(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108914
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】固体組成物、液体組成物、及び固体組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/19 20060101AFI20220720BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220720BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220720BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20220720BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20220720BHJP
A61K 31/7072 20060101ALI20220720BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20220720BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20220720BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220720BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20220720BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220720BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220720BHJP
C07K 14/62 20060101ALN20220720BHJP
【FI】
A61K9/19
A61K9/08
A61K47/18
A61K31/282
A61K31/675
A61K31/7072
A61K33/243
A61K38/28
A61P3/10
A61P19/10
A61P31/12
A61P35/00
C07K14/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004142
(22)【出願日】2021-01-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「生命科学のためのジメチルスルホキシドを超えるUniversal solvent」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 浩介
(72)【発明者】
【氏名】平田 英周
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA30
4C076BB11
4C076CC27
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4H045AA10
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(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、溶解することが可能な、生理活性物質を含む固体組成物、生理活性物質が溶解されている液体組成物、及び固体組成物の製造方法を提供することである。
【解決手段】本実施形態の一態様は、生理活性物質及び双性イオンを含み、前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである固体組成物であり、別の一態様は、生理活性物質、双性イオン及び溶媒を含み、前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである液体組成物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質及び双性イオンを含み、
前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである、固体組成物。
【請求項2】
前記双性イオンのカチオン部位が、-NR3
+(Rはそれぞれ独立にアルキル基である)で表される、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項3】
前記双性イオンのアニオン部位が、カルボン酸イオンである、請求項1又は2に記載の固体組成物。
【請求項4】
前記双性イオンが、トリメチルグリシン、L-カルニチン、スタキドリン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインから選択される少なくとも1種の双性イオンである、請求項1又は3に記載の固体組成物。
【請求項5】
前記生理活性物質が薬剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体組成物。
【請求項6】
前記生理活性物質が金属錯体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体組成物。
【請求項7】
前記生理活性物質が、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、ミリプラチン、3’-アジド-3’-デオキシチミジン、5-ヨード-2’-デオキシウリジン、ゾレドロン酸一水和物、インスリン及びパクリタキセルから選択される少なくとも1種の薬剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体組成物。
【請求項8】
前記生理活性物質及び双性イオンの合計100質量%中に、生理活性物質を95質量%以下含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の固体組成物。
【請求項9】
生理活性物質、双性イオン及び溶媒を含み、
前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである、液体組成物。
【請求項10】
前記双性イオンのカチオン部位が、-NR3
+(Rはそれぞれ独立にアルキル基である)で表される、請求項9に記載の液体組成物。
【請求項11】
前記双性イオンのアニオン部位が、カルボン酸イオンである、請求項9又は10に記載の液体組成物。
【請求項12】
前記双性イオンが、トリメチルグリシン、L-カルニチン、スタキドリン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインから選択される少なくとも1種の双性イオンである、請求項9又は11に記載の液体組成物。
【請求項13】
前記生理活性物質が薬剤である、請求項9~12のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項14】
前記生理活性物質が金属錯体である、請求項9~13のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項15】
前記生理活性物質が、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、ミリプラチン、3’-アジド-3’-デオキシチミジン、5-ヨード-2’-デオキシウリジン、ゾレドロン酸一水和物、インスリン及びパクリタキセルから選択される少なくとも1種の薬剤である、請求項9~13のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項16】
