(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108714
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】撮像画像データ補正システム、及びヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
H04N 5/232 20060101AFI20220719BHJP
H04N 5/225 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
H04N5/232 290
H04N5/225 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204361
(22)【出願日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2021003719
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】濱田 一成
(72)【発明者】
【氏名】笠原 毅
(72)【発明者】
【氏名】猪坂 雄治
【テーマコード(参考)】
5C122
【Fターム(参考)】
5C122DA14
5C122DA16
5C122EA31
5C122FB11
5C122FB13
5C122FH06
5C122FH11
5C122GG04
5C122HA88
5C122HB01
5C122HB10
(57)【要約】
【課題】 撮像対象とカメラとの間に光学系が介在する場合における撮像精度を向上させる。
【解決手段】 撮像画像データ補正システム190は、カメラ108と、光学系55と、第1、第2の補正行列M1、M2が記憶されている記憶装置185と、第1、第2の各補正行列を用いた補正処理を実施する補正処理部183と、を有し、第1の補正行列MX1は、z座標値についての測定誤差である第1の誤差と、光学系による歪みによる第2の誤差と、が含まれる撮像画像データにおける、上記の第1の誤差に起因する画像の歪みを抑制する座標変換用の射影変換行列であり、第2の補正行列MX2は、光学系による歪みを抑制する歪み除去用の変換行列である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像画像データを補正する撮像画像データ補正システムであって、
撮像対象を撮像するカメラと、
曲面の光反射面又は光透過面を有する少なくとも1つの光学部材を有する光学系と、
前記カメラが、前記光学系を経由して到来する光を受光して得られる前記撮像対象画像データを補正する、第1の補正行列、及び第2の補正行列が記憶されている記憶装置と、
前記第1、第2の各補正行列を用いた補正処理を実施する補正処理部と、
を有し、
前記第1の補正行列は、
前記カメラの光軸に直交する平面における横方向に対応する軸をx軸とし、縦方向に対応する軸をy軸とし、前記x軸及びy軸に直交する、前記カメラの光軸に沿う奥行き方向の軸をz軸とし、前記x軸、y軸、z軸の各軸によって、前記カメラの撮像点を原点とする3次元直交座標系を実空間に設定すると共に、
前記z軸に直交し、かつz座標値が既知である基準平面上に、x座標及びy座標が既知の複数の補正用基準点を設定して、
その複数の補正用基準点を、前記カメラで撮像することで、
z座標値についての測定誤差である第1の誤差と、
前記光学系による歪みによる第2の誤差と、
が含まれる撮像画像データが取得され、その結果として、各補正用基準点について第1の座標(xS’、yS’、zS’)が取得される場合に、
前記xS’及びyS’を、
第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、前記基準平面の前記既知の座標値に等しい一定値))における、前記xS’’及びyS’’に変換する、座標変換用の射影変換行列であり、
前記第2の補正行列は、
前記xS’’及びyS’’に、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与えて座標を変換し、前記光学系による歪みを抑制する歪み除去用の変換行列である、
撮像画像データ補正システム。
【請求項2】
前記第1の補正行列は、
xS’’=xS’・zS/zS’ ・・・ 式1-1
yS’’=yS’・zS/zS’ ・・・ 式1-2
で表される、上記式1-1、1-2の演算を実施するものである、
請求項1に記載の撮像画像データ補正システム。
【請求項3】
前記撮像対象の、前記z軸に沿う方向の可動範囲内に設定される複数のz座標値の各々に対応して、前記第1の補正行列が複数、設けられており、
前記補正処理部は、複数の前記第1の補正行列の中から、前記カメラによる撮像に基づいて取得された前記撮像対象のz座標値に、もっとも近いz座標に対応した第1の補正行列を選択する、
請求項1又は2に記載の撮像画像データ補正システム。
【請求項4】
前記z軸に沿う方向の可動範囲内に設定される複数のz座標同士の間隔は、前記複数の補正用基準点を前記カメラで撮像した場合の、z座標値の最大ブレ幅よりも大きく設定されている、
請求項3に記載の撮像画像データ補正システム。
【請求項5】
前記複数の第1の補正行列を、第1~第n(nは2以上の自然数)の第1の補正行列とし、
第1~第nの各第1の補正行列が対応するz座標値をz1~znとし、
第1(n=1)の第1の補正行列の補正対象である、前記カメラによって前記補正用基準点を撮像して得られる各点のx座標値及びy座標値をx1’、y1’とし、
第nの第1の補正行列によって変換された後の各点のx座標値及びy座標値をxn’、yn’とするとき、
第nの前記第1の補正行列は、
前記x1’、y1’を用いて、
xn’=x1’・(1+(zn-z1)/z1) ・・・ 式2-1
yn’=y1’・(1+(zn-z1)/z1) ・・・ 式2-2
で表される、上記式2-1、2-2の演算を実施するものである、
請求項3又は4に記載の撮像画像データ補正システム。
【請求項6】
前記記憶装置には、前記第1、第2の補正行列に加えて、第3、第4、第5、第6の補正行列が記憶されており、
前記補正処理部は、取得された前記第1の座標(xS’、yS’、zS’)の、x、y、zの各座標値に測定誤差が含まれるものとして補正処理を実施する場合には、前記第3及び第4の補正行列を用いて、あるいは、前記第5及び第6の補正行列を用いて補正処理を実施し、
前記第3の補正行列は、
y、zの各座標値についての測定誤差が含まれる前記yS’及びzS’を、
座標(xS、yS’’’、zS’’’(但し、xSは、前記基準平面の前記既知のx座標値に等しい一定値))における、前記yS’’’及びzS’’’に変換する、座標変換用の射影変換行列であり、
前記第4の補正行列は、
前記yS’’’及びzS’’’に、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与えて座標を変換し、前記光学系による歪みを抑制する歪み除去用の変換行列であり、
前記第5の補正行列は、
x、zの各座標値についての測定誤差が含まれる前記xS’及びzS’を、
座標(xS’’’’、yS、zS’’’’(但し、ySは、前記基準平面の前記既知のy座標値に等しい一定値))における、前記xS’’’’及びzS’’’’に変換する、座標変換用の射影変換行列であり、
前記第6の補正行列は、
前記xS’’’’及びzS’’’’に、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与えて座標を変換し、前記光学系による歪みを抑制する歪み除去用の変換行列である、
請求項1に記載の撮像画像データ補正システム。
【請求項7】
前記第4の補正行列を用いた補正処理を実施する場合には、
前記x軸に沿う方向に設定される複数のx座標値の各々に対応して、前記第4の補正行列が複数、設けられており、
前記補正処理部は、
複数の前記第4の補正行列の中から、測定によって取得されたx座標値に、もっとも近いx座標に対応した第4の補正行列を選択し、選択された第4の補正行列を用いた補正演算を実施し、
前記第6の補正行列を用いた補正処理を実施する場合には、
前記y軸に沿う方向に設定される複数のy座標値の各々に対応して、前記第6の補正行列が複数、設けられており、
前記補正処理部は、
複数の前記第6の補正行列の中から、測定によって取得されたy座標値に、最も近いy座標に対応した第6の補正行列を選択し、選択された第6の補正行列を用いた補正演算を実施する、
請求項6に記載の撮像画像データ補正システム。
【請求項8】
前記第4の補正行列を用いた補正処理を実施する場合には、
前記x軸に沿う方向に設定される複数のx座標値の各々に対応して、前記第4の補正行列が複数、設けられており、
前記補正処理部は、
前記複数の前記第4の補正行列の中から、測定によって取得されたx座標値に、最も近いx座標に対応した、直近の第4の補正行列と、2番目に近いx座標に対応した、準直近の第4の補正行列とを選択すると共に、
前記測定によって取得されたx座標値と、前記最も近いx座標との距離を第1の距離L1とし、
前記測定によって取得されたx座標値と、前記2番目に近いx座標との距離を第2の距離L2とする場合に、
L1/(L1+L2)で表される第1の重み付け係数k1と、
L2/(L1+L2)で表される第2の重み付け係数k2と、を算出し、
前記直近の第4の補正行列、前記準直近の第4の補正行列、及び、前記第1、第2の重み付け係数k1、k2を用いた加重平均(重み付き平均)による補正演算を実施し、
前記第6の補正行列を用いた補正処理を実施する場合には、
前記y軸に沿う方向に設定される複数のy座標値の各々に対応して、前記第6の補正行列が複数、設けられており、
前記補正処理部は、
前記複数の前記第6の補正行列の中から、測定によって取得されたy座標値に、最も近いy座標に対応した、直近の第6の補正行列と、2番目に近いy座標に対応した、準直近の第6の補正行列とを選択すると共に、
前記測定によって取得されたy座標値と、前記最も近いy座標との距離を第3の距離L3とし、
前記測定によって取得されたy座標値と、前記2番目に近いy座標との距離を第4の距離L4とする場合に、
L3/(L3+L4)で表される第3の重み付け係数k3と、
L4/(L3+L4)で表される第4の重み付け係数k4と、を算出し、
前記直近の第6の補正行列、前記準直近の第6の補正行列、及び、前記第3、第4の重み付け係数k3、k4を用いた加重平均(重み付き平均)による補正演算を実施する、
請求項6に記載の撮像画像データ補正システム。
【請求項9】
前記補正処理部は、
x、y、zの各値に測定誤差を含む、取得された前記第1の座標(xS’、yS’、zS’)に対して、
前記第1の補正行列を用いた補正処理を実施して、前記xS’及びyS’を、前記第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、前記基準平面の前記既知のz座標値に等しい一定値))における、前記xS’’及びyS’’に変換し、
前記第3の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値である前記zS’’’と、前記第5の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値である前記zS’’’’と、を用いて、
xS’’’’’=xS’’・zS’’’/zS ・・・ 式5-1
yS’’’’’=yS’’・zS’’’’/zS ・・・ 式5-2
で表される、上記式5-1、5-2の演算を実施し、
算出された前記xS’’’’’及びyS’’’’’に対して、前記第2の補正行列を用いた、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与える処理を実施する、
請求項6に記載の撮像画像データ補正システム。
【請求項10】
前記補正処理部は、
x、y、zの各値に測定誤差を含む、取得された前記第1の座標(xS’、yS’、zS’)に対して、
前記第1の補正行列を用いた補正処理を実施して、前記xS’及びyS’を、前記第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、前記基準平面の前記既知のz座標値に等しい一定値))における、前記xS’’及びyS’’に変換し、
前記第3の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値である前記zS’’’を用いて、
xS’’’’’=xS’’・zS’’’/zS ・・・ 式6-1
yS’’’’’=yS’’・zS’’’/zS ・・・ 式6-2
で表される、上記式6-1、6-2の演算を実施し、
算出された前記xS’’’’’及びyS’’’’’に対して、前記第2の補正行列を用いた、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与える処理を実施する、
請求項6に記載の撮像画像データ補正システム。
【請求項11】
前記補正処理部は、
x、y、zの各値に測定誤差を含む、取得された前記第1の座標(xS’、yS’、zS’)に対して、
