(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109019
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】プレス機械およびワーク成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 24/16 20060101AFI20220720BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20220720BHJP
B21J 5/08 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
B21D24/16 A
B21D22/26 C
B21J5/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004317
(22)【出願日】2021-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】須田 辰也
【テーマコード(参考)】
4E087
4E137
【Fターム(参考)】
4E087BA04
4E087BA19
4E087CA14
4E087CB01
4E087CB04
4E087DB07
4E087EA12
4E087EB03
4E087EB07
4E087EC15
4E087EE02
4E087EE05
4E137AA02
4E137AA10
4E137AA19
4E137BA01
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA09
4E137CA24
4E137CA28
4E137DA02
4E137EA01
4E137EA06
4E137EA22
4E137EA23
4E137EA40
4E137GA03
4E137HA05
4E137HA06
(57)【要約】
【課題】増肉加工時における下型および上型の離間を抑制する。
【解決手段】プレス機械Mは、下型1と、下型に対し昇降可能であり、下型との間でワークWを挟む上型2と、下型および上型により挟まれたワークを水平方向に押圧して増肉加工する増肉型と、増肉加工時に下型および上型を互いに離間しないようロックするロック機構20とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型と、
前記下型に対し昇降可能であり、前記下型との間でワークを挟む上型と、
前記下型および前記上型により挟まれた前記ワークを水平方向に押圧して増肉加工する増肉型と、
増肉加工時に前記下型および前記上型を互いに離間しないようロックするロック機構と、
を備えたことを特徴とするプレス機械。
【請求項2】
前記ロック機構は、
前記下型に設けられた下型側係合部と、
前記上型に設けられた上型側係合部と、
水平方向に移動可能に設けられ、前記下型側係合部および前記上型側係合部に同時に係合可能なロック部材と、
を備える
請求項1に記載のプレス機械。
【請求項3】
前記下型側係合部は、前記下型の側部に突出して設けられた下型側凸部により形成され、
前記上型側係合部は、前記上型の側部に突出して設けられた上型側凸部により形成され、
前記ロック部材は、係合時に前記下型側凸部および前記上型側凸部を上下から挟む一対の係合凸部を有する
請求項2に記載のプレス機械。
【請求項4】
前記ロック機構は、前記ロック部材を離脱側に付勢するリターンスプリングを備える
請求項2または3に記載のプレス機械。
【請求項5】
前記プレス機械は、
上型支持部材と、
前記上型支持部材に前記上型を昇降可能に連結する伸縮機構と、
を備え、
前記ロック機構は、前記上型支持部材に設けられ前記上型支持部材の下降時に前記ロック部材を係合側に押圧する押圧部材を備える
請求項2~4のいずれか一項に記載のプレス機械。
【請求項6】
前記ロック機構は、前記ロック部材および前記押圧部材にそれぞれ設けられ互いに摺接可能な傾斜カム面を備える
請求項5に記載のプレス機械。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のプレス機械を用いてワークを成形する方法であって、
前記ワークを所定形状にプレス加工する第1ステップと、
プレス加工後の前記ワークを前記下型および前記上型により挟む第2ステップと、
前記ロック機構により前記下型および前記上型を互いに離間しないようロックする第3ステップと、
前記ワークを前記増肉型により水平方向に押圧して前記ワークを増肉加工する第4ステップと、
