(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109275
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】固溶体合金微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20220720BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20220720BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220720BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20220720BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220720BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F9/24 F
B22F9/00 B
B22F1/00 K
B22F1/054
B82Y40/00
B22F9/24 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071346
(22)【出願日】2022-04-25
(62)【分割の表示】P 2018031138の分割
【原出願日】2018-02-23
(31)【優先権主張番号】P 2017034839
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「元素間融合技術の確立と理論予測に基づく固溶型ナノ合金の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草田 康平
(72)【発明者】
【氏名】北川 宏
(57)【要約】
【課題】固溶体合金微粒子を大量合成する技術を提供する。
【解決手段】2種以上の金属化合物を含有する溶液と還元剤を含有する溶液とを含む反応
溶液を、加圧下に反応させることを特徴とする、2種以上の金属の固溶体合金微粒子の製
造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の金属化合物を含有する溶液と還元剤を含有する溶液とを含む反応溶液を、加圧
下に反応させることを特徴とする、2種以上の金属の固溶体合金微粒子の製造方法。
【請求項2】
2種以上の金属化合物を含有する溶液と還元剤を含有する溶液を各々混合部に連続的また
は断続的に供給し、前記混合部において2種以上の金属化合物を含有する溶液と還元剤を
含有する溶液とを混合してなる反応溶液を加圧下に反応させ、生成した固溶体合金微粒子
を前記混合部から排出し、連続フロー方式により2種以上の金属の固溶体合金微粒子を製
造することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2種以上の金属化合物の金属が、互いに合金状態図では固溶しない金属から選ばれる、請
求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
2種以上の金属化合物の金属が貴金属から選ばれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記金属化合物の金属が、Pd、Ru、Rh、Ag、Os、Ir、Pt、Au、Mo、Re、W、3d金属(Sc、T
i、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn)からなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載の
方法。
【請求項6】
2種以上の金属化合物を含有する溶液と還元剤を含有する溶液の一方又は両方に担体を含
み、固溶体合金微粒子を担体に担持させる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
担体がアルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカ、シリカアルミナ、カルシア、
マグネシア、セリアジルコニア、ランタナ、ランタナアルミナ、酸化スズ、酸化タングス
テン、アルミノシリケート、アルミノホスフェート、ボロシリケート、リンタングステン
酸、ヒドロキシアパタイト、ハイドロタルサイト、ペロブスカイト、コージェライト、ム
