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特開2022-10855センサ装置およびセンサ装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022010855
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】センサ装置およびセンサ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/18 20060101AFI20220107BHJP
   H01L 41/193 20060101ALI20220107BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20220107BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20220107BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20220107BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G01L1/18 B
H01L41/193
H01L41/047
H01L41/113
H01L29/78 618B
H01L29/78 627C
H01L29/78 626C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111618
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八田 薫
【テーマコード(参考)】
5F110
【Fターム(参考)】
5F110AA26
5F110BB09
5F110CC03
5F110DD01
5F110DD06
5F110EE02
5F110EE03
5F110EE04
5F110EE07
5F110EE42
5F110EE43
5F110EE44
5F110FF01
5F110FF02
5F110FF03
5F110FF04
5F110FF09
5F110FF27
5F110FF28
5F110FF30
5F110FF33
5F110GG01
5F110GG05
5F110GG42
5F110GG43
5F110GG44
5F110HK02
5F110HK03
5F110HK04
5F110HK07
5F110HK13
5F110HK14
5F110HK15
5F110HK16
5F110HK32
5F110NN02
5F110NN27
5F110NN33
5F110NN36
5F110NN71
5F110QQ06
5F110QQ16
(57)【要約】
【課題】圧力センサであって、湾曲に対して安定し、有機圧電フィルムと薄膜トランジスタの界面での剥離を抑制する構造を有し、かつ高精度な圧力測定が可能で信頼性の高いセンサ装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材上に形成された薄膜トランジスタと、その上層に上部電極と有機圧電フィルム、共通電極が積層されたセンサ装置において、前記上部電極と同層に接着用電極を有し、前記上部電極の平均膜厚が前記接着用電極の平均膜厚よりも厚く、その平均膜厚差が5μm~30μmであることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成された薄膜トランジスタと、その上層に上部電極と有機圧電フィルム、共通電極が積層されたセンサ装置において、
前記上部電極と同層に接着用電極を有し、前記上部電極の平均膜厚が前記接着用電極の平均膜厚よりも厚く、その平均膜厚差が5μm~30μmであることを特徴とするセンサ装置。
【請求項2】
前記上部電極の平均膜厚が10μm~50μmであることを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項3】
前記上部電極および前記接着用電極が少なくとも導電性粒子、及び樹脂成分を含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ装置。
【請求項4】
前記導電性粒子が銀粒子であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ装置の製造方法であって、
前記上部電極をスクリーン印刷法で形成することを特徴とするセンサ装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のセンサ装置の製造方法であって、
前記上部電極および前記接着用電極と前記有機圧電フィルムを貼付したあとに熱処理により接着させることを特徴としたセンサ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ装置およびセンサ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体材料は、圧力を加えるとそれに比例した電圧を生じ、また逆に電圧を印加すると変形する現象(圧電効果)を有する材料であり、アクチュエーター、センサー、アナログ回路における発振回路やフィルタ回路などに用いられている。圧電体材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などのセラミックス材料やポリフルオロビニリデン(PVDF)のような有機圧電材料などが知られている。
