(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109259
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】光学異性体用分離剤及び光学異性体用分離剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20220720BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20220720BHJP
B01J 20/283 20060101ALI20220720BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20220720BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
G01N30/88 W
B01J20/281 X
B01J20/283
B01J20/26 G
B01J20/30
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067517
(22)【出願日】2022-04-15
(62)【分割の表示】P 2017181910の分割
【原出願日】2017-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2016185811
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 卓典
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼嵜 亮太
(57)【要約】
【課題】耐溶剤性に優れ、既存の化学結合型または物理吸着型の光学異性体用分離剤と同程度かそれ以上の光学分割能を有する光学異性体用分離剤を提供する。
【解決手段】アミロース(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)が、化学結合により担体に担持されており、前記化学結合が、アミロースの水酸基が、3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート基及び重合性官能基に置換されたアミロース誘導体と、重合性官能基を有する担体と、重合性モノマーとをラジカル重合させることによって形成されている、光学異性体用分離剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロース(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)が、化学結合により担体に担持されており、
前記化学結合が、
アミロースの水酸基が、3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート基及び重合性官能基に置換されたアミロース誘導体と、
重合性官能基を有する担体と、
重合性モノマーと
をラジカル重合させることによって形成されている、
光学異性体用分離剤。
【請求項2】
前記担体が、重合性官能基を有するシリカゲルである、請求項1に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項3】
光学異性体用分離剤の製造方法であって、
重合性官能基を有するアミロース誘導体と、重合性官能基を有する担体と、重合性モノマーとを共重合する工程を有し、
前記重合性官能基を有するアミロース誘導体において、アミロースの水酸基の一部が3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートにより3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート基に置換され、それ以外の水酸基が、重合性官能基を有する置換基により置換されている、
光学異性体用分離剤の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の光学異性体用分離剤の製造方法であって、
前記共重合が、ラジカル重合であり、
前記アミロース誘導体の前記重合性官能基が、ラジカル重合性基であり、
前記担体の前記重合性官能基が、ラジカル重合性基であり、
前記重合性モノマーが、ラジカル重合性モノマーである、
光学異性体用分離剤の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の光学異性体用分離剤の製造方法であって、
前記アミロース誘導体の前記重合性官能基が、ビニル基、メタクリル基及びアクリル基から選択され、
前記担体の前記重合性官能基が、ビニル基、メタクリル基及びアクリル基から選択され、
前記重合性モノマーが、ビニル基を有する炭化水素系化合物、メタクリル酸系化合物及びアクリル酸系化合物から選択される、
光学異性体用分離剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学異性体の分離に有用な光学異性体用分離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロースのような多糖が有する水酸基を種々の置換基で修飾してなる多糖誘導体は、クロマトグラフィーのキラル固定相として高い光学分割能を有することが知られており、これまでに多くの種類の多糖誘導体が合成されている。
【0003】
このような光学異性体用分離剤に有用な多糖誘導体の合成例では、例えば、ハロゲン原子を有する化合物で多糖の水酸基またはアミノ基を修飾することが行われている。特許文献1は、多糖の水酸基またはアミノ基が、ハロゲン原子を有するフェニルカルバメートで置換されている多糖誘導体を開示している。
一方、特許文献2は、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートとセルロースまたはアミロースを反応させて得られる、3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート誘導体を開示している。
【0004】
しかしながら、特許文献1では、ハロゲンを含有するカルバメート誘導体の具体例としては、3,5-ジクロロフェニルカルバメート誘導体、2,4-ジクロロフェニルカルバメート誘導体、3,4-ジクロロフェニルカルバメート誘導体、2,5-ジクロロフェニルカルバメート誘導体、4-フルオロフェニルカルバメート誘導体、4-ブロモフェニルカルバメート誘導体、4-ヨードフェニルカルバメート誘導体が挙げられているのみである。
また、特許文献2では、3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート誘導体を開示してはいるが、光学異性体用分離剤として担体に担持させる際には、この誘導体を担体上に物理吸着(コーティング)させたもののみが実施例で作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/102920号
