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特開2022-108733感熱インジケータ、及び物品の温度監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108733
(43)【公開日】2022-07-26
(54)【発明の名称】感熱インジケータ、及び物品の温度監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/12 20210101AFI20220719BHJP
【FI】
G01K11/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002831
(22)【出願日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2021003559
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】大城 盛作
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 俊樹
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056VA05
(57)【要約】
【課題】取扱いが容易で、物品の温度監視がより簡便に行える感熱インジケータを提供する。
【解決手段】感熱インジケータ1は所定値以上の温度になったことを不可逆的に表示するものであり、破割性を有し、内部にインキ6が封入された内側容器2と、透光性と可撓性を有し、内部に内側容器が封入された外側容器3とを備え、内側容器2と外側容器3との隙間7には液体吸収材5が設けられ、インキ6は、前記所定値に応じた所望の融点を有するよう調整されたものであり、外側容器3を非破壊的に折り曲げることにより、内側容器2を破割することができ、内側容器2を破割した後、インキ6が液体状となった場合には、インキ6が液体吸収材5に吸収され、外側容器3の外部から液体吸収材5の着色を視認可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定値以上の温度になったことを不可逆的に表示する感熱インジケータであって、
破割性を有し、内部にインキが封入された内側容器と、
透光性と可撓性を有し、内部に前記内側容器が封入された外側容器とを備え、
前記内側容器と前記外側容器との隙間には液体吸収材が設けられ、
前記インキは、前記所定値に応じた所望の融点を有するよう調整されたものであり、
前記外側容器を非破壊的に折り曲げることにより、前記内側容器を破割することができ、
前記内側容器を破割した後、前記インキが液体状となった場合には、前記インキが前記液体吸収材に吸収され、前記外側容器の外部から前記液体吸収材の着色を視認可能となることを特徴とする感熱インジケータ。
【請求項2】
前記液体吸収材には、液体状の前記インキと混和可能な溶剤が保持されていることを特徴とする請求項1に記載の感熱インジケータ。
【請求項3】
所定値以上の温度になったことを不可逆的に表示する感熱インジケータであって、
破割性を有し、内部にインキが封入された内側容器と、
透光性と可撓性を有し、内部に前記内側容器が封入された外側容器とを備え、
前記内側容器と前記外側容器との隙間には液体吸収材が設けられ、
前記液体吸収材には、前記所定値に応じた所望の融点を有し、液体状態において前記インキに含まれる着色剤の溶剤となり得る熱溶融性物質が保持されており、
前記外側容器を非破壊的に折り曲げることにより、前記内側容器を破割することができ、
前記内側容器を破割した後、前記熱溶融性物質が液体状となった場合には、前記インキが前記液体吸収材に吸収され、前記外側容器の外部から前記液体吸収材の着色を視認可能となることを特徴とする感熱インジケータ。
【請求項4】
前記内側容器が前記液体吸収材によって隠蔽され、前記外側容器の外部から視認不能であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の感熱インジケータ。
【請求項5】
前記内側容器の外面と前記外側容器の内面の少なくとも一方が、梨地状であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の感熱インジケータ。
【請求項6】
前記外側容器は、シリコン系樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の感熱インジケータ。
【請求項7】
前記内側容器と前記外側容器は、共に細長形状であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の感熱インジケータ。
【請求項8】
前記外側容器は、長さ方向に第一端部と第二端部を有する細長形状であり、
前記外側容器内には、前記内側容器を収容する中間容器がさらに設けられ、
前記中間容器は、前記第一端部側が開放し、前記第二端部側が閉塞しており、
前記液体吸収材は、前記中間容器と前記外側容器との隙間に設けられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の感熱インジケータ。
【請求項9】
前記外側容器は、長さ方向に第一端部と第二端部を有する細長形状であり、
前記内側容器は、前記第一端部側に偏った位置に設置されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の感熱インジケータ。
【請求項10】
前記外側容器の外面の一部又は全部を覆う外皮をさらに備え、
前記外皮によって、外部から前記外側容器を視認できる可視部と、外部から前記外側容器を視認できない隠蔽部が形成されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の感熱インジケータ。
【請求項11】
前記可視部は、前記第一端部から前記第二端部に向かって延びる線状であることを特徴とする請求項10に記載の感熱インジケータ。
【請求項12】
前記可視部を複数有し、当該複数の可視部が前記第一端部から前記第二端部に向かって配置されていることを特徴とする請求項10に記載の感熱インジケータ。
【請求項13】
前記感熱インジケータを鉛直姿勢に保持する保持部材がさらに設けられていることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の感熱インジケータ。
【請求項14】
最表面に、温度に応じて色調が可逆的に変化する可逆温度インジケータがさらに設けられていることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の感熱インジケータ。
