(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108891
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】微小構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B81B 1/00 20060101AFI20220720BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20220720BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220720BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220720BHJP
【FI】
B81B1/00
B81C1/00
B82Y30/00
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004101
(22)【出願日】2021-01-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第81回秋季応用物理学会学術講演会講演予稿集、第12-149頁、公益社団法人応用物理学会発行、発行日 令和2年8月26日 2020 International Conference on Solid State Devices and Materials Extended Abstracts、第685-686頁、公益社団法人応用物理学会発行、発行日 令和2年9月27日 薄膜材料デバイス研究会第17回研究会Abstractbook、A218、薄膜材料デバイス研究会組織委員会発行、発行日 令和2年10月21日 サイレントボイスセンシング国際シンポジウム2020 Abstract、第9頁、国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学発行、発行日 令和2年12月7
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】増田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】森 雅弘
【テーマコード(参考)】
3C081
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA01
3C081BA09
3C081BA21
3C081BA72
3C081CA02
3C081CA17
3C081CA23
3C081CA31
3C081DA02
3C081DA03
3C081DA06
3C081DA09
3C081DA10
3C081EA07
3C081EA21
3C081EA39
(57)【要約】 (修正有)
【課題】形状の自由度が高い、不可避不純物を含むシリコンからなる微小構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の1つ微小構造体330は、常温常圧下において液相の水素化ケイ素化合物由来の、不可避不純物を含むシリコンからなり、基材に接する該シリコンの構造体である。この微小構造体によれば、液相の水素化ケイ素化合物を出発材として生成されたシリコンからなる構造体であるため、液相という出発材の特性を活かした、形状の自由度が高い微小構造体を実現し得る。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温常圧下において液相の水素化ケイ素化合物由来の、不可避不純物を含むシリコンからなり、
基材に接する、前記シリコンの構造体である、
微小構造体。
【請求項2】
前記構造体が、パターン化された、
請求項1に記載の微小構造体。
【請求項3】
前記基材が、曲面を有し、
前記曲面上に前記構造体を有する、
請求項1又は請求項2に記載された微小構造体。
【請求項4】
前記走査電子顕微鏡(SEM)を用いて3万倍で観察したときに、前記基材と接する前記構造体の界面領域の幅を1としたときに、前記基材から離れた前記構造体の最大幅が、1.1以上である、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された微小構造体。
【請求項5】
前記走査電子顕微鏡(SEM)を用いて4万倍で観察したときに、前記基材と前記シリコンとが接することによって形成される少なくとも2つの異なる位置の界面領域を、前記界面領域以外の領域において前記基材と接しないように連続する前記シリコンが接続する、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された微小構造体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載された微小構造体を備える、
シリコンデバイス又は電子デバイス。
【請求項7】
常温常圧下において液相の水素化ケイ素化合物が基材に接している状態で、前記水素化ケイ素化合物と前記基材との界面領域を含むように、前記水素化ケイ素化合物に対して電子線を照射することによって、不可避不純物を含むシリコンを形成する照射工程を含む、
微小構造体の製造方法。
【請求項8】
前記照射工程が、前記基材から離れた前記シリコンの端部を含むように前記電子線を照射する工程を、さらに含む、
