(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108640
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】チャープシーケンスレーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/36 20060101AFI20220719BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20220719BHJP
G01S 13/931 20200101ALN20220719BHJP
【FI】
G01S7/36
G01S13/34
G01S13/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003747
(22)【出願日】2021-01-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、電波有効利用促進型研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(71)【出願人】
【識別番号】509006691
【氏名又は名称】サクラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】梅比良 正弘
(72)【発明者】
【氏名】武田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】酒井 文則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AC02
5J070AC06
5J070AF03
5J070AH31
5J070AH35
5J070AH40
5J070AK35
(57)【要約】
【課題】チャープシーケンスレーダ装置において、大きな干渉信号を受信したときの干渉抑圧特性を向上させる。
【解決手段】チャープシーケンスレーダ装置は時間とともに周波数が直線的に変化するように周波数変調したチャープ信号を複数回送信するチャープシーケンスレーダ装置であって、前記チャープ信号を送信及び停止する送信部と、前記チャープ信号を対象物が反射した受信信号を受信する受信部と、前記受信部が前記チャープ信号を複数回送信停止する送信停止期間に受信する第1の受信信号によるビート信号の周波数スペクトラムに基づいて、周波数ごとの干渉レプリカを生成する干渉レプリカ生成部と、前記干渉レプリカを用いて、前記受信部が前記チャープ信号の送信期間に受信する第2の受信信号の干渉を抑圧する干渉抑圧部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間とともに周波数が直線的に変化するように周波数変調したチャープ信号を複数回送信するチャープシーケンスレーダ装置であって、
前記チャープ信号を送信及び停止する送信部と、
前記チャープ信号を対象物が反射した受信信号を受信する受信部と、
前記受信部が前記チャープ信号を複数回送信停止する送信停止期間に受信する第1の受信信号によるビート信号の周波数スペクトラムに基づいて、周波数ごとの干渉レプリカを生成する干渉レプリカ生成部と、
前記干渉レプリカを用いて、前記受信部が前記チャープ信号の送信期間に受信する第2の受信信号の干渉を抑圧する干渉抑圧部と、
を有する、チャープシーケンスレーダ装置。
【請求項2】
前記干渉レプリカ生成部は、前記第1の受信信号によるビート信号を高速フーリエ変換した電力周波数スペクトラムに基づいて、周波数ごとの干渉信号の電力を表す前記干渉レプリカを生成する、請求項1に記載のチャープシーケンスレーダ装置。
【請求項3】
前記干渉抑圧部は、前記第2の受信信号によるビート信号を高速フーリエ変換して得られる周波数ごとの信号に対して、周波数ごとの前記干渉レプリカで重み付けして、狭帯域干渉を抑圧する、請求項2に記載のチャープシーケンスレーダ装置。
【請求項4】
前記送信部が送信する前記チャープ信号は、前記チャープ信号を複数回送信する送信期間の前後に、前記チャープ信号の送信を停止する前記送信停止期間を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のチャープシーケンスレーダ装置。
【請求項5】
前記干渉レプリカ生成部は、前記送信期間の前後の前記送信停止期間における前記ビート信号の周波数スペクトラムに基づいて、前記送信期間に受信する前記第2の受信信号の狭帯域干渉を抑圧する前記干渉レプリカを生成する、請求項4に記載のチャープシーケンスレーダ装置。
【請求項6】
前記干渉レプリカ生成部は、
前記送信期間の前後の前記送信停止期間の両方で狭帯域干渉が検出された場合、
周波数ごとに、前記送信期間の前後の前記送信停止期間の周波数スペクトラムの電力の比を算出し、
前記電力の比が閾値より大きい場合、前記送信期間の前後の前記送信停止期間の周波数スペクトラムの電力のうち、大きい方を当該周波数における前記干渉レプリカとし、
前記電力の比が閾値より小さい場合、前記送信期間の前後の前記送信停止期間の周波数スペクトラムの電力の平均値を、当該周波数における前記干渉レプリカとする、
請求項4又は5に記載のチャープシーケンスレーダ装置。
【請求項7】
前記干渉レプリカ生成部は、
前記送信期間の前後の前記送信停止期間の両方で、狭帯域干渉が検出された場合、
周波数ごとに、前記送信期間の前後の前記送信停止期間における狭帯域干渉を検出し、
前記送信期間の前後の前記送信停止期間の両方で狭帯域干渉が検出された場合、前記送信期間の前後の前記送信停止期間における電力の平均を、当該周波数における前記干渉レプリカとし、
前記送信期間の前後の前記送信停止期間の一方で狭帯域干渉が検出された場合、狭帯域干渉が検出された前記送信停止期間における電力を、当該周波数における前記干渉レプリカとする、
