(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022010864
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】抗菌機能付き鳥類忌避剤
(51)【国際特許分類】
A01N 59/00 20060101AFI20220107BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
A01N59/00 Z
A01P17/00
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111633
(22)【出願日】2020-06-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】312006286
【氏名又は名称】田中 将隆
(74)【代理人】
【識別番号】100180482
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 将隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 将隆
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AE02
4H011BA07
4H011BB18
4H011BC18
4H011DA14
4H011DD07
4H011DE15
4H011DG03
(57)【要約】
【課題】鳥類を忌避しつつ、抗菌効果をも発揮しうる抗菌機能付き鳥類忌避剤を提供する。
【解決手段】溶液状の抗菌機能付き鳥類忌避剤100は、精製水1と、光触媒3である酸化チタン(TiO2)と、抗菌機能付き鳥類忌避剤100の溶液の全体量に対して5.0重量パーセント相当量だけ添加されるpH11.0のアルカリ性電解水2とを含んでなる。アルカリ性電解水2は、抗菌機能付き鳥類忌避剤100の噴霧箇所において、鳥類を忌避させる。また、光触媒3たる酸化チタンは、紫外線が照射された際に、鳥類から忌避される対象物に対し抗菌作用を及ぼす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類を忌避しつつ、抗菌効果をも発揮しうる溶液状の抗菌機能付き鳥類忌避剤であって、
精製水と、
光触媒である酸化チタン(TiO2)と、
溶液状の抗菌機能付き鳥類忌避剤の全体量に対して5.0重量パーセントだけ添加されるpH11.0のアルカリ性電解水と、
を含んでなり、
(1)アルカリ性電解水は、抗菌機能付き鳥類忌避剤の噴霧箇所において、鳥類を忌避させ、
(2)酸化チタンは、紫外線が照射された際に、鳥類から忌避される対象物に対し抗菌作用を及ぼす
ように構成されたことを特徴とする、抗菌機能付き鳥類忌避剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌機能付き鳥類忌避剤において、
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)をさらに含む
ように構成されたことを特徴とする、抗菌機能付き鳥類忌避剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌機能付き鳥類忌避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、市街地に生息する鳥類(ムクドリなど)が糞害や騒音(鳴き声)を引起こし、住民の迷惑となるケースがあとを絶たない。
【0003】
上述したムクドリを市街地から遠ざけるために、以前より、全国各所で様々な試みが行われている。
具体例としては、天敵であるタカやフクロウの模型を設置する手法、鳥類の体内時計を攪乱すべく磁石を設置する手法、ムクドリが危険を感じたときの鳴き声を忌避音として流す手法、木酢液などの忌避剤(ムクドリが嫌がる成分)を用いる手法、イオンを発生する特殊なテープを設置する手法などが挙げられる。
【0004】
また、上記以外にも鳥獣を追い払うための技術として、以下のようなものも考えられている(例えば、特許文献1~2参照。)。
特許文献1に開示されたHHOガス式爆音器は、従来の爆音器のように燃料ガス・薬品・火薬を用いる代わりに、HHOガス(水の電気分解による水素と酸素の混合ガス)の燃焼に伴う爆音を利用し、水と電気だけで同様の動物駆逐効果が得られるものとなっている。
【0005】
また、特許文献2に開示された技術では、銅イオンなどの金属イオン物質が、鳥獣に対して忌避活性を有していることに着目している(同文献2・第3段落)。
特許文献2では、銅をはじめとする金属イオン物質を含む電解金属イオン水を採用している(同文献2・第9段落)。