前記第1の補正行列を用いた補正処理を実施して、前記xS’及びyS’を、前記第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、前記基準平面の前記既知のz座標値に等しい一定値))における、前記xS’’及びyS’’に変換し、
前記第5の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値である前記zS’’’’を用いて、
xS’’’’’=xS’’・zS’’’’/zS ・・・ 式7-1
yS’’’’’=yS’’・zS’’’’/zS ・・・ 式7-2
で表される、上記式7-1、7-2の演算を実施し、
算出された前記xS’’’’’及びyS’’’’’に対して、前記第2の補正行列を用いた、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与える処理を実施する、
請求項6に記載の撮像画像データ補正システム。
【請求項12】
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられる、画像を表示する表示器を含む表示装置と、
前記ハウジング内に設けられる、請求項1乃至11の何れか1項に記載の撮像画像データ補正システムと、
を有し、
前記撮像画像データ補正システムの前記光学系に含まれる前記光学部材の少なくとも一部は、前記表示装置から出射される画像の表示光を、前記ハウジングの外に出射する際にも使用される、
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項13】
前記撮像対象は、前記ヘッドアップディスプレイ装置が表示する画像を視認する視認者の目であり、
前記ハウジング内には、
前記撮像画像データ補正システムが出力する、補正後の画像データに基づいて、前記視認者の目の位置を検出する視点検出部と、
前記視点検出部による視点位置検出結果に基づいて、前記画像の表示光の配光を制御する配光制御部と、
が設けられている、
請求項12に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項14】
前記撮像画像データ補正システムにおける前記カメラは、赤外波長帯域の光に感度を有するカメラである、
請求項12又は13に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項15】
前記撮像対象に赤外波長帯域の光を照射する照明部が、前記ハウジングの内部に設けられている、
又は、
前記ハウジングの外側において、前記ハウジングに取り付けられている、
請求項14に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される撮像画像データ補正システム、及びヘッドアップディスプレイ(HUD)装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転者の視点を赤外線カメラを用いて検出すること、及び、その赤外線カメラを、ステアリングコラム(ステアリングホイールの軸部)に取り付けることが記載されている(特許文献1の[0018]、
図4)。
【0003】
また、特許文献1では、赤外線カメラを用いた運転者の視点検出部と、HUD装置のHUD制御部とは完全に分離されており、視点検出部が検出した視点情報は、通信部を経由して、HUD制御部に送信される(特許文献1の[0020]、
図3A、
図3B)。
【0004】
なお、カメラをステアリングコラムに装着すると、ステアリングホイールの回転に伴い、カメラが回動して撮像画像に歪みが生じることから、特許文献1では、その撮像画像の歪みを電気的に補正する手段を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、赤外線カメラ(近赤外線カメラを含む)を、例えばHUD装置のハウジング(筐体)内に設けることを検討した。この構成によれば、カメラ及び視点検出部をHUD装置内に取り込むことができ、HUD装置内で、視点検出部とHUD制御部とを例えば短い配線で接続して使用でき、信号遅延や通信ノイズの混入を抑制することができる。
【0007】
但し、本発明者の検討によって、以下の新規な課題が明らかとされた。
(1)カメラをHUD装置内に取り込むと、運転者の視点(目)からの反射光(赤外線:近赤外線を含む)は、例えばHUD装置に備わる光学系(例えば虚像表示のための拡大投影用の光学系)を、HUD装置の表示光とは逆の進路で通過してカメラに到達することになる。よって、光学系による画像の歪みによって、カメラの撮像データに誤差が生じる。
(2)上記の光学系に起因する誤差を是正する手段として、カメラの撮像により得られた撮像データに、上記の光学系による歪みとは逆特性の歪みを与える補正を実施することが考えられる。
(3)但し、撮像データ自体に「無視できない誤差」が含まれており、よって、単純に、上記(2)の補正を実施しても、高精度の補正を担保することができない。
(4)赤外線カメラを用いると、カメラの光軸方向の距離(奥行)も測定する3D撮像が可能である。例えば、ToF(Time of Flight)方式の撮像によって、照明光を被撮像対象に照射してから、その反射光がカメラに戻ってくるまでの時間を測定することで、奥行き距離(z軸方向の距離)を測定することができる。
上記の「光学系による歪みとは逆特性の補正」を行うためには、光学系による歪み特性を正確に把握することが必要である。
そのためには、例えば、左右の各目が位置すると思われる3次元空間の所定位置に、カメラの光軸(中心光軸)に直交する基準平面(奥行き距離(z座標値)は既知)を設定し、その基準平面に複数の基準点(補正用基準点)を設定し、それをカメラで撮影し、その複数の補正用基準点の各々の位置がどのように変化するかを検出する必要がある。
カメラの撮像データに基づいて画像データを復元する際、各基準点が上記の基準平面上にあることを前提として復元されるが、しかし、実際は、各基準点に関する奥行き距離の測定値はばらついており、各基準点が同一の基準平面上にある、という前提は成立しない。奥行き距離(z軸方向の距離)のばらつきは、すなわち、各基準点のx、yの各座標のばらつきとなる。
よって、各基準点のx、yの各座標値は、z軸方向の奥行き距離の測定ばらつきに基づく誤差を含んでいる。
言い換えれば、撮像データには、「光学系による歪みによる誤差」の他に、「z軸方向の距離の測定誤差に基づくx、yの各座標値の誤差」も含まれている。後者の誤差が、上記の「無視できない誤差」である。
(5)光学系による歪みを抑制して、精度の高い視点検出(広義には撮像対象の検出)を行うためには、上記(3)、(4)の新規な知見に基づく対策が必要となる。
【0008】
上記の特許文献1には、上記(3)~(5)に記載したような課題については何ら記載されておらず、その対策についても言及がない。
【0009】
本発明の目的の一つは、撮像対象とカメラとの間に光学系が介在する場合における撮像精度を向上させることである。
【0010】
本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び最良の実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0012】
本発明の第1の態様において、撮像画像データ補正システムは、
撮像画像データを補正する撮像画像データ補正システムであって、
撮像対象を撮像するカメラと、
曲面の光反射面又は光透過面を有する少なくとも1つの光学部材を有する光学系と、
前記カメラが、前記光学系を経由して到来する光を受光して得られる前記撮像対象画像データを補正する、第1の補正行列、及び第2の補正行列が記憶されている記憶装置と、
前記第1、第2の各補正行列を用いた補正処理を実施する補正処理部と、
を有し、
前記第1の補正行列は、
前記カメラの光軸に直交する平面における横方向に対応する軸をx軸とし、縦方向に対応する軸をy軸とし、前記x軸及びy軸に直交する、前記カメラの光軸に沿う奥行き方向の軸をz軸とし、前記x軸、y軸、z軸の各軸によって、前記カメラの撮像点を原点とする3次元直交座標系を実空間に設定すると共に、
前記z軸に直交し、かつz座標値が既知である基準平面上に、x座標及びy座標が既知の複数の補正用基準点を設定して、
その複数の補正用基準点を、前記カメラで撮像することで、
z座標値についての測定誤差である第1の誤差と、
前記光学系による歪みによる第2の誤差と、
が含まれる撮像画像データが取得され、その結果として、各補正用基準点について第1の座標(xS’、yS’、zS’)が取得される場合に、
前記xS’及びyS’を、
第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、前記基準平面の前記既知の座標値に等しい一定値))における、前記xS’’及びyS’’に変換する、座標変換用の射影変換行列であり、
前記第2の補正行列は、
前記xS’’及びyS’’に、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与えて座標を変換し、前記光学系による歪みを抑制する歪み除去用の変換行列である。
【0013】
第1の態様では、撮像画像データ補正システムは、撮像対象(例えば人の視点)を、光学系(曲面の反射面又は透過面有する少なくとも1つの光学部材を有する)を介してカメラで撮像する。
【0014】
撮像画像データには、z座標値についての測定誤差である第1の誤差と、光学系による歪みによる第2の誤差と、が含まれる点を考慮し、まず、第1の補正行列を用いた補正演算によって、第1の誤差に基づくx、y座標の歪みを抑制し、続いて、その補正後の撮像画像データについて、第2の補正行列を用いた演算を施して、光学系に起因する歪みを抑制する。
【0015】
カメラによって撮像された各補正用基準点の、撮像画像空間(単に画像空間と称する)におけるx、y、zの各座標について、理想的にはz座標は一定であるはずである(各補正用基準点は、実空間においてz座標が既知の基準平面上の点であることから、撮像画像空間においも、z座標値は上記の既知のz座標値と同じであるはずである)。
【0016】
しかし、測定誤差により、各補正用基準点でz座標がばらつき、その結果として、xy画像平面におけるx、yの各座標値も、不規則にばらつく。この不規則なばらつきをそのままにして、光学系の歪み除去補正を行っても、その精度には限界がある。
【0017】
そこで、本態様では、まず、撮像された各補正用基準点を、画像空間上での本来のxy平面(z座標値が既知である画像平面)上へと射影(投影)変換し、z座標値の不規則なばらつきを是正する。その後、光学系の歪みを補正する。
【0018】
これによって、光学系の歪み除去用の補正演算の精度が向上し、光学系の歪みを効果的に除去できる。したがって、例えば、人の目(視点)の位置を、より正確に検出可能となる。
【0019】
第1の態様に従属する第2の態様において、
前記第1の補正行列は、
xS’’=xS’・zS/zS’ ・・・ 式1-1
yS’’=yS’・zS/zS’ ・・・ 式1-2
で表される、上記式1-1、1-2の演算を実施するものであってもよい。
【0020】
第2の態様では、撮像された各補正用基準点を、画像空間上での本来のxy平面(z座標値が既知である画像平面)上へと射影(投影)変換する際、具体的には、各基準点の画像空間におけるx座標及びy座標である(xS’、yS’)は、式1-1、式1-2を用いて(xS’’、ys’’)へと変換される。式1-1、1-2は、具体的には、相似する3角形の相似比を用いた演算式を示す。
【0021】
上記の式において、zS/zS’が相似比を示す。ここで、zS’は、撮像された各補正用基準点の、画像空間におけるz座標値(z座標の測定値)である。zSは、補正用基準点が設定されている基準平面の既知のz座標値(一定)である。この演算によって、各補正用基準点のz座標値のばらつきを補正することができる。
【0022】
第1又は第2の態様に従属する第3の態様において、
前記撮像対象の、前記z軸に沿う方向の可動範囲内に設定される複数のz座標値の各々に対応して、前記第1の補正行列が複数、設けられており、
前記補正処理部は、複数の前記第1の補正行列の中から、前記カメラによる撮像に基づいて取得された前記撮像対象のz座標値に、もっとも近いz座標に対応した第1の補正行列を選択してもよい。
【0023】
第3の態様では、撮像対象(例えば人の視点)がカメラの光軸方向(z軸方向)に移動する可能性があることを考慮して、予め、カメラからの距離が異なる複数の基準平面を想定して、各基準平面毎に、z座標値(z軸に沿う奥行き距離)のばらつきを補正する行列(第1の補正行列)を用意し、記憶装置に記憶させておく。そして、実際の撮像対象の位置に最も近い基準平面に対応した補正行列(第1の補正行列)を選択して使用する。
【0024】
撮像対象(ここでは、人の視点とする)がカメラから遠ざかると、画像平面(画像空間におけるxy平面)上での視点の移動量は実空間での移動量よりも小さく認識され、逆に人の視点がカメラに近づくと、画像平面上での視点の移動量は実空間での移動量よりも大きく認識される傾向が生じる。
【0025】
そこで、人の視点の位置がz軸方向に沿って変化したとき、人の視点のz座標に合わせて適切な補正行列(第1の補正行列)を選択し、その選択された補正行列を使用して補正演算を行うことで、カメラと人との間の距離に依らず、画像平面上での視点の移動量を実空間での移動量により近づけて、より正確な補正が可能となる。よって、人の視点の座標(x,y)をより正確に検出することができる。