【特許文献2】特開平8-231489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1には、以下の式(I)で表されるアミローストリス(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)を用いることは記載されていない。また、特許文献2には、上記の式(I)で表されるアミローストリス(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)誘導体を、担体と化学結合により結合させた具体例は記載されていない。
これまで、光学異性体の分離のために用いる分離剤として、特許文献2に記載されているような、多糖誘導体が担体上に物理吸着(コーティング)されているもの(物理吸着型)を用いた場合には、多糖誘導体が担体と化学結合しているもの(化学結合型)を用いた場合よりも分離性能が優れるということが一般的な認識であった。
しかし、本発明者は、これまでの一般的な認識とは異なり、本発明のようにアミロース3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメートを担体に化学的結合を介して担持させて得た化学結合型の分離剤であっても、同じアミロース誘導体を担体に物理吸着(コーティング)させて得た物理吸着型の分離剤と比較して、特定の光学異性体に対しては、分離性能が同等もしくは良好であることを見出した。
よって、本発明は、特定の光学異性体の分離能に優れる光学異性体用分離剤を提供する
。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アミロース(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)(以下、単にアミロース誘導体ともいう)が、化学結合により担体に担持されている光学異性体用分離剤を提供する。アミロース(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)のうち、アミロースの全ての水酸基が3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメートで置換されているもの(アミローストリス(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート))は以下の式(I)で表される構造を有する。以下で説明する各製法で得られるアミロース誘導体のうち、各製法により得られる化学結合様式により、アミロースの水酸基の全てが3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメートで置換されていないものもあるが、アミロース誘導体を構成するアミロースの大部分の水酸基は、3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメートで置換されている。
【化1】
【発明の効果】
【0008】
前記アミロース誘導体が担体上に化学結合により担持されていることにより、前記アミロース誘導体を担体上に物理吸着(コーティング)させて得られる分離剤では使用できなかった溶媒、具体的には前記アミロース誘導体を溶解してしまう溶媒、例えば、酢酸エチル、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ピリジンなどを、試料の溶解のため、あるいはHPLCの移動相として用いることができる。
また、本発明の光学異性体用分離剤は、従来から知られている、ハロゲン原子を有するアミロース誘導体が化学結合により担体に担持された光学異性体用分離剤よりも、分離対
象とする光学異性体の種類に応じて、優れた光学分割能を有する。また、本発明の光学異性体用分離剤は、本発明で用いるアミロース誘導体と同じアミロース誘導体が物理的吸着により担持された光学異性体用分離剤と比べて、同等かそれより優れた光学分割能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いるアミロースの数平均重合度(1分子中に含まれるピラノース又はフラノース環の平均数)は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であり、特に上限はないが、1000以下であることが取り扱いの容易さの点で好ましく、より好ましくは5~1000、更に好ましくは10~1000、特に好ましくは10~500である。
【0010】
また、本発明で用いられる担体としては、多孔質有機担体及び多孔質無機担体が挙げられ、好ましくは多孔質無機担体である。多孔質有機担体として適当なものは、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート等からなる高分子物質であり、多孔質無機担体として適当なものは、シリカゲル、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、ヒドロキシアパタイト、ジルコニアなどである。また、上記多孔質無機担体の形態としては、粒子状の担体だけでなく、有機無機複合体のように網目状になった無機系担体や、特開2005-17268又は特開2006-150214等に記載の、カラム管に保持され得る円柱状の一体型無機系担体を用いてもよい。
【0011】
特に好ましい担体はシリカゲルであり、シリカゲルの粒径は1μm~100μm、好ましくは1μm~50μm、更に好ましくは1μm~30μmであり、平均孔径は1nm~4000nm、好ましくは3nm~500nmである。表面は残存シラノールの影響を排除するために、後述する各方法で示すように表面処理が施されていることが望ましい。
【0012】
本発明では、後述する化学結合の態様により、アミロース誘導体が有する水酸基が式(I)で表されるように、ほぼ全て3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメートで置換されている場合と、例えばアミロースの一部の水酸基が、担体との結合のために用いられる重合性官能基や縮合反応を起こす官能基の反応により生じた基で置換され、それ以外の水酸基が3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメートで置換されている場合もある。
なお、本発明でいうアミロース(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)は、アミローストリス(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)を含む概念である。
本発明の光学異性体用分離剤は、上記のアミロース誘導体が、化学結合により担体に担持されている。本発明でいう「化学結合により担体に担持されている」とは、アミロース誘導体と担体とが、何らかの結合基を介して直接結合している態様や、アミロース誘導体同士、あるいはアミロース誘導体と別の物質とが、担体の表面上で相互に結合(架橋)することで、担体上に固定化されている態様を含むものである。
この化学結合を起こさせる反応の態様については、いくつかの種類を挙げることができる。