ライト又はこれらの1種もしくは2種以上を含む複合酸化物、シリコンカーバイド、活性
炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンナノホ
ーンからなる群から選ばれる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
還元剤がメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノー
ル、イソブタノール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコ
ールからなる群から選ばれる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記還元剤を含有する溶液が水を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
固溶体合金微粒子の平均粒径が1~100 nmである、請求項1~9のいずれか1項に記載の
方法。
【請求項11】
反応溶液の温度を100~400℃で反応させる、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法
。
【請求項12】
固溶体合金微粒子を減圧乾燥または遠心分離により回収する、請求項1~11のいずれか
1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固溶体合金微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属は自動車排ガス処理、水素化などの高機能触媒、あるいはメッキなどに使用され
ているが、産出量が少なく高価である。このため、貴金属の使用量を低減しうる技術が求
められている。
【0003】
貴金属を担体に担持した触媒は、例えば担体を貴金属の塩もしくは錯体の溶液に浸漬し
、焼成することで作製されていたが、互いに相分離する2種以上の貴金属の塩もしくは錯
体溶液に担体を浸漬して焼成すると、生成される金属微粒子は冷却過程において安定構造
を形成するため、合金状態図において相分離する2種以上の貴金属は相分離した状態で担
体に担持されることになるので、これら貴金属元素の固溶体合金としての相乗効果は期待
できない。
【0004】
特許文献1は、PdRu固溶体型合金微粒子を用いた触媒を開示し、PdとRuの2元合金は元
来相分離状態が安定構造であるため、合成にはトリエチレングリコールなどの高沸点還元
剤を高温まで加熱し、そこに金属塩溶液を加える方法で合成が可能となるが、バッチ式の
合成となるため大量に作製する際には高濃度の金属が溶液内に滞留し粒径が粗大化する問
題点があった。
【0005】
特許文献2,3,4はパラジウムを含むコアと、白金を含み且つ前記コアを被覆するシ
ェルと、を備えるコアシェル触媒の製造方法を開示している。銅被覆パラジウム含有粒子
分散液と白金イオン含有溶液を、マイクロリアクター内で混合することによって前記銅被
覆パラジウム含有粒子表面の銅を白金に置換し前記シェルを形成するものであるが、固溶
体合金に関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5737699号
【特許文献2】特開2016-32790号公報
【特許文献3】特開2016-137425号公報
【特許文献4】特開2016-221477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、固溶体合金微粒子の大量合成を可能にする製造方法を提供することを目的と
する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の固溶体合金微粒子の製造方法を提供するものである。
項1. 2種以上の金属化合物を含有する溶液と還元剤を含有する溶液とを含む反応溶液
を、加圧下に反応させることを特徴とする、2種以上の金属の固溶体合金微粒子の製造方
法。
項2. 2種以上の金属化合物を含有する溶液と還元剤を含有する溶液を各々混合部に連
続的または断続的に供給し、前記混合部において2種以上の金属化合物を含有する溶液と
還元剤を含有する溶液とを混合してなる反応溶液を加圧下に反応させ、生成した固溶体合
金微粒子を前記混合部から排出し、連続フロー方式により2種以上の金属の固溶体合金微
粒子を製造することを特徴とする、項1に記載の方法。
