(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109194
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】汚染拡散抑制シート
(51)【国際特許分類】
B32B 7/02 20190101AFI20220720BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20220720BHJP
E01H 1/00 20060101ALI20220720BHJP
A47L 13/16 20060101ALI20220720BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
B32B7/02
B01J20/26 G
E01H1/00 Z
A47L13/16 C
C09K3/00 S
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016141
(22)【出願日】2021-02-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2021004316
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 志貴
【テーマコード(参考)】
2D026
3B074
4F100
4G066
【Fターム(参考)】
2D026AA00
3B074AA01
3B074AA02
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4G066AA05B
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4G066BA03
4G066BA05
4G066BA16
4G066BA20
4G066BA25
4G066BA28
4G066BA36
4G066CA05
4G066CA43
4G066DA01
4G066DA07
(57)【要約】
【課題】十分な量の液状の有害化合物を吸収することができ、かつガス状の有害化合物が漏洩するのを抑制することができる汚染拡散抑制シートを提供する。
【解決手段】汚染拡散抑制シート1は、液状の有害化合物を吸収して保持する保液層2と、保液層2に積層され、ガス状の有害化合物を吸着するガス吸着層3と、を備え、保液層2における水の吸収倍率及び油の吸収倍率が、それぞれ9倍以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の有害化合物を吸収して保持する保液層と、
ガス状の有害化合物を吸着するガス吸着層と、
前記保液層と前記ガス吸着層との間に設けられ、液体の通過を妨げかつ気体を通過させる通気防水層と、
を備える、
汚染拡散抑制シート。
【請求項2】
前記汚染拡散抑制シートの厚さ方向において、前記ガス吸着層に対し、前記保液層とは反対側に設けられてガスの通過を妨げるバリア層を更に備える、
請求項1記載の汚染拡散抑制シート。
【請求項3】
前記通気防水層の厚さ寸法は、10μm以上80μm以下である、
請求項1又は請求項2に記載の汚染拡散抑制シート。
【請求項4】
前記保液層における水の吸収倍率及び油の吸収倍率が、それぞれ当該保液層の自重の9倍以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の汚染拡散抑制シート。
【請求項5】
前記保液層は、吸収性繊維を含む繊維集合体で構成されており、
前記吸収性繊維は、内層部とその外側のヒドロゲル外層部とを含む多層構造を有する、
請求項4に記載の汚染拡散抑制シート。
【請求項6】
前記ガス吸着層は、粒状活性炭、あるいは繊維状活性炭、又はこれらの複合材料を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の汚染拡散抑制シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染拡散抑制シートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の汚染拡散抑制シート(特許文献1では「吸液体」)が記載されている。特許文献1記載の吸液体は、例えば、平坦な床や路面に流出した油等を吸液して回収することができる。吸液体は、透液材層と、この透液材層に重ねられた不通気性層と、透液材層と不通気性層との間に配置された吸液材と、を備える。吸液材は、透液材層を透過する液体を吸収し保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
揮発性の液状有害化合物が流出した場合、災害の拡大を防止するため、発災原因物質、すなわち汚染源を確認し、直ちに、発災原因物質を速やかに吸液した上で、揮発する気体についても封じ込める必要がある。
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の吸液体では、不通気性層と透液材層との間に少しでも空隙があると、液体から揮発した気体が漏洩する、という問題がある。
【0006】
また、液体から揮発した気体が漏洩するのを防ぐために、不通気性層と透液材層との間の空間に、ガス状の有害化合物を吸着する吸着体を設けることが検討された。しかし、吸液材によって吸収された液体が吸着体に至ると、吸着体によるガス吸着力が劣化して、適切にガスを吸着することができず、その結果、気体が漏洩するという問題が生じ得る。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、液状の有害化合物を吸収することができ、かつガス状の有害化合物が漏洩するのを抑制することができる汚染拡散抑制シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様の汚染拡散抑制シートは、液状の有害化合物を吸収して保持する保液層と、ガス状の有害化合物を吸着するガス吸着層と、前記保液層と前記吸着層との間に設けられ、液体の通過を妨げかつ気体を通過させる通気防水層と、を備える。