請求項7に記載の微小構造体の製造方法。
【請求項9】
前記照射工程が、前記電子線の照射位置を移動させながら、前記基材から離れた前記シリコンの端部を含むように前記電子線を照射する工程を、さらに含む、
請求項7に記載の微小構造体の製造方法。
【請求項10】
前記水素化ケイ素化合物を挟んで前記基材に対向するように配置する、前記電子線の一部又は全部を透過又は通過させ得る対向材をさらに備え、
前記照射工程は、前記対向材を介して前記水素化ケイ素化合物に対して電子線を照射する、
請求項7に記載の微小構造体の製造方法。
【請求項11】
常温常圧下において液相の水素化ケイ素化合物が基材に接している状態で、前記水素化ケイ素化合物を挟んで前記基材に対向するように配置する、電子線の一部又は全部を透過又は通過させ得る対向材を介して、前記水素化ケイ素化合物と前記基材との界面領域を含むように前記水素化ケイ素化合物に対して前記電子線を照射する照射装置を備える、
微小構造体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野及び微小電気機械システム(MEMS又はNEMS)分野を含む多くの技術分野においては、微細化技術の高度化が日進月歩で進んでいる。
【0003】
例えば、半導体分野における微細化の歴史は、フォトリソグラフィー法を用いたパターニング技術の歴史である。一般に、フォトリソグラフィー法においては、基板上に塗布されたフォトレジストと呼ばれる感光材に対して、パターンが形成されたフォトマスクと呼ばれる原板を介して紫外線等を照射し、露光させることによって回路などのパターンを形成する。
【0004】
より具体的には、フォトリソグラフィー法による加工分解能(解像度:ハーフピッチ)は、一般的には、露光する光を短波長化することにより向上することが知られている。例えば、極端紫外線(EUV、波長13.5nm)を用いたEUVリソグラフィー法による加工分解能は、本願発明者が知る限りシングル露光で19nm~30nm、マルチ露光で10nm~20nmである(非特許文献1)。また、エキシマーレーザー(ArF、波長193nm)を光源として採用し、光学系に液浸レンズを用いたArF液浸露光装置は、シングル露光で50nm~80nm、マルチ露光で約20nm~50nmの加工分解能を有することが開示されている(非特許文献1)。
【0005】
また、本発明者等は、液体シリコン材料からアモルファスシリコンを製造する方法を開示している(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-187260号公報
【特許文献2】特許第3926987号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ASML Public slide(Nov.8th 2018)Industry Roadmap and TechnologyStrategy
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、EUVリソグラフィー法を採用する場合、直進性の高い短波長の光源を扱うために透過型レンズを使用することができない。加えて、EUVに対して透明な物質がないために、特殊な光学系、EUVマスク、及び減圧下におけるシステム構築等を必要とする。その結果、EUVリソグラフィー法を採用する露光装置は高額化するという問題がある。
【0009】
また、上述のフォトリソグラフィー法を用いた短波長化による加工分解能は限界に近付いているため、加工分解能の飛躍的な向上を期待することが難しい。そのため、フォトリソグラフィー法に代わる新たなアプローチによる微小構造体の創出が、産業界において求められている。また、微小であるとともに複雑な三次元構造を有する構造体をより簡便に実現する技術についても、微小電気機械システムの代表される産業分野及び医療分野において求められている。
【0010】
加えて、特許文献2に記載の方法においては、液体シリコン材料からアモルファスシリコンを製造する際に加熱処理が行われるため、基材が350℃以上500℃未満の温度上昇を招くことなる。その結果、基材の材質選択の自由度を狭めることになる。また、特許文献1に記載の方法においても基材の温度は、200℃以上に上昇することになる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、従来の微細化技術とは異なるアプローチによって上述の諸問題の少なくとも1つを解決することにより、より簡便に、且つより複雑な構造にも対応し得る、液相の水素化ケイ素化合物由来のシリコンからなる微小構造体の実現に大きく貢献するものである。
【0012】
本発明者らは、シリコンからなる微小構造体をフォトリソグラフィー法に頼らない方法によって実現すべく、液相の水素化ケイ素化合物を用いた微小構造体の製造プロセスについて鋭意研究と分析に取り組んだ。
【0013】
その結果、その液相の水素化ケイ素化合物が基材に接した状態で、該水素化ケイ素化合物と該基材との界面領域を含むように、該水素化ケイ素化合物に対して電子線を照射することにより、不可避不純物(意図的に含有させる元素を除く)を含むシリコンからなる微小構造体を製造し得ることを本発明者らは知得した。
【0014】