項3. 2種以上の金属化合物の金属が、互いに合金状態図では固溶しない金属から選ば
れる、項1又は2に記載の方法。
項4. 2種以上の金属化合物の金属が貴金属から選ばれる、項1又は2に記載の方法。
項5. 前記金属化合物の金属が、Pd、Ru、Rh、Ag、Os、Ir、Pt、Au、Mo、Re、W、3d金
属(Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn)からなる群から選ばれる、項1又は2に
記載の方法。
項6. 2種以上の金属化合物を含有する溶液と還元剤を含有する溶液の一方又は両方に
担体を含み、固溶体合金微粒子を担体に担持させる、項1~5のいずれか1項に記載の方
法。
項7. 担体がアルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカ、シリカアルミナ、カ
ルシア、マグネシア、セリアジルコニア、ランタナ、ランタナアルミナ、酸化スズ、酸化
タングステン、アルミノシリケート、アルミノホスフェート、ボロシリケート、リンタン
グステン酸、ヒドロキシアパタイト、ハイドロタルサイト、ペロブスカイト、コージェラ
イト、ムライト又はこれらの1種もしくは2種以上を含む複合酸化物、シリコンカーバイ
ド、活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボ
ンナノホーンからなる群から選ばれる、項6に記載の方法。
項8. 還元剤がメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-
ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレ
ングリコールからなる群から選ばれる、項1~7のいずれか1項に記載の方法。
項9. 前記還元剤の溶液が水を含む、項1~8のいずれか1項に記載の方法。
項10. 金属微粒子の平均粒径が1~100 nmである、項1~9のいずれか1項に記載の
方法。
項11. 反応容器の温度が100~400℃である、項1~10のいずれか1項に記載の方法
。
項12. 合金微粒子を減圧乾燥または遠心分離により回収する、項1~11のいずれか
1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フロー合成により連続的に小粒径の粒子を作製することができ、大量
生産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施例1で得られた固溶体合金微粒子の(a)XRD及び(b)TEM像(平均粒径 4.1±2.2 nm)。本発明の方法(還元剤EtOH)でPdRu固溶合金微粒子が作製できることを確認した。
【
図3】実施例1で得られた固溶体合金微粒子のHAADF-STEM像及び元素マップ。Pd、Ru両元素が各粒子内に存在し、固溶体構造を形成していることを確認した。
【
図4】実施例2で得られた固溶体合金微粒子の(a)XRD及び(b)TEM像(平均粒径 5.0±2.4 nm)。本発明の方法(還元剤EtOH)でPdRu固溶合金微粒子が作製できることを確認した。
【
図5】実施例3~7で得られた合金微粒子のXRDパターン
【
図6】実施例3~7で得られた合金微粒子のTEM画像
【
図7】実施例7で得られた合金微粒子(PdRu197)のSTEM-EDX
【
図8】実施例3で得られた合金微粒子(PdRu191)のSTEM-EDX
【
図9】実施例3、8~10で得られた合金微粒子のXRDパターン
【
図10】実施例3、8~10で得られた合金微粒子のTEM画像
【
図11】実施例11で得られたPdRuIr合金微粒子のXRDパターンとTEM画像
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で得られる固溶体合金微粒子は、好ましくはナノ粒子である。合金微粒子の平均
粒径は好ましくは1~100 nmであり、担体に担持されていない合金微粒子の平均粒径は、
好ましくは1~50 nm程度、より好ましくは1~20 nm程度、さらに好ましくは1~15 nm程度
、特に好ましくは1~10 nm程度、最も好ましくは1~6 nm程度である。担体の平均粒径は
、10nm~100 μm程度、好ましくは15nm~10μm程度、より好ましくは20nm~1000nm程度、
さらに好ましくは25nm~500 nm程度である。担体の平均粒径が大きすぎると貴金属固溶体
の比率が低下し、担体の平均粒径が小さすぎると十分な固溶体を結合するのが難しくなる
