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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022010921
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】抗微生物組成物および抗微生物基体
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/20 20060101AFI20220107BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220107BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220107BHJP
   A01N 47/44 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01P1/00
A01P3/00
A01N47/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111711
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 晃章
(72)【発明者】
【氏名】堀野 克年
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AA04
4H011BB18
4H011BB19
4H011BC05
4H011DA13
4H011DD06
4H011DH08
(57)【要約】
【課題】本発明は、抗微生物組成物の硬化物の形状の如何に拘わらず、高い抗ウィルス活性が得られる抗微生物組成物および抗微生物基体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩、および光重合開始剤を含み、光触媒を含まないことを特徴とする抗微生物組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩、および光重合開始剤を含み、光触媒を含まないことを特徴とする抗微生物組成物。
【請求項2】
前記銅化合物は、銅のカルボン酸塩及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の抗微生物組成物。
【請求項3】
前記銅化合物は、銅のカルボン酸塩である請求項1又は2に記載の抗微生物組成物。
【請求項4】
前記抗微生物組成物は分散媒を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項5】
前記重合体ビグアナイドもしくはその塩は、ポリアルキレンビグアナイド化合物もしくはその塩である請求項1~4のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項6】
前記抗微生物組成物は、未硬化のバインダを含む請求項1~5のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項7】
前記未硬化のバインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種である請求項6に記載の抗微生物組成物。
【請求項8】
前記光重合開始剤は、水に不溶性の光重合開始剤である請求項1~7のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項9】
前記光重合開始剤は、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~8のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項10】
基材表面に銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩および光重合開始剤を含み、光触媒を含まない抗微生物硬化物が被着してなることを特徴とする抗微生物基体。
【請求項11】
前記抗微生物硬化物は連続した膜状である請求項10に記載の抗微生物基体。
【請求項12】
前記抗微生物硬化物は基材表面の抗微生物性が要求される領域に設けられ、当該領域で、抗微生物硬化物が設けられた領域と抗微生物硬化物が設けられず、基材表面が露出した領域が混在してなる請求項10または11に記載の抗微生物基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物組成物および抗微生物基体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原体である種々の微生物を媒介とした感染症が短時間で急激に広がる、いわゆる「パンデミック」が問題になっており、SARS(重症急性呼吸器症候群)や、ノロウィルス、鳥インフルエンザ等のウィルス感染による死者も報告されている。
【0003】
そこで、様々な細菌やウィルスに対して、抗菌、抗ウィルス効果を発揮する、抗菌、抗ウィルス剤の開発が活発に行われている。実際に様々な部材に、抗菌、抗ウィルス効果のある金属や、有機化合物からなる抗菌、抗ウィルス剤を含むコート剤を印刷したり塗布したりして、抗菌、抗ウィルス剤が担持された材料を含む部材を製造することが行われている。
【0004】
特許文献1には、基材表面に、銅化合物を含む電磁波硬化型樹脂の硬化物が固着し、前記銅化合物の少なくとも一部は、前記電磁波硬化型樹脂の硬化物の表面から露出していることを特徴とする抗ウィルス性基体が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、抗微生物性組成物の均一なコーティングで少なくとも部分的に被覆された表面を有する基材を備える保護用物品であって、前記抗微生物性組成物は、A群、B群及び随意的なC群から選択される少なくとも1つの成分を含む混合物を含有し、前記A群は、第1の抗微生物性物質(ポリヘキサメチレン・ビグアニド(PHMB))を含み、前記B群は、第2の抗微生物性物質(粒子形状の又は支持マトリックス若しくはポリマーに組み込まれた銅などの金属含有種及びそれらの酸化物等)、有機酸又は加工助剤を含み、前記C群は、抗静電気剤又はフッ素ポリマーを含むことを特徴とする保護用物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/074121号
【特許文献2】特表2009-510270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された抗微生物組成物は、銅化合物が抗微生物活性を持たないバインダ中に分散しているため、抗微生物組成物の硬化物の形状によっては抗微生物活性が変動するという課題があった。また、特許文献2に記載された抗微生物組成物は、十分な抗微生物活性が得られなかった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、抗微生物組成物の硬化物の形状の如何に拘わらず、高い抗ウィルス活性が得られる抗微生物組成物および抗微生物基体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る抗微生物組成物は、以下の通りである。
