(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109136
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】不死化間葉系細胞を含む細胞集団を製造する方法及び不死化間葉系細胞を含む細胞集団
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20220720BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20220720BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220720BHJP
C12N 15/34 20060101ALN20220720BHJP
C12N 15/37 20060101ALN20220720BHJP
C12N 15/35 20060101ALN20220720BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20220720BHJP
A61K 35/28 20150101ALN20220720BHJP
A61K 35/50 20150101ALN20220720BHJP
A61L 27/36 20060101ALN20220720BHJP
A61L 27/38 20060101ALN20220720BHJP
A61K 48/00 20060101ALN20220720BHJP
A61K 35/76 20150101ALN20220720BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/077
C12N15/12
C12N15/34
C12N15/37
C12N15/35
A61P43/00 107
A61K35/28
A61K35/50
A61L27/36 100
A61L27/38 300
A61K48/00
A61K35/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021004492
(22)【出願日】2021-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 真広
(72)【発明者】
【氏名】中石 智之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 尚巳
(72)【発明者】
【氏名】山崎 吉之
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB40
4B065BD39
4B065CA44
4C081AB11
4C081BA12
4C081BC01
4C081CD34
4C081EA02
4C081EA11
4C081EA13
4C084AA13
4C084NA20
4C084ZB221
4C087AA03
4C087BB44
4C087BB58
4C087BB64
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA20
4C087ZB22
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、本発明は、継代培養が可能な不死化間葉系細胞を含む細胞集団を安定的に製造する方法、及び不死化間葉系細胞を含む細胞集団を提供することである。
【解決手段】本発明は、a)間葉系細胞を含む細胞集団を調製する工程;b)a)の細胞集団を、血小板溶解物を含む培地を用いて培養する工程;及びc)b)の間葉系細胞を含む細胞集団を構成する細胞に、アデノウイルスのE1A領域及びE1B領域をそれぞれコードする遺伝子、SV40大型T抗原をコードする遺伝子、並びにBcl―xLタンパク質をコードする遺伝子を備えたプラスミドを導入する工程;を含む、不死化間葉系細胞を含む細胞集団を製造する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)間葉系細胞を含む細胞集団を調製する工程;
b)a)の細胞集団を、血小板溶解物を含む培地を用いて培養する工程;及び
c)b)の間葉系細胞を含む細胞集団を構成する細胞に、アデノウイルスのE1A領域及びE1B領域をそれぞれコードする遺伝子、SV40大型T抗原をコードする遺伝子、並びにBcl-xLタンパク質をコードする遺伝子を備えたプラスミドを導入する工程;を含む、
不死化間葉系細胞を含む細胞集団を製造する方法。
【請求項2】
前記工程a)で調製される細胞集団において、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上であり、かつ、TERT遺伝子を発現する細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程a)で調製される細胞集団において、CD326陽性を呈する間葉系細胞の比率が10%以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程a)で調製される細胞集団において、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD45陽性を呈する間葉系細胞の比率が10%以下であり、かつCD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記間葉系細胞が、胎児付属物に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞集団を無血清培地中で浮遊培養する工程をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法で製造された細胞集団を構成する細胞にアデノ随伴ウイルスを産生するための遺伝子を導入する工程を含む、アデノ随伴ウイルスを産生する細胞を含む細胞集団を製造する方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法で製造された、不死化間葉系細胞を含む細胞集団。
【請求項9】
不死化間葉系細胞を含む細胞集団であって、
前記細胞集団が、アデノウイルスのE1A領域、E1B領域、SV40大型T抗原及びBcl-xLタンパク質をコードする遺伝子のうち、少なくとも1つを含む細胞を含み、かつ、
TERT遺伝子を発現する細胞を含む、細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、生化学等の分野で利用することができ、かつ、安定的に継代培養が可能な不死化した間葉系細胞を含む細胞集団を製造する方法及び不死化間葉系細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
間質性細胞に含まれる間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell)は、骨髄、脂肪組織、歯髄、及び胎盤、臍帯、卵膜などの胎児付属物に存在する体性幹細胞として知られる。体性幹細胞は、特に再生医療への応用が進められており、近年、間葉系細胞などの細胞を患者に投与し、組織や臓器の再生や機能改善を促進する新たな治療法の実用化が急速に進んでいる。例えば、急性移植片対宿主病(GVHD)や脊髄損傷の患者を対象とした骨髄間葉系細胞製剤や、重症心不全の患者を対象とした骨格筋芽細胞シートが、再生医療等製品として国内で販売されている。
【0003】
間葉系細胞は、通常、培養基材に接着する性質を有しており、前記細胞製剤を製造する際は、細胞を培養基材に接着させて増殖培養する工程に加えて、培養基材に接着した細胞を剥離する工程を要する。上述した骨髄間葉系細胞も培養基材に接着する性質を有しており、細胞を培養基材に接着させた状態で増殖培養した後、細胞を培養基材から剥離する工程を経て、細胞懸濁液を回収する。前記細胞を培養基材から剥離する方法としては、例えば、トリプシンのようなタンパク質分解酵素や化学薬品を用いた化学的手段や、セルスクレーパーのような物理的に細胞を剥離する器具を用いた物理的手段が挙げられる。例えば、特許文献1は、トリプシンを培養基材に添加し、間葉系細胞を剥離させる方法を開示している。また、特許文献2には、温度によって細胞接着性が変化する温度応答性高分子を表面に被覆した培養基材を用い、温度変化によって培養基材から細胞を剥離する方法が開示されている。
【0004】
間葉系細胞は、通常、その細胞分裂の回数には制限がある。有用性の高い間葉系細胞、特に間葉系幹細胞を永久的に使用するために、骨髄間葉系細胞、羊膜間葉系細胞等の間葉系細胞を不死化する技術が知られる。非特許文献1には、骨髄幹細胞に、bmi-1、hTERT、並びにヒトパピローマウイルス(HPV)のE6及びE7をコードする塩基配列を有する遺伝子を導入することで、細胞の寿命が延長されたことが示されている。また、特許文献3には、羊膜細胞に、E1A領域及びE2B領域の遺伝子産物の発現を引き起こす少なくとも1つの核酸を導入することを含む、永久羊膜細胞株を生成する方法が開示されている。特許文献4には、初代ヒト羊膜細胞に、アデノウイルス遺伝子機能E1A及びE1Bをコードする塩基配列を含む核酸分子を導入する工程、続いてSV40大型T抗原又はエブスタイ-バーウイルス(EBV)核抗原1(EBNA-1)をコードする塩基配列を含む核酸分子を導入する工程を含む、永久ヒト羊膜細胞株の作製方法が開示されている。
【0005】
医薬用組成物等に使用される組換えポリペプチド又は組換えタンパク質の多くは、動物細胞、特に哺乳動物細胞、特にヒト由来の細胞を用いて産生される。哺乳動物、特にヒト由来の間葉系細胞を宿主とする組換えペプチド又は組換えタンパク質の産生についても研究が進められている。特許文献5には、A549、HER、HeLa、CHO等の動物細胞に、(a)動物細胞で作動可能なプロモーター、及び(b)アデノウイルスE1コーディング変形遺伝子配列を含む発現コンストラクトが導入された、アデノウイルス生産細胞株が開示されている。上記の動物細胞として、ヒト羊膜細胞を使用可能であることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5394932号公報
【特許文献2】国際公開公報2001/068799
【特許文献3】特表2003-514526
【特許文献4】特表2012-516690
【特許文献5】特表2015-500007
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mori, T. et al. Combination of hTERT and bmi-1, E6, or E7 induces prolongation of the life span of bone marrow stromal cells from an elderly donor without affecting their neurogenic potential, Mol. Cell Biol., 25: 5183-5195, (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3、4及び非特許文献1のように、不死化した、永久的に継代培養可能な間葉系細胞を取得する方法は知られている。しかし、本発明者らは、公知の方法で不死化遺伝子を導入した間葉系細胞が、必ずしも安定的に不死化細胞とはならないことを見出した。したがって、より安定的に不死化間葉系細胞を取得する方法が望まれる。
【0009】