【請求項15】
前記融点は、0℃以下であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の感熱インジケータ。
【請求項16】
前記融点は、-70℃以下であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の感熱インジケータ。
【請求項17】
物品が置かれた環境の温度を監視する物品の温度監視方法であって、
請求項1乃至16のいずれかに記載の感熱インジケータを提供する工程、
前記内側容器を破割する工程、
前記感熱インジケータを、温度監視対象の物品と共に前記環境に置く工程、及び
所定時間経過後に、前記感熱インジケータにおける前記液体吸収材の着色の状態を確認する工程、
を包含することを特徴とする物品の温度監視方法。
【請求項18】
前記内側容器を破割する前に、前記感熱インジケータを前記所定値以下の温度まで冷却する工程をさらに包含することを特徴とする請求項17に記載の物品の温度監視方法。
【請求項19】
請求項8乃至12のいずれかに記載の感熱インジケータを用いるものであり、
前記液体吸収材の着色の状態を確認する際に、前記第一端部から前記第二端部に向かう着色の度合いをもって温度監視結果を評価することを特徴とする請求項17又は18に記載の物品の温度監視方法。
【請求項20】
前記所定値を0℃以下の温度から選択することを特徴とする請求項17乃至19のいずれかに記載の物品の温度監視方法。
【請求項21】
前記所定値を-70℃以下の温度から選択することを特徴とする請求項17乃至19のいずれかに記載の物品の温度監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定値以上の温度になったことを不可逆的に表示する感熱インジケータ、及び、当該感熱インジケータを用いた物品の温度監視方法に関する。本発明の感熱インジケータは取扱いが容易であり、物品の温度監視をより簡便に行えるものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品等の輸送や保管の際には、厳格な温度管理が求められる。例えば、輸送中や保管中に所定の温度が維持されていたことを保証し、もし逸脱があった場合には速やかに発見する必要がある。輸送等の温度範囲・温度条件としては、15℃~25℃の常温、2℃~8℃の冷蔵、-25℃~-15℃の冷凍、等がある。生体由来試料の長期保存の場合には0℃以下の凍結保存が必要なことが多い。また近時、mRNAワクチン等のmRNAを有効成分とする核酸医薬においては、-70℃以下の超低温での輸送と保管が必要な場面も生じている。
【0003】
温度管理が必要な物品が置かれた環境が所定の温度範囲に維持されていたか否かを監視するための、感熱インジケータが知られている。特許文献1に記載の感熱インジケータは、融点が所望の温度となるように調整されたインキを備えている。当該感熱インジケータが使用開始後に所定温度以上の環境に晒されると、インキが溶融し、インキによる不可逆的な着色が起こる。使用者は、インキによる着色の有無を指標として、所定温度が維持されていたか否かを判断することができる。特許文献2に記載の感熱インジケータも同様の熱溶融性インキを備えており、インキによる不可逆的な着色を指標として、所定温度が保たれていたか否かを判断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-57273号公報
【特許文献2】特許第5259027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
物品が置かれる環境の温度管理が必要な場面は確実に増えており、物品の種類、物品が置かれる場所、管理すべき温度範囲、等に応じて適切かつ柔軟に対処することが求められる。そこで本発明は、取扱いが容易で、物品の温度監視をより簡便に行える感熱インジケータ、及び物品の温度監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様は、所定値以上の温度になったことを不可逆的に表示する感熱インジケータであって、破割性を有し、内部にインキが封入された内側容器と、透光性と可撓性を有し、内部に前記内側容器が封入された外側容器とを備え、前記内側容器と前記外側容器との隙間には液体吸収材が設けられ、前記インキは、前記所定値に応じた所望の融点を有するよう調整されたものであり、前記外側容器を非破壊的に折り曲げることにより、前記内側容器を破割することができ、前記内側容器を破割した後、前記インキが液体状となった場合には、前記インキが前記液体吸収材に吸収され、前記外側容器の外部から前記液体吸収材の着色を視認可能となることを特徴とする感熱インジケータである。
【0007】
本態様の感熱インジケータは、破割性を有し、内部にインキが封入された内側容器と、透光性と可撓性を有し、内部に前記内側容器が封入された外側容器と、両容器間の隙間に設けられた液体吸収材とを備えている。そして、内側容器に封入されているインキが、所望の融点を有するよう調整されたインキである。そして、外側容器を非破壊的に折り曲げることにより、内側容器を破割することができる構成を採用している。本態様によれば、可撓性の外側容器を折り曲げて内側容器を破割するだけで、液体状になった前記インキを液体吸収材に吸収させることができるので、簡単な操作で、物品の温度監視を開始することができる。また、外側容器の外部から液体吸収材の着色を視認できるので、監視結果の判定が容易である。
【0008】
好ましくは、前記液体吸収材には、液体状の前記インキと混和可能な溶剤が保持されている。
【0009】
かかる構成により、液体状となったインキが液体吸収材に吸収された際に、より均一にインキが広がるので、着色の有無をより容易に視認することができる。
【0010】
本発明の別の態様は、所定値以上の温度になったことを不可逆的に表示する感熱インジケータであって、破割性を有し、内部にインキが封入された内側容器と、透光性と可撓性を有し、内部に前記内側容器が封入された外側容器とを備え、前記内側容器と前記外側容器との隙間には液体吸収材が設けられ、前記液体吸収材には、前記所定値に応じた所望の融点を有し、液体状態において前記インキに含まれる着色剤の溶剤となり得る熱溶融性物質が保持されており、前記外側容器を非破壊的に折り曲げることにより、前記内側容器を破割することができ、前記内側容器を破割した後、前記熱溶融性物質が液体状となった場合には、前記インキが前記液体吸収材に吸収され、前記外側容器の外部から前記液体吸収材の着色を視認可能となることを特徴とする感熱インジケータである。
【0011】