(1)銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩、および光重合開始剤を含み、光触媒を含まないことを特徴とする抗微生物組成物。
【0010】
本発明に係る抗微生物組成物によれば、抗微生物組成物の硬化物の形状の如何に拘わらず、高い抗ウィルス活性が得られる。
【0011】
また、本発明に係る抗微生物組成物は、下記(2)~(9)の態様であることが好ましい。
【0012】
(2)前記銅化合物は、銅のカルボン酸塩及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0013】
これにより、基材表面に抗微生物組成物を印刷した際、抗微生物組成物の硬化物の表面よりウィルス等の微生物と接触可能な状態で露出した上記銅化合物が、優れた抗微生物活性を発揮することができる。
【0014】
(3)前記銅化合物は、銅のカルボン酸塩である。
【0015】
これにより、基材表面に抗微生物組成物を印刷した際、抗微生物組成物の硬化物の表面よりウィルス等の微生物と接触可能な状態で露出した上記銅化合物が、優れた抗微生物活性をより発揮することができる。
【0016】
(4)前記抗微生物組成物は分散媒を含む。
【0017】
これにより、分散媒中に上記銅化合物が良好に分散し、その結果、上記銅化合物が良好に分散した抗微生物組成物の硬化物を形成できる。
【0018】
(5)前記重合体ビグアナイドもしくはその塩は、ポリアルキレンビグアナイド化合物もしくはその塩である。
【0019】
ポリアルキレンビグアナイド化合物もしくはその塩は、抗微生物活性に優れ、高い抗菌、抗ウィルス活性を有している。また、バインダとしての機能を有し、銅化合物を基材表面に固定することができる。さらにバインダである重合体ビグアナイド自身も抗微生物活性を有しているため、バインダの硬化物の固着形態に依存せず、高い抗微生物活性を有する。
【0020】
(6)前記抗微生物組成物は、未硬化のバインダを含む。
【0021】
これにより、密着性に優れた抗微生物組成物の硬化物を、比較的容易に基材表面に固着形成できる。
【0022】
(7)前記未硬化のバインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0023】
これにより、密着性に優れた抗微生物組成物の硬化物を、より容易に基材表面に固着形成できる。
【0024】
(8)前記光重合開始剤は、水に不溶性の光重合開始剤である。
【0025】
これにより、抗微生物性のバインダ硬化物が、水拭き清掃された場合でも、光重合開始剤が溶出しない。光重合開始剤は、太陽光や蛍光灯の光の中に含まれる紫外線により励起して、バインダ硬化物中の銅化合物を還元させることができる。
【0026】
(9)前記光重合開始剤は、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0027】
これにより、紫外線等の電磁波により還元力を発現できる。
【0028】
また、上記課題を解決するための本発明に係る抗微生物基体は、以下の通りである。
【0029】
(10)基材表面に銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩および光重合開始剤を含み、光触媒を含まない抗微生物硬化物が被着してなることを特徴とする抗微生物基体。
【0030】
本発明に係る抗微生物基体によれば、抗微生物組成物の硬化物の形状の如何に拘わらず、高い抗ウィルス活性が得られる。
【0031】
また、本発明に係る抗微生物基体は、下記(11)~(12)の態様であることが好ましい。
【0032】
(11)前記抗微生物硬化物は連続した膜状である。
【0033】
一般に銅化合物を含むバインダの硬化物が連続した膜状で基材表面に固着していた場合、バインダ硬化物が島状に基材表面に固着している場合に比べて、バインダ硬化物の表面積が相対的に小さくなり、抗微生物活性が低下してしまう。しかしながら、本発明ではバインダ自身に抗微生物活性があるため、バインダ硬化物の表面積が相対的に小さくなっても、抗微生物活性の低下を補償することができ、全体として高い抗微生物活性を有する抗微生物基体を得ることができる。
【0034】
(12)前記抗微生物硬化物は基材表面の抗微生物性が要求される領域に設けられ、当該領域で、抗微生物硬化物が設けられた領域と抗微生物硬化物が設けられず、基材表面が露出した領域が混在してなる。
【0035】
これにより、バインダ硬化物の表面積が大きくなり、抗微生物活性が向上する。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、抗微生物組成物の硬化物の形状の如何に拘わらず、高い抗ウィルス活性が得られる抗微生物組成物および抗微生物基体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0038】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体は、銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩、および光重合開始剤を含み、光触媒を含まないことを特徴とする。
【0039】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体は、重合体ビグアナイドもしくはその塩を含む。重合体ビグアナイドは、人体に害がなく、抗微生物活性に優れており、高い抗菌および抗ウィルス活性を有している。また、重合体ビグアナイドはバインダとしての機能を有し、銅化合物を基材表面に固定することができる。さらにバインダである重合体ビグアナイド自身も抗微生物活性を有しているため、バインダの硬化物の固着形態に依存せず、高い抗微生物活性を有している。
【0040】
例えば、一般に銅化合物を含むバインダの硬化物が連続した膜状で基材表面に固着していた場合、バインダ硬化物が島状に基材表面に固着している場合に比べて、バインダ硬化物の表面積が相対的に小さくなり、抗微生物活性が低下してしまう。しかしながら、本発明ではバインダ自身に抗微生物活性があるため、バインダ硬化物の表面積が相対的に小さくなっても、抗微生物活性の低下を補償することができ、全体として高い抗微生物活性を有する抗微生物基体を得ることができる。
【0041】
本実施形態で使用される重合体ビグアナイドとは、グアニジン2分子が窒素原子1個を共有して連なったビグアナイド構造単位が繰り返し重合して結合したポリマーをいう。本実施形態において重合体ビグアナイドの種類は特に制限されるものではないが、なかでもポリアルキレンビグアナイド化合物であることが好ましい。
【0042】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体は、銅化合物を含む。本実施形態において銅化合物の種類は特に制限されないが、分散媒に溶解するものが好ましい。銅化合物が分散媒に溶解することで、銅化合物がスプレーなどのノズルに詰まることがない。また、銅化合物粒子が塗布や印刷した部分からはみ出して滲みを発生させることがないため、抗微生物性が所望される領域に確実に塗布(塗工)、印刷が可能である。