一つ目は、アミロースの水酸基をあらかじめ3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートと反応させて、アミローストリス(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)を作製し、これを担体に物理吸着させてから、化学結合を生じさせて担持させる方法(以下、第一の方法)である。
二つ目は、アミロースと担体とをあらかじめ化学結合させてから、アミロースの水酸基と、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートとを反応させて、担体に結合されたアミロース(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)を得る方法(以下、第二の方法)である。
三つ目は、あらかじめ水酸基の一部が3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメートで修飾されたアミロース誘導体を作製し、アミロースに残存する水酸基に別の基を導入した後に、その別の基を利用して担体と化学的に結合させる方法(以下、第三の方法)である
。
【0013】
<第一の方法>
上記の方法のうち、第一の方法として以下で示す方法を例示できる。
担体に担持させるアミロース誘導体をあらかじめ調製する。そのアミロース誘導体は、例えば特許文献2に記載の方法で作製することができる。この方法を用いる場合、アミロース誘導体は、式(I)で表される構造を有する。
具体的な手順としては、まず、特許文献2に記載された方法で作製するか、あるいは市販されている3-クロロ-5メチルフェニルイソシアナートと、アミロースとを、アルコールとイソシアナートとを反応させる通常の条件を用いて反応させることで、得ることができる。
アルコールとイソシアナートとを反応させる通常の条件としては、例えば、アミロースの水酸基の60~300モル%相当量の3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートを用いて、ピリジンやN,N-ジメチルアセトアミド/塩化リチウム/ピリジン中、60~115℃、1~24時間、窒素雰囲気下で反応を行わせる態様を挙げることができる。
【0014】
上記のアミロース誘導体と担体とを結合させるには、あらかじめ得たアミローストリス(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)誘導体を担体上にコーティングし、光エネルギーの照射により架橋反応を起こさせて、アミロース誘導体と、担体とを光架橋により架橋して化学結合する態様を挙げることができる。架橋に用いる光エネルギー源としては、レーザービームや水銀灯を用いた照射を挙げることができる。
この方法で用いる担体は、あらかじめシラン処理剤により、表面処理を行っておくことが好ましい。シラン処理剤としては、アミノ基を有するものが好ましく挙げられ、シランカップリング剤として市販されているものを挙げることができる。
架橋の具体的な手順としては、アミロース誘導体がコーティングされた担体を、適当な溶媒、例えばヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ジエチルエーテル、テトラクロロメタン、アセトニトリル、またはそれらの水性混合物に分散させ、その分散液に上記の光エネルギーを照射する。照射時間としては、1分~24時間程度が好ましく、3分~5時間がより好ましく、5分~3時間が特に好ましい。
担体上への前記アミロース誘導体の担持量は、光学異性体用分離剤100重量部に対して、1~100重量部が好ましく、更に5~60重量部が好ましく、特に10~40重量部が望ましい。
【0015】
<第二の方法>
上記の第二の方法の一例として、例えば特開平7-138301号公報に記載された方法を挙げることができる。
【0016】
この方法では、アミロースを3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートと反応させる前に、アミロースの還元末端と、アミノ基を有するシランカップリング剤、例えば3-アミノプロピルトリエトキシシランのようなシラン処理剤で処理した担体とを反応させた後に、アミロースの水酸基と3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートとを反応させる方法である。
アミロースの還元末端と、担体を結合させる方法としては、以下の2つを挙げることができる。
【0017】
(アミロースの還元末端と、担体を結合させる方法-1)
まず、シリカゲルのような担体の孔内外の表面を、アミノ基を有するシラン処理剤、具体的には3-アミノプロピルトリエトキシシランを用いて表面処理する。その表面処理は従来より知られている方法で実施することができる。これを、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒に溶解したアミロース溶液に加え、さらに還元剤を加えて、前記担体の
表面に存在するアミノ基とアミロースを50~80℃で12時間反応させ、還元アミノ化法により結合させる。
なお、この反応の際に、酢酸を加えpH6~8の中性にして反応させてもよい。未反応の多糖などをDMSO、アセトン、ヘキサン等の溶媒で洗浄して除き、減圧乾燥させることにより、アミロースと担体が化学結合したアミロース結合粒子を得ることができる。
【0018】
この際、使用する還元剤としてはNaBH4(水素化ホウ素ナトリウム)、NaBH3CN(水素化シアノホウ素ナトリウム)、ボランピリジンコンプレックス、ボランジメチルアミンコンプレックス、ボラントリメチルアミン等のボラン化合物が挙げられる。これらの中では、水素化シアノホウ素ナトリウム等の弱い還元力のものを用いることが好ましい。還元アミノ化を行うには、さらにスペーサーを介してアミロースの還元末端部とシラン処理剤を化学結合することも可能である。つまり、一方の官能基としてアミノ基を有するスペーサーとアミロースの還元末端部で還元アミノ化し、他方の官能基でシラン処理剤と化学結合させることも可能である。
【0019】
(アミロースの還元末端と、担体を結合させる方法-2)
アミロースを、DMSO等の溶媒に溶解し、アミノ基を有するシラン処理剤と還元剤を加え、アミロースの還元末端とアミノ基を50~80℃で反応させて還元アミノ化法により結合させて、アミロースとシラン処理剤とが結合した化合物を得る。なお、該方法を用いる場合、シラン処理剤同士が一部重合することがあるので、無水下で行うことが望ましい。還元剤は上記と同じものを用いることができる。
【0020】
上記反応で得られるアミロースとシラン処理剤とが結合した化合物とシリカゲルとの結合を例示する。反応で得られたアミロースとシラン処理剤とが結合した化合物を、DMSOや塩化リチウム-N,N-ジメチルアセトアミド(LiCl-DMAc)溶液等に溶解させ、さらにピリジンを触媒として添加し、活性化したシリカゲルを加えることで、アミロースとシラン処理剤とが結合した化合物のシラン部でシリカゲルのような担体と、従来公知のシラン処理法と同様の方法で結合させることにより、アミロースと担体が化学結合した粒子を得る。
【0021】