本態様の感熱インジケータも、破割性を有し、内部にインキが封入された内側容器と、透光性と可撓性を有し、内部に前記内側容器が封入された外側容器と、両容器間の隙間に設けられた液体吸収材とを備えている。そして本態様では、液体吸収材に、所望の融点を有し、液体状態において前記インキに含まれる着色剤の溶剤となり得る熱溶融性物質が保持されている。本態様においても、可撓性の外側容器を折り曲げて内側容器を破割するだけで、液体状になった熱溶融性物質を含む液体吸収材にインキを吸収させることができるので、簡単な操作で、温度監視を開始することができる。また、外側容器の外部から液体吸収材の着色を視認できるので、監視結果の判定が容易である。
【0012】
好ましくは、前記内側容器が前記液体吸収材によって隠蔽され、前記外側容器の外部から視認不能である。
【0013】
かかる構成により、液体吸収材の着色の有無をより確実に判断することができる。
【0014】
好ましくは、前記内側容器の外面と前記外側容器の内面の少なくとも一方が、梨地状である。
【0015】
かかる構成によれば、梨地状の面が液体に触れると透明度が上がって透ける性質を利用して、非使用時において内側容器内あるいは外側容器内を容易に隠蔽できる。その結果、感熱インジケータの取扱い性が向上する。
【0016】
好ましくは、前記外側容器は、シリコン系樹脂で構成されている。
【0017】
好ましくは、前記内側容器と前記外側容器は、共に細長形状である。
【0018】
かかる構成により、外側容器を折り曲げて内側容器を破割する操作が容易かつ確実に行える。
【0019】
好ましくは、前記外側容器は、長さ方向に第一端部と第二端部を有する細長形状であり、前記外側容器内には、前記内側容器を収容する中間容器がさらに設けられ、前記中間容器は、前記第一端部側が開放し、前記第二端部側が閉塞しており、前記液体吸収材は、前記中間容器と前記外側容器との隙間に設けられている。
【0020】
本態様では、前記外側容器が長さ方向に第一端部と第二端部を有する細長形状であり、かつ、外側容器内に、内側容器を覆う中間容器がさらに設けられている。そして、当該中間容器は、第一端部側が開放し第二端部側が閉塞している。本態様によれば、内側容器を破割した後、中間容器の第一端部側からインキが放出されるので、液体吸収材へのインキの吸収が第一端部側から起こる。そのため、液体吸収材に吸収されたインキが第一端部側から第二端部側に向かって進むこととなる。本態様によれば、インキの進み具合、すなわち着色度合いをもって、より詳細な温度変化の情報を得ることができる。
【0021】
好ましくは、前記外側容器は、長さ方向に第一端部と第二端部を有する細長形状であり、前記内側容器は、前記第一端部側に偏った位置に設置されている。
【0022】
本態様では、前記外側容器が長さ方向に第一端部と第二端部を有する細長形状であり、かつ、内側容器が第一端部側に偏った位置に設置されている。そのため、内側容器を破割した後、液体吸収材へのインキの吸収が第一端部側から起こり、液体吸収材に吸収されたインキが第一端部側から第二端部側に向かって進むこととなる。本態様によれば、インキの進み具合、すなわち着色度合いをもって、より詳細な温度変化の情報を得ることができる。
【0023】
好ましくは、前記外側容器の外面の一部又は全部を覆う外皮をさらに備え、前記外皮によって、外部から前記外側容器を視認できる可視部と、外部から前記外側容器を視認できない隠蔽部が形成されている。
【0024】
本態様では、外側容器の外面の一部又は全部を覆う外皮を備えている。そして、当該外皮によって、外部から外側容器を視認できる可視部と、外部から前記外側容器を視認できない隠蔽部が形成されている。本態様によれば、インキによる着色の有無や度合いを可視部を介して観察できるので、着色の観察が容易である。
【0025】
好ましくは、前記可視部は、前記第一端部から前記第二端部に向かって延びる線状である。
【0026】
かかる構成により、インキによる着色の度合いを容易に観察できる。
【0027】
前記可視部を複数有し、当該複数の可視部が前記第一端部から前記第二端部に向かって配置されている。
【0028】
かかる構成により、インキによる着色の度合いを段階的に捉えることができる。
【0029】
好ましくは、前記感熱インジケータを鉛直姿勢に保持する保持部材がさらに設けられている。
【0030】
内側容器を破割した後、液体吸収材へのインキの吸収が第一端部側から起こる態様においては、感熱インジケータの使用時に第一端部が下側、第二端部が上側となる鉛直姿勢を取ることで、インキの吸収をより確実に第一端部側から起こすことが可能となる。そして本態様では、感熱インジケータを鉛直姿勢に保持する保持部材が設けられている。かかる構成により、使用時の感熱インジケータをより容易かつ確実に鉛直姿勢に保持することができる。
【0031】
好ましくは、最表面に、温度に応じて色調が可逆的に変化する可逆温度インジケータがさらに設けられている。
【0032】
上記した感熱インジケータを使用する際には、予め、感熱インジケータを所定温度以下に冷却して前記インキ又は熱溶融性物質を固化させておくことが好ましい(予備冷却)。そして本態様では、感熱インジケータの最表面に、温度に応じて色調が可逆的に変化する可逆温度インジケータが設けられている。本態様によれば、感熱インジケータが予備冷却された状態であることを、容易に確認することができる。
【0033】
好ましくは、前記融点は、0℃以下である。
【0034】
かかる構成により、冷凍条件での輸送や保管が必要な物品の温度監視を行うことができる。
【0035】
好ましくは、前記融点は、-70℃以下である。
【0036】
かかる構成により、超低温での輸送や保管が必要な物品の温度監視を行うことができる。
【0037】
本発明の別の態様は、物品が置かれた環境の温度を監視する物品の温度監視方法であって、上記の感熱インジケータを提供する工程、前記内側容器を破割する工程、前記感熱インジケータを、温度監視対象の物品と共に前記環境に置く工程、及び所定時間経過後に、前記感熱インジケータにおける前記液体吸収材の着色の状態を確認する工程、を包含することを特徴とする物品の温度監視方法である。
【0038】
本態様は、上記した感熱インジケータを用いて、物品が置かれた環境の温度を監視する、物品の温度監視方法に係るものである。本態様によれば、物品が置かれた環境の温度監視を容易に行える。例えば、物品が置かれた環境が所定値以上の温度になったか否か、所定値以上になった場合にはその程度や度合い、を監視することができる。「着色の状態」には、着色の有無の他、着色の程度や度合いが含まれる。
【0039】
好ましくは、前記内側容器を破割する前に、前記感熱インジケータを前記所定値以下の温度まで冷却する工程をさらに包含する。
【0040】
