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特開2022-108576光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置
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  • 特開-光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置 図1
  • 特開-光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置 図2
  • 特開-光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108576
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04K 1/02 20060101AFI20220719BHJP
   H04B 10/70 20130101ALI20220719BHJP
【FI】
H04K1/02
H04B10/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003651
(22)【出願日】2021-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】中沢 正隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真人
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 俊彦
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA61
5K102AB11
5K102AH14
5K102AH24
5K102AH26
5K102AH27
5K102PB01
5K102PH01
5K102PH50
5K102RD26
(57)【要約】
【課題】高速伝送を得意とするQNSC信号を時間軸にもランダムに拡散させ、データの振幅および位相の多値化に用いる乱数列の情報も暗号化することにより、安全性が高く、かつ高速伝送可能な光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置を提供する。
【解決手段】量子雑音を用いて光信号の位相あるいは振幅レベルの少なくとも一方をマスキングするQNSCを利用した光秘匿通信システムであって、送信部で生成したQNSC信号を、共通鍵1を用いて時間軸上にランダムに拡散させた上で送信し、受信部において、送信部との間で予め共有した共通鍵1を用いて、正しいタイミングでQNSC信号を受信するよう構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子雑音を用いて光信号の位相あるいは振幅レベルの少なくとも一方をマスキングする量子雑音ストリーム暗号(QNSC)を利用した光秘匿通信システムであって、
送信部で生成したQNSC信号を、共通鍵を用いて時間軸上にランダムに拡散させた上で送信し、受信部において、前記送信部との間で予め共有した前記共通鍵を用いて、正しいタイミングで前記QNSC信号を受信するよう構成されていることを
特徴とする光秘匿通信システム。
【請求項2】
前記時間軸上に拡散させるとき、盗聴を困難にするために用意したダミー信号の時系列の中に、ランダムに前記QNSC信号を挿入するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光秘匿通信システム。
【請求項3】
前記時間軸上に拡散させるとき、前記QNSC信号の順序をランダムに入れ替えるよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光秘匿通信システム。
【請求項4】
変調方式として、光強度変調あるいは光位相変調あるいは直交振幅変調を利用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光秘匿通信システム。
【請求項5】
前記共通鍵として、量子鍵配送技術を用いて安全に配信された秘密鍵を用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光秘匿通信システム。
【請求項6】
量子雑音を用いて光信号の位相あるいは振幅レベルの少なくとも一方をマスキングする量子雑音ストリーム暗号(QNSC)を利用した光秘匿通信装置であって、
送信部で生成したQNSC信号を、共通鍵を用いて時間軸上にランダムに拡散させた上で送信し、受信部において、前記送信部との間で予め共有した前記共通鍵を用いて、正しいタイミングで前記QNSC信号を受信するよう構成されていることを
特徴とする光秘匿通信装置。
【請求項7】
前記時間軸上に拡散させるとき、盗聴を困難にするために用意したダミー信号の時系列の中にランダムに前記QNSC信号を挿入するよう構成されていることを特徴とする請求項6に記載の光秘匿通信装置。
【請求項8】
前記時間軸上に拡散させるとき、前記QNSC信号の順序をランダムに入れ替えるよう構成されていることを特徴とする請求項6に記載の光秘匿通信装置。
【請求項9】