を備えたことを特徴とするワーク成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はプレス機械およびワーク成形方法に係り、特に、ワークの肉厚を増加する増肉加工を行うのに好適なプレス機械およびワーク成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークの肉厚を増加する増肉加工を行うプレス機械が公知である(例えば特許文献1参照)。このものでは、下型および上型によりワークを上下方向に挟んで拘束し、この状態でワークの側端部を増肉型で水平方向に押圧し、ワークを増肉する。増肉前のワークと、下型および上型の少なくとも一方との間にはクリアランスが設けられ、このクリアランスにワークの材料が押し込まれることで増肉が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-121034号公報
【特許文献2】特開2011-20173号公報
【特許文献3】実公昭64-6998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、増肉加工時には下型および上型を互いに離間させるような力が発生する。この力により下型および上型が実際に離間してしまうと、クリアランスの寸法および形状が変化し、所望の増肉形状を得られなくなる虞がある。
【0005】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、増肉加工時における下型および上型の離間を抑制することができるプレス機械およびワーク成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、
下型と、
前記下型に対し昇降可能であり、前記下型との間でワークを挟む上型と、
前記下型および前記上型により挟まれた前記ワークを水平方向に押圧して増肉加工する増肉型と、
増肉加工時に前記下型および前記上型を互いに離間しないようロックするロック機構と、
を備えたことを特徴とするプレス機械が提供される。
【0007】
好ましくは、前記ロック機構は、
前記下型に設けられた下型側係合部と、
前記上型に設けられた上型側係合部と、
水平方向に移動可能に設けられ、前記下型側係合部および前記上型側係合部に同時に係合可能なロック部材と、
を備える。
【0008】
好ましくは、前記下型側係合部は、前記下型の側部に突出して設けられた下型側凸部により形成され、
前記上型側係合部は、前記上型の側部に突出して設けられた上型側凸部により形成され、
前記ロック部材は、係合時に前記下型側凸部および前記上型側凸部を上下から挟む一対の係合凸部を有する。
【0009】
好ましくは、前記ロック機構は、前記ロック部材を離脱側に付勢するリターンスプリングを備える。
【0010】
好ましくは、前記プレス機械は、
上型支持部材と、
前記上型支持部材に前記上型を昇降可能に連結する伸縮機構と、
を備え、
前記ロック機構は、前記上型支持部材に設けられ前記上型支持部材の下降時に前記ロック部材を係合側に押圧する押圧部材を備える。
【0011】
好ましくは、前記ロック機構は、前記ロック部材および前記押圧部材にそれぞれ設けられ互いに摺接可能な傾斜カム面を備える。
【0012】
本開示の他の態様によれば、
前記プレス機械を用いてワークを成形する方法であって、
前記ワークを所定形状にプレス加工する第1ステップと、
プレス加工後の前記ワークを前記下型および前記上型により挟む第2ステップと、
前記ロック機構により前記下型および前記上型を互いに離間しないようロックする第3ステップと、
前記ワークを前記増肉型により水平方向に押圧して前記ワークを増肉加工する第4ステップと、
を備えたことを特徴とするワーク成形方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、増肉加工時における下型および上型の離間を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態のプレス機械を示す正面図である。
【
図3】プレス加工時のプレス機械を示す正面図である。
【
図4】プレス加工終了時のプレス機械を示す正面図である。
【
図5】ロック開始時のプレス機械を示す正面図である。
【
図7】ロック終了時のプレス機械を示す正面図である。
【
図8】増肉加工時のプレス機械を示す正面図である。
【
図9】増肉加工終了時のプレス機械を示す正面図である。
【
図10】プレス加工時のワークを示す側面断面図である。