かかる構成により、温度監視の結果をより容易に判断することができる。
【0041】
外側容器が長さ方向に第一端部と第二端部を有する細長形状である感熱インジケータを用いる態様において、前記液体吸収材の着色の状態を確認する際に、前記第一端部から前記第二端部に向かう着色の度合いをもって温度監視結果を評価することができる。
【0042】
好ましくは、前記所定値を0℃以下の温度から選択する。
【0043】
かかる構成により、冷凍条件での輸送や保管が必要な物品の温度監視を行うことができる。
【0044】
好ましくは、前記所定値を-70℃以下の温度から選択する。
【0045】
かかる構成により、超低温での輸送や保管が必要な物品の温度監視を行うことができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、より簡便に物品の温度監視を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明の第一実施形態に係る感熱インジケータの構造を示す断面図であり、(a)は内側容器と外側容器のみを示し、(b)は液体吸収材とインキを備えた状態を示す。
図2】本発明の第二実施形態に係る感熱インジケータの構造を示す断面図であり、(a)は内側容器と外側容器と中間容器のみを示し、(b)は液体吸収材とインキを備えた状態を示す。
図3】本発明の第三実施形態に係る感熱インジケータの構造を示す断面図であり、(a)は内側容器と外側容器のみを示し、(b)は液体吸収材とインキを備えた状態を示す。
図4】(a)、(b)は本発明の第四実施形態に係る感熱インジケータの構造を示す断面図である。
図5】可視部の例を示す説明図である。
図6】(a)~(c)は複数の可視部を設けた例を示す説明図である。
図7】複数の可視部を設けた他の例を示す説明図である。
図8】(a)~(g)は保持部材の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、発明の理解を容易にするために、各図面において、各部材の大きさや厚みについては一部誇張して描かれており、実際の大きさや比率等とは必ずしも一致しないことがある。
【0049】
図1(a)、図1(b)に示す、第一実施形態に係る感熱インジケータ1は、所定値以上の温度になったことを不可逆的に表示するものである。感熱インジケータ1は、内側容器2、外側容器3、液体吸収材5、及びインキ6を備えている。
【0050】
内側容器2は、細長の略円筒状の密封容器である。内側容器2は破割性を有し、折り曲げると容易に割れる。内側容器2は、例えば、ガラス、セラミックス、設定温度で破割可能な耐寒性の低い樹脂、等で構成されたアンプルからなる。内側容器2の内部には、後述するインキ6が封入されている。
【0051】
外側容器3は、内側容器2よりも一回り大きい、細長の略円筒状の密封容器である。外側容器3は、長さ方向に第一端部8と第二端部10を有する。外側容器3は透光性と可撓性を有し、例えば、シリコン系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ビニル系、アクリル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、若しくはフッ素ポリマー系の樹脂や、オレフィン系、スチレン系、エステル系、アミド系、ウレタン系、ビニル系、フッ素系のエラストマー、又はこれらのコポリマー、等で構成されたチューブからなる。
外側容器3の内部には、内側容器2が収容及び封入されている。換言すれば、外側容器3と内側容器2は、入れ子の関係になっている。
外側容器3は可撓性を有するので、非破壊的に折り曲げ可能である。例えば、外側容器3は弾性変形可能であり、軽く折り曲げても、破損することなく元に戻る性質を有している。
【0052】
収縮フィルムで外側容器3を作製することもできる。収縮フィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリプロピレンフィルム;低密度ポリエチレンフィルム;中密度ポリエチレンフィルム;高密度ポリエチレンフィルム;低密度直鎖状ポリエチレンフィルム;環状ポリオレフィンフィルム;エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体等の樹脂から製膜されたポリオレフィン系フィルム;塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどの樹脂から製膜された変性ポリオレフィンフィルム;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の樹脂から製膜されたフィルム;アクリル系樹脂系フィルム、等からなる熱収縮性フィルムが挙げられる。
【0053】
内側容器2と外側容器3との隙間7には、液体吸収材5が設けられている。液体吸収材5は隙間7の全体に充填されており、隙間7を一様に埋めている。液体吸収材5は、液体状のインキを吸収する性質を有する有機物または無機物からなる材料、例えば、繊維、布、紙、不織布、焼結体、顆粒、球状粉体、板状粉体、若しくは針状粉体、又はこれらの混合物、等からなる。外側容器3が透光性を有するため、液体吸収材5は外側容器3の外部から視認可能である。一方、内側容器2は液体吸収材5によって隠蔽され、外側容器3の外部から視認不能であるか、視認できるとしても限定的である。
【0054】
外側容器3のサイズは、折り曲げ可能なものであれば特に限定はなく、感熱インジケータ1の使用場所等に応じて適宜選択することができる。例えば、外側容器3の全長は30mm~150mm程度、好ましくは50mm~100mm程度、外径は全長の0.05倍~0.2倍程度とすることができる。また肉厚については、例えばチューブを用いる場合は0.5mm~1mm程度とすることができ、収縮フィルムを用いる場合は5μm~500μm程度、好ましくは10μm~100μm程度とすることができる。
【0055】
内側容器2のサイズは、外側容器3の内部に納まること、外側容器3を折り曲げたときに共に折れ曲がって割れること、液体吸収材5を設ける隙間7が十分確保できること、等の条件を満たすものであれば特に限定はない。例えば、内側容器2の全長は外側容器3の内部の全長の0.6倍~0.95倍程度、外径は外側容器3の内径の0.2倍~0.8倍程度、肉厚は0.01mm~0.1mm程度とすることができる。
【0056】