【0043】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体では、上記銅化合物は、銅のカルボン酸塩及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、銅のカルボン酸塩であることがより好ましい。これにより、基材表面に抗微生物組成物を印刷した際、抗微生物組成物の硬化物の表面よりウィルス等の微生物と接触可能な状態で露出した上記銅化合物が、優れた抗微生物活性を発揮することができるからである。
【0044】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体では、上記銅化合物は、二価の銅化合物(銅化合物(II))であることが好ましい。一価の化合物(銅化合物(I))は、分散媒である水に不溶であり、粒子状に局在化する。そのため抗微生物組成物中での分散が不充分であり、抗微生物活性に劣るからである。また、二価の銅化合物を抗微生物組成物中に加え、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物が抗微生物組成物の硬化物中に共存した状態を容易に形成できるという利点も有する。この点からも、水溶性の二価の銅化合物を用いることが最適である。
【0045】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体は、光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、可視光線、紫外線等の光により、容易にラジカルやイオンを発生させ、その際に銅化合物を還元させることができるため、銅の抗微生物活性を高くすることができる。一般に銅(I)の方が銅(II)よりも抗微生物活性が高く、銅が還元されることで抗微生物活性が改善される。このような光重合開始剤による還元作用は、励起エネルギーが低い熱重合開始剤では見られない。
【0046】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体では、上記光重合開始剤は、水に不溶性の光重合開始剤であることが好ましい。水に不溶性の光重合開始剤は、水に触れても溶出しないため、耐水性に優れた抗微生物組成物の硬化物とすることができるからである。
【0047】
上記光重合開始剤は、好ましくは、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及びオキシムエステル系の光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種である。より好ましくは、アルキルフェノン系の光重合開始剤、及びベンゾフェノン系の光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種である。
本明細書において、アルキルフェノン系の光重合開始剤には、アルキルフェノン及びその誘導体が含まれ、ベンゾフェノン系の光重合開始剤には、ベンゾフェノン及びその誘導体が含まれる。
これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0048】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤およびベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系光重合開始剤の濃度が後述する未硬化のバインダに対して0.5~3.0重量%であり、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度が後述する未硬化のバインダに対して0.5~2.0重量%であることが好ましい。電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の含有比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが好ましい。これにより高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。また、上記架橋密度は85%以上が好ましく、特に95%以上が好ましい。
【0049】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体では、重合体ビグアナイドもしくはその塩に加えて、未硬化のバインダを含有していてもよい。未硬化のバインダとしては、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物、及び有機・無機ハイブリッドのバインダからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これにより、密着性に優れた抗微生物組成物の硬化物を、比較的容易に基材表面に固着形成できるからである。
【0050】
上記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により、抗微生物組成物が硬化して基材表面に銅化合物を固着できるからである。また、これらの有機バインダは、光重合開始剤の銅に対する還元力を低下させることがないため有利である。
電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、及びエポキシアクリレート樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。また、熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、及びフェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。
【0051】
上記未硬化のバインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0052】
本発明の実施形態の抗微生物組成物は分散媒を含んでいてもよい。分散媒は、アルコール及び水の少なくともいずれか一方であることが好ましい。これにより、分散媒中に上記銅化合物が良好に分散し、その結果、上記銅化合物が良好に分散した抗微生物組成物の硬化物を形成できるからである。
【0053】
また、上記分散媒は、水と有機溶媒とから構成されていてもよい。上記有機溶媒は、水よりも極性が低いものであることが好ましい。このような有機溶媒としては、アルコール以外の有機溶媒を使用できる。
上記分散媒が水と有機溶媒とから構成されている場合、上記銅化合物は、水溶性であることが好ましい。上記水溶性の銅化合物が水に溶解し、この銅化合物の水溶液が上記有機溶媒に分散することで、上記銅化合物を溶液状態とすることができるからである。
また、上記有機溶媒として水よりも極性の低いものを使用すると、上記銅化合物の水溶液は、上記有機溶媒中に分散してエマルジョン状態とすることができる。
また、上記有機溶媒中には、界面活性剤を添加してもよい。
【0054】
(発明の詳細な説明)
つづいて、本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体について詳細に説明する。
本明細書において、抗微生物組成物および抗微生物基体における「抗微生物」とは、抗ウィルス、抗菌、抗カビ、及び防カビを含む概念である。なかでも、本発明の実施形態の抗微生物組成物は、抗ウィルス組成物であることが好ましい。本発明の効果が最も顕著だからである。
【0055】
本発明の実施形態の抗微生物組成物は、銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩、および光重合開始剤を含み、光触媒を含まないことを特徴とする。
