(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108782
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 11/04 20060101AFI20220720BHJP
B01F 27/92 20220101ALI20220720BHJP
B01F 21/00 20220101ALI20220720BHJP
B01F 23/40 20220101ALI20220720BHJP
C02F 1/50 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C01B11/04
B01F7/24
B01F1/00 B
B01F3/08 Z
C02F1/50 531P
C02F1/50 540B
C02F1/50 550D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021003907
(22)【出願日】2021-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】513070716
【氏名又は名称】株式会社環境衛生
(74)【代理人】
【識別番号】100166589
【弁理士】
【氏名又は名称】植村 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】水野 茂治
(72)【発明者】
【氏名】古閑 章彦
【テーマコード(参考)】
4G035
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AA06
4G035AB38
4G035AC15
4G035AE01
4G078AA01
4G078AA06
4G078AB20
4G078BA05
4G078DA08
(57)【要約】
【課題】弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法において、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウムとを効率よくかつ十分に混合させることにより、次亜塩素酸水溶液のpHを弱酸性域に安定させ、有害物質を発生させず、長期保存ができることに加え、炭酸ガスの消費および排出を抑えコストを削減できる方法を提供する。
【解決手段】水を炭酸ガスと混合して炭酸水を得る第1の工程と、得られた炭酸水を次亜塩素酸ナトリウム水溶液と混合して弱酸性次亜塩素酸水溶液を得る第2の工程とを含み、第2の工程では、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを混合機30に供給し、混合機30内に回転自在に配置された第1の撹拌羽根と第1の撹拌羽根とは逆方向に混合機30内に回転自在に配置された第2の撹拌羽根とをそれぞれ駆動させ、第1の撹拌羽根の周囲および第2の撹拌羽根の周囲に互いに方向の異なる流れを発生させながら、混合機30に供給された炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを混合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸(HClO)を主成分とした弱酸性の水溶液である弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法であって、
水を炭酸ガスと混合して炭酸水を得る第1の工程と、
得られた前記炭酸水を次亜塩素酸ナトリウム水溶液と混合して弱酸性次亜塩素酸水溶液を得る第2の工程と、
を含み、
前記第2の工程において、前記炭酸水と前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを混合機に供給し、該混合機内に回転自在に配置された第1の撹拌羽根と該第1の撹拌羽根とは逆方向に前記混合機内に回転自在に配置された第2の撹拌羽根とをそれぞれ駆動させ、前記第1の撹拌羽根の周囲および前記第2の撹拌羽根の周囲に互いに方向の異なる流れを発生させながら、前記混合機に供給された前記炭酸水と前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを混合する、
弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記第1の撹拌羽根と前記第2の撹拌羽根とが、同心軸線上に配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、
前記混合機には混合槽が含まれ、該混合槽内に前記炭酸水と前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを供給し、
前記混合槽は円筒形状を有しており、
前記第1の撹拌羽根が、前記混合槽の中心軸線に沿って長手方向に前記混合槽内に配置され、
前記第2の撹拌羽根が、前記混合槽の内周に沿って長手方向に前記混合槽内に配置されている、