【
図11】増肉加工前のワークを示す側面断面図である。
【
図12】増肉加工後のワークを示す側面断面図である。
【
図14】変形例のプレス機械を示す部分正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0016】
図1に、本実施形態のプレス機械Mを示す。便宜上、前後左右上下の各方向を図示の通り定める。但しこれら各方向が説明の便宜上定められたものに過ぎない点に留意されたい。図示例において、上下方向は鉛直方向に一致する。前後方向および左右方向は水平方向に含まれる。
【0017】
プレス機械Mの中心軸(マシン軸という)を符号Cで示す。マシン軸Cは上下方向に延びる。以下特に断らない限り、マシン軸Cを基準とした軸方向、半径方向および周方向を単に軸方向、半径方向および周方向というものとする。
【0018】
プレス機械Mは、油圧プレス機により形成され、下型1と、下型1に対し昇降可能な上型2とを備える。下型1は、プレス機械Mの固定側であるボルスタ(図示せず)等の上面に固定される。下型1は、ワークWに接触してワークWを実質的に成形するダイ3と、ダイ3を固定するダイホルダ4とを備える。
【0019】
上型2は、下型1の上に昇降可能かつ近接離反可能に配置される。上型2は、ワークWに接触すると共にダイ3と協働してワークWを実質的に成形する第1パンチとしての成形用パンチ5と、パンチ5を固定するパンチホルダ6とを備える。
【0020】
ここで
図2を参照して、ワークWの成形順序を説明する。本実施形態における初期状態ないし成形前のワークWは、
図2(A)に示すように単純な四角形の板材であり、具体的には鉄、アルミ等の金属材料でできた厚さt1のブランク材もしくは板金である。このワークWは、
図2(B)に示すように断面U字状もしくは半円状に曲げられ、全体として半円パイプ状になるよう、プレス加工により成形される。次いでこのワークWは、
図2(C)に示すように増肉加工により増肉される。すなわち、ワークWの前後方向(長手方向)における前側部分Wfの厚さt2が、後側部分Wrの厚さt1より厚くなるよう、前側部分Wfが厚さ方向に段差状に増肉される。このとき、増肉は内径方向のみに行われ、外径方向には行われない。これにより、一定外径のきれいな外観が得られる。
【0021】
例えば、増肉後のワークWが上下一対で溶接され、全体として円形パイプに形成され、この円形パイプの前端面に別のパイプが突き合わせ溶接されることがある。このとき、溶接部の強度を増すために全体を増肉すると、重量も増加する。このため、軽量化目的で本実施形態の如く一部のみが増肉される。これにより強度増加と軽量化を両立させることができる。
【0022】
本実施形態の場合、
図2(B)のプレス加工(もしくはU字曲げ)工程と、
図2(C)の増肉加工工程とは、それぞれ別のパンチ5を用いて行われる。
図1に示すのはプレス加工工程で用いるパンチ5である。増肉加工工程で用いるパンチについては後述する。
【0023】
図1に示すように、ダイ3とパンチ5の成形面3A,5Aは、プレス加工後のワークW(
図2(B))の形状に合わせて断面U字状もしくは半円状に形成される。ダイ3は、前後方向に延びる断面U字状の成形溝11を有する。ダイ3は、ダイホルダ4の中心部に設けられたダイ固定穴7内に嵌合固定される。ダイ3の底部には、昇降可能かつ成形溝11内に出没可能なイジェクト用パッド8が設けられる。パッド8は油圧式等のパッド駆動装置(図示せず)により昇降駆動される。本実施形態の場合、前側部分Wfと後側部分Wrをそれぞれ押し上げるための二つのパッド8が設けられる(
図10参照)。
【0024】
プレス機械Mは、上型支持部材9と、上型支持部材9に上型2を昇降可能に連結する伸縮機構10とを備える。上型支持部材9は、上型2の上方に配置され、プレス機械Mの可動側であるスライド(図示せず)等の下面に固定される。伸縮機構10は、本実施形態ではガススプリングにより形成され、上下方向に伸縮可能となるよう配置される。伸縮機構10は、上型支持部材9とパンチホルダ6の間に配設され、これらの中心部同士を近接離反可能に連結する。伸縮機構10の内部のガス圧は、図示しない圧力制御装置により制御可能となっている。
【0025】
またプレス機械Mは、増肉加工時に下型1および上型2を互いに離間しないようロックするロック機構20を備える。
【0026】
ロック機構20は、下型1に設けられた下型側係合部と、上型2に設けられた上型側係合部と、水平方向に移動可能に設けられ、下型側係合部および上型側係合部に同時に係合可能なロック部材21とを備える。