本発明は、不死化間葉系細胞を含む細胞集団を安定的かつ効率的に製造する方法、及び不死化間葉系細胞を含む細胞集団を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、間葉系細胞を含む細胞集団を血小板溶解物を含む培地を用いて培養し、次いで、細胞集団を構成する細胞にアデノウイルスのE1A領域及びE1B領域をそれぞれコードする遺伝子、SV40大型T抗原をコードする遺伝子、並びにBcl-xLをコードする遺伝子を備えたプラスミドを導入することで、安定的に不死化間葉系細胞を含む細胞集団が得らえることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
【0011】
(1)a)間葉系細胞を含む細胞集団を調製する工程;
b)a)の細胞集団を、血小板溶解物を含む培地を用いて培養する工程;及び
c)b)の間葉系細胞を含む細胞集団を構成する細胞に、アデノウイルスのE1A領域及びE1B領域をそれぞれコードする遺伝子、SV40大型T抗原をコードする遺伝子、並びにBcl-xLタンパク質をコードする遺伝子を備えたプラスミドを導入する工程;を含む、
不死化間葉系細胞を含む細胞集団を製造する方法。
(2)前記工程a)で調製される細胞集団において、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、かつ、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上であり、かつ、TERT遺伝子を発現する細胞を含む、(1)の方法。
(3)前記工程a)で調製される細胞集団において、CD326陽性を呈する間葉系細胞の比率が10%以下である、(1)又は(2)の方法。
(4)前記工程a)で調製される細胞集団において、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD45陽性を呈する間葉系細胞の比率が10%以下であり、かつCD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、(1)~(3)のいずれかの方法。
(5)前記間葉系細胞が、胎児付属物に由来する、(1)~(4)のいずれかの方法。
(6)前記細胞集団を無血清培地中で浮遊培養する工程をさらに含む、(1)~(5)のいずれかの方法。
(7)(1)~(6)のいずれかの方法で製造された細胞集団を構成する細胞にアデノ随伴ウイルスを産生するための遺伝子を導入する工程を含む、アデノ随伴ウイルスを産生する細胞を含む細胞集団を製造する方法。
(8)(1)~(6)のいずれかの方法で製造された、不死化間葉系細胞を含む細胞集団。
(9)不死化間葉系細胞を含む細胞集団であって、前記細胞集団が、アデノウイルスのE1A領域、E1B領域、SV40大型T抗原及びBcl-xLタンパク質をコードする遺伝子のうち少なくとも1つを含む細胞を含み、かつ、TERT遺伝子を発現する細胞を含む、細胞集団。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、永久的に継代培養が可能な不死化間葉系細胞を含む細胞集団を、安定的かつ効率的に製造する方法、及び不死化間葉系細胞を含む細胞集団を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、形質転換されていない羊膜由来の間葉系細胞を含む細胞集団の顕微鏡写真(倍率40倍)である。形質転換されていない間葉系細胞の細胞形態は紡錘形であった。
【
図2】
図2は、不死化プラスミドで形質転換された、羊膜由来の間葉系細胞を含む細胞集団の顕微鏡写真(倍率40倍)である。形質転換された不死化羊膜間葉系細胞の細胞形態は敷石状であった。
【
図3】
図3は、形質転換されていない骨髄由来の間葉系細胞を含む細胞集団の顕微鏡写真(倍率40倍)である。形質転換されていない骨髄間葉系細胞の細胞形態は紡錘形であった。
【
図4】
図4は、不死化プラスミドで形質転換された、骨髄由来の間葉系細胞を含む細胞集団の顕微鏡写真(倍率40倍)である。形質転換された不死化骨髄間葉系細胞の細胞形態は敷石状に近くなった。
【
図5】
図5は、アデノ随伴ウイルス(AAV)産生遺伝子を導入した、不死化羊膜間葉系細胞(羊膜細胞)、不死化骨髄間葉系細胞(骨髄細胞)及びHEK293T細胞における、産生されたAAV2ゲノム濃度を比較するグラフである。いずれの細胞においてもAAV2が産生されることが確認された。
【
図6】
図6は、293 SFM IIで浮遊培養した、羊膜由来の不死化間葉系細胞を含む細胞集団の顕微鏡写真(倍率40倍)である。羊膜由来の不死化間葉系細胞を含む細胞集団は、単一細胞が分散した状態で浮遊培養されていた。
【
図7】
図7は、FreeStyleF17 Expression Mediumで浮遊培養した、HEK293T細胞の顕微鏡写真(倍率40倍)である。複数の細胞が凝集した状態で浮遊培養されていた。
【
図8】
図8は、FreeStyle293 Expression Mediumで浮遊培養した、HEK293T細胞の顕微鏡写真(倍率40倍)である。複数の細胞が凝集した状態で浮遊培養されていた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1]用語の説明
本明細書における「間葉系細胞」は「間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSC)」を含み、以下の定義を満たす細胞を指す。
【0015】
「間葉系細胞」としては、各種組織及び器官から採取することができる体性細胞(組織細胞)のうち、下記の定義を満たす細胞を使用することができる。前記体性細胞としては例えば、骨髄細胞、骨髄幹細胞、脂肪細胞、脂肪幹細胞、歯髄細胞、歯髄幹細胞、神経細胞、神経幹細胞、心筋細胞、心筋幹細胞、肝細胞、肝幹細胞、上皮細胞、上皮幹細胞、骨格筋細胞、骨格筋幹細胞、造血細胞、造血幹細胞、間葉系細胞、間葉系幹細胞、羊膜上皮由来の間葉系幹細胞、羊膜上皮由来の間葉系細胞、消化管上皮細胞、消化管上皮幹細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、滑膜細胞、滑膜幹細胞などが挙げられる。
【0016】
間葉系細胞の定義
i)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す。標準培地は、基礎培地(例:αMEM培地)に血清、血清代替試薬又は増殖因子(例:血清代替試薬であるヒト血小板溶解物)を添加した培地である。
ii)表面抗原のCD73、CD90が陽性であり、CD45、CD326が陰性である。
【0017】
前記「間葉系細胞」は、上記i)、ii)の定義を満たしていればよく、骨、軟骨、脂肪等への分化能の有無については特に限定されない。本明細書における「間葉系細胞」には、間葉系幹細胞のように、骨、軟骨及び脂肪への分化能を有している細胞も含まれる。また、前記「間葉系細胞」には、上記定義を満たしているものの、骨、軟骨、脂肪への分化能を有していない細胞も含まれる。また、前記「間葉系細胞」には、上記の定義を満たしているものの、骨、軟骨、脂肪のうち何れか1つ、又は2つにのみ分化する細胞も含まれる。
【0018】
本明細書において「不死化」間葉系細胞とは、当該細胞が生育可能な条件において、死滅することなく安定して分裂、増殖することが可能な細胞を指す。本明細書において、不死化間葉系細胞は、少なくとも60回以上、70回以上、80回以上、90回以上、100回以上、110回以上、120回以上、130回以上、140回以上、150回以上、160回以上、170回以上、180回以上、190回以上、200回以上の細胞分裂が可能である。
【0019】
本明細書において「胎児付属物」は、卵膜、胎盤、臍帯および羊水を指す。さらに「卵膜」は、胎児の羊水を含む胎嚢であり、内側から羊膜、絨毛膜および脱落膜からなる。このうち、羊膜と絨毛膜は胎児を起源とする。「羊膜」は、卵膜の最内層にある血管に乏しい透明薄膜で、内壁は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌する。羊膜の内層(上皮細胞層ともよばれる)は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌し、羊膜の外層(細胞外基質層ともよばれ、間質に相当する)は間葉系細胞を含む。
【0020】
本明細書における「間葉系細胞を含む細胞集団」は、その形態は特に限定されず、例えば、細胞ペレット、細胞凝集塊、細胞シート、細胞浮遊液、細胞懸濁液、これらの凍結物等が挙げられる。
【0021】
本明細書において、所定の表面抗原について「陽性を呈する間葉系細胞の比率」とは、後記する実施例に記載の通り、フローサイトメトリーによって解析した所定の表面抗原について陽性である細胞の比率を示す。本明細書において、所定の表面抗原について陽性を呈する細胞の比率は「陽性率」と記載されることがあり、また、所定の表面抗原について陰性を呈する細胞の比率は「陰性率」と記載されることがある。
【0022】
本明細書において「間葉系細胞」、「間葉系細胞を含む細胞集団」及び「胎児付属物」は、好ましくはヒトに由来するものである。
【0023】
本明細書において、アデノウイルスの「E1A」は、アデノウイルスの複製において、最初に発現するタンパク質であり、「E1B」はその次に発現するタンパク質である。アデノウイルスE1A及びE1Bは、動物細胞のがん抑制遺伝子Rb及びp53に結合して失活させることで、細胞をがん化させ、増殖可能とすることが知られる。E1Aタンパク質は、配列番号1~3のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するか、配列番号1~3のいずれかで表される配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する。また、E1Aタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号1~3のいずれかで表される、又は配列番号1~3のいずれかで表される配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する。E1Aタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、これらのタンパク質をコードする限り限定されないが、例えば、配列番号4で表される配列又は配列番号4の配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有する配列とすることができる。E1Bタンパク質は、配列番号5~8のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するか、配列番号5~8のいずれかで表される配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する。また、E1Bタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号5~8のいずれかで表される、又は配列番号5~8のいずれかで表される配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する。E1Bタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、これらのタンパク質をコードする限り限定されないが、例えば、配列番号9で表される配列又は配列番号9の配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有する配列とすることができる。
【0024】