変調方式として、光強度変調あるいは光位相変調あるいは直交振幅変調を利用することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の光秘匿通信装置。
【請求項10】
前記共通鍵として、量子鍵配送技術を用いて安全に配信された秘密鍵を用いることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の光秘匿通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝達する情報を盗聴者に知られることなく受信者に送る光秘匿通信に係り、安全性が高くかつ高速な光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットを活用したビジネスが急速に発展し、個人情報や機密情報の伝達にも光通信ネットワークが活用されるようになっている。そのような中、光通信ネットワークの高速大容量化とともに、情報の安全性を確保することが重要になってきている。光秘匿通信に用いられる量子暗号としては、量子鍵配送と光の量子雑音を利用したストリーム暗号(以降、QNSC:Quantum Noise Stream Cipherと呼ぶ)とがよく知られている。前者は、ストリーム暗号伝送で使用される共通鍵を、単一光子や微弱なコヒーレント光で伝送することにより、無条件安全に鍵を配送することができるといわれている(例えば、非特許文献1、2参照)。しかし、元の通信文と同じ長さの使い捨ての共通鍵を受信者に配送する必要があり、暗号通信の速度は鍵配送の速度(数100 kbps)で制限されてしまうといった問題点がある。
【0003】
これに対し、QNSCは、現状の光ネットワーク上で実用化ができ、数10 Gbit/sの高速通信が実現できる共通鍵量子暗号として期待されている(例えば、非特許文献3、4、5、6、特許文献1、2、3参照)。QNSCでは、共通鍵をもとに生成した擬似乱数を用いて、光信号の位相あるいは振幅あるいはその両方を多値変調し、光の位相もしくは振幅揺らぎ(これを量子雑音と呼ぶ)の中にデータ情報を埋め込むことにより、盗聴者が光信号を正確に受信できないようにしている。この方式では、完全秘匿性は得られないものの、変調レベルの多値度を大きくして、被変調光信号の振幅あるいは位相あるいはその両方の変化の間隔を、光検出の際に付与される量子雑音と比べ十分に小さくすることで、盗聴者が正しく信号レベルを判定できる確率を下げ、実用上問題のないレベルまで安全性を高めることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. H. Bennett and G. Brassard, “Quantum cryptography: Public key distribution and coin tossing”, Proc. IEEE Int. Conf. Computers, Systems and Signal Processing, 1984, pp.175-179
【非特許文献2】T. Hirano, H. Yamanaka, M. Ashikaga, T. Konishi, and R. Namiki, “Quantum cryptography using pulsed homodyne detection”, Phys. Rev. A 68, 2003, 042331
【非特許文献3】G. A. Barbosa, E. Corndorf, P. Kumar, H. P. Yuen, “Secure communication using mesoscopic coherent state”, Phys. Rev. Lett.,2003, vol. 90, 227901
【非特許文献4】O. Hirota, K. Kato, M. Sohma, T. Usuda, K. Harasawa, “Quantum stream cipher based on optical communication”, SPIE Proc. on Quantum Communications and Quantum Imaging, 2004, vol-5551
【非特許文献5】広田修、「光通信ネットワークと量子暗号」、電子情報通信学会論文誌 B、2004年、vol. J87-B、pp.478-486
【非特許文献6】M. Nakazawa, M. Yoshida, T. Hirooka, and K. Kasai, “QAM quantum stream cipher using digital coherent optical transmission”, Opt. Express, 2014. vol. 22, pp.4098-4107
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-303927号公報
【特許文献2】特開2014-93764号公報
【特許文献3】特開2017-50678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに報告されているQNSC伝送システムにおける、QNSC信号の生成の様子を図3に示す。ここでは、変調信号として直交振幅変調(QAM: Quadrature Amplitude Modulation)方式を用いた場合を例にとっている。一般に用いられている光秘匿通信方式では、共通鍵#1で生成した乱数列#1を用いた排他論理和の演算により、オリジナルのバイナリーデータ(元データ)を数理的に暗号化し、その暗号化信号を所定のフォーマット(図3においては16 QAM)にマッピングして、光ファイバを介して送信している。この場合、盗聴者は、光ファイバ伝送路に曲げ損を与えるなどして、クラッドへの漏れ光から16 QAM信号を高感度に検出し、例えば総当たりに乱数列#1の情報を探ることにより、元データを解読できる可能性がある。
