(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022108972
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04291 20160101AFI20220720BHJP
H01M 8/04492 20160101ALI20220720BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20220720BHJP
H01M 8/0444 20160101ALI20220720BHJP
H01M 8/04082 20160101ALI20220720BHJP
【FI】
H01M8/04291
H01M8/04492
H01M8/04537
H01M8/0444
H01M8/04082
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004224
(22)【出願日】2021-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】張 浚芳
(72)【発明者】
【氏名】畑▲崎▼ 美保
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 剛
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AC10
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA57
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127BB39
5H127CC07
5H127DB44
5H127DB48
5H127DB53
5H127DB63
5H127DB68
(57)【要約】
【課題】精度良くエア欠を回避することができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】低周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量よりも大きいと判定した場合に、燃料電池は酸化剤ガスが欠乏している状態であると診断し、前記酸化剤ガスが欠乏している状態であると診断したときに、高周波インピーダンスがあらかじめ定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量より大きいか否かを判定し、前記高周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量よりも大きいと判定した場合に、前記燃料電池は乾燥している状態であると診断し、前記高周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量以下であると判定した場合に前記燃料電池は前記酸化剤ガスの流量が欠乏している状態であると診断する燃料電池システム。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池、
前記燃料電池の出力電流を検出する電流検出手段、
前記燃料電池の出力電圧を検出する電圧検出手段、
前記出力電流に、相対的に周波数帯が低い交流信号と相対的に周波数帯が高い交流信号とを重畳して相対的に低い周波数信号に対する前記燃料電池の低周波インピーダンスと相対的に高い周波数信号に対する前記燃料電池の高周波インピーダンスとを測定するインピーダンス測定手段、
前記燃料電池に供給される酸化剤ガスの供給量を調整する調整手段、
前記低周波インピーダンスがあらかじめ定められた単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量より大きいか否かを判定する第1判定手段、
前記第1判定手段が前記低周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの前記低周波インピーダンス変化量よりも大きいと判定した場合に、前記燃料電池は前記酸化剤ガスが欠乏している状態であると診断する第1診断装置、
前記第1診断装置が、前記酸化剤ガスが欠乏している状態であると診断したときに、前記高周波インピーダンスがあらかじめ定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量より大きいか否かを判定する第2判定手段、
前記第2判定手段が前記高周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの前記高周波インピーダンス変化量よりも大きいと判定した場合に、前記燃料電池は乾燥している状態であると診断し、前記第2判定手段が前記高周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの前記高周波インピーダンス変化量以下であると判定した場合に前記燃料電池は前記酸化剤ガスの流量が欠乏している状態であると診断する第2診断装置を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(FC)は、複数の単セル(以下、セルと記載する場合がある)を積層した燃料電池スタック(以下、単にスタックと記載する場合がある)に、水素等の燃料ガスと酸素等の酸化剤ガスとの電気化学反応によって電気エネルギーを取り出す発電装置である。なお、実際に燃料電池に供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスは、酸化・還元に寄与しないガスとの混合物である場合が多く、特に酸化剤ガスは酸素を含む空気であることが多い。なお、以下では、燃料ガスや酸化剤ガスを、特に区別することなく単に「反応ガス」あるいは「ガス」と呼ぶ場合もある。また、単セル、及び、単セルを積層した燃料電池スタックのいずれも、燃料電池と呼ぶ場合がある。