本明細書において、「SV40(Simian Virus 40)」とは、ポリオーマウイルスに属するDNAウイルスであり、マウス等の細胞に感染して一部を癌化させることが知られる。「SV40大型T抗原」(以下、「LTAg」とも称する)は、アデノウイルスのE1A、E1Bタンパク質と同様に、癌抑制遺伝子であるRb及びp53に結合して失活させることが知られる。LTAgは、配列番号10で表されるアミノ酸配列を有するか、配列番号10で表される配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する。また、LTAgをコードする遺伝子は、配列番号10で表される、又は配列番号10で表される配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する。LTAgをコードする遺伝子の塩基配列は、これらのタンパク質をコードする限り限定されないが、例えば、配列番号11で表される配列又は配列番号11の配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有する配列とすることができる。
【0025】
本明細書において、「Bcl-xL」とは、Bcl2ファミリーに属する、アポトーシスを抑制するタンパク質であり、Bcl-xLをコードする遺伝子は癌遺伝子として知られる。Bcl-xLをコードする遺伝子は、いずれの動物由来であってもよいが、例えばニワトリ由来のものを好適に使用できる。Bcl-xLタンパク質は、配列番号12で表されるアミノ酸配列を有するか、配列番号12で表される配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する。また、Bcl-xLをコードする遺伝子は、配列番号12で表される、又は配列番号12で表される配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する。Bcl-xLをコードする遺伝子の塩基配列は、これらのタンパク質をコードする限り限定されないが、例えば、配列番号13で表される配列又は配列番号13の配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有する配列とすることができる。
【0026】
表面抗原の「CD324」は、分化クラスター324を意味し、上皮カドヘリン(E-cadherin)としても知られているタンパク質である。
【0027】
表面抗原の「CD90」は、分化クラスター90を意味し、Thy-1としても知られているタンパク質である。
【0028】
表面抗原の「CD326」は分化クラスター326を意味し、EpCAMとしても知られているタンパク質である。
【0029】
表面抗原の「CD73」は、分化クラスター73を意味し、5-Nucleotidase、或いはEcto-5’-nucleotidaseとしても知られているタンパク質である。
【0030】
表面抗原の「CD166」は、分化クラスター166を意味し、Activated leukocyte cell adhesion molecule(ALCAM)としても知られているタンパク質である。
【0031】
表面抗原の「CD105」は、分化クラスター105を意味し、Endoglinとしても知られているタンパク質である。
【0032】
表面抗原の「CD45」は、分化クラスター45を意味し、PTPRC(Protein tyrosine phosphatase,receptor type,C)、或いはLCA(Leukocyte common antigen)としても知られているタンパク質である。
【0033】
表面抗原の「CD34」は、分化クラスター34を意味し、Hematopoietic progenitor cell antigen CD34としても知られているタンパク質である。
【0034】
本明細書において、「テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)」は、テロメラーゼRNA構成要素(TERC)とともに複合体のテロメラーゼを構成するタンパク質である。テロメラーゼは、染色体末端に結合し、TERCを鋳型としてテロメアDNAの3’末端にテロメア繰り返し配列を付加する。テロメラーゼは、ヒトにおいて通常の体細胞ではほとんど発現しないが、胎児細胞、生殖細胞等では発現が見られる。テロメラーゼ活性を持たない細胞は、細胞分裂に伴いテロメアが短縮して細胞老化を起こすため、細胞分裂の回数に制限があるが、テロメラーゼ活性を有する細胞は、テロメラーゼ活性によりテロメア長が維持されるため、制限のない細胞増殖が可能である。本明細書において、細胞の不死化の指標として、TERT遺伝子の発現が使用される。
【0035】
[2]不死化間葉系細胞を含む細胞集団の製造方法
本発明の不死化間葉系細胞を含む細胞集団の製造方法は、
a)間葉系細胞を含む細胞集団を調製する工程;
b)a)の細胞集団を、血小板溶解物を含む培地を用いて培養する工程;及び
c)b)間葉系細胞を含む細胞集団を構成する細胞に、アデノウイルスのE1A及びE1Bをそれぞれコードする遺伝子、SV40大型T抗原をコードする遺伝子、並びにBcl-xLをコードする遺伝子を備えたプラスミドを導入する工程;を含む、方法である。
【0036】
[2-1]間葉系細胞を含む細胞集団を調製する工程
本発明の方法において、「間葉系細胞を含む細胞集団」とは、少なくとも間葉系細胞を含む細胞集団であれば特に限定されず、他の細胞を含む集団であってもよい。特に限定されないが、前記間葉系細胞を含む細胞集団における間葉系細胞の比率は、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上でもよい。
【0037】
また、前記間葉系細胞を含む細胞集団における他の細胞の比率は、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下でもよい。なお、前記他の細胞は、間葉系細胞以外であれば特に限定されないが、例えばリンパ球、顆粒球、赤血球などの血球系細胞を挙げることができる。
【0038】
本発明の方法に使用される間葉系細胞を含む細胞集団は、上記の定義i)及びii)を満たす細胞を含む細胞集団であれば、特に限定されないが、下記(a)及び(b)の特性を有するように調製された細胞集団とすることが好ましい。
(a)前記細胞集団においてCD324が陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、
(b)前記細胞集団において、CD90が陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である。
前記特性を備えることにより、間葉系細胞を含む細胞集団は、培養後に基材から自発的に剥離することができる。これにより、特許文献1又は2に記載の方法のような酵素や特殊な装置を用いることなく、培養後の細胞を効率よく取得することが可能となる。
【0039】
前記細胞集団において、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上でもよい。
【0040】
前記細胞集団において、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよく、100%でもよい。
【0041】
本発明の方法の一以上の実施態様において、前記細胞集団は、好ましくは、CD326陽性を呈する間葉系細胞の比率が10%以下である。
【0042】
前記細胞集団において、CD326陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは5%以下(陰性率95%以上)、4%以下(陰性率96%以上)、3%以下(陰性率97%以上)、2%以下(陰性率98%以上)、1%以下(陰性率99%以上)でもよく、0%(陰性率100%)でもよい。
【0043】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される間葉系細胞を含む細胞集団は、好ましくは、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上である、CD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、CD45陽性を呈する間葉系細胞の比率が10%以下である、CD34陽性を呈する間葉系細胞の比率が10%以下である、のうち1以上を満足する。
【0044】
前記細胞集団においてCD73陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよく、100%でもよい。
【0045】
前記細胞集団においてCD166陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよい。
【0046】
前記細胞集団においてCD105陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは74%以上、75%以上、80%以上、85%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上でもよい。
【0047】
前記細胞集団においてCD45陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは5%以下(陰性率95%以上)、4%以下(陰性率96%以上)、3%以下(陰性率97%以上)、2%以下(陰性率98%以上)、1%以下(陰性率99%以上)でもよく、0%(陰性率100%)でもよい。
【0048】
前記細胞集団においてCD34陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは5%以下(陰性率95%以上)、4%以下(陰性率96%以上)、3%以下(陰性率97%以上)、2%以下(陰性率98%以上)、1%以下(陰性率99%以上)でもよく、0%(陰性率100%)でもよい。
【0049】
ここで、CD324陽性、CD90陽性、CD326陽性、CD73陽性、CD166陽性、CD105陽性、CD45陽性及びCD34陽性を呈する間葉系細胞とは、それぞれ、CD324、CD90、CD326、CD73、CD166、CD105、CD45及びCD34の発現が陽性である間葉系細胞を意味する。
【0050】
本発明の方法の一以上の実施態様で使用される細胞集団について、指標とする発現マーカー(CD324、CD90、CD326、CD73、CD166、CD105、CD45又はCD34)は、当該技術分野において公知の任意の検出方法により検出することができる。発現マーカーを検出する方法としては、例えばフローサイトメトリー又は細胞染色が挙げられるが、これらに限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色するか若しくは蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。なお、本明細書において、発現マーカーと表面抗原は同義であり、両者は置き換えて使うことができる。
【0051】
本発明の方法の一以上の実施態様に使用される細胞集団は、分化能の有無は特に限定されないが、好ましくは、軟骨組織への分化能を有し、且つ、脂肪組織への分化能が低い又は有さず、好ましくは更に、骨組織への分化能が低い又は有さないものである。
【0052】
本発明の方法の一以上の実施態様に使用される細胞集団は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。上記の細胞集団は、間葉系細胞以外に、任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0053】
本発明の方法で使用される間葉系細胞を含む細胞集団は、市販の間葉系幹細胞(例えば、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC間葉系幹細胞、Lonza社製)など)を培養して調製してもよい。あるいは、骨髄穿刺にて採取した骨髄液、羊膜などの胎児付属物等より、間葉系細胞を含む細胞集団を取得する細胞集団取得工程を更に含んでもよい。