前記生理活性物質及び双性イオンの合計100質量%中に、生理活性物質を95質量%以下含む、請求項9~15のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項17】
前記液体組成物1ml中に、生理活性物質を0.00001~100mg含む、請求項9~16のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項18】
生理活性物質及び双性イオンを含む固体組成物の製造方法であり、
生理活性物質及び双性イオンを溶媒に溶解する工程、及び
前記溶媒を除去する工程を有し、
前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである、製造方法。
【請求項19】
前記溶媒を除去する工程が、凍結乾燥により行われる、請求項18に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体組成物、液体組成物、及び固体組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幾つかの金属錯体は、従来から薬剤として使用されている。例えば白金錯体であるシスプラチン(cis-ジアンミン白金(II)ジクロリド)は、抗悪性腫瘍剤として使用されている。シスプラチンは、例えば点滴静注用としてシスプラチン濃度0.5mg/mlの液状の薬剤、動注療法用としてシスプラチン濃度1.0~1.5mg/ml程度に用時溶解して用いる粉末状の薬剤として、現在市販されている
【0003】
ところで、双性イオンを含む培地用添加剤及び難溶性物質溶解剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、カチオン部位としてイミダゾリウムカチオンを有する双性イオンについて具体的な検討が行われている。
【0004】
また、下記式(1)で表される双性イオンを用いてシスプラチンを溶解し、細胞生存アッセイを行った場合には、DMSOを使用した場合と比べて、シスプラチンの効果を維持することができることが知られている(非特許文献1参照)。
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Communications Chemistry volume 3, Article number: 163 (2020), “Non-aqueous, zwitterionic solvent as an alternative for dimethyl sulfoxide in the life sciences”,Kosuke Kuroda, 他9名
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薬剤等の生理活性物質としては、難水溶性のものが多く知られている。例えばシスプラチンも難水溶性の薬剤である。このため、シスプラチンを体内に注入する際には溶液量が多く必要であった。例えば、シスプラチンを生理食塩水に溶解させた場合にはシスプラチンの飽和溶解度は約1.5mg/mlであり、例えばシスプラチンを肝動注する場合には、成人男性でおよそ43mLの溶液が必要であった。
【0008】
シスプラチン溶液のシスプラチン濃度を高めることにより、必要な溶液量を減らすことができれば、結果的に注入した際の薬剤の局所濃度を高めることができ、高い抗腫瘍効果と副作用の軽減をできると本発明者らは考えた。また、溶液量を減らすことで、カテーテルやリザーバー、ポンプなどを利用せずにシスプラチンを投入することが可能になり、数回~数十回行う薬の投与に対して患者の健康リスクを大幅に軽減可能になる。
【0009】
この考えに基づき、本発明者らは、難水溶性の薬剤等の生理活性物質を含む容易に溶解可能な固体組成物及び、難水溶性の薬剤等の生理活性物質を高濃度で含む液体組成物を提供することできれば、その有用性は極めて高いと考えた。
【0010】
そこで、本開示の目的は、溶解することが可能な、生理活性物質を含む固体組成物、生理活性物質が溶解されている液体組成物、及び固体組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、特定の双性イオンを用いることにより、前記課題を解決することができることを見出し、本開示に至った。本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0012】
(1) 生理活性物質及び双性イオンを含み、
前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである、固体組成物。
(2) 前記双性イオンのカチオン部位が、-NR3
+(Rはそれぞれ独立にアルキル基である)で表される、(1)に記載の固体組成物。
(3) 前記双性イオンのアニオン部位が、カルボン酸イオンである、(1)又は(2)に記載の固体組成物。
(4) 前記双性イオンが、トリメチルグリシン、L-カルニチン、スタキドリン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインから選択される少なくとも1種の双性イオンである、(1)又は(3)に記載の固体組成物。
(5) 前記生理活性物質が薬剤である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の固体組成物。
(6) 前記生理活性物質が金属錯体である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の固体組成物。
(7) 前記生理活性物質が、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、ミリプラチン、3’-アジド-3’-デオキシチミジン、5-ヨード-2’-デオキシウリジン、ゾレドロン酸一水和物、インスリン及びパクリタキセルから選択される少なくとも1種の薬剤である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の固体組成物。
(8) 前記生理活性物質及び双性イオンの合計100質量%中に、生理活性物質を95質量%以下含む、(1)~(7)のいずれか1つに記載の固体組成物。
【0013】
(9) 生理活性物質、双性イオン及び溶媒を含み、
前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである、液体組成物。
(10) 前記双性イオンのカチオン部位が、-NR3
+(Rはそれぞれ独立にアルキル基である)で表される、(9)に記載の液体組成物。
(11) 前記双性イオンのアニオン部位が、カルボン酸イオンである、(9)又は(10)に記載の液体組成物。
(12) 前記双性イオンが、トリメチルグリシン、L-カルニチン、スタキドリン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインから選択される少なくとも1種の双性イオンである、(9)又は(11)に記載の液体組成物。
(13) 前記生理活性物質が薬剤である、(9)~(12)のいずれか1つに記載の液体組成物。
(14) 前記生理活性物質が金属錯体である、(9)~(13)のいずれか1つに記載の液体組成物。
(15) 前記生理活性物質が、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、ミリプラチン、3’-アジド-3’-デオキシチミジン、5-ヨード-2’-デオキシウリジン、ゾレドロン酸一水和物、インスリン及びパクリタキセルから選択される少なくとも1種の薬剤である、(9)~(13)のいずれか1つに記載の液体組成物。
(16) 前記生理活性物質及び双性イオンの合計100質量%中に、生理活性物質を95質量%以下含む、(9)~(15)のいずれか1つに記載の液体組成物。
(17) 前記液体組成物1ml中に、生理活性物質を0.00001~100mg含む、(9)~(16)のいずれか1つに記載の液体組成物。
