IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社やまびこの特許一覧

特開2022-109217作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置
<>
  • 特開-作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置 図1
  • 特開-作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置 図2
  • 特開-作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置 図3
  • 特開-作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置 図4
  • 特開-作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置 図5
  • 特開-作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置 図6
  • 特開-作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置 図7
  • 特開-作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置 図8
  • 特開-作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置 図9
  • 特開-作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109217
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20220720BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20220720BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20220720BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20220720BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20220720BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20220720BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20220720BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
F02D45/00 362
F02D29/02 J
F02D29/06 D
F02D29/06 N
B60K6/46 ZHV
B60K6/24
B60K6/52
B60W10/06 900
B60W10/26 900
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167079
(22)【出願日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2021004370
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】100098187
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 正司
(72)【発明者】
【氏名】衞藤 邦淑
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐則
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊治
(72)【発明者】
【氏名】野澤 勝
(72)【発明者】
【氏名】小林 佑太
【テーマコード(参考)】
3D202
3G093
3G384
【Fターム(参考)】
3D202AA00
3D202AA07
3D202BB04
3D202BB19
3D202CC24
3D202CC59
3D202DD24
3D202DD44
3D202DD45
3D202EE01
3D202FF02
3G093AA09
3G093AB04
3G093BA14
3G093BA19
3G093CA11
3G093DA01
3G093DA06
3G093EA03
3G384AA01
3G384AA04
3G384AA25
3G384AA28
3G384BA03
3G384CA18
3G384CA28
3G384CA29
3G384DA02
3G384DA03
3G384DA04
3G384FA04Z
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】小型軽量を維持しながら排気ガス対策を実現可能な作業機用の動力源として、ハイブリッド化に好適な2ストロークエンジン、作業機用シリーズ・ハイブリッド装置を提供する。
【解決手段】スロットルバルブ(20)を駆動するためのスロットル用モータ(22)と、クランク室(420)を含む吸気系(18)に配置された燃料噴射装置(430)と、スロットル用モータ(22)と燃料噴射装置を制御する制御ユニット(24)とを有する。2ストロークエンジンはスロットルバルブ(20)が全開のときのエンジン回転数が4,500rpm~7,000rpmとなるように設計される。そして、制御ユニット(24)によりスロットル全開の下で動作し、2ストロークエンジンによって発電機(6)が発電した電力がバッテリ(8)に充電される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンと、該内燃エンジンに連結された発電機と、該発電機で生成した電力を蓄電するバッテリと、該バッテリから電力の供給を受けて動作するモータとを含み、作業機の動力源を構成するシリーズ・ハイブリッド装置において、
該シリーズ・ハイブリッド装置に組み込まれる前記内燃エンジンが2ストロークエンジンで構成され、
該2ストロークエンジンが、
吸気系に配置されたスロットルバルブを駆動するためのスロットル用モータと、