【0054】
本発明の間葉系細胞を含む細胞集団を製造するための原料は、前記の骨髄液や胎児付属物とすることができるが、これに限定されない。前記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を得るために、胎児付属物を使用することが好ましい。以下、胎児付属物を原料とする間葉系細胞を含む細胞集団を調製する態様について、例示的に説明する。
【0055】
羊膜は、上皮細胞層と細胞外基質層からなり、後者には羊膜MSCが含まれている。上記の細胞集団取得工程は、羊膜を帝王切開により得る工程を更に含む工程でもよい。
【0056】
胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団は、好ましくは、胎児付属物から採取した、上皮細胞層と間葉細胞層とを含む試料を少なくともコラゲナーゼで処理して得た細胞集団である。
【0057】
胎児付属物から採取した試料(好ましくは上皮細胞層と間葉系細胞層とを含む試料)の酵素処理は、好ましくは、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる間葉系細胞を遊離することができ、かつ上皮細胞層を分解しない酵素(又はその組み合わせ)による処理である。かかる酵素としては、特に限定されないが、例えば、コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼを挙げることができる。金属プロテイナーゼとしては、非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるサーモリシン及び/又はディスパーゼを挙げることができるが、特に限定されない。
【0058】
コラゲナーゼの活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上である。また、コラゲナーゼの活性濃度は、特に限定されないが、例えば、1000PU/ml以下、900PU/ml以下、800PU/ml以下、700PU/ml以下、600PU/ml以下、500PU/ml以下である。ここで、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、FITC-collagen 1ugを1分間で分解する酵素量と定義する。
【0059】
金属プロテイナーゼ(例えば、サーモリシン及び/又はディスパーゼ)の活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは150PU/ml以上、さらに好ましくは190PU/ml以上である。また、金属プロテイナーゼの活性濃度は、好ましくは1000PU/ml以下、より好ましくは900PU/ml以下、さらに好ましくは800PU/ml以下、さらに好ましくは700PU/ml以下、さらに好ましくは600PU/ml以下、さらに好ましくは500PU/ml以下、さらに好ましくは300PU/ml以下である。ここで、金属プロテイナーゼとしてディスパーゼを用いた態様において、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、乳酸カゼインから1分間に1ugのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量と定義される。上記の酵素濃度の範囲において、胎児付属物の上皮細胞層に含まれる上皮細胞の混入を防止しながら、細胞外基質層に含まれる間葉系細胞を効率よく遊離させることができる。コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼの好ましい濃度の組み合わせは、酵素処理後の胎児付属物の顕微鏡観察や、取得した細胞のフローサイトメトリーにより決定することができる。
【0060】
生細胞を効率的に回収する観点から、コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを組み合わせて胎児付属物を処理することが好ましい。さらに好ましくは、前記組み合わせによって胎児付属物を同時一括に処理する。この場合の金属プロテイナーゼとしては、サーモリシン及び/又はディスパーゼを使用することができるが、これらに限定されない。コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを含有する酵素液を用いて胎児付属物を一回のみ処理することにより、間葉系細胞を簡便に取得することができる。また、同時一括に処理することにより、細菌やウイルス等のコンタミネーションのリスクを低減することができる。
【0061】
胎児付属物の酵素処理は、生理食塩水やハンクス平衡塩溶液等の洗浄液を用いて洗浄した羊膜を酵素液に浸漬し、撹拌手段によって撹拌しながら処理することが好ましい。かかる撹拌手段としては、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる間葉系細胞を効率よく遊離させる観点から、例えば、スターラー又はシェーカーを使用することができるが、これらに限定されない。撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、5rpm以上、10rpm以上、20rpm以上、30rpm以上、40rpm以上又は50rpm以上である。また、撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、100rpm以下、90rpm以下、80rpm以下、70rpm以下又は60rpm以下である。酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、50分以上、60分以上、70分以上、80分以上又は90分以上である。また、酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、110分以下、100分以下である。酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、15℃以上、16℃以上、17℃以上、18℃以上、19℃以上、20℃以上、21℃以上、22℃以上、23℃以上、24℃以上、25℃以上、26℃以上、27℃以上、28℃以上、29℃以上、30℃以上、31℃以上、32℃以上、33℃以上、34℃以上、35℃以上又は36℃以上である。また、酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以下、39℃以下、38℃以下又は37℃以下である。
【0062】
所望により、遊離した間葉系細胞を含む酵素溶液からフィルター、遠心分離や中空糸分離膜、セルソーター等の公知の手段により遊離した間葉系細胞を分離及び/又は回収することができる。好ましくは、フィルターによって遊離した間葉系細胞を含む酵素溶液を濾過する。前記酵素溶液をフィルターによって濾過する態様においては、遊離した細胞のみがフィルターを通過し、分解されなかった上皮細胞層はフィルターを通過できずにフィルター上に残るため、遊離した間葉系細胞を容易に分離及び/又は回収することができるだけでなく、細菌やウイルス等のコンタミネーションのリスクも低減することができる。フィルターとしては、特に限定されないが、例えば、メッシュフィルターを挙げることができる。メッシュフィルターのポアサイズ(メッシュの大きさ)は、特に限定されないが、例えば、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、又は90μm以上である。また、メッシュフィルターのポアサイズは、特に限定されないが、例えば、200μm以下、190μm以下、180μm以下、170μm以下、160μm以下、150μm以下、140μm以下、130μm以下、120μm以下、110μm以下、又は100μm以下である。濾過速度に関しては特に限定されないが、メッシュフィルターのポアサイズを上記の範囲とすることにより、間葉系細胞を含む酵素溶液を自然落下により濾過することができ、これにより細胞生存率の低下を防止することができる。
【0063】
メッシュフィルターの材質としては、ナイロンが好ましく用いられる。研究用として汎用されるFalconセルストレーナーなどの40μm、70μm、95μm又は100μmのナイロンメッシュフィルターを含有するチューブが利用可能である。また、血液透析などで使用されている医療用メッシュクロス(ナイロン及びポリエステル)が利用できる。さらに、体外循環時に使用される動脈フィルター(ポリエステルメッシュフィルター、ポアサイズ:40μm以上120μm以下)も利用可能である。他の材質、例えば、ステンレスメッシュフィルター等も用いることが可能である。
【0064】
間葉系細胞をフィルター通過させる場合、自然落下(自由落下)が好ましい。ポンプ等を用いた吸引など強制的なフィルター通過も可能であるが、細胞に損傷を与えることを避けるため、できるだけ弱い圧力とすることが望ましい。
【0065】
フィルターを通した間葉系細胞を含む細胞集団は、倍量又はそれ以上の培地又は平衡塩緩衝液で濾液を希釈した後、遠心分離により回収することができる。平衡塩緩衝液としては、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0066】
[2-2]間葉系細胞を含む細胞集団を血小板溶解物を含む培地を用いて培養する工程
本発明の方法は、[2-1]の項に示す方法で調製された間葉系細胞を含む細胞集団を、血小板溶解物を含む培地を用いて培養する工程を含む。
【0067】
本発明者らは、間葉系細胞を含む細胞集団を不死化して継代培養を行うにあたり、不死化工程の前の細胞集団の培養条件が、その後の継代培養の安定性に影響を与えることを見出した。
【0068】
本発明の方法における「血小板溶解物(PL:Platelet Lysate)」は、好ましくは哺乳動物(例えば、ウシ)の血小板溶解物であり、より好ましくはヒト血小板溶解物(hPL)である。hPLは、成長因子及び各種サイトカインが含まれ、特に間質系幹細胞の成育に適する成分であることが知られている。本発明の方法は、間葉系細胞を含む細胞集団の培養を、PL(特にhPL)を添加した培地(以下、単に「PL培地」又は「hPL培地」とも称する)で行うことで、例えば、ウシ胎児血清(FBS)等の他成分を添加した培地と比較して、後段の不死化工程後の細胞の継代培養時の生存率を顕著に高めることできる。これにより、安定的に不死化間葉系細胞を含む細胞集団を得ることが可能となる。
【0069】
細胞集団を培養する工程における細胞の播種密度は、特に限定されないが例えば、例えば500~10,000細胞/cm2の密度で播種することができる。前記播種密度の下限としては、例えば500細胞/cm2以上、1,000細胞/cm2以上、2,000細胞/cm2以上、3,000細胞/cm2以上、4,000細胞/cm2以上、5,000細胞/cm2以上が好ましい。また、前記播種密度の上限としては、例えば10,000細胞/cm2以下、9,000細胞/cm2以下、8,000細胞/cm2以下、7,000細胞/cm2以下が好ましい。
【0070】
なお、上記培養する工程は、継代工程を含んでもよい。上記の1回の培養の培養期間としては、例えば4~10日間を挙げることができ、より具体的には、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間又は10日間を挙げることができる。
【0071】