。担体に担持された合金微粒子全体の平均粒径は、担体の大きさに依存し、例えば10nm~
100μm程度、好ましくは15nm~10μm程度、より好ましくは20nm~1000nm程度、さらに好
ましくは25nm~500 nm程度である。
【0012】
合金微粒子を構成する金属の種類は2種以上、好ましくは2種~5種、より好ましくは
2種~4種、さらに好ましくは2種又は3種、特に2種である。
【0013】
本発明の1つの好ましい実施形態において、2種以上の金属化合物の金属は、互いに合
金状態図では固溶しない金属から選ばれる。互いに合金状態図では固溶しない金属の組み
合わせとしては、PdRu、AuIr、AgRh、AuRh、AuRu、CuRu、CuIr、AgCu、FeCu、AgIr、AgRu
、MoRuなどが挙げられる。
【0014】
本発明の他の1つの好ましい実施形態において、2種以上の金属化合物の金属は貴金属
(Pd、Ru、Rh、Ir、Pt、Au、Ag)から選ばれる。
【0015】
固溶体合金を構成する金属は、Pd、Ru、Rh、Ag、Os、Ir、Pt、Au、Ag、Mo、Re、W、3d
金属(Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn)からなる群から選ばれ、好ましくはPd
、Ru、Rh、Ir、Pt、Au、Ag、Mo、Re、W、Fe、Co、Ni、Cuからなる群から選ばれ、より好
ましくはPd、Ru、Rh、Ir、Pt、Au、Ag、Mo、Co、Ni、Cuからなる群から選ばれ、さらに好
ましくはPd、Ru、Rh、Ir、Pt、Au、Agからなる群から選ばれる。
【0016】
固溶体合金を構成する金属の好ましい組み合わせは、PdとRu、PdとRh、PdとIr、PdとPt
、PdとAu、PdとAg、RuとRh、RuとIr、RuとPt、RuとAu、RuとAg 、RhとIr、RhとPt、RhとA
u、RhとAg、IrとPt、IrとAu、IrとAg、PtとAu、PtとAg、AuとAg、PdとRuとRh、PdとRuとP
t、PdとRuとIr、PdとRuとAg、PdとRuとRhとIr、PdとRuとRhとPt、PdとRuとPtとIrなどが
挙げられ、好ましい組み合わせはPdとRu、RuとAu、RuとAg 、RhとAu、RhとAg、IrとAu、I
rとAg、PdとRuとRh、PdとRuとPt、PdとRuとIr、PdとRuとAg、PdとRuとRhとIr、PdとRuとR
hとPt、PdとRuとPtとIrである。
【0017】
固溶体合金を構成する各金属は、1モル%以上有している。例えば固溶体合金微粒子が
2種の金属から構成される場合、2種の金属は各々1~99モル%、好ましくは5~95
モル%、より好ましくは10~90モル%であり、固溶体合金微粒子が3種の金属から構
成される場合、3種の金属は各々1~98モル%、好ましくは5~90モル%、より好ま
しくは10~80モル%であり、固溶体合金微粒子が4種の金属から構成される場合、4
種の金属は各々1~97モル%、好ましくは5~85モル%、より好ましくは10~70
モル%であり、5種の金属は各々1~96モル%、好ましくは5~80モル%、より好ま
しくは10~60モル%である。
【0018】
担体としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカ、シリカアルミナ、
カルシア、マグネシア、セリアジルコニア、ランタナ、ランタナアルミナ、酸化スズ、酸
化タングステン、アルミノシリケート、アルミノホスフェート、ボロシリケート、リンタ
ングステン酸、ヒドロキシアパタイト、ハイドロタルサイト、ペロブスカイト、コージェ
ライト、ムライト又はこれらの1種もしくは2種以上を含む複合酸化物、シリコンカーバ
イド、活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカー
ボンナノホーンなどが挙げられる。担体は、これらを1種又は2種以上含み得る。
【0019】
担体の配合量は、PdとRu、AgとRh、或いは、AuとRhの貴金属化合物の合計0.1モルあた
り好ましくは15g~30kg程度、より好ましくは50g~3kg程度である。
【0020】
本発明の担体に担持された微粒子における固溶体の比率は質量で0.1~60%程度、好ま
しくは0.5~50%程度、より好ましくは1~30%程度であり、担体の比率は、質量で99.9~
40%程度、好ましくは99.5~50%程度、より好ましくは99~70%程度である。固溶体の好
