(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108842
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】3相電力システムを構成するサブシステムの出力アドミタンスを測定する方法
(51)【国際特許分類】
G01R 27/02 20060101AFI20220720BHJP
【FI】
G01R27/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004015
(22)【出願日】2021-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利次
(72)【発明者】
【氏名】井上 馨
【テーマコード(参考)】
2G028
【Fターム(参考)】
2G028AA03
2G028BF03
2G028CG08
2G028CG20
2G028DH11
2G028GL09
(57)【要約】
【課題】従来よりも簡略化された構成でサブシステムの出力アドミタンスを測定することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る方法は、摂動信号を生成するステップS1と、摂動信号に従って振動する電圧v
aと振動しない電圧v
bを電圧v
u,v
v,v
wに変換するステップS2と、サブシステムのu,v相に電圧v
u-v
w,v
v-v
wを印加しながら電流i
u,i
v,i
wおよび電圧v
u,v
v,v
wを測定するステップS3と、S3で得た電流i
u,i
v,i
wを電流i
a,i
bに変換するステップS4と、S3で得た電圧v
u,v
v,v
wを電圧v
a,v
bに変換するステップS5と、S4で得た電流i
a,i
bとS5で得た電圧v
a,v
bとの関係に基づいて出力アドミタンスの行列要素Y
aa,Y
baを求めるステップS6と、同様にして出力アドミタンスの行列要素Y
ab,Y
bbを求めるステップS9~S14とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相電力システムを構成するサブシステムの出力アドミタンスを測定する方法であって、
予め定めた振幅で振動する摂動信号を生成する第1ステップと、
前記摂動信号に従って振動する2相系の電圧vaと振動しない2相系の電圧vbとを3相系の電圧vu,vv,vwに変換する第2ステップと、
前記サブシステムのu相、v相およびw相のうち、u相およびv相にそれぞれ電圧vu-vwおよび電圧vv-vwを印加しながら、測定により各相の電流iu,iv,iwおよび電圧vu,vv,vwを得る第3ステップと、
第3ステップで得た電流iu,iv,iwを変換して2相系の電流ia,ibを得る第4ステップと、
第3ステップで得た電圧vu,vv,vwを変換して2相系の電圧va,vbを得る第5ステップと、
第4ステップで得た電流ia,ibと第5ステップで得た電圧va,vbとの関係に基づいて、前記出力アドミタンスの行列要素であるYaa,Ybaを求める第6ステップと、
前記摂動信号に従って振動する2相系の電圧vbと振動しない2相系の電圧vaとを3相系の電圧vu,vv,vwに変換する第7ステップと、
前記サブシステムのu相、v相およびw相のうち、u相およびv相にそれぞれ電圧vu-vwおよび電圧vv-vwを印加しながら、測定により各相の電流iu,iv,iwおよび電圧vu,vv,vwを得る第8ステップと、
第8ステップで得た電流iu,iv,iwを変換して2相系の電流ia,ibを得る第9ステップと、
第8ステップで得た電圧vu,vv,vwを変換して2相系の電圧va,vbを得る第10ステップと、
第9ステップで得た電流ia,ibと第10ステップで得た電圧va,vbとの関係に基づいて、前記出力アドミタンスの行列要素であるYab,Ybbを求める第11ステップと
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項2】
予め定めた測定周波数範囲内で前記振動の周波数を変化させながら第2~第6ステップを繰り返し実行し、その後、前記測定周波数範囲内で前記振動の周波数を変化させながら第7~第11ステップを繰り返し実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2ステップおよび第7ステップの変換を式(3-1)により行い、第4ステップおよび第9ステップの変換を式(3-2)により行い、第5ステップおよび第10ステップの変換を式(3-3)により行う