上記の培養に用いる培地は、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、これにPL、好ましくはhPLを添加して調製される。hPLの培地中の濃度の下限としては例えば、終濃度として1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上を挙げることができる。また、hPLの培地中の濃度の上限としては例えば、20重量%以下、10重量%以下、7重量%以下が好ましい。
【0072】
基礎培地には、さらに、必要に応じて他の成分(血清、増殖因子など)を適宜添加してもよい。なお、前記基礎培地に増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなど)を、増殖因子に加えて、さらに添加することにより調製してもよいし、増殖因子をあらかじめゲルや多糖類などで安定化しておき、その後、安定化した増殖因子を前記基礎培地に対して添加することで調製してもよい。このように、間葉系細胞を含む細胞集団を培養するために、基礎培地にPL、好ましくはhPLを添加した培地を、標準培地と定義する。
【0073】
基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。好ましい基礎培地としてはαMEM培地が例示できる。
【0074】
基礎培地に添加し得る他の成分としては例えば、アルブミン、ウシ血清、又は増殖因子などが挙げられる。なかでも、アルブミン、ウシ血清及び増殖因子を含まない基礎培地中で培養を行うことが好ましい。
【0075】
間葉系細胞を含む細胞集団の培養は、例えば、以下のような工程にて行うことができる。まず、細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。次に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いて培養する。上記のような培養により取得した細胞は、1回培養した細胞である。
【0076】
上記の1回培養した細胞は、例えば、以下のようにさらに継代し、培養することができる。まず、1回目の培養でコンフルエント率95%以下となるまで培養した細胞を、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて処理した後にトリプシンにて処理してプラスチック製培養容器から剥離させる。次に、得られた細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。最後に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上、5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いて培養する。上記のような継代及び培養により取得した細胞は、1回継代した細胞である。同様の継代及び培養を行うことにより、n回継代した細胞を取得することができる(nは1以上の整数を示す)。継代培養を行う場合は、細胞をコンフルエント率95%以下となるまで培養し、上記の手順で細胞を剥離して回収し、次代の培養に用いることができる。継代回数nの下限は、細胞を大量に製造する観点から、例えば、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上である。また、継代回数nの上限は、細胞の老化を抑える観点から、例えば、50回以下、45回以下、40回以下、35回以下、30回以下であることが好ましい。
【0077】
[2-3]細胞集団を選別する工程
本発明の方法は、必要に応じて、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程を含んでもよい。
(a)CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、
(b)CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である。
【0078】
前記特性を指標として細胞集団を選別する手段は、例えばFACS、セルソーター、磁気ビーズによる分取などの物理的な手段や、適切な培養条件によって指標を満たさない細胞を淘汰し、上記指標を満たすように間葉系細胞を含む細胞集団を純化させる化学的な手段を挙げることができるが、その手段は特に限定されず、培養条件等に応じて適宜選択すればよい。なお、選別工程においても、培養は、血小板溶解物を含む培地で実施することが好ましい。
【0079】
上記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別するタイミングは、特に限定されないが、例えば、培養前、培養の途中、培養後、細胞集団の回収前、細胞集団の回収後、細胞の凍結保存ストック作成前、細胞の凍結保存ストックを解凍した後、等を挙げることができる。
【0080】
上記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する手順について、さらに詳細に説明する。
例えば、間葉系細胞を含む細胞集団を培養基材に播種し、培養基材上で増殖培養することにより、CD324陽性、CD90陽性を呈する間葉系細胞がポジティブセレクションされ、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上となった細胞集団を剥離・回収する手段が挙げられる。このとき、抗CD324抗体や抗CD90抗体によりコーティングした培養基材を用いて培養しても良い。間葉系細胞を含む細胞集団から、CD324陽性を呈し且つCD90陽性を呈する間葉系細胞を培養により選別するタイミングは特に限定されず、任意の継代培養において選別することができるが、初代培養において間葉系細胞を含む細胞集団から、CD324陽性を呈し且つCD90陽性を呈する間葉系細胞を選別することが好ましい。
【0081】
また、フローサイトメトリーや磁気ビーズを用いた細胞分離法により、間葉系細胞を含む細胞集団から、CD324陽性を呈し且つCD90陽性を呈する間葉系細胞を選別することもできる。
【0082】
細胞集団の選別は更に、CD326陽性を呈する間葉系細胞の比率が10%以下である細胞集団を選別して分取することが好ましく、更に、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上である、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上である、CD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、CD45陽性を呈する間葉系細胞の比率が10%以下である、CD34陽性を呈する間葉系細胞の比率が10%以下である、のうち1以上を満足する細胞集団を選別して分取することが好ましい。選別した細胞集団を、更に上記の手段で培養してもよい。
【0083】
[2-4]間葉系細胞を含む細胞集団を構成する細胞に不死化プラスミドを導入する工程
本発明の方法は、アデノウイルスのE1A及びE1Bをそれぞれコードする遺伝子、LTAgをコードする遺伝子、並びにBcl-xLをコードする遺伝子を備えたプラスミド(以下、「不死化プラスミド」とも称する)を、間葉系細胞を含む細胞集団を構成する細胞に導入する工程を含む。本発明の方法で使用するプラスミドは、1つのプラスミドがE1A、E1B、LTAg及びBcl-xLをコードする遺伝子をすべて備えてもよく、また、E1A、E1B、LTAg及びBcl-xLをコードする遺伝子を2種以上のプラスミドが分けて備えていてもよい。好ましくは、1つのプラスミドがE1A、E1B、LTAg及びBcl-xLをコードする遺伝子をすべて備える。
【0084】
本発明の方法で使用する不死化プラスミドは、E1A、E1B、LTAg及びBcl-xLをコードする遺伝子に加えて、CMVプロモーター、CAGプロモーター、RSVプロモーター等のプロモーター、SV40ポリA、IRES(internal ribosome entry site)、及び/又はネオマイシン等の耐性遺伝子の塩基配列を有する核酸を備えていてもよい。
【0085】
CMVプロモーターの塩基配列は、プロモーター活性を有する塩基配列であれば特に限定されないが、例えば、配列番号14で表される配列又は配列番号14の配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有する配列とすることができる。
【0086】
SV40ポリAの塩基配列は、SV40を構成するポリAの塩基配列であれば特に限定されないが、例えば、配列番号15で表される配列又は配列番号15の配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有する配列とすることができる。
【0087】
IRES配列は、翻訳開始サイトとしての機能を有すれば特に限定されないが、例えば、配列番号16で表される配列又は配列番号16の配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有する配列とすることができる。
【0088】
ネオマイシン耐性遺伝子(NeoR)の塩基配列は、遺伝子産物がネオマイシン耐性活性を有するものであれ特に限定されないが、例えば、配列番号17で表される配列又は配列番号17の配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の同一性を有する配列とすることができる。
【0089】
前記プラスミドを、前記間葉系細胞を含む細胞集団を構成する細胞に導入する手段は、特に限定されず、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、およびこれらの手段の組み合わせをいずれも使用できる。あるいは、市販のキット(例えば、Nucleofector(登録商標)2/2b(Lonza社))を用いて実施してもよい。
【0090】
本発明の方法は、必要に応じて、前記細胞集団を構成する細胞に、目的の遺伝子がトランスフェクトされたか確認する工程を備えていてもよい。具体的には、例えば、細胞集団からゲノムを抽出し、抽出したゲノムをテンプレートとしてトランスフェクトした遺伝子のPCRを行う方法が挙げられる。例えば、ゲノムをテンプレートとして、アデノウイルスのE1領域を増幅するように設計されたプライマー(例えば、配列番号18、19の塩基配列を有する)を用いて、PCRにおける核酸増幅の有無を観察することで、導入の確認が可能である。
【0091】
また、本発明の方法は、必要に応じて、前記細胞集団が不死化間葉系細胞を含むかを確認する工程を備えていてもよい。不死化は、細胞集団におけるテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)遺伝子の発現量を測定することで確認することができる。具体的には、例えば、細胞集団からtotal RNAを抽出し、逆転写酵素によりcDNAを調製する。cDNAをテンプレートとして、TERT遺伝子を増幅・検出するように設計されたプライマー及びプローブ(例えば、Thermo Fisher Scientific社のTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays、No:Hs00972650_m1)を用いて、リアルタイムPCRにおける核酸増幅速度を測定することで、TERT遺伝子の発現量を測定することができる。本発明の方法において、TERT遺伝子は、好ましくはヒトTERT(hTERT)遺伝子である。
【0092】
[2-5]細胞集団を浮遊培養する工程
本発明の方法は、不死化間葉系細胞を含む細胞集団を浮遊培養する工程を含んでいてもよい。浮遊培養を行う対象となる細胞集団は、上記[2-4]の項で調製した不死化間葉系細胞を含む細胞集団でもよく、また、後述の[2-6]の項でウイルス産生遺伝子を導入した不死化間葉系細胞を含む細胞集団であってもよい。
【0093】