この燃料電池の単セルは、通常、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を備える。
膜電極接合体は、固体高分子型電解質膜(以下、単に「電解質膜」とも呼ぶ)の両面に、それぞれ、触媒層及びガス拡散層(GDL、以下単に拡散層と記載する場合がある)が順に形成された構造を有している。そのため、膜電極接合体は、膜電極ガス拡散層接合体(MEGA)と称される場合がある。
単セルは、必要に応じて当該膜電極ガス拡散層接合体の両面を挟持する2枚のセパレータを有する。セパレータは、通常、ガス拡散層に接する面に反応ガスの流路としての溝が形成された構造を有している。なお、このセパレータは通常、電子伝導性を有し、発電した電気の集電体としても機能する。
燃料電池の燃料極(アノード)では、ガス流路及びガス拡散層から供給される燃料ガスとしての水素(H2)が触媒層の触媒作用によりプロトン化し、電解質膜を通過して酸化剤極(カソード)へと移動する。同時に生成した電子は、外部回路を通って仕事をし、カソードへと移動する。カソードに供給される酸化剤ガスとしての酸素(O2)は、カソードの触媒層でプロトンおよび電子と反応し、水を生成する。生成した水は、電解質膜に適度な湿度を与え、余剰な水はガス拡散層(GDL、以下単に拡散層と記載する場合がある)を透過して、系外へと排出される。
【0003】
燃料電池車両(以下車両と記載する場合がある)に車載されて用いられる燃料電池に関して様々な技術が提案されている。
燃料電池の内部インピーダンスの絶対値に基づいて燃料電池の水素濃度を算出する水素濃度算出部や、インピーダンスと任意の燃料電池セルの出力電圧の低下量に基づいて、酸化剤ガス、或いは水素ガスが欠乏しているか否かを診断する検討がなされている。
例えば特許文献1では、低周波インピーダンスが低下したら、酸素剤ガス欠乏(エア欠)と判断するシステムが開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、燃料電池の内部状態を正確に把握することができる燃料電池システムが開示されている。
【0005】
また、特許文献3では、燃料電池の一部における内部状態の異常の有無を診断可能な燃料電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-045648号公報
【特許文献2】特開2007-012419号公報
【特許文献3】特開2012-252986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1は、低周波インピーダンスだけでエア欠有無を判断している。エア欠現象になるのは2つの原因があり、本当にエアが不足している場合と、エア入り口が乾燥していることにより疑似的なエア欠となる場合とがある。エア欠の原因を的確に判断せずにその対策を実施すると、余計に乾燥が進んでしまうなどの虞がある。
【0008】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、精度良くエア欠を回避することができる燃料電池システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示においては、燃料電池、
前記燃料電池の出力電流を検出する電流検出手段、
前記燃料電池の出力電圧を検出する電圧検出手段、
前記出力電流に、相対的に周波数帯が低い交流信号と相対的に周波数帯が高い交流信号とを重畳して相対的に低い周波数信号に対する前記燃料電池の低周波インピーダンスと相対的に高い周波数信号に対する前記燃料電池の高周波インピーダンスとを測定するインピーダンス測定手段、
前記燃料電池に供給される酸化剤ガスの供給量を調整する調整手段、
前記低周波インピーダンスがあらかじめ定められた単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量より大きいか否かを判定する第1判定手段、
前記第1判定手段が前記低周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの前記低周波インピーダンス変化量よりも大きいと判定した場合に、前記燃料電池は前記酸化剤ガスが欠乏している状態であると診断する第1診断装置、
前記第1診断装置が、前記酸化剤ガスが欠乏している状態であると診断したときに、前記高周波インピーダンスがあらかじめ定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量より大きいか否かを判定する第2判定手段、