さらに研究を進めると、大変興味深いことが明らかとなった。具体的には、一旦、前述の界面領域が形成されると、電子線の照射対象がその界面領域から離れた、すなわち、該基材から離れた該水素化ケイ素化合物であっても、その既に形成されている構造体に連続して該シリコンからなる構造体が形成され得ることが明らかとなった。換言すれば、電子線をある領域に照射することによって、水素化ケイ素化合物由来の該シリコンからなる微小構造体を、いわば「成長」又は「自由度高く構造変更」させることが可能となることを本発明者らは見出した。
【0015】
上述のシリコンからなる構造体の形成メカニズムについては未だ明らかにはなっていないが、本願出願時までの研究と分析に基づいて、本発明者らはその形成メカニズムを次のように考えている。
【0016】
まず、該水素化ケイ素化合物と該基材との該界面領域を含むように、該水素化ケイ素化合物に対して電子線が照射されると、該電子線からの電子(一次電子)、及び/又は該一次電子が該基材に衝突又は接触することによって生成される反射電子及び/又は二次電子が、該界面領域近傍の該水素化ケイ素化合物を化学反応(主として、脱水素縮合反応)させることになる。その結果、該界面領域近傍の該水素化ケイ素化合物は、不可避不純物を含むシリコンからなる微小構造体、又は該微小構造体の一部となり得る。
【0017】
次に、該界面領域及びその近傍において形成された該微小構造体の、該界面領域又は該基材から離れた端部を含むように該電子線を照射すると、該電子線からの電子(一次電子)、及び/又は該一次電子が該微小構造体に衝突又は接触することによって生成される反射電子及び/又は二次電子が、該端部近傍の該水素化ケイ素化合物を化学反応(主として、脱水素縮合反応)させることになる。その結果、該端部近傍の該水素化ケイ素化合物は、不可避不純物を含むシリコンからなる該微小構造体の一部となり得る。なお、該端部が仮に該基材から離れていたとしても、該端部の該端部近傍の該水素化ケイ素化合物が、前述のシリコンからなる該微小構造体の一部となり得ることが確認されている。
【0018】
上述のとおり、時間の経過とともに電子線の照射位置を変更することによって、二次元構造のみならず、該基材と一部が離れた三次元構造を有する該微小構造体をも製造することが可能となることが、本発明者らによって確認された。また、本発明者らは、該基材が電子線を透過又は通過させ得る材質であれば、電子線を、該基材を介して該水素化ケイ素化合物に照射するか、あるいは該基材を介さずに該水素化ケイ素化合物に照射するかを問わないことを知得した。なお、仮に、該基材を介さずに該水素化ケイ素化合物に照射する場合は、該水素化ケイ素化合物に加えて該基材の少なくとも一部に電子線が照射されることになると考えられるため、該水素化ケイ素化合物を化学反応させる際には、上述の微小構造体からの反射電子及び/又は二次電子とともに、該基材からの反射電子及び/又は二次電子も該水素化ケイ素化合物を化学反応に寄与し得ると考えられる。
【0019】
本発明は、上述の各知見に基づいて創出された。
【0020】
本発明の1つの微小構造体は、常温常圧下において液相の水素化ケイ素化合物由来の、不可避不純物を含むシリコンからなり、基材に接する該シリコンの構造体である。
【0021】
この微小構造体によれば、液相の水素化ケイ素化合物を出発材として生成されたシリコンからなる構造体であるため、液相という出発材の特性を活かした、形状の自由度が高い微小構造体を実現し得る。
【0022】
また、本発明の1つの微小構造体の製造方法は、常温常圧下において液相の、水素化ケイ素化合物が基材に接している状態で、前記水素化ケイ素化合物と前記基材との界面領域を含むように、前記水素化ケイ素化合物に対して電子線を照射することによって、不可避不純物を含むシリコンを形成する照射工程を含む。
【0023】
この微小構造体の製造方法によれば、水素化ケイ素化合物との基材との界面領域を含むように、該水素化ケイ素化合物に対して電子線が照射される照射工程により、該界面領域近傍の該水素化ケイ素化合物を化学反応(主として、脱水素縮合反応)させる。その結果、該界面領域近傍の該水素化ケイ素化合物は、不可避不純物を含むシリコンを形成することができるため、液相という出発材の特性を活かした、形状の自由度が高い微小構造体が製造され得る。
【0024】
ところで、本願における「基材」は、平面状か曲面状かを問わない。また、本願における「基材」は、無機材料又は有機材料を含む各種の基板のみならず、樹脂製フィルム等の軟質材からなる固体材料を含む。代表的な例は、シリコン、ガラス、窒化シリコン等の非可撓性の基板のほか、フィルム状のポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の可撓性のフィルムである。
【0025】
また、本願における「常温」とは、例えば5℃~60℃の温度範囲であるが、この温度に限定されない。
【0026】
また、本願における「常圧」とは、代表的には大気圧を意味する。但し、本願においては、「常圧」とは、前述の意味に加えて、水素化ケイ素化合物が基材に接している空間内において、加圧ポンプや減圧ポンプ等の圧力変動を生じさせる装置によって加圧又は減圧操作が施されていない状態をいう。なお、水素化ケイ素化合物に対する電子線の照射によって揮発性ガスが該空間内に放出されることによる該空間内の圧力変動、あるいはその揮発性ガスの排出に伴う該空間内の圧力変動の範囲は、本願における「常圧」に含まれる。
【0027】