請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記「第1の撹拌羽根の周囲」および前記「第2の撹拌羽根の周囲」に前記「互いに方向の異なる流れ」を発生させることにより、前記混合機内に乱流または渦流を発生させる、請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の撹拌羽根および前記第2の撹拌羽根が、らせん形状を有する、請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の撹拌羽根が、前記第2の撹拌羽根とは異なるらせんの形状を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の工程において、炭酸水中の炭酸ガスの溶存濃度が100ppm~1200ppmに調整される、請求項1から請求項6のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の工程において得られる炭酸水のpHが7.0以下である、請求項1から請求項7のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の工程において、炭酸ガスが、液化炭酸ガス、炭酸水素ナトリウムから生成される炭酸ガス、および、液化炭酸ガスと炭酸水素ナトリウムから生成される炭酸ガスとの混合ガスからなる群より選択される、請求項1から請求項8のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の工程において、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合液中の炭酸ガスの溶存濃度が200ppm以上に調整される、請求項1から請求項9のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
さらに、前記第2の工程において得られた弱酸性次亜塩素酸水溶液に酸を添加することを含む、請求項1から請求項10のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記酸が、リンゴ酸、クエン酸、塩酸、酢酸およびシュウ酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
さらに、前記第2の工程において得られた弱酸性次亜塩素酸水溶液に界面活性剤を添加することを含む、請求項1から請求項12のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記界面活性剤が、塩化ベンザルコニウムもしくはアルキルアミンオキシド、または、塩化ベンザルコニウムとアルキルアミンオキシドとの組み合わせである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記界面活性剤が、前記弱酸性次亜塩素酸水溶液の総重量に対して0.01質量%~1.0質量%含まれる、請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記弱酸性次亜塩素酸水溶液のpHが4.0~6.5である、請求項1から請求項15のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記弱酸性次亜塩素酸水溶液の有効塩素濃度が80ppm以上である、請求項1から請求項16のうちのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸水溶液(「次亜塩素酸水」または「次亜水」とも称する。)は、次亜塩素酸(HClO)を主成分とする酸性の水溶液であり、広範な病原性細菌やウイルスに対して強い殺菌活性および不活化活性を示す。
一方、人間および環境に対しては、安全性が高いことが知られている。
こうしたことから、次亜塩素酸水溶液は、食品分野や医療分野などにおいて導入が進み、殺菌、消毒用途などに使用されている。
さらに、新型コロナウイルスへの感染対策として消毒剤には、供給が困難となった消毒用エタノールと次亜塩素酸ナトリウムに代わり、次亜塩素酸水溶液が使用されるようになった。
【0003】
次亜塩素酸水溶液の製造方法には、大きく分けて、電気分解を用いる方法(以下、「電解型」ということもある。)と、電気分解以外による方法(以下、「非電解型」ということもある。)とがある。
電解型としては、塩酸もしくは塩化ナトリウム水溶液(食塩水)、またはこれらの両方を電気分解する方法が挙げられる(例えば、特許文献1を参照)。
一方、非電解型としては、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と塩酸や炭酸などの酸の水溶液とを混合する方法が代表的であり(例えば、特許文献2を参照)、そのほかに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液をイオン交換樹脂によって処理する方法や、水にジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの粉末または顆粒を加えて溶解する方法などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5―237478号公報