なお、アミロースの還元末端と、担体を結合させる方法-2で合成されたアミロースとシラン処理剤とが結合した化合物は、シラン処理剤の部分が比較的不安定なため、取扱いの点から前記アミロースの還元末端と、担体を結合させる方法-1の方が好適である。
【0022】
<アミロースの水酸基の修飾>
上記アミロースの還元末端と担体を結合させる方法-1または2で得た、アミロースと担体とが結合した粒子のアミロースの水酸基と、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートとを、無水DMFや無水DMAc/LiCl/ピリジン溶液や無水DMSO/ピリジン中で反応させ、該粒子に存在するアミロースの水酸基の全部を置換し、3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート誘導体を得ることができる。この反応は既知の方法で実施することができる。ピリジンの代わりに4-ジメチルアミノピリジンを用いてもよい
。
【0023】
なお、シリカゲルのような担体と反応させるシラン処理剤の量については特に制限されないが、通常は、担体に対して5~50重量%程度が望ましい。得られたアミロース誘導体の残存シラノール基の影響をなくすため、公知の方法により、エンドキャッピング処理を行うことにより、光学異性体用分離剤としての性能を向上させることができる。
【0024】
<第三の方法-1>
前記第三の方法の一つ目として、例えば、国際公開第03/091185号公報に記載
された、以下の方法を挙げることができる。
具体的には、重合性官能基を有する担体と、重合性官能基を有するアミロース誘導体と、重合性官能基を有する重合性モノマーとを共重合させることにより、重合性官能基を有するアミロース誘導体と、重合性官能基を有する担体とを相互に化学結合させる方法である。
または、重合性官能基を有する担体に、重合性官能基を有するアミロース誘導体を担持させた後、重合性モノマーを用いて共重合させる方法も挙げることができる。なお、重合性官能基を有するアミロース誘導体を合成する際には、アミロースの誘導体化と重合性官能基の導入とを同時に行ってもよい。
重合性官能基を有するアミロース誘導体を作製するための具体的な手順としては、アミロースの一部の水酸基を保護するための保護工程と、保護されなかったアミロースの水酸基を、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートで修飾する工程と、保護された水酸基を脱保護する工程と、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナート及び重合性官能基を有する化合物で、脱保護された水酸基を修飾する工程を含む方法を挙げることができる。
この方法においては、アミロースの6位の水酸基が、重合性官能基で置換されている態様を挙げることができる。
また、上記の保護工程を含まず、アミロースの水酸基を、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートで修飾する工程と、重合性官能基を有する化合物を用いて重合性官能基をアミロースに導入する工程を同時に行うこともできる。
上記の重合性官能基を有する化合物としては、アクリル酸クロリド、メタクリル酸クロリド、4―ビニル安息香酸クロリド等の不飽和酸ハロゲン化物類、ビニルフェニルイソシアナート、メタクリル酸2-イソシアナトエチル等の不飽和イソシアナート類を挙げることができる。
なお、上記の手順を経て得られる重合性官能基を有するアミロース誘導体における重合性官能基の割合は、アミロースの6位の水酸基の5~50%である態様を挙げることができ、5~30%であることが好ましい。
上記のアミロース誘導体では、アミロースの水酸基の一部が3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートにより3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート基に置換され、それ以外の水酸基が、例えばビニル基のような重合性官能基を有する置換基により置換されている。
なお、保護工程により導入される保護基は、例えば、トリフェニルメチル基(トリチル基)、ジフェニルメチル基、トシル基、メシル基、トリメチルシリル基、ジメチル(t-ブチル)シリル基等を有する化合物によりもたらされる態様を挙げることができ、好適には、トリチル基、トリメチルシリル基を有する化合物によりもたらされる態様を挙げることができる。
【0025】
次に、上記の方法により製造された、重合性官能基を有するアミロースと、重合性官能基を有する担体と、重合性モノマーを共重合させてこれらを結合させる。
重合性官能基を有する担体を作製するには、公知の方法を用いることができ、例えば特開平4-202141号公報に記載された方法を用いることができる。
具体的には、担体としてシリカゲルを用いる場合には、シリカゲルの表面のシラノール基に対して、アミノ基を有するシランカップリング剤、例えば3-アミノプロピルトリエトキシシランを用いて、アミノプロピル化を行うことで、アミノ基を導入させ、そのアミノ基に対して、例えば(メタ)アクリロイロキシアルキルイソシアナートとを反応させ、重合性官能基としてアクリル基またはメタクリル基を導入する方法や、担体としてシリカゲルを用いる場合には、シリカゲルに3-(トリメトキシシリル)プロピルメタアクリレートのような重合性官能基を有するシラン処理剤を直接反応させて、重合性官能基を担体に導入する方法を挙げることができる。
【0026】
なお、上記の方法において、アミロース誘導体に導入される重合性官能基と、担体に導入される重合性官能基は同じであっても異なっていてもよい。
この製法では、重合性官能基を有するアミロース誘導体と、重合性官能基を有する担体と、重合性モノマーを用いて、これらの重合性官能基をラジカル重合させることで、化学結合によりアミロース誘導体が担体と結合するため、アミロース誘導体の固定化率が高まる。
【0027】
上記で用いられる重合性モノマーとしては、エチレン性二重結合を有する公知の低分子モノマーを用いることができ、スチレン、ジビニルベンゼン、ブタジエン、ジメチルブタジエン、イソブチレン等のビニル基を有する炭化水素系化合物、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド等のメタクリル酸系化合物、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド等のアクリル酸系化合物、あるいはケイ素を有する化合物を挙げることができ、これらの単独あるいは複数を用いることができる。
これらの中では、スチレンやジビニルベンゼンが好適に用いられる。なお、重合性モノマーが有する重合性官能基は、アミロース誘導体が有する重合性官能基や、担体が有する重合性官能基とは異なるものであることが好ましい。
重合性官能基を有するアミロース誘導体と、重合性官能基を有する担体とを共重合させる際に添加する重合性モノマーの量は、得られる光学異性体用分離剤の光学分割能を損なわない範囲において適宜調整できる。具体的には、重合性官能基を有するアミロース誘導体の100重量部に対して、1~50重量部、好ましくは5~30重量部、さらに好ましくは5~15重量部添加する態様を挙げることができる。
