(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108514
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】音響室構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20220719BHJP
G10K 15/00 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
G10K11/16 150
G10K15/00 L
G10K11/16 120
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003551
(22)【出願日】2021-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000108890
【氏名又は名称】株式会社ダイキンアプライドシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 慎治
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061BB37
5D061CC17
5D061DD06
(57)【要約】
【課題】少ないスペースで無響室及び半無響室の環境を形成する。
【解決手段】音響室構造体(1)は、箱状に形成されて内面に吸音体(40)が設けられる本体部(20)と、本体部(20)の内部に設けられて吸音体(40)を有する可動パネル(30)とを備える。本体部(20)と可動パネル(30)とによって囲まれた音響室(S)が形成される。可動パネル(30)が移動することによって、音響室(S)の全体が吸音体(40)に囲まれる第1状態と、音響室(S)を囲む面の一面が音を反射する反射面(R)となる第2状態とに切り替わる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱状に形成されて内面に吸音体(40)が設けられる本体部(20)と、
前記本体部(20)の内部に設けられて前記吸音体(40)を有する可動パネル(30)とを備え、
前記本体部(20)と前記可動パネル(30)とによって囲まれた音響室(S)が形成され、
前記可動パネル(30)が移動することによって、前記音響室(S)の全体が前記吸音体(40)に囲まれる第1状態と、前記音響室(S)を囲む面の一面が音を反射する反射面(R)となる第2状態とに切り替わる
音響室構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の音響室構造体において、
前記可動パネル(30)は、一方側の面が前記吸音体(40)で覆われるとともに、他方側の面が前記反射面(R)で構成され、
前記第1状態では、前記可動パネル(30)の前記吸音体(40)が前記音響室(S)に向き、
前記第2状態では、前記可動パネル(30)の前記反射面(R)が前記音響室(S)に向く
音響室構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の音響室構造体において、
前記可動パネル(30)は、回転移動が可能である
音響室構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の音響室構造体において、
前記可動パネル(30)は、直進移動と回転移動とが可能である
音響室構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の音響室構造体において、
前記可動パネル(30)は、
前記本体部(20)の内面の一面である対象面(T)を覆う近接位置と、該対象面(T)から所定の距離だけ離れた離間位置との間を直進移動し、
前記離間位置において、前記可動パネル(30)の前記吸音体(40)が前記対象面(T)と向き合う第1姿勢と、前記可動パネル(30)の前記反射面(R)が前記対象面(T)と向き合う第2姿勢との間を回転移動する
音響室構造体。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1つに記載の音響室構造体において、
前記本体部(20)は、その内面の全てが前記吸音体(40)で覆われている
音響室構造体。
【請求項7】
請求項2に記載の音響室構造体において、
前記本体部(20)は、その内面の全てが前記吸音体(40)で覆われ、
前記可動パネル(30)は、直進移動が可能である
音響室構造体。
【請求項8】
請求項1に記載の音響室構造体において、