【0026】
第3の態様に従属する第4の態様において、
前記z軸に沿う方向の可動範囲内に設定される複数のz座標同士の間隔は、前記複数の補正用基準点を前記カメラで撮像した場合の、z座標値の最大ブレ幅よりも大きく設定されてもよい。
【0027】
第4の態様では、例えば複数の補正行列を採用する場合に、各補正行列に対応する、画像空間における各基準平面のz座標同士の間隔(z座標値の差の値)が、補正用基準点についてのz座標値の最大ブレ幅より大きく設定される。
【0028】
上記の第3の態様では、撮像対象の実際の位置に最も近い基準平面(画像平面)に対応する補正行列を選択することになるが、その選択に際しては、補正用基準点のz座標の測定ばらつきを考慮する必要がある。
【0029】
例えば2つの補正行列が用意される場合を想定すると、z座標のばらつき量が小さいときは、「一方の補正行列」が選択され、z座標のばらつき量が大きいときは、その大きなばらつきの座標点を基準として「他方の補正行列」が選択される、といった現象が生じる場合がある。
【0030】
言い換えれば、撮像対象のz座標に合わせて補正行列を選択するとき、撮像対象の実際の位置は変化していないにも関わらず、z座標値の測定ばらつきの大小に応じて、短い時間内に使用する補正行列が切り替わることが生じ得る。この場合には、補正の精度が低下する。また、異なる補正行列の切り替えが何回も繰り返される事態も生じ得ることにもなり、この場合は補正結果が不安定となるのは否めない。
【0031】
そこで、異なる補正行列の各々に対応する基準平面(画像平面)のz座標の間隔を、予測されるz座標値の最大のブレ幅よりも大きくして、十分なノイズマージンを確保しておく。これにより、大きな測定誤差が生じたとしても、使用する補正行列が切り替わることが防止される。よって、補正精度の低下や補正結果の不安定化を、確実に防止することができる。
【0032】
第3又は第4の態様に従属する第5の態様において、
前記複数の第1の補正行列を、第1~第n(nは2以上の自然数)の第1の補正行列とし、
第1~第nの各第1の補正行列が対応するz座標値をz1~znとし、
第1(n=1)の第1の補正行列の補正対象である、前記カメラによって前記補正用基準点を撮像して得られる各点のx座標値及びy座標値をx1’、y1’とし、
第nの第1の補正行列によって変換された後の各点のx座標値及びy座標値をxn’、yn’とするとき、
第nの前記第1の補正行列は、
前記x1’、y1’を用いて、
xn’=x1’・(1+(zn-z1)/z1) ・・・ 式2-1
yn’=y1’・(1+(zn-z1)/z1) ・・・ 式2-2
で表される、上記式2-1、2-2の演算を実施するものであってもよい。
【0033】
第5の態様では、第1、第2・・・第nの補正行列を使用するとき、第1の補正行列を作成するときのみ、基準平面を設定して補正用基準点のカメラによる撮像を実施する。第2~第nの補正行列の作成に関しては、カメラによる撮像は行わず、すでに取得されている第1の補正行列作成時に得られたx、yの各座標値を利用して、式2-1、2-2に従って補正行列を定める。上記の式2-1、2-2は、射影(投影)変換の一種であり、3角形の相似を利用して上記の式を導出することができる。
【0034】
これによって、複数の補正行列を採用する場合でも、カメラからのz軸方向における距離を異ならせて、何回も基準平面を実測する必要がなく、作業者の負担が増えることもない。
本発明は、測定によって得られたx、y、zの各座標値に誤差(Δx、Δy、Δz)が含まれる場合にも適用可能である。
(第6の態様)
第1の態様に従属する第6の態様において、
前記記憶装置には、前記第1、第2の補正行列に加えて、第3、第4、第5、第6の補正行列が記憶されており、
前記補正処理部は、取得された前記第1の座標(xS’、yS’、zS’)の、x、y、zの各座標値に測定誤差が含まれるものとして補正処理を実施する場合には、前記第3及び第4の補正行列を用いて、あるいは、前記第5及び第6の補正行列を用いて補正処理を実施し、
前記第3の補正行列は、
y、zの各座標値についての測定誤差が含まれる前記yS’及びzS’を、
座標(xS、yS’’’、zS’’’(但し、xSは、前記基準平面の前記既知のx座標値に等しい一定値))における、前記yS’’’及びzS’’’に変換する、座標変換用の射影変換行列であり、
前記第4の補正行列は、
前記yS’’’及びzS’’’に、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与えて座標を変換し、前記光学系による歪みを抑制する歪み除去用の変換行列であり、
前記第5の補正行列は、
x、zの各座標値についての測定誤差が含まれる前記xS’及びzS’を、
座標(xS’’’’、yS、zS’’’’(但し、ySは、前記基準平面の前記既知のy座標値に等しい一定値))における、前記xS’’’’及びzS’’’’に変換する、座標変換用の射影変換行列であり、
前記第6の補正行列は、
前記xS’’’’及びzS’’’’に、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与えて座標を変換し、前記光学系による歪みを抑制する歪み除去用の変換行列であってもよい。
先に説明した第1の態様では、第1の誤差が、z座標値の誤差を含むことを前提としていたが、第6の態様では、第1の誤差の概念が拡張されて、x、y、zの各座標値に誤差(Δx、Δy、Δz)が含まれることを前提とする。
この対策として、第6の態様では、記憶装置には、先に説明した第1、第2の補正行列に加えて、第3及び第4の補正行列、第5及び第6の補正行列が記憶されている。
第3、第5の補正行列は、先に説明した第1の補正行列に対応し、第4、第6の補正行列は、先に説明した第2の補正行列に対応する。
第3の補正行列は、x座標値の測定誤差(Δx)を、例えば、先に説明したΔzの補正と同様の射影変換によって除去して、測定点のx座標xS’を、本来のx座標xSに戻す補正用の行列である。
第4の補正行列は、第3の補正行列による演算の結果(x座標値が補正されて得られるy座標yS’’’、z座標zS’’’)について、光学系の歪とは逆特性の歪みを与えることで、歪みを抑制する補正用の行列である。
第5の補正行列は、y座標値の測定誤差(Δy)を、例えば、先に説明したΔzの補正と同様の射影変換によって除去して、測定点のy座標yS’を、本来のy座標ySに戻す補正用の行列である。
第6の補正行列は、第5の補正行列による演算の結果(y座標が補正されて得られるx座標xS’’’’、z座標zS’’’’)について、光学系の歪とは逆特性の歪みを与えることで、歪みを抑制する補正用の行列である。
補正処理部が、第3、第4の補正行列を用いた補正処理を実施することで、又は、第5、第6の補正行列を用いた補正処理を実施することで、撮像対象(例えば、運転者の目)の検出精度を向上させることができる。
(第7の態様)
第6の態様に従属する第7の態様において、
前記第4の補正行列を用いた補正処理を実施する場合には、
前記x軸に沿う方向に設定される複数のx座標値の各々に対応して、前記第4の補正行列が複数、設けられており、
前記補正処理部は、
複数の前記第4の補正行列の中から、測定によって取得されたx座標値に、もっとも近いx座標に対応した第4の補正行列を選択し、選択された第4の補正行列を用いた補正演算を実施し、
前記第6の補正行列を用いた補正処理を実施する場合には、
前記y軸に沿う方向に設定される複数のy座標値の各々に対応して、前記第6の補正行列が複数、設けられており、
前記補正処理部は、
複数の前記第6の補正行列の中から、測定によって取得されたy座標値に、最も近いy座標に対応した第6の補正行列を選択し、選択された第6の補正行列を用いた補正演算を実施してもよい。
第7の態様では、光学系の歪とは逆特性の歪みを与える第4、第6の補正行列についても、測定点の測定誤差Δx、Δyを考慮して、より適切な補正行列を、複数の中から1つを選択することで取得することで、撮像対象の検出精度を、さらに向上させる。
第4の補正行列については、例えば、x軸方向に所定間隔で配置される複数のx座標値毎に補正行列を設定しておき、測定点のx座標xSに最も近い座標値に対応した補正行列を選択して、演算を実施する。
第6の補正行列については、例えば、y軸方向に所定間隔で配置される複数のy座標値毎に補正行列を設定しておき、測定点のy座標ySに最も近い座標値に対応した補正行列を選択して、演算を実施する。
これによって、適切な補正行列を選択することが可能である。
(第8の態様)
第6の態様に従属する第8の態様において、
前記第4の補正行列を用いた補正処理を実施する場合には、
前記x軸に沿う方向に設定される複数のx座標値の各々に対応して、前記第4の補正行列が複数、設けられており、
前記補正処理部は、
前記複数の前記第4の補正行列の中から、測定によって取得されたx座標値に、最も近いx座標に対応した、直近の第4の補正行列と、2番目に近いx座標に対応した、準直近の第4の補正行列とを選択すると共に、
前記測定によって取得されたx座標値と、前記最も近いx座標との距離を第1の距離L1とし、
前記測定によって取得されたx座標値と、前記2番目に近いx座標との距離を第2の距離L2とする場合に、
L1/(L1+L2)で表される第1の重み付け係数k1と、
L2/(L1+L2)で表される第2の重み付け係数k2と、を算出し、
前記直近の第4の補正行列、前記準直近の第4の補正行列、及び、前記第1、第2の重み付け係数k1、k2を用いた加重平均(重み付き平均)による補正演算を実施し、
前記第6の補正行列を用いた補正処理を実施する場合には、
前記y軸に沿う方向に設定される複数のy座標値の各々に対応して、前記第6の補正行列が複数、設けられており、
前記補正処理部は、
前記複数の前記第6の補正行列の中から、測定によって取得されたy座標値に、最も近いy座標に対応した、直近の第6の補正行列と、2番目に近いy座標に対応した、準直近の第6の補正行列とを選択すると共に、
前記測定によって取得されたy座標値と、前記最も近いy座標との距離を第3の距離L3とし、
前記測定によって取得されたy座標値と、前記2番目に近いy座標との距離を第4の距離L4とする場合に、
L3/(L3+L4)で表される第3の重み付け係数k3と、
L4/(L3+L4)で表される第4の重み付け係数k4と、を算出し、
前記直近の第6の補正行列、前記準直近の第6の補正行列、及び、前記第3、第4の重み付け係数k3、k4を用いた加重平均(重み付き平均)による補正演算を実施してもよい。
第8の態様では、第7の態様と同様に、光学系の歪とは逆特性の歪みを与える第4、第6の補正行列について最適化を実施する。
但し、第8の態様では、測定によって取得された座標に、最も近い座標値に対応する補正行列(これを「直近の補正行列」と称する)と、2番目に近い座標値に対応する補正行列(これを「準直近の補正行列」と称する)と、を用いて、加重平均(重み付き)平均演算を実施することで、撮像対象の検出精度を、さらに向上させる。
(第9の態様)
第6の態様に従属する第9の態様において、
前記補正処理部は、
x、y、zの各値に測定誤差を含む、取得された前記第1の座標(xS’、yS’、zS’)に対して、
前記第1の補正行列を用いた補正処理を実施して、前記xS’及びyS’を、前記第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、前記基準平面の前記既知のz座標値に等しい一定値))における、前記xS’’及びyS’’に変換し、
前記第3の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値である前記zS’’’と、前記第5の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値である前記zS’’’’と、を用いて、
xS’’’’’=xS’’・zS’’’/zS ・・・ 式5-1
yS’’’’’=yS’’・zS’’’’/zS ・・・ 式5-2
で表される、上記式5-1、5-2の演算を実施し、
算出された前記xS’’’’’及びyS’’’’’に対して、前記第2の補正行列を用いた、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与える処理を実施してもよい。
第9の態様は、第1の態様で説明した第1の補正行列による補正演算の後、第6の態様で説明した第3及び第4の補正行列の少なくとも一方の演算によって得られた座標値を用いて、リサイズ処理を実施する新たな補正手法によって、撮像対象(例えば、運転者の目)の検出精度を、さらに向上させる。
x、y、zの各座標値についての測定誤差Δx、Δy、Δzを問題とする場合には、第1の補正行列(Δxのみを補正する補正行列)による補正処理では、歪み除去効果が低下する。
言い換えれば、第1の補正行列では、z座標値がzSである基準平面(便宜上「第1の基準平面」と称する)に、測定された座標を射影変換していたが、測定誤差Δx、Δy、Δzを問題とする場合は、Δx、Δy、Δzを考慮した「新たな基準面(基準平面)」を設定する必要がある。