【0027】
下型側係合部は、下型1の側部に突出して設けられた下型側凸部22により形成される。上型側係合部は、上型2の側部に突出して設けられた上型側凸部23により形成される。ロック部材21は、係合時に下型側凸部22および上型側凸部23を上下から挟む一対の係合凸部24,25を有する(
図7参照)。
【0028】
下型側凸部22、上型側凸部23、ロック部材21および係合凸部24,25は、マシン軸Cを境に左右対称に設けられる。従ってここでは便宜上、右側の構成についてのみ説明し、左側の構成については説明を省略する。
【0029】
下型1のダイホルダ4は、上面26と、上面26の左右方向内側(マシン軸C側)の端部に起立して設けられた内側壁27と、上面26の左右方向外側(反マシン軸C側)の端部に起立して設けられた外側壁28とを有する。これら上面26、内側壁27および外側壁28もマシン軸Cを境に左右対称に設けられる。よって右側の構成についてのみ説明する。
【0030】
上面26は、水平な平坦面であり、この上にロック部材21が左右方向にスライド可能に配置される。内側壁27は、その左側(左右方向内側)の側面で前述のダイ固定穴7の上側の一部を画成する。内側壁27の上端部から下型側凸部22が、右側(左右方向外側)に向かって突出する。図示例の下型側凸部22は断面矩形とされる。
【0031】
上型側凸部23は、パンチホルダ6の右側面の下端部から右側に向かって突出する。この上型側凸部23も断面矩形とされる。左右方向における上型側凸部23の右端の位置は、下型側凸部22の右端の位置と等しくされる。
【0032】
ロック部材21の下側の係合凸部24は、ロック部材21の左側面の下端部から左側に向かって突出する。ロック部材21の上側の係合凸部25も同様に、ロック部材21の左側面の上端部から左側に向かって突出する。これら係合凸部24,25も断面矩形とされる。
【0033】
ロック機構20は、上型支持部材9に設けられ上型支持部材9の下降時にロック部材21を係合側、すなわち左右方向内側に押圧する押圧部材29を備える。またロック機構20は、ロック部材21および押圧部材29にそれぞれ設けられ互いに摺接可能な傾斜カム面30,31を備える。これら押圧部材29および傾斜カム面30,31も、マシン軸Cを境に左右対称に設けられるので、右側の構成についてのみ説明する。
【0034】
押圧部材29は、パンチホルダ6と干渉しないよう、パンチホルダ6よりも右側の位置に配置され、上型支持部材9の下面から下方に延びている。押圧部材29の傾斜カム面31は、押圧部材29の下端かつ左端の角部を斜めに切り欠いて形成される。傾斜カム面31は、下方ほど右側に向かうような傾斜面とされている。
【0035】
ロック部材21の傾斜カム面30は、ロック部材21の上端かつ右端の角部を斜めに切り欠いて形成される。傾斜カム面30も、下方ほど右側に向かうような傾斜面とされ、かつ押圧部材29の傾斜カム面31と平行な傾斜面とされている。
【0036】
ロック機構20は、ロック部材21を離脱側、すなわち左右方向外側に付勢するリターンスプリング32を備える。リターンスプリング32もマシン軸Cを境に左右対称に設けられるので、右側の構成についてのみ説明する。
【0037】
本実施形態のリターンスプリング32はコイルスプリングにより形成される。外側壁28の左側面の下端部に有底円筒状のスプリング収容穴33が形成され、ここにリターンスプリング32が左右方向に伸縮可能に配置されている。
【0038】
リターンスプリング32の右端は外側壁28に固定され、リターンスプリング32の左端はロック部材21に固定される。リターンスプリング32は通常、収縮してロック部材21を右側に引っ張っている。これによりロック部材21は通常、
図1に示すような最も右側の離脱位置にて待機する。このとき、ロック部材21は、パンチホルダ6に干渉しないようパンチホルダ6よりも右側の位置に配置され、外側壁28に当接してその移動を停止させられる。
【0039】
次に、前述の増肉加工工程で用いられる別のパンチと増肉型について説明する。これら別のパンチおよび増肉型もプレス機械Mの構成要素である。
【0040】
図5および
図11には、前記パンチ5に代わって用いられる別のパンチ、すなわち第2パンチとしての抑えパンチ35を示す。抑えパンチ35は、ワークWの後側部分Wrに対応した後側部分35Rと、ワークWの前側部分Wfに対応した前側部分35Fとを有する。
図5に示すような正面視の断面形状を考えた場合、後側部分35RのU字状底面の断面形状はパンチ5の断面形状と同じである。しかしながら、前側部分35FのU字状底面の断面形状は、パンチ5の断面形状より一回り小さくなっている。よって