前記本体部(20)は、その内面の一面が前記反射面(R)で構成され、
前記可動パネル(30)は、前記反射面(R)と対向する対向面(31a)と、該対向面(31a)の反対側の面(31b)とが前記吸音体(40)で覆われ、且つ直進移動が可能であり、
前記第1状態では、前記可動パネル(30)が前記反射面(R)を覆い、
前記第2状態では、前記可動パネル(30)が前記反射面(R)から離れて該反射面(R)を露出させる
音響室構造体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の音響室構造体において、
前記反射面(R)は、計測用のマイクを固定する治具(39)を取り付けるための取付部(38a)を有する
音響室構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響室構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、音響実験や測定を行うための音響室が知られている。特許文献1には、音響室の一つである無響室が開示されている。特許文献1の無響室は、外部から遮音された室内の内面全体に吸音楔(吸音体)が取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音響室には、上記特許文献1のような無響室の他に、該無響室と構造の異なる半無響室がある。半無響室は、外部から遮音された室内の内面のうち、所定の面に吸音楔が取り付けられていない。吸音楔が取り付けられていない面には、測定対象物が配置される。この無響室と半無響室とは、測定条件に応じて使い分けられている。
【0005】
上述のように、無響室と半無響室とは構造が異なる。そのため、無響室での測定と半無響室での測定の両方を行うには、無響室と半無響室を個別に設ける必要があり、音響測定用の設備を設置するために広いスペースが必要であった。
【0006】
本開示の目的は、少ないスペースで無響室及び半無響室の環境を形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、
箱状に形成されて内面に吸音体(40)が設けられる本体部(20)と、
前記本体部(20)の内部に設けられて前記吸音体(40)を有する可動パネル(30)とを備え、
前記本体部(20)と前記可動パネル(30)とによって囲まれた音響室(S)が形成され、
前記可動パネル(30)が移動することによって、前記音響室(S)の全体が前記吸音体(40)に囲まれる第1状態と、前記音響室(S)を囲む面の一面が音を反射する反射面(R)となる第2状態とに切り替わる
音響室構造体である。
【0008】
第1の態様では、可動パネル(30)の移動によって音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられる。第1状態では、音響室(S)が無響室となり、第2状態では、音響室(S)が半無響室になる。これにより、少ないスペースで無響室及び半無響室の環境を形成できる。
【0009】
本開示の第2の態様は、第1の態様の音響室構造体において、
前記可動パネル(30)は、一方側の面が前記吸音体(40)で覆われるとともに、他方側の面が前記反射面(R)で構成され、
前記第1状態では、前記可動パネル(30)の前記吸音体(40)が前記音響室(S)に向き、
前記第2状態では、前記可動パネル(30)の前記反射面(R)が前記音響室(S)に向く。
【0010】
第2の態様では、可動パネル(30)の一方側の面が吸音体(40)で覆われるとともに、他方側の面が反射面(R)で構成されるので、可動パネル(30)の向きを変更することにより、音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられる。
【0011】
本開示の第3の態様は、第2の態様の音響室構造体において、
前記可動パネル(30)は、回転移動が可能である。
【0012】
第3の態様では、可動パネル(30)が回転移動することにより、簡単に音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられる。
【0013】
本開示の第4の態様は、第3の態様の音響室構造体において、
前記可動パネル(30)は、直進移動と回転移動とが可能である。
【0014】
第4の態様では、可動パネル(30)が直進移動と回転移動とをすることにより、より少ないスペースで音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられる。
【0015】
本開示の第5の態様は、第4の態様の音響室構造体において、