さらに、電解金属イオン水の性質としては、酸性でも採用可能であるものの、中性を示すものが好ましいことが開示されている(特許文献2・同9段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3219422号公報
【特許文献2】特開2005-198630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した被害以外にも市街地に生息する鳥類が引き起こす被害としては、人間が捨てたごみの中に紛れている餌を探すために、ごみを漁るという被害がある。
日常生活において、集積された可燃ごみに混じっている食料をカラスなどがついばみ、ごみ収集日のたびに生ごみが路上に散乱している様子を見かけることも多い。
このような事態は、単に街の美観を損ねて不快な心象を与えるだけでなく、衛生上も好ましくない。
なお、ごみが散乱する被害は、集積場所にごみを廃棄する際、網目状シートからなるごみネットを単純に可燃ごみに被せるのみで、鳥類がごみを漁らないような対策を何ら施していない場合に遭うことが多い。
【0008】
上述した鳥類を追い払うための各従来技術は、可燃ごみに鳥類が寄りつかないようにする観点からは、目的に適うものが多数存在する。
しかしながら、鳥類が近寄ってくることを忌避する技術だけでなく、さらなる機能性をもたせ、鳥類から忌避されるべき対象物(ごみネットなど)に対し抗菌効果を同時にもたらすような技術は確立されていないと考えられる。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、鳥類を忌避する効果を奏するとともに、鳥類から忌避される対象物に対し抗菌効果を施すことが可能な抗菌機能付き鳥類忌避剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔第1発明〕
そこで、上記の課題を解決するために、本願の第1発明に係る抗菌機能付き鳥類忌避剤は、
鳥類を忌避しつつ、抗菌効果をも発揮しうる溶液状の抗菌機能付き鳥類忌避剤であって、
精製水と、
光触媒である酸化チタン(TiO2)と、
溶液状の抗菌機能付き鳥類忌避剤の全体量に対して5.0重量パーセントだけ添加されるpH11.0のアルカリ性電解水と、
を含んでなり、
(1)アルカリ性電解水は、抗菌機能付き鳥類忌避剤の噴霧箇所において、鳥類を忌避させ、
(2)酸化チタンは、紫外線が照射された際に、鳥類から忌避される対象物に対し抗菌作用を及ぼす構成とした。
【0011】
第1発明によれば、(1)鳥類を忌避する機能と、(2)鳥類から忌避される対象物への抗菌機能と、を併せ持つ。
そのため、溶液状の抗菌機能付き鳥類忌避剤を噴霧した際、噴霧された箇所から鳥類を忌避するとともに、鳥類から忌避されるべき対象物への抗菌処理も同時に施すことができる。
【0012】
〔第2発明〕
また、上記の課題を解決するために、本願の第2発明に係る抗菌機能付き鳥類忌避剤は、
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)をさらに含む構成とした。
【0013】
第2発明によれば、炭酸水素ナトリウムが有する酸性の臭いに対する脱臭効果により、抗菌機能付き鳥類忌避剤をごみネットに噴霧したときに、生ごみの臭気を緩和する効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る鳥類忌避剤の組成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1を参照して、本発明の「抗菌機能付き鳥類忌避剤」について説明する。
[実施形態]
本発明の実施形態は、鳥類を忌避させるように作用すると同時に、鳥類から忌避される対象物に対し抗菌作用を及ぼすことを目的として、溶液状の抗菌機能付き鳥類忌避剤100を構成した例である。
【0016】
図1は、本実施形態に係る抗菌機能付き鳥類忌避剤100の組成を示す模式図である。
同
図1に示す抗菌機能付き鳥類忌避剤100は、精製水1と、アルカリ性電解水2と、光触媒3である酸化チタン(TiO2)と、を含んでなる。
【0017】
本抗菌機能付き鳥類忌避剤100は、これらの構成要素1~3以外には「特別な消毒成分・抗菌成分を一切含むことなく」調製されている。
そのため、本抗菌機能付き鳥類忌避剤100の製造方法は、非常に簡易的であり、これらの構成要素1~3を混合するだけでよい。
なお、酸化チタン3の結晶構造は、最安定型のルチル型(正方晶)に限らず、アナターゼ型(正方晶)・ブルッカイト型(斜方晶)であってもよい。