間葉系細胞は、通常は接着培養で培養されるが、一部の実施態様において、本発明の方法で製造された不死化間葉系細胞を含む細胞集団は、無血清培地中で浮遊培養することが可能である。無血清培地としては、動物細胞の浮遊培養に適した、血清成分及び血清代替成分を含まない既存の液体培地を使用できる。特にヒト細胞の浮遊培養に適した培地を好適に使用できる。このような無血清培地としては、特に限定されないが、例えば、CD 293 Medium、CD 293 AGT(商標) Medium、293 SFM II及びFreeStyle(商標) 293 Expression Medium、CD CHO Medium、CD CHO AGT(商標) Medium、CD OptiCHO(商標) Medium、CHO-S-SFM II(いずれもThermo Fisher Scientific社)、Pro293(商標)a Serum―free Medium、Pro293(商標)s Serum-free Medium、ProCHO(商標) 4 Protein-free CHO Medium、ProCHO(商標) 4 Protein-free CHO Medium、ProCHO(商標) 5 Protein-free CHO Medium、PowerCHO(商標) 1 Serum-free Medium、PowerCHO(商標) 2 Serum-free MediumPowerCHO(商標) 3 Serum-free MediumPowerCHO(商標) GS Serum-free CHO MediumPowerCHO Advance(商標) Serum-free Medium(いずれもLonza社)、CDM4HEK293、SFM4HEK293、SFM4Transfx-293、HyCell TransFx-H、CDM4PERMAb、HyCell CHO、ActiPro、ActiSM(いずれもCytiva社)が挙げられる。特に、293 SFM IIを好適に使用できる。
【0094】
本発明の方法で製造された不死化間葉系細胞を含む細胞集団は、上記の通り、浮遊培養が可能であるため、接着培養のように培養基材を必要とせず、よって、培養基材からの細胞の剥離も必要としない。そのため、継代培養をより簡便に行うことが可能である。また、接着培養と比較して、より効率的な細胞増殖が可能である。
【0095】
[2-6]アデノ随伴ウイルス産生遺伝子を導入する工程
上記の方法で製造された不死化間葉系細胞を含む細胞集団について、これを構成する細胞にアデノ随伴ウイルスを産生するための遺伝子を導入して、アデノ随伴ウイルスを産生する細胞を含む細胞集団を製造することができる。
【0096】
上記の方法で製造される細胞集団は、不死化細胞を含むことから、AAV産生遺伝子を導入し、AAVを産生させることが可能となった。
【0097】
AAVは、パルボウイルスに属する非病原性のウイルスであり、自己複製能を欠くため、自律的増殖が出来ず、通常は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス等のヘルパーウイルスの共感染を必要とする。感染性及び免疫原性が低いことから、安全性が高く、かつ、宿主域が広いウイルスである。このような特徴から、AAVは遺伝子導入のベクターとして、遺伝子治療等への幅広い応用が期待されるウイルスである。
【0098】
AAVのゲノムは、約4.7kbの一本鎖DNAで、両端にITR(Inverted Terminal Repeat)と呼ばれるT字型のヘアピン構造が存在し、間にRep(複製、転写に関連)、Cap(外殻タンパク質をコード)及びAAP(ウイルス粒子形成)の3つのORFが存在する。AAVには複数の血清型が存在する。ヒト細胞から発見された血清型としては、AAV2、AAV3、AAV5及びAAV6が知られる。
【0099】
AAVを産生するための遺伝子は、不死化間葉系細胞に導入することでAAVが産生されるものであれば特に限定されないが、例えば、以下の3つのプラスミドベクターで構成されてもよい。
・pAAVベクター:目的遺伝子の発現カセットと2つのITRを含むベクタープラスミド
・pRCベクター:AAV2のRep遺伝子と各血清型のCap遺伝子を含むプラスミド
・pHelperベクター:アデノウイルス由来のE2A、E4、VAを含むプラスミド
【0100】
AAVを産生するための遺伝子として上記のプラスミドベクターを使用する態様において、プラスミドベクターを細胞に導入する手段は、既知の手段のいずれを使用してもよい。例えば、ポリエチレンイミン(PEI)トランスフェクション法を用いて、プラスミドを目的とする細胞に導入してもよい。PEI法の詳細な条件は、例えば、Y.Durocher,et al.,Nuc.Acid.Res.,Vol.30,No.2,e9(2002)等の記載を参照して決定してもよい。
【0101】
[2-7]細胞集団を凍結保存する工程
また、本発明の方法は、間葉系細胞を含む細胞集団を凍結保存する工程を含むことができる。凍結保存の対象となる細胞集団は、培養前、培養後、不死化後、浮遊培養後、及びウイルス産生遺伝子の導入後のいずれの細胞集団であってもよい。細胞集団を凍結保存する工程を含む態様においては、前記細胞集団を解凍後、必要に応じて前記細胞集団を分離、回収及び/又は培養してもよい。また、前記細胞集団を解凍後、そのまま使用してもよい。
【0102】
前記間葉系細胞を含む細胞集団を凍結保存するための手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、ディープフリーザー、液体窒素への浸漬などが挙げられる。凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-70℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-110℃以下、-120℃以下、-130℃以下、-140℃以下、-150℃以下、-160℃以下、-170℃以下、-180℃以下、-190℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、-1℃/分、-2℃/分、-3℃/分、-4℃/分、-5℃/分、-6℃/分、-7℃/分、-8℃/分、-9℃/分、-10℃/分、-11℃/分、-12℃/分、-13℃/分、-14℃/分又は-15℃/分である。かかる凍結手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、例えば、-2℃/分以上-1℃/分以下の凍結速度で-50℃以上-30℃以下の間の温度(例えば、-40℃)まで温度を下げ、さらに-11℃/分以上-9℃/分以下(例えば、-10℃/分)の凍結速度で-100℃以上-80℃以下の温度(例えば、-90℃)まで温度を下げることができる。
【0103】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。かかる保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
凍結用保存液は、相対的に増殖能が高いMSCの生存率を高める観点から、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有することが好ましい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上又は8質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下又は9質量%以下である。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これに限定されない。
【0105】
[3]間葉系細胞を含む細胞集団
本発明の細胞集団は、「[2]不死化間葉系細胞を含む細胞集団の製造方法」の項に記載した方法で製造された、不死化間葉系細胞を含む細胞集団である。あるいは、本発明の細胞集団は、アデノウイルスのE1A、E1B、SV40大型T抗原及びBcl-xLをコードする遺伝子のうち、少なくとも1つを含む細胞を含み、かつ、TERT遺伝子を発現する細胞を含む、不死化間葉系細胞を含む細胞集団である。
【0106】
本発明の細胞集団は、以下に特に記載がない限り、「[2]不死化間葉系細胞を含む細胞集団の製造方法」の項に記載した細胞集団と共通の特徴を有する。
【0107】
本発明の細胞集団において、「アデノウイルスのE1A、E1B、SV40大型T抗原及びBcl-xLをコードする遺伝子のうち、少なくとも1つを含む細胞」とは、具体的には、ゲノムDNAに、アデノウイルスのE1A、E1B、SV40大型T抗原又はBcl-xLをコードする遺伝子が既存の方法で検出可能なレベルで存在している細胞を示す。本発明の細胞集団において、アデノウイルスのE1A、E1B、SV40大型T抗原及びBcl-xLをコードする遺伝子のうち、少なくとも1つを含む細胞の比率は、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよく、100%以上でもよい。
【0108】
本発明の細胞集団において、「TERT遺伝子を発現する細胞」とは、具体的には、TERTをコードする塩基配列を有するmRNAが、定量リアルタイムPCR等の既存のいずれかの方法で検出可能なレベルで存在している細胞を示す。本発明の細胞集団において、TERT遺伝子を発現する細胞の比率は、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよく、100%以上でもよい。
【実施例0109】
<比較例1:羊膜由来の間葉系細胞の不死化(FBS培地培養系)>
(工程1-1:羊膜の採取)
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦(ドナー♯1)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。得られた卵膜及び胎盤を生理食塩水が入った滅菌バットに収容し、卵膜の断端から羊膜を用手的に剥離した。羊膜をハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg不含有)にて洗浄し、付着した血液及び血餅を除去した。
【0110】
(工程1-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収)
上皮細胞層と間葉系細胞層とを含む羊膜を240PU/mLコラゲナーゼ及び200PU/mLディスパーゼIを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、間葉系細胞を含む細胞懸濁液を回収した。
【0111】
(工程1-3:間葉系細胞の培養)
上述の「工程1-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収」で得られた、間葉系細胞を含む細胞集団を培養容器のCellSTACK(登録商標)(コーニング社製)に播種した。播種密度は、6,000cells/cm2の密度で播種した。細胞播種後は、終濃度が10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は0継代目の細胞集団である。その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は1継代目の細胞集団である。
【0112】
その後、細胞濃度が2×107cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約15,000~18,000cells/cm2の密度において、前記1継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は2継代目の細胞集団である。
【0113】