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【数1】
【数2】
【数3】
【請求項4】
第2ステップおよび第7ステップの変換を式(4-1)により行い、第4ステップおよび第9ステップの変換を式(4-2)により行い、第5ステップおよび第10ステップの変換を式(4-3)により行う
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【数4】
【数5】
【数6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3相電力システムを構成する複数のサブシステムのうちの1つの出力アドミタンスを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリッド連系3相インバータシステム等の3相電力システムの安定性の解析には、インピーダンス法が好適である。インピーダンス法では、3相電力システムを構成する複数のサブシステムの出力インピーダンスまたは出力アドミタンス(以下、「出力インピーダンス等」という)をサブシステム同士の相互作用を考慮した安定性規範であるナイキストの安定条件にあてはめる。このため、インピーダンス法によりシステムの安定性を解析するためには、サブシステムの出力インピーダンス等が必要となる。
【0003】
システムの設計段階における安定性解析では、解析的に求めたサブシステムの出力インピーダンス等を用いることができるが、実機検証段階における安定性解析では、測定により求めたサブシステムの出力インピーダンス等を用いなければならない。このため、サブシステムの出力インピーダンス等を測定するための種々の手法が検討されている。例えば、非特許文献1には、サブシステムである電圧源と負荷とを繋ぐ各相の電力線に外部から電圧を印加(注入,Injection)するとともに、各相の電圧を測定する手法が記載されている(特に、p.57の
図3-12参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Z. Shen, "Online Measurement of Three-phase AC Power System Impedance in Synchronous Coordinates," Ph. D. dissertation, Virginia Polytechnic Institute and State University, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載の従来の手法では、各相の電力線に電圧を印加するために3つのトランスが必要となる。このため、この手法は、3つのトランスとこれらの駆動回路との間の配線が複雑であり、かつ高コストであるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、従来よりも簡略化された構成でありながら従来と同等の精度でサブシステムの出力アドミタンスを測定することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る、3相電力システムを構成するサブシステムの出力アドミタンスを測定する方法は、(1)予め定めた振幅で振動する摂動信号を生成する第1ステップと、(2)摂動信号に従って振動する2相系の電圧vaと振動しない2相系の電圧vbとを3相系の電圧vu,vv,vwに変換する第2ステップと、(3)サブシステムのu相、v相およびw相のうち、u相およびv相にそれぞれ電圧vu-vwおよび電圧vv-vwを印加しながら、測定により各相の電流iu,iv,iwおよび電圧vu,vv,vwを得る第3ステップと、(4)第3ステップで得た電流iu,iv,iwを変換して2相系の電流ia,ibを得る第4ステップと、(5)第3ステップで得た電圧vu,vv,vwを変換して2相系の電圧va,vbを得る第5ステップと、(6)第4ステップで得た電流ia,ibと第5ステップで得た電圧va,vbとの関係に基づいて、出力アドミタンスの行列要素であるYaa,Ybaを求める第6ステップと、(7)摂動信号に従って振動する2相系の電圧vbと振動しない2相系の電圧vaとを3相系の電圧vu,vv,vwに変換する第7ステップと、(8)サブシステムのu相、v相およびw相のうち、u相およびv相にそれぞれ電圧vu-vwおよび電圧vv-vwを印加しながら、測定により各相の電流iu,iv,iwおよび電圧vu,vv,vwを得る第8ステップと、(9)第8ステップで得た電流iu,iv,iwを変換して2相系の電流ia,ibを得る第9ステップと、(10)第8ステップで得た電圧vu,vv,vwを変換して2相系の電圧va,vbを得る第10ステップと、(11)第9ステップで得た電流ia,ibと第10ステップで得た電圧va,vbとの関係に基づいて、出力アドミタンスの行列要素であるYab,Ybbを求める第11ステップと、を備えている。
【0008】
上記方法は、予め定めた測定周波数範囲内で振動の周波数を変化させながら第2~第6ステップを繰り返し実行し、その後、その測定周波数範囲内で振動の周波数を変化させながら第7~第11ステップを繰り返し実行するようになっていてもよい。
【0009】
上記方法は、例えば、第2ステップおよび第7ステップの変換を式(3-1)により行い、第4ステップおよび第9ステップの変換を式(3-2)により行い、第5ステップおよび第10ステップの変換を式(3-3)により行ってもよい。
【数1】
【数2】
【数3】
【0010】
また、上記方法は、例えば、第2ステップおよび第7ステップの変換を式(4-1)により行い、第4ステップおよび第9ステップの変換を式(4-2)により行い、第5ステップおよび第10ステップの変換を式(4-3)により行ってもよい。
【数4】
【数5】
【数6】
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来よりも簡略化された構成でありながら従来と同等の精度でサブシステムの出力アドミタンスを測定することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施例に係る測定方法を適用できるようにした3相電力システムを示す図である。
【
図2】
図1に示した電圧印加部の具体的構成の一例を示す図である。
【
図3】本発明の第2実施例に係る測定方法を適用できるようにした3相電力システムを示す図である。
【
図4】
図3に示した信号処理部に含まれるPLLのブロック図である。
【
図6】第1,2測定例において測定対象とした3相電力システムの回路図である。
【
図7】第1測定例の測定結果(Z
dd,Z
dq)を示すグラフである。
【
図8】第1測定例の測定結果(Z
qd,Z
qq)を示すグラフである。
【
図9】第2測定例の測定結果(Z
αα,Z
ββ)を示すグラフである。
【
図10】第3測定例において測定対象とした3相電力システムの回路図である。
【
図11】第3測定例の測定結果(Y
dd,Y
dq)を示すグラフである。
【
図12】第3測定例の測定結果(Y
qd,Y
qq)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[測定原理]
まず、本発明に係る、3相電力システムを構成するサブシステムの出力アドミタンスを測定する方法(以下、単に「測定方法」という)の測定原理について説明する。
【0014】
3相電力システムを構成する2つのサブシステムを繋ぐu,v,w相の電力線に印加する電圧の瞬時値ベクトルを[v~
u v~
v v~
w]
T(ただし、Tは転置記号)、この印加により生じる電流の瞬時値ベクトルを[i~
u i~
v i~
w]
Tとし、かつ、これらのフェーザーを大文字で表現すると、3相系のインピーダンス行列およびアドミタンス行列は、式(1)および式(2)で定義することができる。
【数7】
【数8】
【0015】
また、3相(u,v,w)系から2相(a,b)系への瞬時値電圧の変換およびその逆変換は、式(3)および式(4)により行うことができ、3相系から2相系への瞬時値電流の変換およびその逆変換は、式(5)および式(6)により行うことができる。
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
ただし、C
abは変換行列であり、2次の単位行列をI