請求項3乃至5のいずれか一項に記載のチャープシーケンスレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャープシーケンスレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数が直線的に変化するように周波数変調したチャープ信号を送信し、対象物から反射して受信される信号とチャープ信号を乗算して得られるビート信号の周波数から対象物との距離を測定するFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ装置がある。また、FMCWレーダ装置のうち、時間とともに周波数が直線的に変化する鋸歯状に周波数変調したチャープ信号を所定の掃引周期で複数回連続して送信するFMCWレーダ装置を、チャープシーケンスレーダ装置と呼ぶ。
【0003】
非特許文献1には、不均一な送信周期を用いてチャープ信号を送信することにより、狭帯域干渉を抑圧するFMCW装置が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】橘川雄亮・三本 雅・水谷浩之・福井範行・宮崎千春, "不均一な送信周期を用いた高速FMCWレーダにおける干渉波抑圧手法," 信学技報, vol. 118, no. 418, SANE2018-95, pp. 31-34, 2019年1月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チャープシーケンスレーダ装置においては、同一の周波数掃引幅Δfと同一の掃引周期ΔTを持つ複数のCSレーダ装置が、同じ帯域を同時に利用すると、狭帯域干渉によりターゲットの誤検出が発生する場合がある。非特許文献1に開示された技術によれば、送信タイミングをランダムに可変させてチャープ信号をN回(Nは2以上の整数)送信し、受信信号を平均化することにより、ゴーストターゲットの電力を1/Nに低減することができる。
【0006】
しかし、狭帯域干渉によるゴーストターゲットの受信レベルは、干渉源のチャープシーケンスレーダ装置の送信信号が直接受信されるため、例えば、
図11に示すように、ターゲットからの反射信号の受信レベルより極めて大きい場合が頻繁に発生する。このように、大きな干渉信号を受信した場合、非特許文献1に開示された技術では、干渉抑圧特性が低下する場合がある。
【0007】
本発明の一実施形態は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、チャープシーケンスレーダ装置において、大きな干渉信号を受信したときの干渉抑圧特性を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の一実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置は時間とともに周波数が直線的に変化するように周波数変調したチャープ信号を複数回送信するチャープシーケンスレーダ装置であって、前記チャープ信号を送信及び停止する送信部と、前記チャープ信号を対象物が反射した受信信号を受信する受信部と、前記受信部が前記チャープ信号を複数回送信停止する送信停止期間に受信する第1の受信信号によるビート信号の周波数スペクトラムに基づいて、周波数ごとの干渉レプリカを生成する干渉レプリカ生成部と、前記干渉レプリカを用いて、前記受信部が前記チャープ信号の送信期間に受信する第2の受信信号の干渉を抑圧する干渉抑圧部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、チャープシーケンスレーダ装置において、大きな干渉信号を受信したときの干渉抑圧特性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置の構成例を示す図(1)である。
【
図2】一実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置の構成例を示す図(2)である。
【
図3】一実施形態に係る送信停止期間における受信信号について説明するための図である。
【
図4】一実施形態に係る送信信号の一例を示す図である。
【
図5A】一実施形態に係る周波数iでの干渉レプリカ生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5B】一実施形態に係る周波数iでの干渉レプリカ生成処理の別の一例を示すフローチャートである。
【
図6】一実施形態に係る干渉抑圧処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】一実施形態に係る送信信号の別の一例を示す図である。
【
図8】チャープシーケンスレーダ装置の構成例を示す図である。
【
図9】チャープシーケンスレーダ装置の送受信信号の例を示す図である。
【
図10】狭帯域干渉発生時の送受信信号について説明するための図である。
【
図11】狭帯域干渉発生時の周波数スペクトラムの例を示す図である。
【
図12】従来の狭帯域干渉の低減技術における送受信信号の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<チャープシーケンスレーダ装置の概要>
本発明の実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置の構成について説明する前に、チャープシーケンスレーダ装置の概要について説明する。
【0012】
図8は、チャープシーケンスレーダ装置の構成例を示す図である。
図8に示すように、チャープシーケンスレーダ装置10は、例えば、波形発生器11、電圧制御発振器12、増幅器13、低雑音増幅器14、ミキサ15、低域通過フィルタ16、AD変換器(Analog-to-Digital Converter)17、及びDSP(Digital Signal Processor)18等を有する。
【0013】
波形発生器11は、DSP18からの制御に従って、所定の周期で電圧が直線的に変化する鋸歯状の制御電圧を生成する。電圧制御発振器12は、波形発生器11が生成した制御電圧に応じて周波数が変化するチャープシーケンス信号(以下、チャープ信号と呼ぶ)を出力する発振器である。増幅器13は、電圧制御発振器12が出力するチャープ信号を増幅した信号(以下、送信信号と呼ぶ)を送信する電力増幅器である。低雑音増幅器14は、増幅器13が送信した送信信号を対象物が反射した信号(以下、受信信号と呼ぶ)を受信し、増幅する低雑音の増幅器である。