また、本発明の実施形態の抗微生物基体は、基材表面に銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩および光重合開始剤を含み、光触媒を含まない抗微生物硬化物が被着してなることを特徴とする。
【0056】
銅化合物としては、分散媒に溶解する銅化合物が好ましい。また、抗微生物組成物には、着色剤、界面活性剤、カップリング剤、消泡剤、光増感剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、接着促進剤、レオロジー調整剤、及びレベリング剤等を添加してもよい。
【0057】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体は、重合体ビグアナイドもしくはその塩を含む。重合体ビグアナイドは、人体に害がなく、抗微生物活性に優れており、高い抗菌および抗ウィルス活性を有している。また、重合体ビグアナイドはバインダとしての機能を有し、銅化合物を基材表面に固定することができる。さらにバインダである重合体ビグアナイド自身も抗微生物活性を有しているため、バインダの硬化物の固着形態に依存せず、高い抗微生物活性を有している。
【0058】
例えば、一般に銅化合物を含むバインダの硬化物が連続した膜状で基材表面に固着していた場合、バインダ硬化物が島状に基材表面に固着している場合に比べて、バインダ硬化物の表面積が相対的に小さくなり、抗微生物活性が低下してしまう。しかしながら、本発明ではバインダ自身に抗微生物活性があるため、バインダ硬化物の表面積が相対的に小さくなっても、抗微生物活性の低下を補償することができ、全体として高い抗微生物活性を有する抗微生物基体を得ることができる。
【0059】
本実施形態で使用される重合体ビグアナイドとは、グアニジン2分子が窒素原子1個を共有して連なったビグアナイド構造単位が繰り返し重合して結合したポリマーである。重合体ビグアナイドの種類は特に制限されるものではないが、なかでもポリアルキレンビグアナイド化合物であることが好ましく、下記式(I)で示されるものがより好ましい。
【0060】
【化1】
【0061】
[式中、Rは炭素数2~8のアルキレン基、nは2~18の整数を示す。]
【0062】
上記式(I)において、Rで示される炭素数2~8のアルキレン基には、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン(ヘキサメチレン)、ヘプチレン(ヘプタメチレン)、及びオクチレン(オクタメチレン)等の直鎖状のものの他、イソプロピレン、イソブチレン、イソペンチレン、ジメチルプロピレン、及びジメチルブチレン等の分岐鎖状のものも含まれるが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。また、ウィルス不活化効果の点からは、炭素数4~8のアルキレン基が好ましく、ヘキサメチレン基が特に好ましい。なお、式(I)におけるnは2~18の整数であり、ウィルス不活化効果、取扱い性等を考慮すると、好ましくは10~14の整数、より好ましくは11~13の整数である。
【0063】
式(I)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物は、塩酸、硝酸、及び硫酸等の無機酸との塩、または酢酸、乳酸、及びグルコン酸等の有機酸との塩の形態でも用いることができる。かかる塩の中では、塩酸塩、酢酸塩、及びグルコン酸塩が好ましく、塩酸塩が最も好ましく用いられる。本発明の実施形態の抗微生物組成物には、式(I)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩よりなる群から、1種または2種以上を選択して用いる。
【0064】
本発明の実施形態において、重合体ビグアナイドまたはその塩としては、公知の方法、例えば英国特許第702,268号明細書等に記載された方法に従って製造したものを用いることができる。また、市販の製品を用いてもよく、市販製品としては、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(分子量2634 Tクリスタル社製 商品名:除菌・抗菌水)、「エクリンサイドBG」(理工協産株式会社製)、「プロキセルIB」(アーチ・ケミカルズ社製)、「ロンザバックBG」(ロンザジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0065】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体は、銅化合物を含む。銅化合物の種類は特に制限されないが、分散媒に溶解するものが好ましい。
一般に化合物は、共有結合性の化合物、イオン性化合物を指し、錯体は化合物には含まれない。従って、銅錯体(銅錯塩)は本実施形態でいう銅化合物には含まれず、錯塩である銅のアミノ酸塩も本発明の銅化合物には含まれない。本実施形態の銅化合物は、銅を含む共有結合性の化合物、銅を含むイオン性化合物をいう。銅の共有結合性化合物としては、例えば、銅の酸化物、および銅の水酸化物などが挙げられる。また、銅のイオン性化合物としては、銅の硫酸塩、銅のカルボン酸塩、銅の硝酸塩、銅の塩化物、銅のリン酸塩、および銅のアルコキシド等が挙げられる。
【0066】
上記銅化合物は、銅のカルボン酸塩及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、銅のカルボン酸塩であるが、これは、カルボン酸はCOOH基を持ち、樹脂との親和性に優れ、樹脂硬化物により保持されやすく、他の銅の無機塩に比べて、水で溶出しにくいため、耐水性に優れるからである。
上記銅のカルボン酸塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、酢酸銅、安息香酸銅、及びフタル酸銅等が挙げられる。
上記銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、銅の硝酸塩、及び銅の硫酸塩等が挙げられる。
その他の分散媒に溶解する銅化合物としては、例えば、銅(メトキシド)、銅エトキシド、銅プロポキシド、及び銅ブトキシド等が挙げられる。また、銅の共有結合性化合物としては、例えば、銅の酸化物、及び銅の水酸化物等が挙げられる。銅のカルボン酸塩、及び銅の水酸化物は、有機バインダや無機バインダとの親和性が高く、水に溶出しないため、耐水性に優れる。
【0067】
上記銅化合物としては、二価の銅化合物(銅化合物(II))であることが好ましく、二価の銅のカルボン酸塩であることがより好ましい。これにより、基材表面に抗微生物組成物を印刷した際、抗微生物組成物の硬化物の表面よりウィルス等の微生物と接触可能な状態で露出した上記銅化合物が、優れた抗微生物活性を発揮することができるからである。ここで「抗微生物組成物の硬化物の表面よりウィルス等の微生物と接触可能な状態で露出した」とは、銅化合物一部が樹脂硬化物やバインダ硬化物に被覆されておらず、樹脂硬化物やバインダ硬化物の周囲に存在する空気等の雰囲気媒体と接触可能な状態にあることをいい、樹脂硬化物やバインダ硬化物に形成されている開気孔の内部に銅化合物が周囲の空気等の雰囲気媒体と接触可能な状態で存在している場合も、露出していることとなる。なお、閉気孔の内壁面から銅化合物の少なくとも一部が露出していても、電磁波硬化型樹脂の硬化物やバインダ硬化物の周囲の空気等の雰囲気媒体から孤立しているため、「露出」の概念に含まないこととする。