【0014】
(18) 生理活性物質及び双性イオンを含む固体組成物の製造方法であり、
生理活性物質及び双性イオンを溶媒に溶解する工程、及び
前記溶媒を除去する工程を有し、
前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである、製造方法。
(19) 前記溶媒を除去する工程が、凍結乾燥により行われる、(18)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示により、溶解することが可能な、生理活性物質を含む固体組成物、生理活性物質が溶解されている液体組成物、及び固体組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例2及び比較例1における細胞生存率試験の結果を示した図である。
【
図2】実施例3におけるシスプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)及び実施例2におけるシスプラチン含有TMG水溶液を使用した際の細胞生存率試験の結果を示した図である。
【
図3】実施例3におけるシスプラチン含有LCAR水溶液(粉末溶解物)を使用した際の細胞生存率試験の結果を示した図である。
【
図4】実施例4におけるオキサリプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)を使用した際の細胞生存率試験の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態の一態様は、生理活性物質及び双性イオンを含み、前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである、固体組成物である。
【0018】
また、本実施形態の別の一態様は、生理活性物質、双性イオン及び溶媒を含み、前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである、液体組成物である。
【0019】
本実施形態のさらに別の一態様は、生理活性物質及び双性イオンを含む固体組成物の製造方法であり、生理活性物質及び双性イオンを溶媒に溶解する工程、及び前記溶媒を除去する工程を有し、前記双性イオンが天然物由来の非プロトン性双性イオンである、製造方法である。
【0020】
本実施形態の一態様に係る固体組成物は、水等の溶媒に溶解することが可能であり、好ましくは速やかに溶解することが可能である。固体組成物は、前記製造方法で得ることが可能である。また、本実施形態の一態様に係る液体組成物は、例えば、固体組成物を水等の溶媒に溶解することにより、調製することができる。
【0021】
以下、本実施形態について、詳細に説明する。
(生理活性物質)
本実施形態の固体組成物及び液体組成物は、生理活性物質を含み、本実施形態の製造方法では生理活性物質が用いられる。生理活性物質としては、薬剤、毒物、栄養素等が挙げられる。生理活性物質としては薬剤が好ましく、薬剤としては、特に制限はなく、医薬品、動物用医薬品、医薬部外品及びこれらの有効成分である物質、並びに有効成分となり得る候補物質等が挙げられる。生理活性物質としては一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。
【0022】
本実施形態の固体組成物は生理活性物質が難水溶性の生理活性物質であっても、容易に水等の溶媒に溶解することができる。生理活性物質としては特に制限はないが、該効果が十分に発揮される難水溶性の生理活性物質が好ましい。なお、難水溶性の生理活性物質とは、25℃の水に対する溶解度が10mg/ml以下の生理活性物質を意味する。
【0023】
生理活性物質としては、一般に難水溶性であることが多く、且つ後述の双性イオンと組み合わせることにより溶解性が顕著に向上する観点から、金属錯体であることが好ましい態様の一つである。金属錯体としては、遷移金属錯体であることが好ましい。遷移金属錯体としては白金族元素の錯体であることが好ましい態様の一つである。これらの金属錯体の中でも薬剤である金属錯体が好ましい態様の一つである。
【0024】
白金族元素の錯体としては、白金錯体、パラジウム錯体、及びイリジウム錯体から選択される少なくとも1種の金属錯体であることが好ましく、白金錯体であることがより好ましい。
【0025】
前記生理活性物質としては、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、ミリプラチン、3’-アジド-3’-デオキシチミジン(3’-Azido-3’-deoxythiymidine)、5-ヨード-2’-デオキシウリジン(5-iodo-2’-deoxyuridine)、ゾレドロン酸一水和物(Zoledronic acid monohydrate)、インスリン及びパクリタキセルから選択される少なくとも1種の薬剤であることが好ましい。シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン及びミリプラチンは、白金錯体であり、抗悪性腫瘍剤として使用されており、本発明により、これらの薬剤を高濃度で含む溶液を得ることができるため、例えば動注療法に好適に使用することができる。また、3’-アジド-3’-デオキシチミジン及び5-ヨード-2’-デオキシウリジンは抗ウイルス薬として使用されており、ゾレドロン酸一水和物は骨粗鬆症薬として使用されており、パクリタキセルは、抗悪性腫瘍剤として使用されている。
【0026】
前記薬剤が医薬品である場合の例としては、日本薬局方に規定される「やや溶けにくい」「溶けにくい」「極めて溶けにくい」「ほとんど溶けない」薬物が挙げられる。その用途としては特に制限はなく、具体的には、抗腫瘍剤、抗生物質、抗高脂血症剤、抗菌剤、アレルギー性疾患治療剤、高血圧治療剤、動脈硬化治療剤、血行促進剤、ホルモン剤、脂溶性ビタミン剤、糖尿病治療剤、抗アンドロゲン剤、強心用薬剤、不整脈用薬剤、消炎剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、抗てんかん剤、抗うつ剤、消化器系疾患治療剤、利尿用薬剤、局所麻酔剤、抗凝固剤、抗ヒスタミン剤、抗ムスカリン剤、抗マイコバクテリア剤、免疫抑制剤、抗甲状腺薬、抗ウイルス剤、不安緩和性鎮静薬、収れん薬、β-アドレナリン受容体遮断薬、心筋変力作用剤、造影剤、コルチコステロイド、咳抑制剤、診断剤、診断用イメージング剤、利尿剤、ドパミン作用剤、脂質調整剤、筋肉弛緩薬、副交感神経作用薬、甲状腺カルシトニン、プロスタグラジン、放射性医薬、性ホルモン、刺激剤、食欲抑制剤、交感神経作用薬、甲状腺剤、血管拡張剤、イソフラボン、キサンテン等を例示することができる。
【0027】
抗腫瘍剤としては、メソトレキセート、タキソール、塩酸ドキソルビシン、塩酸ブレオマイシン、タモキシフェン、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、ミリプラチン、パクリタキセル、シクロスポリン、HER2阻害剤、メルファラン、ダカルバジン、カルモフール、エノシタビン、エトポシド、5-フルオロウラシル、ミトキサントロン、メスナ、ジメスナ、アミノグルテチミド、アクロライン、シクロフォスファミド、ロムスチン、カルムスチン、シクロフォスファミド、ブスルファン、パラアミノサリチル酸、メルカプトプリン、テガフル、アザチオプリン、硫酸ビンブラスチン、マイトマイシンC、L-アスパラキナーゼ、ウベニメクス等を挙げることができる。
【0028】
抗生物質としては、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、テトラサイクリン、ペニシリン、アミカシン、ディベカシン、バシトラシン、セファレキシン、ナイスタチン、エリスロマイシン、硫酸フラジオマイシン、セフメタゾール、トルナフテート等を挙げることができる。