ここで検討すると、第6の態様における第3の補正行列を用いた補正処理によって得られる「zS’’’」をz座標値とする「第2の基準面」、あるいは、第6の態様における第5の補正行列を用いた補正処理によって得られる「zS’’’’」をz座標値とする「第3の基準面」が、より適切な基準面(基準平面)となり得ると考えられる。
そこで、第9の態様では、第1の補正行列による演算で得られた「xS’’」については、第2の基準面へと再度、射影変換して、その大きさを拡大あるいは縮小する第1のリサイズ処理を実施する。
第2の基準面を選択するのは、第3の補正行列が、x座標値を既知の「xS」に補正する補正行列であり、その補正演算の結果を利用して設定される第2の基準面の方が、x座標のリサイズには適している(より精度の高い補正ができる)と考えられるからである。
一方、第1の補正行列による演算で得られた「yS’’」については、第3の基準面へと再度、射影変換して、その大きさを拡大あるいは縮小する第2のリサイズ処理を実施する。
第3の基準面を選択するのは、第5の補正行列が、y座標値を既知の「yS」に補正する補正行列であり、その補正演算の結果を利用して設定される第3の基準面の方が、y座標のリサイズには適している(より精度の高い補正ができる)と考えられるからである。
この第1、第2のリサイズ処理によって得られたx座標値を「xS’’’’’」とし、y座標値を「yS’’’’’」とし、z座標値については、「zS’’」又は「zS’’’」を採用することで、より本来の座標値に近い、精度の高いx、y、zの各座標値が得られる。
その得られた各座標値について、第2の補正行列を用いた演算を実施し、光学系による歪とは逆の歪みを与えることで、より精度の高い測定座標を取得することができる。
(第10の態様)
第6の態様に従属する第10の態様において、
前記補正処理部は、
x、y、zの各値に測定誤差を含む、取得された前記第1の座標(xS’、yS’、zS’)に対して、
前記第1の補正行列を用いた補正処理を実施して、前記xS’及びyS’を、前記第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、前記基準平面の前記既知のz座標値に等しい一定値))における、前記xS’’及びyS’’に変換し、
前記第3の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値である前記zS’’’を用いて、
xS’’’’’=xS’’・zS’’’/zS ・・・ 式6-1
yS’’’’’=yS’’・zS’’’/zS ・・・ 式6-2
で表される、上記式6-1、6-2の演算を実施し、
算出された前記xS’’’’’及びyS’’’’’に対して、前記第2の補正行列を用いた、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与える処理を実施してもよい。
第10の態様も、第9の態様と基本的には同様である。但し、第10の態様では、第1の補正行列による演算で得られた「xS’’」及び「yS’’」を、共に第2の基準面へと再度、射影変換して、その大きさを拡大あるいは縮小する第3のリサイズ処理を実施する。
第10の態様においても、第9の態様と同様の効果が得られる。また、「xS’’」及び「yS’’」の各々について、共通の第2の基準面を使用したリサイズ処理を実施するため、リサイズ処理に伴う補正処理部の負担が少いという利点もある。
(第11の態様)
第6の態様に従属する第11の態様において、
前記補正処理部は、
x、y、zの各値に測定誤差を含む、取得された前記第1の座標(xS’、yS’、zS’)に対して、
前記第1の補正行列を用いた補正処理を実施して、前記xS’及びyS’を、前記第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、前記基準平面の前記既知のz座標値に等しい一定値))における、前記xS’’及びyS’’に変換し、
前記第5の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値である前記zS’’’’を用いて、
xS’’’’’=xS’’・zS’’’’/zS ・・・ 式7-1
yS’’’’’=yS’’・zS’’’’/zS ・・・ 式7-2
で表される、上記式7-1、7-2の演算を実施し、
算出された前記xS’’’’’及びyS’’’’’に対して、前記第2の補正行列を用いた、前記光学系による歪み特性とは逆の歪みを与える処理を実施してもよい。
第11の態様も、第9の態様と基本的には同様である。但し、第11の態様では、第1の補正行列による演算で得られた「xS’’」及び「yS’’」を、共に第3の基準面へと再度、射影変換して、その大きさを拡大あるいは縮小する第4のリサイズ処理を実施する。
第11の態様においても、第9の態様と同様の効果が得られる。また、「xS’’」及び「yS’’」の各々について、共通の第3の基準面を使用したリサイズ処理を実施するため、リサイズ処理に伴う補正処理部の負担が少いという利点もある。
【0035】
本発明の第12の態様において、ヘッドアップディスプレイ装置は、
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられる、画像を表示する表示器を含む表示装置と、
前記ハウジング内に設けられる、請求項1乃至11の何れか1つの態様の撮像画像データ補正システムと、
を有し、
前記撮像画像データ補正システムの前記光学系に含まれる前記光学部材の少なくとも一部は、前記表示装置から出射される画像の表示光を、前記ハウジングの外に出射する際にも使用される。
【0036】
第12の態様によれば、カメラ(赤外線カメラ(近赤外線カメラを含む)等)と、撮像画像データ補正装置(補正処理部であってもよい)と、をHUD装置のハウジング(筐体)内に取り込むことができる。
また、HUD装置の画像表示用の光学系の光学部材の少なくとも一部を、撮像対象からの光をカメラに導く光学部材としても利用(共用)できるため、光学部材の新規の追加を必要最小限に抑制し、光学部材の追加設置の負担を軽減することができる。
また、上述した撮像画像データ補正装置がHUD装置に内蔵されているため、迅速に、高精度の補正(上記のz座標のばらつきに起因するx、y座標のばらつき補正と、光学系に起因する画像歪みの補正)を実施することができ、画像処理の性能も向上する。
【0037】
この構成によれば、カメラによる撮像系、及びHUD装置本来の画像表示系がHUD装置のハウジング内にあるため、各系を別個に設けて通信により接続したり、ケーブルで接続したりする場合に比べて、システム全体を小型化することができる。
【0038】
また、HUD装置のユーザー(運転者等)から見て、カメラや、撮像画像データ補正システムを、目立たせることなく、それらを車載することができ、見栄えを気にする必要もなくなる。
【0039】
また、各系が1つのハウジングに内蔵されるため、カメラを、HUD装置とは別に取り付ける作業が不要であり、作業者の負担が軽減される。
【0040】
また、カメラによる撮像系、及びHUD装置本来の画像表示系を、例えば、ハウジング内で、短い配線で接続して使用でき、信号遅延や通信ノイズの混入を抑制することができる。よって、撮像対象(例えば人の目の位置)の検出精度を向上させることができ、また、迅速な検出も可能である。このことは、運転者の視点に追従した高速な配光制御等の実現に資するものである。
【0041】
第12の態様に従属する第13の態様において、
前記撮像対象は、前記ヘッドアップディスプレイ装置が表示する画像を視認する視認者の目であり、
前記ハウジング内には、
前記撮像画像データ補正システムが出力する、補正後の画像データに基づいて、前記視認者の目の位置を検出する視点検出部と、
前記視点検出部による視点位置検出結果に基づいて、前記画像の表示光の配光を制御する配光制御部と、
が設けられていてもよい。
【0042】
第13の態様によれば、人(運転者等)の目(視点)をカメラで撮像して、その撮像画像を迅速に、かつ高精度に補正し、補正後の画像データに基づいて、視点検出部が視点位置を検出し、その視点検出結果に基づいて、視点位置に追従して、画像の表示光の配光を適応的に変更する配光制御を実施することができる。よって、高性能のHUD装置が得られる。
【0043】
第12又は第13の態様に従属する第14の態様において、
前記撮像画像データ補正システムにおける前記カメラは、赤外波長帯域の光に感度を有するカメラであってもよい。
【0044】
第14の態様では、カメラとして、赤外波長帯域の光に感度を有するカメラを使用する。赤外波長帯域の光は広く解釈するものとし、遠赤外線、近赤外線、赤外線を含むことができる。人の部位(顔や目を含む)の検出を例にとると、好ましい一例としては、近赤外線に感度を有する近赤外線カメラを使用することができる。
【0045】
赤外線カメラを用いると、例えば、夜間の暗い環境であっても、あるいは、人がサングラスを掛けているときでも、人の目をはっきりと撮像できるという利点がある。
【0046】
第14の態様に従属する第15の態様において、
前記撮像対象に赤外波長帯域の光を照射する照明部が、前記ハウジングの内部に設けられている、
又は、
前記ハウジングの外側において、前記ハウジングに取り付けられていてもよい。
【0047】
第15の態様では、撮像対象に赤外波長帯域の光を照射する照明部(言い換えれば照明用光源)が、HUD装置のハウジングの内部に設けられ、または、ハウジングの外側において取り付けられている。これにより、照明部、カメラ(近赤外線カメラ等)、及び撮像画像データ補正装置(補正処理部であってもよい:これらは、赤外線撮像システムの主要な構成要素である)を、HUD装置にすべて取り込むことができ、使い勝手がよく、高性能なHUD装置を実現することができる。
【0048】
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、第1、第2の補正行列を記憶した記憶装置を備える撮像画像データ補正システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、撮像画像データ補正システムを組み込んだHUD装置の構成例を示す図である。
【
図3】
図3(A)は、複数の補正用基準点が設けられた基準面(歪み無し)を示す図、
図3(B)は、光学系を介して基準面を撮像して得られた、光学系による歪みの影響を受けた基準面を示す図である。
【
図4】
図4(A)は、複数の補正用基準点が設けられた基準面(歪み無し)を示す図、
図4(B)は、光学系による歪みのみの影響を受けた基準面と、光学系による歪み、及びz座標の測定誤差に起因する歪みの双方の影響を受けた基準面との外観の相違を示す図である。
【
図5】
図5は、z座標の測定誤差が、x,y座標の測定誤差(正規の座標からのズレ)の要因となることを示す図である。
【
図6】
図6は、z座標の測定誤差による画像の歪みを補正する射影変換(第1の補正処理)の原理を示す図である。
【
図7】
図7は、実空間において、撮像対象である人の目(視点)が移動した場合に、z座標値が最も近い基準面に対応する補正行列(第1の補正行列)を選択することを説明するための図である。
【
図8】
図8は、複数の第1の補正行列を使用する場合において、座標空間におけるz座標が異なる基準面間の間隔を、z座標の測定誤差の最大値(最大のズレ幅)よりも大きく設定する例を示す図である。
【
図9】
図9は、第1、第2の補正行列を用いた撮像画像の補正の手順例、及び、補正された画像データを用いた配光制御の手順例を示す図である。
【
図10】
図10(A)は、第1の補正処理の内容を示す図、
図10(B)は、第1の補正処理において、第1~第nの複数の第1の補正行列を用意する必要があるとき、取得済みのデータを用いて、第nの、第1の補正行列を演算により算出する手法を説明するための図である。
【
図11】
図11(A)は、測定により取得された測定点のz座標値のみに誤差(Δz)が生じている例を示す図、
図11(B)は、測定点のx、y、zの各座標値に誤差(Δx、Δy、Δz)が生じている例を示す図、
図11(C)は、
図11(B)の例に対応した、測定点に基づいて撮像空間に構築される基準平面の状態を示す図である。
【
図12】
図12は、第3の補正行列、又は第5の補正行列を用いた座標値の補正を説明するための図である。
【
図13】
図13は、第4の補正行列を複数用意しておき、その中から1つを選択する例を示す図である。
【
図14】
図14は、第6の補正行列を複数用意しておき、そのうちの2つを用いて、加重平均(重み付き平均)演算を実施する例を示す図である。
【
図15】
図15(A)、(B)は、第1の補正行列による補正演算の後、さらに、第3及び第4の補正行列の少なくとも一方を用いた演算によって得られた座標値を用いて、リサイズ処理を実施する補正処理例を示す図である。
【
図16】
図16(A)~(D)は、リサイズ処理の例を示す図である。
【
図17】
図17は、リサイズ処理後の座標値に基づいて、撮像空間に構築される基準平面の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0051】
(第1の実施形態)
図1は、第1、第2の補正行列を記憶した記憶装置を備える撮像画像データ補正システムの構成の一例を示す図である。