【0068】
一価の化合物(銅化合物(I))は、分散媒である水に不溶であり、粒子状に局在化する。そのため微生物組成物中への分散が不充分であり、抗微生物活性に劣るからである。また、二価の銅化合物を抗微生物組成物中に加え、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物が抗微生物組成物の硬化物中に共存した状態を容易に形成できるという利点も有する。この点からも、水溶性の二価の銅化合物を用いることが最適である。
【0069】
上記二価の銅のカルボン酸塩としては、酢酸銅(II)、安息香酸銅(II)、及びフタル酸銅(II)等が挙げられる。上記二価の銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅(II)、及び硫酸銅(II)等が挙げられる。
その他の二価の銅化合物としては、例えば、銅(II)(メトキシド)、銅(II)エトキシド、銅(II)プロポキシド、及び銅(II)ブトキシド等が挙げられ、銅の共有結合性化合物としては銅の酸化物、及び銅の水酸化物等が挙げられる。
【0070】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体は、未硬化のバインダを含有していてもよい。上記未硬化のバインダとしては、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0071】
上記有機バインダとしては、例えば熱硬化型樹脂、及び電磁波硬化型樹脂等を使用することができる。これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により、抗微生物組成物が硬化して基材表面に銅化合物を固着できるからである。また、これらの有機バインダは、光重合開始剤の銅に対する還元力を低下させることがないため有利である。
上記電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、及びエポキシアクリレート樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。また、上記熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、及びフェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。
【0072】
また、上記無機バインダとしては、例えば無機ゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。さらに、有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。上記無機ゾルにおけるシリカ等の無機酸化物の含有割合は、固形分換算で1~80重量%が好ましい。
【0073】
具体的には、上記未硬化のバインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。金属アルコキシドとしては、例えばアルコキシシランを使用することができる。加水分解によりシロキサン結合を形成してゾルとなり、乾燥によってゲル化して硬化することができるからである。シリカゾル、アルミナゾル及び水ガラスについても、加熱、乾燥させることにより硬化することができる。
【0074】
なお、上記電磁波硬化型樹脂とは、電磁波照射により原料であるモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応等が進行して製造される樹脂を意味している。また、上記熱硬化型樹脂とは、熱により原料であるモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応等が進行して製造される樹脂を意味している。従って、上記抗微生物組成物および抗微生物基体が上記電磁波硬化型樹脂を含む場合、上記電磁波硬化型樹脂の原料となるモノマーやオリゴマー(未硬化の電磁波硬化型樹脂)を含有している。
【0075】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体は、光重合開始剤を含む。上記光重合開始剤としては、水に不溶性の光重合開始剤であることが好ましい。これにより、水に触れても溶出しないため、抗微生物組成物の硬化物を劣化させることがなく、銅化合物の脱離を招かないからである。また、上記銅化合物が水溶性であっても、抗微生物組成物を硬化させた際に、銅化合物がバインダにより保持されていれば、脱離を抑制できる。
【0076】
本発明の実施形態の抗微生物組成物では、還元力のある光重合開始剤を用いることが好ましい。上記銅化合物を抗ウィルス効果等の抗微生物効果を持つ銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化して抗微生物の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できるからである。また、銅(I)の還元力によって、銅イオン(I)が空気中の水や酸素を還元することで、活性酸素、過酸化水素水やスーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカル等を発生させてウィルスまたはカビを構成する蛋白を効果的に破壊するからである。
【0077】
上記光重合開始剤は、具体的にはアルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系の光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0078】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1,2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホニル)フェニル]-1-ブタノン等が挙げられる。
【0079】
上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、及び3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0080】
上記アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0081】
上記分子内水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、オキシフェニルサクサン、及び2-[2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルトオキシフェニル酢酸と2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステルとの混合物等が挙げられる。
【0082】
上記オキシムエステル系の光重合開始剤としては、例えば、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0083】