クランク室を含む前記吸気系に配置され、該吸気系に燃料を噴射する燃料噴射装置と、
前記スロットル用モータと前記燃料噴射装置を制御する制御ユニットとを有し、
2ストロークエンジンは前記スロットルバルブが全開のときのエンジン回転数が4,500rpm~7,000rpmとなるように設計され、
前記2ストロークエンジンは前記制御ユニットによりスロットル全開の下で動作し、
該2ストロークエンジンによって前記発電機が発電した電力を前記バッテリに充電することを特徴とする作業機用2ストロークエンジン。
【請求項2】
前記バッテリから供給される電力によって前記発電機を始動用モータとして動作させて、該発電機によって前記2ストロークエンジンが始動される、請求項1に記載の作業機用2ストロークエンジン。
【請求項3】
前記燃料噴射装置から噴射される燃料が潤滑オイルを含む混合燃料であり、
前記2ストロークエンジンが始動した直後からスロットル全開で運転される、請求項1又は2に記載の作業機用2ストロークエンジン。
【請求項4】
前記制御ユニットは前記燃料噴射装置が吐出する燃料の空燃比を制御する空燃比制御部を有し、
前記燃料の空燃比を制御することによりスロットル全開でのエンジン出力を制御する、請求項1~3のいずれか一項に記載の作業機用2ストロークエンジン。
【請求項5】
前記2ストロークエンジンの点火プラグの点火タイミングを制御することによりスロットル全開でのエンジン出力が制御される、請求項1~4のいずれか一項に記載の作業機用2ストロークエンジン。
【請求項6】
前記作業機用2ストロークエンジンが層状掃気式エンジンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の作業機用2ストロークエンジン。
【請求項7】
ボアストローク比が1以上であるスクエアストロークエンジン又はロングストロークエンジンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の作業機用2ストロークエンジン。
【請求項8】
扁平なドーム型燃焼室を有し、
エンジン圧縮比が12.0~16.0である、請求項1~7のいずれか一項に記載の作業機用2ストロークエンジン。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の作業機用2ストロークエンジンを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置。
【請求項10】
前記シリーズ・ハイブリッド装置に含まれ、前記バッテリから電力の供給を受けて動作するモータが作業用モータで構成され、
該作業用モータの動作中に前記2ストロークエンジンがスロットル全開の下で動作して前記バッテリの充電が実行される、請求項9に記載の作業機用シリーズ・ハイブリッド装置。
【請求項11】
前記作業機が走行する作業機であり、
前記シリーズ・ハイブリッド装置に含まれ、前記バッテリから電力の供給を受けて動作するモータが、前記作業機が走行するための走行用モータで構成され、
該走行用モータの動作中に前記2ストロークエンジンがスロットル全開の下で動作して前記バッテリの充電が実行される、請求項9に記載の作業機用シリーズ・ハイブリッド装置。
【請求項12】
前記作業機が走行する作業機であり、
前記シリーズ・ハイブリッド装置に含まれ、前記バッテリから電力の供給を受けて動作するモータが、前記作業機が走行するための走行用モータと、前記作業機が作業するための作業用モータとを含み、
前記走行用モータと前記作業用モータの少なくとも何れかのモータが動作している最中に限定して前記2ストロークエンジンが動作して前記バッテリの充電が実行される、請求項9に記載の作業機用シリーズ・ハイブリッド装置。
【請求項13】
前記制御ユニットが、前記バッテリの充放電を制御する充放電制御部を有し、
前記バッテリの消費電力が充電電力よりも多いときに前記2ストロークエンジンがスロットル全開の下で混合気の空燃比及び/又は点火タイミングによりエンジン出力を高める制御が実行される、請求項9~12のいずれか一項に記載の作業機用シリーズ・ハイブリッド装置。
【請求項14】
前記制御ユニットは前記燃料噴射装置が吐出する燃料噴射量およびサイクルごとの噴射時間を制御することでエンジンの空燃比を制御する空燃比制御部を有し、
前記2ストロークエンジンの制御モードとして、均質燃焼モードと、成層燃焼モードとを有し、
前記均質燃焼モードでは、掃気行程において燃料噴射が実行され、
前記成層燃焼モードでは、掃気行程以外の行程で燃料噴射が実行され、
前記均質燃料モードにおける空燃比が、前記成層燃焼モードにおける空燃比よりもリーンである、請求項1に記載の作業機用2ストロークエンジン。
【請求項15】
温間時に前記均質燃焼モードが実行され、冷間時に前記成層燃焼モードが実行される、請求項14に記載の作業機用2ストロークエンジン。
【請求項16】
掃気行程において、混合気を燃焼室の頂部に差し向けるブースターポートと、
該ブースターポートとクランク室とを連通させるブースター通路とを更に有し、
前記燃料噴射装置が、前記ブースター通路の入口又はその近傍に配置されている、請求項14又は15に記載の作業機用2ストロークエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業機に搭載される2ストロークエンジン(以下、「2stエンジン」という。)に関し、より詳しくは、作業機のハイブリッド化に好適な2stエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歴史的に、2stエンジンは、年々強化される排気ガス規制の下で乗用車から排除され、次いでモータサイクル(オートバイ)からも排除され、今日では乗用車、モータサイクルのエンジンは4ストロークエンジン(以下、「4stエンジン」という。)で占められている。
【0003】
作業機は小型且つ軽量であることが本来的に求められるだけでなく、使用環境が様々であり、且つ、傾けたり反転させて使用される。2stエンジンは4stエンジンに比べて機構が簡素である。特にピストンバルブ方式の2stエンジンはエンジン本体に動弁系部品を有していないことから信頼性が高く且つ小型で軽量であるという特徴を有している。作業機の使用態様を念頭に置くと、作業機の動力源として2stエンジンの特性が適している。このことから2stエンジンは作業機の動力源として採用され続け、歴史的に気化器との組み合わせで作業機用2stエンジンが進化している。このことから、現在の作業機は、気化器を組み込んだ2stエンジンで動力源が構成されている。