2とすると、C
abおよびC
ab
Tの間には次式が成立する。
【数13】
【0016】
なお、αβ変換により2相系への変換を行う場合、および逆αβ変換により3相系への変換を行う場合は、変換行列C
abとして次式のC
αβを使用すればよい。
【数14】
また、dq変換により2相系への変換を行う場合、および逆dq変換により3相系への変換を行う場合は、変換行列C
abとして次式のC
dqを使用すればよい。ただし、θは、同期座標の位相角である。
【数15】
【0017】
2相系のインピーダンス行列およびアドミタンス行列は、式(10)および式(11)で定義することができる。
【数16】
【数17】
なお、3相電力システムが相間で対称な場合は、インピーダンスおよびアドミタンスも対称なので、Z
ab=-Z
ba、Z
aa=Z
bb、Y
ab=-Y
baおよびY
aa=Y
bbが成立する。
【0018】
行列であることを示す記号
mおよびベクトルであることを示す記号
vを用いると、式(10)は式(12)のような形式に書き換えることができ、式(11)は式(13)のような形式に書き換えることができる。
【数18】
【数19】
ここで、2相系のインピーダンス行列およびアドミタンス行列の間には、次式の関係がある。
【数20】
【0019】
式(11)に示したアドミタンス行列の要素を求めるためには、V~
aおよびV~
bの一方を予め定めた振幅で振動させながら他方の振幅をゼロにすればよい。例えば、V~
a≠0かつV~
b=0としながらI~
a,I~
bを測定すれば、次式から理解されるように、式“I~
a/V~
a”で行列要素Y
aaを求めることができ、式“I~
b/V~
a”で行列要素Y
baを求めることができる。反対に、V~
a=0かつV~
b≠0としながらI~
a,I~
bを測定すれば、式“I~
a/V~
b”で行列要素Y
abを求めることができ、式“I~
b/V~
b”で行列要素Y
bbを求めることができる。
【数21】
【0020】
前述した通り、インピーダンス行列Zm
abおよびアドミタンス行列Ym
abの間には式(14)の関係があるので、アドミタンス行列Ym
abの各要素(Yaa,Yab,Yba,Ybb)が求まれば、インピーダンス行列Zm
abの各要素(Zaa,Zab,Zba,Zbb)も計算により容易に求めることができる。
【0021】
[第1実施例]
続いて、添付図面を参照しながら、本発明の第1実施例について説明する。
【0022】
図1に、第1実施例に係る測定方法を適用できるようにしたシステムを示す。同図に示すように、このシステムは、第1サブシステム10と、第2サブシステム11と、これらの間での3相電力のやり取りを可能とするu,v,w相の電力線と、周波数特性分析部12と、信号処理部13と、電力線に介装された電圧印加部14とを備えている。このシステムは、2つのサブシステム10,11および電力線からなる3相電力システムに、周波数特性分析部12、信号処理部13および電圧印加部14を追加したものであると言える。周波数特性分析部12は、最終的に、測定した第2サブシステム11の出力アドミタンスY
m
αβ(または出力インピーダンスZ
m
αβ)を出力する。
【0023】
周波数特性分析部12は、市販の周波数特性分析器(FRA,Frequency Response Analyzer)で構成されている。信号処理部13は、市販のディジタル信号処理装置(DSP,Digital Signal Processor)で構成されている。信号処理部13のサンプリング周波数は、100kHzである。また、電圧印加部14は、
図2に示すように、u相の電力線に介装された第1トランスT
uと、v相の電力線に介装された第2トランスT
vと、信号処理部13から出力された信号に基づいてトランスT
u,T
vを駆動する駆動回路15,16とで構成されている。w相の電力線には、トランスは介装されていない。
【0024】
周波数特性分析部12、信号処理部13および電圧印加部14は、
図5に示すフローに従って出力アドミタンスY
m
αβ(Z
m
αβ)を測定し、出力する。
【0025】
まず、ステップS1では、周波数特性分析部12が、予め定めた振幅で振動する摂動信号を生成する。振動周波数fの初期値は、測定周波数の下限値であるf1(例えば、10Hz)である。
【0026】