【0007】
QNSC方式では、このリスクを回避するために、共通鍵#2で生成した乱数列#2を用いて、16 QAM信号をさらにM×M値の超多値QAMフォーマットで暗号化し、その暗号化信号レベルをレーザならびに光増幅器から放出される量子雑音によりマスキングした形で情報を送信する。即ち、光信号の振幅と位相の情報を同時に拡散させた2次元の物理暗号である。例えば、Mを1024に設定することにより、暗号化QAM信号の多値度は、M2≒106となる。この場合、盗聴者は100万通りある信号レベルから真値を判定しなければならず、その解読は極めて困難なものになる。しかしながら、QNSCシステムでは、106~107程度の光子から成る強い光信号を利用するため、単一光子相当の微弱な信号を扱うQKDのような量子雑音による完全なマスキング効果を得ることはできない。そのため、送信した信号に含まれる乱数列#2の情報の一部は盗聴者に漏れ、極めて低い確率ではあるが、多数の信号から得た情報をもとに盗聴者に乱数列#2が解読されてしまう可能性があるという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、高速伝送を得意とするQNSC信号を時間軸にも拡散させ、データの振幅および位相の多値化に用いる乱数列の情報も暗号化することにより、従来のQNSCよりも安全性が高く、かつ高速伝送可能な光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明に係る光秘匿通信システムは、量子雑音を用いて光信号の位相あるいは振幅レベルの少なくとも一方をマスキングするQNSCを利用した光秘匿通信伝送システムであって、送信部で生成したQNSC信号を、共通鍵を用いて時間軸上にランダムに拡散させた上で送信し、受信部において、前記送信部との間で予め共有した前記共通鍵を用いて、正しいタイミングで前記QNSC信号を受信するよう構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る光秘匿通信装置は、量子雑音を用いて光信号の位相あるいは振幅レベルの少なくとも一方をマスキングする量子雑音ストリーム暗号(QNSC)を利用した光秘匿通信装置であって、送信部で生成したQNSC信号を、共通鍵を用いて時間軸上にランダムに拡散させた上で送信し、受信部において、前記送信部との間で予め共有した前記共通鍵を用いて、正しいタイミングで前記QNSC信号を受信するよう構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置は、前記時間軸上に拡散させるとき、盗聴を困難にするために用意したダミー信号の時系列の中に、ランダムに前記QNSC信号を挿入するよう構成されていてもよく、前記QNSC信号の順序をランダムに入れ替えるよう構成されていてもよい。
【0012】
本発明に係る光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置は、変調方式として、光強度変調あるいは光位相変調あるいは直交振幅変調を利用することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置は、前記共通鍵として、量子鍵配送技術を用いて安全に配信された秘密鍵を用いることが好ましい。この場合、安全性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、高速伝送を得意とするQNSC信号の暗号化に用いる乱数列の情報も二重に暗号化することにより、高い安全性と高速性を兼ね備えた光秘匿通信を実現することができる、光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置の、(a)送信部を示すブロック図、(b)QNSC信号の時間軸における拡散の様子を示す説明図、(c)受信部を示すブロック図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置の、(a)送信部を示すブロック図、(b)QNSC信号の時間軸における拡散の様子を示す説明図、(c)受信部を示すブロック図である。
図3】従来のQAM方式を用いたQNSC信号の生成の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明における第1実施形態に係る光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置の、送信部、QNSC信号の時間軸における拡散の様子、受信部を、図1に示す。
【0017】
図1(a)に例示する光秘匿通信システムの送信部は、共通鍵1をシード鍵としてデータ信号の暗号化を図るQNSC送信器2と、QNSC送信器2より出力された電気暗号化信号を光配信する際に搬送波として使用する光を発するCW光源3と、CW光源3からの光を光変調するための光変調器4と、光変調した光信号に付与する雑音信号を発生する雑音源5と、その光信号と雑音信号とを合波する光合波器6とを備える。