ましい比率は用途によって異なるので、用途に合わせて調整する。
【0021】
粒子の平均粒径は、TEMなどの顕微鏡写真により確認することができる。本発明の貴
金属固溶体担持微粒子、担体粒子、固溶体粒子の形状は特に限定されず、球状、楕円体状
、ロッド状、柱状、リン片状など任意の形状であってよい。
【0022】
本発明の2種以上の金属の固溶体合金微粒子の製造方法では、2種以上の金属化合物を
含有する溶液(本明細書では「金属化合物溶液」ということがある)と還元剤を含有する
溶液(本明細書では「還元剤溶液」ということがある)とを含む反応溶液を、加圧下に反
応させる。反応溶液に含まれる溶媒及び還元剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の
沸点が反応温度よりも低い場合、適切な反応温度に加熱できるように、反応は加圧下で行
う。
【0023】
好ましい1つの実施形態では、2種以上の金属化合物を含む溶液と還元剤を含有する溶
液を混合部に供給し、連続フロー方式で加圧下に反応させる。2種以上の金属化合物を含
む溶液と還元剤を含有する溶液は各々混合部に供給されてもよい。2種以上の金属化合物
を含む加圧溶液と還元剤を含有する加圧溶液を混合部に供給するのが好ましい。また2種
以上の金属化合物を含む溶液と還元剤を含有する溶液は混合部に連続的又は断続的に供給
されてもよい。混合部で生成した固溶体合金微粒子は前記混合部から排出される。なお、
ここでいう混合部を有する装置としては、例えば、マイクロリアクターを挙げることがで
きる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、混合部に供給される2種以上の金属化合物を含む
金属化合物溶液と還元剤溶液に加える圧力は各々0.1 M~10 MPa程度、好ましくは0.2 M~
9 MPa程度である。また、混合部内の圧力は0.1 M~10 MPa程度、好ましくは0.2 M~9 MPa
程度である。混合部内の反応溶液の温度(反応温度)は100~400℃程度、好ましくは150~3
00℃程度、より好ましくは160~250℃程度である。
【0025】
本発明の製造方法に使用する反応装置フロー図を
図1に示す。本発明の好ましい実施形
態では、金属化合物溶液と還元剤溶液を予め調製し、混合部(反応容器)に加圧下に供給す
る。混合部への供給は、例えばポンプにより行うことができる。混合部に供給される前の
金属化合物溶液の温度は室温であってもよいが、溶媒の沸点以下で室温よりも高い温度に
加熱しておくことが好ましい。混合部に供給される前の還元剤溶液は常圧又は加圧下に加
熱しておくことが好ましく、加圧下で反応温度まで予め加熱しておくことがより好ましい
。還元剤の沸点が反応温度より高い場合には常圧で加熱することができるが、還元剤の沸
点が反応温度よりも低い場合には、常圧で反応温度まで加熱することができないため、加
圧下に加熱する。また、加圧することにより還元剤の蒸発を防ぐことができる。混合部は
背圧弁により加圧される。混合部は、好ましくはヒーターを備え、反応温度まで加熱する
ことが好ましい。本発明の製造方法では、混合部の反応溶液の温度制御が重要であり、反
応溶液の温度を適切な範囲に保つように、混合部のヒーター温度、混合部に供給される還
元剤溶液の温度と金属化合物溶液の温度を調整することが好ましい。
【0026】
混合部で合金微粒子が析出した場合、合金微粒子を含む反応溶液を混合部から抜き出し
、合金微粒子を濾過、遠心分離などにより回収し、合金微粒子を除去した反応溶液を混合
部に戻しさらに反応させてもよい。
【0027】
金属化合物溶液における各金属化合物の濃度は0.001~1 mol/L程度、好ましくは0.025
~0.1 mol/L 程度である。
【0028】
金属化合物溶液は、金属化合物を溶解させるための溶媒を含む。溶媒としては、水、ア
ルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、ポリオール類(エチレング
リコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレンングリコール、
グリセリンなど)、ポリエーテル類(ポリエチレングリコールなど)、アセトニトリル、
アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンなどの極
性溶媒が使用でき、水、アルコールが好ましい。
【0029】