ステップS2では、信号処理部13が、周波数特性分析部12から出力された摂動信号に従って振動する2相系の電圧va(本実施例では、電圧vα)と振動しない2相系の電圧vb(本実施例では、電圧vβ)とを3相系の電圧vu,vv,vwに変換(本実施例では、逆αβ変換)する。変換式は、式(4)および式(8)である。
【0027】
ステップS3では、電圧印加部14が、信号処理部13から出力された電圧vu,vv,vwに関する信号に基づいて、u,v相の電力線にそれぞれ電圧vu-vw,電圧vv-vwを印加する。より詳しくは、u相の電力線に電圧vu-vwが印加されるように駆動回路15が第1トランスTuを駆動するとともに、v相の電力線に電圧vv-vwが印加されるように駆動回路16が第2トランスTvを駆動する。
【0028】
ステップS3では、さらに、各相の電力線を流れる電流の瞬時値i
u,i
v,i
wを測定により求める。ここで、「電流の瞬時値i
u,i
v,i
wを測定により求める」には、i
u,i
v,i
wのそれぞれを測定することだけでなく、i
u,i
v,i
wのうちの2つを測定するとともに残りの1つを信号処理部13が計算により求めることも含まれるものとする。
図1に示すように、本実施例では、測定したi
u,i
wからi
vを求める。
【0029】
ステップS3では、さらに、電圧印加部14と第2サブシステム11との間において、各相の電力線の電圧の瞬時値v
u,v
v,v
wを測定により求める。ここで、「電圧の瞬時値v
u,v
v,v
wを測定により求める」には、v
u,v
v,v
wのそれぞれを測定することだけでなく、相間電圧v
uv(=v
u-v
v),v
vw(=v
v-v
w),v
uw(=v
u-v
w)のうちの2つを測定するとともに信号処理部13が計算によりv
u,v
v,v
wを求めることも含まれるものとする。
図1に示すように、本実施例では、測定したv
uv,v
vwから計算によりv
u,v
v,v
wを求める。
【0030】
ステップS4では、信号処理部13が、ステップS3で求められた電流の瞬時値iu,iv,iwを2相系の電流ia,ib(本実施例では、電流iα,iβ)に変換(本実施例では、αβ変換)する。変換式は、式(5)および式(8)である。
【0031】
ステップS5では、信号処理部13が、ステップS3で求められた電圧の瞬時値vu,vv,vwを2相系の電圧va,vb(本実施例では、電圧vα,vβ)に変換(本実施例では、αβ変換)する。変換式は、式(3)および式(8)である。なお、ステップS2において電圧vαだけを振動させたので、このステップで求められる電圧vβはゼロとなる。
【0032】
ステップS6では、周波数特性分析部12が、ステップS4で求めた電流ia,ib(本実施例では、電流iα,iβ)とステップS5で求めた電圧va,vb(本実施例では、電圧vα,vβ)との関係(式(15)参照)に基づいて、出力アドミタンスYm
ab(本実施例では、Ym
αβ)の行列要素であるYaa,Yba(本実施例では、Yαα,Yβα)を求める。
【0033】
ステップS7では、現在の振動周波数fが測定周波数の上限値であるf2(例えば、10kHz)に達しているか否かを判定する。振動周波数fがf2に達していなければ、fに予め定めたΔfを加算する(ステップS8)。そして、加算後の振動周波数fについてステップS1~S7を実行する。ステップS1~S8は、振動周波数fがf2に達するまで繰り返し実行される。言い換えると、ステップS1~S8は、測定周波数の全範囲(f1~f2)においてYaa,Ybaが得られるまで繰り返し実行される。なお、Δfは、一定値であってもよいし、可変値であってもよい。後述するステップS15のΔfについても同様である。
【0034】
ステップS9では、ステップS1と同様に、周波数特性分析部12が、予め定めた振幅で振動する摂動信号を生成する。振動周波数fの初期値は、f1である。
【0035】
ステップS10では、ステップS2とは異なり、信号処理部13が、周波数特性分析部12から出力された摂動信号に従って振動する2相系の電圧vb(本実施例では、電圧vβ)と振動しない2相系の電圧va(本実施例では、電圧vα)とを3相系の電圧vu,vv,vwに変換(本実施例では、逆αβ変換)する。変換式は、式(4)および式(8)である。
【0036】
ステップS11~S13は、ステップS3~S5と同等である。