【0014】
ミキサ15は、低雑音増幅器14が増幅した受信信号と、電圧制御発振器12が出力するチャープ信号(以下、ローカル信号と呼ぶ)とを混合(乗算)してビート信号を出力する乗算器である。低域通過フィルタ16は、ミキサ15が出力するビート信号から、不要な周波数成分を除去するローパスフィルタである。AD変換器17は、低域通過フィルタ16から出力されるビート信号をディジタル信号に変換する。DSP18は、AD変換器17が出力する信号データに対してFFT(Fast Fourier Transform)を行い、例えば、予め設定された閾値を上回るピークを検出して、ピークとなる周波数から対象物までの距離等を算出する。
【0015】
(チャープシーケンスレーダ装置の動作)
チャープシーケンスレーダ装置10は、波形発生器11でのこぎり波を生成し、これを電圧制御発振器12に入力することにより、例えば、
図9に示すように、時間とともに周波数が直線的に変化する鋸歯状に周波数変調したチャープ信号を生成する。また、チャープシーケンスレーダ装置10は、生成したチャープ信号を増幅器13で増幅した送信信号21を送信し、この送信信号が対象物で反射して、距離dに比例した遅延時間の後に受信される受信信号22を受信する。さらに、チャープシーケンスレーダ装置10は、受信信号22と、電圧制御発振器12が出力するチャープ信号であるローカル信号とをミキサ15に入力することにより、遅延時間に比例したビート周波数を含むビート信号を得る。
【0016】
チャープシーケンスレーダ装置10は、up-chirp信号、又はdown-chirp信号のいずれか一方を用い、のこぎり波状の複数のチャープ信号を連続して送信するFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ装置の一種である。チャープシーケンスレーダ装置10では、一方向のチャープ信号のみを用いるため、複数ターゲットの検出に適するが、ビート周波数に比べドップラ周波数が大きいと、距離の測定誤差になる。そこで、チャープシーケンスレーダ装置10では、距離に応じて発生するビート信号周波数がドップラ周波数よりも十分大きくなるよう,掃引時間ΔTを極めて短く設定する。このように高速チャープを行うため、チャープシ-ケンスレーダはファストチャープ(Fast Chirp)レーダとも呼ばれる。
【0017】
チャープシーケンスレーダ装置10では、一方のチャープ方向のチャープ信号のみを用いるため、低域通過フィルタ16の出力のビート信号にはドップラ周波数成分が含まれる。ドップラ周波数fdは、fd≒2v/c・f0で与えられるので、ビート周波数fBは、次の式(1)で表される。
【0018】
【数1】
なお、式(1)において、vはターゲットの速度、f
0はチャープ信号の中心周波数、cは光速、Rはターゲットまでの距離、Δfは掃引周波数幅、ΔTは送信周期である。
【0019】
ここで、ΔTを十分に小さくすると、第1項の周波数が第2項のドップラ周波数よりも十分大きくなるため、ビート周波数fBは、次の式(2)で近似できる。
【0020】
【0021】
よって、距離Rは、次の式(3)で表される。
【0022】
【0023】
ここで、最大検知距離をRmaxとすると、Rmaxは、次の式(4)で表すことができる。
【0024】
【数4】
ここで、f_LPFは、チャープシーケンスレーダ装置10における低域通過フィルタ16の通過帯域幅である。
【0025】
サンプリング周波数fsでサンプリングしたM点の信号に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うと、周波数分解能はfs/Mとなるので、距離分解能ΔRは、次の式(5)で与えられる。
【0026】
【0027】
チャープシーケンスレーダ装置10では、例えば、
図2に示すように、チャープ信号をN回(Nは2以上の整数)連続して送信することにより、距離Rと速度vを検出する。チャープ信号の送信周期をΔT、チャープ信号の送信間隔をΔT
Gとすると全チャープ信号の送信時間はN(ΔT+ΔT
G)となる。チャープシーケンスレーダ装置10は、N個の受信チャープ信号毎にFFTを行い、周波数スペクトラムにおけるピーク検出を行い、ターゲット検出、ならびにビート周波数f
Bより式(3)を用いて距離Rの検出を行う。ここで、チャープシーケンスレーダ装置10とターゲットとの相対速度をvとするとドップラ周波数fdは次式で与えられる。
【0028】
【0029】
検出されたターゲットにおける周波数をN回観測するとM点FFTごとに電力のピーク値を持つ周波数が検出され、これによりターゲットの存在が検出される。その周波数fBにより距離が検出される。FFTを行った時の複素周波数スペクトラムより、周波数fBBの位相φ(t)が得られる。時間に対する位相φ(t)をN回観測し、N点FFTを行うと時間に対する位相回転であるドップラ周波数fdを測定できる。ここで、チャープ信号の位相は時間(ΔT+ΔTG)ごとに1回計測されるので、観測周期は(ΔT+ΔTG)となる。よって、n回目の観測における位相はφ(n(ΔT+ΔTG))≒2πfdn(ΔT+ΔTG)となるから、N回のM点FFT出力の周波数fRのドップラ周波数fdに応じた位相回転の信号sd(t)は、次の式(7)で与えられる。
【0030】
【0031】
ドップラ周波数のサンプリング周期は(ΔT+ΔTG)となり、サンプリング周波数は1/(ΔT+ΔTG)となり、周波数分解能は1/(N(ΔT+ΔTG))となる。
【0032】
以上のように、チャープシーケンスレーダ装置10ではM点FFTとN点FFTの2次元FFT処理により、1回目のFFTにおけるピーク検出によりターゲットの存在と相対距離を検出し、2回目のFFTにおけるピーク検出により相対速度を検出する。
【0033】
(干渉について)