【0004】
作業機においても排気ガス規制が年々強化されている。しかし、2stエンジンの開発者は絶えることなく排気ガス規制に打ち勝つ技術を開発し続け、実用化している。その典型例が層状掃気式エンジン(特許文献1)であり、気化器の電子制御装置(特許文献2)である。軽量化及び簡素化のために、作業機に搭載されるセンサの数は限定的であり、発電機で生成した電力は主として点火プラグの点火に用いられている。
【0005】
昨今の排気ガス規制に対応するために乗用車、モータサイクルの電動化が進んでいる。作業機業界においても、既にモータ駆動式が数多く販売されている。作業機は上述したように小型且つ軽量であることが求められるため、大容量のバッテリを作業機に搭載することができない。この問題は作業時間が限定的になるということに通じる。実際、市販の電動式作業機は30分程度使用するとバッテリが空になってしまうため、長時間の使用には不適である。また、特に、作業機の多くは圃場や山林など、充電電源を確保できない屋外で用いられるため、電動化・ハイブリッド化とも、限定的な普及に留まっている。
【0006】
乗用車において、比較的小型のバッテリを搭載し且つ航続距離を延長する技術が提案され、既に実用化されている。航続距離を延長するシステムは、エンジンを発電専用として用いている。日産自動車株式会社の「e-Power」がその典型例である。e-Powerは4stエンジンと発電機の組み合わせでバッテリを充電し、このバッテリをエネルギ源とするモータのみで走行するシリーズ・ハイブリッドシステムである。
【0007】
ハイブリッドシステムは、エンジン、発電機、モータ、バッテリが必要とされ、大型且つ重くなるという欠点がある。この欠点は、小型軽量が求められる作業機にとって致命的である。しかしながら、作業機にあっても排気ガス対策は喫緊の課題である。作業機の動力源に関し、特許文献1~4は作業機用のハイブリッド装置を提案している。なお、特許文献3~6に開示のエンジンは2stエンジンであるか、4stエンジンであるか明確でないが、特許文献3~6の発明者は4stエンジンを想定して作業機用のハイブリッド装置を提案したと推察できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】USP6,289,856
【特許文献2】USP9,255,535
【特許文献3】実開平4(1992)-19184号公報
【特許文献4】特開昭63(1988)-199103号公報
【特許文献5】特開2004-166543号公報
【特許文献6】特開2020-115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、小型軽量を維持しながら排気ガス対策を実現可能な作業機用の動力源として、ハイブリッド化に好適な2stエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置を提供することにある。より詳細には、駆動源部分の重量化を防ぎながら、エンジン出力を効率よく安定的に取り出し、バッテリに蓄電された電力を作業用駆動源として用いることで、小型軽量で耐傾斜性に優れ、かつ長時間運転が可能な、作業機用シリーズ・ハイブリッド装置を提供することにある。
【0010】
上記の技術的課題を達成するため、本発明者らは、作業機用動力源のハイブリッド化に対して2stエンジンを用い、そのメリットを引き出した。すなわち、(1)傾斜時の運転安定性に優れる(2)混合燃料を用い、別途のオイル貯蔵装置を備えないため、作業機が傾いたり転倒してもオイル漏れの問題を発生しない。(3)2stエンジンはその本体に動弁系部品を備えていないため、構造が簡素で重量化を抑制できる。
【0011】
4stエンジンを採用した場合との比較において、(i)2stエンジンは動弁系を駆動するためのエネルギを必要としない。(ii)2stエンジンは4stエンジンに比べて高圧縮化が構造上容易である。(iii)2stエンジンは4stエンジンに比べてロングストローク化との相性が良い。ロングストローク化することで、燃焼室の表面積が相対的に小さくなるため冷却損失を低減できる。上記(ii)及び(iii)によって2stエンジンの熱効率を高めることができる。(iv)動弁系が発する騒音、振動、故障リスク等を低減できる。
【0012】
従来、作業機に用いられる2stエンジンは、作業形態・作業負荷の多様性に対応するため、加減速を含む広い回転数領域が設定され、その全域が用いられてきた。そして、作業中において、より高い出力を求めるためにエンジン回転数を高めるというのが従来の2stエンジンの設計思想の基本であり、現在の2stエンジンはスロットル全開でエンジン回転数(作業領域での回転数)が10,000rpm前後に達している。2stエンジン設計者はアイドル領域から高回転領域に至るその過渡領域を含む全領域を念頭においてエンジン設計を行っている。
【0013】
本発明では、従来、多様な作業形態・作業負荷に対して、エンジン出力そのものを変化させて追従してきた部分をモータによる出力調整に置き換える。また、この2stエンジンを、高効率を優先した所定の全開回転数領域で連続運転することで、最も効率の良い運転状態で、バッテリへ迅速に充電できる。充電されたバッテリからの出力は作業状況に合わせ適宜に変化させ得るため、エンジンの出力効率は低下させることなく、作業にはモータにより低回転~高回転までの幅広い出力を適用することができる。更に、本発明者らは、2stエンジンを常にスロットル全開で運転すれば、この限定した運転状態に絞り込んでエンジン設計を最適化でき、従来の2stエンジンで問題であった排気ガス対策をも改善することができることを発見した。このように、従来の広い回転数領域を想定したエンジン設計思想から、効率を重視した所定の回転数領域のみを利用する設計思想へと見直してハイブリッド化することで、2stエンジンの燃料消費率を低減しながら最も効率の良い発電が可能である。
【0014】