図11に示すように、前側部分35Fとプレス加工後のワークWとの間には、クリアランスLが形成される。
【0041】
前側部分35Fとダイ3の間の隙間Gの大きさは、ワークWにおける増肉後の前側部分Wfの厚さt2に等しい(G=t2)。クリアランスLの大きさは、増肉によって増加した前側部分Wfの厚さを意味する。すなわちL=t2-t1である。
【0042】
前側部分35Fと後側部分35RにおけるU字状底面の上端位置には、左右方向外側に段差状に突出する上端抑え部45が設けられる。上端抑え部45は、増肉加工時に材料の上昇を規制し、ワークWの前側部分Wfの上端面の位置が後側部分Wrの上端面の位置より高くなるのを防止する。上端抑え部45は、抑えパンチ35の前後長全体に設けられる。
【0043】
図12に示すように、増肉型は、前側部分35Fとダイ3の間の隙間Gに、前方から水平方向に挿入される第3パンチとしての増肉パンチ36により形成される。増肉パンチ36は、図示しないが、正面視において、増肉後のワークWの前側部分Wfの断面形状とほぼ等しいU字状もしくは半円状の断面形状を有する。増肉パンチ36は、隙間Gに挿入されたときにワークWの前端面全体を押圧する。するとワークWの材料が変形してクリアランスLを埋め尽くし、ワークWの前側部分Wfが増肉される。これにより、鍛造の一種である増肉加工が実現される。なお増肉パンチ36は図示しない油圧装置により駆動される。
【0044】
次に、プレス機械Mを用いたワーク成形方法を説明する。本実施形態のワーク成形方法は、概して次のステップを備える。
(1)ワークWを所定形状にプレス加工する第1ステップ。
(2)プレス加工後のワークWを下型1および上型2により挟む第2ステップ。
(3)ロック機構20により下型1および上型2を互いに離間しないようロックする第3ステップ。
(4)ワークWを増肉型により水平方向に押圧してワークを増肉加工する第4ステップ。
【0045】
まず第1ステップについて説明する。始めに、プレス機械Mを
図1に示すような初期状態にセットし、このプレス機械Mに成形前の平板状ワークWをセットする。このとき、プレス機械Mのスライドおよび上型支持部材9は上死点の初期位置にあり、伸縮機構10は最も伸長した状態にある。ワークWは、予め高温(例えば800℃程度)に加熱された状態で、ダイ3の成形溝11上に置かれる。ロック機構20は解除状態にあり、ロック部材21は左右方向外側の離脱位置に位置される。
【0046】
この状態から
図3に示すように、プレス機械Mのスライドおよび上型支持部材9が下降される。すると、パンチ5がワークWを成形溝11内に押し込み、次いでワークWをダイ3との間で挟んで押し潰し、断面U字状に曲げる。こうしてワークWが、
図2(B)に示したような断面U字状にプレス加工される。プレス加工後のワークWは、元の厚さt1を維持している。つまりワークWは初期厚さt1を保ったまま断面U字状に成形される。
【0047】
プレス加工終了時点において、パンチホルダ6は、ダイホルダ4の内側壁27の上面に接触されるか、または僅かに離間される。
【0048】
プレス加工時には、上向きのワーク成形反力F1がパンチ5およびパンチホルダ6を通じて伸縮機構10に働くので、伸縮機構10が収縮しようとする。しかし伸縮機構10は下記の理由でこの力F1に逆らい、伸長状態を維持する。これにより、ワーク成形反力F1による伸縮機構10の収縮を阻止し、成形を確実に行うことができる。
【0049】
図13には、伸縮機構10のバネ特性を示す。横軸は、伸縮機構10に作用する収縮方向の力Aを示し、縦軸は、伸縮機構10の収縮量Bを示す。伸縮機構10が収縮を開始する荷重はA0であり、この荷重A0の大きさは、伸縮機構10の内部のガス圧によって決定される。伸縮機構10に作用する外力が荷重A0以下なら伸縮機構10は収縮せず、その収縮量Bはゼロである。伸縮機構10に作用する外力が荷重A0を超えれば、外力の増大に応じて伸縮機構10の収縮量Bは増大する。
【0050】
本実施形態の場合、荷重A0はワーク成形反力F1より高く、そうなるように荷重A0が設定、制御されている。そのため、ワーク成形時に伸縮機構10が縮むことがなく、成形を支障なく行うことができる。
【0051】
ちなみにプレス加工時、プレス機械Mの上型支持部材9には当然に、ワーク成形反力F1にほぼ等しい下向きの力F2が図示しない油圧装置から付与される。
【0052】
図10は、