【0018】
QNSC送信器2は、共通鍵1を分配する鍵分配回路7と、分配した鍵を元に乱数列を生成する乱数列生成回路8-1、8-2、8-3と、バイナリーデータを生成するデータ信号生成回路9と、データ信号生成回路9から出力されるnビットのバイナリーデータを、乱数列生成回路8-1から出力されるnビットの乱数列で暗号化する際に利用する排他論理和回路10と、乱数列生成回路8-2から出力されるmビットの乱数列の順序をランダムに入れ替えるランダムマッピング回路11と、排他論理和で暗号化されたnビットのデータとランダムにマッピングされたmビットの乱数列とを加算して、n + mビットの暗号化信号を生成する加算回路12と、盗聴を困難にするために利用するダミーのバイナリーデータを生成するダミー信号生成回路13と、乱数列生成回路8-3から出力されるlビットの乱数列を元に、真の暗号化信号とダミー信号とを選択して出力するセレクタ14と、セレクタ14より出力されたn+mビットのバイナリー信号を、所望のフォーマットの変調信号に変換するエンコーダ15と、エンコーダ15から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する高速D/A変換器16とから成る。
【0019】
例えば、暗号化信号の変調フォーマットとして直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)を用いる場合、乱数列生成回路8-1、8-2、データ信号生成回路9、排他論理和回路10、ランダムマッピング回路11および加算回路12を、I(同位相)とQ(直交位相)信号生成用にそれぞれ二式ずつ設ければよい。また、これに合わせ、高速D/A変換器16も二式設け、光変調器4としてQAM変調器を利用することができる。一方、暗号化信号の変調フォーマットとして光位相変調あるいは光強度(振幅)変調を用いる場合、乱数列生成回路8-1、8-2、データ信号生成回路9、排他論理和回路10、ランダムマッピング回路11、加算回路12および高速D/A変換器16はそれぞれ一式ずつあればよく、光変調器4として光位相変調器あるいは光強度変調器を用いればよい。
【0020】
CW光源3から発する光として、例えば狭線幅の半導体レーザやファイバレーザを用いることができる。雑音源5で発生させる雑音信号の一例としては、エルビウム添加光ファイバ増幅器やラマン光増幅器から出力される自然放出光、あるいは不規則なパターン光信号が挙げられる。
【0021】
図1(a)の送信部において、QNSC信号が時間軸に拡散される様子を図1(b)に示す。従来のQNSC伝送システムでは、nビットのIまたはQデータをmビットの乱数列で多値化した暗号化信号を、量子雑音を付与した上で、時間に対し連続的に送信していた。ここで、暗号化信号は106~107個程度の光子から成る強い光であるため、量子雑音により全ての情報を覆い隠すことはできない。そのため、盗聴された信号から1シンボル毎にmビットの乱数列の情報が少しずつ洩れていき、連続する多シンボルから得た情報を並べることで乱数列パターンが解読されてしまう可能性は排除しきれなかった。この問題を解決するために、データを含まないダミーシンボルを時間軸上の各タイムスロットに用意し、その中に暗号化信号(真シンボル)を拡散させる。その際、lビットの乱数列(N=2l通りのパターン)の情報で定めたタイミングで、N-1シンボルのダミー信号の中に1つの真シンボルを挿入する。この乱数列を予め送受信者間で持ち合い、真シンボルの位置情報を共有しておく。Nが大きいほど真シンボルの検出確率は低減し、盗聴に対する安全性を高めることができる。一方、データ速度は1/Nに低下する関係にあるため、安全性と高速性の両面に配慮してN値を設定すればよい。
【0022】
図1(c)に例示する光秘匿通信システムの受信部は、受信した時間軸上に拡散されたQSNC信号をホモダインあるいはヘテロダイン検波するための局発光源17およびコヒーレント検波回路18と、送信部と同一の共通鍵1をシード鍵としてデータ信号の復号化を図るQNSC受信器19とを備える。
【0023】
QNSC受信器19は、コヒーレント受信回路18で受信したアナログ信号をデジタル信号に変換する高速A/D変換器20と、A/D変換した10進数の暗号化デジタル信号をバイナリー信号に変換するデコーダ21と、ダミー信号の中から真の暗号化信号のみ選択して抽出するためのセレクタ22と、共通鍵1を元に暗号化信号を復号化する復号化回路とから成る。復号化回路は、引算回路23を除き、送信部における暗号化回路と同じ構成である。
【0024】
例えば、暗号化信号の変調フォーマットとしてQAMを使用したQSNC信号を、局発光源17を用いてホモダイン検波する場合、コヒーレント受信回路18には90度ハイブリッドと2台のバランスPDとを用いる。また、高速A/D変換器20、引算回路23、乱数列生成回路24-1、24-2、排他論理和回路25、およびランダムマッピング回路26は、IとQ信号の復調のためにそれぞれ二式ずつ設ければよい。一方、暗号化信号の変調フォーマットとして光位相変調あるいは光振幅変調を用いる場合、コヒーレント受信回路18には1台のバランスPDを使用し、高速A/D変換器20、引算回路23、乱数列生成回路24-1、24-2、排他論理和回路25、およびランダムマッピング回路26はそれぞれ一式ずつで済む。さらに、暗号化信号の変調フォーマットとして符号情報を持たない光強度変調を利用する場合は、局発光源17は不要であり、またコヒーレント受信回路18は通常のフォトダイオードを用いることができる。