本発明では、光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、及び、ベンゾフェノン系の光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの光重合開始剤は紫外線等の電磁波により還元力を発現するからである。上記光重合開始剤のなかで、特に、ベンゾフェノン系の光重合開始剤が好ましい。
【0084】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤及びベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度が上記未硬化のバインダに対して0.5~3.0重量%であり、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度が上記未硬化のバインダに対して0.5~2.0重量%であることが好ましい。上記アルキルフェノン系の光重合開始剤と上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の含有比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが好ましい。これにより高い架橋密度を実現でき、抗微生物組成物の硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。また上記架橋密度は85%以上が好ましく、特に95%以上が好ましい。
【0085】
本発明の実施形態の抗微生物組成物は、分散媒を含んでいてもよい。上記分散媒の種類は特に限定されるものではないが、安定性を考慮した場合にはアルコール類や水を使用することが好ましい。上記二価の銅化合物の溶解度を考慮すると水が最適である。
アルコール類としては、粘性を下げることを考慮して、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、及びsec-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。これらのアルコールのなかでは、粘度が高くなりにくいメチルアルコール、及びエチルアルコールが好ましい。また、アルコールと水との混合液を使用することができる。
【0086】
また、上記分散媒は、水と有機溶媒とから構成されていてもよい。有機溶媒は水よりも極性の低いものであることが好ましい。
上記分散媒が水と有機溶媒とから構成されている場合、上記銅化合物は、水溶性であることが好ましい。上記水溶性の銅化合物が水に溶解し、この銅化合物の水溶液が上記有機溶媒に分散することで、上記銅化合物を溶液状態とすることができるからである。
また、上記有機溶媒として水よりも極性が低い有機溶媒を使用すると、上記銅化合物の水溶液は、水よりも極性が低い有機溶媒中に分散してエマルジョン状態とすることができる。
また、上記有機溶媒中には、界面活性剤を添加してもよい。
【0087】
上記水よりも極性の低い有機溶媒としては、酢酸エチル、エチルプロピオネート、エチル-n-ヘキサネート、n-ヘキサン、ベンゼン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン及びキシレンから選択される少なくとも1種が好ましい(特開平8-165210号公報参照)。
【0088】
上記界面活性剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いることができる。上記銅化合物の水溶液を上記有機溶媒中に好適に分散させる観点からは、リン酸エステル型アニオン界面活性剤が好ましい。銅化合物(II)が還元されて生成する銅(I)が再び酸化されることを抑制できるからである。
【0089】
本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体は、着色剤を含んでいてもよい。上記着色剤としては、着色剤としては顔料、染料等が挙げられる。
【0090】
上記顔料としては、例えば、ラピスラズリ、ウルトラマリン青、弁柄(天然酸化鉄赤)、辰砂(硫化水銀)、アンバー、シェンナ、炭酸カルシウム(白色)、カオリン(粘土、淡色)、チタン白(二酸化チタン)や亜鉛華(酸化亜鉛)、カドミウム黄、ニッケルチタン黄、ストロンチウム黄、含水酸化クロム、酸化クロム、及びアルミ酸コバルト等が挙げられる。
上記染料としては、オレンジII、インディゴやインダンスレン、ペリノンオレンジ、及びフラバンスロンイエロー等が挙げられる。
上記着色剤は、分散媒に溶解することが好ましい。上記着色剤に起因するスプレー等のノズルの詰まりが発生しないからである。
【0091】
また、本発明の実施形態の抗微生物組成物および抗微生物基体は、光触媒を含まない。これにより、光触媒による酸化、還元により重合体ビグアナイドやバインダが劣化することを防止できるからである。ここで、光触媒とは、光を吸収して触媒作用を示す物質を意味する。
【0092】
本発明の実施形態の抗微生物組成物において、上記重合体ビグアナイドもしくはその塩の抗微生物組成物中の含有割合は、0.001~50重量%であることが好ましい。上記範囲であることで、過剰に重合体ビグアナイドを使用することなく、効率的に抗微生物性を発現できるからである。
【0093】
上記抗微生物組成物中の銅化合物の含有割合は、0.1~30重量%が好ましい。上記範囲であることで、銅による着色を防止しつつ、高い抗微生物活性を発現できるからである。
【0094】
上記抗微生物組成物中の光重合開始剤の含有割合は、0.1~20重量%が好ましい。上記範囲であることで、重合体ビグアナイドとの副反応を防止しつつ銅化合物を効率的に還元できるからである。
【0095】
また、分散媒の含有割合は、30~80重量%が好ましい。上記範囲であることで、重合体ビグアナイドやバインダを十分に分散させて粘度を下げ、塗工しやすくできるからである。
【0096】
上記未硬化のバインダとして未硬化の電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)を付加的に用いた場合は、未硬化の電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)の含有割合は、15~50重量%が好ましい。上記範囲であることで、銅化合物や重合体ビグアナイドと基材表面との密着性を改善できるからである。
【0097】
また、上記未硬化のバインダとして未硬化の無機バインダを用いた場合は、上記抗微生物組成物中の銅化合物の含有割合は、0.1~30重量%が好ましく、分散媒の含有割合は、30~80重量%が好ましい。この場合、上記混合組成物中のシリカ等の無機酸化物の含有割合は、5~20重量%となる。
【0098】
また、上記抗微生物組成物中の着色剤の含有割合は、1~20重量%が好ましい。上記範囲であることで、光重合開始剤による銅化合物の還元反応を阻害せず、着色性を維持できるからである。
【0099】
また、上記分散媒が、水(水溶性の銅化合物を含んでいてもよい)及び水よりも極性が低い有機溶媒から構成されていている場合は、水(水溶性の銅化合物を含んでいてもよい)と水よりも極性が低い有機溶媒との含有比率は、重量比で水/有機溶媒=0.5/100~50/100であることが好ましい。上記範囲であることで、バインダとして樹脂を採用した場合でも樹脂を十分に分散させることができるからである。
【0100】
また、上記界面活性剤の含有割合は、本発明の抗微生物組成物中に0.1~5重量%であることが好ましい。上記範囲であることで、塗布性が改善されるからである。