【0052】
撮像画像データを補正する撮像画像データ補正システム190は、撮像対象(ここでは人の目(視点)とする)を撮像するカメラ108と、曲面の光反射面又は光透過面を有する少なくとも1つの光学部材54を有する光学系55と、カメラ108が、光学系55を経由して到来する光を受光して得られる撮像対象画像データを補正する、第1の補正行列M1、及び第2の補正行列M2が記憶されている記憶装置185と、第1、第2の各補正行列M1、M2を用いた補正処理を実施する補正処理部183を含む撮像画像データ補正装置160と、を有する。
【0053】
また、
図1の例では、近赤外線(広義には赤外線)を発する照明部(近赤外線光源)50が設けられている。赤外線による撮像を行うと、夜間の暗い環境であっても、あるいは、人がサングラス等を掛けているときでも、人(車両1の運転者等)の目(視点)を明瞭に撮像できるという利点がある。
【0054】
図1において、カメラ108の光軸(z軸)に直交する平面(基準平面)52における横方向に対応する軸をx軸とし、縦方向に対応する軸をy軸とし、前記x軸及びy軸に直交する、カメラ108の光軸に沿う奥行き方向の軸をz軸とし、x軸、y軸、z軸の各軸によって、カメラ108の撮像点(あるいはカメラ視点)Qを原点とする3次元直交座標系が実空間に設定される。
【0055】
基準平面52は、カメラ108による撮像対象である人の左右の目(視点)E1、E2が存在すると想定される位置(z座標が既知の位置)に設定される。
図1の基準平面52には、格子状に配列された縦5個、横6個(合計で30個)の補正用基準点Pが設定される。なお、
図1では、外周部の一部の基準点Pのみが示されている。複数の補正用基準点Pは、z座標値が既知である基準平面52上に設定された、x座標及びy座標が既知の複数の、格子状に配列された点である。
【0056】
第1の補正行列M1は、複数の補正用基準点Pを、カメラ108で撮像することで、z座標値についての測定誤差である第1の誤差と、光学系による歪みによる第2の誤差と、が含まれる撮像画像データが取得され、その結果として、各補正用基準点について第1の座標(xS’、yS’、zS’)が取得される場合に、xS’及びyS’を、第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、基準平面52の既知の座標値に等しい一定値))における、xS’’及びyS’’に変換する、座標変換用の射影変換行列である。
【0057】
第2の補正行列は、xS’’及びyS’’(言い換えれば、第1の補正行列による補正後の画像データ)に、光学系による歪み特性とは逆の歪みを与えて座標を変換し、光学系による歪みを抑制する歪み除去用の変換行列である。
【0058】
撮像画像データ補正装置160に含まれる補正処理部183は、第1、第2の補正行列M1、M2を用いた補正演算を実施する。
【0059】
撮像対象(例えば人の視点)を、光学系55(曲面の反射面又は透過面有する少なくとも1つの光学部材54を有する)を介してカメラ108で撮像した場合、撮像画像データには、z座標値についての測定誤差である第1の誤差と、光学系による歪みによる第2の誤差と、が含まれる。この点を考慮し、画像データを補正する必要がある。
【0060】
補正処理部183は、まず、第1の補正行列M1を用いた補正演算によって、第1の誤差に基づくx、y座標の歪みを抑制し、続いて、その補正後の撮像画像データについて、第2の補正行列M2を用いた演算を施して、光学系55に起因する歪みを抑制する。
【0061】
カメラ108によって撮像された各補正用基準点Pの、撮像画像空間(単に画像空間と称する)におけるx、y、zの各座標について、理想的にはz座標は一定であるはずである(各補正用基準点は、実空間においてz座標が既知の基準平面52上の点であることから、撮像画像空間においも、z座標値は上記の既知のz座標値と同じ(言い換えれば等価である値)であるはずである)。
【0062】
しかし、測定誤差により、各補正用基準点Pでz座標がばらつき、その結果として、xy画像平面におけるx、yの各座標値も、不規則にばらつく。この不規則なばらつきをそのままにして、光学系55による歪みを除去する補正を行っても、その精度には限界がある。
【0063】
そこで、まず、撮像された各補正用基準点Pを、画像空間上での本来のxy平面(z座標値が既知である画像平面)上へと射影(投影)変換し(第1の補正処理)、z座標値の不規則なばらつきを是正する。その後、光学系の歪みを補正する(第2の補正処理)。なお、第1の補正処理の具体的な内容については、後述する。
【0064】
これによって、光学系の歪み除去用の補正演算の精度が向上し、光学系の歪みを効果的に除去できる。したがって、例えば、人の目(視点)の位置を、より正確に検出可能となる。
【0065】
次に、
図2を参照する。撮像画像データ補正システムを組み込んだHUD装置の構成例を示す図である。
【0066】
ヘッドアップディスプレイ装置100は、ハウジング102と、ハウジング102内に設けられる、画像を表示する表示器106を含む表示装置104と、撮像画像データ補正システム(構成要素は後述する)と、視点検出部191と、配光制御部195と、を有する。
【0067】
HUD装置100に組み込まれた撮像画像データ補正システムは、赤外線(近赤外線を含む)に感度を有するカメラ(広義の赤外線カメラ)108と、光学系55(
図1参照)と、撮像画像データ補正装置160(
図1参照)の構成要素である補正処理部183と、を有する。
【0068】
ここで、HUD装置100に組み込まれた光学系55の構成要素としては、平面ミラー110、画像の表示光K1をウインドシールド2(又はコンバイナ4)に向けて投射する曲面ミラー(具体的には、画像を拡大して投影する凹面鏡等)112、ガラスや樹脂等からなる窓部116をあげることができる。なお、光学系55を広く解釈すれば、HUD装置100の外に配置されているウインドシールド2やコンバイナ4も、光学系55の構成要素とみることもできる。
【0069】
なお、コンバイナ4を用いる場合、そのコンバイナは、可視光線については半透過/半反射性を有し、赤外線については反射性を有することが好ましい。
【0070】
また、平面ミラー110は、HUD装置100の画像の表示光K1(可視光線)を反射し、撮像対象である人(運転者)の目(視点)の撮像光K2(赤外線)は透過する波長選択性を有するフィルタとしての機能をもつ。なお、他の実施形態では、曲面ミラー(凹面鏡)112がHUD装置100の画像の表示光K1(可視光線)を反射し、撮像対象である人(運転者)の目(視点)の撮像光K2(赤外線)は透過する波長選択性を有するフィルタとしての機能をもっていてもよい。
【0071】
この波長選択性は、例えばガラス基材に、誘電体多層膜からなる波長選択コーティングを施すことで実現可能である。波長選択コーティングは、波長が異なる2つの光のうち、一方は反射してもう一方は透過するという様に、光学的特性を劇的に変化させることが可能であり、光学的な損失の少ないフィルタ(あるいは、ビームスプリッタ)となり得る。但し、一例であり、この例に限定されるものではない。他の例として、例えば、HUD装置100の画像の表示光K1(可視光線)を反射し、撮像対象である人(運転者)の目(視点)の撮像光K2(赤外線)は透過する波長選択性を有するフィルタは、金属ワイヤグリッド偏光板や液晶ポリマー等であり,表示光K1(可視光線)と撮像光K2(赤外線)との偏光特性を異ならせることで、透過/反射の制御を行ってもよい。すなわち、平面ミラー110又は曲面ミラー112は、所定の第1の偏光方向を有するHUD装置100の画像の表示光K1(可視光線)を反射し、第1の偏光方向と異なる第2の偏光方向を有する撮像対象である人(運転者)の目(視点)の撮像光K2(赤外線)は透過する偏光特性を有するフィルタとしての機能をもっていてもよい。
【0072】
光学系55の構成要素である平面ミラー110、曲面ミラー(凹面鏡等)112、窓部116(これらは、撮像画像データ補正システムの光学系55に含まれる光学部材の少なくとも一部ということができる)は、表示装置104から出射される画像の表示光K1を、ハウジング102の外に出射する際にも使用される。言い換えれば、それらの光学部材は、撮像系と画像表示系の2つの系で共用される光学部材ということができる。光学部材の共用化によって、部品点数の増大を効果的に抑制することができ、HUD装置100の小型化が実現されている。
【0073】
HUD装置100内の補正処理部183によって補正された画像データは、視点検出部191に供給される。視点検出部191は、例えばパターンマッチング等の手法を用いて目(視点)を識別(検出)し、目位置を示す座標を算出して、配光制御部195に供給する。配光制御部195は、画像の表示光K1(スポット光)を、検出された目の位置に向けて出射するために、例えば曲面ミラー112の駆動部(アクチュエータ)114を回転駆動する。
【0074】
また、
図2では、照明部(赤外線光源)50を視認者(運転者)5の斜め前方に設けている。この照明部50は、運転者の目(視点)Eを照明している。但し、照明部50は、HUD装置100のハウジング102の内側に設けてもよく、また、ハウジング102の外側に取り付けてもよい。
図2では、ハウジング102の外側に取り付けた照明部を点線で示し、符号50’を付している。
【0075】
照明部50’が設けられるときは、例えば、インパネル6の一部に開口OPを設け、この開口OPから、赤外線を視認者5の目Eに照射してもよい。
【0076】
運転者5は、ステアリングホイール8を操作して車両1を運転している状態で、前方の虚像表示面PS上に、虚像Vを視認することができる。これによって、例えばナビゲーション用の有用な情報等を、目視によって容易に取得することができる。
【0077】
図2の構成によれば、カメラ(赤外線カメラ(近赤外線カメラを含む))108と、撮像画像データ補正装置(
図1の符号160)と、をHUD装置100のハウジング(筐体)102内に取り込むことができる。
【0078】
また、HUD装置100の画像表示用の光学系の光学部材の少なくとも一部(平面ミラー110や曲面ミラー112等)を、撮像対象(目)からの光をカメラ108に導く光学部材としても利用(共用)できるため、光学部材の新規の追加を必要最小限に抑制し、光学部材の追加設置の負担を軽減することができる。
【0079】
また、上述した撮像画像データ補正装置160(
図1参照)がHUD装置100に内蔵されているため、迅速に、高精度の補正(上記のz座標のばらつきに起因するx、y座標のばらつき補正と、光学系に起因する画像歪みの補正)を実施することができ、画像処理の性能も向上する。
【0080】
この構成によれば、カメラによる撮像系、及びHUD装置本来の画像表示系がHUD装置100のハウジング102内にあるため、各系を別個に設けて通信により接続したり、ケーブルで接続したりする場合に比べて、システム全体を小型化することができる。
【0081】
また、HUD装置100のユーザー(運転者等)から見て、カメラや、撮像画像データ補正システムを、目立たせることなく、それらを車載することができ、見栄えを気にする必要もなくなる。また、すっきりとした視覚を提供することができ、デザインの観点からも優れている。
【0082】
また、各系が1つのハウジング102に内蔵されるため、カメラ108を、HUD装置100とは別に取り付ける作業が不要であり、作業者の負担が軽減される。先に示した特許文献1のように、ステアリングコラムに取り付けたカメラの回動(移動)に伴う画像の歪みを電気的に補正する必要もない。
【0083】
また、カメラによる撮像系、及びHUD装置本来の画像表示系を、例えば、ハウジング102内で、短い配線で接続して使用でき、信号遅延や通信ノイズの混入を抑制することができる。よって、撮像対象(例えば人の目の位置)の検出精度を向上させることができ、また、迅速な検出も可能である。このことは、運転者5の視点に追従した高速な配光制御等の実現に資するものである。
【0084】
また、
図2のHUD装置100のハウジング102内には、撮像画像データ補正システムが出力する、補正後の画像データに基づいて、視認者(運転者)5の目の位置を検出する視点検出部191と、視点検出部191による視点位置検出結果に基づいて、画像の表示光K1の配光を制御する配光制御部195と、が設けられている。
【0085】
この構成によれば、人(運転者等)5の目(視点)Eをカメラ108で撮像して、その撮像画像を迅速に、かつ高精度に補正し、補正後の画像データに基づいて、視点検出部191が視点位置を検出し、その視点検出結果に基づいて、配光制御部195が、視点位置に追従して、画像の表示光K1の配光を適応的に変更する配光制御を実施することができる。よって、高性能のHUD装置が実現される。
【0086】
また、上述したように、カメラ108は、赤外波長帯域の光に感度を有するカメラ(広義の赤外線カメラ)である。なお、赤外波長帯域の光は広く解釈するものとし、遠赤外線、近赤外線、赤外線を含むことができる。人の部位(顔や目を含む)の検出を例にとると、好ましい一例としては、近赤外線に感度を有する近赤外線カメラを使用することができる。
【0087】