また、抗菌機能付き鳥類忌避剤100に酸化チタン3を添加する際は、あらかじめ粉末状に加工された酸化チタン3を、精製水1とアルカリ性電解水2の混合物に溶解させればよい。
【0018】
精製水1は、イオン交換・蒸留・逆浸透・限外ろ過を単独に又は組合わせて使用することで、常水から製造された水である。
本発明の抗菌機能付き鳥類忌避剤100に使用する精製水1は、一般的な精製水(科学実験の溶媒やコンタクトレンズ・医療用器具の洗浄などに供する、雑菌が混入しても大きく影響が出ない用途に使う水)でよい。
抗菌機能付き鳥類忌避剤100は、その使用目的に照らして、鳥類を忌避させるために鳥類が寄り集まるような箇所(多くは戸外)に噴霧されるものであり、高純度に精製されていることは溶媒(精製水1)に対して要求されるものではないからである。
【0019】
つぎに、アルカリ性電解水2について説明する。
アルカリ性電解水2は、水道水に食塩を加えて、これを電気分解した際に、負極側において得られる電解水である。
アルカリ性電解水2は、タンパク質を溶解する能力や油脂を乳化する能力を有することから、一般に調理器具などの洗浄に用いられている。
【0020】
なお、アルカリ性電解水の通称は「アルカリイオン水」である。アルカリ性電解水のうち、pH(power of hydrogen:水素イオン濃度指数)値がpH9~10の範囲内にあるものは飲用可能とされている。
しかしながら、本願の抗菌機能付き鳥類忌避剤100では、飲用可能とされる範囲よりも数十倍程度、水素イオン(H+)の活量(水素イオン濃度とほぼ等しい)が低い「pH11.0」のアルカリ性電解水2を用いる。
【0021】
なお、先に述べたように、特許文献2では、銅を筆頭とする電解金属イオン水を採用しており、この電解金属イオン水は「酸性でも採用可能」であるものの「中性を示すものが好ましい」旨が開示されている(同文献2・第9段落)。
この点、「アルカリ性」電解水(pH11.0)に着目した本願発明は、特許文献2とは異なる技術的観点に立脚した技術となっている。
【0022】
本発明の抗菌機能付き鳥類忌避剤100においては、液体状である本忌避剤100の全体量に対し「5.0重量パーセント」相当量だけ、pH11.0のアルカリ性電解水2を添加する。
この、きわめて強いアルカリ性を示すアルカリ性電解水2が、鳥類に対して、非常に有効な忌避効果をもたらす。
【0023】
本願発明者は、pH11.0のアルカリ性電解水2を5.0重量パーセントだけ含む精製水1を使用し、忌避効果を確かめる試行を3ヶ月にわたり繰返しおこなった。
具体的には、集積された可燃ごみに、網目シート状のごみネットを被せただけとしておき、その可燃ごみに対し「5.0重量パーセントのpH11.0のアルカリ性電解水を含む精製水」(光触媒3を含まないもの)を噴霧照射した。
噴霧を行うために、上記所定量(5.0重量パーセント)のアルカリ性電解水2を含む精製水1を、液体用のスプレーボトルに充填した。
【0024】
なお、試行に用いた液体スプレーボトルは、ポンプ押下による1回あたりの吐出量は0.14ミリリットルであり、噴霧口から排出される液滴の粒径は20~30ミクロン程度である。
上記試行によれば、忌避されるべき対象物の大きさが60cm四方の正方形領域と同程度である場合、10回程度の本忌避剤100噴霧(噴霧量の総計は、1.4ミリリットル)により、非常に高い確率で鳥類を忌避する効果が確認された。
【0025】
上述したように、従来、アルカリ性電解水は、タンパク質の溶解能力や油脂の乳化能力のみが注目され、その一般的な用途としては、調理器具の洗浄などにとどまっていた。
そのため、「アルカリ性」電解水を、鳥類を忌避することを目的として用いる試みは、過去に行われてこなかったように思われる。
そのため、今回の忌避効果を確かめる試行により「アルカリ性電解水を使った鳥類忌避剤」という「用途発明」が成されたものと考える。
【0026】
つぎに、光触媒3について説明する。
本願の抗菌機能付き鳥類忌避剤100で使用する光触媒3は、酸化チタン(TiO2)であり、強い酸化還元作用と、超親水作用を及ぼす。
酸化チタン(TiO2)は、安価で化学的安定性に優れ、かつ高い光触媒活性(有機化合物分解性、抗菌性・抗ウイルス性など)を有し、さらに人体にも無害であることを理由に広く用いられている。
【0027】
以下に、光触媒3が抗菌作用をもたらす原理について説明する。
光触媒活性を有する酸化チタン(TiO2)は、一般に、その価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップに相当するエネルギーを有する光を吸収すると、価電子帯に存在していた電子が伝導帯に遷移する。
価電子帯から伝導帯に遷移した電子は、酸化チタンの表面に吸着している物質に移動する性質がある。