【0028】
上記の方法に従って、重合性官能基を有するアミロース誘導体と、重合性官能基を有する担体と、重合性モノマーとをラジカル重合させる際には、あらかじめ重合性官能基を有するアミロース誘導体を、重合性官能基を有する担体上に担持させておくことが好ましい。ここで言う担持とは、上記の担体上に上記のアミロース誘導体が物理吸着していることを意味し、上記のアミロース誘導体を適当な溶媒に溶解した溶液を調製し、これを上記の担体に塗布した後、溶媒を除去することにより、担持を行わせることができる。
なお、重合性官能基を有する担体に担持させる重合性官能基を有するアミロース誘導体の量は、上記の担体に対して10~60重量%である態様を挙げることができ、15~45重量%であることが好ましい。その後、上記のアミロース誘導体が担持された担体と、重合性モノマーを、α,α’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等の公知のラジカル開始剤を溶解した適当な溶媒に添加して共重合を起こさせることで、光学異性体用の分離剤を得ることができる。
【0029】
なお、上記で説明した、アミロース誘導体の固定化率とは、上記の方法により得られた光学異性体用分離剤を、重合性官能基を有するアミロース誘導体を溶解する溶媒で洗浄した後の洗浄液中に溶出する未結合のアミロース誘導体を回収して、これを重溶媒に溶解させて既知量のメタノールを添加し、NMRの測定結果から、メタノールと上記の未結合のアミロース誘導体のピーク強度比から算出したそれぞれの重量を算出し、共重合の前に担体に吸着させた重合性官能基を有するアミロース誘導体の重量との比較に基づき算出される。
上記の方法を経て得られる光学異性体用の分離剤において、上記の固定化率は、70%以上である態様を挙げることができ、80%以上であることが好ましい。
【0030】
<第三の方法-2>
前記第三の方法の二つ目として、例えば、国際公開第2007/129658号公報に記載された、以下の方法を挙げることができる。
具体的には、アミロースの水酸基を3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートで修飾した後に、残存するアミロースの一部の水酸基を下記一般式(II)で表された化合
物で修飾してアミロース誘導体を得る工程と、前記アミロース誘導体を担体に化学結合により担持する工程とを含む方法を挙げることができる。
【0031】
A-X-Si(Y)nR3-n (II)
(式中、Aは水酸基又はアミノ基と反応する反応性基を、Xは炭素数1~18の分岐を有してもよいアルキレン基または置換基を有してもよいアリーレン基を示し、Yはシラノール基と反応してシロキサン結合を形成する反応性基を示し、Rは、炭素数1~18の分岐を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアリール基を示し、nは1~3の整数を示す。)
【0032】
<1>アミロース誘導体を製造する工程
アミロース誘導体の製造工程は以下の工程を含む。まず、アミロースの水酸基を、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートで修飾する第1修飾工程と、上記第1修飾工程において、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートで修飾されていないアミロースの水酸基を上記一般式(II)で表された化合物で修飾する第2修飾工程を含む。
上記第1修飾工程及び第2修飾工程は、第1修飾工程、第2修飾工程の順番に実施することが、上記一般式(II)で表された化合物を、上記高分子化合物に効率的かつ制御的に導入するために好ましい。
なお、上記一般式(II)において、Aは水酸基又はアミノ基と反応する反応性基であり、例えば、クロロカルボニル基、カルボキシル基、イソシアナート基、グリシジル基又はチオシアナート基等を挙げることができる。Xは炭素数1~18の分岐を有してもよく、ヘテロ原子が導入されていてもよいアルキレン基又は置換基を有してもよいアリーレン基であり、炭素数1~18の分岐を有してもよいアルキレン基が好ましく、特に、プロピレン基、エチレン基、ブチレン基等が好ましい。また、Yは、シラノール基と反応してシロキサン結合を形成する反応性基であり、炭素数1~12のアルコキシ基、又はハロゲン等であることが好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等であることが好ましい。Rは、炭素数1~18の分岐を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基であり、エチル基、メチル基等であることが好ましい。nは1~3の整数を示す。
【0033】
なお、上記「一部」とは、上記一般式(II)で表わされた化合物の、アミロースの水酸基への導入率として表すことが可能である。該導入率は、1.0~35%が好ましく、1.0~20%がより好ましく、1.0~10%が特に好ましい。この理由については、上記一般式(II)で表された化合物の導入率が1.0%よりも小さいとシリカゲル等の担体へ化学結合にて固定化する場合に、固定化率が低下するために好ましくなく、35%を超えると光学分割能が低下するために好ましくないためである。
上記導入率(%)は以下のように定義される。すなわち、上記のアミロースの総水酸基数に対する上記一般式(II)で表された化合物で修飾された水酸基数の比率に100を乗じた数値である。
【0034】
上記アミロース誘導体を製造する工程では、アミロースの溶液を得るために、アミロースの溶解工程を更に含んでもよい。上記溶解工程では、アミロースを溶解させるために公知の方法を用いることができ、別の手段として、アミロースを膨潤する膨潤工程を含んでもよい。また、溶解されたアミロースが市販されている場合には、溶解されたアミロースを購入して用いてもよい。
【0035】
上記溶解工程でアミロースを溶解させる溶媒としてはアミド系溶媒が好ましく用いられ、N,N-ジメチルアセトアミド/塩化リチウム、N-メチル-2-ピロリドン/塩化リチウム又は1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン/塩化リチウム等の混合溶液が例示でき、N,N-ジメチルアセトアミド/塩化リチウムが特に好ましく用いられる。
【0036】
上記溶解工程は、窒素雰囲気下で実施することが好ましい。その溶解条件としては、20~100℃、1~24時間が例示できるが、該条件を適宜調整してもよい。
【0037】
上記第1修飾工程は、アミロースの水酸基を、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートで修飾する工程である。この修飾は、公知の方法を用いることが可能である。以下の記載に限定されないが、例えば、アミロースの水酸基の60~100モル%相当量の3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートを用いて、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム/ピリジン中、50~100℃、1~24時間、窒素雰囲気下で、アミロースの水酸基の修飾を行うことが官能基を有する化合物の導入率を制御する点から好ましい。特に、反応温度と反応時間、官能基を有する化合物の加える量は3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートの導入率を調整する上で重要である。
