお、図示するECU200は、上述した実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWが生成したA/Fセンサ20のA/Fセンサ特性情報(回帰伝達関数(Gy(s)))を用いて、A/Fセンサ20が計測した空燃比を補正し、補正した得られた補正空燃比を用いて、エンジンEの動作を制御する機能以外については、公知技術のものと同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0053】
このように、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWにより、A/Fセンサ20の特性を示すA/Fセンサ特性情報を生成し、ECU200に記憶させておくことにより、応答性の向上したA/Fセンサ20の計測値(補正空燃比)によりエンジンEの制御を行うことができる。
そのため、例えば、自動車の主流部品になっているジルコニア式のA/Fセンサを備えたエンジンEを搭載している自動車であっても、上記のECU200のように構成することにより(例えば、既存のECUのプログラムを変更することで)、エンジンEが最適に動作するように制御できる。
【0054】
なお、上述した
図7では、自動車に搭載されているエンジンEを制御するエンジン制御システムを例示しているが、特にこれに限定するものではない。例えば、ジルコニア式のA/Fセンサ20を備えたエンジンEの試験を行うエンジン試験装置において、上記のA/Fセンサ特性情報(回帰伝達関数(Gy(s)))を用いるようにしても良い。この場合、エンジンEの駆動を制御するエンジン制御装置に「回帰伝達関数(Gy(s))」を記憶させておき、エンジン制御装置が、回帰伝達関数(Gy(s))を用いて、A/Fセンサ20が計測した空気流量を補正し、補正した得られた補正空気流量を用いて、エンジンEの動作を制御し、エンジンの各種試験を行うようにしても良い。
【0055】
また、上述した実施形態では、高応答流量計21の例として、超音波流量計或いはラミナ流量計を示したが、熱線式のエアフロセンサよりも空気流量の変動に対する応答性が高い(早い)ものであれば、本発明に適用される。
【0056】
例えば、高応答流量計21に、本願出願人が出願した文献(特開2020-1134243号公報(特許文献3))に記載した流量計測システムを用いることもできる。この流量計測システムでは、予め、ラミナ流量計(層流型流量計)に搭載されている差圧センサの特性(差圧センサ特性情報)を算出しておき、ラミナ流量計で計測した計測値(空気流量(差圧センサが計測した差圧))を差圧センサ特性情報で補正し、補正した値を空気流量としている。
【0057】
具体的には、上記の特許文献3に記載の流量計測システムのラミナ流量計は、ラミナーフローエレメントが設けられている本体部と、ラミナーフローエレメントの上流部の静圧と、ラミナーフローエレメントの下流部の静圧との差圧を計測し出力する差圧センサとが設けられている。
また、差圧センサは、ラミナーフローエレメントの上流部の静圧を取得する第1接続管と、ラミナーフローエレメントの下流部の静圧を取得する第2接続管と、第1、2接続管がそれぞれ接続され且つ上流部の静圧と下流部の静圧との差圧を計測するセンサ部とを有している。
【0058】
そして、上記の差圧センサ特性情報は、エンジンの吸気流量を算出する処理をする前段階において、ラミナ流量計から差圧センサを取り外し、取り外した差圧センサの第1接続管に空気流入路を接続し、取り外した差圧センサの第2接続管の一方の端部を大気に開放した状態にする。また、上記の状態において、空気流入路を介して差圧センサに空気を流入させ、第1接続管の近傍の空気流入路の圧力を第1圧力として計測すると共に、差圧センサ部に第1接続管の圧力と、第2接続管の圧力との差圧を第2圧力として計測させ、第1圧力及第2圧力の関係を周波数毎にゲイン及び位相で示した周波数特性情報に変換し、周波数特性情報を伝達関数で示したものである。
【0059】
そして、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWの高応答流量計21を、特許文献3に記載の流量計測システムを適用する場合、計測装置110に、予め算出しておいた差圧センサ特性情報を記憶させておく。また、A/Fセンサ特性情報生成システムWの高応答装置21にラミナ流量計を用いる。そして、データ取得部112は、ラミナ流量計が計測した計測値(説明の便宜上、「ラミナ空気流量」という)を取得すると、記憶している差圧センサ特性情報を用いて「ラミナ空気流量」を補正し、補正して得られた補正空気流量を、上述した実施形態の「吸気管5に流入する空気流量ml」とする。
このケースにおいても、上述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0060】
次に、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムWが算出したA/Fセンサ特性情報(回帰伝達関数(Gy(s))を用いて、実際にA/Fセンサ20の計測値を補正した回帰結果(A/Fセンサ回帰値)と、A/Fセンサ20の計測値と、目標としている空燃比との関係について、
図8、9を参照しながら説明する。
【0061】
ここで、
図8、9は、本実施形態のA/Fセンサ特性情報生成システムが算出したA/Fセンサ特性情報を用いてA/Fセンサの検出値を回帰した回帰値(回帰空燃比)と、A/Fセンサの検出した計測値(計測空燃比)と、目標となる空燃比(空燃比の真値)との関係を示したグラフである。
【0062】
なお、
図8は、空気流量を1cycleステップさせ、A/Fを急峻に変化させたグラフを示している。
図8のグラフに示すように、A/Fセンサ20の計測値は、目標となる空燃比(空燃比の真値)に対して応答性が悪く、瞬時値を得れていない。一方、
図8から、A/Fセンサ回帰値(回帰結果)は、瞬時値を適切に捉えている
また、
図9では、空気流量を1cycleステップさせた条件を複数実施し、
図8と同様の調査をした結果を示している。
図9に示すように、
図8に示した以外の他の点でも回帰結果は目標にしている空燃比(真の値)を適切に捉えていることが判る。
このように、本実施形態により、A/Fセンサ20のA/Fセンサ特性情報(回帰伝達関数(Gy(s))を算出しておくことにより、応答性が悪い「A/Fセンサ20」を、応答性が高い「A/Fセンサ」として機能させることができ、A/Fセンサ20の応答性を改善することができることが確認された。
【符号の説明】
【0063】
W…A/Fセンサ特性情報生成システム
20…A/Fセンサ
21…高応答流量計
22…圧力計
23…温度計
31…燃料供給装置
32…燃料計
110…計測装置
111…制御部
112…データ取得部
113…バルブ通過流量算出部
114…A/Fセンサ特性情報算出部
B…エンジンベンチ
50…ダイナモメータ
51…ダイナモ制御装置
53…シャフト
60…エンジン制御装置
E…エンジン
5…吸気管
6…排気管
7…スロットルバルブ
9…燃料噴射装置
11…エンジンシリンダ