このチャープシーケンスレーダ装置10は、将来の自動運転や運転者支援システムへの適用が期待されている。これらの技術が普及すると、周囲の人や障害物、車両等との距離、位置などの周囲環境を検出するために利用されるレーダを搭載した車両数が増加するため、近距離の車両から送信されるレーダ信号が干渉信号として受信される。ここで、同一周波数帯を用いるチャープシーケンスレーダ装置が2つ存在する場合を考える。この場合、一方のチャープシーケンスレーダ装置が干渉源となり、他方の希望チャープシーケンスレーダ装置へ干渉を与える。
【0034】
図10は、狭帯域干渉発生時の送受信信号について説明するための図である。ここで、観測レーダ装置と干渉レーダ装置はどちらも、のこぎり波変調を用いた、チャープ率(Δf/ΔT)の等しいチャープシーケンスレーダ装置であるとする。観測レーダ装置が送信信号31を送信し、ターゲットが反射した受信信号32を受信するまでの時間をτ
1、干渉信号を受信するまでの時間をτ
2とすると、干渉信号によるビート信号35の周波数は、希望信号によるビート信号34の周波数と同様に一定値となる。
【0035】
この干渉信号により発生するビート信号35の周波数が、チャープシーケンスレーダ装置10の低域通過フィルタ16の通過帯域幅f
LPFより小さい場合、すなわち遅延時間τ
2が小さい場合に干渉が発生する。これをフーリエ変換すると、例えば、
図11に例示するような周波数スペクトラムが得られ、干渉レーダ装置による干渉信号がゴーストターゲット42として誤検出されることになる。これは狭帯域干渉と呼ばれる。
【0036】
ここで、ターゲットが反射して受信される希望信号に比べ、干渉信号は、干渉レーダが送信した信号が直接受信されるため、ゴーストターゲット42の信号レベルは、ターゲット41の信号レベルに比べ、20dBから40dB程度大きくなるケースがある。ターゲット検出は、周波数スペクトラムのピークが、雑音レベルより十分大きなビート周波数からターゲットまでの距離を検出するため、ターゲット41とともに、干渉信号によるビート信号のため、存在しないゴーストターゲット42が誤って検出されることになる。将来、チャープシーケンスレーダ装置が広く普及し利用される状況においては、このレーダ間の干渉に発生する狭帯域干渉、すなわちターゲットの誤検出が発生しないように干渉を低減する技術が求められている。
【0037】
(課題)
チャープシーケンスレーダ装置10においては、同一の周波数掃引幅Δfと同一の掃引周期ΔTを持つ複数のチャープシーケンスレーダ装置が、同じ帯域を同時に利用すると、狭帯域干渉によりターゲットの誤検出(ゴーストターゲットの検出)が発生する。この狭帯域干渉によるゴーストターゲットの検出が発生しないよう、レーダの送信タイミングをランダムに可変させるチャープシーケンスレーダ装置が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0038】
図12は、従来の狭帯域干渉の低減技術における送受信信号の例を示す図である。従来の狭帯域干渉の低減技術では、
図12に示すように、N個の送信信号53を送信するときに、N個の送信信号53間の時間T
1~T
N-1を、一定値ではなく、ランダムに可変して、送信周期を不均一にする。これにより狭帯域干渉により発生するビート周波数が低域通過フィルタ16の通過帯域幅より小さくなる確率を小さくすると共に、狭帯域干渉が発生したとしても、連続して同じビート周波数が発生することを回避できる。実際のチャープシーケンスレーダ装置では、複数のチャープ信号をN回連続して送信するため、チャープ信号ごとに得られる周波数スペクトラムを平均化してSNR(Signal-to-Noise Ratio)を改善する。
【0039】
ここで、N回チャープ信号を送信するチャープシーケンスレーダ装置を考えると、平均化により、1回狭帯域干渉によりターゲットの誤検出が発生する電力スペクトラムのピークがあったとしても、その電力は平均化により1/Nになる。ターゲットの電力を1、N=100とすると、ゴーストターゲットの電力がターゲットの電力と同じ1であれば、ゴーストターゲットの電力を1/100=0.01になるため、狭帯域干渉によるターゲットの誤検出を抑制することができる。
【0040】
しかし、例えば、
図11に示すように、干渉信号によるゴーストターゲット42の信号レベルは、希望信号によるターゲットからの反射信号の受信レベルより極めて大きいケースがある。干渉信号によるゴーストターゲット42の信号レベルが、希望信号によるターゲット41の信号レベルより20dB大きな電力である場合、ターゲット41の電力を1とすると、ゴーストターゲット42の電力は100となる。従って、ゴーストターゲット42の電力を平均化しても100/100=1と、ターゲット41の電力と同程度となるため、ゴーストターゲット42として検出される狭帯域干渉となる。従って、このような極めて大きな干渉信号が受信されても、狭帯域干渉によるターゲットの誤検出を回避できる狭帯域干渉低減技術が求められている。
【0041】
本発明の実施形態は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、チャープシーケンスレーダ装置において、大きな干渉信号を受信したときの干渉抑圧特性を向上させる。
【0042】
[実施形態]
以下に、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0043】
<チャープシーケンスレーダ装置の構成>
図1は、一実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置の構成例を示す図(1)である。チャープシーケンスレーダ装置100は、
図8で説明したチャープシーケンスレーダ装置10と同様に、波形発生器11、電圧制御発振器12、増幅器13、低雑音増幅器14、ミキサ15、低域通過フィルタ16、AD変換器17、及びDSP18等を有する。さらに、本実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置100は、上記の各構成要素に加えて、スイッチ110を有している。
【0044】