【0101】
上記抗微生物組成物を調製する際には、例えば、分散媒に銅化合物と未硬化のバインダ成分と光重合開始剤を添加した後、ミキサー等で充分に攪拌することにより、均一な濃度で分散した抗微生物組成物を得ることができる。
【0102】
本発明の実施形態の抗微生物基体は、基材表面に銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩および光重合開始剤を含み、光触媒を含まない抗微生物硬化物が被着してなることを特徴とする。本実施形態の抗微生物基体の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、基材の表面に、銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩、および光重合開始剤を含み、光触媒を含まない抗微生物組成物を塗布(塗工)する塗布工程と、上記塗布工程により塗布された上記抗微生物組成物を硬化させる硬化工程とを含む。
【0103】
塗布工程において、銅化合物、重合体ビグアナイドもしくはその塩および光重合開始剤を含み、光触媒を含まない抗微生物組成物は、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材、及び紙等の基材に印刷することができる。
また、上記基材となる部材は、特に限定されるものではなく、タッチパネルの保護用フィルムやディスプレイ用のフィルムのようなフィルム状、デスクシートや飛沫防止用のカーテンのようなシート状であってもよく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり等であってもよい。また、ドアノブ、及びトイレのスライド鍵等でもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、衣服、及びマスクなどの繊維質基材であってもよい。また、上記内装材の外、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0104】
基材の表面への上記抗微生物組成物を塗布(塗工)する方法としては、例えば、刷毛による塗布、スプレーコート法、バーコータやスキージによる塗工、静電塗装、インクジェット印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、及びフレキソ印刷等の種々の印刷手法を用いて、基材表面の抗微生物性が要求される領域に塗布される。
【0105】
硬化工程において、上記抗微生物組成物を硬化する方法としては、特に制限されないが、例えば、乾燥による分散媒除去、加熱や電磁波照射によるモノマー、及びオリゴマーの重合促進等がある。上記乾燥は、減圧乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。
また、上記未硬化のバインダが熱硬化型樹脂の場合は、例えば、加熱により硬化が進行する。加熱はヒータ、赤外線ランプ、及び紫外線ランプ等で行うことができる。
上記未硬化のバインダが電磁波硬化型樹脂である場合に照射する電磁波としては、特に限定されず、例えば、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、及び電子線(Electron Beam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が好ましい。
【0106】
本発明の実施形態の抗微生物組成物中および抗微生物基体には、上記した光重合開始剤が添加されているので、上記未硬化のバインダとしてモノマーやオリゴマーを含む場合は、それらの重合反応が進行する。また、上記光重合開始剤は銅を還元するため、銅(II)を銅(I)に還元でき、銅(I)の量を増やすことができるため、ウィルス等の抗微生物活性の高い抗微生物組成物および抗微生物基体が得られる。
【0107】
本発明の実施形態の抗微生物基体においては、基材の抗微生物性が要求される領域に抗微生物組成物の硬化物が島状に分散していてもよい。これにより、基材表面に、上記硬化物が存在せず、基材表面が露出している部分が存在し、上記硬化物の厚さも薄くなり、可視光線の基材表面に対する透過率が低下するなど不都合を防止することができる。そのため、基材が透明な材料である場合には、基材の透明性が低下することはなく、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合には、意匠等の外観を損ねることもない。また、上記硬化物の基材表面との接触面積を小さくすることができ、硬化物の残留応力や冷熱サイクル時に発生する応力を抑制することが可能となり、基材と高い密着性を有する上記硬化物を形成することができる。また、バインダ硬化物の表面積が大きくなり、また、ウィルスを硬化物間にトラップさせやすくなるため、抗ウィルス性能を持つ上記硬化物とウィルスとの接触確率が高くなり、高い抗ウィルス性能を発現できる。
ここで、島状とは、基材表面の上記硬化物が他の硬化物と接触しない孤立した状態で存在していることをいう。島状に散在している硬化物の形状は特に限定されず、その輪郭を平面視した際、円形、楕円形等の曲線から構成される形状であってもよく、多角形等の形状であってもよく、円形、楕円形等が細い部分を介して繋がり合ったような形状であってもよい。
【0108】
または、上記抗微生物組成物の硬化物は、基材表面の抗微生物性が要求される領域に設けられ、抗微生物組成物の硬化物が固着して設けられた領域と当該硬化物が設けられず、基材表面が露出している領域が混在していてもよい。これにより、抗微生物組成物の硬化物の比表面積が大きくなり、高い抗微生物活性を発現できるからである。
【0109】
または、上記抗微生物硬化物は連続した膜状であってもよい。一般に銅化合物を含むバインダの硬化物が連続した膜状で基材表面に固着していた場合、バインダ硬化物が島状に基材表面に固着している場合に比べて、バインダ硬化物の表面積が相対的に小さくなり、抗微生物活性が低下してしまう。しかしながら、本発明ではバインダ自身に抗微生物活性があるため、バインダ硬化物の表面積が相対的に小さくなっても、抗微生物活性の低下を補償することができ、全体として高い抗微生物活性を有する抗微生物基体を得ることができる。
【0110】
本発明の実施形態の抗微生物基体において、上記抗微生物組成物の硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅は、0.1~500μmであることが好ましい。また、上記抗微生物組成物の硬化物の厚さの平均値は、0.1~50μmであることが好ましい。これにより剥離しにくく、過剰な銅化合物や重合体ビグアナイドを使用しなくても、効率的に抗微生物機能を発現させることができるからである。
【実施例0111】
(実施例1)
(1)酢酸銅水溶液の調製
酢酸銅の濃度が1.53wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬社製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。
(2)光重合開始剤の調製