【0009】
また、上記汚染拡散抑制シートは、上記態様において、前記汚染拡散抑制シートの厚さ方向において、前記ガス吸着層に対し、前記保液層とは反対側に設けられてガスの通過を妨げるバリア層を更に備えることが好ましい。
【0010】
また、上記汚染拡散抑制シートは、上記態様において、前記通気防水層の厚さ寸法は、10μm以上80μm以下であることが好ましい。
【0011】
また、上記汚染拡散抑制シートは、上記態様において、前記保液層における水の吸収倍率及び油の吸収倍率が、それぞれ当該保液層の自重の9倍以上であることが好ましい。
【0012】
また、上記汚染拡散抑制シートは、上記態様において、前記保液層は、吸収性繊維を含む繊維集合体で構成されており、前記吸収性繊維は、内層部とその外側のヒドロゲル外層部とを含む多層構造を有することが好ましい。
【0013】
また、上記汚染拡散抑制シートは、上記態様において、前記ガス吸着層は、粒状活性炭、あるいは繊維状活性炭、又はこれらの複合材料を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る上記態様の汚染拡散抑制シートは、液状の有害化合物を吸収することができ、かつガス状の有害化合物が漏洩するのを抑制することができる汚染拡散抑制シートを提供する、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明に係る実施形態1の汚染拡散抑制シートの断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る実施形態2の汚染拡散抑制シートの断面図である。
【
図3】
図3は、実施例の漏洩試験に使用したデシケーターの断面図である。
【
図4】
図4は、実施例の密閉試験に使用したガラスセルの断面図である。
【
図5】
図5は、漏洩試験の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6(A)は、密閉試験の結果のうち、下流側空間のガス濃度を示すグラフである。
図6(B)は、密閉試験の結果のうち、上流側空間のガス濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
(1)実施形態1
以下、本実施形態に係る汚染拡散抑制シート1について、詳細に説明する。
【0017】
汚染拡散抑制シート1は、床面等の流出面に流出又は散逸した液状の有害化合物を速やかに回収するためのシートである。本実施形態に係る汚染拡散抑制シート1によれば、液状の有害化合物を速やかにかつ適切に回収することができ、有害化合物が流出面に拡がるのを抑制することができる。
【0018】
本明細書でいう「液状の有害化合物」とは、流動性のある化合物で、かつ人体に対して悪影響を及ぼす可能性のある化合物を意味する。「液状の有害化合物」は、例えば、有機リン系化合物、有毒工業化学物質(TIC)、軽油、灯油、重油等が挙げられる。液状の有害化合物は揮発性を有しており、単なる吸収シートで液状の有害化合物を吸収しても、揮発したガス状の有害化合物が漏洩する可能性がある。
【0019】
「流出面」とは、液状の有害化合物が、流出又は散逸した面を意味する。流出面としては、床面のほか、例えば、路面、水面、地面等が挙げられる。流出面は、平面であってもよいし、凹凸面であってもよい。また、流出面は、水平面であってもよいし、勾配を有する傾斜面であってもよいし、鉛直面であってもよい。
【0020】
汚染拡散抑制シート1の厚さ寸法は、0.5mm以上6.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0mm以上5.5mm以下であり、更に好ましくは、1.5mm以上5.0mm以下である。汚染拡散抑制シート1は、柔軟性を有するシートである。ただし、柔軟性の度合い(柔軟度)は特に制限はなく、可とう性を有していればよい。また、汚染拡散抑制シート1の重量は、携行性の観点から、700g/m2以下が好ましく、より好ましくは600g/m2以下であり、更に好ましくは550g/m2以下である。
【0021】
汚染拡散抑制シート1は、
図1に示すように、保液層2と、通気防水層6と、ガス吸着層3と、バリア層4と、を備える。汚染拡散抑制シート1は、保液層2、通気防水層6、ガス吸着層3、及びバリア層4が、この順で積層一体化されている。
【0022】
(1.1)保液層
保液層2は、液状の有害化合物を吸収して保持する層である。本実施形態に係る保液層2の主面のうちの一面は、使用の際、流出面に対向する面(「吸液面7」という場合がある)となる。保液層2は、水の吸収倍率と油の吸収倍率とが共に9倍以上であり、より好ましくは、水の吸収倍率が15倍以上でかつ油の吸収倍率が9.5倍以上であり、更に好ましくは、水の吸収倍率が18倍以上でかつ油の吸収倍率が9.9倍以上である。ここで、本明細書でいう「吸収倍率」とは、保液層2が吸水前の自重の何倍の対象物(水又は油)を吸収して保持できるかを示す値である。保液層2の自重をG1、吸水後の保液層2をG2とすると、吸収倍率Aは、A=(G2-G1)/G1で求められる。なお、上記吸収倍率の上限値は、特に制限はないが、例えば、水の吸収倍率だと20倍以下、油の吸収倍率だと11倍以下が例示できる。
【0023】
保液層2は、水の吸収倍率と油の吸収倍率とが共に9倍以上であれば、材料は特に制限はないが、例えば、繊維集合体で構成される。「繊維集合体」とは、少なくとも1種類の繊維が互いに交差及び/又は重なった状態で、交絡及び/又は結合することで形成される。繊維集合体としては、例えば、織物、編物、あるいは不織布、又はこれらのうちの2種以上からなる複合材料からなる繊維集合体等が挙げられる。その中でも、取り扱いやすさの観点から、不織布が用いられることが好ましい。