【0037】
ステップS14では、周波数特性分析部12が、ステップS12で求めた電流ia,ib(本実施例では、電流iα,iβ)とステップS13で求めた電圧va,vb(本実施例では、電圧vα,vβ)との関係(式(15)参照)に基づいて、出力アドミタンスYm
ab(本実施例では、Ym
αβ)の行列要素であるYab,Ybb(本実施例では、Yαβ,Yββ)を求める。
【0038】
ステップS15では、現在の振動周波数fがf2に達しているか否かを判定する。振動周波数fがf2に達していなければ、fにΔfを加算する(ステップS16)。そして、加算後の振動周波数fについて、ステップS9~S15を実行する。ステップS9~S16は、振動周波数fがf2に達するまで繰り返し実行される。言い換えると、ステップS9~S16は、測定周波数の全範囲(f1~f2)においてYab,Ybbが得られるまで繰り返し実行される。
【0039】
以上のようにして、周波数特性分析部12、信号処理部13および電圧印加部14は、測定すべき全測定周波数範囲(f1~f2)において第2サブシステム11の出力アドミタンスYm
αβ(Yαα,Yαβ,Yβα,Yββ)を測定する。周波数特性分析部12は、測定した出力アドミタンスYm
αβをそのまま出力してもよいし、出力インピーダンスZm
αβに変換して出力してもよい。変換式は、式(14)である。
【0040】
本発明の第1実施例に係る測定方法では、電圧を印加するために必要なトランスの数が2つでよい。このため、本実施例に係る測定方法によれば、従来よりも簡略化された構成で、サブシステムの出力アドミタンスを測定することができる。
【0041】
なお、測定周波数の範囲を規定するf1,f2は、任意に変更することができる。例えば、f1,f2を100kHz,100Hzとし、ステップS8,S16を実行するたびに振動周波数fを所定量だけ減じていってもよい。
【0042】
また、電圧印加部14は、u,w相の電力線に電圧を印加するように構成されていてもよいし、v,w相の電力線に電圧を印加するように構成されていてもよい。対称なシステムでは、u,v相に電圧vu-vw,vv-vwを印加すること、u,w相に電圧vu-vv,vw-vvを印加すること、およびv,w相に電圧vv-vu,vw-vuを印加することは等価である。
【0043】
[第2実施例]
続いて、添付図面を参照しながら、本発明の第2実施例について説明する。
【0044】
図3に、第2実施例に係る測定方法を適用できるようにしたシステムを示す。同図に示すように、このシステムは、信号処理部13が第1サブシステム10と電圧印加部14との間における相間電圧v^
uv,v^
vwを利用する点と、信号処理部13がαβ変換(逆αβ変換)の代わりにdq変換(逆dq変換)を行う点と、周波数特性分析部12が出力アドミタンスY
m
dq(または出力インピーダンスZ
m
dq)を出力する点とにおいて第1実施例に係るシステムと相違するが、他の点においては両者は一致する。
【0045】
信号処理部13は、dq変換および逆dq変換の際に必要となる各時刻の位相角θ(式(9)参照)を求めるために、例えば、
図4に示す既知の位相同期ループ(PLL,Phase Locked Loop)を含んでいる。このループに入力される電圧v^
u,v^
v,v^
wは、相間電圧v^
uv,v^
vwから求めたものである。また、ω
0は測定対象の基本角周波数であり、Tは信号処理部13のサンプリング時間である。前述した通り、信号処理部13のサンプリング周波数は100kHzなので、サンプリング時間Tは10μsである。
【0046】
信号処理部13は、ステップS2,S10において、2相系の電圧を3相系の電圧に変換(本実施例では、逆dq変換)する際に、式(8)ではなく式(9)を使用する。また、信号処理部13は、ステップS4,S5,S12,S13において、3相系の電圧/電流を2相系の電圧/電流に変換(本実施例では、dq変換)する際にも、式(8)ではなく式(9)を使用する。
【0047】
本発明の第2実施例に係る測定方法によっても、第1実施例に係る測定方法と同じ効果が得られる。
【0048】
なお、信号処理部13が測定対象の制御も担っている場合は、式(9)の位相角θは信号処理部13において既知である。このため、この場合は、相間電圧v^uv,v^vwの測定と、位相同期ループを使用した同期制御とを省略することができる。