内側容器2にはインキ6が封入されている。一般に、インキは、溶剤に染料又は顔料を溶解又は分散させたものであり、有色である。そして本実施形態におけるインキ6は、上記した「所定値」に応じた所望の融点を有するよう調整されている。具体的には、インキ6の溶剤として、目的に応じた温度で融解するものが採用されている。当該溶剤としては、例えば、水、アルコール類、エステル類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ケトン類、エーテル類、等の溶剤から適宜選択することができる。また、これらを適宜ブレンドしたり、塩化ナトリウム等の添加物を加え、モル凝固点降下を利用して融点を調整することができる。以下に、溶剤として使用可能な物質を、その融点(括弧書き)と共に例示する。
【0057】
(超低温域)
プロピレングリコール(-59℃)、安息香酸ブチル(-22℃)、シュウ酸ジブチル(-29℃)、フタル酸ジブチル(-35℃)、酢酸オクチル(-38℃)、アセト酢酸エチル(-45℃)、クエン酸トリエチル(-46℃)、マロン酸ジエチル(-50℃)、アクリル酸ブチル(-64.6℃)、酢酸アミル(-71℃)、プロピオン酸ブチル(-75℃)、オクタン(-56.8℃)、ヘプタン(-90.2℃)、ジエチルケトン(-42℃)、ジアセトンアルコール(-47℃)、ヘキシルエーテル(-43℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(-60℃)、エチレングリコールジブチルエーテル(-69℃)、ブチルエーテル(-98℃)。
【0058】
(低温域)
n-ノニルアルコール(-5℃)、エチレングリコール(-12.9℃)、ベンジルアルコール(-15.3℃)、n-オクチルアルコール (-16℃)、シクロペンタノール(-19℃)、マレイン酸ジエチル(-10℃)、ヒマシ油(-10℃)、フマル酸ジブチル(-18℃)、カプリン酸エチル(-20℃)、オレイン酸メチル(-20℃)、ドデカン(-9.6℃)、ドデシルベンゼン(-7℃)、アセトニルアセトン(-6~-5℃)、メチルヘキシルケトン(-16℃)、シクロヘキサノン(-16.4℃)。
【0059】
(中温域)
水(0℃)、n-ミリスチルアルコール(38℃)、シンナミルアルコール(33℃)、n-ラウリルアルコール(24℃)、シクロヘキサノール(23~25℃)、n-デシルアルコール(6.9℃)、オレインアルコール(0~5.0℃)、ステアリン酸エチル(34~38℃)、セバシン酸ジメチル(29~31℃)、ステアリン酸メチル(32℃)、ミリスチン酸メチル(18℃)、酒石酸ジエチル(17℃)、ラウリン酸メチル(4~5℃)、1-オクタデカン(27.8±0.7℃)、1-ヘプタデカン(22℃)、ヘキサデカン(18℃)、ペンタデカン(9.9℃)、テトラデカン(5.863℃)、o-キシレン(25℃)、m-キシレン(13℃)、アセトフェノン(20.5℃)、ジフェニルエーテル(25~27℃)、ジオキサン(11.8℃)。
【0060】
(高温域)
ペンタエリトリトール(260℃)、ソルビット(95℃)、n-ステアリルアルコール(59.4~59.8℃)、トリメチロールプロパン(58℃)、n-セチルアルコール(49℃)、安息香酸アミル(260℃)、安息香酸フェニル(68~70℃)、ステアリン酸ラウリル(41℃)、p-キシレン(48℃)、ベンゾフェノン(47.9℃)、エチレングリコールジフェニルエーテル(94~96℃)。
【0061】
例えば、オクタンとヘプタンを組み合わせることにより、融点が-70℃付近の溶剤を調製することができる。また、プロピレングリコール、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等を用いることにより、融点が-60℃付近の溶剤を調製することができる。また、水を主たる成分とすることにより、融点が0℃付近の溶剤を調製することができる。
【0062】
インキ6の充填量については特に限定はないが、例えば、内側容器2の容積の20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、80%以上、等とすることができる。インキ6に含まれる着色剤としては特に限定はなく、各種の染料及び顔料が使用可能である。
【0063】
感熱インジケータ1の作製方法及び使用方法(物品の温度監視方法)について説明する。一例として、輸送・保管中の物品が-70℃以下に保たれていたか否かを監視する場合について述べる。
【0064】
まず、融点が-70℃のインキ6を調製する。例えば、適当量のオクタン(融点:-56.8℃)とヘプタン(融点:-90.2℃)を混和して融点が-70℃の溶媒を調製し、これに適宜の着色剤を添加し、所望のインキ6を調製することができる。
【0065】
硼珪酸ガラス製の極薄ガラスアンプルからなる内側容器2にインキ6を充填し、ガラスアンプルを溶閉する。ガラスアンプルへのインキ6の導入、ガラスアンプルの溶閉等は、公知の方法で実施することができる。次いで、このインキ入りガラスアンプルと、繊維等からなる液体吸収材5とを、透光性かつ可撓性の硬質樹脂製チューブからなる外側容器3に収容し、密封する。これにより、図1(b)に示すような感熱インジケータ1が作製される。例えば、全長75mm、外径7.5mmの細長円筒状の感熱インジケータ1を作製することができる。
【0066】
使用前の準備として、感熱インジケータ1を-70℃以下まで予備冷却する。これにより、内側容器2内のインキ6が固体となる。
【0067】
次に、感熱インジケータ1全体を軽く折り曲げて、外側容器3を破壊することなく、内側容器2を破壊する(破割操作)。すなわち、内側容器2は破割性を有するので、曲げに耐えられず、破壊される(割れる)。一方、外側容器3は可撓性を有するので破壊されない。これにより、内側容器2からインキ6が暴露され、液体吸収材5に接触する。なお、外側容器3は弾性変形可能な性質を有するので、折り曲げ後、速やかに元の形状に戻る。
この破割操作は、感熱インジケータ1の使用前にインキ6が溶融して液体状に戻ることを防ぐために、-70℃以下の超低温が保持された環境で行うことが好ましい。ただし、-70℃を超える環境であっても、破割操作を素早く行って直ちに次工程に供することで、インキ6の溶融を実用上差し支えの無いレベルまで抑えることが可能である。
【0068】
破割操作を行ってインキ6を液体吸収材5に接触させたら、直ちに、温度監視対象の物品と共に感熱インジケータ1を監視環境に置く。例えば、ドライアイス詰めの断熱容器に物品と共に入れ、蓋をする。これにより、物品の温度監視が開始する。感熱インジケータ1の設置場所は断熱容器の内部であればどこでもよいが、断熱容器から再度取り出さずに蓋を開けるだけですばやく視認できる場所に設置することが望ましい。
【0069】