なお、アミロース誘導体における、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートの導入位置は、特に限定されるものではない。
【0038】
上記第2修飾工程は、上記第1修飾工程において、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートで水酸基が修飾されていないアミロースの、未反応の水酸基を、上記一般式(II)で表された化合物で修飾する工程である。この修飾は、公知の方法を用いることが可能である。以下の記載に限定されないが、例えば、アミロースの修飾前の水酸基の1~10モル%相当量の上記一般式(II)で表わされる化合物を用いて、N,N-ジメチルアセトアミド/塩化リチウム/ピリジン中、50~100℃、1~24時間、窒素雰囲気下で修飾を行うことが、上記一般式(II)で表わされる化合物の導入率を制御する点から好ましい。このうち、上記一般式(II)で表わされる化合物の加える量は、上記一般式(II)で表わされる化合物の導入率を制御する点から特に重要である。
なお、上記アミロース誘導体における、上記一般式(II)で表わされる化合物の導入位置は、特に限定されるものではない。上記、第2修飾工程終了時にアミロース誘導体に未反応の水酸基が存在する場合は、第1修飾工程で使用した3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートと反応させることが好ましい。
【0039】
また、上記で説明したアミロース誘導体の製造工程は、少なくとも、アミロースの水酸基の一部に保護基を導入する保護基導入工程と、該保護基が導入されたアミロースに残存する水酸基を、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートで修飾する第1修飾工程と、導入された保護基を脱離させて水酸基を再生させる脱離工程と、再生された該水酸基を上記一般式(II)で表された化合物で修飾する第2修飾工程とを含む方法であってもよい。上記保護基導入工程及び脱離工程を含む製造方法では、アミロースの水酸基の特定の位置を上記一般式(II)で表された化合物で修飾することが可能である。
【0040】
上記保護基導入工程及び脱離工程を含む製造方法では、保護基導入工程において導入される保護基は、修飾工程において水酸基を修飾する修飾分子よりも容易に水酸基から脱離させることが可能な基であれば特に限定されない。保護基を導入するための化合物は、保護や修飾の対象となる水酸基の反応性や前記アミロースの水酸基に対する反応性に基づいて決定することができ、例えば、トリフェニルメチル基(トリチル基)、ジフェニルメチル基、トシル基、メシル基、トリメチルシリル基、ジメチル(t-ブチル)シリル基等を有する化合物であり、好適には、トリチル基、トリメチルシリル基を有する化合物が用いられる。
上記水酸基への保護基の導入、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートによる水酸基の修飾は、公知の適当な反応によって行うことができる。また脱離工程における前記保護基の水酸基からの脱離は、特に限定されず、例えば酸やアルカリによる加水分解等の公知の方法によって行うことができる。
【0041】
なお、第三の方法-2を用いると、第1修飾工程において3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートで修飾されていないアミロースの水酸基の所定量を、第2修飾工程において上記一般式(II)で表わされた化合物により修飾できる。従って、前記一般式(II)で表された化合物の、アミロースへの導入率は、第2修飾工程において上記一般式(II)で表された化合物の量を調整することで制御が可能である。
【0042】
上記の製法により得られるアミロース誘導体において、上記一般式(II)で表された化合物の導入率を求める場合は、1H NMRを用いる以下の2つの方法が好ましく用いられる。反応が完結している場合には、各方法により求めた上記一般式(II)で表された化合物の導入率は一致した値を示す。本発明では下記(2)の方法を用いた。
(1)上記一般式(II)で表された化合物を導入する前のアミロースの元素分析値から、上記一般式(II)で表された化合物以外の化合物のアミロースにおける導入率を求める。その後、上記一般式(II)で表された化合物を導入した3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートのプロトンと、上記一般式(II)で表された化合物のケイ素に直接結合している官能基のプロトンの比から、アミロース誘導体におけるシリル基の導入率を算出し、これをアミロース誘導体における上記一般式(II)で表された化合物の導入率とする。
(2)修飾工程の終了後、アミロース誘導体の水酸基が修飾基により完全に修飾されていると仮定して、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナートのプロトンと、上記一般式(II)で表された化合物のケイ素に直接結合している官能基のプロトンの比を求め、アミロース誘導体における上記一般式(II)で表された化合物の導入率を計算する。
【0043】
<2>上記アミロース誘導体を担体に化学結合により担持する工程
上記アミロース誘導体をシリカゲル等の担体に化学結合により担持する工程は、公知の工程を用いることが可能であるが、上記アミロース誘導体をシリカゲル等の担体に物理的に吸着させる工程、上記担体上に物理的に吸着した上記アミロース誘導体と担体との間の化学結合及び上記アミロース誘導体同士の化学結合の少なくとも一方を生じさせる工程を含むことが好ましい。また、担体上に物理的に吸着したアミロース誘導体と担体との間の化学結合及びアミロース誘導体同士の化学結合の少なくとも一方を生じさせる工程においては、例えば、上記一般式(II)で表わされる化合物の導入率が1~35%であるアミロース誘導体とシリカゲル等の担体の重量比が1:2~1:20であり、pH1~6の酸
性水溶液中、0~150℃、1分~24時間で固定化を行うことが固定化率の向上の点から好ましい。このうち、反応pH、反応温度、反応時間は、固定化率の向上の点から特に重要である。
また、上記の製造方法を用いることで、上記固定化率を99%以上とすることが可能である。上記固定化率とは、アミロース誘導体を固定化処理した担体上に存在するアミロース誘導体の重量に対する、アミロース誘導体が可溶な溶媒で洗浄後に担体上に存在するアミロース誘導体の重量の比率に100を乗じた数値であり、熱重量分析から算出することが可能である。該固定化率を制御するためには、上記条件以外にも、例えば、上記一般式(II)で表された化合物のアミロースの水酸基への導入率を上述のように制御しておくことが好ましい。