そのため、酸化チタン表面に吸着している物質は当該電子によって還元される。
また、価電子帯から伝導帯に遷移した電子は、空気中の酸素を還元した場合には、スーパーオキシドアニオン(1つの不対電子を持つ酸素分子)を生成させる。
【0028】
一方、価電子帯に存在していた電子が伝導帯に遷移すると、価電子帯には正孔が生ずる。
価電子帯に生じた正孔は、酸化チタン(TiO2)表面に吸着している物質から電子を奪い取る性質がある。
そのため、酸化チタンの表面に吸着している物質は、正孔に電子を奪われて酸化される。
さらに、価電子帯に生じた正孔が、光触媒3表面の吸着水を酸化した場合には、水酸基ラジカル(ラジカルOH)を生成させる。
【0029】
つぎに、本実施形態に係る抗菌機能付き鳥類忌避剤100の作用について説明する。
【0030】
本鳥類忌避剤100においては、アルカリ性電解水2が「鳥類に対する忌避効果」をもたらす。
これは、本願発明者が、3ヶ月に及ぶ試行実験により、一般的な用途として調理器具などの洗浄に用いられているアルカリ性電解水が、鳥類に対する忌避効果をも奏することをあらたに発見したものである。
このアルカリ性電解水2の鳥類に対する忌避効果は、きわめて高い再現性をもって確認された。
【0031】
また、光触媒3たる酸化チタン(TiO2)に対し紫外線が照射された際、鳥類から忌避される対象物に対して抗菌効果をもたらす。
酸化チタン(TiO2)を励起する際に必要な光エネルギー(価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップに相当するエネルギー)は、3.2電子ボルト~3.3電子ボルトといわれている。
このエネルギーは、エネルギー量子と振動数の比例関係を基に換算すると約380nmの波長に相当し、近紫外線領域(波長200~380nm)に含まれる。
【0032】
上述したように、酸化チタン(光触媒3)に紫外線が照射されると光触媒3の表面に正孔が生じ、この正孔が、光触媒3表面の吸着水を酸化して、水酸基ラジカル(ラジカルOH)を生成させる。
水酸基ラジカルは、活性酸素のなかで最も反応性が高く、かつ最も酸化力が強いため、糖質・タンパク質・脂質などあらゆる物質と反応する。
そのため、水酸基ラジカルは、酸化チタン(光触媒3)の表面に吸着している有機物を、水と二酸化炭素に分解する。
すなわち、光触媒3は、近紫外線が照射されると、近紫外線がもつ光エネルギーを吸収し、光触媒3の表面に吸着されている有機物等を分解するため「酸化分解作用」や「抗菌作用」を発現する。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る抗菌機能付き鳥類忌避剤100によれば、鳥類を忌避する機能と、鳥類から忌避される対象物への抗菌機能を両立・併存できる。
とりわけ、抗菌機能付き鳥類忌避剤100が、ごみを漁るために群がる鳥類を忌避すべく、ごみネットに噴霧された場合、紫外線を含む太陽光が同忌避剤100に当たることにより、光触媒3たる酸化チタン(TiO2)により、ごみネットに対する抗菌効果が発揮される。
これにより、鳥類を忌避する処理(アルカリ性電解水による機能)とともに、鳥類から忌避されるべき対象物への抗菌処理(光触媒による機能)も同時に施すことができる。
なお、多くの鳥類は昼行性であるため、抗菌機能付き鳥類忌避剤100のように、鳥類忌避効果とともに、太陽光(紫外線)の照射により抗菌効果をも同時に発揮させることは、忌避対象が鳥類であることに鑑みると、理に適うと考えられる。
【0034】
[変形例:炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を追加]
本抗菌機能付き鳥類忌避剤100は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)(いわゆる、重曹)をさらに含むものでもよい。
このようにすることで、炭酸水素ナトリウムが有する酸性の臭いに対する脱臭効果により、抗菌機能付き鳥類忌避剤100をごみネットに噴霧したときに、生ごみの臭気を緩和する効果が期待できる。
なお、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)常温において白色の粉末状であり、水溶液のpHはわずかにアルカリ性を示す。
【0035】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が理解し得る各種の変形が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 精製水
2 アルカリ性電解水
3 光触媒(TiO2)
100 抗菌機能付き鳥類忌避剤