前記可動パネル(30)は、
前記本体部(20)の内面の一面である対象面(T)を覆う近接位置と、該対象面(T)から所定の距離だけ離れた離間位置との間を直進移動し、
前記離間位置において、前記可動パネル(30)の前記吸音体(40)が前記対象面(T)と向き合う第1姿勢と、前記可動パネル(30)の前記反射面(R)が前記対象面(T)と向き合う第2姿勢との間を回転移動する。
【0016】
第5の態様では、可動パネル(30)は、近接位置から離間位置へ直進移動し、離間位置において第1姿勢と第2姿勢との間を回転移動できる。さらに、回転移動した後に離間位置から近接位置に直進移動できる。これにより、可動パネル(30)が回転移動できるだけのスペースがあれば、音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えることが可能になる。
【0017】
本開示の第6の態様は、第2~第5の態様のいずれか1つの音響室構造体において、
前記本体部(20)は、その内面の全てが前記吸音体(40)で覆われている。
【0018】
第6の態様では、本体部(20)の内面の全てが吸音体(40)で覆われていることにより、本体部(20)の内面と可動パネル(30)との間の隙間を通過する音を吸音できる。
【0019】
本開示の第7の態様は、第2の態様の音響室構造体において、
前記本体部(20)は、その内面の全てが前記吸音体(40)で覆われ、
前記可動パネル(30)は、直進移動が可能である。
【0020】
第7の態様では、可動パネル(30)が直進移動することにより、簡単に音響室構造体を第1状態と第2状態とに切り替えられる。
【0021】
本開示の第8の態様は、第1の態様の音響室構造体において、
前記本体部(20)は、その内面の一面が前記反射面(R)で構成され、
前記可動パネル(30)は、前記反射面(R)と対向する対向面(31a)と、該対向面(31a)の反対側の面(31b)とが前記吸音体(40)で覆われ、且つ直進移動が可能であり、
前記第1状態では、前記可動パネル(30)が前記反射面(R)を覆い、
前記第2状態では、前記可動パネル(30)が前記反射面(R)から離れて該反射面(R)を露出させる。
【0022】
第8の態様では、可動パネル(30)が直進移動することにより、本体部(20)の反射面(R)が覆われる状態と反射面(R)が露出する状態とを切り替えられる。これにより、簡単に音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられる。
【0023】
本開示の第9の態様は、第1~第8の態様のいずれか1つの音響室構造体において、
前記反射面(R)は、計測用のマイクを固定する治具を取り付けるための取付部(38a)を有する。
【0024】
第9の態様では、反射面(R)が取付部(38a)を有するので、マイクを固定する治具を取り付けやすい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施形態1の音響室構造体の第2状態を示す断面図である。
【
図4】
図4は、音響室構造体の第1状態を示す
図3に相当する断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態2の
図1に相当する概略の断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態2の音響室構造体の第1状態を示す
図5に相当する概略の断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態3の
図5に相当する概略の平面図である。
【
図8】
図8は、実施形態3の
図6に相当する概略の平面図である。
【
図9】
図9は、実施形態3の変形例の
図5に相当する概略の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0027】
《実施形態1》
実施形態1について説明する。
【0028】
-音響室構造体-
音響室構造体(1)は、測定対象物から発せられる音を測定するための構造体である。
図1に示すように、音響室構造体(1)は、遮音部(10)と、本体部(20)と、可動パネル(30)とを備える。本体部(20)は、遮音部(10)の内部に設けられる。可動パネル(30)は、本体部(20)の内部に設けられる。
【0029】
本体部(20)と可動パネル(30)とによって囲まれた空間が、音響室(S)である。音響室(S)には、測定対象物が配置される。なお、以下の説明「上」「下」「左」「右」「前」「後」は、
図1及び