図3に対応した、マシン軸Cの位置における側面断面図を示す。図示するように、ワークWはその前後長全体に亘ってパンチ5とダイ3に挟まれ、接触される。
【0053】
次に、
図4に示すように、上型支持部材9は上死点まで一旦上昇され、そこで一時停止される。これによりパンチ5がダイ3から引き抜かれる。以上で第1ステップが終了される。
【0054】
次に、第2ステップが開始される。このときまず
図5に示すように、パンチ5が取り外され、別の抑えパンチ35に交換される。このようなパンチの交換を行うことによって、1台のプレス機械Mで増肉加工まで行うことができる。なおパンチ5および抑えパンチ35は、ボルト等により着脱可能にパンチホルダ6に取り付けられる。
【0055】
次に
図6に示すように、上型支持部材9が、プレス加工終了時(
図3参照)と同じ高さ位置まで下降される。これにより抑えパンチ35が、U字状にプレス加工されたワークWに軽く接触し、ワークWをダイ3に抑え付ける。
【0056】
このときの側面断面図を
図11に示す。図示するようにワークWは、後側部分Wrにおいては抑えパンチ35とダイ3に挟まれ拘束されている。しかしながら前側部分Wfにおいては、ダイ3には着座されているものの、抑えパンチ35との間にはクリアランスLが形成され、抑えパンチ35に接触していない。これにより前側部分Wfと抑えパンチ35の間に増肉代が形成される。
【0057】
このようにワークWが抑えパンチ35とダイ3に挟まれることによって、第2ステップが終了される。
【0058】
次に、第3ステップが開始される。このとき
図7に示すように、上型支持部材9がさらに下降される。この下降は、
図6に示した直前の下降と連続して行われる。抑えパンチ35が既にワークWに突き当たっているので、抑えパンチ35とパンチホルダ6は下降できない。そのため伸縮機構10が収縮し、上型支持部材9のさらなる下降を許容する。
【0059】
このとき
図13に示すように、上型支持部材9には、収縮開始荷重A0を上回る下向き荷重F3が付与される。これにより伸縮機構10は収縮量B3(>0)だけ収縮されることとなる。
【0060】
さて、上型支持部材9がさらに下降されると、押圧部材29も下降してロック部材21に接触し、ロック部材21を下向きに押圧するようになる。この下向きの力は傾斜カム面30,31を通じて左右方向内側に向かう力に変換される。これによりロック部材21は、リターンスプリング32の付勢力に逆らって、左右方向内側に向かって水平方向にスライド移動する。そしてロック部材21の下型側係合凸部24と上型側係合凸部25が、下型側凸部22と上型側凸部23にそれぞれ同時に係合し、すなわち、下型側凸部22と上型側凸部23を纏めて上下から挟むようになる。これにより、ダイホルダ4およびパンチホルダ6が互いに離間しないようロックされ、第3ステップが終了される。
【0061】
係合時には、ロック部材21の下型側係合凸部24の上面が、ダイホルダ4の下型側凸部22の下面にスライド接触される。これら上面および下面は水平な平面、すなわち左右方向に平行な平面とされている。
【0062】
同様に、係合時には、ロック部材21の上型側係合凸部25の下面が、パンチホルダ6の上型側凸部23の上面にスライド接触される。これら下面および上面は水平な平面、すなわち左右方向に平行な平面とされている。
【0063】
押圧部材29の下降時、外側壁28が押圧部材29にスライド接触して押圧部材29の下降を案内すると共に、押圧部材29を左右方向外側から支持する。
【0064】
次に、第4ステップが開始される。このとき
図8および
図12に示すように、増肉パンチ36が、抑えパンチ35の前側部分35Fとダイ3の間の隙間Gに、前方から水平方向に挿入される。これによりワークWの前端面全体が増肉パンチ36により後方に向かって押圧され、ワークWの材料が変形してクリアランスLを埋め尽くし、ワークWの前側部分Wfが増肉加工される。特にワークWの材料は、抑えパンチ35に向かって流動し、抑えパンチ35に接触したところで流動を規制させられる。よってワークWの前側部分Wfは内径方向に増肉され、より大きな厚さt2に変形される。材料の上昇が上端抑え部45によって規制されるので、ワークWの前側部分Wfの上端面の高さ位置が、後側部分Wrの上端面の高さ位置と同じ位置に揃えられる。
【0065】
なお、ワークWの後端面はダイ3の後壁34に突き当てられている。これにより増肉加工時におけるワークWの後方への移動および位置ずれは防止される。
【0066】