前記第2判定手段が前記高周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの前記高周波インピーダンス変化量よりも大きいと判定した場合に、前記燃料電池は乾燥している状態であると診断し、前記第2判定手段が前記高周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの前記高周波インピーダンス変化量以下であると判定した場合に前記燃料電池は前記酸化剤ガスの流量が欠乏している状態であると診断する第2診断装置を備えることを特徴とする燃料電池システムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の燃料電池システムは、低周波インピーダンスと高周波インピーダンスとを計測し、エア欠の原因を切り分けて判断することができるため、精度良くエア欠を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本開示の燃料電池システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は本開示の燃料電池システムの制御の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は本開示の燃料電池システムの酸化剤ガス欠乏の判定手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は本開示の燃料電池システムの酸化剤ガス欠乏の要因の判定手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は空気の供給量不足により空気欠乏が発生する時の低周波インピーダンス、高周波インピーダンと電圧の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、乾燥により空気欠乏が発生する時の低周波インピーダンス、高周波インピーダンと電圧の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示においては、燃料電池、
前記燃料電池の出力電流を検出する電流検出手段、
前記燃料電池の出力電圧を検出する電圧検出手段、
前記出力電流に、相対的に周波数帯が低い交流信号と相対的に周波数帯が高い交流信号とを重畳して相対的に低い周波数信号に対する前記燃料電池の低周波インピーダンスと相対的に高い周波数信号に対する前記燃料電池の高周波インピーダンスとを測定するインピーダンス測定手段、
前記燃料電池に供給される酸化剤ガスの供給量を調整する調整手段、
前記低周波インピーダンスがあらかじめ定められた単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量より大きいか否かを判定する第1判定手段、
前記第1判定手段が前記低周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの前記低周波インピーダンス変化量よりも大きいと判定した場合に、前記燃料電池は前記酸化剤ガスが欠乏している状態であると診断する第1診断装置、
前記第1診断装置が、前記酸化剤ガスが欠乏している状態であると診断したときに、前記高周波インピーダンスがあらかじめ定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量より大きいか否かを判定する第2判定手段、
前記第2判定手段が前記高周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの前記高周波インピーダンス変化量よりも大きいと判定した場合に、前記燃料電池は乾燥している状態であると診断し、前記第2判定手段が前記高周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの前記高周波インピーダンス変化量以下であると判定した場合に前記燃料電池は前記酸化剤ガスの流量が欠乏している状態であると診断する第2診断装置を備えることを特徴とする燃料電池システムを提供する。
【0013】
本開示者らは、電圧が0V付近まで低下するエア欠(水素ポンピング反応)が、エア流量不足により起こるだけでなく、エア流量が十分に足りている状態でも乾燥により面内の発電分布が一部に集中すると、発電集中部で酸素供給が追い付かず、エア欠が起きることを新たに見出した。従来、エア欠検知は低周波インピーダンスにより判断され、低周波インピーダンスが低下したらエア欠(水素ポンピング反応)が起きたと判定されてきた。しかしこの場合では、エア流量不足によるエア欠か、乾燥によるエア欠か判断ができず、最適なエア欠回避制御ができない。