【特許文献2】特開2006―264996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電解型では、電解槽および電極などを備えた装置を必要とし、部品、装置のメンテナンスや交換などに費用が多くかかる。加えて、電気分解によって得られる次亜塩素酸水溶液は、有効成分である次亜塩素酸の濃度が低いうえ、分解が速く進行するため、長期保存ができなかった。
【0006】
非電解型では、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と塩酸とを混合する方法は、塩酸の取り扱いに細心の注意が必要であり、塩酸の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に対する混合比を誤ると、混合液のpH値が低くなり強酸性域になって有害な塩素(Cl2)が発生するため、安全性に問題があった。
【0007】
非電解型を代表するもう1つの製造方法である、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と炭酸とを混合する方法は一般に、まず水中で炭酸ガスをバブリングして炭酸水を生成し、この炭酸水を用いて次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHを調整して弱酸性次亜塩素酸水溶液を得る、というものである。
この方法では、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウムとが効率よくかつ十分に混合せず、次亜塩素酸ナトリウムと反応しない炭酸は気相に飛散して二酸化炭素となり、これを排出する必要があった。故に、炭酸ガスを無駄に消費することとなり、経済的ではなかった。
さらに、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウムとの混合効率がよくないことにより、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHが安定しない傾向にあった。
【0008】
本発明の主な課題は、弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法において、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウムとを効率よくかつ十分に混合(反応)させることにより、次亜塩素酸水溶液のpHを弱酸性域に安定させ、有害物質を発生させず、長期保存ができることに加え、炭酸ガスの消費および排出を抑えコストを削減できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するために、本発明の「次亜塩素酸(HClO)を主成分とした弱酸性の水溶液である弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」は、
水を炭酸ガスと混合して炭酸水を得る第1の工程と、
得られた炭酸水を次亜塩素酸ナトリウム水溶液と混合して弱酸性次亜塩素酸水溶液を得る第2の工程と、
を含み、
第2の工程において、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを混合機に供給し、混合機内に回転自在に配置された第1の撹拌羽根と第1の撹拌羽根とは逆方向に混合機内に回転自在に配置された第2の撹拌羽根とをそれぞれ駆動させ、第1の撹拌羽根の周囲および第2の撹拌羽根の周囲に互いに方向の異なる流れを発生させながら、混合機に供給された炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを混合する。
【0010】
好適には、第1の撹拌羽根と第2の撹拌羽根とは、同心軸線上に配置されている。
【0011】
好適には、第2の工程において、
混合機には混合槽が含まれ、混合槽内に炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを供給し、
混合槽は円筒形状を有しており、
第1の撹拌羽根が、混合槽の中心軸線に沿って長手方向に混合槽内に配置され、
第2の撹拌羽根が、混合槽の内周に沿って長手方向に混合槽内に配置されている。
【0012】
好適には、第2の工程において、第1の撹拌羽根の周囲および第2の撹拌羽根の周囲に互いに方向の異なる流れを発生させることにより、混合機内に乱流または渦流を発生させる。
【0013】
好適には、第1の撹拌羽根および第2の撹拌羽根は、らせん形状を有する。
【0014】
好適には、第1の撹拌羽根は、第2の撹拌羽根とは異なるらせん形状を有する。
【0015】
好適には、第1の工程において、炭酸水中の炭酸ガスの溶存濃度は100ppm~1200ppmに調整される。
【0016】
好適には、第1の工程において得られる炭酸水のpHは7.0以下である。
【0017】
好適には、第1の工程において、炭酸ガスは、液化炭酸ガス、炭酸水素ナトリウムから生成される炭酸ガス、および、液化炭酸ガスと炭酸水素ナトリウムから生成される炭酸ガスとの混合ガスからなる群より選択される。
【0018】
好適には、第2の工程において、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合液中の炭酸ガスの溶存濃度は、200ppm以上に調整される。