また、本実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置100は、DSP18により、例えば、干渉レプリカ生成部101、干渉抑圧部102、距離測定部103、速度測定部104、及び制御部105等を実現している。なお、DSP18が実現している各構成要素のうち、少なくとも一部は、ハードウェアによって実現されるものであっても良い。また、チャープシーケンスレーダ装置100は、コンピュータの構成を備え、DSP18が実現している各構成要素のうち、少なくとも一部を、コンピュータによって実行されるプログラムによって実現しても良い。
【0045】
波形発生器11は、制御部105等からの制御信号に従って、所定の周期で電圧が直線的に変化する鋸歯状の制御電圧を生成する。電圧制御発振器12は、波形発生器11が生成した制御電圧に応じて周波数が変化するチャープ信号を出力する。スイッチ110は、制御部105等からの制御に従って、電圧制御発振器12から増幅器13に入力するチャープ信号をオン/オフすることにより、増幅器13が送信するチャープ信号をオン/オフ(送信/停止)するスイッチである。増幅器(送信部)13は、電圧制御発振器12が出力するチャープ信号を増幅し、増幅した送信信号を送信する。増幅器13は、制御部105からの制御信号に応じて、チャープ信号を送信及び停止する送信処理を実行する送信部として機能する。
【0046】
低雑音増幅器(受信部)14は、増幅器13が送信した送信信号を対象物が反射した受信信号を受信し、増幅する。低雑音増幅器14は、チャープ信号を対象物が反射した受信信号を受信する受信処理を実行する受信部として機能する。なお、低雑音増幅器14は、増幅器13が、チャープ信号を送信していない送信停止期間においても、所定の受信帯域内の信号を受信する。ミキサ15は、低雑音増幅器14が増幅した受信信号と、電圧制御発振器12が出力するチャープ信号とを混合(乗算)してビート信号を出力する。低域通過フィルタ16は、ミキサ15が出力するビート信号から、不要な周波数成分を除去する。AD変換器17は、低域通過フィルタ16から出力されるビート信号をディジタル信号(信号データ)に変換する。
【0047】
干渉レプリカ生成部101は、低雑音増幅器(受信部)14が、チャープ信号を複数回送信停止する送信停止期間に受信する第1の受信信号によるビート信号の周波数スペクトラムに基づいて、周波数ごとの干渉レプリカを生成する干渉レプリカ生成処理を実行する。この干渉レプリカは、干渉信号による周波数スペクトラムであり、例えば、各周波数における干渉信号の電力、信号レベル、振幅等を表す。
【0048】
干渉抑圧部102は、干渉レプリカ生成部101が生成した干渉レプリカを用いて、低雑音増幅器(受信部)14が、チャープ信号の送信期間に受信する第2の受信信号の干渉を抑圧する干渉抑圧処理を実行する。例えば、干渉抑圧部102は、干渉レプリカの周波数ごとの信号レベルの大きさに応じて、チャープ信号の送信期間に受信する受信信号によるビート信号に高速フーリエ変換を行って得られる複素周波数スペクトラムに重みづけを行って、狭帯域干渉を抑圧する。
【0049】
例えば、干渉抑圧部102は、チャープ信号の送信期間のビート信号に含まれる複数の周波数のスペクトラムの信号レベルを、干渉レプリカにおける信号レベルが大きい程、小さくなるように重み付けする。これにより、チャープシーケンスレーダ装置100は、希望レーダ信号に比べて大きなレベルの干渉レーダ信号が受信された場合でも、干渉レーダ信号の信号レベルはより小さい値に変換されるので、狭帯域干渉によるゴーストターゲットの検出を抑制することができる。
【0050】
距離測定部103は、干渉抑圧部102が干渉を抑圧したビート信号に高速フーリエ変換(第1のFFT)を行い、ビート周波数の電力ピークの検出、及び対象物までの距離の算出等を行う。速度測定部104は、ビート信号を、複数のチャープ信号に亘って高速フーリエ変換(第2のFFT)を行い、ドップラ周波数の検出、及び対象物の速度の算出等を行う。
【0051】
上記の構成により、チャープシーケンスレーダ装置100は、所定のタイミングでチャープ信号の送信を停止し外部からの干渉レーダのチャープ信号を受信することにより、周波数領域における干渉レーダ信号による周波数スペクトラム(干渉レプリカ)を生成する。また、チャープシーケンスレーダ装置100は、例えば、生成した干渉レプリカの周波数ごとのレベルの大きさに応じて、チャープ信号ごとにFFTを行って得られる複素周波数スペクトラムに重みづけを行って、狭帯域干渉を抑圧する。
【0052】
なお、
図1に示すチャープシーケンスレーダ装置100の構成は一例である。例えば、チャープシーケンスレーダ装置100は、
図2に示すように、単独のスイッチ110を有していなくても良い。この場合、制御部105は、増幅器13、又は電圧制御発振器12等が備える制御端子を制御することにより、増幅器(送信部)13が送信するチャープ信号の送信、及び停止を制御しても良い。
【0053】
(送信停止期間における受信信号について)
図3は、一実施形態に係る送信停止期間における受信信号について説明するための図である。
図3(A)は、干渉レーダ信号がある場合の受信信号、ビート信号の振幅と周波数、及び周波数スペクトラムの模式図を示している。
図3(B)は、干渉レーダ信号がない場合の受信信号、ビート信号の振幅と周波数、及び周波数スペクトラムの模式図を示している。なお、ここでは、チャープシーケンスレーダ装置100と、干渉源となる他のチャープシーケンスレーダ装置が、同じチャープ周期ΔTと掃引周波数幅Δfを有しているものとする。
【0054】
図3(A)に示すように、電圧制御発振器12が生成したチャープ信号301に対する干渉レーダ信号302の遅延時間がτのとき、ミキサ15から出力されるビート信号には、周波数f
1=τ(Δf/ΔT)のビート周波数303が現れる。このビート信号の周波数f
1が、低域通過フィルタ16の通過帯域幅f
LPFより小さい(低い)場合、ビート信号を高速フーリエ変換(FFT)した周波数スペクトラムには、干渉レーダ信号302に対応する周波数f
1=τ(Δf/ΔT)、及び振幅に対応する、干渉レーダ信号302のスペクトラム304が観測される。チャープシーケンスレーダ装置100において、この干渉レーダ信号302のスペクトラム304は、ターゲットとして誤検知されるゴーストターゲットとなり狭帯域干渉が発生する。