さらに、アミロース誘導体を担体上に固定化後、クロロトリメチルシランやクロロトリエチルシランなどのシランカップリング剤を用いて適切な温度で、シリカゲル上に存在する残存シラノール基や、アミロース誘導体に導入された上記一般式(II)中の未反応のアルコキシ基をトリアルキルシロキシ基に変換することで、光学分割能の低下を抑えることも可能である。このとき、上記シランカップリング剤が、アミロース誘導体を担体上に固定化するために十分な量の酸が発生する場合は、上記の酸性条件下での固定化の過程を省略してもよい。
【0044】
本発明の光学異性体用分離剤の製造方法では、上記のように、アミロース誘導体を化学
結合により担体に担持させている。この化学結合の構造を分析により一義的に特定することは、現状では困難な状況であり、そのため、本発明の光学異性体用分離剤を得るための製法によって、本発明の光学異性体用分離剤を特定することがある。
本発明の光学異性体分離用充填剤は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用の充填剤、ガスクロマトグラフィー用、電気泳動用、特にキャピラリーエレクトロクロマトグラフィー用(CEC用)、CZE(キャピラリーゾーン電気泳動)法、MEKC(ミセル動電クロマト)法のキャピラリーカラムの充填剤としても使用することができる。
【実施例0045】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0046】
<実施例1>
シリカリゲル表面のアミノシラン処理
あらかじめ活性化(180℃、2時間真空乾燥)しておいたシリカゲル(粒径5μm)40gに無水トルエン48mL、無水ピリジン4mLを添加し、3-アミノプロピルトリエトキシシラン2.8mLを加えて還流下、12時間反応させた後、グラスフィルターでろ過した。この表面処理シリカゲルをメタノール、アセトン、ヘキサンで洗浄した後、60℃で2時間真空乾燥し、表面処理シリカゲル(アミノプロピル修飾シリカリゲル)を得た。
前記表面処理シリカゲル10.0gに、アミロース2.0gを無水DMSO 16mL
に溶解したものを加え、分散させた。さらに、NaBH3CN 300mgを無水DMS
O 10mLに溶解したものと、酢酸60mgを添加したものを加え、窒素下50℃で12時間反応させて表面処理済みシリカゲルのアミノ基とアミロースの還元末端で化学結合させた。
このようにして得られたアミロース結合シリカゲルをガラスフィルターを用いて濾過し、残渣をDMSO、テトラヒドロフラン、メタノール、アセトン、ヘキサンで洗浄し、未結合のアミロース等を除き、60℃で真空乾燥した。次いで、アミロース結合シリカゲル10.0gをN,N-ジメチルアセトアミド、ピリジン混合溶剤中に懸濁させ、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナート 7.4gを添加し、窒素雰囲気下、70℃で2
4時間反応させ、シリカゲル表面に化学結合しているアミロースの水酸基を修飾した。懸濁液をろ過し、N,N-ジメチルアセトアミドおよびメタノールで洗浄してアミロース誘導体が担体上で化学的に結合された光学異性体分離用充填剤を得た。
【0047】
<実施例2>
アミロース 3.7gを無水ピリジン 80mLに分散させ、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナート 23gを添加し、110℃で24時間反応させた。反応液を冷却
し、メタノール中に滴下することで、アミローストリス(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)を不溶部として回収し、60℃で真空乾燥した。得られたアミロース誘導体10gを70mLの酢酸エチル(AE)とN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の混合液(90/10(v:v))溶解した。このアミローストリス(3-クロロ-5-
メチルフェニルカルバメート)溶液を、実施例1に記載の通りに表面処理したシリカゲル40gに均一に塗布した。その後、溶剤を留去し、シリカゲルにアミローストリス(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)を物理吸着により担持した粒子を得た。
上記の粒子10gをメタノール100mLおよび水400mLの混合物に懸濁し、撹拌した。懸濁液を浸漬性水銀灯(Philips、HPK-125ワット、石英被覆)で10分間照射した。懸濁液を濾過し、湿粉をメタノールで洗浄し、乾燥させた。未結合のアミロース誘導体を除去するために、酢酸エチルで洗浄して、アミロース誘導体が担体上で化学的に結合された光学異性体分離用充填剤を得た。
【0048】
<実施例3>
塩化リチウム6.5gとN,N-ジメチルアセトアミド100mLの混合溶液にアミロース7.5g溶解させ、これにピリジン76mL、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナート20.9gを加え、85℃で6時間反応させた後、3-トリエトキシシリルプロピルイソシアナート1.03gを加え、さらに16時間反応させた後、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナート20.9gを加え、さらに7時間反応させた。反応液をメタノール中に滴下し、不溶部としてアミロース誘導体を回収した後、60℃で真空乾燥を行うことで、部分的にアルコキシシリル基が導入されたアミロース誘導体を得た。1HNMRの結果から、3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート基とアルコキシシリル基の導入率がそれぞれ、97.9%、2.1%であった。
得られたアミロース誘導体の1.5gを9mLの酢酸エチル/DMAc(90/10)
に溶解し、実施例1に記載の通りに表面処理したシリカゲル6.0gに均一に塗布し、その後、溶剤を留去した。
上記工程により得られた、アミロース誘導体を担体に担持した物質2.5gをエタノール/水/クロロトリメチルシラン(27mL/7mL/0.4mL)に分散し、110℃のオイルバスで沸騰させながら10分間反応を行い、シリカゲル上への固定化を行った。未結合のアミロース誘導体などを除去するために、酢酸エチルおよびメタノールで洗浄し、アミロース誘導体が担体上で化学的に結合された光学異性体分離用充填剤を得た。
【0049】
<実施例4>
塩化リチウム5.0gとN,N-ジメチルアセトアミド65mL にアミロース5.0
g溶解させ、これにピリジン25mL、塩化トリチル17.2gを加え、85℃で12時間反応させアミロースの6位水酸基を保護した。次いで、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナート18.3gを加え、さらに12時間反応させた。反応液をメタノール中に滴下し不溶部として回収した。回収物全量をメタノール/12規定塩酸=667mL/19mLに分散させ12時間攪拌させることで6位のトリチル基が脱保護されたアミロースのカルバメート誘導体を得、これを真空乾燥した。