【0024】
繊維集合体を構成する繊維としては、特に制限はないが、吸収性の観点から、吸収性繊維を含むことが好ましい。吸収性繊維としては、例えば、内層部とその外側のヒドロゲル外層部とを含む多層構造を有する吸収性繊維であるランシール(登録商標)、ベルオアシス(登録商標)等が挙げられる。
【0025】
吸収性繊維の一例として、例えば、特開昭54-138693号に記載される高吸水性繊維を挙げることができる。この吸収性繊維は、アクリロニトリル系重合体及び/又は他の重合体からなる内層部と、親水性架橋重合体からなる外層部(「ヒドロゲル外層部」という場合がある)との多層構造で構成される。当該吸収性繊維は、例えば、内層部がアクリロニトリル系重合体からなる場合、アクリロニトリル系重合体からなる繊維に特定のアルカリ金属水酸化物水性溶液を作用せしめて加水分解し、当該繊維の外層部のみを選択的に親水架橋化(ヒドロゲル化)することにより得られる。
【0026】
アクリロニトリル系重合体とは、アクリロニトリルを共重合成分として含有する重合体を意味し、アクリロニトリル単独重合体、又はアクリルニトリルと他の1種もしくは2種以上のエチレン系不飽和化合物との共重合体、あるいは、アクリロニトリルと他の重合体との混合重合体等が挙げられる。他の重合体としては、例えば、ポリ塩化ビニル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリビニルアルコール系、セルロース系等の重合体が挙げられる。
【0027】
吸収性繊維の平均繊維径(直径)は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上40μm以下であり、更に好ましくは20μm以上30μm以下である。平均繊維径が5μm未満であると、機械的強度に劣る。一方、平均繊維径が50μmを超えると、有害化合物の液滴が除染対象に残留しやすい。
【0028】
本明細書でいう「平均繊維径」は、繊維集合体を構成する複数の繊維の太さの平均値を意味する。平均繊維径は、繊維集合体を構成する繊維の直径をノギスにて測定する。多数の繊維のうちの20本の繊維を、ランダムに抽出して繊維の直径を測定し、その平均値を平均繊維径とする。例えば、繊維の断面形状が丸形である場合、各繊維の直径はノギスにて測定した測定値でよいが、繊維の断面形状が、真円以外の形状(例えば、扁平型、楕円型、多角形等)である場合、繊維の断面積と同等の面積をもつ円の直径の値を用いる。
【0029】
繊維集合体の繊維の断面形状は、液との接触面積を増大するために、三角形や多角形その他複雑な形状の異形断面をもつ繊維としたり、繊維の一部又は全体をフィブリル化した繊維としたりすることも可能である。
【0030】
繊維集合体は、上述の吸収性繊維に限らず、例えば、綿、麻、毛、絹等の天然繊維;レーヨン、ポリノジック、キュプラ、レヨセル等の再生繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維;ナイロン6、ナイロン66、アラミド繊維等のポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維、ポリアリレート等のポリエステル繊維;ポリアクリロニトリル繊維、ポリアクリロニトリル-塩化ビニル共重合体繊維、モダクリル繊維等のアクリル繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維;ビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維等のポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリクラール繊維等のポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン繊維等の合成繊維;ポリフェニレンスルフィド繊維;ポリベンザゾール繊維(PBZ)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)繊維、ポリイミド繊維等の複素環高分子繊維;ポリカーボネート繊維;ポリスルホン繊維;ポリエチレンオキサイド繊維、ポリプロピレンオキサイド繊維等のポリエーテル系繊維;等であってもよい。これらの繊維は、併用してもよい。
【0031】
また、保液層2の質量は、50g/m2以上800g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは100g/m2以上600g/m2以下であり、更に好ましくは150g/m2以上400g/m2以下である。保液層2の質量が50g/m2未満であると液体の保液性が下がり、満足な有害化合物の除染性能が得られにくい。一方、保液層2の質量が、800g/m2を超えると、柔軟性や使用時の取り扱いやすさが損なわれる可能性がある。
【0032】
保液層2の厚さ寸法は、1mm以上10mm以下であることが好ましく、より好ましくは1.5mm以上8.0mm以下であり、更に好ましくは2.0mm以上6.0mm以下である。保液層2の厚さ寸法が1mm未満であると、適切な機械的強度が得られない可能性がある。一方、保液層2の厚さ寸法が10mmを超えると、使用時の取り扱いやすさが損なわれる可能性がある。
【0033】
(1.2)通気防水層
通気防水層6は、液体の通過を妨げるが、気体を通過させる。通気防水層6は、
図1に示すように、保液層2とガス吸着層3との間に設けられており、保液層2で吸収した有害化合物の液状成分については通過を妨げる一方、ガス状成分については通過させる。通気防水層6を通過したガス状の有害化合物は、ガス吸着層3によって吸着される。