金属化合物は、水溶性のものが好ましい。好ましい金属化合物としては、金属の硫酸塩
、硝酸塩、酢酸塩などの有機酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、
ヨウ化物)、過塩素酸塩、水酸化物、錯体などが挙げられ、ハロゲン化物、硝酸塩、錯体
が好ましく使用できる。金属化合物における金属の価数は、1価、2価、3価、4価のいずれ
でもよい。好ましい金属化合物としては、以下のものが挙げられる:
Au化合物:例えばAuCl3、HAuCl4、K[AuCl4]、Na[AuCl4]、K[Au(CN)2]、K[Au(CN)4]、AuBr
3など;
Rh化合物:例えばRh(NO3)2、Rh(NO3)3、RhCl2、RhCl3、Rh(CH3COO)3、Rh(CH3COO)2など;
Ru化合物:例えばRuCl2、RuCl3、Ru(acac)3 (acacはアセチルアセトンである)、Ru(CH3C
OO)x (xは2~3の数を示す)、KRuCl5(NO)など;
Pd化合物:例えばH2PdCl4又はそのアルカリ金属塩、PdCl2、PdSO4、Pd(NO3)2など;
Ag化合物:例えばAgNO3、Ag(CH3COO)など;
Ir化合物:例えば塩化イリジウム、イリジウムアセチルアセトナート、イリジウムシアン
酸カリウム、イリジウム酸カリウムなど;
Cu化合物:例えばCu(NO3)2、CuSO4、Cu(CH3COO)2、CuCO3、CuCl、CuCl 2など;
還元剤としては、低沸点の還元剤が好ましく、例えばメタノール、エタノール、n-プ
ロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールなどの低級アルコール
、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールが挙げられ、好
ましくはメタノール、エタノールが挙げられる。好ましい還元剤である低級アルコールの
沸点は、室温から130℃程度、より好ましくは40~120℃程度、さらに好ましくは60~100
℃程度である。これらの還元剤は常圧下では沸点が低い為、金属化合物を還元して合金状
態図では固溶しない金属から構成される固溶体合金微粒子を得ることはできず、本発明の
ように加圧下に高温で反応させることにより還元性を獲得し、合金状態図では固溶しない
金属から構成される固溶体合金微粒子を得るための還元剤として機能することができる。
【0030】
還元剤溶液は、水を含むことが好ましい。還元剤と水の好ましい混合割合は、容量比で
還元剤:水=3~99%:97~1%、より好ましくは還元剤:水=5~90%:95~10%、さら
に好ましくは還元剤:水=10~80%:90~20%である。
【0031】
混合部に供給される還元剤溶液(水を含んでいてもよい)の流速は特に限定されないが、
好ましくは10~200ml/min、より好ましくは20~100ml/min、さらに好ましくは30~70ml/m
inである。
【0032】
混合部に供給される金属化合物溶液(好ましくは金属塩水溶液)の流速は特に限定され
ないが、好ましくは1~20ml/min、より好ましくは2~10ml/min、さらに好ましくは3~7m
l/minである。
【0033】
混合部に供給される還元剤溶液(水を含んでいてもよい)の温度は特に限定されないが
、好ましくは100~400℃、より好ましくは150~300℃、さらに好ましくは200~250℃であ
る。
【0034】
混合部に供給される金属化合物溶液(好ましくは金属塩水溶液)の温度は特に限定され
ないが、好ましくは5~100℃、より好ましくは10~50℃、さらに好ましくは15~30℃であ
る。
【0035】
混合部を加熱するヒーターを備える場合、ヒーターの設定温度は反応溶液の温度を所望
の温度となるように設定すればよい。反応溶液の温度については上述している。
【0036】
本発明の固溶体合金微粒子は、表面保護剤により被覆されていてもよい。表面保護剤と
しては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリマー類、
オレイルアミンなどのアミン類、オレイン酸などのカルボン酸類が挙げられる。表面保護
剤を使用する場合、表面保護剤は、金属化合物溶液と還元剤溶液とを混合してなる反応溶
液内に金属化合物の総量の、質量比で好ましくは0.01~100倍、より好ましくは0.5~50倍
、さらに好ましくは1~10倍の濃度で含まれる。表面保護剤は、金属化合物溶液に含まれ