その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は3継代目の細胞集団である。前記細胞集団について、細胞濃度が4×106cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約6,000cells/cm2の密度において前記3継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は4継代目の細胞集団である。
【0114】
その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は5継代目の細胞集団である。その後、細胞濃度が4×106cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
【0115】
(工程1-4:間葉系細胞の表面抗原解析)
上記の培養方法で培養した5継代目の細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD324の陽性率、CD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD324の陽性率は70%未満(具体的には33%)、CD105の陽性率は70%以上(具体的には93%)、CD73、CD90、CD166の陽性率はいずれも90%以上であった(具体的にはCD73:99%、CD90:93%、CD166:97%)。CD45、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的にはCD45:100%、CD326:100%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した細胞集団は、間葉系細胞を含む細胞集団であることが分かった。また、比較例1の5継代目の細胞集団は、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上という条件は満たすものの、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であるという条件は満たさない細胞集団であることが分かった。
【0116】
なお、本測定では、アイソタイプコントロール用抗体として、REA Control(S)APC(Miltenyi Biotec社、クローン:REA293、型番:130-113-434)を使用し、CD324抗原に対する抗体として、CD324-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA811、型番:130-111-840)を、CD73抗原に対する抗体として、CD73-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA804、型番:130-111-909)を、CD90抗原に対する抗体として、CD90-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA897、型番:130-114-861)を、CD105抗原に対する抗体として、CD105-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA794、型番:130-112-166)を、CD166抗原に対する抗体として、CD166-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA442、型番:130-106-576)を、CD45抗原に対する抗体として、CD45-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA747、型番:130-110-633)を、CD326抗原に対する抗体として、CD326-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA764、型番:130-111-000)を使用した。表面抗原解析は、メルク社のGuava(登録商標) easyCyteを用い、測定条件は解析細胞数:30,000cells、流速設定:35.4μL/min)とした。また、各抗原に対する陽性細胞の比率(陽性率)は、以下の手順で算出した。
【0117】
(1)アイソタイプコントロールの測定結果を、縦軸にSSC、横軸にFSCとしたドットプロットで展開した。
(2)間葉系細胞に該当する細胞集団のゲートを設定し、その細胞集団に対して、縦軸にカウント数、横軸をAPCの傾向強度としたヒストグラムで展開した。
(3)(2)のヒストグラムにおいて、アイソタイプコントロール用抗体で測定した総細胞のうち、より蛍光強度が強い細胞集団が0.5%以下となる全ての領域(ゲート)を選択した。
(4)表面抗原マーカーに対応する抗体で測定した総細胞のうち、(2)で選択したゲート内に含まれる細胞の割合を算出した。
【0118】
(工程1-5:間葉系細胞の不死化)
比較例1に準ずる培養方法に従って分離・培養した細胞集団に対し、Nucleofector(登録商標)2/2b(Lonza社)を用いて、2.5μgの不死化プラスミド(E1A遺伝子(配列番号4)、E1B遺伝子(配列番号9)、ニワトリBcl-xL遺伝子(配列番号13)、SV40大型T抗原遺伝子(配列番号11)、ネオマイシン耐性遺伝子(配列番号17)を含む)を形質移入した(細胞懸濁液バッファー:Nucleofector(登録商標)Solution L、プログラム:X-001)。形質移入後の細胞を6ウェルシャーレに播種し、5%hPLを含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで培養した。サブコンフルエントに達した後、20μg/mL G418及び5%hPLを含むαMEMにて継代培養した。その結果、全ての細胞が死滅し、形質転換された羊膜由来の間葉系細胞は取得できなかった。
【0119】
<実施例1:羊膜由来の間葉系細胞の不死化(hPL培地培養系)>
(工程2-1:羊膜の採取)
比較例1と同じドナー(ドナー♯1)から、比較例1と同様の手法にて羊膜を取得した。
【0120】
(工程2-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収)
比較例1と同じ手法にて間葉系細胞を含む細胞集団を取得した。
【0121】
(工程2-3:間葉系細胞の培養)
上述の「工程2-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収」で得られた、間葉系細胞を含む細胞集団を培養容器のCellSTACK(登録商標)(コーニング社製)に播種した。播種密度は、6,000cells/cm2の密度とした。細胞播種後は、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は0継代目の細胞集団である。その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が5%のhPLを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は1継代目の細胞集団である。
【0122】
その後、細胞濃度が2×107cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約15,000~18,000cells/cm2の密度において、前記1継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は2継代目の細胞集団である。
【0123】
次いで、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が5%のhPLを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は3継代目の細胞集団である。
【0124】
その後、細胞濃度が4×106cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(登録商標)(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約6,000cells/cm2の密度において、前記3継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は4継代目の細胞集団である。
【0125】
次いで、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が5%のhPLを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は5継代目の細胞集団である。前記細胞集団について、細胞濃度が4×106cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
【0126】
(工程2-4:間葉系細胞の表面抗原解析)
上記の培養方法で培養した5継代目の間葉系細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD324の陽性率、MSCマーカーと知られているCD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD324、CD105の陽性率は70%以上(具体的にはCD324:91%、CD105:95%)、CD73、CD90、CD166の陽性率はいずれも90%以上であった(具体的にはCD73:100%、CD90:100%、CD166:99%)。CD45、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的にはCD45:100%、CD326:99%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した細胞は、間葉系細胞を含む細胞集団であることが分かった。また、実施例1に記載の細胞集団は、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である細胞集団であることが確認された。
なお、本測定の方法、試薬は比較例1と同じである。
【0127】
(工程2-5:間葉系細胞の不死化)
実施例1に準ずる培養方法に従って分離・培養した間葉系細胞に対し、Nucleofector(登録商標)2/2b(Lonza社)を用いて、2.5μgの不死化プラスミド(E1A遺伝子(配列番号4)、E1B遺伝子(配列番号9)、ニワトリBcl-x
L遺伝子(配列番号13)、SV40大型T抗原遺伝子(配列番号11)、ネオマイシン耐性遺伝子(配列番号17)を含む)を形質移入した(細胞懸濁液バッファー:Nucleofector(登録商標)Solution L、プログラム:X-001)。形質移入後の細胞を6ウェルシャーレに播種し、5%hPLを含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで培養した。サブコンフルエントに達した後、20μg/mL G418及び5%hPLを含むαMEMにて継代培養を繰り返し、形質転換された間葉系細胞のみを選択した。選択された間葉系細胞を、以下「不死化羊膜間葉系細胞」とも称する。形質転換されていない間葉系細胞の細胞形態は紡錘形であったが、形質転換された不死化羊膜間葉系細胞の細胞形態は敷石状であった。各細胞の顕微鏡観察写真を
図1、2に示す(倍率40倍)。
【0128】
(工程2-6:不死化羊膜間葉系細胞のプラスミド組み込み確認)