図2に示すように、音響室構造体(1)を正面から見たときの方向である。音響室構造体(1)の正面は、後述する遮音扉(11)が設けられた側面である。
【0030】
〈遮音部〉
遮音部(10)は、遮音部(10)の外部からの音を遮断するとともに、遮音部(10)の内部の音が外部に漏れないようにするための部分である。遮音部(10)は、箱状に形成されている。遮音部(10)は、本体部(20)の全体を囲むように形成されている。遮音部(10)の前面には、遮音扉(11)が設けられている。遮音扉(11)は、スライド式の扉である。
【0031】
〈本体部〉
本体部(20)は、本体部(20)の内部で発生する音を吸収する。本体部(20)は、箱状に形成されている。本体部(20)は、床部(20a)と、天井部(20b)と、4つの側壁部(20c,20d,20e,20f)とを備える。
【0032】
床部(20a)は、本体部(20)の下面を構成する。天井部(20b)は、本体部(20)の上面を構成する。第1側壁部(20c)は、本体部(20)の前面を構成する。第2側壁部(20d)は、本体部(20)の後面を構成する。第1側壁部(20c)と第2側壁部(20d)とは、互いに向かい合っている。第3側壁部(20e)は、本体部(20)の左面を構成する。第4側壁部(20f)は、本体部(20)の右面を構成する。第3側壁部(20e)と第4側壁部(20f)とは、互いに向かい合っている。
【0033】
第1側壁部(20c)には、吸音扉(21)が設けられている。吸音扉(21)は、遮音扉(11)の後方に配置されている。吸音扉(21)は、音響室構造体(1)を前から見て、遮音扉(11)と重なる位置に配置されている。吸音扉(21)は、両開き式の扉である。吸音扉(21)は、本体部(20)の内部に向かって開く。
【0034】
吸音扉(21)を含む本体部(20)の全ての内面は、複数の吸音体(40)で覆われている。吸音体(40)は、音を吸収する部材である。吸音体(40)は、本体部(20)の内部に向かって突出するとともに互いに平行な複数のテーパ部(41)を有する吸音楔である。本例では、吸音体(40)は、3つのテーパ部(41)を有する。なお、ここで示すテーパ部(41)の数は単なる一例である。
【0035】
図1に示すように、本体部(20)の内面には、複数の吸音体(40)がテーパ部(41)の並ぶ向きを縦横交互に代えて配置されている。これにより、様々な方向からの音を吸収できるようになっている。
【0036】
図2に示すように、床部(20a)における吸音体(40)よりも上方となる位置には、格子状に形成された床格子(22)が配置されている。床格子(22)は、床部(20a)の全面を覆うように配置されている。床格子(22)は、測定対象物を設置及び撤去する際の作業者の歩行面、又は測定対象物を設置する設置面として使用される。
【0037】
図1に示すように、床格子(22)の中央部には、一対のレール(23)が配置されている。レール(23)は、床格子(22)に埋め込まれている。言い換えると、レール(23)の上面と床格子(22)の上面とは、同じ高さに位置している。
【0038】
レール(23)は、前後方向に真っ直ぐに延びている。レール(23)の一端は、第2側壁部(20d)の近傍に位置している。レール(23)の他端は、床部(20a)の前後方向の中央付近に位置している。一対のレール(23)は、後述する可動パネル(30)の下側車輪(33)を案内する。
【0039】
図2及び
図3に示すように、天井部(20b)の中央には、ガイド部材(24)が設けられている。ガイド部材(24)は、天井部(20b)から下方に向かって延びている。ガイド部材(24)は、前側からみてI字状に形成され、前後方向に長い。ガイド部材(24)は、音響室構造体(1)を上から見たときに、一対のレール(23)の間と重なる位置に配置されている。
【0040】
具体的には、ガイド部材(24)の一端は、第2側壁部(20d)の近傍に位置している。ガイド部材(24)の他端は、天井部(20b)の前後方向の中央付近に位置している。ガイド部材(24)は、一対のレール(23)と概ね平行に配置されている。ガイド部材(24)は、後述する可動パネル(30)の上側車輪(35)を案内する。
【0041】
〈可動パネル〉
可動パネル(30)は、音響室(S)を無響室と半無響室とに切り替えるためのものである。可動パネル(30)は、第2側壁部(20d)を覆っている。可動パネル(30)は、パネル本体(31)と、回転軸部(32)と、下側車輪(33)と、上側車輪(35)とを有する。
【0042】
パネル本体(31)は、長方形の板状の部材である。
図4に示すように、パネル本体(31)の一方側の面(