【0029】
抗高脂血症剤としては、コレスチラミン、ニセリトロール、クリノフィブラート、クロフィブラート、フェノフィブラート、ベザフィブラート、ソイステロール、ニコチン酸トコフェロール、ニコモール、プロブコール、シンバスタチン、コレスチミド、エラスターゼ等を挙げることができる。
【0030】
抗菌剤としては、クロラムフェニコール、ロキタマイシン、ロキシスロマイシン、セファトリジン、オフロキサシン、塩酸シプロフロキサシン、トシル酸トスフロキサシン、ノルフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、パズフロキサシン、セフポドキシムプロキセチル、酢酸ミデカマイシン、プロピオン酸ジョサマイシン、ホスホマイシン又はその塩等を挙げることができる。
【0031】
アレルギー性疾患治療剤としては、エバスチン、メキタジン、メトキシフェナミン、フマル酸クレマスチン、塩酸シプロヘプタジン、塩酸フェキソフェナジン、ジフェンヒドラミン、メトジラミン、クレミゾール等を挙げることができる。
【0032】
高血圧治療剤としては、塩酸ニカルジピン、塩酸デラプリル、塩酸バルニジピン、塩酸エホニジピン、塩酸ベニジピン、アラセプリル、カプトプリル、シルニジピン、フェロジピン、ベシル酸アムロジピン、ニソルジピン、塩酸マニジピン、ニトレンジピン、ニルバジピン、トランドラプリル、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、ウラピジル、カルベジロール、塩酸プラゾシン、塩酸ブナゾシン、メシル酸ドキサゾシン、レセルピン、メチルドパ、酢酸グアナベンズ、デセルピジン、メプタメ、メプタメート等を挙げることができる。
【0033】
動脈硬化治療剤としては、エラスターゼ、クロフィブラート、シンフィブラート、ソイステロール、ニコモール等を挙げることができる。
【0034】
血行促進剤としては、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジルエステル、カフェイン、トラゾリン、ベラパミル、シクランデレート、アセチルコリン等を挙げることができる。
【0035】
ホルモン剤としては、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、プロピロン酸ベクロメタゾン、プレドニゾロン、吉草酸プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、アムシノニド、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、エストリオール、フルオシノニド、ヘキセストロール、メチマゾール、プロピオン酸エストリオール、酢酸クロベタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、プロピオン酸テストステロン、エナント酸テストステロン、フルオキシメステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、安息香酸エストラジオール、プロピオン酸エストラジオール、吉草酸エストラジオール、エチニルエストラジオール、メストラノール、安息香酸酢酸エストリオール、フルオロメトロン、フルドロキシコルチド、吉草酸ジフルコルトロン、ハルシノニド、プロゲステロン、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、プレグナンジオール、酢酸メドロキシプロゲステロン、ジメチステロン、ノルエチステロン、アリルエストレノール、カプロン酸ゲストノロン、オキセンドロン等を挙げることができる。
【0036】
脂溶性ビタミン剤としては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等を挙げることができる。
【0037】
糖尿病治療剤としては、グリクラジド、トルブタミド、グリベンクラミド、トログリタゾン、エパルレスタット、ブフォルミン、メトフォルミン等を挙げることができる。
【0038】
抗アンドロゲン剤としては、カプロン酸ゲストノロン、酢酸オサプロン、フルタミド、オキセンドロン、アリルエストレノール、酢酸クロルマジノン、ビカルタミド等を挙げることができる。
【0039】
強心用薬剤としては、ジゴキシン、ジゴトキシン、コビデカレノン等を挙げることができる。
【0040】
不整脈用薬剤としては、リドカイン、マロン酸ボピンドロール、塩酸アロチノロール、アテノロール、ピンドロール、ナドロール、塩酸プロパフェノン、塩酸アミオダロン、ジ
ソピラミド、塩酸カルテオロール等を挙げることができる。
【0041】
消炎剤としては、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、アスピリン、アスピリンアルミニウム、イブプロフェン、ケトプロフェン、リチルレチン酸、サリチル酸、アセトアミノフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アミノピリン、フェナセチン、メフェナム酸、フルフェナム酸、フルフェナム酸アルミニウム、トルフェナム酸、アセメタシン、インドメタシン、アルクロフェナック、ジクロフェナック、イブプロフェンピコノール、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、ケトフェニルブタゾン、クロフェゾン、塩酸チアラミド、ジクロフェナックナトリウム、スリンダク、ナプロキセン、フェブフェン、フルルビプロフェン、フェンプロフェン、ブフェキサマック、メピリゾール、クエン酸ペリソキサール、グラフェニン、ブコローム、ペンタゾシン、メチアジン酸、プロチジン酸、プラノプロフェン、フェノプロフェンカルシウム、ピロキシカム、フェプラゾン、フェンチアザク、ベンダザク、ジメチルイソプロピルアズレン、ブフェキサマク、ブコローム、ベンジダミン、チアラミド、チノリジン、エテンザミド、テノキシカム、クロルテノキシカム、クリダナク、ナプロキセン、グリチルリチン、アズレン、カンフル、チモール、l-メントール、サザピリン、アルクロフエナク、ジクロフェナク、スプロフェン、ロキソプロフェン、ジフルニサル、チアプロフエン酸、オキサプロジン、フェルビナク等を挙げることができる。
【0042】
催眠鎮静剤としては、バルビタール、アモバルビタール、アモバルビタールナトリウム、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、セコバルビタールナトリウム、ペントバルビタールカルシウム、ヘキソバルビタール、トリクロフォス、ブロムワレリル尿素、グルテチミド、メタカロン、ペルラピン、ニトラゼパム、エスタゾラム、塩酸フルラゼパム、フルニトラゼパム、エスタゾラム等を挙げることができる。
【0043】
精神安定剤としては、ジアゼパム、ロラゼパム、オキサゾラム等を挙げることができる。
【0044】
抗てんかん剤としては、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、プリミドン、フェナセミド、エチルフェナセミド、エトトイン、フエンサクシミド、ニトラゼバン、クロナゼバン等を挙げることができる。
【0045】
抗うつ剤としては、フェネルジン、イミプラニン、ノキシプチリン等を挙げることができる。
【0046】
消化器系疾患治療剤としては、ファモチジン、スクラルファート、アルジオキサ、マレイン酸イルソグラジン、メトクロプラミド、シメチジン、オメプラゾール、ランソプラゾール、エンプロスチル、ゲファルナート、テプレノン、スルピリド、トレピブトン、オキセサゼイン等を挙げることができる。
【0047】
利尿用薬剤としては、スピロノラクトン、クロルタリドン、ポリチアジド、トリアムテレン、ヒドロクロロチアジド、フロセミド等を挙げることができる。
【0048】