【0034】
通気防水層6としては、例えば、低密度ポリエチレン(LLDPE;Linear Low Density Polyethylene、LDPE;Low Density Polyethylene)フィルム、無軸延伸ポリプロピレン(CPP;Cast PolyPolypropylene)フィルム、多孔質フィルム等のシート材が挙げられる。多孔質フィルムの材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリエーテルスルホン(PES;PolyEtherSulfone)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF;PolyVinylidene DiFluoride)樹脂、ポリウレタン(PU;Polyurethane)樹脂、ポリアミドイミド(PAI;Polyamide-imide)樹脂、ポリイミド(PI;Polyimide)樹脂等が挙げられる。
【0035】
通気防水層6の厚さ寸法は、特に制限はないが、10μm以上80μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以上70μm以下であり、更に好ましくは15μm以上35μm以下である。厚さ寸法が10μm未満であると、強度が弱く、拭き取り時に外力が加わって破れる可能性がある。一方、厚さ寸法が80μmを超えると、汚染拡散抑制シート1の柔軟性が損なわれる可能性がある。バリア層4は、ガス吸着層3に対して、例えば、接着、縫製、溶着等により積層される。
【0036】
(1.3)ガス吸着層
ガス吸着層3は、ガス状の有害化合物を吸着する。ガス吸着層3は、
図1に示すように、保液層2の厚さ方向のうちの吸液面7とは反対側の面に積層されている。本明細書でいう「積層」とは、複数の層が厚さ方向に積み重なることを意味する。ここでは、ガス吸着層3と保液層2とは、直接的に積み重なっているが、ガス吸着層3と保液層2との間に他の層が介在していてもよく、この場合でもガス吸着層3は保液層2に積層している、こととする。
【0037】
ガス吸着層3は、多数のガス吸着材がバインダーに分散して構成されている。ガス吸着材としては、特に制限はないが、例えば、活性炭、カーボンブラック、シリカゲル、ゼオライト系吸着材、炭化ケイ素、活性アルミナ、イオン交換樹脂等が挙げられる。その中でも広範囲なガスに対応し得る活性炭が好ましい。活性炭としては、粒状活性炭あるいは繊維状活性炭、又はこれらの複合材料が例示される。
【0038】
粒状活性炭とは、例えば、ヤシ殻・おが屑・竹等の植物系炭化物、石炭・石油(ピッチ)等の鉱物系炭化物に、ガス賦活又は薬品賦活による活性化反応を行うことによって得られる粒状の活性炭である。粒状活性炭としては、例えば、破砕炭、顆粒炭、成形炭等が挙げられる。本明細書でいう「粒状活性炭」には、粉末状の活性炭を含むこととする。
【0039】
粒状活性炭のBET比表面積は、500m2/g以上2000m2/g以下が好ましく、より好ましくは600m2/g以上1800m2/g以下である。BET比表面積が500m2/g未満であると、ガス状化合物に対しての十分な吸着量を得るために多くの活性炭が必要となり材料が重くなり、柔軟性が損なわれる可能性がある。一方、BET比表面積が2000m2/gを超えると、ガス吸着材が脆くなる可能性がある。
【0040】
粒状活性炭の平均粒子径は、50μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上である。また、粒状活性炭の平均粒子径は、3000μm以下が好ましく、より好ましくは2000μm以下である。
【0041】
ここでいう「平均粒子径」は、光学顕微鏡を用いて、粒状活性炭の粒子径を測定する。多数の活性炭のうちの任意の100個の活性炭を抽出して粒子径を測定し、測定した粒子径を相加平均して、この平均値を粒状活性炭の平均粒子径とする。
【0042】
粒状活性炭を含むガス吸着層3の目付は、50g/m2以上250g/m2以下が好ましく、より好ましくは70g/m2以上200g/m2以下である。目付が50未満であると、吸着できる容量が小さくなりガス状化合物の飛散抑制性能が低くなることが懸念される。一方、目付が250g/m2を超えると、材料の柔軟性が損なわれる可能性がある。
【0043】
また、ガス吸着材に繊維状活性炭が用いられる場合、そのBET比表面積は、700m2/g以上3000m2/g以下が好ましく、より好ましくは1000m2/g以上2500m2/g以下である。BET比表面積が700m2/g未満であると、ガス状化合物に対しての十分な吸着量を得るために多くの活性炭が必要となり材料が重くなり、柔軟性が損なわれる可能性がある。一方、BET比表面積が3000m2/gを超えると、ガス吸着材が脆くなる可能性がある。
【0044】
繊維状活性炭が含まれるガス吸着層3の目付(絶乾質量)としては、50g/m2以上250g/m2以下が好ましく、より好ましくは70g/m2以上200g/m2以下である。目付が50g/m2未満であると、吸着できるガスの容量が小さくなりガス状化合物の飛散抑制性能が低くなる可能性がある。一方、目付が250g/m2を超えると、材料の柔軟性が損なわれる可能性がある。
【0045】
繊維状活性炭の厚さ寸法は、例えば、0.1mm以上3.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.5mm以上2.0mm以下であり、更に好ましくは0.7mm以上1.5mm以下である。繊維状活性炭の厚さ寸法が0.1mm未満であると、ガス状有害化合物の吸着量が低下する可能性がある。一方、繊維状活性炭の厚さ寸法が3.0mmを超えると、使用時の取り扱いやすさが損なわれる可能性がある。
【0046】