【0019】
さらに、第2の工程において得られた弱酸性次亜塩素酸水溶液に酸を添加することを含むことが好ましい。
【0020】
好適には、酸は、リンゴ酸、クエン酸、塩酸、酢酸およびシュウ酸からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0021】
さらに、第2の工程において得られた弱酸性次亜塩素酸水溶液に界面活性剤を添加することを含むことが好ましい。
【0022】
好適には、界面活性剤は、塩化ベンザルコニウムもしくはアルキルアミンオキシド、または、塩化ベンザルコニウムとアルキルアミンオキシドとの組み合わせである。
【0023】
好適には、界面活性剤は、弱酸性次亜塩素酸水溶液の総重量に対して0.01質量%~1.0質量%含まれる。
【0024】
好適には、弱酸性次亜塩素酸水溶液のpHは4.0~6.5である。
【0025】
好適には、弱酸性次亜塩素酸水溶液の有効塩素濃度は80ppm以上である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の「弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」によれば、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウムとを効率よくかつ十分に混合(反応)させることにより、次亜塩素酸水溶液のpHを弱酸性域に安定させ、有害物質を発生させず、長期保存ができることに加え、炭酸ガスの消費および排出を抑えコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る「弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」を実施するための弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】
図2(A)は、
図1に示した弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置に含まれる混合機の内部の構成を模式的に示す図である。
図2(B)は、
図1に示した弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置に含まれる混合機の内部の構成を平面的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の「弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」の実施形態を、図面に従って説明する。
【0029】
<「弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」を実施するための弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置の概略>
図1には、本発明の「弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」を実施するための弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置100が概略的に示されている。
本実施形態において、弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置100は、給水ライン10と、炭酸ガス供給ライン20と、炭酸水生成機30と、炭酸水供給ライン40と、次亜塩素酸ナトリウム水溶液供給ライン50と、混合機60とを備えている。
【0030】
給水ライン10には、炭酸水生成機30に向けて管路を介し、流量調整弁11と、電磁弁12とが連結されている。
【0031】
炭酸ガス供給ライン20には、炭酸ガスボンベ21から炭酸水生成機30に向けて管路を介し、炭酸ガスボンベ21と、圧力調整弁22と、流量調整弁23と、電磁弁24と、噴射器25とが連結されている。
本実施形態では、炭酸ガスボンベ21には二酸化炭素が充填されているが、これに限定されない。炭酸ガスボンベ21に充填されるガスとしては、液化炭酸ガス、炭酸水素ナトリウムから生成される炭酸ガス、液化炭酸ガスと炭酸水素ナトリウムから生成される炭酸ガスとの混合ガスなどが挙げられる。ここで、「炭酸水素ナトリウムから生成される炭酸ガス」とは、炭酸水素ナトリウムを熱で分解させたり酸と反応させたりすることにより生成される炭酸ガスを意味する。なお、炭酸ガスボンベ21は、弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置100から取り外し可能に設置されている。
【0032】
炭酸水生成機30は、水と炭酸ガスとを混合して炭酸水を生成するために設けられている。