光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)10重量部と光重合開始剤であるベンゾフェノン5重量部を混合して、水に不溶性の光重合開始剤の混合物を得た。IGM社製 Omnirad184は、IGM社製 Omnirad184は、BASF社製のIrgacure184と同一物質であり、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
(3)抗ウィルス組成物の調製
上記(1)で調製した1.53重量%酢酸銅水溶液99重量部と0.05重量%のポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(分子量2634 Tクリスタル社製 商品名:除菌・抗菌水)の水溶液99重量部、上記(2)で調製した光重合開始剤2重量部を混合して、抗ウィルス組成物を調製した。得られた抗ウィルス組成物は、当該組成物あたり酢酸銅を0.76重量%、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩を0.025重量%、光重合開始剤を1重量%含有する。
(4)抗ウィルス組成物の塗布
黒色メラミン化粧板の表面に、上記(3)で調製した抗ウィルス組成物を、刷毛を用いて、黒色メラミン化粧板の抗ウィルス性が要求される面(全面)に塗布し、80℃で120分間乾燥させた。この刷毛による塗工と乾燥を10回繰り返して連続した抗ウィルス組成物の乾燥硬化膜を得た。
(5)紫外線照射
この後、連続した抗ウィルス組成物の乾燥硬化膜が形成された黒色メラミン化粧板の硬化膜形成面から、紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cmの照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、抗ウィルス組成物の硬化物が連続した膜状に被着した抗ウィルス基体を得た。
【0112】
(実施例2)
(1)実施例1と同様に抗ウィルス組成物を調製した後、7.5g/分の噴出速度で分散媒を含んだ状態で4g/mに相当する抗ウィルス性組成物をスプレーガン(明治機械製作所製 FINER SPOT G12)を用い、0.1MPaのエアー圧力で霧状に散布し、抗ウィルス性組成物の液滴を黒色メラミン化粧板の抗ウィルス性が要求される面(全面)に付着させた。
(2)上記(1)で抗ウィルス性組成物の液滴を抗ウィルス性が要求される面(全面)に付着させた黒色メラミン化粧板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cmの照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、繊維の表面に銅化合物を含むバインダ硬化物が島状に固着した抗ウィルス基体を得た。
【0113】
(比較例1)
(1)2.5重量部のポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(Arch Chemicals Inc.製 商品名Cosmocil CQ(20%固形のポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩))を水100重量部に溶液させて0.5重量%のポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(以下、PHMBと略する)水溶液を調製した。この水溶液に、クエン酸を3重量%となるように、N-アルキル・ポリグルコキシド(Cognis Corp.製 商品名Glucоpоn220up)0.3重量%となるように、酸化銅含有ポリプロピレン樹脂粉末(Cupron Inc.製 商品名Cuprоn CuO、CuOを25重量%、ポリプロピレンを75重量%含む樹脂粉末)を20重量%となるようにそれぞれ添加して攪拌混合し、抗ウィルス組成物を得た。
(2)黒色メラミン化粧板の表面に、上記(1)の抗ウィルス組成物を刷毛で塗布して、オーブンの中に約80℃で約30分間(又は、一定の重量に到達するまで)加熱する。ポリプロピレンが溶融する149℃(華氏300度)まで昇温して、5分放置して、黒色メラミン化粧板表面に酸化銅、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩が付着した黒色メラミン化粧板が得られた。
【0114】
(抗ウィルス活性の測定)
実施例1、2及び比較例1で調製した抗ウィルス基体の抗ウィルス活性を測定した。抗ウィルス活性の測定試験は以下のように実施した。
実施例1、2及び比較例1で得られた抗ウィルスインクの印刷物における抗ウィルス活性を評価するために、JIS Z 2801 抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果を改変した手法を用いた。改変点は、「試験菌液の接種」を「試験ウィルスの接種」に変更した点である。ウィルスを使用することによる変更点についてはすべてJIS L 1922繊維製品の抗ウィルス性試験方法に基づき変更した。測定結果は実施例1、2及び比較例1で得られた抗微生物部材についてJIS L 1922付属書Bに基づき、大腸菌への感染能力を失ったファージウィルス濃度をウィルス不活度として表示した。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活性化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用し、このウィルス不活度に基づいて抗ウィルス活性値を算出した。
【0115】
以下、手順を具体的に記載する。
(1)実施例1、2及び比較例1で得られた抗ウィルスインクの印刷物を1辺50mm角の正方形に切り出して試験試料とした。この試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験ウィルス液(>10PFU/mL)を0.4mL接種する。試験ウィルス液は10PFU/mLのストックを精製水で10倍希釈したものを使用した。
(2)対照試料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様にウィルス液を接種した。
(3)接種したウィルスの液の上から40mm角のポリエチレンを被せ、試験ウィルス液を均等に接種させた後、25℃で所定時間反応させた。
(4)接種直後または反応後、SCDLP培地10mLを加え、ウィルス液を洗い流した。
(5)JIS L 1922付属書Bによってウィルスの感染値を求めた。
(6)以下の計算式を用いて抗ウィルス活性値を算出した。
Mv=Log(Vb/Vc)
Mv:抗ウィルス活性値
Log(Vb):ポリエチレンフイルムの所定時間反応後の感染値の対数値
Log(Vc):試験試料の所定時間反応後の感染値の対数値
参考規格 JIS L 1922、JIS Z 2801
測定方法は、プラーク測定法によった。
得られた抗ウィルス活性値は実施例1で5.0、実施例2で5.2、比較例1で2.9であった。
【0116】
実施例1及び2より、抗ウィルス組成物の硬化物の形状に依存することなく、抗ウィルス活性(抗微生物活性)に優れる抗微生物インクが得られることを確認した。
一方、比較例1では抗ウィルス活性が低い結果となった。これは比較例1では光重合開始剤がなく、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩による酸化作用、加熱溶融による酸化作用で、酸化銅がCuOのみとなり、抗ウィルス活性が低下したものと推定される。