【0055】
一方、
図3(B)に示すように、干渉レーダ信号302がない場合には、ビート信号を高速フーリエ変換(FFT)した周波数スペクトラムには、ゴーストターゲットとなる干渉レーダ信号302のスペクトラム304は発生しない。また、干渉レーダ信号302がある場合でも、ビート周波数f
1=τ(Δf/ΔT)、低域通過フィルタ16の帯域幅f
LPFより大きい(高い)場合も、低域通過フィルタ16により減衰するため、ゴーストターゲットとなる干渉レーダ信号302のスペクトラム304は発生しない。
【0056】
このように、チャープシーケンスレーダ装置100は、送信信号の送信を停止することにより、
図3(A)に示すように、干渉レーダ信号302のスペクトラム304のみを取得することができる。また、チャープシーケンスレーダ装置100は、この干渉レーダ信号302のスペクトラム304を、狭帯域干渉の抑圧に利用する。
【0057】
<狭帯域干渉の抑圧について>
続いて、本実施形態に係る干渉抑圧方法について説明する。
図4は、一実施形態に係る送信信号の一例を示す図である。ここでは、同じチャープ周期ΔT、及び掃引周波数Δfを有するチャープシーケンスレーダ装置100であるレーダ装置1、レーダ装置2が、それぞれ、送信信号1、送信信号2を、互いに狭帯域干渉が発生するタイミングで送信しているものとする。
【0058】
レーダ装置1、レーダ装置2は、送信停止しない場合には、それぞれ、チャープ番号1~16の16回、チャープ信号を送信するものとする。ただし、このチャープ信号の数は一例であり、例えば、速度分解能等の所要性能によって設定される。
【0059】
また、
図4の例では、レーダ装置1、レーダ装置2は、
図4のチャープ番号1、6、11、16において、送信信号の送信を停止して、干渉レプリカを生成するものとする。また、レーダ装置1、レーダ装置2は、他のチャープ番号において、距離、速度を測定するために、それぞれ、送信信号1、送信信号2を送信するものとする。なお、送信信号の送信を停止し、干渉レプリカを生成する回数「4」、及びそのタイミングは一例であり、他の回数、及びタイミングであっても良い。
【0060】
このように、チャープシーケンスレーダ装置100の送信部(増幅器13)が送信するチャープ信号(送信信号)は、チャープ信号を複数回送信する送信期間の前後に、チャープ信号の送信を停止する送信停止期間を有する。
【0061】
図4の例では、レーダ装置1は、チャープ番号1では狭帯域干渉なしであるが、チャープ番号6、11、16では狭帯域干渉ありであることを、例えば、ビート信号の電力値(ピーク電力、又は平均電力等)により検知することができる。これにより、レーダ装置1は、例えば、チャープ番号2~5のいずれかのタイミングで狭帯域干渉が発生し、その後、チャープ番号7~10、12~15でも狭帯域干渉が発生したことを検知することができる。
【0062】
同様に、レーダ装置2は、チャープ番号1、6、11で狭帯域干渉ありであるが、チャープ番号16では狭帯域干渉なしであることを、検知する。これにより、レーダ装置2は、例えば、チャープ番号2~5、7~10で狭帯域干渉が発生し、その後、チャープ番号12~15のいずれかのタイミングで、狭帯域干渉が発生しなくなることを検知することができる。
図4の例では、レーダ装置2においてチャープ番号12で狭帯域干渉が発生するが、チャープ番号13~15では、レーダ装置1が送信信号1を送信していないため、狭帯域干渉は発生しない。
【0063】
また、
図4の例では、レーダ装置1、レーダ装置2は、それぞれ、4回チャープ信号を送信した後に1回チャープ信号の送信を停止し、狭帯域干渉スペクトラムを観測して、狭帯域干渉をキャンセルするための干渉レプリカを作成している。レーダ装置1、レーダ装置2は、この干渉レプリカを用いて、前方ならびに後方の4つのチャープの周波数スペクトラムにおいて、狭帯域干渉を雑音レベルと同程度のレベルまで低減することで、周波数領域で狭帯域干渉(ゴーストターゲット)を抑圧する。例えば、レーダ装置1において、チャープ番号1では狭帯域干渉は検出されないがチャープ番号6では狭帯域干渉が検出される。この場合は、チャープ番号2~5では狭帯域干渉が発生しているものとして、チャープ番号6で検出される狭帯域干渉を用いて、前方のチャープ信号における狭帯域干渉を抑圧する。同様に、レーダ装置2において、チャープ番号11では狭帯域干渉は検出されるがチャープ番号16では狭帯域干渉が検出されない。この場合は、チャープ番号12~15では狭帯域干渉が発生しているものとして、チャープ番号11で検出される狭帯域干渉を用いて、後方のチャープ信号における狭帯域干渉を抑圧する。
【0064】
(干渉レプリカ生成処理)
チャープシーケンスレーダ装置100の制御部105は、所定のチャープ番号(例えば、チャープ番号1、6)のタイミングで、スイッチ110をオフにして送信信号の送信を停止するとともに、干渉レプリカ生成部101に干渉レプリカの生成を指示する。これにより、干渉レプリカ生成部101は、指示された所定のチャープ番号のタイミングで、AD変換器17から出力されるビート信号、例えば、ビート信号R1(i)、R6(i)(i=1~N)を取得する。ここで、R1(i)、R6(i)は、送信信号の送信停止期間(例えば、ビート番号1、6)において受信されるビート信号であり、R2(i)~R5(i)は、送信信号の送信期間(例えば、チャープ番号2~5)におけるビート信号である。
【0065】
また、干渉レプリカ生成部101は、干渉レプリカを生成するため、まず、ビート信号、R1(i)、R6(i)(i=1~M)(Mは2以上の整数)の複素周波数スペクトラムF1(i)、F6(i)(i=1~M)から、電力周波数スペクトラムP1(i)、P6(i)を算出する。さらに、干渉レプリカ生成部101は、干渉信号の電力周波数スペクトラムP1(i)とP6(i)を用いて、狭帯域干渉の抑圧に利用する干渉レプリカRG(i)を生成する。
【0066】