局所麻酔剤としては、アミノ安息香酸エチル、塩酸プロカイン、リドカイン、塩酸リドカイン、塩酸ジプカイン、塩酸テトラカイン、ベンジルアルコール、テーカイン、ベゾカイン、塩酸プラモキシン、塩酸カタカイン、塩酸ブタニカイン、塩酸ピペロカイン、クロロブタノール等を挙げることができる。
【0049】
抗凝固剤としては、クマリン、ヘパリン等を挙げることができる。
【0050】
抗ウイルス剤としては、アシクロビル、ネビラピン、ジドブジン、ザナミビル、オセルタミビル、ファビピラビル等を挙げることができる。
【0051】
イソフラボンとしては、オノニン、ダイゼイン、ビオカニンA、グリシテイン、ダイジン、グリシチン、ゲニスチン等が挙げられる。イソフラボンは、アグリコンであっても配糖体であって良い。
【0052】
(双性イオン)
本実施形態の固体組成物及び液体組成物は、双性イオンを含み、本実施形態の製造方法では双性イオンが用いられる。本実施形態に係る双性イオンは、天然物由来の非プロトン性双性イオンである。すなわち、本実施形態に係る双性イオンには、アルギニンのようなプロトン性双性イオンは含まれない。双性イオンとしては一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。
【0053】
双性イオンとは、1分子内にカチオン部位と、アニオン部位とを有する分子を意味する。天然物由来とは、細菌などの微生物や動植物中に含まれるものを、抽出、精製等することにより得られる天然の双性イオンであることを意味する。また、非プロトン性双性イオンとは、カチオン部位が、プロトン供与性基(例えば‐NH3
+)ではない、双性イオンを意味する。非プロトン性双性イオンは、低毒性で安全性が高いため好ましい。
【0054】
双性イオンとして、カチオン部位が、-NR3
+(Rはそれぞれ独立にアルキル基である)で表されることが好ましい一態様である。
【0055】
-NR3
+を構成するアルキル基(R)としては、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1~16のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましい。-NR3
+としては、-N(CH3)3
+が特に好ましい。-NR3
+を構成するアルキル基が、相互に結合し、環状アルキル基を構成してもよい。また、アルキル基は、-NR3
+以外の構造と結合し、環状アルキル基を構成してもよい。
【0056】
双性イオンは、アニオン部位が、カルボン酸イオン(-COO-)、であることが好ましい。
【0057】
双性イオンとしては、トリメチルグリシン、L-カルニチン、スタキドリン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインから選択される少なくとも1種の双性イオンであることが好ましく、トリメチルグリシン又はL-カルニチンであることがより好ましい。
【0058】
(溶媒)
本実施形態の液体組成物は、溶媒を含み、本実施形態の製造方法では溶媒が用いられる。溶媒としては特に制限はないが、通常は水、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1~10のアルコール、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタンなどの有機溶媒の他、超臨界二酸化炭素などの流体等が挙げられる。
【0059】
水としては、水道水など未精製水も利用できるが精製された水が好ましく、例えば超純水、イオン交換水、蒸留水、RO水等を用いることができる。
【0060】
前記液体組成物に含まれる溶媒は、液体組成物を薬剤等の生理活性物質投与の目的で使用する観点から水が好ましい。また、前記製造方法で用いられる溶媒は、溶媒を除去する工程により除去されるため水以外の溶媒、水と水以外の溶媒との混合溶媒を使用することも可能であり、水、炭素数1~10のアルコールが好ましく、水がより好ましい。
【0061】
溶媒には前記生理活性物質及び双性イオン以外の溶質があらかじめ溶けていてもよい。例えば、液体組成物の溶媒として水を用いる際には、塩(NaCl)があらかじめ溶けた、食塩水(例えば生理食塩水)を用いてもよい。また、液体組成物を、実験、例えば細胞を用いた実験に使用する際には、液体組成物を調製する際に溶媒の一部として様々な成分が溶解している液体培地を使用して濃度調整等を行ってもよい。また、固体組成物が後述のその他の成分を含んでいる場合には、前記製造方法で用いられる溶媒には当該その他の成分が予め溶けていてもよい。
【0062】
(固体組成物)
本実施形態の一態様である固体組成物は、前記生理活性物質及び双性イオンを含む。固体組成物はその形状としては、固体状であればよく特に制限はないが、例えば、ゲル、粉末が挙げられ、粉末であることが好ましい。本実施形態の固体組成物は、容易に水等の溶媒に溶解することが可能であるため、研究、医療等の様々な分野で使用することができる。固体組成物は常温(5~35℃)の水に速やかに溶解可能であることが好ましい。具体的には、温度25℃の水に対して、溶解後の溶液(液体組成物)1ml当たり生理活性物質が1mgとなる量の固体組成物を溶解する際に、0~300秒で溶解可能であることが好ましい。
【0063】
固体組成物は、前記生理活性物質及び双性イオンの合計100質量%中に、生理活性物質を95質量%以下含むことが好ましく、80質量%以下含むことがより好ましく、50質量%以下含むことが特に好ましい。また、固体組成物は、前記生理活性物質及び双性イオンの合計100質量%中に、生理活性物質を通常は0.00000000001質量%以上含み、0.00000001質量%以上含むことが好ましく、0.00001質量%以上含むことがより好ましく、0.0001質量%以上含むことが更に好ましく、0.001質量%以上含むことが特に好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0064】
固体組成物は例えば、後述の固体組成物の製造方法に従って、製造することができる。固体組成物は、後述の製造方法において使用する溶媒が残存していてもよい。具体的には固体組成物100質量%中に、溶媒を20質量%以下、好ましくは10質量%以下含んでいてもよいが、この範囲に限らない。
【0065】
固体組成物は、前記生理活性物質及び双性イオン以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。それ以外の成分としては、特に制限はなく、生理食塩水の成分や培地の成分の他、糖類、タンパク質、塩類、その他金属等が挙げられる。
【0066】
(液体組成物)
本実施形態の一態様である液体組成物は、前記生理活性物質、双性イオン及び溶媒を含む。液体組成物は、通常生理活性物質及び双性イオンが溶媒に溶けており、全体が液状である。
【0067】
液体組成物は、前記生理活性物質及び双性イオンの合計100質量%中に、生理活性物質を95質量%以下含むことが好ましく、80質量%以下含むことがより好ましく、50質量%以下含むことが特に好ましい。また、液体組成物は、前記生理活性物質及び双性イオンの合計100質量%中に、生理活性物質を通常は0.00000000001質量%以上含み、0.00000001質量%以上含むことが好ましく、0.00001質量%以上含むことがより好ましく、0.0001質量%以上含むことが更に好ましく、0.001質量%以上含むことが特に好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0068】