次に、本発明者らは、ハイブリッド化に好ましい2stエンジンとして、スロットル全開でのエンジン回転数を抑え込むことを検討した。すなわち、従来の2stエンジンにおける過渡領域のエンジン回転数に制限して、例えばスロットル全開のエンジン回転数を4,500rpm乃至7,000rpm、好ましくは5,000rpm乃至6,500rpm、更に好ましくは5,000rpm乃至6,000rpmとなるように設計すれば、従来の2stエンジンが高回転領域で発していた騒音を低減でき、また燃焼室のガス交換の時間が長くなるため、未燃成分の排出量を低減することができる。更に、回転数の低下に伴いエンジンの本体温度も低下するため、エンジンの異常摩耗やピストンの焼き付きを防止することができる。
【0015】
また、燃料供給系統に関しては、前述したように作業機用2stエンジンは、その内部にエンジンの負圧によって吸引される燃料孔を備えた気化器との組み合わせで普及し、排気ガス対策に対して気化器の電子制御が普及して現在に至っている。本発明者らは、この気化器に代えて燃料噴射装置を利用し、燃料噴射装置が有する特性つまり混合気を緻密にA/F制御できる点に着目した。燃料噴射装置を制御することで、混合気のA/F及び燃料噴射タイミングを自在に且つ迅速に制御することで、排気ガス対策を改善できるだけでなく混合気のA/Fによってエンジン出力を自在に増減できる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
内燃エンジンと、該内燃エンジンに連結された発電機と、該発電機で生成した電力を蓄電するバッテリと、該バッテリから電力の供給を受けて動作するモータとを含み、作業機の動力源を構成するシリーズ・ハイブリッド装置において、
該シリーズ・ハイブリッド装置に組み込まれる前記内燃エンジンが2ストロークエンジンで構成され、
該2ストロークエンジンが、
吸気系に配置されたスロットルバルブを駆動するためのスロットル用モータと、
クランク室を含む前記吸気系に配置され、該吸気系に燃料を噴射する燃料噴射装置と、
前記スロットル用モータと前記燃料噴射装置を制御する制御ユニットとを有し、
2ストロークエンジンは前記スロットルバルブが全開のときのエンジン回転数が4,500rpm~7,000rpmとなるように設計され、
前記2ストロークエンジンは前記制御ユニットによりスロットル全開の下で動作し、
該2ストロークエンジンによって前記発電機が発電した電力を前記バッテリに充電することを特徴とする作業機用2ストロークエンジン及びこれを組み込んだ作業機用シリーズ・ハイブリッド装置を提供することにより達成される。ここに、「スロットルバルブの全開」とは完全にスロットルバルブを開けた状態に限らず、スロットルバルブの全開時のエンジン出力の調整のためにスロットルバルブの完全な全開状態から若干閉じるバルブ位置調整を含む。したがって、「スロットルバルブの全開」とはスロットルバルブの完全な全開状態に限らず、ほぼ全開状態を含む意味である。
【0017】
本発明の作用効果、本発明の更なる目的は以下の本発明の好ましい実施例の詳しい説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】例えば畦草刈りロボットの動力源である実施例のシリーズ・ハイブリッド装置の全体構成図である。
図2】実施例のシリーズ・ハイブリッド装置に組み込まれた2ストロークエンジンの縦断面図である。
図3図2の2ストロークエンジンの平面図であり、シリンダの頂部の図示を省いた図である。
図4】2ストロークエンジンの始動及びバッテリの充電に関する処理を説明するためのフローチャートである。
図5】2ストロークエンジンの異常燃焼に関する処理を説明するためのフローチャートである。
図6】畦草刈りロボットの使用環境がバッテリの充電に適当でない場合、充電禁止を強制する処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図7】バッテリ充電中のエンジン出力を調整する制御の一例を説明するためのフローチャートである。
図8】ブースターポートを備えたエンジンの縦断面図であり、図2に対応した図である。
図9図8の2ストロークエンジンの平面図であり、シリンダの頂部の図示を省いた図である。
図10図8図9に図示のエンジンにおいて、エンジンの暖機が完了すると、冷間時のエンジン制御モードから温間時のエンジン制御モードに変更する制御例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例0019】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0020】
図1はシリーズ・ハイブリッド装置2の全体構成図である。シリーズ・ハイブリッド装置2は畦草刈りロボットの動力源に適用される。シリーズ・ハイブリッド装置2は、2stエンジン4と、2stエンジン4に機械的に連結された発電機6とを含んでいる。発電機6で生成した電力はバッテリ8に蓄電され、バッテリ8に蓄えられた電力を使って前輪モータ10、後輪モータ12、刈刃モータ14が駆動される。すなわちシリーズ・ハイブリッド装置2を組み込んだ畦草刈りロボットは、2stエンジン4と、発電機6によって生成される電気を充電したバッテリ8と、この電力を使って動作するモータ10、12、14とで動力源が構成され、この動力源を使って畦草刈りロボットの移動及び作業が実行される。
【0021】
2stエンジン4は、エアクリーナ16を含む吸気系18を有し、吸気系18に配置されたスロットルバルブ20によって空気量を増減し、よってエンジン出力が制御される。スロットルバルブ20はスロットル用モータ22によって開閉される。
【0022】
シリーズ・ハイブリッド装置2は制御ユニット24を有している。制御ユニット24は例えばマイコンで構成され、制御ユニット24は、メモリ26に記憶されているプログラムに従って動作する。制御ユニット24はスロットル用モータ22を制御するECU28を含み、ECU28はスロットルバルブ20を電子的に制御する機能を有している。
【0023】
制御ユニット24は充放電制御部30を有し、充放電制御部30はレクチファイヤレギュレータを含む。発電機6が生成した電力は充放電制御部30によってバッテリ8の蓄電が制御され、また、ECU28を駆動する。
【0024】
バッテリ8に蓄電した電力は、メインスイッチ32を経由して制御ユニット24に供給されると共に、ドライバ34を介して前輪モータ10、後輪モータ12、刈刃モータ14の駆動に用いられる。
【0025】
畦草刈りロボットの動作は、概略的に3つに区分することができる。第1区分において、畦草刈りロボットが作業場所に移動する。第2区分において、作業場所で走行しながら草刈り作業を行う。第3区分において、作業が終わると、畦草刈りロボットは保管場所に移動する。