赤外線カメラを用いると、例えば、夜間の暗い環境であっても、あるいは、人がサングラスを掛けているときでも、人の目をはっきりと撮像できるという利点がある。
【0088】
また、
図2の例では、撮像対象である人の目に赤外波長帯域の光を照射する照明部50が、ハウジング102の内部に設けられてもよく、又は、ハウジング102の外側において、ハウジングに取り付けられていてもよい(点線で示される照明部50’参照)。
【0089】
これにより、照明部50、カメラ(近赤外線カメラ等)108、及び撮像画像データ補正装置160(これらは、赤外線撮像システムの主要な構成要素である)を、HUD装置100にすべて取り込むことができ、使い勝手がよく、高性能なHUD装置100を実現することができる。
【0090】
次に、
図3を参照する。
図3(A)は、複数の補正用基準点が設けられた基準面(歪み無し)を示す図、
図3(B)は、光学系を介して基準面を撮像して得られた、光学系による歪みの影響を受けた基準面を示す図である。
【0091】
図3(A)の基準平面52(複数の基準点Pを有する)は、先に説明した光学系(
図1の符号55)に起因する歪みの影響で、
図3(B)の基準平面52’のように、その外観が、かなり変形されてしまう。
【0092】
図3(B)の場合は、光学系に起因する歪み(第2の誤差)の影響のみを考慮している。しかし、実際は、z軸方向の奥行き距離(z座標値)の測定誤差(第1の誤差)による歪みも生じている。
【0093】
ここで、
図4を参照する。
図4(A)は、複数の補正用基準点が設けられた基準面(歪み無し)を示す図、
図4(B)は、光学系による歪みのみの影響を受けた基準面と、光学系による歪み、及びz座標の測定誤差に起因する歪みの双方の影響を受けた基準面との外観の相違を示す図である。
【0094】
図4(A)は
図3(A)と同じである。
図4(B)において、黒塗りの3角形で示される補正用基準点P’を備える、実線の基準面52’は、
図3(B)で示した、光学系の歪みのみの場合の基準面である。
【0095】
一方、黒塗りの丸で示される補正用基準点P’’を備える、点線の基準面52’は、光学系の歪みに加えてz座標の測定誤差による歪みが加わった場合の基準面である。z座標の測定誤差が加重されることで、基準面52’の歪みは、さらに大きくなっていることがわかる。
【0096】
次に、
図5を参照する。
図5は、z座標の測定誤差が、x,y座標の測定誤差(正規の座標からのズレ)の要因となることを示す図である。
図5の右側の図は、先に示した
図4の右側の図と実質的に同じである。
【0097】
図5に示されるように、基準面52の複数の補正用基準点Pをカメラ108で撮像すると、各補正用基準点は、理想的には、画像空間におけるカメラ視点Qを起点として距離Z1の位置にある、一点鎖線で示される平面(画像平面、画像空間上のx、y平面)zS(z1)上の点P11~P20として検出(撮像)されるはずである。
【0098】
しかし、実際は、各補正用基準点Pのz座標の実測値は誤差を含んでいる。各z座標値は、点R1~点R10のように大きくばらつく。各点R1~R10の位置は、画像平面を基準として、z軸の正側(奥側)にばらつくこともあり、負側(手前側)にばらつくこともある。
【0099】
図5の例では、このばらつきを無視して、実測された各点R1~R10のz座標値をそのまま採用していることから、z座標の測定誤差に起因してx、yの各座標値の誤差が生じ、よって、撮像画像データ52’にかなりの歪みが生じる。
【0100】
次に、
図6を参照する。
図6は、z座標の測定誤差による画像の歪みを補正する射影変換(第1の補正処理)の原理を示す図である。
【0101】
図6において、誤差を含む点R1~R10の各々と、カメラによる撮像点(カメラ視点)Qとを結ぶ線分を描き、各線分と画像平面zS(z1)との交点の位置に、補正された点P11~P20を配置する。言い換えれば、点R1~R10は、z座標の測定誤差がない理想的な撮像が行われたとするならば、画像空間において点P11~P20として検出(撮像)されたはずである。よって、点P11~P20が、z座標値の測定誤差を補正した後の補正用基準点を示している。
【0102】
次に、z座標の測定誤差を補正する処理(第1の補正処理)について、具体的に説明する。ここで、
図10(A)を参照する。
図10(A)は、第1の補正処理の内容を示す図である。
【0103】
図10(A)において、z座標に誤差を含む測定点R30(あるいはR30’)を、画像平面zSに射影変換して、変換後(補正後)の点P30を算出する場合を想定する。
図10(A)では、太線で示される2つの3角形が示されている。この2つの3角形は相似形であり、相似比は、zS/zS’である。変換された点P30のy座標は、yS’に上記の相似比を乗算して得られる。x座標についても同様である。
【0104】
よって、この演算は、下記の式1-1、1-2で示される第1の補正行列を用いた演算によって表わすことができる。
xS’’=xS’・zS/zS’ ・・・ 式1-1
yS’’=yS’・zS/zS’ ・・・ 式1-2
【0105】
言い換えれば、撮像された各補正用基準点を、画像空間上での本来のxy平面(z座標値が既知である画像平面)上へと射影(投影)変換する際、具体的には、各基準点の画像空間におけるx座標及びy座標である(xS’、yS’)は、式1-1、式1-2を用いて(xS’’、ys’’)へと変換される。(xS’、yS’)は変換前の第1の座標であり、(xS’’、ys’’)は変換後の第2の座標である。式1-1、1-2は、具体的には、相似する3角形の相似比を用いた演算式を示す。
【0106】
上述のとおり、zS/zS’が相似比を示す。ここで、zS’は、撮像された各補正用基準点の、画像空間におけるz座標値(z座標の測定値)である。zSは、実空間に設定される基準平面に対応する、画像空間における平面(画像平面)のz座標であり、言い換えれば、補正用基準点が設定されている基準平面の既知のz座標値(一定)と等価である。この演算によって、各補正用基準点のz座標値のばらつきを補正することができる。
【0107】
(第2の実施形態)
図7に戻って説明を続ける。
図7は、実空間において、撮像対象である人の目(視点)が移動した場合に、z座標値が最も近い基準面に対応する補正行列(第1の補正行列)を選択することを説明するための図である。
【0108】
第2の実施形態では、撮像対象(ここでは人の視点)がカメラ108の光軸方向(z軸方向)に移動する可能性があることを考慮して、予め、カメラ108からの距離が異なる複数の基準平面を想定して、各基準平面毎に、z座標値(z軸に沿う奥行き距離)のばらつきを補正する行列(第1の補正行列M1)を用意し、記憶装置185(
図1参照)に記憶させておく。そして、実際の撮像対象(視認者としての運転者5)の位置に最も近い基準平面に対応した補正行列(第1の補正行列M1)を選択して使用する。
【0109】
撮像対象(人の視点)がカメラから遠ざかると、画像平面(画像空間におけるxy平面)上での視点の移動量は実空間での移動量よりも小さく認識され、逆に人の視点がカメラに近づくと、画像平面上での視点の移動量は実空間での移動量よりも大きく認識される傾向が生じる。
【0110】
そこで、人の視点の位置がz軸方向に沿って変化したとき、人の視点のz座標に合わせて適切な補正行列(第1の補正行列)を選択し、その選択された補正行列を使用して補正演算を行うことで、カメラと人との間の距離に依らず、画像平面上での視点の移動量を実空間での移動量により近づけて、より正確な補正が可能となる。よって、人の視点の座標(x,y)をより正確に検出することができる。
【0111】
図7において、斜線が施されている領域は、撮像対象である視認者(運転者)5の、z軸に沿う方向の可動範囲を示す領域である。この可動範囲内において、z座標値が異なる3つの座標z1~z3が設定されている。この3つのz座標の各々に対応して、zS(z1)~zS(z3)の各画像平面が定まる。
【0112】
各々の画像平面(言い換えれば、3つのz座標値の各々)に対応して、第1の補正行列が複数、設けられる。補正処理部183(
図1、
図2を参照)は、複数の第1の補正行列M1の中から、カメラ108による撮像に基づいて取得された撮像対象(視認者)のz座標値に、もっとも近いz座標に対応した第1の補正行列M1を選択する。
図7の例では、z座標がz1である画像平面zS(z1)に対応した第1の補正行列M1が選択される。
【0113】
(第3の実施形態)
図8は、複数の第1の補正行列を使用する場合において、座標空間におけるz座標が異なる基準面間の間隔を、z座標の測定誤差の最大値(最大のズレ幅)よりも大きく設定する例を示す図である。
【0114】
第3の実施形態では、先に説明した第2の実施形態において、z軸に沿う方向の可動範囲内に設定される複数のz座標同士の間隔を、複数の補正用基準点をカメラで撮像した場合の、z座標値についての測定誤差である第1の誤差の最大値(最大ブレ幅)よりも大きく設定する。
【0115】
上記のとおり、撮像対象の実際の位置に最も近い基準平面(画像平面)に対応する補正行列を選択することになるが、その選択に際しては、補正用基準点のz座標の測定ばらつきを考慮する必要がある。
【0116】
例えば2つの補正行列が用意される場合を想定すると、z座標のばらつき量が小さいときは、「一方の補正行列」が選択され、z座標のばらつき量が大きいときは、その大きなばらつきの座標点を基準として「他方の補正行列」が選択される、といった現象が生じる場合がある。
【0117】
言い換えれば、撮像対象のz座標に合わせて補正行列を選択するとき、撮像対象の実際の位置は変化していないにも関わらず、z座標値の測定ばらつきの大小に応じて、短い時間内に使用する補正行列が切り替わることが生じ得る。この場合には、補正の精度が低下する。また、異なる補正行列の切り替えが何回も繰り返される事態も生じ得ることにもなり、この場合は補正結果が不安定となるのは否めない。
【0118】
そこで、異なる補正行列の各々に対応する基準平面(画像平面)のz座標の間隔を、予測されるz座標値の最大のブレ幅よりも大きくして、十分なノイズマージンを確保しておく。これにより、大きな測定誤差が生じたとしても、使用する補正行列が切り替わることが防止される。よって、補正精度の低下や補正結果の不安定化を、確実に防止することができる。
【0119】
図3において、画像平面zS(z1)に関しては、測定点R14とR15のz座標値の差が、z座標値の最大ブレ幅Δz1となる。また、画像平面zS(z3)に関しては、測定点R140とR150のz座標値の差が、z座標値の最大ブレ幅Δz3となる。ここで、カメラ視点Qから遠ざかるほど、ブレ幅は大きくなることから、Δz1<Δz3である。よって、予測されるz座標値の最大値(予測値)は、Δz3(=ΔzMAX)となる。
【0120】
画像平面zS(z1)と、zS(z3)の各z座標値の差分Δ(z3-z1)は、最大ブレ幅であるΔzMAXよりも大きく設定される(Δ(z3-z1)>ΔzMAX)。これによって、最大のブレ幅のz座標値の変動が生じたとしても、その変動は、ノイズマージン内に収まることから、使用する補正行列が短時間に切り替わるといった事態が防止される。
【0121】
(第4の実施形態)
図9は、第1、第2の補正行列を用いた撮像画像の補正の手順例、及び、補正された画像データを用いた配光制御の手順例を示す図である。
【0122】
第4の実施形態では、第1、第2・・・第nの補正行列を使用するとき、第1の補正行列を作成するときのみ、基準平面を設定して補正用基準点のカメラによる撮像を実施する。第2~第nの補正行列の作成に関しては、カメラによる撮像は行わず、すでに取得されている第1の補正行列作成時に得られたx、yの各座標値を利用して、演算によって補正行列を算出する。
【0123】
言い換えれば、複数の第1の補正行列を、第1~第n(nは2以上の自然数)の第1の補正行列とし、第1~第nの各第1の補正行列が対応するz座標値をz1~znとし、第1(n=1)の第1の補正行列の補正対象である、カメラによって補正用基準点を撮像して得られる各点のx座標値及びy座標値をx1’、y1’とし、第nの第1の補正行列によって変換された後の各点のx座標値及びy座標値をxn’、yn’とするとき、
第nの前記第1の補正行列は、
前記x1’、y1’を用いて、
xn’=x1’・(1+(zn-z1)/z1) ・・・ 式2-1
yn’=y1’・(1+(zn-z1)/z1) ・・・ 式2-2
で表される、上記式2-1、2-2の演算を実施するものであってもよい。式2-1、2-2により、第nの第1の補正行列(z座標の補正行列)が定まる。上記の式2-1、2-2は、射影(投影)変換の一種であり、3角形の相似を利用して上記の式を導出することができる。
【0124】
これによって、複数の補正行列を採用する場合でも、カメラからのz軸方向における距離を異ならせて、何回も基準平面を実測する必要がなく、作業者の負担が増えることもない。
【0125】
上記式2-1、2-2について、
図10(B)を参照して、具体的に説明する。
図10(B)は、第1の補正処理において、第1~第nの複数の第1の補正行列を用意する必要があるとき、取得済みのデータを用いて、第nの、第1の補正行列を演算により算出する手法を説明するための図である。
【0126】