本開示者らは、エア流量不足によるエア欠では高周波インピーダンスに変化はないが、乾燥によるエア欠では、エア流量不足によるエア欠と異なり、高周波インピーダンスが上昇することを見出した。したがって、低周波と高周波の両方のインピーダンスを計測することで、エア欠検知かつエア欠要因も判断することができ、適切な制御(乾燥なら乾燥抑制、エア流量不足ならエア流量増大)が実行でき、精度良くエア欠回避が可能となる。また、低周波インピーダンスと高周波インピーダンスの両方を検知しておくことで、セルモニタレスでも低周波インピーダンスでエア欠を検知でき、かつ高周波インピーダンスでエア欠の要因を判断でき、確実な制御につなげることができる。低周波インピーダンスが低下するとエア欠状態と判断でき、かつ同時に高周波インピーダンスが増加すると、エア流量は足りていても乾燥により面内電流集中が起きた場合、発電集中部で酸素供給が追い付かなくなることから、乾燥によるエア欠と判断できる。一方、低周波インピーダンスの低下と同時に高周波インピーダンスが増加しない場合は、エア流量不足によるエア欠と判断できる。
【0014】
本開示の燃料電池システムは、燃料電池、電流検出手段、電圧検出手段、インピーダンス測定手段、調整手段、第1判定手段、第1診断装置、第2判定手段、第2診断装置を備える。
【0015】
燃料電池は、燃料電池の単セル(燃料電池セル)を複数積層した燃料電池スタックであってもよい。
単セルの積層数は特に限定されず、例えば、2~数百個であってもよく、2~200個であってもよい。
【0016】
電流検出手段は、燃料電池の出力電流を検出することができるものであればよく、電流計等であってもよい。
【0017】
電圧検出手段は、燃料電池の出力電圧を検出することができるものであればよく、電圧計等であってもよい。電圧検出手段は、燃料電池の単セルの出力電圧を検出するセル電圧計測部であってもよく、燃料電池スタックの出力電圧を検出するスタック電圧計測部であってもよい。
【0018】
インピーダンス測定手段は、出力電流に、相対的に周波数帯が低い交流信号と相対的に周波数帯が高い交流信号とを重畳して、燃料電池の電流値と電圧値を用いて、相対的に低い周波数信号に対する燃料電池の低周波数インピーダンスと相対的に高い周波数信号に対する燃料電池の高周波インピーダンスとを測定することができるものであればよく、インピーダンス計等であってもよい。重畳する方法は、例えば、交流信号重畳部を用いて燃料電池の出力電流に対して、予め定められた低周波数と高周波数の交流信号を負荷に重畳させてもよい。すなわち、燃料電池システムは、交流信号重畳部及び負荷を備えていてもよい。重畳する周波数としては物質拡散現象を捉える目的で使用される周波数であれば、例えば0.1Hz~50Hz程度であってもよく、高周波は膜乾燥状態を捉える目的で使用される周波数であれば、例えば200Hz~1kHz程度であってもよい。
インピーダンス測定手段は、燃料電池の低周波インピーダンスZLと高周波インピーダンスZHを測定してもよく、低周波インピーダンスZLと高周波インピーダンスZHを連続計測することで、単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量の絶対値△ZLと、単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量の絶対値△ZHを算出してもよい。
【0019】
調整手段は、燃料電池に供給される酸化剤ガスの供給量を調整することができるものであればよく、制御部であってもよい。
酸化剤ガスは、酸素、空気(エア)等であってもよい。
【0020】
第1判定手段は、インピーダンス測定手段が測定した低周波インピーダンスがあらかじめ定められた単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量△ZSL+αより大きいか否かを判定することができるものであればよく、エア欠乏判定部であってもよい。インピーダンス測定手段が測定した低周波インピーダンスは、低周波インピーダンスZLであってもよいし、単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量の絶対値△ZLであってもよい。
【0021】
第1診断装置は、インピーダンス測定手段が測定した低周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量△ZSL+αよりも大きいと第1判定手段が判定した場合に、燃料電池は酸化剤ガスが欠乏している状態であると診断し、インピーダンス測定手段が測定した低周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量以下であると第1判定手段が判定した場合に、燃料電池は酸化剤ガスが欠乏していない状態であると診断する。
【0022】
第2判定手段は、第1診断装置が、酸化剤ガスが欠乏している状態であると診断したときに、インピーダンス測定手段が測定した高周波インピーダンスがあらかじめ定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量△ZSH+βより大きいか否かを判定することができるものであればよく、エア欠乏要因判定部であってもよい。インピーダンス測定手段が測定した高周波インピーダンスは、高周波インピーダンスZHであってもよいし、単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量の絶対値△ZHであってもよい。
【0023】