【0003】
特に、有機圧電材料は、低誘電率かつ高い圧電定数を有しており、またインク化が可能で塗布あるいは印刷により形成が可能であること、化学的な安定性や柔軟性を有しているなどの特徴から、可撓性を持つ圧力センサーや振動センサー、エネルギーハーベスト素子、アクチュエーターなどへの応用が検討されている。
【0004】
フィルム上に形成されたセンサとしては、有機圧電層を用いたセンサなどが知られているが、これらは柔軟性に富み、フレキシブルな大面積圧力センサへの応用が期待される。
そして、そのような例としては、特許文献1のようなものが提案されている。
特許文献1は、トランジスタと有機圧電層が積層された構造を持つ圧力センサである。トランジスタと有機圧電層が密着していることで、圧力センサとして機能している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-219336公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示されるトランジスタと有機圧電層を積層した構造を持つ圧力センサは、有機圧電層と有機半導体層の密着度を高めるための構造的な配慮はなされていない。そのためこのような圧力センサは、例えば曲面に貼り付ける等の使用形態において、曲げにより有機圧電層と有機半導体層の界面で剥離のおそれがある。
【0007】
また、トランジスタアレイにした場合、各画素に対応させるため、有機圧電層と接続される上部電極をパターニングする必要があるが、その上部電極のみでは接着面積が不十分な場合、有機圧電層との接着力向上のために上部電極と同層に接着層を形成することが挙げられる。
【0008】
その場合、上部電極と接着層を同層に形成する必要があるが、上部電極と接着層として形成された接着用電極の膜厚が等しくなり、圧力センサ化後に圧力を印加した際には、図7に示すように、圧力が上部電極と接着用電極に分散してしまうため、圧力の大きさに対するデータが安定しない問題がある。
図7は上部電極8の高さと接着用電極9の高さが同等な場合の圧力センサの断面図である。共通電極11の上から矢印の方向に圧力を加えた場合、接着用電極9にも力が分散する。
【0009】
そこで本発明は、曲げを伴う使用形態が予測されるセンサ装置において、有機圧電フィルムと薄膜トランジスタの界面での剥離を抑制する構造を有し、かつ高精度な測定が可能
で信頼性の高いセンサ装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明の一局面は、
基材上に形成された薄膜トランジスタと、その上層に上部電極と有機圧電フィルム、共通電極が積層されたセンサ装置において、前記上部電極と同層に接着用電極を有し、前記上部電極の平均膜厚が前記接着用電極の平均膜厚よりも厚く、その平均膜厚差が5μm~30μmであることを特徴とするセンサ装置である。
【0011】
また、上部電極の平均膜厚が10μm~50μmであることを特徴とするセンサ装置である。
【0012】
また、前記上部電極および前記接着用電極が少なくとも導電性粒子、及び樹脂成分を含んでいることを特徴とするセンサ装置である。
【0013】
また、前記導電性粒子が銀粒子であることを特徴とするセンサ装置である。
【0014】
また、前記上部電極をスクリーン印刷法で形成することを特徴とするセンサ装置の製造方法である。
【0015】
また、前記上部電極および前記接着用電極と前記有機圧電フィルムを貼付したあとに、熱処理により接着させることを特徴としたセンサ装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、密着性が高く、湾曲に対して耐性があり、圧力検知の信頼性が高いセンサ装置およびセンサ装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係るセンサ装置の断面図。
図2】本発明の第1実施形態に係るセンサ装置の平面図。
図3】本発明の第1実施形態に係るセンサアレイを示す図。
図4】印加した圧力に対する圧力の伝播を示す図。
図5】本発明の比較例に係るセンサ装置を示す断面図。
図6】本発明の比較例に係るセンサ装置を示す断面図。
図7】印加した圧力に対する圧力の分散を示す図。
図8】上部電極及び接着用電極の形成手段の一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
図1に、本発明の第一実施形態に係る薄膜トランジスタの断面図を示す。薄膜トランジスタ100は、基材1と、ゲート電極2と、ゲート絶縁膜3と、ソース電極4と、ドレイン電極5と、ソース電極4とドレイン電極5との間に積層された半導体層6と、半導体層6上に積層された保護層7、ソース電極4、ドレイン電極5および半導体保護層6上に形成された層間絶縁膜7と、層間絶縁膜7上に形成された上部電極8、その上層に圧力、変位に対して電圧が発生する有機圧電フィルム10、共通電極11を含む。
【0020】
本発明の実施形態において、基材1に用いる材料は特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、
ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネートなどのフレキシブルなプラスチック材料などがある。
本実施形態に係る基材1は、センサとして使用する際に、曲面に設置する場合等も考慮して、曲げ易い可撓性を有する材料であることが好ましい。
【0021】
ゲート電極2に用いる材料は特に限定されるものではないが、Al、Cr、Au、Ag、Ni、Cu、Mo等の金属や、ITO等の透明導電膜を使用することができる。形成方法としては、蒸着やスパッタ成膜後にフォトリソグラフィ法で形成してもよいが、印刷法(スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、反転オフセット印刷等)を用いることができる。印刷を用いる場合、Agインク、Niインク、Cuインク等を用いることができる。特に、フレキソ印刷、反転オフセット印刷は、薄膜印刷が可能で平坦性に優れており、ゲート電極2として好適である。
【0022】
ゲート絶縁膜3の材料は酸化珪素(SiOx)、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化タンタル(TaOx)、酸化イットリウム(YOx)、酸化ジルコニウム(ZrOx)、酸化ハフニウム(HfOx)などの酸化物系絶縁材料や窒化珪素(SiNx)、酸化窒化珪素(SiON)や、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリアクリレート、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)等の樹脂材料、ポリシルセスキオキサン(PSQ)のような有機/無機ハイブリッド樹脂を使用することができるが、これらに限定されるものではない。これらは単層または2層以上積層してもよいし、成長方向に向けて組成を傾斜したものでも構わない。
【0023】
ゲート絶縁膜3の形成方法については、公知の薄膜形成技術を用いてよく、例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法、レーザーアブレーション法、プラズマCVD法、光CVD法、ホットワイヤーCVD法等の真空成膜法や、スピンコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法等のウェット成膜法が適宜材料に応じて用いることが出来る。
【0024】
次に、ゲート絶縁膜3の上にソース電極4およびドレイン電極5を形成する。ソース電極4およびドレイン電極5の材料には、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)やその他MoNbのようなモリブデン合金などの金属材料や、酸化インジウム(InO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)などの導電性金属酸化物材料を用いることができる。銀、金、白金、パラジウムなどの貴金属系の金属は仕事関数が大きく、有機半導体への正孔注入障壁が小さくなり好ましい。
【0025】
ソース電極4およびドレイン電極5の形成は、導電性材料の前駆体やナノ粒子などを使用するウェット成膜法が好適に用いられる。例えば、インクジェット法、凸版印刷法、平版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法などの方法を用いることができる。パターニングは、例えばフォトリソグラフィ法を用いてパターン形成部分をレジストなどにより保護し、エッチングによって不要部分を除去して行うこともできるし、印刷法により直接パターニングすることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
次に、ゲート絶縁膜3、ソース電極4およびドレイン電極5上に、ソース電極4とドレイン電極5とを接続するように半導体層6を形成する。半導体層6には、有機半導体材料、例えばペンタセン、およびそれらの誘導体のような低分子半導体やポリチオフェン、ポリアリルアミン、フルオレンビチオフェン共重合体、およびそれらの誘導体のような高分子有機半導体材料や、金属酸化物を主成分とする酸化物半導体材料、例えば、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、スズ(Sn)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、及びガリウム(Ga)のうち1種類以上の元素を含む酸化物である酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(InO)、酸化インジウム亜鉛(In-Zn-O)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)、及び酸化亜鉛インジウムガリウム(In-Ga-Zn-O)などの材料が挙げられる。これらの材料の構造は単結晶、多結晶、微結晶、結晶とアモルファスの混晶、ナノ結晶散在アモルファス、アモルファスのいずれであっても構わない
【0027】
半導体層6として有機半導体材料を用いる場合は、有機半導体材料を溶解または分散させた溶液をインクとして用いる凸版印刷、スクリーン印刷、インクジェット法、ノズルプリンティングなどのウェット成膜方法で形成することもできるし、有機半導体材料の粉末や結晶を真空状態で蒸着する方法などで形成することもできる。