図5Aは、一実施形態に係る周波数iでの干渉レプリカ生成処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、干渉レプリカ生成部101が、周波数iにおける干渉信号の電力周波数スペクトラムP
1(i)、P
6(i)(i=1~M)を用いて、狭帯域干渉の抑圧に利用する干渉レプリカR
G(i)(i=1~M)を生成する処理の一例を示している。この処理はi=1~Mの全ての周波数に対して行われる。
【0067】
ステップS501において、干渉レプリカ生成部101は、算出した電力周波数スペクトラムP1(i)、P6(i)(i=1~M)が狭帯域干渉を検出する閾値Pthより共に大きいか否かを判断する。ここで、PthはCFAR(Constant False Alarm Rate)法などで設定される、狭帯域干渉の発生を判定する閾値で、Pthより大きい場合に狭帯域干渉発生と判定する。CFAR法では、周辺の周波数の電力の平均値より、予め定めたしきい値を超えると狭帯域干渉と判定する。ここでYESは、P1(i)、P6(i)で共に狭帯域干渉が発生したことを検出したことを意味する。YESの場合はステップS502へ、NOの場合はステップS503へ移行する。なお、P1(i)(i=1~M)は、送信信号のチャープ番号2~5のチャープ信号送信期間の前にある、チャープ番号1の送信信号の停止期間における電力周波数スペクトラムの一例である。また、P6(i)(i=1~M)は、チャープ番号2~5のチャープ信号送信期間の後にある、チャープ番号6の送信信号の停止期間における電力周波数スペクトラムの一例である。
【0068】
ついで、ステップS502では電力周波数スペクトラムP1(i)、P6(i)(i=1~M)が狭帯域干渉を検出する閾値Pthより共に小さいか否かを判断する。ここでYESは、P1(i)、P6(i)で共に狭帯域干渉が発生していないことを検出したことを意味する。YESの場合はステップS504へ、NOの場合はステップS503へ移行する。
【0069】
ステップS503では、電力周波数スペクトラムP1(i)、P6(i)(i=1~M)が共に狭帯域干渉を検出、または共に狭帯域干渉がないことを検出したので、同じ状態にあることになる。そこで、P1(i)、P6(i)を平均して干渉レプリカRG(i)とする。
【0070】
ステップS504では、電力周波数スペクトラムP1(i)、P6(i)(i=1~M)の一方で狭帯域干渉があることを検出した状態にあることになる。この場合は、P1(i)、P6(i)の大きい方を干渉レプリカRG(i)とする。
【0071】
ステップS503、ステップS504において、周波数iでの干渉レプリカR
G(i)が生成される。干渉レプリカ生成部101は、i=1~Mの全ての周波数iに対して、
図5の処理を実行する。
【0072】
干渉レプリカの生成方法は、ここで述べた方法以外にも種々の方法が考えられる。
図5Bは、一実施形態に係る干渉レプリカ生成処理の別の一例を示すフローチャートである。
図5Aで説明した実施例と同様に、干渉レプリカ生成部101が、周波数iにおける干渉信号の電力周波数スペクトラムP
1(i)、P
6(i)(i=1~M)を用いて、狭帯域干渉の抑圧に利用する干渉レプリカR
G(i)(i=1~M)を生成する。この処理はi=1~Mの全ての周波数に対して行われる。
【0073】
ステップS511では、P
1(i)とP
6(i)(i=1~M)の大きさの比が、共に予め定めた閾値Kthより小さいか否かを判断する。この例では、
図5Aの実施例のようにCFAR法による閾値Pthの算出が不要になる。YESの場合は、P
1(i)とP
6(i)の大きさの比が小さい、すなわち共に狭帯域干渉を検出したか、あるいは共に狭帯域干渉が検出されなかったかということになり、ステップS503に移行する。ステップS503では、干渉レプリカ生成部101は、P
1(i)、P
6(i)(i=1~M)の平均を干渉レプリカR
G(i)(i=1~M)とする。NOの場合はP
1(i)とP
6(i)の大きさの比が大きい、すなわち一方でのみ狭帯域干渉を検出されたということになり、ステップS504に移行して、P
1(i)とP
6(i)の大きい方を干渉レプリカR
G(i)とする。
【0074】
(干渉抑圧処理)
図6は、一実施形態に係る干渉抑圧処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、干渉抑圧部102が、干渉レプリカ生成部101が生成した干渉レプリカR
G(i)(i=1~N)を用いて、送信信号の送信期間における狭帯域干渉を抑圧する処理の一例を示している。
【0075】
ステップS601において、干渉抑圧部102は、送信信号の送信期間におけるビート信号RX(i)(i=1~M)を取得する。例えば、干渉抑圧部102は、AD変換器17から出力されるビート信号R2(i)~R5(i)(i=1~M)を取得する。なお、ビート信号R2(i)~R5(i)(i=1~M)は、送信信号の送信期間におけるビート信号RX(i)(i=1~M)の一例である。
【0076】
ステップS602において、取得したビート信号RX(i)(i=1~M)の複素周波数スペクトラムFX(i)(i=1~M)に対して、次の式(8)に示す干渉キャンセル信号を乗算する。
【0077】
【数8】
例えば、干渉抑圧部102は、例えば、ビート信号R
2(i)~R
5(i)(i=1~M)の複素周波数スペクトラムF
2(i)~F
5(i)(i=1~M)に対して、式(8)の干渉キャンセル信号を乗じることにより、干渉抑圧処理を行う。
【0078】
これにより、送信信号の送信期間における狭帯域干渉は、振幅が雑音レベルと同等の大きさまで低減され、狭帯域干渉を抑圧することが可能になる。雑音も同じ干渉レプリカとして処理されるため、干渉と雑音は共に大きさが1に正規化されることになり、狭帯域干渉を抑圧できる。ここで、
図4のビート番号2~4においては、狭帯域干渉が発生していないが、干渉抑圧処理が実行される。この場合でも、ターゲットに相当する周波数の電力は、干渉がない場合は雑音で正規化されるため、SNRに相当する値を得ることになり、周波数スペクトラムよりターゲットの検出・距離検出を行う上では問題とならない。
【0079】