図10(B)では、太線で示される、2つの相似形である3角形に着目する。上記の式2-2(y座標を変換する式)は、
図10(B)における点P1を、Pnへと変換することを示している。
【0127】
点P1のz座標をz1とし、y座標をy1’とする。点Pnのz座標をznとし、y座標をyn’とする。各点のz座標の差は、zn-z1である。ここで、2つの3角形の相似比は、(zn-z1)/z1である。
【0128】
この点を考慮すると、yn’=y1’+y1’(zn-z1)/z1となる。これは、式2-2の演算内容と同じである。式2-1についても同様である。このように、3角形の相似を用いた演算により、第nの補正行列を算出することができる。よって、補正行列を作成するために、3次元空間に基準平面をその都度、設定して、補正用基準点を撮像する手間を省くことができる。
【0129】
(第5の実施形態)
図9は、第1、第2の補正行列を用いた撮像画像の補正の手順例、及び、補正された画像データを用いた配光制御の手順例を示す図である。第5の実施形態では、補正処理及び配光制御の手順例について説明する。
【0130】
ステップS110では、z座標変換用の第1の射影変換行列(第1の補正行列)の作成と記憶処理を実施する。ステップS111において、曲面の反射面又は透過面を備える光学系を介して赤外線カメラで基準となる画像(例えば複数の基準点をもつ格子状画像)を撮像する。ここで、光照射部(光源)は、光学系と赤外線カメラを備える装置(例えばHUD装置)に設置することも可能である。
【0131】
ステップS112では、各点のz座標値を検出、あるいは推定する。例えば、実測によりz座標値を検出することができる。また、z座標値を実測せず、x、yの各座標値に着目して、z座標値を推定することもできる。
図4(B)に示したように、z座標の測定誤差が無い場合のパターンと、誤差が有る場合のパターンとはかなりの差がある。そこで、誤差がない場合のパターン(基準パターン)を予め登録しておき、撮像により得られた誤差のあるパターンを、基準パターンと比較する。各点のx、yの座標値が、基準パターンのx、y座標値とどのようにズレているかを比較観察し、そのズレの程度、ズレの傾向から、z方向の誤差(z座標のズレ)を推定することができ、これによって、z座標値を推定することができる。
【0132】
次に、座標補正用の第1の射影変換行列(第1の補正行列)を演算により生成する。先に説明したように、第1の射影変換行列は、例えば、測定されたz座標を、各点とカメラ視点とを通る直線とカメラ視点から所定距離に位置するz座標平面との交点の位置へと射影変換する行列である。
【0133】
ステップS113では、求められた第1の射影変換行列をメモリ(記憶装置)に保存する。また、ステップS114では、必要に応じて、光学系の歪み補正用の射影変換行列(第2の補正行列)を演算により生成する。第2の補正行列は、予め作成して、メモリ(記憶装置)に保存しておいてもよい。
【0134】
ステップS121では、測定対象(例えば視点(目)位置、顔、顔の部位等)の位置の検出処理を実施する。ステップS122では、測定された画像データについて、第1の射影変換行列によるz座標変換(座標補正処理)を実施する。
【0135】
ステップS123では、座標補正後のデータに対して、第2の射影変換行列(第2の補正行列)を用いて、光学系による歪み除去用の補正を実施する。ステップS124では、歪み除去後のデータに基づいて、測定対象の位置検出処理(画像処理等)を実施する。
【0136】
以上説明したように、本発明によれば、撮像対象とカメラとの間に光学系が介在する場合における撮像精度を向上させることができる。また、本発明によれば、赤外線カメラによる撮像対象の撮像システムをハウジング内に組み込んだ、高性能なHUD装置を実現することができる。
【0137】
なお、上記実施形態のHUD装置100は、平面ミラー110の裏側又は曲面ミラー112の裏側にカメラ108を設けるものであったが、これに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、カメラ108は、視認者に向かう画像の表示光K1の光路上ではない窓部116の裏側(ウインドシールド2と反対側)に、ウインドシールド2に向いて配置されてもよい。また、カメラ108は、窓部116の周辺(例えば、窓部116の横方向(x軸方向)に隣接する位置、又は窓部116の車両の前後方向に隣接する位置。)に、ウインドシールド2に向いて配置されてもよい。
【0138】
本明細書において、車両という用語は、広義に、乗り物としても解釈し得るものである。また、ナビゲーションに関する用語(例えば標識等)についても、例えば、車両の運行に役立つ広義のナビゲーション情報という観点等も考慮し、広義に解釈するものとする。また、HUD装置や表示器装置(及び広義の表示装置)には、シミュレータ(例えば、航空機のシミュレータ、ゲーム装置としてのシミュレータ等)として使用されるものも含まれるものとする。
【0139】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【0140】
例えば、本発明は、測定によって得られたx、y、zの各座標値に誤差(Δx、Δy、Δz)が含まれる場合にも適用することができる。
【0141】
図11を参照する、
図11(A)は、測定により取得された測定点のz座標値のみに誤差(Δz)が生じている例を示す図、
図11(B)は、測定点のx、y、zの各座標値に誤差(Δx、Δy、Δz)が生じている例を示す図、
図11(C)は、
図11(B)の例に対応した、測定点に基づいて撮像空間に構築される基準平面の状態を示す図である。
【0142】
図11(A)において、測定によって取得された座標点R(xS’、yS’、zS’)は、撮像空間(撮像画像を表示するための、実空間に対応する仮想的な空間)において、z座標値についての測定誤差Δzを含んでいる。
なお、本来の座標点Pは、x、y、zの各軸の交点に位置する。また、符号77は、z座標値についての測定誤差Δzのみを問題とする場合における基準面(第1の基準面)である。なお、「基準面」は、「基準平面」と言い換えることができる。
【0143】
図11(B)では、測定によって取得された座標点W(xS’、yS’、zS’)は、撮像空間において、x、y、zの各座標値についての測定誤差Δx1、Δy1、Δz1を含んでいる。
なお、
図11(B)では、仮想的な立方体79を想定し、その立方体79内の空間内で、測定誤差Δx1、Δy1、Δz1が生じ得る。
【0144】
図11(C)に示されるように測定誤差Δx1、Δy1、Δz1が存在することを前提として、撮像空間において、基準面(基準平面)52’’を再現すると、その基準面(基準平面)52’’は、かなり大きな歪みを有する。例えば、1つ1つの格子の外形は、本来は正方形であるが、
図11(C)は、横長の長方形に近い形状となっている。
よって、この歪み(格子形状の変形)を補正する必要がある。
【0145】
次に、
図12を参照する。
図12は、第3の補正行列、又は第5の補正行列を用いた座標値の補正を説明するための図である。
【0146】
先に示した
図1の記憶装置185には、第1、第2の補正行列に加えて、第3、第4、第5、第6の補正行列が記憶されている。
補正処理部183は、取得された座標点W(xS’、yS’、zS’)の、x、y、zの各座標値に測定誤差が含まれるものとして補正処理を実施する場合には、第3及び第4の補正行列を用いて、あるいは、第5及び第6の補正行列を用いて補正処理を実施する。
【0147】
第3の補正行列は、y、zの各座標値についての測定誤差が含まれるyS’及びzS’を、座標(xS、yS’’’、zS’’’(但し、xSは、先に
図1で示した基準平面(基準面)52の既知のx座標値に等しい一定値))における、yS’’’及びzS’’’に変換する、座標変換用の射影変換行列である。射影変換としては、例えば、先に示した
図5、又は、
図6に記載されるものと同様の射影変換を利用できる。
この第3の補正行列を用いた補正処理TR1によって、測定によって取得された座標点W(xS’、yS’、zS’)は、座標点W’(xS、yS’’’、zS’’’)に変換される。
よって、x座標値についての測定誤差Δxの影響が抑制され、歪みの程度を軽減することができる。
【0148】
また、第4の補正行列は、上記の座標値yS’’’及びzS’’’に、光学系による歪み特性とは逆の歪みを与えて座標を変換し、光学系による歪みを抑制する歪み除去用の変換行列である。
【0149】
また、第5の補正行列は、x、zの各座標値についての測定誤差が含まれる前記xS’及びzS’を、座標(xS’’’’、yS、zS’’’’(但し、ySは、基準平面(基準面)の既知のy座標値に等しい一定値))における、xS’’’’及びzS’’’’に変換する、座標変換用の射影変換行列である。射影変換としては、例えば、先に示した
図5、又は、
図6に記載されるものと同様の射影変換を利用できる。
【0150】
この第5の補正行列を用いた補正処理TR2によって、測定によって取得された座標点W(xS’、yS’、zS’)は、座標点W’’(xS’’’’、yS、zS’’’’)に変換される。
よって、y座標値についての測定誤差Δyの影響が抑制され、歪みの程度を軽減することができる。
また、第6の補正行列は、上記の座標xS’’’’及びzS’’’’に、光学系による歪み特性とは逆の歪みを与えて座標を変換し、光学系による歪みを抑制する歪み除去用の変換行列である。
【0151】
補正処理部183が、第3、第4の補正行列を用いた補正処理を実施することで、又は、第5、第6の補正行列を用いた補正処理を実施することで、撮像対象(例えば、運転者の目)の検出精度を向上させることができる。
【0152】
次に、
図13を参照する。
図13は、第4の補正行列を複数用意しておき、その中から1つを選択する例を示す図である。
例えば、測定によって取得された座標値が測定誤差Δxを含む場合と、含まない場合を想定する。前者と後者では、赤外光がカメラに到達するまでの軌跡に差が生じる。
言い換えれば、車両1のウインドシールド2で反射される位置が異なる、ということである。
よって、光学系の歪とは逆特性の歪みを与える処理(ワーピング処理)に際しても、そのウインドシールド2における反射位置の差を考慮して、より適切な補正行列(より適切な第4の補正行列)を選択するのが好ましい。
【0153】
そこで、
図13に示されるように、第4の補正行列を用いた補正処理を実施する場合において、x軸に沿う方向に、所定間隔ΔxSで複数のx座標値xS1~xSnが設定されており、そのx座標値xS1~xSnの各々に対応して、第4の補正行列G1~Gnが設けられている。
【0154】
補正処理部183は、複数の第4の補正行列G1~Gnの中から、測定によって取得されたx座標値xS’に、もっとも近いx座標に対応した第4の補正行列(
図13の例ではG1)を選択し、選択された第4の補正行列G1を用いた補正演算を実施する。よって、適切な第4の補正行列を用いた補正処理が実施され、補正精度が向上する。これにより、撮像対象(例えば運転者の目)の位置の検出精度が向上する。
【0155】
なお、前記第6の補正行列を用いた補正処理を実施する場合においても同様である(図示は省略する)。
言い換えれば、y軸に沿う方向に設定される複数のy座標値の各々に対応して、複数の第6の補正行列が設けられ、補正処理部183は、複数の第6の補正行列の中から、測定によって取得されたy座標値に、最も近いy座標に対応した第6の補正行列を選択し、選択された第6の補正行列を用いた補正演算を実施する。得られる効果は、
図13の例と同様である。
【0156】
次に、
図14を参照する。
図14は、第6の補正行列を複数用意しておき、そのうちの2つを用いて、加重平均(重み付き平均)演算を実施する例を示す図である。
図14の例では、
図13の例と同様に、光学系の歪とは逆特性の歪みを与える第4、第6の補正行列について最適化を実施する。
【0157】
但し、
図14の例では、測定によって取得されたx座標に、最も近い座標値に対応する補正行列(これを「直近の補正行列」と称する)と、2番目に近い座標値に対応する補正行列(これを「準直近の補正行列」と称する)と、を用いて、加重平均(重み付き)平均演算を実施することで、撮像対象の検出精度を、さらに向上させる。
【0158】
以下、第4の補正行列を用いた補正処理を実施する場合について説明する。
図14に示されるように、x軸に沿う方向に設定される複数のx座標値xS1~xSnの各々に対応して、複数の第4の補正行列G1~Gnが設けられている。
【0159】
補正処理部183は、複数の第4の補正行列G1~Gnの中から、測定によって取得されたx座標xS’に、最も近いx座標に対応した、「直近の第4の補正行列G1」と、2番目に近いx座標に対応した、「準直近の第4の補正行列G2」とを選択する。
そして、
図14(B)に示すように、測定によって取得されたx座標値xS’と、最も近いx座標xS1との距離を第1の距離L1とし、また、X座標xS’と2番目に近いx座標との距離を第2の距離L2とする。
なお、距離L1、L2、Lは、例えば、2つのx座標の差の絶対値を算出することで求めることができる。
また、L1/(L1+L2)で表される第1の重み付け係数k1と、L2/(L1+L2)で表される第2の重み付け係数k2と、を算出する。