また、本願における「微小構造体」とは、1mm未満の幅、長さ、及び高さを有する構造体を意味する、なお、より狭義には、該「微小構造体」とは、1μm未満の幅、長さ、及び高さを有する構造体を意味し、更に狭義には、該「微小構造体」とは、200nm未満の幅、長さ、及び高さを有する構造体を意味し、最も狭義には、該「微小構造体」とは、100nm未満の幅、長さ、及び高さを有する構造体を意味しる。
【0028】
また、本願において、「シリコン」は、後述する「水素化ケイ素化合物」に電子線を照射することによる活性化を含む化学反応を経て生成されるシリコンであって、不可避不純物を含むシリコンである。
【0029】
また、本願における「水素化ケイ素化合物」は、分子内に少なくとも1つのSi-H結合を有する水素化ケイ素化合物であり、代表的には電子線の照射による脱水素縮合反応によって「水素及び不可避不純物を含み得るシリコン」を形成し得る性能を有する限り、その化学構造は特に制限されない。
【0030】
また、該「水素化ケイ素化合物」の代表的な一例である「シラン化合物」は、一般式SinHm(式中、代表的には、nは6以下の、mは14以下のそれぞれ独立な整数を示す。)で表されるシラン化合物が含まれる。加えて、該「シラン化合物」には、一般式SinH2n(式中、代表的には、nは6以下の整数を示す。)で表される、シクロトリシラン、シクロテトラシラン、シクロペンタシラン、及びシクロヘキサシランを含む1個の環状のシラン化合物が含まれる。なお、一般式SinHmにおいて、例えばnが数百程度(例えば、約500)である、液相であるポリシラン(SiH2)nも採用し得る他の一態様であるが、nが6以下であり、mが14以下である「シラン化合物」は、組成の均質な液相を確度高く保持し得る点で好適である。
【0031】
また、電子線に対する反応性が極度に高く、脱水素縮合反応が効率よく行われ得る観点、並びに、合成及び精製が容易である観点に立てば、該「水素化ケイ素化合物」は、環状水素化ケイ素化合物であることが好ましい。特に、シクロテトラシラン、シクロペンタシラン、及びシクロヘキサシランの群から選択される少なくとも1種を採用することは、好適な一態様である。また、前述の観点に立てば、ネオペンタシラン及びヘキサシリルペンタシランを含む直鎖の水素化ケイ素を採用することは他の好適な一態様である。なお、シクロヘキサシラン及びネオペンタシランを採用することは、安定した物性値を有する材料の取得容易性の観点から、好適な一態様である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の1つ微小構造体によれば、液相という出発材の特性を活かした、形状の自由度が高い微小構造体を実現し得る。
【0033】
また、本発明の1つ微小構造体の製造方法によれば、水素化ケイ素化合物との基材との界面領域近傍の該水素化ケイ素化合物から、不可避不純物を含むシリコンを形成することができるため、液相という出発材の特性を活かした、形状の自由度が高い微小構造体が製造され得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の第1の実施形態の1つの態様における微小構造体の製造工程の一部を示す概念図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態の1つの態様における微小構造体の製造工程の一部を示す概念図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態の他の一態様における微小構造体の製造工程の一部を示す概念図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態におけるエネルギー分散型X線分光法(EDX)による微小構造体の化学組成分析結果である。
【
図5】本発明の第2の実施形態の1つの態様における微小構造体の製造工程の一部を示す概念図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態の1つの態様における微小構造体の製造工程の一部を示す概念図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態の変形例における微小構造体の製造工程の一部を示す概念図である。
【
図8】実施例1におけるパターン化された1つの微小構造体の、(a)4千倍で観察した走査電子顕微鏡(以下、「SEM」という。)像、(b)4万倍で観察したSEM像、及び(c)(b)のP領域の2つの微小構造体の断面の透過電子顕微鏡(以下、「TEM」という。)像である。
【
図9】実施例2におけるパターン化された1つの微小構造体の、(a)1500倍で観察したSEM像、及び(b)その一部について3万倍で観察したSEM像である。
【
図10】実施例3における1つの微小構造体の、(a)6千倍で観察したSEM像、及び(b)断面TEM像である。
【
図11】実施例4におけるパターン化された1つの微小構造体の、4万倍で観察したSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態における微小構造体及びその製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0036】
<第1の実施形態>
図1乃至
図3は、本実施形態における微小構造体30,230の製造工程の一部を示す概念図である。
【0037】
本実施形態においては、