【0033】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液供給ライン50には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液貯蔵タンク51から混合機60に向けて管路を介し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液貯蔵タンク51と、流量調整弁52と、電磁弁53とが連結されている。次亜塩素酸ナトリウム水溶液貯蔵タンク51には、濃度4重量%~12重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液が貯蔵されている。なお、次亜塩素酸ナトリウム水溶液貯蔵タンク51は、弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置100から取り外し可能に設置されている。
【0034】
混合機60は、炭酸水生成機30において生成された炭酸水を、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と混合するために設けられている。
さらに、混合機60から見て混合機60の下流側には、弱酸性次亜塩素酸水溶液流出口70が設けられている。
【0035】
<弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法>
図1に示されている弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置100を用いて弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造する方法の実施形態を説明する。
本実施形態の「弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」は、大きくは、水を炭酸と混合して炭酸水を得る第1の工程と、第1の工程において得られた炭酸水を次亜塩素酸ナトリウム水溶液と混合して弱酸性次亜塩素酸水溶液を得る第2の工程とに分けられる。
ここでは、これらの工程をそれぞれ説明する。
【0036】
(第1の工程)
まず、給水ライン10上の電磁弁12を開き、流量調整弁11により流量(水量)を調整しながら、給水ライン10を通じて、水(本実施形態では、水道水)を炭酸水生成機30へ供給し、炭酸水生成機30内に一定量の水を貯留させる。
本実施形態では、水として、入手が容易であり安全な水道水を使用しているが、これに限定されない。
【0037】
次いで、炭酸ガス供給ライン20上の電磁弁24を開き、圧力調整弁22により圧力を調整し、そして流量調整弁23により流量を調整しながら、炭酸ガス供給ライン20を通じて炭酸ガスボンベ21から炭酸ガスを流し、噴射器25によって炭酸水生成機30に一定量供給する。
炭酸ガス供給ライン20上で炭酸ガスボンベ21から噴射器25へ一定圧の炭酸ガスが流入すると、噴射器25は急速に炭酸ガスを噴射する。噴射器25は、炭酸ガスを炭酸水生成機30へバブリング状態により一定量供給する。
これによって、炭酸ガスの気流が、炭酸水生成機30内に貯留された水と衝突し、水と炭酸ガスとが十分に混合する。
【0038】
炭酸水生成機30内での水と炭酸ガスとの混合が十分でない場合は、これらを循環させることが可能である。
本実施形態では、炭酸ガス供給ライン20上の電磁弁24を閉じ循環ポンプ31を駆動させ、炭酸水生成機30にいったん供給された水および炭酸ガスを循環させて噴射器25に送り、噴射器25から再び噴射し、十分に混合させる。ただし、この構成に限定されない。
【0039】
このようにして、炭酸ガスは炭酸水生成機30内の水に溶解し、所定時間経過後、炭酸水生成機30内の水は飽和状態となってpH7.0以下の水(炭酸水)となる。
【0040】
本実施形態の第1の工程において、炭酸水中の炭酸ガスの溶存濃度は100ppm~1200ppmに調整される。好ましくは、第1の工程において、炭酸水中の炭酸ガスの溶存濃度は200ppm~500ppmに調整される。第1の工程において、炭酸水中の炭酸ガスの溶存濃度が200ppm~500ppmの範囲内に調整されることにより、炭酸水のpH値を7.0以下にさらに安定して維持することができる。
【0041】
(第2の工程)
第1の工程により生成された炭酸水は、混合機60に供給される。具体的には、炭酸水供給ライン40上の電磁弁41を開き、計量ポンプ42を駆動させて、炭酸水供給ライン40を通じ、炭酸水を混合機60に一定量供給する。
【0042】
炭酸水の混合機60への供給と同時に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液供給ライン50上の電磁弁53を開き、流量調整弁52により流量を調整しながら、次亜塩素酸ナトリウム水溶液供給ライン50を通じて次亜塩素酸ナトリウム水溶液貯蔵タンク51から次亜塩素酸ナトリウム水溶液(本実施形態では、12重量%)を流し、混合機60(具体的には、後述する混合槽)に一定量供給する。
【0043】
次いで、混合機60に供給された炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを、混合機60を構成する混合槽内において十分に混合する。
具体的には、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合工程は、次のとおりである。
【0044】
図2Aには、混合機60の内部の構成が模式的に示されている。
混合機60には、混合槽62が含まれ、混合槽62内には、第1の撹拌羽根63と、第2の撹拌羽根64とが配置されている。