得られたアミロースのカルバメート誘導体4.0gをピリジン28mLに溶解させ、3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナート0.54gを加え、85℃で2時間反応させた後、メタクリル酸2-イソシアナトエチルを0.38g加え、13時間反応を行った。さらに3-クロロ-5-メチルフェニルイソシアナート1.62gを加え、7時間反応を行うことで残りの水酸基の誘導体化を行った。反応液をメタノール中に滴下し、不溶部として回収した。これを真空乾燥することで6位にビニル基が30%導入されたアミロース誘導体を得た。
得られたアミロース誘導体の1.5gを9mLの酢酸エチルに溶解した。酢酸エチル溶
液を、実施例1に記載の通りに表面処理したシリカゲル6.0gに均一に塗布し、その後、溶剤を留去した。
上記工程により得られたアミロース誘導体を担体に担持した物質2.5gに窒素雰囲気下でビニル基に対して1/30当量に相当する量のα,α’-アゾビスイソブチロニトリ
ル(AIBN)を溶解させたヘキサン10mLを加え、さらにアミロース誘導体に対して25重量%のジメチルブタジエンを第三成分として加え、80℃のオイルバスで20時間重合反応を行った。重合停止後、得られた充填剤を酢酸エチルおよびメタノールで洗浄し、アミロース誘導体が担体上で化学的に結合された光学異性体分離用充填剤を得た。
【0050】
<比較例1~6>
比較例として、株式会社ダイセルから販売されている以下の耐溶剤型光学異性体用分離カラムを用いた。いずれも、多糖誘導体(セルロース誘導体またはアミロース誘導体)をシリカゲル担体に化学結合させた光学異性体用充填剤が充填されている。製品名と多糖誘導体の情報を表1にまとめた。
【表1】
【0051】
<比較例7>
実施例2で調製したアミローストリス(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)を物理的に吸着した粒子を、化学結合を行わずにそのまま充填剤として使用した。
【0052】
<参考例1>
この参考例1は、Y. Okamoto et al., J. Liq. Chromatogr., 10 (8&9), 1613, 1987に記載された方法を踏襲したものである。
アミロースと過剰量の塩化トリチルをDMAc/LiCl溶媒中、100℃で反応させ、グルコース単位で約1.5個のトリチル基が導入されたトリチルアミロースを得た。トリチルアミロース0.9gをテトラヒドロフラン(THF)10mLに溶かし、実施例1に記載の方法で得た、3-アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理を行ったシリカゲル3.0gに均一に振りかけ、溶媒を留去してトリチルアミロースを担持した。これにメタノール30mL、濃塩酸0.3mLを注ぎ、一晩室温に放置してトリチル基を除去した。 濾過の後、メタノールで洗浄した。これにメタノール30mL、トリエチルアミン0.3mLをそそぎ、再度濾過し、メタノールで洗浄してから乾燥した。
前記で得たアミロースを吸着させたシリカゲル3.28gへ、無水トルエン5mLにフェニレンジイソシアネート224mgを溶かしたものを窒素気流下で注いだ。4時間後、ピリジン2mLを加えて60℃に加熱した。70時間後にIRスペクトルでNCO基の消失を確認し、3,5-ジクロロフェニルイソシアネート1.00gをピリジン4mLに溶かしたものを加えた。更にピリジン6mLを注ぎ、110℃に加熱した。20時間還流させた後、グラスフィルターに取り出して濾過し、酢酸エチルで洗浄し乾燥し、アミロース誘導体が担体上で化学的に結合された光学異性体分離用充填剤を得た。
【0053】
<分析条件>
実施例で作製した光学異性体分離用剤を直径0.46cm、長さ25cmのステンレス製カラムにスラリー法により充填し、液体クロマトグラフィー(HPLC)装置により、下記に示すラセミ体(化合物3~8、10、11)の分析試験を行った。結果を表2及び表3に示す。なお、HPLCでの分析条件は、移動相:(化合物3~8、10)n-ヘキサン/2-プロパノール=90/10(v/v)、(化合物11)n-ヘキサン/エタノール/ジエチルアミン=90/10/0.1(v/v/v)、流速:1.0ml/min、カラム温度:25℃ 、検出波長:254nmである。
表中、αは分離係数を示し、k1’およびk2’で表される容量比から求められる。容量比は、tri-tert-Butylbenzeneがカラムを素通りする時間をt0、分離された光学異性体が溶出する時間(第一ピーク、第二ピークの溶出時間)をそれぞれt1、t2とすると(但しt1<t2) 、下記式(1)、(2)から求められ、また
、分離係数αは前記容量比を用いて、下記式(3)により求められる。
k1’=(t1-t0)/t0 (1)
k2’=(t2-t0)/t0 (2)
α=k2’/k1’ (3)
【0054】
【0055】
【0056】
表2の結果から、従来から知られている多糖誘導体が化学結合により担体に結合している光学異性体用分離剤よりも、アミロースの水酸基が3-クロロ-5メチルフェニルカルバメートで置換されているアミロース誘導体を用いた本発明の光学異性体用分離剤の方が、ラセミ体3及び11の光学分割能が優れていることが明らかである。
【0057】
【0058】
表3の結果から、アミロース(3-クロロ-5メチルフェニルカルバメート)が担体に物理吸着により担持されている光学異性体用分離剤と比較して、化学結合によりアミロース(3-クロロ-5メチルフェニルカルバメート)が担体に担持されている本発明の光学異性体用分離剤は、ラセミ体4、5、7、8、10と同等の光学分割能を示し、ラセミ体6については、優れた光学分割能を示していた。
この結果は、化学結合型の分離剤は、物理吸着型の分離剤よりも光学分割能が劣るという一般的な認識とは異なる驚くべき結果である。
【0059】
<参考実験例>
比較例1~6で化学結合している多糖誘導体と同じ多糖誘導体が、担体に物理吸着してなる光学異性体用分離剤(市販品)を用いて(比較例1’~6’と表記)、ラセミ体4と6を分離させて得られたαの値を比較した。以下の表の数値は、例えば比較例1について言えば、比較例1のα値/比較例1’のα値×100で求められる数値であり、この数値が100%に近いほど、物理吸着型の光学異性体用分離剤と同等の光学分割能を有することを示す。
【0060】
【0061】
表4の結果から、各比較例では、同じ多糖誘導体を用いた化学結合型と物理吸着型の光学異性体用分離剤では、物理吸着型のものの方が、光学分割能が優れるという従来からの一般的な認識通りの結果であるのに対し、本発明では、物理吸着型のものと同等か、それよりも優れた光学分割能を示すことが分かる。
本発明の光学異性体用分離剤は、既存の物理吸着型の光学異性体用分離剤に比べて耐溶剤性に優れるものであり、また、既存の化学結合型または物理吸着型の光学異性体用分離剤と同程度かそれ以上の光学分割能を有している。したがって、本発明の光学異性体用分離剤の使用時には、既存の物理吸着型の光学異性体用分離剤の使用時には使用できなかった溶媒を移動相や試料を溶解させるための溶媒として用いることができるとともに、既存の光学異性体用分離剤の使用時には得られなかった光学分割能が得られる可能性がある。