繊維状活性炭の原料としては、例えば、天然セルロース繊維(例えば綿、麻等)、レーヨン、ポリノジック、再生セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル系繊維、芳香族ポリアミド繊維、リグニン繊維、フェノール系繊維、石油ピッチ繊維等の合成繊維等が挙げられる。この中でも、強度や吸着性能の観点から、再生セルロース繊維、フェノール系繊維、アクリル系繊維が好ましい。
【0047】
繊維状活性炭は、例えば、上記の原料繊維の短繊維あるいは長繊維を用いて製織、製編、不織布化した布帛に必要に応じて適当な耐炎化剤を含有させた後、450℃以下の温度で耐炎化処理を施し、次いで500℃以上1000℃以下の温度で炭化賦活することによって製造することができる。
【0048】
ガス吸着層3は、織物、編物、不織布、又はフェルトのいずれかの形態を有することが好ましい。これらのうち織物または編物の形態が通気性、積層の容易性、柔軟性などの面からより好ましい。
【0049】
ガス吸着層3と保液層2との積層方法は、特に制限はないが、例えば、ニードルパンチ、ウォーターパンチ、キルティング、ボンディング、熱融着不織布等を使用した積層方法が挙げられる。
【0050】
(1.4)バリア層
バリア層4は、ガス及び液体の通過を妨げる。バリア層4は、
図1に示すように、汚染拡散抑制シート1の厚さ方向において、ガス吸着層3に対し、保液層2とは反対側に積層されている。また、本実施形態に係るバリア層4は、液状の有害化合物の通過も妨げる。したがって、有害化合物が保液層2及びガス吸着層3を通過しても、有害化合物が作業者に向かって流れるのを抑制できる。
【0051】
バリア層4は、不浸透性のフィルム等のシート材により構成される。バリア層4としては、特に制限はないが、例えば、無軸延伸ポリプロピレン(CPP;Cast PolyPolypropylene)、2軸延伸ポリプロピレン(OPP;Oriented PolyPropylene)、フッ素系樹脂、塩素系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレンテレフタラート、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、低密度ポリエチレン(LLDPE;Linear Low Density Polyethylene、LDPE;Low Density Polyethylene)フィルム等が挙げられる。本実施形態に係るバリア層4は、LLDPEフィルムにより構成されている。バリア層4と通気防水層6とを同じ素材で構成し、材料の共通化を図ることで、コストダウンを行うことができる。
【0052】
バリア層4の厚さ寸法は、特に制限はないが、10μm以上80μm以下が好ましく、より好ましくは15μm以上35μm以下であり、更に好ましくは20μm以上30μm以下である。厚さ寸法が10μm未満であると、強度が弱く、拭き取り時に外力が加わって破れる可能性がある。一方、厚さ寸法が80μmを超えると、汚染拡散抑制シート1の柔軟性が損なわれる可能性がある。バリア層4は、ガス吸着層3に対して、例えば、接着、縫製、溶着等により積層される。
【0053】
<効果>
以上説明したように、本実施形態に係る汚染拡散抑制シート1は、保液層2とガス吸着層3との間に通気防水層6を備えるため、保液層2で吸収した液状の有害化合物によって、ガス吸着層3が濡れて機能が低下するのを防ぐことができながら、吸収した液体から揮発したガス状の有害化合物を吸着することができる。この結果、流出面に流出した液状の有害化合物を吸収して拡がるのを抑制でき、かつガス状の有害化合物が漏洩するのを抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る汚染拡散抑制シート1は、ガス吸着層3に対し、保液層2とは反対側に設けられてガスの通過を妨げるバリア層4を更に備えるため、吸収した液状の有害化合物及びガス状の有害化合物が、作業者側に漏洩するのを防ぐことができる。
【0055】
また、本実施形態に係る汚染拡散抑制シート1では、通気防水層6の厚さ寸法は、10μm以上80μm以下であるため、汚染拡散抑制シート1として柔軟性を保つことができる。
【0056】
また、本実施形態に係る汚染拡散抑制シート1は、保液層2における水の吸収倍率及び油の吸収倍率が、それぞれ保液層2の自重の9倍以上であるため、十分な量の液状の有害化合物を吸収することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る汚染拡散抑制シート1は、保液層2が吸収性繊維を含む繊維集合体で構成されている。吸収性繊維は、内層部とその外側のヒドロゲル外層部とを含む多層構造を有する。このため、保液層2が十分な量の液状の有害化合物を吸収、保持することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る汚染拡散抑制シート1は、ガス吸着層3が、粒状活性炭、あるいは繊維状活性炭、又はこれらの複合材料を含むため、製造性がよい。
【0059】
(2)実施形態2
実施形態2に係る汚染拡散抑制シート1は、
図2に示すように、保液層2の厚さ方向のうちのガス吸着層3とは反対側の面に対して、吸液層5が設けられている点で、実施形態1に係る汚染拡散抑制シート1とは相違する。なお、実施形態2に係る汚染拡散抑制シート1に関し、実施形態1に係る汚染拡散抑制シート1と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0060】
吸液層5は、液状の有害化合物を吸収する。吸液層5は、