第1の撹拌羽根63は、混合機60の混合槽62内に回転自在に配置され、第2の撹拌羽根64は、第1の撹拌羽根63とは逆方向に混合槽62内に回転自在に配置されている。
【0045】
混合機60に炭酸水および次亜塩素酸ナトリウム水溶液が供給されると、混合槽62内において、第1の撹拌羽根63および第2の撹拌羽根64が回転する。
なお、混合機60への炭酸水および次亜塩素酸ナトリウム水溶液の供給時に、第1の撹拌羽根63と第2の撹拌羽根64とは同時に回転するように構成されていてもよいし、第1の撹拌羽根63および第2の撹拌羽根64のうちの一方の撹拌羽根が回転してから、他方の撹拌羽根が回転するように構成されていてもよい。
【0046】
図2Aに示されているように、混合槽62内において、第1の撹拌羽根63と第2の撹拌羽根64とは、長手方向に配置されている。
【0047】
図2Bは、混合機60の内部の構成を平面的に示す図である。
図2Bに示されているように、第1の撹拌羽根63と第2の撹拌羽根64とは、混合槽62の中心軸線Cを中心として、同心軸線上に配置されている。なお、中心軸線Cは、混合槽62の中心を通る仮想上の線であり、本実施形態の理解を容易にするために
図2Aおよび
図2B中に描かれている。
本実施形態では、第1の撹拌羽根63は、混合槽62の中心軸線Cに沿って長手方向に混合槽62内に配置され、第2の撹拌羽根64は、混合槽62の内周に沿って長手方向に混合槽62内に配置されている。第1の撹拌羽根63の外周において長手方向に第2の撹拌羽根64が配置されている。ただし、この構成に限定されない。
【0048】
第1の撹拌羽根63には回転軸63aと羽根部63bとが設けられ、第2の撹拌羽根64には回転軸64aと羽根部64bとが設けられている。第1の撹拌羽根63の回転軸63a、および第2の撹拌羽根64の回転軸64aは、駆動源としてのモーター(図示されていない。)に接続されている。
本実施形態では、第1の撹拌羽根63の回転軸63aの外周面に羽根部63bが設けられ、第2の撹拌羽根64の回転軸64aに羽根部64bが接続されている。ただし、この構成に限定されない。
【0049】
第1の撹拌羽根63および第2の撹拌羽根64を駆動させると、第1の撹拌羽根63の周囲および第2の撹拌羽根64の周囲に流れが発生する。第1の撹拌羽根63の周囲に発生する流れと、第2の撹拌羽根64の周囲に発生する流れとは、方向が異なる。すなわち、第1の撹拌羽根63の周囲には、第2の撹拌羽根64の周囲とは反対方向の流れが発生する。
本実施形態では、
図2Bに示されているように、第1の撹拌羽根63は時計回りに回転して、第1の撹拌羽根63の周囲には時計回りの流れが発生し、第2の撹拌羽根64は反時計回りに回転して、第2の撹拌羽根64の周囲には反時計回りの流れが発生する。ただし、これに限定されない。
【0050】
このようにして、第1の撹拌羽根63の周囲および第2の撹拌羽根64の周囲に互いに方向の異なる流れが発生することにより、第1の撹拌羽根63の周囲に発生する流れと、第2の撹拌羽根64の周囲に発生する流れとが衝突したり合流したりするなどして、混合槽62内には乱流または渦流が発生する。
【0051】
この乱流または渦流により、炭酸ガスに対して作用するせん断力および粉砕力が向上し、液中の炭酸ガス気泡が微細化され、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と炭酸ガス気泡との接触界面が大きくなり、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウムとを効率よくかつ十分に混合(反応)させることができる。
加えて、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウムとが効率よくかつ十分に混合するため、次亜塩素酸ナトリウムと反応しない炭酸が少なくなり、気相に飛散する二酸化炭素を排出する手間が省かれる。また、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合時間も削減される。このように、炭酸ガスの消費と排出が抑えられること、および混合機60の稼働時間が短縮されることから、コストの削減および生産効率の向上につながる。
【0052】
第1の撹拌羽根63および第2の撹拌羽根64は、混合槽62内に炭酸水および次亜塩素酸ナトリウム水溶液を供給する際に、分割、転換、反転、合流およびせん断などの作用により、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とを効果的に混合および撹拌できるように、幾何学的形状に設計されている。
好ましくは、第1の撹拌羽根63および第2の撹拌羽根64は、
図2Aに示されているように、らせん形状を有する。さらに、
図2Aに示されているように、第1の撹拌羽根63は、第2の撹拌羽根64とは異なるらせんの形状を有することがより好ましい。第1の撹拌羽根63の形状と第2の撹拌羽根64の形状とを、異なるらせんの形状とすることにより、分割、転換、反転、合流およびせん断などの作用がさらに発揮され、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とをさらに効果的に混合および撹拌することができる。