図1に示すように、常温(例えば、20℃)常圧(例えば、大気圧)下において、基材10と、液相の水素化ケイ素化合物20とが接した状態で、基材10と水素化ケイ素化合物20との界面領域を含むように、水素化ケイ素化合物20に対して電子線90が照射される(照射工程)。なお、本実施形態においては、基材10が電子線90を透過又は通過させ得る材質(例えば、窒化シリコン又はポリイミド)である。従って、本実施形態の照射工程においては、電子線90が、基材10を介して水素化ケイ素化合物20に照射される。そうすると、液相の水素化ケイ素化合物20の中に、不可避不純物を含むシリコンからなる微小構造体30が形成される。
【0038】
なお、基材10と水素化ケイ素化合物20とを接触させる手段は限定されない。例えば、基材10上に液相の水素化ケイ素化合物20を滴下して接触させる方法、あるいは、公知のスピンコート法又はインクジェット法により配置することは、本実施形態において採用し得る一態様である。また、液相の水素化ケイ素化合物20の中に、基材10を浸漬させることも、採用し得る他の一態様である。なお、スピンコート法を採用することは、
図1又は
図3に示すような厚みの不均一な水素化ケイ素化合物20の層ではなく、厚みが略均一な水素化ケイ素化合物20の層を形成できるため、好適な一態様である。
【0039】
上述の照射工程を経ることにより、
図1に示す段階において、微小構造体30の周囲の水素化ケイ素化合物20を取り除いた場合は、
図2に示すように該シリコンからなる微小構造体30が製造され得る。
【0040】
一方、本実施形態の他の一態様においては、
図1に示す基材10から離れた、換言すれば、上述の界面領域から離れた微小構造体30の端部(
図1の紙面における上端部)30aを含むように、
図1又は
図3に示すZ方向に電子線90の照射位置を移動させながら電子線90を照射する工程を行うことができる。なお、本発明者は、電子線90の照射条件を適宜調整することにより、水素化ケイ素化合物20から生成された該シリコンの厚みが数百μm以下(少なくとも、約300μm以下)であれば、電子線90は、該シリコンを透過又は通過し得ることを知得している。その結果、
図1に示す微小構造体30の端部30aの近傍に存在する水素化ケイ素化合物20の化学反応(主として、脱水素縮合反応)が生じることにより、
図1に示す微小構造体30の端部30aに連続した該シリコンを有する微小構造体230が形成される。
【0041】
なお、
図2と同様に、
図3においても、微小構造体230の周囲の水素化ケイ素化合物20を取り除いた場合は、該シリコンからなる微小構造体30が製造され得る。
【0042】
本実施形態の電子線90の照射装置は限定されない。照射装置の一例は、株式会社エリオニクス社製の電子ビーム描画装置(型式、ELS-3700)又は、株式会社日立製作所社製の高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(型式、S-5200)である。
【0043】
また、本実施形態又は後述する各実施例の各微小構造体を製造し得るかぎり、電子線90のパルス状の照射又は連続照射を問わない。また、本実施形態又は後述する各実施例の各微小構造体を製造し得るかぎり、電子線90の前述の条件以外の照射条件も限定されない。なお、代表的な電流値は100pA~1000pAである。また、代表的な露光時間(1ショット当たり)は250μ秒~3000μ秒である。加えて、代表的な線量は、0.025pC以上である。
【0044】
ところで、本発明者らの研究により、大変興味深いことに、少なくとも電子線量を変化させることにより、形成される微小構造体30の三次元における寸法(長さ、幅、高さ)を変化させることが可能であることが確認された。
【0045】
なお、
図3においては、
図1又は
図3に示す電子線90の照射条件、より具体的には電流値と露光時間と重複照射回数を変更させながら電子線90を照射する工程(照射工程)が行われる。なお、本実施形態の照射工程は、前述の方法に限定されない。微小構造体30の端部30aを含むように、
図1又は
図3に示すX方向に、電子線90の照射位置を移動させながら電子線90を照射する工程を行うことは、採用し得る他の一態様である。
【0046】
従って、本実施形態の微小構造体の製造方法によれば、二次元構造のみならず、基材10と一部が離れた三次元構造を有する微小構造体をも製造することが可能となる。なお、本実施形態は直進性に優れる電子線90を採用するため、
図1に示すZ方向について、いわゆる「焦点」を厳密に合わせなくても確度高く所望の三次元構造を製造することが可能となる点は特筆に値する。本実施形態の製造方法を採用することにより、例えば、製造プロセス条件の余裕を実現し得る。
【0047】
上述のとおり、電子線90の照射条件を変更する、及び/又は時間の経過とともに照射位置を変更することにより、水素化ケイ素化合物由来の該シリコンからなる微小構造体30,230の形状又は構造を、高い自由度で変更させることが可能となることは特筆に値する。
【0048】
また、本実施形態の微小構造体30,230の製造工程においては、下記の(A)及び(B)が実現されていることも特筆に値する。
(A)微小構造体30,230の製造過程において、加熱処理を必要とせずに、水素化ケイ素化合物20から該シリコンへ変化する化学反応を実現することができる。
(B)微小構造体30,230の製造過程において、加圧ポンプや減圧ポンプ等の圧力変動を生じさせる機器又は装置によって加圧又は減圧操作を必要としない。