【0160】
そして、直近の第4の補正行列、準直近の第4の補正行列、及び、第1、第2の重み付け係数k1、k2を用いた加重平均(重み付き平均)による補正演算を実施する。
【0161】
実質的には、
図14(B)の右側に示されるような、GS’=G1・k1+G2・k2という演算を実施することになる。ここで、k1=L1/L、k2=L2/Lである。
この結果として得られたGS’は、測定点W(xS’、zS’)のx座標値xS’に対応するように、新たに合成された第4の補正行列である。
このようにして得られた第4の補正行列GS’を用いることで、補正の精度を高めることができる。
【0162】
また、第6の補正行列を用いた補正処理を実施する場合には、同様に、y軸に沿う方向に設定される複数のy座標値の各々に対応して、第6の補正行列が複数、設けられており、補正処理部183は、複数の第6の補正行列の中から、測定(撮像)によって取得されたy座標値に、最も近いy座標に対応した、直近の第6の補正行列と、2番目に近いy座標に対応した、準直近の第6の補正行列とを選択すると共に、測定によって取得されたy座標値と、最も近いy座標との距離を第3の距離L3とし、測定によって取得されたy座標値と、2番目に近いy座標との距離を第4の距離L4とする場合に、L3/(L3+L4)で表される第3の重み付け係数k3と、L4/(L3+L4)で表される第4の重み付け係数k4と、を算出し、直近の第6の補正行列、準直近の第6の補正行列、及び、第3、第4の重み付け係数k3、k4を用いた加重平均(重み付き平均)による補正演算を実施する。
【0163】
内容的には、第4の補正行列を用いる場合と同様であり、図示は省略する。また、得られる効果も、第4の補正行列を用いる場合と同様である。
【0164】
次に、
図15を参照する。
図15(A)、(B)は、第1の補正行列による補正演算の後、さらに、第3及び第4の補正行列の少なくとも一方を用いた演算によって得られた座標値を用いて、リサイズ処理を実施する補正処理例を示す図である。
【0165】
図15の例では、先に
図5や
図6で示した第1の補正行列と、
図12で示した第3及び第4の補正行列の少なくとも一方と、を併用する新たな補正手法によって、撮像対象(例えば、運転者の目)の検出精度を、さらに向上させる。
x、y、zの各座標値についての測定誤差Δx、Δy、Δzを問題とする場合には、第1の補正行列(Δzのみを補正する補正行列)による補正処理では、歪み除去効果が低下する。
【0166】
言い換えれば、第1の補正行列では、
図15(A)に示される、z座標値がzSである基準平面77(便宜上「第1の基準平面77」と称する)に、測定された座標を射影変換していたが、測定誤差Δx、Δy、Δzを問題とする場合は、Δx、Δy、Δzを考慮した「新たな基準面(基準平面)」を設定する必要がある。
【0167】
ここで検討すると、
図12で説明した第3の補正行列を用いた補正処理によって得られる「zS’’’」をz座標値とする「第2の基準面(基準平面)」、あるいは、第5の補正行列を用いた補正処理によって得られる「zS’’’’」をz座標値とする「第3の基準面(基準平面)」が、より適切な基準面となり得ると考えられる。
図15(A)において、第2の基準面(基準平面)は破線で示されると共に、符号81が付されている。また、第3の基準面(基準平面)は破線で示されると共に、符号83が付されている。
【0168】
図15(B)に示されるように、測定された座標点W(xS’、yS’、zS’)は、まず、第1の補正行列を用いて、座標点W3(xS’’、yS’’、zS)に射影変換される。
次に、リサイズ処理によって、例えば、座標点W3を、座標点W4に射影変換したり(
図16(C)の算出式を参照)、あるいは、座標点W5に変換したりする(
図16(D)の算出式を参照)。
また、x座標とy座標とを区別し、x座標については、W3からW4への変換を実施し、y座標については、W3からW5への変換を実施する場合もあり得る(
図16(B)の算出式を参照)。
【0169】
次に、
図16を参照する。
図16(A)~(D)は、リサイズ処理の例を示す図である。
図16(A)に示されるように、上記のようなリサイズ処理は、三角形の相似を利用して表現することができる。
リサイズ処理としては、
図16(B)、(C)、(D)の各々に示される算出式を用いることができる。
【0170】
以下、
図16(B)の算出式を用いる場合について、補正処理の全体の内容を具体的に説明する。
補正処理部183は、x、y、zの各値に測定誤差を含む、取得された第1の座標(xS’、yS’、zS’)に対して、まず、第1の補正行列を用いた補正処理を実施して、xS’及びyS’を、第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、基準平面の既知のz座標値に等しい一定値))における、xS’’及びyS’’に変換する。
次に、第3の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値であるzS’’’と、第5の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値であるzS’’’’と、を用いて、
xS’’’’’=xS’’・zS’’’/zS ・・・ 式5-1
yS’’’’’=yS’’・zS’’’’/zS ・・・ 式5-2
で表される、上記式5-1、5-2の演算を実施する。
【0171】
続いて、算出されたxS’’’’’及びyS’’’’’に対して、第2の補正行列を用いた、光学系による歪み特性とは逆の歪みを与える処理を実施する。
リサイズ処理において、第1の補正行列による演算で得られた「xS’’」については、第2の基準面(
図15(A)の符号81)へと再度、射影変換して、その大きさを拡大あるいは縮小する第1のリサイズ処理が実施される(式5-1参照)。
ここで、第2の基準面81を選択するのは、第3の補正行列が、x座標値を既知の「xS」に補正する補正行列であり、その補正演算の結果を利用して設定される第2の基準面81の方が、x座標のリサイズには適している(より精度の高い補正ができる)と考えられるからである。
【0172】
一方、第1の補正行列による演算で得られた「yS’’」については、第3の基準面(
図15(A)の符号83)へと再度、射影変換して、その大きさを拡大あるいは縮小する第2のリサイズ処理が実施される。
第3の基準面83を選択するのは、第5の補正行列が、y座標値を既知の「yS」に補正する補正行列であり、その補正演算の結果を利用して設定される第3の基準面83の方が、y座標のリサイズには適している(より精度の高い補正ができる)と考えられるからである。
【0173】
この第1、第2のリサイズ処理によって得られたx座標値を「xS’’’’’」とし、y座標値を「yS’’’’’」とし、z座標値については、「zS’’」又は「zS’’’」を採用することで、より本来の座標値に近い、精度の高いx、y、zの各座標値が得られる。
【0174】
その得られた各座標値について、第2の補正行列を用いた演算を実施し、光学系による歪とは逆の歪みを与えることで、より精度の高い測定座標を取得することができる。
【0175】
次に、
図17(C)の算出式を用いる場合について説明する。
補正処理部183は、x、y、zの各値に測定誤差を含む、取得された前記第1の座標(xS’、yS’、zS’)に対して、第1の補正行列を用いた補正処理を実施して、xS’及びyS’を、第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、基準平面(基準面)の既知のz座標値に等しい一定値))における、xS’’及びyS’’に変換する。
次に、第3の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値であるzS’’’を用いて、
xS’’’’’=xS’’・zS’’’/zS ・・・ 式6-1
yS’’’’’=yS’’・zS’’’/zS ・・・ 式6-2
で表される、上記式6-1、6-2の演算を実施する。
次に、算出されたxS’’’’’及びyS’’’’’に対して、第2の補正行列を用いた、光学系による歪み特性とは逆の歪みを与える処理を実施する。
式6-1、6-2を用いる場合は、第1の補正行列による演算で得られた「xS’’」及び「yS’’」を、共に第2の基準面(
図15(A)の符号81)へと再度、射影変換して、その大きさを拡大あるいは縮小する第3のリサイズ処理を実施する。
この場合も、式6-1、式6-2を用いる場合と、同様の効果が得られる。また、「xS’’」及び「yS’’」の各々について、共通の第2の基準面81を使用したリサイズ処理を実施するため、リサイズ処理に伴う補正処理部183の負担が少いという利点もある。
【0176】
次に、
図17(D)の算出式を用いる場合について説明する。
補正処理部183は、x、y、zの各値に測定誤差を含む、取得された第1の座標(xS’、yS’、zS’)に対して、第1の補正行列を用いた補正処理を実施して、xS’及びyS’を、第2の座標(xS’’、yS’’、zS(但し、zSは、基準平面(基準面)の既知のz座標値に等しい一定値))における、xS’’及びyS’’に変換する。
次に、第5の補正行列を用いた補正処理を実施し、その結果として得られるz座標値である前記zS’’’’を用いて、
xS’’’’’=xS’’・zS’’’’/zS ・・・ 式7-1
yS’’’’’=yS’’・zS’’’’/zS ・・・ 式7-2
で表される、上記式7-1、7-2の演算を実施する。
次に、算出されたxS’’’’’及びyS’’’’’に対して、第2の補正行列を用いた、光学系による歪み特性とは逆の歪みを与える処理を実施する。
式7-1、式7-2を用いる場合は、第1の補正行列による演算で得られた「xS’’」及び「yS’’」を、共に第3の基準面(
図15(A)の符号83)へと再度、射影変換して、その大きさを拡大あるいは縮小する第4のリサイズ処理を実施する。
得られる効果は、先に示した例と同様である。また、「xS’’」及び「yS’’」の各々について、共通の第3の基準面83を使用したリサイズ処理を実施するため、リサイズ処理に伴う補正処理部183の負担が少いという利点もある。
【0177】
次に、
図17を参照する。
図17は、リサイズ処理後の座標値に基づいて、撮像空間に構築される基準平面の状態を示す図である。
【0178】
図17において、破線で示される基準平面は、測定によって取得された測定点W(xS’、zS’)に基づいて構築された基準平面である。格子の形状は、かなり歪んでいるのがわかる。
【0179】
ここで、測定点Wを、第1の補正行列を用いて、一旦、第1の基準平面:z=zS)上の座標点W3に射影変換する。
次に、
図16(B)で示した式5-1、5-2を用いたリサイズ処理によって、座標点W3を、座標点W4(xS’’’’’、zS’’’)に射影変換する。
この座標点W4に基づいて基準平面を構築すると、
図17において、実線で示されるような基準平面(基準面)が構築される。
構築された基準面は、先に
図1に示した実空間に設定される基準面(基準平面)52とほぼ同じであり、各格子の形状の歪みも少ない。
【0180】
このように、本発明は、測定(撮像)によって取得された測定点のx、y、zの各座標値に測定誤差が含まれる場合においても、各誤差を修正して、例えば、格子形状を正常な形状に戻すことができる。よって、撮像対象(例えば、運転者の目)の検出精度を向上させることができる。
例えば、運転者がサングラスをかけている場合等であっても、本発明によれば、運転者の目を精度よく検出できる。
【0181】
本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、種々、変形可能である。例えば、撮影に使用する波長帯は近赤外ではなく、短波赤外でもよい。
また、近赤外光源は、その近赤外光源を制御する制御部によって、撮像対象(人の目等)を撮像するカメラのシャッタータイミングに同期して点灯するように制御されるのが好ましい。
【符号の説明】
【0182】
1・・・車両(自車両)、2・・・ウインドシールド、4・・・コンバイナ(好ましくは赤外線反射特性、及び可視光の半透過半反射特性を有する)、5・・・視認者(人、運転者等)、8…ステアリングホイール、6・・・インナーパネル、50・・・照明部(赤外線光源、赤外線光源部)、52・・・基準平面(基準面)、54・・・光学部材、55・・・光学系、100・・・HUD装置、102・・・ハウジング(筐体)、104・・・表示装置、106・・・表示器(表示パネル等)、110・・・平面ミラー(波長選択性をもつフィルタ、あるいはビームスプリッタとしての機能を備える)、112・・・曲面ミラー(凹面鏡等)、116・・・窓部(透明窓)、108・・・カメラ(赤外線カメラ、3Dカメラ)、160・・・撮像画像データ補正装置、183・・・補正処理部、185・・・記憶装置(メモリ)、190・・・撮像画像データ補正システム、P・・・補正用基準点、Q・・・カメラの撮像点(カメラ視点)、M1・・・第1の補正行列(座標補正行列、第1の射影変換行列)、M2・・・第2の補正行列(光学系による歪み除去行列、第2の射影変換行列)、77・・・第1の基準平面(基準面)、81・・・第2の基準面(基準平面)、83・・・第3の基準面(基準平面)