液体組成物は、液体組成物1ml中に、生理活性物質を0.00001~100mg含むことが好ましく、0.0001~100mg含むことがより好ましく、0.001~50mg含むことが更に好ましく、0.01~30mg含むことが特に好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。本実施形態の液体組成物は、特定の双性イオンを用いることにより高濃度で生理活性物質を含有することができるため、動注療法等の薬剤を高濃度で含む溶液が求められる分野で好適に使用することができる。本実施形態の液体組成物は、従来から難溶性の物質の溶解に用いられてきたDMSO(ジメチルスルホキシド)と比べ、特定の双性イオンを用いることにより細胞毒性を抑制することが可能であり、薬剤の効果を阻害することがないため好ましい。また、油やエタノールを溶媒として用いたときの副次的な効果を抑制することも可能である。例えば、液体組成物は、生理活性物質がシスプラチンであり、双性イオンがトリメチルグリシンであり、溶媒が水である場合には、トリメチルグリシン50wt%水溶液中にシスプラチンが17mg溶解した溶液を調製することが可能である。すなわち、液体組成物中のシスプラチンの量を17mg/mlとすることができる。これは生理食塩水に対するシスプラチンの飽和溶解度である1.5mg/mlと比べて10倍以上高濃度であり、動注療法等への使用が期待される。
【0069】
液体組成物は、前記生理活性物質、双性イオン及び溶媒以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。それ以外の成分としては、特に制限はなく、溶媒に予め溶けていた生理活性物質及び双性イオン以外の溶質、生理食塩水の成分や培地の成分の他、糖類、タンパク質、塩類、その他金属等が挙げられる。
【0070】
液体組成物の用途としては、液体組成物をそのまま、又は濃度調整を行った後、実験、投薬等に使用することができる。また、液体組成物に、生理活性物質の貧溶媒を加え、再度生理活性物質を析出させてもよい。なお、再度析出させた生理活性物質には、双性イオンが含まれていなくてもよく、含まれていてもよい。また、析出させた生理活性物質に双性イオンが含まれていた場合には、洗浄により生理活性物質を除去してもよい。このように再度析出させた生理活性物質は、物質としての結晶構造や、非晶質(アモルファス)の構造が変わることがあり、溶解性等に変化を与えることができる。
【0071】
液体組成物の製造方法としては、例えば、前記固体組成物を溶媒に溶解する方法と、前記生理活性物質及び双性イオンを溶媒に溶解する方法の二通りの方法が挙げられる。
【0072】
固体組成物を溶媒に溶解する方法を行う際の固体組成物及び溶媒の量としては、例えば、液体組成物中の生理活性物質の量が上記範囲となる量であればよい。固体組成物を水等の溶媒に溶解する方法は、速やかに液体組成物を調製できるため好ましい。例えば常温(5~35℃)で、溶媒に固体組成物を加え、数秒~数分攪拌することにより液体組成物を調製することができる。このため、固体組成物を溶媒に溶解する方法は、液体組成物が必要となった時点で速やかに用意することができる点で好ましい。また、生理活性物質の種類によっては液体状態で保存することにより、性質が劣化、変化する場合があるが、このような生理活性物質は、固体組成物として保存することにより、性質の劣化、変化を抑制し、使用する直前に溶媒に溶解することにより、性質が劣化、変化することなく、使用することができる点で好ましい。
【0073】
液体組成物を調製する際の溶媒の温度としては、溶解に必要な時間の短縮等を目的として、常温(5~35℃)よりも高い温度、例えば、60~90℃で行うことも、好ましい態様の一つである。
【0074】
生理活性物質及び双性イオンを溶媒に溶解する方法を行う際の、生理活性物質、双性イオン及び溶媒の量としては、例えば、生理活性物質及び双性イオンの合計100質量%中の生理活性物質の量、及び液体組成物中の生理活性物質の量が上記範囲となる量であればよい。生理活性物質及び双性イオンを溶媒に溶解する方法は、予め固体組成物を調製する必要がない点で好ましい。しかしながら、生理活性物質が難水溶性である場合には、調製に時間を要する傾向があるため、手間の観点からは固体組成物を溶媒に溶解する方法が好ましい。前記生理活性物質及び双性イオンを溶媒に溶解する方法は、例えば常温(5~35℃)で、溶媒に生理活性物質及び双性イオンをそれぞれ加え、数十分~数時間攪拌することにより、液体組成物を調製することができる。なお、生理活性物質及び双性イオンを溶媒に溶解する方法を行う際には、後述の固体組成物の製造方法の項目における、溶解する工程に記載された条件を採用することもできる。
【0075】
(固体組成物の製造方法)
本実施形態の一態様である固体組成物の製造方法は、前記生理活性物質及び双性イオンを溶媒に溶解する工程、及び前記溶媒を除去する工程を有する。該固体組成物の製造方法で得られた固体組成物は、例えば、生理活性物質及び双性イオンを攪拌機、ブレンダー等を用いて固体状態で物理的に混合した組成物と比べて、顕著に溶解性に優れるため好ましい。
【0076】
[溶解する工程]
固体組成物の製造方法における溶解する工程は、前述の生理活性物質及び双性イオンを、前述の溶媒に溶解する工程である。
【0077】
溶解する方法としては、溶媒に、生理活性物質及び双性イオンをそれぞれ添加し、攪拌する方法が挙げられる。溶媒に生理活性物質及び双性イオンをそれぞれ添加する際に、その順番としては特に制限はなく、生理活性物質及び双性イオンを同時に添加してもよく、双性イオンを添加し次いで生理活性物質を添加してもよく、生理活性物質を添加し次いで双性イオンを添加してもよい。生理活性物質及び双性イオンが溶解する時間を短くする観点からは、生理活性物質を双性イオンと同時に添加するか、双性イオンを添加し次いで生理活性物質を添加することが好ましい。
【0078】
溶解する工程を行う際の溶媒の温度としては、溶媒の種類、生理活性物質の種類、双性イオンの種類によっても異なるが、例えば0~100℃であり、5~80℃であることが好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。なお、後述の実施例では、一部を除き温度20℃~25℃の条件下で行った。
【0079】
攪拌時間は、生理活性物質及び双性イオンが溶解すればよく、特に制限はないが、例えば0分~72時間であり、0分~24時間であることが好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0080】
用いられる前記生理活性物質及び双性イオンは、その合計100質量%中に、生理活性物質を95質量%以下含むことが好ましく、80質量%以下含むことがより好ましく、50質量%以下含むことが特に好ましい。また、前記生理活性物質及び双性イオンの合計100質量%中に、生理活性物質を通常は0.00000000001質量%以上含み、0.00000001質量%以上含むことが好ましく、0.00001質量%以上含むことがより好ましく、0.0001質量%以上含むことが更に好ましく、0.001質量%以上含むことが特に好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0081】
溶液に対する前記生理活性物質の量としては、溶解により得られた溶液1ml中に、生理活性物質を0.00001~100mg含むことが好ましく、0.0001~100mg含むことがより好ましく、0.001~50mg含むことが更に好ましく、0.01~30mg含むことが特に好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0082】
[溶媒を除去する工程]
固体組成物の製造方法では、前述の溶解する工程に続いて、溶媒を除去する工程を行う。
【0083】
溶媒を除去する工程を行うことにより、固体組成物を得ることができ、該製造方法で得られた固体組成物は、水等の溶媒に対する溶解性に優れるため、容易に液体組成物を調製することができる。固体組成物が溶解性に優れる理由を、本発明者らは、生理活性物質及び双性イオンを一度溶解した後に、溶媒を除去するため、得られる固体組成物は、生理活性物質が双性イオン中に分子レベルで分散しているためであると推測した。