また、半導体材料として酸化物半導体材料を用いる場合は、CVD法、スパッタリング法、パルスレーザー堆積法、真空蒸着法などの真空成膜法や、有機金属化合物を前駆体とするゾルゲル法や化学浴堆積法、また、金属酸化物の微結晶およびナノ結晶を分散させた溶液を塗布する方法等のウェット成膜法を用いることができるが、半導体層の形成方法は、これらに限定されるものではなく、公知一般の方法を使用することも可能である。
【0028】
ソース電極4、ドレイン電極5および前記半導体層6上に層間絶縁膜7が形成される。
層間絶縁膜7として用いられる材料は特に限定されるものではないが、一般に用いられる絶縁材料にはポリビニルフェノール、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂などの有機材料がある。
層間絶縁膜7形成に際しては、凸版印刷法、反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、スピンコート法等公知の方法を好適に用いることができるが、フレキシブル化、低コスト化などを考慮すると印刷法で形成することが好ましい。
【0029】
層間絶縁膜7上には、上部電極8および接着用電極9、有機圧電フィルム10が形成される。上部電極8と接着用電極9は同層、すなわち層間絶縁膜7上にあり、且つ重ならないように配置されている。
層間絶縁膜7上の上部電極8および接着用電極9として用いられる材料は特に限定されるものではないが、白金、ニッケル、インジウム錫酸化物などの金属あるいは金や銀、ニッケル等の金属コロイド粒子を分散させた溶液、もしくは金属粒子を導電性粒子として用いて樹脂成分と混合させたペーストなどが好ましい。さらに、このペーストに含ませる樹脂成分としては、特に限定されないが、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂やエポキシジ樹脂などの熱硬化性樹脂があり、これらは複数種同時に使用してもよい。
【0030】
また、上部電極8および接着用電極9と接する有機圧電フィルム10の材料として、ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体(P(VDF-TrFE))のような強誘電体材料が用いる場合、このような強誘電体材料は、キュリー温度以上の熱処理で誘電体としての重要な特性である分極という特性を失うことがある。このため、上部電極8および接着用電極9は強誘電体材料のキュリー温度以下で形成可能な材料であることが好ましい。
そのような材料としては、低温焼成ができ、かつ低温で導電性の得やすい材料である、銀粒子を導電材料として用いた樹脂成分を含むペースト、いわゆる銀ペーストが特に好ましい。
【0031】
金属粒子を導電材料として、金属材料と樹脂成分を含むペーストを用いた上部電極8の形成方法としては、低コストで実現できる印刷法が適している。このような印刷法には、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット法などがある。この中でも、特にスクリーン印刷は、ペーストの使用可能な粘度範囲が広く、樹脂成分の選択性が広いため好ましい。
なお、本開示(明細書)における「スクリーン印刷」とは、ポリエステルなどの合成繊維、またはステンレスや各種金属繊維で織ったフレームと呼ばれる細かい編み目のメッシュ越しにインキを通過させて対象物へ印刷させる、孔版印刷の一種の印刷方法を意味する。
【0032】
上部電極8および接着用電極9を形成後に、熱処理を用いて、有機圧電フィルム10を上部電極8および接着用電極9上に接着することが好ましい。この熱処理による接着は、上部電極8および接着用電極9と有機圧電フィルム10が圧力センサとして十分に機能し、上部電極8および接着用電極9と密着した有機圧電フィルム10が湾曲させた状態においても剥離しないために行うものである。
このとき、有機圧電フィルムを構成する材料は分極を有しているが、キュリー温度以上の熱をかけるとその分極を消失してしまう。そのため、70℃~100℃程度の温度範囲で行うことが望ましいが、温度条件はこれらの温度範囲に限定されるものではなく、材料の選択等の条件によって適宜定めることができる。
【0033】
上部電極8の平均膜厚は10μm~50μmであることが好ましい。10μm未満にさせる場合、スクリーン版の乳剤厚を小さくする必要があるが、小さくしすぎた場合、スクリーン版のメッシュ痕がパターンに生じるため、平坦性が悪くなる。また、厚くした場合、インクの吐出量が多くなるため、特に精細度を上げる場合不利となる。
【0034】
上部電極8と接着用電極9は、図4に示すように上部電極8の方が厚く、且つその平均膜厚差は、5μm~30μmであることが好ましい。図4の矢印で示される圧力が印加された場合に、上部電極8のみに圧力がかかることで安定した圧力測定値が得られる。
差が5μm未満の場合、圧力を印加した際に、図7に示すように上部電極8と接着用電極9に圧力が分散してしまい、圧力検知に誤差が生じる。
また、平均膜厚差が30μmを超えると、電極間の段差が大きくなってしまい、有機圧電フィルムを貼付する際に、歪みが生じやすくなってしまう。
【0035】
また、接着用電極9は、上部電極8との平均膜厚差が前述であればよく、平均膜厚は特に限定されない。
【0036】