【0049】
ところで、本実施形態においては、液相の水素化ケイ素化合物20は、無溶媒の水素化ケイ素化合物20が採用されている。溶媒を用いない液相の水素化ケイ素化合物20を採用することにより、生成される該シリコンの中に、確度高く、炭素(C)に代表される不純物の混入を防ぐことが出来る点は特筆に値する。その結果、本実施形態の微小構造体30,230を用いることにより、半導体のシリコンを備えたシリコンデバイスを製造することができる。なお、本実施形態の微小構造体30,230、又は後述する各実施例の微小構造体330,430,530,630に代表される微小構造体が採用され得る電子デバイス、又はシリコンデバイスの種類は特に限定されない。例えば、各種の半導体デバイス、及び微小電気機械システム(MEMS又はNEMS)は、電子デバイス又はシリコンデバイスの代表例である。また、微小構造体の構造の自由度を勘案すれば、光学素子及び医療機器にも該微小構造体は適用され得る。
【0050】
一方、仮に、電子デバイス又はシリコンデバイスが用いる微小構造体30,230が該不純物をある程度含有することを許容する場合は、溶媒を用いた液相の水素化ケイ素化合物20を採用し得る。溶媒を用いる場合、例えば、好適には、シクロオクタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、デカヒドロナフタレン、シクロペンタシラン、シクロヘキサシラン、ネオペンタシラン、又はヘキサシリルペンタシラン等が用いられる。
【0051】
<本実施形態のエネルギー分散型X線分光法(EDX)による微小構造体の化学組成分析結果>
図4は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)による微小構造体30,230の化学組成分析結果である。なお、本実施形態においては、エネルギー分散型X線分光装置(日本電子社製、型式JEM-ARM200F)が採用された。
【0052】
図4に示すように、本実施形態の微小構造体30,230から、実質的にシリコン(Si)のみが検出される一方、窒素(N)、酸素(O)、及び炭素(C)はEDX分析による検出限界(概ね1atomic%以下)に近く、殆ど検出されなかった。従って、微小構造体30,230を構成するシリコンは、出発材である水素化ケイ素化合物20由来の水素及び/又は不可避不純物を含み得るが、少なくとも窒素(N)、酸素(O)、及び炭素(C)を殆ど含まないシリコンであることが確認された。その結果、本実施形態の微小構造体30,230を、例えば、半導体分野又は電気・電子分野において避けるべき炭素(C)を確度高く含まないシリコンから構成することが可能となる。
【0053】
なお、本発明者らの研究によれば、微小構造体30,230は、水素化ケイ素化合物20由来の水素を含み得る。また、本発明者らの研究によれば、該シリコンはアモルファス状のシリコンであると考えられる。なお、電子線90の条件を、より強い線量及び/又はより強い加速電圧を与える条件にすることによって、該シリコンの一部又は全部が結晶化し得るため、該シリコンは、アモルファスシリコンに限定されない。
【0054】
<第2の実施形態>
本実施形態においては、基材10を介さずに電子線90を水素化ケイ素化合物20に照射する照射工程が採用されている点を除いて、第1の実施形態の微小構造体30及びその製造方法と同じである。従って、第1の実施形態と重複する記載は省略され得る。
【0055】
本実施形態においては、
図5に示すように、常温(例えば、20℃)常圧(例えば、大気圧)下において、基材10と、液相の水素化ケイ素化合物20とが接した状態で、基材10と水素化ケイ素化合物20との界面領域を含むように、基材10を介さずに水素化ケイ素化合物20に電子線90が照射される(照射工程)。そうすると、液相の水素化ケイ素化合物20の中に、不可避不純物を含むシリコンからなる微小構造体30が形成される。
【0056】
上述の照射工程を経ることにより、
図5に示す段階において、微小構造体30の周囲の水素化ケイ素化合物20を取り除いた場合は、
図6に示すように該シリコンからなる微小構造体30が製造され得る。
【0057】
<第2の実施形態の変形例>
本変形例においては、水素化ケイ素化合物20を挟んで基材10に対向するように配置する、対向材(例えば、可撓性又は剛性の、単層又は積層の、膜状又は板状の対向材)210を介して、電子線90を水素化ケイ素化合物20に照射する照射工程が採用されている点を除いて、第2の実施形態の微小構造体30及びその製造方法と同じである。従って、第1の実施形態及び第2の実施形態と重複する記載は省略され得る。
【0058】
図7は、本変形例における微小構造体30の製造工程の一部を示す概念図である。
【0059】
本変形例においては、基材10と対向材210との間には、空気などのガスが空隙を形成しないように、水素化ケイ素化合物20が充填されていることが好ましい。また、本実施形態の対向材210の材質は、電子線90の一部又は全部を透過又は通過させ得る材質(例えば、窒化シリコン又はポリイミド)である。なお、好適には、電子線90の総線量のうち、80%以上(より好適には95%以上、更に好適には99%以上)を透過又は通過させ得る材質が採用される。従って、本実施形態の照射工程においては、電子線90が、対向材210を介して水素化ケイ素化合物20に照射される。
【0060】