【0053】
第2の撹拌羽根64は、混合槽62の内周面上に(例えば、混合槽62の内周面上に混合槽62の内周に沿ってらせん状に)羽根部64bを取り付けることによって、形成されていてもよい。この場合、混合槽62自体が回転できるように構成されていることが好ましい。
【0054】
混合槽62は、円筒形状を有することが好ましい。こうした形状を採用することにより、混合槽62内に乱流または渦流が発生しやすくなる。これに加えて、混合機60を設置するのに必要なスペースの節約にもつながる。また、前述したように、第2の撹拌羽根64において、混合槽62の内周面上に羽根部64bを取り付ける場合、混合槽62の内周面上に羽根部64bを取り付けやすくなる(例えば、混合槽62の内周面上に混合槽62の内周に沿ってらせん状に羽根部64bを取り付ける場合は、なおさらである。)。さらに、この場合、混合槽62自体を回転させやすくすることができる。
【0055】
混合機60内での炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合(炭酸水と次亜塩素酸ナトリウムとの反応)を確実にするために、これらを循環させることが可能である。
本実施形態では、炭酸水供給ライン40上の電磁弁41を閉じ循環ポンプ61を駆動させ、そして計量ポンプ42を再び駆動させ、混合機60にいったん供給された炭酸水および次亜塩素酸ナトリウム水溶液を循環させて再び混合機60に供給し、十分に混合させる(
図1を参照)。ただし、この構成に限定されない。
【0056】
このようにして、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウムとが効率よくかつ十分に混合(反応)する。その結果、pH4.0~6.5の弱酸性域の混合液が得られる。
【0057】
本実施形態の第2の工程において、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合液中の炭酸ガスの溶存濃度は、200ppm以上に調整されることが好ましい。第2の工程において、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合液中の炭酸ガスの溶存濃度が200ppm以上に調整されることにより、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合液のpH値を4.0~6.5の弱酸性域にさらに安定して維持することができる。
【0058】
<弱酸性次亜塩素酸水溶液>
第2の工程において、混合機60内で炭酸水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液とが混合され、混合液が得られる。得られた混合液は、混合機60から排出された後、管路を介し弱酸性次亜塩素酸水溶液流出口70から、「弱酸性次亜塩素酸水溶液」として供給される。
【0059】
ここで、「弱酸性次亜塩素酸水溶液」とは、次亜塩素酸(HClO)を主成分とする、炭酸水を用いて次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHを4.0~6.5の弱酸性域に調整した弱酸性の水溶液を意味する。
【0060】
通常の使用濃度に希釈された次亜塩素酸ナトリウム水溶液はアルカリ性であり、その主成分は次亜塩素酸である。
次亜塩素酸の解離定数(pKa)は25℃において7.5であり、溶液のpHに依存して形態が変化することが知られている。アルカリ性域では解離型の次亜塩素酸イオン(ClO-)の割合が大きく、pHを低下させると非解離型の次亜塩素酸の割合が増加する。さらに強い酸性域になると、塩素(Cl2)に変化し、気相に飛散する。
前述した次亜塩素酸(HClO)、次亜塩素酸イオン(ClO-)および塩素(Cl2)を総称して「有効塩素(または遊離有効塩素)」と呼び、これらの濃度を「有効塩素濃度(または遊離有効塩素濃度)」として表す。例えば、pH6の弱酸性次亜塩素酸水溶液では、有効塩素の97%が次亜塩素酸、3%が次亜塩素酸イオンとして存在している。
次亜塩素酸ナトリウムの殺菌効果は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の総有効塩素濃度ではなく非解離型の次亜塩素酸の濃度に強く依存することから、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を弱酸性域において使用することにより、殺菌効果および殺菌速度が向上する。
【0061】
本実施形態の製造方法から得られる弱酸性次亜塩素酸水溶液は、殺菌効果および消毒効果の観点から、pHが好ましくは4.0~6.5である。例えば、殺菌および消毒に有効な非解離型の次亜塩素酸の濃度をさらに高めることができるように、4.5~6.5、5.5~6.5といったpHとしてもよい。弱酸性次亜塩素酸水溶液のpHが4.0未満になると、有害な塩素(Cl2)が発生する。一方、弱酸性次亜塩素酸水溶液のpHが6.5を超えると、殺菌および消毒に有効な非解離型の次亜塩素酸の濃度が低くなる傾向がある。
【0062】