なお、形成された電極の平均膜厚は、電極パターンの片側の端部からその逆側の端部まで触針式膜厚計でスキャンして得られたデータの算術平均値から求められる。
【0037】
また、湾曲させた際、有機圧電フィルム10の剥離は、有機圧電フィルム10のエッジ領域で発生しやすいため、その有機圧電フィルムエッジ部20(図2図3参照)と重なるように接着用電極9を形成することで、剥離を防ぐことが可能となる。
【0038】
例えば、有機圧電フィルム10が四角い形状をしている場合、その4辺に対し、接着用電極9が形成されていることが好ましい。例えば、1辺にのみ形成されている場合、未形成部分からの湾曲に対しては、剥離が生じやすくなってしまう。有機圧電フィルムの形状はこれに限定されるものではない。
【0039】
有機圧電フィルム10として用いられる材料は特に限定されるものではないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体(P(VDF-TrFE))などが挙げられる。これらの材料は、圧電定数が大きく、軽量、柔軟であり、広帯域で利用可能といった利点があるため好ましい。また、あらかじめ分極処理を施したフィルムを用いることが好ましい。
ここで、分極処理とは、材料内の電荷の偏りを一様な方向に揃えるため高電圧を印加す
る処理を意味する。
【0040】
有機圧電フィルム10上には、共通電極11が形成される。共通電極11の材料には、前述したようなゲート電極およびソース・ドレイン電極と同様の材料および形成方法を用いることができる。また、有機圧電フィルム10にあらかじめ共通電極11を形成してから、上部電極8と貼合することもできる。
【0041】
<センサ装置>
複数の薄膜トランジスタをマトリクス状に配置することにより、薄膜トランジスタアレイを用いたセンサ装置とすることができる。薄膜トランジスタアレイとすることで、面状での検出を可能とする。
【0042】
図2は本発明の第1実施形態に係るセンサ装置の上から見た平面図を示す。
このセンサ装置において、前述のゲート電極2、ソース電極4、ドレイン電極5、半導体層6、上部電極8、接着用電極9、有機圧電フィルム10、共通電極11などが配置されて薄膜トランジスタが形成されている。さらに、ゲート電極2にはゲート配線31が接続され、ソース電極4にはソース配線32が接続され、ドレイン電極5にはドレイン配線33が接続されるように、各配線がパターン形成されている。
【0043】
図3は、図2で示した薄膜トランジスタを2×2に配列した薄膜トランジスタアレイを示す平面図である。個別の薄膜トランジスタは、それぞれゲート配線31、ソース配線32、ドレイン配線33によって接続されている。
以下、実施例を元に説明する。
【実施例0044】
本発明の第一実施形態に係る図1の薄膜トランジスタをアレイ状に配置した図3の薄膜トランジスタアレイを製造し、その評価を行った結果を示す。
【0045】
[実施例1]
厚さ125μmのポリエチレンナフタレートを基材1として、その上に、スパッタリング法を用いて、膜厚80nmのMo(モリブデン)を室温成膜した。成膜後、フォトリソグラフィ法を用いてレジストパターンを形成した後に、ドライエッチング、レジスト剥離を行い、ゲート電極2とゲート配線31を同時形成した。
【0046】
次に、スパッタリング法を用いて、膜厚300nmのSiOxを、室温成膜した。成膜後、フォトリソグラフィ法を用いてレジストパターンを形成した後に、ドライエッチング、レジスト剥離を行い、ゲート絶縁膜3を形成した。
【0047】
次に、スパッタリング法を用いて、膜厚80nmのMoを室温成膜し、フォトリソグラフィ法を用いてレジストパターンを形成した後に、ドライエッチング、レジスト剥離を行い、ソース電極4、ドレイン電極5、ソース配線32、ドレイン配線33を同時形成した。
【0048】
次に、スパッタリング法を用いて、膜厚40nmのInGaZnOを、室温成膜した。成膜時の投入電力は100W、ガス流量はAr=100SCCM、O=1SCCM、成膜圧力は1.0Paとした。次に、フォトリソグラフィ法を用いてレジストパターンを形成した後に、ウェットエッチング、レジスト剥離を行い、半導体層6を形成した。
【0049】
層間絶縁膜7の材料として、ネガ型の感光性アクリル樹脂材料を用いて、これをスピンコート法により塗布した。乾燥を行った後、所望の形状のフォトマスクを用いて露光を行
い、現像により不要な樹脂材料を除去して、所望のパターン形状を形成した。その後、150℃で焼成を行い、層間絶縁膜7を形成した。
【0050】
次に、図8(a)に示すように、層間絶縁膜7上に、1回目のスクリーン印刷により銀ペーストを用いて上部電極8aを印刷した。
次いで図8(b)に示すように、2回目のスクリーン印刷により銀ペーストを用いて上部電極8aの上に同形状の上部電極8bを重ね合わせるとともに、上部電極とは重ならない接着用電極9を印刷して、上部電極8の厚さを接着用電極9より厚くした。
さらに、80℃で予備乾燥を行った。
【0051】
その後、あらかじめ上層に共通電極11としてMoをスパッタリング法により100nm成膜したポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体フィルムを貼付したあと、100℃で焼成を行い、上部電極8に有機圧電フィルム10としてポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体フィルムが接着された薄膜トランジスタ100を用いたセンサ装置を得た。上部電極8の平均膜厚は33μm、接着用電極9の平均膜厚は20μmであった。