図1における後面)は、全面が吸音体(40)で覆われている。パネル本体(31)に設けられた吸音体(40)は、本体部(20)の内面に設けられた吸音体(40)と同じものである。
【0043】
図3に示すように、パネル本体(31)の他方側の面(
図1における前面)は、全面が反射面(R)で構成されている。反射面(R)は、音を反射する面である。言い換えると、パネル本体(31)の他方側の面は、全面が吸音体(40)で覆われていない。
【0044】
回転軸部(32)は、パネル本体(31)の下部中央に設けられている。可動パネル(30)は、回転軸部(32)を通るように上下方向に延びる回転軸を有する。可動パネル(30)は、回転軸を中心に回転移動が可能である。これにより、可動パネル(30)の面の向きを変更することができる。
【0045】
回転軸部(32)の下方には、下側支持部材(34)を介して、4つの下側車輪(33)が取り付けられている。下側支持部材(34)は、略長方形の厚い板状の部材である。4つの下側車輪(33)は、下側支持部材(34)の各角の下方に配置されている。4つの下側車輪(33)は、一対のレール(23)の上を移動する。具体的には、下側支持部材(34)における右側の前後に設けられた2つの下側車輪(33)は、右側のレール(23)の上を移動する。下側支持部材(34)における左側の前後に設けられた2つの下側車輪(33)は、左側のレール(23)の上を移動する。
【0046】
パネル本体(31)の上部には、上側支持部材(36)を介して、4つの上側車輪(35)が取り付けられている。上側支持部材(36)は、前から見たときに、U字状に形成されている。上側支持部材(36)の内側には、4つの上側車輪(35)が取り付けられている。2つの上側車輪(35)は、上側支持部材(36)の前側に配置され、残りの2つの上側車輪(35)は、上側支持部材(36)の後側に配置される。前側及び後側の2つの上側車輪(35)の間には、ガイド部材(24)が配置されている。上側車輪(35)は、I字状のガイド部材(24)における下部の上に乗った状態で回転することで、ガイド部材(24)に沿って移動する。
【0047】
このように、下側車輪(33)がレール(23)に沿うとともに、上側車輪(35)がガイド部材(24)に沿って移動することにより、可動パネル(30)は、安定して直進移動をすることができる。
【0048】
図3に示すように、反射面(R)には、測定対象物が取り付けられる台座部(37)が設けられている。本実施形態では、測定対象物として空気調和装置の室内ユニットが取り付けられる。台座部(37)は、反射面(R)の中央部に形成されている。台座部(37)は、左右方向に長い2本の木材で構成されている。
【0049】
反射面(R)には、台座部(37)の周囲を囲むように6つの取付板(38)と6つの取付部(38a)とが設けられている。取付板(38)は、ステンレスで構成された略長方形状の板部材である。6つの取付板(38)は、台座部(37)を中心に六角形を形成するように配置されている。取付部(38a)は、取付板(38)が形成する六角形の頂点(取付板(38)同士の交差部分)に設けられている。取付部(38a)は、測定対象物の音を測定する際に計測用のマイクを固定する治具(39)を取り付けるための穴である。計測用マイクを固定する治具(39)は、
図2及び
図3に二点鎖線で示すように、台座部(37)を中心に半球状に形成される。
【0050】
具体的には、治具(39)は、金属製の支柱である。治具(39)は、測定対象物の正面から各取付部(38a)に向かって放射状に延びている。治具(39)には、約10個の測定用のマイクが取り付けられる。このように、反射面(R)が取付部(38a)を有するので、測定用マイクを固定する治具(39)を簡単に取り付けられる。
【0051】
音響室構造体(1)は、可動パネル(30)が移動することによって、第1状態と第2状態とに切り替わる。第1状態では、音響室(S)の全体が吸音体(40)に囲まれる。第1状態は、いわゆる無響室の状態である。本実施形態における第1状態では、
図4に示すように、可動パネル(30)の吸音体(40)が音響室(S)に向いている。第2状態では、音響室(S)を囲む面の一面が反射面(R)となる。第2状態は、いわゆる半無響室の状態である。本実施形態における第2状態では、
図1~
図3に示すように、可動パネル(30)の反射面(R)が音響室(S)に向いている。
【0052】
本実施形態における可動パネル(30)は、直進移動と回転移動とが可能である。具体的には、可動パネル(30)は、近接位置と離間位置との間を直進移動する。近接位置とは、可動パネル(30)が本体部(20)の内面の一面である対象面(T)を覆う位置である。本実施形態における対象面(T)は、第2側壁部(20d)の内面である。離間位置とは、対象面(T)から所定の距離だけ離れた位置である。本実施形態における離間位置は、