【0026】
第1、第3の区分では、畦草刈りロボットの前輪モータ10、後輪モータ12が動作する。この前輪モータ10、後輪モータ12の動作は、前述したようにバッテリ8から供給される電力によって行われる。
【0027】
第2区分では、畦草刈りロボットは作業場所を移動しながら草刈り作業を行う。この第2区分において、走行用モータとしての前輪モータ10、後輪モータ12に加えて、作業用モータとしての刈刃モータ14が動作する。これら前輪モータ10、後輪モータ12、刈刃モータ14の動作は全て、前述したようにバッテリ8から供給される電力によって行われる。
【0028】
2stエンジンを動作させてバッテリ8を充電するタイミングは、第1、第3の区分において走行用モータとしての前輪モータ10、後輪モータ12が動作している最中に行っても良いし、第2区分において前輪モータ10、後輪モータ12又は作業用モータとしての刈刃モータ14のいずれかが動作している最中に行っても良く、また、第1ないし第3区分において畦草刈りロボットが実走している最中又は作業している最中に行っても良い。2stエンジン4は始動した直後からスロットル全開で運転させるのが好ましい。
【0029】
図1を参照して説明したシリーズ・ハイブリッド装置2の適用は畦草刈りロボットに限定されない。畦草刈りロボットはシリーズ・ハイブリッド装置の適用の一例に過ぎず、例えば農薬散布の走行ロボットや自走式ブロアやバキューム装置であってもよい。したがって、シリーズ・ハイブリッド装置2に含まれる走行用モータ10、12又は作業用モータ14の数は3つに限定されない。バッテリ8から供給される電力で動作するモータは1つの走行用モータだけであってもよいし、作業用モータが複数であってもよい。走行用モータ又は作業用モータの数は適用する作業機の機能に応じて任意である。
【0030】
図2図3は、本発明に従うシリーズ・ハイブリッド装置2に好適に適用可能な2stエンジン4の概要を説明するための図である。図2は実施例の2stエンジン4の縦断面図であり、図3は平面図である。なお、図3は、燃焼室の頂面を構成するシリンダヘッド部分の図示を省いてある。
【0031】
図2図3を参照して、2stエンジン4は空冷式エンジンであり且つ単気筒エンジンである。また、2stエンジン4はピストンバルブ式であり、後に説明する掃気ポート、排気ポートなどがピストンによって開閉される。
【0032】
2stエンジン4は、従来と同様に、シリンダ400の中に嵌挿したピストン402を有し、ピストン402は上死点と下死点との間を往復動し、この往復動はコネクティングロッド404を介してクランクシャフト406に伝達され、クランクシャフト406によって回転運動に変換されて出力される。
【0033】
ピストン402によって画成される燃焼室408に臨んで点火プラグ410が配設されている。燃焼室408は扁平なドーム型燃焼室で構成されている。すなわち、燃焼室408の頂面408aは扁平なドーム型の形状を有している。そして、扁平なドーム型燃焼室408の頂点に点火プラグ410が配設されている。
【0034】
2stエンジン4は層状掃気式のエンジンである。図中、参照符号412はピストン溝を示す。ピストン溝412は、ピストン402の周面に形成され、吸気系18に通じる吸気ポート414と、掃気通路416の上部とを連通させて、吸気系18から供給されるエアを掃気通路416の上部に充填する機能を有している。掃気通路416に充填されたエアは先導エアとして、掃気行程の初期に燃焼室408に供給される。
【0035】
2stエンジン4は、掃気通路416を有している。掃気通路416は掃気行程において燃焼室408とクランク室420に連通し、クランク室420で予圧縮された混合気を燃焼室408に供給する。
【0036】
2stエンジン4は、従来と同様に、シリンダ400に形成された排気ポート422を有し、排気ポート422はマフラー424に通じている。排気ポート422はピストン402によって開閉される。
【0037】
層状掃気式エンジン4において、掃気行程において、掃気ポート416aから先ず先導エアが吐出され、次いでクランク室420で予圧縮された混合気が吐出される。掃気ポート416aから吐出される先導エア及び混合気は排気ポート422とは反対側に指向される。
【0038】
2stエンジン4への燃料供給は、従来の気化器に代えて燃料噴射弁430によって行われる。燃料噴射弁430は、燃焼室408に配置してもよく、また、吸気系18に配置してもよく、また、クランク室420に配置してもよい。クランク室420に燃料噴射弁430を配置する場合、掃気通路416の入口部分つまり下端開口部やその近傍に燃料噴射弁430を配置してもよい。
【0039】
燃料噴射弁430から潤滑オイルを含む混合燃料が噴射され、混合燃料に含まれる潤滑オイルでエンジン内部の潤滑が行われる。また、燃料噴射弁430の燃料噴射時間によって、エンジンに供給する混合気の空燃比(A/F)が制御される。
【0040】
2stエンジン4はショートストロークであってもよいが、好ましくはそのボアストローク比が1以上であるスクエアストロークエンジン、または、ロングストロークエンジンであるのがよい。具体的には、2stエンジン4のボアストローク比は0.8~1.3、好ましくは1.0~1.2に設定するのがよい。この構成によれば、運転時に必要以上の回転数を要さないため、従来に比べて低い所定の回転数で効率よく出力可能なエンジンが実現できる。
【0041】
2stエンジン4は、スロットルバルブ20が全開のときに、4,500~7,000rpmの回転数、好ましくは5,000~6,000rpmとなるように設計するのが好ましい。この回転数は、従来の2stエンジンの作業領域の回転数よりだいぶ低い。2stエンジン4の最高回転数を従来に比べて低く設計することでエンジン騒音を低減することができ、また掃気ポート416a、排気ポート422などを開放するタイミングの最適設計が容易になる。
【0042】
エンジン圧縮比が8~16となるように2stエンジン4を設計するのが好ましく、更に好ましくは12~16の高圧縮比に2stエンジン4を設計するのがよい。上述したように、2stエンジン4の燃焼室408が扁平なドーム型燃焼室であるため4stエンジンに比べて構造上高圧縮化が容易である。このように構成することで、軽量小型エンジンのメリットを維持し、回転数を従来よりも抑制しながら、より高いエンジン出力を蓄えることができる。