所定時間経過後、感熱インジケータ1を観察する。例えば、ドライアイス詰めの前記断熱容器を一時開封し、断熱容器内で感熱インジケータ1を目視し、液体吸収材5のインキ6による着色の状態、例えば着色の有無や度合いを観察する。外側容器3が透光性を有するため、液体吸収材5の着色の状態は容易に視認できる。ここで、液体吸収材5が着色していなければ、インキ6が固体状のままで溶融しなかったことを示すので、温度監視中は-70℃以下の温度が維持されていたと判定する。一方、液体吸収材5が着色していたら、インキ6が途中で溶融したことを示すので、温度監視中に-70℃以上の温度になった、温度の逸脱があった、と判定する。着色の濃淡をもって温度の逸脱の程度を評価することもできる。なお、液体吸収材5が着色しておらず、インキ6が固体状のままで溶融していなかった場合は、再び-70℃以下の断熱容器に戻して温度監視を継続してもよい。
所定時間経過後の観察は、感熱インジケータ1を取り出すことによりインキ6が溶融して液体状に戻ることを防ぐために、-70℃以下の超低温が保持された環境で行うことが好ましい。ただし、-70℃を超える環境に取り出しても、観察を素早く行って直ちに超低温環境に置くことで、インキ6の溶融を実用上差し支えの無いレベルまで抑えることが可能である。
【0070】
上記した使用例では、内側容器2を破壊する前に感熱インジケータ1の予備凍結を行ったが、予備凍結を省略することもできる。例えば、インキ6が液体状の状態で、感熱インジケータ1を折り曲げて内側容器2を破壊し、直ちに所定の試験環境(例えば、-70℃以下)に置く。このとき、監視開始前に少量のインキ6が液体吸収材5に吸収され得るが、直ちに試験環境に置くことで、使用前における液体吸収材5の不要な着色を実用上差し支えない程度に抑えることが可能である。
【0071】
上記した実施形態では、液体吸収材5(繊維、布、紙、不織布、焼結体、顆粒、球状粉体、板状粉体、針状粉体、これらの混合物、等)がそのまま外側容器3内に設けられているが、液体吸収材5にインキ6と混和可能な溶剤を含ませておいてもよい。この実施形態によれば、液体状のインキ6が液体吸収材5に移行する際に、液体吸収材5に含まれる溶剤を介して全体に容易に拡散する。その結果、着色の状態がより容易に判断できる。当該溶剤の融点は、インキ6の融点以下であることが好ましい。これにより、インキ6が溶融する温度条件では、常に溶剤が液体状となっている。
インキ6と同等の融点を有する溶剤として、インキ6に採用されている溶剤をそのまま用いることもできる。かかる構成によれば、インキ6がより容易に液体吸収材5に移行し、液体吸収材5に含まれる溶剤を介して全体により容易に拡散する。
【0072】
上記した実施形態ではインキ6が熱溶融性のものであったが、熱溶融性以外のインキ6を内側容器2に封入し、液体吸収材5に熱溶融性の溶剤を含ませてもよい。例えば、インキ6として試験環境の温度では常に液体状となるものを採用する。一方、液体吸収材5には熱溶融性の溶剤、すなわち、所望の融点を有し、液体状態においてインキ6に含まれる着色剤の溶剤となり得る熱溶融性物質を採用する。この構成によれば、温度監視の途中で所定値以上の温度となった場合には、液体吸収材5に含まれる熱溶融性物質が液体化し、インキ6が熱溶融性物質に拡散し混和するとともに液体吸収材5に吸収され、液体吸収材5が着色する。一方、温度が所定値以下に維持されていた場合には、液体吸収材5に含まれる熱溶融性物質は固体のままなので、インキ6が液体吸収材5に移行することはなく、液体吸収材5は着色しない。本実施形態の感熱インジケータも、上記した方法と同様にして使用することができる。
【0073】
内側容器2の外面と外側容器3の内面の両方又はいずれか一方を、梨地状としてもよい。一般に、乾いた梨地状の面は白く濁っており隠蔽性を有するが、液体で濡れると透明度が上がり、透けて見えるようになる。この性質を利用して、感熱インジケータ1の取扱い性を向上させることができる。すなわち、内側容器2の外面あるいは外側容器3の内面を梨地状とすることで、感熱インジケータ1の非使用時においては、内側容器2内あるいは外側容器3内を容易に隠蔽できる。一方、感熱インジケータ1の使用後においては、液体状のインキ6又はインキ6が拡散・混和した溶剤が梨地状の面に触れることで、当該面が濡れて透けて見えるようになり、液体吸収材5の着色の状態を容易に確認することができる。
【0074】
続いて、本発明の第二実施形態について説明する。図2(a)、図2(b)に示す第二実施形態に係る感熱インジケータ11は、第一実施形態に係る感熱インジケータ1(図1(a)、図1(b))と同様の内側容器2、外側容器3、液体吸収材5、及びインキ6を備えているが、さらに中間容器12を備えている。液体吸収材5は、中間容器12と外側容器3との隙間14に設けられている。
【0075】
中間容器12は外側容器3内に設けられ、詳細には、内側容器2と外側容器3との隙間7に設けられている。中間容器12は内側容器2より一回り大きい筒状の部材であり、内側容器2の大部分を収容している。中間容器12は、第一端部8側が開放し、第二端部10側が閉塞した有底の部材である。破割後の内側容器2内のインキ6は、中間容器12の開口部15を通じて液体吸収材5に到達することができる。一方、中間容器12の第二端部10側は閉塞しているので、第二端部10側からインキ6が放出されることはない。
中間容器12は、外側容器3と同様に、可撓性を有し非破壊的に折り曲げ可能なものである。
【0076】
第二実施形態の感熱インジケータ11は、第一実施形態の感熱インジケータ1と同様の方法で使用することができる。破割操作の際には、感熱インジケータ11全体を軽く折り曲げて、外側容器3と中間容器12を破壊することなく、内側容器2を破壊する。ここで、感熱インジケータ11は、開口部15を有する中間容器12を備えているので、液体状のインキ6が開口部15を介して液体吸収材5に到達する。すなわち、インキ6は第一端部8側に誘導され、第一端部8側から液体吸収材5に接触する。そのため、液体吸収材5におけるインキ6の拡散が、第一端部8側から第二端部10側に向かって進む。本実施形態によれば、インキ6の拡散の程度、すなわちインキの着色の度合いを容易に把握することができる。
【0077】
インキの着色の度合いを把握することにより、物品が置かれた環境が所定値以上になったか否かのみならず、所定値以上になった場合の逸脱の程度を評価することができる。例えば、第一端部8側から第二端部10側に向かうインキ6の拡散距離(移動度)を測定することで、温度逸脱の程度を評価することができる。すなわち、拡散距離が小さい場合には温度逸脱の程度が小さく、拡散距離が大きい場合には温度逸脱の程度が大きい、と評価することができる。
【0078】
第一実施形態と同様に、第二実施形態においても、液体吸収材5にインキ6と混和可能な溶剤を含ませておいてもよい。また、熱溶融性以外のインキ6を内側容器2に封入し、液体吸収材5に熱溶融性の溶剤を含ませてもよい。
【0079】