図2において二点鎖線で示す可動パネル(30)の位置である。離間位置では、可動パネル(30)が本体部(20)の中央に位置している。
【0053】
可動パネル(30)は、離間位置において、第1姿勢と第2姿勢との間を回転移動する。第1姿勢とは、可動パネル(30)の吸音体(40)が対象面(T)と向き合う姿勢である。第2姿勢とは、可動パネル(30)の反射面(R)が対象面(T)と向き合う姿勢である。回転移動の軌跡(L)を、
図1における二点鎖線で示す。可動パネル(30)は、離間位置において、可動パネル(30)を上下方向に延びる回転軸を中心に回転移動する。
【0054】
-可動パネルの移動動作-
次に、可動パネル(30)の移動動作について説明する。
【0055】
音響室構造体(1)は、作業者が可動パネル(30)を移動させることによって、第1状態と第2状態とに切り替わる。その際、可動パネル(30)は、第1直進移動と、回転移動と、第2直進移動とを順に行う。各移動動作について、順に説明する。なお、以下の説明における音響室構造体(1)の初期状態は、第2状態とする。音響室構造体(1)の初期状態は、第1状態であってもよい。
【0056】
〈第1直進移動〉
図1に示すように、音響室構造体(1)が第2状態である場合、可動パネル(30)は、対象面(T)である第2側壁部(20d)の内面を覆う近接位置に位置する。
図2に示すように、可動パネル(30)は、レール(23)及びガイド部材(24)に沿って、近接位置から離間位置へ向かって、対象面(T)から離れる方向(前方)に直進移動する。可動パネル(30)は、離間位置まで直進移動して、停止する。このとき、可動パネル(30)は、第1姿勢である。
【0057】
〈回転移動〉
次に、可動パネル(30)は、離間位置において、第1姿勢から第2姿勢となるように、回転軸を中心に時計回りに回転移動する。このとき、可動パネル(30)は、本体部(20)の内部の全ての面と接触しない。言い換えると、本体部(20)の内部空間の大きさは、可動パネル(30)が回転できる大きさがあればよい。なお、可動パネル(30)は、回転軸を中心に反時計回りに回転移動させてもよい。
【0058】
〈第2直進移動〉
次に、離間位置において、第2姿勢となった可動パネル(30)を、離間位置から近接位置へ向かって、対象面(T)に近づく方向(後方)に直進移動する。可動パネル(30)は、近接位置まで直進移動して、停止する。このとき、音響室構造体(1)は、第1状態になる。
【0059】
このように、可動パネル(30)を第1直進移動、回転移動、及び第2直進移動させることにより、音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えることができる。これにより、可動パネル(30)が回転移動できるだけの大きさの空間があれば、無響室及び半無響室の環境を形成できる。
【0060】
-実施形態1の特徴-
本実施形態の特徴(1)は、可動パネル(30)が移動することによって、音響室構造体(1)が第1状態と第2状態に切り替わることである。これによれば、可動パネル(30)の移動によって、音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられるので、無響室及び半無響室を個別に設ける必要がなく、少ないスペースで無響室及び半無響室の環境を形成できる。
【0061】
本実施形態の特徴(2)は、可動パネル(30)の一方側の面が吸音体(40)で覆われるとともに、他方側の面が反射面(R)で構成されていることである。これによれば、可動パネル(30)の向きを変えることで、音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられる。
【0062】
本実施形態の特徴(3)は、可動パネル(30)が直進移動と回転移動とが可能なことである。これによれば、可動パネル(30)の直進移動と回転移動とにより、音響室構造体(1)が第1状態と第2状態とに切り替わるので、より少ないスペースで無響室及び半無響室の環境を形成できる。
【0063】
本実施形態の特徴(4)は、直進移動では、可動パネル(30)が近接位置と離間位置との間を移動し、回転移動では、可動パネル(30)が離間位置において、第1姿勢と第2姿勢との間を移動することである。
【0064】
これによれば、可動パネル(30)が回転移動できるだけの空間があれば、音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられるので、より少ないスペースで無響室及び半無響室の環境を形成できる。