溶媒を除去する工程としては、凍結乾燥、自然乾燥、加熱乾燥、風乾、スプレードライ、熱風乾燥、真空乾燥、貧溶媒添加後のろ過・乾燥およびこれらの組み合わせ等が挙げられる。これらの中でもより溶解性に優れる固体組成物が得られる観点から、凍結乾燥が好ましい。凍結乾燥では、溶解する工程により得られた溶液を凍結し、減圧下で溶媒を昇華により除去することにより、乾燥が行われる。凍結乾燥を行う際の圧力、温度等は、溶媒の種類に応じて適宜設定すればよく、特に制限されない。
【実施例0084】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。なお、実施例は、特に言及した場合を除き、室温及び試薬温度を20℃~25℃の範囲内とし、細胞を培養する際の温度を37℃とした。
【0085】
[薬剤]
実施例、比較例では薬剤としてシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、3’-アジド-3’-デオキシチミジン、5-ヨード-2’-デオキシウリジン、ゾレドロン酸一水和物又はインスリンを使用した。
【0086】
[双性イオン]
実施例では、双性イオンとしてトリメチルグリシン(TMGとも記す。)又はL-カルニチン(LCARとも記す。)を使用した。
【0087】
[細胞]
実施例、比較例において使用したMDA‐MB‐231(ヒト乳癌細胞)は、Erik Sahai教授(The Francis‐Crick Institute、イギリス)から入手した。
【0088】
MDA‐MB‐231を、10vol%のFBS(ウシ胎児血清)(シグマアルドリッチ製)、及び1vol%のペニシリン‐ストレプトマイシン溶液(富士フイルム和光純薬製)を含むDMEM(L‐グルタミンおよびフェノールレッドを含む高グルコース、富士フイルム和光純薬製)を用いて、加湿大気中、37℃の5% CO2環境下で、単層培養物として増殖させ、維持した。
【0089】
MDA‐MB‐231をトリプシン溶液(フェノールレッドを含まない、0.5w/v%トリプシン‐5.3mmol/L EDTA・4Na溶液(×10倍希釈)、富士フイルム和光純薬製)を用いて3~6日毎に継代培養したものを、実施例、比較例で使用した。
【0090】
[実施例1]
(液体組成物の調製)
超純水にTMGを加え、5wt%、25wt%又は50wt%TMG水溶液を調製した。また、超純水にLCARを加え、70wt%又は50wt%LCAR水溶液を調製した。
【0091】
50wt%TMG水溶液に対して、シスプラチンを加え、1時間攪拌し、シスプラチンを溶解させ、1wt%シスプラチン含有TMG水溶液(シスプラチン:TMG水溶液=1:100)を調製した。
【0092】
また、70wt%、50wt%LCAR水溶液それぞれに対して、シスプラチンを加え、1時間攪拌し、シスプラチンを溶解させ、1wt%シスプラチン含有LCAR水溶液(シスプラチン:LCAR水溶液=1:100)を調製した。
【0093】
5wt%、25wt%、50wt%TMG水溶液それぞれに対して、3’-アジド-3’-デオキシチミジンを加え、1時間攪拌し、3’-アジド-3’-デオキシチミジンを溶解させ、1wt%3’-アジド-3’-デオキシチミジン含有TMG水溶液(3’-アジド-3’-デオキシチミジン:TMG水溶液=1:100)を調製した。
【0094】
70wt%LCAR水溶液に対して、3’-アジド-3’-デオキシチミジンを加え、80℃で1時間攪拌し、3’-アジド-3’-デオキシチミジンを溶解させ、1wt%3’-アジド-3’-デオキシチミジン含有LCAR水溶液(3’-アジド-3’-デオキシチミジン:LCAR水溶液=1:100)を調製した。
【0095】
50wt%TMG水溶液に対して、5-ヨード-2’-デオキシウリジンを加え、80℃で1時間攪拌し、5-ヨード-2’-デオキシウリジンを溶解させ、1wt%5-ヨード-2’-デオキシウリジン含有TMG水溶液(5-ヨード-2’-デオキシウリジン:TMG水溶液=1:100)を調製した。
【0096】
70wt%LCAR水溶液に対して、5-ヨード-2’-デオキシウリジンを加え、1時間攪拌し、5-ヨード-2’-デオキシウリジンを溶解させ、1wt%5-ヨード-2’-デオキシウリジン含有LCAR水溶液(5-ヨード-2’-デオキシウリジン:LCAR水溶液=1:100)を調製した。
【0097】
5wt%、25wt%、50wt%TMG水溶液それぞれに対して、ゾレドロン酸一水和物を加え、1時間攪拌し、ゾレドロン酸一水和物を溶解させ、1wt%ゾレドロン酸一水和物含有TMG水溶液(ゾレドロン酸一水和物:TMG水溶液=1:100)を調製した。
【0098】
70wt%LCAR水溶液に対して、ゾレドロン酸一水和物を加え、1時間攪拌し、ゾレドロン酸一水和物を溶解させ、1wt%ゾレドロン酸一水和物含有LCAR水溶液(ゾレドロン酸一水和物:LCAR水溶液=1:100)を調製した。
【0099】
70wt%LCAR水溶液に対して、インスリンを加え、80℃で1時間攪拌し、インスリンを溶解させ、1wt%インスリン含有LCAR水溶液(インスリン:LCAR水溶液=1:100)を調製した。
【0100】
5wt%、25wt%、50wt%TMG水溶液それぞれに対して、カルボプラチンを加え、1時間攪拌し、カルボプラチンを溶解させ、1wt%カルボプラチン含有TMG水溶液(カルボプラチン:TMG水溶液=1:100)を調製した。
【0101】
25wt%、50wt%TMG水溶液それぞれに対して、オキサリプラチンを加え、1時間攪拌し、オキサリプラチンを溶解させ、1wt%オキサリプラチン含有TMG水溶液(オキサリプラチン:TMG水溶液=1:100)を調製した。
【0102】
1wt%シスプラチン含有TMG水溶液及び1wt%シスプラチン含有LCAR水溶液におけるシスプラチン濃度1wt%は、シスプラチン濃度約33mM、10mg/mlに相当した。
【0103】
また、50wt%TMG水溶液に対するシスプラチンの飽和溶解度を検討したところ、約17mg/mLであった。同様に70wt%、50wt%LCAR水溶液に対するシスプラチンの飽和溶解度を検討したところそれぞれ、約14mg/mL、約10mg/mLであった。
【0104】
TMG水溶液及びLCAR水溶液を用いることにより、多くの薬剤について好適に溶解可能であること、すなわち、液体組成物を好適に調製可能であることが示された。
【0105】
[実施例2]
(シスプラチン含有TMG水溶液及びシスプラチン含有LCAR水溶液の調製)
超純水にTMGを加え、50wt%TMG水溶液を調製した。また、超純水にLCARを加え、50wt%LCAR水溶液を調製した。
【0106】
50wt%TMG水溶液及び50wt%LCAR水溶液にシスプラチンを添加し1日攪拌を行い、10mMシスプラチン含有TMG水溶液及び10mMシスプラチン含有LCAR水溶液を調製した。
【0107】
10mMシスプラチン含有TMG水溶液及び10mMシスプラチン含有LCAR水溶液に、下記培地を添加し、シスプラチン濃度が200μM、20μM、2μMのシスプラチン含有TMG水溶液及びシスプラチン含有LCAR水溶液を調製した。
【0108】
培地として、10vol%のFBS(ウシ胎児血清)(シグマアルドリッチ製)、及び1vol%のペニシリン‐ストレプトマイシン溶液(富士フイルム和光純薬製)を含むDMEM(L‐グルタミンおよびフェノールレッドを含む高グルコース、富士フイルム和光純薬製)を用いた。
【0109】
(MDA‐MB‐231を用いた細胞生存率試験)
96ウェルプレートに上記の培地を100μL添加し、MDA‐MB‐231を5000細胞/ウェルとなるように播種した。その後37℃で24時間前培養した。
【0110】
96ウェルプレートから50μLの培地を取り、シスプラチン濃度が200μM、20μM、2μMのシスプラチン含有TMG水溶液及びシスプラチン含有LCAR水溶液50μLを、各ウェルに添加した(シスプラチン終濃度100μM、10μM、1μM)。細胞を37℃で、72時間培養し、細胞生存率をCellTiter 96水溶液で調べた。結果を