本実施形態の製造方法から得られる弱酸性次亜塩素酸水溶液は、殺菌効果および消毒効果の観点から、有効塩素濃度が好ましくは80ppm以上である。ただし、有効塩素濃度を大幅に上げない(例えば、有効塩素濃度が1000ppmを超えない)ことがさらに好ましい。これは、有効塩素濃度を大幅に上げると、次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)が多く必要となり、コストの上昇を招く可能性があるためである。
なお、本実施形態の「弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」では、水を炭酸ガスと混合して炭酸水を得る工程と、得られた炭酸水を次亜塩素酸ナトリウム水溶液と混合して弱酸性次亜塩素酸水溶液を得る工程の2つの工程を経る。このため、弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置100に混合機60または混合槽62を複数設置すれば、一度に複数の有効塩素濃度の弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造(供給)することができる。これにより、用途または目的の異なる、複数の有効塩素濃度(例えば、200ppm、150ppmおよび80ppm)の弱酸性次亜塩素酸水溶液を同時に供給することが可能となる。
【0063】
本実施形態の「弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」では、炭酸水と次亜塩素酸ナトリウムとを効率よくかつ十分に混合(反応)することにより、得られる弱酸性次亜塩素酸水溶液のpHを弱酸性域(pH4.0~6.5)に安定して維持することができる。加えて、炭酸特有のpH緩衝作用により、弱酸性次亜塩素酸水溶液のpH値の変動を小さくすることができる。
これによって、塩素(Cl2)、およびアルカリ性域において増加する傾向があるトリハロメタンといった有害物質の発生を抑え、有効塩素濃度(特に、殺菌および消毒に有効な非解離型の次亜塩素酸の濃度)を保ちつつ、得られた弱酸性次亜塩素酸水溶液を長期保存することができる。
【0064】
さらに、本実施形態の製造方法から得られる弱酸性次亜塩素酸水溶液には、弱酸性次亜塩素酸水溶液のpHを長期的に安定させることを目的として、酸が添加されてもよい。酸の例としては、リンゴ酸、クエン酸、塩酸、酢酸、シュウ酸が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種の酸を選択することができる。酸は、製剤、水溶液などとして添加することができ、pH安定化および安全性を考慮して、弱酸性次亜塩素酸水溶液中に適量添加することが好ましい。
【0065】
加えて、本実施形態の製造方法から得られる弱酸性次亜塩素酸水溶液には、除菌効果、抗菌効果および消毒効果などを向上させることを目的として、界面活性剤が添加されてもよい。界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウムもしくはアルキルアミンオキシド、または、塩化ベンザルコニウムとアルキルアミンオキシドとの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。界面活性剤は、除菌効果、抗菌効果および消毒効果、ならびに安全性などの観点から、弱酸性次亜塩素酸水溶液の総重量に対して0.01質量%~1.0質量%含まれることが好ましい。
【0066】
なお、本実施形態の「弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」において原料となる、炭酸ガスおよび次亜塩素酸ナトリウムは、食品添加物として認可されている。さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と炭酸などの酸の水溶液とを混合する方法により製造される弱酸性次亜塩素酸水溶液も、使用時に用事調製される(使用者がその場で製造する)ものは食品添加物として認可されている。したがって、本実施形態の製造方法によって得られる弱酸性次亜塩素酸水溶液は、安全であり、安心して使用することができる。
【0067】
本発明の「弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法」に関して、実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は前述の実施形態に記載されている構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲においてその構成を変更することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 給水ライン
20 炭酸ガス供給ライン
21 炭酸ガスボンベ
25 噴射器
30 炭酸水生成機
40 炭酸水供給ライン
50 次亜塩素酸ナトリウム水溶液供給ライン
51 次亜塩素酸ナトリウム水溶液貯蔵タンク
60 混合機
62 混合槽
63 第1の撹拌羽根
63a (第1の撹拌羽根の)回転軸
63b (第1の撹拌羽根の)羽根部
64 第2の撹拌羽根
64a (第2の撹拌羽根の)回転軸
64b (第2の撹拌羽根の)羽根部
70 弱酸性次亜塩素酸水溶液流出口
100 弱酸性次亜塩素酸水溶液製造装置
C 中心軸線