第2診断装置は、高周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量△ZSH+βよりも大きいと第2判定手段が判定した場合に、燃料電池は乾燥している状態であると診断し、高周波インピーダンスが予め定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量△ZSH+β以下であると第2判定手段が判定した場合に燃料電池は酸化剤ガスの流量が欠乏している状態であると診断する。
第1診断装置、及び、第2診断装置をまとめて診断装置という。診断装置は、インピーダンス測定手段と、第1判定手段と、第2判定手段と、調整手段を含んでいてもよい。
【0024】
調整手段(制御部)、第1判定手段、第1診断装置、第2判定手段、及び、第2診断装置は、物理的には、例えば、CPU(中央演算処理装置)等の演算処理装置と、CPUで処理される制御プログラム及び制御データ等を記憶するROM(リードオンリーメモリー)、並びに、主として制御処理のための各種作業領域として使用されるRAM(ランダムアクセスメモリー)等の記憶装置と、入出力インターフェースとを有するものであり、例えば、ECU(エレクトロニックコントロールユニット)等であってもよい。
【0025】
燃料電池システムは、前記燃料電池は乾燥している状態であると前記第2診断装置が診断した場合には、前記燃料電池の乾燥状態を回避するために、前記燃料電池の温度を下げる第1制御手段と、前記燃料電池は前記酸化剤ガスの流量が欠乏している状態であると前記第2診断装置が診断した場合には、前記燃料電池の酸化剤不足状態を回避するために、前記燃料電池に供給される酸化剤ガスの供給量を増大させる第2制御手段を備えていてもよい。
第1制御手段は制御部等であってもよい。第2制御手段は調整手段であってもよいし、制御部であってもよい。すなわち、制御部が第1制御手段及び第2制御手段の機能を兼ね備えるものであってもよい。
燃料電池の状態に応じて適切な制御をすることで、誤制御なく確実に燃料電池の電圧低下(エア欠)を回避できる。乾燥によるエア欠であれば乾燥を抑制する制御、エア流量不足によるエア欠であればエア流量を増大させる制御により、エア欠を回避可能である。
【0026】
図1は本開示の燃料電池システムの構成の一例を示す図である。
燃料電池システムは、水素等の燃料ガスと酸素等の酸化剤ガスの供給を受けて発電する単セル11が複数積層された燃料電池スタック10と、燃料ガスの供給及び排出系と、酸化剤ガスの供給及び排出系と、燃料電池スタックの温度調整系と、交流信号重畳部28と、電流計測部29と、スタック電圧計測部30と、セル電圧計測部31と、負荷32と、診断装置33を備える。
燃料ガスの供給及び排出系は、水素タンク12から燃料電池スタック10へ燃料ガスを供給する燃料ガス供給配管13と、燃料ガス供給弁14と、燃料電池から排出されるガスを燃料ガス排出配管15を通して循環させる燃料ガス循環ポンプ16と、燃料電池から排出されるガスと水分を外部に排出する排出弁17と水分排出配管18と、を備える。
酸化剤ガスの供給及び排出系は、外部から燃料電池スタック10へ酸化剤ガスを供給するコンプレッサ19、酸化剤ガス供給配管20、酸化剤ガス流路の開度を調整する酸化剤ガス供給弁21と燃料電池から排出されるガスと生成水分を外部に排出する酸化剤ガス排出弁22と、酸化剤ガス排出配管23と、を備える。
燃料電池スタックの温度調整系は、水ポンプ24、冷却水供給配管25、冷却水流量を調整する冷却水流量供給弁26と、冷却装置27と、を備える。
燃料電池の診断装置33は、インピーダンス計測部34と、エア欠判定部35と、エア欠乏要因判定部36と、制御部37と、から成る。
発電中の燃料電池スタック全体のインピーダンスを計測するため、交流信号重畳部28は燃料電池スタック10の出力電流に対して、予め定められた低周波数と高周波数の交流信号を負荷32に重畳させる。
【0027】
図2は本開示の燃料電池システムの制御の一例を示すフローチャートである。
電流計測部29、セル電圧計測部31、あるいはスタック電圧計測部30により、燃料電池セル又は燃料電池スタックの電流と電圧を計算して、電流値と電圧値を用いて、インピーダンス計測部34にて、燃料電池セル又は燃料電池スタックの低周波インピーダンスZ
Lと高周波インピーダンスZ
Hを算出する。連続計測することで、単位時間当たりの低周波セルインピーダンス変化量の絶対値△Z
Lと、単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量の絶対値△Z
Hを算出する。
【0028】
図3は本開示の燃料電池システムの酸化剤ガス欠乏の判定手順の一例を示すフローチャートである。
算出した単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量△Z
Lと、予め定められた単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量△Z
SL+αと比較して、燃料電池セル又は燃料電池スタックが空気欠乏しているかどうか判断する。算出した単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量△Z