増肉加工時、抑えパンチ35には上向きの成形反力F4が付与される。この成形反力F4は抑えパンチ35を上昇させ、上型2を下型1に対し離間させると共に、クリアランスLを拡大しようとする力である。仮にロック機構20によるロックがされておらず、かつ成形反力F4が、上型支持部材9に付加されている下向き荷重F3を上回ると、実際に抑えパンチ35が上昇し、クリアランスLが拡大してしまう。こうなると、クリアランスLの寸法および形状が変化し、所望の増肉形状を得られなくなる虞がある。
【0067】
そこで本実施形態では、ロック機構20により下型1および上型2をロックする。これにより増肉加工時における下型1および上型2の離間を抑制し、所望の増肉形状を確実に得ることが可能となる。
【0068】
成形反力F4が下向き荷重F3より大きい場合、これらの差(F4-F3)に等しい下向きのアシスト荷重ないしロック荷重F5を、ロック機構20が上型2に付与して、抑えパンチ35の上昇を抑制する。差(F4-F3)が大きくなればなるほど、ロック荷重F5が自ずと増えるので、成形反力F4が大きくなっても、下向き荷重F3の大きさを変えること無く、抑えパンチ35の上昇を抑制することができる。
【0069】
よって、比較的非力な小型のプレス機械であっても、増肉加工を支障なく行うことができる。これは量産時に限らず、少量の試作品を限りある設備で製作する際にも好適である。
【0070】
なお、成形反力F4が下向き荷重F3以下の場合には、アシスト不要なので、ロック荷重F5はゼロである。
【0071】
実際に発生する成形反力F4と下向き荷重F3の差(F4-F3)、すなわち必要なロック荷重F5を予め求めておき、その大きさに基づいてロック機構20の諸元を設定するのが好ましい。例えば、必要なロック荷重F5が大きいほど、ロック部材21を頑強な構造にする必要がある。よって
図8に示すように、ロック部材21の下型側係合凸部24および上型側係合凸部25の厚さt3,t4と、前後長とを大きくするのが好ましい。また、ロック部材21の材質をより高強度のものにするのも好ましい。
【0072】
こうして増肉加工を終えたら、増肉パンチ36が前方に引き抜かれる。そして
図9に示すように、上型支持部材9が上死点まで上昇される。これにより前記と逆の手順で、ロック機構20のロックが解除され、伸縮機構10は伸長され、抑えパンチ35はダイ3から引き抜かれる。押圧部材29はロック部材21から離間され、ロック部材21はリターンスプリング32に引っ張られて元の離脱位置に戻る。
【0073】
最後に、パッド8が上昇され、増肉加工後のワークWがダイ3から押し剥がされ上昇される。これによりワークWが取り出し可能となり、第4ステップが終了される。
【0074】
このように本実施形態によれば、ロック機構20を設けたので、増肉加工時に上型2を下型1に対してロックし、上型2の上昇を抑制して所望の増肉形状を確実に得ることが可能となる。しかも、増肉加工時の成形反力F4が、プレス機械Mによって与えられる下向き荷重F3より大きい場合であっても、その差(F4-F3)を埋めるようなロック荷重F5をロック機構20から発生させることができる。よって、比較的非力な小型のプレス機械であっても増肉加工を支障なく行うことができる。
【0075】
また本実施形態では、ロック部材21が水平方向に移動して下型側係合部と上型側係合部に同時に係合することで、下型1および上型2をロックする。このためロック部材21を、下型1および上型2とは独立した強固な構造とすることができ、成形反力F4が高い場合であってもロックを確実になすことができる。
【0076】
特に、ロック部材21の係合凸部24,25で、下型側凸部22および上型側凸部23を挟んでロックを行うので、ロックを確実になすことができる。
【0077】
また本実施形態では、上型支持部材9の下降時に押圧部材29でロック部材21を係合側(左右方向内側)に押圧することができる。よって上型支持部材9の下降を利用してロック部材21を係合側に移動し、ロックを行うことができる。
【0078】
本実施形態では、ロック部材21および押圧部材29に傾斜カム面30,31を設けたので、押圧部材29からの下向きの力を係合側(左右方向内側)に向かう力に円滑に変換してロック部材21に伝達することができる。
【0079】
本実施形態では、ロック部材21を離脱側に付勢するリターンスプリング32を設けたので、通常時はロック部材21を離脱位置に退避させることができ、ロック部材21が作業の邪魔になることを抑制できる。また、ロック解除時に押圧部材29が上昇したときロック部材21を自動的に退避させることができて便利である。
【0080】
次に、変形例を説明する。なお前記基本実施形態と同様の部分については図中同一符号を付して説明を割愛し、以下、基本実施形態との相違点を主に説明する。