【0043】
実施例のシリーズ・ハイブリッド装置2によれば、潤滑オイルを含む混合燃料を用いた2stエンジン4を採用する。別途のオイル室を設けないため、畦草刈りロボットが傾いたり転倒してもオイル漏れの問題を発生することはない。また、発電機6による発電つまり2stエンジン4の動作のタイミングは、好ましくは、前輪モータ10、後輪モータ12又は刈刃モータ14が動作して、畦草刈りロボットが走行及び/又は作業している最中のいずれにおいても2stエンジン4を起動させることができる。よって、充電が必要なときはいずれのモータが駆動しているか、作業の様態を問わず、必要量の充電が可能である。また、好ましくはスロットル全開でのエンジン回転数が例えば4,500~7,000rpm、好ましくは5,000~6,000rpmとなるように2stエンジン4を設計することで、2stエンジン4の動作に伴う騒音、振動を低減することができる。また、常にスロットル全開で運転することで、2stエンジン4の出力調整(チューニング)が容易になる。
【0044】
また、シリーズ・ハイブリッド装置2に組み込んだ2stエンジン4のボアストローク比が1以上であるスクエアストロークエンジン又はロングストロークエンジンにすることで、エンジンの熱効率をより高めることができる。また、2stエンジン4の燃焼室408を扁平なドーム型燃焼室としてエンジン圧縮比を高圧縮化することで、エンジンの熱効率を更に向上することができる。
【0045】
また、シリーズ・ハイブリッド装置2に組み込んだ2stエンジン4において、燃料噴射弁430を採用し、また、電子制御のスロットルバルブ20を採用することで、2stエンジン4を常にスロットル全開又はその近傍で動作させながら、燃料噴射弁430による混合気のA/Fを制御することで吸気損失を増大させずにエンジン出力を精密に制御することができる。このエンジン出力の制御は、燃料噴射弁430による混合気のA/F制御に限定されず、点火タイミングの制御によって行うこともできる。すなわち、発電中、常時、スロットル全開で動作する2stエンジン4の出力は、(1)混合気のA/F制御、(2)点火タイミング制御、(3)混合気のA/F制御と点火タイミング制御の組み合わせによって制御することができる。
【0046】
図2を参照して、当業者であればリコイル・スタータが存在していないことに注目するであろう。リコイル・スタータは作業機用エンジンを手動で始動させるのに用いられている。シリーズ・ハイブリッド装置2に組み込んだ2stエンジン4は、バッテリ8から発電機6に電力を供給することで、発電機6がエンジン始動用モータとして用いられる。
【0047】
図4以降のフローチャートに基づいてシリーズ・ハイブリッド装置2に組み込んだ2stエンジン4に関する幾つかの具体的な制御例を説明する。なお、図3において参照符号440はセンサ群を示す。センサ群440には、2stエンジン4のエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ、クランクシャフト406のクランク角度を検出するクランク角センサ、吸気温度(環境温度)を検出する吸気温センサ、降雨を検出する降雨センサ、バッテリ8の残量を検出するバッテリ残量センサ、バッテリ8の消費電力を検出する消費電力センサ、バッテリ8の充電電力を検出する充電電力センサ、畦草刈りロボットの姿勢を検出するロボット姿勢センサなどで構成され、ロボット姿勢センサによって畦草刈りロボットの傾斜や転倒が検出される。センサ群440の信号はエンジン制御部442に入力される。エンジン制御部442は制御ユニット24の一部を構成し、また、図1を参照して説明したECU28は、エンジン制御部442の一部を構成している。
【0048】
エンジン制御部442からスロットル用モータ22にスロットルバルブ開度信号が出力され、燃料噴射弁430に燃料噴射信号が出力され、点火プラグ410に点火信号が出力される。なお、点火プラグ410への電力はバッテリ8から供給される。
【0049】
<バッテリ8の充電>
図4は、2stエンジン4の始動及びバッテリ8の充電に関する処理を説明するためのフローチャートである。図4のフローチャートを参照して、ステップS1で、バッテリ残量センサからの信号に基づいてバッテリ8の残量が十分であるか否か判別され、バッテリ残量が十分であるときには、ステップS2に進んでエンジン停止状態が維持される。ステップS1において、バッテリ残量が十分ではないと判断されたときにはステップS3に進んで前輪モータ10、後輪モータ12、刈刃モータ14のいずれか一つのモータが動作中であるか否かの判別が行われ、前輪モータ10、後輪モータ12、刈刃モータ14のいずれか一つのモータが動作中であることを前提としてエンジン始動制御信号が生成されて2stエンジン4が始動される(S4、S5)。ステップS5において、2stエンジン4の始動は前述したように発電機6によって行われる。エンジン始動制御信号に基づいてバッテリ8から発電機6に電力が供給され、発電機6がエンジン始動用モータとして機能して2stエンジン4が始動される。2stエンジン4の始動時には、スロットルバルブ20は始動位置に位置決めされてもよいし、スロットル全開位置に位置決めされてもよい。2stエンジン4が始動すると、2stエンジン4はスロットル全開の下で動作し、エンジン4の出力によって発電機6が発電を開始し、発電した電力でバッテリ8の充電が行われる。そして、この2stエンジン4及び発電機6による充電はバッテリ8が所定量(満充電とは限らない)になるまで継続される(S6)。充電中、2stエンジン4はスロットル全開で運転され続ける。そして、バッテリ8が満充電状態になるとステップS2に進んでエンジン4が停止される。
【0050】
<エンジンの異常燃焼制御>
図5は、2stエンジン4の異常燃焼に関する処理を説明するためのフローチャートである。ステップS10で、スロットル全開で動作している2stエンジン4のエンジン回転数の監視が行われる。このエンジン回転数の監視は2stエンジン4が動作中、定期的に継続される。次のステップS11において、エンジン回転数に基づいて2stエンジン4の異常燃焼が発生しているか否かの判別が行われる。例えば、エンジン回転数が異常に変動する、エンジン回転数が異常に上昇する、エンジン回転数が異常に低下するなどの現象が現れなければ、ステップS12に進んで定常運転モードのまま2stエンジン4が制御され、2stエンジン4はスロットル全開の下で動作し続ける。