【0025】
局発光源17の光位相を、送信したQSNC信号の光位相に同期を図る手法の一例として、光位相同期ループ回路あるいは光注入同期回路を用いた位相制御法が挙げられる。また、送信部においてQSNC信号を生成する際に、その信号と直交する偏波にCW光源3と位相同期したトーン信号を立て、一方、受信部において、このトーン信号を偏波分離して抽出し、それを局発光源17の代わりに利用する自己遅延ホモダイン検波系を採用することもできる。
【0026】
図1(a)および(c)に示す送信部と受信部に、それぞれ波長多重回路および波長分離回路を設け、多波長の光源を利用した波長分割多重伝送を行うことで、光秘匿通信システムの伝送容量を増大させることもできる。
【0027】
図1(a)および(c)に示す送信部と受信部に、それぞれ偏波多重回路および偏波分離回路を設け、偏波多重伝送方式を利用して光秘匿通信システムの伝送容量を倍増することもできる。
【0028】
本発明における第2実施形態に係る光秘匿通信システムおよび光秘匿通信装置の、送信部、QNSC信号の時間軸における拡散の様子、受信部を、図2に示す。
【0029】
図2(a)に例示する光秘匿通信システムの送信部は、QNSC送信器2’のみ第1実施形態と異なる。
【0030】
QNSC送信器2’は、共通鍵1を分配する鍵分配回路7と、分配した鍵を元に乱数列を生成する乱数列生成回路8-1、8-2、8-3と、バイナリーデータを生成するデータ信号生成回路9と、データ信号生成回路9から出力されるnビットのバイナリーデータを、乱数列生成回路8-1から出力されるnビットの乱数列で暗号化する際に利用する排他論理和回路10と、乱数列生成回路8-2から出力されるmビットの乱数列の順序をランダムに入れ替えるランダムマッピング回路11と、排他論理和で暗号化されたnビットのデータとランダムにマッピングされたmビットの乱数列とを加算して、n + mビットの暗号化信号を生成する加算回路12と、乱数列生成回路8-3から出力されるlビットの乱数列を元に暗号化信号の順序を入れ替える順序入替回路31と、順序入替回路31から出力されたn+mビットのバイナリー信号を、所望のフォーマットの変調信号に変換するエンコーダ15と、エンコーダ15から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する高速D/A変換器16から成る。
【0031】
図2(a)の送信部において、QNSC信号が時間軸に拡散される様子を図2(b)に示す。lビットの乱数列の情報を元に、順序入替回路31を用いて、N’シンボルを1ブロックとしてブロック内で暗号化信号の順序をランダムに入れ替える。具体的には、順序入替回路31内にN’シンボル分の情報をメモリに蓄え、乱数列の番号と並び順との関係を定義したテーブルを元に、蓄えたN’シンボルの順序を入れ替える。その全ての入れ替え方(N’の階乗通り)をlビットの乱数列(最大2l通りのパターン)で選択できるよう、N’の階乗<2lの関係を満たす範囲でN’を設定すればよい。さらに、メモリにおいて、乱数に沿って情報の順序を入れ替えるばかりでなく、その順序を数学的なある法則(ソフトウェア暗号)に則って決定することも可能である。第1実施形態と異なり、データ速度を落とすことなく、時間軸での暗号化信号の拡散を実施できることが特徴である。
【0032】
図2(c)に例示する光秘匿通信システムの受信部は、QNSC受信器19’のみ第1実施形態と異なる。
【0033】
QNSC受信器19’は、コヒーレント受信回路18で受信したアナログ信号をデジタル信号に変換する高速A/D変換器20と、A/D変換した10進数の暗号化デジタル信号をバイナリー信号に変換するデコーダ21と、順序が入れ替わった暗号化信号を正規の順序に復元する順序復元回路32と、共通鍵1を元に暗号化信号を復号化する復号化回路とから成る。復号化回路は、引算回路23を除き、送信部における暗号化回路と同じ構成である。
【0034】
なお、第1または第2の実施形態において、QNSC伝送システムに用いる変調方式として、光強度変調、光位相変調または直交振幅変調を利用することができる。
【0035】
また、第1または第2の実施形態において、共通鍵1として、量子鍵配送技術を用いて配信された秘密鍵を用いることで安全性をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 共通鍵
2 QNSC送信器
3 CW光源
4 光変調器
5 雑音源
6 光合波器
7 鍵分配回路
8-1,8-2,8-3 乱数列生成回路
9 データ信号生成回路
10 排他論理和回路
11 ランダムマッピング回路
12 加算回路
13 ダミー信号生成回路
14 セレクタ
15 エンコーダ
16 高速D/A変換器

17 局発光源
18 コヒーレント受信回路
19 QNSC受信器
20 高速A/D変換器
21 デコーダ
22 セレクタ
23 引算回路
24-1,24-2,24-3 乱数列生成回路
25 排他論理和回路
26 ランダムマッピング回路

2’ QNSC送信器
31 順序入替回路
19’ QNSC受信器
32 順序復元回路
図1
図2
図3