干渉レプリカを用いた狭帯域干渉の抑圧方法は、ここで述べた方法以外にも種々の方法が考えられる。例えば、干渉キャンセルのために、当該周波数iにおける複素周波数スペクトラムF2(i)~F5(i)(i=1~M)の電力|F2(i)|2~|F5(i)|2からRG(i)を減じた、式(9)に示すキャンセル信号を乗じることにより干渉抑圧処理を行う方法が考えられる。
【0080】
【数9】
或いは、干渉レプリカに対してCFAR法を用いて狭帯域干渉の発生した周波数iを特定し、この振幅を0とすることで狭帯域干渉を抑圧する手法を用いても良い。
【0081】
ステップS603において、干渉抑圧部102は、干渉抑圧後の信号データを、距離測定部103等に出力する。
【0082】
同様にして、干渉抑圧部102は、複素周波数スペクトラムF7(i)~F10(i)に対しては、P6(i)とP11(i)より生成した干渉レプリカRG(i)を用いて干渉抑圧を行う。さらに、干渉抑圧部102は、複素周波数スペクトラムF12(i)~F15(i)に対しては、P11(i)とP16(i)より生成した干渉レプリカRG(i)を用いて干渉抑圧を行う。これにより、干渉抑圧部102は、全ての干渉抑圧を行うことができ、大きなレベルの狭帯域干渉が発生する場合でも、この狭帯域干渉を低減し、ゴーストターゲットによる誤検出を回避することができる。
【0083】
距離測定部103は、狭帯域干渉を抑圧した複素周波数スペクトラムより、周波数スペクトラムを算出し、CFAR法などでピークを検出して、対象物の検出、ならびに対象物までの距離を測定する。また、狭帯域干渉を抑圧した複素周波数スペクトラムにおいて、ピーク検出時の周波数の位相・振幅が得られるので、速度測定部104は、これを高速フーリエ変換(第2のFFT)することにより、ドップラ周波数を検出でき、これにより対象物の速度を測定する。
【0084】
<まとめ>
本実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置100は、チャープ信号を送信及び停止し、チャープ信号の送信停止期間に受信する第1の受信信号の周波数スペクトラムに基づいて、送信停止期間の周波数スペクトラムを表す干渉レプリカRG(i)を生成する。また、チャープシーケンスレーダ装置100は、生成した干渉レプリカRG(i)を用いて、チャープ信号の送信期間に受信する第2の受信信号の干渉を抑圧する。例えば、チャープシーケンスレーダ装置100は、第2の受信信号の複素周波数スペクトラムに対して、式(8)に示す干渉キャンセル信号を乗じて重み付けすることにより、狭帯域干渉の振幅は雑音レベルと同等の大きさまで低減する。
【0085】
これにより、本実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置100は、大きな干渉信号を受信したときの干渉抑圧特性を向上させることができる。さらに、本発明によれば、2つのチャープシーケンスレーダ装置が互いに狭帯域干渉を抑圧できるため、2つのチャープシーケンスレーダ装置が同一の掃引周波数幅Δfと同じ掃引周期ΔTを持ち、ΔTの誤差が十分小さい条件であれば、同じ周波数を同時に利用して、距離と速度を測定できることになる。2つ以上のチャープシーケンスレーダ装置であっても狭帯域干渉抑圧効果が期待でき、限られた周波数を有効利用できる利点を有する。
【0086】
なお、上記の実施形態は一例であり、様々な変形、及び応用が可能である。例えば、上記の実施形態では、レーダ装置1、レーダ装置2が、同一の周期で送信信号(チャープ信号)の送信を停止していた。ただし、これは一例であり、レーダ装置1、レーダ装置2は、互いに異なる周期で送信信号を送信しても、狭帯域干渉を抑圧することができるので、このようなレーダ装置1、レーダ装置2も本発明に含まれる。
【0087】
また、上記の実施形態では、
図4に示すように、チャープシーケンスレーダ装置100が、送信信号(チャープ信号)の送信停止を行う周期を一定周期としていた。ただし、これは一例であり、チャープシーケンスレーダ装置100は、例えば、
図7に示すように、送信信号の送信停止を行う周期を不均一としても、狭帯域干渉を抑圧することができる。例えば、
図7において、レーダ装置1は、送信信号1の送信停止を行う周期を不均一の周期とし、レーダ装置2は、送信信号2の送信停止を行う周期を均一の周期としているが、相互に狭帯域干渉の検出、狭帯域干渉レプリカを生成できることは明らかである。従って、このようなレーダ装置1も本発明に含まれる。
【0088】
<利用シーンの例>
将来、自動運転や運転者支援システムが普及すると、周囲の人や障害物、他の車両等との距離、位置などの周囲環境を検出するために利用されるレーダを搭載した車両数が増加するため、近距離の車両から送信される複数のレーダ信号が干渉信号として受信される。
【0089】
このレーダ間の干渉に発生する狭帯域干渉、及び広帯域干渉を回避する技術、あるいは干渉が発生しても、これによるターゲットの誤検出や不検出が発生しないようにする技術が必要となる。特に、自動運転のような応用においては、ターゲットの誤検出や不検出が、交通事故につながることになるため、この干渉を回避、除去する技術は極めて重要となる。
【0090】
本発明の各実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置100は、他の複数のレーダ装置による干渉、特に狭帯域干渉を効果的に回避することができるので、自動運転や運転者支援システム等の機能を搭載した、例えば、自動車等の車両に好適に適用することができる。なお、本発明の各実施形態に係るチャープシーケンスレーダ装置100は、自動車等の車両に限られず、様々な用途に適用可能であることは言うまでもない。
【0091】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、各種の変更、応用、及び組み合わせが可能であり、それらについても本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
13 増幅器(送信部)
14 低雑音増幅器(受信部)
100 チャープシーケンスレーダ装置
101 干渉レプリカ生成部
102 干渉抑圧部