【0065】
本実施形態の特徴(5)は、本体部(20)の内面の全てが吸音体(40)で覆われていることである。これによれば、測定対象物の音を測定する際に、本体部(20)の内面と可動パネル(30)との間に形成される隙間を通過する音を吸音できる。
【0066】
本実施形態の特徴(6)は、反射面(R)が計測用のマイクを固定する治具を取り付けるための取付部(38a)を有することである。これによれば、測定用のマイクを反射面(R)に取り付けやすい。
【0067】
《実施形態2》
実施形態2について説明する。本実施形態の音響室構造体(1)は、実施形態1の音響室構造体(1)において、本体部(20)及び可動パネル(30)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態の音響室構造体(1)について、実施形態1の音響室構造体(1)と異なる点を説明する。なお、
図5及び
図6では、音響室構造体(1)の遮音扉及び吸音扉の図示を省略している。
【0068】
図5に示すように、本体部(20)における可動パネル(30)よりも後側の内面には、吸音体(40)が設けられていない。具体的には、第2側壁部(20d)の全面と、床部(20a)、天井部(20b)、第3側壁部(20e)、及び第4側壁部(20f)における後側の面が、吸音体(40)で覆われていない。
【0069】
可動パネル(30)は、パネル本体(31)と、吸音体(40)と、回転軸部(32)とを有する。言い換えると、可動パネル(30)は、下側車輪と、上側車輪とを有していない。可動パネル(30)は、本体部(20)の床格子(22)の上に固定されている。可動パネル(30)は、上下方向に延びる回転軸を中心に回転移動のみ可能である。本実施形態の可動パネル(30)は直進移動しないため、本体部(20)の床部(20a)にはレール(23)が配置されていない。
【0070】
本体部(20)の内面と可動パネル(30)の外周縁との間には、隙間が形成されている。この隙間には、複数の吸音ブロック(42)が配置されている。吸音ブロック(42)は、吸音体(40)と同じ材質である。吸音ブロック(42)は、上記隙間を埋めるように、可動パネル(30)の全周を囲むように配置されている。本体部(20)における可動パネル(30)よりも後側の内面に、吸音体(40)が設けられていないため、測定対象物の音を測定する際に、上記隙間を通過した音が吸音されない。これに対して、上記隙間に吸音ブロック(42)を配置することで、上記隙間から音が通過せず、吸音される。
【0071】
音響室(S)を第2状態から第1状態に切り替える過程において、作業者は、まず、可動パネル(30)の全周に配置された吸音ブロック(42)を取り外す。その後、作業者は、回転軸を中心に可動パネル(30)を時計回りに回転移動させて、
図5に示す第1姿勢から、
図6に示す第2姿勢に変更する。最後に、作業者は、再び可動パネル(30)の全周に吸音ブロック(42)を配置する。このように、音響室構造体(1)は、可動パネル(30)の第1姿勢と第2姿勢との間を回転移動することにより、第1状態と第2状態とに切り替わる。
【0072】
-実施形態2の特徴-
本実施形態の特徴(1)は、可動パネル(30)が回転移動可能なことである。これによれば、可動パネル(30)が回転移動することにより、簡単に音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられる。
【0073】
本実施形態の特徴(2)は、本体部(20)の内面の一部が吸音体で覆われていないことである。これによれば、音響室構造体(1)に使用する吸音体(40)の量を低減できる。
【0074】
《実施形態3》
実施形態3について説明する。本実施形態の音響室構造体(1)は、実施形態1の音響室構造体(1)において、本体部(20)及び可動パネル(30)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態の音響室構造体(1)について、実施形態1の音響室構造体(1)と異なる点を説明する。なお、
図7及び
図8では、音響室構造体(1)の遮音扉及び吸音扉の図示を省略している。
【0075】
図7及び
図8に示すように、本体部(20)における一対のレール(23)は、床部(20a)の前端から後端に亘って延びている。また、ガイド部材(24)も、一対のレール(23)と同様に、天井部(20b)の前端から後端に亘って延びている。
【0076】