【0051】
上記ステップS11において異常燃焼の現象が発生したと判断したときには、ステップS13に進んでエンジン制御における定常運転モードから異常燃焼モードに遷移する。異常燃焼モードにより異常燃焼に対処するためのA/F変更、点火時期変更などが実施され、次のステップS14において、異常燃焼の終息が確認できれば、ステップS15に進んで2stエンジン4の制御を定常運転モードに復帰させる。上記ステップS14において、異常燃焼が継続しているときには、ステップS16に進んで、異常燃焼モードを維持し、異常燃焼が終息するまで、このステップS16の処理が反復される(S16、S14)。
【0052】
<畦草刈りロボットの環境の適否に関する処理>
畦草刈りロボットの使用環境がバッテリ8の充電に適当でない場合、充電を強制的に停止する制御が実行される。図6のフローチャートを参照して、先ず、ステップS20でエンジンが停止状態であることを確認したら、次のステップS21において、バッテリ8の残量が十分であるか否かの判別が行われ、バッテリの残量が十分であるときには、ステップS22に進んで、エンジン停止状態が継続される。上記ステップS21において、バッテリ8の残量が不足していると判断されたときには、ステップS23に進んで、作業機つまり畦草刈りロボットの使用環境が適切であるか否かの判別が行われる。
【0053】
畦草刈りロボットの使用環境が不適切とは、例えば、畦草刈りロボットの転倒、環境温度が例えば摂氏0°以下、降雨、屋内などの状況にあることを意味し、ステップS23において、畦草刈りロボットの使用環境が不適切であるときには、ステップS22に進んで、バッテリの残量が不足していてもエンジン停止状態が継続される。ステップS23において、畦草刈りロボットの使用環境が適切であるときには、ステップS24でエンジン始動制御信号が生成され、このエンジン始動制御信号に基づいて2stエンジン4が始動される。2stエンジン4の始動は、前述したように発電機6をエンジン始動用モータとして利用することで行われる(S25)。2stエンジン4が始動すると、スロットル全開の下で動作するエンジン4の出力によって発電機6が本来の発電機能の下で発電を開始し、発電した電力でバッテリ8の充電が行われる。
【0054】
2stエンジン4のスロットル全開運転によりバッテリ8の充電が実行されている最中、畦草刈りロボットの使用環境の監視が継続され(S26)、次のステップS27で、例えば畦草刈りロボットの転倒を検出すると、バッテリ8の充電が不十分であってもステップS22に進んで、2stエンジン4の運転が強制的に停止される。
【0055】
畦草刈りロボットの使用環境が適切であれば、バッテリ8が満充電の状態となるまで2stエンジン4のスロットル全開運転が継続され(S27、S26)、バッテリ8が満充電になると2stエンジン4はエンジン停止される(S22)。
【0056】
<エンジン出力の調整>
バッテリ8の消費電力と発電機6の充電電力とを対比し、必要に応じて混合気のA/Fの制御及び/又は点火タイミングの制御を行って2stエンジン4の出力が調整される。この制御を図7のフローチャートに基づいて説明する。
【0057】
ステップS30において、2stエンジン4の運転が実行される。エンジン4は、スロットル全開、燃料噴射弁430から吐出される混合燃料の空燃比はリーンであり、定常運転に適した点火タイミングの下で2stエンジン4の運転が制御されている。エンジン4の動作によって発電機6は発電し、この発電電力でバッテリ8の充電が実行されている(S31)。
【0058】
次のステップS32において、バッテリ8の消費電力と充電電力とが対比され、消費電力が相対的に少ないときには、ステップS33に進んで、消費電力が著しく少ないときには、例えば前輪モータ10、後輪モータ12、刈刃モータ14の一部しか動作していないときには、ステップS34に進んで点火タイミングを遅角する処理が行われる。これによりエンジン出力を低下する調整が実行され発電機6の発電能力を低下させることができる。
【0059】
ステップS33において、バッテリ8の消費電力が充電電力に比べて相対的に少ないものの消費電力が比較的多いとき、例えば前輪モータ10、後輪モータ12、刈刃モータ14の全てが動作しているときには、ステップS35に進んで、スロットル全開、燃料噴射弁430から吐出される混合燃料の空燃比がリーンの定常運転に適した点火タイミングの下での2stエンジン4の定常運転が継続される。
【0060】
上記ステップS32において、バッテリ8の消費電力が充電電力に比べて多いときには、ステップS36において、スロットル全開、定常運転に適した点火タイミングを継続しつつ混合燃料の空燃比をストイキ(λ=1)に近づける処理が実行される。これによりスロットル全開のエンジン出力を高めて発電機6の発電能力を更に高めることができる。
【0061】
次のステップS37において、バッテリ8の消費電力が充電電力に比べて多いか否かを判別し、バッテリ8の消費電力が相対的に少なくなれば、ステップS38に進んで、混合燃料の空燃比をリーンに戻す処理が行われる。これによりスロットル全開のエンジン出力を低下させて発電機6の発電能力を通常レベルに復帰させることができる。
【0062】
上記ステップS37において、バッテリ8の消費電力が充電電力に比べて多いときには、ステップS39に進んで、スロットル全開、定常運転に適した点火タイミングの下で、燃料噴射弁430から吐出される混合燃料の空燃比をエンジン4の出力を最大にすることのできる空燃比に一致させる処理が実行される。これによりスロットル全開のエンジン出力を高めて発電機6の発電能力を高めることができる。
【0063】
次のステップS40において、バッテリ8の消費電力が充電電力に比べて少なくなったか否かを判別し、未だに消費電力が相対的に多いときには、ステップS41に進んで点火タイミングを進角させる処理が実行される。この点火タイミングの調整処理は、エンジン4の出力を最大にすることのできる点火タイミングまで進角が行われる。これによりエンジン出力を高めて発電機6の発電能力をより高めることができる。
【0064】
ステップS41の点火タイミング進角処理の後、ステップS40に戻って、バッテリ8の消費電力が充電電力に比べて少なくなったときには、ステップS42に進んで、燃料噴射弁430から吐出される混合燃料の空燃比をλ=1に近づける処理が実行され、そしてステップS37に戻る。これにより、スロットル全開のエンジン出力が徐々に低下して発電機6の発電能力を通常レベルに復帰させることができる。