図1に示す。なお、シスプラチン含有TMG水溶液を用いた例を
図1ではTMGと記し、シスプラチン含有LCAR水溶液を用いた例を
図1ではLCARと記す。
【0111】
[比較例1]
(シスプラチン含有DMSOの調製)
DMSO(ジメチルスルホキシド)にシスプラチンを添加し1日攪拌を行い、10mMシスプラチン含有DMSOを調製した。
10mMシスプラチン含有DMSOを用いたこと以外は実施例2と同様に行い、シスプラチン濃度が200μM、20μM、2μMのシスプラチン含有DMSOを調製した。
【0112】
(MDA‐MB‐231を用いた細胞生存率試験)
シスプラチン濃度が200μM、20μM、2μMのシスプラチン含有DMSOを用いた以外は実施例2と同様に行い、細胞生存率を調べた。結果を
図1に示す。なお、シスプラチン含有DMSOを用いた例を
図1ではDMSOと記す。
【0113】
実施例2及び比較例1の結果より、シスプラチン含有TMG水溶液及びシスプラチン含有LCAR水溶液を用いた場合、シスプラチン含有DMSOを用いた場合と比べて、シスプラチン濃度が100μMにおいて、細胞生存率が顕著に低下していることが分かった。
【0114】
すなわち、実施例では、ヒト乳癌細胞であるMDA‐MB‐231の細胞生存率が下がっており、シスプラチンの効果が十分に発揮されたことがわかる。一方、比較例では、シスプラチンの効果が十分に発揮されず、天然物由来の非プロトン性双性イオンを用いることの優位性が示された。
【0115】
[実施例3]
(シスプラチン含有TMG粉末及びシスプラチン含有LCAR粉末の調製)
超純水にTMGを加え、50wt%TMG水溶液を調製した。また、超純水にLCARを加え、50wt%LCAR水溶液を調製した。
【0116】
50wt%TMG水溶液及び50wt%LCAR水溶液それぞれにシスプラチンを添加し1日攪拌を行い、10mMシスプラチン含有TMG水溶液及び10mMシスプラチン含有LCAR水溶液を調製した。
【0117】
10mMシスプラチン含有TMG水溶液及び10mMシスプラチン含有LCAR水溶液それぞれを凍結乾燥し、水を除去し、シスプラチン含有TMG粉末及びシスプラチン含有LCAR粉末を調製した。
【0118】
(シスプラチン含有TMG水溶液及びシスプラチン含有LCAR水溶液の調製)
シスプラチン含有TMG粉末及びシスプラチン含有LCAR粉末それぞれに超純水を加え、攪拌下で粉末を溶解し、10mMシスプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)及び10mMシスプラチン含有LCAR水溶液(粉末溶解物)を調製した。それぞれ水への溶解は1分以内に完了した。
【0119】
10mMシスプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)及び10mMシスプラチン含有LCAR水溶液(粉末溶解物)それぞれに、下記培地を添加し、シスプラチン濃度が200μM、20μM、2μMのシスプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)及びシスプラチン含有LCAR水溶液(粉末溶解物)を調製した。
【0120】
培地として、10vol%のFBS(ウシ胎児血清)(シグマアルドリッチ製)、及び1vol%のペニシリン‐ストレプトマイシン溶液(富士フイルム和光純薬製)を含むDMEM(L‐グルタミンおよびフェノールレッドを含む高グルコース、富士フイルム和光純薬製)を用いた。
【0121】
(MDA‐MB‐231を用いた細胞生存率試験)
シスプラチン濃度が200μM、20μM、2μMのシスプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)及びシスプラチン含有LCAR水溶液(粉末溶解物)を用いた以外は実施例2と同様に行い、細胞生存率を調べた。シスプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)を用いた際の結果を
図2に示す。
図2には、対象として実施例2のシスプラチン含有TMG水溶液を用いた際の結果を合わせて示す。シスプラチン含有LCAR水溶液(粉末溶解物)を用いた際の結果を
図3に示す。なお、シスプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)を用いた例を
図2ではTMG(粉末溶解物)と記し、実施例2のシスプラチン含有TMG水溶液を用いた例を
図2ではTMGと記す。また、シスプラチン含有LCAR水溶液(粉末溶解物)を用いた例を
図3ではLCAR(粉末溶解物)と記す。
【0122】
実施例3の結果より、シスプラチン含有TMG粉末、シスプラチン含有LCAR粉末(固体組成物)を再度溶解することにより調製したシスプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)、シスプラチン含有LCAR水溶液(粉末溶解物)においても、シスプラチンの効果は十分に発揮されることが分かる。
【0123】
[実施例4]
(オキサリプラチン含有TMG粉末の調製)
超純水にTMGを加え、50wt%TMG水溶液を調製した。50wt%TMG水溶液にオキサリプラチンを添加し1日攪拌を行い、10mMオキサリプラチン含有TMG水溶液を調製した。
【0124】
10mMオキサリプラチン含有TMG水溶液を凍結乾燥し、水を除去し、オキサリプラチン含有TMG粉末を調製した。
【0125】
(オキサリプラチン含有TMG水溶液の調製)
オキサリプラチン含有TMG粉末に超純水を加え、攪拌下で粉末を溶解し、10mMオキサリプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)を調製した。水への溶解は1分以内に完了した。
【0126】
10mMオキサリプラチン含有TMG水溶液に、下記培地を添加し、オキサリプラチン濃度が200μM、20μM、2μMのオキサリプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)を調製した。
【0127】
培地として、10vol%のFBS(ウシ胎児血清)(シグマアルドリッチ製)、及び1vol%のペニシリン‐ストレプトマイシン溶液(富士フイルム和光純薬製)を含むDMEM(L‐グルタミンおよびフェノールレッドを含む高グルコース、富士フイルム和光純薬製)を用いた。
【0128】
(MDA‐MB‐231を用いた細胞生存率試験)
オキサリプラチン濃度が200μM、20μM、2μMのオキサリプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)を用いた以外は実施例2と同様に行い、細胞生存率を調べた。結果を
図4に示す。なお、オキサリプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)を用いた例を
図4ではTMG(粉末溶解物)(オキサリプラチン)と記す。
【0129】
実施例4の結果より、オキサリプラチン含有TMG粉末を再度溶解することにより調製したオキサリプラチン含有TMG水溶液(粉末溶解物)においても、オキサリプラチンの効果は十分に発揮されることが分かる。
【0130】
シスプラチンをTMG水溶液に溶解する際には1時間程度要するが、一度粉末を得ることにより、迅速に溶解できることが示された。また、粉末を溶解する際にお湯を使用する必要もないため、シスプラチン含有TMG粉末(固体組成物)は、用時調製が求められる分野、例えば医療、実験の分野で好適に使用できることが分かった。また、難溶性の薬剤であるオキサリプラチンについても同様に迅速に溶解できることが示された。
【0131】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。