Lが、予め定められた単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量△Z
SL+αより大きいと空気欠乏と判定できる。
【0029】
図4は本開示の燃料電池システムの酸化剤ガス欠乏の要因の判定手順の一例を示すフローチャートである。
空気欠乏が生じていると判定された燃料電池セル又は燃料電池スタックがある場合には、単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量の絶対値△Z
Hと予め定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量△Z
SH+βとを比較して、空気の供給量不足による空気欠乏か、乾燥による空気欠乏か、空気欠乏の要因を判定する。
空気欠乏が生じることを判定された場合には、算出した単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量△Z
Hが、予め定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量△Z
SH+βより大きいと、乾燥により酸化剤ガス欠乏していると判定でき、高周波インピーダンス変化量△Z
SH+β以下であると、空気の供給量不足による酸化剤ガス欠乏と判定できる。
【0030】
エア欠乏要因判定部36で乾燥により空気が欠乏していると判定された場合には、制御部37に燃料電池の乾燥状態を緩和させる処理、例えば、冷却水流量を現在値よりも増加させるなどの実行を指令する。
一方、エア欠乏要因判定部36で空気の供給量不足により酸化剤ガスが欠乏していると判定された場合には、制御部37に酸化剤ガスの供給量を現在値よりも増加させる処理の実行を指令する。
【0031】
燃料電池スタックの一部分セル、あるいは単セルの出力電流と電圧を同時計測することによっても、算出した単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量と高周波インピーダン変化量を用いて、空気欠乏状態及び空気欠乏要因の判断が可能である。
予め定められた単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量及び予め定められた単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量は水素ガスと空気ガスが十分に供給される正常発電時に計測して計算した単位時間あたりのインピーダンス変化量であってもよく、低周波インピーダンス変化率と高周波インピーダンス変化率、低周波インピーダンス変化速度高周波インピーダンス変化速度等であってもよい。
【0032】
図5は空気の供給量不足により空気欠乏が発生する時の低周波インピーダンス、高周波インピーダンと電圧の関係を示す図である。
図5に示すのは、単セルで実施した空気供給量不足による空気欠乏実験結果である。
空気欠乏時、セル電圧が0Vに低下する。
正常状態(空気ストイキ比が1以上である)で発電させた時、単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量が少ない。ストイキ比が1以下にすると低周波インピーダンスが急激低下した。一方で、高周波インピーダンスがあまり変化しなかった。つまり、空気供給量不足での空気欠乏は単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量△Z
Lが大きい。単位時間当たりの高周波インピーダン変化量△Z
Hが少ない。
【0033】
図6は、乾燥により空気欠乏が発生する時の低周波インピーダンス、高周波インピーダンと電圧の関係を示す図である。
図6に示すのは、単セルで実施した乾燥による空気欠乏実験結果である。
ドライガスを追加供給することで乾燥状態を模擬した。
電圧が徐々に低下し、0V付近で変曲点を持ち、負電位に達した。
正常状態(空気ストイキ比が1以上である)で発電させた時、低周波インピーダンスと高周波インピーダンスは変化しなかった。乾燥ガスを追加してセルが乾燥による空気欠乏が発生する時、低周波インピーダンスが急激に低下したが、高周波インピーダンスは増加した。つまり、乾燥による空気欠乏が発生する時、単位時間当たりの低周波インピーダンス変化量△Z
Lが大きく、且つ、単位時間当たりの高周波インピーダンス変化量△Z
Hも大きい。
【符号の説明】
【0034】
10:燃料電池スタック
11:燃料電池セル
12:水素タンク
13:燃料ガス供給配管
14:燃料ガス供給弁
15:燃料ガス排出配管
16:燃料ガス循環ポンプ
17:排出弁
18:水分排出配管
19:コンプレッサ
20:酸化剤ガス供給配管
21:酸化剤ガス供給弁
22:酸化剤ガス排出弁
23:酸化剤ガス排出配管
24:水ポンプ
25:冷却水供給配管
26:冷却水流量供給弁
27:冷却装置
28:交流信号重畳部
29:電流計測部(電流検出手段)
30:スタック電圧計測部(電圧検出手段)
31:セル電圧計測部(電圧検出手段)
32:負荷
33:診断装置(第1診断装置及び第2診断装置)
34:インピーダンス計測部(インピーダンス測定手段)
35:エア欠乏判定部(第1判定手段)
36:エア欠乏要因判定部(第2判定手段)
37:制御部