中間容器12の内面と外面のいずれか一方又は両方を、梨地状としてもよい。これにより、感熱インジケータ11の非使用時において、中間容器12内を容易に隠蔽できる。
【0080】
続いて、本発明の第三実施形態について説明する。図3(a)、図3(b)に示す第三実施形態に係る感熱インジケータ21は、第一実施形態に係る感熱インジケータ1(図1(a)、図1(b))と同様の内側容器2、外側容器3、液体吸収材5、及びインキ6を備えているが、内側容器2が第一端部8側に偏って設置されている。本実施形態の内側容器2の全長は、第一実施形態のそれと比較して小さく、外側容器3の内部の全長の0.3~0.6倍程度である。そして、内側容器2は、外側容器3の第一端部8から中央付近に至る領域のみを占めている。内側容器2の設置位置は、破割操作が可能な限り、できるだけ第一端部8側に偏っていることが好ましい。また、内側容器2における第二端部10側の端部は、外側容器3の中央よりも第一端部8側であることが好ましい。
【0081】
本実施形態の感熱インジケータ21は、第一実施形態の感熱インジケータ1と同様の方法で使用することができる。ここで、感熱インジケータ21では、内側容器2が第一端部8側に偏って設置されているので、液体状のインキ6が第一端部8側に偏った位置で液体吸収材5に接触する。そのため、第一端部8側に偏った位置からインキ6の拡散が開始し、第二端部10側に向かってインキ6の拡散が進む。第二実施形態と同様に、本実施形態によれば、インキ6の拡散の程度、すなわちインキの着色の度合いを容易に把握することができる。
【0082】
本実施形態では、第二実施形態で採用した中間容器12をさらに設けてもよい。すなわち、内側容器2を第一端部8側に偏った位置に設置し、かつ内側容器2を中間容器12で収容してもよい。
【0083】
第一実施形態と同様に、第三実施形態においても、液体吸収材5にインキ6と混和可能な溶剤を含ませておいてもよい。また、熱溶融性以外のインキ6を内側容器2に封入し、液体吸収材5に熱溶融性の溶剤を含ませてもよい。
【0084】
続いて、本発明の第四実施形態について説明する。図4(a)に示す感熱インジケータ31は、第二実施形態に係る感熱インジケータ11(図2(a)、図2(b))と同様の内側容器2、外側容器3、液体吸収材5、インキ6、及び中間容器12を備えているが、さらに、外皮32を備えている。また図4(b)に示す感熱インジケータ41は、第三実施形態に係る感熱インジケータ21(図3(a)、図3(b))と同様の内側容器2、外側容器3、液体吸収材5、及びインキ6を備えているが、さらに、外皮32を備えている。
【0085】
外皮32は外側容器3の外面に密着して設けられており、外側容器3の全体を覆っている。外皮32は、外部から外側容器3を視認できる透明部分と、外部から外側容器3を視認できない不透明部分を含む。そして、液体吸収材5の着色の有無や度合いは、透明部分からのみ視認できる。外皮32は、外側容器3の必要部分のみが視認でき、不要部分が見えないようにするための部材ともいえる。外皮32は外側容器3の一部を覆うものでもよい。
【0086】
外皮32は、例えば、収縮フィルムや巻紙で作製することができる。収縮フィルムの例としては、上述したものが挙げられる。そして、顔料等でフィルムを部分的に着色することで、透明部分と不透明部分を形成することができる。
【0087】
外側容器3の外面に部分的に印刷を施して、この印刷部分を外皮32とすることもできる。そして、非印刷部分と印刷部分によって透明部分と非透明部分を形成することができる。
【0088】
外皮32における、外部から外側容器3を視認できる透明部分は、可視部として機能する。また、不透明部分は隠蔽部として機能する。以下、可視部の具体例について、図5図6(a)~6(c)、図7を参照しながら説明する。なお、これらの図では感熱インジケータ31,41の外観を模式的に描いており、左側が第一端部8側、右側が第二端部10側である。なお、可視部は窓部と言い換えることができる。
【0089】
図5に示す可視部34は、直線状であり、第一端部8から第二端部10に向かって延びる1本の直線状の窓からなる。可視部34によれば、長さ方向に沿ってインキ6による着色の度合い(インキ6の移動度)を確認することができる。直線状の可視部34を周方向に複数設けて縦縞模様のようにしてもよい。また可視部34は、第一端部8から第二端部10に向かう1本の螺旋状の曲線であってもよい。
【0090】
図6(a)~図6(c)は、可視部を長さ方向に複数設けた例である。
図6(a)に示す可視部35a~35eは、外皮32の周方向に沿ったリング状の窓である。可視部35a~35eは、この順に、第一端部8から第二端部10に向かって所定の間隔を空けて配置されている。
図6(b)に示す可視部36a~36eは円形の窓であり、この順に、第一端部8から第二端部10に向かって所定の間隔を空けて一直線上に配置されている。可視部36a~36eは、他の図形、例えば、三角形や四角形等の多角形であってもよい。
図6(c)に示す可視部37a~37eは、それぞれA、B、C、D、Eの文字からなる窓である。可視部37a~37eは、この順に、第一端部8から第二端部10に向かって所定の間隔を空けて一直線上に配置されている。可視部36a~36eは、他の文字や記号、例えば、数字であってもよい。
【0091】
第四実施形態において、インキ6の拡散は第一端部8から第二端部10に向かって進むので、可視部35a~35e、36a~36e、37a~37eによれば、インキ6による着色の度合い(インキ6の移動度)を段階的に捉えることができる。図6(a)を例に説明すると、可視部35a~35eがいずれも着色していない場合には、温度の逸脱が無かったと判断することができる。可視部35aのみが着色している場合には、温度の逸脱が起こったが短時間であったと判断することができる。可視部35a,35b,35cが着色している場合には、温度の逸脱が中程度の時間であったと判断することができる。可視部35a~35eのすべてが着色している場合には、温度の逸脱が長時間であったと判断することができる。
【0092】
図7は可視部を長さ方向に複数設けた別の例である。図7に示す可視部38a~38eは、図6(b)と同様の円形の窓であるが、一部に予め着色が施されている。詳細には、可視部38aは薄い青色に着色されている。可視部38b,38c,38dは着色されていない。可視部38eは薄い赤色に着色されている。そして、インキ6として黄色インキが用いられている。このとき、黄色のインキ6の拡散が第一端部8から第二端部10に向かって進み、可視部38aの位置に到達すると、可視部38aが緑色となる。インキ6の拡散がさらに進んで可視部38b,38c,38dの位置に到達すると、可視部38b,38c,38dは黄色となる。インキ6の拡散がさらに進んで可視部38eの位置に到達すると、可視部38eが橙色となる。本実施形態によれば、インキ6による着色の度合い(インキ6の移動度)を段階的に捉えることができ、かつ交通信号機のような3色で着色の度合いを捉えることができる。可視部の着色や使用するインキの色については図7の例に限定されず、任意の色の選択及び組み合わせが可能である。また可視部38a~38eは、他の図形、例えば、三角形や四角形等の多角形であってもよく、文字や記号であってもよい。