図2に示すように、保液層2に対し、ガス吸着層3とは反対側に積層されている。吸液層5は、繊維集合体で構成されており、当該繊維集合体の繊維は、保液層2を構成する繊維集合体の繊維に比べて、平均繊維径が小さい。このため、吸液層5は、保液層2に比べて、流出面の形状に追従して変形しやすい。したがって、本実施形態に係る汚染拡散抑制シート1によれば、流出面が凹凸面であっても、汚染拡散抑制シート1と流出面との間に隙間を生じにくくできる。
【0061】
吸液層5を構成する繊維集合体としては、繊維の平均繊維径が保液層2と比べて小さければ特に制限はないが、例えば、例えば、織物、編物、あるいは不織布、又はこれらのうちの2種以上からなる複合材料からなる繊維集合体等が挙げられる。その中でも、取り扱いやすさの観点から、不織布が用いられることが好ましい。
【0062】
繊維集合体を構成する繊維としては、特に制限はないが、例えば、ナイロン繊維、割繊アクリル繊維が挙げられる。繊維集合体として不織布を用いる場合、例えば、ナイロン繊維を使用したメルトブローン不織布、割繊アクリル繊維を使用した不織布等が好適に用いられる。繊維集合体にナイロン繊維を用いたメルトブローン不織布を用いる場合、毛羽立ちの抑制及び機械的強度の補強の観点から、PET繊維を用いた不織布(カバー層52)によって、吸液層本体51をカバーすることが好ましい。
【0063】
吸液層5を構成する吸収性繊維の平均繊維径(直径)は、0.05μm以上5.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.15μm以上4.5μm以下であり、更に好ましくは0.2以上3.5μm以下である。平均繊維径が0.05μm未満であると、毛羽立ちが生じやすく、また機械的強度に劣る。一方、平均繊維径が5.0μmを超えると、繊維間で毛細管現象が生じにくく、適切な吸液性能が得られない可能性がある。
【0064】
吸液層5は、吸収した液体を保液層2に受け渡すが、このとき、拡散を抑制するように構成されている。単に、平均繊維径が保液層2を構成する繊維集合体の繊維の平均繊維径よりも小さいだけだと、吸収した液体及びガスが、層の面方向に拡がりやすく、液体及びガスが汚染拡散抑制シート1の端部から漏洩し得るからである。
【0065】
本実施形態に係る吸液層5は、拡散を抑制するために、保液層2に対して、ニードルパンチにより一体化されている。ニードルパンチにより、一体化された吸液層5及び保液層2は、互いに重なった状態で、貫通孔を通して繊維同士が交絡及び/又は結合している。吸液層5によって吸収された有害化合物は、面方向に沿って広がることなく、貫通孔を通して保液層2に移動することができる。
【0066】
吸液層5の質量は、10g/m2以上50g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは11g/m2以上35g/m2以下であり、更に好ましくは12g/m2以上20g/m2以下である。保液層2の質量が10g/m2未満であると液体の吸収性が下がり、満足な有害化合物の吸収性能が得られにくい。一方、保液層2の質量が、50g/m2を超えると、柔軟性や使用時の取り扱いやすさが損なわれる可能性がある。
【0067】
吸液層5の厚さ寸法は、0.05mm以上1.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.08mm以上0.5mm以下であり、更に好ましくは0.1mm以上0.3mm以下である。吸液層5の厚さ寸法が0.05mm未満であると、適切な機械的強度が得られない可能性がある。一方、吸液層5の厚さ寸法が1.0mmを超えると、使用時の取り扱いやすさが損なわれる可能性がある。
【0068】
このような構成の汚染拡散抑制シート1であっても、十分な量の液状の有害化合物を吸収することができ、かつガス状の有害化合物が漏洩するのを抑制することができる。その上、液体が流出した面が凹凸面であっても、適切に液状の有害化合物を吸収することができる。
【0069】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、上記実施形態に係る変形例を説明する。
【0070】
本発明に係る汚染拡散防止シート1は、上記実施形態1,2に係る汚染拡散防止シート1を構成する複数の層のうちの少なくとも一つに、有害物質を分解する分解剤及び/又は細菌の繁殖を抑制する抗菌剤を含有させてもよい。分解剤及び/又は抗菌剤をいずれかの層に含有させることで、汚染拡散防止シート1を使用した際の二次汚染リスクを下げることができる。
【0071】
分解剤としては、例えば、金属又は金属酸化物が挙げられ、具体的には、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、イリジウム、スズ、アンチモン、ビスマス、亜鉛、酸化銀、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化銅、酸化セレン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化チタン等が挙げられる。なかでも金属酸化物は、比較的安価であり、安定であるため、使用に好適である。
【0072】
抗菌剤としては、例えば、ビグアナイド系抗菌剤、無機系抗菌剤(例えば、金属、金属酸化物等)、有機系抗菌剤(例えば、フェノ-ル系、第四アンモニウム塩系、ピリジン系、ヨウ素系、イミダゾ-ル系、チアゾ-ル系、イソチアゾロン系、キトサン系、ピリチオン系等)等が挙げられる。
【0073】
層に対する分解剤及び/又は抗菌剤の含有方法としては、例えば、パッディング法、含浸法、スプレー法、コーティング法、紡糸時に練り込む方法等の公知の方法を採用することができる。
【0074】
<実施例>
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明に係る汚染拡散抑制シートは、以下の実施例に限定されない。
【0075】
(1)実施例1