ていてもよく、還元剤溶液に含まれていてもよく、金属化合物溶液と還元剤溶液の両方に
含まれていてもよい。
【0037】
本発明の固溶体合金微粒子が担体に担持される場合、金属化合物溶液又は還元剤溶液に
担体を分散させ、この分散液を混合部に供給すればよい。その場合、表面保護剤は用いて
も、用いなくても良い。
【0038】
担体に担持された、もしくは担持されていない固溶体合金微粒子は、減圧乾燥、遠心分
離、濾過などにより回収し、乾燥することで合金微粒子を回収することができる。合金微
粒子を担持した担体を回収し、さらに混合部に供給することを繰り返すことで、合金微粒
子の担持量を増大することができる。
【0039】
調製後、粉体として合金微粒子(担体に担持されていてもよい)を取り出す方法は、特に
限定されないが、例えば減圧乾燥、遠心分離、濾過、沈降、再沈殿、粉体分離器(サイク
ロン)による分離等が挙げられる。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定さ
れないことはいうまでもない。
【0041】
実施例1
10mlの水にPVP(0.5mmol)、K2PdCl4(0.05mmol)、RuCl3・3H2O (0.05mmol)を加え、超音
波処理により溶解し、金属化合物溶液を調製した。還元剤溶液としてエタノールを使用し
た。
【0042】
以下の条件で、合金微粒子を調製した。
・装置条件
ヒーター(オイルバス)温度 230℃設定
ポンプA(還元剤溶液) 設定流量 50ml/min
ポンプB(金属塩水溶液) 設定流量 5ml/min
背圧計 5.0 MPa
【0043】
金属塩注入開始から3分後から黒色溶液排出 約4分間でほぼ排出は終了した。
平均粒径4nmの合金微粒子約10mgが約4分で作製できた。
得られた合金微粒子のXRD及びTEM像を
図2に示し、HAADF-STEM像及び元素マップを
図3に
示す。合金微粒子の平均粒径は4.1±2.2 nmであった。
【0044】
実施例2
2.5mlの水にPVP(0.5mmol)、K2PdCl4(0.05mmol)、RuCl3・3H2O (0.05mmol)を加え、超音
波処理により溶解し、金属化合物溶液を調製した。還元剤溶液としてエタノールを使用し
た。
【0045】
以下の条件で、合金微粒子を調製した。
・装置条件
ヒーター(オイルバス)温度 230℃設定
ポンプA(還元剤溶液) 設定流量 50ml/min
ポンプB(金属塩水溶液) 設定流量 5ml/min
背圧計 5.0 MPa
【0046】
金属塩注入開始から3分後から黒色溶液排出 約1分間でほぼ排出は終了した。
平均粒径5nmの合金微粒子約10mgが約1分で作製できた。
得られた合金微粒子のXRD及びTEM像を
図4に示す。合金微粒子の平均粒径は5.0±2.4 n
mであった。
本発明の方法(還元剤EtOH)でPdRu固溶合金の作製に成功した。
【0047】
実施例3~7
25mlの水にPVP(3mmol)を完全に溶解させてPVP水溶液を調製した。K2PdCl4(0.15mmol)、
RuCl3・3H2O (0.15mmol)を各々5mlの水に加え、超音波処理により溶解し、K2PdCl4水溶液
、RuCl3水溶液を調製した。上記PVP水溶液にK2PdCl4水溶液とRuCl3水溶液を加え、さらに
水を加えて合計を50mlに調製し、金属塩水溶液とした。還元剤溶液として容量比でエタノ
ール:水=1:1のエタノール水溶液を使用した。
【0048】
以下の条件で、マイクロリアクター(MR)を用いてPdRu合金微粒子を調製した。なお
、後述の「ヒータ(ブロックヒーター)温度(実測値)」とは、反応溶液の温度を意味す
る。
・装置条件
ヒーター(ブロックヒーター)温度(実測値):表1に記載
ポンプA(還元剤溶液) 設定流量:表1に記載
ポンプB(金属塩水溶液) 設定流量:表1に記載
背圧計 4~7 MPa
【0049】
得られた合金微粒子のXRDパターンを
図5に示し、TEM画像を
図6に示す。さらに、実施
例7(PdRu197)の合金微粒子のSTEM-EDXを
図7に示し、実施例3(PdRu191)の合金微粒子の
STEM-EDXを
図8に示す。なお、
図5において、PdRu(スプレー)は、文献(Journal of the
American Chemical Society, 2014, 136, 1864-1871)にしたがって得られたPdRu固溶体
合金微粒子を示し、PdとRuは、文献(Journal of the American Chemical Society, 2014