【0065】
図8図9は、2stエンジン4がブースターポート418aを備えたエンジンを示す。掃気行程において、掃気通路416、ブースター通路418は共に燃焼室408とクランク室420に連通し、クランク室420で予圧縮された混合気を燃焼室408に供給する。ブースターポート418a及び掃気通路416の燃焼室408に開口する掃気ポート416aは共にピストン402によって開閉される。
【0066】
掃気ポート416aから吐出される先導エア及び混合気は排気ポート422とは反対側に指向される。他方、ブースターポート418aから吐出される混合気は上方に向けて、つまり燃焼室408の頂部に向けて指向される。
【0067】
図8図9に図示のように、燃料噴射弁430をブースター通路418の入口部分418b又はその近傍に配置するのがよい。燃料噴射弁430をブースター通路418の入口部分418b又はその近傍に配置することで、次に図10を参照して説明するように、燃料噴射タイミングを変更することにより、大別して2つのエンジン制御モードを選択的に実行することができる。
【0068】
<冷間時と温間時とでエンジン制御モードの切換え>
図8図9に図示の2stエンジン4の制御は成層燃焼モードと均質燃焼モード(定常運転モード)とを有していてもよい。成層燃焼モードは、ブースター通路418の入口部分418bに配置した燃料噴射弁430の燃料噴射タイミングが掃気ポート416a、ブースターポート418aが閉じているときにスロットル全開の下で実行される。例えばピストン402が上死点に位置するときに燃料噴射が開始され、ピストン402が上死点から下降する途中まで燃料噴射が実行される。掃気行程が実行される前に燃料噴射が行われるため、燃料噴射弁430から噴射される混合気(混合燃料)はクランク室420に供給され、このクランク室420で予圧縮された後に燃焼室408に供給される。この成層燃焼モードでは、燃料噴射弁430から噴射される混合気の空燃比は相対的な又は絶対的なリッチに設定される。
【0069】
均質燃焼モード(定常運転モード)は、スロットル全開の下で燃料噴射弁430の燃料噴射タイミングが掃気ポート416a、ブースターポート418aが開放しているとき、つまり掃気行程で実行される。掃気行程が実行される前に燃料噴射が行われるため、燃料噴射弁430から噴射される混合気(混合燃料)はブースター通路418を通じてクランク室420で予圧縮された掃気エアに随伴して燃焼室408に供給され、ブースターポート418aから燃焼室408に供給される混合気は、燃焼室408で上昇して点火プラグ410の周辺を集中的に満たす。この均質燃焼モードでは、燃料噴射弁430から噴射される混合気の空燃比は少なくとも成層燃焼モードよりもリーンに設定される。すなわち、定常運転モードである均質燃焼モードにおいて、掃気行程での吹き抜けを低減するため、掃気行程において燃料噴射が実施される均質燃料モードにおける空燃比を相対的に又は絶対的にリーンに設定するのが好ましい。
【0070】
均質燃焼モード(定常運転モード)と成層燃焼モードを要約すれば次の通りである。
(1)均質燃焼モード(定常運転モード):
スロットルバルブ20は全開である。掃気行程で燃料噴射が実行される。混合気は相対的又は絶対的にリーンである。
(2)成層燃焼モード:
スロットルバルブ20は全開である。掃気行程以外の行程で燃料噴射が実行される。混合気は相対的又は絶対的にリッチである。
【0071】
冷間時と温間時とでエンジン制御モードの切換えに関する処理を図10のフローチャートに基づいて説明する。図4で説明したエンジン始動制御信号(S4)に基づいて2stエンジン4が始動される(S50)。エンジン4が始動した直後から2stエンジン4はスロットル全開の下で成層燃焼モードで制御される(S51)。エンジンが始動した直後からエンジン温度の監視が継続され(S52)、次のステップS53において、エンジン4の暖機が完了したか否かが判別され、エンジン4の暖機が完了するまでステップS54で成層燃焼モードが継続される。
【0072】
エンジン4の暖機が完了すると、ステップS53からステップS55に進んで2stエンジン4の制御が、スロットル全開を維持したままで成層燃焼モードから均質燃焼モードに切り替えられる。これにより、温間時にはリーン空燃比の下でエンジン4が運転される。次のステップS56において、エンジン回転数が安定しているか否かの判別が行われ、不安定のときには、図5のステップS13などの処理と同様に、異常燃焼抑制モードが実行される。
【0073】
ステップS56でスロットル全開の2stエンジン4のエンジン回転数が安定していると判断された時には、ステップS58に進んで、混合気を更にリーンにする及び/又は点火タイミングを進角する処理が実行される。この処理は、エンジン4の回転数が不安定になるまで継続される。
【0074】
以上、シリーズ・ハイブリッド装置2を畦草刈りロボットに適用した例に基づいて本発明の実施例を説明したが、本発明に従うシリーズ・ハイブリッド装置2はドローン、ラジコン飛行機による農薬散布、船外機、ロボット管理機、コージェネレート装置、ゴルフ場でゴルフボールを回収して収集場所に戻すボールピッカ、自走ブロワロボット、自走バキュームロボットなどの動力源として利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
2 実施例のシリーズ・ハイブリッド装置
4 2stエンジン
6 発電機
8 バッテリ
10 前輪モータ(走行用モータ)
12 後輪モータ(走行用モータ)
14 刈刃モータ(作業用モータ)
18 吸気系
20 スロットルバルブ
22 スロットル用モータ
24 制御ユニット
28 制御ユニットのECU
30 制御ユニットの充放電制御部
400 2stエンジンのシリンダ
402 ピストン
406 クランクシャフト
408 燃焼室
408a 燃焼室の頂面(扁平なドーム型燃焼室を規定する頂面)
410 点火プラグ
414 吸気ポート
416 掃気通路
416a 掃気ポート
418 ブースター通路
418a ブースターポート
420 クランク室
422 排気ポート
430 燃料噴射弁
440 センサ群
442 制御ユニットのエンジン制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10