DNeasy(登録商標)Blood&Tissue Kit(QIAGEN社)を用い、不死化羊膜間葉系細胞からゲノムを抽出した。抽出ゲノムをテンプレートとし、形質移入に用いた不死化プラスミドのE1遺伝子領域に設計したプライマーを用いてリアルタイムPCRを行った。使用した2つのプライマーの塩基配列は、それぞれ配列番号18及び19で表される。PCR反応液(酵素と蛍光色素の混合反応液)はPowerUp SYBR(登録商標)Green Master Mix(Thermo Fisher Scientific社)、リアルタイムPCR装置はStepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。反応条件は、(50℃、2分)→(95℃、20秒)→[(95℃、1秒)→(60℃、30秒)]×40サイクルとした(融解曲線の反応条件はStepOnePlusリアルタイムPCRシステムの標準条件とした)。その結果、SYBR(登録商標)Greenを指標とした核酸増幅が検出され、融解曲線の結果から、特異的な増幅であることが確認された。また、PCR産物をアガロース電気泳動した結果、増幅産物の長さは、使用したプライマーによって目的領域が増幅された場合と同等であることがわかった。本結果から、不死化羊膜間葉系細胞のゲノムには、不死化プラスミドが組み込まれていることが確認された。
【0129】
(工程2-7:不死化羊膜間葉系細胞のhTERT遺伝子発現確認)
RNeasy(登録商標)Mini Plus Kit(QIAGEN社)を用い、不死化羊膜間葉系細胞からtotal RNAを抽出した。続いて、PrimeScript(商標) RT reagent Kit with gDNA Eraser(タカラバイオ社)を用い、抽出したtotal RNAからcDNAを合成した。本cDNAをテンプレートとし、hTERTを標的としたプライマーおよびTaqMan(登録商標)プローブ(Thermo Fisher Scientific社のTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays、No:Hs00972650_m1)を用いて定量リアルタイムPCRを行った。PCR反応液(酵素含有の混合反応液)はTaqMan(登録商標)FAST Advanced MasterMix(Thermo Fisher Scientific社)、リアルタイムPCR装置はStepOnePlus Real-Time PCR system(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。反応条件は、(50℃、2分)→(95℃、20秒)→[(95℃、1秒)→(60℃、30秒)]×40サイクルとした。その結果、FAM(Fluorescein)を指標として、hTERT遺伝子に特異的な核酸増幅が検出された。本結果から、不死化羊膜間葉系細胞はhTERTを発現しており、不死化されていることが確認された。
【0130】
<実施例2:骨髄由来の間葉系細胞の不死化>
(工程3-1:骨髄由来の間葉系細胞の培養)
健常ドナーより骨髄穿刺にて採取した骨髄液を、10%FBSを含むαMEMもしくは5%hPLを含むαMEMで6倍希釈し、接着培養用の培養容器(例えば接着細胞培養シャーレ150(住友ベークライト社))に播種した。3~4日おきに培地交換を行い、接着細胞が増殖するまで培養した。接着細胞が増殖してサブコンフルエントに達した後、継代して拡大培養した。拡大培養した後、細胞をバンバンカー(登録商標)(日本ジェネティクス社)に懸濁して凍結保存した。以下、10%FBSを含むαMEMで培養して得られた骨髄由来の間葉系細胞を「骨髄間葉系細胞(FBS)」、5%hPLを含むαMEMで培養して得られた骨髄由来の間葉系細胞を「骨髄間葉系細胞(hPL)」とも称する。
【0131】
(工程3-2:骨髄間葉系細胞の不死化)
工程3-1に準ずる培養方法に従って分離・培養した骨髄間葉系細胞(FBS)及び骨髄間葉系細胞(hPL)に対し、Nucleofector(登録商標)2/2b(Lonza社)を用いて、2.5μgの不死化プラスミド(E1A遺伝子(配列番号4)、E1B遺伝子(配列番号9)、ニワトリBcl-x
L遺伝子(配列番号13)、SV40大型T抗原遺伝子(配列番号11)、ネオマイシン耐性遺伝子(配列番号17)を含む)を形質移入した(細胞懸濁液バッファー:Nucleofector(登録商標)Solution L、プログラム:X-001)。形質移入後の細胞を6ウェルシャーレに播種し、形質移入前と同じ培養培地(10%FBSを含むαMEMもしくは5%hPLを含むαMEM)にてサブコンフルエントになるまで培養した。サブコンフルエントに達した後、20μg/mL G418及び10%FBSを含むαMEM、もしくは20μg/mL G418及び5%hPLを含むαMEMにて継代培養を繰り返した。20μg/mL G418及び10%FBSを含むαMEMで培養した細胞は全て死滅し、20μg/mL G418及び5%hPLを含むαMEM培養した細胞は増殖し形質転換された骨髄由来の間葉系細胞を取得出来た。形質転換された骨髄由来の間葉系細胞を、以下「不死化骨髄間葉系細胞」とも称する。形質転換されていない骨髄間葉系細胞(hPL)の細胞形態は紡錘形であったが、形質転換された不死化骨髄間葉系細胞の細胞形態は敷石状に近くなった。各細胞の顕微鏡観察写真を
図3、4に示す(倍率40倍)。
【0132】
(工程3-3:不死化骨髄間葉系細胞のプラスミド組み込み確認)
DNeasy(登録商標)Blood&Tissue Kit(QIAGEN社)を用い、不死化骨髄間葉系細胞からゲノムを抽出した。抽出ゲノムをテンプレートとし、形質移入に用いた不死化プラスミドのE1遺伝子領域に設計したプライマー(配列番号13、14)を用いてリアルタイムPCRを行った。PCR反応液(酵素と蛍光色素の混合反応液)はPowerUp SYBR(登録商標)Green Master Mix(Thermo Fisher Scientific社)、リアルタイムPCR装置はStepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。反応条件は、(50℃、2分)→(95℃、20秒)→[(95℃、1秒)→(60℃、30秒)]×40サイクルとした(融解曲線の反応条件はStepOnePlusリアルタイムPCRシステムの標準条件とした)。その結果、SYBR(登録商標)Greenを指標とした核酸増幅が検出され、融解曲線の結果から、特異的な増幅であることが確認された。本結果から、不死化骨髄間葉系細胞のゲノムには、不死化プラスミドが組み込まれていることが確認された。
【0133】
(工程3-4:不死化骨髄間葉系細胞のhTERT遺伝子発現確認)
RNeasy(登録商標)Mini Plus Kit(QIAGEN社)を用い、不死化骨髄間葉系細胞からtotal RNAを抽出した。続いて、PrimeScript(商標)RT reagent Kit with gDNA Eraser(タカラバイオ社)を用い、抽出したtotal RNAからcDNAを合成した。本cDNAをテンプレートとし、hTERTを標的としたプライマーおよびTaqMan(登録商標)プローブ(Thermo Fisher Scientific社のTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays、No:Hs00972650_m1)を用いて定量リアルタイムPCRを行った。PCR反応液(酵素含有の混合反応液)はTaqMan(登録商標)FAST Advanced MasterMix(Thermo Fisher Scientific社)、リアルタイムPCR装置はStepOnePlus Real-Time PCR system(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。反応条件は、(50℃、2分)→(95℃、20秒)→[(95℃、1秒)→(60℃、30秒)]×40サイクルとした。その結果、FAMを指標として、hTERT遺伝子に特異的な核酸増幅が検出された。本結果から、不死化骨髄間葉系細胞はhTERTを発現しており、不死化されていることが確認された。
【0134】
<実施例3:不死化羊膜間葉系細胞、不死化骨髄間葉系細胞によるAAV生産>
(工程4-1:不死化羊膜間葉系細胞、不死化骨髄間葉系細胞によるAAV産生)
不死化羊膜間葉系細胞、不死化骨髄間葉系細胞、HEK293T(対照として設定)に対し、PEIトランスフェクション法にて、pAAVベクター(AAVのITR配列とAkaluc遺伝子を含む)、pRC2-mi342ベクター(血清型2 AAV(AAV2)のRep遺伝子、Cap遺伝子を含む)、pHelperベクター(アデノウイルス由来のE2A、E4、VAを含む)を形質移入した。形質移入から72時間、無血清培地で培養した。その後、培養上清にポリエチレングリコール(PEG)を添加することでAAV粒子を沈降させ、界面活性剤処理によりAAVを回収した。また、界面活性剤を用いて細胞を溶解させ、細胞からもAAVを回収した。培養上清及び細胞から回収したAAVをテンプレートとし、pAAVプラスミド中の配列に対して設計したプライマーを用いてリアルタイムPCRを行った。使用した2つのプライマーの塩基配列は、それぞれ配列番号18及び19で表される。PCR反応液(酵素と蛍光色素の混合反応液)はPowerup SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix(Thermo Fisher Scientific社)、リアルタイムPCR装置はQuantStudio3リアルタイムPCRシステムを用いた。反応条件は、(50℃、2分)→(95℃、20秒)→[(95℃、1秒)→(60℃、30秒)]×40サイクルとした(融解曲線の反応条件はQuantStudio3リアルタイムPCRシステムの標準条件とした)。なお、今回は同時にAAV2ゲノム濃度が既知のサンプルを段階希釈したものも同時にテンプレートとすることで、各テンプレート中のAAV2ゲノム濃度を定量した。その結果、不死化羊膜間葉系細胞、不死化骨髄間葉系細胞及びHEK293Tの培養上清及び細胞から回収したAAV2をテンプレートとした全ての場合において、SYBR(登録商標)Greenを指標とした核酸増幅が検出され、融解曲線の結果から、特異的な増幅であることが確認された。本結果から、不死化羊膜間葉系細胞、不死化骨髄間葉系細胞及びHEK293TからAAVが産生されたことが確認された。各テンプレートのAAV2ゲノム濃度を
図5に示す。
【0135】
<実施例4:不死化羊膜間葉系細胞の浮遊培養>
(工程5-1:無血清培地による不死化羊膜間葉系細胞の浮遊化)
接着細胞用の培養容器(例えば接着細胞培養シャーレ150(住友ベークライト社))で接着培養中の不死化羊膜間葉系細胞、HEK293Tの培地を無血清培地であるFreeStyleF17 Expression Medium(Thermo Fisher Scientific社)、FreeStyle293 Expression Medium(Thermo Fisher Scientific社)、293 SFMII(Thermo Fisher Scientific社)にそれぞれ交換した。維持培養を続け、接着細胞が自然に剥離されたことを確認した後、培養上清を回収して細胞を継代した。以降は全て浮遊状態で継代を繰り返した。その結果、不死化羊膜間葉系細胞は、293 SFM IIで浮遊培養できた。HEK293Tは、FreeStyleF17 Expression Medium、FreeStyle293 Expression Mediumで浮遊培養できた。その後、浮遊化した羊膜間葉系細胞は、ベントキャップ付き三角フラスコ(例えば、ポリカーボネート製三角フラスコ ベントキャップ125mL(Corning社)で撹拌培養した。不死化羊膜間葉系細胞は単一細胞が分散した状態で浮遊培養されていたが、HEK293Tは複数の細胞が凝集した状態で浮遊培養されていた。浮遊培養された各細胞の顕微鏡観察写真を
図6、7、8に示す(倍率40倍)。