可動パネル(30)は、パネル本体(31)と、吸音体(40)と、下側車輪(33)と、上側車輪(35)とを有する。言い換えると、可動パネル(30)は、回転軸部を有していない。可動パネル(30)は、レール(23)及びガイド部材(24)に沿って、直進移動のみ可能である。
【0077】
音響室(S)を第2状態から第1状態に切り替える過程において、作業者は、まず、
図7に示すように、本体部(20)の前端に配置されて反射面(R)が音響室(S)に向いている状態から、レール(23)及びガイド部材(24)に沿って、可動パネル(30)を後方に直進移動させる。次に、作業者は、
図8に示すように、直進移動した可動パネル(30)を本体部(20)の後端で停止させる。これにより、音響室構造体(1)は、第2状態から第1状態に切り替わる。
【0078】
-実施形態3の特徴-
本実施形態の特徴(1)は、本体部(20)の内面の全てが吸音体(40)で覆われ、可動パネル(30)は、直進移動が可能であることである。これによれば、可動パネル(30)が直進移動することにより、簡単に音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられる。
【0079】
本実施形態の特徴(2)は、可動パネル(30)が直進移動のみが可能であることである。これによれば、少ない動作で音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切り替えられる。
【0080】
-実施形態3の変形例-
図9及び
図10に示すように、本実施形態の音響室構造体(1)では、本体部(20)及び可動パネル(30)の構造が異なっていてもよい。具体的には、本体部(20)における第2側壁部(20d)の内面は、反射面(R)で構成される。
【0081】
可動パネル(30)は、反射面(R)と対向する対向面である第1面(31a)の全面と、該第1面の反対側の第2面(31b)の全面とが、吸音体(40)で覆われている。言い換えると、可動パネル(30)の両方の面の全面は、吸音体(40)で覆われている。可動パネル(30)は、直進移動のみ可能である。
【0082】
図10に示すように、音響室構造体(1)の第1状態では、可動パネル(30)が本体部(20)の反射面(R)を覆う。
図9に示すように、音響室構造体(1)の第2状態では、可動パネル(30)は、反射面(R)から離れて反射面(R)を露出させる。可動パネル(30)を直進移動させることにより、反射面(R)が覆われた状態と反射面(R)が露出した状態とに変更されるので、簡単に音響室構造体(1)を第1状態と第2状態とに切替られる。
【0083】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0084】
上記各実施形態の音響室構造体(1)において、遮音扉(11)及び吸音扉(21)は、第1側壁部(20c)以外の面に設けられてもよい。
【0085】
上記各実施形態の音響室構造体(1)において、可動パネル(30)は、本体部(20)の内面のうち何れかの面を覆ってもよい。具体的には、可動パネル(30)は、第2側壁部(20d)以外の側壁部、床部、又は天井部でもよい。言い換えると、反射面(R)は、どの面に設けられてもよい。
【0086】
上記実施形態1の音響室構造体(1)において、可動パネル(30)で覆われた第2側壁部(20d)は、吸音体(40)で覆われていなくてもよい。その場合、本体部(20)の内面と可動パネル(30)の外周縁との間に形成される隙間に吸音ブロック(42)を配置する。これにより、上記隙間を通過する音を吸収できる。
【0087】
上記各実施形態の可動パネル(30)は、1枚であった。しかし、可動パネル(30)は、分割されていてもよい。これによれば、1つの可動パネル(30)の大きさが小さくなるので、可動パネル(30)を回転させる際に必要なスペースをさらに少なくできる。
【0088】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、及びその他の実施形態は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0089】
以上に述べた「第1」、「第2」、…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上説明したように、本開示は、音響室構造体について有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 音響室構造体
20 本体部
30 可動パネル
31a 第1面(対向面)
31b 第2面(対向面と反対側の面)
38a 取付部
39 治具
40 吸音体
S 音響室
T 対象面
R 反射面