実施例1に係る汚染拡散抑制シートとして、保液層、ガス吸着層、及びバリア層を次の材料で構成した。実施例1に係る汚染拡散抑制シートについて、次の方法で、目付、厚さ寸法、嵩密度及び平均繊維径を測定した。そして、実施例1に係る汚染拡散抑制シートを用いて、保液量、吸収倍率、凹凸面の吸収率を測定し、ガス吸着性を確認するための試験(漏洩試験、密閉試験)を行った。
・保液層:ランシール(登録商標)含有繊維シート(日本エクスラン工業株式会社製 品番:TB403-1) 平均繊維径:25.4μm 吸収倍率:油;10倍 水;19倍・通気防水層:LLDPEフィルム 30μm
・ガス吸着層:EVA樹脂(東京インキ株式会社製のPR 2030H)をバインダーとして、石炭からなる粒状活性炭(大阪ガスケミカル株式会社製の活性炭「粒状白鷺W5C20/42」)を混合した。目付:130g/m2
・バリア層::LLDPEフィルム 30μm
【0076】
(1.1)測定方法
・目付:JIS L 1096.8.3に準拠する方法により測定した。
・厚さ寸法:JIS L 1096.8.4に準拠する方法により測定した。全ての材料について、7gf/cm2の荷重を加えて測定した。
・嵩密度:(目付)/(厚さ寸法)で算出した。
・平均繊維径:測定対象の繊維集合体の表面を電子顕微鏡により観察し、20点の繊維径を測定し、その平均径を算出した。
・凹凸面吸液性:試験片(4.0cm×2.5cm)を、吸液面が外側になるようにサンプル固定板(2.5cm×2.5cm×厚さ1.0cmのゴムシート)にテープ等で固定する。凹凸表面をもつ塩化ビニルマット(底辺5.0mm高さ0.6mmの四角錐が連なる表面形状、寸法2.5cm×2.5cm)の重量を測定し(Xmg)、その後試験液(ジプロピルフタレート)を凹凸表面に10μL滴下後の重量を測定する(Ymg)。サンプル固定板に固定した試験片の吸液面を試験液にあてて、サンプル固定板の上からおもり(0.5kg)をゆっくり置く。20秒経過後、サンプル固定板に固定した試験片を取り除き、塩化ビニルマットの重量を測定する(Zmg)。次の式によって凹凸面吸液性%を算出する。{(Y-X)-(Z-X)}/(Y-X)×100・保液量:試験片5×5cmを純水またはミシン油(VG10)中に5分間浸漬し、その後引き上げ、純水では6分間、ミシン油(VG10)では10分間、吊るし置きした後に、重量を測定し(G2)、試験片の乾燥重量(G1)と湿潤重量(G2)から試験片が吸収した液量(G2-G1)を算出し、1m2あたりの重量(g/m2)で表す。
・吸収倍率:全層の吸収倍率は、保液量(G2-G1)を全層で測定後、吸収倍率AをA=(G2-G1)/G1から求める。保液層についても同様に、保液量を保液層単層で測定後、吸収倍率を求める。
【0077】
漏洩試験として、試験環境を25℃に設定し、各実施例に係るシートを10cm角にカットして試験片を作製し、試験片の吸液面に対して、100g/m
2(1061μL)の偽剤(3-メトキシブチルアセテート)を滴下した。これを、吸液面を下にして、
図3に示すような、デシケーター(12L)の内底面に置き、試験片の四隅に錘(10g/個)を載せて密封し、所定時間毎の漏洩ガス濃度を、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0078】
密閉試験として、試験環境を25℃に設定し、各実施例に係るシートを直径9.6cmの円形状にカットして試験片を作製し、試験片の吸液面に対して、100g/ m
2(300μL)の偽剤(3-メトキシブチルアセテート)を滴下した。これを
図4に示すような、フランジを有する第一容器81とフランジを有する第二容器82とを備えたガラスセルを用いて、試験片X1を、滴下した面(吸液面)を上流側の空間(第一容器81内の空間SP1)に向けると共に、その反対側の面を下流側の空間(下側の空間SP2)に向け、各容器81,82のフランジで挟んで密封した。上流側の空間SP1と下流側の空間SP2における所定時間毎のガス浸透濃度を、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0079】
各測定結果を表1に示し、漏洩試験の結果を
図5、密閉試験の結果を
図6(A)(B)に示す。なお、グラフでは、実施例1を「実1」、比較例1を「比1」などと省略して表記する。
【0080】
(2)比較例1
比較例1に係る汚染拡散抑制シートとして、保液層、ガス吸着層、及びバリア層を次の材料で構成した。比較例1に係る汚染拡散抑制シートについて、上記「(1.1)測定方法」による方法で、目付、厚さ寸法、嵩密度及び平均繊維径を測定した。そして、比較例1に係る汚染拡散抑制シートを用いて、保液量、吸収倍率、凹凸面の吸収率を測定し、ガス吸着性を確認するための試験(密閉試験)を行った。
・保液層:ランシール(登録商標)含有繊維シート(日本エクスラン工業株式会社製 品番:TB403-1) 平均繊維径:25.4μm 吸収倍率:油;10倍 水;19倍・ガス吸着層:EVA樹脂(東京インキ株式会社製のPR 2030H)をバインダーとして、石炭からなる粒状活性炭(大阪ガスケミカル株式会社製の活性炭「粒状白鷺W5C20/42」)を混合した。目付:130g/m2
・バリア層:CPPフィルム 25μm
【0081】
各測定結果を表1に示し、密閉試験の結果を
図6(A)(B)に示す。
【0082】
(3)比較例2
比較例2に係るシートとして、ウールと、ポリエチレンとを混合した毛布を用いた。比較例2に係るシートについて、上記「(1.1)測定方法」による方法で、目付、厚さ寸法、嵩密度及び平均繊維径を測定した。そして、比較例2に係るシートを用いて、保液量、吸収倍率、凹凸面の吸収率を測定し、ガス吸着性を確認するための試験(密閉試験)を行った。
【0083】
各測定結果を表1に示し、密閉試験の結果を
図7(A)(B)に示す。
【0084】
(4)比較例3