, 136, 1864-1871)にしたがって得られたPd又はRuの金属微粒子を示す。
【0050】
【0051】
実施例8~9
25mlの水にPVP(3mmol)を完全に溶解させてPVP水溶液を調製した。K2PdCl4(0.15mmol)、
RuCl3・3H2O (0.15mmol)を各々5mlの水に加え、超音波処理により溶解し、K2PdCl4水溶液
、RuCl3水溶液を調製した。上記PVP水溶液にK2PdCl4水溶液とRuCl3水溶液を加え、さらに
水を加えて合計を50mlに調製し、金属塩水溶液とした。還元剤溶液としてエタノール水溶
液(実施例8はエタノール20%、実施例9はエタノール5%)を使用した。
【0052】
以下の条件で、マイクロリアクター(MR)を用いてPdRu合金微粒子を調製した。
・装置条件
ヒーター(ブロックヒーター)温度(実測値):表2に記載
ポンプA(還元剤溶液) 設定流量:表2に記載
ポンプB(金属塩水溶液) 設定流量:表2に記載
背圧計 7.0 MPa
得られた合金微粒子のXRDパターンを
図9に示し、TEM画像を
図10に示す。
【0053】
【0054】
実施例10(PdRu205)
25mlの水にPVP(3mmol)を完全に溶解させてPVP水溶液を調製した。K2PdCl4(0.75mmol)、
RuCl3・3H2O (0.75mmol)を各々25mlの水に加え、超音波処理により溶解し、K2PdCl4水溶
液、RuCl3水溶液を調製した。上記PVP水溶液にK2PdCl4水溶液とRuCl3水溶液を加え、さら
に水を加えて合計を100mlに調製し、金属塩水溶液とした。還元剤溶液としてエタノール2
0%水溶液を使用した。
【0055】
以下の条件で、マイクロリアクター(MR)を用いてPdRu合金微粒子を調製した。
・装置条件
ヒーター(ブロックヒーター)温度(実測値):220-221℃
ポンプA(還元剤溶液) 設定流量:50ml/min
ポンプB(金属塩水溶液) 設定流量:5ml/min
背圧計 7.0 MPa
得られた合金微粒子のXRDパターンを
図9に示し、TEM画像を
図10に示す。
【0056】
実施例11
25mlの水にPVP(3mmol)を完全に溶解させ、HCl(0.3ml)を加えてPVP水溶液を調製した。K
2PdCl4(0.1mmol)、RuCl3・3H2O (0.1mmol)、IrCl4・H2O (0.1mmol)を各々5mlの水に加え
、超音波処理により溶解し、K2PdCl4水溶液、RuCl3水溶液、IrCl4水溶液を調製した。上
記PVP水溶液にK2PdCl4水溶液とRuCl3水溶液とIrCl4水溶液をこの順に加え、さらに水を加
えて合計を50mlに調製して金属塩水溶液とした。還元剤溶液として容量比でエタノール:
水=1:1のエタノール水溶液(エタノール50%)を使用した。
【0057】
以下の条件で、マイクロリアクター(MR)を用いてPdRuIr合金微粒子(HCl MR)を調
製した。
・装置条件
ヒーター(オイルバス)温度(実測値):224~225℃
ポンプA(還元剤溶液) 設定流量:50ml/min
ポンプB(金属塩水溶液) 設定流量:5ml/min
背圧計 6.5 MPa
得られた合金微粒子のXRDパターンを
図11に示す。
【0058】
参考例1
25mlの水にPVP(3mmol)を完全に溶解させ、HCl(0.6ml)を加えてPVP水溶液を調製した。K
2PdCl4(0.5mmol)、RuCl3・3H2O (0.5mmol)、IrCl4・H2O (0.5mmol)を各々5mlの水に加え
、超音波処理により溶解し、K2PdCl4水溶液、RuCl3水溶液、IrCl4水溶液を調製した。上
記PVP水溶液にK2PdCl4水溶液とRuCl3水溶液とIrCl4水溶液をこの順に加え、さらに水を加
えて合計を50mlに調製した。還元剤溶液としてトリエチレングリコールを使用した。
【0059】
20℃の還元剤溶液(トリエチレングリコール)に、撹拌下で金属塩水溶液をスプレー法
により加えてPdRuIr合金微粒子(HClスプレー)を調製した。
【0060】
得られた合金微粒子のXRDパターンを
図11に示す。
【0061】
なお、
図11において「従来PdRuIr」は文献(国際出願番号PCT/JP2017/008058「多元系
固溶体微粒子及びその製造方法並びに触媒」)に記載の方法で調製されたものであり、Ir
バルクは市販品(製品名イリジウム粉末、和光純薬工業株式会社製)を使用した。