従って、本変形例における照射工程を担う照射装置は、常温常圧下において液相の、水素化ケイ素化合物20が基材10に接している状態で、水素化ケイ素化合物20を挟んで基材10に対向するように配置する、電子線90の一部又は全部を透過又は通過させ得る対向材210を介して、水素化ケイ素化合物20と基材10との界面領域を含むように水素化ケイ素化合物20に対して電子線90を照射する照射装置である。
【0061】
上述の照射装置による照射工程を経ることにより、
図7に示す段階において、微小構造体30の周囲の水素化ケイ素化合物20を取り除いた場合は、該シリコンからなる微小構造体30が製造され得る。
【0062】
本変形例を採用することにより、第2の実施形態と比較して、次に示す優れた各効果が奏され得る。
【0063】
まず、水素化ケイ素化合物20を挟んで基材10に対向するように対向材210を配置することにより、液相の水素化ケイ素化合物20の蒸発量を低減することができるため、電子線90の照射条件を調整し易くなる。また、対向材210が水素化ケイ素化合物20に接する面の形状に沿って水素化ケイ素化合物20の形状も定まるため、例えば、該面、及び基材10水素化ケイ素化合物20に接する面のいずれもが平坦であれば、該面間に挟まれた水素化ケイ素化合物20の層を略平坦にすることができる。この平坦性の実現によっても、電子線90の照射条件を調整し易くなる。加えて、仮に、対向材210と水素化ケイ素化合物20に接する面に沿って(微小構造体30とは異なる)微小構造体が製造されたとしても、対向材210を基材10から離間させるだけでその微小構造体も取り除くことができるため、基材10に接する微小構造体30の形状に影響を与える可能性を皆無にする、又は低く抑えることができる。
【0064】
次に、上述の各実施形態及び変形例を用いた実施例について説明する。下記の各実施例は、上述の各実施形態を限定しない。
【0065】
[実施例1]
本実施例の微小構造体330は、パターン化されている点、及び微小構造体330の形状が先細りの略円柱状又は釣鐘状である点を除いて、第1の実施形態の製造方法に基づいて製造された微小構造体30,230と同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。なお、本実施例及び後述する他の実施例の開示は、該実施例の説明のために記載したものであって、本発明及び上述の第1の実施形態を限定するために記載したものではない。
【0066】
図8は、本実施例におけるパターン化された微小構造体330の、(a)4千倍で観察した走査電子顕微鏡(以下、「SEM」という。)像、(b)4万倍で観察したSEM像、及び(c)(b)のP領域の2つの微小構造体330の断面の透過電子顕微鏡(以下、「TEM」という。)像である。
【0067】
図8(a)及び(b)に示すように、本実施例の微小構造体330はパターン化されている。また、微小構造体330の形状は、先細りの略円柱状又は釣鐘状である。本発明者らが測定した結果、最大直径が約200nmであることが確認された。
【0068】
なお、本実施例における液相の水素化ケイ素化合物は、環状のSi5HI0(CPS:cyclopentasilane)である。また、本実施例における電子線の照射条件は次のとおりである。
(1)電子線の照射方法:パルス照射(1ショット当たり500μ秒、重複照射回数20回)
(2)加速電圧:30kV
(3)電流:200pA
(4)線量:8pC
(5)電子線のビーム径:50nm
【0069】
本実施形態の微小構造体330により、パターン化された微小構造体を実現することができる。
【0070】
[実施例2]
本実施例の微小構造体430は、実施例1と同様に、パターン化されている点、及び微小構造体430の形状が風船状又は逆雫状である点を除いて、第1の実施形態の製造方法に基づいて製造された微小構造体30,230と同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0071】
図9は、本実施例におけるパターン化された大きさの異なる微小構造体430の、(a)1500倍で観察したSEM像、及び(b)その一部について3万倍で観察したSEM像である。
【0072】
図9(a)及び(b)に示すように、本実施例の微小構造体430はパターン化されている。また、微小構造体430の形状は、風船状又は逆雫状である。本発明者らが測定した結果、
図9(b)に示す微小構造体430と基材10との界面領域の直径、すなわち最小直径(
図9(b)のW
1)は約450nmであり、その微小構造体430の最大直径(
図9(b)のW
2)は約1500nmである。従って、本実施例の微小構造体430においては、基材10と接する微小構造体430の界面領域の幅を1としたときに、基材10から離れた前記構造体の最大幅が4以下であることが確認された。
【0073】
ところで、上述のとおり、少なくとも電子線量を変化させることによって微小構造体430の三次元における寸法(長さ、幅、高さ)を変化させることが可能であるため、基材10と接する微小構造体430の界面領域の幅を1としたときに、基材10から離れた微小構造体430の最大幅を1.1以上、より狭義には1.5以上、さらに狭義には2以上、最も狭義には2.5以上にすることが可能である。一方、上限値については特に限定されないが、代表的には、基材10と接する微小構造体430の界面領域の幅を1としたときに、基材10から離れた微小構造体430の最大幅を4以下、より狭義には3以下にすることが可能である。