【0093】
可視部を複数設ける場合において、可視部の数は5個に限定されるものではなく、2個以上であればよい。また、可視部を複数設ける場合において、各々の可視部の形状やサイズは同じでなくてもよく、異なる形状やサイズの可視部が混在していてもよい。さらに、図5に示すような長さ方向に延びる連続した可視部と、図6(a)~(c)、図7に示すような各々独立した可視部とを組み合わせてもよい。
【0094】
インキ6の移動度をより容易に把握するために、物差しに刻まれているような、長さ方向に延びる目盛りを設けてもよい。例えば、目盛りの形状からなる可視部を設けてもよい。また、既存の可視部(例えば、図5の可視部34)に、印刷等による有色の目盛りを並設してもよい。また、所定の間隔で刻まれた目盛りのうち、一部を可視部、他を有色の目盛りとしてもよい。例えば、物差しのような1mm刻みの目盛りのうち、5mm又は10mm毎の主目盛りを可視部で構成し、副目盛りを印刷によるものとすることができる。
【0095】
可視部を、1次元コード(バーコード)や、QRコード(登録商標)等の2次元コードの形状としてもよい。これにより、温度監視結果を機械で読み取りやすくなる。
【0096】
外側容器3を視認できる限りにおいて、可視部は無色透明の他、有色透明や有色半透明であってもよい。例えば、肉眼で判別できない微小な点の集合によって、可視部を半透明にすることができる。微小な点のサイズを連続的に変化させたグラデーションとしてもよい。
【0097】
本発明の感熱インジケータには、感熱インジケータを鉛直姿勢に保持する保持部材を設けてもよい。例えば、第二実施形態や第三実施形態のように、インキ6の拡散が第一端部8から第二端部10に向かって進む形態の場合には、感熱インジケータを第一端部8が下、第二端部10が上となる鉛直姿勢に保って使用することが好ましい。この鉛直姿勢を保つことにより、液体となったインキ6が第一端部8側に溜まりやすくなり、着色の進行のばらつきが小さくなる。
【0098】
保持部材の具体例を図8(a)~(g)に示す。なお、図8(a)~(g)では、内側容器2が偏って配置されている第三実施形態の感熱インジケータ21(図3(a)、図3(b))と第四実施形態の感熱インジケータ41(図4(b))を代表例とし、模式的に描いている。もちろん、これらの保持部材は他の実施形態の感熱インジケータにも適用できる。
【0099】
図8(a)の保持部材43は、フック穴で構成されている。保持部材43は、第二端部10側に設けられている。フック穴を利用して感熱インジケータ21,41を吊り下げることにより、鉛直姿勢に保つことができる。
【0100】
図8(b)の保持部材44は、把手で構成されている。保持部材44は第二端部10側に設けられている。把手を利用して感熱インジケータ21,41を吊り下げることにより、鉛直姿勢に保つことができる。把手としては、紐状のものが挙げられる。
【0101】
図8(c)の保持部材45は、クリップ様の留め具で構成されている。保持部材45は第二端部10側に設けられている。保持部材45を適宜の支持体に引っ掛けて、感熱インジケータ21,41を鉛直姿勢に保つことができる。当該留め具として、例えば筆記具に採用されているクリップと同様の構成のものを用いることができる。
【0102】
図8(d)の保持部材46は、開閉可能なクリップ様の留め具で構成されている。保持部材45は第二端部10側に設けられている。保持部材45で適宜の支持体を挟むことで、感熱インジケータ21,41を鉛直姿勢に保つことができる。当該留め具として、文房具等に採用されている、トーションばねを備えたクリップと同様のものを用いることができる。
【0103】
図8(e)の保持部材47は、吸盤で構成されている。保持部材47は感熱インジケータの側面に設けられている。吸盤を適宜の支持体に吸着させて、感熱インジケータ21,41を鉛直姿勢に保つことができる。
【0104】
図8(f)の保持部材48は、台で構成されている。保持部材48は第一端部8側に設けられており、これにより感熱インジケータ21,41が鉛直方向に自立できる。台として、使用時に広げて台を形成できるガゼット様の構造が挙げられる。
【0105】
図8(g)の保持部材49は、脚で構成されている。保持部材49は第一端部8側に設けられており、これにより感熱インジケータ21,41が鉛直方向に自立できる。
【0106】
図8(a)~図8(g)に示した保持部材43~49は、外側容器3又は外皮32に設けることができる。また、保持部材43~49は、外側容器3又は外皮32と一体的に形成してもよいし、別体として装着してもよい。収縮フィルムで外皮32を作製する場合には、収縮フィルムの端部側に保持部材を構成する要素(穴など)を予め設けておいてもよい。
【0107】
上記した実施形態において、感熱インジケータの最表面に、温度に応じて色調が可逆的に変化する可逆温度インジケータをさらに設けてもよい。例えば、物品が置かれる環境温度を-20℃以下に維持すべき場合、-20℃付近を境に色調が可逆的に変化する可逆温度インジケータを、感熱インジケータの最表面に設ける。これにより、感熱インジケータの使用前に予備冷却が行われたこと、及び予備冷却時の温度が現在保たれていることを、容易に確認することができる。可逆温度インジケータとしては、例えば、温度に応じて色調が可逆的に変化するインキを用いて、感熱インジケータの最表面の一部に印刷を施すことが挙げられる。その他、物の表面に貼付して使用するシールタイプのサーモメータが挙げられる。
【0108】
内側容器2の破割時に生じた破片が外側容器3を突き破るおそれに備えて、破割操作時に専用の保護用治具を用いてもよい。当該保護用治具としては、感熱インジケータの折り曲げ部位を位置決めする治具などが挙げられる。
【符号の説明】
【0109】
1、11、21、31、41 感熱インジケータ
2 内側容器
3 外側容器
5 液体吸収材
6 インキ
7 隙間
8 第一端部
10 第二端部
12 中間容器
14 隙間
15 開口部
32 外皮
34 可視部
35a~35e、36a~36e、37a~37e、38a~38e 可視部
43、44、45、46、47、48、49 保持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8