【0052】
<実施例1の評価>
実施例1で作製したセンサ装置を用いて評価をしたところ、圧力に対するデータを取得可能であった。また、複数回同圧力を印加してデータを取得したところ、データの差異はなかった。さらに、曲率半径R=5mmに屈曲させた状態でもデータ取得することが可能であった。
【0053】
次に、作製方法は実施例1と同様とし、スクリーン版の仕様を変更し、上部電極、接着用電極の平均膜厚を複数変更し、下記実施例2、3、4の薄膜トランジスタ100を用いたセンサ装置を得た後、評価を行った。
【0054】
[実施例2]
実施例2として、上部電極の平均膜厚が40μm、接着用電極の平均膜厚が17μmであること以外は実施例1の構成と同じである、薄膜トランジスタ100を用いたセンサ装置を得た後、評価を行った。
【0055】
[実施例3]
実施例3として、上部電極の平均膜厚が26μm、接着用電極の平均膜厚が19μmであること以外は実施例1の構成と同じである、薄膜トランジスタ100を用いたセンサ装置を得た後、評価を行った。
【0056】
[実施例4]
実施例4として、上部電極の平均膜厚が48μm、接着用電極の平均膜厚が19μmであること以外は実施例1の構成と同じである、薄膜トランジスタ100を用いたセンサ装置を得た後、評価を行った。
【0057】
<実施例2,3,4の評価>
実施例1と同様に、実施例2、3、4においても、圧力に対するデータを取得可能であり、複数回同圧力を印加してデータを取得し、データの差異はみられず安定したデータを取得することが可能であった。また、曲率半径R=5mmに屈曲させた状態でもデータ取得することが可能であった。
【0058】
[比較例1]
比較例1として、図5の薄膜トランジスタアレイ101を作製した。比較例1に係る薄
膜トランジスタを用いたセンサ装置は、図5で示されるように上部電極と接着用電極の平均膜厚がどちらも25μmで等しいこと以外は実施例1と同様である。
【0059】
比較例1は、上部電極とポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体フィルム間は接着されているが、センサ装置の評価時に、複数回同圧力を印加してデータを取得したところ、得られるデータに差異が生じており、安定したデータを取得することができなかった。
【0060】
[比較例2]
比較例2として、図6の薄膜トランジスタアレイ102を作製した。上部電極8の平均膜厚が17μm、接着用電極9の平均膜厚が20μmであり、図6で示されるように上部電極8よりも接着電極9の平均膜厚が厚いこと以外は実施例1の構成と同様である。
【0061】
比較例2は、比較例1と同様に接着はなされているが、センサ装置の評価時に、複数回同圧力を印加してデータを取得したところ、上部電極よりも接着電極の平均膜厚が厚いため、正確なデータを取得することができず、安定したデータを取得することができなかった。
【0062】
次に、作製方法は実施例1と同様にスクリーン版の仕様を変更し、上部電極、接着用電極の平均膜厚を複数変更し、比較例3、4の薄膜トランジスタ100を用いたセンサ装置を得た後、評価を行った。
【0063】
[比較例3]
比較例3として、上部電極の平均膜厚が25μm、接着用電極の平均膜厚が24μmであること以外は実施例1の構成と同じである、薄膜トランジスタ100を用いたセンサ装置を得た後、評価を行った。
【0064】
比較例3は、比較例1と同様に接着はなされているが、センサ装置の評価時に、複数回同圧力を印加してデータを取得したところ、得られるデータに差異が生じており、安定したデータを取得することができなかった。
【0065】
[比較例4]
比較例4として、上部電極の平均膜厚が55μm、接着用電極の平均膜厚が19μmであること以外は実施例1の構成と同じである、薄膜トランジスタ100を用いたセンサ装置を得た後、評価を行った。
【0066】
比較例4は、比較例1と同様に接着はなされているが、センサ装置の評価時に、複数回同圧力を印加してデータを取得したところ、得られるデータに差異が生じており、安定したデータを取得することができなかった。
【0067】
実施例1~4、及び比較例1~4における上部電極、接着層電極のそれぞれの平均膜厚に対する取得データの安定性の結果をまとめて表1に示す。
【0068】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係るセンサ装置は、圧力、変位、振動等を検出するセンサ装置に応用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 基材
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 ソース電極
5 ドレイン電極
6 半導体層
7 層間絶縁膜
8 上部電極
8a 1回目スクリーン印刷による上部電極
8b 2回目スクリーン印刷による上部電極
9 接着用電極
10 有機圧電フィルム
11 共通電極
20 有機圧電フィルムエッジ部
31 ゲート配線
32 ソース配線
33 ドレイン配線
100、101、102 薄膜トランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8