【0049】
[測定例]
続いて、本発明の第1実施例および第2実施例に係る測定方法を用いた測定例について説明する。
【0050】
(第1測定例)
第1測定例では、本発明の第2実施例に係る測定方法を用いて、
図6に示す3相電力システムを構成する第2サブシステム11の出力アドミタンスY
m
dq(Y
dd,Y
dq,Y
qd,Y
qq)を測定し、これを出力インピーダンスZ
m
dq(Z
dd,Z
dq,Z
qd,Z
qq)に変換した。同図に示すように、第2サブシステム11は3相RL負荷であり、R=30Ω、L=5mH、ω
0=2π×60である。
【0051】
図7,
図8に、解析結果(実線)、シミュレーション結果(◇印)とともに測定結果(破線)を示す。Z
dd,Z
dq,Z
qdおよびZ
qqのいずれにおいても、解析結果とシミュレーション結果はよく一致した。また、Z
ddおよびZ
qqについては、解析結果、シミュレーション結果および測定結果の3つが概ね一致した。
【0052】
なお、Z
dd,Z
dq,Z
qdおよびZ
qqの解析値は、式(16)に示した通りである。
【数22】
【0053】
(第2測定例)
第2測定例では、本発明の第1実施例に係る測定方法を用いて、
図6に示す3相電力システムを構成する第2サブシステム11の出力アドミタンスY
m
αβ(Y
αα,Y
αβ,Y
βα,Y
ββ)を測定し、これを出力インピーダンスZ
m
αβ(Z
αα,Z
αβ,Z
βα,Z
ββ)に変換した。第1測定例と同様、第2サブシステム11は3相RL負荷であり、R=30Ω、L=5mH、ω
0=2π×60である。
【0054】
図9に、解析結果(実線)、シミュレーション結果(◇印)とともに測定結果(破線)を示す。同図に示すように、Z
ααおよびZ
ββのいずれにおいても、解析結果、シミュレーション結果および測定結果の3つが概ね一致した。
【0055】
なお、Z
ααおよびZ
ββの解析値は、式(17)に示した通りである。
【数23】
【0056】
(第3測定例)
第3測定例では、本発明の第2実施例に係る測定方法を用いて、
図10に示す3相電力システムを構成する第2サブシステム11の出力アドミタンスY
m
dq(Y
dd,Y
dq,Y
qd,Y
qq)を測定した。同図に示すように、第2サブシステム11はフィルタ付きの3相インバータであり、その回路パラメータは下表の通りである。この3相インバータは、正弦波補償器を含む状態フィードバック制御系によって制御される。
【表1】
【0057】
図11,
図12に、解析結果(実線)、シミュレーション結果(◇印)とともに測定結果(破線)を示す。同図に示すように、Y
ddについては、振幅および位相の両方において、解析結果、シミュレーション結果および測定結果が概ね一致した。Y
ddの結果よりやや精度が劣るものの、Y
qqについても、振幅および位相の両方において、解析結果、シミュレーション結果および測定結果が概ね一致した。Y
dq,Y
qdは、Y
dd,Y
qqより振幅が30dB以上小さいため、解析結果と測定結果とのズレが大きいように見える。しかしながら、Y
dq,Y
qdの振幅の測定結果は、解析結果と同様の傾向を示した。
【0058】
なお、詳細な説明は省略するが、時刻tにおける2相(α,β)系の状態方程式を式(18)とし、かつ式(18)中の状態変数ベクトルx
αβを式(19)とするとき、出力アドミタンスY
m
αβの解析値は、式(20)および式(21)により求めることができる。
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【0059】
ただし、連続系システム係数行列A
c、連続系入力係数ベクトルb
c、連続系外乱係数ベクトルh
cおよび連続系出力係数ベクトルc
cは、式(22)に示す通りである。
【数28】
また、u
αβ、i
oαβ、i
Lαβ、v
Cαβ、k
m
fαβおよびG
m
sは、制御入力、出力電流、フィルタインダクタ電流、フィルタキャパシタ電圧、状態フィードバックゲインおよび正弦波補償器の伝達関数である。
【符号の説明】
【0060】
10 第1サブシステム
11 第2サブシステム
12 周波数特性分析部
13 信号処理部
14 電圧印加部
15 駆動回路
16 駆動回路
Tu 第1トランス
Tv 第2トランス