【0081】
図14に示すように、本変形例では、ロック部材21と、ダイホルダ4およびパンチホルダ6との接触面ないし係合面がテーパ状となっている。
【0082】
詳細には、ダイホルダ4の下型側凸部22の下面37は、左右方向外側に向かうほど上昇する傾斜面とされている。これに接触するロック部材21の下型側係合凸部24の上面38も、同様の傾斜面とされている。
【0083】
他方、パンチホルダ6の上型側凸部23の上面39は、左右方向外側に向かうほど下降する傾斜面とされている。これに接触するロック部材21の上型側係合凸部25の下面40も、同様の傾斜面とされている。
【0084】
前記基本実施形態では
図6に示すように、下型側凸部22の下面37と上型側凸部23の上面39との間隔H1が左右方向に一定である。各面37,39が水平かつ平行だからである。また、ロック部材21の下型側係合凸部24の上面38と、上型側係合凸部25の下面40との間隔H2も一定である。各面38,40が水平かつ平行だからである。
【0085】
これだと、寸法バラツキ等により間隔H2が間隔H1より大きくなり過ぎたとき、下型1および上型2のロックが甘くなり、増肉加工時にこれらが僅かに離間する虞がある。
【0086】
一方、
図14に示す本変形例の場合だと、押圧部材29によりロック部材21を押圧することで、ロック部材21を各係合面同士が接触ないし密着するまで左右方向内側に移動させることができる。よって寸法バラツキ等の影響を受けることなく、下型1および上型2を確実にロックし、増肉加工時におけるこれらの離間を一層抑制することができる。
【0087】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態および変形例は他にも様々考えられる。
【0088】
(1)前記実施形態では、プレス加工工程から増肉加工工程に移行するとき、パンチ5を抑えパンチ35に交換した。しかしながら、このような交換を行わず、2台のプレス機械にパンチ5と抑えパンチ35をそれぞれ装備し、一方のプレス機械から他方のプレス機械にワークWを移動させてもよい。
【0089】
この場合、パンチ5を備えた一方のプレス機械でプレス加工を行った後、抑えパンチ35を備えた他方のプレス機械にワークWを移動し、他方のプレス機械で増肉加工を行う。
図2(C)に示したような最終形状のワークWを量産する場合、このように機械毎に工程分けした方が効率的である。ロック機構20は、少なくとも他方のプレス機械に装備すればよい。
【0090】
(2)ワークは、板状かつ断面U字状のものに限らず、任意の形状のものであってよい。例えば、板状かつ断面V字状、L字状またはS字状のものであってもよい。あるいは、板状でなくてもよく、こうしたワークの部分増肉等に本開示を適用できる。
【0091】
(3)プレス機械は、サーボプレス機により形成されてもよい。
【0092】
(4)前記実施形態では、
図7に示すように、ロック時に下型側凸部22と上型側凸部23を係合凸部24,25で上下から挟むようにした。しかしながら、ロック方法はこれに限らない。例えば、ロック部材21に上下一対の係合凹部を設け、ロック時に下型側凸部22と上型側凸部23をそれら係合凹部に挿入するようにしてもよい。
【0093】
(5)下型側係合部は、下型に設けられた凹部により形成されてもよい。同様に上型側係合部は、上型に設けられた凹部により形成されてもよい。
【0094】
(6)前記実施形態では、
図11に示したように、増肉前のワークWと上型(抑えパンチ35)との間にクリアランスLを設けた。しかしながら、クリアランスはワークと下型(ダイ3)の間に設けてもよいし、ワークと、下型および上型の両方との間に設けてもよい。
【0095】
(7)前記実施形態では、伸縮機構10の内圧を制御もしくは調整してプレス加工時(
図3)に伸縮機構10を収縮不可とし、ロック時(
図7)に伸縮機構10を収縮可能とした。しかしながら、これに限らず、例えばプレス加工時に伸縮機構10を機械的にロックして収縮不可とし、ロック時には伸縮機構10のロックを解除して伸縮機構10を収縮可能としてもよい。
【0096】
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
M プレス機械
1 下型
2 上型
9 上型支持部材
10 伸縮機構
20 ロック機構
21 ロック部材
22 下型側凸部
23 上型側凸部
24,25 係合凸部
29 押圧部材
30,31 傾斜カム面
32 リターンスプリング
36 増肉パンチ