【0074】
なお、本実施例における液相の水素化ケイ素化合物は、環状のSi5HI0(CPS:cyclopentasilane)である。また、本実施例における電子線の照射条件は次のとおりである。
(1)電子線の照射方法:パルス照射(1ショット当たり250μ秒、重複照射回数500回)
(2)加速電圧:30kV
(3)電流:400pA
(4)線量:200pC
(5)電子線のビーム径:41.7nm
【0075】
本実施形態の微小構造体430により、パターン化された微小構造体を実現することができる。
【0076】
[実施例3]
本実施例の微小構造体530は、微小構造体530の主要部の形状が略半球状又は略ドーム状である点を除いて、第1の実施形態の製造方法に基づいて製造された微小構造体30,230と同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0077】
図10は、本実施例における微小構造体530の、(a)6千倍で観察したSEM像、及び(b)断面TEM像である。
【0078】
図10(a)及び(b)に示すように、本実施例の微小構造体530の主要部(
図10(b)における両端部の、いわば絞られている部分を除く)の形状は、略半球状又は略ドーム状である。本発明者らが測定した結果、
図10(a)及び(b)に示す該主要部の微小構造体530の直径は約8μmであり、その高さは約7μmである。この微小構造体530の形状は、ある照射条件の電子線を連続して液相の水素化ケイ素化合物に照射することによって形成され得る。
【0079】
具体的には、本実施例における液相の水素化ケイ素化合物は、環状のSi5HI0(CPS:cyclopentasilane)である。また、本実施例における電子線の照射条件は次のとおりである。
(1)電子線の照射方法:連続照射(照射時間600秒)
(2)加速電圧:25kV
(3)電流:約0.1nA
(4)線量:60nC
(5)電子線のビーム径:60nm
【0080】
本実施形態の微小構造体530により、主要部の形状が略半球状又は略ドーム状の微小構造体を実現することができる。
【0081】
[実施例4]
本実施例の微小構造体630は、実施例1と同様に、パターン化されている点、及び微小構造体630の形状が、テーブルの脚又は四つん這いをしているヒトの体のような形状である点を除いて、第1の実施形態の製造方法に基づいて製造された微小構造体30,230と同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0082】
図11は、本実施例におけるパターン化された微小構造体630の、4万倍で観察したSEM像である。
【0083】
本実施例の微小構造体630は、
図11に示すように、基材10と該シリコン、換言すれば、該シリコンからなる微小構造体630とが接することによって形成される少なくとも2つの異なる位置の界面領域を、該界面領域以外の領域において基材10と接しないように連続する該シリコンが接続している。本実施例においては、見方を変えれば、いわば4つの逆U字状又はトンネル状に見える構造を、微小構造体630は備えている。
【0084】
ここで、大変興味深いことに、テーブルの脚又は四つん這いをしているヒトの体のようにも見える
図11に示す微小構造体630においては、SEMを用いて4万倍で観察したときに、微小構造体630が基材10から離れた位置において連続し、一体化されていて、それらの継ぎ目は観察されない。従って、本実施例においては、基材10と微小構造体630とが接することによって形成される4つの異なる位置の界面領域を、該界面領域以外の領域において基材10と接しないように連続する該シリコンが接続していることが確認された。
【0085】
なお、本実施例における液相の水素化ケイ素化合物は、環状のSi5HI0(CPS:cyclopentasilane)である。また、本実施例における電子線の照射条件は次のとおりである。なお、テーブルの脚で例えたときに、微小構造体630と基材10との界面領域から、基材10から離れるように「脚」を形成する過程(いわば、成長させる過程)において、それぞれの脚を連続させる段階にあっては、照射位置を走査しながら電子線を照射する照射工程が採用されている。
(1)電子線の照射方法:パルス照射(但し、照射位置を走査)
(2)加速電圧:30kV
(3)電流:200pA
(4)線量:8pC
(5)電子線のビーム径:50nm
【0086】
本実施形態の微小構造体630により、一部が基材10から離れた構造を有する三次元構造の微小構造体を実現することができる。
【0087】
また、上述の実施形態に加えて、不可避不純物を含むシリコンに、リン(P)又はボロン(B)に代表される、いわゆる不純物半導体(n型半導体又はp型半導体)を製造するために用いられる公知の元素を含ませる(代表的には、該元素をドープする)こと、あるいは該シリコンにその他の機能又は物性を持たせるため公知の元素を含ませることも、採用し得る他の一態様である。
【0088】
以上述べたとおり、上述の各実施形態及び各実施例の開示は、それらの実施形態又は実施例の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0089】
10 基材
20 水素化ケイ素化合物
30,230,330,430,530,630 微小構造体
30a 端部
90 電子線
210 対向材