比較例3に係るシートとして、塩化ビニル(PVC)シートを用いた。比較例3に係るシートについて、上記「(1.1)測定方法」による方法で、目付、厚さ寸法、及び嵩密度を測定した。そして、比較例3に係るシートを用いて、ガス吸着性を確認するための試験(漏洩試験)を行った。
【0085】
各測定結果を表1に示し、漏洩試験の結果を
図6(A)(B)に示す。
【0086】
(5)比較例4
比較例4に係るシートとして、吸液層、保液層及びバリア層からなるシートを作製した。吸液層、保液層及びバリア層を次の材料で構成した。比較例4に係るシートについて、上記「(1.1)測定方法」による方法で、目付、厚さ寸法、嵩密度及び平均繊維径を測定した。そして、比較例4に係るシートを用いて、保液量、吸収倍率、凹凸面の吸収率を測定し、ガス吸着性を確認するための試験(漏洩試験、密閉試験)を行った。
・吸液層:ポリプロピレン繊維を用いたメルトブローン不織布 平均繊維径:3.14μm・保液層:パーライト 目付:160g/m2~200 g/m2 吸収倍率:油;6倍 水;8倍・ガス吸着層:なし
・バリア層:PPフィルム 40μm
【0087】
各測定結果を表1に示し、漏洩試験の結果を
図5、密閉試験の結果を
図6(A)(B)に示す。
【0088】
(6)比較例5
比較例5に係るシートとして、保液層、ガス吸着層及びバリア層からなるシートを作製した。保液層、ガス吸着層及びバリア層を次の材料で構成した。比較例5に係るシートについて、上記「(1.1)測定方法」による方法で、目付、厚さ寸法、嵩密度及び平均繊維径を測定した。そして、比較例5に係るシートを用いて、保液量、吸収倍率、凹凸面の吸収率を測定し、ガス吸着性を確認するための試験(漏洩試験、密閉試験)を行った。・保液層:ポリプロピレン繊維を用いた不織布(タピルス株式会社製 P030LW-00X) 平均繊維径:5.2μm 目付:300g/m2 吸収倍率:油;7倍 水;0.1倍
・ガス吸着層:EVA樹脂(東京インキ株式会社製のPR 2030H)をバインダーとして、石炭からなる粒状活性炭(大阪ガスケミカル株式会社製の活性炭「粒状白鷺W5C20/42」)を混合した。目付:130g/m2
・バリア層:CPPフィルム 25μm
【0089】
各測定結果を表1に示し、漏洩試験の結果を
図5、密閉試験の結果を
図6(A)(B)に示す。
【表1】
【0090】
図5に示すように、漏洩試験において、実施例1と、比較例3,4とを比較すると、実施例1では、90min経過時の漏洩ガス濃度がほぼ0ppm以下であるのに対し、比較例3,4では、漏洩ガス濃度が250ppmを超えている。このことからもわかるように、ガス吸着層があると、漏洩ガス濃度が大幅に抑制できることがわかった。
【0091】
図6(A)に示すように、密閉試験において、実施例1と、比較例1,2,4,5と比較すると、1300min経過後の下流ガス濃度が、実施例1では、ほぼ0ppmであるのに対し、比較例1,2,4,5では、50ppm以上である。このことからもわかるように、実施例1については、ガスの通過を効果的に抑制できることがわかった。
【0092】
また
図6(B)に示すように、密閉試験において、実施例1と、比較例2,4,5と比較すると、1300min経過後の上流ガス濃度が、実施例1では、200ppmよりも少ないのに対し、比較例2,4,5では、500ppmを超えている。このことからもわかるように、実施例1については、上流側のガスを吸着することができることがわかった。
【0093】
また
図6(B)に示すように、密閉試験において、実施例1と,比較例1とを比較すると、1440min経過後の上流ガス濃度が、実施例1では、130ppm程度であるのに対し、比較例1では、250ppm程度である。このことからもわかるように、通気防水層があるほうが、長時間経過後のガス吸着性能が高いことがわかった。
【0094】
表1に示すように、保液量について、実施例1と、比較例5とを比較すると、実施例1では、油が1100g/m2で、水が2100g/m2であるのに対し、比較例5では、油が300g/m2で、水が10g/m2である。これからわかるように、実施例1では、目付が同程度でも、油と水との両方の保液量が高いことがわかった。
【符号の説明】
【0095】
1 汚染拡散抑制シート
2 保液層
3 ガス吸着層
4 バリア層
5 吸液層
51 吸液層本体
52 カバー層
6 通気防水層
【手続補正書】
【提出日】2021-06-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の有害化合物を吸収して保持し、吸収性繊維を含む繊維集合体で構成された保液層と、
ガス状の有害化合物を吸着するガス吸着層と、
前記保液層と前記ガス吸着層との間に設けられ、液体の通過を妨げかつ気体を通過させる通気防水層と、
を備える、
汚染拡散抑制シート。
【請求項2】
前記汚染拡散抑制シートの厚さ方向において、前記ガス吸着層に対し、前記保液層とは反対側に設けられてガスの通過を妨げるバリア層を更に備える、
請求項1記載の汚染拡散抑制シート。
【請求項3】
前記通気防水層の厚さ寸法は、10μm以上80μm以下である、
請求項1又は請求項2に記載の汚染拡散抑制シート。
【請求項4】
前記保液層における水の吸収倍率及び油の吸収倍率が、それぞれ当該保液層の自重の9倍以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の汚染拡散抑制シート。
【請求項5】
前記保液層は、吸収性繊維を含む繊維集合体で構成されており、
前記吸収性繊維は、内層部とその外側のヒドロゲル外層部とを含む多層構造を有する、請求項4に記載の汚染拡散抑制シート。
【請求項6】
前記ガス吸着層は、粒状活性炭、あるいは繊維状活性炭、又はこれらの複合材料を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の汚染拡散抑制シート。